|ギャンブリング・ガチャ・オーダー《GGO》
●プロメテウス
荒れ野を往く。
亜麻色の髪が揺れる。見上げた空は青かった。赤い空を彼女は知っている。けれど、今はそれが何の意味もないこともまた知っている。
ここはゲームの世界。
『ゴッドゲームオンライン』である。
『統制機構』の抑圧と支配受ける人々が熱中するオンラインゲームである。
だが、バグプロトコルがゲームプレイヤーたちの|遺伝子番号《ジーンアカウント》を狙っている。
バグプロトコルは、ゲームプレイヤーを倒して遺伝子番号を焼却することで彼らの人権を剥奪し、労働奴隷に堕とそうとしているのだ。
だから、亜麻色の髪の少女ノンプレイヤーキャラクター『エイル』はゲームプレイヤーたちを護らなければならない。
「でも、私では誰も守れない。わかっている」
なら手をこまねいたまま、いつ助けに来るかもわからない猟兵たちを宛にしなければならないのか。
違う。
自分には自分のできることをしなければならない。
幸いにして自分はノンプレイヤーキャラクターだ。また同時に組合員のジョブを得ている。ゲーム内では『重要NPC』として設定されているのだ。理不尽な堅さを持っている。
バグプロトコルに負けることはない。
だが、彼らを排除することができない。
「あった……ここが『バグシティ』…‥」
彼女の黒い瞳に映るのは星ではなく、廃墟だった。
破壊された巨大な施設。
まるで学園めいた形をしているが、もうそれは過去のことだ。無事な建物は何一つ無く、そして再利用しようがないほどに破壊されている。
恐らくバグプロトコルの仕業なのだろう。
かつては此処もゲームプレイヤーやノンプレイヤーキャラクターたちが行き来する『学園街』だったのだ。
アイテムの売買やイベントが催されていた。
ここを奪還すれば元の活気ある姿を取り戻すことができれば。
クラン『憂国学徒兵』たちを守れる。それだけじゃあない。他のゲームプレイヤーたちも守れるはずだ。
「不幸中の幸いだったね。大したバグプロトコルはいないみたい。後は……」
此処の存在に猟兵たちが気が付くのを待つだけだ。
亜麻色の髪の少女ノンプレイヤーキャラクター『エイル』は空を見上げる。
そこには|日暈《ハロー》が瞬いていた――。
●ゴッドゲームオンライン
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。究極のゲームにようこそ! ところで皆さんはガチャはお好きですか!」
ナイアルテが突然そんなことを言い出すものだから猟兵たちは身構える。
彼女がこういうテンションの時は大抵ろくでもないことが起こる。いやまあ、オブリビオンの関連した事件というものはろくでもないものであるが。
それを差っ引いても彼女のテンションの高さには裏があるように思えたかも知れない。
「はい、ガチャです!」
ガチャって言うと、よく聞くゲームの中の課金もしくは無償によって一定の条件でアイテムが手に入るランダムな機能のことだろうか?
ナイアルテは深く頷く。
「私は好きです。いっぱい回したいのです。お小遣いが溶けてもいっぱい回したいのです」
目がぐるぐるっている。
ヤバイ。
中毒者の目である。
ガチャはレアアイテムが手に入る可能性がある。しかし、それは高くない確率であるし、仮にレアアイテムの確率を引き当てても、そこから目当てのアイテムが出る可能性はさらに絞られるのである。
「当たるまで引けば、レアアイテムも出るのです!」
うーわ。
「とは言え、ガチャはお仕事の最後のお楽しみです」
というと?
猟兵たちは首を傾げる。どういうことなのだろうか。ただガチャを引きたいだけなら課金すればいいのである。
だが、ナイアルテの言葉を聞く限り、どうやらそうではないようである。
「はい、ゴッドゲームオンラインの中には複数の『街』が存在していました。ゲームプレイヤーさんたちの拠点であったり、バザーイベントエリアであったりと、用途は様々であったのですが……バグプロトコルによって破壊され寄り付くゲームプレイヤーやノンプレイヤーキャラクターもいなくなった場所も存在しているのです」
なるほど、と猟兵たちは理解する。
バグプロトコルによって破壊され、所謂『バグシティ』と化した元街を己たちの手で奪還し、元の活気ある姿を取り戻す、というわけだ。
「はい、現地にはNPCの『エイル』さんという方がいらっしゃいます。まずはバグプロトコルに破壊された街に赴き、たむろしている『とおせんぼのアオクマくん』をぶっ飛ばしましょう。その後で周囲の資材を集めて『建築』と『アイテム合成』のシステムを使って、破壊された街を再生させましょう」
そうしたのならば、後はお楽しみのアイテムガチャである。
どうやらノンプレイヤーキャラクターの『エイル』がガチャを回すために必要な課金アイテムを用意してくれているのである。
具体には一人頭100連分。
「バグシティのバグプロトコルを排除することは、私達にとっても利のあることです。あ、いえ、ガチャ100連分無料ではなく、街としての機能が戻れば此処にもゲームプレイヤーの皆さんが集まってきます。そうなれば、拠点として栄えます」
そして、『統制機構』に支配されている人々の心に潤いと彩りが戻るということである。
それは猟兵たちも望むところであるだろう。
ナイアルテは頭を下げて猟兵たちを見送る。
「それでは、ガチャのためにがんばりましょう! 私は後方転移維持面していますので! は~100連分無料、良い響きですね」
猟兵たちは思った。
ナイアルテはもう戻れないところまでゲーム沼にずぶってるんではないかと――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は新たなる世界『ゴッドゲームオンライン』において、かつてバグプロトコルによって破壊された『街』を再生するシナリオになります。
バグプロトコルによって破壊され屯している『バグシティ』は、これを排除し、資材アイテムなどを用いることで『建築』、『アイテム合成』などで再建することができます。
バグシティの近くには、今回のクエストの報酬であるガチャ100連分チケットを持った亜麻色の髪の少女NPC『エイル』がいますので、しっかり受け付けてからバグプロトコルの排除に向かいましょう。
●第一章
集団戦です。
バグシティに巣食うバグプロトコルたちを一掃しましょう。
ですが、『とおせんぼのアオクマくん』は見た目こそ可愛いですが、バグによって攻撃力が底上げされています。
可愛いですが、ステータスは凶悪なので油断はなりませんし、また数が多いです。
かつては学園であったバグシティの廃墟の影のあちこちから飛び出してきます。
●第二章
冒険です。
バグプロトコルを一掃した後、この廃墟であるバグシティを『建築』、『アイテム合成』などのシステムを使って再建しましょう。
このゲーム世界では素材さえあれば一瞬で建造物やアイテムを作り出せます。
そのための素材を廃墟の中からかき集めて、街を再生させましょう。
●第三章
日常です。
皆さんの活躍で漸くバグシティは元の『学園』へと姿を変えていきます。
そして亜麻色の髪の少女NPCから配られた無料100連分チケットを使う時です。
ガチャを回すのです。ぐるんぐるん回すのです。具体的に虹回転や、虹宝石やら、レア確定演出とかそんなのを目指して!
またいち早く再建した『学園』にはクラン『憂国学徒兵』の面々もやってきています。
アイテムガチャを回しながら交流してみたりするのもいいでしょう。
無料100連分を回し終わったら、追い課金してもいいですが、トリリオンのご利用は計画的に!
それではバグプロトコルに破壊されバグシティとなった街を再建するため、無料100連分チケットゲットのためにゲーム世界にログインする皆さんの物語の一片となれますように、たくさん頑張ります!
第1章 集団戦
『とおせんぼのアオクマくん』
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POW : くまっ!!
【抱き着き】で近接攻撃し、命中した部位ひとつをレベル秒間使用不能にする。
SPD : くまくま!!
【エモーショナルバルーン】に宿る【『×』の移動制限】を解き放ち、レベルm半径内の敵には[『×』の移動制限]で足止めを、味方には【くまくまエリアの癒し】で癒しを与える。
WIZ : がおー!!
全身に【愛くるしさ】を帯び、戦場内全ての敵の行動を【「がおー!!」と叫ぶこと】で妨害可能になる。成功するとダメージと移動阻止。
イラスト:橡こりす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「お待ちしていました」
亜麻色の髪を揺らして一人の少女NPCが一礼して猟兵達を出迎える。
ギルド組合員然とした立ち振舞をしているのがひと目にわかるだろう。
彼女は訪れた猟兵たちの名前とアカウントをチェックし、バグプロトコルひしめくバグシティへと案内していく。
そう、此処より先は無数のバグプロトコルが襲い来る危険地帯である。
油断はならない。
「現れるエネミーは『とおせんぼのアオクマくん』です」
えらく可愛い名前である。
実際にエネミーのグラフィックも可愛らしい。
本来ならばただの集団でクエストの足止めを行うエネミーである。攻撃力もほとんどなく、たまに高難易度クエストのダンジョンで耐久値が跳ね上がって設定されていたりする程度なのだ。
だが、バグプロトコルに変化したことで攻撃量も高く設定されているのだ。
ゲームプレイヤーであれば、この一撃を受ければごっそりHPゲージが削れてしまう。
この世界でHPが0になればどうなるかなど言うまでもない。
遺伝子番号が焼却され、労働奴隷になってしまうのだ。そうなれば、人権は剥奪され、二度とこの世界にログインすることはできなくなってしまう。
「なので、皆さんのお力を貸してほしいんです。お願いします」
彼女の言葉を背に受けて猟兵たちは廃墟と化したかつての学園の中に踏み込む。
するとすぐさまにアラートが鳴り響く。
廃墟の物陰から次々と飛び出してくるテディベア地味た青いエネミーたち。
それは可愛らしい姿をしていた。そう、言うまでもなくバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』たちであった。
「くまっ!!」
「くまくま!!」
「がおー!!」
彼は一様に威嚇しているが、なんとも可愛い。
だが、油断はならない。その一撃はとてつもなく重たい。ステータス異常で攻撃力が跳ね上がっている。
油断なく行け、猟兵の皆さん!
皆さんの無料100連分チケットは、この戦いの先にこそあるのだ――。
イリスフィーナ・シェフィールド
ナイアルテ様、目を覚ましてくださいませっ、ガチャは悪い文明ですわっ。
(別シナリオでバステで人形にされて景品になって財産つきるまで回されて救出された経験あり)
……まぁ悪い文明の話は置いておきましてクエストこなしましょう。
エイル様に挨拶しましてクエスト受注しまして、よろしくお願いします。
可愛らしい外見ですけど敵である以上情けも容赦も無用ですわ。
ここは新技で木っ端微塵にいたしましょう(使いたいだけ)
飛びかかってくる敵達を巨大ハンマーで纏めて凪ぎ払い吹き飛ばします。
重力増加で動けなくなってるところを叩き潰していきます。
泣こうが喚こうが甘えた声あげようがベチンと潰していきますわね。
目を覚まして欲しい。
イリスフィーナ・シェフィールド(巫女兼スーパーヒロイン・f39772)はグリモアベースでグリモア猟兵の言葉にそう思った。
ガチャ。
それは射幸心を煽る魅惑の言葉。
たくさんガチャしたい。いっぱい回したい。イメージしろ、常に最強の自分を。10連全て星5という最強のおのれを。
いや、それは言い過ぎである。
そんな都合の良いことなど起こるはずがないのである。だが、確率として存在するのならば、その幻想の如き理想を引き当てることだってできるはずなのである!
「目を覚ましてくださいませっ、ガチャは悪い文明ですわっ」
イリスフィーナはもう手遅れかもしんないけど、と思いつつグリモア猟兵の肩を揺さぶる。それで目が覚めるならすでに覚めているとも思った。
自分だって、人形になって景品にされて財産つきるまで回されて救出された経験がある。だからこそ、ガチャというものは時として人を破滅に導くほどの悪意さえ持っているのだ。たぶん。
そんなわけだからこそ、イリスフィーナは彼女をどうにか現実に引き戻してあげたい点ったのだろう。残念ながら彼女を現実に引き戻せるのは、来月の引き落とし金額を見た時である。
「……まぁ悪い文明の話はおいておきまして」
「はい、どうぞよろしくお願いします」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』が一礼する。彼女はギルド組合員としてこの場にいる。特別なクエスト、そう、猟兵にしかできないバグプロトコルの排除を願ったNPCだった。
「よろしくお願いしますわっ。すでに敵は?」
「この元『学園街』の廃墟のあちこちに隠れ潜んでいます。アンブッシュにはお気をつけて」
「わかりましたわ。確かエネミーネームは『とおせんぼのアオクマくん』でしたわね」
そう言ってイリスフィーナは廃墟へと足を踏み入れる。
ここがゲームの世界とはわかっているが、イリスフィーナは猟兵である。
アバターではなく生身でゲームの世界に存在している。頬を撫でる風も、廃墟特有のカビっぽさも感じ取れる。
究極のオンラインゲームと銘打つだけはあると彼女は思っただろう。
「くまっー」
「くまくまっ!」
そうこうしていると廃墟の影からひょっこり数体の『とおせんぼのアオクマくん』たちが現れる。
小さなテディベアめいた姿。
可愛らしい。
ただのぬいぐるみにしか見えない。けれど、バグプロトコルなのである。本来得ていない攻撃能力のステータスさえ底上げされている。
「くっまー!」
「可愛らしい外見ですけど、敵である以上情けも容赦も無用ですわっ」
ユーベルコードに輝くイリスフィーナの瞳。
なんだかんだ言いながら新しいユーベルコードを使いたいだけであることは此処だけの話である。
「グラヴィトン・ハンマー!」
己の全オーラを凝縮した金色の巨大ハンマーをイリスフィーナは掲げる。煌めくユーベルコードの輝き。
それは迫りくる無数の『とおせんぼのアオクマ』たちを一撃のもとに振り抜き、薙ぎ払う。
「くっまー!?」
「どれだけ足止めのために耐久値が高かろうが! このグラヴィトン・ハンマーは!」
耐久値と言う名の装甲を破り、さらに『とおせんぼのアオクマくん』たちの体に重力をもって押しつぶすのだ。
さらに大地に押し付けられた彼らにイリスフィーナは追撃の一撃を叩き込む。
「芥子粒におなりなさぁぁぁいっ!!」
打ち込まれた一撃によって『とおせんぼのアオクマくん』たちが光の粒子となってとされていく。
「く、くまー!?」
その様子に彼らは驚き慌てふためく。その様も可愛い。
けれど、イリスフィーナは容赦しなかった。
「泣こうが喚こうが、甘えた声をあげようが」
ぺちん、いや、ベチンと彼女は問答無用の宣言のままにハンマーの一撃で『とおせんぼのアオクマくん』たちをぶっ潰していくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ノーチェ・ハーベスティア
私はどちらかと言うと戦闘職より生産職優先でプレイしてますけど…素材集めも高レベル敵が周りにいたりするところにもいくのである程度戦闘も出来ると自負してます。
「憂国学徒兵」さんを助けることができるなら頑張りますよ。…決して無料ガチャ100連に惹かれたとかではなく。…なく!!
…こほん。
月光弓での援護を中心にUCを使用。
戦闘が始まったら即土に植えて…育った植物にアオクマくんを攻撃してもらいましょう♪
…この植物がなんなのかとかは深く考えない方がいいんだろうなー…。
究極のオンラインゲームと呼ばれるゴッドゲームオンラインは、確かにその謳い文句通りに多くのことが出来うるゲームだった。
俗に言う|生産職《クラフター》もやろうと思えばできる。
素材さえあれば一瞬でアイテム合成が行えるし、建築だってできる。
そういう意味では、ノーチェ・ハーベスティア(ものづくり・f41986)の頭の中に思い描いたものが形になるのはあまりにも簡単なことだった。
彼女が生きるゲームの外の世界……灰色の如き『統制機構』においてはものを作るにしても一つ一つ許可がいる。
ノーチェの遺伝子番号に紐付けられた人生設計図に必要であれば許可が降りるが、もしも必要ではない、停滞ではなく変化をもたらすと判断されたのならば、それを作ることも試みることも禁じられる。
そこに楽しさはない。
だからこそ、彼女はゴッドゲームオンラインにログインする。
ものを作るということ。
些細な願いであったし、望みであったけれど、それでもゴッドゲームオンラインは何も制限することなく叶えてくれた。
いや、自分の望みを自分で作り上げることができたのだ。
これにまさる喜びなんてない。
「廃墟になってしまった元学園街……今回は此処に巣食う敵を排除するクエストですか」
「はい、そのとおりです。物陰から『とおせんぼのアオクマくん』というエネミーが飛び出してきます。本来なら攻撃能力は殆どなく、耐久値ばかりが高い敵ですが」
「今回は違うと。油断できないですね」
クエストの受付を行うギルド組合員のNPC、亜麻色の髪の少女『エイル』の言葉にノーチェは頷く。
この廃墟に巣食うエネミー討伐のために他の猟兵が戦っている音が聞こえる。
自分のあとにもクエスト受付を待っている者たちがいる。
なにせ、今回の報酬はすごい。
無料100連分ガチャチケットがもらえるのだ。いや、違う。ノーチェは自分に言い聞かせる。
別にそれに惹かれたわけじゃないのだ。
クラン『憂国学徒兵』たちも助けることができることにつながるのならば、頑張ると思ってきたのだ。本当にそうなのだ。
「こほん」
誰にとも無く、ノーチェは咳払いをして見せ、廃墟に足を踏み出す。
こういうクエストには慣れている。
確かにノーチェは戦闘職とは言いづらい。現に生産を優先したプレイに勤しんでいるゲームプレイヤーだ。
だが、クラフトするために素材が必要だ。
必然、高いレアリティの、性能の高いアイテムを作ろうと思えば素材もそれなりに強い敵のレベルが要求されるのだ。
「ともあれ、私だってしっかりやれますよ」
「くっまー!」
そんな彼女に物陰から飛び出す無数の『とおせんぼのアオクマくん』たち。
見た目はテディベアのように可愛らしいが、ステータスが凶悪になっている。
本来のベアハッグ地味た拘束攻撃は確かにやっかいだが、攻撃能力がないために受けても拘束されるだけで済む。けれど、バグプロトコルとなっているため、そのベアハッグは容易くノーチェをサバ折りにしてしまうだろう。
「厄介ですね。でも、クラフターとしての意地、見せてあげますよ」
ノーチェは即座に土にスーパーライフベリーを植える。
希少植物であるスーパーライフベリーは一瞬で攻性植物へと変異し、迫る『とおせんぼのアオクマくん』を阻み、組み付く。
それだけではない。
月光弓の矢が援護のように飛び交う。ノーチェの放った矢だ。そう、スーパーライフベリーによって生み出された希少植物、攻性植物へと姿を変えた蔦がうねるように壁となって敵の攻撃を阻んでいるのだ。
「うーん、万能ですね」
いやでもまあ、この植物がなんであるのか、なんなのかを詳しくノーチェは知らない。
なんかアイテムスロットにあるし、消費されないので便利だなって思ってはいる。
これがユーベルコードに依存するものであるとノーチェは何れ知るだろうが、まあ、今は深く考えなくてもいいかと思いながら、月光弓でもって『とおせんぼのアオクマくん』を打ち抜き、クエストクリアへと貢献するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
マリナ・フォーリーブズ
※アドリブ歓迎
SPD判定
・作戦
UCを発動
「移動制限されても戦える様に射程のある遠距離攻撃で敵を撃破する」
という予測で敵UCの効果を回避し、それを共有できる味方に伝えて闘う
・戦闘
自身は『グラファイトカタナ』からの「斬撃波」で敵を攻撃
敵のエリア回復が追いつかないように、一体づつ集中して攻撃を叩き込んで
無慈悲にとどめを刺していく
(技能「見切り、斬撃波、アクセルコンボ、高性能を駆使する」)
・セリフ
欲望を開放する……、そう、それはガチャ!
無料100連分ガチャチケットにはすべての希望が詰まっているのよぉ。
待っていなさい、まだ見ぬ最高レア!
それが必要かどうかなんて、手に入れてから考えればいいのよぉっ!
購買意欲というのは厄介なものだ。
膨らませる意欲が少なければすぐにしぼんでしまう。けれど、入れすぎると破裂してしまう。高嶺の花すぎても、安易に手に入り過ぎてもだめだ。
何の話かと言うのならば、ガチャの話である。
希少であれば希少であるほど良いというものでもない。
希少であり、なおかつ高性能。
人権アイテムと呼ばれるほどの必須ではないが、しかしあれば他者を一段高い位置から見下ろすことができるもの。
それが高レアアイテムというものである。
そして、それを手に入れることのできるガチャは得てして誰もが射幸心を煽られるものである。
「無料100連分ガチャチケット! わかるわぁ! その魅力! その魔力! ええ、とってもねぇ!」
マリナ・フォーリーブズ(ブラッディ・マリー・f41783)は他者の注目をあびることに最上の喜びを覚えるゲームプレイヤーである。
褐色の肌を包むのは、高Tier評価を受けている真紅の軽鎧。
無論、言うまでもなく高レアリティの装備の一つである。手にしたグラファイト刀だってそうだ。羽根のように軽い太刀は振るうことでもって斬撃波を打ち出す。
「くっまー!」
「くまくっま!!」
そんな彼女が戦っているのは、元・学園街がバグプロトコルによって滅ぼされ廃墟となった瓦礫の中心であった。
恐らくかつては体育館であった場所だろう。
そこにバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』たちがわらわらと集まってきてはマリナを取り囲んでしまっているのだ。
いつもなら、その包囲網から軽やかに離脱するのだが、今の彼女は『とおせんぼのアオクマくん』のユーベルコードによって移動を制限されてしまっているのだ。
けれど、彼女は動揺しない。
手にした高レアリティ装備『グラファイトカタナ』は近接攻撃だけではなく、遠距離攻撃だってできてしまえるのだ。それこそが高レアリティである所以。
「確かに手強くなってるわね、『とおせんぼのアオクマくん』! 高難易度では厄介な足止めエネミーだけど、こっちでは攻撃能力まで有している上に……あの挙動!」
マリナの攻撃を受けた『とおせんぼのアオクマくん』たちは、傷を癒やすためにくまくまエリアの癒やし空間で回復しているのだ。
彼女の言う通り厄介だった。
けれど、彼女はすでに過去『とおせんぼのアオクマくん』と戦っている。その挙動から今のバグプロトコルの類似する発展したモーションを発見したのだ。
波状攻撃のように『とおせんぼのアオクマくん』は攻撃役と回復に戻る役とに別れている。
なら、と彼女の瞳はユーベルコードに輝く。
そう、これはゲームの世界だ。
なら、プレイヤーズ・タクティクスは、彼女の脳裏に常に幾通りもの必勝パターンを描く。敵が回復エリアに戻るというのならば、己の攻撃を一体ずつに集中させるのだ。
手にした『グラファイトカタナ』の放つ斬撃を広範囲攻撃ではなく、一点突破の単体攻撃モーションに切り替える。
「欲望を開放する……そう、それはガチャ!」
彼女の欲望が開放される。
このクエストの報酬は100連分ガチャチケットである。
100連である!
「無料100連分ガチャチケットにはすべての希望が詰まっているのよぉ。待ってなさい、まだ見ぬ最高レア!」
たとえ、それが己のジョブでは持て余す装備であったとしても、まだ有効なスキルビルドが攻略サイトに乗っていなくっても。
「それが必要かどうかなんて、手に入れてから考えればいいのよぉっ!」
それもまたゲームを楽しむ一つの要素だ
故にマリナは未だ見ぬ高レアリティアイテムゲットのために、どうしても無料100連分ガチャチケットを手に入れなければならないのだ。
そのためならば、己の頭はフル回転する。
もとより優秀な人材であったのだ。
まったくもってこのようなことのために使う頭脳ではなかったけれど!
それでも己の欲望に忠実な彼は己の『グラファイトカタナ』の斬撃波を集約し、その一閃でもって確実なる一撃を単体攻撃に籠めて、着実に己を取り囲んだ『とおせんぼのアオクマくん』を撃破していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
『学園廃墟だってさ!なんだか縁を感じないかい?』
「否定はしませんが今それはどうでも良い事であります!
まずは、バグプロトコルを破壊する!!」
敵への【闘争心】でその愛くるしさと叫びを無視!
人工魔眼の【動体視力】と【瞬間思考力】で敵の機動を【見切り】
騎兵刀の刀身に纏わせたサイキックシールドで【斬撃波】を飛ばし【切断】
プラズマシューズで駆けずり回って敵集団を【おびき寄せ】
「クレイドル!!」
『ふむ…こういう音楽も、気分が上がって良いものさぁ!!』
クレイドル・ララバイがドロモス・コロスの楽団を【遠隔操縦】
【楽器演奏】〈ヒステリック・パレード〉発音
とおせんぼのアオクマくん共を狂乱させ、仲間割れを起こさせる!
ゴッドゲームオンラインのとあるエリア。
その一つが『バグシティ』へと変わっている。バグプロトコルによる破壊の痕を目の当たりにして、一つの印象を受ける。
似ている。
そう、似ていると朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は思った。
何に、と問われたのならば、一つしかない。
『学園廃墟だってさ! なだか縁を感じないかい? ちなみに私はとっても既視感を覚えているよ! パーセンテージで表そうか! いや、違うな! 此処は私らしく音楽で表現するのが正しいよねぇ!!』
「否定しませんし、やかましいです。今はそれはどうでも良いことであります!」
『どうでもいいとは酷くはないかい!?』
小枝子は言葉をかわしているのは彼女をサポートするAI『クレイドル・ララバイ』であった。
陽気な言葉は小枝子が持つ魔楽機から聞こえてきている。
確かに似ている。
自分の故国。己のキャバリアなどを格納していたスペースなどは、あの廃墟の体育館のような場所に似ているとも思えた。
どうしてそんなことに、と思ったがすでに小枝子は亜麻色の髪の少女NPCからクエストを受注している。
『おっと、そうこうしている内に敵のお出ましだ。此処ではバグプロトコルと言うんだったね! 随分と可愛らしいね!』
「それこそどうでもいいことであります! まずは、バグプロトコルを破壊する!!」
小枝子は廃墟の影から飛び出してきたバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』の姿を捉えて、一息に飛び込む。
あのバグプロトコルの長所はこちらの行動を足止めする力と耐久力だ。
バグプロトコルになったことで本来は持ち得ない攻撃能力を得ている。油断はできない。
人工魔眼が飛び出す『とおせんぼのアオクマくん』たちを捉える。
「数は!」
『ざっと数えて8つかな!』
「雑に数えるな、正確に!」
『じゃあ、9だね! 追加でさらに同じ数だけ来ているよ! あと叫ばれては困る能力があるようだよ』
「ならば!」
小枝子は一瞬で思考する。
敵は一気にこちらを押しつぶすつもりなのだ。ならばこそ、四方八方から攻撃を加えてくる。
「がおー!」
愛くるしささえ感じさせる咆哮。
それを小枝子は踏み込んだプラズマシューズの推力で持って反転し、飛ぶ。
敵から逃げるのではない。
おびき寄せるのだ。
だが、それだけでは如何ともし難い。『とおせんぼのアオクマくん』たちは、その名に似合わない機敏さでもって小枝子に迫りくる。
「クレイドル!」
『ふむ……ならば、こうだろうね!!』
『クレイドル・ララバイ』の形が変わる。
ロックギターへと変貌した形を小枝子の指先がかき鳴らす。大音量が一気に『とおせんぼのアオクマくん』たちに直撃し、彼らのモーションが乱れに乱れる。
狂乱とも言って良いほどの状態に陥る。
ヒステリックパレードの如き彼らの動きを認めた瞬間、『クレイドル・ララバイ』が操る小人型ビットが一斉に飛び出し、その内蔵されたスピーカーから音を膨れ上がらせ、迫る後続の『とおせんぼのアオクマくん』たちへと解き放つ。
狂乱状態となった彼らは小枝子たちではなく互いに同士討ちを引き起こしていくのだ。
『こういう演奏も、気分が上がって良いものさぁ!!』
「ただ、がなり立てているだけに思えるであります……」
『シャウトっていおうねぇ――!!』
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
なにかに呼ばれた気がするわ
それは蝶の羽ばたき程の微かな予感だったかもしれないけれど
破壊された学園都市……元はどんな場所だったのか、つい考えてしまうわね
案内ありがとう『エイル』、油断をせずに行ってくるわ
周囲を警戒し、光と水の蝶を召喚するわ
影に潜む敵を探し出し、【脆くて小さいけれど】蝶の群れで攻撃
私が足止めされても、攻撃技であるこの蝶を止めることはできない筈よ
ぬいぐるみのようで可愛いけれど
此処を訪れる人達が安全に過ごせるように浄化させてもらうわ
風が教えたのか。
それとも誰かの祈りが耳に届いたのか。
いずれにしたって理由はわからない。理由足り得るものは、己の中にはいくつかあれど、しかし確信に変わるものはない。
きっとそれは蝶の羽撃きにも似たものであったことだろう。
少なくとも薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)にはそう感じることができた。
僅かな予感めいたもの。
けれど、その予感を見て見ぬふりなど彼女には出来なかっただろう。
「なにかに呼ばれた気がするわ」
呟く。
その何かを知りたいと思ったかも知れない。いや、知らなくても己が為すべきことを彼女は知っていたのかも知れない。
眼の前に広がるのはゲームの世界。
究極のオンラインゲーム、ゴッドゲームオンライン。その世界はゲームの世界とは思えないほどに現実そのもの……いや、現実以上の彩りが広がっている。
緑に侵食されようとしている廃墟。
元は学園めいた街であったという『バグシティ』。すでにバグプロトコルによって破壊され、人の寄り付かぬ場所となってしまっている。
その入口に亜麻色の髪が揺れている。
風に。
かすかな予感と共に静漓は、その亜麻色の髪の少女NPC『エイル』へと近づく。
「案内ありがとう『エイル』」
「いえ、これもお仕事ですから。廃墟の中にはエネミー『とおせんぼのアオクマくん』がいます。普段の足止め用のエネミーですが、攻撃能力が追加されています。普段と挙動も違いますので気をつけてくださいね」
彼女の言葉に静漓は頷く。
『エイル』――その名前を静漓は知っている。
彼女の知っている『エイル』は『無敵雷人』とも呼ばれる別世界の金髪褐色の女性だった。背丈は似ているが髪色や肌の色が違う。
どちらかというと、静漓は別の者との既視感を覚えたが、しかし今は為すべきことがある。
「油断せずに行ってくるわ」
この学園の廃墟というエリアも気になる。つい考えてしまうのだ。
ここがどういう場所だったのかを。
「お気をつけて。報酬の無料100連分ガチャチケットもお楽しみに!」
「ええ」
静漓は廃墟の中に踏み入れる。
ユーベルコードに輝く瞳。
「どこまでも飛んでいけるのよ」
脆くて小さいけれど(ココロノママニ)宙を飛ぶ水の蝶と光の蝶が召喚され、廃墟の中へと飛ぶ。
すでに多くの猟兵たちが『とおせんぼのアオクマくん』との戦闘を開始している。
その余波だろうか。
廃墟の奥から転がるようにしてテディベアみたいな『とおせんぼのアオクマくん』が飛び出してくる。
ちょっと心臓に悪かった。
己の召喚した蝶たちは確かに偵察も行うことができるが、それにしたって唐突なエンカウントに静漓は表情を変えずとも肩を震わせる。
「くっまー!」
「くま!」
敵だー! と言わんばかりに転がり出てきた『とおせんぼのアオクマくん』たちがぽこぽこ音を立てながら静漓に襲いかかってくる。
戦略もあったものではないエネミーモーション。
「確かにぬいぐるみのようで可愛いけれど。此処を訪れる人達が安全に過ごせるように浄化させてもらうわ」
その言葉と共に静漓のはなった蝶たちが『とおせんぼのアオクマくん』たちを取り囲む。
浄化の力によって彼らは次々と力を失ったぬいぐるみのように地面に倒れ伏して動かなくなる。
「何を守ってとおせんぼしていたのかしらね、あなたたちは」
霧散していくエネミーの姿をみやりながら静漓は頬を撫でる風誘われるようにして、そらに浮かぶ日暈を見上げるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドラ・バジル
ガチャかあ。何が当たるのかな?
アイテムだよね??
流石にキャラじゃないよねえ。人身売買になっちゃうし。
と言うのも私は|ゲーム世界《GGO》の武器っていうか刀に興味がある!
エイルにガチャから刀が出ることがあるのか聞いてみよう。
いやトリリオン貯めて買っても良いけどこーいうゲームってガチャ産の高レアリティの方が強いの出そうじゃない?
という事でアオクマくん達、100連ガチャの為に倒させて貰うよ。
(ちなみガチャで刀が出ない場合は急速にやる気をなくしつつまあ来たからねって感じで)
抱き着きは華麗に回避(功夫×第六感×見切り)してカウンターで斬り捨てていくよ。
ある程度の集団は【光断】で纏めて葬ってあげよう。
「ガチャかあ」
何が当たるんだろう、とアレクサンドラ・バジル(バジル神陰流・f36886)は究極のオンラインゲーム、ゴッドゲームオンラインの世界に生身でログインした猟兵の一人であるが、なんとなしに呟く。
ガチャ。
なんとも射幸心を煽る言葉の響きである。
ガチャから得られるのはアイテムだ。まあ、ゲームの形態によってキャラクターも排出される。しかし、ここゴッドゲームオンラインでは、多分、アイテムである。
キャラだと人身売買になってしまう。
多分、そういう心配はしなくてもいいだろうが、もしかしたらそういうこともあるのかもしれないのが、このゴッドゲームオンラインの性質であった。
ファンタジー世界を基調としながらも、SFやオカルトがプレイヤーたちの創意工夫によって追加されて行っているのだ。
眼の前に広がる廃墟だって、本来は学園の施設のようなものだったのだ。
となれば、アレクサンドラの危惧するような人身売買まがいのキャラクターが排出されるガチャだってあるかもしれない。たぶん。
「ピックアップって何がやっているのかしら?」
その言葉に亜麻色の髪の少女NPC『エイル』がウィンドウをポップアップする。
「無料100連分ガチャチケットはピックアップをしていないのですが……」
「えー、そうなの? 私、刀に興味があるんだけど!」
「刀の形状をしたアイテムも排出されますよ。その場合の排出確率は……」
「へーなるほどね! いろんな武器もあるのねえ」
はー、とアレクサンドラは感心する。
いやまあ、トリリオンを貯めて購入するのもいいが、こういうゲームにありがちなのはガチャから排出されるアイテムのほうが性能が高かったりするものである。あるあるである。だってガチャあもの。
人の射幸心を煽ってなんぼなのである。
「ま、というわけでがんばりますかあ」
アレクサンドラはのびをして準備運動をするよう体を動かし、廃墟のなかに無造作に足を踏み込む。
それは警戒行動のない動きであった。
エネミーであるバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』たちは廃墟の影から飛び出してくる。
本来ならばあり得ない不意打ち能力まで獲得しているのだろう。「
「来たね、アオクマくんたち。無料100連分ガチャの為に倒させてもらうよ」
アレクサンドラの瞳がユーベルコードに輝く。
彼女のユーベルコードは敵の攻撃モーションの発動を見てからでも間に合う。
そう、彼女の手にした無銘の刀の斬撃は光の速度に到達する。
神陰流真伝・光断(ヒカリダチ)。
そう呼ばれる彼女のユーベルコードに到達した技量の一閃は、『とおせんぼのアオクマくん』たちの体を一刀のもとに両断する。
「くっまー!?」
驚愕に吠える『とおせんぼのアオクマくん』たち。
それもそのはずだ。
彼らのステータスは耐久値に振り切っている。高難易度クエストにも採用されるほどに卓越した耐久値を誇っているのだ。
なのに、アレクサンドラの一撃はそれを凌駕し、さらには放ったユーベルコードの斬撃は『とおせんぼのアオクマくん』たちどころか、廃墟さえも切り裂きながら物陰に隠れていたエネミーごと切り裂いたのだ。
「隠れても無駄だよ。光断っていうんだからね」
それに、とアレクサンドラはガチャから排出される刀のアイテムに思いを馳せる。
どんなのなんだろう。
すこぶるやる気になった彼女の斬撃は、廃墟のバグプロトコルたちを震撼させるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
テッカ・ロールナイト
無料100連分チケットが手に入るクエストがあるって聞いたから来てみたぜ。あの『エイル』ってNPCに受付してクエスト開始って訳だな。
バグプロトコルはバッチリ倒してやるから大船に乗った気でいな。
あれが『とおせんぼのアオクマくん』か。
さっそく抱き付き攻撃して来やがったな。だが近付いてくるなら好都合だぜ。
抱き付き攻撃してくるタイミングを見計らって…【捕食者の魔喰】ッ!
奪ったぜ、ユーベルコード【がおー!!】ッ!
…………これ、使わないと駄目なのか?マジかよ。
ええい、ままよ。がおー!!
(叫びながら『エンジンブレイド』で襲いかかり行動阻害攻撃を行う)
【アドリブ歓迎】
無料100連分ガチャチケット。
それは魅惑の言葉である。誰だって欲しい。くれるんならもっと欲しいと思うだろう。
テッカ・ロールナイト(神ゲー駆けるは、魔喰者の騎士・f41816)もまた、その言葉に惹かれてやってきたゲームプレイヤーの一人だった。
「本当に無料100連分ガチャチケットが報酬なのか?」
「はい、クエスト達成後に付与されます」
クエストのエリアとなっている『バグシティ』、その廃墟となった学園めいた場所に立っている亜麻色の髪の少女NPC『エイル』の言葉にテッカは深く頷く。
確かに魅力的である。
しかし、この廃墟に潜むエネミーがバグプロトコルである、というところが厄介なのである。
「エネミーのデータももらえるのか」
「今回の『とおせんぼのアオクマくん』はステータス異常が検知されています。本来持ち得ない不意打ち能力、攻撃能力を持っているため、高難易度と遜色ないものとなっております」
その言葉にテッカは頷く。
確かに高難易度クエストに現れる『とおせんぼのアオクマくん』は足止め専用のエネミーだった。
攻撃能力こそないものの、拘束能力は厄介であったし、何より見た目可愛いのでなんともやりづらいのだ。
だがまあ、バグプロトコルであるというのならば話は別である。
「ま、なんとかなるだろ! バグプロトコルはバッチリ倒してやるから大船に乗った気でいな」
そういってテッカは廃墟のなかにズンズン入っていく。
確かに己は産廃職の魔喰者である。当初はめちゃくちゃ強い! と噂されていたのあが、まあ、その、噂が先行しすぎてしまったためになんともピーキーな……それこそ理論上最強という机上の空論じみた性能でしかなかったのだ。
だが、テッカはめげなかった。
「おっと、さっそくかよ」
テッカが廃墟に足を踏み入れた瞬間、物陰から飛び出してきた『とおせんぼのアオクマくん』たちが彼の体に組み付こうとしているのだ。
「くっまー!」
「はっ、好都合! 近づいてくるんならよ!」
瞬間、テッカの腕が大腕へと変化する。
そう、それこそが捕食形態である。
モンスターを食らって強くなる『魔喰者』。その真骨頂は、敵の肉片を捕食することによって、己の身体部位を変異させ、『とおせんぼのアオクマくん』のユーベルコードを使用することができるのだ。
ゲームがゲームならチートってやつである。
これがゲームを始める前に噂になって、やばいやばいと言われていた所以である。
テッカの捕食した大腕が青いテディベアの腕じみた姿に変わる。
なんとも形容しがたい体になってしまったが、これでテッカも『とおせんぼのアオクマくん』のユーベルコードが使えるのだ。
「奪ったぜ、ユーベルコード! がおー!!」
……。
ちょっと思った。本当にこれ使わないとだめなのだろうか。だめなのである。
テッカの咆哮は……咆哮っていうか、その、なんとも愛くるしさを纏っていた。多感な青少年にはちょっとつらい。
絵面がちょっと、とテッカは思ったが背に腹は代えられないのである。
その咆哮は『とおせんぼのアオクマくん』たちの行動を阻害するのだ。
「ええい、ままよ!」
おらぁ! とエンジンブレイドを振り回し、動けなくなった『とおせんぼのアオクマくん』たちを切り裂く。
無料100連分ガチャチケットのためとは言え、なんとも損な役回りである。
どうか知り合いが見ていませんようにと願いながらテッカは次々と動きを止めたバグプロトコルをぶっ飛ばすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【サージェさんと】
ナイアルテさんが沼に……。
いや、たとえ沼に堕ちようとも推しきるのがファンクラブ!
ならば!元引きこもりのハッカーあーんどゲーマーとしては、
推しがガチャ沼にハマるなら、しっかり沈めるのが務めというもの!
しかも『後方維持面』とか、レアな表情されちゃったら、
それはもう連写速写激写接写!!
……アッ、ハイ。お仕事先にします。
って、え?クマ?釣ればいいの?
そういうクマじゃない?
そっかー。
なんにしてもガチャのためには排除しないとだね。
サージェさんのたわわな果実もクマのエサにはならないしねー。
ここはサージェさんの忍法『|忍べないクノイチ《通常運行》と連携して、
ガチャの邪魔者を排除だね!
サージェ・ライト
【理緒さんと】
お呼びとあらば参じましょう
私はクノイチ、新たなナイアルテさんの可能性を信じる者!!
いえ、忍べてないとかより
ナイアルテさんの『後方転移維持面』について朝まで討論会が必須では!?
理緒さん……ってもう覚悟が決まってらっしゃる……
さすがファンクラブのNo2!
推しきりま……沈めるのナンデ?!平和はないのですか
その写真全部言い値で買います
おっと、|そんな餌《100連無料ガチャ》でクノイチが釣られクマー
え?!私、クマさんの餌になるような果実なんて持ってませんけど!?
理緒さん幻覚みえてます??
ともあれ、ここは数でいくべきなのは賛同です
【かげぶんしんの術】でしゅばばばっと増えて一気にごーごーです!
グリモア猟兵がガチャ沼に堕ちた。
彼女の目は爛々と輝くのではなく、どろどろとしたぐるんぐるんな目になっていた。あれは大爆死を経験した者の瞳である。
お小遣いを溶かした。
溶かしたけど、まだ回したい。次の10連できっと来る。
事象は収束しており、今までの爆死は身に溜まった業を浄化しているだけに過ぎないのだ。
理合合一して心を研ぎ澄ませば、見えてくるだろう。
あのレア確定演出が。
虹色の輝きが。
「いや、それはないでしょ」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)は冷静だった。とっても冷静だった。
自分の推しが今まさにガチャ沼にどっぷりになっている現状を見ても、それでもなお推しきるのがファンクラブというものであったからだ。
そこまでいくともう別の感情になっているんじゃあないかと思ったが、それは言わぬが花である。
「でもまあ、ガチャ沼に頭までどっぷりでも! 元引きこもりのハッカーあーんどゲーマーとしては、しっかり沈めるのが作法というもの!」
何その、こちらも抜かねば無作法というもの、みたいな理論。
やめろ! もう口座は0よ!
「お呼びとあらば参じましょう! 私はクノイチ、新たな可能性を信じる者!」
忍べてないが大丈夫か、サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)が来てくれたぞ! もういっかい言うけど忍べてないのは大丈夫か。
「忍べてないとかそんなことより、『後方転移維持面』について朝まで討論会が必須では!?」
「朝までやって委員会! だよね!」
だよね、じゃないが。
少なくとも亜麻色の髪の少女NPC『エイル』は、早いところクエスト受注してくんないかなぁって思った。
「わかるよ、『後方転移維持面』とかレアな表情されちゃったら、それはもう連写速写激写接写!!」
「ふっ、理緒さんの覚悟が迸っておりますね。覚悟決まってる……さすファンクラ2!」
さすがファンクラブNo.2! の略である。
略すな。
「このままガチャ沼に頭までつけ込んで、FXで全財産溶かしちゃった人の顔になるまえ推し切ろうね!」
「沈めるのナンデ?! 平和はないのですか。あ、その写真は全部言い値で買います」
「あの」
後が使えてるので、クエスト受注してください、という『エイル』のNPCらしからぬ促しで二人は振り返って頷く。
「お仕事先にします」
理緒とサージェはバタバタとクエスト受注して廃墟に飛び込んでいく。
敵は『とおせんぼのアオクマくん』である。
ささーっと受注ボタンを押して特に説明を呼んでいなかったが、まあ、なんとかなるだろうという寸法である。
説明書やトピックスはわからなくなったら読めば良いのである。
「ふんふん、クマ? 釣ればいいの?」
「理緒さん、無料100連分ガチャチケットという餌で釣られるのは廃人プレイヤーと新規層ですよ。エンジョイ勢はまあ、やるカーくらいの感じなのです。即ち、クノイチである私はつられクマー」
つられてるじゃん。
「そういうクマじゃないみたいだけど」
その理緒の言葉と共に廃墟から顔を出すテディベアみたいな可愛いエネミー、バグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』。
たしかに可愛い。
「サージェさんのたわわな果実もクマの餌にならないけど、しっかりでてくるんだねー」
「え!? 私、クマさんの餌になるような果実なんて持ってませんけど!?}
たゆって揺れる二つの果実。
何がとは申しませんが。もってるやろがい。
じとっとした理緒の視線が胸に突き刺さってる。もう言ってるようなもんである。
「サージェさんの忍法よろしくね。『忍べないクノイチ』と連携してガチャの邪魔者を排除するから」
E.C.O.M.S(イーシーオーエムエス)によって小型ガジェットたちが一斉に『とおせんぼのアオクマくん』たちへと殺到する。
くまくまガチャガチャとなんかこう、昭和の喧嘩表現みたいなアレな戦闘が繰り広げられているが、サージェはそれよりも糾弾しないといけないことがあった。
「理緒さん幻覚見えてます?」
「現実たゆたゆしか見えてないよ」
「わ、わからないんですけど、まあ、ここは一気に数で圧倒しましょう! しゃどーふぉーむっ!」
かげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)!
もう説明不要である。
ユーベルコードの名前で全部説明してる。いっぱい増えるわかめみたいに増えたサージェが大波のような果実の激震と共に『とおせんぼのアオクマくん』たちを圧倒する。
其のさまを見て理緒は思った。
やっぱりもってるじゃん。凶悪なのを、と。
本当にね――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、「今なら100連ガチャ無料!」って、最近のオンゲの広告によくあるんですよね。
でも私の場合、課金要素といえば、主に「プレミアムパス開放」ですけどね(ぇ)。
それはさておき、まずはあの熊を駆除すればいいのですね。
とりあえず近づかれる前に倒すべしということで、FPSの兵士を召喚しておきましょう(【召喚術】)。で、「デバッグ」属性を付与して攻撃していきましょう(【属性攻撃・2回攻撃・一斉発射・乱れ撃ち・制圧射撃】)。
…でも思うんですよね、ガチャってのは信用できないシステムなんだな、って(ぇ)。
※アドリブ・連携歓迎
シャルロッテ・ヴェイロン(お嬢様ゲーマーAliceCV・f22917)はバトルゲーマーである。
ゲームというものについては一家言あるし、詳しい。
|AliceCV《アリス・セ・ヴィ》というゲームネームは界隈においては有名な名前である。凄腕で知られている。
けれど、このゴッドゲームオンラインにおいては未だ無名であろう。だが、それは特に問題にはならない。
名前が知られていないということは、今から知られるということなのである。
彼女は凄腕なのだ。
冷静沈着かつ無慈悲なプレイスタイルは、すぐさまゴッドゲームオンライン内においても注目を浴びることになるだろう。
「まあね、『今なら100連ガチャ無料!』って、最近のオンゲの広告によくあるんですよね」
わかる、とシャルロッテは深く頷いた。
100連っていう表記が良いよね。
10連では少ないなって思うし、かと言って30連とか50連とかは中途半端だ。やっぱり三桁。
これがないとなって思うのがゲーマーの常である。
とは言え、シャルロッテは無料なんてケチくせーことは言わんのである。
「どうせなら、『プレミアムパス開放』しましょ」
とりあえず、ゲームを作ってくれてありがとう課金である。
シャルロットは無料でゲームをしようなんて思う腹積もりはないのである。誰が作ったのかわからんが、このゴッドゲームオンラインは良いゲームである。
グラフィックも素晴らしい。
クラフトやアイテム合成などのシステムだって面白い。
なら、名も知らぬ開発者に敬意と感謝を示す課金は必須なのである。
「まあ、それはさておき、まずはバグプロトコルの排除、駆除すればいいのね」
シャルロッテは猟兵である。
ゲームの世界に生身でログインすることになっても、やるべきことは変わらない。
「言ってしまえばFPSと同じってことよね。さあ、強くてニューゲームと行きましょうか!」
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。
迫る『とおせんぼのアオクマくん』たちの前に立ち並ぶは、バトルキャラクターズ2.0(バトルキャラクターズ・ツーポイントゼロ)たち。
それは彼女と同レベルのゲームキャラクターであり、FPSの兵士じみたルックスをしていた。いやに渋い顔立ちが多い気がする。
「バグプロトコルだっていうのなら、デバックは効くでしょ! さあ、乱れ撃って殲滅してしまいましょう!」
その言葉と共にFPS兵士のゲームキャラクターたちが銃の引き金を引く。
それはもうFPSっていうか、STGみたいな有様だった。
廃墟の影から飛び出す『とおせんぼのアオクマくん』たちは飛び出した瞬間にデバック属性を持った銃弾の前に霧散していくのだ。
「くまー!?」
ええー!? と『とおせんぼのアオクマくん』たちが叫んでいる気がする。
現れた端からシャルロッテの召喚したFPS兵士たちによって倒されていくのだ。本当にSTGであった。
「こんなものでしょうか……でも、思うんですよね」
何を?
そう、ガチャっていうシステムについてである。
ガチャは射幸心を煽る。
それはもうガンガンに煽る。ゲーマーとしてのスキルとか関係ない所をくすぐってくるのである。
確かにゲームはプレイヤーのスキルに重きをおくものである。
プレイヤー間にどうしようもないほどの実力差をもたらすものである。けれど、それを埋める手立てがお金で解決できるのならば?
そう、そこでこのガチャですよ、となるのだ。
そういう意味ではシャルロッテはガチャというシステム事態がどうにも信用できないんですよねぇって思うのだ。
だって、あのグリモア猟兵だって、ぐるってる目をしていたのだ。
「流石にあれはないです」
うん、見習ってはならない大人だとシャルロッテは断じ、迫りくるバグプロトコルの群れを正しく殲滅するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
後方維持……面!?
ナイアルテさんにステラさんの奇病が移っちゃいました!?
これはもうステラさんにツッコんでる場合じゃないです!
いまのうちになんとかしないと、そのうちナイアルテさんまで、
やべー雄叫びとかあげちゃうかもしれません。
これはグリモアベース最大のぴんちかもですよ!
って、今聞き逃せない言葉が聞こえましたよ!(きゅぴーん
(やべー音波使いはするーして)
歌を歌うんですね! ということは伴奏必須ですね!
被害なんてあるわけないです!
むしろわたしの演奏で歌の力が倍々ゲームですよ!
失神しちゃったらごめんネ☆ くらいな勢いです!
ということで!
さ、『エイル』さん、わたしの曲で歌いましょうー♪
ステラ・タタリクス
【ステルク】
|エイル様《主人様》の! 香りがしまぁぁぁぁぁぁぁぁっす!!!!
ええ、今日もメイドは絶好調
エイル様ごきげんうるわしゅう
メイドのご入用はありませんか?
何故かドン引きしているようにお見受けしますが襲ったりしませんよ??
誰がやべーメイドですか
ルクス様だってやべー音波使いじゃないですか
ともあれ
|熾火《希望》を作るには|プロメテウス《火》も必要ですか
ええ、|曉の歌を謳う《はじまり》は此処からということですね
というわけでルクス様、音の被害は最小限でお願いします
えっ?いや、失神させるとか本気でやめてくださいませ?
私は【押しかけメイドの本気】お見せしましょう
ええ、具体的にはもう一回叫びます
『後方転移維持』――それはグリモア猟兵の務めである。
予知した事件を解決するためにグリモア猟兵は多世界への転移を可能とするグリモアの力でもって、多くの猟兵たちを送り出す。
その転移を維持するためには安全な後方で集中しなければならないため、戦いに赴くことはできない。だからこそ、グリモア猟兵は共に戦いに往く猟兵たちの勝利を信じて真剣な顔をしているべきなのだろう。
だが、無料100連分ガチャチケットという餌につられたグリモア猟兵の顔は、ちょっと、その、なんていうか、だめな感じであった。
少なくともルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)にはそう思えたし、なんならステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の奇病が感染ってしまったのではないかとさえ危惧したのである。
「|『エイル』様《主人様》の! 香りがしまぁぁぁぁぁぁぁっす!!!!」
ほら、こういう病気。
ルクスはいつものステラの叫びをするっとスルーした。これに突っ込んでいる場合じゃあないと彼女は思ったのだ。
それほどまでにグリモア猟兵のガチャ沼に浸かっている具合は危惧すべきものであった。
もしかしたら、そのうちグリモアベースに奇声が迸るかもしれない。
いやまあ、これまでもなんかこう様子のおかしい時はあったのだが、ガチャ沼に浸かってしまったのならば、それの比にならぬほどの様子のおかしさが加速度的に増していくように思えてならなかったのだ。
「これはグリモアベース最大のぴんちかもですよ!」
大丈夫ですよ。
他のグリモア猟兵の皆さんがいるでしょ。一人くらいガチャ沼ってお小遣い全部溶かしてもへいきへーき。
焦燥するルクスを他所にステラは亜麻色の髪の少女NPC『エイル』へと詰め寄る。
今日もメイドは絶好調である。
「『エイル』様、ごきげんうるわしゅう」
「え、あ、はい」
NPCの顔忘れるくらいステラのぐいぐい動きに『エイル』は戸惑っていた。
「メイドのご入用はありませんか?」
「あ、あの、私、ギルド組合員なので……」
私の薄給ではちょっと、という顔をしている。だが、ステラはぐいぐいくる。
「薄給であろうとお給金がなかろうと、私はメイド。主人に仕えることそこ喜び。ええ、わかっておりますとも。全て万事私にお任せください。全部まるっと解決しみせましょう。大丈夫です襲ったりしませんよ?」
それは襲うやつのフリじゃん。
「ステラさん、そのやべーメイドムーヴしている暇ないんですよ」
「誰がやべーメイドですか。ルクス様だってやべー音波使いじゃないですか」
二人の言い合いに『エイル』は困ったなぁって顔をした。
口を挟まないのは、この二人に挟まれたら絶対ろくなことにならないって本能的に理解しているからである。
「そんなこと言って良いんですか! 歌を歌いますよ!」
「それはだめです。ともあれ、|熾火《希望》を作るには|プロメテウス《火》が必要ですか。ええ、|曉の歌を歌う《はじまり》は此処からということですね」
「今歌うっていいました!?」
「言ってますけど、言ってません」
「どういうことですか!? 歌なら伴奏必須ですよね! 演奏しなきゃ! ですよね!」
「ルクス様、どうせ何言っても音楽の可能性・そのに(オンガクノカノウセイソノニ)とか言って演奏するおつもりなのでしょう。止めても無駄だってことだけはよくわかります」
が、とステラはルクスを廃墟にひっぱりこむ。
どうせ被害がでるなら、壊れている廃墟で。
あと、できるだけ人的被害の出ない場所で、ということである。
「被害なんてあるわけないのです! むしろわたしの演奏で歌の力が倍々ゲームですよ! 失神しちゃったらごめんネ☆ くらいな勢いです!」
ネ☆ じゃないが。
ステラもそう思うであろう。
いや、失神させるほどの音ってなんなの。怖い。
「ならば、私は押しかけメイドの本気(マワリトノニンシキノチガイ)をお見せしましょう」
「あ、それはもう十分見てるのでいいです」
「何故ですか!」
「そういうところですよ! さ、『エイル』さん、わたしの曲で歌いましょうー♪」
「えっ」
巻き込まれまいとしていた『エイル』が目を見開く。
「いけません、『エイル』様、ここは私に任せて逃げてください!」
なんだこの寸劇、と『エイル』は思った。
何か壮大な事態に巻き込まれているのではないか。嫌な予感がするなぁと思った次の瞬間、バグプロトコルを巻き込むほどの大音量と壊滅的な音波でもって、『エイル』の耳無くなくなったと思わせるほどの一撃が『とおせんぼのアオクマくん』たちをぶっ飛ばし、『エイル』は耳キーン、となるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
ガチャ大好きです!無料100連ガチャ!最強の響きですね!
まだみぬSSRアクセやSSRケモノスキンを目指して張り切ります!
う、可愛い。髪の毛が生えてたら可愛いすぎて攻撃できなくなるところでした危ないです。
でもガチャのために犠牲になって頂きます!双剣乱舞でグルングルン移動してなぎ倒していきます!
移動制限されてもこれは攻撃です!攻撃の動作で動いてるのでセーフです!
クマちゃん集団をぎゅるぎゅる切り裂いて回りまくります!HPが0になるまで!
無料ガチャ嫌いなやつなんているぅ!? いねぇよなぁ!? というあれである。
何がって言われたのならば、今回のクエストの報酬である。
なんと無料100連分ガチャチケットがクエストの報酬でもらえるのである。アニバーサリーか、もしくはウン万ダウンロード達成とか、そういうお祝いごとがなければ到底あり得ない報酬である。
それが高難易度クエストに匹敵する『バグシティ』の復興という内容であったとしても、破格の報酬であることは言うまでもない。
高レア武装に身を包んだ黒兎めいた獣人のアバター持つルナ・キャロット(†月光の聖剣士†・f41791)だって、その報酬は見過ごすことのできないものであった。
「ガチャ大好きです!」
ぴょんこと跳ねる。
彼女の武装はどれもがSSRのレアリティに分類されるものであった。
一目見ればわかる。
彼女がどれだけぶっ込んでいるのかなど。そして、さらにガチャで高レアリティアイテムをゲットしたいという欲望に爛々と瞳が輝いていることも。
「無料100連ガチャ! 最強の響きですね!」
「クエスト登録はこちらです」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』の言葉にルナは深く、深く頷いてクエスト受注する。
まだ見ぬSSRアクセ、SSRケモノスキン。
それらを得るためには、100連だろうが1000連だろうが、あればあっただけいいのである。ガチャは最高である。
そんなわけでルナは学園廃墟じみた『バグシティ』へと足を踏み出す。
エネミーであるバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』は確かに何度か高難易度クエストで遭遇したことがある。
と言っても、足止め専用のエネミーのため、大した攻撃能力はない。
油断していたって大丈夫。
けれど、バグプロトコルになっているため、不意打ち能力や攻撃能力を得ているのだ。これによってバグプロトコルはゲームプレイヤーたちのHPゲージを削り切って遺伝子番号を焼却しようとしているのだろう。
「でも、その程度でこの私のSSR装備を……」
ひょっこり現れる『とおせんぼのアオクマくん』。
テディベアみたいなふわふわな姿。
くま? と小首をかしげた仕草。
何度見ても可愛い。
「う」
ルナは呻く。
可愛い。これでもし、もっと獣人ライクなデザインであったのならば、きっとルナは攻撃できなかっただろう。危ない。
だが、ルナは心を鬼にする。
「でも、ガチャのために犠牲になっていただきます!」
「くっまー!」
ぬかせー! くらいのテンションで物陰から一斉に『とおせんぼのアオクマくん』たちがルナへと殺到する。
その数は膨大であり、炸裂する移動不可のバッドステータスがルナに付与されてしまう。
けれど、ルナの動きは止まらない。
何故、など言うまでもない。
「これは移動行動ではなく、攻撃行動! 故に!」
回転乱舞・月兎(カイテンランブ・ツキウサギ)。振り回す双剣と共に移動しながら行う攻撃モーション。
故に移動行動ではないので、『とおせんぼのアオクマくん』のバッドステータスは反映されないのである。
ずるい!
「確かに可愛いですが! でも私には待っているのです! ケモノアクセが! SSR装備が! だから!」
止まらない! というようにルナは双剣をぶん回しながら次々と容赦なく『とおせんぼのアオクマくん』たちを粉微塵になるまで切り裂きまくって廃墟を暴風みたいに席巻するのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
黒沼・藍亜
……ガチャ回すこと自体が目的化してそうっすけど、大丈夫っすかねアレ……
ボク?んー、絶対欲しいものがある訳でも、コツコツ溜めたポイントでパーッと!って訳でもないから微妙なところっすね
まあそれは後で。……この手のゲームで外見は判断基準にならないっす。10年前ボスだった大悪魔より数倍強い最近の辺境生息の小動物モブとか居たりするっすからね。戦闘力インフレって怖いっすね
なので速攻UC、領域ごと塗り替えて範囲制圧するっす
ボク自身が移動できなかろうがこの世界そのものがアンタらの敵、一匹残らず足元から触腕で捕まえ生命力吸収してから奈落の底にボッシュートっすよ
……ところで、これ本当にクマ?どことなく猫感ない?
ガチャ廃人というのは、手段が目的となっているものである。
ガチャでレアアイテムを得たいのではない。
ガチャを回すこと事態が目的となっている。結果はどうであれ構わないのだ。ガチャを回し、高レアアイテムが出る演出を見るためだけに少ない貯金を切り崩し、残高が0になるまで回してしまうのだ。
ちょっとだけなら……と思った最初の気持ちは、多幸感に塗りつぶされてしまう。
もっとガチャしたい!
もっと回したい!
もっともっともっと!!!
「……大丈夫っすかねアレ……」
黒沼・藍亜(に■げ■のUDCエージェント・f26067)は後方転移維持面しているグリモア猟兵がやべーなって思った。
いやまあ、個人のことなので、そこまで言及するのも違うかなって藍亜は思うので、破産しない程度なら自由にしていいんじゃないかなって思うのだ。
逆に自分はそうでもない。
確かにUDCエージェントとして、悪くない金額を口座に振り込まれている身であるが、特別何か欲しいとは思わないのである。
絶対にほしいもの。
コツコツ貯めたポイントを一気に放出すること。
そういうものがないのである。そういう意味では今回の報酬、無料100連分ガチャチケットは、そこまで彼女の食指が動くものではなかった。
とは言え、これは猟兵の事件である。
「……この手のゲームで見た目は判断基準にならないっす」
うん、と藍亜は目の前に現れたバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』の姿を見やる。
青いテディベアめいた姿。
どっからどう見てもマスコットキャラクターにしか見えない愛くるしさである。
「くまー!」
だが、バグプロトコルである。
本来持ち得ない攻撃行動さえも持ち合わせた一撃を前に藍亜は息を吐き出す。
「10年前はボスだった大悪魔より数倍強い最近の辺境生息の小動物モブモンスターとか居たりするっすからね」
戦闘力インフレって怖いっすね、と藍亜は深く頷いて、迫る『とおせんぼのアオクマくん』を迎え撃つ。
こういう耐久力に振り切った集団敵を相手にする時に肝要なのは、たった一つのこと。
即ち、速攻である。
「そう、速攻で領域全部塗り替える範囲攻撃で制圧するっす」
「くまー!?」
「確かにアンタたちの拘束バステは怖いっすけど、ボク自身が移動を必要としないのならば意味のないことっす。そして、塗り替えた世界は、そのものがアンタらの敵っす」
漆黒の粘液の海が広がる。
空は青から白へ。
すでに藍亜のいるフィールドは異界へと変貌しているのだ。
此処にゲームの法則はなく。
あるのは無数の触腕が走る光景のみ。迸る黒い粘液が『とおせんぼのアオクマくん』たちを掴み、粘液の海へと沈めるのだ。
「一匹残らず奈落の底へボッシューットっすよ」
藍亜の言葉と共に『とおせんぼのアオクマくん』たちは残らず粘液の黒い海へと沈んでいく。
その姿をみやり藍亜は思う。
なんていうか。
「……これ本当にクマっす? どことなく猫感ないっすか?」
まあ、デザインに感じる所は人ぞれぞれなので。
愛嬌あるところとかは実物のクマらしからぬものであったかもしれながい、テディベアだと思えば寧ろ愛嬌あって然るべきなのかもしれない。
けれど、その全てを奈落の底へとボッシュートした藍亜は、まあいいか、と頷いて、廃墟に残るバグプロトコル掃討のためにゆっくりと足を踏み出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・ノルマレイス
うーん、ヒトのいなくなった元都市なら、きっとモンスターがいっぱいいるですー
相変わらず|冒険者《プレイヤー》さんからは見向きされずお仕事にならないので自分のご飯は自分で用意しなきゃですー。働かざるもの食うべからずですー
クマさんですー…ってわー!足止め効果の咆哮で動けないですー!
しかも囲まれてるですー!大ピンチですー!
このまま晩御飯にされるのはごめんだから……手段は選んでられないですー
……『白の聖衣』の下で両腕を変異させ『欠落』化、そのままUC【牙剥く空虚】ですー
確かにかわいくて愛らしいですー、嫌いじゃないですー
だから
残さず全部丸呑みにしちゃうですー
……ところで、どことなく猫っぽくもないですー?
アイ・ノルマレイス(知らない記憶、胸に空いた奈落・f41788)はNPCである。
自称『美少女NPC』と彼女は名乗っているが、しかし支援効果も戦闘要員としても微妙な性能故に利用者は殆ど存在しない。
所謂暇を持て余していると言ってもいい。
そんな折、NPC回覧板的な情報が回ってきたのである。
NPCとは言え、アイは猟兵。
つまるところ、それは同じNPCである亜麻色の髪の少女NPC『エイル』からの救援信号みたいなものだったのだ。
『バグシティ』。
バグプロトコルによって破壊されたかつての拠点。その拠点に巣食う『とおせんぼのアオクマくん』を打倒すれば、無料100連分ガチャチケットがもらえるというクエスト通知。
でも、NPCであるアイにとってはあまり旨味のないものである。
彼女が求めるのはモンスターエネミーである。
「でも、ヒトのいなくなった元学園街なら、きっとモンスターがいっぱいいるですー」
どうせ支援NPCとしての仕事は閑古鳥が鳴いているので、暇を持て余している。
なら、自分の食い扶持は自分で稼がなければならない。
「働かざる者食うべからずですー」
「来てくれてありがとう、アイ。クエスト受注のポップアップを押してね」
「はいですー」
アイは『エイル』の言葉に頷いて、クエストエリアへと足を踏み入れる。
廃墟の影からの不意打ち能力をバグプロトコルは有していると言っていた。
それに本来は足止め専用のエネミーでありながら、バグによって攻撃能力を得ているとも。なら、と普通なら考えるところであるが、アイは多くを欠落しているNPCである。
当然、そういったゲームプレイヤーが有している知識もない。
つまり。
「がおおー!」
「わー! 足止め効果の咆哮で動けないですー!」
アイはびっくりしてしまった。
愛くるしい咆哮なのに『とおせんぼのアオクマくん』たちの咆哮はアイの移動行動を封じてくるのだ。
足がびくともしない。
まるで動けない。
しかも、その間に『とおせんぼのアオクマくん』たちは仲間を呼ぶようにしてアイを取り囲んでいるのだ。
有り体に言って『大ピンチ』ってやつであった。
「がーおー!」
「こ、このまま晩ごはんにされちゃうですー!?」
まあ、そのとおりである。
だが、そんなのは御免である。確かに自分のNPCとしての性能はちょっとあれである。だが、だからといって諦めて良い理由なんてない。
自分の無自覚な欠落が叫んでいるような気がした。
それはきっとアイの知らぬ所で起こった多くのことに起因しているのだろう。
生存への道筋を探るようにアイの中でユーベルコードの輝きが満ちる。
彼女の聖職者を思わせる白衣。
その下でアイの両腕が変異する。それは欠落。欠けて落ちたもの。
それは漆黒であり、捕食者めいた顎をもたげ、一気に『とおせんぼのアオクマくん』たちを一息に丸呑みしてしまうのだ。
「……うん、おいしそう、って思っていましたけど、期待通りの味、ですー」
アイの牙剥く空虚(アビム・ヴェール)は、『とおせんぼのアオクマくん』を飲み込み、彼女の欠落の中で耐久値を無視した即死攻撃で持って打倒する。
「く、くまー!?」
「確かにかわいくて愛らしいですー、嫌いじゃないですー」
味も。見た目も。
だから、と彼女は交差させた腕から伸びるワームの如き捕食部位の顎をもたげる。
「残らず全部丸呑みにしちゃうですー」
その言葉と共に『とおせんぼのアオクマくん』たちは残らず丸呑みにされてしまう。
げふん、とワームの形へと変貌した腕が息を吐き出すのを見て、アイは思う。
なんか、クマっぽくなかったな、と。
いや、なんていうか猫っぽかったな、と。
でも、まあ、いいのだ。お腹は膨れた。今はそれで十分――。
大成功
🔵🔵🔵
澄清・あくあ
(アドリブ歓迎)
「こういうのって…」
『お金稼ぎです?ガチャアイテムを売るので』
|主人《ますたー》の入れ知恵のせいで考え方が違うふたり
当然がら|仕事《タスク》を受注して、町に向かうのです。
入場と同時に波紋を発振、反射してきた波紋から位置を割り出して
小さな物音と波紋で割り出した位置に
決め撃ちしてで行動を封じるように進みます
バルーンは全部撃ち落として、
咆哮は出力を抑えた【解放識・海緑色の臨界疾走】で相殺するのです。
「先客のくまさんには悪いですが、」
『奪う様な奴らだからこそ、奪い返してもらうよ。ぜんぶ』
|主人《ますたー》仕込みの|軍用護身武術《CQC》に
射撃/打撃を織り交ぜた、その様子は演舞の如く。
ガチャを回すこと。
それによって得られるのは多くのアイテムである。
当然、その用途は様々だ。高レアアイテムであれば装備して自身の性能を底上げするだろうし、不要な高レアアイテムはトレードに出しても良い。
低レアリティであっても合成素材にすればいいし、はたまた換金してしまっても良い。
そう、換金できるのである。
ならば、と澄清・あくあ(ふたりぼっちの【原初の一】・f40747)の二人は思ったのだ。
「こういうのって……」
『お金稼ぎです? ガチャアイテムを売るので』
それは入れ知恵と呼ばれるものであったかもしれないが、考え方はプレイヤーが百人いれば百通りなのだ。
別に咎める者なんていやしない。
廃墟となった『バグシティ』の入り口に立つ亜麻色の髪の少女NPC『エイル』に話しかけ、クエストを受注する。
「エネミーは通常モーションと異なります。予期せぬ不意打ち能力も保有されていることが確認されていますので、どうかお気をつけて」
「ふむ……」
『普通のモンスターじゃない、ということですね?』
確かに不意打ち能力は厄介であったが、あくあたちにとってはあまり意味のないことだった。
己の体から波紋を発振し、廃墟のあちこちから反響する波紋でもってバグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』の位置を割り出す。
不意打ち能力ということは隠れていなければならないということ。
ならば、己たちの能力で位置を割り出した場所に……。
「決め打ちすれば……」
『簡単にやっつけられるのです』
打ち込まれる、暗状鋼青の射紋疾爪(カデットブルー・シュータードライブ)。
波紋を籠めた爪の射撃。
それによって位置を割り出した『とおせんぼのアオクマくん』を撃ち貫く。
「くまー!?」
「ほら、やっぱりいたの……」
『簡単なのです』
あくあたちは廃墟の中を進む。
すでにバグプロトコルの位置は全て把握済みだ。決め撃ちできるのならば楽な相手だ。
不意打ち能力を封じたのならば、攻撃されるまえに攻撃してしまう。
「先客のくまさんには悪いですが」
『奪う様な奴らだからこそ、奪い返してもらうよ。ぜんぶ』
彼女たちは二人で一つであることを示すように次々と『とおせんぼのアオクマくん』たちが飛び出す前に打ち貫いていく。
だが、耐久値を誇る彼らとてやられっぱなしではない。
「くっまー!」
「くまくま!」
無事だった『とおせんぼのクマさん』たちが一気に躍り出て、あくあたちに迫る。
振り抜くもふもふな腕。
それをあくあたちは|主人《ますたー》事故味の軍用護身武術めいた波紋を籠めた爪の一撃と射撃でもって打倒していく。
それはまるで演舞のようであり、流麗な水の流れのようでもあった。
煌めくユーベルコードは胸に明滅する。
「はいだらー!」
気合一閃。
あくあたちの一撃は見事に『とおせんぼのアオクマくん』たちを打倒し、このバグシティをプレイヤーの手に取り戻すために舞い踊るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
…まあ、100連チケットはこの際置いとくとしても。あたしたちに友好的な拠点が増えるって時点でやる価値は十二分よねぇ。
足止め役に凶悪な攻撃性能が付いたらそれはもうただの中ボスなのよねぇ…
ま、ここは逆転の発想でいきましょ。移動制限を食らうんなら、「動かなければいい」のよねぇ。
全身にMG・GG・GL積めるだけガン積みしたスノーフレークに○機乗、●鏖殺・滅謡を起動してベタ足|全力全開全門開放《フルファイア》。大規模火力投射で端から〇なぎ払うわよぉ。
回復されるなら、回復速度以上の火力を叩きつければいい。脳筋戦術の極みではあるけれど、こういうのも意外と馬鹿にできないのよねぇ。
無料100連分ガチャチケットですよ、Tだったり、Pだったり、Mだったり、Sだったりするプレイヤーの皆さん! とコマーシャルされそうな程に無料100連分ガチャチケットというのは宣伝文句に鳴るものであった。
ゴッドゲームオンラインをプレイしているプレイヤーたちにとって、これほど喉から手が出るほどに欲しいアイテムもなかったであろう。
とは言え、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は猟兵である。
このゲーム世界の外、もっと言えば『統制機構』が支配する世界の外からやってきた者たちである。
ティオレンシアは生身でゲーム世界にログインしている。
だから、というわけではないが、無料100連分ガチャチケットのことは、この際おいておく。なら、彼女がこのクエストに参加する意義というものが見えてこない。
いいや、違う。
彼女の考えはやはり、このゴッドゲームオンラインをプレイしているプレイヤーたちとは異なるものだった。
「『バグシティ』はバグプロトコルの巣窟。なら、此処を潰してあたしたちに有効な拠点を増やすって時点でやる価値は十二分よねぇ」
新たなる世界ゴッドゲームオンライン。
確かに『統制機構』が支配する現実世界には未だ猟兵たちは転移できていない。
だが、ゲーム内から現実に干渉することができたのならば、このゲーム内での拠点が猟兵に好意的である、というのは十分に意味あることのように思えたのだ。
「でもまあ、そうねぇ。足止め役のモンスターが攻撃能力までもったら、それはもう雑魚モンスターというより、中ボスなのよねぇ……」
お、もしかして結構ゲームやってる感じ? とティオレンシアの感想に、もしもゲームプレイヤーが居たのならば反応したかもしれないが、今のティオレンシアはソロプレイ中である。
「くっまー!」
バグプロトコル『とおせんぼのアオクマくん』たちが物陰から一斉にティオレンシアに襲い掛かる。
彼らのユーベルコードは、こちらの移動行動を制限してくる。
移動できない、ということは位置取りが取れないということだ。とならば、相手は数の有利を活かして囲んでボコしに来るだろう。
たしかに有効な手段だ。
だが、ティオレンシアはいつものように笑む。
「ま、ここは逆転の発想よねぇ……移動制限を食らうんなら、『動かなければいい』のよねぇ」
どういうことだってばよ。
ティオレンシアは手にしたペンが描く軌跡にふれる。
瞬間、彼女の体を包み込むようにして出現した鋼鉄の巨人……『スノーフレーク』と呼ばれたキャバリアの姿に『とおせんぼのアオクマくん』たちは見上げることしかできなかった。
「くまー……?」
なんか世界観違うくない? と小首をかしげているが、此処ゴッドゲームオンラインはプレイヤーの創意工夫によってSFもオカルトもファンタジー鍋でごった煮になっているのだ。
今更、体高5m級の戦術兵器が飛び出したところで今更なのである。
足裏に備わったアンカーが大地を穿ち、機体を固定する。
「カンバンなしの大盤振る舞い、心逝くまで堪能してちょうだいな?」
鏖殺・滅謡(アサルト・パソドブレ)。
それは『スノーフレーク』から放出される無限供給されたグレネードと銃弾の制圧射撃。いや、大規模火力投射とでも言うべきか。
廃墟となっていた元学園街の一角が炎に包おk魔れるほどの圧倒的な火力。
敵が耐久値を誇り、また回復するというのならば、回復速度を上回る速度で火力を叩きつければ良い。
「脳筋戦術の極みであるけれど、案外バカに出来たものではないのよねぇ」
その通りである。
火力を用意すること、そして増強すること。
絶え間ない弾丸供給。
途絶えたのならば、そこからひっくり返されるがゆえに隙を埋めること。多くのことが脳筋戦術には必要なのだ。
ただボタン連打してればいいってものではないのだ。
それを示すようにティオレンシアの『スノーフレーク』は、その名に似つかわしいほどの大火力で持って『とおせんぼのアオクマくん』たちを消し炭にしてみせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
明和・那樹
●POW
ガチャは…そうだね
射幸心を煽られて夢中になるからこそ、どこまでやるか前もって決めておかないと(ハロウィンイベントで散財した経験談
けど…そっか
エイルはNPCだったんだ
今まで同じPLかと思ってたけど…僕も猟兵だった事を隠してたし、おあいこか
だけど、NPCであっても…今まで通り『困った時はお互い様』
友達が困ってるのなら|救援《助けないと》だしね?
相手は可愛い外見だけど、獲物を見つけると仲間をどんどん呼び寄せるタイプか
なら、その習性を利用して物陰から残らず出てきて貰う
一見すると多勢に無勢だけど、不動陽皇丸と夢想霜月の焼却と凍結攻撃
それに双剣使いの俺だからこその【天地無双剣】でスコア更新するよ
心に手痛い失敗を刻むのならば、きっとあの日の出来事も無駄ではなかったのだろう。
今ならそう思える。
どこか遠い過去を見つめるように明和・那樹(閃光のシデン・f41777)こと『閃光のシデン』はアンニュイな吐息と共に『バグシティ』へとやってきていた。
そう、ガチャ。
射幸心を煽られて夢中になるからこそ、どこまでやるか、撤退ラインはどこなのか。そういうものを前もって決めておかねばならない。
人生、あれもこれもそれもどれも全部! とは行かないのである。
十代にもみたぬ年頃で、那樹はそれを悟ったのである。
何がったのだろうか。すっとぼけるな、と言われそうであるが、まあ、ハロウィンガチャっていうのがあってですね。
というのはまた別の話なので割愛する。
そう、問題はそこではない。
那樹にとって本題はそこではなかったのだ。
「『エイル』……」
彼が見つめる先にあったのは『バグシティ』のクエスト受付にたつギルド組合員の姿をした『エイル』の姿だった。
亜麻色の髪の少女NPC。
今ならそれがわかる。
彼女はこれまで同じクエストを受け、一緒に遊んだ仲である。
友達だと思っていた。
隠し事など無いと思っていたのだ。ともすれば、これは裏切りにも思えただろう。
「シデン……その」
だが、那樹は彼女を責め立てるつもりはなかった。
自分だって隠し事をしていたのだ。
猟兵であることを隠していた。仮に彼女が同じプレイヤーだと思っていたのだとして、それが偽りだったのだとしても。
友達が隠し事一つしない仲であるというのならば、自分だって最初から偽っていたのだ。
でも、それでも互いに友達だとおもっているのならば、何故、とは問わない。
「『困った時はお互い様』、だろ」
「……そうだね。そう言ってくれるって思っていたよ」
「そんな顔するなよ。こっちだって困っちゃうだろ。それに、友達が困ってるのなら|救援《助けないと》だしね?」
単純なことなのだと那樹は笑う。
そこにあったのは『閃光のシデン』でもなんでもない、一人の人間としてのことばだった。
「ありがと、シデン」
「『閃光のシデン』、な」
そう言っていつものやり取りをして笑う。それだけで十分だったのだ。
クエストエリアに入れば切り替える。
確かに『とおせんぼのアオクマくん』は可愛らしい見た目だ。
けれど、こっちを認識した瞬間に仲間をどんどん呼び込むモーションが確認されている。
「厄介だけど、今回は掃討戦だろ。なら、その習性を利用してやるくらいはしないとな!」
那樹は己の姿をあえてさらけ出し、『とおせんぼのアオクマくん』たちを呼び寄せる。
「くまくま!」
「くっまー!」
「くまー!!」
「いや、本当に多すぎるな、これ!?」
那樹は思わずびっくりしてしまう。無料100連分ガチャチケットのにつられて多くの猟兵たちが集まってきてはいるから、てっきり大半が片付いていると思ったのだが、まだまだ数がいるようであった。
「でも……『不動陽皇丸』と『無双霜月』があるのなら!」
二刀に灯るは焼却属性と凍結属性。
そのひらめく双刃より放たれる瞬足の懺悔が、無数の斬撃で持って『とおせんぼのアオクマくん』たちを切り裂く。
「多勢に無勢だろうと残らず叩き切ってみせるさ!」
そう、彼のジョブは聖剣士。
ゲーム内の覇権ジョブにして、最高DPSを弾き出すステータスを持っているのだ。
圧倒的過ぎる斬撃の波を解き放つは。
「名付けて天地無双剣(テンチムソウケン)! 一気に畳み掛けてやる!」
その言葉と共に那樹は迫りくる『とおせんぼのアオクマくん』という大群を殲滅する勢いで持って圧倒するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『生産系クエスト』
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POW : 狩りや採集で素材を集める。
SPD : 生産施設の警備。
WIZ : 新たなアイテムのレシピを開発する。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
欲望の勝利とも言うべきか。
『バグシティ』に集まった猟兵たちの活躍によって、あれだけ屯していた無数のバグプロトコルたちは一掃されていた。
それはもう綺麗サッパリである。
残されたのは元街である学園都市の残骸ばかりであった。
とは言え今回のクエストはこれで終わりではない。
「次は、『建築』で街を復興していただきたいのです」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』の言葉に猟兵たちは振り返る。
そう、このゴッドゲームオンラインは『建築』、『アイテム合成』のシステムを有している。
これによって一瞬で建造物やアイテムを作り出すことができるのだ。
だがこれを行うには素材がなければならない。
つまり。
「はい、この廃墟の中から素材をかき集めて『アイテム合成』し、『建築』すれば、街は復興します」
報酬の無料100連分ガチャチケットはまだお預けというわけだ。
ならば、と猟兵たちは腕まくりするだろう。
まずは素材をフィールドからかき集め、必要なアイテムを合成する。
そして、合成されたいアテムでもってクラフトするだけだ。
目指す報酬まで後わずか。
高レアアイテムが出るかも知れないという射幸心は、猟兵たちの中で最高潮に達しようとしていた――。
アレクサンドラ・バジル
よーし、今度は素材集めか。
……私、ゲームの周回とか素材集めって何が楽しいか分からないんだよね。
時間の無駄じゃん。
素材集めは現実ならアリだけど……あれ、GGOはある意味現実かな?
まあいいや。
「来い」と【サモン・ガーゴイル】でガーゴイル118体を召喚。
素材集めは人海戦術が効率的だよね。
それじゃ、いってらっしゃーい。
ガーゴイルたちが集めた素材でドンドン復興させていこう!
ガーゴイルたちが素材集めしている間はエイルとお茶しながらGGOの話をきいておこうかな。
彼女は私達を猟兵と自分をNPCと認識してる口のNPCだったよね。
『バグシティ』からのバグプロトコルの排除は多くの猟兵たちが集ったことで相成った。
後は、この廃墟とかした元街を復元していくだけだ。
だが、そのためには素材が足りていない。
「そうなのです。破壊された街を再生するには多くの素材が必要となります。でも……」
「なるほどね。素材はそこら辺に転がっているから『アイテム合成』で素材アイテム化してから『建築』しろってことね、つまりは」
アレクサンドラ・バジル(バジル神陰流・f36886)は得心がいった顔をする。
そう、つまりは素材集めまでが今回のクエストなのだ。
だが、一つだけ問題があった。
「……私、ゲームの周回とか素材集めって何が楽しいかわからないんだよね」
所謂厳選ってやつである。
アイテム単体では意味がない。その性能差にこそ意味があるのだ。
まあ、俗に言うお守りだったり、聖遺物だったり、とか。
あとは再臨素材とか。
おっと、これ以上は止めておこう。アレクサンドラは単調な同じ作業を繰り返すという点に面白さを見いだせていなかった。
多くのものが面倒だと思っているだろうが、目指す成果物という餌が眼の前にぶら下げられているからがんばれるのである。
だが、アレクサンドラは時間の無駄じゃんって思ってしまっていた。
まあ、現実なら手元に残るからいいんだけど、と彼女は思う。
「ですが、この街を復元するためにはたくさんの素材アイテムが必要なんです」
「だろうねぇ、まあいいや。こういう単純作業っていうのは人海戦術が基本で効率的だよ」
その言葉にアレクサンドラは頷くとユーベルコードを発動する。
サモン・ガーゴイル。
彼女に従順で忠実な動く石像の怪物が百を超えて居並ぶ。
「じゃ、いってらっしゃーい」
そう、アレクサンドラは彼らに素材集めを行わせ、自分がアイテム合成をしようという腹なのだ。
「ま、暫くしたら素材持ってくるでしょ。それまでお茶でもしときましょうよ。そういえば、貴方は自分をNPCと認識しているのよね?」
「はい。今回は猟兵の皆さんのお力添えが必要でしたので」
ゲームプレイヤーをバグプロトコルの危険に晒すわけにはいかなかったのだろう。
分からないでもないことだ。
「ふーん、それにしたってこんな場所よく見つけたわね?」
「かつて『学園』と呼ばれる施設が在った場所、ということはわかっていましたから。此処がバグプロトコルによって占拠されていたのは、ゴッドゲームオンラインとしてもよろしくはないので……」
「それもそっか。でもまあ、太っ腹ね。無料100連分ガチャチケットって」
「私のアイテムポケットのなかにたくさんあったので。それをお渡ししようと思ったのです」
思った以上に猟兵たちが駆けつけてくれてよかった、と亜麻色の髪を揺らして彼女は微笑む。
「おっと、もう戻ってきたわね。さ、アイテム合成するからどんどん復興させていこう!」
早ければ速いほどい。
またバグプロトコルが湧き出すかもしれない。
その芽を摘むためにも、この廃墟を元の街に戻そさねばならない。
アレクサンドラは忙しくなるぞ、と腕まくりし、彼女が楽しさを見いだせないアイテム合成という単純作業をこなさねばならないのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
明和・那樹
●POW
今まで特に気にしなかったけど、他の世界に行ってから皆の本当の姿が気になっていたと思う
僕が|現実《ここ》に居るように、憂国学徒兵の皆、エイルはどんな生活をしているのか、とかね
けど、NPCと分かって逆に安心したかも
|GGO《ここ》は統治機構の支配から逃げたいと願う人達が集う楽園
僕もそうだったし、エイルもそうだと思ってたしね
…感傷に浸るのはここまでにしておこう
エイルにはエイルの役目、僕には僕の役目を果たさなきゃね
こうも荒れ果てては探索が面倒だし、行動を制限する瓦礫も多いから…空から行くよ
おいで、ラドラン
竜使いの笛で呼んだ俺のペットモンスターの背に乗ってショートカット、着陸したら素材を回収だ
猟兵に覚醒するまで世界は一つではないと知ることはなかった。
考えることもなかった。
いや、世界は一つではないということは知っていたのかも知れない。
このゲームの世界ゴッドゲームオンラインを知っていたからだ。あの灰色の停滞した世界、『統制機構』に支配された世界は那樹にとって世界の一つであったけれど、どこかゴッドゲームオンラインの方が居心地の良い場所であるとも思えたのだ。
「今まで特に気にしなかったけど、他の世界に言ってからみんなの本当の姿が気になっていたんだ」
自分が|現実《此処》にいるように、クラン『憂国学徒兵』の皆や、『エイル』はどんな生活を送っているのかと。
それは他者への興味であり、またコミュニケーションの最端であったことだろう。
このゴッドゲームオンラインの向こう側の彼らはどんな人達なのか。
知りたいという思いは、誰かのことを思うことでもある。
「私がNPCだって知って怒った?」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』に言葉に那樹は頭を振る。
「逆に安心した」
「なんで?」
「|GGO《此処》は『統制機構』の支配から逃げたいと願う人達が集う楽園だ」
そう、灰色の変化のない世界。
現実から逃れるゲームの世界。
自分にとってもそうだったし、『エイル』にとってもそうだと思っていた。
己が抱く思いを皆持っている。
それは悲しいことだと思ったし、つらいことでもあったのだ。だが、『エイル』はNPCだ。だったら、そんな思いは無縁であっただろうから。
「つらい思いをしなくて良いっていうのは、よかったってことだろ」
だから、と那樹は頭を振る。
「……感傷に浸るのはここまでにしておこう。『エイル』には『エイル』の役目、僕には僕の役目を果たさなきゃね」
「『俺』じゃなくって?」
「……っ! 俺の役目だってば! 言い間違えただけだろ!」
「ふふ、シデンはすぐに地が出るね。そういうの悪くないよ」
「『閃光のシデン』、だ!」
まったくもう、と那樹はアイテムである『竜使いの笛』を鳴らしてライドドラゴンの『ラドラン』を呼び寄せる。
「行くよ」
「気をつけてね」
「素材たんまり持ってくるから、アイテム合成は手伝ってもらうからな」
はいはい、と『エイル』は笑って那樹を見送る。
荒れ果てた廃墟は探索が面倒だ。なら、と那樹はライドドラゴンに乗って空からめぼしい素材を見つけ出そうとする。
ショートカットの意味も在ったし、何より『ラドラン』に乗る機会を逃したくない。
此処は自由だ。
どこまでも広がる空もある。
何をしても良い、筋書きもなければ予定調和もない、まだ知らぬ物語が広がっている。
なら、と那樹はこの世界を守るために戦えるだろう。
きっとそれは『エイル』も同じなのだ。
心を同じくするものがいる。
それが嬉しいと思えるから那樹は彼女がどんな存在であれ、構わないと思い、そして素材をたっぷりと回収して徐々に復元され始めている元学園街へと戻るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ノーチェ・ハーベスティア
『建築』で街を修復ですね。お任せください!!
正直先ほどの戦闘よりお役に立てる自信はあります!|生産職《クラフター》の力の見せ所ですよ♪
まずはアイテム合成…ですがとりあえず自分の持ってる使える素材は全部使っちゃいましょう。不純な動機の後ろめたさもあるし…なによりこうやってものづくりをするのは大好きですから。
それでエイルさん達のお役に立てるのなら嬉しいですから。
じゃあ、まずはUCで強力なクラフト台を作りましょう。そのあとはひたすら合成!合成!合成!あーものを作るって楽しい〜。
眼の前には廃墟が広がっている。
荒廃していると言っても良い。それほどまでに『バグシティ』の有様は酷いものだった。どれもがバグプロトコル襲撃に依ってできた破壊の痕だった。
これらを復元していくのは膨大な素材が必要になるだろう。
だが、ノーチェ・ハーベスティア(ものづくり・f41986)は少しも動揺していなかった。
確かに目指すべきはクエスト報酬の無料100連分ガチャチケットである。
けれど、それ以上に彼女はワクワクしていた。
胸が高鳴っている。
そう、『人生設計図』にはないことを今自分はしているのだ。
物を作りたいという原初的な欲求。それは確かに小さなのぞみであったかもしれない。けれど、それでもノーチェは己の高鳴る鼓動に嘘をつけなかった。
「『建築』で街を修復ですよね」
「お願いします。素材を集めるところからやらねばならないのですが……」
「お任せください! それもまたクラフトの楽しいところです! むしろ、先程の戦闘より私、お役に立てると思うんです!」
亜麻色の髪の少女NPCである『エイル』の言葉にノーチェは胸を張る。
このゴッドゲームオンラインにおいてクラフターというのは珍しい部類に入るだろう。
なにせ、覇権ジョブである『聖剣士』のように戦闘で華々しく戦うのが主流だからだ。けれど、ノーチェにはこちらの方が性に合っている。いや、これが自分のやりたいことだったのだ。
「|生産職《クラフター》の力の見せ所ですよ♪」
ノーチェの瞳がユーベルコードに輝く。
まずは街を復元するための素材アイテムをどうにかしなければならない。
「とりあえず、アイテムボックスリストにある、これとそれと……ええっと使えるのは全部使っちゃいましょう」
こういうのは思いっきりが良い方がいい。
確かに無料100連分ガチャチケットという報酬を得たいという動機はノーチェにとっては不純とも言えるものであった。
けれど、それはゲームに参加する以上、正しいことだ。
「そんなにアイテムを使って大丈夫ですか?」
『エイル』の言葉にノーチェはにっこり笑って首を縦に振る。
「いいんです。こうやってものづくりをするのは大好きですから。それで『エイル』さん達のお役に立てるのなら嬉しいですから」
ノーチェは一つも嘘を言っていなかった。
動機が不純だと恥じることはあっても、何かを作ることに対しては真摯であった。
それを伺わせるように彼女はすぐに『アイテム合成』でもって素材をアイテムに変えていく。
「クラフトトレジャーの腕の見せ所ですよ。希少素材を使えば、えいっ!」
マジックアイテムがノーチェの眼の前に現れる。
ふふん、とノーチェはご満悦である。
「まずはクラフト台を創りました! さあ、皆さん、素材を持ってきてください! これで効率よく合成できますから!」
あの素材もこの素材も全部自分が合成する、と言わんばかりの勢いでノーチェは他の猟兵たちが運び込んできた素材を片っ端から合成していくのだ。
合成!
合成! またまた合成!
それは人によっては苦になる作業であったことだろう。
けれど、ノーチェは違う。
たとえ、一瞬で合成が終わるのだとしても、関係ない。
彼女は今現実では叶えられなかった願いを叶えているのだ。それは彼女の心を満たしていくものだった。
「あーものを作るって楽しい~」
ノーチェは笑って、アイテムを『エイル』に手渡す。
「建築コマンドでお願いしますね! さあ、ぼうっとしている暇はありませんよ! バンバン作ってバンバン修復していきましょうね!」
きっと街が再生される頃にはノーチェの心は満たされるだろう。
けれど、終わりを迎えれば更にもっと、と心が燃え上がるはずだ。生産職っていうのは、きっとそういうものだろうから――。
大成功
🔵🔵🔵
イリスフィーナ・シェフィールド
うう、ナイアルテ様の目を覚ませられませんでした、無力ですわ……。
仕方ありませんしお仕事いたしましょう。
素材集めするなら手が多い方が良いですわよねと分身に手伝ってもらいましょう。
そうだ、分身ならナイアルテ様を目覚めさせれる方法を思い付くかもしれません。
『無理ですわね(ばっさり)あの欲にまみれた目を見たでしょう
あそこまでどっぷり浸かっては早々抜け出せませんわ。
貴方が女神様関連でトリップするのと同じようなものです。
大爆死した(決めつけ)後なら慰めてあげながら説得できるかもですが。
……あなたも大爆死してあげれば話を聞いてもらいやすいかもですわね(フラグ)』
なるほど……と思いながら復興作業いたします。
「うぅ……ガチャ中毒者の目を覚ませられませんでした、無力ですわ……」
イリスフィーナ・シェフィールド(巫女兼スーパーヒロイン・f39772)はなんだかしょんもりしていた。
顔がきゅっとしていた。
あまりにもしょんぼりいているものだから亜麻色の髪の少女NPC『エイル』が心配してしまうほどだった。
とは言え、ガチャ中毒というのは恐ろしいものである。
どれだけ言っても聞かないのである。
一回痛い目を見なければ、それがどんなに恐ろしいことなのか、沼に浸かるということがどういうことなのかをわからないものである。
そういう意味では、イリスフィーナは彼女が言う通り無力であった。
とは言え、猟兵として事件に介入したのならば仕事をしなければならないのがつらいところである。
「シンメトリカル・ブランチっ、いわゆる分身の術で労働力二倍ですわっ!」
ちょっと自棄なのかな、と思うほどにイリスフィーナは気合が入っていた。
彼女の隣にはユーベルコードによって呼び出されたもう一人のイリスフィーナがいた。こちらは冷静で冷酷な性格をしているようである。
「さっさとやってしまいましょう。時間が惜しいので」
「それはそうですが、もっと言い方が在るのではないでしょうか、私」
「それで作業効率が上がるのならば、そうしますが。でも、そうじゃないでしょう、私」
さすがイリスフィーナのもう一人の分身である。
言うことが的確である。
「もうっ……あっ、そうですわ。あなたならガチャ中毒者の方を目覚めさせる方法を思いつくかもしれません」
「無駄口をたたかない」
「あう」
もう一人のイリスフィーナは冷静にイリスフィーナの額を弾く。
「正直、無理ですわね」
「えぇ……」
イリスフィーナはあまりにもばっさりと否定されるものだから、慈悲はないのですか、とすがりつく。
まったく素材集めが進まないのでもう一人のイリスフィーナはちょっとイラッとしたが、彼女の言うことも尤もである。
「あの欲にまみれた目を見たでしょう」
うん、ぐるんぐるんしていた。人のしていい目ではなかった。
「あそこまでどっぷり浸かったのならば早々に抜け出せませんわ」
その言葉にイリスフィーナはうぐ、と呻く。
さらに追い打ちをかけるようにもう一人のイリスフィーナが告げる。
「貴方が女神様関連でトリップするのと同じよなものです。ああ、そういう意味でなら、大爆死した後なら慰めてあげながら説得できるかもしれませんね」
「なるほど」
だがしかし、それは大爆死が前提である。
そして、共に爆死したものがいれば、傷の舐め合いもできるだろう。
「あなたも大爆死してあげれば話を聞いてもらいやすいかもですね」
かもですね、ではない。
約束された大爆死なんて洒落にならん。
けれど、イリスフィーナはもうひとりの己の言葉になるほどぉと感心している。それでいいのだろうか。
甚だしく疑問であるが、しかしイリスフィーナ自身が納得しているのならば、まあいいのではないだろうか。
問題は、ともう一人のイリスフィーナは言葉にしなかった。
そう、大前提であるグリモア猟兵も大爆死しない可能性がある、ということである。
けれど、余計なことを言ってまた作業が止まってはたまらないと冷静で冷酷なもう一人のイリスフィーナは黙っておくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
マリナ・フォーリーブズ
※アドリブ歓迎、共闘可
WIZ判定
・作戦
UC【クイック・クリエイト】で素材アイテムの場所がミニマップ上に
表示されるようになる『|強欲の瞳《グリード・アイ》』を作成。
あとはミニマップに表示されている収集ポイントをマウントアイテムの
『ライドキャリアー』に「騎乗」して手早く周り「素材収集」していく。
(技能「錬金、応用力、素材収集」)
・セリフ
素材採取は当たり外れが大きいけど
今回はクエストで報酬が確約されてるから気が楽よねぇ~
必要素材が揃うまで採取マラソンを続けるのは心がすり減るのよねぇ……
(何かを思い出したかのように目の光が消える)
廃墟となった元学園街に巣食うバグプロトコルの排除は終わりを告げた。
後は復元のための素材集めとアイテム合成、そして建築である。
この二つを楽しみにしているゲームプレイヤーもいるが、マリナ・フォーリーブズ(血濡れのマリー・f41783)はどちらかというとこういう採取マラソンめいたクエストは心がすり減るので苦手だった。
「いや本当に」
マリナは思い出す。
彼女がこのゴッドゲームオンラインにログインしたての頃に受けたクエストのことを、である。
あの時は右も左もわからなかった。
そのために初心者用のクエストから始めてみようと採取クエストを請け負ったのだ。
「あれはひどかったわ……」
いくつかの採取を効率よく行おうとして複数受注したのがいけなかった。
薬草採取に卵の運搬を同時に請け負ったものだから、それはもうなんていうかひどい目にあった。
必要素材が揃うまでのエリアマラソンも辛かったが、それ以上に卵運搬を邪魔してくるエネミーには心底ストレスを与えられたものである。
後もうちょっとで納品というタイミングで突進してきて卵が割れて最初からやり直し、など幾度あったことだろうか。
流石にマリナも心がすり減ってハイライトが消えそうになっていた。
ストレス発散のためにゲームをしているのに、何故ストレスを溜め込まねばならないのか。本当にそうである。
「でも、だからこそよねぇ」
そう、その時の経験があったからこそ、彼女はユーベルコード、クイック・クリエイトによって現状の素材を集めるという問題を解決するための願いを叶える使い捨てのアイテムを創造することができるのだ。
そして、そのアイテムをうまく使うこともできるのだ。
「ふふん、名付けて|『強欲の瞳』《グリード・アイ》よぉ!」
テケテケン! なんか聞き覚えのありそうなサウンドエフェクトが鳴り響いたが気のせいである。気の所為だってば!
「それは……?」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』の言葉にマリナは自信たっぷりに見せつける。
「これはね、必要な素材をマップからピックアップして、此処にあるってマーカーしてくれているのよ。不足している素材から集めて回るから」
そう言ってマリナはマウントアイテムの『ライドキャリアー』を呼び出して飛び乗るの。
三輪魔導トライクがうなりを上げるようにして廃墟をものともせずに疾駆する。
マップに示されたアイコンをタップする。
必要な素材の内訳を示している。足りないのはどうやら鋼材の類のようだ。
この広いマップから探すのは骨が折れるが、しかし今マリナの手には『強欲の瞳』がある。これさえあれば、求める素材がどこにあるのか、どれだけの数を手に入れられるかわかるのだ。
所謂攻略サイトのアイテム版とも言えるだろう。
「さ、手早く回って集めましょ」
あの日の心すり減らした経験。
あんな想いはもう二度としたくない。
それが今確実にマリナを助けてくれている。ちょっと目のハイライトが家出してしまっているようであるが、それはそれである。
彼女のお陰で、周囲の猟兵たとも『強欲の瞳』の恩恵に預かることができたのだ。
うん、そうなのだ。
だから、マリナ。泣かないで。
素材集めという苦行から君はきっと開放されたし、他の面々をあんな苦行にさらさなくてよかったのだ。
きっとそれは正しく、かけがえのないことだったのだ。
多分――!
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
この世界の理に則って、街を造るのね
好きな建物を作ってもいいのかしら
まずは『エイル』に相談しましょう
『エイル』、ホビーショップを作ることはできるかしら
アイテムの売買だけじゃなくて
玩具を改造したり、友達と遊ぶためのスペースがあるようなお店よ
モデルは私が知っているお店なのだけれど
イメージ通りにならなくてもいいの
ワクワクして、楽しい、私に想像を育むことを教えてくれた
あんな場所をこの都市にも作れないかやってみたいの
協力してくれるかしら
あなたの力があればきっとできると思うの
【想月符】で『拠点構築』の技能を強化するわ
この既視感は言葉にするのも難しいけれど
夢見たあの場所は確かに在ったのだと私なりに伝えましょう
バグプロトコルの排除を終えた後にすべきことは、廃墟となった『バグシティ』の再生である。
確かにこのゴッドゲームオンライン内部であれば、素材さえあれば『アイテム合成』によって一瞬で素材に加工することができる。
また建造物だって『建築』によって瞬時に作り上げることができる。
猟兵たちは素材集めに各自奔走している。
薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)もまたその一人だった。
「この世界の理に則って、街を造るのね」
彼女は深く頷く。
以前の彼女であったのならば、そのことについて少し覚束ないところもあったかもしれない。けれど、彼女は多くの経験を経て此処にいる。
作るということ。
心のなかにあるものを創るということを知った。造るということは喜びに溢れている。
目的があって造るのだからそうだろう。
けれど、その過程にこそ意味を見出すことを彼女はすでに知っているのだ。
「好きな建物を作ってもいいのかしら」
「流石に元の『学園』から逸脱するものはできませんが……」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』に相談した静漓は一つ頷く。
「逸脱しすぎていなければ良い、ということ?」
「はい、プレイヤーさんたちの創意工夫で多くの要素が追加されるのがゴッドゲームオンラインの良いところです。でも、流石に大きく逸脱するものを建てると……」
「均衡が崩れる」
「そのとおりです。ですから、逸脱していない範囲であれば、可能だと思いますよ」
それで、一体どんな建物を、と彼女は首を傾げる。
「ホビーショップを造りたいの」
「ホビーショップ」
「ええ、アイテムの売買だけじゃなくて、玩具を改造したり、友達と遊ぶスペースがあるようなお店よ」
その言葉に『エイル』は不思議そうな顔をする。
彼女には馴染みがないものであったのかもしれない。元々NPCであるからかもしれないが。
けれど、静漓は難しくても造りたいと思ったのだ。
心から。
「モデルは私の知っているお店なの。イメージ通りじゃなくてもいいの。ただ」
そう、ただ、と彼女は瞳を伏せる。
瞼の裏に浮かぶのは『五月雨模型店』の日々だ。初めて出会ったホビー。作り上げること、そして共に遊ぶこと。
あの日々、あの子らの笑顔を思い出すと、静漓の唇の端が少し動く。
「ワクワクして、楽しい、私の想像を育むことを教えてくれたあんな場所をこの都市にも作れないかやってみたいの」
たとえ難しくっても。それでもやってみたいのだという彼女の静かな熱意に『エイル』は頷く。
もとより彼女は静漓の行動を咎めるつもりはなかった。無理だと断じるつもりもなかった。
「協力してくれるかしら。あなたの力があればきっとできると思うの」
「それは素敵なことだと私は思います。何かを創るということは……」
彼女の表情は知れず笑顔になっていた。
静漓が思う以上に『エイル』というNPCは無自覚に何かを創ることを欲していたのかも知れない。
手にした想月符(ソウゲツフ)が煌めく。
魔力を籠めた静漓お手製の護符。
それが貼り付けられた廃墟の一つに力が込められていく。
「一瞬なのね」
「ええ、創る過程はわからなくっても、それでも形になるのは嬉しいことです」
「そう。そうね、そうかもしれないわ」
静漓は己の中にある既視感を言葉にすることが難しいと思った。けれど、彼女は思うのだ。
あの場所はきっと夢のような場所だった。
しあわせなゆめ。
その場所は、夢なんかじゃないと伝えたい。自分なりに。拙くたって、伝えたいと思う心があるのならば、いつかきっと伝わるはずだ。
創ることは楽しいことだと、嬉しいことだという彼女の心があるのならば、いつかどこかの世界で、創ることに情熱を注ぐ『彼女』が生まれるかもしれない。
もしかしたら。
もう居るのかも知れない。
「なんて」
そんなことを思いながら静漓は己がクラフトしたホビースペースの建物に看板を掲げるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
朱鷺透「バグプロトコルは破壊しましたが…最後までやりきりましょうか」
クレイドル『おや?ガチャ、興味ないのかい?』
「はい。チケットはナイアルテ殿に譲渡しましょう。…どうも様子がおかしかった、これで収まると良いのですが。」
『んんー(もうすっかり|トリガーハッピー《射幸中毒》って感じだったけれどねぇ…とはいえ、私の奏者が沼っても困るし…せめて、手遅れのナイアルテ君へ私から鎮魂歌を送ろう……)』
「……?」
〈灯火の戦塊〉発動。素材収集と建築を命じます。
『あ、そうだ。これだけ似てるならさ、地下もあるんじゃないかい?ほら、地下ダンジョンって定番だろう?確認してみよう!』
「……まぁ、素材回収ついでで良ければ」
「バグプロトコルは破壊しましたが……」
ちょっと自分には苦手な分野だと、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は思わず顔をしかめた。
彼女は破壊の権化。
敵を破壊することをこそ至上命題としてきた猟兵である。
そういう意味では、元学園街である『バグシティ』の復元というのは最も縁遠いものであったことだろう。
これまでの彼女であったのならば苦手だから、できないから、と身を引いていたはずだ。
けれど、今の彼女は少し違うようだった。
「最後までお付き合い致しましょう。無料100連分ガチャチケットというものをてにいれたいのであります」
そんな彼女の言葉に『クレイドル・ララバイ』は意外そうだった。
彼女が破壊活動以外のものに興味を示したことではない。射幸心煽る機構ことガチャをしたいのかという意味で、だ。
『興味あったのかい?』
「いえ、依然興味はありません。ただ、グリモア猟兵の方が執心しておられるご様子でした。手に入れたら譲渡しようと思っております」
どうにも後方転移維持面していた彼女の様子がおかしかったのだ。
あの様子のおかしさを鎮めるためには、あの無料100連分ガチャチケットが必要なのだと小枝子なりに考えていたのだ。
なんていい子なのだろうか。涙が出ちゃう。
『んんー』
だが、『クレイドル・ララバイ』は言葉にしないが少し考える。
確かに様子がおかしいグリモア猟兵であった。
ガチャ! ガチャを一杯回したい! もうすっかり|トリガーハッピー《射幸中毒》って感じだった。
もう手遅れて感じでもあった。
いやぁ、ああいう手合をどうにかしようと考えるのは時間の無駄であった。
そもそも下手に小枝子がガチャに嵌ってしまったのならば、自分が危うい。どうせ中毒になるのならば演奏中毒になってもらわなければ困る。
そういう意味では小枝子の言葉を否定するつもりなんてなかったのである。
「どうかしたでありますか、『クレイドル』」
『いいや、こっちの話さ。鎮魂歌、というのも悪くはないとおもってねぇ!! とは言えだ。君も感じてただろうけれど、とっても此処、にてないかい?』
その言葉に小枝子も頷く。
此処『バグシティ』に訪れてからずっと既視感を覚えていたのだ。
「ええ……灯火の戦塊(ライトネスト)、起動。鋼材素材の収集が多いようです。手伝ってきてください」
小枝子はユーベルコードを発動してから『クレイドル・ララバイ』に向き直る。
「確かに此処は、『学園』に似ていますね」
『だろう? ならさ、地下もきっとあるんじゃないかい? ほら、地下ダンジョンって定番だろう?』
そういうものだろうかと小枝子は思った。
けれど、素材回収のついでならば、と『エイル』に断ってから探索を開始したら、在ったのである。
何がって、地下である。
『ほら、やっぱりあるじゃないか!』
「……ありましたね。ですが、これは……」
小枝子は訝しむ。
確かに似ている。己が拠点としている『学園』に。だが、地下の構造物の奥には『クレイドル・ララバイ』が封ぜられていた場所めいたところに見慣れぬ封緘が施されているのだ。
「それを解錠しようと思わないでくださいね」
振り返る。
そこには『エイル』が居た。
視線の先にあるのは小枝子が見つけた封緘のブロック。
「どうしてでありますか」
「そこは特定の条件をクリアすることで解錠されるクエストの入り口なんです。今は、必要のないものですし……」
『なるほど? 君としてはまだ誰かに立ち入ってほしくない、と。確かに未踏破のダンジョンというのは、ゲームプレイヤーたちの心をガチャ以上にくすぐるだろうからねえ!』
分からないでもない、と小枝子は理解する。
『エイル』はどうかご内密に、と小枝子に頼み込むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
私は戦闘民族兎なのでこういうクエはめんd……あまり得意じゃないですね。でもガチャの為なら頑張ります!
建物ごとに必要な素材はなんとなく覚えてます!(やりこみ兎)
必要なアイテムを指定しながら次元斬すればアイテムが集まってきて楽勝ですね。
……種類も個数もいっぱい必要で結局重労働です。中間素材もいっぱいでうんざりしちゃいますね。ずっとこういう事できる生産職の人は尊敬しちゃいます。
根っこがレアドロを求める戦闘民族なのでちょっと拒否反応が出つつもちゃんと復興はします。
学園みたいな街だしガチャで制服とかもあるのかなとかガチャを楽しみにします!
究極のオンラインゲームと言っても、その全てが楽しいものではない。
いや、違う。
楽しめるものと楽しめないものがある。
そして、それはゴッドゲームオンラインにログインするプレイヤーの数だけ存在しているのだ。
採取系クエストが大好きなプレイヤーもいれば、それを苦手とするものもいる。
また逆に戦闘系クエストが苦手で、採取や生産するクエストが好きだというプレイヤーだっている。そうした千差万別、多種多様なプレイヤーたちの嗜好が組み込まれていくからこそ、ゴッドゲームオンラインは雑多でありながら、究極のオンラインゲームとしての存在感を高めていったのだ。
「うーん、私は戦闘民族兎なので、こういうクエはめん……」
この戦闘民族兎、今面倒くさいって言おうとした?
ルナ・キャロット(†月光の聖剣士†・f41791)はコホンと咳払い一つしてごまかす。
「あんまり得意じゃないですね。でも、ガチャのためなら頑張ります!」
そう、ガチャは目の前にぶら下げられた人参である。
その魅惑のガチャがあるからこそ、面倒に思えるクエストだって頑張れるのだ。人ってそういうものである。
とは言え、面倒である、と思うことと得意不得意とは相関しないものである。
ルナは周囲の様子を見やる。
『バグシティ』はバグプロトコルによって破壊されつくしている。
正しく廃墟と言って良い様相だ。
ここから復元していくとなると膨大な素材が必要となるのは言うまでもない。
「ふんふん、これは学園系のエッセンスが入り込んでいるんですね。なるほど。こっちのは鋼材が多く必要と、逆に木材系はあんまり必要ないんですね」
ルナは手早く周囲の破壊の跡から元あった『学園』の様子を探る。
なら、とルナは己の大剣を軽く振るう。
すると次元断層が生まれる。え、何しているの、このプリティ兎ラビットは。
素振りでもなければ、SSR装備を見せびらかしているわけでもない。
そう、彼女のユーベルコード、 次元斬(ジゲンザン)は次元断層を発生させて敵を引き裂く。けれど、その周囲に存在する任意の対象を全て引き寄せるエフェクトも発生しているのだ。
ならば、その引き寄せる対象は。
「素材アイテムってわけです。楽勝です!」
ルナは任意のアイテムを自分が動くことなく引き寄せて纏めて回収しようとしていたのだ。
なんというか、ものぐさ此処に極まるみたいなユーベルコードの使い方であるが、これが大当たりであった。
「これだけあれば十分でしょう! 私、大勝利!」
「あ、あの……実は」
『エイル』と呼ばれたNPCがおずおずとルナの元にやってきて追加素材の要望リストを手渡す。
え、なんで、とルナは思っただろう。
それは他の猟兵達が追加で建物を追加したり、自分たちのエッセンスを加え始めたからである。
追加要素っていうのはいつだって素材が大量に必要になるのだ。
「これだから生産職の人達は尊敬しちゃうんですよね!!」
ルナは自棄だった。
確かに尊敬できる。生産職は一瞬で作れるからとは言え、結局のところ重労働である。中間素材もたくさん出るし、アソート管理はしないといけないし、それはもう大変なのである。
その点、ルナは戦闘民族兎である。
拒否反応が出るのもまあしょうがない話である。
「でも、『学園』って言ってましたし、ガチャで制服アイテムとか出るかもしれないし!」
それを思えばルナは頑張れる。
可愛い制服を着たもふもふ。
そんなの覇権に決まってるでしょう、と未だ見ぬチヤホヤポイントのために一生懸命、次元断層エフェクトを発生させ、資材アイテムを回収しまくるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
作成と建築ですか。
クリエイティブは大好きですけど、たしかに音楽とは少し方向性が……。
い、いえ、頑張れますよ!
ちゃんと素材集めてきますから、捨てないでください!?
あ、わたしアイテム作成のほうですか?
わっかりました! それならここは形から入りましょう!
【はっぴーぶれいぶ】で萌化して……。
『ルクスのアトリエ、ステラさん家の錬金術師』いっきますよー♪
さぁ、開店ですっ☆
さて。どうしたらいいかなー?
あ、鍋にぶちこめばなんとかなるんだ?
煮ればなんでもできるの法則なんだね!
お鍋最強説!
できあがると飛び出てくるし、
ときどきチャイムが聞こえたときは、いいのできてそうだし、
わたし、錬金術もできるかも?
ステラ・タタリクス
【ステルク】
ふむ、素材集めからアイテム合成、そして建築、と
なかなかハードな|お仕事《タスク》ですが
ええ、メイドに不可能はありません
ルクス様は大丈夫ですか?
えっ?だって
今回のクエスト内容を鑑みるに
演奏の必要は無く
食事の時間は惜しく
運搬できる腕力も無いと来れば
|ルクス様《勇者》の出番あります??
まぁできる範囲でやりましょう
私が素材を集め、ルクス様がアイテム合成で
ふむなかなかの高品質
それにしてもエイル様の動きが本当にNPCですね
この世界における彼女の役割は……いえ、赤い空と青い空を『知って』いるのなら分かたれた存在と言うのは確定でしょうか
後はどう動くか……学園が立ったらきいてみたいところですね
クリエイティヴな仕事は大好きだとルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は言っていた。
そういう意味では素材アイテムからアイテム合成によって資材を生み出し、建築によって建造物を作り出すという行為は楽しめるものであったのかもしれない。
けれど、此処はゲームの世界である。
工程、過程をすっ飛ばしてポンとアイテムが生み出されるのだ。
それはとっても良いことであろう。
諸々の時間との戦いから開放されている。
けれど、とルクスは思うのだ。
ちょっとクリエイティヴな音楽活動とは方向性が違うなーって。
いや、まあ、その。
常日頃から破壊音波的な破壊活動を行っているのだから、創造活動とは真逆っていうかぁ。でもまあ、破壊と創造は紙一重なのでセーフである。
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)が聞いたらアウトに決まってるでしょう、とツッコまれるだろう。
だが、今の彼女は目の前のハードな|お仕事《タスク》に燃えていた。
「メイドに不可能はありません」
「助かります」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』に良いところを見せなければならないのだ。
ここで燃えなければなんとする。
有能メイドであることを見せて、どうにか雇用してもらわなければならない。完全に私情である。
「ルクス様は大丈夫ですか?」
「え、何がです?」
「いえ、今回のクエスト内容を鑑みるに演奏の必要はなく、食事の時間は惜しく、けれど運搬できるだけの腕力もないとなれば」
なにそれ。
腕力ないの?
「|ルクス様《勇者》の出番あります??」
「で、できますよ!? がんばれますよ!? ちゃんと素材集めてきますから捨てないでください!?」
「はぁ……まあできる範囲でやりましょう。こういうのは役割分担をしてこそでしょうから」
ルクスがすがりついてくるのを引き剥がしながらステラはいいですか、と指を立てる。
「私が素材を集めます。。そしてルクス様がアイテム合成を」
「私がアイテム作成ですか? わっかりました! それならここは形から入りましょう!はっぴーぶれいぶ!(タマニハコンナユウシャハイカガ)」
ユーベルコードに輝くルクス。
自身のキャラを萌え勇者化する。
きゃぴ。
「ルクスのアトリエ、ステラさんの家の錬金術師、いっきますよー♪」
どすんと謎のアトリエが立つ。
建築機能があるからか、一瞬である。
「開店ですっ☆」
いいのかな、キャラが崩れているけれど。
とは言え、である。
形から入ったのはよいものの、ここからどうしたらいいのだろうかとルクスは悩む。
鍋に打ち込めばいいのだろうか。
よくある広告動画みたいに失敗するあれではないだろうかとハラハラしてしまう。
「ルクス様、素材を持ってきました」
さすがステラである。『主人様』がまるで絡まない作業は超有能メイドである。逆接的なことは考えるな。考えたら負けである。
すでにステラは明鏡止水の領域に達している。
ホント、『主人様』が絡まないとこのメイド有能である。圧倒的な速度でステラは素材を回収しまくっている。
とは言え、である。
彼女の心に去来するのはいつだって『主人様』のことである。
今回現れた亜麻色の髪の少女NPC『エイル』。
彼女は本当にNPCのようであった。ゲームプレイヤーではなく、NPC。AIだ。
彼女の役割がある、というのならば、それはどういうものであるのだろう。分たれたものである、というのならば、彼女は何をなそうとしているのか。
あ、だめだめ。
作業効率落ちまくってる。絡んでる。『主人様』関連絡んでる!
「ステラさーん、素材が足りませんよー!」
「鍋に打ち込んでるだけなのに無駄に高品質なのが癪に障りますが、ええ、わかっております」
「ふふん、煮ればなんでもできるの法則なんだね! つまり、お鍋最強説!」
ぼふん、と煙を立ててアイテムが生み出されていく。
時々なんかチャイムの音が聞こえた時の品質は、さらに高品質になっている。あれ、とルクスは思った。
「もしかしてわたし、錬金術の才能があるのかもしれませんよ!」
「ルクス様、お忘れかもしれませんが、ここ、ゲームの世界ですから」
だが、もしかしたらそういう可能性があるのかもしれない。何がどこにどう繋がっているのかわからないのが、この世界である。
もしかしたら、本当に錬金術師ルクスちゃんが爆誕してしまうかもしれない。
そんな予感を覚えながらステラは超有能メイドであることをNPC『エイル』にちらっちらアッピールするのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【サージェさんと】
さぁ、ナイアルテさんにガチャを回してもらうため、
せいいっぱい推しきらないとね!
で、次なるガチャへの道は……生産からのシムシティだね。
これはもうわたしの得意分野!
サージェさん、素材やアイテムはわたしが【偽装錬金】でバンバン作っていくから、
それを使って建築をお願いできるかな?
どんなレアものだって、1つ見つければあとは複製し放題。
なんならデータさえ解れば実物なくても作れるしね!
……サージェさんの性癖歪ませチートもBAN対象だよね?
とりあえず建築しまくって、ガチャの数上乗せしてもらおう!
そしてそれをぜーんぶナイアルテさんにプレゼントして、
ガチャ沼でトリップしてるとこ動画に録ろうね!
サージェ・ライト
【理緒さんと】
ガチャのために戦うのか、ナイアルテさんのために戦うのか
ええ、どっちもやらないといけないのが猟兵の辛いところですね!
推し活!!
おー、確かに今回は理緒さんメイン回ですね
ということは私がかげぶんしん……あるぇ!?
私作る方ですか!?
わかりました
【VR忍術】を使いこなす私の想像力があれば
GGO仕様の建築などチャメシインシデントです!
しかし理緒さんってチートですよねー
猟兵じゃなかったら確実にBANされてますよねー
ではでは【かげぶんしんの術】で人手を確保しまして
れっつごー
積み上げた分だけガチャが上乗せ
ええ、推し活推し活
動画楽しみですねー♪
おめめがぐるぐるしているにゃいあるてさんが見たいです!
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)とサージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は、推し事に勤しんでいた。
なにそれ、と思わないでもない。
けれど、彼女たちははっきりとした目的を持ってこのゴッドゲームオンラインへとやってきていたのだ。いや、バグプロトコルを排除してゲームプレイヤーたちを遺伝子番号の焼却という人権剥奪の憂き目から巣食うためである。
だがしかし、とサージェは悩んでいた。
「ガチャのために戦うのか、推しのために戦うのか」
まあ、どっちもやらねーとならねーのが猟兵の辛いところです。
覚悟はできているか。
私は出来ている! みたいなノリのサージェは、推し活に対する意欲にみなぎっていた。
「そうだよね! いっぱいガチャ回してもらってレア表情激写しまくらないとね! せいいっぱい推しきらないとね!」
理緒も力強く頷いている。
そうかなぁって思わないでもないが理緒にとっての推し事ロードマップは着茶と進んでいるのである。
そう、無料100連分ガチャチケットを得るためには、バグプロトコルの排除だけではないのだ。
バグシティとなった街を復元しなければならない。
そのためには素材アイテムを大量に生産しなければならないのだ。そして、そこから再現した街に自分たちのエッセンスを加えたりして……もう気分はシムシティ!
「これはもうわたしの得意分野!」
「確かにこれは理緒さんの独壇場ですね。ということは私がかべぶんしん……」
「サージェさん、素材アイテムはわたしが偽装錬金(ギソウレンキン)でバンバン作っていくから、それを使って建築お願いね!」
「あるぇ!? 私が造る方ですか!?」
「うん、そっちのほうが良いよ。素材回収なんてちまちまやってらんないもの。その点、此処がゲームの世界であるっていうのなら、わたしのユーベルコードで素材アイテムは量産できちゃうからね!」
その方が効率的だと理緒は役割を分ける。
そう、だって理緒のユーベルコードは偽物を作り出す力である。
どんなレア素材だって、一つ見れば複製し放題なのである。なんならデータさえわかるのなら、実物みなくても作れてしまうのだ。
「なんというチート」
サージェはかげぶんしんの術(イッパイフエルクノイチ)でもっていっぱい増えてから建築をものすごい物量で行っていく。
理緒の複製とサージェの物量。
これが噛み合った時、できないことなどないのである。
理緒の力は確かにチートである。偽物が本物に迫るなんて、本来ならあり得ないことだ。もしも、彼女がこの世界の住人であったのならば、即座にBANの対象になっていたことだろうとサージェは深く頷く。
けれど、理緒にだって言い分はあるのだ。
「……サージェさんは性癖歪ませチートもいいところだよね」
どこが、ってそれは言わぬが花だろう。
いやまあ、言うけど。
そのたわななやつである! 二つもあるでしょうが!!
「え、何がです?」
「ううん。別にー」
にっこりである。理緒としては、ここでサージェという労働力をたっぷり活用してガチャの上乗せを狙っているのである。
多分無理だけど。
いくらザル運営とは言え、そこんところはしっかりするでしょ。多分。
さっきから多分が多いな、と思われたかもしれない。
言ってしまえば、今回の報酬はNPC『エイル』のポケットマネー的なあれであるからだ。あんまりばらまくと彼女のトリリオンがほっそりしてしまう。
「積み上げた分だけガチャが上乗せですね」
「うん、それぜーんぶプレゼントして、ガチャ沼トリップ顔を動画に撮ろうね!」
マジでろくでもないことを言い出しとる。
けれど、サージェたちはウキウキである。
だって推しの未だ見ぬ表情を見れるチャンスなのである。おめめがぐるぐるしている推しも尊いのである。本当かなぁ。
そこはたしなめるべきじゃないのかなぁって思わないでもないが、推しを推すという欲望の特急列車に乗った二人はもう誰にも止められんのである。
行くとこまで行くつもりなのだ。
そのため、二人はアイテム複製と建築をものすごい実績として積み上げ、なんか知らぬ間に建築ツリーのトロフィーを次々と獲得していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
…よくよく考えたらあたし、このテの「レア度は低くていいからガンガン数持ってこい」系採取クエストってあんまり得意じゃなかったわねぇ…
どっちかといえば|作成《クラフト》より|付与《エンチャント》の側だし。
ま、ぼやいててもしょうがないし、と。|マン《自分自身》を核に●忙殺・写身を起動。そこまで効率よくないとはいえ手数が単純に10倍になるんだし、多少はマシになるでしょ。
スノーフレークやミッドナイトレースを使えば瓦礫の撤去とか空からの探索とかもそれなりにできるしねぇ。
一気に解決できるだけの手札を持ってない以上、地道にいきましょ。
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は困っていた。
とっても困っていた。
「……よくよく考えたらあたし」
彼女は途方にくれていた。
そう、彼女は目の前に山積みになったタスクが記されたウィンドウを前に立ち尽くしていた。
確かにバグプロトコルを排除することは彼女と猟兵たちの活躍によって為された。
けれど、ここからが彼女にとっての正念場であったのだ。
「このテの『レア度は低くてもいいからガンガン数もってこい』系の採取クエストってあんまり得意じゃなかったのわねぇ……」
正直に言うと、面倒くさい、のほうが勝りそうでも在る。
そもそも彼女が得意とするのは|作成《クラフト》よりも|付与《エンチャント》なのである。
そういう意味では彼女は困り果てていた。
フィールドに出て素材を見つけて、アイテムストレージに放り込む。
単純過ぎる作業。
辛うじて楽しさを見出すことができるとすれば、ゲーム内世界でありながら色とりどりの景色であろうか。
とは言え、景色に見とれていては、素材アイテムを回収する手が止まってしまう。
なんとも八方塞がりな状況であったのだ。
「ま、ぼやいてもしょうがないし」
仕方ない、と彼女はユーベルコードを発露する。
描く魔術文字が具象化した願い……即ち、素材アイテムを効率的に集めるために、質量在る幻影を生み出すのだ。
「『自分が何人かいたら』って、そりゃ考えたことくらいはあるけれど。まさかこういうときのために使うなんてお見もしなかったわねぇ……」
忙殺・写身(インスタント・アルターエゴ)によって生み出された幻影たちが素材アイテムを回収するためにフィールドに散らばっていく。
とは言え、あまり効率が良いと言えない。
結局、手間は変わっていないのだ。
ただ、人数が増えたことにおって手に入るアイテムは単純に10人分だ。
となれば、ちまちま一人で集めるよりはマシになったと言えるだろう。
「あとは瓦礫の撤去かしらぁ……あ、これはワンクリックで可能? なるほどねぇ……さすがゲームの世界というわけかしらぁ」
ティオレンシアは感心する。
妙な所で簡略化されているのはありがたいが、しかし、どうにも性に合わない。いや、肌に合わないと言うべきか。
しかし、それでもやるべきことをやらなければならない。
「なにせ、一気に解決できるだけの手札を持ってない以上、地道に行くしか無いのよねぇ……」
苦手、苦手、と言いながらもしっかり仕事をこなしてくれるティオレンシア。
こういう所が面倒見の良さの現れかもしれなかった。
「でも、元『学園』街、ねぇ……バグプロトコルの標的になったのか、偶発的に湧いて出て止められなかったのか、どっちにしろ」
此処がゲームプレイヤーたちの拠点になるのならば良いことだろう。
バグプロトコルの脅威は未だゲームプレイヤーたちを脅かしている。とは言え、ここがゲームの世界で法則もあるのならば、人が集まって行動しているのならば、対処することもできるかもしれない。
そういう意味では意義のあることだとティオレンシアは己に言い聞かせて、単調な素材アイテムの回収という作業を黙々と勧めていくのだった。
辛い――!
大成功
🔵🔵🔵
テッカ・ロールナイト
へぇ、このゲーム『建築』なんかもプレイヤーが出来んのか。
こうなってくるとどんな建物が作れるか色々試したくなってくるなッ!
先ずは廃墟中を駆け巡って素材集めをしないとな。しかし元学園都市なだけあって結構広そうだ。
なら、魔喰技能【魔猪の剛脚】発動ッ!
これで瓦礫ばかりの廃墟も素早く動けるってもんよ。手当たり次第素材収集と行きますか。
色々素材を集めたらエイルに建築のチュートリアルを受けて、実際にやってみるぜッ!
うひゃー、やってみると結構楽しいな建築。色々凝りたくなってくるぜ。
そうだ、エイルからは何か建物の要望はないのか?それも作ってやるぜ。
材料が足りないならまた走って集めてくるしよ。
【アドリブ歓迎】
ゴッドゲームオンラインの裾野は広い。
そう思わせるのは、プレイヤーがSFやオカルトと言ったジャンルを無節操にエッセンスとして注ぎ込むことができるからだろう。
其の最たる例が建築機能だった。
素材さえあるのならば、一瞬で建造物を構築できるシステム。それゆえにファンタジー世界を基調としながらも、この『バグシティ』のように『学園』地味た建造物だって構築できてしまうのだ。
「へぇ、知らなかったな」
テッカ・ロールナイト(神ゲー駆けるは、魔喰者の騎士・f41816)は感心したように頷く。
バグプロトコルの排除は終わり、此処からは素材集めと建築機能を使った復元作業が待っている。
とは言え、である。
他の猟兵たちのやっていることを見ると、色々と自分も試したくなる。それがゲーマーってもんである。
「復元だけでなくて、俺の要望も取り入れてくれるのか?」
「あまり元の『学園』から逸脱しない範囲であれば、ですが……」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』が頷く。
逸脱しない範囲。
それが最も塩梅の難しいことであるのは言うまでもない。
「なるほどな。まっ、その前に廃墟で素材集めをしないとな。しかし、元学園都市なだけあって結構広そうだ」
テッカはバグプロトコルの排除された廃墟を見やる。
確かに彼の言う通り、この元学園街であった廃墟は広い。
今は多くの猟兵たちが素材を回収したり、建築したりして整ってきているとは言え、まだまだ自分の仕事はありそうだと判断できるものであった。
「なら、ひとっ走りしてくるか。行くぜ、ワイルドアクセルッ!!」
テッカは、魔喰技能【魔猪の剛脚】(イータースキル・ワイルドアクセル)でもって一気にフィールドを駆け抜けていく。
ダッシュスキルと悪路走破スキルを組み合わせたテッカ独自のスキル、『ワイルドアクセル』によって一気に足場の悪い廃墟を駆け抜けていく。
手当たり次第、素材アイコンがポップアップしている箇所に突っ込んでは、アイテムを回収していくのだ。
「うん、こんなところかな。にしても、建築か。チュートリアルは、と……」
たしか、とウィンドウメニューを開いて、建築のチュートリアルを開く。
素材さえあれば、指定した場所にドロップするだけでいいようだ。簡単操作であるが組み合わせた素材や品質、そうしたもので建築物の強度やレア度が変わるようだった。
「これもやりこみ要素っていうのかな。よっと」
『建築』のポップを押すと瞬時に建造物が復元される。
どうやら此処は購買部だったようだ。まだ商品が納入されていない。
「あ、購買部を復元してくださったんですね」
「そうみたいだな。でもアイテムが一つもないぞ?」
「あぁ、納入アイテムの補給塔を作らないといけないんですね」
「そういうのも作れるのか?」
「ええ、レベルが上がれば納品されるアイテムの品質も上がっていきますので」
そうなるとテッカは考える。
色々懲りたくなってくる性分なのだろう。
購買部に納品されたアイテムの品質が高くなれば、それだけ人が集まってくる。そうなれば、このゲームプレイヤーが寄り付かなくなった『学園』も発展していくだろう。
「なあ、『エイル』の要望としては、この『学園』が発展したほうが良いんだよな?」
「え、はい。それはそうですね。人がたくさん集まれば、其れだけバグプロトコルが湧出した時も対処できますし……」
「なら決まりだな。購買部の品質を上げる素材リストくれよ。またひとっ走りしてくるからさ」
そう言ってテッカは素材リストを受け取ってまたフィールドを駆け抜ける。
こういう楽しさもあるのがゴッドゲームオンラインの醍醐味だ。
確かに究極のオンラインゲームと銘打たれているだけあると思いながら、テッカは風を頬に感じながらリストアップされた素材アイテムを集めるのに奔走するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
澄清・あくあ
(アドリブ歓迎)
『お家づくりすごいのです』
「はやーい✨」
建設が進む拠点を見ながら散歩する二人。
戦闘していない彼女達から垂れ流される波紋エネルギーは
歩を進める度、ひび割れた街路に草花の彩りを増やしていく
破壊された鉢の土、折れた街路樹、荒れた畑跡に、「建設」では治せない生命の彩りが満たされていく
ただの散歩ではなく、|仕事《おつかい》で細かな手伝いを進める中、
ふと目に留まる壊れた近代的な弾薬製造施設
何かの「部屋」の記憶がフラッシュバックする
片付いてない作業台、浄水器に繋がる謎の機械、転がる藍色の瓶
「…|ご主人様《ますたー》?」
『…』
何故か思い出せない部屋の、欠けた記憶が少し戻った気がした
澄清・あくあ(ふたりぼっちの【原初の一】・f40747)たちは、復元が進む元『学園』街の中を見て回っていた。
多くの猟兵達によってバグプロトコルの排除が完了し、後は破壊され尽くした街を復元してくだけだった。
そのために必要だったのは多くの素材アイテム。
アイテムさえあれば、『建築』システムによってあっという間に施設が元通りになっていくのだ。
それを見上げて彼女たちは感心していた。
『お家づくりすごいのです』
「はやーい」
見上げた先にあるのは、何かの塔みたいであった。
塔の天頂部には鐘が備え付けられているところを見ると、チャイムの鐘を鳴らす施設なのだろう。
『学園、と呼ばれていましたけど、こういう施設まで作らないといけないのですね』
「たいへんそうー」
二人が歩く度に体から垂れ流されるエネルギーが雑草はびこっていた街路に草花の彩りでもって塗りつぶしていく。
彼女たちは何かをどうこうするつもりはなかった。
ただ、そこにあるだけで生命の彩りを満たしていく。
確かに建築機能は大したものだ。
技能がなくても、アイテムさえあれば思い思いの建造物が作り出される。
けれど、その他マップテクスチャーは簡単には行かない。
彼女たちのエネルギーはそうしたマップテクスチャーに影響を及ぼしていくのだ。ひび割れた街路が修復され、破壊された、かつての住人たちが使っていたであろう鉢、折れた街路樹、そうした場所に彼女たちが赴く度に彩りが増えていくのだ。
「わたしたちもおつかいがんばろー」
『ええ、素材アイテムを運ぶのもお仕事です』
二人は多くの猟兵たちが集めた素材アイテムを建築担当の猟兵たちの元に届ける|仕事《おつかい》に勤しんでいた。
けれど、ふと其の道すがらに目に留まる壊れた近代的な弾薬製造施設を見えにした瞬間、足が止まる。
二人の脳裏に浮かぶのは『部屋』の記憶。
煩雑さを極めたような雑多な作業台。
浄水器につながる謎の機械。
転がる藍色の瓶。
それが何を意味するのか。
どんな意味があるのか。
其の事柄について二人は何も思い出せない。けれど、存在している記憶に混乱する。
「……|ご主人様《ますたー》?」
『……』
何故、そのような言葉が口をついて出たのかはわからない。
けれど、其れ以上がどうしても、どんなに頑張っても頭の中から湧き出すことはなかった。どうしてあの弾薬製造施設を見て思い出したのかもわからない。
欠けたる記憶のピースの一つを手にした二人は互いに顔を見合わせて首を傾げる。
わからない。
けれど、目の前にいるものこそが最も己に近しいものであるとわかっているからこそ、ふたりはおつかいの途中であることを思い出して、またゆっくりと道を歩んでいく。
進む度に道には彩りが増えていく。
其れが何を意味するのか。
二人のこれからにどのような意味をもたらすのか。
それはきっと二人の眼差しの先にこそあるのだ――。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・ノルマレイス
【まっくろ】
これまた派手に壊されてるですー
モンスターのせいで人がいなくなったら街が荒れるのも当然ですー
それじゃあ住人が戻ってこれるようにお手伝いするですー
よいしょ、よいしょ……
(徒歩で探し見つけたら一個ずつ持って移動する……完全に戦力外の挙動)
むむー、今の手持ちじゃ何時まで経っても終わらないですー
……あ、なんだか見慣れないモンスターがいるですー、丁度いいですー
(UC、『黒蝕の欠落』でなんだか虫っぽい黒いのを捕まえる)
(一部肉体変異は起こすけどUCを得られない)
……あれー?コードがないですー?変ですねー
もしかして量が足りないですー?
(次に手を出そうとし……飼い主?に見つかる)
(めっちゃ怒られる)
黒沼・藍亜
【まっくろ】
いや折角なら一瞬で建てられるようにする前にそもそも破壊不可能にしとけばいいのに。
建築の仕様的に、こういう事が普通に起きる事が想定内なわけで……ここはプレイヤーやモンスターとの間で|破壊《整地》と|再生《建築》が繰り返される賽の河原か何か?
……気持ち切り替えていこ。
こういう時のこの子らっす、さあ今日も休憩なしの過剰労働、はっじまっるよー
UC【落とし子の召喚:奈落這う黒群】で物量戦、散開させて周囲を探らせ素材集めっすよ。
……あれ?なんか数が足りないんすけど?
一応この子らは戦闘力無いけど、面倒なモンスターとかは周囲には……
……おいちょっと?そこの白いの?
何してくれちゃってるんすかおい
『バグシティ』は元々ゲームプレイヤーたちが集う施設であった。
けれど、その面影は今はない。
バグプロトコルによって徹底的に破壊されていたからだ。
けれど、猟兵達によってバグプロトコルの排除が終わり、復元が始まっている。
元々、ゴッドゲームオンラインはプレイヤーたちが好き勝手に建築機能によってSFやオカルトといったエッセンスを追加していくことができたのだ。
其れに習えば、猟兵達もまたおのれたちの思う建造物を一瞬で構築することができる。
けれど、と黒沼・藍亜(に■げ■のUDCエージェント・f26067)は思った。
こういう施設が壊されて困るというのならば、壊れないようにしておけばいいのに、と。
だってそうだろう。
一瞬で建築できるよりも、破壊不能オブジェクトとしての属性を持たせていた方が絶対にいいと思ったのだ。
いやまあ、建築の仕様的に、こういうことが普通に起きるのは想定内のはうだ。
なら、やっぱり破壊出来ないように重要な施設はプロテクトをかけておくべきなのではないだろうか?
「それとも、それができないんすかね?」
もしそうなら、此処はプレイヤーとモンスタとの間で|破壊《整地》と|再生《建築》が繰り返される賽の河原的な何かなのかもしれない。
今自分たちが建築して復元しても、また壊される可能性だってあるのだ。
となれば、これはまるで終わりの見えない作業のようにも思えたのだ。
とは言え、気持ちを切り替えていかねばならない。
こういうときのために自分のユーベルコードはあるのだ。
「さーて、お仕事の時間っす。出てくるっすよー」
藍亜のユーベルコードによって、黒い球体が連結した無視のような姿をした落とし子がボトボトと地面に落ちる。
これらは彼女の意志に従って行動する存在だ。
「さあ、今日も休憩なしの過剰労働はっじまっるよー」
言ってることがエグい。
ブラックであるまっくろすぎる。いやまあ、見た目もまっくろであるが。
とは言え、彼女のユーベルコードによって呼び出された落とし子たちは一斉に散開し、物量作戦という名のローラー作業でもって資材アイテムを回収し始める。
後は藍亜のお昼寝タイムである。
そんな彼女の午睡を他所に、アイ・ノルマレイス(知らない記憶、胸に空いた奈落・f41788)はなんとも言えない顔をしていた。
彼女もまたNPCである。
派手に壊された街を見ていると、少し悲しい。
バグプロトコルのせいで人がいなくなったら街が荒れるのも当然だ。なら、自分がやらなけばならないことは人が戻ってくるようにお手伝いをすることだ。
「よいしょ、よいしょ……」
彼女は彼女なりに精一杯がんばってくれているのだろう。
けれど、なんていうか、その。
とっても効率が悪い。
徒歩でトテトテと素材を見つけに行けば、一個見つけては戻ってきてアイテムを置く。そしてまたトテトテと同じ歩調でアイテムを探しに行くのだ。
もう、完全に戦力外の挙動である。
だがいいのである。これでいいのだ。アイはこれでいい。いや、これがいい! たとえ、アイテム回収効率が激低であってもだ。そこにいるだけで場が和むじゃろがい! そういう心の癒やしも採取クエストという名の過酷な労働には必要なのだ。
「はあ、ふう……むむー」
だが、アイは向上心に溢れていた。
その性能の天井が見えているとは言え、しかし誰かの役に立ちたいと思う思いは本物だったのだ。
「今のままじゃいつまでたっても終わらないのですー」
困った。
そう思った時、なんだか黒い物体が目の前をよぎった。
アイはそれをエネミーだと判断したのだろう。見慣れなかったし、図鑑を浚ってみても外套するエネミーはいなかった。
でも、エネミーっぽい。
球体が連結したみたいな変なエネミー。
ひょい、とそれを掴み上げる。
「……ちょうどいいですー」
ぱくっと躊躇いなくアイはそれを飲み込む。ぺっしなさい。ぺっ! ごっくん、とアイは飲み込む。
ふむ、とアイの体は奈落の怪物(アビム・モンストル)たるを示すように一部変異するが、ユーベルコードが得られないことに首を傾げる。
「あれー? コードがないですー? 変ですねー?」
なんで? とアイは首を傾げさらに横切った蟻の隊列の如き黒い落とし子をパクパクと拾い上げてはごっくんと飲み込んでいく。
量が足りないのかなって思ったので、通りがかる落とし子を片っ端からパクパクやったのだ。
けれど、それでもユーベルコードが得られない。なんで?
「……おいちょっと? そこの白いの?」
アイは其の言葉に振り返る。
するとそこには彼女とは正反対の真っ黒な姿をした藍亜がいた。
怒ってる、とアイは即座に理解する。これ、怒られう流れだ、と理解できた。偉い。
「何してくれちゃってるんすかおい」
「ごめんなさいーですー」
藍亜はアイを抱えてぺんぺんする。吐き出せば良し。でも吐き出せないのなら、どうしてくれようか。
ともあれ、アイのお尻を叩く音だけが復元されていく街中に響いた――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シャルロッテ・ヴェイロン
あー、そういえばここに市街地があったんですね。
面倒そうですが片付けといきますか。
とりあえず、エイルさんでしたっけ?そのNPCやクランメンバーから【情報収集】して、かつての街の風景がどんなのか調べていきましょう。
で、ボクセル系のキャラを召喚して(【召喚術】)素材を集めさせてクラフトといきましょうか。
(と、ここで例のガチャの件を思い出し)
そういえばこの手のゲームのアイテムって、レアリティが高いのはどう見ても装飾過多になっちゃってんですよねー。あれ実際使いづらいでしょうって(ぇ)。
※アドリブ・連携歓迎
バグプロトコルの排除が終わり、シャルロッテ・ヴェイロン(お嬢様ゲーマーAliceCV・f22917)は息を一つ吐き出す。
後は『バグシティ』を元の街に戻す作業が残っているのだ。
「あー、そういえばここに市街地があったんですね。面倒そうですが、片付けといきますか」
シャルロッテは一つ伸びをする
彼女はゲーマーである。こういう類のゲームにも成通しているのだろう。すぐさまバトルキャラクターズ2.0(バトルキャラクターズ・ツーポイントゼロ)によって、ドットで構成されたキャラクターを呼び出す。
「さ、素材を集めてきてね。その間にわたしは、っと」
召喚されたゲームキャラクターたちに素材改修を任せて、シャルロッテは亜麻色の髪の少女NPC『エイル』を探す。
復元するにしたって、元の街の様子を知る者から話を聞くのが筋というものであると思ったのだ。
だが、その思惑は外れてしまう。
「えっ、知らない!?」
「大まかな外見は知っているのですが、仔細は……」
「なんで!?」
「私も此処を見つけただけなので……元は『学園』めいた施設だったということがわかっていますので、そこから逸脱しすぎないのであれば、自由に建築していただこうと思ってまして……」
「なるほど。好きなようにやっていいけど、制限はあるよってことね」
ふむ、とシャルロッテは考える。
なら、自分の召喚したゲームキャラクターたちに素材集めだけに専念させた方がいいだろうと思ったのだ。
そういうクラフト系に強いゲームプレイヤーたちがいるのならば、デザインや建築は任せた方がいいと思ったのだ。
「あ、そうだ」
「なんでしょう?」
「この手のゲームのアイテムって、レアリティが高いのはどう見ても装飾過多になっちゃってんですよねー。あれ実際使いづらいでしょう?」
其の言葉に『エイル』は曖昧な顔をする。
まあ、言わんとしていることはわからんでもない。
確かにこれ、実践で使えるの? とか思わないでもないし、もっとデザイン考えてもいいのではないのかと思うのだ。
だが、これもゲームの世界である。
性能と外見が一致しないことなど多々あるのである。むしろ、そういう事例のほうが多いような気がする。
めちゃくちゃかっこいいのに、外見だけ、という性能を持つアイテムだって少なくない。
そうしたアイテムに愛着を覚えるのもまたゲームプレイヤーというものだ。
こだわりと言っても良い。
「どう思います?」
「えっと……その、なんとも」
「そうよねぇ。ま、でも射幸心を煽るためには見た目派手にしたほうがいいっていのもわかりますし」
シャルロッテは笑って『エイル』と分かれておのれの召喚したゲームキャラクターたちと合流する。
リストアップされたアイテムを見やる。
これだけあれば、働きとしては十分だろう。そう思って、シャルロッテは再びゲームキャラクターたちに素材を必要とする猟兵たちに分配するように指示を出し、このゲームのガチャは一体どんなアイテムを見せてくれるのかな、と少しだけ心を踊らせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『アイテムガチャ』
|
POW : 目当てのアイテムが出るまでガチャを回す
SPD : ガチャのおまけスタンプの景品をもらう
WIZ : 他のプレイヤーとガチャ産アイテムを交換する
イラスト:yakiNAShU
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
建築システムによってリビルドされた『学園』。
その光景は晴れやかなものだった。此処がかつて荒廃を極めたような『バグシティ』であったなどと誰も思わないだろう。
それほどまでに猟兵たちは完璧に『バグシティ』を元の『学園』に復元し、また自分たちのエッセンスを追加していたのだ。前よりもっと良くなった、と知る者がいないのは残念なことだ。
けれど、『エイル』は微笑んで、クエストに参加してくれた猟兵たちに報酬を配る。
「こちらが無料100連分ガチャチケットです。どうぞお収めくださいね」
そう言って手渡すチケット。
なるほど、使用すれば即座に100連分ガチャができるというアイテムである。誰だって欲しくなるに違いない。
ちょうど、と言っていいのかガチャアイテムは『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』が行われている。
所謂学生服スキンや、其れに準じるアイテムが排出されやすくなっているのだろう。
まあ、すり抜け、ということも起こりうるので、こればかりではないのだが。
「おっ、なんだよ。もう先客がいるじゃん!」
報酬を受け取っているとクラン『憂国学徒兵』の四人がやってくる。
彼らと共に復元した『学園』を見て回るのも良いだろうし、ガチャを無心で回すも、我欲にまみれて追い課金するのもいいだろう。
全ては、このときのためにがんばったのだから――。
ノーチェ・ハーベスティア
100連ガチャチケットです…!!
わ〜何が出るかなぁ…可愛いのがでると嬉しいなぁ…まぁ、GGOの学園風アイテムはリアルの学園の制服なんかより可愛いですから期待大!ですよ!
では、ガチャ回しますよ!!
レアアイテムカモン!
まぁ何が出ようともガチャが100連を回せると言うだけで射倖心は満たされるので…!
…本当、GGOではいろんな気持ちが満たされますよね。
あ、そうだ!憂国学徒兵さん達に私達が再建した街の感想とか聞いてみたいです…!
わあ、と声が思わず出てしまった。
ノーチェ・ハーベスティア(ものづくり・f41986)はバグプロトコルを『バグシティ』から排除し、さらにはかつての『学園』としての姿を復元した報酬として無料100連分ガチャチケットを手にして、目を輝かせていた。
なんとも良い言葉の響き。
無料!
100連分!!
ガチャチケット!!!
しかも、今は『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』が行われている期間である。
限定ピックアップなので、この時でしか排出されないアイテムだってあるのだ。
ずるい。
運営ずるい。
マジで射幸心を煽りに煽ってくるではないか。
正直、ノーチェは気もそぞろであった。すぐに回そうかな。それともお目当てのものがピックアップされるまで塩漬けにしておこうかな、と悩んだ。
でも、せっかく『学園』を復元したのだ。
これもなにかの縁。
今! 回す!! と彼女はガチャポッドの前に立つ。
「何が出るかなぁ……可愛いのが出ると嬉しいなぁ……」
ガチャチケットを入れると、空に浮かぶ太陽の周りにある日暈がぐる、ぐる、と回り始める。
始めはゆっくりと。けれど、次第に加速していく。
最初の10連分は金色の輝いただけだった。レアリティとしては最低保証の確率である。
見たことの在る装備ばかりで、ちょっぴりがっかりしたが、合成素材にすれば無駄にもなるまい。
「ま、まあ、GGOの学園風アイテムはリアルの学園なんかよりずっとずっと可愛いですから、次に期待ですよ!」
次も金色だったら、またしょんぼりしちゃうなぁと思ったが、違った。
ぐるん、と回る日暈。だが、一瞬ラグが生まれたようにノーチェには思えたのだ。
次の瞬間、金色の日暈から色が変わる。そう、虹である。
確定演出!
「わ、わわ! きた、来ましたよ! 最高レア確定演出!」
ウィンドウに表示されるのは、学生服一式。
可愛らしいフリルのついたデザインである。さらに虹日暈が回る回る。
次々と最高レアの学園ピックアップアイテムが排出される。
教科書型魔導書や、体操服、そうしたアイテムが排出され、最後の10連分を回した時、ノーチェは目を見開く。
そう、すり抜けである。
ピックアップされていない高レアアイテムの排出だったのだ。
「えっ……これって!」
黄金の果実の種である。
それは換金してよし、合成して良しのアイテムがクラフトできる高レア素材アイテムだった。
ほしかったやつである!
「嬉しいすり抜けですよ、これ! わあ!」
やった、やったと小躍りしていると、彼女の周りにクラン『憂国学徒兵』の四人がやってくる。
どうやらガチャ結果に興味津々のようである。
「おっ、いいのでたのかよ。って、黄金の果実の種かよ! マジで!? 初めて見た……」
「強化素材にも使えるものですよね」
「しかもピックアップじゃなくすり抜けで引き寄せるとは! 豪運だな!」
「ほんとすごいわ」
「えへへ……『学園』の復元のお手伝い、がんばった甲斐がありました!」
彼らの言葉にノーチェは照れ笑いを浮かべる。
「ああ、ホントすげーよ。この街、あんたたちが復元したんだろ?」
「アイテムのやり取りもできそうですし、此処を拠点にダンジョンに挑むのも良いですよね。その時はご一緒にどうですか?」
彼女らの言葉にノーチェは笑む。
射幸心が満たされたこともそうだが、ゴッドゲームオンラインにおいて様々なことができる。
小さなのぞみであった何かを造るということ。
それがたくさん叶った。
そして、その望みが誰かのためになっているということがたまらなく嬉しかったのだ。
「はい! もちろんです!」
ノーチェは幸せな気持ちになりながら、元気よく彼らの誘いに頷くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
テッカ・ロールナイト
建築も楽しかったが本番はここからだ。お楽しみのガチャタイムだぜッ!
賞品一覧を見ると色々あるな。
武器に防具…おっ、乗り物なんてのもあるのかよ。それに『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』なんてのもやってんのか。
夢が広がるなッ!んじゃ早速回すぜッ!
~~90連目~~
ん~、見渡し限りのポーション等の消費アイテムの山。渋いですなぁ…。
まあ、消費アイテムはあればあるだけ困らないとはいえ。
だが、まだラスト10連分あるッ!確率は収束してここらでドカンとくる…筈だぜッ!
いくぜ、ラスト10連ッ!!
おっ…おっ…こ、これはッ!?
(何が出たかはシナリオマスターにお任せ)
【アドリブ歓迎】
『バグシティ』から元の『学園』へと復元を果たした町並みをみやり、テッカ・ロールナイト(神ゲー駆けるは、魔喰者の騎士・f41816)は感慨深いものがあった。
確かに素材アイテムを集めるのは大変だったが、あれだけ荒れ果てていた街がこうも学園然とした姿に復元できているのは喜ばしいことだと思ったのだ。
それになんとなく建築システムを使っての復元も楽しかったのだ。
だが、それ以上にお楽しみというものがある。
そう、ガチャである。
普段はそう興味のない者であっても無料でガチャが回せるとなれば、それとなく嬉しいものである。
「恒常ガチャも併設されてんのか。それに『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』も開催中か」
ふむ、とテッカはガチャの前で思いを巡らせる。
恒常ガチャも捨てがたい。
アイテムには乗り物が排出されることもあると書いてある。
武器や防具だけではないアクセサリもある。
さすがは究極のオンラインゲームを銘打つだけはある。
ざっと見ただけでも惹かれるものが多く存在しているのだ。
「それにしたって100連分だからな! なんか良いのがでるだろっ!」
あ、それ!
最初の10連分を軽い気持ちで回したテッカはこの後後悔することになる。
ガチャ沼の深淵を。
軽い気持ちで覗き込んだら、思った以上に深いなこれって思い知ってしまう。
そう、いつだって沼っていうのは陸地と沼地の境目を錯覚させる。
此処までなら大丈夫。
まだくるぶしだし、と思うのも無理ないことだ。
他人のふり見て我が身を直す。
大丈夫。
だって、自分は違う。
ガチャで大爆死して嘆くゲームプレイヤーは多い。それを見て、引き際を間違えないから、と思うのは間違っていない感覚だ。
誰だってそうだ。
「……」
だが、テッカは恐ろしい事態に陥っていることに90連目で気がついた。
彼が引いたガチャは殆どが回復アイテムのポーションばかりだった。
逆にこれ珍しくね!? とクラン『憂国学徒兵』の面々が眺めている。
「むしろすごいよな」
「そうそうないですよ、こんなこと」
テッカの周りに散乱している回復アイテムの山をみやり、彼らはなんとテッカに声を欠けていいか分からない。
「い、いいんだよ! 消費アイテムはあればあるだけ困らないからッ!」
「それはそうかもだけど、流石にこれは……」
確率おかしくない?
虹演出がないにしたって金色演出くらいあってもいいものである。なのに、90連目にいたってもなお、それさえないのだ。
「もしかして、ものすごく運が悪いのか!」
「ちっげーよ! まだラスト10連分あるッ! 確率は収束してここらでドカンとくる……筈だぜッ!」
一端心をリセットする。
精神集中する。いや、集中しても確率は変わらないと思うのだが、此処まで当たりがないと逆にそういう事にすがりたくなる気持ちはわかる。
ゆえに、テッカの瞳が光り輝く……ように見えた。
「いくぜ、ラストッ!!」
ぽちっとな。
ぐるん、と回る日暈。変化はない。
けれど、ガチャ結果を前に、妙なラグがあった。これは、とテッカは見上げる。
そう、ローディング時間である。
微妙な時間。今だ見ぬSSRアイテムの気配にテッカは気炎を上げる。
虹色の演出の彼方からやってきたのは、虹色に輝く鉄火巻。
なんで?
クラン『憂国学徒兵』のみんなは思った。けれど、テッカは違った。好物。そう、海苔巻きだ。その中でも特に好きな鉄火巻!
なんで?
わからん! けれど、確かにテッカはSSR食材素材を手にして雄叫びを上げたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
マリナ・フォーリーブズ
※アドリブ歓迎
POW判定
・内容
趣味のおしゃれ装備集めのため
アバターの外観が変わる衣装ガチャを回してピックアップの目玉を
コンプリートするまで回します
(技能「幸運、欲望開放、おしゃれ」)
・セリフ
さあ!この桜幻想ガチャで狙うはピックアップ衣装の学徒兵:桜シリーズ
女学生セット上・下と学帽に靴の4点セットをフルコンプよぉっ!
最高レア4つをすり抜けや性別違いを乗り越えてコンプするのは
茨の道だけれど……
ワタシは諦めない、出るまで回せば100%なのよぉ!
(無料100連分だけ調子良く1つ出て、その後課金で沼る)
くっ、天井二回目……
あと一つ、あと一つだけなのよぉ
ここまで出ない分で運気が溜まってるはずだからぁ
運、というのはよくわからないものである。
確かにガチャには確率というものがある。六面のサイコロを転がせば、6の目が出る確率は六回に一回。
けれど、稀に何回やっても六しかでいないときもあるのだ。あ、いや、一天地六とかそういうイカサマアイテムを使ってるんじゃないよ、本当だよ。
いささか脱線したが、つまりガチャだってそうなのだ。
所詮は確率。
ましてや、マリナ・フォーリーブズ(血濡れのマリー・f41783)の手にはクエスト報酬の無料100連分ガチャチケットがあるのだ。
百回である。
百回回せば、SSRアイテムなんてそりゃ出てくるだろう。
しかし、マリナはちょっと格が違った。
「桜幻想ガチャ! 狙うはピックアップ衣装の学徒兵『桜』シリーズ!!」
マリナの目はちょっとヤバかった。
グリモア猟兵の目が闇の奥底みたいな淀んだものであったのなら、マリナの瞳はキラッキラしていた。
これより訪れる勝利の未来にレディゴー! している感じだった。
そう、彼女が狙っているのはコンプリートである。
欲望の開放。
もう、マリナは止まらない。彼女が止まるとすれば、それはピックアップ衣装の女子学生セットの上下、学帽に靴の四点セットフルコンプしたときだけだろう。
「最高レアをコンプするのは茨の道だけれど……ワタシは諦めない、出るまで回せば100%よぉ!」
とんでもねー暴論である。
だが、正しい。
そうなのだ。
出るまで回せば、諦めなければ夢は叶う。
フルコンプだってトリリオンにまかせて回せばできるのだ。
「よし、よし、よし! 来たわよぉ、虹回転~! これよぉ、これが健康に効くのよぉ!!」
マリナは無料100連分チケットで学生服上下を見事にゲットしていた。
これならば、コーディネイトには他のアイテムを使えば見栄えするだろう。普通ならここで止めておく。
なにせ無料で上下セットが手に入ったのだ。
大勝利の部類であろう。だが、マリナは違う。彼女は誓ったのだ。フルコンプするって!
だから、彼女は追い課金した。
ノーモーション課金であった。
「くっ、天井二回目……!」
マリナは知らなかった。
そう、女学生セットの上下。
なんで上下にわかれているのか。そう、スカートの丈が短いバージョンと校則遵守バージョンに二種類があるためである!
所謂シークレットである。
それにマリナは気がついてしまったのだ。
故にフルコンプには5つの最高レアアイテムをゲットする必要があったのだ!
けれど、マリナは止まらない。
開放された欲望はとどまる所を知らず、さらに最後の一つ、学生帽をゲットするためになけなしの貯金トリリオンを崩し始める。やばい。
「あとひとつ、あとひとつだけなのよぉ」
「も、もうやめたら……?」
クラン『憂国学徒兵』たちが心配そうにしている。わからんでもない。
もう此処まで来たら退くに退けないのである。
誰かが差としてあげないといけない。けれど、マリナは止まらないのだ。現実での抑圧。それを此処で開放しているだけなのだ。
ブラック企業、怖いね。
「ここまで出ない分で運気が溜まってるはずだからぁ!」
そう、人間追い詰められた最後にすがるのはジンクス。
ここまで来たのだから、次は出る。きっと出る。そう願ったマリナの頭上に日暈は虹色に輝く――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクサンドラ・バジル
わぁ~い、100連ガチャだ。
えっ、学園ピックアップ?
興味ないなぁ。
いや、ピックアップに刀があるなら良いけどないよね?
私はピックアップじゃない常設で回すよ。あるよね??
よーし、じゃあ、神様仏様良いのが出ますように!
って神様は私じゃん。(ガチャガチャ
ん? 君達はプレイヤーさんか。
へえ、『憂国学徒兵』。カッコいいね。三島由紀夫かな?
いやいやこっちの話。
そうだ、せっかくだし君達にこれあげるよ。
(100連ガチャで出た刀以外のアイテムをプレゼント)
私には必要ないものだからね。その代わり良い刀とかの情報があったら教えてよ。今じゃなくても良いよ。また会う日もあるかもしれないからね。
「わぁ~い、100連分ガチャだ」
アレクサンドラ・バジル(バジル神陰流・f36886)はクエスト報酬にもらった無料100連分ガチャチケットを受け取ってはしゃいでいた。
あれだけしんどい素材集めのクエストをこなしてきたのだ。
その報酬を受け取った時の達成感はあったはずだろう。
そして、今回のガチャは『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』である。所謂、学生服などのスキンや防具が貰えたりするピックアップガチャなのである。
こういうのが好きな層は特定数以上いるのである。
学園。
それは青春の香り。
みんな好きでしょ! というわけである。
しかし、アレクサンドラはあんまり興味なさげであった。
学生服に合いそうなものであるが、彼女はピックアップガチャには見向きもしていない。いや、正確に言うなら学園ピックアップガチャに刀アイテムがピックアップされていたのなら、彼女は迷わず回しただろう。
けれど、そうではないのだ。
「学生服に日本刀なんてマストでしょうに」
わかる。そうだと思う。
けれど、ないもんはないのである。
「なら、恒常ガチャの方にしよっと」
アレクサンドラは恒常ガチャに躊躇いなくガチャチケットを突っ込む。廃人プレイヤーたちが見たら、もったいない! と思ったかも知れないが、彼女にとって興味があるのはいつだって刀だけだったのだ。
「よーし、神様仏様良いのが出ますように!」
ぐるんと、アレクサンドラの頭上で日暈が回転する。
ぐるぐると回るそれを見ながらアレクサンドラは神様に、仏様に祈る。だが、傍と気がついた。
「って、神様は私じゃん」
そうである。アレクサンドラは猟兵のなかに存在する神性なのである。だから、自分に祈る。自分の可能性を信じる。
自分が出る! って強く念じたのなら、すでにそれは確定された未来なのである。
故に、アレクサンドラの周りには100連分のガチャ産刀アイテムが、それこそ林のように乱立してしまうのだった。
「……って、うっわ、なんだこれ」
その様子にクラン『憂国学徒兵』たちは思わず目を見張る。
たしかにガチャ結果というのは時に信じられないくらいの偏りを見せることがある。たとえば、回復アイテムしか出てこなかったりとか。
けれど、アレクサンドラのガチャ結果は凄まじいものだった。
刀。
刀モチーフの武器ばっかり出てきてしまっているのだ。
「ん? 君たちはプレイヤーさんかな?」
アレクサンドラはガチャの前で出てきた刀のフレーバーを全部読んでいた。いろんな刀のアイテムがあるのは、プレイヤーたちがエッセンスを次々と好き勝手に追加していった結果であろう。
とは言え、こんなにも偏った結果になったのはアレクサンドラが自分に祈ったせいである。結果オーライである。
「ああ、『憂国学徒兵』というクランで活動している」
「へえ、カッコいいね。どうしてそんな名前を?」
「なんとなく!」
「なんとなくかぁ……あ、そうだ、せっかくだし君たちにこれあげるよ。なんか最高レアみたいだけど、私、刀以外はいらないから」
はい、と手渡されたのは最高レアの槍だった。
うえっ!? と『アイン』と呼ばれたゲームプレイヤーだった。
「私には必要ないものだからね。なんだっけ、『セラフィックス』? まあ、使って」
「え、だめだってこれ、最高レアで恒常からしか出ないし、恒常からでもめったに出ないやつだぜ!?」
「いいよ。必要ないし。じゃあ、代わりに良い刀の情報とかあったら教えてよ」
これで交換ね、とアレクサンドラはこともなげに言うが、『アイン』たちは目をまんまるにしている。
「えっと、確か……『銀の五月雨』っていうユニークアイテムがあるっていう噂は聞いたことあるよ。ほ、本当はどうかわからないけれど」
「そうなんだ。ま、それもめぐり合わせだろうしね。良い情報をありがとね」
なんだ、そういうのもあるのか、とアレクサンドラは思ったことだろう。
自分の興味の赴くままに振る舞う。
それが許されるのがゴッドゲームオンラインなのだと、彼女はこの世界のあり方をどこか気にいるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルナ・キャロット
ふへへ100連……狙うは学園関連の装備かまだ見ぬケモスキンです!
出たら喜びスクショタイム、出なかったら……何か出るまで追い課金です。3日くらいご飯食べなくても人は死にません!
可愛いものが出てくれると嬉しいですね。
見覚えのある人達がいたらチヤホヤしてもらいに行きます!さり気なく自慢げに!この辺は私が直したんですよ!
依頼の時のケモノスキン体験が忘れられずにきっとケモノにどっぷりはまってるはずですね!なってますよね!
(なってなかったらちょっとしょんぼり)
そのまま写真映スポットとかを教えてもらって学園探索を楽しみます。
ルナ・キャロット(†月光の聖剣士†・f41791)はとってもごきげんだった。
それはそうである。
クエストは無事成功したし、報酬もゲットした。
何より、これからはお楽しみであるガチャができる。それも100連分も、である! 無料100連分ガチャチケット。なんとも良い言葉の響きである。
ルナの好きな言葉である。
「ふへへ」
そんなルナは兎足をスキップさせながら、ぴょんこぴょんこととガチャの前に立つ。
空には太陽と日暈。
あの日暈がぐるんと回って虹色に輝けば最高レア確定である。
何度だってみたい、あの虹色の回転。
「狙うは学園関連の装備か、まだ見ぬケモノスキンです!」
いざ! とルナはガチャチケットを突っ込む。
ぐるんぐるんと回る日暈。
虹、虹、にーじ! とルナは祈る。
できれば、可愛い物が出てくれると嬉しい。ついでに虹演出が出たら、速攻でスクショする用意は出来ている。
もしも無料100連分ででなくっても、追い課金すればいいのである。
問題解決である。
ちょっとその思考はヤバイ気がするがルナには関係なかった。
チヤホヤポイントは多ければ多いほど良いのである。そうなっているのである。世の中の理ってやつである。
故にルナは追い課金する気満々だった。
だって、人間三日くらいご飯食べなくても死なないからね。いや、死ぬ。健康被害が出ちゃう。
「虹! 来ましたよ!!」
「お、本当だな」
えっ、と振り返るとそこにいたのはクラン『憂国学徒兵』のゲームプレイヤーたちだった。
彼らは見知った背中があるのを見てやってきたのだろう。
この間ぶり、と笑っている。
「あ、わ、あ」
「ガチャ結果見てからにしていいよ」
なんて、笑っている。
ルナはきっと彼らがケモノスキン体験が忘れられずに、自分をまたチヤホヤしにきてくれたのだろうと思った。
仕方ない。
ルナは可愛いからね、と自信満々にしながら虹回転の結果でてきたケモノスキンにご満悦であった。
いい具合である。
とっても良い。みんなにチヤホヤされて、さらには高レアアイテムスキンも手に入れることができた。正直たまらん。
「ふへへ」
「いいの出たみたいだな」
「ええっ! でました! 見てくださいよ、このケモノスキン! 新しいやつですよ! こんなのも追加されていたなんて知らなかったです!」
ルナの言葉にクラン『憂国学徒兵』の面々も笑っている。
「そう言えば、此処の復元クエスト受けたんだってな。どこらへん直したんだ?」
「あ、こっちですよ! 此処、私がやりました!」
謎の腕組みモーションをしながらルナは彼らに自分が復元した建物を示す。
なんかラーメン屋の店主のポップみたいなポーズだが、ルナの自信満々さを示しているようだった。
「へえ~あ、そう言えばさ、あっちに展望台あったぜ?」
「ぬっ、それはもしかしてスクリーンショット映するスポットなのでは!?」
「そうかもしれませんね。一緒に記念撮影しましょう」
「そうですね! あ、皆さんもケモノスキンもふもふしましょう! お揃いで!」
ルナはそう言って彼らにスキンを手渡す。
斯くして、ルナの画像フォルダにはクラン『憂国学徒兵』たちとのもふもふスクリーンショットが追加されるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
薄翅・静漓
ガチャも面白そうだけど、『学園』を観光してみたいわ
廃墟の時からどんなどころだったのか気になっていたの
『憂国学徒兵』の皆も、また会えたわね
探検中、面白いものは見つけた?
私は学園のような場所とは縁がなかったから、何を見ても新鮮で楽しい
向こうのホビースペースにはもう行ってみた?
まだなら案内したいわ
店の中はどうなっているかしら
購買部みたいに物が買えるようになっているかしら
この間の依頼でも討伐報酬を貰ったし
アイテムが並んでいたらなにか買ってみたいわ
記念になるような物がほしいの
クエストの報酬アイテム、無料100連分ガチャチケット。
これはクエストに参加した者たち皆に配られるものであった。ゲームプレイヤーであれば垂涎の的というやつである。
だが、薄翅・静漓(水月の巫女・f40688)はガチャを回すよりも、猟兵たちと共に復元した『学園』を見て回りたいと思っていた。
自分が担当した区画は、学園の周辺に配置された商店街エリアだった。
言ってしまえば、放課後フェイズで立ち寄ったりすることのできる場所、という位置づけになっているらしい。
その一区画に彼女はホビースペースを建築していたのだ。
「他の場所も見てみたいわ」
そう言って彼女はガチャを回すより早く、復元された『学園』の中を見て回る。
校門をくぐって、校庭を横切る。
白線引かれた地面。サッカーゴールやバスケットなどのスポーツを行うための設備もある。遠くにはプール施設だってある。
まだ校舎の中にはNPCが配備されていないようであるが、それでも、シンとした校舎の空気は静漓にとって好ましいものだった。
「こんなふうになっているのね。他に何か設備はあるのかしら」
ゆっくりと視線を巡らせると、校庭に入ってきたゲームプレイヤー……クラン『憂国学徒兵』たちの姿がった。
四人のゲームプレイヤーが、猟兵たち以外の初めての来訪者だった。
「『憂国学徒兵』の皆、ね」
「あっ、あんたは。なんだよもー、私達が一番乗りかと思ってたのに、もう結構人がいるんだよなー」
「お久しぶりです。その節はどうも。助かりました」
「息災ないようで何よりだ!」
「あなたも此処の復元クエストを請け負っていたの?」
四人の言葉に静漓は静かに頷く。
「復元されてから探索をしていたの。あなたたちも何か見つけた?」
「あっちには展望台があったぜ。絶好のスクショ映する場所だった!」
「そう、それはよかった」
展望台か、と静漓は『アイン』が示した先を見やると、確かに小高い丘の上にそのような設備が誂えられている。
『学園』と言っても、学園周辺をまるごと落とし込んだような拠点になっているのだろう。
穏やかに過ごすためのエリアなのかもしれない。
「此処は何を見ても新鮮で楽しいわ」
「わかります。現実の学園とは全く違いますからね。キラキラしていて、心がとっても踊ります」
「そうね。それで」
静漓は彼らを見やる。
既視感はあるけれど、きっと自分の知る彼らとは違うのだろうと思う。けれど、と彼女yは思ったのだ。
「向こうのホビースペースにはもう言ってみた?」
「ホビースペース?」
「ええ、私が作ったの。まだなら案内したいわ」
そう言って、静漓はクラン『憂国学徒兵』たちの面々を案内する。
そこに掲げられていたのは静漓が作ったホビースペース『水月模型店』の建物だった。
扉をくぐれば、そこには彼女が知る模型店のように数多くの模型アイテムが並んでいる。
「なんだ、これ……すっごいな!」
「え、これなんです? 自分で組み立てるんですか?」
「玩具、というやつだろうか! いやはや、これだけたくさんの商品があるのは初めてだな!」
「あ、あわわわ、す、すすごい……!」
彼らの反応はどれも初めて見るものに対するものだった。
それを見て、静漓は口角をわずかに上げる。
「此処のアイテムはトリリオンで購入できるみたいね。何か欲しいものはある? 記念に買ってあげるわ」
「マジで!?」
じゃあ、これ! と四人が示し合わせたのは同じ人型ロボットの模型アイテムだった。
気が合いすぎだろ、と四人は笑っているが、静漓もまた同じアイテムを手にしている。
記念に、と言ったがその通りになったと思った。
「じゃあ、これを」
静漓は、四人の分と自分のもの、そしてもう一つ追加して模型アイテムを購入し、己のアイテムストレージにそっと置くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
アイ・ノルマレイス
【まっくろ】【WIZ】
……おしりが痛いですー
黒い人が魔物使いとかそういうのなら先に言っておいてほしかったですー
大人しくふくびきの順番待ちですー
……んー、この景品リストの「がくせーふく」ってのを見てるとなんだか不思議な気持ちになるですー
懐かしいような、帰りたいようなそうでないような……
変ですねー、
学校に通ったことなんか無い「ボク」に、「高校時代」の思い出なんて無い筈なのに
……んー、気にしても仕方ないのでふくびきをガンガン回すですー
もし「がくせーふく」が当たったらエイルさんか冒険者さんにあげるですー
そもそもボクは他の服着れなかったのを思い出したですからー
(※白の聖衣自体がある種の封印な為)
黒沼・藍亜
【まっくろ】【WIZ】
なんなんすかこの白いの!
仮にもUDCの産み落とした眷属の類をおやつみたいにつまむんじゃないっすよ!
……てか、魔喰者?だからってほんとにだいじょぶなんすかね?
で、ガチャっすけど「学園ピックアップ」かぁ……
……うん、回しはするけど基本的に成果は他の人にあげちゃうっす
いやー、もし学生服当たっても人が着てるの見るのはともかく、自分が着るのはちょっとね
ほ、ほらー「歳考えろ」とか「コスプレにしか見えない」とかあるっすし?
(間)
(溜息)……んー、なんというかさ
「大事すぎて触れる事も躊躇してしまうもの」って、あるじゃないっすか
……「ボク」にとって「高校時代」とかってそういうものなんすよ
「なんなんすか、この白いの!」
黒沼・藍亜(に■げ■のUDCエージェント・f26067)はアイ・ノルマレイス(知らない記憶、胸に空いた奈落・f41788)を抱えて尻叩きの刑に処していた。
なんでかと言うと藍亜の呼び出した眷属をアイがぽりぽりごっくんしていたからである。
アイはNPCだが魔喰者である。
モンスターを食べることで成長していくジョブなのだ。
それゆえにモンスターっぽい、いや、冒涜的な姿をしていた藍亜の呼び出した眷属をぽりっていたのだ。
モンスターじゃないからユーベルコードも得られなければ成長度も得られない。
それを不思議に思ってアイは、あっちもぽりぽり。こっちもぽりぽりしていたのだ。
数が足りないことに気がついた藍亜は、眷属たちの経路を辿ってきてみれば、アイがひょうぱくとおやすをつまむみたいにして彼らを口に運んでいる光景であった。
「……てか、本当に大丈夫なんすかね? 仮にもUDC眷属っすよ!?」
「……う」
呻くアイに藍亜は思わず彼女を立たせる。
何か異常が出たのかと思って、彼女の身体を改める。
「……おしりが痛いですー」
「そこっすか!」
さっきまで尻叩きしていたので、そこが痛い、とアイが訴えているのだ。
「うー、黒い人、魔物使いならそういうの先に言っておいてほしかったですー」
「え、えぇ……」
藍亜はアイの様子になんとも言えない顔になる。
魔喰者である、と彼女は言っていたが、本当に大丈夫なのだろうか? いやまあ、此処はゲームの世界であるから勝手が違うのかも知れない。
そう思うことにした。
「黒い人もふくびきですよねー?」
「ふくびき? あ、ガチャのことっすか」
「それですー、やりにいくんですよねー?」
「はあ、せっかく報酬としてもらったものですしね」
アイの言葉に藍亜は頷く。
バグプロトコルの排除と『バグシティ』を『学園』に復元するクエスト。
その報酬が無料100連分ガチャチケットなのだ。これの意味する所を知っている、というのならば、アイもゲームプレイヤーなのか? と藍亜は思ったのだが、どうにもピックアップに気が引ける。
何故って。
それはもう『学園』ピックアップだからである。
手に入る高レアアイテムは学生服だったり、学生にちなんだものばかりである。
「うー、でもなぁ……」
日暈がぐるんと回って虹色の回転し始める。
高レア演出にアイは、わーとあんまり喜んでいるのかいないのかわからない表情をして藍亜の後ろで見上げている。
「学生服っすかぁ……それもミニスカバージョンと」
う、と藍亜は益々苦々しい顔をしてしまう。
だって、これを己が着るのはどうなのだと思ってしまうのだ。だって、年齢考えろとか、コスプレにしか見えないとか散々なことを言われそうだと思ったのだから。
いや、それはない。
断言しておこう。
藍亜の学生服姿には需要しかないことを。だが、これを伝えられる者がいない、ということが歯がゆいものである。
「わー、こちらも虹回転なのですー」
学生服。
こちらもアイが引き当てたのはピックアップアイテムの学生服だった。
でも、アイもまた自分で着るつもりはあんまりないようだった。だが、なんていうか、このアイテムを見ていると不思議な気持ちになる。
確かに自分はノンプレイヤーキャラクターである。
AIだ。
学園になんてもちろん通ったことはない。なのに、とアイは思うのだ。
「変ですねー」
帰りたいと思ってしまう。いや、帰りたくないとも思ってしまう。
懐かしむ、という感情があったのならば、きっとそうなのだろうとアイは思う。でも、それは己には本来あり得ないものであるのだ。
思い出なんて無い。
なのに、どうしてかアイは狂おしいほどの感情が胸の奥底で渦巻いているのを感じてしまっているのだ。
「でも、これ着れないのですー」
「え、なんでっすか?」
せっかく高レアアイテム当たったのに、と藍亜は訝しむ。
「ボクはそもそもこれ以外の服を着れないのですー」
彼女の白い聖衣。
これはどうあってもアイテムスロットから外せないようになっているのだ。これもまたノンプレイヤーキャラクターの難点であったのかもしれない。
実際にはそうではないかもしれないが、藍亜には理解できないことだった。
「でも、黒い人ー、あたなはこれを着れますよねー? 着ないのですー?」
その言葉に藍亜はため息を深く、深くつく。
「……んー、なんというかさ」
これは、とアイテムを掲げて藍亜は思う。
「『大事過ぎて触れることも躊躇してしまうもの』ってあるじゃないっすか」
「……?」
「わかんないかー……ま、『ボク』にとって『高校時代』とかってそういうものなんすよ」
だから、と藍亜は近くに居たクラン『憂国学徒兵』の面々を招く。
何? と彼らは招きに応じてくれる。
アイと共に藍亜は手に入れた高レアアイテムを彼らのストレージに移動させる。
「えっ!? なんで!?」
「いやー、ボクらには必要ないものだったというか。まあ、おすそ分けって奴っすよ」
「そーなのですー」
そう言って二人は正反対の外見ながらも、同じように手に入れたアイテムを彼らに手渡す。
必要のないものではあったけれど、大切なものであったということだけは彼女たち二人の間に共通していたものだった。
きっとそれはアイテムというものではなくても実感できるものだったのだ。
アイはよくわからない。
藍亜はわかっているからこそ手を伸ばせない。
在りし日のいつかのだれかのためにこそ、自分たちの手元にあってはならないと思ったのかも知れない。
「だから、うまく使ってくれると嬉しいっす」
そういって藍亜は苦笑いめいた笑みを浮かべ、アイはなんとも不思議そうな、ぼんやりとした表情で小さく頷くのだった――。
大成功
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朱鷺透・小枝子
『似てるっていったけどさ、すっかり様変わりしたねぇ…!
これはもう、復興を祝して門出の歌を歌うしか!』
「…そうですねぇ」
『…ふむ、思う所、あるかい?』
「……自分の故国は…いえ、なんでもありません」
『…そうかい?まぁ、そういう事にしておこう。』
「はい、帰りましょう。チケットもナイアルテ殿に渡さねば」
『あいや、奏者、待ちたまえよ。』
ガシャガシャと鍵盤ハーモニカに変形するクレイドル・ララバイ。
嫌な予感。
『この街の復興を祝して、さぁ、歌おうじゃないか!
エイル君!路上ライブは許可してくれるかい!?』
当たった。
『さっき私の提案にのっただろう?まさか、今更反故にするのかい?!』
逃げ道が塞がれた。
「いえ、自分はまだ人にそんな聞かせられる腕前では…」
『なーにを言ってるんだい!未熟だからこそ!人に聴いてもらうのが大事なんじゃないか!大丈夫!こういう場では気持ちが大事なんだ。あと選曲。』
機械絆を経由して頭の中に提示される楽譜。
……諦めよう。たしかに、祝う事は良い事だ。
せめてケチがつかないよう、精一杯がんばろう。
確かに既視感のある場所だった。
けれど、猟兵たちのエッセンスを取り入れながら復元された『学園』はすっかり様変わりしてしまっていた。
少なくとも『クレイドル・ララバイ』はそう思った。
『いやぁ、変われば変わるものなんだねぇ。それにしたって猟兵っていうのはいろんな世界からやってきているからか、無節操というか。そもそも人の感性というのが千差万別なのだから、こうなるのはある種の必然であったのかもしれないねぇ……! これはもう復興を祝して門出の歌を歌うしか!』
その言葉に朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は、そうですねぇ、となんとも気のない返事をしていた。
彼女の瞳が捉えているのは復元された『学園』である。
既視感を覚えた廃墟は、復元されてもう見る影もない。
『……ふむ、思う所、あるのかい?』
その言葉に小枝子は言葉に詰まる。
なんて言って良いのかわからない。自分の故国を思い出したが、此処はクロムキャバリアではない。ゲームの中の世界だ。
荒廃した光景が己の知るそれと重なって見えたなどと言った所で、自分の他の誰に共感を得ようというのだろうかとさえ小枝子は思っただろう。
だから、頭を振る。
「……いえ、なんでもありません」
その様子に『クレイドル・ララバイ』はそうじゃないだろうと言葉を発しようとしてやめた。そういうことにしておこうと思ったのだ。
それは彼女の心を慮ってのことであった。
何かを告げることも優しさかもしれないが、何も告げないこともまた優しさなのだ。少なくとも『クレイドル・ララバイ』のAIとしての性能は、そう判断したのだ。
「帰りましょう。あ、そうだ。チケットも差し上げなければ」
小枝子はグリモア猟兵に無料100連分ガチャチケットを進呈しようとしていたのだ。優しい。
けれど、『クレイドル・ララバイ』はそれを制する。
『あいや、奏者、待ちたまえよ』
その言葉と共に魔楽機の姿が鍵盤ハーモニカに変わる。
え、と小枝子は声を上げる。
「何故、今その姿に?」
『決まっているだろう? 奏者が一番慣れている姿になったまでのことさ!』
「そういうことを聞いているつもりはないのでありますが」
小枝子はどうにも嫌な予感がした。
こういう流れって大抵良くない流れであることを彼女はこれまでの『クレイドル・ララバイ』とのやり取りから学んでいた。
けれど、『クレイドル・ララバイ』は止まらない。
鍵盤ハーモニカの空気を送り込むホースがにゅるっと小枝子の腕に絡む。
まるで首みたいにホースがくねくね動く。
『この街の復興を祝して、さぁ、歌おうじゃないか!』
「勝手なことを。そんなことが許されるはずもないでありましょう!」
『いやなに、すでにあのノンプレイヤーキャラクターの彼女には許可を取ってある。実はね! すでにね!』
「そんな! なんでそんなことを! 自分はまだ……!」
『いやぁ、さっき私の提案に乗っただろう?』
え、と小枝子は思う。
冒頭を思い出そう。
確かに小枝子は気のない返事で「そうですねぇ」なんて言った。
けれど、それが了承に捉えられるとは思っても居なかったのだ。
嫌な予感っていうのは、そればっかり当たるものである。
『奏者、君は自分の約束事を反故にするのかい!? そうじゃないよねぇ! 君は決められたことはちゃんと守る子だ! そういうものだって教え込まれているからねぇ!!』
めちゃくちゃやかましい。
それくらいに小枝子は逃げ道をあっさりと塞がれていることに気が付くこともできないほどに、感傷に浸ってしまっていたのだ。
「いえ、自分はまだ人にそんな聞かせられる腕前では……」
「お、なになに。何かすんの?」
「鍵盤ハーモニカ……? 珍しいアイテムですね」
「一曲披露してくれたのなら、トリリオンのおひねりくらいは用意するぞ!!」
「素敵な曲をお願いね」
抵抗を試みる小枝子の後ろには、クラン『憂国学徒兵』の面々がいる。
いつのまに、と小枝子は驚愕する。
『なーに言ってるんだい! 未熟だからこそ! 人に聴いてもらうのが大事なんじゃないか! 大丈夫! こういう場では気持ちが大事なんだ! あと選曲もね!』
そういう問題じゃない、と小枝子は思ったが諦める。
頭の中に提示される楽譜。
眼の前の期待に満ちた『憂国学徒兵』たちの眼差し。
これはもうどう転んでも演奏するしか無い流れである。小枝子は破壊の権化であるが、空気までは破壊できないのである。
「……わかりました。せめてケチがつかないよう、精一杯努めますので」
そう言って小枝子は鍵盤ハーモニカのホースに口をつける。
響くは門出の曲。
高らかに。
どこまでも続く未来に手が届きますようにと願う曲は、吐き出される吐息を音色に代えて、響いていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、結構いい感じなのに仕上がったことですし、クランの皆さんも喜んでくれて何よりなのですよ。
さて、問題のガチャですが…(と、バナーを確認(【世界知識・情報収集】))。
えーと、ピックアップアイテムが「懐かしの女子校生セット(セーラー服・ブルマ・旧スク水)」?で、SSR出現確率1%?――ならばUCで60%にアップ!目当てのが出たら早速装備!他のレアリティ低めなのは強化素材に!いらないSSRアイテムは分解――え、「SSRアイテムを分解しようとしています。よろしいですか?」構わず実行!ついでに「今後はこのメッセージを表示しない」にチェック重点!
――で、あとは装備したコスチュームを披露しつつ、クランの皆さんと雑談でもしていきましょうか(【演技・パフォーマンス・ブームの仕掛け人】)。
※アドリブ・連携歓迎
『学園』の復元が終わったことを確認し、その光景を見やる。
小綺麗に舗装された道。
立ち並ぶ校舎と校庭。その施設は真新しく、少し近代的な学校としての体裁を整えていた。そして、その校舎を取り囲むのは商店街地味た施設や、宅地だった。
『学園』と呼ばれていたが、どうやら此処はそういう学園シュミレーションゲームのような拠点となっていたのだろう。
「うん、まあまあ良い感じに仕上がったみたいですね」
シャルロッテ・ヴェイロン(お嬢様ゲーマーAliceCV・f22917)は満足げだった。
まあまあ、とは言ったが猟兵たちのエッセンスも加わって、確実にアップデートできたのではないだろうか。
「ありがとうございます。こちらが報酬の無料100連分ガチャチケットになります」
「はい、どうもです。うん、クランの皆さんも喜んでくれているみたいですね。何よりです」
彼女の言葉に見やるはクラン『憂国学徒兵』の面々だった。
猟兵たちを除けば、彼らが初めてのゲームプレイヤーの来訪であったのだ。タイミングが良すぎるとは思ったが、どうやらNPCの『エイル』が親交を持っていたようで招待メールを送っていたようだ。
「すっげーな。此処まで全部建築して復元しちまうなんて」
「本当に此処の拠点を使わせてもらって良いのでしょうか……」
彼らは困惑しながらも目を輝かせて『学園』拠点を見て回っている。
「さて、わたしは問題のガチャを……と」
バナーを見やる。
『ゴッドゲームオンライン学園ピックアップ』と恒常ガチャのに種類がある。
どうやら学園ピックアップはいくつかのグループに別れているようである。
「なになに……懐かしの女子校生セット? で、確率はSSRが1%?」
ふむ、とシャルロッテは狙いを定める。
その瞳がユーベルコードに輝いているように思えるのは気のせいだろうか。いや、気の所為ではない。
彼女は天賦の才を持っている。
つまり、それはSSRアイテムをゲットするという確率が0%でないのならば、最低成功率が60%に引き上げられるのだ。そういうユーベルコードなのだ。ずるくない? ずるくない!
そう、つまり!
シャルロッテがガチャを回す以上、その高レアアイテムを獲得する確率は最低でも6割! なんたることであろうか!
「ふふん。楽勝です」
早速ガチャチケットをぶっこむ。
そうすれば出るわ出るわ虹回転。日暈がグルンぐる回る度に虹色に輝いているのだ。そのすさまじい光景に見ていたクラン『憂国学徒兵』の面々は空いた口が塞がらなかった。
他の猟兵たちのガチャ結果を見ていたからこそわかる。
このゴッドゲームオンラインのガチャは渋い。
めっちゃ渋い。
なのに、シャルロッテは虹回転を連発しまくっているのだ。
「ふんふん、学生服可愛いですね。えっと、これは体操服……? え、本当にこれが?」
ブルマである。
古の体操服である。そう、かつてはこうじゃったんじゃよ……と老人が教えてくれそうなほどのデザインを装備してシャルロッテは顔を赤らめる。
旧スク水なんかもそうであろう。
ともあれ、シャルロッテの虹回転乱舞に誰もが恐れおののいていた。
とは言え、全てがピックアップアイテムというわけではない。
必要のない高レアリティは保護しても、いらないアイテムは分解して素材にしてしまうのだ。
『SSRアイテムを分解しようとしています。よろしいですか?』
ポップアップウィンドウをシャルロッテは即座にチェックボックスにチェックして分解する。
「ええええー!?」
『憂国学徒兵』の面々が驚くのも無理ないことである。
高レアリティのアイテムはトリリオンを突っ込んでもそう簡単にでないものなのだ。手に入れたものが自分には用をなさないものであっても、とりあえず取っておこうとするものなのである。
トレードとかあるしね。
でも、シャルロッテは躊躇なく分解してしまったのだ。
さらには『今後はこのメッセージを表示しない』というチェックもしてしまっている。
今後手が滑って誤って分解してしまうという可能性もあるというのに、だ。
「す、すげぇ……」
ごくりんこ。
シャルロッテの振る舞いに『憂国学徒兵』の面々はおののく。
けれど、シャルロッテはごきげんである。
「どうでしょう? こういうのって悪くないでしょう?」
シャルロッテは手に入れた高レアリティ装備で身を固めた姿をくるりと翻して見せる。
高レアリティだけあって、動くだけでなんかキラキラした光の粒子が飛び散ったりしている。
凄い絵面である。
「悪くないけど……すごいなアンタ……」
「あんな虹回転演出始めてみました……あるんですね、あんなことが」
「『AliceCV』、この名前を覚えておいてくださいね」
いや、忘れられるわけ無いでしょ……と『憂国学徒兵』の面々は彼女の豪運ぶりを目の当たりにして、彼女の名前をしっかりと頭に刻むのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
菫宮・理緒
【サージェさんと】
指向性マイクのテスト良し、音声おっけー!
サージェさん、そっちの8Kカメラもおっけー?
準備は万端だね。
それではナイアルテさん、ガチャ回していいよー♪
と、もらった100連ガチャチケットをナイアルテさんに渡すよ。
存分に回して!沼って!トリプって!
え?200回回しても虹が出ない!?
虹の確率って、だいたい3%前後のハズなのに……?
これはわたし並のガチャ運のなさだね。
それならしかたない。
ここはさらにガチャチケも偽装錬金いたたぁ!?
サージェさんと『エイル』さんのダブルツッコミとかご褒美!?
わ、わかったよー。作らないから!ちゃんと実費で貢ぐから!
ナイアルテさんどんどんいっちゃってー!
サージェ・ライト
【理緒さんと】
100連ガチャよ!私は帰ってきた!!
ええ、ナイアルテさんの沼落ちだぶるぴーす顔を見るために!
理緒さんの準備も万端のようです
ではナイアルテさんどうぞ!!
ええ、私の100連ガチャ券もナイアルテさんに進呈です
さぁいまこそ虹を掴むとき……!
……まぁ知ってました
こーゆー時って出ないんですよねえ
仕方ありません
理緒さん、ここは|実弾《課金》で……ってそれはダメです!?
まさかのエイルさんと息ピッタリのダブルアタック
実は私の生き別れの姉とかそんなことありませんか?(15歳クノイチより)
ともあれ、私たちはナイアルテファンクラブとして
ナイアルテさんが虹を掴むまで支援する義務があるのです!
さぁごーごー!
「指向性マイクのテスト良し、音声おっけー!」
菫宮・理緒(バーチャルダイバー・f06437)の瞳はギンギラしていた。
なんでそんなに、と思う。
「サージェさん、そっちの8Kカメラおっけー?」
「はい、ばっちしです!」
サージェ・ライト(バーチャルクノイチ・f24264)は機材のチェックをして、指差し確認してみせた。何もヨシって感じじゃない気がするのだが。
だがまあ、二人は全てにおいて、ヨシ! と準備を万端にしていたのだ。
「100連分ガチャよ! 私は帰ってきた!! ええ、推しの沼落ちだぶるぴーす顔をみるために!」
ろくでもない理由だった。
マジで言ってる?
マジですけど、みたいな顔をしない。理緒とサージェの二人は、このために戦ってきたのだ。
バグプロトコルをぶっ飛ばし、面倒な素材改修クエストと建築システムを使った『バグシティ』の復興。
これを為したものに送られる報酬。
それが無料100連分ガチャチケットなのである!
大仰に言ったが、本来それは彼女たち二人が使用するべきものなのだ。
だが、彼女たちは自分でそれを利用しない。
何故ならば!
何度も言うけど、推しのためである。これは推し事なのである。推しのためならいくらでもぶっ込める。それが推し活する人達の共通した真理であり、至高なる活動なのである!
とはまあ言ってみたものの。
当の本人は困惑している。
だって100連分である。
二人合わせて200連である。
言ってしまえば、供給過多になってしまった餌を前にしてドン引きしちゃう猫のあれみたいな感じになってしまうのは無理な駆らぬことであった。
「いいんだよ! 存分に回して! 沼って! トリプって!」
なにそれ掛け声?
「どうぞどうぞ! 今こそ虹を掴む時ですよ……!」
理緒とサージェのぐいぐいくる勢いに押されながらもガチャを回す推し。もとい、沼ったグリモア猟兵。
ぐるんぐるん回る日暈。
まるで虹に輝かない。
そう、我欲に塗れた指先が虹を掴むことなどできはしないのである!
「あぁ~また虹回転ではないですねぇ……まあ、知ってました。こーゆー時って出ないんですよねぇ」
サージェは深く頷く。
そういうもんである。物欲センサーっていうのは太古の時代からあるものである。
欲しい! 欲しい! と強く願っていると出ない。でも、そんなでもないかなぁ、むしろひつようないんだけどな、もう、みたいな感じになるとポロッと出てくる。
そういうもんなのである。
逆鱗とか紅玉とかそういうもんである。
何の話しているのかわからなければ、それでいいのである。知らない幸せっていうのもあるもんだから。
「本当に沼ったね」
理緒は思った。
大体SSRの確率って3%前後。サービスで増しても6%。
200連もやれば高レアリティアイテムなんて一回は出そうなもんである。
目を覚ませ、推しの笑顔がしおしおになっているぞ!
「これはわたし並のガチャ運のなさだね。仕方ないね。なら、ここで偽装錬金(ギソウレンキン)でガチャチケ複製いたたたぁ!? ありがとうございます!」
グリモア猟兵と『エイル』、そしてサージェのトリプルつっこみが理緒を襲う。
「だめですよ、理緒さん。それは。それは本当にダメです。やるなら|実弾《現金》ですよ!」
まさかの『エイル』とグリモア猟兵の息ぴったりツッコミにサージェはおののく。
自分がツッコまなくても理緒は後頭部をスパンとされていたであろう。
「実は生き別れの姉とかそんなことありませんか?」
三姉妹だったのではないかとサージェは思った。
「ご褒美だよ、ただの! こんなの! でもユーベルコードならいくらでも……」
「だめです」
「あ、はい。作らないから、実費で貢ぐから!」
「それもどうなんでしょうねぇ……でも、私達はファンクラブ! 虹を掴むその時まで支援する義務があるんです! さぁ、宵越しのトリリオンは持たない主義の理緒さんのお財布でごーごー!」
「協力金はサージェさんからも出ているからね。口座抑えているからね」
「えっ!?」
あとでシリカさんにばりぃってやられるやつである。
だがもう遅い!
すでにガチャの回転は始まっているのである!
サージェはまさか自分がオチに使われるとも思っても居ないだろう。
沼ったガチャは頭まで浸かろうね。そしたら天井という名の星が見えてくるから。
きっと、二人のトリリオン口座はすっからかんになるだろうけれど、推しの笑顔が見れるなら、それでいいよね、とかそんなすっかり推し活にどっぷり使った二人はグリモア猟兵と共に来月の引き落とし金額を見て青ざめる運命が此処に決定しているのである――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
ガチャチケ……これで『『エイル』さんガチャ』ができるんです?
違うんです?
これで『エイル』さんグッズげっとするために頑張ってたんですよね?
グッズなんてない?
そんな!
『エイル』さんの缶バッジとかアクスタとか、
『エイル』さんと2ショットチェキが撮れる権とかないんですか!?
わたし、大当たりは『エイル』さんの子供が産める権だと思ってましたよ?
え?ステラさんの頑張りからみまして、そのくらいはあるんじゃないかなー、と。
そういうガチャじゃないんですね。
それでは『エイル』さんもいっしょにいかがですか?
わたし、この手のものにはあまり興味がありませんのでー。
あ、でも、楽器がでたらいただけると嬉しいです!
ステラ・タタリクス
【ステルク】
え?100連ガチャですか?
それいらないのでエイル様のメイド権ください!!
なんなら犬でも構いません!!
誰がやべーメイドですか!!
ルクス様何を……え、えいるさまがちゃ……?(宇宙メイド顔
で、ですよね、そんなものありませんよね、ふぅ
とりあえずエイル様を愛でる権利をいただけると嬉しいです!
具体的には頭なでなでとか!ハグとか!
あれっ?!スルーされてますか私!?
ところでエイル様はNPCとは存じてますが
ご自身で解決には向かわないのですか?
|救命者ではなく観測者《バイ・スタンダー》なのでしょうか?
いえ、もしかして皆を|絆ぐ者《セラフィム》?
私の|生き様《メイド》の為に色々とお話を聞きたいのですが!
『バグシティ』に巣食うバグプロトコルの排除と街の復元。
このクエストの報酬は、破格の無料100連分ガチャチケットであった。それはゲームプレイヤーならば皆涎を垂らして手を伸ばすアイテムである。
それを亜麻色の髪の少女NPC『エイル』から受け取って、ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は首を傾げる。
彼女にとってはあまり馴染みのないものであったのだ。
「これで『エイル』さんガチャができるんです?」
「えっ」
「無料100連分ガチャチケットはいらないので、『エイル』様のメイド権ください!!」
ステラ・タタリクス(紫苑・f33899)が間髪ぶっ込んでくる。
もう様式美って言えば良いのかな。
そうするのが自然というか、そうしないといけないというか。
「なんなら犬でも構いません!! ペット枠空いてませんか!!」
「うわ、やべーですね」
ルクスはいつもよりもさらにやべー感増したメイドことステラを見やる。
でもまあ、あんな面倒なクエストをしっかりこなしたのだ。それにはやっぱり報酬という名の餌がなければやってられないものであろう。
そういう意味ではステラはルクスの言うところの『エイル』さんガチャにて排出される『エイル』グッズをゲットするためにがんばっていたのだろうと思っていたのだ。
だけど、それを上回るのがメイドである。
単刀直入。
火の玉ストレートの要求に『エイル』はちょっと引いた。なんでだよ。
「あの、そういうのは、ないんですが……」
「そんな!」
ルクスは目を見開く。
ならこれまでのステラの献身的なメイド的なえっと、メイドに対する風評被害が酷いことになってまでステラががんばってきたのはなんだったのか、と!
「『エイル』さんの缶バッジとかアクスタとか、『エイル』さんと2ショットチェキが撮れるとか、そういうの! ないんですか!? わたし、大当たりは『エイル』さんの子供が――」
あっぶねぇ!
急に何言い出すんだこの勇者。
「な、ないです」
そんな一連のやり取りにステラは宇宙猫顔していた。あ、違う、宇宙メイド顔ね。そうそう。そういうの。
「え、えいるさまがちゃ……? え、ないのですか、そんなものありませんよね、ふぅ」
ふぅ、じゃないが。
ステラはしかし諦めなかった。
諦めなければ夢は叶う。そんな気持ちだった。
たとえ、今目の前にいる『エイル』が少女だったとしても関係ねぇ! と言わんばかりの顔であった。
「ステラさんがんばりましたよ。いっぱいがんばりましたよ?」
「私、『エイル』様を愛でる権利とか頂けたら嬉しいですはーと」
はーと、じゃないが。
さっきからツッコむの大変である。とは言え、ステラはくじけない。なんかこういい感じになりたい! その欲望が噴出していた。顔アイコンもそんな感じだった。顔アイコン? こっちの話である。
「具体的には頭なでなでとか! ハグとか!」
「あ、わたし、こっちでガチャしておきますねー」
そんなステラをスルーしてルクスはガチャってみる。
なんかこういい感じのアイテムが欲しいと思ったし、なんなら楽器のアイテムがあったら嬉しなって思ったのである。
「私スルーされてますか!?」
してますけど、とみたいな顔してルクスはガチャを回す。
排出されるアイテムは武器とか防具が多いようであるが、ルクスはいくつかの楽器のアイテムを手に入れる。
「これって楽器なんですかね?」
どう見ても殴打する感じのハンマーみたいだが、バグパイプみたいな楽器である。なんか難しそうだなぁって思いながらもルクスは楽器アイテムが手に入れられた。
ステラの耳が心配である。
そんなステラの頭を『エイル』は撫でる。
「え、偉いですね、偉いえらい。とっても偉いですよ。お手伝い、ありがとうございます。私は、自分で何かを解決できないので。だから、私の代わりにしてくれたこと、とっても嬉しいです」
なでなで。
ステラの要望に応えるように『エイル』は微笑んでいる。
ついでにハグもしてくれた。
「これからもよろしくお願いしますね」
ニコ、と微笑んだ『エイル』。
しかし、ステラが反応していない。その顔を覗き込んでルクスは一つ頷く。
「……息していないですね」
突然の供給過多。
なでなでしながら感謝の言葉にスマイルにハグ。
あまりの突然の供給にステラの心臓が持たなかったのである。
誰か! 誰かー! このなかにお医者様はいらっしゃいませんか――!!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
イリスフィーナ・シェフィールド
WIZ
おお、立派に復旧されましたわね。
素材集めに専念して復旧側には回ってませんのでどういう風になったか見て回りましょうか。
ん、憂国学徒兵の皆様がガチャを回されてますね、どうだったのでしょう。
せっかく100連文貰ったのですし回してみましょうか。
なにか当たればラッキーな気持ちで参りましょう。
……そういえばナイアルテ様はもう回されたのでしょうか、
(結果はお任せ、憂国学徒兵やナイアルテと交換してもよししなくてもよし
……こっちで手にいれた物は現実に持ってけないのでしょうし)
復旧された『学園』の様子をみやり、イリスフィーナ・シェフィールド(巫女兼スーパーヒロイン・f39772)は立派なものだと深く頷いた。
建築システムによって合成したアイテム素材さえあれば、建物は一瞬で作り上げられる。
それがゴッドゲームオンラインの良いところである。
時間もさしてかからないが、問題なのは素材アイテムを集める手間だけだったのだ。
故にイリスフィーナは素材を集めることに終始していたので、復旧した街を見るのは全てが終わった後だったのだ。
「立派な学園が出来上がりましたね。周囲に商店街や宅地などもあるんですね」
言ってしまえば、学園シュミレーションゲームみたいな拠点である。
きっと此処でいろんなイベントが行われるのならば、きっと楽しい催しになるに違いないとイリスフィーナは頷く。
「あー!! 全然出ねぇ!!」
その絶叫をイリスフィーナは耳にする。
どうやらクラン『憂国学徒兵』たちがガチャを回しているようだった。
他の猟兵たちが無料100連分ガチャチケットを持ってぐるんぐるん回しては大爆死したり、大当たりを引いたりしているのを見て、自分も、と思ってしまったのだろう。
しかし、ゴッドゲームオンラインのガチャ確率はしぶい。
本当に渋い。
茶渋くらい渋いし、なんなら爆死が後を引く。
「うぅ……学生服セット……」
「まあまあ、出る出ないは時の運といいますし……」
「そうだぞ、なんだかんだで結構俺たちもアイテムもらってしまったしな!」
「ええ、なんていうか親切な人が多いみたいね」
『憂国学徒兵』の面々が、高レアアイテムがゲットできなかった一人のゲームプレイヤー『アイン』を慰めている。
どうやら、四人でお揃いの学生服防具を使いたかったようだが、彼女だけどうにもゲットできなかったようなのだ。
「なるほど……わたくしもチケットをもらったのです。せっかくですし、回して見ましょうか」
イリスフィーナの頭上で日暈がぐるんと回る。
何か当たればラッキーくらいの気持ちだったのだ。
日暈が虹色の粒子を伴って回転し始める。レア確定演出である。イリスフィーナは、あら綺麗ぐらいにしか思っていなかったが、其の回転が連続したのだ。
そんなの滅多にないことである。
だが、しかし、起こり得ないことでもない。
連続して排出されたアイテムは学生服。それもダブってしまっていたのだ。
「あら、同じものが……」
そう言えば、グリモア猟兵はもうガチャをしたのかな、と思っていただけにイリスフィーナはこれがどのような結果なのか、どれだけの豪運であるのかをわかっていないようだった。
「二連続……!?」
「ええ、どうやらそのようです。同じものが出てしまったのですが、これはどうすれば……」
「と、トレード! して!」
『アイン』というゲームプレイヤーが土下座でもせんばかりの勢いでイリスフィーナの手を掴む。
其の勢いにイリスフィーナは少し驚いたが、四人でお揃いにしたいと思っている彼女の心はわからないんでもなかった。
たしかにトリリオンを突っ込めばいつかは手に入るのかもしれない。
けれど、この時に、というのであれば話は別だ。
今日という日は今日しかないのだ。ならばこそ、イリスフィーナはダブっているから、と彼女に学生服アイテムを手渡す。
「どうぞ。せっかくですものね。皆さんでご活用してくださいまし」
「ほ、本当か! ありがとう! あんたいい人だな! あ、そうだ。その代わりにこれやるよ」
そう言って手渡されたのは水晶球のようなアイテム。
何やらドロップアイテムのようであるが、中で何か水のようなものが揺れている。
「これは?」
「レアドロップアイテムみたい。使い道がわからないんだけど、多分回復アイテムかなんかだと思うんだよね。例えば、即死した時に無効化するとか。そういう類だと思う。よかったら使ってくれよな!」
そう言ってイリスフィーナにアイテムを押し付ける『アイン』の笑顔を見送り、イリスフィーナは手にした水晶球を日暈にかざしてみる。
不思議な水の揺れをみやり、イリスフィーナはともにある彼らの背中を眩しく見るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
明和・那樹
●WIZ
これが学園…か
僕が知っている学校は…統治機構が定める変化のない社会を担う歯車を作り上げる為、個性を徹底的に排除させる洗脳じみた思想教育の場
簡単に言えば人生設計図通りに生きるのがあたり前の価値観を教える所だけど、たぶん僕の様に疑問を抱く子も居るとは思う
だけど、そんな事を漏らせば『特別学級』に連れて行かれるから…収容所か監獄みたいな所でしかない
けど、ここはそんな場所とは思えない
色んな本があるし、色んな建物や部屋があるし…なんだろ、わくわくする
…おっと、|憂国学徒兵《クラン》の皆が来たみたいだね
大丈夫、皆にはエイルがNPCだって事は内緒にしておく
けど俺の事も内緒にしてくれよ?
ふたりだけの秘密、ってね
憂国学徒兵の皆といつも通りのやり取りを交わすけど、この変わらない日常は僕は好きだ
一見すると現実のように変化が無さそうだけど、よく見ると確かな変化はここにある
新しい拠点、新しい話題…そしてガチャ
ちょっと前に散財しすぎて懲り懲りしたけど、ガチャは嫌いじゃない
確定された|結果《未来》が無いからね
明和・那樹(閃光のシデン・f41777)は『学園』というものを見るのが初めてではなかった。
けれど、目の前に広がっている光景はなまじ学校というものを知っている彼にとっては眩しいものに思えたかも知れない。
彼はゲームプレイヤーである。
当然、現実の世界を持っている。
そういう意味では猟兵たちのように多世界を知っている存在であるとも言えるだろう。
とは言え、だ。
眼の前に広がる『学園』拠点は、あまりにも己の知っているそれとは異なるものであった。
彼にとっての学校とは即ち、『統制機構』が定める変化を許容しない社会を回すための歯車を育成する機関でしかない。
個性を排除し、変化を封じ、停滞をこそ美徳とする世界。
『人生設計図』というのが最たる例だろう。
そこに疑問を抱くものもいるだろうが、二度と人の前には現れることはない。
結局、自分の世界に自由という言葉は存在していても形骸化しているに過ぎないのだ。何もかもが定められている。
けれど、此処は。
「そんなことないんだな」
「そうだよ。みんなのお陰で復元することができたんだ」
亜麻色の髪の少女NPC『エイル』の言葉に那樹は頷く。
学園の中の校舎、その一室には多くの本が収容されていた。
今まで見たことのないタイトルであったり、著者のものばかりだ。驚きもあったけれど、それ以上に那樹は己の胸が高鳴っているのを感じた。
言葉にするならワクワクしていると言ってもいい。
「こんな本のアイテムとかどこから持ってきたんだ? 素材アイテムで作れるものなのか?」
「元あったものだろうからね。此処でなら一瞬で創ることができる。知ってるでしょ、シデンなら」
「『閃光のシデン』な」
「ほら、みんなも来たみたいだよ」
そう言って『エイル』が示すのは『憂国学徒兵』の面々だった。
どうやら他の猟兵たちからもらったアイテムや自分で引き当てた学生服装備を身にまとっている。
「それ、ピックアップの?」
「いーだろー! みんなでお揃いにしよーぜって話てたんだよ。シデンの装備が似たような形だったからさ!」
『アイン』と呼ばれるゲームプレイヤーの言葉に那樹は片眉を上げる。
おそろい?
「そう。せっかく友達なんだからさ、お互いの装備に合わせて遊んだりしてーじゃん」
「一体感が出ますしね」
「流石に揃えるのは大変だったがな!」
「あの人達一杯アイテムくれたけれど、よかったのかしら」
四人はそれぞれに猟兵たちが回したガチャから出たアイテムをもらったり譲ってもらったりしていたようだった。
彼らの笑顔を見ていれば、自分が猟兵であることや『エイル』がNPCであったことなどが些細なことに思えてくる。
「俺のは将校スタイルだからな。厳密には違うけど」
「なら、引こうぜ!『エイル』から聞いたんだぜ、報酬で100連分ガチャチケット手に入れたんだろ!」
「100連分もあれば、きっと出るはずです」
彼らに手を引かれながら那樹はガチャスポットに連れて行かれる。
分かっている。
ぶっきらぼうに振る舞っていても、このいつも通りのやりとりが好きだ。変わらない日常めいた、とりとめもない時間。
けれど、はっきりと好きだと思える。
変化のない現実とは違う。
よく見ると確かな変化がわかるのだ。
そんな那樹に『エイル』は笑む。ウィンドウで『憂国学徒兵』の面々には見えないようにメッセージが届く。
『私がNPCだってことは内緒にしてね』
「……」
那樹は少しだけ笑ってメッセージを送る。
『俺のことも内緒にしてくれよ? ふたりだけの秘密だ』
互いに笑う。
変化がないような毎日でも。それでも確かに見出すことのできる変化。変わることは止められない。
たとえ、酷く辛い現実が自分を打ちのめすのだとしても。
それでも変化することは止められないのだ。
「さー、早くひこうぜ!」
「分かってるってば。急かすなよ。もまったく。こないだ散財しすぎて懲り懲りなんだけどな」
「でも、ガチャ嫌いじゃないだろう!」
「まあね」
そこには確定された|結果《未来》はない。
あるのは不確定な、それこそ予想の出来ない未来しかない。
なら、それこそが楽しいのだと那樹は日暈が回転する輝きを見上げ、『憂国学徒兵』の皆とおそろいのアイテムが出る未来に手を伸ばすのだった――。
大成功
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