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🎃大祭祀ハロウィン襲来～Melissa

作者：夕狩こあら

●
　廃れて久しい古城の、すっきり細った尖塔の上の上。
　紫紺の空に浮かぶ満月はさやかに、主人を失って荒れた庭を煌々と照らしていた。
『……。…………。………………。』
　扨てこの庭に、檸檬に似た香りを広げるメリッサは生えていたろうか。
　庭師もとうに辞めてしまったので、答えられる者は居ない。
『……。…………。………………。』
　扨てこの庭に、ホワイトクローバーとレンゲが同時に咲く事はあったろうか。
　トチノキは、アカシナは、リンゴは。その隣のラベンダーは。
　季節も生息地も異なる草木が一斉に花を咲かせて匂い立つ、そんな事は。

　だが、目の前にあるものが事実。
　――だから。

『……。…………。…………みちゅ』
　競い合うように咲く蜜源植物の花の中に、可愛らしいウサギ型の結晶があったりとか。
　それが別の花を見ればカボチャとか星とか色んな形をしているとか。妙にデカかったりとか。
　なんかさっき喋ったような気がしたとか。

　そんな不思議は全て、すべて。
　庭中に漂う香りに誘われ、とろんと眠れば忘れてしまうのだった。

●
「ケルベロスディバイドの人々がハロウィンを警戒していたのは、この事だったのね」
　宇宙からの侵略者「デウスエクス」の脅威と戦う超人「ケルベロス」達の居る世界――。
　彼等が危惧していた通り、ハロウィンのお祭りによって極大まで高められる『季節の魔力』、即ち『ハロウィンの魔力』を狙って、十二剣神『大祭祀ハロウィン』が行動を開始した。
　かの巨邪は地球に『ハロウィンの楔』を打ち込み、あらゆる生命やグラビティ・チェインを「ハロウィン化」させようとしていると説明したニコリネ・ユーリカ（花屋・f02123）は、己と同じく「宣戦布告」を聽いたであろう者達と瞳を合わせた。
「……ハロウィン化とは、世界が『万物が存在する状態』へ変じてしまうこと。これに飲み込まれれば、生命の埒外にある猟兵でも危ういみたいなの」
　大祭祀ハロウィンが自身の主星『真理の部屋ハロウィン』と地球との融合を果たせば、生きとし生けるもの、そしてグラビティ・チェインが全てハロウィンと化す。……カオス。
「でも、この恐ろしい事態を耐え抜く手段がひとつだけ存在するの。――そう、仮装よ！」
　戦闘前の準備として仮装する事で、「あらゆる世界の概念が同時に存在する状況」を作り出す。
　ガチハロウィン、出身世界コーデ、お揃いコーデ、地味ハロウィン……アイデアとユーモアに溢れる仮装で戦場の「ハロウィン化」から身を守りつつ、ハロウィンの尖兵として送り込まれてきたデウスエクス軍団を蹴散らそうと提案したニコリネは、集まった猟兵に次々と籠や瓶を渡していく。
「私が案内する戦場には、あま～い蜜で獲物を誘う攻性植物が居るの。折角なら蜜は採取したらどうかなって」
　樣々な形態の蜜を出し、獲物を待ち構えるプランツネットたち。
　連中は近付いた者を其々の形態で――たとえば蔓を絡ませたり、枝を巻き付けたり、葉を振り回したりして攻撃してくるのだが、蜜そのものに害はない。寧ろ美味しくて益になる。
「とうろりした蜜を集めて料理に使ってもいいし、可愛らしい形状をしたものはそのまま使ってもいいわよね」
　きび砂糖と合わせて生地に練り込んでクッキーに。
　こうろりオレンジ色に輝く金柑の蜜漬けに。
　蜜を潜らせたまるごと林檎焼きは、できたて熱々にアイスを添えて。
　ハロウィンのお菓子作りに役立つかしら、なんて蜜を使った数々の料理を思い浮かべたニコリネは、垂涎に緩む花唇に小気味よい微笑を湛える。
「10月は収穫の季節でもあるけれど、狩猟の季節でもあってね、この月に見る満月はハンターズムーンって言うの」
　攻めてきたのは向こうだが、此方も狩ってやれば良いのだ。
　蜜を罠に捕えようとするなら、獲り返してやれば良いのだ。
　幸いにして都市には「決戦配備」が完備されているので、これを利用すれば戦いを優位に運べると、全ての説明を終えたニコリネはぱちんとウインクしてグリモアを召喚する。
「Trick or Treat！　お菓子に使う蜜を採って、更には大祭祀ハロウィンにもイタズラしちゃいましょ」
　これが十二剣神に対する良い宣戦布告になりますように、と。
　精鋭を送り出す彼女の瞳は子供のように輝いていた。

第1章 集団戦 『プランツネット』

POW   :    トキメキシロップ 【愛らしい形状に変えた蜜（固形） 】を飛ばし、命中した対象をめろめろにする。対象の傷を治してもよい。 SPD   :    スケープ・ハニー 【頑張って蓄えた蜜を置いていく事 】による素早い一撃を放つ。また、【蜜をいっぱい置いていく】等で身軽になれば、更に加速する。 WIZ   :    テンプテーション・フレーバー 攻撃が命中した対象に【上品な蜜の香り 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【蜜の香りに魅入られてしまう事】による追加攻撃を与え続ける。 イラスト：すずや 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　夜穹に浮かぶ月や煌々、降り注ぐ光の淸かなこと。
　その｜光明《あかるみ》に庭の蓬々が暴かれる中、磨滅した石甃をチラチラと滑る黯影があった。
「お月様も綺麗だし、ぴったりじゃない？」
　可愛らしく語尾を持ち上げる鈴音はソプラノ。
　佳聲の主はキトリ・フローエ（星導・f02354）。
　此たび纎翅にハロウィンの魔法をひとふり、はたはたと風に游ぶ蝙蝠の翼に變じた妖精は、星空纏うフェアリードレスにも黑翼の意匠を凝らして、“Princesse Chauve Souris”――蝙蝠姫の月夜行と云った処。
　而して白磁の纎手に抱えるは、小さな彼女にはちょっぴり大きめの硝子瓶。
「もちろん十二剣神とやらの野望も阻止するけれど、先ずは、ね」
　アイオライトの｜星眸《まなざし》に瞶るは、同じく月下に輪郭を切り出した草木花。
　今はおとなしくしている樣だが、地に根差す者達も、月へ枝葉を伸ばす者達も、其々に蜜を光らせている。
「星に、ハートに……これはユニコーン？　みんな可愛らしい姿をして、香りも本当に上品で美味しそう……！」
　この時、雪嶺の鼻梁をふうわと撫でる柑橘の馨に和らぐ。
　爽涼を広げた瞬間、ほんのり香る甘い香気に緊張を解きほぐされるような――。愛らしい蜜の形も相俟って見惚れてしまう処、眼路の脇より忍び寄る樹影に「勘」と「感」が冱えた。
「蜜を集めるためにも倒さなくっちゃ！」
『……。……みっちゅ』
「聞こえたわよね？　ベル」
　枝を腕代わりにして迫る緑邪の“抱擁”を、ヒラリ、黑翼の羽搏きに躱す。
　大きな小瓶を脇抱えに、片手でFleur belleを構えたキトリは、先刻にも話しかけていた花精靈に｜眄《めくばせ》ひとつ注ぐと、今こそチカラを見せる刻だと凛然を兆した。
「さぁ、あなたの花を見せてあげて！」
　伸びやかな佳聲と共に広がるは、【｜空色の花嵐《アズール・テンペスト》】――きらきらと煌く靑と白の彩花亂舞。
　花車を捕まえようとした枝を手折り、ザッと舞う葉を花片に切り裂いた花嵐は、半径131m圏内の蜜源攻性植物を裸にする勢いで渦巻く。
『……。…………。………みちゅ』
　すっかり剪定された緑邪らは幹をプルプル震わせ寒さを訴えるが、キトリは花顏を仄かに上気させ、幹にくっついた甘～い蜜にじりじり、じりじりと食指を伸ばす。
「……ちょっと味見してみてもいいかしら？」
『みっ』

　――果してお味の程は。
　其はたっぷり蜜を詰めた瓶に訊けば宜しかろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「特務機関DIVIDEに支援を要請。｜戰鬪配備《ポジション》はキャスターで、俺樣は――」
　通信機に寄せた花唇を滑る、若々しく瑞々しいアルト。
　明々と照り輝く月夜に黑影ひとつ、ピョコリと獸耳の輪郭を切り出したフィッダ・ヨクセム（停ノ幼獣・f18408）は、颯とパーカーの裾を翻して荒庭に降り立つや、フード下に隱れる幼顏に｜微咲《えみ》を差した。
「賑々しいのも騷がしいのも好きだが、こうも甘い匂いがすると、俺樣すげー釣られる」
　仮装を愉しむハロウィンのイベントは、割りとすき。
　蓋し寂しがりの幼獸は、何より甘いものがだぁいすき。
　化術で少年に變じた今は尚更か、敏い鼻をスンスン、胸いっぱいに蜜の香りを滿たしたフィッダは、舌嘗ずりせんばかり垂涎の表情でironyを取り出した。
「｜筆峰《ペン》は走らせるが、てめぇらは足止めだ」
『……。…………。…………みちゅ？』
「おとなしくしてろよ。灼えるぜ」
　玻璃と輝く靑い硝子筆。先端より滲むインクは赫々しき炎の魔力。
　まるで落書きするように闊達に踊り出したペンは、その軌跡に【｜sura《スーラッダ》】――広げた掌手に“STOP”と描いた図像を書き上げ、ひっそり待ち構えていた攻性植物らの背後に回り込ませた。
『みっ……』
　地に根差した緑邪も、天に枝葉を伸ばす緑邪も、炎々と燿うものはだいきらい！
　忽ち蜜を置き去りに、大慌てで左右に逃げ出せば、少年フィッダはニッと佳唇の端を持ち上げる。
「いいやそれで良いね！　俺樣を罠に嵌めたつもりだろうが、残念、嵌められたのは、てめェらだ！」
『……。……っ……みっちゅ！』
　ビクッと幹を震わせた緑邪が、とてもいいえがおで駆け出すフィッダから逃げる、遁る！
　而してフィッダも負けじと追う傍ら、硝子筆を走らせて「空の瓶」を描き、連中の｜置き土産《スケープ・ハニー》を手際良く回収していく。
「おおッと、そッちは行き止まりだぜ」
『……みっ……。……みっちゅ……っ』
「そんで、置いてく蜜も無くなッたと」
　今や荒庭は支援によって魔法陣に囲繞されている。宛ら檻のように。
　更に炎の軌跡を巧みに操作して緑邪を一箇所に集めたフィッダは、目下、何かを悟って葉を震わせる連中に小気味佳く咲んだ。
「鬼ごっこは俺樣も得意でよォ！」
『……っ。……みっ……っ！』
　云うや赫灼の炎が月夜に躍り、一切の緑を焼き尽くす。
　後に残るは、煌々と飴色に輝く蜜ばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「DIVIDEからケルベロスへ。ジャマーポジションを要請します！」
　妨害支援としてガスを散布し、敵の視認性を弱めて欲しい――と。
　凛乎と澄む大瑠璃の佳聲は、然しガスが充滿するより先、綺羅と光る蜜を捉えると、ほやん、と可憐に緩んだ。
「わ、わっ……つぶらな瞳をしたウサギ型の……！　敵の罠が可愛いよ～！」
　こんなに可愛いと嬉しい！　だけど困っちゃうなぁ、なんて。
　柳葉の眉をきゅっと寄せるはレラ・フロート（守護者見習い・f40937）。
　さやかな月夜に羽衣をふわふわ、星渡る天女の麗姿で荒庭に降り立った彼女は、靉靆たる濃霧に瀲灔と袖を搖らしつつ、きら、きら、と光彈く蜜を目印に緑邪の駆逐を目指す。
　一方のプランツネット達は、視界不良の中でシロップをぽこぽこ、手当たり次第に放射するのだが、あらぬ方向にウサギがぴょこぴょこ飛ぶ樣にほっこり。靑彩の瞳がゆるゆると眼眦を緩める。
『……。…………。…………みちゅ』
「全然違う方向に飛んで……っ、でもそれが愛おしいというか……！」
『…………みっちゅ』
「やっぱり可愛い〜！　もうメロメロになっちゃいそうだけど、我慢、がまん！」
　だって、遂に十二剣神が動いたのだ。
　この世界の人々が警戒していた脅威が、堂々と宣戰布告して現れたのだ。
　自ら悪を名乗り、「正義の味方として止めに來い！」と豪語した巨邪に武者震いしたレラは、｜頭《かぶり》をふるふる、艶髪に添えた花ごと搖らして慈悲の心を振り払うと、内より溢れる光に白皙を輝かせた。
「可愛いからって手加減はしないよっ！　囲まれたら大変だしね」
　五感を鋭く敵味方の位置を探りつつ、時を繼ぐように仕掛ける――。
　確実に数を減らしていこうと鬪志を兆した少女は、刹那、烱々と玉瞳を研ぎ澄した。
「勇気とガッツを心に！　貫け｜雷穿《ライセン》、みんなのハロウィンを守り抜けぇーっ！」
　姉より授かった自慢の劔を橫薙ぎに一閃し、玲瓏なる光刃を放射状に放つ――！
　レラの眞直ぐな想いに呼應して輝きを増した霹靂の刃は、濃霧に飛び込むや緑邪に的を結び、その幹や枝葉を斬ッと兩斷して石甃に轉がした。
『……っ…………みっちゅ…………！』
「折角のハロウィンだもの。季節のお祭りは樂しく終わらせないとね」
　ザッと散って広がる葉と共に、主を失った蜜が煌々と欠片を踊らせる。
　其を掌に迎えたレラは、星砂のような蜜の結晶に柔かく微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　其はまるで葡萄の樣な――煌々と黄金色を彈く蜜の房へ、ダガーの切先を忍ばせる。
　その途端、短劔を握った者ごと捕えんと枝葉が押し寄せるが、月下にあって猶も姿を暴かぬ黑影が、摩滅した石甃をするりと滑った。
「美味しい蜜が獲れると聞いてきたけど、この上質な馨り……期待できそうだねぇ」
『……。…………みちゅ？』
「アルダワの蜜ぷにの蜜も在庫減ってきた処だし、代わりに貰っていくよ」
　どっと雪崩込む葉音を躱し、柔かなテノール・バリトンが飄と擦り抜ける。
　佳聲の主たるフロース・ウェスペルティリオ（｜花蝙蝠《バットフラワー》・f00244）は、僅かな一瞬に掠めた鈴生りの蜜に流眄ひとつ注ぐと、次いで幹ごと迫る緑邪の突進を、これも軽やかな身の科しで後方へ送り流した。
「ふふ、積極的なのは歡迎だよ。その勢いを利用して、切る事に集中できるからねぇ」
『……っ……みっちゅ……！』
　すれ違い樣に鋭刃一閃、黑光一条を踊らせて今度は枝を剪定する。
　植物なら手っ取り早く焼却する事も考えたが、肝心の蜜がダメになっても困ると、片手に持った黄金の房に一瞥を呉れたフロースは、地道も苦では無し、逆手に握る刃物で次々と鬱蒼を刈っていく。
「――おっと、養分になるのは御免だよ」
『みっ』
「たっぷり蓄えた蜜を置いてお逃げ。後で刈ってあげるから」
　少し抱擁した程度では、液状化した彼を捕えることは出來まい。
　チクリと痛みを置いたのも一瞬、ぷるんっと水饅頭になって逃れたフロースは、また輪郭を取り戻してトゲトゲのチクチクに、所々に荊棘を纏って緑邪の接近に応酬した。
「黑いダガーもトゲっぽくないかな？　――まぁ、服なしの方がより｜らしく《・・・》なりそうだけどねぇ」
　あ、そうそう。此度の仮装は「ウニ」。ウニだよ。
　仮装を愉しむハロウィンでなければ、リアルガチな「トゲまんじゅう」となって猛威を奮ったろうから、或る意味、連中は蜜に助けられたのだ。
　實はまだまだ迅くなれるのだけど――と、葉音のざわめきに吃々と竊笑を零した麗人は、漸う月下に影を暴いた黑刃を素早く閃かせる。
「それでも普段の服より布は少なめだから、動きやすいねー」
『……っ……みっ…………みっちゅ！』
「ふふ、狩猟月とは云ったものだねぇ」
　掌中でダガーは順手に逆手に、くるくると刃を踊らせて幹を突き、枝葉を刈って、蜜を掠める。
　その収穫量は、月光も翳る煌きを見れば瞭然であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「現地から特務機関DIVIDEへ。｜決戰配備《ポジション》ディフェンダーの発動を要請します」
　決戰都市に隔壁を展開し、防禦力の増強を頼む佳聲ひとつ。
　攻性植物の繁茂をこれ以上広げてはいけないと、荒庭に滿つ緑影を見た神白・みつき（幽寂・f34870）は、その処々に煌く蜜の形に喫驚を零した。
「随分と可愛らしい形をして……これが罠なんですね……？」
　大きな魔女の三角帽子、鍔広のブリムをそと持ち上げて見れば、鬱蒼と茂った葉の間にオバケかぼちゃやリボン型をした蜜の結晶が輝いている。
「今の私とお揃いで親近感が湧きますが……“同じ”になってはいけません」
『……。…………。…………みっちゅ』
「養分になる前に迎え撃ちましょう」
　可愛い蜜にはならぬと、和風ドレスを纏う魔女が取り出したのは、魔法の杖ならぬ神剣型神器。
　神剣『天叢雲剣』の刀尖を高く掲げるや靑き霹靂を喚んだみつきは、美し白皙を白ませたのも一瞬、幾条の稲光に天地を結んで檻を成した。
「――神降ろしの一端を、今こそ」
　目下の祕技こそ【依代・剣】――天叢雲剣を無限複製し、その一振り毎に雷雲を召喚した佳人は、忽ち緑邪を閃雷に裂き、斬撃に切り落としては枝葉を剪定していく。
『……っ。…………みっ…………』
　而して一瞬で丸裸となったプランツネットは恐怖と寒さに震え上がり、獲物を誘き寄せる爲の蜜を置くや脱兎の如く逃げ出した。
『……みっちゅ！』
「あら、蜜が……。……身軽になる爲とはいえ、ここまで蓄えるのにも時間を要したでしょうに」
　漆黑のロンググローブを嵌めた掌に乗せれば、蜜の形や輝きがよりハッキリと見えよう。
　ポップなキャンディ型に、ゆるふわのクマ型、ハロウィンらしい魔女型をした蜜もあり、成程これは魅了されると微笑が零れる。
「折角ですし、有難く拾わせていただきましょう。紅茶に混ぜても美味しそうです」
　きっと良い馨りを広げるくれると、雪嶺の鼻梁を掠める香気に期待が膨らむ。
　掌に乗せた結晶をそっと硝子瓶に入れたみつきは、コツン、コツンと空洞を叩く可憐な音に耳を済ませて云った。
「……草花はいずれ枯れ果てるもの。ですが、こうした惠みを残してくれるものとは、いつか共生できるようになりたいものですね」
　眞の平和が訪れた刻には、ハロウィンも心から愉しめるだろう、と――。
　小瓶に収まった黄金色の輝きを見る瞳は、その光を映して櫻色を際立たせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ごきげんよう、DIVIDE。｜決戰配備《ポジション》はキャスターを、そして採取物を回収・運搬する手配をお願い致しますわ」
　その一言で荒庭の外縁に集められたのは、なんと、巨大なコンテナ！　ででん！
　これも蜜源攻性植物の多樣性に魅入られた研究者の性か、四之森・曼珠（未来形魔女・f38525）は古城の頽廃的な雰囲気に合わせてドレスはゴシックホラーなブラックのナロールックに、更に吸血鬼然とした外套を合わせ、ばっちりハロウィンをキメて來る。｜本気《ガチ》だ。
　月光の下、玲瓏なる白皙を妖しく照らして石甃を進んだ曼珠は、眼路に翳指す緑影――荒庭いっぱいに蔓延るプランツネットに陶然と咲んだ。
「あらあら、こんなに果実や植物を繁らせて。研究者冥利に尽きますこと♪」
『……。…………。…………みちゅ』
「是非是非回収して研究を……♪　と、その前にきっちり無力化致しませんとね」
　和々と微笑みながら緑邪に近付いた曼珠が、月光に輪郭を際立たせた黑影を搖らし、ズズズ……と何かを蠢かせる。
　其が超危険物質だとは、獲物を捕えんと伸びた枝葉が忽ち溶かされた｜爾後《あと》に知れよう。
「皆樣、花や実以外の部位は溶かしてしまって結構です♪」
『……っ………みっちゅ…………！』
「さぁ、貴重な研究素材を採取して參りましょう」
　罠猟を仕掛けた連中に襲いかかるは【魔法生物召喚：｜溶解力可変式粘泥群《メルティング・ジェル》】――総勢119体のスライム！
　これを合体させて9〜10体の巨大スライムにした曼珠は、樹木をまるっと飲み込ませ、研究のメインとなる花や実を効率的に回収していく。
「まぁ、身ぐるみ置いて逃げると……？　ふふ、蜜は戴くとして、直ぐに追って差し上げますわ」
『……みっ……ちゅ……』
「ご安心を。コンテナには沢山入りますから♪」
『……！　……！』
　而して自身も好奇心旺盛に、己の肉体から魔法植物EverGreenを延伸させて鞭撃閃々、靭やかに撓る蔓に果実や花を切断し、また茎や葉も合わせて採取する。
「これだけの量……如何なデータが取れるか樂しみです♪」
　こと研究の爲となると、曼珠は突き走る傾向がある。
　緑邪にとっては今が其であろうか――月下に煌めく佳人の麗姿は、吸血鬼より恐ろしかったに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　さやかな月光に照り出される荒庭、処々に摩滅した石甃を滑る黑影ひとつ、ふたつ。
　先行する影は足取りも輕やかに、りん、りんと、首輪に添えた小鈴を搖らしながら、朽ち果てた煉瓦壁に大きな三角耳のシルエットを暴いていた。
「わーい♪　今年もハロウィンの季節がやってきたわ♪　わーいっ♪」
　りん、と可憐な鈴音を連れて振り返る神坂・露（親友まっしぐら仔犬娘・f19223）。
　黑毛の艶やかな狼の仮装をした佳人は、もふもふ尻尾を元気いっぱいに振ってぶんぶん！
　彈むように踊るように石甃を歩きながら、後に続く麗人に｜莞爾《にっこり》と咲みかけた。
「すこし怖くて、それ以上に樂しくて！　こう、胸がドキドキ、ワクワクしない？」
「――ご機嫌だな」
「もっちろん！　今年もレーちゃんと過ごせるんだもの、嬉しいわ♪」
「……悪戯はして呉れるなよ」
　ふっと仄かに咲むはシビラ・レーヴェンス（ちんちくりんダンピール・f14377）。
　極限まで高まった季節の魔力を堪能せんと黑狼に扮した露に対し、シビラは普段通りの漆黑に身を包み、素で廃城の頽廃的な雰囲気に馴染んでいる。素で。
　既に十分｜らしく《・・・》はあるが、少々物足りぬ樣子の露は改めて彼女に訊ねた。
「レーちゃんも仮装すれば良かったのに。何でも似合うんだもの」
「遠慮しておこう。妙な格好をして戰うのは性に合わない」
「むぅ……。ハロウィン衣装も可愛いのに、いぢわるさん」
　蓋し多少むくれた処で折れてくれる相手でも無し。
　愉しさで微かに上気した頬をぷっくり膨らませた露は、距離を取って（敵味方双方の）警戒を十分に、金彩の瞳を烱々と周囲に巡らすシビラをジトと見た。
　目下、シビラは攻性植物が仕掛けた「罠」――月下に煌々と光を彈く蜜を遠巻きに觀察しており、その香種や形状の多樣性に関心を持った樣子。
「――蜜か。樣々な用途に使える材料だ」
「香りも上質だし、慥かに何でも使えそう」
「ミルクや紅茶に入れると程よい甘みが添えられて心地いいし、料理の調味料にしても良い感じに仕上がるな」
「薬にもなるっていう位だもの、それだけ良いものとなれば……罠にも使えるわよね」
　自ずとシビラの烱瞳を追った露も佳聲を小さく、葉蔭に隱れる邪気を探す。
　カボチャ型やオバケ型、可愛らしいキャンディー型をした蜜の其々が、｜次なる養分《・・・・・》を求めていると思えば少し寒気がするが、そんな時に耳を掠めるシビラの科白は、皮肉が利いていて小気味良い。
「……十二剣神に用いるのは幾分勿体ない気がする……｜否《いや》、勿体無いな」
「ふふ、それじゃ沢山戴いていけばいいんじゃないかしら？」
　こっそりシビラに近付き、聲色を低く語尾を持ち上げる。
　同時にこっそり、こっくり頷く彼女の頭に黑猫のカチューシャをつけてみる。――うまくいった！
(「えへへ♪　やっぱり可愛いわ。黑猫のレーちゃん」)
　月の海のように美しく流れる銀髪から、ピョコリと覗く柔らかな猫耳。
　元の彼女の装束にも合っているし、透き通るような肌膚を際立たせる黑が凛とした気品を感じさせる、と――露が滿足げに「黑猫姫」を愛でているとは知るまいか。シビラは祕めた魔力を励起して云った。
「罠猟を仕掛けているのは植物。ならば一体一体を冷凍して倒すか」
「え？　冷凍……あ。そっか。植物って寒さに弱いんだっけ」
「但し周囲の植物に影響を与えないよう、蜜を貯めている攻性植物だけをなんとかする」
「レーちゃん凄いわ。直ぐに思いついちゃうんだもの」
　而して長い睫をぱちぱち瞬く露とて、彼女に合わせる用意は出來ている。
　緋刃の短劔『グランドリオン』を抜くやリバース・グリップに握り込んだ露は、シビラの玲瓏なる三日月の如き橫顏が向く方へ、雪嶺の鼻梁を結んだ。

†

『……。…………。…………みっちゅ』
　蜜の形も愛らしいが、それらを枝葉に抱いた子達も頗る可愛らしい。
　彼等も大地に根差した子と思うと、倒し辛い……實に倒し難いのだが、もしかそんな困ったように翠眉を寄せる露の爲にも、シビラは此の戰法を取ったのかもしれない。
　――それ程までに彼女の【｜冷視《アルゲオス・シレオ》】は精確だった。
「靜かに、閑かに――悲鳴は上げて呉れるな」
　煌々と彩を湛えた麗瞳が緑邪を映すや、小さくさざめいていた葉音が一瞬で靜まる。
　忽ちプランツネットは超低温の凍結状態に、まるで刻が止められたように身動きを奪われ、一切の音を鎖された。
「あら？　……馨りも収まったような……」
「低温になると空気の対流も小さくなる。魅了される危険性も減るだろう」
「！　レーちゃんってば、すご……！」
　流石、黑猫姫！　と黑狼は瞳をキラキラ輝かせる一方、背後からじりじりと迫った個体へ赫刃一閃！
　格好良くて可愛い戰友を傷付けさせはしないと、チクリ、切先を突き立てて麻痺させた。
「斬るなんて餘り意地悪はしたくないから。ちょこっとだけ！」
『みっ』
　緑邪は寒いのも痛いのも勘弁にて、すぐさま蜜を置いて逃げ去ろう。
　我先にと黑い三角耳を持つ者達から逃げたプランツネット達は、然しシビラの冷視に背襲され、結局は「御用」に――忘れ形見として沢山の蜜を残していった。

†

「畢竟、狩る者は狩られる覺悟を持ってかからなければならない、という訳だ」
「……ちょっとオイタが過ぎちゃっただけよね？」
「大祭祀ハロウィンにも云ってやるべきだな」
　軈て『みっ』も『ちゅ』も聽こえなくなり、荒庭に元の靜默が訪れた頃――。
　小さな黑猫と黑狼の前には、その麗姿を照り上がらせる程の蜜が集まっていた。
「あの子達を凍結させて倒してはみたものの、この蜜はどーなっちゃうのかしら……？」
「冷えて冷たくなっているだけだろうな。所々結晶化しているが、成分に影響は無い」
　燃えるよりうんと良かったろうとは、沈毅を崩さぬシビラの言。
　大量の敵を相手した影響で暫くは肌寒いが、常温に戻れば何とも無いと言えば、戰鬪中も心底懸念していた露が、安心したように息を零した。
「え？　結晶化するだけで成分は変わらないの？　へーへー」
「……云って、もう舐めているのか」
「ふふ、良かったぁ……このとっても美味しい蜜はそのままなのね♪」
　会話中に伸びた人差し指は、ハート型に固まった蜜を摘んで花唇へ。
　温かい舌の上に乗れば、直ぐに溶けて甘味を広げたのだろう、露の佳顏はみるみる紅潮して蜜の品質を証する。
　然ればシビラも誘られて一口、ちょうど目に留まった星型の蜜を舌に轉がすと、ふんわり鼻腔を抜ける上質の馨に瞠目した。
「……ん。旨いな。これは」
「本当。優しい香りと甘みが広がって……お上品！」
　ね♪　ね♪　と相槌を打つ露は味見をもうひとつ。
　その繊指に大いに同意を示したシビラは、転送時に受け取った空の小瓶を取り出すと、可愛らしい形をした蜜の前で身を屈める。
「ふむ。持ち帰る分の蜜を分けておこうか」
「わーい♪　お土産にしましょ♪　しましょ♪」
　聽いて嬉しそうに花顏を綻ばせる露には、もうひとつお揃いの小瓶が手渡され、それが更に彼女を喜ばせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第2章 ボス戦 『十二剣神『大祭祀ハロウィン』』

POW   :    そして世界はハロウィンと化す 【ハロウィン化した世界】を見せた対象全員に「【オマエのハロウィンを見せてみろ！】」と命令する。見せている間、命令を破った対象は【ハロウィンによる肉体変化に抗う力】が半減する。 SPD   :    トリック・オア・ハロウィン 【食べた者をハロウィン化する毒菓子】を給仕している間、戦場にいる食べた者をハロウィン化する毒菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。 WIZ   :    真理を識る大祭祀ハロウィンの視線 視界内の対象1体の精神を【真実の部屋ハロウィン】に追放する。精神が帰還するまで、対象の肉体は動けないが無敵になる。 イラスト：key-chang 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

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『ヒャ〜ッハッハッハァァァァ!!　プランツネットの大行列だァァァァ!!』
　樣々な形をした蜜を抱く攻性植物の大行進、大繁茂、大騷動！
　とびきりの“蜜”で獲物を誘き寄せ、とびきりの“罠”で捕える――これぞ“Trick or Treat!!”
　今や荒庭中に広がった緑邪が、取り込んだ養分をエネルギーにみるみる根を張り巡らせ、間もなく地球に『ハロウィンの楔』を打ち込む筈だと、高笑いしながら石甃に降臨した『大祭祀ハロウィン』は、然し、予想外の｜靜寂《しずけさ》に驚いた。
『…………まだ潜んでいるのか？　プランツネットらよ』
　――可怪しい。
　かの緑邪らは罠猟を仕掛けながらも『みっ』とか『ちゅ』とか零してしまう可愛いトコロがあった筈だと、大祭祀ハロウィンはキョロキョロと｜周辺《あたり》を見渡すが、連中の気配は……無い。全然、無い。
『あるぇ～!?　もうイイ感じに生い茂ってる筈じゃ……こう、わっさわさと……』
　蓋し十二剣神が一柱は知らぬ。
　既に猟兵が全ての攻性植物を駆逐し、彼らの蜜を拝借した事で交戰時の負傷を癒していることを。
　また其々に仮装した猟兵らが、戰場の「ハロウィン化」から身を守ると同時、諸有る世界の概念が同時に存在する状況を作る事で対抗していることを。
『おーい、プランツネットよ!!　そろそろ万物がハロウィンと化すぞ～？』
　而して今宵は｜狩猟月《ハンターズムーン》。
　冱ゆる月光が煌々と照り上げる荒庭、返事をするものは、果たして――。


「｜決戰配備《ポジション》をキャスターへ。戰域に魔法陣を展開し、被害を禦いで下さい。……これより荒れます」
　忽ち吹き荒ぶ颶風で判然る。この殺気――遂に大将首が現れた。
　十二剣神『大祭祀ハロウィン』は、己が侵略を止めに來た猟兵と全力で戰う気概にて、その戰鬪は熾烈を極めよう。故に、より手厚い術式支援を要請せんと、通信機に寄せる聲が自ず怜悧を帯びる。
「蜜の採取……いえ、｜攻性植物《プランツネット》の掃討も終わりましたし、私も本來の御役目を果たしましょう」
　――“御役目を果たす”。
　畢竟、それ以外の生き方を知らぬと、三角帽子に翳した玉瞳に玲瓏の光を湛えた神白・みつき（幽寂・f34870）は、雪肌を裂くように掠める邪気の渦動に櫻唇を結んだ。
（「悪戯するにも加減が分かりませんし……私には『狩る』『狩られる』が向いています」）
　石甃に靴音ひとつ、踏み出しざま祕呪を唱う。
　天叢雲剣を水平に構えた佳人は、次の瞬間、自我を神劔に捧げて【顕現】――白光の靈気を帯びた“現人神”となり、神樂舞を踊るような輕やかさと嫋やかさで衝撃波を放った！
『んン～？　プランツネットは一体どこだぁぁああ嗚呼っ!?』
「緑邪は既に去り、示現せらるは｜神人《かみ》のみ」
『來たな猟兵ッ!!　百鬼夜行に招かざる者は追放だ!!』
　幾重に飛び込む烈風に脅かされた首魁が、痛撃に身を屈めつつ刮目する。
　かの睨視を浴びれば忽ち「真実の部屋ハロウィン」に精神を囚われるが、神劔に自我を預けた佳人に視線は當たらず――依代となった華奢は舞うように閃々、神罰の波動を叩きつける。
「こうなってしまっては私自身も細部の制禦は出來ません。どうぞ御覺悟のほどを」
『んぉぉおお雄雄をををっ!!　覺悟など｜疾《とう》に……宣戰布告した時にしている……!!』
　巨邪は緋の怪腕を振り回して衝撃波を斷ち、また躯ごと｜衝突《ぶつ》けんと突進するが、現人神と化した彼女は｜翩翻《ひらり》と身を飜しざま、神劔を一薙ぎして肉片を散らす。
「あなたも命懸けだと聞き及んでおります。ならば此方も相應の覺悟を以てお相手致しましょう」
『ぐッ、お!!』
「其が堂々と名乗り上げたあなたに對する誠意かと」
　純粋な力のみでは圧し切れぬ強敵。なれば――と。
　すれ違い様に見る佳人の橫顏の三日月の如き美しさと、流眄に注がれる眼光の淸かさと。
　正義の味方として正々堂々と挑む者の姿を見た剣神は、ぞくり、一際の痛撃を浴びて武者震いした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　六番目の猟兵の強さに觸れたのも一瞬。
　間隙無く飛び込む劔筋一条に緋の怪腕が彈かれる。
「プランツネットならもういませんよ！」
『むおっ!!　夜穹より舞い降りし天女……今度はケルベロスかッ!?』
　衝撃に巨躯を反らした『大祭祀ハロウィン』が、脇を過ぎ行く羽衣を追って振り返る。
　見れば羽衣は月光を浴びてふわり、白々と輝く薄布の向こうに天女の花顏を暴いた。
「――大祭祀さま。三十六の世界に詳しい貴方なら、猟兵と合流したケルベロスは強いとお分かりの筈」
　凛乎と告ぐ金絲雀の囀聲。佳聲の主はレラ・フロート（守護者見習い・f40937）。
　既にDIVIDEにクラッシャーの｜決戰配備《ポジション》を要請し、砲撃による攻撃力支援を得て攻勢を強めていた彼女は、繊手に握れる劔の輝きも烱々煌々、初撃に抉じ開けた脇に鋭鋩を結んで言を繼ぐ。
「いま取るべき道は、地球と殺し合うことではなく、手を取ることではないのですか」
『ヒャ〜ッハッハッハァ!!　まるで判ったように悪の侵略者を諭す!!』
「――元連合軍所属のダモクレスの私だからこそ、はっきり言えます！」
　判ったように、では無い。理解ったのだ。
　この胸にある「心」が、慥かな想いを光と輝かせているのだと確言したレラは、拇指球を踏み込むや驒ッと駆けざま【閃光烈波】ッ！　全身全靈の全力全開、最大まで力を高めた閃光のオーラを解き放った――！
「私の全てで押すよっ」
『來いッ!!　オマエのハロウィンを見せてみろ!!』
「地球で心を學んだ私のハロウィン……めいっぱい持っていけーっ！」

　全てを一つに取り込むのではなく、異なるものと分かり合う。
　今は力を示すしかないとしても、いつか、必ず戰いを止める。そして理解り合う。
　――これまでのすべてに「ありがとう」を言う爲に！

「これは光溢れる未來を拓く爲の一歩だよ！」
『ッ、眩いッッ……!!』
　少女の想いは｜宛《まる》で｜誓願《ちかい》。
　白魚の手に強く握り込めた『自慢の剣』は今や月光より冱々と澄み、漆黑に塗り込められた巨邪の貌を暴かんほど。
　弓張月の如き嗤笑を浮かべていた大祭祀も流石に凍り付いたか、ハッと息を呑んだ瞬間に怪翼が切り離された。
『ぐぅおお雄雄ををっ!!』
「大祭祀さまの言葉通り、正々堂々止めて見せます！　そして必ず勝ちます！」
　巨邪が叫ぶと同時、緋の翼片がザッと舞う。
　其を映す靑彩の瞳は、緋を躍らせて猶も輝きを増していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

『ッ｜可恠《おか》しい、｜奇怪《おか》しい!!　プランツネットが一体も居ない……!!』
　怪翼を斷たれた首魁が、巨躯を傾けながら烱眼を巡らす。
　然れば緑邪の大行列の代わり、黑い三角耳をした幼獸が石甃に靴音ひとつふたつ――。
　月下に現れた猟兵を見るや、『大祭祀ハロウィン』は戯ッと睨めて問い詰めた。
『ちみっこイェェガァァァ……蜜を抱えた仔らを何処にやった……!?』
「蜜？　俺樣も採ッたからな。お裾分け、してやんのも吝かじャねえ」
　ひやりと迫る巨塊の前、フードの翳から佳聲を零すはフィッダ・ヨクセム（停ノ幼獣・f18408）。
　彼が差し出した硝子瓶に蜜の結晶が入っているのを見た首魁は、緋の怪腕を振り上げて言った。
『ハッハァー!!　貴樣か、悪戯をしたのは!!』
「｜収穫祭《ハロウィン》じャ當然さ」
『んばっ……目がー!!』
　咄嗟に瓶の蓋を開けてひとふり、煌々と輝く黄金色の欠片を振り撒く。目潰しだ。
　幼獸を覆わんばかり身を屈めていた巨邪は忽ち背を反らして叫ぶと、Trick or Halloween!!　派手な色をした毒菓子を兩掌から溢れさせ、フィッダを甘毒に饗應した。
『ならばお菓子を呉れてやらんとなぁ!!』
「へェ、せめて美味そうに喰ッて遣るよ」
　蓋しフィッダは胆力も十分。
　彼は毒檻に順應すべく、義侠心を示すべく、目玉のプリンや心臓の砂糖菓子をペロリと戴く。
　彼はヤドリガミの中でも食に疎い方だが、甘味に潜む毒は感じよう。受肉した胃袋が強烈な痛みを訴えるが、停まる訳には往くまいと、食指は次いで電球型のムースを摘まんで、ぱくり。
『ヒャ〜ッハッァァァァ!!　可怪しなお菓子のお味は如何だァ!!』
「菓子は菓子だ、珍味といえばそうだろ」
　ニタニタと嗤う巨魁の前、聢と毒を嚥下した黑獸が輕く耳に觸れる。
　耳元で輝く玻璃鏡の片が「變なモン喰うな」と呆れていそうだ、と――皮肉ごと咽喉に押し込んだフィッダは、全ての毒菓子を平らげて言った。
「給餌も餘程ない体験だ。ごちそうになッた代わり、ハッピーな気持ちを返してやるよ」
『えっ毒大丈夫!?　逆に凄くない!?』
　喫驚してフィッダを見た大祭祀は、今になって彼が化術を解いている事に気付いたろう。
　すらり伸びた長躯を瞭然と切り出すは、十重二十重に展開した魔法陣――｜決戰配備《ポジション》にキャスターを要請していた彼は、全ての照準を巨邪に結ぶや赫灼の炎彈を撃ち放ッた！
「山盛りのあつーい炎をおまけしてやるぜ？」
『ッ――!!』
　刹那、可ッと荒庭を照り上げるは【｜暗夜に停す道先案内人《ミチシルベ》】。
　惜しみはせぬと放たれた緋彈は一度で1,350發、全彈を撃ち込んで絶叫を絞らせたフィッダは、羽を散らしたように舞う翼片を眼路いっぱいに映し、噫ァ派手で宜しいと、花唇に三日月を象るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　コンテナ一杯に詰め込んだ研究材料を前に、陶然たる艶笑を浮かべていた四之森・曼珠（未来形魔女・f38525）は、靜粛なる月夜を切り裂く絶叫を耳に、はたと手を打った。
「――っと、そういえば彼の敵の殲滅が此度の任務でしたわね」
　危うく十二剣神『大祭祀ハロウィン』を置いてラボに帰る処だった。割とマジで。
　研究は勿論、猟兵としての役目も果たそうと邪気を辿った曼珠は、｜不圖《ふと》、思案する裡に研究者魂に火を點けた。
「唯だデウスエクスといえば、この世界固有の生物、それも外宇宙の存在……大変貴重なサンプルになりますわね」
　涯無き宇宙より來たる、オブリビオンにあらぬもの。永遠不滅の神々が如き存在。
　これも新世代の研究に役立つのではと、麗顏をほんのり紅潮させた佳人は、紅の玉瞳をキラッキラに輝かせながら通信機に花唇を寄せた。
「｜決戰配備《ポジション》はキャスターを繼続し、今度は輸送コンテナ付きのドローンを飛ばして頂きましょう」
　ニッコリと塊麗の微笑を見せた曼珠の麗姿に翳が差したのは間もなく。
　このとき巨邪は、彼女を猟兵と見るやTrick or Halloween!!　怪腕を広げて毒菓子を振り撒くが、禍々しき放物線の先、落下地点にドローンを滑り込ませた曼珠は、何とも嬉しそうに其を受け取る。
『ヒャッハァ～毒菓子だァ!!　グロハロウィンを樂しめェ!!』
「たいへん興味深くありますこと。どんなデータが取れるか樂しみですわー♪」
『……データ？』
「えぇ、じっくり味わわせて頂きます♪」
　曼珠の場合「咀嚼」の意味が異なるが、誰より毒菓子を愉しんでいるように思われる。実際、樂しんでいる。
　ヌルヌル目玉や腦味噌など、不気味な形をした毒菓子を「もっと」と貪欲に集めた佳人は、更に研究の食指を伸して本体に――垂涎するばかり表情で巨邪に正對した。
「ふふふ、興味が尽きないのは大祭祀様も同じ……」
『……なんっ……なんて瞳でオレサマを見るんだぁ！』
「それでは貴方の生体データも頂戴致しますわね♪」
『ッアー！』
　上空でドローンが月光を遮る中、ズル……と触手状の蔓が石甃を這って迫る。
　忽ち緋橙の巨躯を締め上げるは【｜魔法植物活性化：拘束及び養分吸収《プレデション・プラント》】――Evergreenは捕らえた獲物から餘すところなく“養分”を、大祭祀の“生体情報”を取り込んでいく。
　己が欲するものを限界まで搾り取る樣は、まるで吸血鬼のそれで、
「うふふ、TrickもTreatもありがとうございます」
　と、紅唇に三日月の如き弧を描く曼珠こそ、ハロウィンを謳歌していたに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年10月30日