【喫茶】幻朧桜舞う秋祭り
夜闇を彩る提灯と、淡く輝く幻朧桜。
輝く桜の花びらが降り注ぐ中、太鼓や笛の音色が、サクラミラージュの大通りに響いていた。
秋祭りの熱に市民は浮かされながらも、幻朧桜の神秘が包む世界ではその祭りによる熱狂は比較的穏やかだ。
と、数多の屋台が立ち並ぶ中、一つの屋台に人だかりができている。
「HAHAHA! いらっしゃいマセー!」
「バルバル!」
屋台を開いているのは、お祭り衣装に着替えたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)だった。
ユーベルコードによって呼び寄せたミニバルタンたちが、集った観客たちへ出来上がった料理を提供しているようだ。
サクラミラージュに住まう住人たちにとっては、前代未聞の光景。
なぜなら、超弩級戦力たる猟兵が開く屋台なのだ。そこに赴かないわけがない。
「へいらっしゃい! ワッショイ! どんどん料理を作りマスヨー!」
客たちが騒ぎ出す。
一人は焼きそば、一人はたこ焼き、一人はお好み焼きと、無数の料理を叫んでいる。
「ハーイ! ではさっそくクッキングスタート!」
屋台(格納型メイド用キッチンver屋台)には、どんな機能も搭載されている。それがたとえ焼きそばでも、たこ焼きでも――どんなものでも調理可能なのだ!
ユーベルコードの超常は、猟兵が戦闘だけに使うものではない。
【バルタン・クッキング】によって、鉄板の上で焼きそばとお好み焼きが翻り、たこ焼き器の上でアツアツのたこ焼きが舞い踊る。
おおー!とどよめく客たちへ、バルタンは出来上がった料理をプラスチックの容器へと。
「調理完了! お待ち遠様デース!!」
「バル! バルバル!」
バルタンを補助する形として、ミニ・バルタンたちが接客を。
料理の金額は、出されている屋台の平均的な金額だ。
代わりにもらったお金に、ミニ・バルタンたちが顔を見合わせてきらきらと顔を輝かせている。
「バル! バル!」
「HAHAHA! 大繁盛デスネ!」
立ち並ぶ行列はとどまることを知らない、が。
「あれ? バルタンさん?」
「オーウ、アナタは……」
「あ、ごめん! お面取るの忘れてた……!」
そういって狐の面を取って素顔を確認してみれば、知り合いのグリモア猟兵であるアイン・セラフィナイトだった。
「アイン殿! いらっしゃいマセであります! 普段と装いが違うので気づかなかったデース!」
「ハロウィンも近いし、サクラミラージュらしくちょっと捻ってみたんだ! バルタンさんはお仕事中かな?」
そう興味本位で聞いてくるアインの装いは、武士の姿に狐面を付けた姿だった。ハロウィンが近いのももちろん、この秋祭りを楽しむための装いだろう。
「絶賛バイト中でアリマス!」
ふむふむ、とアインが頷く。
「それなら、僕にも一つ貰えるかな? たこ焼き一つ!」
「ハーイ! お安い御用デース!」
たこ焼き針を翻して、ユーベルコードを――使う前に、バルタンは停止した。
「すぐ出来上がってしまうのも退屈デスネ! せっかくの屋台、超級料理人の調理風景をお見せしマショー!」
ボウルに入った生地がおたまによって軽やかに宙を舞う。
たこ焼き器に注がれた生地はまるで生き物のように、精密に、緻密に鉄板の中に収まっていった。
「ミニ・バルタン! レッツ・クッキング!」
「バルバルー!」
バルタンと、ミニ・バルタンたちの共演だ。
バルタンがたこ焼き針を見事に翻し、絶妙な焼き加減でミニ・バルタンが用意しているプラスチック容器へと投げ渡す。
宙を舞ったたこ焼きはそのまま地面に落ちるかと思いきや、ミニ・バルタンたちの見事な連携によって全てが容器の中へと収まった。
そうして、ソースとマヨネーズがたこ焼きの上に。仕上げとばかりに青のりが乗せられて、今まさに超級料理人たる完璧な料理が出来上がったのだった。
「アイン殿、完成デース!」
「わ、すごい! ミニ・バルタンたちもありがとう! はいこれ、料金!」
「ば、バル……!? バルバル!?」
まあ、猟兵のお給料は良いということで。千円札を渡されたミニ・バルタンたちがパニックになり慌てふためいている。チップは大事。
そこに飛んできたのは、アインの使い魔である神羅だった。
なんだ、たこ焼きできたのか、と言わんばかりにアインの肩に乗って、たこ焼きを覗き見ている。
……ただし、流石に動物の形態でアツアツのたこ焼きを啄むことは止めたようだ。ちょっと冷めてから食べるようだが。
「……! うん、美味しい!」
「ユーベルコードなしでも、超級料理人のスキルは完全完璧であります! お気に召したようで何よりデース!」
ぐぬぬ、と見つめるカラスの使い魔から視線を移して。
――頭上に閃いたのは、満開の天の花だ。
幻朧桜の神秘が満ちる中、無数の花火が夜空を彩る。
「オー! ファイアーワークス! たーまーやー! であります!」
「サクラミラージュならではだね! すごい光景だなぁ……!」
周囲に集まっていた観客たちも、空に昇る無数の花火を見つめて大きな声で騒いでいる。
「バルバル!」
……どうやら、熱すぎて食べられないたこ焼きに変わって、少し冷めたお好み焼きをミニ・バルタンたちが持ってきたようだ。
お好み焼きを啄み始めた使い魔の神羅が、やるじゃないか、とばかりにこくこくと頷いている。
遠くで、太鼓の音が響いていた。どうやら、この祭りの本格的なイベントが始まるようだ。
「広場でメインイベントの開始かな? バルタンさんも一緒に行く?」
「HAHAHA! 一旦屋台は落ち着いたようデスネ! では参加しに行きマショー!」
「うん、行こう!」
「祭りをエンジョイしマショー! レッツ・ダンス!」
頭上に打ち上がる花火と、祭り会場に舞う幻朧桜の花びら。
数多の神秘が夜に降り注ぐ中、サクラミラージュの秋祭りの熱は更に加速していったのだった。
成功
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