秋風が涼やかさを獲得した頃。
私立|才桜《さいおう》高校ではこの時期に――「才桜祭」が行われる。
男子校なのでその内容は文化祭であり、体育祭だ。
それは転じて|彩桜《さいおう》とも言う。彩りが合って華やかで、美しい日。
体育祭当日。
いつもの二人は、クラスが異なるが為に一応敵同士として張り合うことになる。
2年A組、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)は"お祭り"騒ぎが大好きで、積極的に種目に参加しては、2年D組、一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)に上位を総ナメしてきた様を自慢にやってきた。
「ミカ~!見てた見てた?今のっ!俺、100m走で1位になったんやで~!」
勝利のVサインを満面の笑みで報告される帝は、もう片方の手に一位の旗を手にしているのを見つけて、内心微笑んでいる。
――そんなに魅せたかったのか、その旗も。ずっと見てたけどな、お前の走り。
「ああ、おめでとう」
――かわいい。
先程までに報告に来た種目もだいたいが1位か2位。
飛鳥の親しみやすさと盛り上げムーブは、運動神経にも現れる。
勝ちたい、楽しみたい、盛り上げたい!全部が合わさると、お祭り男は強いのだ。
「ミカは次、借り物競走だっけ?」
元々自分が出る予定の種目ではなかったのだが、いつのまにか自分の名前があった。
飛鳥ほどのモチベーションを体育祭に持っていない帝だが、誰かの差金――いや、勝利に必要な布陣として抜擢されたのだろう。競い合う祭りである以上、飛鳥に勝ち星ばかりあげられては独走されかねない。
頭がいい帝はそう分析しているため、こくりと頷く。
自分の番だと。密かに、出場を頼まれたことにしておこう。足が早い方なのは、理解がある――判断力が、勝利への近道だと、参謀的立ち位置をとるクラスメイトの計略であることを祈る。
「応援席からばっちり見といたるからな!」
がんばれ、と言葉を贈られて。帝はスタートラインへと移動する。
――頑張れ、なんて言われて。
――あんなに屈託なく笑顔で笑いかけられて。
――頑張らないやつがいるだろうか。
借り物競争の順番はすぐに来る。お題カードを見た瞬間の落胆の声、喜び叫ぶ声。困惑の声。
どれもが聞こえて、しかし競争である以上、この場に借りられない者は殆どない。
借りることが迅速にできるように動く判断力が重要だ。
帝のグループの番がくる。
よぉーい、ぱぁん。なんて、かるい発砲音のあと一斉にお題カードの置かれた机まで走る。
殆ど同時、殆ど横並び。ならばカードの内容が全てを左右する。
机の上のカードを捲り、そして視界に飛び込むお題カードの言葉。
>>かわいいもの<<
帝にとって、真っ先に該当したのは飛鳥のことだ。
帝にとっては飛鳥一択。自分の中では規定事実であった。
どこに居たかなんて、場所が割れてる。応援席だと言った。
大きな声で、応援してる様はずっと聞こえている。
「飛鳥……!」
肩で息をして、全力で駆け寄る。
――助かった。そこにいてくれて……。
「お~?どないしたんミカ?何か借りに来たんか?」
「飛鳥……」
お前、と言いかけて言葉を飲む。
なんで書いてあったのか、聞かれたときにどう答えたら良い?
これは聞かれて答えられるのか?
頭のいい男というのはこういう時回転がものすごく早い。
手を掴んで連れていく、気持ちでいたが――お題カードの中身を確認するのは飛鳥だけじゃないだろう。
合っているかを確認するのは、ゴールサイドに居る者たち。
可愛いとおもっている、と露呈する。
この間、数秒。脳内会議をした帝は苦肉の策を提案するため我に返った。
「……の、つけてるヘアピンを貸してくれ」
飛鳥の前髪のヘアピン。一つ借りるくらいなら、大丈夫だろう。
「これ?お安い御用やで!」
薄桃色の髪が、僅かに乱れる――飛鳥は数個在る中から一つ外して、すぐ手渡して握らせた。
「ほら!急いで!」
「あ、ああ」
背中を押されたような気分のまま、すぐさま踵を返してゴール目指して帝は走る。
ほかのメンバーは手間取っていたようで――ゴールテープは一位で通過した。
『さてさてお題、確認しますね~』
なんて、ゴール後確認タイムで開示することになったが、かわいいものに対してヘアピンだ。
飛鳥が選んだ、飛鳥の髪色によく合うカラーリング。
――男子がつけるものではないだろう。
――さあ、かわいいと言うと良い。
『お?どこからこんな可愛いのを……あっ』
「そうだろう。かわいいな、では俺の借り物は問題ないな」
『そうですね!間違いなくかわいいので!1位確定おめでとうございます~』
ぱちぱち~と拍手の音と、エンターテイメントに割り振られた空気感。
少しだけ手を上げて勝者になってその場を後にする。
競争は終わり、出番は終わったのだ。静かにするに限る。
「ミカ~!」
すぐさま駆けてくる飛鳥。
「ず~っと見てたし、格好良い走りやったな~!わ~、おめでとう~!俺のおかげもあるやろ?な?な??」
覗き込むように笑いかけてくる無邪気な顔。
自分のことのように喜べる飛鳥に、少し息を乱した肩が震える。
満足気に小さく笑った時揺れた、といえる。
「やっぱり一番可愛いのは飛鳥だな…」
それはとても小さく、確かに声に出ていた言葉であった。
帝の呟きは小さすぎて、飛鳥の耳には入っていない。
「ん~?今なんか…?」
「|ヘアピン《飛鳥》のおかげで一位だ。ありがとう」
感謝の気持ちは嘘ではない。
お前が付けていたから、この勝利は約束された。
だから感謝の言葉への改変だって、嘘にはならない。
これは真実、お前がそこに居てくれたからたどり着いた一位なのだから。
飛鳥は、帝の言葉に嬉しそうに、くすぐったそうにへへへ~っと更に笑って返してくれる。
素直に嬉しがっている満足げな顔。無邪気な笑顔にほんの少し、面と向かって言われた分の照れ笑いのニュアンスを少し加えて。
ほら――その顔だ。
なにより可愛いのは、――お前のほうじゃないか。
成功
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