●才桜祭開始1時間前
はらり零れる艶やかな桜髪のおさげ。
膝下10センチのスカート丈は上品な英国風。裾のレースは首元のペギー・カラーとさりげなくお揃い。
「……っと、メイク完了! ほらほら、どうよ飛鳥」
手鏡に映るのは、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)が知らない美少女だ。
グロスで瑞々しい唇はベリーピンク、控えめなチークに深い睫が映える。髪色に合わせたリボンがゆるふわ、隙ありであざとい。
「誰や、これ」
怖々と頬を撫でようとする腕はガッと掴まれた。
「メイクがとれるっての!」
とても可愛い、けど絶対に口説きたくない顔を前にして、飛鳥は膝を折って泣きたい。むろん止められる、だって丹精込めて縫いあげたメイド服がしわになるしな!
見事に化けた飛鳥を取り囲み、野郎どもがやんややんや。口説きたい、中身が飛鳥じゃなきゃなとか言いたい放題だ。
「なぁやめへん? 今なら取り返しつくで?!」
「「「「「つくわけあるかー! 今日は文化祭当日だっての」」」」
「なんでや、なんでこんなことになったんやぁ……」
遡ること夏休み明けな回想シーンに入りま~す。
●どうしてこうなった!?
私立才桜高校では年に1回盛大に文化祭が催される、その名も『才桜祭』
クラスに肉屋や魚屋の息子がいると、つおい。
食堂やってる奴がいると、やっぱつおい。
そういうのがいないクラスは趣向を凝らした出店で対抗するわけだが……。
『執事&メイド喫茶』(メイドの文字はピンクででかい)
飛鳥の前髪ピンがずるりと落ちる。
「待って待って? 俺がゆーたんは『執事喫茶』やで?!」
弟の|澄春《スバル》が「おにぃが執事になってお世話するとか」と口走ったのが刺さり、嬉々として「執事喫茶とかどや!」と提案したのはほんの5分前。
「俺らがもてなしても野郎は喜ばねえし」
「やっぱ美少女みたいじゃーん」
「「みたーい」」
び・しょ・う・じょコールで沸き上がる教室に対し、飛鳥は渾身のツッコミを発動する。
「その美少女はどこからつれてくんねーん!」
関西弁を操る者だけが使いこなせる必殺技に対し、クラスメート達は『お前だ!』のカードを一斉に切った、四方八方からずびしッと指さされる。
「せんせぇ」
「言い出しっぺの法則って言うしね」
逃げ場なし。
●知花澄春の視点 ~才桜祭前日
――少し前からおにぃがおかしい。
ため息が増えた。
頭をぐしゃぐしゃぁってする。
そしてため息エンドレス。
「絶対変や」
実は心配で帝にぃにこっそり探りを入れたのだが、結果はより沼った。
帝にぃは普段と変わらずクールだ。だが『才桜祭』と口にしたとたん、スケートリンクを滑るが如くスルーされたのだ。
(「何があったんや……」」)
おにぃも帝にぃも心配や。
「なぁまた砂糖と塩間違えてはる」
「アカンー!」
とにかく長兄がポンコツ化している以上、自分がしっかりせねば!
「おにぃ、飯の用意はワイがするさかいはよお寝。明日は『才桜祭』やろ?」
「!」
『才桜祭』というキーワードにビクンッ硬直する兄。ソファに横倒し、顔を覆ってさめざめ泣きだしたぞー。
「「いやや~、死なんといて~」」
弟妹も合わせて泣きだす。
――ホンマ、何があるんや『才桜祭』
●種明かしはメイドさんのキュン♥
毒をくらわば皿まで、澄春は覚悟を決めて『才桜祭』の門を潜る。
「お、飛鳥そっくりー」
「お兄ちゃんからチケットもらってる?」
「え、ないの? じゃあこれ、飯もふれあいもオールOKの特別フリーパス」
――そんな弟さんは、2年A組客引き部隊にとっつかまって、執事&メイド喫茶『てんぷてーしょん♥』までわっしょい!
「おかえりなさいませ、おぼっちゃま」
桜髪のメイドさんがスカートをつまんでしずしずと頭を垂れた。
なにこの人、めっちゃ美少女。
でもよぉ知ってるわ、つうか今朝も見た。
「あっはははは! おにぃ、なかなか可愛ええやん。ウケるわ~」
兄に良く似たたれ目をぱちくりさせた後で、澄春はスマホカメラを連打開始。シャッター音が店内に響き渡る。
「おいコラァ!! 撮んな撮んな!! ってぇ」
「当家のメイドの躾がなっておらず申し訳ありません」
すすっと出て来て飛鳥の頭をぺちんとしたのは|執事長《委員長》である。
「これ、飛鳥や。こちらはVIP待遇のお客様ですよ。写真、キュン♥おいしくなぁれ、あーん、他、全てご奉仕せねばならぬのです」
「一緒に写真なんてめっちゃあるし! あーんもおいしくなぁれもちまい頃から数え切れんほどやっとるわ!」
「……よし、美人に撮れたわ、帝にぃに送ったろ」
「やめてぇ、澄春ちゃん、ええ子やからそれだけは堪忍してぇ~。ミカにはうちのクラスには絶対くるなって止めてあるんやから~、俺の苦労を無にせんといてぇ~」
泣き濡れながらもしっかりと澄春をVIP席(無駄にふかふかのクッションあり@提供は小林家具店)へと導く辺り、飛鳥は歴戦のメイドになってしまっている。
「……え、おにぃ、帝にぃに来るなて言うたん?」
ああそれでかと、帝の消沈(?)が腑に落ちた。
「当たり前やん! こんなん見せられるかい!」
さっそくテーブルにオムレツとピンクのクリームソーダがやってきた。
「こちらメイドさんが心を込めて作ったキュン♥プレートです。おい、飛鳥、やれ」
「弟に向けてもやれ言うんかい! お前ら鬼やな」
「……おにぃ。写真送信もキュン♥もやめといたるわ。その代わり」
ずずい、と顔を近づけて一言。
「あとで帝にぃを才桜祭に誘ったげ。なんならここで料理ご馳走してあげぇや。どうせこのメニュー考えたんはおにぃやろ?」
「メニューはそやけど。うーんでもミカも忙しいやろしなぁ」
「ほんならこの写真送ったろ」
わざとらしく送信ボタンの上で人差し指をぴこぴこ。
「やめーや! はぁ~俺がこんな目に遭うたのも元はと言えば澄春のせいやで!」
「……んな理不尽な」
じゃれ合う兄弟に、メイド喫茶のスタッフの皆さんもにっこり。
――その後。
「「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」」
澄春も執事の恰好させられて、才桜祭で一二を争う客入りを記録したとかなんとか。恐るべし2年A組。
成功
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