唸れ、最終コーナーの奇跡
私立|才桜《さいおう》高校の「才桜桜」はまだ続く。
体育祭日和、さて次の種目は――リレー。
一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)はこの競技において、運動神経の良さを抜擢されておりアンカーを務める。しかも、別クラスである知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)もまた、アンカーを務めるという話を小耳に挟んだ。
――ならば。
競技中に一緒に走れるのではないか。儚い夢を見て、リレーを帝は心密かに楽しみにしていた。
嵐の予感というものは、突然訪れるもの。
ぱぁんというスタートされた合図のあと、声援と応援の声が飛び交う。
走り始めた第一走者たちのスタートダッシュは好調。
バトンを握り、走る姿は帝から見て理想的なフォームであった。
「いけいけ~!」
飛鳥の気分良さげな声援は自分のクラスに。
「……あ」
しかし帝は見た。
自身のチームの走者、あれは何番目の誰だったか。
バトンパスの連携に、ミスが有り受け渡し時にぽろりと落とし、走者は転び――次の走者への受け渡しに失敗した。
「……んん」
飛鳥の、悲痛そうな漏れ出た声。
帝のクラスはバトンパスの受け渡し時点で失敗した――つまり転んだ側が拾って渡し直さなければならない。すっ転んだ走者は、足を負傷した模様。膝を痛そうにしていて、足首は言うことをきかないらしい。慌てて拾おうとして更に再転倒。飛鳥のクラス、他のチームがガンガン追い抜いてしまい――正式に受け渡された時、帝のクラスは最下位を飾っていた。
「諦めるのはまだ早いで~!」
自分たちのチームにもいけいけーという反面、敵チームのはずの飛鳥まで、こちらのチームの応援をしている。ゴールするまで何が起こるかわからない。
それが勝負の世界というもの。
――そう。まだ、まだだ。
2年D組が誇る最速のチームだ、巻き返しは――。
――……だが、追いつくには少し。
転んだ事は、痛手が深かった。
現在1位は2年A組――飛鳥のクラス。
ぐんぐんと他のランナーを追い抜いていく。差をつけていく。
「……やるだけのことは、する」
帝に託されたバトン。
すでには遠く、走る飛鳥の背中。
――飛鳥からは見えていないだけだ。
アンカー同士、競い合って走る夢は、まだ散り切ってなどいない。
追いかけろ、間に合え。追いつけ。
他のクラスのランナーは一様に驚いたはずだ。
――待て、飛鳥。
ぐんぐんと、追い抜いていくラストランナーは、風のように駆け抜けていく。
まるで迷いなく誰かを追いかけていくように。まっさきに駆けつける、正義の味方のように。
案外、プレッシャーになど動じない帝は軽やかに、その足は飛鳥の背中まで追いつき――。
「……!?」
すぐ隣。聞こえた、鋭い呼吸音で、相手を驚かした。
飛鳥は自分より前に敵影を見ず。後方への注意など勿論持っていなかった。
このバトンを落とすまい。意識はゴールテープまで疾走れ、そこまでだったのだ。
しかし、ゴォ、と音を引き連れて他の走者をゴボウ抜きした帝が、涼しい顔でゴールテープギリギリで
飛鳥を追い抜いた。どこまでも涼しい顔だった、と飛鳥は思う。
キレイなほどに、――全力疾走をやりきった、アスリートの顔だった、と思う。
自分たちを応援する声だって、遠くに聞こえたほどだ。
遠くに居たはずの帝の背中を最も近くで見て、僅差でゴール。
『おぉい!やってくれたなぁあ!』
最下位からの逆転1位をやってのけた帝は、クラスの仲間たちの寄って囲まれる。
走り切って落ち着くための呼吸を大量に必要としている中で、おつかれ!と、すげえと、俺らのヒーロー!最高!とたくさんの声が贈られた。
まるでヒーロー扱い。胴上げされそうの勢いの中を、ああと一言返して離れていく。
それよりも、僅差で追い抜いた2位が何か言いたそうなのだ。
勝者は言葉を聞く、権利も有る。
「あぁ~~~!つっかれたわぁ……ミカめっちゃ速くてビックリしたわ~!」
まさかあそこから怒涛の追い上げをやり通してみせるなんて。
「悔しいけどあれはもう完敗やで!」
わはは、と競い合って爽やかに笑う飛鳥の笑顔は眩しかった。
借り物競争後に見た、嬉しがってくれた顔とはまた別の、晴れやかな表情。
「ほんまおめでとなー!」
「ああ、ありがとう」
――お前が先をすでに走っていたからな。
追いかけるべき背中は、明確だった。
競争という中でも、帝の視線が追うのは大抵一つの存在に向かうから。
――……お前を追いかけたおかげとも言う。
「いつも以上の力が出た」
不思議だな、と眼鏡をくい、と上げる帝は内心を隠す。
思ってる言葉が顔に出ないのは、こういうとき助かっている。
代わりに、抹茶色の前髪がさらりと眼鏡越しの視界に入り込む。
瞬間的全力の出しすぎ。疲れた気分が、どっと来た。
「んん~!来年は絶対負けへんで!首洗って待っとき~!」
ビシッ、と飛鳥は帝を指出して。負けた悔しさを顕にする。
『次こそは』と強い光を瞳の中に輝かせて。
帝をまっすぐ見ていた。
――来年も飛鳥と一緒に走れるなら、悪くない提案だ。
――また、出るのも悪くないな……。
「来年もし同じクラスになったら、勝負できないけどな」
「あ、そっか!……そっかぁ!?」
じゃあ勝ち逃げ!?と一瞬本格的に悔しそうにしたが、望まれて悪い気はしない帝。
しかし、切り替えが早いのも飛鳥のイイところ。
「……ま、そん時はそん時や!」
「いいのか」
「だってほら!よぉいうやろ『昨日の敵は今日の友』ってな!」
だから未来で同じクラスだったら。
バトンパスを受けるか渡すか、そのどちらかで一緒に頑張ればいい。
それはそれで、同じクラスだったときしか出来ないことだ。
昨日の敵は今日の友、未来は何があるかわからないが――。
「……だな、それでも今年は俺の勝ち、だけどな」
お祭り騒ぎの中で、飛鳥はきっと来年も一番を狙っていくだろう。
隣にせよ、仲間にせよ。帝だって、飛鳥との勝負事が絡んだなら――自身が握る勝ちはきっと、譲らないだろうが。
負けたにも関わらず、今回も笑顔で帝を讃える飛鳥。
「そんときは来年も負けへんで!」
来年への意気込みで人差し指を突きつけられる。
――来年も、リレーの出場だけは前向きに検討しよう。
体育祭にそこまでのテンションやモチベーションで挑まない帝でさえ、飛鳥の笑顔は動かすのだ。汗を拭い、肩を叩く。
「ああ、……望むところだ」
成功
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