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祈りのアリカ

#アックス&ウィザーズ #戦後

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#戦後


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 月のない夜だった。不思議なことに、雲一つない空なのに星すら瞬いていなかった。
 それでも、街の人々は構わなかった。その手に、淡く光る花を持っていたから。
 仄かな仄かな、まるで蛍のように色とりどりに光り輝く花一輪。手にして人々は町を歩く。
 すれ違う人は狼男、吸血鬼。その装いも普段とはかけ離れた仮装をして、道を行くのであった。
 大通りには光る花を灯りに様々な露店が並んでいる。
 年に一度、この時だけ開かれる露店には、不思議なものが並ぶことで有名であった。
 食べただけですらすらと愛の言葉を囁ける魔法の草。
 口にすればたちまち嘘しかつけなくなる不思議な茸。
 はたまた、香りを嗅げば死者と会話ができる宝石の花。
 どれも胡乱なものばかり。けれども、こんな夜には丁度いいだろう。
 数多の人々が、普段とは違う装いで街を歩く、そんな夜には……。


「猟書家が、かつて街の住民達を洗脳して「偽神」を生み出そうとしたことがあったんだけれど」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)はそう切り出した。
「その案件はもう解決済なんだけれども、そのオブリビオンが作った「偽神」の試作体がまだ野放しになっているみたいなんだ」
 「偽神」を生み出そうとした存在自体は、既に潰えている。
 このオブリビオンが天上界に至ることはないだろうが、もちろん放置することは出来ないとリュカは説明した。
「……今回この「偽神」になりかけてるのが、人喰い鳥っていって。……なんだろう。最初に殺した人間になりきって、その人間の思いとか、願いとか、そういうものを行動理由としてザクザク人殺しを始める性質を持っているんだ」
 放っておくと被害が拡大するから、とリュカは簡単に説明する。
「オブリビオン自身は光輝く鳥の姿をしている。目にすればそれとわかるけれども、自分が殺した人間を操って攻撃してくるから気を付けて。人間を殺さないと本体に攻撃は通りにくいけれども、その人間が何気にタフだ」
 まあその辺の話は現地で臨機応変に対応してくれればいいと思う。リュカの説明はざっくりそんな感じだ。それから、リュカは付け足す。
「今回奴が現れた時、ちょうど町はお祭りをしているみたいだから、終わったらゆっくりしていくのもいいかもしれないね。よくある、仮装して夜の街を歩く系のお祭りなんだけど……」
 その街に出る露店が面白いのだとリュカは言う。
「とにかく、植物由来の不思議なものがあるみたい。後、どの露店でも色とりどりの光る花を一輪くれるから、それを持って歩くのもいいと思う。当日は暗いからね」
 街には大きな川が流れている。橋の上から花を投げ入れたり、川辺から花を流したりするのも風物詩なのだとリュカは言った。輝く光の川はそれは美しいのだと。
「勿論、お祭りの前に油断は禁物だけれどもね」
 それじゃあ、気を付けていってらっしゃい。
 リュカはそんな風に言って、話を締めくくった。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
一章:バッチリ戦闘
二章:ゆっくりお祭り
になっております。
一章だけでも二章だけでも参加は可能です。
両方仮装可です。普通の服装でも可です。
一章は仮装でもかっちょいい系の戦闘になります。熊の着ぐるみでもかっこよくなります。
全章POW等はフレーバーです。

二章のみ、お声をおかけいただいた場合、リュカが参加します。
好奇心旺盛なのでいろんな露店を巡りたい。
怪しい植物も気になりますが、自分で試す気はさらさらないので、油断すると同行者の方にあやしい草とか食べさせようとします。ご注意ください。

以上になります。
それでは皆様、善い一日を。
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第1章 ボス戦 『人喰い鳥の魔女』

POW   :    食事の時間
【攻撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    脳のない体
【人体の頭部以外を瞬間再生し】【新たに己の喰らった死体を喚び】【その人間の特性に沿った強化方法】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    死者の紬
自身が戦闘で瀕死になると【己の喰らった人間の死体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リュカ・エンキアンサスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ……かつて。
「ごめんなさい……」
 女は血だまりの中座り込んだ。足元には男の死体があった。たった今、彼女が殺したものであった。
「……ごめんなさい」
 女は生まれながらに人殺しであった。人を殺す剣となるために育てられ、そのようにして生きた。ためらいも、苦しみも、何もなかった。そういう風に育てられたから。
『逃げよう、一緒に』
 だからその言葉と、差し伸べられた優しい男の手が、なんと嬉しかったことか。
 そして……、
「嬉しい。でも、私……」
 あなたの殺す仕事を、もう受けてしまっているの……。

「私の仕事は殺すこと。私の存在意義は殺すこと。それを否定したら……私の今までのことを否定することになる」
 どうすればよかったのだろう。と自問自答してみても答えは一つだ。「殺せ」。与えられた仕事は完遂しろ。ただ……それだけの話。わかっているのに、涙が止まらなかった。
 泣き疲れた女の肩の上に、いつの間にか美しく光り輝く鳥が止まっていた。鳥はゆっくりと口を開く。
 ――あなたの命を差し出すなら。
 ――私があなたに成り代わって、あなたを続けてあげましょう。
「続ける……?」
 ――そう。あなたの今までの人生は、意味のないものでは決してなかった。
 ――あなたを続けてあげましょう。
 ――その苦しみも、悲しみも、その末に仕事を全うすることを決意したということも、私が決して。無駄にはしない。
「……」
 女は一つ、うなずいた。
「私は私をもう続けられそうにないから……あなたにお願いします」
 そうして、女は死んで。
 鳥は女の姿を手に入れた。


「ど、どうして……!」
 そんな祭りの夜に、悲鳴が聞こえた。
 美しいドレスの女。その袖が翻る。その手に首を触れられた老人が、たちまち喉を掻き切られて息絶えた。獲物は剣だろうか。その動きは優雅で、躍るようにしか見えなかった。
 祭りから一歩離れた路地裏は、暗闇に沈んで先を見通すことは出来ない。どういうわけか、月も星もないその夜に、女はほんの少し、首を傾げた。
「どうして……?」
 肩には、うっすらと光輝く一羽の鳥がとまっている。
 どうして。それは彼女が人殺しだから。どうして。男が様々な人間を言葉巧みに騙し、金銭を巻き上げることを常習としている男だったから。どうして。騙された人間が、涙ながらに彼女に殺しを依頼したから。どうして……ああ、つまり、
「ごめんなさい、私、人殺しなの。人を殺すのが、仕事」
 呟いた言葉は、酷く空虚に聞こえた。……もっとも、死にゆく男にそれが聞こえたかどうかはわからないが……。
「私は人喰い鳥と人喰い鳥の魔女。……この骸の名をリナリア。殺すことがリナリアの仕事。殺すことだけが私の価値」
 それだけ、端的に告げて女は歩き出す。後にはただ、死体が残された。
 町中に戻れば、奇妙な仮装をする人間たち。
 私には似合いだと、女はほんの少し微笑んだ。
 誰も彼も、本当を隠して歩いている。
 ならばドレスに着飾った、本当じゃない私が歩いても……違和感なんてないだろう。

●マスターより
改めまして、いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
今回は、剣を扱うドレスの女性との戦いになります(鳥は詰められた時点でやられるのでメインは女性との戦闘になります)。
割と好き勝手やりますので、好き勝手やってください、ということになります。
プレイングは24日8:31以降の募集になります。
締め切り日は未定です。サポートの方を採用させていただくかもしれませんし、のんびりするかもしれませんが、再送の予定はありません。

以上です。細かいことはフィーリング。
それでは、良い一日を。
ルシエラ・アクアリンド
意味合いは若干違うとは承知の上だけど
|あの宝石《エリクシル》が頭を過るなあ
亡くなった方を操るという時点で似た様な物だけど


衣装は懐かしい戦乙女の物
https://t-walker.jp/illust/product/tw_c/074/c07486_sdzen_15.jpg

シエラとライは視界が増えるからお願いするつもりだけど無理無い範囲でね

オーラ防御と魔力溜めで防御と攻撃面強化させたUC発動
敵が操る亡くなった人へは炎での光弾で還って頂ければ良いのだけれど
同時に自身も魔力を纏わせた弓を使用
光弾と同時に攻撃が通る様に二回攻撃やフェイントで路を開くことに集中
攻撃は軽業で避けつつも隙を見つけて手数で対処


リヴィ・ローランザルツ
あの収穫祭を曲がった解釈をしたのなら
俺たちの世界でも似た様な事が起きていた可能性もあったのかな?
この世界は魔法の力にも頼る自分にとっても
先日も訪れて景色自体もとても魅力的だし
色々な意味で早く片をつけたいな

仮装はまあ周りの人たちのを見る方で楽しもうか、セラ
危険が及ばない程度には見せてやりたいかな


気を引き締め躊躇わず
先ずは本体に攻撃が通る様にしたい
UC六華の舞を先に発動し相手の行動を阻害させて貰い
続けざまにUC四重双撃で分身発動互いに空中機動や軽業で死角を作りつつ
連撃で本体迄の攻撃の道筋を作る
上手くいったならその侭本体へも同様に攻撃
彼方の攻撃は第六感等で避けるつもりだけど状況次第でオーラ防御で凌ぐ



 にぎやかな街の声は、路地裏を一つ曲がればすぐに遠くなる。
 ……そんなところは、どの世界だって。どの町だって同じなんだな、とルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)はそんなことを思った。
「(意味合いは若干違うとは承知の上だけど、あの宝石が頭を過るなあ……)」
 なんとなく。己の世界の願いをかなえる宝石の妖精のことを思い出し、ルシエルは目を眇める。亡くなった方を操るという時点で似た様な物だけど、とも心の中の声として飲み込む。なんか口に出したら今にも本物が出てきそうな、そんな不思議な雰囲気のある町だったから。隣で、ふっと緊張したように息をのむ気配を感じた。
「あの収穫祭を曲がった解釈をしたのなら……俺たちの世界でも似た様な事が起きていた可能性もあったのかな?」
 同じように、己の元居た世界を思い出したのであろう。リヴィ・ローランザルツ(煌颯・f39603)の言葉が耳に届いて、ルシエラは小さく頷く。
「どの世界でも……同じようなことが起きる可能性は、あるのかもしれないね。だって」
「だって?」
「みんな同じ、人間だから」
 尋ねるリヴィに、ルシエラが優しく答える。リヴィはその言葉に居をつかれたように一瞬、黙り込んで。
「それは……そうかもしれませんね」
 少し、納得がいったように微笑んだ。
「この世界は、俺が住んでいた世界と似ていて……、カガクとかデンパなんかより、魔法の世界を生きてるのがすごく身近に感じるのです。先日も訪れて景色自体もとても魅力的だし……」
「わかるよ。私たちが今まで見たことも聞いたこともない世界もまた、楽しいけれど。似た世界を見ると、心が落ち着くね」
「そう。色々な意味で早く片をつけたいな」
「その時は、君も仮装をするのかな?」
 穏やかに問うルシエラに、リヴィは頬を掻く。
「仮装は……まあ周りの人たちのを見る方で楽しもうか、と」
セラにも危険が及ばない程度には見せてやりたいし。と小声でつぶやくリヴィの懐で、雛鳥のような見た目の桃華獣、セラが小さく鳴いた。今日のリヴィは普段通りの服。その照れたような、ちょっときまり悪いような。そんな表情にくすりとルシエラは笑う。彼女は蒼い戦乙女のドレスを身に纏っていた。……そして、
「では……」
「はい」
 ふっ、と。
 路地裏に漂う空気が変わったことを、二人は見逃さなかった。
 どの世界でも変わらぬ、闇の影。路地裏の奥から。
 何かが風を切って飛んできたのだ。

 暗闇の中ドレスとともに煌めくものが翻った。
「……っ、見えたよ」
 存在に気付くと同時に、目の前のそれはルシエラとの距離を詰めた。鋭く鼻先に迫る切っ先。ルシエラもまた青い衣を翻して一歩引く。頬を掠める刃は即座に切り返して落ちてくることが想定された。冷静に、彼女は空中に文様を描く。
「させないっ!」
 即座に頭上に防御の結界を展開させる。見えぬ盾によって刃が弾かれ澄んだ音を立てる。勢いに振られて敵は僅かに後方に下がる。その瞬間にリヴィは己の分身を作り出した。
「まずは……止める!」
 洗われた分身は四つ。即座に動きを止める風を。氷を。そして牽制する衝撃を孕んだ斬撃を。剣魔融合斬の連撃を。四方から叩きつける。
「……」
 周囲に逃げ場はない。即座に敵はしゃがみこんで突進した。ばさりとスカートが翻る。その陰にリヴィは鳥の姿を見た。
「そこ……!」
 分身の死角に紛れて飛び込んだリヴィは、銀の柄に翠玉が填まったレイピアを握りこむ。女を分身が抑えている間に、本体を……!
「……させません」
 しかし。女の足が動いた。高く掲げた足にレイピアが突き刺さる。両腕は分身の攻撃を受け止めるので精一杯なのだろう。即座に、リヴィはレイピアを振った。それに合わせて、
「シエラ、ライ。……うん、大丈夫、見えているよ」
 再びルシエラが優雅に、だが素早く紋章を描く。炎の光弾が即座に作り出された。公団を飛ばすと同時に弓をルシエラは引き絞る。
「いけそう?」
「はい!」
 光弾が降り注ぐ。鷹が、仔竜がルシエラの背後から、相対する敵の背後まで。様々な角度で視界を確保している。リヴィに当たらぬよう。そして、逃げる隙すら与えぬように、炎の弾と優美な弓で追い詰めていく。青い戦乙女が紋章を描き、弓を番える様は本当に物語のようであった。
「……」
「……!」
 一方、リヴィも銀の柄に翠玉が填まったレイピアを手に、女と鳥に立ち向かう。女は生きているようで。けれども次から次へ、傷つけては高速で修復されていくその姿が、逆に生きていないのだと感じさせられた。避けきれなかった女の剣がリヴィの腕を裂き、ぱっと血を散らせる。まるで正反対だ、とリヴィは思った。
「……」
 少し。苦しそうな、悲しそうな表情を浮かべるリヴィ。この人はもう死んでいて、助けられないのだということをはっきりと悟る。ルシエラはそんな彼の葛藤には構わず……彼がためらってもいいように……油断なく弓を番える。戦場では冷静に。リヴィも、その腕を鈍らせはしない。
 炎が大きく女の体を焼き、レイピアがそれを貫く。隙なく叩き込まれた次の攻撃は鳥を傷つける。そこに一切の、躊躇はなかった。
 この世界を生きている者のために、戦う。どの世界に行ったとしても、それだけは変わらない事実なのだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シホ・エーデルワイス(サポート)
助太刀します!


人柄

普段は物静かで儚げな雰囲気ですが
戦闘時は仲間が活躍しやすい様
積極的に支援します


心情

仲間と力を合わせる事で
どんな困難にも乗り越えられると信じています


基本行動

味方や救助対象が危険に晒されたら身の危険を顧みず庇い
疲労を気にせず治療します

一見自殺行為に見える事もあるかもしれませんが
誰も悲しませたくないと思っており
UCや技能を駆使して生き残ろうとします

またUC【贖罪】により楽には死ねません

ですが
心配させない様
苦しくても明るく振る舞います


戦闘

味方がいれば回復と支援に専念します
攻撃は主に聖銃二丁を使用


戦後
オブリビオンに憎悪等は感じず
悪逆非道な敵でも倒したら
命を頂いた事に弔いの祈りを捧げます


四条・眠斗(サポート)
ぅゅ……くぅ……あらぁ?
いつの間にか始まってましたかぁ?
さっさと事件を解決しないとぉ、安心してもうひと眠りできませんからねぇ。
ユーベルコードは出し惜しみしても仕方ありませんからぁ、
一気に片づけるつもりでやっちゃいましょう。
こう見えてもぉ、腕には少し自信があるのですよぉ。
それにぃ、様子を見てる間にまた眠くなっちゃっても困っちゃいますしぃ。
荒事じゃなくてぇ、楽しいことならめいっぱい楽しんじゃいましょう。
のんびりできるところとかぁ、動物さんがたくさんいるところなんか素敵ですよねぇ。
でもぉ、身体を動かすのも好きですよぉ。
お互いに納得の上で全力が出せると一番良いですよねぇ。
※アドリブ・絡み歓迎



「ぅゅ……くぅ……あらぁ?」
 さわり、と風が鳴いた気がして、四条・眠斗(白雪の眠り姫・f37257)は目を開けた。寝台を取り付けた虎に眠っていた眠斗は、眠ったまま戦場に運ばれていたらしい。眠斗は軽く伸びをする。いつものことだ。
「いつの間にか始まってましたかぁ?」
 辺りは真っ暗で、遠くににぎやかな喧噪は聞こえるけれども、彼女のいた辺りは静かだった。薄暗い……路地裏だろうか? いかにも、何かが潜んでいるような気配がする。
「助太刀します。……大丈夫ですか?」
 目を覚ました眠斗にシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)が気づかわしげに声をかける。物静かながらも気づかいを感じさせるシホにこっくり、眠斗は頷いた。
「ええ~。一気に片づけるつもりでやっちゃいましょう。こう見えてもぉ、腕には少し自信があるのですよぉ」
 寝ているけれども、状況は把握している。眠斗の言外の言葉に、シホも頷いた。

 今回二人が手助けに来たのは、アックス&ウィザーズのとある街であった。
 かつて、猟書家が「偽神」を生み出そうとした。その名残というか、試作品であるオブリビオンが強い力を得てこの街に出現したのだ。
 出現したのは鳥のオブリビオンである。だが、
「常に死体を操り、その死人本人であるかのように振舞っているらしいです」
「死んだ方をぉ、何とかしちゃえば、本体自身の討伐は容易だって言ってましたよねぇ」
 シホの言葉に眠斗も付け足す。寝てたけど、ちゃんと聞いていたのだ。故に、
「さっさと事件を解決しないとぉ、安心してもうひと眠りできませんからねぇ」
 それにぃ、様子を見てる間にまた眠くなっちゃっても困っちゃいますしぃ……。
 そこまでは口に出さずに、眠斗は寝台からようやく降りる。
「荒事じゃなくてぇ、楽しいことならめいっぱい楽しんじゃいたいんですけれどもぉ」
「そういえば、この戦いが終われば街で開かれているお祭りを覗く時間くらいはあるらしいですよ」
 眠斗の言葉にシホもまた聖銃二丁を構え、小さくそう返した。穏やかだが、ほんの少し楽しみである、という感情を滲ませて。
「まあ、それは素敵ですねぇ。身体を動かすのも好きですよぉ。張り切りますよぉ」
 純白の錘を軽く振るう。錘というにはいささか巨大すぎる、鈍器のようなそれを軽々とぶん回して、
「……ねえ? お互いに納得の上で全力が出せると一番良いですよねぇ」
 鳥さん? それとも、死体さん?
 柔らかな声で問いかけた眠斗の視界の先、闇の中でそれは蠢いた。

 一瞬。気づけば眠斗の目の前に来ていた。
「させません!」
 シホが銃を撃つ。的確に腕や足を狙う。
「……」
 しかしそれの動きは衰えない。ドレスを着た、きれいな女の人。手には一振りのが煌めいている。ドレスには似合わないシンプルな、ドレスの陰に隠れてしまいそうな短剣。
「なるほど、やはり……!」
 確実に、まっとうな人間ならば足を止めるはずだった銃撃に、シホはすかさず狙いを変える。
「死体とはいえ女の方の顔を狙うのは些かためらいがありますが……」
 光の精霊弾都銀の弾。どちらも死者には有効だろう。しかしあらかじめ彼女は聞いていた。敵の頭部以外の攻撃は瞬く間に癒すと。
「焔さん。頂いた護符の力、お借りします!」
 突進にすかさずシホはや悪しき力を浄化する光の壁を作り上げる。そのまま休むことなくその頭部に二つの弾丸を叩き込む。
「ふふ。助かるよ~」
 突進を阻む隙。それを眠斗も見逃さない。ふんわりとした動作で、巨大な錘をぶん投げる。純白の銛はあまりに大きな質量に、凄まじい音を立てて放たれた。
「!」
 敵もそれに気が付いた。くるりとドレスを翻し、躍るような仕草で銛を剣で軌道を逸らせて受ける。
「今……です!」
 しかし。シホが踏み込む。躊躇わずに眠斗を庇うように前に出て、その頭に弾丸を叩き込んだ。
「どうか安らかな眠りを……届けさせてくださいまし」
「もちろん、眠斗だっているんですぅ」
 二人して油断なく攻撃を叩き込む。二人の雰囲気とは裏腹に、隙のない攻撃は着実に、女を傷つけていくのであった……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

冴島・類
仮装は、千夜一夜の物語に出てくるような、砂の地に住む方々のような
民族衣装な旅装束

彼の鳥が…
祭りとあらば、人通りも増えるでしょう
賑やかさに悲鳴が混じる前に
止めないとですね

剣を使う手合いなら、現地の方を射程から遠ざければ被害は防げるかな…
姿を見つけ、その時周囲の方を狙っていたら
瓜江に割り入らせ、鉄扇で弾きかばいで防ぎ
下がってもらえる時間稼ぎたい
食わせ、強化などさせぬと
こちらに気を引く為刀で放つ薙ぎ払いで仕掛け

巻き込まれぬよう、ここから離れて下さい

剣戟が速いな…
まともに喰らいたくない
見切りで軌道見逃さぬよう注意しながら応戦
隙を作れたら、と
糸から離し手繰る瓜江の扇に風を乗せ
体勢崩せぬか、試してみようか



 人々が楽しそうに行きかっている。
 少なくとも、冴島・類(公孫樹・f13398)にはそう見える。
 本当のところは、わからない。実際のところ、そんな風に見えている人々にも、様々な顔があるのかもしれない。
 けれども、それは類が見て、すれ違うだけで推し量れるようなものではなかった。
「……」
 落ちそうになっていた帽子を、もう一度被りなおす。
 類の今回の仮装は、砂漠の地の人々のような仮装であった。
「(これは……帽子というか、たーばんというのだっけ)」
 直しながら、類はそんなことを思う。
 そして同時に、彼の国のものとされている物語……千夜一夜の物語のことを、なんとなく思い出した。その物語の一つ一つにも、きっと人の心が息づいているのだろうと、そんなことを思った。
「(彼の鳥も……きっとたくさんの人の命を見てきたのだろうな)」
 残念ながら、潰す方であったけれども。そんなことを思いながら、類は歩く。
 きっとそれは類も同じだろう。……もっとも、類は反対で。たくさんの人の命を見て、救ってきたのだけれども。きっとそこまで考えは至っていないに違いない。類としては、ごくごく当たり前のことをしているだけだから。
 そんなことをつらつらと考えながらも、類は歩いている。人々の間を縫うように。お祭りを楽しんでいるように見えて……楽しんでいない。
「(今はまだ、少ないけれども……)」
 もっと人が増えたら、もっと厄介になる。……そう思った時。
 遠くから足早に歩いてくる女の姿を、類は捉えた。
 女は誰かと連れ立っている。それがターゲットなのだと類は直感で理解した。人気のないところに連れていこうとしている。……そっと、類は後を追う。
 人が多い。今はまだ割って入れない。気取られても行けない。肩に鳥を乗せた女は、どこも怪我なんかしていないというような顔をしているけれども、なんとなく万全ではない気がした。
 ……おそらく、すでに猟兵と戦闘し、「仕事」を邪魔されているのだろう。
 それでも、女は逃げることなく「仕事」を続行している。
「……それが、業か」
 知らず、そんな言葉が口から洩れた。
「止めないとですね……」
 様子を窺う類には気づかず、ゆっくりと彼女は路地裏の方へと移動する。そっと類は瓜江を動かした。……砂漠の民に、和風の瓜江はちぐはぐなようでいて、どこかしっくり合っていた。
「逃げてください」
 そしてその一瞬を、類は見逃さなかった。路地裏に誘い込もうとした瞬間。女が男の数歩前を歩き、ふんわりドレスを翻して振り返るその瞬間。類もまた砂漠の衣装に包まれた腕を振るう。即座に、絡繰り人形の瓜江が飛び出した。
「……!!」
「なっ!?」
 問答無用で瓜江は男を突き飛ばす。そうして煌めいた白刃を鉄扇で受け止めた。高く響く金属音。ぎょっとしたような男の声。
「巻き込まれぬよう、ここから離れて下さい」
「ひ……っ!!」
 即座に類も動いていた。瓜江の元に駆け寄る。すれ違いざまに声をかける。類のその様子に、男が無様に這いつくばりながら後退するのを類は確認した。
「……また、邪魔」
「ええ。それが「仕事」なので」
 女が瓜江の横をすり抜けて追おうとする。それを類が正面に回り込んで止めた。同時に銀杏色の組紐飾りの付いた短刀を薙ぎ払う。即座に、女は手を前に突き出す。
「……どいてください」
「それはできない」
 女の手が裂ける。裂けると同時に治癒していくのがわかる。そのまま女は手にしていた剣を振るう。瓜江が顔面に鉄扇を叩きつけていった。
「……」
「……」
 それ以上言葉はなく、互いに無言。そして無言の瓜江が扇に風を乗せる。
「其方は頼むよ、瓜江」
「!?」
 風が女の正面に叩きつけられる。同時に類は背後に回り込むようなそぶりを見せた。即座に女も類を目で追い、警戒しようとする……が、
「こっちだ」
 正面から、類は突っ込んだ。刀を全力で薙ぎ払い、傷が治されても構わずにその態勢を崩させる。同時に、風の刃が女の顔面に炸裂した。
「……っ!」
 顔の傷は治らない。女は顔を抑えて走り出す。路地裏の奥へ。類はそれを目で追う。彼女が標的を諦めないならば、逃げた男を追うて守るのがいいか。それとも……、
「……」
 ついと、類の目の前を鴉が通り過ぎた。ああ。類はなんとなく、小さく頷く。
 そうして、男が逃げた方向へと走り出した。……女が男を追う可能性は低いが、何かあった時に類は人を守れる位置にいたい。そうして暗がりから人のいる方へと、彼は向かっていくのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
僕が普段着ているこの服は
外国の映画に出てくる殺人鬼の衣装らしい
内容は知らない
いつか観るよと言ってそのままだ

改めて部屋を見たら
仮装っぽくない服がなかった
彼女の言葉を借りるなら
僕はいつも嘘つきだという事になるんだろうな

こんばんは
人殺しのきみ
僕も人殺しの依頼を受けた歴とした人殺しです
死んだ方が良くても殺したら怒られる人を
適当に殺せるのが特技なんだ
同業者だね

きみはあと一歩足りなかった
或いは足りすぎていたのかな
兎に角殺すよ

と言っておいて逃げる
人混みと闇に紛れた僕を
彼女は追ってくるんだろうか
鴉達に動きを見張らせつつ
巻けたらUCを発動
こちらの位置は悟らせないまま
容赦なく頭を狙い撃つ

大丈夫
僕は何も思わないから



 女が路地裏を駆けていく。
 頭上には、鴉が一羽。その姿を追いかけていた。
 既にほかの猟兵とも交戦しているのだろう。傷は治せても、服は直せない。血に染まったボロボロの衣装は、そういうかそうであるかのように、周囲には受け入れられていた。
 ……あるいは。
 隣の知らない誰かが血まみれの服を着ていようと。人間はさほど関心を抱かないのかもしれないな。……なんて、
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はそんな益体もないことを考えた。
「……」
 そういえば、章が普段着ているこの服は、外国の映画に出てくる殺人鬼の衣装らしい。
内容は知らない。いつか観るよと言ってそのままだ。ついでにどんなタイトルだったかさえもすっかり忘れてしまった。
 思い出す気もさらさらないので、アットホームで笑顔の絶えない職場の殺人鬼の映画だったと章は勝手に結論付ける。ああ。いい映画だった。最後に殺人鬼が片手を挙げながらお菓子の海に沈んでいく姿は涙なしでは語れなかった。多分。どうせなら札束の海がよかった。いい言葉だ。
「……なんて」
 そもそも、改めて部屋を見たら仮装っぽくない服がなかった。彼女の言葉を借りるなら、僕はいつも嘘つきだという事になるんだろうな……なんてうそぶいたのもいい思い出で。
 舞台の幕が上がったから。
 章が待ち伏せしたその路地裏の角を、彼女がためらいなく曲がったから。
「こんばんは、人殺しのきみ」
 章の舞台もまた、幕をあげた。女も、章を捉えた。女は、言葉を発しなかった。ぐるりと、剣が回った。勢いをつけてまるで独楽のように。開店とともに切っ先が章の喉元に迫る。
「僕も人殺しの依頼を受けた歴とした人殺しです」
 それを、鴉が飛んでくる。章は一歩も動かない。鴉が体当たりをして軌道を逸らす。ばさりと、章は外套を翻した。
「死んだ方が良くても殺したら怒られる人を、適当に殺せるのが特技なんだ。……同業者だね」
「ならば」
 言いながら、章は背を向ける。そこで初めて、女が声を発した。
「何故逃げるのですか」
 尤もな指摘に、章は笑ってしまう。二撃目はぎりぎり自力で避けた。これは早い。さっさととんずらしないといけない。
「それが僕の、やり口だからかな。もしくは僕が……嘘つきだからかな」
 ちらりと視線をやる。鳥は女の方に泊まっていた。まるでただの鳥のように。人なんて全く殺せない非力な生き物のように。君も悪い嘘つきだね。と章は口の中でつぶやく。
「きみはあと一歩足りなかった。或いは足りすぎていたのかな……。兎に角殺すよ」
「……待って」
「待てと言われて、待つ僕はいないよ」
 走る。逃げ足は何気に自信がある。全力で走る。角を曲がって、路地裏から人込みへ。暗闇から光の場所へ。彼女は追ってくるんだろうか。章は自問自答をする。半々だな。と自分で結論を出す。
 そしてもう半分でも構わない。どのみち彼女はこちらに戻ってくる。
 ……すなわち、邪魔者である自分を消すか、依頼された殺人を遂行するか。
 どちらでもよかった。章は露店の一つ、その商品たちの物陰に……店主すら気付かないであろう商品の陰に隠れて、完全に気配を消す。
 鴉たちが女を追っている。それを通じて章は女の位置を特定する。
「大丈夫」
 投擲するなら何がいいだろうか。鋏か、それとも昆虫標本用の針か。どちらも殺人鬼っぽくて大変よろしい。そのまま鴉の視界を借りて、
「僕は何も思わないから」
 投げた。まっすぐに、その頭部へと向かって。
 一度も章は直接その姿を見ぬまま、鴉の視界を借りて放たれた一撃は、まっすぐに女の頭に激突した。頭を貫いた針に、女の動きが鈍る。まるで、壊れた機械のように。
「あとは……」
 時間の問題だろう。そんなことを考えて、章は肩を竦める。
「なんだか僕の方がよっぽど、人でなしだね」
 誰にともなく呟いた言葉は、喧噪の中誰に聞かれることもなく消えていく。
 道行く人も、露店の主人も。気づこうと思えば、章に気付けるかもしれないのに。
 やっぱり誰もが、隣の誰かには興味がないのかもしれないな、なんて。章はそんなことを考えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

過去の自分を否定したら
昔の自分の存在意義から違う道を歩んでしまったら
その人の価値は無くなってしまうのかな
だとしたら今の『わたし』は
無意味に見えるのでしょうね

今、哀しいことが起きているけれど
ルーシーはリナリアさんがした選択を責められない
もしお父さまを食べてしまったあの時に鳥さんが居たら
救いのような言葉をかけられたら
間違いなく頷いていたもの

ゆぇパパからピリピリした感情が伝わってくる
これは、怒り?
ヘンかもしれないけれど…少し安心する
だって、このリナリアさんの姿に頷いていない、という事だから
パパを利用しようとする人が居ることを知っている
心を害して身体だけを奪おうとするヒトが居る事を
いま怒っているパパは、きっと
鳥さんやそのヒトの言葉にも頷かない
そう信じるわ
パパの手をきゅっと握り返して

ね、パパ
今のルーシーは
例え鳥さんに何を言われてもわたしをやめない
パパの子として生きていきたいから
本当でないことを
真実にしたいの

リナリアさんや犠牲になった人々が相手でもパパを害するなら戦うわ
さあ咲いて、ブルーベル


朧・ユェー
【月光】

『人殺し』
彼女は人を殺す事が生きる意味だった
生きる意味、いや、それしか知らない人
なるとなくそれはわかる

人を、村の人たちを殺してしまったあの日
罪悪感と悲壮感は確かにあった
でも、アレを繰り返していたら?
あの男の言いなりに操られたままだったら
俺は彼女の様に『無』になっていたかもしれない
それしか知らない、それだけが自分だと
生きる意味さえも保たなくなる
そうすれば…
この少女の様に、鳥の甘い言葉を聴きいて身体をあけ渡す
そう、この身体を欲するあの男
父と呼ぶアイツにこの身体をあけ渡して
楽になろうとしていたかもしれない
その後の悲惨な事になるのを忘れて

でも今はそんな事は無い
決して、この鳥があの男が甘い言葉で誘おうとも
僕は…俺は…『ユェー』という存在を残す
隣の小さな手を握り
きっとこの子も過去と向き合っている
それでも強く優しい娘
この子が僕を必要としてくれる限り

『嘘喰』
さぁ、喰べろ
お前は嘘で偽物だ。そんなモノは『無』にかえれ

頭を優しい撫でて
ルーシーちゃんは一人
誰に渡しはしないから
僕の可愛い娘と微笑んで



 ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は遠くを見るように目を眇めた。
 遠くで、人の行きかう喧噪が聞こえる。
 なのにこの路地は、酷く静かだった。
 どんなに明るい世界でも、一歩踏み込めば泥のような夜が広がっていて……。
「……」
 ふと。
 何の音もしなかったけれど、ルーシーは顔を上げた。
 隣にはいつものように、朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)が立っていた。
 いつものように。……いつものように。
 ルーシーはきゅっとユェーの手を握りしめた。
 ユェーは、静かにその手を握り返してくれた。
 いつもと変わらぬ動作。優しく握り返してくれる手。……それでも、
「(ゆぇパパ……。これは、怒り?)」
 それでも。……言葉になんかしなくても。
 ピリピリと伝わってくる何かがあって、ルーシーはそっと視線を外して目を伏せた。
「(安心する……。っていっちゃうと、ヘンかもしれないけれど)」
 でも。吐いた息は安堵が混じっていることを、ルーシーは自覚していた。
 ユェーは、たぶん怒ってる。
 それは、この事態が「怒るようなこと」なのだということだ。……ユェーが、そう思っているということだ。

 ほっと、囁くような息を吐く音が聞こえた。ルーシーの声だった。
 ユェーにも、それが聞こえていて。ユェーはそっと、ルーシーと握る手に力を籠める。
「心配させてしまったかな?」
 優しく、問う。その声に、ルーシーは驚いたように目を見開いてユェーを見て。……そして、ふるふると首を横に振った。
「……ううん」
 それだけ言って……それから、言葉を飲み込む。
 聡い子だ、と、ユェーはルーシーの頭を優しくなでた。
 おそらくルーシーは、ユェーとユェーの「父」のことを考えているに違いない。
 ……そう、この身体を欲するあの男。父と呼ぶアイツの……、
「ゆぇパパ」
 ルーシーがユェーを呼ぶ。
 ユェーの思考を、どこか遮るかのような呼びかけ。ユェーはその声に応えるようにルーシーを見る。
 そしてその顔を見て……ユェーはなんだか安心する。
 その目が、信じていると、言ってくれていたから。
 鳥だろうが、父だろうが。ユェーはユェーを渡さないと、信じてくれているから。
 肝心なことは何も言わなかったけれども。つないだ手から、そんな気持ちが伝わってきて。
「……うん」
 ユェーは小さく、うなずいた。なに、と続きを促す。
「……あのね。過去の自分を否定したら、昔の自分の存在意義から違う道を歩んでしまったら……。その人の価値は無くなってしまうのかな」
 だから。そんな言葉にできない信頼の代わりに、ルーシーはそんなことを言った。
「だとしたら今の『わたし』は、無意味に見えるのでしょうね」
「……ルーシーちゃん自身は、どう思うのかな?」
 だから、ユェーもまた、大事な決意の代わりにそんなことを言った。ルーシーは少し考えるような、間を置く。
「……あのね」
 ほんの少し、口に出すのは勇気がいった。
「ルーシーは、ゆぇパパに無意味だと思われてしまうのは、すごく悲しいと思うの」
「……うん」
 即座に、「そんなことはあり得ない」と言ってしまいたかったけれども、そこはすんでのところで堪える。今はそういう話じゃない。
「でもね。それ以外の人には……ううん、もちろん、全然平気というわけじゃないけれど……」
 でもね。と、ルーシーはもう一度、はにかむように笑った。
「ゆぇパパがそうじゃない、って、言ってくれたら、ルーシーはそれでいいって、胸を張ることができるのよ」
「……うん」
 そう、と。頷く声はほんの少し詰まっていた。その声に気付かないふりをして、ルーシーは小さく、うなずく。
「今、哀しいことが起きているけれど……、ルーシーはリナリアさんがした選択を責められない。もしお父さまを食べてしまったあの時に鳥さんが居たら。救いのような言葉をかけられたら……、間違いなく頷いていたもの」
「そう……。そうかな」
「ええ。ルーシーをなめないでいただきたいわ!」
 そこでなぜか胸を張るルーシーに、思わずユェーは苦笑する。それだけ大事なのよ、なんて。言われなくても伝わってきていた。
「……」
 ユェーの胸によぎるのは、人を、村の人たちを殺してしまったあの日だ。
「(罪悪感と悲壮感は確かにあった。でも、アレを繰り返していたら? それが日常になっていたら。当たり前になっていたら。……あの男の言いなりに操られたままだったら)」
 その先は、簡単に想像できる。きっと『無』だと、ユェーは思う。あの男の言葉はすべて正しく、間違ってはなく、それ以外のことは知らない。……そんな、
「(生きる意味さえも保たなくなる。でもきっと……それすらも当たり前だと感じてしまった)」
 きっと。……きっと。
 いつの日か。鳥の甘い言葉に己の体を明け渡すような未来も、あったかもしれないのだ。
「それが……楽であると信じて。……そんなはずないのに」
 その後のことは悲惨なことになる。
 救いなんて何もない。……けれども、それすらも気付かない。
 そんな未来を創造したら、あまりに「しっくり」想像でき過ぎていて。思わず、ユェーは最後の思った言葉を口にした。
「そうね……。生きることって、本当は、楽じゃないのね」
 そんなささやかな呟きにさえ、優しい言葉が返ってきた。
「でもね、ゆぇパパ。ルーシーは、きっとルーシーのことは分からなくなっても、ゆぇパパと、ゆぇパパのふりをした鳥の区別はつくと思うわ!」
「……確かに」
 言われた言葉に、思わず納得して。それからふっと、ユェーは笑った。
「僕も、ルーシーちゃんとルーシーちゃんのふりをした鳥となら、見分ける自信があるよ」
「でしょ?」
 当たり前だ、という口調とは裏腹に、
 ルーシーはとても嬉しそうな顔をしていた。
「……ね、パパ」
 ……ふと。
 ルーシーは握った手を軽く揺らす。何だい、と問い返す声は思いのほか優しかった。
「今のルーシーは、例え鳥さんに何を言われてもわたしをやめない……」
 まるで今日一日の出来事を語るように。献立の内容を聞くように。ルーシーはいつものような口調で、
「パパの子として生きていきたいから……、本当でないことを、真実にしたいの。だから」
 だから、ね。……だから。
 その手のぬくもりに、ユェーは小さく頷いた。
「ああ。僕は……俺は……『ユェー』という存在を残す。何があっても、『ユェー』という存在として、ルーシーちゃんの傍にいるよ」
「うん。……全然、変わらないでなんて、言わないよ。でも」
「そうだね。ルーシーちゃんが僕を必要としてくれる限り……」
「もうっ。そんなの、わかってて言ってる?」
 ずっと必要に決まっているでしょう。頬を膨らませてそう言うルーシーに、ユェーは苦笑して、それから頷いた。
「じゃあ。ずっと。……この本当で、生きていこう」
 優しく、ユェーはルーシーの頭を撫でる。
「ルーシーちゃんはこの世で一人……。誰にも渡しはしないから」
 僕の可愛い娘。そう言いながらも、ユェーは暗闇に目を向けるのであった。

 そして。
 最後の足音が聞こえた。
「……本当は」
 ユェーはゆっくりと口を開く。……本当は。
 本当は、彼女が。リナリアが「人殺し」として依頼を完遂するならば、今日は日を改めるべきだろう。
 これだけ邪魔をされて、自身も傷を負っている。猟兵と戦い、彼女は満身創痍だ。……でも、
「でも、他にやり方を知らないんだね」
 彼女は人を殺す事が生きる意味だった。……生きる意味、いや、それしか知らない人。
 他のやり方なんて知らない。だからどうしようもない。失敗すればそこで終わるだけだから、それ以上のことを教えてもらっていないのだ。……なるとなくそれはわかる。
 きっと、逃げて別の人生を生きようといわれても、別の人生なんて、知りようがなかったのだ。
「案外、思い切れば、何とかなったかもしれないのにね」
 言ったところで、せんのないこと。自分は『ユェー』になれたけれど、彼女は他の何にもなれなかった。ただ、「続ける」ことを選んだのだから。
 暗闇の向こう側から、歩いてくる足音がする。既に頭部にも損傷を追っている。体は再生していくが、頭部以外の傷がいくら癒えても、頭部への傷は癒えない。……それはすなわち、その死体が、壊れかかっているということを示していた。
「……」
 それでも、彼女は二人を認めて剣を構えた。ぎこちない仕草で。それしか知らないというように。
「……リナリアさんや犠牲になった人々が相手でもパパを害するなら戦うわ」
 だから、ルーシーも小さく頷いて一歩前に出た。
「さあ咲いて、ブルーベル」
 釣鐘水仙の花びらが降り注ぐ。彼女に。まっすぐに。
 女に降り注ぐ花びらの刃は、彼女をまっすぐに斬り裂き。そしてその隙にユェーが死の文様を描き出した。
「……さぁ、喰べろ。……お前は嘘で偽物だ。そんなモノは『無』にかえれ」
 それを目印に、刻印から無数のナニカが食らいつく。鳥を、死体を、食らいつくせば……もうなにも、残ってはいないだろう。
「……」
 女は最後まで、何も言わなかった。
 ただ……消えてしまえばもう何も残っていなくて。……本当に何も残らなくて。
 ルーシーはそれがほんの少し、寂しいと。そう、思ったのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『光、舞う』

POW   :    光を追いかけてみようか

SPD   :    光と踊ってみようか

WIZ   :    光に触れてみようか

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そして。
 祭りの裏で戦いがあったことすら知る者はなく、世界も、日々も、回っていく。
 仄かに光る花を持って歩く人々。花の色も、姿かたちも様々だ。
 朝になれば散ってしまうらしい。その儚さも人には人気であった。
 大通りには露店が並んでいる。どうやら植物に関するものが多いようだ。
 自家製のハーブティやクッキーは、様々な癒しの効果が歌われている。不眠に集中力向上。お土産に持ち帰ってもよし、その場で楽しんでいくのもいいだろう。
 お土産物も豊富だ。花の栞や、つやつやに磨かれた木で作られた杖。手作りの机と椅子、食器なんかもある。植物由来といっても、その中身は多種多様だ。
 ……そして、そんな露店に混じって、不思議なお店も存在している。
 食べただけですらすらと愛の言葉を囁ける魔法の草。
 口にすればたちまち嘘しかつけなくなる不思議な茸。
 はたまた、香りを嗅げば死者と会話ができる宝石の花。
 トネリコの枝で作った未来を喋る杖。
 頭の中で思い描いたものを正確に描いてくれる鉛筆。
 不思議な机の引き出しには、物をしまえば翌日には違うものが入っているという。
 どれも胡乱なものばかり。効果のほどは、なんていうのは野暮というものだ。
 たいていは偽物だ。それもまた楽しいんだ。
 けれども街ゆく人たちの中で囁かれているのは……、
 中には本当に、本物の魔法の品があるらしい、ということだ。

 もう一つ。街には大きな川が流れている。
 川は町の上流から幾つかに分かれて、美しい水路として街を巡っている。
 道行く人々の傍らを通り過ぎ、アンティーク調のおしゃれな喫茶店の中を通る道のりもあるらしい。
 この街に、光る花を流すのも、風習の一つになっているようだ。
 上流に行けば、川辺に降りることができるからそこから流す人もいる。
 石畳の橋の上から、花を投げ落とす人もいる。
 はたまたゴンドラに乗って、そこで流す人もいるし、喫茶店で帰り際、流していく人もいる。
 色とりどりの花が流れていく川は、見ているだけでとても美しく、胡散臭い露店に疲れた人は、それを見ながら一息つくのもいいだろう。

 どのみち今日は仮のお祭り。本来の姿を隠し、思いのまま振舞ってもいい日だから、
 思い思いの姿で、過ごすのがきっといいだろう。


●マスターより
第二章:日常です。
露店を見るなり、お花を流すなり、ゆっくりするなり、お好きにどうぞ。
どこでも仮装可能です。でも仮装しなくともオッケーです。
会場は暗いので、お花を一輪、持つと明るいと思います(必須ではないです)色とりどりで、季節感問わずいろんな花があり光りますが、明日になると散ってしまいます。

露店購入物は、指定していただければだいたいなんでもあります。ちょっとこの世界にはないもの(例えばコンクリートミキサーとか)は、多少それっぽくアレンジしますので、こういうものを買う、という場合は何でも記載してください。
勿論、お任せも可です。めっちゃへんてこなものか、めっちゃ真剣なものか。あるいは食べ物なのか、ずっと残るものなのか。方向性がある場合は記載してください(へんてこなものの方がバリエーションは豊かになりそうです)。

以上です。細かいことはフィーリング。基本好意的解釈で行きますのでお好きにどうぞ。

●スケジュール
この文章投下時よりプレイングは募集いたします。
物理的に閉まるか、タグで〆きりましたと記載するまでは、いつでも投げてくださってOKです。
ただ、なるべく皆さん描写したいとは思いますが、人数とタイミングにより出来ない場合もあります。ご了承ください。
再送はないようにしたいです。
(風邪ひいたとかあったらお願いするかもしれません。その時は可能でしたら、よろしくお願いいたします)

それでは皆様、善い夜を。
リヴィ・ローランザルツ
【ルシエラさん f38959】と

誘いが予想外で多分驚いた様に見えたかも
昔から自分より人優先だったから願いを言ってくれたのが嬉しかっただけ

安心させる為笑って
歩く時に持つ偶然にも彼女の瞳の色に似た
碧に蒼が混じった済んだ色の花を渡そう


彼女がシエラと呼ぶセラと同じ聖獣
確りと逢ったのは初めてだけど察して俺と彼女を見比べるのは仕方がない
―彼女には隠しているけど姉さんだから

趣味が彼女と同じ事に不思議さと同時に嬉しさ覚えたり
所作に今の彼女が垣間見えるのが嬉しくて
古い記憶の中で明るい顔は少なくて


困り事は無いかという問いに『大丈夫だよ』
昔散々耳にした時とは少し違う意味合いを持つ言葉

笑って良かったですと心から伝える


ルシエラ・アクアリンド
【リヴィ f39603】と

普段の恰好

少し迷ったけど散歩に誘う
戸惑う姿に突然だったかなと
でも思っていた理由とは違う様でほっとして
渡された花の色の理由に何だか嬉しくて大切に持って歩く


避難して貰っていたシエラもゆっくりと彼と合うのは初めて
直ぐ懐くのは彼の人柄なのかな?
笑うと一層性別誤解されそうだなあ


アンティーク調の喫茶店へ
彼が言った通りこの世界は落ち着く
紅茶もケーキも美味しいし


彼と共に過ごすのは平時では二度目
といっても一度目は5分位だったけど

相変わらず笑顔をみると釣られて嬉しくなる
遠い昔に繰り返した『大丈夫だよ』を伝え答えと共に
この間もそうだったと指摘されつつ帰ってきた笑顔に
年相応さを感じ笑みを返す



「リヴィ」
「……え?」
 戦いが終われば、反対側の方向に散って行くのも別に珍しいことではなかった。
 それは悲しいことではなく、互いに互いの生活があるから。生まれも育ちも知り合いも違う人々が仲間となって、共に手を取り敵を倒し、そしてそれぞれの世界に返っていく。
 エンドブレイカーとして世界を回っていた時もそうだったし、それは猟兵になっても同じだった。
 そういう関係が……ルシエラも、きっとリヴィも、嫌いではなかったのだ。
 だから、いつも通り。お疲れさまと声を掛け合って別れると思っていたから。
「よければ少し、話でもしていかないかな」
 申し出たルシエラの言葉に、リヴィは目を見開いて即座に返事をすることができなかった。
「話……ですか」
「そうだよ。……突然、だったかな」
「あっ」
 思わずオウム返しのようになった言葉。ルシエラはそっと目を伏せた。こんな祭りの日に、不躾なことを言ったかもしれないと……。そんな風に思ったのが、リヴィにもわかった。
「違うんだ。その……」
 その。なんて言おう。
 確かに最初は驚いた。でもそれよりも、昔から自分より人優先だったから願いを言ってくれたのが嬉しかっただけ……なんて。
 口に出さなくても、ちょっと恥ずかしすぎる。けれどもうまい事すらすらと、その言葉の続きが出てこなくてリヴィはちょっと視線をうろつかせて、
「ああ。そう……花が」
彼女の瞳の色に似た、碧に蒼が混じった澄んだ色の花が。
 リヴィの視線の中に飛び込んできて。躊躇わずにそれをリヴィは求めた。
「……はい。今日は、花を持っていた方がいい日みたいだから」
「あ、そうだね。……どうしてこの色に?」
「それは……、……の、色だから」
 これも口に出すにはちょっと恥ずかしすぎると、口ごもったリヴィだったけれども、不思議そうにルシエラに聞かれてものすごく小さな声でリヴィは返した。その言葉はきちんとルシエラに届いて、ルシエラは思わずきゅっと両手で花を握りしめる。その姿はささやかな贈り物を喜ぶ、優しい少女の顔だった。
「……ありがとう。大事にするよ」
「明日には……散るから」
 そんなに、大事にしなくとも。相変わらず口の中でもそもそいうリヴィがかわいくて、おかしくて、ルシエラは笑った。
「だったら、花びらを集めて栞にしようかな」
「やめてよ……」
 応える声は弱弱しかった。楽しげに笑うルシエラの方が揺れる。……するとその揺れを感じて、ひょっこり、聖獣のシエラが顔を出した。
「シエラも、ゆっくり会うのは初めてかな。リヴィだよ」
「そう、こっちはルシエラ。……この子はセラ」
 同じように顔を出した聖獣たちは、ルシエラとリヴィを見比べて不思議そうな顔をしている。……もしかしたら、リヴィとルシエラが似ていると、思っているのかもしれない……が、緊張するでもなくすぐに懐いたようだ。二人して顔を見合わせる聖獣たちが、見ているだけで可愛くて。ルシエラもリヴィも思わず顔を見合わせて笑っている。
「すぐ懐いた。きっとリヴィの人柄だね」
「……ルシエラだって。セラは、すごく好きだって」
 その姿が、どこか似ているようだと気づいた通行人は、たぶんいなかっただろう。……けれども、聖獣たちはちゃんと気付いていたのであった。

 それから、水路の通るアンティーク調の喫茶店へと向かい、
 二人していろんな話をした。
 今日の依頼のこと。別の日の依頼のこと。
 喫茶店の内装のこと。自分たちの世界の喫茶店のこと。魔法のこと。
 テーブルの小さな花瓶に飾られたルシエラの瞳の色した花のこと。街の不思議な露店のこと。
「やっぱり、この世界は落ち着くね。ケーキも美味しいし」
「うん、……ええと」
「うん」
「……俺のも食べる?」
「! ありがとう。美味しそうだと思ってたんだよね。そのアップルパイ!」
 言いながらも、ルシエラは己のカボチャのモンブランを示す。
「一口どうぞ。てっぺんの栗も食べてもいいんだよ」
「食べないよ。一個しかないだろ、それ」
 不思議と、遠慮する気も起きずにモンブランを分けてもらう。
 ……何とも甘くて、甘くて。不思議な味がした。
 そうして、またいろんなことを話した。
 甘い話、辛い物の話。旅をした時の食事の話。
 趣味の話。お互い同じ趣味を持っていることを聞けば、思わずリヴィが語り始めるのをルシエラは楽しそうに聞いていた。
 生活の話。ルシエラはリヴィの食生活や睡眠時間を気にするので、リヴィは思わず苦笑したりもした。
「最近読んだ本で見かけたのは……」
「ああ。それなら私が実際に見て……」
 行動派のルシエラは、リヴィが書物で読んだことを体験したこともあったりして、
 気付けば、ずいぶんと長い間話し込んでいる自分たちに気付いた。
「……」
 ふと。リヴィは会話を止める。
「どうしたの?」
 ルシエラが首を傾げてリヴィを見る。
 その顔が、古い記憶の彼女と重なる。
「(あの頃は、こんな顔、見たことなかったな……)」
 穏やかに、嬉しそうに、微笑みながらリヴィの話を聞くルシエラは、その沈黙を勘違いしたのだろう。
「……何か困ってることはない? なんでも、相談してくれていいんだよ」
 そう、穏やかに聞いて。ふ、とリヴィは吹き出した。
「え。どうしてそこで笑うかな」
「いや。……大丈夫だよ」
 昔。ルシエラのその言葉を散々聞いて、この言葉を散々口にした。
 けれどもその言葉のニュアンスは、どこか、違っていて。
「……そっか」
 それに、気付いたのだろう。ルシエラもゆっくりと微笑む。
 それは、年相応の、穏やかな笑みであった。
「……良かったです」
 だから、ただそれだけでいいと。リヴィは思って。
「うん、今日は……いい日だね」
 ルシエラが穏やかに頷いた。
 テーブルの上、飾られた花が淡い光を放って揺れる。
 それが本当に穏やかで……そっと息をついたリヴィは、どこか、穏やかな顔をしていた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
【白夜】
今夜は一千一夜物語の語り部さんの仮装で
勤めを終えた旦那さんと合流
愛しの旅人さん達に
怪我ないか確り確認したらお祭りへ

ええ、とても…!
色んな花灯りで素敵
不思議なコ達が集うお店も楽しみ
繋いだ手を楽し気に揺らし

わぁ…!
宝石のお花さんですって
こっちはマーブル模様のコよ
おまじないがかかった品まで…
興味津々、不思議効果を店員さんにも尋ねてみる
物語を集めるのも
語り部には重要ですもの
ふふ、お家のお庭で待つコ達へ良い土産話が出来たね

ん、リティは…
新しくお庭に来てくれるコを探したいわ
(月光で育つ植物等、苗でも種でもお任せで)

うん、沢山巡ったものね
不思議を探す旅の成果
素敵なご縁との未来を
もっと拡げてみましょう


冴島・類
【白夜】
無事、お勤め果たせたなら安堵一息
僕の語り部さんの元へ
ただいまを告げてから
お祭りを歩こう

月も星も見えない夜
ひとつがほのかでも
これだけ光があると、綺麗だねぇ
南瓜色…橙にひかる花を手に
空いた方はリティと繋ぎ揺らす

露店は植物やそれを使った品が沢山
宝石の?初めて見たな
魔法の効果も面白いが
君の表情が好奇心に輝くのが嬉しくて
語り部さんだもの
どの子の物語も気になるよね

後に残る、使えるものがよいなぁ…
(不思議な草木で染めた紙を使った日記帳
効果お任せ、へんてこも◎)
リティはどんな子を見つけた?
白夜に新しい仲間が増えそうだ

後は喫茶店でお披露目大会をしようか
出会った不思議の
来た道
これから
広がる物語に君と浸ろう



 さらさらとした衣装が翻る。ゆったりとした感触が気になって、城野・いばら(白夜の魔女・f20406)はちょっと己の姿を顧みようとして……、やめた。
「(うん、ちょっと気になるけど……)」
 今日は千夜一夜物語の語り部の衣装である。いつもは気ない系統で、さらさらとした飾りのたくさんついている服は歩くたびにちょっと気になってしまう。……それでも、
「(早く、会いたいから……)」
 愛しの旅人さんに。だから、不思議な賑わいの灯る露店街を、いばらは足早に歩く。確かあの、喫茶店の入り口辺りに……、
「あっ」
「あ……っ!」
 顔を上げたら、見間違うはずもない。類の姿が目に入り、いばらは片手を挙げて大きく振る。すでに衣装のことなんか忘れて小走りで、
「おつかれさまでした。……それと、おかえりなさい」
 嬉しそうに笑いながら、類の手を取った。類もその目元を和らげる。
「ただいま。リティ」
「怪我はない?」
「うん、大丈夫」
「……本当に?」
 この件だけは、ちょっぴり、信用ならない類に、とりあえずいばらはちょっと身をかがめてぐるりと一回り。目立つ怪我がないかチェックする。その間類は苦笑して両手をあげる。
「ね、大丈夫でしょう?」
「うん、よろしい」
 結果、合格を出すいばらに類はほっとしたように息を吐いた。そんなやり取りがおかしくて、思わず二人顔を見合わせて笑う。
「……じゃあ、行こうか。足元は大丈夫?」
「そうね……」
 改めて問われて、いばらは自分の足元を見やる。その気持ちを察したように、類が言葉を添えた。
「月も星も見えない夜で、ひとつがほのかでも……、これだけ光があると、綺麗だねぇ」
「ええ、とても……! 色んな花灯りで素敵」
 ここまでくるにも不自由しなかった、といばらは頷く。いろんな誰かがもつ、いろんな灯りで、世界は暗いはずなのに、こんなにも明るい。それが何となく、いばらには嬉しかった。
「僕たちも、その光に加わろうか」
 そして、自分たちも。類がもっていた、橙色に光る花を軽く揺らす。空いた手を差し出すと、嬉しそうに茨はその手を握りしめた。
「その花は?」
「ホタルブクロに似ているね」
 ホタルブクロのような花であるが、垂れた花はほんの少し南瓜みたいな顔をしていて可愛らしい、素敵ね。といばらは目を和らげて、つないだ手を軽く揺らす。
「きっと、お店にはもっと不思議なコ達が集っているのでしょうね」
「うん、回ってみる?」
「ええ。勿論!」
 すでに花だけでも不思議だ。それを嬉しそうに見て居た茨だったが、類の言葉にこくりと頷く。とりあえず回れるだけ回ってみたいな、なんて思いながら、露店巡りを開始した。

「わぁ……! 宝石のお花さんですって」
 何軒目かで目に留まった品に、いばらが声をあげる。
「宝石の? 初めて見たな」
「そりゃそうさ。この露店でしかないものだからね」
 いばらの歓声に、類がそれを覗き込み、店主が来やすく答える。店主はやたら若い男で、若すぎるが故に逆に胡散臭さを強く出した露店であった。
「こっちはマーブル模様のコよ」
「ああ。それはね。昔離れ離れになった夫婦が……」
「まあ」
 指をさした宝石に声をあげれば、きちんと解説してくれる。いばらはそれを真剣に聞く。
「……というわけで、地の竜と天空の鷲の涙が混ざり合って結晶化したものなんだ」
「素敵ね……!」
 なかなか眉唾かもしれないな、というような内容でも、いばらは真剣に聞いている。それがなんとも愛しくて、その横顔を見ながら類も穏やかに笑っている。……勿論、内容も聞いてはいるけれど……、
「ねえ、今の」
「え?」
「もうっ。ちゃんと聞いていたのかしら?」
「ごめんごめん」
 苦笑する類に、ちょっといばらは頬を膨らませて拗ねるふり。勿論振りだけだ。
「じゃあ次はね、このものを……」
「おや。この机かい? これはね、昔魔女が……」
 露店の人々も慣れたもので、少し気になるそぶりがあれば何でも語ってくれる。宝石やの隣にある家具屋のおばあさんが語る言葉に、類はなるほど、と聞き入ると……ふと、
「おばあさん、これは?」
 日記帳だろうか。類は机の上に置かれていたノートを手に取る。かなり分厚く、自分で日付を入れるタイプの日記帳だろう。……が、不思議なことに装丁も、中の紙も真っ黒であった。
「ああ。それもね。この机と一緒についてきたものなんだよ」
「というと……魔女の?」
 話が気になったのか、ひょこっ、といばらも顔を出す。二人が見た感じ、黒いけれども悪い気配はしなさそうだ。……どこか、机よりも不思議な感じがして、温かみを感じられる。
「そうそう。書いても書いてもページがなくならない日記帳らしいよ。……それに」
「それに?」
 声が潜められる。思わずいばらと類は身を乗り出した。
「実はね、何千年も前からあるらしいんだ。満月の夜に月夜に晒しながらページをめくると、何千年前の魔女の生活が見られるそうだよ」
 そして、もちろんあんたの日記も何千年と残るんだよ。
「その日記にするなら、こっちのペンを使いなよ。折角だから安くしておくよ」
 銀葉を煎じてインクにしたペンだよ、と隣の露店の青年が差し出す。黒の紙だから、銀色は綺麗に映えるだろう。あれよ、あれよと言う間に二人していつの間にかお買い上げさせられた……ような、そんな感じ。あっという間に類は日揮とペンの入った紙袋を渡されていた。
「……千年、残るのか」
 思わず、類は呟いた。本当かどうかは、千年生きてみないとわからない。
「それに、千年前の生活かぁ……」
 続いて、いばらも呟いた。なんだか狐につままれたような出来事だった、気がする。
「ねえ、類。その日記に、類は何を書くの?」
「そうだね……」
 本当かどうかなんてわからないけれど。戯れに問いかけたいばらに、類はしばし考えこんだ。
「……リティの、ことを書こうかな」
「リティの?」
「そうそう。千年後の人にも、リティのことを伝えるの」
「そっか……」
 ちょっと恥ずかしそうな、いばらの言葉に。類は小さく頷く。……きっと、ささやかなことを書くのがいいだろう。特別でも何でもない、幸せなことを。遠い未来の人に届けるのも悪くはない。
「……リティはどんな子を見つけた?」
 逆に、類が問い返す。そういえばいばらは類が日記帳を見つけた時、反対隣の植物屋さんを見ていたのを思い出したのだ。
「ん、リティは……」
 類の言葉に、いばらも手にしていた紙袋をそっと示す。袋を開けると、ぼんやりと中身が輝いている。
「月の光でも育つ植物なの。これはね……ほら」
「……うん? でも、根っこがないね」
「そう。エアプランツって言って……」
 根っこのない、手の平に乗るサイズの植物をいばらは示す。とんがった葉っぱがいっぱい出ていて、まるで躍っているようだ。色味は、淡い銀色をしている。……だが、呼吸をするように、ふんわりゆっくり温かみのある月の色のように変化して、また銀色に戻って、と明滅を繰り返していた。
「普段は木の枝とか、屋根の上とか、そういう所にいるの」
「……そうなんだ」
「それでね、その場所に争いがおこると、どこかに飛んで行っちゃうんだって。風に乗って、また争いのない世界に行って。……でも争いのない場所で争いが起きると、またどこかに飛んでいく。……だから、昔は争いを呼ぶ不吉な植物だって、言われてたんだって」
 聞いた話を、いばらは語る。語っているだけで、ちょっと悲しくなってきた。……そっと、袋の蓋を閉める。
「だから、リティは思うの。この子に、争いのない……ずーっとの、お家をあげたいって」
 争いがない場所なら、ずっといられるでしょう?
 いばらがそう言って、少し微笑む。類はその顔に、小さく頷いた。
「……なるほど。白夜に新しい仲間が増えそうだ」
「ふふ、お家のお庭で待つコ達へ良い土産話が出来たね」
 それからも、二人はいろんなお店を巡る。思わず手を出してしまったものもあれば、話を聞いて一喜一憂したものもある。
「そうだ。あとは喫茶店でお披露目大会をしようか」
「うん、沢山巡ったものね」
「じゃあ、あそこの切り株の……」
「うん! ……わ、特製のモンブランですって!」
 そして二人、また物語を語り合って。
 そうしてきっと、二人の物語も広がっていく。
 それが、何千年語り継がれるかはわからないけれども、
 きっと今この瞬間は、この上なく幸せだろう……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
リュカさんお久しぶり
実は失踪している間に死んでしまって
今ここにいる僕は幽霊だったりする
…幽霊は探偵の仮装できないか

ああこれ
辺りの怪しい店で買った服
この血のついた虫眼鏡と紅い花もセットで貰ったよ
何か一刻も速く手放したいという空気で
店主さんが焦っていたからね
人助けだと思って

これも呪いのアイテムだったりするんだろうか
僕は信じていないけれど
持ち主が次々死に至るって怪談
よくあるでしょう
他の変な効果があっても面白いけれど

もしかしたら
店主さんも人殺しだったりして

さっきの店
リュカさんも行ってみる
普通にあそこにあるかもしれないし
早々に店じまいしているかもしれない

それとも箱の中の猫は
生死不明のままが面白いのかもね



「リュカさんお久しぶり。実は失踪している間に死んでしまって」
 章は探偵姿の仮装をしていた。血の付いた虫メガネを持って、そして徐に露店を巡っていたリュカに声をかけると、リュカは「何言ってんだこの人」みたいな顔をしていた。
「今ここにいる僕は幽霊だったりする。どうかな。幽霊っぽいだろう?」
「……えーっと」
 リュカも丁度、学生風の仮装をしていたので、そこだけ世界観が違うように見える……もっとも、二人ともこの世界の人間にとっては「奇妙な仮装」には違いないのだろうけれど……。その学生服のままリュカは銃を取り出した。
「とりあえず撃てるかどうか試していい?」
「いや……幽霊は探偵の仮装できないか。うんできないはずだ。痛い痛い。撃たないで」
「いやまだ撃ってないけど」
 ひとしきり痛そうなそぶりを見せる章に、リュカは銃を下ろす。
「まあ、お兄さんが生きてようが死んでようが俺と遊べて俺に害意がなけりゃどっちでもいいよ」
「本当にリュカさんは変わらないね」
「うん、お兄さんもね」
 随分と久しぶりだったはずだけれども、やっていることはあんまり昔と変わらないのでちょっと悲しいような、そうでもないような、どうでもいいような、そんな気がする。章は仕方なく服の埃を払いながら、
「ああこれ、気になる?」
「いや……」
「辺りの怪しい店で買った服なんだ。この血のついた虫眼鏡と紅い花もセットで貰ったよ。……何か一刻も速く手放したいという空気で店主さんが焦っていたからね。人助けだと思って」
「……まあ、お兄さんのことだから、そういう感じのいわれだと思ってた」
「えっ。そうなんだ」
「だって……興味ないでしょう? いろいろと」
 何となく立ち止まっているのもあれなので、歩きながら喋る。何の気なしのリュカの言葉に、そうだね。と章も頷く。
「リュカさんも割と倫理感とか、その辺のところどうでもいいよね」
 普通章の話を聞けば、それはやめた方がいいとか、変な事件に巻き込まれるとか、そういうことを言うと思うんだけど。章はそういう常識は全く興味がないし、リュカも全く頓着しない。だからこそこういう話をできるのだな、と章は歩きながら思う。
 ……この街と一緒だ。適度に距離感があって、適度に興味がない。章もそういうのは、嫌ではない。
「倫理感とか、常識とか、そういうのは、人間同士の街や群れの中で成立していくものだからね。俺は群れも街もないから、特になあ……でもお兄さんもそうでしょう?」
「うーん。人を一匹オオカミみたいに言わないで欲しいな」
 こんなに世間に順応して生きてるのに、と章は大仰に息をつく。何言ってるんだか、みたいな目をリュカはしていた。本日二度目だ。
「……これも呪いのアイテムだったりするんだろうか、僕は信じていないけれど」
 別に冷たい目で見られることに何の心の傷も追わなかったけれども、なんとなく章は話を逸らす。
「んー……例えば?」
 リュカもそれにこたえる。
「持ち主が次々死に至るって怪談。よくあるでしょう。他の変な効果があっても面白いけれど」
「……その変な効果は、自分で考えるものじゃないの、作家さん」
「ええ……。そう言わずにリュカさんも何か考えようよ」
「朝起きたら毛という毛先が球になってる魔法でもかかってると思うよ」
「やめてよ、こんなに綺麗なさらさらヘアーなのに」
 そもそもこんな格好で寝ないよ、とクソ真面目な顔をして言う章に、リュカはちょっと笑う。歩きながらする話は、程よく殺伐としているが非常にどうでもよくて、とても宜しい。
「……もしかしたら、店主さんも人殺しだったりして。さっきの店の」
「まあ、ありえなくもないかもね。A&Wの田舎なら、普通にあるよ」
「今回の依頼の女の子みたいな? ……そういえば、あの女の子は「育てられた」って言ってたけれど、育てた人って誰なんだろうね」
「A&Wならよくある話の一つだよ」
「えー……」
 そんなにこの世界殺伐としてたかなあ。と章は言うと、お兄さんほどじゃないよ、なんて返事が来る。
「……遺憾だ。僕はいたいげなただの一般人なのに」
「今日は探偵でしょ」
「そうだった」
 ……じゃあ、探偵らしいことでもいおうかな、なんて章は一度咳払いをして、
「リュカさんも行ってみる?」
 普通にあそこにあるかもしれないし、早々に店じまいしているかもしれない。
 そう言って、笑った。
「そうだね……」
 リュカはほんの少し、考え込む。その様子に、章も楽しげに頷いた。
「それとも箱の中の猫は……生死不明のままが面白いのかもね」
 どちらでも、きっといいのだ。
 ただ、探偵は……誰かの選択の結果を読むだけだから。
 そんな楽し気な章の顔に、リュカは肩を竦めて返事をした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

きっと人殺しじゃ無い楽しい夢を見ているよ
そうなるかわからない
でももう人殺しはしなくても良い世界
悲しげな彼女を一撫でした後と微笑んで
あの子の分まで今を楽しもうとお互いに衣装を
ルーシーちゃんが不思議のアリスなら僕は帽子屋に
ふふっ、可愛いアリスちゃんですね
では可愛いレディご一緒にと
お手をどうぞと手を差し出して

花が光?不思議ですね
彼女が選んだ花
その花言葉に嬉しく
僕も一緒にいますと、微笑んでします
僕はハーデンベルギアを
白や紫が綺麗な花
『アナタに逢えてよかった』の言葉
僕は君に逢えて良かった
今があるのは今の僕が僕で居られるのは
ルーシーちゃんのおかげだから

そのまま手を繋ぎ、沢山のお店を
嘘ばかり偽物ばかりの魔法具
ふむふむ、どれも気になるものばかりだ
偽物は偽物で面白い、世界で一つのモノ
ハーブ美味しそうですね
後で一緒に飲みましょうか
ルーシーちゃんはおや
ではこちらにしましょうか(ヘンテコなモノで娘を喜ばせるもの)

それを見せ合い笑い合う
『アナタに逢えて良かった』『いつでもアナタと一緒に』
これからも君の傍に


ルーシー・ブルーベル
【月光】

うん。……そう、よね
残り香のようにどこか悲しい気持ちが残っているけれど
励ましてくれるゆぇパパに微笑んで
不思議の国のアリスの仮装に着替えて気持ちも切り替えましょう
ゆぇパパと合流しましょう、きっと待ってるわ
お待たせ、パパ!
まあ!とってもステキな帽子屋さん
エスコート、お願いするね?ふふー

まずはお花の灯りを選びましょうか
ルーシーはね、――アングレカム
これにしようと思うの
花言葉は「いつまでもあなたと一緒」よ
今のルーシーの気持ちにぴったりだと思ったから
パパのお花はハーデンベルギア?
キレイな色のお花ね
……わあ
パパが選んだ花言葉に胸があつくなる
心に灯りが点るよう
わたしもよ
パパに逢えてよかった

手をつないで大通りをゆく
気になるお店がいっぱい
ハーブ!良い夢が見れてグッスリ!ですって
後で頂いてみましょう
これはどう使うのかな(へんてこでお任せ)
パパも……う?それはなあに?
真偽は気にせず心惹かれるままに見ていく

気になるものを見せ合って、笑って
『アナタに逢えて良かった』『いつでもアナタと一緒に』
この幸せは本物



 光が、流れていく。
 楽しそうに。……幸せそうに。まるでそれが、世界の全てだとでもいうように。
「……きっと人殺しじゃ無い楽しい夢を見ているよ」
 路地裏を曲がった瞬間に包まれた世界は、ルーシーの胸をついた。暗がりから、光の世界へ。一歩が踏み出せなくなって凍り付いたルーシーに、ユェーが優しくそう、語り掛けた。
「そう……かしら」
 ほんの少し、戸惑ったように。……けれども、希望を持ちたいと縋るように見上げてくるルーシーに、ユェーはその頭をそっと撫でる。
「そうだよ」
 根拠なんてない。けれども、ユェーはそう断言した。
 ……本当のことなんてわからない。人殺ししか知らない人間は、楽しい夢を見られるかなんてユェーには保証できない。……けれども、
 そうであった方が、いいと思った。どんな人間だって、楽しい夢は見ることができるし、見ていいはずだとユェーは信じることにしたのだ。
「うん。……そう、よね」
 そんなユェーの気持ちを察したのか、それともユェーの力強い言葉に納得したのかはわからない。
ルーシーはほんの少し、悲しげに微笑んで小さく頷いた。
「そう。だから、あの子の分まで今を楽しもう」
「楽しむ……、じゃあ……ね、仮装しましょう、仮装。向こうに、衣装屋さんがあったはずよ!」
「衣装かい? ルーシーちゃんの衣装なら、私がちゃんと用意したのに」
 用意が必要かと聞いた時、ルーシーはなぜかうっきうきで必要ないと言っていたのを思い出す。こういうつもりだったのだろうか。
「まっ。ゆぇパパったら。でもゆぇパパに任せたら、ゆぇパパの分の衣装をおざなりにしちゃうでしょう? 折角だから、二人でひとつの衣装にしたいの!」
 明るく言って、ルーシーはユェーの腕に手を回す。ぐいぐい引っ張って仮装衣装のたくさん置いてある店に急ぐ。そんなルーシーの言葉に、ユェーは瞬きをした。
「私もかい?」
「そうよ。ユェぱぱはどんな仮装をしたい?」
「ルーシーちゃんがお姫様になると嬉しいかな」
「ゆぇパパは?」
「護衛の黒雛さん着ぐるみで」
「ま! またそういうことを言う」
 ちょっとお嬢様っぽく腰に手を宛てて、めっ。と人差し指を立てるルーシーにユェーは苦笑する。そう言われるだろうとは思ったけれども、それでもユェーの本心だったからだ。
「じゃあ、こちらは如何ですか? お姫様」
 冗談めかして目についた衣装の中、一番かわいいのを手に取るユェー。
「……ゆぇパパは?」
 嫌いじゃない、けど。探るように向けられた目に、ユェーは頷く。
「大丈夫。私はこれで……」
「! なるほどなのね! じゃあ、着替えてまた……!」
 試着してそのまま購入後街を歩けるらしいから、二人してそうして試着室に引っ込んだ。
 その後……。
「お待たせ、パパ!」
 充分急いだつもりだったけど、ルーシー準備完了して外に出れば、既にユェーの支度は終わっていた。ルーシーは水色のフリフリ&エプロンドレス。靴は歩きやすいようにヒールはないけれども、黒いリボンで飾られたとってもかわいくて素敵な逸品だ。……が。それよりも。
「まあ! とってもステキな帽子屋さん」
 それよりも。ルーシーは自分の衣装よりもユェーの衣装に目を輝かせる。黒の帽子屋衣装は胸元にリボンがあしらわれている。ルーシーの靴のリボンと似ていておそろい感がよく出ていた。そこに大きめのシルクハット。飛びつきたいのを、ぐっ、とルーシーは我慢する。
「ふふっ、可愛いアリスちゃんですね」
 するとそう、ユェーは笑って「お手をどうぞ」と白手袋に包まれた、己の手を差し出した。飛びつかなくてよかった。ルーシーはとびきりお嬢様な顔で、その手に己の手を重ねる。
「……エスコート、お願いするね?」
 なんて、おすまし顔で言ってから、
「ふふー」
 なんとも締まりのない声を思わず漏らしたので、楽しげにユェーは笑うのであった。

「まずはお花の灯りを選びましょうか」
「お花……ですか?」
「そうよ? ほら、ああいう風に光るの」
「花が光? 不思議ですね」
 そうして夜の街に飛び出せば、さっそくルーシーは露店で飾られた沢山の花に目をやる。ユェーも興味深げに覗き込む。
「ルーシーはね、――アングレカム。これにしようと思うの。……よかった。あったわ」
 特徴的な花を探す。あるかどうか、少し心配したけどちゃんとあった。ルーシーはほっと息を吐いた。……どうしても、今の気持ちにぴったりな花言葉を持っていたから、この花を持ちたかったのだ。ランの一種であるその花は、特徴的な葉っぱの間からふんわりと花が出ていてそれもまたかわいいし、上半分は尖っているのに下半分は丸みを帯びていてその形もかわいい(品種によっては下半分も尖っているものがあるらしいが、ルーシーのは丸いタイプだった)。そしてシミひとつない純白の光が明滅している姿は神秘的であった。
「花言葉は「いつまでもあなたと一緒」よ。……ねえ、どうかしら?」
 そっと、光る花を両手で握りしめながら呟くルーシーに、ユェーは瞬きをする。なんと……応えれば、いいのか。
「……僕も一緒にいます、よ」
 一呼吸遅れて、じわじわと喜びが広がっていく。胸にしみる温かさを忘れないように、ユェーは店先に並ぶ花を見つめる。彼女への返事のように、選んだのはハーデンベルギアであった。白い花と紫の花が絡み合った一本の意味は……、
「『アナタに逢えてよかった』……。僕は君に逢えて良かった。今があるのは今の僕が僕で居られるのは、ルーシーちゃんのおかげだから」
 歩くたびに、やわらかな花々が揺れるだろう。その光はとても頼りなげだけれども、確かにそこに、美しい色として存在している。そんな、不思議な存在感があった。
「パパ……」
 わあ。と。ルーシーは思わず言葉を詰まらせる。
「……キレイな色のお花ね」
 花を抱いたまま、ぎゅっとルーシーは両手を胸の上に置いた。言葉に、ならない。長い沈黙ののちにルーシーはそっと、囁くようにそう答えた。
「わたしもよ。……パパに逢えてよかった」
 繋いだ手から、ぬくもりが伝わってくる。偽物だらけの町でも、この思いも、この暖かさも、きっと本物だろう……。

 そうして二人、手を繋いで街を行く。
「ほら、パパ! 入浴剤のお店ですって」
「いいねえ。……おや」
「きゃっ。急に立ち止まらないで頂戴な」
「ごめんごめ……ふむふむ、どれも気になるものばかりだ……。これは……妖精花を捕まえる瓶……? そもそも妖精花とは……?」
「もう、ゆぇパパったら」
偽物は偽物で面白い、世界で一つのモノだから。ついついユェーは真剣に見てしまう。ルーシーだってそんなことを言いながら、あちこち目移り中であった。
 数歩歩いては足を止め。数歩歩いては足を止め。
「ハーブ! 良い夢が見れてグッスリ! ですって。後で頂いてみましょう」
「美味しそうですね。後で一緒に飲みましょうか」
「そうね。これをゆぇパパに飲んでもらって、ルーシーはゆぇパパが寝ている間にお手伝いするの」
「うーん。それは一緒にお昼ぐらいまでお寝坊しませんか?」
 これを着て。と、言いかけてユェーは首を傾げた。なんでこんなものが快眠ハーブの隣に置いているのであろう、という顔であった。何かというと、黒猫着ぐるみパジャマ。何の植物由来かというと、よくわからないモノの匂いに包まれるのだという。それが何かと聞いてみたら、樹木の名前のようであった。二人は全く聞き覚えがない樹木の名前だが、さて、それでどうなるかというと……。
「……う? これはなあに?」
 木の名前は聞いたことがないから、効果が見当もつかない。ルーシーがのぞき込むと、店番をしていたお爺さんが一つ頷いた。
「それを着て寝たら、猫になれるパジャマだよ」
「猫に!?」
 猫になる夢じゃないんだ。とルーシーが呟けば、夢じゃないよ、とお爺さんは言った。
「親子分あるよ。ほれ」
 このサイズだとルーシー分だけだな、と思っていたらユェーが着られるサイズの白猫パジャマが出てきた。
「ください!」
 思わず意気込むルーシーに、ユェーは苦笑してお金を払う。
「ではこちらにしましょうか」
「ふっふー。二人でお猫さんになってお昼寝しましょ」
 効果は本物かなんて二の次だ。想像したらなんとも楽しいその未来。
「黒猫さんと黒雛さんは、どちらが大きいかしら」
「ルーシーちゃんが黒猫さんになったら、子供の黒猫さんになるかどうかですね」
「失礼しちゃうわ。とっても素敵なレディに……う?」
 楽しくおしゃべりしながらも、気になる者を右から左へ。ふとルーシーが気になって足を止めると、ユェーもそれを覗き込む。
「これはどう使うのかな?」
「それはね、木製パズルだよ」
 店員が親切に教えてくれる。ああ、とユェーは頷いた。たくさん広がる複雑なパーツを指さす。
「ほら、部品がたくさんあるでしょう? これを組み立てれば、一つのものが出来上がるんですね。何が出来上がるのかな?」
「そうそう。色を塗ったりする人もいるね。上手にできると、小さな箱になるよ」
 パーツ一つ一つとってみても、どれも精密で美しいものだとわかる。そして、切りたてなのか豊かな木の匂いが漂ってきていた。隣に完成図が添えられている。引き出しタイプの、アクセサリーボックスのような感じであった。表面は美しい花がたくさんほられているから、それぞれに色を付けても綺麗だし、そのままでも美しいだろう。
「その箱に一日ひとつ、お菓子を入れておくんだ。そうすると……」
「そうすると?」
 ドキドキ、とルーシーが身を乗り出す。
「翌日にはお菓子がなくなってるんだ」
「! それで、それでどうなりますの?」
「どうって……それだけだけど」
「えっ。お返しに別なものが入っていたりとか」
「そういうのはないなあ」
「お菓子を入れ忘れてたら何か悪いことが起きたりとか」
「そんなこと……あったら困るだろう? 毎日お菓子を入れるのって案外大変だし」
「そ、そうですね……」
 至極真っ当な返答をされ、思わずルーシーは言葉に詰まる。そのやり取りにユェーは笑いながら、これを包んでください、と声をかけた。
「きっと箱には妖精さんが住んでいるのでしょうね」
 なんだか釈然としない。そんな顔をするルーシーに、ユェーは笑いかけた。
「ゆぇパパもそう思う?」
「ええ。そして、目には見えなくとも私たちを守ってくれるのだと思いますよ」
「! そうよね。ルーシーは毎日お菓子を入れるわ……!」
 真面目な顔をして宣言するルーシーに、ユェーは笑ってうなずいて、代金を支払った……。
 そんな風に、真偽は気にせず心惹かれるままに。
 あれを駆って、これを冷かして。感想を述べたり、時には店先で何かを口にしたり。
 『アナタに逢えて良かった』『いつでもアナタと一緒に』……。
 歩くたびに二人の花はゆらゆら揺れて、
 それが幸せだなあ……なんて。口には出さずとも、二人は心からそう感じるのであった。

 祈りは他でもない、ここに。
 ともに胸の中で、輝き続ける……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年11月08日


挿絵イラスト