●開会宣言。
アスリートアース。
ユーベルコードを操るアスリートたちが競い合う超人スポーツで盛り上がる世界。
そこでは日夜数々の競技が執り行われており、ダークリーガーの有無にかかわらず白熱した勝負が繰り広げられているのだ。
数々の競技に挑み最も獲得点数の多かったチームが勝利となる、運動会もその一つ。
『ハロウィン仮装運動会』。
競技の装飾がハロウィンに彩られ、参加者は仮装して競技に参加することを条件とされているこの運動会に、彼ら彼女らは|一般参加《エントリー》していた。
「ファイトです! 張り切っていきますよ!」
三角帽子にフリルをあしらったドレスを着こなす、魔法使いの仮装をした二條・心春(UDC召喚士・f11004)は、元気いっぱいに声を出していた。
ここに集まったのは五人の仲のいい猟兵たち。
【封じられた魔導書庫】のメンバーである。
「まさか仮装しながら運動会ができるとは思いませんでした。やはりアスリートアースのスポーツの秋はひと味違いますね」
「ハロウィンのお祭りに来たつもりが、運動会を経験できるなんて思わなかったの」
心春の言葉に同意したのは、狐のお面を付けた稲荷神社の九尾宮司風の仮装に身を包んだ少年。
【封じられた魔導書庫 】の管理人、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)である。
ロランは初体験の運動会という催しに張り切っており、元気よく耳や尻尾を振り動かしている。
「せっかくこのメンバーで参加するからには、たくさん楽しむ事を第一にして、がんばろうね」
「そうね……まさかハロウィンで運動会をするとはビックリなのだけれど、これはこれで楽しい」
マイペースでおっとりした性格の精霊術士であるメノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)も、白い衣装に可憐なリボンをあしらったメリー・ポピンズの仮装を着こなして参加している。
運動会という集団で行うスポーツにいささか緊張している様子だが、精一杯頑張ろうと意気込んでいるようだ。
その隣ではスペース騎士風のサイバースーツ姿の仮装をした精霊術士、七瀬・一花(執政官代理・f35875)も飄飄とした態度で佇んでいる。
元々運動自体はあまり得意では無かったが、最近はフィットネスジムでほぼ毎日の様に鍛えているために一花の運動神経は人並み以上に得意と言える程度には上達しているのである。
「私、あまり運動は得意で無いのだけれど、みんなと一緒に参加できるなら喜びも一塩―――。思い切り、頑張らせて頂くつもり!」
「ん、ワタシも頑張るのよ。チームワークならどこにも負けないと思うの」
UDC出身の大学生である一花は幼少の頃より常に空疎感に苛まれてきた。
だが、大学生時代に猟兵に覚醒し、そして精霊に触れ、猟兵たちとの交流を経験して……今では少しずつ、世界への向き合い方が変わり始めている。
一花はこの場に揃った猟兵の仲間たちに視線を振り撒き、静かに微笑みを浮かべている。
「運動ごとでのあえての僕……言わば障害物競争の障害!」
そして、黒い睡蓮の花と純銀の羽根を持つオラトリオ、アン・カルド(銀の魔術師、或いは銀枠の魔術師・f25409)はドングリの実を抱えたリスの仮装で自信たっぷりに胸を張っている。
アンは背丈こそこのメンバーの中で最も高いのだが、背中の羽根が重くて動くこと自体が苦手なのである。
それでも運動会に参加しているのは、こうした賑やかなお祭りごとは好きだから。
アンは場を盛り上げるべく、頑張って声を張り上げている。
「だけど僕は皆のことを信じている! 応援は誰にも負けない気でやるとも!」
「とっても頼もしいの。それじゃあ、みんな、手を出して?」
ロランが獣化した手を出すと、書庫組の仲間たちもそれに倣う。
一花はにっこりと微笑み、みんなに目で合図をして円陣を組む。
アンがゆっくりと手を伸ばし、メノンはぐっとこぶしを握って前に突き出す。
最後に心春が元気よく手を乗せて、ロランの掛け声と共に声を上げる。
「書庫組、ファイト、なの!」
「「「「ファイトー、おぉー!」」」」
書庫組が気合いを入れると同時に、開会の祝砲が打ち上がった。
運動会が始まった。
●玉入れ。
「さて、私はUDCアース出身ですから運動会はよく知ってますし、実はそれなりに運動神経は良いのです。
これは私が皆さんを引っ張っていかないといけませんね……!」
小春は写真撮影用に持参したタブレットを手に、運動会に馴染みのない書庫組の仲間たちに競技の説明やアドバイスも施して行く。
割り振られた待機スペースに移動したロランたちは心春の言葉に耳を傾け、運動会というスポーツのおおよその流れや動き方を理解した。
「ざっとこんなところです!」
「ありがとうなの」
「それなら、最初は私が……。その、それと……」
心春から第一種目である玉入れのアドバイスを聞いたメノンは、参加の意思を表明する。
そして一花に顔を向けて手を差し出す。
「良ければ一花ちゃんも一緒に……!」
「玉入れ競争……」
一花はメノンの目を見つめ返して、淡く微笑しながら彼女へと目合図して差し出された小さな掌を取り優しく握る。
「うん、メノンさん―――。うん、書庫代表として二人で頑張っちゃいましょう?
私達、聖霊術師コンビの実力見せつけちゃいましょうね」
「うん……!」
繋ぎ返されたその手が嬉しくて、温もりに勇気をもらったメノンが頷き返す。
掌を通して伝わってくる緊張感は、メノンのものなのか、一花のものなのか。
それともきっと、二人のものであるのだろう。
一花もメノンも、お互いに同じことを思っているのだろうと言葉を交わさずに感じ合う。
そんな二人だからこそ、きっと大きく羽ばたける。
「メノンさんと一花さんの雄姿、ここから応援させてもらおう!」
「頑張ってくださいね! ご活躍しっかり激写しますよ!」
「一花さん、メノンさん、いっぱい入れてきてね。メイドのマリアに美味しいお弁当も用意してもらったから、楽しみにしておいてね?」
「ふふ、メイドのマリアさんのお弁当は美味しいから、楽しみ、ね」
「マリアさんの絶品料理は楽しみ―――それじゃあ行ってくるわ」
メノンと一花を見送る仲間たちの声援を背に。
二人は一緒に玉入れ競争へと参加する。
書庫代表の先鋒を仕る二人は、周囲に転がるお手玉を見つめて、スタートの合図を待つ。
開始のピストルが鳴り響くと共に、メノンも一花も、頑張っていっぱい投げ始める。
「狙いを定めて……ううん、ゆっくりしていたら負けちゃう……とにかく投げてみるの!」
「メノンさんに負けていられないな……!」
えいっえいっとカゴ目掛けて玉を投げ入れていくメノン。
一花もメノンに負けないように、次から次へと球を投げていく。
不慣れながらも、だからこそ二人の息はぴったり合い、邪魔することもぶつかることもなく着実に玉を投げ入れていく。
次々に籠に入っていく玉を見て、一花もメノンも嬉しくなっていく。
「(不器用な私だけれど、だからこそ)」
「(思い切り頑張るのよ!)」
他の選手たち、アスリートアースのアスリートたちは猟兵ではないにせよ、スポーツに関しては一日の長がある。
玉入れ競技それ自体は、惜しくも他のアスリートたちには及ばず、全体三位という出だしとなった。
だが、二人にとっては結果よりも力を合わせて競技を成功できたことが幸せで、その瞬間のその喜びはひとしおで。
「やったね、一花ちゃん……!」
「うん、メノンさん……!」
最後にメノンと一花は、ウィンクしながらハイタッチを決める。
心地よい高揚感と達成感に笑顔が溢れ、上手くいった喜びを分かち合いたいなら、舞い上がる。
そして、歓声を上げる仲間たちの待つ待機スペースへ戻っていくのだ。
●騎馬戦。
「次の競技は、騎馬戦ですね! これは四人一組で行うスポーツですよ!」
「みんなで一緒に参加できる競技もあるんだね。大丈夫、みんなで参加するんだからきっと楽しいの」
ロランはみんなで相談し、騎馬を組む陣形と人員を考えていく。
上に乗る騎手役の人、先頭に立つ騎馬役の人、そして騎手を支える後ろの二人。
騎馬戦は誰一人欠けても成り立たない、チームワークが求められる競技なのだ。
「心春おねえさん、こういう団体競技もあるみたいだけど、どういうことをするの?」
「団体競技は個人競技とはまた違った難しさがありますよね。
けど、皆さんのチームワークがあれば大丈夫です。頑張りましょう」
一花は呼吸を整えて、そして思う。
協調性があまりなく、自分を取り繕いすぎるためにチーム競技への苦手意識がある。
書庫組の皆の事は信頼しているものの、未だに緊張感が胸の奥を僅かに燻っている。
だからこそ、この機会を活かそうと積極的に前に出る。
「せっかくなら、皆と一緒にチーム競技に参加できたら嬉しいな。
チームの一員として、自分に出来るベストを発揮して、貢献してみんなと一緒に喜びを分かち合えたら嬉しいな」
「一花さん……! うん、いっしょに頑張ろう、ね」
「ならばメンバーは決まりだね! 僕はマリアさんといっしょに懸命に応援させてもらおうか!」
ロランが先頭の騎馬として立ち、メノンと一花が後ろを支える。
そして一番小柄の心春が騎手として乗るという形を整えた。
アンはマリアと一緒に声援を送る態勢を整えた。
「さぁ、書庫組メンバーとして頑張らせて貰うね?」
「うん、行くの!」
握力が弱いロランの手をメノンと一花がしっかりと掴み、心春の重心を三人で分割することで崩れ落ちることもない。
立派に騎馬を組み、同じ勢力グループのアスリートたちと横に並ぶ書庫組。
開戦の合図と共に、書庫組騎馬はしっかりと歩み出す。
焦って走り回ることはせず、周囲の騎馬と衝突しないよう観察して……そして四人とも抜け目なく視線を巡らせている。
「っ! 10時の方向、なの!」
「わかりました」「わかった」「いっけー!」
ロランの先導に、息の合った歩調を合わせて一花とメノンも追従する。
ロランが見定めたターゲットは、意気揚々と駆け回り他の騎馬のハチマキを狙っている騎馬であった。
攻撃している真っ最中は、防御は手薄になるものだ。
友軍の騎馬が抵抗している隙に、敵の騎馬の背後へとゆっくり歩を進める書庫組騎馬。
「取ったー!」
「な、なにぃ!?」
「やったの! 次に行くの!」
「はい! おっと、後ろから狙われてるのでひとまず逃げましょう!」
気配を殺して近づいた書庫組騎馬が、心春がその手を伸ばして敵騎手のハチマキを奪取する。
その後も乱戦に巻き込まれないように距離を取り、再び機を伺いつつ動き回るのだ。
無理に首位を狙うことはせず、ハチマキを取られないよう立ち回ったロランたちは着実にポイントを稼いだ。
最終的な生存点も加算され、書庫組は上位を維持することに成功するのだった。
●応援合戦。
リレーに大玉転がし、障害物競走に借り物競争。
運動会のスポーツは数多くあり、中には書庫組が参加しない競技もある。
純粋なパワーが求められる綱引きなどがその一つだ。
しかし、参加しないからといって楽しめない訳ではない。
応援という、運動会の花形が存在するのだ。
「フレー、フレー!」「もふもふなの……」
「うおおおお! オーエス! オーエス!」
アンは、ユーベルコード《ライブラの愉快話・縫包(ヌイグルミノショウ)》によって召喚した大量の動くリスとドングリのぬいぐるみと共に、応援をしている。
書庫組の所属するグループのアスリートたちの勝利を祈って、ふわふわもこもこしたぬいぐるみたちが懸命に手を振り跳ね回っている。
アンたち応援団の声を励みに、アスリートたちが奮起して活躍していく。
応援合戦。
運動会競技では、味方を応援する行為にもポイントは加算され、部門として優勝すれば高得点を狙える。
アンは学ランに着替え、ぬいぐるみたちにも学ランやチア装束を着込ませて元気に応援を続けているのだ。
もっとも、アンは一競技が終わると息が上がって疲弊するため度々休憩しているが、その間もぬいぐるみの応援団はずっとパフォーマンスを発揮しているため応援が途切れることはない。
「おぉ、アンおねえさんの応援団、すごいね。愉快な仲間たちが勢揃いなの」
「応援合戦……応援団がいるなら、チアとかもいたほうがいいかな」
マリアの早着替えにより学ラン衣装に変わり白ハチマキを付けたロランが、アンたちの応援合戦の活躍を目を輝かせて見つめている。
すると、同じくいつの間にかチアガールの衣装に着替えていた心春が横に立っていた。
「心春おねえさんも一緒にチアしてくれるんだ?」
「そうですね。ちょっと恥ずかしいですが、皆さんを元気づけるために私がやりましょうか」
アンやぬいぐるみたちの動きに合わせて応援に参加した心春だが、チアガール一人だけでは張り切ったパフォーマンスを発揮できない。
もふもふのぬいぐるみたちでは、流石に背丈が合わないのだ。
「ひとりだとあまり目立つ動きはできないかな……。なら、ガーゴイルさんたちを呼びましょう」
そこで心春は、補助してもらえるようにとユーベルコード《召喚:彫刻獣》で翼を持つ二足歩行の石獣型UDC霊『ガーゴイル』をいっぱい呼んだ。
チアガール衣装を纏ったガーゴイルたちが、心春の意に従って機敏な動きで整列する。
その手には毛糸やリボンで作った飾り玉、ポンポンが握られている。
「さあ、動き出して……皆さんの出番です!
ガーゴイルさん、私達のチームワークも見せてあげましょう!」
小春はガーゴイルたちと連携して、巧みでアクロバットな応援パフォーマンスを披露する。
組体操さながらの離れ技、ジャンプからの|バク転《後方転回》や|バク宙《後方宙返り》を行い、一糸乱れぬダンスを披露する心春とガーゴイルたち。
見物している人はもちろん、応援を受けるアスリートたちも注目して感嘆の声を上げている。
「アンおねえさんの学ランも、心春おねえさんのチアも似合ってるね。ガーゴイルさんたちカッコイイの」
「ワタシも、アンさんとリスさん達と一緒に皆の応援も頑張るのよ」
「うん。いいね。……フレー、フレー!」
ロランと一緒に拍手で応援していたメノンと一花も、みんなにつられて自然と声を出して行く。
アクロバットの華麗な技には手を振って、懸命に声を張り上げ声援を投げかける。
いつしか書庫組の仲間たちは肩を並べ、大勢での応援を行っていた。
「おっと、皆も応援やるかい? 一緒に応援合戦の一等賞を目指していこうじゃあないか」
「ぼくも学ランを着て参加なの。うん、これなら応援合戦優勝を狙えるの」
アンは、楽しそうに笑ってみんなと一緒に応援を振舞っていく。
書庫組が一帯となって披露する応援の甲斐もあり、アスリートたちは奮起して次々に活躍を魅せていく。
「ふれーっ、ふれーっ、しょっ、こっ、ぐっ、みっ!! ろぉぉぉぉぉ!!」
精一杯に高揚したロランの狼の遠吠えが、選手たちの心を奮い立たせているようだ。
そして、書庫組の大きな応援は高評価を獲得するのだった。
●お弁当の時間。
そして運動会もおおよそ進み、昼食休憩のタイミングとなった。
一通りの競技が終わり、残るは午後にある2,3の種目となっていた。
お昼は皆で一緒に摂るので、思い切り応援していた書庫組一同は待機スペースへ戻ってきた。
「ふぅ、たくさん運動してお腹空いちゃったね。今日はたくさん食べられそうなの」
お腹を空かせた書庫組一同を、メイドのマリアが遠足用のシートを広げて弁当を用意して待っていた。
お弁当は豪華で量も多く、種類も豊富だ。
梅干し、おかか、ツナマヨ、たらこと、いろいろな具材を詰めたおにぎり。
アボガドとサーモン、生ハムとクリームチーズ、様々な具材の入ったサンドイッチ。
鶏の唐揚げにウインナー、卵焼きに野菜スティック。
デザートのリンゴやレモンといったカットフルーツ。
お茶にコーヒーに特製スムージと、飲み物も取り揃えている。
事前の要望や、個々人の好みを考慮してマリアが作ったご馳走である。
「お弁当もすごい豪華です。これで午後の部もしっかり頑張れますね。
あ、せっかくなのでこれも写真に収めておきましょう」
並べられたご馳走を前に、小春は写真を撮っていく。
アンは、めいっぱい運動(応援)をしたことでお腹が空いているようだ。
「ふぅ……運動をするとお腹が空くねえ、お弁当は味の濃いものを貰おうかな」
「いっぱい食べて元気になるの! いただきます、なの!」
ロランはもともと小食なこともあり、それほど多くの量は食べられない。
だが今回は運動で体力を消費したこと、そして仲間たちとお弁当を囲んでいるということが、いつもよりほんの少しだけ、いっぱいのご馳走を食べられる理由になっている。
味の濃い料理を健啖に食べていくアンに、撮影を終えて箸を取りご馳走に舌鼓を打つ心春。
メノンは華やかな色どりのお弁当をいただき、一花は次々にサンドイッチをつまんでいく。
皆で賑やかに、ワイワイ歓談しながらお弁当を食べていく。
「サンドイッチも美味しい、ね」
「ええ、本当に。特製スムージもお願いしちゃおうかしら!」
こうして皆で食べるから美味しいのだろう。
そして美味しくお昼をいただくことが、活力になるのだろう。
午前中に消耗した気力と体力を十分に補充して、書庫組の仲間たちは大いに元気を取り戻した。
食後にはメノンが持参したハーブティで一息つき、一同は再び競技に意識を向ける。
「ふぅ……ごちそうさまなの」
「お腹いっぱいで元気も出たし、午後もがんばるの!」
「いざ、午後の競技にも参加ね!」
「午後の応援もばっちり任せてもらおうか!」
「今の順位なら優勝は狙えますよ、もうひと頑張りです!」
●徒競走。
午後の部も進み、ついに運動会最後の競技が始まる。
それは、今回の運動会の目玉……徒競走である。
「走るのは自身があるの。頑張るの。……あ、そうだ」
参加するのは、走りやすいようにRPGの村少年風の仮装に着替えたロランである。
だがロランは、もっと速く走れる方法を思いついた。
「えっと、審判さん。変身はしちゃダメかな?」
「大丈夫だよ。変身も真の姿もマシンも有りさ。そう、アスリートアースならね!」
「それだったら、全力で走れるの!」
ロランの質問に、運営スタッフは元気に回答する。
アスリートアースはほとんど人間しかいないが、人間以外の種族もゼロではない。
そのため、競技のルールに適正であれば多少の姿の差異は問題ではないのだ。
快諾を得られたロランが変身し、獣の姿となってスタートラインに立つ。
周囲にいるアスリートたちは多くが二足歩行だが、迸るオーラは尋常ではない。
彼らも、このクライマックスに選抜された各組の精鋭なのだ。
猟兵といえど簡単に勝てる相手ではない、強敵である。
「勝てば優勝になるじゃないか! フレー、フレー!」
「みんなと一緒に、応援するのよ」
「がんばれ、ロランさん」
「ファイトですよ、ファイトー!」
だが、ロランを応援する仲間たちの声が、彼の心を奮い立たせる。
アンたちぬいぐるみ応援団に、メノンと一花、そして心春とガーゴイル応援団が懸命に応援する。
その声に尻尾を振って応え、ロランは一生懸命走ろうと意気込んだ。
集中して、合図を待つ。
「位置について……よーいドン!」
合図と同時に一斉に走り出すアスリートたち。
クラウチングスタートのような体勢からスタートダッシュを成功させたロランが先頭を走る。
狼の身体能力と体力、そして狼の脚力や尻尾を使ったバランサーを駆使して、並み居るアスリートたちを置き去りにして、ぐんぐん進んでいく。
「うぉぉおおん!!」
「わ、ロランくん速いの!」
「まだ、まだぁぁぁ!!」
コースの半分を過ぎたあたりで、エースアスリートが加速して追い縋る。
必死の形相でロランを追う、一般アスリート。
彼らを引き離すべく、全力で疾走するロラン。
互いの熱意が匹敵するならば……勝利は、先行したものの手に届く。
「ゴールッ!」
「ううっ……! るぅぉおおお!!」
「勝ったー!」「やりましたよ、優勝です!」「すごいの、ロランくん!」「よしっ……! うん、やったね!」
ロランがゴールに飛び込み、その身体にゴールテープを纏わせる。
大歓声が上がる。
味方グループも対戦チームも関係なく、健闘を称える叫び声を轟かせているのだ。
そしてロランは、書庫組応援団に顔を向ける。
そこには、大事な仲間たちが満面の笑みを浮かべていた。
もちろん、ロランも仲間と同じ表情をしているのだった。
●そして、閉会。
応援合戦、そして運動会の総合得点で優勝を獲得した書庫組は、表彰式にてトロフィーと金メダルを受け取り、運動会に参加した大勢のアスリートから喝采を浴びた。
そのまま閉会式を済ませ、円満なムードの中でスタッフが片づけ作業に入っている。
アスリートたちは帰路に着くだけだが、そこでロランが提案する。
「ねえ。みんなで集合写真を撮ろ?」
「あっ、集合写真を撮るのを忘れてましたね。マリアさん、撮影お願いしますね!」
「む、集合写真か、応援団は入り切るかな?」
「集合写真、きっとステキ、ね」
「うん。……うん、いい思い出になるね」
「心春おねえさん、こっちこっち、集まって」
小春はマリアにタブレットを渡し、集まっている仲間たちのもとへ向かう。
ロランを真ん中に、アン、メノン、一花、心春がぎゅっと身を寄せ合い、後ろではガーゴイルたちに抱えられたリスのぬいぐるみたちが勢ぞろいしていた。
運動会の全景を撮れるような距離と角度を計算して、マリアは合図の後にシャッターを2,3度切る。
タブレットには、素晴らしい写真が映し出されていた。
「ありがとうマリアさん! うん、いっぱい楽しめましたね!」
「また賑やかな想い出が増えたのよ」
「とても楽しかったとも! 皆の活躍も素晴らしいものだったね!」
「ふわ……張り切り過ぎちゃったね、眠くなってきたの……」
「お疲れ様、ロランさん。―――ありがとうね」
運動会の興奮冷めやらぬ中、一日を通して張り切り過ぎたロランは眠くなってきたのか、うとうとと舟を漕ぎ始める。
マリアが優しく微笑みロランの手を引いて、一花が小さく言葉を溢して……。
書庫組の皆で思う存分に満喫した運動会の思い出を語りながら、一同は笑顔で帰宅の途につくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴