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夜空に花が咲き、猫は愛に触れ微睡む

#グリードオーシャン #ノベル #猟兵達のハロウィン2023 #猫の島

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#猟兵達のハロウィン2023
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落浜・語



吉備・狐珀
この度、ハロウィンのシナリオをお願いしたく、リクエストをさせていただきます。
ご検討いただけますと嬉しいです。

内容:
落浜・語さん(f03558)と以前出かけたグリードオーシャンでハロウィンイベントが開催されているらしい。
しかも、島のお猫さま達が仮装しているとなれば 「お猫様が仮装しているそうなんです!」「行きましょう!」と語さんを誘い出かけることに。
せっかくならと、去年着た龍の仮装(2022年ハロウィン)で島へ。

魔法使いの仮装や、南瓜おばけ等、様々な仮想をしたお猫さま達を見てはしゃいだり、おやつをあげたり、辺りがすっかり暗くなるのも気が付かないくらい夢中で猫達と過ごします。

すっかり夢中になっている私達に「花火はじまるよ?」「見に行かないの?」「行こうよー」と、猫達から即されもう一つのお楽しみの花火を思い出します。
「そうでした!もう一つのお楽しみを忘れるところでした!」と慌てて会場へと向かいます。 前回、泳ぐお猫さまを眺めた時のように舟を借りて花火を見ることに。

軽食や温かい飲み物、お猫さまのおやつを購入して舟に乗り、楽しみだねと話しながら花火が上がるのを待ちます。
ハロウィンをモチーフにした満開の花火や膝の上で気持ちよさそうに寛ぐに仮装したお猫さま、それに気持ちよさそうに泳ぐお猫さままでいる幸せ空間をしっかりと満喫。 綺麗な花火に可愛いお猫さま達。
どれも視線を奪われる存在ではあるけれど。

(一番視線を奪われてしまうのは…語さん、なんですよね)なんて考えながら、隣で花火を楽しむ語さんに見惚れてしまいます。

アレンジ等していただいて問題ありません。 よろしくお願いいたします。



 肌を撫でる風に時折冷たいものが混ざるようになってきた。秋も深まったある日、落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)の隣へと座った吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は、夜色の瞳にキラキラと星を宿して彼を見上げた。
「語さん語さん、以前星光浴に行ったグリードオーシャンの島のこと、覚えていますか?」
「ああ、泳ぐ猫がいる島、だよな?」
「そうです! お猫様達がいる島です!」
 彼女と共に重ねた思い出は、どれも思い出そうとしなくてもすぐに思い出せる。彼女が口にしたのは、昨年のクリスマスに訪れた島のこと。蒸気機械の残るこの島では魔法薬が積極的に使用されていて、その影響かは定かではないが独自の進化を遂げた『泳ぐ猫』たちがいるのだ。
 猫好きの彼女の勢いが、あの時と同じなものだから。微笑ましくて口元が緩むのも無理はない。
「その島で、ハロウィンのイベントが開催されるらしいのです」

「しかも!」
「なんと!」
「お猫様が仮装しているそうなんです!!」

 ずずいと勢いづいた彼女の様子に既視感を覚えて小さく吹き出したのち、「行こうか?」と告げれば。

「はい、一緒に行きましょう!!」

 にっこりと、これ以上ないほどに嬉しそうな顔を見せるものだから。語の心も満ちていく。こういう時に、彼女の幸せが自分の幸せ足り得るといつも実感するのだ。
 猫が仮装とは、とちょっと思ったけれど。洋服を着る猫もいることを考えれば、何の不思議もない。
「せっかくだもの、俺達も仮装して行こうか」
「!! そうしましょう!」
 なんの仮装をしようか――迷ったのは一瞬。
「あれにしようか」
「あれにしましょう」
 重なった声に、目をしばたかせて。そしてどちらからともなく笑みがこぼれた。
 昨年のハロウィンのためにと作成した龍の仮装。ふたりとも、同じものを思い浮かべているのだった。


 潮風が鼻腔をくすぐる。耳に届くざわめきはうるさすぎることはなく、程よい雑音となって漂っていた。賑わっているな、と肌で感じる。
 淡い菫色と雪に青磁を一欠片溶かしたような色で身を包んだ狐珀は、繋いだ手の先――語を見上げる。|淡菫色《あわすみれいろ》を基調にした韓服は裾が長いので、多少動きづらいことを見越して手を繋いでいた。人が多いから、こうして手を繋いでいると安心でもある。
 白と|淡青磁《あわせいじ》の翼と角で龍を表現。隣を歩けば彼の翼と、翼同士が触れ合って。本物の翼ではないのだけれど、でも、それが、心に火を灯すのだ。
「狐珀、猫がいるよ」
 彼を見つめていたことに、気づかれてしまっただろうか。優しい眼差しをくれた彼が指し示す方に、名残惜しさを感じながらも視線を向ける。
「わぁ、魔法使いのお猫様たちですね!」
 マントや帽子を纏った猫たちが不思議そうに見上げてくるものだから、狐珀はしゃがんで視線を合わせてみる。
『こんにちはー』
『ニンゲン、あそびにきたー?』
 彼らには、人型の者はすべて『ニンゲン』なのだろう。わざわざ訂正する必要性を感じないので、狐珀はそうですよーと肯定を示した。
「なんて?」
「遊びに来たの? って」
 頭上から声が聞こえて軽く振り仰げば、覗き込むように上体を折った彼と視線が絡む。黒と濃いめの灰色を基調にした韓服に黒い羽織を纏った彼は、黒い翼と濃紫の角で龍を装っている。尾の先がふわりと重なって。神経が通っているわけでもないのにそれでも、ぬくもりを感じる不思議。
「そう聞かれるってことは、このやっぱり時期観光客が多いのかな」
「広く宣伝されているのかもしれませんね――あっ、南瓜おばけのお猫様!」
 猫たちが普段から観光客に慣れているのは知っていたが、仮装にも慣れているようで。視線の先をよぎった橙色に狐珀の意識は引っ張られてしまう。
「恐竜にうさぎに吸血鬼? サメやハンバーガーのお猫様もいます!」
「ハンバーガー!?」
 ニャンバーガーというやつだろうか。はしゃぐ狐珀の視線を追えば、ちょっとムッとした表情の猫がいたものだから、語は吹き出してしまった。
「いや、誰だよこの仮装させたの」
 ハンバーガーの真ん中から顔を出す形の仮装。当の本猫は『解せぬ』とでもいいたげな顔で。申し訳ないとはちょっと思ったけれど、でも面白さと可愛さのあまりスマホを向けてこっそり記録。もちろん猫たちの目のために、フラッシュは焚かないように事前に設定済みだ。

『ねえねえおやつちょーだい』
『もってるでしょ?』
『おやつおやつ!』
 語がこっそり撮影している間に、しゃがんだ狐珀の周りに猫たちが集まってきていた。
 あざとさを|凝《こご》らせたかのように小首をかしげて見上げてくる子、狐珀の膝に前足を乗せて顔を近づけてくる子、足にスリスリとすり寄ってアピールしてくる子、遠慮がちに片方の前足の肉球で触れてくる子、手に下げた巾着をくんくんと嗅ぐ子、なんとか中身を取り出そうとする子――みんな違ってみんなかわいい。
「おやつを持ってるってよくわかりましたね。ちょっと待ってくださいね」
 猫たちに囲まれて、絡まれて。それでも幸せそうな狐珀を、語はこっそり写真に収めた。我ながらよく撮れたのでは――なんて思いながら、引きで猫たちも入れてもう一枚。後で一緒に見返せば、何度でもいつまでも、楽しめるはずだから。
「語さん、語さんもおやつあげるの手伝ってください」
「ああ」
 狐珀のヘルプに、スマホを袂にしまい込んで。彼女の隣にしゃがみこむ。ふわりと二人の間を通り過ぎた風が、彼女の髪を揺らして語の鼻を撫でた。嗅ぎ慣れた整髪料の香りが、彼女の香りと潮の香りと混ざって新たな香りとなっていて、より一層彼女の存在を際立たせているように思える。
「……」
 鼻先に触れた髪を、思わず手にとって。もう少しだけとその香りを楽しんだ。
「……?」
 違和感を覚えた彼女が振り返って見上げてきたから、そっと手を離して、なんでもないよと笑ってごまかす。
『ねーねーはやくー』
 語には猫たちの言葉はわからないけれど、おやつが待ちきれなくて催促されているのは分かったから。
「どれをあげればいいんだ?」
 おそらく語の|悪戯《・・》を見ていただろう猫たちの催促に苦笑いしながら、狐珀を促した。
「今開けますね。順番にみなさんにあげますから、喧嘩しないでくださいね」
 巾着を狙う猫たちをなんとかかわしながら、狐珀は打ち紐で閉じられた巾着の口を開けて。包みをとりだすと、猫たちの目つきが変わった気がした――けれど。

『みんな待って! こういうときにいう言葉、あったよね!』
 
 颯爽と駆けつけた二匹のサバ白の言葉に、狐珀を囲む猫たちの動きが止まる。アルダワ魔法学園の制服風の仮装をした二匹(もしかしたらケットシーの仮装なのかもしれない)は、せーの、と猫たちを促した。

『『『おやつくれなきゃいたずらするぞー!!』』』

「!!!」
 まさかお猫さま達が、ハロウィンの決まり文句を口にするだなんて。そんな事言われなくても、狐珀ははじめからおやつをあげるつもりだった。だが想定外の出来事にハートを射抜かれ、愛しさと尊さで息を吸うのも忘れてしまいそう。
「どうしたんだ?」
 状況がわからない語は、おやつの包みを手にしたままぷるぷると震える狐珀と猫たちを交互に見て、首を傾げるしかできなかったけれど。
「おやつはあげますけど、いたずらされるのも捨てがたいです……」
「あー、なるほど……」
 狐珀の呟きで、すべてを理解するに至った。猫たちが何を言ったのかも、彼女がどうして小さく震えているのかも。
「ほら、順番だからなー」
 だから先に包みに手を突っ込んで、狐珀が手作りした柔らかめのささみジャーキーを取り出して。近くにいる猫たちに与え始めれば。はっと我に返った狐珀も、順番に与え始めた。
『おいしー』
『おいしーねー』
『もっとたべたいー』
 ささみの厚さや焼き加減を色々と試して作ったおやつだ。美味しそうに食べてくれて良かったと胸をなでおろすと同時に、ほにゃーっと表情が緩んでしまう。そんな狐珀を見て語の表情もまた、緩んでしまうのだ。

 積極的に貰いに来れない猫たちが漏れてしまわないよう気を配っていると、少し離れた位置に座ってこちらを見ている猫に気がついた。何故かその猫に惹かれて、狐珀がじっと見つめていると、先程の二匹のサバ白が白猫の元へと駆け寄って――。
「あっ! あの時の!」
 そうだ、初めてこの島に来た時、花園へと案内してくれた白猫だ。ということは、あの時の子猫が二匹のサバ白なのだろう。
「語さん語さん、あの白いお猫様が、初めてこの島に来た時に案内してくださったお猫様です!」
 思いがけぬ再会に興奮するのも無理はない。袖をくいくいと引かれた語が視線を向けると、妖精風の翅のついたマントを纏った白猫が近づいてきて、挨拶するように鳴いた。
『また会えたわね』
「はい、お久しぶりです! また会えて嬉しいです」
 他の猫達がまるで気を使ったかのように、三々五々に散っていく。落ち着いた様子で優雅に近寄ってくる白猫の振る舞いは、あの時と変わらない。大きくなったサバ白たちはまだ小さかったから、あの時の出会いをはっきりとは覚えていないようだけれど。それでもまた会えたことには変わりないから。
『子どもたち、大きくなったでしょう?』
「ええ、最初、分かりませんでした」
 再会を喜ぶ彼女と白猫を、語はカメラに収めて。その様子を見たサバ白たちが不思議そうに寄ってくるものだから、「これはカメラといって、この中に姿を映すんだよ」なんて教えてみたりして。画面を覗きこもうとする彼らが見やすいように、スマホを傾けて――だから、不意打ちだった。

「ええ、こちらは私の大切な人です」

「えっ」
 まさか猫に対してこんな風に紹介されるなんて思わなかった。ここにそんな相手がいるなんて思わなかった。彼女の表現は、1ミクロンたりとも間違ってはいないけれど。
 一体何を言われて、こんな風に紹介するに至ったのだろう。語にはわからないけれど、白猫の視線に背筋が伸びた。
「はじめまして。狐珀がお世話になりました」
 何を言われているかわからないのに、猫に対してでもきちんと挨拶をしてくれる。彼のそんなところも大好きだ――狐珀の胸の中に、改めて想いが満ちて、頬が熱くなっていくのが分かる。
『あの時の花の香りを贈った相手ね?』
「! そうです」
 くすくすと、笑い合う狐珀と白猫。事情がわからない男性たちは、きょとんとするばかりだけど。
 大切な相手が楽しそうにしているのを、不快に思うはずはなかった。


『お母さん、花火はじまるよ?』
『見に行かないの?』
『ニンゲンも行こうよー』
 気がつけば、陽は沈んでいて。篝火や蒸気機械による灯りが島に咲いていた。白猫たちと一緒歩き回って猫たちにおやつを与えるのに夢中になって、時間を忘れてしまっていたのだ。
「そうでした! もう一つのお楽しみを忘れるところでした!」
「そっか、もうそんな時間か」
 語には猫のいうことはわからないけれど、夜になると花火が上がることは知っていたから。
 時間を意識すると、途端に辺りを漂ういい匂いが気になってきた。イベント用の屋台で、ハニーマスタードチキンやハムとアボカドなどのピタパン、串に刺して焼いた海鮮などの軽食とホットワイン、そして忘れずに猫のおやつを買い求めて。
『花火すごいよー』
「楽しみですね」
「ああ。遅れないように行かないとね」
 わくわくしながらみんなで向かうのは、船着き場。以前、星光浴のために小舟で海へと出たあの時のように、船を借りて海上へ。
 蒸気機械で動く小舟が沖に到着したその時――空に咲いたのはオレンジ色の南瓜の花火。
「「わぁ……」」
 二人の口から漏れる感嘆の声は同じだ。同じものを見て同じように感じることが、当たり前ではないと知っているから、こうして二人で同じ思いをいだける奇跡に感謝をして、ふたり同じ花を瞳に焼き付ける。
 南瓜にお化け、コウモリにお菓子――ハロウィンモチーフの花火はこのイベントでなければ見られなかっただろう。
 水面に視線を移せば、花火が映り消えゆく中に泳ぐ猫たちの光る軌跡があちらこちらに。花火とも星空とも毛色の違った|幻想《イリュージョン》に、ふたりの膝の上で寛ぐ猫たち。時折海中から顔を覗かせる猫たちにも手を振ったりして、この幸せ空間を満喫する狐珀。
(綺麗な花火に可愛いお猫様達。どれも視線を奪われる存在ではあるけれど――)
 花火の音のせいで他の音が聞こえづらくて。何もかもが遠くに感じて。海上でぽつんと、隔離されてしまったように感じるものだから。この世でふたりだけになってしまったみたいで、隣りにいる彼のことをいつも以上に意識してしまう。
(一番視線を奪われてしまうのは……語さん、なんですよね)
 気がつくと、彼を見ている。それは普段からよくあることなのだけれど。
 視線の先の彼は、花火を映して宝石のように輝く瞳を空に向けている。いつもと同じ横顔だけれど。いつもよりもずっと、ずっと――……。

「綺麗だな」
「綺麗……ですね」

 彼の口が動いたのを読んでしまったのか、彼の声だから耳に届いたのかはわからないけれど。見惚れていたのをごまかすように狐珀は視線を空へと向けた。

 水面に映る花火へと視線を向けた語。空と水面の両方で展開される花火は、これまで見てきた花火とは違う感動を与えてくれる。
(直ぐ側に花火があるみたいだな)
 この幻想的な景色を、とても綺麗だと、素直に感じるけれど。
(それでもやっぱり――)
 無意識のうちに、視線を惹かれるのは。

(一番綺麗だと思うのは、狐珀なんだけれどな)

 視線の先の彼女は、膝の上で丸くなっている猫を撫でながら花火を見上げている。瞳に花火を映した彼女は、いつもと違った美しさで。
 口に出すのは少し恥ずかしいし、気障だと思うから。何も紡がずに、語は彼女へと手を伸ばす。
 そっと彼女の細い肩を自分の方へと抱き寄せれば、空を見つめたままの彼女が体重を預けてくれた。
 こてん、と肩に乗る彼女の頭。そこにこてん、と自身の頭を添えて。
 そのまま共に、同じ景色を見つめていた――。

「幸せだなぁ……」

 口の端から漏れた小さな呟きを、誰も拾いはしなかったけれど。

「幸せです……」

 呼応するように紡がれたその言葉は、花火の音に混じって消えてゆく。
 二人の前で寛ぐ白猫だけが、その言葉を聞いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年12月21日


挿絵イラスト