|PKK《プレイヤーキラーキラー》の正体は
●奢れる者は
昔から『この世界』の中では、強い自分で居られた。
仲間内からは『効率厨』と揶揄されることもあったが、お構いなしだ。
覇権職を選んで、最適解で『敵』を斃していくことに、何の躊躇もなかった。
いつからだろう?
この世界で『敵』とされる存在を屠るだけでは、物足りなくなったのは。
レイドバトルやパーティクエストで足を引っ張るDPS職やタンクは、見ているだけでイライラする。
浪漫を求めて産廃職にしがみついている無様な奴は、自分の使えなさを理解しろ。
覇権職やっててそのザマじゃ、生きている価値もない。
――ああ、そうだ。どうせ、ゲームの中なんだし。
|生きている価値もないなら、ぶっ殺したって構わないよな?《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》
●プレイヤーキラーキラーキラー
「効率厨ってある意味厄介よね、ソロプレイでもやってろっつうの」
グリモアベースの一角で、集まった猟兵たちに向けて突然乱暴に言い捨てたのは、自身もネットゲーム出身者のバーチャルキャラクターであるミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)だった。
「……っと、ごめんなさいね。お口が悪かったわ」
集まってくれてありがとう、と一礼しながら、ミネルバは猟兵たちに向き直る。
「今回の予知は、新しく発見された世界『ゴッドゲームオンライン』での事件よ。この世界、基本的にはプレイヤー同士が協力してクエストをこなしていく形式のゲームなんだけど……」
一度言葉を切り、ミネルバは一枚のホロビジョンを中空に浮かべた。
そこには、軽装備に火力の高そうな大剣を持った一人の青年の姿が映されていた。
「ベルフレッド、っていう聖剣士(グラファイトフェンサー)。こいつね、ただ強いだけじゃなくて、最近|PK《プレイヤーキラー》行為に走り出したの」
目的は分からないけどね、と。ミネルバは呆れ顔で話を続ける。
「プレイヤー同士で戦うコンテンツ……PvPって言うんだけど、そういうゲームならいざ知らず、初心者や|PS《プレイヤースキル》が低い人をわざと高レベルモンスターとの戦闘に巻き込んで死なせてることで、最近悪評が立ち始めた感じね」
ベルフレッド本人は『弱いのが悪い、敵を倒せないのが悪い』っていう言い分でどこ吹く風みたいなんだけど、とミネルバが淡々と語る。
「そこで助けてあげたり、下手な人には教えてあげたるするのが先輩の務めってもんでしょうに、残念ながらコイツにソレは今の所期待できないわ。それに、PK野郎なんてのはこいつ以外にもいるしね、残念ながら」
ため息ひとつ挟んで、ミネルバは六花のグリモアを手の内でぐるぐるさせながら言う。
「ここからが本題。大多数の善良なプレイヤーは、PK野郎たちを何とかして欲しいって思ってる。それに応えるように、PK野郎たちに天誅を下す『|PKK《プレイヤーキラーキラー》』行為を実行する謎の強者の存在が噂されるようになったの」
それなら良いことではないか、と思われただろう。
けれど、これはグリモア猟兵から伝えられた『事件』だ。必ず何か裏があるに違いない。
「PKKの正体は視えてる。ズバリ、オブリビオン――バグプロトコルよ」
バグプロトコルがPKKを成功させてしまえば、一見万々歳のように思えるだろう。しかし、それではPK行為を行っていたプレイヤーが『現実世界での人権を失う』。社会的に抹殺されてしまうのだ。
「悪質PK野郎に人権なし、そうかも知れないわね。でも、それはあくまでゲーム内での話。現実にまで影響を及ぼさせる訳にはいかないわ」
それに、ゲーム世界にのさばるオブリビオンを『GGOプレイヤーたちのダークヒーロー』に成り上がらせる訳にもいかない。
「みんなには、癪かも知れないけどベルフレッドをバグプロトコルから守ってやって欲しいの。かと言って、本人に『あんた、明日殺されるわよ』なんて言っても当然聞きやしないから……」
ミネルバはもう一枚ホロビジョンを展開させると、見るからに危険なトラップが満載なダンジョンの映像を猟兵たちに見せた。
「とりあえず、ベルフレッドが挑戦しようとしてるこのデストラップダンジョンに一緒に挑戦してきて。みんなが足手まといにならない限りは、大人しくしてると思うから」
逆を言えば、少しでもベルフレッドの気に障るような言動――謙遜でも「自分は弱いから」などと言おうものなら、わざとデストラップに嵌められるなどのPK行為に及ばれる可能性もあるので、十分気をつけて欲しいとミネルバは念を押す。
「みんなは猟兵っていう時点で既に強いんだから、自信持って行ってきて頂戴」
わたしも行きたかったな、なんて呟きながら、こおりのむすめは六花のグリモアを輝かせる。
「せっかくの新世界だもの、どうせなら楽しんできてね。これもクエストの一つよ」
自分が斡旋役に回るとは思わなかったという顔で、ミネルバは猟兵たちを送り出した。
かやぬま
ネットゲームの世界! サ終だけが怖い! かやぬまです。
新世界「ゴッドゲームオンライン」のお話をお届けします。
よろしければ、お力添えをいただけますと幸いです。
●物語の構成
第1章:冒険「突撃! デストラップダンジョン」。
ベルフレッドが挑戦する高難易度のクエストに同行して、迫り来るバグプロトコルに目を光らせておきましょう。下手に謙遜をするなどの言動を取ると、イラッとしたベルフレッドにわざとデストラップに嵌められるおそれがありますので、そこだけ注意して下さい。
※PKの判定に猟兵としてのレベル(数値)は関係しませんので、依頼が初参加という方でも大丈夫です。
第2章:集団戦「サルファーゴースト」。
PKKバグプロトコルが放った、ベルフレッドを狙う低級のバグプロトコルの集団です。
通常のモンスターに混ざって出現しますので、猟兵の皆さんはこちらを集中的に叩くことになります。
ベルフレッド本人は口だけではない強さなので、通常のモンスターは任せておいて大丈夫です。
第3章:ボス戦「白聖者」。
PKKバグプロトコルとの決戦となります。
白聖者はベルフレッドを最優先で執拗に攻撃するため、上手く利用すれば猟兵の皆さんはほぼ無傷で戦える可能性もありますが、ベルフレッドがバグプロトコルに倒されてしまうと|遺伝子番号《ジーンアカウント》を失い、後味が悪い結果となってしまいます。
できればベルフレッドも死なないように上手く戦闘の流れを作れると理想的ではあります。
●プレイング受付について
各章、断章を投稿してからの期間を定めての受付となります。
MSページとタグでお知らせしますので、都度ご確認をお願い致します。
プレイング送信の前に、お手数ですがMSページにも一度お目通しをいただけますと幸いです。
合わせプレイングや、意思表示の省略記号などについても記載がありますので、よろしくお願い致します。
それでは、新世界。一緒に楽しんで参りましょう!
第1章 冒険
『突撃!デストラップダンジョン!』
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POW : 巨大鉄球に巨大振り子ギロチン?そんなもん破壊して突破する!
SPD : 無限落とし穴にトゲ付き吊り天井?そんなの裏ワザ使って作動させずに進む!
WIZ : 赤外線にレーザートラップ?んなもんハッキングしてちょちょいのちょい!
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●人を本気で殺す気で作られたダンジョンに挑め
「……何だ、お前たち」
触れたら即死な罠だらけのダンジョンに挑もうとしていた、ミネルバ曰く「PK野郎」ことベルフレッドの目の前に、猟兵たちはちょうど集まっていた。
いやあ、僕たちもちょうどこのクエストに挑戦するところでね。
私たちも、たまたま同じタイミングでここに集まっちゃった感じなんですけど?
などと、猟兵たちは口々にそれっぽい台詞で偶然を装ってベルフレッドに接触する。
「これも何かの縁だと思って、一緒に攻略しませんか? デストラップダンジョン」
誰かが単刀直入にそう言えば、ベルフレッドは眉間にしわを寄せて少し考え込んでから、猟兵たちを品定めするように眺めたのち、口を開いた。
「まあ、俺は別に構わないぜ。ただし、足を引っ張るような真似だけはしてくれるなよ」
グリモアベースで聞いた予知通りの反応を受けて、猟兵たちは内心でガッツポーズ。まずはターゲットに同行することには成功したのだから。
問題はここからだ。高難易度と名高い「デストラップダンジョン」のクリアには、相応の技量が求められる。
力技でも良し、裏ワザを駆使しても良し、そもそも機能させないという手もある。
やり方は猟兵たちの得意な方法に任せられる。要は、ダンジョンを突破できれば良いのだから。そうすれば、ベルフレッドも猟兵たちのことを一応は認めるだろうから。
いざ、挑戦の時――!
イヴ・イングス
よろしくお願いしますね。
あ、お気になさらず。確かにギルド受付嬢やっていますが一応私はプレイヤーも兼業でして。
では僭越ながら。
デストラップダンジョン攻略RTA、はーじまーるよー
スタートと同時に左を向いて足踏みしながら10回正拳突きします
これによりトラップの発生パターンの乱数が固定され最短ルート上にトラップが出現しなくなります
後は最速で最短ルートを走るだけです
(指笛を吹きながら走ることで何故か加速)
おや、どうしましたベルフレッドさん?
もしかして参考にしたくなりましたか?
歓迎しますよ同志ベルフレッド! ようこそGGORTA学会へ!
共にソロ最高効率を目指そうではありませんか!!
●初手からRTAされるとは思いませんでした
「ベルフレッドさん、よろしくお願いしますね」
「? その格好……」
礼儀正しくベルフレッドに挨拶をしたイヴ・イングス(RTA走者の受付嬢・Any%・f41801)に向けて、ベルフレッドは怪訝な表情を返した。
「あ、お気になさらず」
イヴは自らに向けられた表情の意図をすぐさま察し、笑顔で応じる。
「確かにギルド受付嬢やっていますが、一応私はプレイヤーも兼業でして」
「へぇ、ならお手並み拝見と行こうか」
ベルフレッドはイヴに興味を持ったか、ニヤリと笑って先を促した。ベルフレッドとしては、高難易度クエストであるこのデストラップダンジョンをこの自称ギルド受付嬢がどう攻略するか、純粋に見てみたいという興味が勝ったという感じだった。
「では、僭越ながら」
かつ、かつ、とダンジョンのスタート地点までしっかりとした足取りで歩むイヴ。
そして、|ソレ《・・》は始まった。
「デストラップダンジョン攻略|RTA《リアルタイムアタック》、はーじまーるよー」
「!?」
それまでは普通の女性の語り口だったはずなのに、イヴの声音が突然機械音声のように変化したものだから、ベルフレッドは思わず驚愕する。
具体的に言えば、なんかゆっくりしている。そんな感じだった。
「スタートと同時に左を向いて足踏みしながら十回正拳突きします」
抑揚の少ない口調で、イヴはまるで自分の行動を|誰かに説明をしながら《・・・・・・・・・・》進むかのように、一見意味のないような行動を迷わず取る。
――ゴゴゴ、ゴウン。
するとどうだろう、デストラップダンジョンの奥の方から、何かが作動する音が聞こえたのだ。それを確認する間も惜しみつつ、だがきっちりと説明はしていく。
「これによりトラップの発生パターンの乱数が固定され、最短ルート上にトラップが出現しなくなります」
「馬鹿な……このダンジョンで本当にRTAをするヤツがいるなんて……!?」
ベルフレッドが心底驚いたという顔でイヴの様子を見ているが、今のイヴはRTA走者、カテゴリは達成度を問わない「Any%」。
今ここでイヴの走りを見ている|全ての人に《・・・・・》状況を伝えるべくセルフ実況をしているが、その気になれば脇目も振らず無力化したデストラップダンジョンを駆け抜けることだって出来るはずだ。
「後は、最速で最短ルートを走るだけです」
実はこっそり発動していたユーベルコード【|乱数調整《シマスサセマスサセマセン》】の代償として、指笛を吹きながら走るという行為を付与することで、イヴはトラップが完全に無効化されたダンジョンの中を、それはもう風のように駆け抜けたのだった。
「マジかよ……あんな裏ワザ、どうすれば見つけられるんだよ……」
本物のRTA走者を初めて目の当たりにしたベルフレッドが、呆然と呟く。
「おや、どうしましたベルフレッドさん? もしかして参考にしたくなりましたか?」
普通の女性の声音に戻ったイヴが、ダンジョンの向こう側でぶんぶんと腕を振る。
「歓迎しますよ同志ベルフレッド! ようこそGGORTA学会へ! 共にソロ最高効率を目指そうではありませんか!!」
「いや、俺は……」
ソロ最高効率、という言葉にはめちゃくちゃ魅力を感じたが、学会(?)への加入の即決は難しい。ちょっと考えさせてくれ、という顔をするベルフレッドだった。
成功
🔵🔵🔴
シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、この手のゲームにはよくいるんですよね、迷惑プレイヤー。
暗黒管理社会で神経がすり減ってるんじゃないでしょうかねぇ?(【世界知識・情報収集】)
(で、当の本人と出会い)
ドーモ、ベルフレッドさん、AliceCVです――ほら、あなたもアイサツ返してください。パーティプレイの基本ですよ?
――で、この程度の罠で高難易度ですって?【ハッキング】で全部無力化しちゃいますよ?(どや顔)
…まあこっそりPKとかするようなら【殺気】を読んだうえで、【クイックドロウ】で脅しをかけてやりましょうか?(【存在感】を見せつけつつ)
※アドリブ・連携歓迎
マリナ・フォーリーブズ
※アドリブ歓迎、共闘可
・WIZ判定
・作戦
UCを使用してレベル個の武器を生成、
それを投擲して自分の進む先のトラップを発動させて
再装填される前に駆け抜ける。持続性の罠なら範囲を見極め避けて通るか
「シャドウパリィ」技能で武器受けして防ぐ
・キャラ
真紅のくノ一衣装をまとったカタナ使いの黒聖者✕聖剣士
露出が多めの扇情的なビジュアルだがどこか剣呑な雰囲気を併せ持つ
・セリフ
(少しねっとりとした熱のこもった口調で)
今回クエストを受けてるのはあなた達ぃ?
ワタシもご一緒させてねぇ、ちょうど今作ってる装備に
ここのクエスト報酬が必要なのよぉ~
(トラップを前にUCを発動)
こういう場合は……、物量で押し切るのよぉ!
●クエスト報酬を手に入れろ
「まあね、この手のゲームにはよくいるんですよね、迷惑プレイヤー」
達観した様子でそう言うのは、シャルロッテ・ヴェイロン(お嬢様ゲーマーAliceCV・f22917)。
「暗黒管理社会で神経がすり減ってるんじゃないでしょうかねぇ?」
そう、生身でゲーム内に入り込める猟兵たちとは違い、ベルフレッドのような一般プレイヤーは|統制機構《コントロール》に支配された近未来の超管理社会で生きている。
グリモア猟兵の予知ではベルフレッドのバックボーンについてまでは触れられなかったが、おおかたのゲームプレイヤーと同じくこの|PK野郎《ベルフレッド》も抑圧を発散する逃げ場としてゴッドゲームオンラインにのめり込んでいるのだろう。
「さて、と」
しょうもない手合いだが、一度『クエスト』を引き受けたからには様子を見なければならない。シャルロッテはデストラップダンジョンの入り口で何故か呆然としているベルフレッドらしき人物に声をかけた。
「ドーモ、ベルフレッドさん。|AliceCV《アリス・セ・ヴィ》です」
「……」
「ほら、あなたもアイサツ返してください。パーティプレイの基本ですよ?」
「……あ、ああ、ベルフレッドだ。よろしく」
一見すれば少女アバターのように見えるシャルロッテに対し、しかしベルフレッドは何か直感で思うところがあったのか、素直に挨拶を返す。
そこへ、もう一人のプレイヤーがごくごく自然な流れで登場した。
「今回クエストを受けてるのはあなた達ぃ?」
少しねっとりとした、熱のこもった口調で声をかけてきたのは、真紅のくノ一衣装を纏ったカタナ使いの女性だった。
「ワタシはマリナ、よかったらワタシもご一緒させてねぇ」
露出が多めの扇情的なビジュアルのマリナ・フォーリーブズ(ブラッディ・マリー・f41783)は、しかし当然単なる痴女という訳ではない。
ベルフレッドもAliceCVも、一目見ただけでマリナが纏うどこか剣呑な雰囲気を感じ取っていたから、拒否することなく同道を認めたのだ。
「あんたもアレか、ここのクエストの報酬目当てか?」
「当たり! ちょうど今作ってる装備にここのクエスト報酬が必要なのよぉ~」
ベルフレッドの顔に昏い笑みが浮かんだのを、シャルロッテは見逃さなかったが、今はまだ行動には出ないで様子を見ることにした。
「じゃあ、ドロップしたら|抽選《ロット》だな」
悪く思うなよ、とベルフレッドが言うのを、マリナはニコニコと聞いて頷く。
「もちろんよぉ、その辺は公平に、ね?」
ベルフレッドについての事前情報は、猟兵であれば把握済み。
抽選で欲しいアイテムが手に入らなくても、PKで奪い取る算段だろう。
しかもパーティメンバーは年端もいかぬ少女と妖しげなおねーさん。ベルフレッドはいざとなれば己の力を過信して行動に出るに違いない。『お仕置き』は、その時でもいい。
「それじゃ、行こっか」
シャルロッテ――AliceCVが先陣を切って、デストラップダンジョンに突入した。
巨大な鉄球や振り子ギロチンが次々と迫り来るのを、ベルフレッドは真っ正面から破壊してどんどん前へ前へと進んでいく。
(「RTAも悪くはないが、俺にはやっぱり正面突破が性に合ってる」)
即席パーティを組んだとはいえ、二人が着いてこられるかに関しては一切考慮しない。
着いてこられるなら勝手にどうぞ、というスタンスのようだ。
(「小娘と露出狂は生きてるか……って、何!?」)
ちら、と。
ほんの少しだけ後方を振り返ったベルフレッドが驚愕した。
「――で、この程度の罠で高難易度ですって?」
超常、【|Hacker's Sense《ハッカーズ・センス》】。シャルロッテが凄腕ゲーマーとしての本領を発揮して、眼前に立ちはだかる罠を全て――そう、全てハッキングで無力化させてしまったのだ。
「どんな罠も、発動しなければ意味ないですよね?」
ドヤ顔で控えめな胸を張るシャルロッテ。本来なら口を開けて彼女を待ち受ける筈だった無限落とし穴やトゲ付き吊り天井は、今やただ沈黙するばかり。
マリナの方はどうか。
「こういう場合は……」
黒聖者(ダークメサイア)たるマリナは、背後に浮かぶグリード・サイン「ブラッド」を禍々しく輝かせて叫んだ。
「物量で押し切るのよぉ!」
あふれる|欲望《アイ》は止まらない。「ブラッド」から百を超える血の十字架を具現化し、行く手の先に投擲することで赤外線トラップを誘発させたり、レーザートラップを直接破壊する。
そして、それが再装填される前に一気に駆け抜ける!
「マリナ!」
「オッケー!」
AliceCV――シャルロッテから飛んだ鋭い警告の声に、マリナは超反応。
持続性のある赤外線トラップのギリギリの間を勢いよくくぐり抜けて、ゴール!
最後はセクシー衣装での三点倒立という決めポーズで、見事デストラップダンジョンをクリアしたのだった。
「やだ、嬉しい! ホントに出るなんて、助かるわぁ」
ドロップしたクエスト報酬は、抽選の結果マリナの元へ。
「運が良かったな。それじゃ、俺はもう一周するからパーティはこれで解散だな」
「あらぁ、残念! 短い間だったけど、楽しかったわぁ。ありがとうねぇ」
そう言って、ベルフレッドとマリナが互いに背を向けたのを、シャルロッテは遠巻きに見ていた。ベルフレッドからあふれる殺気――隠しきれないようでは、まだまだ未熟だ。
「――」
レアアイテムを手に入れて、完全に浮かれていると思ったのだろう。マリナの背にベルフレッドの凶刃が迫った、その時だった。
――ぱぁん!
「な……っ!?」
「なぁにしようとしてんのかな? ベルフレッドさん」
一見するとおもちゃにしか見えないオーバーテック光線銃でベルフレッドの足元を穿ったシャルロッテは、不敵に笑みながら圧をかけていく。
「チッ、何でもねえよ!」
吐き捨てるようにそう言うと、今度こそベルフレッドは立ち去ってしまった。
「やだぁ、ワタシもしかしてPKされそうになってたのぉ?」
ありがとうねぇ、とシャルロッテに一礼するマリナだったが、ニコニコ笑顔は変わらず。
マリナも、ここまでの流れがある程度予想できていたに違いない。
「本当に隙あらばPKしようとするなんてね……本当、困った輩ですよ」
シャルロッテ――AliceCVは、肩をすくめて苦笑いをした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ユキト・エルクード
◎ SPD判定
ここがアクスヘイムならさっさとブタ箱にぶち込んでやるんだがね…。
お遊びの世界のお話ってのはお兄さんにはよく分からんな。
まっ、チンピラのガキの思考回路なんざどの世界でも一緒だろ。
単になめられなきゃいい。 なめてきたら地獄を見せてやる。
【行動】
チンピラとは対等適度に外面全開で明るく接する。奴が仕掛けてこない限り俺も敵対行動を起こさない。
活性化している技能とUCを駆使し、チンピラの様子を伺いつつダンジョンを攻略するが、その際気付かれないようチンピラの背中に紋章を配置しておく。
万一敵対行動を起こされた場合、即座に背後にワープして鉄拳制裁で身体に分からせてやる。
ガキの遊びと本番の違いをな。
ティオレンシア・シーディア
◎
うーん実に厨二的思考。純粋な力量差で上から潰されるなりふとした拍子に正気に戻るなりして時折思い出してはのたうち回りたくなる類の黒歴史行き――ってのが、まあ本来なら順当な流れなんでしょうねぇ…
まずは|ラド《探索》と|虚空蔵菩薩印《技芸向上》で探知能力を底上げして●要殺を起動、ミッドナイトレースに○騎乗して空中浮遊で進みましょ。これで床のスイッチ類は無効化できるわよねぇ。
あとは流紋・マルガリータ・ミッドナイトレースをそれぞれリンク。これでセンサー類は丸裸、機械式トラップの類はマルガリータに任せてあたしは魔道式トラップ対策に集中しましょ。不意打ちさえ食らわなければ、多分まあなんとかできるでしょ。
●分からせ案件が来ました
どこか不機嫌そうな様子のターゲット――ベルフレッドに、二人の大人の影が近付く。
一人はユキト・エルクード(亡霊夜警・f38900)、もう一人はティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
共に歴戦の猟兵にして、世の中の酸いも甘いもかみ分けた大人たちだった。
「ここがアクスヘイムなら、さっさとブタ箱にぶち込んでやるんだがね……」
どうやらユキトのベルフレッドに対する印象は最悪らしい。対するティオレンシアはあくまでも他人事という風に、片頬に手を当ててため息ひとつ、率直な感想を述べた。
「うーん実に厨二的思考」
ティオレンシアが声を発した途端、何故かユキトがズコーッとすっ転んだ。あらあら、どうしたのかしらぁ? という顔になるティオレンシアに、ユキトが思わずこう言った。
「お、お前さん……どこからそんな声出してるんだ……?」
「あぁ、|コレ《・・》? 初対面の人からは良く言われるのよぉ、ごめんなさいねぇ」
地声なのよ、地声。
そうか、地声なら仕方がない。
ユキトは脳が溶けそうになりながらも、個性ならば慣れるしかないと気を取り直す。
「話を戻すと、純粋な力量差で上から潰されるなり、ふとした拍子に正気に戻るなりして、時折思い出してはのたうち回りたくなる|類《たぐい》の黒歴史行き――ってのが、まあ本来なら順当な流れなんでしょうねぇ……」
確かにPK行為は忌避されるべきだし、相応の不興を買ってもおかしくはないだろう。
だからと言って、オブリビオン――バグプロトコルに|遺伝子番号《ジーンプロトコル》を焼却されてリアルの人生まで詰むまでのことなのだろうか? 答えは否だ。
「お遊びの世界のお話、ってのはお兄さんにはよく分からんな」
|統制機構《コントロール》で抑圧された鬱憤を|仮想現実《GGO》の中で晴らす、という行為自体に馴染みのないユキトは、正直に理解が及ばないことを述べるが。
「まっ、お前さんの言う通りチンピラのガキの思考回路なんざどの世界でも一緒だろ」
ティオレンシアの見解に同意しながら、ユキトは指を鳴らす。
「単になめられなきゃいい。なめてきたら、地獄を見せてやる」
「わぉ、怖い」
気合十分のユキトに、全然怖がっていなさそうな素振りでティオレンシアが返した。
「……何だ、おまえたちもダンジョンの攻略に来たのか」
「そういうこった、誰だって新ダンジョン発見! と来たら攻略したくなるだろ?」
ぶっきらぼうに言い放つベルフレッドに、努めて対等な立場で振る舞おうと外面全開で明るく接するユキト。
デストラップダンジョンの攻略自体はベルフレッドに近付くための手段に過ぎないが、かつてはギガンティアと呼ばれる未知の領域が発見されると仲間たちと共に自己鍛錬も兼ねて探索をしに行ったことを思い出さなくもない。
「あたしたちもあなたの邪魔はしないから、まぁ、よろしくお願いするわぁ」
ユキトの背後からぴょこっと姿を現しつつ、ティオレンシアもベルフレッドに挨拶する。
「あ、ああ、よろしく頼む」
ベルフレッドもティオレンシアの極甘ロリボイスに少々驚いたか、どもりながらも返事をした。そんな様子を眺めながら、ユキトはこれからの作戦を脳内で改めて確認する。
(「奴が仕掛けてこない限り、俺も敵対行動は起こさない。だが――」)
仕掛けてきた場合のことも、きちんと考えてある。
ユキトは油断のない目で、準備を始めるベルフレッドの背中を見つめていた。
デストラップダンジョン攻略に、相応の策を講じてきたティオレンシアが満を持してダンジョンのスタート地点に立つ。
傍らには愛用のバイク型UFO「ミッドナイトレース」が、地面から浮いた状態で主の騎乗を待っていた。
ティオレンシアが中空に「R」のような文字を指で書き、次いで手を合わせると親指と人差し指で円を作るように印を組む。ルーン文字の「ラド」は探索を現し、虚空蔵菩薩の印には技芸向上の力が宿る。
「デストラップダンジョンかぁ、不意討ちなんて通じると思わないでねぇ?」
それは【|要殺《サスペクト》】、人間が持つありとあらゆる探知能力と対応力を尋常ならざる域にまで高める超常である。
準備が整っていたミッドナイトレースにまたがったティオレンシアは、いざデストラップダンジョンへと挑む。空中を浮遊しているミッドナイトレースに乗って進めば、まず床のスイッチ類は無効化できるというものだ。
「さて、次は……っと」
機体制御とレーダー担当のAI・Type-C:F-A・BSs『マルガリータ』と、ヘッドマウントディスプレイ・MVG-AVD-01 視覚拡張HMD『流紋』をミッドナイトレースへとそれぞれリンクさせる。
これにより、センサーの類は丸裸だ。機械式トラップはマルガリータに任せて、ティオレンシア本人は魔道式トラップ対策に集中するという算段だ。余程の悪質な不意討ち――例えば、味方であるはずの相手からの理不尽な攻撃など――がなければ、これだけの策を張り巡らせたのだ、ほとんどのトラップはティオレンシアには届かないだろう。
「空を飛ぶ乗り物とは、考えたな」
先行するティオレンシアを見送りながら、ベルフレッドが呟いた。
その言葉からだけでは真意は読み取れないが、警戒しておくに越したことはない。
「俺たちも行こうぜ、負けちゃいられない」
「……だな」
わざとベルフレッドに先を急がせるように仕向けながら、ユキトもまたデストラップダンジョンに飛び込んでいった。
トゲ付き吊り天井が容赦なく降ってくるさまは本気の殺意を覚えたが、お得意の空中機動に悪路走破を組み合わせれば、足元に無限落とし穴があろうとギリギリのところで両方ともをくぐり抜けることができた。伊達に修羅場は潜っていないというもの。
ベルフレッドはといえば、聖剣士(グラファイトフェンサー)ならではのギリギリまで削った装甲による身軽さと、それにより得た破壊力抜群の大剣で、デストラップを回避しつつも時に破壊して強引に先に進むなど、こちらも相当な腕前を見せていた。
そんなベルフレッドの様子を背後からうかがいつつ、ユキトはひとつの手を打った。
手の平から百を超える桜の紋章を生み出し飛ばすと、ベルフレッドの背中にそのうちの数個を貼り付けておいたのだ。
そんなことには全く気付かぬベルフレッドは、快調にデストラップダンジョンを進んでいく。さらに先を行くティオレンシアをも追い抜かん勢いだ。
(「さあ、コトを起こすなら今か、それとも……」)
足場についてはもうすっかり習熟した。突如足元に開いた落とし穴も、ユキトは華麗な見切りで難なく飛び越えていく。
そうしながらも、常にベルフレッドの動向からは目を離さない。
いつ|何時《なんどき》PK行為に走るか、分かったものではないからだ。
「……!?」
ユキトの先を行くベルフレッドが、|明確な意思を持って《・・・・・・・・・》トゲ付き吊り天井のトラップを発動させたのを、ユキトは見逃さなかった。
(「ガキが、俺の方が狙いやすいとでも思ったか」)
何しろ、ティオレンシアは考えられうる限りのトラップ対策を二重三重にも張り巡らせている。付け入る隙がなくはないとはいえ、正攻法でトラップを攻略しているユキトの方がより狙いやすいと判断したのだろう。
何故、こうも容易く『味方』を陥れるのかは分からない。理解したくもない。
だが、簡単に思う壺に嵌まる訳にもいかない。だから、ユキトは反撃に出た。
「紋章、解除」
その一声だけで十分だった。
トゲ付き吊り天井で隔てられていたベルフレッドとユキトとの距離は、一瞬にして至近距離まで縮まった。紋章を解除することによる瞬間移動だ!
「が……っ!!」
突然迫った気配に振り返ったベルフレッドの横っ面を、ユキトの鉄拳制裁がしたたかに打ち据える。勢い良く吹っ飛んだベルフレッドは、そのままの勢いでダンジョンのゴールに叩きつけられ、数度転がって止まった。
「あらまぁ、身体に分からせちゃったかぁ」
無事にトラップをくぐり抜けて同じくゴールしたティオレンシアが、ヘッドマウントディスプレイを外して、無様に転がるベルフレッドを見遣った。
「ああ、ガキの遊びと本番の違いをな」
やや遅れてゴール地点に着地したユキトが、両手を払いながら淡々と言い放つ。
「くそ……ちくしょう……」
こんな手痛い反撃に遭ったのは恐らく初めてだったのだろう、しばらくの間痛みと屈辱とで動けずにいたベルフレッドであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
テッカ・ロールナイト
デストラップダンジョンか、腕が鳴るぜッ!
…でもあのPK野郎、俺が魔喰者のジョブって聞いた時の産廃職には人権はねえと言わんばかりの目。絶対仕掛けてくるやつじゃん。
いや、あえて地雷踏みまくって仕掛けてくるタイミング見切った方が安全か?
いや~、自分このゲーム始めたばっかで~、このジョブも浪漫溢れるから選んだっスよ~。
PK野郎が罠に嵌めてきそうな時を見切って…【タンク・オブ・スティール】ッ!
鉄球だろうがギロチンだろうが『エンジンブレイド』と『捕食者の大腕』で粉砕してやるぜッ!
罠を越えたら全身でドヤってやろう。
あれれ~ベルフレッド君どうした~?鷹の爪を飲み込んだような凄い顔してんぜ~?
【アドリブ歓迎】
●格下相手にしてやられる気分はどうだい
「クソッ、どうなってやがる……」
口の端についた血を拭い、ベルフレッドは軽く頭を振って立ち上がった。
相手を侮ってPK行為に及ぼうとした結果、返り討ちにあったなどとても人には言えないものだから、ベルフレッドは腫れた頬を回復薬ですぐに治療すると、気を取り直してデストラップダンジョンのスタート地点に再び戻ってきた。
身体の怪我は治っても、腹の虫の居所は最悪。
そんな中聞こえてきた、脳天気な全体チャット。
「デストラップダンジョンか、腕が鳴るぜッ!」
声の主はテッカ・ロールナイト(駆け出しの魔喰者・f41816)、ジョブは……魔喰者(モンスターイーター)!
その時点で声の方を振り返ったベルフレッドの眉間に皺が寄ったのだが、テッカは敢えて知らぬふりをする。
蒼い全身鎧にエンジンブレイドと、必要最低限の装備は調えているつもりだ。これで初期装備のままだったら、初手から腹パンを喰らっていたかも知れない。
「……おまえも挑戦するつもりか? このダンジョンの適正レベルは知っているのか?」
「いや~、自分このゲーム始めたばっかで~」
一目見て魔喰者(モンスターイーター)と分かる特徴的な左腕に視線を向けられた時から、何となくは感じていたが。
(「何だあのPK野郎、俺が魔喰者(モンスターイーター)のジョブって知った時の『産廃職に人権はねえ』と言わんばかりの目は!? 酷くねえ!?」)
これ以上とない侮蔑の視線を向けられて、テッカは直感的に悟った。これは変に上手く立ち振る舞おうとするよりも、いっそ地雷を踏みに踏み抜いて仕掛けてくるタイミングを見切った方が良いのではないか、と。
だから、わざと自分は初心者であるとアピールしたし、こんなダメ押しまでした。
「このジョブも、浪漫溢れるから選んだっスよ~」
「……へえ」
ベルフレッドの薄ら笑いが、逆に怖かった。だが、ここで怯む訳にはいかない。
テッカは今、GGO内全てのエンジョイ勢、そして浪漫職を愛する者たちの期待を背負っていると言っても過言ではないのだから。
ここで|効率厨《ベルフレッド》に一泡吹かせてやれれば、魔喰者(モンスターイーター)を代表とする産廃職と呼ばれるジョブにだって光は差し込む……かも知れない。
それに、これはちょっとズルかも知れないが、テッカの正体は猟兵でもある。一般プレイヤーのキャラクターとは一味違うのだ。そう簡単にハメられると思われては困る。
だが、そんな素性を知られる訳にも行かず、テッカはただヘラヘラとした演技でベルフレッドの様子をうかがう。
すると、ベルフレッドがこんな提案をしてきたではないか。
「一緒に行くか? トラップは俺が解除するから、おまえは着いてくるだけでいい」
「! マジっスか!? 着いてくっス!」
「決まりだな、それじゃあ早速準備をしな」
そう言ってテッカに背中を向けたベルフレッドと、背中を向けられたテッカが、同時にニヤリと笑った。果たして、術中に落ちたのはどちらの側なのか――?
がん!
がきぃん!
どぉん!!
ベルフレッドが華麗に宙を舞い、大剣を振るう度に、破壊されていくトラップの数々。
「適正レベルに達していれば、こんなトラップ破壊して無効化できるんだ」
巨大な鉄球を真っ二つにしながら、ベルフレッドが後ろを振り向くことなく言う。
「は、ははっ……すげえや……」
このトラップ全てがモンスターであったなら、絶好の狩り場であったろうにと思わなくもなかったが、残念ながらここは無機質の罠の山。道を切り拓くのは|基本的に《・・・・》ベルフレッドに任せるしかない。
そんな無力を装いながら後を追っていたテッカは、ある異変に気付く。
頭上で、罠が発動する音が確かに聞こえたのだ。
「悪い――罠を一つ、解除し忘れたかも知れない」
ちっとも悪びれていない声で、ベルフレッドが振り向かずにそう言った。
普通だったらもっと焦ったり、振り返って助けに戻っても良いだろうに。
(「いいや、知ってたぜ」)
――こうなるってことはよぉ! 【タンク・オブ・スティール】ッ!
左右から一本ずつ振り子のように迫ってきた巨大ギロチンの刃を、右手のエンジンブレイドと左腕の捕食者の大腕とで、それぞれ受け止めたのち木っ端微塵に粉砕してやったのだ。
「な……っ!?」
哀れ、ギロチンの刃でバラバラ死体になったかと思われた自称初心者が、とんでもない動きで罠を破壊してみせたものだから、ベルフレッドは思わず息を呑む。
そのままゴール地点に着地したあとも、装備重量を全く無視した――そう、まるで重戦士(ヘビーウェイト)の特性を活かした動きのように罠を破壊してゴールまでたどり着いてくるテッカを、信じられないものを見る目で見つめていた。
「っと! どや! どや!」
遂にはゴール地点に到達し、言葉だけでなく全身でドヤるテッカ。会心の出来だったのだから、当然だ。
「あれれ~ベルフレッド君どうした~? 鷹の爪を飲み込んだような凄い顔してんぜ~?」
初心者の割には煽りスキルが高かった。だが、ベルフレッドはそれどころではなかった。
「……んだよ」
「え?」
「何なんだよ、さっきから! おかしな奴ばかり来やがって!」
「やっべ、マジで怒ってやんの! 逃げるが勝ちってな~」
テッカは慌てて一旦デストラップダンジョンから離脱した。せっかく無事にクリアしてPKも未遂に終わらせたというのに、まともにやり合ったら間違いなく今度こそ殺られる。
そう判断し、その場を後にしたのだ。
どうせ、この因縁はもうちょっとだけ続くのだろうから――。
成功
🔵🔵🔴
ベルト・ラムバルド
◎【暗光】
…要は卑劣漢って奴ですよアンナさん
陰険な奴め…だがこんな奴でもほおっておかないのが騎士道!
ベルト・ラムバルドが騎士の鑑で人の鑑ってのを見せつけてやるのよ!
…アンナさんそれ言うのやめてくれます?傷つく…
存在感と威厳を放ちPK野郎に舐められないようにコミュ力で接触
あいつとアンナさんを庇い先陣切ってダンジョンを進もう
この下は…底の見えない深淵だ…気を付けて進まね…ばぁああああ!!?
痛…あいつ私を蹴落としやがったな!?ぐぞ~絶対生きて戻っでやる~!
UCでとにかく穴の底を駆け抜ける!止まってたまるか!気合と根性で罠を突破だー!
見つけた!貴様ぁ~!
…え、アンナさんだったの?しょうがないな~もう…
仇死原・アンナ
◎【暗光】
ぷれいやぁきらぁ?…なるほど…そういう奴か
本来ならこういう奴を処するのが仕事だけど…今は彼…ベルフレッドを護るのが仕事だ…
じゃあ行こうか…私は処刑人…ベルトにベルフレッド…名前が似ているね…フフ…
彼に隙をつかれぬように殺気を放ち警戒しよう
…深い穴…とりあえず…おら!
ベルトを蹴とばし穴の底が安全か確認しよう
…別の道を行こうか…ベルト?大丈夫…あいつは頑丈だから
彼と一緒に巨大罠が仕掛けられた道を進もう
鉄球やギロチンが迫ってきたら鉄塊剣を抜き振るい【炎獄殺法「地獄廻」】を発動
怪力と鎧砕きで罠を破壊し吹き飛ばそう
私の命を刈り取れると思うなよ…
あぁベルト…蹴とばしたのは私なんだ…許して…ね💗
●しょうがないにゃあ……いいよで許される問題
「ぷれいやぁきらぁ?」
「……要は『卑劣漢』って奴ですよアンナさん」
「なるほど……そういう奴か」
デストラップダンジョンの手前に転移を受けた仇死原・アンナ(処刑人、地獄の炎の花嫁、焔の騎士・f09978)が、スタート地点に向かう道すがら同道のベルト・ラムバルド(自称、光明の宇宙暗黒騎士・f36452)に『|PK《プレイヤーキラー》とは何ぞや』を説いてもらっていた。
ふむ、と納得したように頷くと、アンナはため息ひとつ。
「本来ならこういう奴を処するのが仕事だけど……今は彼……ベルフレッドを護るのが仕事だ……」
確かに、アンナが本当にGGO内のキャラクターだったならば、|PKK《プレイヤーキラーキラー》が良く似合っていたかも知れない。
その隣ではベルトがぐぬぬとなりながら両の拳を握り締めていた。
「陰険な奴め……だが、こんな奴でも放っておかないのが騎士道!」
気合十分の叫びと共に、片腕をバッと振り払う仕草で外套をひるがえす。カッコいい。
「ベルト・ラムバルドが騎士の鑑で人の鑑ってのを見せつけてやるのよ!」
それを聞いたアンナは思わず口元に手を当ててフフッと笑った。
「そうだね、じゃあ行こうか……私は処刑人……」
いつもの決め台詞に続いて、アンナは率直な感想を述べたのだった。
「ベルトにベルフレッド……名前が似ているね……フフ……」
「アンナさんそれ言うのやめてくれます? 傷つく……」
どちらにしても、略して『ベル』と呼ぶのはやめておいた方が良さそうだった。
さて、ここに至るまで多少なりとも鼻っ柱を折られかけているベルフレッド。
だが、GGOのプレイヤー人口はとっても多い。自分と同等か、もしくはそれ以上に強いプレイヤーだってたまにはいるだろうと、そう自分を納得させていた。
だから、アンナとベルトがベルフレッドに隙を突かれないようにと殺気を漂わせたり、存在感と威厳を放ちナメられないようにと接近したのは、正しい手段であった。
ちょうど気を張っていたベルフレッドもまた、油断なく二人を見ていた。そこへ、持ち前のコミュ力を発揮して、ベルトがやあやあと声をかけた。
「君が噂のベルフレッド君、だね? 私はベルト・ラムバルド、こちらは……」
「私はアンナ……処刑人だ……」
「しょけいにん? ああ、そんなジョブもあったか……」
(「「あったんだ」」)
恐らくは、GGOの世界には猟兵たちが認識している以上のジョブが存在はしているのだろう。だが、DPS職の覇権を聖剣士(グラファイトフェンサー)が握ってからは、忘れられた存在になってしまっているのかも知れない。
「それはそうと、おまえたちは俺のことを知っているようだな。なら、自己紹介は不要か」
ほんのりと、まんざらでもなさそうなベルフレッド。たとえそれが悪名でも、名が知れ渡るというのは悪くないと本気で思っているようだった。
「そう、ベルフレッド君を見込んで頼みがある」
ベルトは内心で舌を出しつつも、アンナの手前格好つけない訳にも行かず切り出した。
「私たちと一緒に、このデストラップダンジョンを攻略して欲しい!」
今日は本当にパーティを組みたがる手合いが多いな、という顔になりながらも、素直に頷くベルフレッド。
「良いだろう、これも何かの縁だ。即席で良ければパーティを組もう」
おや、聞いていたよりも素直な奴。
そう思い、アンナとベルトは顔を見合わせたが、元々はこちらが提案した同行だ。それでも裏はあるかも知れないと、気を抜かずに「よろしく頼む」とだけ返すに留まった。
デストラップダンジョンの先陣を着るのは、光明の宇宙暗黒騎士・ベルトさんだった。
(「あいつとアンナさんを庇って進めば、アンナさんにいいトコ見せられるもんね」)
ダンジョンの入り口付近には特に罠らしい罠は見当たらず、モンスターの気配もない。途中で分かれ道があったが、ベルトの直感で右の道を進む。道中では会話もなく、ただ三人の足音だけが高く響いていた。
そんな中、ふとベルトが足を止める。後をついていたアンナとベルフレッドも自然と立ち止まる形となった。
「どうした?」
「この下は……底の見えない深淵だ……」
ベルトの足元にはぽっかりと大きな穴が開き、行く手を阻んでいたのだ。
私じゃなきゃ見逃しちゃうね、という顔をしながら穴の底をのぞき込むべく膝をついたベルト。
「……深い穴……とりあえず……」
「気をつけて進まね「おら!」ばぁああああ!!?」
「え!!?」
ベルフレッドは確かに見た。アンナが連れであるはずのベルトの臀部を蹴飛ばしたのを。
哀れベルトは穴の底へと落ちていく。ベルフレッドが思わずアンナの方を見る。
「……別の道を行こうか……」
「いや、だが、ベルトは」
「ベルト? 大丈夫……あいつは頑丈だから」
どうしてあんなことを、と問われたならば、アンナは迷わず『穴の底が安全か確認するため』だと答えただろう。それだけベルトを信頼しているのだ。……してますよね?
途中の分かれ道まで戻ったアンナとベルフレッドは、最初に選ばなかった左の道を進むことにした。二人分に減った足音だが、ベルフレッドはアンナが常に殺気を放っていることに加えて、味方でさえあの扱いをする冷徹さにすっかり一目置いて、『こいつは狙わないでおこう』と心に決めていたのだが、アンナは気付いていただろうか。
「こちらは……巨大鉄球やギロチンが設置された道のようだな」
ぐおん。ぐおん。
一定のリズムでありながら、見切れそうで見切れない凶悪な鉄球やギロチン刃に、何人のプレイヤーたちが犠牲となってきたことだろう。
罠を破壊して進むという合理的な解にたどり着いても、実際破壊できるステータスがなければ実現不可能という、このデストラップダンジョンを高難易度たらしめている一因がこの巨大鉄球や巨大ギロチンの罠であった。
「じゃあ、行こうか」
「行こうか、って」
何の躊躇いもなく鉄塊剣「錆色の乙女」を抜き放つと、アンナは一歩踏み出して罠がひしめく通路目がけて駆け出した。
「待てって、おい――」
ベルフレッドも慌てて大剣を構えてアンナの後を追うが、直後、彼は凄絶な光景を目の当たりにすることとなる。
――【|炎獄殺法「地獄廻」《ブレイズフレイム・グランドスラム》】。
下から大きく振るわれた鉄塊剣が、何とアンナの太腿を切り裂いた。だが、アンナは顔色一つ変えない。傷口からは血潮の代わりに地獄の炎が噴出し、それは鉄塊剣に燃え移っていく。
「はぁああああっ!!!」
尋常ならざる怪力と鎧をも砕くパワー、そして刀身に纏わせた地獄の炎で、迫り来る鉄球もギロチンも、そのことごとくを破壊し吹き飛ばしたのだ。
「一人で……!?」
出番がなかったベルフレッドが呟く中、粉々に砕け散った鉄の塊がどかどかと地に落ちる。鉄の雨の中、アンナはぼうっと天を見上げたまま呟いた。
「私の命を刈り取れると思うなよ……」
一方その頃、ベルトさんは。
「痛……あいつ、私を蹴落としやがったな!?」
仕方がないことなのだが、ベルトは自分を蹴落とした犯人をすっかりベルフレッドだと思い込んでいた。
「ぐぞ~~~、絶対生きて戻っでやる~~~!」
その気概に応えるかのごとく、ベルトの背後に、まばゆい後光が激しく光り出したではないか! こ、これは……【ハイカラさんは止まらない】!?
暗い暗いダンジョンの中を、独り光り輝きながらベルトは駆け抜ける。
「止まってたまるか! 気合と根性で罠を突破だー!」
説明しよう! 今のベルトさんは、非戦闘行為(この場合は走ること)に没頭している間、自身の後光が激しく光り、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要となるのだ!
そういう訳なので、更なる落とし穴があろうが吊り天井が降ってこようが、全部無視してダンジョンを突破できちゃうんですね! やったぜ!
「デストラップダンジョン……恐るるに足らず、ね……」
「……そうだな……」
眼前で凄まじい威力の攻撃を見せつけられてすっかり圧倒されたベルフレッドが、ぼんやりと呟きながら誰かを待っている様子のアンナと言葉を交わす。
ここはデストラップダンジョンのゴール地点、二人の目の前には階下につながる階段がひとつ存在していた。
ここで待っていれば、おそらくベルトは復帰するだろうとアンナは予測したのだ。
かくして予想は的中し、ベルトがぜえはあと息を切らせながら階段を駆け上がってきた。
「見つけた! 貴っ様ぁ~~~!」
ベルトが真っ先にベルフレッドに掴みかかろうとしたのを、アンナが間に割って入って止める。怪訝とするベルトに、アンナは信じられないほどしおらしい声でこう言った。
「あぁベルト……蹴とばしたのは私なんだ……」
「えっ」
「……」
「許して……ね💗」
「……え、アンナさんだったの? しょうがないな~~~もう……」
「……もう帰っていいか?」
二人のやりとりにすっかり毒気を抜かれてしまったベルフレッドは、やってられっかとばかりに帰りたい旨を二人に伝えたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リンカ・ディアベルスター
いや〜ダンジョン何て久しぶりだね〜
身体を伸ばしながらも指定UCを発動して周りに衝撃波を放ち罠を破壊する
罠は起動する前に消す常識さ〜
次は指定UCの効果で『知恵』の星神 ミスティを発動し心眼と組み合わせて見た遠くの罠を超越概念干渉魔法で罠を消滅させる
効率よく罠を消滅させながら進むと気持ちいいね〜
指定UCの効果で矢弾の雨に壊滅の力を纏わせて周りの罠を消滅させる
(…仲間を殺すなんて、馬鹿かな?)
楽しそうに会話しているがベルフレッドの前を進みながらも内心ではベルフレッドの事を軽蔑していた
まあ色んな人達が集まる場所だからね…
と自身を納得させながら罠を消滅させ続けた
でも、まあ因果応報って本当にあるけどね…?
●こころ、うらはら
結局あの二人組の関係性は何だったんだろうか、などと珍しく他人のことを気にかけてしまう程、直前に即席パーティを組んだ二人組のインパクトはベルフレッドにとって強烈だったらしい。
「ったく、調子狂うぜ……」
頭を掻きながら、ベルフレッドはデストラップダンジョンの入り口付近で周囲を見回す。まだ、数名のプレイヤーの気配があるからだ。
今日は何の巡り合わせか、比較的酷い目に遭うことも多かったけれど、たまにはそういう日もあるだろう。もう少し様子を見れば、絶好のカモが見つかるかも知れない。
そんな悪いことを考えていたら、一人の術士らしき女性プレイヤーの姿が見えた。
「いや~、ダンジョンなんて久しぶりだね~」
そう言ってデストラップダンジョンの入り口を見上げたのは、リンカ・ディアベルスター(星神伝説を知る開拓者・f41254)だった。
「おや、君もダンジョンの挑戦者かな?」
これまで猟兵たちがそうしてきたように、リンカもまた偶然を装ってベルフレッドに接触する。ベルフレッドはベルフレッドで、またかという顔で首肯した。
「その通り。新規発見されたばかりの高難易度ダンジョンとくれば、そりゃあ人も集まるだろ」
新規素材のクエスト報酬も魅力的だ、ベルフレッドも元々はそれが欲しくてこのダンジョンを攻略しに来たのだから。残念ながら、渋いドロップ率で未だ手に入っていないが。
腹いせか、それとも単なる趣味になったか、時折問題のPK行為に及んでは――今日はことごとく失敗しているが――気晴らしにしているといった所だろうか。
「アイテムのドロップ率はねぇ……こればかりは運だから、何度でも挑戦する他ないね」
どうせなら、一緒に行こう? そう告げるリンカは、何も知らない『フリ』をしている。
そうとも知らないベルフレッドは、もしかすると――なんて思いながら、誘いを承諾するのだった。
「知ってるかい、ベルフレッド」
「何がさ」
デストラップダンジョンの内部を二人で進みながら、リンカはベルフレッドに語りかける。同時にリンカの左眼が黒くなり、超常の発動を予告した。
「壊滅の星神はね、全てを壊すんだよ? 概念も、次元もね……」
身体を伸ばしながらリンカが発動するのは【|『壊滅』の星神 ナヌー・ザーク《アステリオーン・ナヌー・ザーク》】!
「……!?」
いつの間にか迫っていた巨大なトゲ付き吊り天井を、放たれた衝撃波が破壊する。ベルフレッドは驚愕のあまりに絶句する。
「罠はね、起動する前に消す。これ、常識さ~」
「いや、それはそうなんだが……」
こんなに容易く出来ることではないはず、とベルフレッドは言いかけて、再びリンカの左眼に異変が起きたことに気付き、言葉を止めた。
――機械の眼。今度は何だ?
【|『知恵』の星神 ミスティ《アステリオーン・ミスティ》】!
一見、何も起きていないように見えた。
だが、この少し先には無限の落とし穴があった。
それを、心眼と超常を組み合わせた超越概念干渉魔法によって先立って消滅させたのだ。
「効率よく罠を消滅させながら進むと気持ちいいね~」
「! まだ来るぞ!」
「知ってる、全部壊すよ。言ったよね?」
ダンジョンの左右の壁から無数の矢が放たれる。だが、それを圧倒的に上回る矢弾の雨に壊滅の力を纏わせて圧倒的に消滅させた。
「……すげえな」
これには流石のベルフレッドも、率直な感想を述べざるを得なかった。
一方のリンカは――。
(「……仲間を殺すなんて、馬鹿かな?」)
端から見れば、楽しそうに会話をしているように見えたかも知れない。
だが、リンカは内心ではベルフレッドのことを軽蔑していた。理由は当然、PK行為の件だ。圧倒的な力を見せつけて彼の先を行くのも、PKの対象にならないようにするため。
(「まあ、色んな人達が集まる場所だからね……」)
本当は、一緒にいるのだって不愉快だ。だが、一度引き受けた『クエスト』は果たさなければならない。だから、リンカは自分にそう言い聞かせて納得させながら、罠を消滅させ続けた。
(「でも、まあ、因果応報って本当にあるけどね……?」)
今やただ後を着いてくるだけとなったベルフレッドに一瞬だけ視線を向けて、そう思うリンカであった。
成功
🔵🔵🔴
菜花・深月
…それじゃあ、やろうか
(ど…どうしよう、そういえばうちって昔PKされかけたじゃん!)
内心相手にビビりながらもトラップ対処に集中する
最速は無理だけど…
念の為結界術で守りながら念動力で身体を宙に浮かせてから推力移動で加速する
そこ…!
視力で罠がありそうな場所を見て凍結攻撃の矢を放ちトラップを凍らせる
落とし穴は宙に浮いているので無視して通る
巨大鉄球が落ちて来たので床に指定UCを撃ち一瞬だけ鉄球を止めて脇道に回避してやり過ごした
…?!(そうだこいつ結構有名なプレイヤーじゃん!)
するとベルフレッドが『ムーン』の立ち回りに似ていると言ってきた(実はそこそこ有名だった)
ほっ…
まあ気の所為かと言われてほっとした
●『月』の帰還
次々と現れる猟兵たち――ベルフレッドにとっては一般プレイヤーと見分けがつかないのだが――に対し、ベルフレッドは流石にあしらい方を覚えてきたらしい。
正常性バイアスというべきか、どんなに驚くべきことが立て続けに起こっても『今日はそういう日だ』と考え方を補正しているようだった。
だから、心なしか怯えた様子で菜花・深月(止まった時間が再び動き出す時・f41809)がデストラップダンジョンの入り口に現れた時も、ベルフレッドは比較的冷静に対応してきた。
「おまえもか? おおかたデストラップダンジョンに同行したいとでも言うんだろう」
「……!」
事前に聞かされていたよりも、|本物《・・》の圧はずっと重い。深月は愛用の月光弓を握る手に汗を感じながら、辛うじて頷いてみせた。
(「ど……どうしよう、そういえばうちって昔PKされかけたじゃん!」)
思い出したくない記憶はたくさんある。
そのうちの一つが、かつて遭遇したPK未遂だった。
深月の|PS《プレイヤースキル》が勝り、相手を返り討ちにしたとはいえ、嫌な思い出だ。
だが、ここで怯んではいられない。深月はようやくベルフレッドの顔をしっかりと見据え、震えそうになる声を必死で堪え、言った。
「……それじゃ、やろうか」
――トラップの対処にさえ集中していれば、PKを仕掛けてくる隙もない、はず。
深月は両の頬を一度ぱぁんと叩き、自身に気合を入れると、デストラップダンジョンへと足を踏み入れた。
「最速は無理だけど……」
噂に名高いGGORTA学会のメンバーのようには流石に行かないけれど、深月は自身の機動力にはそれなりに自信があった。
結界術で己の身を守りながら、念動力で身体を宙に浮かせてから、推力移動で一気に加速する!
「ヒュウ」
それを見たベルフレッドが、口笛を吹いて感嘆を示す。そして自身もデストラップダンジョンへと深月を追うようにして飛び込んでいった。
罠を目視で確認できるほど、深月の視力は非常に良い。明らかに落ちてきそうなトゲ付き吊り天井が視界に入った瞬間、深月は飛行状態のまま月の矢をつがえる。
――【|氷刻矢雨の月矢《コキュートス・アルテミス》】!
必中の月矢は命中した対象を確実に凍結させる。それは無機物が対象であっても同様だ。
氷によって天井に固定された吊り天井は、機能不全を起こし深月の素通りを許す。
落とし穴に至っては、深月が宙に浮いている限り完全に用をなさない。
(「行ける! この調子で――えっ?」)
想定外の罠が発動した。深月が進むルートでは現れないはずの巨大鉄球が、突然道の向こうから転がってきたのだ!
これは一体どういうことか? 決まっている、ベルフレッドの仕業だ。
深月が鋭く前方を見れば、ベルフレッドは素知らぬ顔で巨大ギロチンを破壊している。
「こんな……ところでっ!」
深月は決死の覚悟で再び【|氷刻矢雨の月矢《コキュートス・アルテミス》】を放つ。凍結の威力が巨大鉄球のスピードを殺せるかが勝負ではあったが――。
ばき、ばき。
みしり。
ダンジョン内に嫌な音が響き、巨大鉄球はギリギリのところで停止してくれた。その脇を宙を舞いながらすり抜けて、深月は何とか巨大鉄球の罠をやり過ごしたのだった。
(「何で!? うち、ベルフレッドの邪魔なんてちっともしてないのに!?」)
そうは言っても、PK野郎の虫の居所なんて善良なプレイヤーには理解できないものだ。
最後はヒヤッとしたどころか死ぬかと思ったという顔で深月がゴール地点にたどり着けば、そこには冷ややかな表情をしたベルフレッドが待ち受けていた。
そして、深月はようやく思い出す。
(「そうだ、こいつ昔から結構有名なプレイヤーじゃん!」)
大規模レイドバトルで同行したことだって、もしかしたらあったかも知れない。昔とはジョブも装備品もだいぶ変わってしまっていたから気付かなかったけれど、顔立ちだけは変えられない。間違いない、|深月《うち》はこいつを知っている――!
「なぁ、聞きたいことがあるんだが」
「ひゃいっ!?」
そこで突然ベルフレッドから話しかけられて、深月は思わず変な声を出す。
「俺が知ってるプレイヤーに『ムーン』っていう氷の月穹士(アルテミスガンナー)がいた。そいつは風の噂によると|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却されたってコトだったが……」
「……(ごくり)」
ベルフレッドの言う通り、かつて|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却される前はそこそこ名の知れたプレイヤーであった深月は、冷や汗を隠せない。
「……まさか、な。『ムーン』と立ち回りがよく似てたからもしかしたらと思ったが、そもそも噂通りならGGO内に帰ってくること自体無理だろうさ」
気のせいだ、悪かったな――そう言って、ベルフレッドはクエスト報酬の宝箱を開けては舌打ちする。またしても、お目当てのアイテムはドロップしなかったらしい。
(「ほっ……」)
下手な腹は探られないに限る。
ベルフレッドが自己完結してくれて本当に良かったと、胸を撫で下ろす深月だった。
成功
🔵🔵🔴
ウルル・マーナガルム
んー……
確かに、ボクは出来るけど普通の人はどうして出来ないんだろう、とか考えた事が無い訳じゃないけどさ
だからこそ〝皆のお手本〟になって、皆で一緒に楽しめる様に引っ張って行かなきゃ
それが|力ある者の義務《ノブレス・オブリージュ》なんじゃないのかな
罠を巡らせる側……獲物を狩る側の考え方はボクもよく知ってる
ボクならこー言う所に仕掛けるなってポイントもしっかり見ていこう
ハティのセンサーと併せれば早々見落とす事は無いんじゃない?
あとはハティを介したジャミングで起動すらさせないようにしたり
|ボク《スナイパー》の動体視力なら、罠が起動してからでも目視で避けれるかもね
●noblesse oblige
予知において示された『デストラップダンジョン』の入り口らしき場所では、これまた予知で姿を見せられたPK野郎ことベルフレッドが、どこか不機嫌そうに武器の手入れをしていた。
グリモアベースから転移を受けたウルル・マーナガルム(|死神の後継者《ヴァルキュリア》・f33219)は、そんなベルフレッドにはすぐに接触せず、まずは遠巻きに様子を見た。
(「んー……」)
ウルルには、思うところがあった。
(「確かに、ボクは出来るけど普通の人はどうして出来ないんだろう、とか考えた事が無い訳じゃないけどさ」)
出来ない人を見て、どう思うか。どう行動するか。
ベルフレッドは身勝手にそれを踏みにじる行為に走ってしまったけれど。
ウルルは、絶対に|そうはならない《・・・・・・・》。誇り高きマーナガルム家の一員として、一人の軍人として、内に秘めた|誇り《プライド》があるからだ。
「だからこそ『皆のお手本』になって、皆で一緒に楽しめる様に引っ張って行かなきゃ」
知らず、口にする。
ベルフレッドにも、できればそうあって欲しかったと言わんばかりに。
「それが、|力ある者の義務《ノブレス・オブリージュ》なんじゃないのかな」
強く、真っ直ぐな心で。
ウルルは、ベルフレッドに――そしてまずは、デストラップダンジョンへと挑む。
「ベルフレッドくん、かな?」
「……俺の名前も随分と知れ渡ったもんだな」
挨拶代わりに話しかけてみれば、ぶっきらぼうな返事が飛んでくる。
「ボクはウルル、このデストラップダンジョンの攻略に来たんだ」
「見りゃ分かる、んで……一緒に行こうとか言うんだろ?」
快活なウルルの言動がベルフレッドにとっては眩しすぎるのか、不機嫌さに拍車がかかったような返しに、しかしウルルは負けることはなかった。
「ううん、ダンジョンの攻略はボクとハティでやる。ベルフレッドくんには、立ち会ってもらえればそれでいい」
「何だって?」
心底驚いたように声を上げたベルフレッドの視線の先には、ハティと呼ばれたAI搭載の猟犬ロボットが、ウルルに寄り添うように尻尾を振っていた。
『いつでも号令を、ウルル。準備は出来ています』
「へぇ……霊鬼士(グリムドーン)、にしちゃあ珍しい手合いだな」
ベルフレッドの中では、ハティは|霊鬼《グリム》の一種で二人の間の絆値は相当のもの、という見立てになったのだろう。
ウルルはウルルで面倒ごとがないように否定も肯定もせず、ハティと共にいざデストラップダンジョンのスタート地点に立つ。
「本当に、手出しは不要なんだな?」
「うん、こう見えてボクとハティは強いからね」
わざと、自信満々のていでそう言ってみせる。
隙や弱みを見せたら即狙われるという面倒もあったけれど、何より純粋にハティとのタッグでこの触れたら即死と呼ばれる高難易度ダンジョンを攻略して、己の実力を示してみたいという気持ちがあった。
――積み重ねた訓練は、決して裏切らない。
自分を、そして相棒のハティを信じて、ウルルは最初の一歩を踏み出した。
(「罠を巡らせる側……獲物を狩る側の考え方は、ボクもよく知ってる」)
|ボクならこー言う所に仕掛けるな《・・・・・・・・・・・・・・・》、というポイントもしっかり見て、ハティと共に慎重に歩を進める。
スタート地点から少し進んだ時点で、特に何も起こらない――ということは、それにより油断を誘い、もしくは緊張の糸が緩んだ時点で襲いかかってくるのだろうか。
『ハティよりウルルへ、100m先の地点に落とし穴の予兆を発見。『S.K.O.R』にデータを転送します』
「了解、流石はハティだね――ああ、確かに厄介な落とし穴がある」
大型のゴーグルを装着したウルルが、転送された地形の情報から罠の存在を見抜く。
そんな二人(?)のやり取りを横で見ていたベルフレッドは、ふぅんと鼻を鳴らす。
(「大した自信だと思ってたが、実際相当なもんかも知れないな」)
特にウルルがハティという相棒を連れているのは大きい。これでは迂闊に手を出せないというものだ。
それに、このウルルと名乗ったボーイッシュな少女には、不思議と腹が立たない。彼女自身が実力者でありベルフレッドの癇に障るところがほとんどないためか、それとも何か別の理由があるのか。
ベルフレッド自身、不思議な胸中を抱えたまま、ウルルたちを追いかけていた。
「ハティ、ジャミングで吊り天井の起動を阻止できる?」
『信号の受信から5秒後には無効化が可能です、実行しますか?』
「お願い」
トゲ付き吊り天井の気配を察すれば、ジャミングでそもそも起動自体を阻止したり。
「それにしても今の罠は|あからさますぎた《・・・・・・・・》、解除に時間をかけさせることで別の罠が……わわっ!?」
がっちゃん、と嫌な音が響き渡り、バリスタで撃ち出されたか如き巨大な矢が正面から飛来しようと、|ウルル《スナイパー》の尋常ならざる動体視力をもってすれば、最低限の動きで躱すことだって可能だった。
「おわぁ!?」
避けた大きな矢が、後方のベルフレッドを掠めていったのは、まあ事故ですね事故!
そんなこんなで、ウルルはハティとの見事な連携プレーでデストラップダンジョンをベルフレッドの助力も妨害もなしにクリアすることに成功した。
「今回俺は正式参加してないからな、クエスト報酬もなしってコトだ」
「ボクには特に必要ないから……要る?」
聞けば、ベルフレッドはレアドロップのクエスト報酬を求めてこのデストラップダンジョンを周回しているという。ならばとウルルが提案すると、ベルフレッドは首を横に振った。
「施しを受けるほど落ちぶれちゃいねえよ、それに」
少しだけ眉間に皺を寄せ、難しい顔をして、ベルフレッドは呟いた。
「手に入れるならおまえ|たち《・・》みたく、自分の力で手に入れてみせるさ」
「……そっか、頑張ってね」
ウルルはそれだけ言うと、ハティを伴ってデストラップダンジョンから離脱した。
もしかしたら。
もしかしたら、ベルフレッドは――。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
触れたら即死の罠だらけの高難易度ダンジョン、か。
面白そうじゃない。腕がなるわ。
【鬼神爆裂掌】発動
フロア移動の部屋の方角がわかるならそちらへ向けて、わからないなら手当たり次第に壁をぶち壊して進む
この時なるべく元々壁だった所を道にして進み、元々部屋だったであろう床を踏むのは避ける
何故って、罠があるのは部屋の中、通路と出入り口一歩目には無いって常識でしょ?(不●議のダンジョン感)
そうでなくとも、わざわざ壁の中に罠を設置するパターンはあまり聞かないし、最短で突破する意味でも有効だと思うわ
まあ、万一罠を踏んでも直撃する前に「怪力」で殴って壊せば大丈夫でしょ(
……何よ、私何か変なこと言ってる?
(自信満々)
●強い弱いで物事を見るのならば
「しっかし、ホントにドロップしねぇな……バグってるんじゃねぇのか?」
最近発見されたこの『デストラップダンジョン』のクリアで稀に手に入るとされているクエスト報酬が、ベルフレッドの今一番欲しい武器の作成素材として必要であることから、こうしてずっとダンジョンに潜ってはクリアを繰り返しているのだが、今日は朝から妙な連中に絡まれっぱなしな上に貴重なクエスト報酬は結局手に入らないでいて、怒りを通り越してだんだん疲れてきてしまった。
「はぁ……今日はマジでダメな日かも知れないな……憂さ晴らしも上手く行かねぇし」
デストラップダンジョンの入り口で、ため息をつくベルフレッド。
今日はもう引き上げようかと思ったその時、凜とした女性の声が響き渡った。
「触れたら即死の罠だらけの高難易度ダンジョン、か」
振り返った先には、華奢で小柄な大和撫子らしき姿があった。
「面白そうじゃない――腕が鳴るわ」
「鳴らしてるのは指じゃねぇか」
思わずツッコミを入れてしまう程に気合が入った女性の名は荒谷・つかさ(|逸鬼闘閃《Irregular》・f02032)。つかさはベルフレッドを見ると、不敵に笑う。
「どうしたのかしら? 疲れ切った顔をして」
「いや、馬鹿言え、そんなことはねぇよ……」
ただちょっと、高難易度ダンジョンを周回していたらあまりにも目当ての素材がドロップしないものだから、心が折れかけていただけだ。
「このダンジョンを? 周回?」
それを聞いたつかさが、突然目を輝かせた。そう、つかささんは強い男が大好きなのだ。
「凄いじゃないの、高難易度ダンジョンなんて普通一度クリアしたら満足しちゃうでしょうに、それを周回するだなんて」
「あ、いや、それは」
身の程知らずの雑魚も集まってくるから、それをカモにしてPKを楽しんでいただなんて、この女性相手には決して言ってはいけないような気がして黙っていた。
無論、つかさ側はベルフレッドの素性は把握済みではあったが、それはそれ、これはこれ。面白そうだから腕試しも兼ねて同行してもらいたい旨だけを端的に伝えた。
「どう? 私、こう見えて力には自信があるの。罠なんて文字通り粉砕してあげるわよ」
「すごい自信だな……そこまで言うなら、見せてもらおうじゃねぇか」
遂に折れたベルフレッドが、自慢の大剣を抜きながらダンジョンの入り口へと向かっていく。この女性がいかほどの腕前の持ち主かは知らないが、いざとなれば――という訳だ。
「ええ、よろしくお願いするわ」
つかさはにっこり笑顔で、ベルフレッドの後を追ってダンジョンへと入っていった。
「さて、このデストラップダンジョンだが」
珍しく先輩風を吹かせて説明をしようとするベルフレッドを、つかさが制する。
「やることは一つ――分かってるわ」
「何?」
つかさの纏う気配が、突如として変化した。
尋常ならざる闘気だ。ベルフレッドにも、すぐに分かった。
(「こいつ、何者だ!?」)
風よ。
炎よ。
大地よ。
空よ。
森羅万象に語りかけるつかさのオーラはどんどん大きくなっていく。そして――。
「我に力を! 【|鬼神爆裂掌《オウガハンド・スマッシュ》】!」
――ど、ごおおぉぉぉん!!!
ダンジョンの内部構造は、方角と共に(プレイヤーの)視界左上に小さく表示される。
つかさにも分かるそれで、進行方向をさえぎる壁を超常の手刀でぶち壊したのだ。
「ウッソだろ……!?」
「さ、行くわよ」
唖然とするベルフレッドに一声かけると、つかさは何事もなかったかのように進み出す。
元々壁だった瓦礫の上を進み、元々部屋だったであろう床を踏むのを避けているようだった。ベルフレッドにもそうするようにつかさは言う。
「何だってこんな足場の悪いトコを進むんだよ、罠が飛んできたら避けらんねぇぞ」
「だって、『罠があるのは部屋の中、通路と出入り口一歩目には無い』って、常識でしょ?」
「そんな常識、俺は初耳だぞ……」
若干の目眩を覚えながら、ベルフレッドはそれでも今のところ大人しくつかさに着いてくる。あの、一撃でぶ厚い壁をぶち抜いた怪力を見てしまっては仕方のないことだろう。
先を行くつかさは、再び突き当たった壁を破壊すべく力を溜めながら言う。
「そうでなくとも、わざわざ壁の中に罠を設置するパターンはあまり聞かないし」
――ばっごおおおぉぉぉん!!!
「……最短で突破する意味でも、有効だと思うわ」
「……それは、そうなん、だけどさぁ」
ダンジョンの罠を破壊する手段だったら、自分にもある。だが、ダンジョンの壁そのものを壊して最短ルートを作るという発想はなかったし、やろうと思っても出来ない。
それをいとも容易く、当然のこととしてやってのけるこの女性には――やはり、手を出すべきではないとベルフレッドは判断した。
「まあ、万一罠を踏んでも」
「フラグかよ、何か今カチって音がしたぜ?」
巨大な鉄球が、ようやく出番かと言わんばかりにつかさに迫る!
「はぁッ!!」
鉄球自体の勢いを逆に活かして、掌底を喰らわせるつかさ。
どうなったか? 巨大鉄球は粉みじんに破壊されたのだった。
「直撃する前に『怪力』で殴って壊せば大丈夫でしょ」
「いや、そうはならんやろ!」
「なっとるやろがい! 現実見なさいよ!」
「直視したくねえ! あんた何のジョブをそこまでやり込めばそんなになるんだよ!?」
ベルフレッドも嬉々として乗り換えた現時点最強の覇権職・聖剣士(グラファイトフェンサー)以外にも、いわゆるDPS職はGGO内に複数存在する。だが、聖剣士があまりにも人気が出すぎて、他のDPS職は『産廃』と呼ばれ、プレイヤー人口も極端に減ってしまったのだ。
そんな職業の中には、きっとつかさのような近接戦闘特化の浪漫職もあったに違いない。今は名前さえ忘れ去られてしまったジョブだが、つかさがそれに該当するものだとベルフレッドは思い込んでいる――というか、そういう解釈をしたのだろう。
「ジョブは秘密よ、論点は私が何か変なことを言ってるかどうかね」
「……強さこそ正義だからな、別に文句はねぇよ」
遂に、ベルフレッドが折れた。
力イズパワー、泣く子も黙るつかささんの完全勝利であった。
ちなみに、この攻略法は正式な攻略とは認められなかったようで、ゴールにたどり着いてもクエスト報酬が得られず、ベルフレッドが思わず壁を殴った(そして手を痛めた)というのは、余談であるのであまりお気になさらず。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『サルファーゴースト』
|
POW : ゴーストスクワッド
対象の周りにレベル×1体の【小さなサルファーゴースト群 】を召喚する。[小さなサルファーゴースト群 ]は対象の思念に従い忠実に戦うが、一撃で消滅する。
SPD : アンラック・フラッシュ
【全身 】から、物質を透過し敵に【不幸】の状態異常を与える【冷たい輝き】を放つ。
WIZ : 呪う亡霊
自身が触れた物体ひとつに【悪霊 】を憑依させ、物体の近接範囲に入った敵を【呪詛】で攻撃させる。
イラスト:リュイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●迫る亡霊の影
レアドロップのクエスト報酬を狙って高難易度ダンジョンの周回をするという、ある意味実力がなければ出来ない行為に一日中没頭したけれど、残念ながら成果は得られず。
「仕方ねぇ、今日は引き上げるか……」
そう言ってベルフレッドがデストラップダンジョンを後にした、その時だった。
「サルファーゴースト?」
道中に、|MOB《モブ》が湧いた。
それだけなら、逃げるか斬って捨てれば良いだけなので問題はない。
(「こんな所に湧くなんて聞いたことないぞ、面倒だから振り切ってタゲを切るか」)
モブ――いわゆる雑魚モンスターは、ある程度距離を置けば追いかけて来なくなるという習性を持っている。ベルフレッドが知るサルファーゴーストも例外ではないはずだった。
「――」
だが、このサルファーゴーストの群れは|様子がおかしい《・・・・・・・》。
異様にしつこい上に、見たことのない色違い――赤いサルファーゴーストが混ざっている。ベルフレッドが知っているサルファーゴーストは、青い個体だけだ。
「ベルフレッドさん!」
「おまえたちは……!」
そこへ、割って入るように飛び出してくる猟兵たち。
「赤い個体は、バグプロトコル化してます! そいつにやられたら……」
「バグプロトコルだって!? 馬鹿な、どうしてこんな所に」
「今はそれどころじゃない、赤い方は俺たちが相手をするから、青い普通のサルファーゴーストを頼む!」
「まったく、今日は本当に訳が分からない日だぜ……!」
ベルフレッドは舌打ちをしながらも自慢の大剣を抜き放つと、猟兵の言う通りバグプロトコル化していない一般的なサルファーゴーストを相手にし始めた。
雑魚モンスターであってもバグプロトコル、ベルフレッドを倒される訳には行かない。
ここで赤いサルファーゴーストを猟兵たちが引き受け、速やかに排除しなければ!
●ご案内
敵画像は青いサルファーゴーストですが、皆様が戦うのは赤い個体だとお考え下さい(その方が見た目ですぐに区別がつけられるからという今回のみの設定です)。攻撃方法はPSWに記載された通りで変わりはありません。
ベルフレッドは紙装甲の代わりに高い範囲攻撃力と機動力で、この程度であれば放っておいても自分の身は自分で守れます。
皆様はバグプロトコル化したサルファーゴーストの殲滅に専念して下さい。とにかく数が多い上に異様にしつこく、群れで迫ってきます。範囲攻撃で一網打尽にすると良いかも知れませんね。
イヴ・イングス
アレを可能な限り最速で全滅させれば良いわけですね。
ではこの間GGORTA学会のマックスさんに教わったこの手でいきましょうか。
(UC発動、ノートを取り出しペンを取る)
「サシセマッタ ハードラックノ ツヨイ アツイ タクサンノ ガ」
と入力します
(蛾の群れが大量に出現)
敵の属性は「冷たい」ので対抗属性の「熱い」を付与
そして「ハードラック」、「不幸」の状態異常を予め持っているため敵の状態異常攻撃は実質無効化
「ツヨイ」で耐久力がそこそこありまして──
(しばらくすると召喚した蛾が一斉に爆発)
「サシセマッタ」を入力することで一定時間後に爆発します
蛾は全滅しましたが敵も全滅しましたので問題ありません(ドヤ顔)
●PK野郎とRTAガチ勢
「クソッ、いくら何でも数が多すぎるだろ! どうなってんだ!?」
ベルフレッドが愛用する大剣は、一撃の強さと攻撃範囲の広さを兼ね備えた優秀な武器であるが、それでいくらなぎ払えどもサルファーゴーストどもの波は尽きない。
それだけ尋常ならざる事態が起きている、ということになるのだが――。
「アレを可能な限り|最速で《・・・》全滅させれば良いわけですね」
「おまえは……!?」
颯爽と登場したイヴ・イングスの声に振り返ったベルフレッドが目を見開いた。
「誰も最速でなんて言ってないが、とりあえずこの波をしのげるのなら何でもいい!」
悠長に会話をしている余裕すらないのか、それとも再びのGGORTA学会への勧誘を恐れたか、ベルフレッドは言葉短かに切り上げると、すぐにまた大剣を横薙ぎにしてサルファーゴーストの群れを斬り捨てていく。
イヴは少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐに気持ちを切り替えて、ベルフレッドに背後から迫ろうとする赤いサルファーゴーストたちへと対峙する。
「では、この間学会仲間のマックスさんに教わった『この手』でいきましょうか」
そう言うや、取り出したのは【|イヴさんの不思議なノート《ウルトラスクリブルノーツ》】。一見何の変哲もないノートに見えるが、まあ見ていて下さいよというもの。
イヴはペンを取り出すと、何も書かれていないノートにサラサラと何かを書き記した。
『サシセマッタ ハードラックノ ツヨイ アツイ タクサンノ ガ』
すると、ノートから噴き出すように蛾の群れが大量に出現して、迫る赤いサルファーゴーストたちに逆にまとわりつくように飛び回りだしたではないか。
「敵の属性は『冷たい』ので、対抗属性の『熱い』を付与」
自身の行動を説明するイヴの声は、いわゆるゆっくりボイスのそれであった。
「そして『ハードラック』――『不幸』の状態異常をあらかじめ持っているため、敵の状態異常攻撃は実質無効化」
『――』
サルファーゴーストのような一般モブAIには、感情などない。ゆえに困惑こそすることはないが、自分たちの攻撃が全く通じないという異常事態に、自分たちにまとわりつく蛾の群れに対して何度も同じ攻撃を試行する。
「『ツヨイ』で耐久力がそこそこありまして――」
イヴが言う通り、召喚された蛾の群れはどんなにサルファーゴーストから攻撃を受けても動じる気配がない。だが、ここからどう攻撃に転じるのだろうか?
――どぉん! どん! どどん!
蛾が、赤いサルファーゴーストたちを巻き込んで次々と爆発した。
「『サシセマッタ』を入力することで、一定時間後に爆発します」
「ええ……」
音に驚いて思わず振り返ったベルフレッドが、マジかよという顔で声を出す。
「蛾は全滅しましたが、敵も全滅しましたので問題ありません」
イヴの言う通り、波のように迫ってきていた赤いサルファーゴーストの群れは、綺麗さっぱりいなくなっていた。全滅である。
一方のベルフレッドが相手取っている青いノーマルなサルファーゴーストはどうか。まだまだ残っている。
「いかがですか、同志ベルフレッド! GGORTA学会に加入すればこんな雑魚――」
「だああああ、うるっせえ!! 入らないっつってんだろ!!」
効率厨とまで称されたベルフレッドがかたくなにRTAを拒む理由は何か。学会員のイヴがこんなにも華麗に敵を退けたというのに、一体どうして?
RTA、その深淵。
それを知るからこそ、PK行為という禁忌に手を染めたベルフレッドでさえ近付こうとしない。
PKクソ野郎の汚名を敢えて被っている男の、ギリギリの|矜持《プライド》であったか。
ある意味ひどい話である。イヴさん誰にも迷惑かけてないのに。
成功
🔵🔵🔴
ルナ・キャロット
PKを本当に助けるんですか?猟兵さん達は優しいですね…。
こういう人がいるから初心者ちゃんが減って私をチヤホヤしてくれる人も減るんです!助けはするけどお仕置きしますよ!(割りとゲス兎)
赤ゴーストをわざと引き付けてベルフレッドの方に持っていきます!
そしてステルスで隠れてタゲのをあっちに押し付けちゃいます。
んへへ慌ててますね。ちょっと面白いかも……
ってこのままだと私がPKになっちゃうので!ビビらせるだけビビらせたら赤ゴーストを切り刻んで助けます!
反省してくださいね!
あ、不幸デバフはレアドロ落ちなくなりそうなので絶対受けたくないです…。PKの人が変わりに受けといてください(ステルス逃げ)
●名前や称号に|†《ダガー》が入っているPCは大体古参(偏見)
大量のサルファーゴーストどもに群がられ、さすがのベルフレッドも表情が苦しくなっていく。常ならば装甲と引き替えにした大火力で一気に殲滅するところなのだろうが、赤い個体――バグプロトコル化したサルファーゴーストが混ざっているとなると、どうしてもそれを相手取ることの意味を意識してしまうのだろう。
「PKを本当に助けるんですか? 猟兵さん達は優しいですね……」
物陰からそんなベルフレッドの様子を見ていたルナ・キャロット(†ムーンライトソードマン†・f41791)は、とっても大きな垂れうさ耳を装着した頭部をぴょこっと出して、独り呟く。ちなみにこのうさ耳に限らず、ルナが装備しているアイテムはそのことごとくが激レア品だ。それだけの装備を集めるには、眠れない夜もあったろう。
「こういう人がいるから初心者ちゃんが減って、私をチヤホヤしてくれる人も減るんです!」
何てこった、堅実な良プレイヤーかと思ったら姫プレイヤー気質の持ち主だった!
「助けはするけど、お仕置きしますよ!」
しかも割とゲスいウサギさんだった! ベルフレッドの運命やいかに!?
黙っていればちっちゃな兎獣人が姫騎士の格好をした、凜々しい姿のルナ。だが、前述の通り中身はちょっと残念なので、ベルフレッド救援のクエストであっても容赦せぬ。
赤いサルファーゴースト――バグプロトコルと真っ向勝負と見せかけて、|狙い《タゲ》を自分に引き付けてから、こともあろうにベルフレッドの方へと走り出したのだ!
「……な、何!?」
大量の赤いサルファーゴーストが自分の方に迫ってくるのを見て、ベルフレッドは血の気が失せた顔になる。青いサルファーゴーストの相手だけでも大変なのに、これ以上は数の暴力で押し潰されてしまう。
「どういうことだ、赤い方はおまえたちが引き受けるんじゃなかったのか!」
誰の仕業かとベルフレッドが叫ぶも、【ディープシャドウ・クローク】を発動してその愛らしい姿を完全に消し去ってしまったルナには色々な意味で届かない。
(「んへへ、慌ててますね」)
ベルフレッドは理解しているだろうか。
これこそ、己が『弱者』と斬り捨ててきた他プレイヤー相手にやってきたことだと。
(「ちょっと面白いかも……って、このままだと私がPKになっちゃうので!」)
赤いサルファーゴーストのタゲは完全にベルフレッドに向いている。
迫る赤いサルファーゴースト、焦るベルフレッド。そして――。
「とうっ!」
ビビらせるだけビビらせた。もう十分だ。ならばここで姫騎士ルナ様の出番だ!
それはまるで兎が跳ね回るかのように、赤も青も関係なく、敵陣の中を縦横無尽に駆け巡りながら双剣を振るってサルファーゴーストどもを次々と細切れにしていく。
「お、おまえは……」
ベルフレッドは、突然現れて獅子奮迅の活躍を見せる兎獣人の姫騎士に心当たりがあった。ソロで黙々とクエストの高速周回をする、レア装備に身を包んだ廃人にしてうちの子可愛い勢の割に双剣の腕は本物だという特徴に、ルナの姿が完全に合致していたのだ。
ルナは最後のサルファーゴーストを斬って捨てると、ベルフレッドに向けて言い放つ。
「何がとは言われなくても分かってると思いますが、反省してくださいね!」
「……」
それを聞いたベルフレッドは、思わず押し黙ってしまう。
お礼もきちんと言えない悪い子には、相応の報いが待っていた。
「待て、何で不幸の|BS《バッドステータス》が付与されたまんまなんだ!?」
ベルフレッドが自身の状態を確認して、解せぬという声を上げる。
対するルナは、しめしめとほくそ笑んでいた。
(「不幸デバフはレアドロ落ちなくなりそうなので、絶対受けたくないんですよね」)
良い機会だ、この際徹底的に報いを受けて、しこたま反省してくれればいい。
それはベルフレッドのためというより、自分自身のためではあったけれど、きっと結果的には良い方向に向かうことだろう。
大成功
🔵🔵🔵
テッカ・ロールナイト
ベルフレッド君、さっきぶり~。
見てくれよ、さっき一緒にクリアした時のクエスト報酬。激レア装備の『紅き月の鎧』だぜ~。
こんないい物手に入るとは、ベルフレッド君と一緒にクエストクリアしたおかげかな~。はっはっはっ!
と、ベルフレッドへの自慢&煽りはこの位にして赤いサルファーゴーストとの戦闘を開始するぜ。
『エンジンブレイド』でなぎ払ってやるぜッ!
…って多い多いッ!?くっそ、手が足りねぇッ!
なら『捕食者の大腕』を捕食形態にしてサルファーゴーストの一匹に【捕食者の魔喰】ッ!
手に入れた敵の力は…【アンラック・フラッシュ】ッ!
纏わり付くゴーストに不幸の状態異常を与えてやるぜッ!
【アドリブ歓迎】
●男子、三日会わざれば刮目して見よ
身から出た錆、というべきか。押し付けられた『不幸』のバッドステータスを背負ったまま、ベルフレッドはそれでも衰えぬ実力で青いサルファーゴーストどもをねじ伏せていく。
大剣を振るってバッサバッサと青いサルファーゴーストどもを斬り捨てていくうちに、ベルフレッド本来の動きのキレの良さも徐々に戻ってきたように見えた。
「行ける、これなら何とか切り抜けられる……!」
赤いサルファーゴーストの気配は、謎のプレイヤーたちが引き付けてくれているのか、自分からはかなり遠い。青いサルファーゴーストの撃滅に集中しようとした、その時。
「ベルフレッド君、さっきぶり~」
「!? 誰だおまえ!?」
真紅に輝くグレートヘルム型フルプレートアーマーを身に纏ったプレイヤーが、軽い調子で声をかけてきたのだ。だが、ベルフレッドにはこのプレイヤーに心当たりはない。
「俺だよ俺、ホラ、魔喰者(モンスターイーター)の」
兜のバイザーを上げながら気さくに言うのは、紛れもなくベルフレッドがデストラップダンジョンでカモにしようとした相手――テッカ・ロールナイトだった。
「! その|顔《ツラ》、おまえ、あの時の」
「そそ、見てくれよ。コレ、さっき一緒にクリアした時のクエスト報酬」
「なん、だと……!?」
「じゃーん! 激レア装備の『紅き月の鎧』だぜ~」
それは見れば分かる。ベルフレッドはそう言いかけてグッと堪えた。その代わりに、大剣を薙いで青いサルファーゴーストどもをまとめて倒す。
「こんないい物手に入るとは、ベルフレッド君と一緒にクエストクリアしたおかげかな~」
はっはっは! と高笑いするテッカに、ついカッとなったベルフレッドが怒鳴った。
「うるせえ! ぶっ|**《殺す》ぞ!!」
「おお怖、伏せ字になるほどの暴言吐かれちった☆」
大体のオンラインゲームでは、コミュニケーション上不適切と判断される単語はシステム上の処理で伏せ字扱いとなる。文字チャットでは記号に置き換えられ、音声上はピー音で上書きされるといった感じだ。それはここGGOでも例外ではなかった。
――といった感じで存分にレアドロ自慢でベルフレッドを煽り倒し、満足したテッカはいよいよ本題の赤いサルファーゴースト退治に移る。
「エンジンブレイドでなぎ払ってやるぜッ! 来なッ!!」
『――』
今でこそレアドロップの防具を手に入れて喜んでいるが、テッカがGGOを始めた頃からの付き合いでもあるエンジンブレイドも、しっかり強化していまだに愛用している大事な装備だ。
よく手に馴染むし、こいつを振り回している時の爽快さも病みつきになる。ジェットエンジンを吹かして推力をつけての斬撃の威力たるや、一度味わうと手放せないというもの。
しかし――。
「……って多い多いッ! くっそ、斬っても斬ってもコレじゃあ手が足りねぇッ!」
テッカは舌打ちひとつ、エンジンブレイドを右手一本で何とか持つと、空いた左腕を赤いサルファーゴーストどもに向けて突き出し、叫んだ。
「オラァッ! お前のユーベルコード、よこしやがれッ!」
同時に発動したのは【|捕食者の魔喰《プレデターインストール》】!
左腕――「捕食者の大腕」がたちまちのうちに捕食形態となり、手近な赤いサルファーゴーストを頭部から食い千切る。ゴーストに肉片があるのかはひとまず置いておこう。
『――』
「へへっ、確かにいただいたぜ……【アンラック・フラッシュ】ッ!」
テッカは、纏わり付いてくる赤いサルファーゴーストどもに片っ端から『不幸』の状態異常を付与して回る。こうすることで、まともに相手をしていてはキリがない数のサルファーゴーストも、ある程度の数は自滅するか一撃で倒せるようになるというものだ。
「オラオラ、まだまだ行くぜぇッ!」
活き活きと赤いサルファーゴーストどもを殲滅していくテッカの姿を横目で見て、ベルフレッドは苦々しい顔をする。
下に見ていた相手に、助けられる気分はどうだ?
――いいや、|強い味方は、嫌いじゃない《・・・・・・・・・・・・》。
成功
🔵🔵🔴
シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、日ごろの行いがよくなかった結果ってことですね。
でも運がいいですねあなた。この場に私たちがいなかったら最悪、個人情報を抹消されてこの世に存在しないってことになってましたよ?(【世界知識・情報検索】)。
――まあこの異常個体はこちらにまかせて、通常の敵を【蹂躙】しちゃってください。
で、【(各種】耐性・オーラ防御】で身を守りつつUC発動、攻撃系だったら【乱れ撃ち】でまとめて撃破し、強化系だったら敵陣に【切り込み】
蹴散らしちゃいましょう。
※アドリブ・連携歓迎
●Gaming AliceCV
サルファーゴーストは、青い個体も赤い個体もまだまだ湧いて出てくる。
そして、その全てが執拗にベルフレッドを狙ってくる。
タゲを向けられたベルフレッドは、猟兵――謎のプレイヤーたちに支援されながら何とかこの修羅場を掻い潜っていたが、内心ではこんな思いが生じ始めていた。
――これは、俺がしてきたことの報いなのか?
とあるプレイヤーに、赤いサルファーゴーストどもをけしかけられた時の恐怖が蘇る。
あの時は後から『単なる脅しでした☆』と種明かしをされたけれど、自分のこれまでの行いを振り返ると、さすがのベルフレッドも心にチクリとしたものを感じ始めていた。
「まあね、日ごろの行いがよくなかった結果ってことですね」
「……!」
シャルロッテ・ヴェイロンの言葉が、ベルフレッドの胸に刺さる。
だが、今は内省の時ではない。目の前に迫る脅威を、何とかして排除しなければ。ベルフレッドは息を呑むも、攻撃の手は緩めない。
「でも、運がいいですねあなた」
シャルロッテは愛用のゲーミングノートPCを広げながら、赤いサルファーゴーストどもの方へと向き直った。
「この場に私たちがいなかったら、最悪|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却されてこの世に存在しないってことになってましたよ?」
「おまえたちが何者なのかは気になるが」
互いに背中合わせの立ち位置となりながら、二人の凄腕ゲーマーは言葉を交わす。
「今は、素直に感謝しておく……っ!」
怒濤のように押し寄せてくる青いサルファーゴーストの群れを、次々と消滅させていくベルフレッドの実力自体は本物だ。
だが、所詮は――と言っては悪いが――一般プレイヤーに過ぎない。バグプロトコルに倒されれば、それこそシャルロッテの言う通り、最低限の人権すら失ってしまう。
シャルロッテもこれ以上の会話は不要とばかりに、赤いサルファーゴーストの群れを見て不敵に笑う。
「――まあ、この『異常個体』はこちらにまかせて、青い方を蹂躙しちゃってください」
それだけ言い残し、シャルロッテはいよいよ赤いサルファーゴーストの群れのターゲット内に自ら踏み込んでいった。
狂気も、呪詛も、激痛も、不利な環境も、毒も、冷たい輝きも、行動に伴う恥ずかしさも、何もかもを耐えてみせる強靱な精神力とプログラムによる防御障壁に身を包み、シャルロッテはノートPCのキーボードを片手で器用に叩く。
すると、ノートPCが不思議な光に包まれて七色に輝き出す!
「ふぅん、|コレ《・・》で行けってことですね」
シャルロッテはひとり心得たという風に頷くと、赤いサルファーゴーストの群れへと一気呵成に切り込んでいった。
「リミッター解除――ちょっとだけ限界、越えてみせましょう!」
『――』
禍々しい赤の群れの中で、約1,680万色の輝きが際立つ。強化されたPCの性能を十全に活かして、シャルロッテは電脳魔法を縦横無尽に放ち、華麗なるモブ狩りを行う。
「いい調子です、このまま蹴散らしちゃいましょう」
そう言いつつ、シャルロッテは一度だけ離れたところで奮戦するベルフレッド目がけて電脳魔法をぶっ放す! これは一体どういうことか!?
「おわぁ!?」
剣呑な気配に、ベルフレッドは間一髪飛来した魔法攻撃を回避した。
「何しやがる!」
「すみませんね、このユーベルコード、|味方《・・》を一度でも攻撃しておかないと私の寿命が減るんですよ」
あなたのために寿命まで削る義理はないですからね、と言ってのけるシャルロッテ。
だが、ベルブレッドの耳には確かに『味方』という言葉が残って離れなかったのである。
大成功
🔵🔵🔵
リンカ・ディアベルスター
おやおや…大量に出てきたね
高速詠唱で電撃属性の魔法を唱えて敵に攻撃
さあ!狩りの時間だよ!
指定UCを発動して概念無限消滅撃を纏った矢弾の雨を放ち、敵を攻撃する
おっと…あの光は不味いかな?
敵がUCを発動する前に超越神速で回避して焼却魔法で反撃
さあ…次は『知恵』の星神の力を借りようかな?
指定UCの効果でUC『知恵』の星神ミスティを発動して超越概念魔法を周りの敵に放ち不幸の力を無視して攻撃する
まあ、PKした奴にも最低限の人権はあるからね…はあ、星神の加護を君にあげようかな
ミスティの力で不幸な目にあっているベルフレッド君にミスティの力で加護をあげた
(加護…どんな敵でも薬草確定ドロップ)
薬は大切だからね…
●星神の力
「まあ、PKした奴にも最低限の人権はあるからね……」
リンカ・ディアベルスターは大きなため息をつきながらも、ベルフレッドの立場に対して一定の理解を見せた。
オンラインゲームの世界においてPK行為は到底許されることではないが、だからといってその報いが最低限の人権すら剥奪されるというのはあまりにも行き過ぎである。
故にリンカはベルフレッドを捨て置かない。愛用の星神の杖を手に、迫る赤いサルファーゴーストの群れの前に立ちふさがる。
「おやおや……大量に出てきたね」
リンカの姿を認めた赤いサルファーゴーストどもは、あっという間に仲間を呼び寄せ、群れをなして襲いかかってきた。
だが、次の瞬間。
増えた分だけのサルファーゴーストが、天より降り注いだ電撃によって蒸発した。
魔法の詠唱が速すぎて、ほとんどの者が何が起きたかさえ分からなかっただろう。
「さあ、狩りの時間だよ!」
今のはほんの小手調べ、これからが本番とばかりにリンカは【|『狩猟』の星神 翠嵐《アステリオーン・スイラン》】で、仮面姿の上半身が鎧を纏った人間、下半身は麒麟の姿をした弓持ちし星神を喚び出した。
狩猟の星神は手にした弓から概念無限消滅撃を纏った矢弾の雨を放ち、さらに赤いサルファーゴーストの群れを減らしにかかる。
すると、サルファーゴーストの群れがいっせいに冷たい輝きを放ち始めた。
「おっと……あの光は不味いかな?」
危険を察知したリンカは、星神の加護により得た超越神速の力を使って回避する。
「さあ……次は『知恵』の星神の力を借りようかな?」
本来ならば一度の戦闘にひとつしか使用できないユーベルコードを複数発動可能にさせる星神の加護を存分に振るって、リンカは次に【|『知恵』の星神 ミスティ《アステリオーン・ミスティ》】を発動させた。
半人半獣の星神と入れ替わるように現れた黒い機械と銀色の触手が混じった姿の星神は、超越概念干渉魔法を周囲の赤いサルファーゴーストの群れに放ち、不幸さえも無視する魔法で攻撃する。
「振動の力もあげよう!」
攻撃から逃れた敵も逃がしはしない、クイックドロウの要領で素早く衝撃波を放ち次々と赤い個体を撃破していった。
大成功
🔵🔵🔵
仇死原・アンナ
◎【暗光】
来たか…!
ベル…フレッドは大丈夫そうだな…
ベル…トは…………………………
…ともかくこいつらを屠る為にも…さぁ行くぞ…私は処刑人…!
地獄の炎纏う鉄塊剣と妖刀を抜き振るい敵群を攻撃しよう
鉄塊剣でなぎ払い重量攻撃と斬撃波で吹き飛ばし
妖刀で串刺し引き裂き切断してやろう
そして【ブレイズフレイム】により地獄の炎を範囲攻撃で広げ
召喚された敵群を次々に焼却してゆき殲滅、蹂躙してやろう…!
一匹も逃がすまいぞ…!
私は…処刑に…何!?
…………それで…何匹倒した…?
……そういうのはもっと倒してから言え!!!
……ごちゃごちゃ言わずにもっと倒してこい!!!(尻に蹴りをぶちこむ)
ベルト・ラムバルド
◎【暗光】
バグ相手は我々か…!捻くれ者のフレッドくんを護るのも猟兵で騎士の務めよ!
そうでしょう…アンナさん?(~💗 ウィンクを飛ばす)…え?無視?
ともかく幽霊もどきめ!我が剣の錆にしてやる!
御守りの力で呪詛なんぞ恐れるものか!レイピアで果敢に切り込む!
…ふわふわしていて当たら~ん!ふわふわするなよ!当たりなさいよ!
あ~!?キマイラ達が勝手に召喚されてる~!応援ありがと~!
彼等の期待に応える為にも~…落ち着いて~…チェストッ!!!
やった!仕留めたー!応援ありがとー!
アンナさん見ました!?やりましたよ!はい一匹!
…ひぇ…いえ私達にとっては小さな一匹ですが私にとっては偉大な一匹ですし…きゃいん!?
●殲滅力が違うんです
サルファーゴーストは浮遊する亡霊タイプのモンスターで、本来ならばベルフレッドが一撃のもとに葬り去っているように簡単に倒せるのだが、バグプロトコル化すると異様にしつこくなる上に仲間を呼び寄せ、群れでプレイヤーの命を奪いにかかってくる。
バグプロトコル――赤いサルファーゴーストが執拗にベルフレッドを狙ってくるのも、黒幕と予知された|PKK《プレイヤーキラーキラー》によるものなのだろうか?
だが、今は考えている余裕はない。倒せども倒せども湧いてくるサルファーゴーストの群れを、力の限り蹴散らさなくてはならない。
「来たか……!」
ベルフレッドの救援に入った仇死原・アンナの視界にも、赤いサルファーゴーストの群れが目に入る。
「青い方も赤い方も無限湧きかよってくらいにキリがねえ! だが、青い方だけなら……」
何とかなる、という言葉の代わりに、大剣で一気に大群を葬り去りながらベルフレッドが叫ぶ。言外に『赤い方は何とかしてくれ』という意図を感じる言動だった。
「バグ相手は我々か……!」
アンナの後に続いて姿を見せたベルト・ラムバルドが、それを察して口走った。
「ベル……フレッドは大丈夫そうだな……」
ただでさえ名前が似ていてまぎらわしいことこの上ないのに、思わせぶりに言葉を切ってアンナが言うものだから、ベルトは思わずアンナの方を振り返ってしまい、何だ違うのかとがっくり肩を落としてしまう。
「ベル……トは……」
「! 捻くれ者のフレッドくんを護るのも猟兵で騎士の務めよ! そうでしょう……アンナさん?」
今度こそ本当に自分へと視線を向けられたと確信したベルトは、それはもう大張り切り。凜々しく宣言し、アンナへと💗ばちこーん💗とウインクを飛ばす。が。
「……(ぷいっ)」
「……え? 無視?」
しばしの沈黙ののち、アンナはベルトに背を向けてしまった。かわいそう。
それでもめげないのがベルト・ラムバルドくんのいいところ、愛しのマドンナことアンナさんからの贈り物でもある|細剣《レイピア》「エスパーダ・アサエモン」を抜き放つと、凜々しく宣言してみせた。
「ともかく、幽霊もどきめ! 我が剣の錆にしてやる!」
「……ああ、ともかくこいつらを屠る為にも……さぁ行くぞ……」
アンナもベルトと背中合わせに身構えながら、赤いサルファーゴーストどもに相対する。
「私は……処刑人だ……!」
とっておきの決め台詞と共に、戦闘が始まった。
先に仕掛けたのはアンナだった。地獄の炎を纏う鉄塊剣と妖刀を何と同時に抜き振るうと、赤いサルファーゴーストの群れへと躊躇なく突っ込んでいく!
鉄塊剣「錆色の乙女」では浮遊する亡霊どもをまとめてなぎ払い、剣そのものの重量に任せた叩きつけと斬撃波で群がってくる個体を片っ端から吹き飛ばす。
もう片方の手にある妖刀「アサエモン・サーベル」は、赤いサルファーゴーストを刀身が許す限りまとめて串刺しにした上で、地面に叩きつける勢いで引き裂いて切断する。
まさに、無双の戦いぶりであった。
振り返ることこそ叶わなかったが、ベルフレッドもアンナのただならぬ戦いぶりを気配で感じ、内心安心して赤い個体を任せていたのはここだけの話。
その一方で、連れの男ことベルトはどうか。
正直、ベルフレッドは「大丈夫かこいつは」と思っていたとか何とか。
それもそのはず、愛しい人の髪の毛が織り込まれた御守りという色々な意味でヘビーなアイテムのおかげで呪詛攻撃こそ無効にしたベルトであったが、それを頼りにレイピアで果敢に切り込んだはよいものの、浮遊するサルファーゴースト相手に攻撃が一向に当たらないのだ。
「……ふわふわしていて当たら~ん!」
そう、浮遊している敵というのは想像以上に捉えにくいのだ。群れをなしているのだから適当に剣振り回してれば当たるでしょと思われがちだが、ベルトの得物は繊細なレイピア。しっかり狙って刺突しなければならないので、残念ながらサルファーゴーストとの相性は悪い。
「ふわふわするなよ! 当たりなさいよ!」
なまじ呪詛が通じないのが仇になったか、サルファーゴーストの群れは面白がるようにベルトを囲んでふわっふわしまくる。これにはベルトさんも思わずオネエになっちゃう。
完全に遊ばれているその姿を、しかし、|いいね《・・・》する者の影あり。
誰だ!? 【|イイネキマイラ・フューチャーズ《トテモユカイナキマイラタチ》】の皆さんだ!!
「キャーベルトサーン!」
「ガンバッテー!」
ベルフレッドをはじめGGOプレイヤーの視界には、画面右下から次々と飛んでくる♥のエフェクトが見えたことだろう。キマイラの皆さんの熱い応援は、確実にベルトにも届いていた。
「あ~!? キマイラ達が勝手に召喚されてる~! 応援ありがと~!」
お前が喚んだんじゃないんかい、というベルフレッドのツッコミはさて置き。ベルトはどんどん盛り上がっていくキマイラの皆さんにカッコいい所を見せるべく、大きく深呼吸。
(「彼等の期待に応える為にも~……落ち着いて~……」)
敢えて目を閉じ、集中。
そして目を開け、刮目!
「チェストッ!!!」
ベルトの裂帛の気合を背に聞きながら、アンナは【ブレイズフレイム】による地獄の炎を自らの意思で延焼させると、赤いサルファーゴーストどもを次々に焼却していく。
炎使い、という存在自体は数多かれど、アンナほど自在に炎を巧みに操れる存在はそうそう居まい。これも訓練の賜物なのだが、暖房や調理目的にまで使えるというのは中々に極まっていると思われる。
そんな地獄の炎の前には、バグプロトコルといえどもひとたまりもない。あっという間に蹂躙され、殲滅されていく。もう何体の個体を屠ったかなど、数え切れないだろう。
「一匹も逃がすまいぞ……!」
それでもアンナは止まらない、視界から赤いサルファーゴーストが完全に消え去るまで、攻撃の手を緩めるつもりは欠片もなかった。
「私は……処刑に」
「やった! 仕留めたー! 応援ありがとー!」
「……何!?」
キャッキャと喜びを分かち合うベルトとキマイラの皆さんの声に、アンナは真顔で振り返る。それに気付いたベルトが、ぶんぶんと手を振って叫んだ。
「アンナさん見ました!? やりましたよ!!」
「……(こくり)……それで……何匹倒した……?」
「はい、一匹!!」
倒したことは倒した。それは認めよう。故の頷きをひとつ。
しかし、自分が無双していた間に、お前は何匹倒したのかと問うた結果が、これだ。
アンナの顔に影が差す。控えめに言って、圧が凄かった。
「……そういうのは、もっと倒してから言え!!!」
「ひぇ……いえ私達にとっては小さな一匹ですが私にとっては偉大な一匹ですし……」「……ごちゃごちゃ言わずにもっと倒してこい!!!」「きゃいん!?」
アンナが慣れた様子でベルトのお尻に痛烈な蹴りをぶち込んだものだから、ベルトは情けない声を上げながら再びサルファーゴーストの群れの中へと転がっていった。
「あいつ、本当に大丈夫なのか……?」
とうとう、たまらずにベルフレッドが一瞬の隙を見てアンナに聞いてしまった。
「……大丈夫だ……」
色々な意味で、という言葉を敢えて省略しつつ、アンナはそう返す。
何やかやで信頼はしてますよね……ますよね!?
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
菜花・深月
うわっ、バグプロトコルじゃん…こ、怖いけど立ち向かわないと…!
昔のトラウマを胸に秘めながらも敵に向かって神聖攻撃の矢弾の雨を放ち敵を攻撃する
バグプロトコルになっても行動は同じだよね?ああ!もう!結界術じゃ防げないからこの敵苦手だよ!
敵がUCを発動する前に念動力で空を飛びながら推力移動で光から回避する
凍らせてやる!
弾道計算し障害物に気をつけながらUCを発動して敵を凍らせた
不幸状態はうちもなった事あるから痛い程分かるよ…
指定UCの効果でUC星矢と殲滅光の輪舞曲を発動して敵を殲滅しながら自身と味方全員に状態異常を直す結界を展開する
まだ敵がいるよ、何とかしなきゃ!でも多すぎるよ…次に備えておかなきゃ!
●|心的外傷《トラウマ》を越えて
「うわっ、バグプロトコルじゃん……」
菜花・深月の足が思わず竦む。
「こ、怖いけど立ち向かわないと……!」
どうしても震えてしまう手を、足を、身体を、それでも奮起させて赤いサルファーゴーストの群れに向き直る深月の姿を見て、ベルフレッドは複雑な心境になっていた。
不思議だったのだ。見たこともない装備品に身を包み、見たこともないスキルでバグプロトコルさえ恐れずに立ち向かっていく謎の存在が。
まさか『ゲームの世界に生身で転移してきた異世界の存在だ』とか『猟兵という存在として覚醒したからバグプロトコルも怖くない』なんて真面目に説明しても到底理解されないだろうから、誰も何も言わないだけで。
そして何より、今が差し迫った非常事態であるが故に、猟兵たちもベルフレッドも群れをなして襲いかかってくるサルファーゴーストどもの対処に専念しているのだった。
だが、この少女――どこかで見た覚えがある戦い方をする月穹士(アルテミスガンナー) ――がバグプロトコルに向ける恐怖には、親近感が抱ける。
まるで、|自分と同じごく普通のゲームプレイヤーであるかのような《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
「……無理、すんなよ」
「えっ」
「おまえたちの素性は分からんが、怖いなら無理して戦わなくてもいいだろ」
「……ううん、うちは戦うよ」
怖いのは本当。
でもそれ以上に、逃げ出したくないというのが先に立った。
だから、深月は弓を手に取り、しっかりと赤いサルファーゴーストどもを見据える。
バグプロトコルに倒されたら、|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却される。
それが、何を意味するかは――深月自身が一番よく知っている。
故に、たとえ相手がPKという非道な行為に走った存在であっても、そこまでの報いを受ける謂れはないはずだと、そう信じて深月は戦うことを選んだのだ。
「えいっ!」
緻密に計算された弾道で、亡霊どもを浄化する神聖属性を帯びた矢弾の雨を放ち、手始めに前列の一群をまとめて消滅させる深月。
「バグプロトコルになっても行動は同じだよね?」
本来のサルファーゴーストの脅威度を|知っている《・・・・・》からこその発言に、青い群れを相手取るベルフレッドはますます訝しむが、今はそれどころではない。
「ああ! もう! 結界術じゃ防げないからこの敵苦手だよ!」
冷たい輝きが深月を捉える前に、少女は地を蹴って念動力で宙を舞う。そして、そのまま推力移動で光からその身を逃す。
「凍らせてやる!」
空中で器用に反転すると、深月は逆さまになった状態でも器用に弾道計算をして、障害物をものともしない【|氷刻矢雨の月矢《コキュートス・アルテミス》】を発動させる!
放たれた必中の月矢は、次々と赤いサルファーゴーストどもを凍らせて無力化していく。
(「不幸状態はうちもなった事あるから、痛い程分かるよ……」)
次の一手は、【|星矢と殲滅光の輪舞曲《ステラアロー・カタストロフィライト・ロンド》】。凍らせただけでは終わらない、バグプロトコルはことごとく殲滅しなくては!
星矢が降り注ぎ、凍ったサルファーゴーストの群れが次々と砕け散っていく。しかし、その向こうからまだまだ新たなサルファーゴーストどもが迫ってくるのだ。
「まだ敵がいるよ、何とかしなきゃ!」
ユーベルコードの副次効果で、深月は自身とベルフレッドを包み込む結界を張る。これで、防ぎきれない不幸のバッドステータスが付与されても、すぐに回復できるだろう。
「でも、多すぎるよ……次に備えておかなきゃ!」
「何だかんだで手際がいいな、おまえ」
弱気になりかけつつも奮戦する深月に、背中合わせの立ち位置になったベルフレッドが声をかけた。援護に対する彼なりの礼のつもりなのだろう。
赤と青の亡霊どもは、まだまだ襲いかかってくる。
何としてでも、|力を合わせて《・・・・・・》乗り切らなくては――!
大成功
🔵🔵🔵
ユキト・エルクード
◎ SPD判定
やれやれ、もてる野郎の後始末とは面倒だな。
自分で蒔いた種くらい自分で全部処理して貰いたいモンだが、そうも言ってられないのが泣けるね。
【戦術】
標的がゴーストである為、【武器に魔法を纏う】を利用し【浄化】属性を装備した武器に付与して戦闘を行う。
敵とカチ合う前にUCを使って神火分霊を呼び寄せた後、集団をひたすら連鎖爆破しつつ浄化。
本体である自分は爆発時の閃光に紛れつつ、爆風に乗って効率的に高速移動。
【空中機動】【推力移動】【軽業】等の移動系技能を駆使し、敵の攻撃を避けつつUCで弱った敵にトドメを刺していく。
相手からの攻撃に対しては【霊的防護】で対処しつつ【カウンター】を狙っていく。
荒谷・つかさ
ふうん、バグプロトコルってこんな感じなのね。
ま、何であろうと私のやることは同じ。
いつも通り、粉々に粉砕するまでよ。
(拳を鳴らしながら素手で接敵)
敵郡に向かって【破界拳】発動
青いのも赤いのも区別せず、半径143m範囲内を纏めて粉砕
とにかく数だけは多いけど、耐久は無いに等しいようなので突っ込んでは粉砕・殲滅を繰り返していく
それでも抜けてくるやつが居るなら、「怪力」任せに蹴り飛ばして迎撃
そういえば何も考えずにこの技使ったけど、サーバーは大丈夫かしら……
(世界の壁を割る程のSTRで殴ったのでオーバーフローやプログラム破損、サーバークラッシュが心配になった)
(それはそれとして殴るのはやめない)
●神火の舞と破界の拳
「やれやれ、|もてる《・・・》野郎の後始末とは面倒だな」
「ぐっ……」
ついぞ先程デストラップダンジョンでしてやられた相手――ユキト・エルクードにそう言われて、ベルフレッドは思わず苦い顔になる。
なぜ自分がこうも執拗にバグプロトコルに狙われるのかは、最初こそまったく分からなかったが、こうして猟兵たちに守られて実質的な共闘を経るうちに、それとなく理解してきていた。
故に、ベルフレッドはもう猟兵を――突如現れてバグプロトコルたちにも果敢に立ち向かっていく存在を、無碍にはできなくなっていたのだった。
「|自分で蒔いた種《・・・・・・・》くらい自分で全部処理して貰いたいモンだが、そうも言ってられないのが泣けるね」
「……そ、そりゃあ悪かったな」
赤いサルファーゴーストの群れに一度でも蹂躙されようものなら、たちまち|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却される身のベルフレッドとしては、ユキトに何を言われようとも甘んじて援護を受ける他ない。
素直に礼が言えなくとも、かろうじて反省しているという気持ちだけは絞り出すことができただけ、かなりの進歩を遂げていると言っても良いのではないだろうか。
「ふうん、バグプロトコルってこんな感じなのね」
「「!?」」
ユキトとベルフレッドが言葉の応酬を繰り広げていた最中にも、戦闘は既に始まっていたというのか。荒谷・つかさが赤いサルファーゴーストを一体、無造作に手で掴んで眺めていたのだ。何という暴力的な光景か! 二人の男子は思わず目を見開いてしまう。
『――』
「ま、何であろうと私のやることは同じ」
――ぐしゃあ! つかさの手の中で、赤い個体の頭部がひしゃげて消滅した。
「いつも通り、粉々に粉砕するまでよ」
頭部を失い力なく地面に落ちていく胴体部分を踏みつけながら、つかさは淡々と告げる。
「……この世界では幽霊の頭を握り潰すなんて芸当がまかり通るのか?」
「……いや、あんな雑な倒し方は俺も初めて見た」
ユキトとベルフレッドは、つかさの方を見たまま、こんな会話を交わしたとか。
いつまでも唖然呆然としてはいられない、青いサルファーゴーストの群れは変わらずベルフレッドが自分で引き受けるとして、危険な赤いサルファーゴーストの方を猟兵たちが相手取る作戦は変わらなかった。
拳を鳴らしながら素手で敵の群れへと突っ込んでいくつかさを横目に、ユキトもまた目を閉じ集中した状態で愛用の漆黒の棍「桜華」に両手を滑らせていく。
すると、棍が淡い光を帯びた状態――浄化の属性を付与された、亡霊特攻の武器へと変化したではないか。
それだけには留まらない。赤いサルファーゴーストの群れが迫る中、ユーベルコード【|神火分霊葬送陣《ジンカブンレイソウソウジン》】を高速で発動させ、あっという間に十二体の神火分霊を眼前に召喚してみせたのだ。
布陣は完璧、あとは群がってくる赤いサルファーゴーストどもを迎え撃つのみ!
「おっと」
不幸の|状態異常《バッドステータス》を付与してくる冷たい輝きをまともに喰らう訳にはいかないと、ユキトは霊的防護の術を自身にかけて無効化を狙う。
『――』
自分たちの攻撃が通らないことを不思議に思うかのごとくふよふよと群れる赤いサルファーゴーストどもを、今度はユキトが反撃する番だった。
霊峰天舞アマツカグラの龍脈から召喚されし神火分霊の力は除霊にさぞやうってつけだったろう、赤い群れに突撃させて連鎖爆破させれば、亡霊どもは欠片も残らず浄化されていく。
どん、どぉん! 神火分霊たちが次々と爆発していくただ中を、ユキト自身も駆け抜ける。その姿を、赤いサルファーゴーストどもは爆発によって生じる閃光のせいで捉えることができないでいる。
右往左往するばかりの赤い群れを狙い、ユキトは爆風に乗って宙に舞い上がった。ついぞ先程までユキトが立っていた場所を、冷たい輝きが包み込んでいくのが見えた。
爆風の勢いに身を任せつつも、空中で上手に姿勢を制御する。|天賦の才持ちし者《イノセント》たるユキトには、この程度朝飯前である。
そして、上空から一気に急降下して、棍の一振りで弱った群れをまとめて一網打尽! 非常に効率的な戦いぶりであった。
一方の、つかさはどうか。
一体一体、掴んで屠っているのだろうか?
否――敵の群れを前にして、静かに集中していた。
右の拳に全てを――そう、全てを乗せて、究極の技を発動させるために。
「大丈夫か!? 敵の群れがどんどん増えてるぞ!?」
振り返ったベルフレッドが、つかさの周りを囲む赤い敵の数に驚愕する。
だが、つかさは動じない。
ユキトも、つかさを信じて敢えて助太刀には行かない。
「しまっ……」
とうとう、青いサルファーゴーストの群れの一部までもがつかさの方へと流れ込む。ベルフレッドがいよいよ焦るが、それでもつかさは動かない。
溜めて。
溜めて。
時が至るまで、耐えて。
そうして、世界の壁さえも砕く超常【|破界拳《ボーダー・ブレイク》】は発動するのだ。
「我が拳、阻めるものなし……!」
赤い群れだけ、などというケチ臭いことは言わなかった。青い群れをも巻き込んで、半径143m範囲内のサルファーゴーストどもをことごとく『粉砕』した。
「なっ……」
「何だ、今の一撃は!?」
ベルフレッドが言葉を失い、さすがにここまでの威力は想定していなかったユキトが思わず驚愕の声を上げた。
たったひとつの拳の一撃で、無数のサルファーゴーストどもがあっという間に消滅した。
その事実だけでも恐ろしいのに、サルファーゴーストの群れはまだまだ残っているというのもまた恐ろしい。ベルフレッドも猟兵たちも、まだまだ戦い続けなくてはならない。
(「とにかく数だけは多いけど、耐久は無いに等しいようだから」)
つかさは顔色一つ変えず、湧き出た群れの中に突っ込んでは再度|あの拳《・・・》を振るって粉砕し、殲滅を繰り返していく。
「そっちに行ったぞ!」
ユキトの鋭い声が飛ぶ。神火分霊の爆発の勢いで、つかさの方へと数体のサルファーゴーストが流されていったのだ。
「問題ないわ」
その一言と共に放たれた強烈極まりない蹴りで、哀れサルファーゴーストは粉砕された。
「……そのようだな」
ユキトは宙を舞いながら、浄化の力を宿した棍を振るいつつ、苦笑いを浮かべた。
そこで、つかさはふと思う。
(「そういえば、何も考えずにこの技使ったけど、サーバーは大丈夫かしら……」)
何も考えてなかったんかーい!
さて置き、何せ世界の壁を割る程の|STR《ストレングス》で複数回殴る行為を繰り返したのだ。システムのオーバーフローやプログラム破損、サーバークラッシュなどが今更になって心配になったつかささんなのである。
だが、実際は【|破界拳《ボーダー・ブレイク》】発動時にちょっと世界にノイズが走った程度で、サーバー自体はしっかり耐え抜いたのが実際のところだった。
何しろ突き詰めればRTA勢に容赦なくバグを始めとした抜け道で最速攻略をされる側の世界なのだ、ちょっとしたステータスのオーバーフロー程度にはびくともしない。
「……大丈夫そうね、よし! じゃあ続けますか」
それはそれとして、殴るのはやめないつかささんであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ウルル・マーナガルム
併用可能UC『ムーンドッグス』発動
子機達を散開させて、ボクの姿のホログラム映像で撹乱するよ
銃弾を貫通させて更に後ろの敵を狙ったり
敵に当てた弾を跳弾させたりして
一発の弾丸で複数の標的を攻撃
光らせる間も無く倒しちゃえば大丈夫
だけど光は物理的に遮れないから全部はフォローしきれない
不幸の状態異常、ベルフレッド君がボクの攻撃範囲に入っちゃう
子機に身を挺して庇ってもらうしかない
護衛対象の命と備品の1つ、比べるまでもない
大丈夫、わざとじゃないのはちゃんと見えてたよ
こー言う|不幸《アクシデント》も見越して、常に二手三手先を読むのがプロだもんね
●魔弾、翻弄す
連戦に次ぐ連戦で、さすがのベルフレッドにも疲れの色が見え始める。
「ちくしょう……いつまで湧いてくるんだ……!?」
肉体的な疲労というよりは、精神的な摩耗の方が問題であった。終わりが見えない襲撃、謎の存在による援護があるとはいえバグプロトコルに狙われているという不安。それがこうも長時間続くと、心が折れそうになるのも無理はないというもの。
そんなベルフレッドの視界に、大量のスポッターハウンド型ロボットの群れが飛び込んできた。
『ムーンドッグス出撃準備完了。いつでも号令を、ウルル』
「うん、行こうかハティ」
超常【|四脚機動型強行偵察機群『ムーンドッグス』《スポッターハウンドシリーズ・ムーンドッグス》】により百を超えるハティの同型子機を喚び出したウルル・マーナガルムは、自信に満ちた表情で禍々しい赤のサルファーゴーストどもと対峙した。
「大丈夫、ここは一歩も通さないよ」
振り返らずに、ウルルはそれだけベルフレッドに告げる。
「各自散開、『フィルギア』起動!」
そして、子機たちに指示を出すとウルル自身もマークスマンライフル『アンサング』を手に身構えた。
『――』
戦場に無駄なく散開したムーンドッグ部隊は、搭載した高画質ホログラム投影機によって全員がウルルの姿に擬態した。敵からしてみれば、突如大量のウルルが戦場中に出現したも同然。当然、困惑して手当たり次第のバラついた攻撃を始めてしまう。
統率が乱れた群れなど、恐るるに足らず。本体たるウルルは、素早く静かに徹底的に、殲滅を開始した。
ユーベルコードの域にまで達した狙撃の技の名は【|ノルニル達の心得【巨人を屠る者の如く】《ノルンズノーレッジ・オクトール》】。
的確に急所を捉える精密な狙撃は、赤いサルファーゴースト単体を貫くに留まらず、貫通した銃弾でさらに後ろの個体をも撃ち抜くことができる。そしてその狙撃は、息つく暇も与えない素早さで行われる。こうなった時点で、ウルルの敵対者に逃げ場はないのだ。
敵は当然考える、この狙撃者に不幸なことが起きれば、あるいは状況は変わるのではないかと。しかし、それも込みでウルルは対策を練っていた。
銃弾が貫通するならば、自分たちも同じように散開すれば良いのではないかと知恵をつけた赤いサルファーゴーストどもをあざ笑うかの如く、次に放たれた狙撃の弾丸はある個体に着弾すると同時に予想外の方向へと跳弾。攻撃を逃れたと思っていた別の個体を背後から襲う!
『――』
バグプロトコルが――赤いサルファーゴーストどもが、明らかに畏怖していた。ここまで徹底的な狙撃で、確実に、しかも一度に複数の個体を屠られては、怯えずにはいられまい。しかも、肝心の狙撃手を見つけ出すことができずにいるものだから、たとえ狙撃を掻い潜って冷たい輝きを放っても、止めることは到底かなわないのだ。
戦況は、圧倒的にウルルとハティたちに優勢ではあった、のだが。
(「光は物理的に遮れないから、全部はフォローしきれない」)
ウルルは良い、だがベルフレッドは不幸の|状態異常《バッドステータス》を受けてしまうし、攻撃範囲にも入ってしまう。
さあ、どうするか――?
赤いサルファーゴーストどもが、ウルルの相手を諦めて、本来の狙いであるベルフレッドへと向かおうとする動きを見せた。
「!? こ、こっちに来るな……!」
ベルフレッドが|赤いサルファーゴースト《バグプロトコル》の気配を感じて思わず声を上げてしまう。だが、ベルフレッドには青い群れも迫っている。同時に対処するのは不可能だ。
「ハティ!」
ウルルの鋭い声が飛んだ。
同時に、百を超えるハティのうち一機が、その身を挺してベルフレッドを守ったのだ。
「な……!?」
ホログラムが解除され、猟犬ロボット本来の姿に戻った子機は、『破損』してその場に横たわった。
ベルフレッドが破損した子機とウルルがいるであろう方向とを見比べるが、ウルルは平然と言い放つ。
「護衛対象の命と|備品《・・》の一つ、比べるまでもない」
「……」
その言葉に、ベルフレッドは言葉を失った。
何と言えば良いのか、本当に分からなかったのだ。
「大丈夫、わざとじゃないのはちゃんと見えてたよ」
赤い群れへの無慈悲な狙撃を続けながら、ウルルはベルフレッドに声をかけた。
「こー言う|不幸《アクシデント》も見越して、常に二手三手先を読むのが――」
いまだ翻弄され続ける赤いサルファーゴーストどもは、確実にその数を減らしていく。
「プロ、だもんね」
今、ベルフレッドの眼前に居るのは。
間違いなく、|死神の後継者《ヴァルキュリア》であった。
大成功
🔵🔵🔵
マリナ・フォーリーブズ
◎
SPD判定
・内容
範囲UCで敵を一掃してからベルフレッドと会話
・演出
(カタナから01のエフェクト混じりの剣閃で周囲を切り払って、問う)
ゲームにおいて強くなるために最も必要なものはぁ、アナタは何だと思う?
(返答を聞いてから)
………そう! 情報よねぇ。情報さえ知っていれば
力の差は時間と努力で埋めることができる。
公式の掲示板やサイトがないこのGGOでは
信頼できるフレンドからの確度の高い情報は
何よりも強い武器となるわぁ
だから強者は人との繋がりを重視する
今のアナタはぁ、野菜は苦いから嫌いだって
皿の端に避ける子供みたい
(意味深に笑いかけて)
何でも好き嫌いせずよく食べないと、強い子には成れないわよぉ?
●本当の強さとは
異変は、唐突に訪れた。
「数が……減ってきている……!?」
先程まで終わりが見えないと思っていたサルファーゴーストの群れの襲撃が、徐々にではあるが緩やかになってきたのを、ベルフレッドは確かに感じ取った。
自分でも対処できる青い群れはもちろん、危険な赤い群れも見るからにあと一息で全滅させられそうな所まで来ているのが分かる。
ようやく。
ようやくだ。
恐るべきバグプロトコルの脅威から、解放される――!
「うおおおおお!」
一時は心身共に屈しそうになりかけたベルフレッドだったが、光明が見えたか、大剣を握る手に再び力が入る。
赤いサルファーゴーストの群れもまだ残存しているが、その目の前には限定和装ファッションに身を包んだマリナ・フォーリーブズが立ちはだかっていた。
マリナはグラファイトカタナを片手に不敵に笑むと、その刀身をもう片方の手でついっと撫でる。すると、カタナから0と1のエフェクトが生じ始めた。
「この程度の相手ならぁ、直接バグを取り除いてあげるぅっ!」
大地を蹴って、マリナが駆ける。禍々しい赤のサルファーゴーストども目がけて、0と1のエフェクトが尾を引くカタナで剣閃を放つ! すると――。
『――』
百メートルを超える広範囲を一気に斬り払ったマリナの一撃を受けた赤いサルファーゴーストどもに、異変が起き始めた。
バグプロトコル化の証である禍々しい赤が抜けて、通常の青いサルファーゴーストへと変じていったのである。
「今よ!」
「……おう!」
マリナのユーベルコード【プロトコル・イニシャライザー】によってバグだけを除去されたことにより、通常のモンスターに『戻った』サルファーゴーストは、もはやベルフレッドの敵ではない。
高威力、広範囲の攻撃が可能な大剣と、コマンド入力によってコンボ攻撃が可能な超軽量の太刀との同時攻撃によって、遂にサルファーゴーストの群れは完全に退治された。
「はぁ、はぁ……」
ベルフレッドが息を切らせて、ようやく額の汗を拭った。
「本当に、一体何だったんだ……?」
バグプロトコルに襲われる心当たりはなくもないが、それにしても急すぎた。そして、執拗すぎた。本当に、これで終わりなのだろうか?
大剣を地面に突き刺して、杖代わりにして息を整えるベルフレッドに、マリナがこんな問いかけをした。
「ねぇ、ゲームにおいて強くなるために最も必要なものはぁ、アナタは何だと思う?」
「……は? 何を突然」
「聞かせて欲しいの」
蠱惑的ながらも迫力のあるマリナの笑みに、ベルフレッドは救援を受けた恩もあってか、無碍にはできず問いかけに対する答えを考える。
「|PS《プレイヤースキル》……じゃないな。一番は、情報だろ」
「……そう! 情報よねぇ」
マリナは『よくできました』と言わんばかりに両手を合わせると、ベルフレッドの周りをゆっくりと歩きながら、こう語り始めた。
「情報さえ知っていれば、力の差は時間と努力で埋めることができる」
「……」
「公式の掲示板やサイトがないこのGGOでは、信頼できるフレンドからの精度の高い情報は何よりも強い『武器』となるわぁ」
事実、マリナ自身、そうやって強くなってきた。
初めて所属したクランでは良きフレンドたちにも恵まれたし、そのおかげで今の自分があると言っても良いくらいだ――遠い、遠い昔の話ではあるけれども。
そこで一度言葉を切って、歩みを止め、マリナはベルフレッドの顔を覗き込んだ。
「だから、強者は人との繋がりを重視する」
「……何が言いたいんだ」
「今のアナタはぁ」
マリナの赤い瞳が、ベルフレッドを射抜く。
「『野菜は苦いから嫌いだ』って、皿の端に避ける子供みたい」
「!」
そう言って意味深に笑いかけてから、マリナはベルフレッドから離れた。
「何でも好き嫌いせずよく食べないと、強い子には成れないわよぉ?」
「子供って……おまえ!」
『子供だからといって、犯した罪が許される訳ではありません』
「「――!」」
二人の会話に割り込むように、突如聞こえてきた何者かの声があった。
マリナが咄嗟にベルフレッドをかばうように立ちながら声の方を見ると、そこには白一色で構成された人型の存在が、いつの間にかたたずんでいた――。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『白聖者』
|
POW : ホワイト・オーダー
【節制の光】を宿し戦場全体に「【我欲を捨てよ】」と命じる。従う人数に応じ自身の戦闘力を上昇、逆らう者は【触れる者を崩壊させる白き羽根】で攻擊。
SPD : ホワイト・マジェスティ
【管理を司る白き光】を見せた対象全員に「【白教に従え】」と命令する。見せている間、命令を破った対象は【行動成功率】が半減する。
WIZ : ホワイト・エンジェルズ
レベル体の【純白の天使軍】を召喚する。[純白の天使軍]はレベル×5km/hで飛翔し【白光の矢】で攻撃する。
イラスト:レインアルト
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●正しさの在処は
『子供だからといって、犯した罪が許される訳ではありません』
穏やかなようでいて、隠しきれない威圧感がにじみ出る声がフィールド上に響いた。
ベルフレッドと猟兵たちの前には、全身白ずくめの青年らしき存在が立っていた。間違いない、声の主にして予知で出現するとされた|PKK《プレイヤーキラーキラー》のバグプロトコルだ!
『聖剣士(グラファイトフェンサー)、ベルフレッド。貴方は罪を犯しすぎました』
白い青年――『白聖者』は、猟兵など眼中にないがごとく、ただベルフレッドだけを見ている。視線は冷ややかで、絶対に逃がさないという執着さえ感じさせた。
『故に、貴方は私に裁かれなければなりません。その為に、私はここに居るのです』
「ま……待て! 俺も懲りた、反省もする! だから――」
『もう、遅いのです。対話の必要もありません』
白聖者の周囲には、無数の白い鳥の羽が舞っている。
その様は、まるで天から遣わされし天使のよう。
これは、逃れられぬ神の裁きなのか?
――否!
確かに、ベルフレッドはゲーム内で非難されるべき行いを繰り返した。
だが、今のベルフレッドは内省をし、心を入れ替えようとさえしている。
それを認めず、|現実世界《リアル》にまで及ぶ罰を受ける必要はあるのだろうか?
白聖者は、ベルフレッドのみを執拗に狙うことだろう。
猟兵たちの立ち回りに、全てはかかっている。
ベルフレッドを盾にすれば、自らはダメージを受けることなく白聖者に攻撃を仕掛けることもできるだろう。だが、サルファーゴーストなどとは比べものにならない強さを持つ白聖者相手にベルフレッドがそう長くは保たないことは目に見えて明らかだ。
ベルフレッドを救いたいと願うならば、白聖者の攻撃を肩代わりしてでも割って入って、真っ正面から攻撃をするしかない。
正しい戦い方は、示されていない。
全ては、猟兵たちの思惑次第となる。
ベルフレッドを救うか、犠牲にするか。
――ここが、運命の岐路となる。
テッカ・ロールナイト
あの白い奴、ベルフレッドにご執心のようだが正にチャンスだぜッ!おらッ、『邪眼鬼の大腕』の手の甲の邪眼からはなたれるマヒ攻撃ビームをくらいなッ!余所見してるから直撃させられるだろッ!
ベルフレッドは下がってな。くらえ【捕食者の魔喰】ッ!
見てな、これが魔喰者の無限の可能性ってやつよッ!
【ホワイト・エンジェルズ】をコピー、天使軍をけしかけるぜッ!
我欲を捨てよ…なんて命じてくるが誰が捨てるかバァーッカ!!
今、俺はゲームをやってんだぜ?てめえを倒したい我欲バリバリだぜッ!
白き羽根攻擊を天使軍で相殺しながら接近して、『エンジンブレイド』のエンジン重撃アタックをくらいやがれッ!
【アドリブ歓迎】
シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、確かに最初はこのPK野郎のことなどどうでもいいとか考えてましたけど。
だからってそう簡単にBANされるとか後味が悪いので、【覚悟】はいいですかオブリビオン。
てなわけで真の姿開放!(【限界突破・リミッター解除・高性能を駆使する】)そして敵天使たちをこちらに【おびき寄せ】つつ【空中戦】を仕掛けましょう。
で、敵の矢を【見切り】回避しつつ、「破壊」属性ので撃破(【誘導弾・2回攻撃・一斉発射・乱れ撃ち・制圧射撃・レーザー射撃】)。その勢いで本体にも撃ちこんで【蹂躙】しちゃいましょう。
※アドリブ・連携歓迎
ルナ・キャロット
そうです!罪は許されませんよ!(追撃)
でもリアル罰までは可哀想なので間に入って守ります。
白教なんて自由が何もなくて駄目ですよ!時代は黒教です!(黒聖者兎)
月型のグリードサインから私も光を出して洗脳を上書きします。黒教に従え!
欲望による進化!ケモノ好きになってケモになることを目指すのです!
命令上書きついでにケモナー同志を増やそうと洗脳しつつ、敵の光も相殺します。
自由に動ければ負けません!懐に飛び込んで双剣乱舞です!
欲望にまみれたケモノのほうが強いことを思い知らせてやります!
●我欲バリバリな皆さんが大集合しました
バグプロトコル『白聖者』が、ベルフレッドだけをただ見つめる。
『さあ、ベルフレッド。罪を償う時です』
まるで壊れた機械のように、ベルフレッドへ『贖罪』ばかりをただ促す姿は、正義を通り越して単なる執着にさえ見えた。
これが、バグプロトコル。ここGGO世界に巣くうオブリビオン。
見目麗しい青年の見た目をしていても、言動は実におぞましい――!
「あ……ああ……」
一方のベルフレッドは、あまりにも強大な力を持ったバグプロトコルが文字通り自分の命を狙っていると認識するや、あっという間に血の気が失せた顔になってしまう。
「冗談だろ……? 俺、ここで|消される《・・・・》のか……?」
なまじ相手の強さが一目で分かってしまうが故に、白聖者から下される『罰』の意味も自ずと理解できてしまい、今頃は中の人が画面の向こうで震えているに違いない。
ベルフレッドが白聖者の視線に射抜かれて、身動きが取れなくなっていた、その時。
「そうです! 罪は許されませんよ!」
えええええ!? 追撃入った!? どういうことですか!?
しかし、そう言いながらもしっかりとベルフレッドと白聖者の間に割って入る小さな姿あり。それはまぎれもなくヤツさ、兎獣人のルナ・キャロットだ!
「でもリアル罰までは可哀想なので、こうやって間に入って守る訳です」
ふふんとセクシーな胸を張るルナ。ハロウィンイベント期間中に頑張って手に入れた限定カラーのウサギスキンでその外見はほぼ獣寄りとなっている。かわいい。
「まあね、確かに最初はこのPK野郎のことなどどうでもいいとか考えてましたけど」
同じくベルフレッドを背に立ったシャルロッテ・ヴェイロン――『|AliceCV《アリス・セ・ヴィ》』もまた、やれやれといったていで肩をすくめながら、言った。
「だからってそう簡単にBANされるとか後味が悪いので」
凄腕ゲーマーは、相手が強ければ強いほど――燃えるのだ。
「覚悟はいいですか、オブリビオン」
二人の『プレイヤー』に行く手を阻まれて、白聖者はしかし表情を変えない。己を正義と信じて疑わぬお上品な面で、淡々と言葉を発する。
『無駄なことです。私の使命は|PK《プレイヤーキラー》を処断すること、それを阻むことは許されません』
「……っ! いいでしょう、そこまで言うならこちらも徹底抗戦です!」
「そうですね、こちらも|奥の手《・・・》を使いましょうか」
ルナとシャルロッテがそれぞれ身構えた時も、白聖者はその奥に居るベルフレッドを狙って右手をすい、と上げていた。
そんな様子を物陰から見ていたのは、テッカ・ロールナイトだった。
(「あの白い奴、ベルフレッドにご執心のようだが正にチャンスだぜッ!」)
白聖者がまさにそうしているように、テッカも同じく右腕を上げ――魔喰部位【|邪眼鬼の大腕《イヴィル・アーム》】へと変化させ、その名を示す手の甲についた邪眼から、マヒ攻撃の効果を持つビームを放つ!
『……!?』
ビームはテッカの予想通り白聖者を直撃し、その動きを止めてみせた。
「ほら見ろ、余所見してるから直撃させられるだろッ!」
『……まだ、邪魔者が居ましたか……』
辛うじて口を動かし、視線だけをテッカの方に向けて――初めてベルフレッドから視線を外し――白聖者はしかし変わらぬ口調でそう言葉を放つ。
テッカは物陰から飛び出すと、ルナやシャルロッテと同じく白聖者との間に割って入り、ベルフレッドの方を振り返ってニッと笑った。
「ベルフレッドは下がってな」
「お、おい……!」
「魅せてやるよ、魔喰者(モンスターイーター)の無限の可能性ってヤツをッ!」
言うなり、テッカはもう片方の腕――左腕を変化させ【|捕食者の魔喰《プレデターインストール》】を発動させる! マヒ攻撃で身動きを封じられた白聖者の肉体に喰らいつく!
『……っ』
バサバサッと、白聖者の身体から白い羽根が舞う。テッカの魔喰部位【|捕食者の大腕《プレデター・アーム》】に喰われた部位からは、血と肉の代わりに無数の白鳩が飛び立った。
「|あれ《・・》が白聖者の本体、ってコトですね!」
「白鳩の集合体……でも、通常の攻撃が通らないということはなさそうで何よりです」
結果的に先を越されることとなったルナとシャルロッテだが、これにより白聖者の正体を見極めることができて、戦術を立てやすくなったと言えよう。
――要は、良心の呵責なく、遠慮なく殴れば良いのだ!
「喰らったぜ……てめえの【ホワイト・エンジェルズ】ッ!」
『――』
テッカが宣言すると同時に、変質した左腕から本来は白聖者が召喚する純白の天使軍が無数に現れ、白光の矢で本来の主たる白聖者を攻撃し始めたではないか。
『成程、魔喰者(モンスターイーター)も突き詰めると厄介な存在です』
「あいつ……」
白聖者は手の平で何かを包み込むような仕草をしながら、白光の矢に立ち向かう。
その様子を言われた通り後方で見守っていたベルフレッドは、産廃職と侮っていた魔喰者(モンスターイーター)をテッカがここまで極めていたことに、驚きを隠せずにいた。
『全員、『我欲を捨てよ』。さすれば、この世界から争いは消えて無くなります』
強い意思を込めた言葉が、戦場全体に響き渡った。これが白聖者の力なのか?
確かに、自分のためより他人のためにと行動した方が、互いのため――ひいては世界のためになるのかも知れない。
だが、どうだろう。
ルナも、シャルロッテも、テッカも。
ベルフレッドでさえ、迷いながらも――白聖者に従おうとはしなかった。
「誰がッ! 捨てるかッ! ブワァーーーッカ!!」
その様、まさに狂戦士。再び真っ先にテッカが動き、飛び出していく。
「今、俺はゲームをやってんだぜ? てめえを倒したい我欲バリバリだぜッ!!」
『愚かな……私に逆らうとどうなるか、身を以て知りなさい』
対する白聖者は、無数の白き羽根を全身から放ち、テッカ目がけて放つ。
「気をつけろ! その羽根に触れると身体が崩壊する……!」
ベルフレッドが思わず後方から叫ぶも、テッカは振り返らず笑い続けたまま。
「行け行けぇ、天使軍ッ! 羽根を全部相殺しろ!」
『――』
数には数を。白光の矢が白き羽根とぶつかり合い、相殺されて消え去っていく。それによって生じるまばゆい光の中を、エンジンブレイドを吹かしたテッカが駆け抜ける!
「喰らいやがれッ! エンジン重量アタック!!」
『馬鹿な、貴方ごときが――』
白聖者には表情を変えるというプログラムが組まれていないのか、張り付いた仏頂面のまま、テッカが叩きつける強烈なエンジンブレイドの一撃をその身に受けた。
白い羽根が舞い散る中を、産廃職と侮蔑されてきた魔喰者(モンスターイーター)が不敵に笑みながら駆けていく。
その次に続いたのは、薔薇の女王シリーズと銘打たれたレア武器を構えたルナだった。
緩いウェーブの長髪を一度後ろに払ってから、凜とした声で白聖者に向けて言い放つ。
「そもそも、白教なんて自由が何もなくて駄目ですよ! 何ですか『我欲を捨てろ』って!」
『何と言われても……これが、白教の教義にして絶対の正g』
「時代は! 黒教です!!」
あああ! 宗教対立! これ絶対ヤバいやつ! 一生分かりあえないやつ!
ルナの後頭部ちょっと上に浮かんだ月型のグリードサインが、ルナの主張に呼応するかの如く光り始める。
『とにかく、私の目的はそこのベルフレッドを断罪すること。貴方がたは邪魔です』
負けじと(?)白聖者も管理を司る白き光を放ち、白教に従えと命令を下す。
だが、ルナの放つ光はユーベルコードにまで昇華されたもの。そう簡単には屈しない。
グリードサインから放たれる月光には白聖者の『命令』よりも強い『洗脳』の力が備わっている――これこそが超常【|姫兎の威光《ヒメプレイウサギノイコウ》】だ!
『何……!?』
「黒教に! 従え!!」
(「洗脳合戦になってきましたね……」)
良くも悪くも巻き添えにならないようにちょっと間合いを取ったシャルロッテが戦況を見守る中、ルナは黒教の教え――『欲望による進化』を高らかに謳い始めた。
「そう、それは欲望による進化! ケモノ好きになってケモになることを目指すのです!」
これを聞いた瞬間、テッカとシャルロッテは同時にベルフレッドを戦場のさらに後方へと追いやった。何故か、二人の心がひとつになった瞬間であった。
「なんでですか! ケモは世界を平和にするんです! ベルフレッドさんもケモナーになれば、今までの罪は全部精算されますよ!?」
……確かに、ルナのような正真正銘のケモナーに認められるまでの見た目になれば、ケモ好きに悪い人は居ないから……という理屈で、許されるかも知れない。
この主張と洗脳月光の勢いには、さすがの白聖者も言葉を失った。白き光は今や完全にルナが放つ黒い光に呑まれ、相殺されていく。
正当防衛ついでにケモナー同志を増やそうとする姫兎騎士、恐ろしい子……!
「あっ、自由に動けますね! これなら負けません!」
白聖者が呆然としている隙を突いて、ルナご自慢にして代名詞の「宝双剣ローゼンクイーン」を抜き放ち、俊敏かつ無駄のない動作で白聖者の懐に飛び込み、斬り付けて、斬り付けて、白い羽根にまみれながら双剣で乱舞する!
『くっ……白教が黒教に呑まれるなど……』
表情こそ淡々としているものの、声音は明らかに悔しそうな白聖者に、ルナは後方宙返りで間合いを取ったのち、双剣を突きつけてえへんと再び豊満な胸を張った。
「欲望にまみれたケモノの方が強いこと、お分かりいただけましたか!」
ちょっと離れたところで様子を見ていたシャルロッテが、ベルフレッドに問う。
「なります? ケモナー」
「……いや、ちょっと考えさせて欲しい……」
RTA学会やらケモナーやら、色々な方面から勧誘を受けるベルフレッドであった。
さて、と言う声と共に、遂にシャルロッテが前に進み出る。
重量ダメージに連撃ダメージと、既に相当な傷を負っているはずの白聖者は、しかし身体が白鳩で構成されているという特性上、外見はほぼ元通りに戻っている。
ならば、何度でも全力で叩きのめすまで――シャルロッテには、それが出来るのだから。
「てなわけで、次はわたしの番ですね」
そう告げると同時、シャルロッテを緑色の0と1のエフェクトが包み込んだ。
身に纏っていたものはプリント基板状のテクスチャと化し、際どい部分は見えそうで見えない、いや見せないデータの渦が隠している。
周囲には複数のホロビジョンが展開し、戦闘データの並列処理を可能とするその姿を、猟兵たちはこう呼ぶ――。
「真の姿、解放!」
シャルロッテは、|まだ本気を出していなかった《・・・・・・・・・・・・・》のだ。真の姿を解き放つことで限界を突破し、自らに課していたリミッターを解除し、本来備わっているハイスペックさをフル稼働させることが可能となる。
『これ以上の邪魔立ては、許しません』
白聖者の狙いは、それでもベルフレッドから外れない。何たる執拗さか。
「いいんですか? わたしの行為はチートに等しいかも知れないのに、捨て置いても」
ベルフレッド目がけて放たれた純白の天使軍に、そう呼びかけることでおびき寄せを狙うシャルロッテ。天使軍の気配が自分に向いたことを確認するや、ユーベルコードを発動させる!
「【|ATTACK COMMAND:FLYER《アタックコマンド・フライヤー》】。ちょっと空中戦、やってみましょうか!」
膝を抱くような姿勢を取ったシャルロッテの背中に、実体化した電子データで構築された翼が生える。卵を割って鳥が翼を広げるかの如く、電子の翼とシャルロッテの四肢は大きく開かれた! 倫理的な鉄壁のガードも健在だ!
シャルロッテはそのまま天高く舞い上がり、追いすがる天使軍を引き連れ飛翔する。シャルロッテを撃墜せんと放たれる白光の矢を、情報収集によるデータ演算によりことごとく見切って巧みに回避する。
そのままの勢いで宙返りをすると、シャルロッテは攻撃用プログラムを発動させて反撃に移る。一度ならず二度も対象を撃ち抜くレーザー射撃は、狙った標的を的確に追尾し、面で制圧するように一斉に発射され、多数の天使軍を一気に壊滅させた。
『馬鹿な、こんなことが……』
想定外のことばかりで思わず己の誤算を恨む言葉を放つ白聖者本体も、シャルロッテの狙いの内に含まれていたのは、言うまでもない。
『ぐっ!!』
天使軍を貫いた無数のレーザー射撃は、そのまま白聖者をも穿ち、白い羽根を盛大に散らしたのだ。
血と肉の代わりに舞い散る白い羽根。
その量を見れば、与えたダメージがいかに甚大だったか、お分かりいただけるだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
リンカ・ディアベルスター
おや…驚いた。彼、どうやら反省してるね…なら、星神の加護を授けよう
何故か内省していたベルフレッドを見てさっきまでは軽蔑していたが手を差し伸べる事にした
UC豊穣の星神 流転をベルフレッドにかけた
一応言っておくが死ねなくなるけど過信はしないでね?
ベルフレッドに警告しながら前に出る
君にも振動の力をあげようじゃないか!
敵のUCが発動したのと同時に素早く衝撃波を放ち光を放つのを阻止する
阻止できなかった場合は結界術を展開してベルフレッドを守る
知恵の星神よ…私に力を!
高速詠唱をしながら指定UCを発動して超越魔法を放ち攻撃する
まあ、間違いは誰にもあるけどちゃんとケジメはつけないとね…?
私はそう呟くように言った
●星神使いの加護
「おや……驚いた」
リンカ・ディアベルスターは、もはや身体の一部と言っても良いほど愛用している星神の杖を撫でながら、ベルフレッドを見てそう口を開いた。
「彼、どうやら反省してるね……なら、星神の加護を授けよう」
「……」
ベルフレッドは大剣を杖代わりにして、辛うじてその場に立っていた。
顔色が悪い。脂汗も酷いのが目に見えて分かった。
それは、間近に迫った死の恐怖によるものか? ――否、リンカの言う通り、己のしてきたことを内省しているからであった。
殺される。このままじゃ、殺される。
殺したからだ。俺が、他のプレイヤーを殺したから、罰が当たるんだ。
ああ、でも、どうしてこいつらは、俺のことを助けてくれるんだ――?
「……」
リンカは無言で杖を振るう。その左眼が緑色に変化すると、六本腕に鹿の角を生やした神衣纏いし星神が召喚され、ベルフレッドに『加護』が授けられた。
ついぞ先程までは軽蔑していたPK野郎ではあるが、こうも己を省みる姿勢を見せられては、手を差し伸べざるを得なかったのだ。
「一応言っておくが――|死ねなくなるけど《・・・・・・・・》、過信はしないでね?」
「えっ」
与えられた加護――不死性の効果がどれだけ続くのかは分からない。
だが、少なくとも眼前の白聖者との戦いの間は、ベルフレッドを護ってくれるだろう。
リンカは恐れることなく、常に湛える微笑みのまま、白聖者の前に進み出た。
『貴方も邪魔をするのですね、であれば同罪とみなしてまとめて裁くまでです』
白い羽根を舞わせながら、白聖者が白き光を放つべく手の平をかざす。それを見るやリンカは大仰な仕草で杖を振るい、叫んだ。
「ならば君にも振動の力をあげようじゃないか!」
まるで、ベルフレッドだけに何かを与えるのは不公平だとでも言わんばかりに。
放たれた衝撃波は、狙い違わず白聖者の手を穿ち、ユーベルコードの発動を阻止した。
(「良かった、阻止できなかった時は結界術で守らないといけないと思っていたけれど」)
『……あくまでも、私に刃向かうというのですね』
白い羽根になって散った両手が、再び人間の手の形を取り戻す。白聖者は表情こそ変わらねど、その口調は険しかった。
「まあ、間違いは誰にもあるけど、ちゃんとケジメをつけないといけないのは確かだよ」
『分かっているのなら、何故私の邪魔をするのです?』
リンカが呟けば、それを聞き漏らさなかった白聖者が詰問する。
「知りたいかい?」
問われたリンカの笑顔は、どことなく不敵なそれに変わっていた。
「ならば教えてあげよう――ただし私ではなく、この星神が、だけどね」
――私に力を、【|『知恵』の星神 ミスティ《アステリオーン・ミスティ》】!
黒い機械と銀色の触手が混じり合ったかのような異形の星神は、喚び出されると同時に超越概念干渉魔法を放ち、白聖者を迷うことなく攻撃した。白い羽根が舞い、白聖者が一瞬人のカタチを保てなくなるほどの大ダメージを受けたのを確認したリンカは、告げた。
「これが|答え《・・》さ、君が間違っているからとしか言いようがないね」
『何、を……』
再び人の姿を取り戻した白鳩の集合体――白聖者が、忌々しげに声を発する。
リンカは一度ベルフレッドの方を振り向いて、改めて白聖者を見た。
「彼を裁くのは、君じゃないってことだよ」
「……」
バグプロトコルに対して、恐れることなく立ち向かっていく謎の存在。
罪を自覚した脆弱な己を守ってくれる、謎の存在。
今は、その正体を問うている場合ではなかったけれど。
ベルフレッドは、確かに、その心を入れ替えつつあった。
――そんな彼を、どうして|遺伝子番号《ジーンアカウント》の焼却などという残酷な目に合わせられようか!
リンカはそれを誰よりもよく理解していたからこそ、白聖者に立ち向かったのだ。
成功
🔵🔵🔴
菜花・深月
…せない
ベルフレッドを守るように前に出る
やらせない…!遺伝子番号を焼却された人間がどうなるのか知らない癖に…消えろきえろキエロォォォォォ!
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=53337を思い出しながら殺意を込めながら凍結攻撃のエネルギー弾を放つ
◯ね◯ね◯ネ◯ネェェェ!
推力移動で敵の攻撃を躱しながらUCを発動した後、呪殺弾の矢弾の雨を放ち攻撃する
えっ?…あれ?
ベルフレッドがうちに呼びかけて来て正気に戻るが敵はUCを発動してくる
…くらえ!
UCの効果でUC氷刻矢雨の月矢を発動して敵を凍らせてた後に距離をとって回復阻害の矢を放つ
許さない許さない許さない…!
●『ムーン』、再び
ベルフレッドを守るように前に出た菜花・深月が纏う気配は、尋常ではなかった。
「……せない」
「え?」
何かを繰り返し呟いているが、ベルフレッドにははっきりと聞こえない。問い返しても、答えはなかった。
『退きなさい』
白聖者が、威圧感にあふれた声で深月に言う。
『貴方には用はありません、大人しくベルフレッドを引き渡し――』
「やらせない……!」
怒号が、飛んだ。顔を上げた深月は、鬼神が如き表情をしていた。
それは、表情をひとつも変えない白聖者とはあまりにも対照的で。
ベルフレッドは、その迫力に思わず後ずさってしまうほどであった。
「何が『罰を下す』だ……」
ゆらり。深月が大きく揺れながら、月光弓を構える。愛嬌のある普段の表情はすっかりなりを潜め、青い瞳には炎が宿ったかの如く光が揺らめいていた。
「|遺伝子番号《ジーンアカウント》を焼却された人間が|どうなるのか《・・・・・・》知らない癖に……」
「!」
深月の尋常ならざる様子に、ベルフレッドが息を呑んだ。
彼の中で、何かがつながった気がしたのだ。
GGOプレイヤーの中でもそこそこ名の知れた月穹士(アルテミスガンナー)『ムーン』が、ある日を境に所属していたクランごと突如として姿を消したことを思い出す。
直接の面識がなかったので、中の人のリアル事情に何かあったのだろう程度にしか思わなかったが、もしかして――。
「消えろ」
凄絶な声で、深月が告げる。
「きえろ、キエロキエロキエロキエロォォォォォ!!!」
最低限の人権さえ奪われるということが、どういうことか。
深月は、身を以てそれを知らされてしまった。そんなこと、知りたくもなかったのに。
それは今も深月を苛み、苦しめ、傷付け続けている。
喉も嗄れよと叫びながら、深月はどうしようもない殺意がこもった凍結攻撃のエネルギー弾を連続して放つ。
『怒りに任せた攻撃など、私には通用しません』
無情にも、深月のエネルギー弾はことごとく白聖者の身体を掠めて白い羽根にするばかり。その様子が、いっそう深月の怒りに火を点けた。
「|**《死ね》、**《死ね》**《死ネ》**《死ネ》ェェェ!!!」
ゲームシステムによって阻まれる呪詛の言葉と共に、地を蹴って宙を舞い、そのまま推力移動で放たれる白い光を躱しながら、深月は眼光で射殺さんばかりの勢いで白聖者を睨みつけると【|星矢と殲滅光の輪舞曲《ステラアロー・カタストロフィライト・ロンド》】を放つ!
「うちが……うちが全部やっつける……!」
『……っ』
星の矢がまるで白聖者の影を縫うように地面に突き刺されば、白聖者はその動きを拘束される。それを狙って、深月は呪殺弾を雨あられと放って今度こそ白聖者を貫いた。
「……! 『ムーン』!」
「えっ? ……あれ?」
ベルフレッドの声だった。
怒りに我を忘れていた深月は、その呼びかけで正気を取り戻したのだ。
「いや、うちは……」
「今はいい! それより落ち着け、当たる攻撃も当たらなくなるし敵の攻撃も喰らうぞ!」
「……うんっ!」
今までは、白聖者が放つ白き光の影響に完全に支配されてしまい、行動成功率が低下していたのだ。しかし、落ち着きを取り戻した今の深月は、もうその支配も怖くない。
今度こそ冷静に、しかし敵対者の行為を許さないという怒りを込めて、深月は矢を放つ。
「これがうちのとっておき! 【|氷刻矢雨の月矢《コキュートス・アルテミス》】!」
どんな相手でも確実に凍結状態に陥らせる必中の月矢が、白聖者を捉えた!
(「決まった、これなら……!」)
深月はそれでも油断せず間合いを取って、ダメ押しの回復阻害の矢を放ち、白聖者を構成する白鳩の動きを遂に鈍らせることに成功したのだ。
「許さない」
「ムーン……」
それでも、深月のバグプロトコルへの憎しみは消えない。
「許さない、許さない、絶対に許さない……!」
消えることはない。あの屈辱と絶望の日々の記憶は、深く刻まれたまま。
成功
🔵🔵🔴
ユキト・エルクード
◎ SPD判定
随分と融通の利かない正義だな。
悪いがベルフレッドを殺させはしない。
子どもから未来を奪うなど、あってはならないことだ。
【戦法】
ありがたいことにベルフレッド自身も戦闘員だ。
自分で捌ける分は捌いて貰い、危ない攻撃はこちらから介入して受け流す。
そんでこちらの対応が二の次ということは、攻撃中は隙だらけってことだろ?
だったらバグプロトコルとやらがどうやってゲームに干渉しているのか見てやろう。
隙に乗じて同時利用可のUC【刻影蝕】で動きを封じ、活性化しているUCを叩き込んでやる。
絶対零度と溶鉱炉の反復横跳びをやってイかれるのはテメェ自身か、はたまた中のプレイヤーか演算機械か見せてみろ。
●暴かれる聖者の正体
白鳩から人の形へと戻る速度が、徐々に遅くなりつつある白聖者。
猟兵からの回復阻害の一撃が決め手となったのだろうが、ダメージの蓄積も間違いなく影響しているに違いない。
それでも、白い羽根を舞い散らせながら白聖者は断罪の青年たる姿を取り戻し、あくまでもベルフレッドを狙い続けるのだ。
『どんなに邪魔が入ろうとも、最後に貴方を罰することができれば、私の目的は達成されます』
「随分と、融通の利かない正義だな?」
ならば幾らでも邪魔をしてやろうではないかと言わんばかりに、ユキト・エルクードがベルフレッドと白聖者の間に割って入った。
「悪いが、ベルフレッドを殺させはしない」
『では問いましょう、その者の行いを知ってなおかばい立てるのは何故ですか?』
「――子どもから未来を奪うなど、あってはならないことだ」
背後でベルフレッドが「子どもって!」と憤慨する声が聞こえたが、ユキトは敢えてそれを無視した。ユキトは見た目こそベルフレッドと変わらない年の程に見えるだろうが、中身は熟練の戦士なのだから仕方がない。
それに、かつてはアクスヘイムで斥候部隊長の任を命じられていた身。ベルフレッドが反省して更生の余地があるというのならば、守り抜くのは当然のことであった。
『では――正義がどちらにあるか、ひとつ試させていただきましょう』
「! ベルフレッド、自分で捌ける分は捌けるな!?」
あくまでも白聖者の狙いがベルフレッドに向いていることを把握したユキトは、咄嗟に振り向いてベルフレッドへと叫ぶ。
「大丈夫だ……! 何かうさんくさい加護ももらったし、多少なら保たせる……!」
先程まで脂汗をかいて死の恐怖と戦っていたとは思えない程の勇敢さで、ベルフレッドは大剣を構え白聖者の攻撃に備えた。
答えを聞いてひとつ頷いたユキトは、漆黒の棍「桜華」を構えて白聖者の様子を窺う。
すると、案の定白聖者はユキトをそっちのけにしてベルフレッドを狙って白き光を放ち、『白教に従え』との命令を下した。
「くっそ……これだけ酷い目に遭わされて、誰が白教になんて従うんだよ……っ!」
『あくまでも逆らうのですね、では相応の罰を受けていただきます』
白聖者はベルフレッド目がけて白い羽根を飛ばして攻撃を仕掛けようとする。白聖者の命令に刃向かっている状態のベルフレッドは全ての行動成功率が半減している状態だ、このままでは回避もままならない。
「そうやって、何でも自分の思い通りに行くと思うなよ」
酷薄に告げつつ、ユキトが動いた。危険な攻撃は介入してでも受け流す予定だったからだ。棍をぐるりと回せば、飛ばされた白い羽根はそのことごとくが撃ち落とされる。
そして、そのままの勢いでユキトは音もなく白聖者の背後を取る!
「なあ、そんなに隙だらけで本当にいいのか?」
『――貴方に用はありませんから』
「こちらにはある、と言ったら?」
ユキトは、純粋に興味を抱いたのだ。
オブリビオン――バグプロトコルとやらが、どうやってゲームに干渉しているのかに。
だから、|暴くことにした《・・・・・・・》。
「悶え苦しめ――【|刻影蝕《コクエイショク》】」
『!!』
ユキトの体内で練り上げられた、形状自在な影の含み針が放たれた。
それは狙い違わず白聖者の中枢神経系――に該当する部位を引き裂いて、その身動きを完璧に封じてみせたのだ。
白い羽根が激しく舞って、白聖者が傷付けられたことを示す。
しかし、これで終わりではなかった。
「罪人は、お前だ――【|焦熱鉢特摩《ショウネツハドマ》】」
『あ、あ、あああああ――』
ベルフレッドを害そうとする白聖者こそが罪人だと、ユキトは断言できた。
故に、この超常は存分にその効果を発揮する。
脳に該当する部位――白鳩の集合体であってもそういう部位はあるだろう――に、絶対零度と溶鉱炉の反復横跳びを味わわされるかの如き拷問を浴びせかけたのだ。
「……? 身体が分解して、白い鳩と……ノイズと言うのか? そんな状態になるな」
そんな白聖者の様子を冷静に観察していたユキトに、ベルフレッドが恐る恐る言う。
「あれは、元々有名な|NPC《ノンプレイヤーキャラクター》だったんだ。だから、中にプレイヤーは居ない。イカれるのは、きっと|演算機械《システム》だろうな」
「そうか」
ユキトは素っ気なく返すと、ユーベルコードの効果が切れて、再び人の形を取り戻した白聖者が息を荒げる様子を見遣る。
「なら、ますます遠慮なく叩けるな」
(「この人には逆らわないでおこう……」)
ベルフレッドは、そう思ったとか。
成功
🔵🔵🔴
仇死原・アンナ
◎【暗光】
偽りの聖者め…彼を護る為にも貴様を生かす訳にはいかぬ!
…ベルトはベルフレッドを護衛して…彼を護れなかったらお前も殺す…
…罰を齎すのはこの私のほうだ…ベルトうるさい馬鹿死ね!
こほん…さぁ行くぞ!私は処刑人だッ!!!
鉄塊剣を抜き振るい彼を庇うように敵を攻撃しよう
地獄の炎纏わせた敵を追尾する拷問具をばら撒き天使共を攻撃しよう
数が多い…忌々しい天使共め…ならば…
【失楽園】を発動し悪魔共を召喚、悪魔共を操り天使と戦わせその隙に聖者を攻撃…
…|悪魔の世界《デビルキングワールド》の悪魔達!?だが…増援はありがたい…ありがとうベルト!
鉄塊剣を叩き付け怪力と重量攻撃で悪魔達と共に袋叩きにしてやろう…!
ベルト・ラムバルド
◎【暗光】
いかにもな奴~聖者気取りめ!だがベルト・ラムバルドは騎士だ!
アンナさん私はいつでもあなたの側に…え?私がフレッド君を護るの?
…あ、やばい…本気の目だ…ひょっとして敵とキャラ被って少しイラついてます?あ~怒った~図星~!
こほん…ともかく彼を護らねば…よっと!フレッド君を抱っこして安全な場所へ身を隠そう
偽善者め!向こうが善ならこっちは悪だ!UCで悪魔達を召喚!
ここにいる彼は意地が悪い奴!彼を始末しようとする白いあいつはもっと悪い奴!
白いの倒せば超悪い奴!OK?目ぇ瞑って突撃~!
悪魔達を指揮して集団攻撃だ!
フレッド君…どうせなら人から喜ばれる事をやったらどうだい?…そっちのほうがいいだろ?
●理由なんて要るのかい
バグプロトコル――『白聖者』が、自分を罰しようとするのは当然だと、ベルフレッドは内心で認めつつあった。
だが、それを甘んじて受け入れるのはあまりにも恐ろしいことであり、自分を守ってくれる謎の存在に対して申し訳がないとも感じていた。
だが、彼らはどうして自分のことを守ってくれるのだろうか?
非難される心当たりはありすぎるが、救われる心当たりはなさすぎる。
「……俺は、どうすれば……」
ノイズが走り白い羽根が舞い散り続ける白聖者の執拗な視線に捉えられながら、ベルフレッドは到底届かぬと知りながらも愛用の大剣を構えて抗戦の意思を示す。
そんなベルフレッドの前に、仇死原・アンナとベルト・ラムバルドの二人が立ちはだかった。その背中は、ひどく頼もしく見えた。
「偽りの聖者め……彼を護る為にも、貴様を生かす訳にはいかぬ!」
「いかにもな奴~聖者気取りめ!」
どんなに聖者を名乗ろうとも、もはやその行いは非道そのもの。更生の余地ある若者に取り返しのつかない程の罰を与えるのが当然だと言うのなら、それはただの偽善だ。
それを理解するが故に、アンナとベルトは白聖者を初手から糾弾する。
『私は、私自身に誇りを持って行動しています。誰であろうと、邪魔は許しません』
白聖者は表情一つ変えず、ただ淡々とベルフレッド抹殺を目的に掲げ続ける。
ならば、これ以上の言葉は不要だ。真正面から戦って、ベルフレッドを守るのみ!
「かたくなな奴だな! だがベルト・ラムバルドは騎士だ! アンナさん、私はいつでもあなたの傍に……」「……ベルトはベルフレッドを護衛して……」「え? 私がフレッド君を護るの?」
気合十分、細剣を抜き放とうと柄に手をかけながらアンナの隣に寄り添ったベルトを待っていたのは、役割分担という名の別行動を指示する無情なる言葉だった。かなしみ。
渋々とベルフレッドの方を向いたベルトの顔はあからさまに不満げで、それを見越してかアンナがベルトの背中に追撃の一言を放つ。
「……彼を護れなかったらお前も|**《殺す》……」
「「ヒエッ」」
あ、ヤバい、あれは本気の目だと思いながら、ベルトとベルフレッドは震え声をハモらせる。システム上伏せ字になっていても口の動きで何を言ったかは大体分かった。
「……罰を齎すのはこの私のほうだ……」
そこで大人しく引き下がっていれば良いものを、やる気に満ち溢れるアンナ相手に、よりによってベルトが軽口で返してしまったのだ。
「……ひょっとして、敵とキャラ被って少しイラついてます?」「ベルトうるさい馬鹿|**《死ね》!」「あ~~~怒った~~~図星~~~!」
アッこれ夫婦漫才だ、なんてことを思いながら、大人しくベルトの傍に寄るベルフレッド。二人揃って「こほん」と咳払いして気を取り直すのを見て、ますます確信した。
「という訳で、失礼! よっと!」
「うわあ!?」
ベルトが軽々とベルフレッドをお姫様抱っこしたものだから、された側のベルフレッドは思わず色々な意味で驚いて声を上げてしまう。
「安全な場所へ身を隠そう、あいつの相手はアンナさんがしてくれるから」
「い、いいのか……?」
「だって~~~君のことちゃんと護らないと私の首が飛ぶんだもん物理的に~~~」
「……わ、分かった……」
野郎同士のお姫様抱っこは絵面的になかなかクるものがあったが、今はそんなことを言っている場合ではない。ベルトとベルフレッドはフィールドオブジェクトのひとつである草むらにその身を隠し、その前にアンナが立ちはだかり戦うという布陣を敷いた。
「さぁ行くぞ! 私は処刑人だッ!!!」
『いいでしょう、ならば貴方も処するまで!』
キャラ被り――もとい、処刑人同士の意地と意地のぶつかり合いが、今始まる!
拷問器具の中でも有名なもののひとつに『|鉄の処女《アイアン・メイデン》』と呼ばれる存在がある。アンナが振るう鉄塊剣は何とそれをモチーフにした巨大な剣であった。
まさに処刑人が振るうに相応しい武器で、アンナは果敢に白聖者へと斬りかかる。
だが、白聖者も負けてはいない。仰々しい身なりに反した機敏な動きで、アンナの重い一撃を躱す。そして、反撃とばかりに大量の天使軍を召喚し、アンナへとけしかけた。
「数に頼るか……ならば!」
対するアンナの判断は速かった。懐から赤錆びた拷問器具を取り出すと、自らの指を切り血を纏わせ、地獄の炎をくべる。そして、燃え盛る拷問具をばら撒き天使軍に対抗する!
『追尾する拷問器具ですか……なかなか良い趣味をしていますね。ですが!』
「くっ、数が多い……忌々しい天使共め……! ならば……!」
アンナが、バッと右手を天高く突き上げた。
そして、高らかに叫んだ。
「吼え狂う混沌よ……邪魔する者に襲い掛かれ……! 【|失楽園《ライク・フォールン・リーブズ》】!」
天使には、悪魔を。
白聖者が召喚した天使軍とほぼ同数の悪魔たちがアンナの呼び声に応えて現れ、天使どもと激しく衝突する!
アンナと白聖者の戦闘を草むらから見守っていたベルトは、天使軍が召喚された時点でアンナが不利になるか、良くても拮抗状態にまでしか持っていけないと判断したか、助太刀をすることに決めた。
「あの偽善者め! 向こうが善ならこっちは悪だ! 【|猛烈! 悪魔王魂!《ゴーゴー・デビルキングスピリット》】!」
「わあわあ、喚ばれた喚ばれた!」
「今日はどんな悪さをすればいい?」
ベルトはベルトで、デビルキングワールドの悪魔たちを召喚したのだった。数が多い!
「ここにいる彼は意地が悪い奴!」
「おいおいおいおいちょっと待てよ!?」
突然指差しで性根がひん曲がっていると言われたベルフレッドが思わず抗議の声を上げるも、無視してベルトは悪魔たちに指示を出し続ける。
「そして、そんな彼を始末しようとする白いあいつはもっと悪い奴!」
「なるほど?」
悪魔たちは徐々に事情を把握しつつあった。飲み込みが早い。
「白いの倒せば超悪い奴! OK? じゃあ目ぇ瞑って突撃~~~!」
「「「ワーーーーー!!!」」」
ベルトの巧みな指揮により、悪魔たちはアンナの援軍として白聖者へと襲いかかった。
白聖者の天使軍と、アンナの悪魔たちの鍔迫り合いが続く。
(「隙を見て白聖者を攻撃したいが、なかなかタイミングが合わない……ッ」)
そんな歯がゆい思いをしていたアンナの悪魔たちが、突如勢いを増した。
『援軍!? 小賢しい真似をしてくれますね……!』
「……|悪魔の世界《デビルキングワールド》の悪魔達!?」
「白いの倒せばワルワルだぜ!」
「やっちまえー!」
『――』
倍近くに膨れ上がった悪魔の軍勢に、あっという間に飲まれていく天使軍。アンナが振り向けば、草むらから顔だけを出したベルトが親指を立ててウインクしていた。
「あいつ……だが、援軍はありがたい……」
アンナも一瞬だけ、親指を立てて返す。
「ありがとう、ベルト!」
それだけ言うと、すぐに白聖者本体に向き直るアンナ。
親しい間柄であっても、きちんとお礼が言える。それだけで十分だったろう。
『忌々しいのは貴方がたです、諸共に断罪してくれましょう!』
「くどい!! 私が……私こそが……」
白き光を放ち、白教に従わせようとしたまさにその瞬間を狙い、悪魔たちと共に突撃したアンナは鉄塊剣を問答無用で叩きつける!
「処刑人……だッ!!!」
ざんっ! という音と共に、白聖者の身体が袈裟斬りにされる。
身体が両断される代わりに、大量の白鳩が飛び回った。白い羽根が舞い散り、それがダメージエフェクトなのだと少し遅れてからアンナは理解した。
白鳩は再び集まり、人の形を取ろうとするが、なかなか元に戻らないあたり、相当なダメージが蓄積されているのだろう。この戦いは、実質アンナとベルトの勝利であった。
その様子を草むらから見ていたベルトは、恐る恐る顔を出したベルフレッドに向けて穏やかに語りかける。
「フレッド君……」
「な、何だよ……」
まだちょっと素直になり切れないあたり、中の人は恐らくまだ年若いのだろう。
「どうせなら、人から喜ばれることをやったらどうだい?」
「……」
ベルフレッドは押し黙る。今更そんな、という思いが強いのだろうか。
「……だって、そっちのほうがいいだろ?」
「……そりゃあ……」
そうだけどさ、の言葉が出せなかった。
自分よりも強い存在が、自分のために戦ってくれた姿を目の当たりにした。
その直後にこの言葉は、ひどく胸に突き刺さった。
「アンナさん、カッコ良かったでしょ~~~ああいうのがいいんだよ~~~」
「ああ……うん……」
おまえも十分いい仕事してたけどな、という言葉は、結局言いそびれてしまった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ティオレンシア・シーディア
とりあえず、無事に黒歴史ルートには乗せられたみたいねぇ。
ま、ここで殺らせたんじゃ結局おじゃんだし。何とかしないとよねぇ。
…相手の手筋が搦手と数の暴力なあたり、しっかり|ボスキラービルド《高DPS紙装甲》にメタ張られてる感がすごいわねぇ…
じゃ、数には数で対抗しましょうか。●黙殺を起動、描くのは|如意輪観音印《天道救済》。文字通り「天の使い」に対しては十分な〇呪殺弾なんじゃないかしらぁ?
さらに●黙殺・砲列を並列展開、|エオロー《結界》と|ソーン《阻害》の〇弾幕結界術で〇護衛と直掩しましょ。実はこの二つのUC、「魔術文字から弾幕を展開」って目的が共通してるから同時起動に一切制限ないのよねぇ。
●弾幕と一撃
「とりあえず、無事に黒歴史ルートには乗せられたみたいねぇ」
蕩けるような甘い声で、ちょっぴり辛辣なことを言うのはティオレンシア・シーディア。
「黒歴史って……」
ベルフレッドが何かを言おうとする横を、一瞥もせず通り過ぎて白聖者の前に立つ。ティオレンシアは無駄話をするつもりは一切なかったのだ。
「ま、ここで殺らせたんじゃ結局おじゃんだし」
腰に下げた銃ではなく、シトリンのついたペンの形をした鉱物生命体「ゴールドシーン」を手に取って、ティオレンシアは白聖者を見据えた。
「……何とかしないとよねぇ」
『次から次へと……彼をかばい立てするということは、貴方も同罪とみなしますよ』
張り付いた無表情はそのままに、白聖者は冷徹に言い放つ。しかし、その言葉は何の脅しにもならない。何故なら、バグプロトコルがオブリビオンである以上、猟兵であるティオレンシアにとっては倒すべき相手以外の何者でもなかったからだ。
「上等――御託はいいからさっさと始めましょぉ?」
手の中でゴールドシーンを弄びながら、ティオレンシアは不敵に笑った。
『来たれ、天使軍。白光の矢を以て、我が敵を貫け』
告げられた言葉と共に、無数の白き天使たちが召喚され、いっせいに光の矢を放ってくる。狙いは――あくまでもベルフレッドだ!
(「……手筋が搦手と数の暴力なあたり、しっかり|ボスキラービルド《高DPS紙装甲》にメタ張られてる感がすごいわねぇ……」)
もしもこの場にティオレンシアが居らず、ベルフレッドと白聖者の一騎打ちというシチュエーションだったとしたら、ベルフレッドはあっという間に圧倒されていたであろう。
「くそっ、来やがった!」
それでも大剣を構えて抵抗の姿勢を見せるベルフレッドを背にしたまま、ティオレンシアはビシッとゴールドシーンを構えた。
「じゃ、数には数で対抗しましょうか」
お願いねぇ、ゴールドシーン。
そう言いつつ、中空に『天道救済』を示す如意輪観音印を刻み込めば、白聖者の天使軍に負けないほどの魔力の矢と刃が生じ、幾何学模様を描いて天使軍に迫る!
「この【|黙殺《デザイア》】、文字通り『天の使い』に対しては十分な呪殺弾なんじゃないかしらぁ?」
『……』
淡々とした表情で己が召喚した天使軍の動向を見つめる白聖者。
眼前の女からは、魔力の類は微塵も感じ取れない――ならば、手にしたペンで描いた魔術文字に攻撃の肝があるに違いない。
それを看破した白聖者は、中空に輝く魔術文字を光の矢で打ち消すように天使軍の一部に指示を出す。だが、手練のティオレンシアにはそこまでが織り込み済みだった。
「手数の多さは即ち強さ――誰が|これで打ち止めだ《・・・・・・・・》なんて言ったのかしらぁ?」
魔術文字、並列展開。
結界を示すエオローと阻害の力持つソーンの文字が素早く刻まれると、二つのルーン文字はティオレンシアに従うように宙を舞い、無数の弾幕を放つ結界術を展開する!
――【|黙殺・砲列《デザイア・バッテリー》】。先に放たれた【|黙殺《デザイア》】との相乗効果で、異なる体系の魔術文字でさえ同時起動させ、弾幕を展開して攻防一体の技を披露することが可能となる。
「すげぇ……」
鮮やかな弾幕に護衛される形となったベルフレッドは、その内側から輝きに照らされながら呟いた。
呪殺弾が白き天使軍を撃ち抜き、それを結界術が|直掩《ちょくえん》する。
一切の隙を見せないティオレンシアに、天使軍もこれには手を出せず、包囲攻撃によって次々とその数を減らしていくばかり。
『こんな、こんなことが……』
「そろそろ現実見なさいな、|あなたたち《・・・・・》」
信じられないといった声音で口を開く白聖者に。
輝く弾幕に護られながら言葉を失うベルフレッドに。
ティオレンシアの言葉は、痛烈に突き刺さったことだろう。
成功
🔵🔵🔴
ウルル・マーナガルム
(しまった、|いつも《軍の任務》の感じが出ちゃった)
(私情を抑えた合理的判断)
(怖がらせたかな…)
相手はバグプロトコル
ボクなら|出来る《倒せる》
けど、君には無理だよ
君を生存させる最も効率的な選択は、戦わず逃げること
どうする?
(撤退を選べば子機を護衛に付けホログラムで隠す)
(だけど、それでも、って、言ってくれるなら……)
ちょっとだけ本気出しちゃう
併用可能UC発動
次はベルフレッド君の姿で撹乱する
僕自身は片膝立ちでアンサングを構えてじっと集中
舞い散る羽根と子機達の隙間を縫って弾丸が奔る
祖国への忠誠、仲間への献身
それが〝私〟の義務
……それと、一緒に遊ぶ友達が減っちゃうのは寂しいもんね
また遊んでくれる?
●楽しいゲームなのだから
何故かにらみ合ったまま動かないでいるベルフレッドと白聖者の姿を認め、ウルル・マーナガルムは急いで駆け寄るとその間に割って入り、背にベルフレッドをかばうように立ちはだかった。
「おまえ……!」
ベルフレッドが、ウルルに向かって何かを言いよどむ。それを聞いたウルルは、先のサルファーゴーストの群れとの戦いでの一幕を思い出す。
(「しまった、あの時は|いつも《軍の任務》の感じを出しちゃったから……」)
――怖がらせた、だろうか。
|常人《・・》の感覚に立って考えれば、ロボットとはいえ相棒と呼んで信頼する存在を『備品』扱いして『使い捨てた』行為は、恐ろしいと思われても仕方がないだろう。
私情を抑えた合理的な判断の下に行われた、|軍人としては《・・・・・・》至極真っ当な行為。それを間違っていたとは思わないが、怖がらせてしまったかも知れないことは反省すべきだとウルルが考えていると――。
「……あの時は、悪かった。おまえの大事な相棒を、俺の代わりにしちまって」
「! ……ベルフレッド君」
信じられない言葉が、ベルフレッドの口から飛び出した。
他のプレイヤーをわざと倒すことに良心の呵責を感じることひとつなかった、あの|ベルフレッド《PK野郎》から、謝罪の言葉が聞けるだなんて
『今更しおらしくしても無駄です、ベルフレッド』
だが、白聖者の言葉は厳しい。表情は変わらず、故に恐ろしい。
『どんなに犯した罪を悔いたところで、取り返しはつきません。大人しく罰を受けなさい』
「……」
あくまでもベルフレッドを断罪しようとする白聖者を、ウルルは鋭く睨む。そして、ベルフレッドの方を振り返り、こう言葉をかけた。
「もう分かってると思うけど、相手はバグプロトコル」
「……ああ」
「ボクなら|出来る《倒せる》。けど、君には無理だよ」
「……だろうな」
彼我の力量差は、ここまで散々見せつけられて、ベルフレッドも理解していた。故に、ウルルの言葉ひとつひとつを、素直に受け入れていた。
ここまでは良い、ここからだ。
「君を生存させる最も効率的な選択は、戦わず逃げること」
「……」
「どうする?」
ウルルとベルフレッドの視線が、確かに交わった。
もしもベルフレッドが撤退を選ぶなら、『子機』を護衛につけてホログラムで隠す準備はできていた
けれど、ウルルは心のどこかで|もうひとつの答え《・・・・・・・・》に期待していた。
「……それは、できないな」
大剣を構えて、ベルフレッドがウルルを――そして、その向こうにいる白聖者を見た。
「どんなに敵わなくても、護ってやると言われても、それに甘えて逃げることだけは」
「ベルフレッド君」
「……できない相談だ」
そう言って、ベルフレッドは笑った。
猟兵たちの中でも、彼の笑顔を見たのは、ウルルが初めてだった。
『随分と余裕ですね、最期の別れは済みましたか?』
手の中に白き光を湛えながら、白聖者が攻撃態勢に入る。それを視認したウルルは、愛銃『アンサング』を手にしながら光学迷彩『フィルギア』を起動させ、自身をホログラム迷彩によってベルフレッドの姿に変えてみせた。
『撹乱ですか、進化とはやはり厄介にして危険なもの。白教に従えば――』
「うるっせえ! 俺もこいつも絶対おまえなんかに従うかよ!」
白聖者の声に、ベルフレッドが反駁する。こうして白い光をベルフレッドが一身に浴びている限り、行動成功率の半減というペナルティからウルルは逃れることができる。
「ありがとう、ベルフレッド君」
ウルルは、片膝立ちでアンサングを構え、じっと集中しながらもこう言った。
「お礼にちょっとだけ、本気出しちゃう」
鞍なき馬に跨りて、我らは疾く駆け出さん。
しかして、剣を掲げ戦うべし――!
(「祖国への忠誠、仲間への献身」)
銃口が、白聖者の眉間を狙う。
(「それが『私』の義務」)
引鉄が引かれ、スナイパーライフルが火を噴いた!
舞い散る白い羽根と、小刻みに走るノイズの隙間を縫って弾丸が奔る。
『……っ』
狙い違わず眉間を撃ち抜かれた白聖者は、頭部から白鳩の群れとなって四散していく。
上半身が白鳩と白い羽根という姿になったところで人の形への復元が始まってしまうが、その速度は非常に遅い。蓄積されたダメージは、相当なものだろう。
「一撃で……すげえな」
ベルフレッドが、呆然と呟く。
「……一緒に遊ぶ『友達』が減っちゃうのは、寂しいもんね」
「!?」
額の汗を拭いながらそう言ったウルルに、ベルフレッドは目を見開いて驚く。
「また、遊んでくれる?」
しばしの沈黙の後に、ベルフレッドは小さな声でウルルに答えた。
「……俺で、いいんなら」
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
こいつがPKKのバグプロトコルね。
ふうん、中々厄介そうだけど……貴方ならどう攻略する?
(ベルフレッドに平常心を取り戻させるべく、敢えてPKKを「普通のボス敵」のように扱いつつ話を振る)
実は私に良い考えがあるんだけど……乗ってみる気はあるかしら。
簡単な話よ。足止めは私がするから、タゲだけ取っててくれない?
ベルフレッドを囮に、正面から突撃しつつ【型破り】発動
敵のコード発動を、その横面を「怪力」で強引に引っ叩いて|妨害《キャンセル》
発動には「命令する」|行動《アクション》が必要な以上、それを潰せば阻止出来るはず
それでも執拗にベルフレッドを狙おうとするなら、こちらもその都度引っ叩いて潰していく
移動も阻止できるので、ベルフレッドがタゲの切れない程度の範囲に留まってくれればひたすら発動潰しで殴り放題ね
(要はAIの思考を逆手に取ったハメプレイ)
貴方が囮になってくれたお陰で、効率良く戦えたわ。
ところで折角だし、この後サシでPvPでもどう?
浪漫を極めたこの拳、結構自信あるんだけど。
(冗談半分で誘ってみる)
●良い考えを実証する
ざざ、ざ。
白聖者の周囲にはノイズが走り、白い羽根がいっそう舞い散り出す。
『何を、許されたつもりになっているのですか。ベルフレッド』
そう。
どんなに猟兵たちが手を差し伸べてくれたとしても、眼前のバグプロトコルが己を執拗に狙い続ける以上、脅威は去ったとは言えないのだ。
「……っ」
相当なダメージが蓄積しているだろうはずなのに、白聖者はいまだ人のカタチを保っている。どれだけの|HP《ヒットポイント》を持ち合わせているのか。
(「あと何度……何人に攻撃してもらえれば、こいつを倒せる……?」)
ベルフレッドが大剣を構えながら、白聖者に対峙した時だった。
「こいつが|PKK《プレイヤーキラーキラー》のバグプロトコルね」
小柄な体躯に尋常ならざる闘気をみなぎらせながら、荒谷・つかさが現れた。
つかさは臆することなくベルフレッドと白聖者の間に割って入ると、白聖者を値踏みするかのように上から下まで眺めてから、ベルフレッドにこう尋ねた。
「ふうん、中々厄介そうだけど……貴方ならどう『攻略』する?」
「こ、こいつを……俺が?」
「そう、貴方だってPKだけじゃなくって、ボス敵だって散々倒してきたんでしょ?」
「……そりゃあ、そうだが……」
言われてみれば確かにそうだ。倒されたら社会的にも抹殺されるという事実が恐怖となって先走り、助けられるがままに受け身に回っていたけれども、落ち着いて考えればバグプロトコル化していない白聖者クラスのボス敵だって何度も相手にしてきたではないか。
つかさの狙いは、まさに|これ《・・》だった。
敢えて白聖者を『普通のボス敵』のように扱うことで、ベルフレッドに平常心を取り戻させることこそが、これからのつかさの戦略には必要不可欠であったのだから。
すすす、とベルフレッドの横に並ぶように一度後ずさったつかさは、ベルフレッドに耳打ちをする。
「実は私に良い考えがあるんだけど……」
「……何だよ、うさんくさい言い方だな」
「まあまあそう言わず、乗ってみる気はあるかしら?」
私に良い考えがある、から始まる打診は疑ってかかれという教訓でも身にしみているのか、ベルフレッドは最初こそつかさの提案に難色を示したが、乗るか乗らないかで言えば乗るより他なかったものだから、最終的には首を縦に振った。
よろしい、とつかさも頷くと、単純でいて難しいあるひとつの要望を提示した。
「簡単な話よ。足止めは私がするから、タゲだけ取っててくれない?」
「怖っ、ホントに大丈夫なんだろうな!?」
ベルフレッドが思わず白聖者の方を見れば、相変わらずの無表情だが、しかし確かに自分だけを確りと捉えて外さない視線に改めて恐怖を感じてしまう。
『どんな努力も、無駄な足掻きです。その企みのことごとくを、打ち砕いてみせましょう』
「言ったわね? それじゃ、遠慮なくやらせてもらおうかしら」
白聖者が両手を広げる仕草を見せながらそう言うと、つかさも負けじと言い返す。
「じゃあ――頼んだわよ」
「おい! ああ、行っちまった」
つかさはいよいよ白聖者に向かってつかつかと歩き出す。
次第にその足取りは速くなり、遂には真っ正面からの突撃となる!
『無鉄砲に突っ込んでくるとは……後悔しなさい』
白聖者がその身に『節制の光』を宿し、今まさに『我欲を捨てよ』と命令しようとした、その時だった。
「五月蠅い」
――めきゃあ!!!
全身に血管を浮かび上がらせた、文字通り鬼神が如き姿と化したつかさが、白聖者の横っ面を強引に引っ叩いて、命令そのものを|妨害《キャンセル》したのだ!
ノイズが走り、白い羽根が舞い、白聖者はきりもみ回転をしながら地面に転がった。
「【|型破り《モールド・ブレイク》】――小細工如き、ぶち破るのみよ」
つかさは油断なく拳を固めつつ、白聖者が再び立ち上がってくるのに備える。
『……い、一体、何が』
「難しいことなんてないわ、お前のユーベルコードの発動には『命令する』|行動《アクション》が必要な以上、それを潰せば阻止出来るだけってこと」
「ま、マジかよ……」
何が起こったか理解できていない白聖者に、つかさがご丁寧に説明する。頭では理解できても、それを本当に実行できる存在が果たしてどれだけ存在するか。ベルフレッドはそれを考えて、思わず言葉を漏らしてしまう。
『邪魔を……しないで下さい……』
それでも白聖者は、ゆらりと立ち上がって再び同じ行動を取ろうとする。
『ベルフレッド……私は貴方を絶対に、逃がしません……!』
「クソッ、このままで本当に大丈夫なんだろうな!?」
「むしろそのままでいて頂戴、タゲが外れたら対策を変えなきゃいけなくなる」
白聖者の凄絶な執念に、怯むベルフレッド。無理もないが、逃げられても困る。
つかさは執拗にベルフレッドを狙う白聖者の顔面を、再び引っ叩いて地面に転がした。
「私たちの企みを――何て言ったのかしら?」
『――』
(「そうか、俺がタゲを取り続けてる限りは、白聖者も同じ行動を繰り返すだけなのか」)
白聖者は、あくまでもベルフレッドを狙って行動する。
その思考は所詮AI、プログラムされたもの。中に人が入っていて臨機応変に対応されるものではない。
つかさはそれを見越して、いわゆるハメプレイに相手を持ち込んだのだ。
「何度だって、打ち砕いてあげる――お前の企みをね」
めぎゃん!
ぐしゃあ!
どごぉっ!
何度も、何度も何度も強烈な一撃を喰らい続けて、白聖者は徐々に正体である白鳩の群れから人の姿に戻るのが困難になっていった。
つかさによるユーベルコード発動潰しで、殴られ放題されたのだ。
いまだに消滅しない方が不思議だが、それだけ執念深い相手なのだろう。
「――ふう、こんな所かしら」
「……すげえハメ技だったな」
「言ったでしょ? 良い考えがあるって」
さすがのつかさも殴り疲れるということがあるのか、手を振り振りしながらベルフレッドの方へと戻っていった。出迎えたベルフレッドが率直な感想を口にすれば、つかさは不敵な笑みを浮かべた。
「貴方が囮になってくれたお陰で、効率良く戦えたわ」
「あ、ああ……俺も、勉強になったというか……」
つかさの礼に、真似できるかはともかくと付け加えながらベルフレッドが返す。
「ところで折角だし、全部終わったら私とサシでPvPでもどう?」
「えっ」
「浪漫を極めたこの拳、結構自信あるんだけど」
「……」
つかさからしたら、冗談半分の誘いだったけれど。
ベルフレッドは、結構真剣に考えてしまったという。
大成功
🔵🔵🔵
マリナ・フォーリーブズ
◎
WIZ判定
・作戦
UCで敵の召喚した天使軍を迎撃しつつ
ベルフレッドをドレインエネルギーで治癒してあげる
ベルフレッドを回避盾代わりにしてヒーラーとして支える作戦
さらに回復時に素直になるように洗脳を仕掛けてから質問して
彼の性根を見極める
・セリフ
(御託を並べる白聖者の顔面にグリード・レイをぶち込んでから)
あっはぁ! あんまりお綺麗で真っ白だから
その面をワタシ色に染めてあげるわぁ!
(ベルフレッドに)
ワタシはねぇ!上から目線でルールに従えって押し付けてくるヤツを
ぶん殴るとスッキリするのよぉ!
そしてそんな自分を誰かに見てもらうのがたまらなく好きなのぉ!
アナタは?
アナタはこの|世界《ゲーム》に降り立った時、
どんな自分になりたかったぁ?
何を目指してそこまでこのゲームをやり込んできたのぉ、
アナタの|欲望《ねがい》をワタシに教えてぇ?
(聞いてから)
目指せばいいじゃない、今度こそ真っ直ぐに
黒教の教えってぇ、何もただのフレーバーテキストじゃないのよぉ?
それは羽ばたくこと知らない私達に飛び方を教えてくれるの
●羽ばたけ、もう一度
白聖者。
管理と節制を重んじる、ゲーム内の宗教『白教』の聖者。
GGOのゲームプレイヤーにとって白聖者は、超常的な力で人々を弾圧する完全な敵であったが、こうしてバグプロトコル化することでより脅威的な存在と化した。
GGOがそもそも|統制機構《コントロール》から現実逃避したい多くの人々の遊び場である以上、こういった絶対的な敵対者も存在し得るのだろう。
現に、プレイヤーサイドには現実世界では到底許されない『欲望による進化』を謳う『黒教』が宗教として存在し、白聖者に対抗するジョブ『黒聖者(ダークメサイア)』がゲーム内で人気を博している状態でもある。
そんな『黒教』の教えに恐らく誰よりも近い場所で活き活きと活動しているマリナ・フォーリーブズが、白聖者を放っておく訳がなかったのだ。
「アナタ、まだ大丈夫?」
「な、何とか……おまえたちに助けてもらって、まだ生きてる」
マリナがベルフレッドに様子を問うと、思っていた以上に素直な答えが返ってきた。
対する白聖者は、既に相当の手負いなのか、ノイズまみれになり、白い羽根が止めどなく舞い落ちて、人のカタチを保つのがやっとの様子。
これはあと一押しだと、マリナは瞬時に判断する。今の白聖者に対してなら、ベルフレッド本人が立ち向かっても即死の可能性は限りなく低いだろう。
ならば、互いが最も得意とする|立ち回り《ロール》で立ち向かうのが最良。
「なら、もう一踏ん張りイけるわよねぇ?」
蠱惑的なマリナの声に呼応するように、グリード・サイン「ブラッド」――汚れた血の紋章が輝きだしてその存在を主張する。
「俺に、回避盾をやれってのか?」
「ここに腕の良いヒーラーが居るわよぉ、援護は任せて頂戴ねぇ」
ベルフレッドは一瞬、考える。自身がタゲを取って回避し続ける自信は――なくはない。少なくとも、今の自分と白聖者の状況から判断すれば、やれそうな気がする。
ましてや、黒聖者(ダークメサイア)はドレイン主体のヒール職だ。白聖者から|HP《ヒットポイント》を吸収しながら同時にダメージを与えることができるとあらば、連携を取らない理由がなかった。
「……いいぜ、死ぬ気でやってやる。ヒールは任せたぞ」
「いい返事じゃなぁい、気合入っちゃうゾ☆」
ここに来て初めて邪魔者よりも前に出て、真っ向勝負の構えに入ったベルフレッドを見た白聖者は、変わらず表情こそそのままだったが、語調は明らかに強まった。
『ベルフレッド、ようやく己の罪と罰に向き合う気になりましたか!』
「うるせえぞ、たとえおまえの言うことが正しいとしても、|遺伝子番号《ジーンアカウント》まで焼却される謂れはねぇよ」
「……」
|遺伝子番号《ジーンアカウント》の焼却、という言葉に、マリナは一瞬笑みを崩しかけたが、ベルフレッドは全く気付いていない。だが、それで良かった。バグプロトコルは倒すべき敵――今は、それだけでいい。
「来な、俺はもうおまえから逃げない」
ベルフレッドは白聖者を睨みつけると、愛用の大剣を構えた。
「俺の犯した罪が消えなくても、おまえにだけは好き勝手させねぇ!」
『愚かな、何と愚かな……』
白聖者が、表情を変えない代わりに両手で顔を覆った。
それと同時に、大量の白き天使の軍勢が白聖者の背後から出現し、いっせいにベルフレッドとマリナ目がけて襲いかかってくる!
「羽虫みてぇな奴だな、一体一体は弱そうだから何とかなるが……飛び道具か!」
天使軍が放つ白光の矢を、ベルフレッドはサルファーゴーストどもを相手にした時と同じような回転斬りで一気に打ち落とす。
「多少ならダメージ受けてもいいわよぉ、全部回復してあげるからぁ!」
ベルフレッドのやや後方で十分な間合いを取ったマリナが、背後で輝く|グリード・サイン《血の紋章》から|黒の光線《グリード・レイ》を次々と放ち、天使軍を迎撃していく。
そして手に入れたドレインエネルギーを回復リソースに変え、ベルフレッドに注ぎ込むべく、マリナはベルフレッドの背後からすいと手を伸ばし、両の頬に手を当てた。
「うおっびっくりしたぁ!?」
「ごめんなさいねぇ、直接触れないと回復してあげられなくってぇ」
振り返ることもできず、ベルフレッドが驚愕と困惑の声を上げるのを、ちょっぴり愉しげに聞くマリナ。
実は回復ついでに洗脳の効果も同時に流し込んでいるとは、さすがのベルフレッドも気付くまい。だってこっそりやってるんだもん、仕方ないね。
『今更パーティプレイですか、ベルフレッド。その忌々しい黒教の女も、どうせ使い捨てるつもりなのでしょう?』
白聖者は執拗に天使軍を召喚し続け、ベルフレッドに向けてけしかける。
『貴方は他者を軽んじることしかできない罪深いプレイヤーです、だから私が遣わされたと知りなさい』
「……」
『貴方は命乞いをした相手を見逃しましたか? そんなことはありませんでしたよね? 勝手に死ねばいいと身勝手を押し付けた、違いますか?』
「……っ」
『罪には罰を、これは決まり事なのです。受け入れなさい、ベルフレッ――』
――どごぉん!
マリナの|黒の光線《グリード・レイ》が白聖者の顔面に叩き込まれ、並べられていた御託ごと強引に吹っ飛ばされた。
「あっはぁ、いい気味!」
|グリード・サイン《血の紋章》を強く強く輝かせながら、マリナが笑う。
「あんまりお綺麗で真っ白だから、その|面《ツラ》をワタシ色に染めてあげるわぁ!」
『――』
白聖者は、頭部だけが白鳩の群れと化した状態で起き上がる。全身にはノイズが走り、マリナの一撃が手痛いものであったことを如実に物語っていた。
「い、一撃で……」
唖然とするベルフレッドにも、マリナは恍惚とした表情で告げる。
「ワタシはねぇ! 上から目線でルールに従えって押し付けてくるヤツをぶん殴るとスッキリするのよぉ!」
自分で自分の身体を抱きしめるような仕草で、マリナはベルフレッドを見た。
「そして、そんな自分を|誰かに見てもらう《・・・・・・・・》のがたまらなく好きなのぉ!」
「……お、おう……」
これこそが、マリナ・フォーリーブズ――四葉・満里奈のプレイスタイル。
抑圧された現実から逃避した結果行き着いた、立派なプレイスタイルだった。
「アナタは?」
「え?」
唐突にマリナに問いかけられて、思わず変な声で返してしまうベルフレッド。
「アナタはこの|世界《ゲーム》に降り立った時、どんな自分になりたかったぁ?」
蠱惑的な声には、何故だか、全てを正直に告げたくなる『何か』があった。
それが先程の回復ついでの洗脳効果だとも知らずに、ベルフレッドはぼうっとした目になる。
「何を目指してそこまでこのゲームをやり込んできたのぉ?」
「俺、は……」
マリナの赤い瞳が、欲望を隠さぬ光を宿した瞳が、ベルフレッドを貫いた。
「アナタの|欲望《ねがい》を、ワタシに教えてぇ?」
背後で、白聖者の頭部が徐々に人のカタチを取り戻しつつあった。
『いけません……ベル、フレッド……これ以上、罪を重ねるつもり、ですか……』
しかし、半分白鳩の状態では、上手く言葉を発することもままならない。
「俺は……」
ベルフレッドは、何かに突き動かされるように、叫んだ。
「俺は、認められたかった……! 現実じゃどれだけ努力しても無駄な分、せめてこの|世界《ゲーム》の中では強くなって認めてもらいたかった……!」
ベルフレッドは、天使軍の攻撃が止んだのを確認した上で、その場に膝をつく。
「……道を、踏み外しちまったんだ。おまえたちみたいに、強いプレイヤーは弱いプレイヤーを助けてやらなきゃいけなかったのに、俺は……」
ベルフレッドの声は、震えていた。
ここまで散々自分自身が『強いプレイヤー』に『助けてもらって』、本来自分があるべきだった姿をようやく見出したのだろう。
しかし、今更悪名が散々知れ渡ってしまったベルフレッドのことを、誰が信じてくれるというのだろうか?
――マリナは。
少なくともマリナは、ベルフレッドの慟哭をしっかりと聞き届けた。
「目指せばいいじゃない、今度こそ真っ直ぐに」
「……そんな、都合のいい話……」
「『黒教』の教えってぇ、何もただのフレーバーテキストじゃないのよぉ?」
欲望による進化。
|統制機構《コントロール》では許されない、禁じられた思想。
「それは、羽ばたくことを知らないワタシ達に飛び方を教えてくれるの」
マリナも、この|世界《ゲーム》の存在を知らなかったならば、現実の人生で毎日鬱屈とした日々を過ごしたままだったろう。
GGO内でも、辛い別れはあった。
けれど今は、それを二度と繰り返すまいと日々戦い続けている――そう、今のように。
「……やり直せるのか、俺は」
俯いたまま、ベルフレッドが呟く。
白聖者が何かを言っているような気がしたが、二人の耳には届かなかった。
「アナタの願いがまだその胸の中にある限りはぁ、きっと大丈夫よぉ」
何なら、しばらくパーティ組む?
冗談めかしてマリナがそう誘うも、ベルフレッドは弱々しく首を横に振った。
「……いや、その時は一人で『飛ぶ』さ。これ以上、誰にも迷惑はかけられねぇ」
「……そぉ? でも、無理だけはしちゃダメよぉ」
全てが終わったのち、ベルフレッドはマリナからのフレンド登録に気付くのだが、それはまた別のお話。
成功
🔵🔵🔴
イヴ・イングス
無事ですか同志ベルフレッド!
何、見返りなど求めませんよ。私は貴方に才能を見出したのです。
そのどこまでも最適解を求めるストイックな姿勢こそ、正しくRTAの精神!
RTAはグリッチ利用や派手なテクニックが先行して華やか…否、奇天烈な印象こそ持たれがちですが…優雅な白鳥が水面下で必死にバタ足するが如く、走者は地道に、愚直に短縮箇所を探し試行錯誤を重ねる!
そこに「多分これが一番速いと思います」がある限り!
人の夢は! 終わらねェ!
同志ベルフレッド、貴方もそうだったはず!
まだ遅くない! 否、これからが本番です!
同志ベルフレッド、貴方のそのテクニックを見込んでひとつ策を授けましょう。
攻撃モーションの終わり際にステップを入力し、即座にジャンプしてください。モーションをキャンセルしながら素早く動ける上、ステップ判定が続いてますから敵の攻撃は透過します。
その間に…破壊不能オブジェクトに擦り付けるように武器攻撃!
攻撃がヒットすることで当たり判定残存バグが発生!
そのまま継続ダメージで敵のHPバーを最速で溶かす!
●バグプロトコルにはグリッチで対抗だ
「もう一度、飛び立つ……」
ベルフレッドは、噛みしめるように呟く。
『許し……ません……』
白聖者は、ノイズまみれの身体で、白い羽根を散らしながらも立ち上がる。
「無事ですか、|同志《・・》ベルフレッド!」
そこへ飛び出してきたのは、イヴ・イングス。
「待て、今おまえ俺のこと」
「何、見返りなど求めませんよ。私は貴方に才能を見出したのです」
イヴはキラキラした目で――それはもうキラッキラした|金色《こんじき》の瞳でベルフレッドを見つめながら、唐突にベルフレッドの両手を取って握りしめた。
「その、どこまでも最適解を求めるストイックな姿勢こそ、正しくRTAの精神!」
「待って!?」
俺この|危機《ピンチ》を乗り越えられたら、生まれ変わったつもりでもう一度最初からコツコツ頑張ろう――なんて、殊勝なことを考えていた矢先だったのに。
眼前のドラゴンプロトコルと思しき女性は、事もあろうに己をRTA走者として認めたとのたまうではないか。どういうことなの。
「いや、RTA勢ってアレだろ? バグとか知り尽くしてないとそう簡単にはなれ……」
「ええ、RTAはグリッチ利用や派手なテクニックが先行して華やか……否、奇天烈な印象こそ持たれがちですが……」
『というか……私どもから見ても、貴方がたは奇天烈以外の何者でもありませんね……?』
いつの間にか白聖者まで話に首を突っ込んでくる始末。彼もまたRTA勢からしてみれば最速攻略の対象であったろう、別の自分が酷い目に遭った記憶でも共有しているのか。
それでもイヴは構わずベルフレッドに向けて熱弁をふるい続ける。
「優雅な白鳥が水面下で必死にバタ足するが如く、走者は地道に、愚直に短縮箇所を探し、試行錯誤を重ねる!」
――それも、たった一人で。
仲間うちで情報共有こそすれども、最速を極めるために必要なのは己の力量ひとつ。
それが、イヴがベルフレッドに告げた『才能』の正体であった。
「そこに『多分これが一番速いと思います』がある限り!」
イヴは片手で天を衝くように指差すと、高らかに宣言した。
「人の夢は! 終わらねェ!」
――どんっ!!!
フィールド上に、クソデカ文字の効果音が浮かんだ気がした。ゲームの世界だからそういうこともあるかも知れないし、気のせいだったかも知れない。
少なくとも間違いないのは、イヴの気迫に押されるまま、何だかその気になりつつあるベルフレッドがそこにいた、ということである。あれ? まだ洗脳効果解けてない?
「同志ベルフレッド、貴方もそうだったはず!」
「……ストイックに、ただひたすら、強く……」
「そう、まだ遅くない! 否、これからが本番です!」
イヴは完全に話のペースをがっちり掴んだ。こうなってはもう白聖者が御託を並べる隙もない。ベルフレッドはベルフレッドで『同志』呼ばわりにツッコミを入れるのさえ忘れている、これはもう無意識のうちに勧誘を受け入れたということなのか……!?
それはそうとして、バグプロトコル化した白聖者との決着はしっかりとつけなければならない。イヴはRTA走者のパイセンとして、そして|ゲームの管理者《ゲームマスター》として、白聖者へと向き直った。
「同志ベルフレッド、貴方のそのテクニックを見込んで、ひとつ策を授けましょう」
「て、テクニックって……俺はそんな、RTAなんて……」
「大丈夫です、誰にでも初めてはあります。今回は私が一緒にやってみせますから」
ごくり、とベルフレッドが唾を飲む。手にかいた汗を拭き、イヴの方を見た。
それはまるで、師匠から技を伝授される弟子の如き姿であった。
『いけません……ベルフレッド、RTA勢だけは……!』
白聖者が、最後の力を振り絞って天使の軍勢を召喚しようとするも、身体がぐずぐずと崩れ、白い羽根が四散するばかり。
「行きますよ、同志ベルフレッド!」
「……くそ、何でもやってやるぜ!」
ん? 今何でもって――もとい、白聖者討伐RTA、はーじまーるよー!
「攻撃モーションの終わり際にステップを入力し、即座にジャンプして下さい」
「言うだけなら簡単だよなあ、クソ難しいじゃねぇか! ……っと!」
イヴが魔王笏で、ベルフレッドが大剣でそれぞれ一度通常攻撃をその場で繰り出すと、二人ほぼ同時に攻撃の終わり際に謎のムーブをかます。
『いけない……これ以上は……ッ!』
白聖者の天使軍が召喚され、白光の矢が放たれるも――何ということでしょう、イヴとベルフレッドの身体を素通りしていくばかりではないか!
「……これは!?」
「モーションをキャンセルしながら素早く動ける上、ステップ判定が続いていますから、敵の攻撃はご覧の通り透過していきます」
「じゃあ、俺はできたのか!? 今のクソ難しい動作を!?」
「そうですとも、同志ベルフレッド! さあ、次です!」
今度は、手近な破壊不能オブジェクト――今回はフィールド上の大岩を使うとしよう。これに向かって二人は揃って擦り付けるように武器攻撃を繰り出した。
「上手いですよ、同志ベルフレッド! 攻撃がヒットすることで当たり判定残存バグが発生します!」
「できてる……俺が、あのあり得ない動きを……!?」
ベルフレッドは、手ほどきを受けながらの初めてのRTAに、胸を高鳴らせていた。
それを認めたイヴは、満足げに微笑むと、最後の仕上げだとばかりに叫んだ。
「そのまま継続ダメージで敵の|HP《ヒットポイント》バーを最速で溶かす!!」
「うおおおおお!!! 死にさらせええええええ!!!」
『あ……ああ……あ……!』
散々ベルフレッドを恐れさせ、幾多の猟兵たちが削りに削った白聖者のHPが、今ここに、完全にゼロにされようとしていた。
身体は白鳩の姿に、そしてさらに白い羽根へと細かく散り散りになり、最終的にはノイズだけが残り――そして、それさえも消えてなくなった。
一般プレイヤーであるベルフレッドではバグプロトコルを倒せないということもあり、今回はイヴがチュートリアルも兼ねて同時に攻撃をしたのだが、ベルフレッドにとっては色々な意味で良い経験になっただろう。
何よりも――。
ベルフレッドは、集まってきた猟兵たちに何度も頭を下げた。
「おまえたち……いや、あんたたちが何者かは分からないが、今回は本当に助かったよ」
ありがとう、と。
エモート付きで素直に礼を言えたのだ。えらい。
今後はどうするのか、と問われたベルフレッドは、イヴの方を見て笑った。
「何か、認めてもらえたみたいだし……GGORTA学会に加入させてもらおうと思ってる」
エッ!? という顔をしたプレイヤーたちも数名居るには居たが、本人が決めたことならば――何よりPKから足を洗うというのなら、それはそれで良いのではないかという話で落ち着いた。
「それとは別に、あんたたちみたく……自分より弱い奴を見かけたら、なるべく助けるようにしてみるよ」
簡単には信じてもらえないだろうけど、と苦笑いをしながら、ベルフレッドは言う。
何事も積み重ねだ、これまでの罪を償う最も正しい行いであることは、誰の目から見ても明らかであった。
――そう、バグプロトコルなどに制裁を受けるまでもなく、人は罪を償えるのだ。
どんなに道は険しくとも、願いが胸のうちにある限り、この|世界《ゲーム》の中では成長し続けられるのだから。
大成功
🔵🔵🔵