新年最初に、一緒に願うなら
かちり、2024年1月1日へと至る。
日付が変わる一時間前から除夜の鐘が鳴らされて、かぁんかぁんと刻む音が心地いい。
遠く遠くに聞こえた時告げの音は、テレビからかそれとも――。
ぶぶぶ。
日付が変わった瞬間に、スマホが鳴動するのを一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)は見た。
新着メッセージが1件。新しいメッセージが届いています。
「……ん」
それから数秒遅れて通知が増えていく。律儀なものだ。
年賀状より早く、SNSアプリを通じて新年挨拶を行おうとする人間は多い。
ネットが発展すればするほど簡略化されていく恒例行事ともいうだろう。だがしかし、嫌いじゃない。
最初に来たメッセージをまず確認すると、ああ、と目尻が下がる想いだ。
「あけおめ!」
敬礼するかのようなハンドサインと星が入り乱れたキラキラの絵文字群、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)だ。
既読をつけるとすぐさま、スタンプがぽん!と増える。
「一緒に初詣行かへん?」
今起きてる!と分かったから続く言葉でも有るように。
「いいぞ」
即座に指は言葉を叩いていた。誘いを断る帝なんていないのだ。
「何時にする」
「ん~今、とか?」
「却下だ、ちゃんと寝てからにしよう」
「おっけ~!」
クリスマス明けからの初の二人のお出かけが初詣――。
心の準備と、気持ちの準備。どちらも備えてからにしようじゃないか、の心づもりを添えて。
|お出かけ《デート》の約束だ。しかも新年最初の。
そんなの、電話じゃないから伝わらないだろうが――ふたりとも内心浮かれていたのだって、隠せていなかったはずだ。
「お~い」
夜が明けて、待ち合わせの場に先にいたのは帝だった。
飛鳥が遅れて、声を掛けながらやってくる。
なかなかの人混みのある神社。流石元日、人の数は無限大といったところだ。
「俺も今来たところだ」
まずは目的を果たそう。そんな勢いで、飛鳥の片手を捕まえる。
人が多く、逸れるのは困るから。
「幸い、参拝客が少し減ってきたように見える。行こう」
照れたような横顔を見た気がするが、神社来たならまずは神様にご挨拶!
飛鳥も控えめに帝の後を追うことにする。
繋いだ手に暖かさを、感じながら、ふにゃりと溶け気味な笑顔で。
そこは――見えぬ神が住まう神域だ。少なくとも、神社はそう伝承内でも語られる場所だ。
誰も誠に信じてなんかいないけれど、手水舎で手を口を軽くでも|禊《みそぎ》、心身を清め神の庭へと歩いていく。いくつか有る鳥居を潜る際、軽く頭を下げる二人はちゃんと分かっている。
神聖な場所に"お邪魔します"なんて、参道の真ん中を避けて脇を歩くほど丁寧な対応をしながら神社へと訪れる参拝者はあまり多くないが、しかしそれが礼節というものだ。何気ない誰かの動作で覚えて、少年たちが決してその意味を知らずとも――見えない神様は、人間をどこかで見守っているものだ。
礼儀正しいものには、それなりの幸を。それ以外には当たり障りない――恩恵を。
「今日の水場の水はひゃっこかったなぁ~」
「冬だからな」
当たり前の会話をしつつ、お賽銭用の黄金を手に持ちふたりで順番を待つ。
そう掛からないうちに、お賽銭箱と本殿――神様の住まう場の正面に立った。
賽銭箱へとお賽銭を転がすように納め、そして、鐘を一緒にからんからんと鳴らす。
響き渡る荘厳な音は、周囲の喧騒だって黙らせる力を持っているかのように胸に響く。
周囲の様子は何も変わっていない。喧騒も、活気も時間も、勿論、何も変わるところなんて無い――錯覚だ。
帝だって飛鳥だって、これが"そういうものだ"と分かっていても、そう思った。
「(ああ、神様――)」
飛鳥の願いは、単純にして一つ。
「(俺にはもったいないようなパーフェクトイケメンなミカが俺を選んでくれたわけやし……今年は!"ミカに釣り合うような男になれますように"、っと!)」
にへへ、と照れたように笑う飛鳥の願い。
「(お願い神様――。今年の俺は、イイ男になれるやろか)」
かすかに、りぃんと今鳴らした鐘が涼やかに音を鳴らした、――気がした。
これもまた幻聴だ。揺らそうとしなければあの頭上高くに有る鐘はならない。
はて、と飛鳥は首を傾げた。
「(まずは神様――。昨年はついに飛鳥と結ばれました。ありがとうございます)」
願って、想ってようやくこうして、という思いの強さはまず最初に律儀な感謝として神様宛に。
「(今年の願いは……飛鳥と今まで以上に色々な場所へ行きたいし、恋人繋ぎもしたいし、キスもしたいし、もっと言うと……)」
昨晩除夜の鐘を聞いていたはずなのに、とめどない願いの洪水に一度頭を軽く振る。
飛鳥としたいこれからのこと。行きたい場所。自分がやりたいこと。願いの数々は自分の行動次第だ。
だからきっと、願いべきことはこれじゃない。
「(願い事としては月並みかもしれないが……今年は恋人として、飛鳥と幸せな一年を過ごせますように)」
静かに願い、二礼二拍手一礼の流れを終える。
図らずもお互いに相手についての願いを掛けていた。それを知っているのは、神様だけなのだから、今頃神様たちもニコニコ微笑んでいることだろう。
ふう、と願いを終えて息を整えると先に願いを終えて帝を待っていてすぐ側で覗き込んでいたらしい飛鳥が、にまあと笑っているではないか。
「なんや、ミカ願い事長ない?」
「別に。そんなことないと思うが」
「えーー、絶対色々神様にたくさんお願いしたやろ~」
なに願ったん?なんて、飛鳥に問われしかし帝はおみくじで良い結果を手繰り寄せられたら教える、なんて返答をする。さりげなく話題を横へ流して、二人で一緒におみくじを引くことにした。
「じゃあ俺は、――これ!」
ぴっ、と飛鳥が引いたおみくじ。恐る恐る覗けば『大吉』の文字だ。
「お!やった~!ミカは!?」
ぴらり、と結果部分を折って見せればそこにも『大吉』の文字。
「あ!おそろい!」
「神様の教えが書いてるだろう。俺の願いよりそちらの方が今年に響くぞ、きっと」
どちらにどんな結果が出ても、帝はこの場で言うことはしないのだ。
どの項目を流し見しても、良縁や末永く続く、の記載にふたりとも目を綻ばせる。
この縁は、続く。そりゃそうだ。続いてくれなきゃ困るのだ。
帝の願い、それは――神様へ宛てた内緒の約束。
叶ったら神様に感謝を、叶わなければ――自分の力で叶えるまで。
願い事は欲張らない事が、重要だ。だからもし、叶ったなら――それは神様の気まぐれや思し召し。
「時期が時期だ、出店もあるだろう。飛鳥、なにか食べたいヤツはあるか」
尋ねて、それから、指差す飛鳥に頷いて応える。
味が複数あるなら山分けを。
食べ歩きたいなら、食べれる数を見分けてダメ出ししよう。
「ん~と、ミカは?」
「俺は……」
鳥居を潜り、軽く一例を。
それではどうぞ、今年もよろしく。
神様、――どうか、どうか。
この時間が末永く、続きますように。
「お前の好みに合わせよう。今日はそんな気分だ」
成功
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