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蒼月に散り交ふ

#サクラミラージュ #帝都タワー

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#帝都タワー


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●蒼い月のよる
 今宵の月は、稀に見る青だった。
 蒼白く灯る月明かりは世界を、桜を青く染める。

 こんな神秘的な夜は、加護の霊力が強まるのだとされていて。
 だから人々は、何時しか蒼い月の夜に祭りを興じるように成ったのだ。

 日が沈み、夜の帳が下りる。
 ――さあ、祭りの準備をはじめよう。

●儚ぶもの
 桜舞う、桜花の世界。
 幻朧桜と影朧、慰めと転生。
 めぐる輪廻は散りゆく桜のように儚く朧げだ。

 ――でもどうして、わたしは其の歯車のひとつに成れなかったのか。
 影朧の少女は木陰の隅からそっと、祭りの準備に勤しむ人々をぼぅと眺めていた。

 その髪に揺れる桜の枝からは、はらはらと桜の花弁が零れ落ちるばかりで。
 そっと少女は瞼を伏せ、再び桜並木の奥へと姿を消していった――。

●帝都タワー
「みなさん、帝都タワーをご存知ですか?」
 イリス・ペタルは静かに笑み、目礼すると第一声、そう述べた。

 帝都港区に存在する、帝都タワー。
 正式には『帝都電波塔』と云うその建造物は、帝都の総合電波塔である。
 この世界ゆかりの者ならよく識る存在だろうか。
 その帝都タワーは文字通りの電波塔であると同時に、この世界の汎ゆる通信網を霊的に守護する力を持つ『世界最大級の鎮守塔』の役割も担っているのだ。

「人々の生活や営みに欠かせない存在、ということですね」
 だからこそ、その護りは強固なものだった。
 天高く聳え立つ塔の周辺には多くの寺社や幻朧桜の群生地が存在し、自然と高められた霊力により永い間この塔は護られてきたのだ。

「――けれど、近年は影朧の動きも活発化してきて。どうやらこの帝都タワーを狙う強力な影朧も現れたようなんです」
 帝都タワーが万が一にも破壊されれば、世界は大混乱に陥ってしまう。
 それを防ぐ事が今回、猟兵達に託された依頼というわけだ。

 イリスは一呼吸置き、依頼の流れを順追って説明する。

「まず、みなさんには現地で催されているお祭り赴いてもらいます」
 ――祭り?と誰かが問えば、イリスは静かに頷く。

「蒼月祭、というお祭りです。今夜は月が青く見えるそうで、それに因んだものみたいですね」
 その開催地は帝都タワーの梺、幻朧桜の群生地で行われる。
 霊力が高まるこの地で催される祭りに参列すれば、加護の恩恵にもあやかれるだろう。
 それはきっと、影朧との戦いでも大きな助けと成る筈だ。

「影朧はまだ直ぐに現れません。その間は皆さんどうぞお好きに過ごしてください」
 祭りを存分に楽しむもよし、ぶらりと様子を眺めるもよし。
 大きな戦いの後の息抜きにも良いだろう、とイリスは柔く微笑んだ。

 そして最後にイリスは、神妙な面持ちでこう告げる。
「わたしが予知で視たのは、青い桜の迷宮と、一人の少女の姿でした」
 その少女が、おそらくは影朧。
 桜の迷宮は、少女のもとへ至るまでの障害といった処だろう。
 今時点で詳しくは判らない、その先の行動は猟兵達に委ねられる。

「帝都タワーを守るため、どうかみなさんの力を貸してください」
 そう言ってイリスは深々と頭を下げたのだった。


朧月
 こんにちは、朧月です。
 蒼い月夜のサクラミラージュ、秋祭りの帝都タワーへご案内です。
 どうぞよろしくお願い致します。

●第1章『祭りの夜に』(日常)
 港区帝都タワーを守護する幻朧桜の群生地で行われる秋祭りを訪れます。
 祭りに参列するだけで自然と守護の霊力の恩恵が受けられます。
 先ずはめいっぱいお祭りを楽しみましょう。
 ※この章のみのご参加も歓迎します。

●第2章『青き月夜の零れ桜』(冒険)
 現れた影朧により、周囲の幻朧桜の群生地が迷宮化してしまいます。
 ※詳しいご案内は章開始時に導入部を追記します。

●第3章『桜の霊』(ボス戦)
 迷宮を抜けた先は帝都タワーの梺。
 待ち受ける影朧は、桜の霊の少女です。
 1章の祭りに参列していると、加護の霊力を纏い戦うことが出来ます。
 ※詳しいご案内は章開始時に導入部を追記します。

●浴衣
 参照希望があれば「23年浴衣」などでご指定ください。
 特に指定が無ければ言及はしません。
 また、描写自体もプレイング次第となります。

●進行
 プレイング受付期間や進行状況はシナリオタグでご案内します。
 お手数ですが都度ご確認いただきますようお願いします。

●採用
 通常プレイング:失効期間内に執筆出来る分だけ。
 オーバーロード:内容に問題なければ採用、お届けにはお時間をいただきます。

●共同プレイングについて
 同伴者はご自身含めて2名様まで、でお願いします。
 【相手のお名前(ID)】or【グループ名】をご明記ください。
 送信日は可能な限り揃えていただけると助かります。

●シナリオご参加の前に
 マスターページの自己紹介をさらっとご一読いただけると、
 朧月の傾向や方針が判るので良いかも知れません(確認は任意です)

 以上です。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『祭りの夜に』

POW   :    祭りを楽しむ

SPD   :    祭りを楽しむ

WIZ   :    祭りを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●蒼月祭
 蒼く耀く幻朧桜の群生地。
 桜並木の遊歩道に、今宵は沢山の人々が集まっていた。

 揺れる提灯の明かり、聴こえる祭囃子。
 ――カランコロン、と石畳に下駄音鳴らして。
 さあキミも、賑やかなの秋祭りの夜へと出掛けよう。

 石畳の道の左右には、沢山の屋台が並んでいた。
 小腹が空けば、香ばしい食べ物の匂いについ足が誘われてしまうかもしれない。
 焼きそば、お好み焼き、串焼きの屋台からは、濃厚なソースやタレがじゅわじゅわと賑やかな音を弾ませて。
 甘味が欲しいなら、とろりとしたみたらし団子、ふわふわカラフルなわたあめ、外はカリカリ中はシャリシャリのりんご飴、一口サイズのベビーカステイラに、沢山の誘惑が待っている。

 お腹を満たしたなら、ひと遊びと洒落込むのもいいだろう。
 狙いを定める集中力が試される射的、色とりどりの水風船が浮かぶヨーヨーすくい、動物の模様がかわいい型抜きに、子供から大人まで楽しめる祭りらしい遊びが盛り沢山だ。

 少し歩き疲れたなら、遊歩道に設置されたベンチで一息つくことも出来る。
 賑やかな祭りの喧騒を横に、ひゅぅと吹く夜風は存外冷たくて。
 もう夏が終わり、秋の深まる気配を感じられるかもしれない。

 見上げれば、まあるい蒼い月が夜を静かに照らし、見守っている。
 蒼白い月明かりは、世界を、桜吹雪を青く染めていた。

 * * *

●マスターより
 一章はお祭りを楽しむ日常パートです。
 上記のご案内以外にも、自由な発想でお楽しみください。

 ※祭りの進行や周囲の方にご迷惑になるような行為は勿論禁止です。
 ※プレイングの行動は何処か一箇所をメインに書いていただく事を推奨します。

 詳細、説明は以上となります。
 それでは、佳き時間をお過ごしください。
 
 
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

23年の浴衣で参加

帝都タワーは守らなければなりませんが…
何故でしょう
今度の影朧は、少し悲しい気がするのです

まずはお祭りを楽しまないとですね
屋台で甘いものが食べたいです
実を言うと
こういうお祭りに参加した事があまり無くて…
でもりんご飴が美味しい事は知っています
葛城さんのおすすめは何でしょう
綿飴もおいしそうです
ふわふわで確かに雲みたいですね

焼きそば食べたいです
あ、お代はきちんと自分で払いますよー

人出が多いでしょうから
葛城さんとはぐれないように気を付けます
しっかり後をついて行けば大丈夫の筈…
ふふ
なんだかお兄ちゃんと一緒にいるみたいです
こんな風に賑やかなのも
時には良いものですね


葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と22年の浴衣で

影朧の跳梁は止めないと
それは十分解ってるけど
「まず先にお祭!」

お祭屋台にワクワクしちゃうのは
お菓子好きだけじゃなくてそもそも
ダチと買い食いするのすっごい楽しいから
あ、神臣あんまし経験ないんだね
OK、俺が連れてってあげる!

お薦め…
「うん!林檎飴はすごい美味しいよ」
甘い、酸っぱいのコントラストが俺は大好き
ふわふわの雲食べるみたいな綿飴も好き

「あ、神臣オナカすいてない?」
もし空いてたら甘味は後にして焼きそばとか先にさ
「おごるよー」

神臣が人込み苦手なのは知ってるから
はぐれないように絶対横から離れないし
なんなら手も引くよ
「大丈夫。ほら、少し離れたトコで食べよ!」



 世界の、帝都にとっても大切な帝都タワー。
 其処へ及ぶ影朧の跳梁はもちろん、気になるけれど。

「――まず先に、お祭り!」
 徐々に近づく祭囃子に誘われるがまま、葛城・時人が楽しげに先陣切って駆け出してゆく。

「……お祭り、ですか」
 後を追うように神臣・薙人もそわそわとした心地で祭りと人々の様子を眺めた。

 石畳に沿って左右に並ぶ屋台からは鮮やかな暖簾の文字が出迎えて。
 店先には色とりどりの煌めく提灯が揺れている。
 その中には青い月の模様が入った提灯も在り、淡く優しい光を放っていた。

「お祭りの雰囲気に屋台、なんだかワクワクしちゃうな」
 キラキラと少年の様に目を輝かせる時人の横顔に、薙人はそっと微笑んで。
「そう、ですね。でも私はこういうお祭りに参加した事があまり無くて……」
 周囲を取り巻く喧騒に思わず後込みしてしまいそうになるけれど。
 それでも祭りの賑わい、人々の笑顔を見れば、自然と不安も和らいで。
 何より今は、頼りになる友人も隣に居るのだから。

「あ、そっか。神臣あんましこういう所来たことない?」
 ――それなら、と。時人は友の手を自然と引いた。
「おっけー、俺が連れていってあげる!せっかく来たんだから楽しまないとね!」
 桑染色と黒橡色の浴衣を纏い、二人は祭りの賑わいへと歩みだした。

 立ち並ぶ屋台からは芳ばしく、ときおり甘い香りもしていた。
「あ、神臣オナカすいてない? 何か気になるものってあるー?」
「そう、ですね……」
 薙人がちらと目線を向けたのは、赤く艶々としたりんご飴の屋台。
「りんご飴が美味しい事は知っています。ちなみに、葛城さんのおすすめは何でしょう?」
「うん!りんご飴、すごい美味しいよね」
 甘くて酸っぱい、二つコントラストが混ざり合って大好き。と時人が嬉しげに笑みを零す。
「俺のおすすめ、かー。ふわふわの雲を食べるみたいな、綿飴も好きだなあ」
 そう話しながら時人が指差す方向には、わたあめの屋台が見える。
 細長い棒を装置の中でくるくると回せば、あっという間にふわふわとした綿飴が出来上がっていた。
 手渡されている家族連れの子供の笑顔に、二人もつられて頬が緩む。
「ふわふわで、確かに雲みたいですね。作っている様子も何だか不思議と見てしまいます」
 でしょー、と時人が笑顔で頷きながら。
 次に二人が誘われるのは芳ばしいソースの香り。

「……焼きそば、もいいですね」
 頃合い的にも小腹が空く時間かもしれない。
「んじゃ、先に焼きそばとか買って。甘いのは後でのお楽しみにしとこっか!」
 そうと決まれば、と。
 時人は焼きそば屋の屋台に駆け寄り、やきそばふたつー!っと注文する。
 ひょこりと薙人も横から覗き込んで。
「――あ、お代はきちんと自分で払いますよ……?」
「いいのいいの、今日はおごるよー。はじめてのお祭り記念ってことでさ」
 はい、と早速購入した焼きそばのパックをひとつ薙人に手渡して。
 薙人も少し躊躇いながら、素直に温かな焼きそばを受け取った。
「ふふ、ありがとうございます」

「少し落ち着けるところで食べよ!」
 向こうにベンチがあるー、と進む時人の片手は薙人と繋がれたままで。
 手を引かれつつ、見上げる後ろ姿に薙人は静かに微笑んだ。
(「なんだか、お兄ちゃんと一緒にいるみたいですね」)

 時には、大切な友人と一緒なら。
 賑やかな中でこうして過ごすのも、きっと悪くないのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
お祭りだから新しい浴衣をおろした
良く考えたら此の後に戦闘があるなあと思ったけれど
普段の和装メイド服と差はないよね、と思い直した

屋台に突撃し先ず腹拵え
目が耳が鼻が気になったものを
節操なく全て買って食べる

「…お腹が苦しいです」
ベンチに座って冷やし飴を飲みつつ空を仰ぐ

お祭りは好き
初めて帝都に来た夜のよう
ミルクホールに流れるジャズ
夜なのに其処彼処が綺羅めいて

今に興味があって
過去は都度思い返して
でも未来には然程興味がないのは
「今上帝の御代が終わってしまったら怖いから…?」

月に手を伸ばし
「月が綺麗ですね、は言えなくても。月が綺麗だから、は私だって言えるのです。だから、もっとお祭りを楽しみますね」
月に微笑む



 新しく仕立てて貰ったぴかぴかの浴衣。
 この機に下ろすかどうかは少し悩んだけれど、せっかくのお祭りなのだから――。

 桃色に桜柄の浴衣、ゆるく波打つ桜色の髪を揺らして。
 御園・桜花は祭りの石畳をカラコロと下駄を鳴らし歩いた。

(「賑わってますね。……それに、美味しそうな香りも」)

 桜花の興味はまず屋台の食べ物に向けられる。
 時間もちょうど夕餉時、仕事の前に腹ごしらえでもと。
 気になったものを節操なく買っていき、気付けば両手は食べ物でいっぱいになっていた。

「……うぅん、さすがにお腹が苦しいです」
 ベンチに腰掛け、いっぱい屋台飯を平らげた身体を休ませつつ。
 ご飯の後にととっておいた冷やし飴をコクコクと飲んだ。
 優しい甘さと生姜の程よく辛い冷たさが、スッと喉を爽やかにさせる。

 ふぅ、と桜花は一息つき。ぼんやりと夜空を仰いだ。

 ――お祭りは好き。
 初めて帝都に来た夜を思い出すから。
 ミルクホールに流れるジャズと、夜なのに光耀く街並みを。

 ………。
 過去は都度、こうして思い返すことも在るけれど。
 何故かこの先の未来には然程興味が沸かなくて。
 ――それは、
(「今上帝の御代が終わってしまったら、怖いから……?」)

 桜花はコクリと冷やし飴をもう一口飲むと、蒼く耀く月に手を伸ばした。
(「月が綺麗ですね、なんて言葉は言えなくても。月が綺麗だから、は私だって言えるのです」)

 だから今を、今宵のお祭りも目一杯楽しもう。
 月に微笑んだ桜花の顔は、晴れやかに満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ
23年浴衣を着ていきます。

一人でお祭りを流すように歩きます。
猟兵になる前もなってからも、お祭りの夜は占いの卓を出す事が多くて未だに見られる側(客側)になるのは慣れないけれど、それでも漂うお祭りの香りはいつだって変わらない。
とてもいいにおいがして心惹かれるものが多いけれど、まだまだ食が細い私はそれにこたえられないのよね。
だから歩きながらいつも通り人々を眺めていく。
楽し気な人々の表情を見ているだけで私はとても楽しいもの。

一通り歩き回って疲れたら、途中で買った飲み物にベビーカステラをつまみながらベンチで一休みしましょう。



 カランコロンと軽やかな下駄音鳴らし。
 白地に菖蒲柄の浴衣を纏う夜鳥・藍は祭りの賑わいの中をゆるりと歩いていた。

 猟兵になる前もなってからも、藍はこうしたお祭りでは専ら占いの卓を出す側で赴く事が多かった。
 だからだろうか、客側の立場として歩くのは未だに慣れていない。
 ――けれど。
 様々な屋台、綺羅びやかな明かりと漂う祭りの香り、それは何時だって変わらなかった。

(「お祭りは、好き。楽し気な人々の表情を見ているだけで、とても楽しいもの」)

 行き交う人々の様子に思わず頬が緩み。
 ともすれば、ふわりと誘うような芳ばしい香り。
 その出処は焼きそば、たこ焼き、お好み焼き――。
 こってりとしたソースたっぷりの屋台飯は、不思議と祭りの賑わいの中だと一層美味しく見えるもので。

(「おいしそう……。けど、私にはぜんぶ食べ切れないかも」)
 残してしまっては申し訳ないと、惹かれる気持ちを抑えて藍は再び祭りの人混みへと戻ってゆく。

 それでも、せっかく来たのだから。
 軽くつまめそうなベビーカステラに、冷たい飲み物を途中で買い足しながら。
 一通り巡った先のベンチに藍はそっと腰を下ろした。

 祭りの賑わいを横目に、甘いカステラをぱくりと頬張ってみる。
 人々の喧騒に当てられた熱気は、ひゅぅと吹く秋風によって冷やされていった。
 風と共に舞う花びらは蒼く耀いて、ふと思い出したように藍は夜空を見上げる。

「本当に、月が青い……」
 吸い込まれそうな耀く青に、藍はそっと手を伸ばしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・シェフィールド
【狐の宿】
23年の桜模様の浴衣で秋祭りに参加です。

「先日はありがとうございました」
シンさんに依頼にご一緒していただいたお礼を兼ねて、帝都の秋祭りにご招待。楽しんでくれるといいのですけど。
普段は奥さんと一緒にUDCアースのBarにいるそうなので、帝都の屋台グルメはそれほど珍しくないかな?

「…あ、これ、美味しいですよ。」
甘いチョコレートをコーティングしたバナナをくわえているところを見られて、照れ臭そうに。

他にもリンゴ飴やイカ焼き、たこ焼きも美味しいですね♪

お土産を買うシンさんを見て微笑みながら、
「奥さんを大切にしてあげてくださいね♪」

わたしも大切な人へのお土産に、ベビーカステイラを買っていこっと。


シン・ドレッドノート
【狐の宿】
サクラミラージュの秋祭りですか。以前仕立てた浴衣で行くとしましょう。
フィーナさんの浴衣は桜模様。さすがはスタアですね。幻朧桜を背景にして、よくお似合いです。

こちらの屋台はUDCの祭りと雰囲気がよく似ていますね。
子供の頃はスペースシップ暮らしだったので、このような風景は新鮮です。
食べ物も美味しそうです。
チョコバナナもいいですが、私はこちらの串焼きをいただきましょう。
あ、お好み焼きもいいですね。
…フィーナさん、食べすぎには注意ですよ?

「夜宵さんたちのお土産にしましょう…」
妻と娘のために、きれいに紅くコーティングされたリンゴ飴をじっくり吟味して、一番美味しそうなのを二つ頂いていきましょう。



「シンさん、先日はありがとうございました」
 桜色の浴衣をふわりと揺らし、フィーナ・シェフィールドは花咲く笑みを零す。
「ふふ、こちらこそ」
 フィーナが振り返った視線の先、シン・ドレッドノートも浴衣を纏い、柔く笑みを返した。

「フィーナさんの浴衣は、桜模様なんですね。さすがはスタアだ、幻朧桜の背景にして、よくお似合いです」
「そうですか?ありがとうございます! シンさんの浴衣姿も、新鮮で素敵ですよ」
 二人はカラコロと下駄音鳴らし、石畳の桜並木を歩く。
 響く祭囃子が近づけば、煌めく屋台の灯りと人々の賑わいが出迎えた。

「――これが、帝都のお祭りなんですね。UDCのお祭りと雰囲気がよく似ています」
 幼い頃は宇宙の世界で暮らしていたシンにとって、こうした祭りを見る機会もほとんど無かっただろうか。
 だからこそ、大人になった今でも祭りの風景は新鮮に映るのかもしれない。
「そうですね、時代が変わってもお祭りの雰囲気は変わらないって事かもしれませんね」

 フィーナは祭りの様子を眺めるシンの横顔を、ちらりと伺いながら。
(「……シンさんにこの前依頼にご一緒していただいたお礼を兼ねて、今日は秋祭りに招待してみたけど。帝都の屋台のグルメは、それほど珍しくないかな……?」)

 けれどシンの表情は柔く笑みを湛えて、愉しげに口元を緩めていた。
 その様子に少しホッとしたフィーナはとある屋台が目に留まり、思わず駆け寄る。

「……あ!これ、美味しいですよ」
 フィーナが指差し向かった先は、チョコバナナの屋台。
 甘いチョコレートを纏ったバナナにカラフルなスプレーを飾った、屋台定番の食べ物だ。
 早速購入し、ぱくりと咥えた瞬間にシンと目が合ってしまって、フィーナは思わず照れ笑いを浮かべた。

「ふふ、チョコバナナも美味しそうですが、私はこちらの串焼きをいただきましょうか」
 シンの目線の先には焼き鳥がじゅわじゅわと弾む音を奏でて焼かれている。
「わぁ!串焼きもいいですね、リンゴ飴やイカ焼き、たこ焼きも美味しそうですよ♪」
 漂う屋台の香りに誘われるまま、あれもこれもとフィーナは目移りするばかりで。
 そんな様子にシンはクスリと微笑んだ。
「……フィーナさん、食べすぎには注意ですよ?」
「あ、はは。気をつけます」

 そんなこんなで、二人は幾つかの食べ物を選んで両手に抱えてゆく。
 そしてキラキラと耀くりんご飴の屋台の前で、シンの足がピタリと止まった。

「――綺麗ですね、夜宵さんたちのお土産にしましょうか……」
 シンは愛する妻と娘のため、紅く煌めく宝石の様なりんご飴を真剣に選び始めた。
「お土産ですか?ふふ、奥さんを大切にしてあげてくださいね♪」
 フィーナの言葉にシンは嬉しそうにコクリと頷いて。
(「……わたしも、大切な人のお土産になにか買っていこうかな?」)
 そうしてフィーナが選んだのは一口サイズのベビーカステイラだった。

 お互いに大切なお土産を腕に抱えつつ、賑やかな祭りの夜は過ぎてゆく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハロ・シエラ
ロランさん(f04258)と21年浴衣で参加します。

蒼い月なんて初めて見ました。
夜桜もいつもと違う表情をしているように感じますね。
雰囲気も気候もすっかり涼しくなって……ふふ、温かい物をたくさん買ってしまいましたね。

ええ、あちらで頂きましょう。
私は先に溶けそうなかき氷から……だ、大丈夫ですか?
一度交換しましょうか、私がたこ焼きを食べている間に冷めると思います。
……うん、そろそろ大丈夫そうです。
念には念を入れ、冷めたたこ焼きを更に吹き冷ましてからロランさんに差し出します。
はいどうぞ、あーんして下さい。
いかがですか?熱くありません?
なら良かった……ふふ、ありがとうございます。
笑顔でかき氷を頂きます。


ロラン・ヒュッテンブレナー
ハロちゃん(f13966)と21年浴衣(作務衣)で参加なの

屋台で食べ物を買って一緒に散歩してるの
蒼い月と桜の色が良く合ってるね
食べきれるかも心配だねって笑って

ハロちゃん、ベンチがあるからあそこで食べよっか?
アツアツのたこ焼きを吹き冷ましてぱくっとするけど、ぼくはすごい猫舌だからまだまだ熱くて
は、はふっ、あふっ!

交換で渡されたかき氷の匙を見て、こ、これ、いいの?大丈夫?
分かってない顔されたら困っちゃうの、あはは…
少しずつ食べて舌を冷やしておいて

冷めた?それじゃ…、え…
嬉しいやら恥ずかしいやら照れるやらだけど、あーんと食べさせてもらって
ん、おいしいの、ありがと
お返しにかき氷を一匙差し出してみるの



 ――カラコロリ、二人の軽やかな下駄音が石畳の上に鳴り響く。

「蒼い月、なんて初めて見ました。夜桜もいつもと違う表情をしているように感じますね」
 ハロ・シエラは夜空に煌々と浮かぶ月を見て、思わず呟いた。
 紺地に朝顔を咲かせた浴衣を羽織り、長い黒髪も纏めた浴衣姿は祭りの夜にとても映える。

「うん、蒼い月と桜の色が良く合ってるよね」
 ハロの浴衣姿にほわりと見惚れながらも、ロラン・ヒュッテンブレナーは同じ様に月を見上げた。
 今夜の月は丸いけれど、ほんの少し欠けてもいて。
 その事に安堵しつつ、次いで両手いっぱいに抱えられた屋台飯に意識が向く。

「……それと、食べ切れるかもちょっと心配だね」
「ふふ、たくさん買ってしまいましたからね」
 ハロの両手にも勿論、屋台で買った食べ物や飲み物が抱えられていて。

「でもでも、歩き疲れたからお腹は減ってるの! あ、ベンチがあるからあそこで食べよっか?」
「そうですね、私もお腹は空いてますから。ええ、あちらで頂きましょう?」
 ぱたぱたと青い朝顔柄の作務衣を靡かせて、ロランはベンチの上に屋台で買った食べ物を溢さないように置いてゆく。
 二人はベンチに腰を下ろし、並べた数々の食べ物からそれぞれ好きな品を一つ手に取った。

 ロランがまず手に取ったのは、ソースたっぷりのアツアツ出来立てたこ焼きだ。
 火傷しないようにと、ふぅふぅと十分吹き冷まして……。
「いただきまー……は、はふっ、あふっ!」

「私は先に溶けそうなかき氷から……。だ、大丈夫ですか?ロランさん」
 かき氷を一口運ぶやいなや、隣のロランの自体に心配そうにハロは顔を覗き込む。
「はふ……あう。ぼくすごい猫舌だからしっかり冷ましたんだけど……まだまだ熱かったみたい」

「それなら、一度かき氷と交換しましょうか。私がたこ焼きを食べている間に冷めると思いますし」
「えっ!? う、うん。ハロちゃんが大丈夫なら……」
 互いにたこ焼きとかき氷を交換して。
 手渡されたかき氷の匙とハロを交互に見返すロラン。
(「こ、これ、いいの?大丈夫? さっきハロちゃんも一口食べてたよね」)
 隣ではふはふとたこ焼きを頬張るハロは視線に気付き、どうしました?と言いたげに首を傾げた。
 ロランはその様子にへらりと笑顔を返し、改めてかき氷を一匙掬う。
 ひんやりとした冷たさが舌の上に広がって、シロップの甘さにもほにゃりと癒やされつつ。

「……うん、そろそろ大丈夫そうですよ。ロランさん」
「冷めた?それじゃ……、え」

「はい、どうぞ。あーんして下さい」
 念には念を入れ、冷めたたこ焼きを更に吹き冷ましたから程よい温かさになっているだろう。
 ハロは片手を添えて、ロランにたこ焼きを差し出した。
「えっと……、ん。いただきますだよ」
 嬉しいやら恥ずかしいやら照れるやら、沢山の気持ちがロランの胸いっぱいに広がって。
 何とか平常心を保ちつつ、あーんとたこ焼きを食べさせてもらう。

「いかがですか?熱くありません?」
「……ん、おいしいの、ありがと」
 ハロに食べさせてもらったたこ焼きは丁度よい温度なのは勿論、それ以上に特別美味しい気もして。
「……。ハロちゃんも、お返しにどうぞ、だよ」
 同じ様に食べさせてあげたら、美味しいと感じてくれるかな、と。
 淡い期待も寄せつつ、ロランはシロップがたっぷり染みたかき氷を一匙ハロに差し出してみる。

「ふふ、ありがとうございます。ではいただきますね」
 ぱくりと素直に匙に乗るかき氷を口に運び、ハロは嬉しそうな笑顔を向ける。
 ロランもつられて、ほわりと嬉しげな笑顔を零したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
義兄の瞬(f06558)と参加

私と兄さんはこのサクラミラージュで色々な事を見てきました。影朧に秘められた様々な事情も。今回も影朧に関する悲しみが関係してるんでしょうね。

まあ、考えるのは後ですね。守護の要である帝都タワーを守る為、まず加護をいただきましょう。新しく仕立てた浴衣を着て。

兄さん、美味しそうな匂いが漂っています!!予算は十分、一杯食べましょう!!焼きそば、お好み焼き、串焼き!!ああ、浴衣にソースとタレがこぼれないよう注意せねば。

もぐもぐ屋台の食べ物を食べながら甘いものを買いに行く兄さんについていきます。兄さんなら甘味ですよね。あ、わたあめありがとうございます!!

これで準備は万端ですね!


神城・瞬
義妹の奏(f03210)と参加

僕と奏はこのサクラミラージュに関わりが深い。それ故に影朧の事情や悲しみを多く見てきました。おそらく今回の件も深い影朧の事情がある。

でもまずはこのサクラミラージュの護りの要である帝都を護るため、まず加護を得ておきましょう。奏と共に、浴衣を着て。

早速屋台に駆け寄って行って一杯買ってくる奏に微笑みつつ、串焼きをいただきます。ああ、奏は満面の笑みですねえ。

僕にとってはサクラミラージュの甘味は欠かせません。みたらし団子、りんご飴、ベビーカステイラ。あ、奏、わたあめ食べますか?

はい、僕も準備はできました。いきましょう。



 共にこの世界の様々な依頼や事件を目にしてきた。
 幻朧桜に転生、影朧に秘められた様々な事情も――。
 だからこそ、放ってはおけなくて。今宵も二人でこの場に赴いたわけだが、

「まあ、細かく考えるのは後ですね!」
 真宮・奏は新しく仕立てた浴衣を纏って、祭りの喧騒へと駆けてゆく。
「そうですね、まずは祭りを楽しみつつ。加護を得ておきましょうか」
 その様子を微笑ましく見守りながら、神城・瞬も涼し気な浴衣の装いで石畳に下駄音を鳴らす。

 颯爽と駆けていった奏の目に映るのは沢山の屋台、煌めく提灯の明かり、お祭りの賑わい。
 ――それと、美味しそうな芳しい香り。

「兄さん、美味しそうな匂いが漂っています!!」
「ああ、思った以上に大きな祭りみたいだな。人も出店も沢山で」
 ほぅ、と関心したように祭りの賑わいを眺める瞬を余所に、奏はキラキラと瞳を輝かせる。
「予算は十分、お腹いっぱい食べましょう!!私、ちょっと買ってきますね」
 そわそわと落ち着きを我慢できず、奏は屋台へと駆け出した。
 焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、串焼き――。
 こってりとしたソースや肉汁の香りが堪らない。

「――っとと、買い過ぎちゃいました」
 奏が両手に一杯抱えつつ、落としそうになってしまう串焼きのパックを瞬が片手で受け止める。
「浴衣を汚してしまいますよ?気をつけないと」
「……えへへ、ですね。ありがとうございます」

 二人は通りから少し離れた所で、購入した食べ物を一旦食べることにした。
 受け止めたついでにと、瞬は串焼きを貰いつつ。
 奏はお好み焼きに慎重に齧り付く。
「……ふふ、ソースの味が美味しいです。お祭りで食べるごはんって、何だか普段より美味しく感じちゃいます」
 瞬も串焼きの焼き鳥を一切れ頬張りつつ、小さく頷く。
「外で食べるご飯が旨いというのと一緒なのだろうね。祭りの雰囲気がそうさせてくれるんだろう」

「……と、塩気の物を食べると甘味も欲しくなってしまうな」
 串焼きを食べ終えて、瞬は屋台の方をもう一度見やる。
「あ、兄さんも買いに行きます?私も着いていきますね」
 あと残っているのはたこ焼きだけなので食べながら、と。
 奏は満面の笑みで楊枝に刺したたこ焼きを頬張りつつ、瞬も柔く笑みを返す。

 目に留まる屋台からは甘く優しい香りが漂ってくる。
 みたらし団子、りんご飴、ベビーカステイラ、それと綿飴も。
「……あ、奏、わたあめ食べますか?」
「あ、食べたいです!」
 くるりくるりと雲を作るように目の前で出来上がる綿飴を二人並んで見守りつつ。
 奏は出来立ての真っ白なわたあめを受け取った。
「わぁ、本当に雲みたいにふわふわですね。いただきまーす!」

 奏の楽しげな様子に瞬も傍らで笑顔を浮かべて。
 仲の良い兄妹で楽しむ祭りの時間は、賑やかに過ぎていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
22年浴衣姿。

蒼い月…ブルームーンと呼ばれる月はありますが一般的には暦の上でひと月の間に現れる2回目の満月を指す言葉、なんですが…
今夜の月が蒼く見えるのはどういった現象なんでしょう、大気の影響でしょうか。
…いけませんね、理屈っぽくなってしまうのは私の悪い癖です。

月見団子を買い求め、ベンチに座って月を眺める。
青く見える月というのは本当に稀なもの、だからこそ「once in a blue moon」はあり得ない、滅多にないことという意味で使われる言葉ですが…それなら尚更楽しまないと。
小さな双眼鏡越しに月を観れば神秘的な青い月の姿に思わずため息が漏れる。
理由は分からなくても、今夜の月は美しいですね…



 漆黒の空に蒼い月が浮かぶ、今宵は特別な夜。
 月の光は世界を、桜吹雪を蒼く染めて。
 瞳に映る光景は、稀に見る幻想に相応しい色彩だった。

 ――青い月。
 即ちブルームーンと称される月の様相は確かに存在する。
 実際に青く見える月のことを指したり。
 ひと季節に満月が四つ巡る三回目の月のことを指したり。
 ひと月に満月が二回巡ることを指したりもする。

 語源や定義にも幾つかの説があるが、どれもはっきりはされていない。
 今夜の月に至っては、少なくとも実際に青く見える月のことを指しているのかも識れないけれど。

(「これほど迄に月が蒼く見えるのは、どういった現象なんでしょう、大気の影響でしょうか」)

 三日月のランプを片手に提げ、空色の浴衣を羽織り、八坂・詩織は徐ろに月を見上げた。

(「……と、いけませんね。つい理屈っぽくなってしまうのは私の悪い癖です」)

 せっかくのお祭りなのだから、楽しまないと。
 祭りの賑わい、人々の喧騒にそっと紛れつつ。
 カラコロリ、石畳に軽い下駄音鳴らし。
 詩織は屋台で月見団子を買い求めると、空がよく見える場所を探し、ベンチに腰を下ろした。

(「本当に、綺麗な青色……。こんな月もあるのですね」)
 団子を軽く摘みながら、持参した小さな双眼鏡越しに蒼く耀く月を観る。
 それはまるで絵画の様な鮮やかな青色で、夜空に静かに佇む姿に詩織は思わず詠嘆の息を漏らす。

 蒼い月、ブルームーンは本当に稀なもの。
 だからこそ。あり得ない、滅多にない、という意味の言葉として使われる程でもあるけれど。
 少なくとも、この世界の蒼い月も稀に見れる神秘的な現象なのだろう。
 それに合わせた祭りがこうして開かれているのだから。

(「……と、なると。この世界ではずっと昔から人々の間で青い月が当たり前に観られてきたのでしょうか」)
 ――は、と詩織は素に戻りつつ。
 ふるりと小さく首を横に振った。

 本当の理由は判らない、けれど。
 今宵の蒼く耀く月はただ静かに、美しくて。
 その事実は紛れもない本物なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『青き月夜の零れ桜』

POW   :    手当たり次第に探す

SPD   :    それっぽい場所を探す

WIZ   :    心惹かれる場所を探す

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
 蒼い月の下、天高く聳え立つ帝都タワー。
 ライトアップされた塔は今宵に合わせた青色に煌めいて。
 暗い夜空に一際美しく、星のように光り輝く。

 蒼月祭の影響で普段よりも人が疎らな帝都タワーの眼前。
 影朧の少女は静かに、その光景を見上げていた。
 そんな少女の耳にも、祭囃子や人々の賑わいが風に乗って聴こえてきて。

(『――お祭り、楽しそう。楽しそう、ね。羨ましい、うらやましい?』)

 黒目がちの瞳は浮かんだ言葉とは裏腹に、なんの感情も映さずに。
 振り返った足元からはふわりと桜の花弁が舞い踊る。

(「みんなお祭りに夢中なら、ちょうどいいわ……」)

 ――ざあっ、と少女の周囲に花弁の嵐が巻き起こる。
 手を翳せばその風は身体から離れ、手の指す方へと吹き荒れて。
 少女の視界の先、幻朧桜の群生地へと、桜の嵐は溶けるように消えていった。

 * * *

「――あ、れ?さっきまでこんな景色だったっけ?」

 祭りに来ていた誰かが、そう呟いた。

 気付けば辺り一面、桜並木に覆われて。先程まで歩いていた石畳や屋台も見当たらない。
 隣を歩いていた筈の家族も、友達も、大切なひとも。
 全てが消えて、桜の景色にのみ込まれてしまったかのように。

「みんな、どこー!?」
「おかあさーん、おとうさーん!!」

 人々の阿鼻叫喚が響き渡る。
 けれどその声は誰にも届くことはなく、ただ桜吹雪の中に溶けていった。

 * * *

 ――祭り会場は、一変して桜並木の迷宮と化した。
 人々は隔離され、閉じ込められて、ただ戸惑うばかり。
 それは猟兵達の身にも等しく降り掛かる。

 出口を探そうと試みるも、それらしい場所は見当たらず。
 けれどふと見上げた先、蒼い桜吹雪に何かの影が視えた。

 それは人かもしれないし、物かもしれないし。
 それ以外の何かかもしれない。
 不思議とあなたの足は歩みを進める。

 その影を追って。
 そうすればこの迷宮から抜けられそうな、そんな気がしたからだ。

 * * *

●マスターより
 現れた影朧により、周囲の幻朧桜の群生地が迷宮化してしてしまいました。
 この迷宮ではあなたの”探しもの”が出口へと導いてくれるはずです。
 影は人でも物でも、それ以外でも構いません。
 けれど逃げ水のように追いつけず、捕まえることは出来ないようです。
 蒼い月夜の下、幻想的な桜吹雪の迷宮を突破してください。

 同行者さんがいる場合、同じものを視ても、別のものが視えてもどちらでも大丈夫です。

●一般人について
 祭りに参加していた多くの人々は同じく桜の迷宮に囚われてしまっています。
 影朧を倒さない限り、この迷宮が解除される事はありません。
 救出も現状は難しいので、猟兵の皆さんは迷宮を抜けて影朧の元へ行くことを優先してください。

 詳細、説明は以上となります。
 それでは、よろしくお願いいたします。
 
 
フィーナ・シェフィールド
ここは…?
桜並木に変わった周囲を見て、異変に気付きます。

「…?」
桜色の影に気づいて振り向くと、桜並木の向こうに見覚えのある着物姿の桜の精。
「鈴鹿、さん?」
見間違えるはずもない、わたしの大切な人。
「あ…待って!」
桜並木の向こうへ歩いていくのを見て、急いで追いかけます。
浴衣でうまく走れないのを差し引いても、なかなか追いつけません。
翼を広げて舞い上がっても、桜吹雪で見失いそうに。

なかなか会えない日が続いているけれど、忘れた日は一日もありません。
幻でもいいから、せめてその笑顔を…

ずっと懸命に追いかけ続けて、後少し、というところで出口に。
「…ありがとう、鈴鹿さん」
帰ったら、お土産もって遊びにいきますね。



 秋の夜風に吹かれ、蒼い桜吹雪が舞う。
 フィーナが冷たい風に思わず身震いすれば、世界は一瞬にしてその様相を変えた。

 先程までの祭りの賑やかさ、沢山の人々の喧騒も風に吹かれて消えてしまったかのように。
 ただ、静寂だけが。
 フィーナの眼前に広がっていた。

(「ここは……?」)

 ――しん、と静まり返る周囲に広がるのは、蒼い月夜に照らされた夜の桜並木。
 淡く輝く幻朧桜の花吹雪が舞う中、青い瞳がふと一点に留まる。
 それは本来の桜の色、フィーナが待ち焦がれる色でもあって。

「――鈴鹿、さん?」

 その影は見間違うはずもない、フィーナにとって大切な人の後ろ姿に視えた。
 桜色の影はフィーナの呼び掛けにも振り返る事無く、桜並木の向こうへと歩き出す。
「あ……、待って!」
 手を伸ばして駆け出そうとした瞬間、履き慣れない下駄で不意に躓きそうになる。
 けれどもフィーナはすぐに視線を上げて、急いで桜色の人影を追い掛けた。

 浴衣姿では何時ものように走れなくて、でも影との距離は縮まることも遠ざかる事もなく。
 翼を広げて空を羽ばたこうとしてみるも、桜吹雪がそれの邪魔をする。
 軽く息を弾ませつつ、フィーナは桜並木の先へと進んでいく影を必死に追い掛け続けた。

 ――なかなか、会えない日が続いているけれど。忘れたことは一日だって無かった。
 幻でもいい。
 せめてまた、あの人の笑顔を見れたら、それだけで……。

「……!」
 桜色の人影が、花吹雪の向こうで足を止めた。
 それはまるでフィーナを待っているようにも見えて。

「――鈴鹿、さ……」
 漸く追い付けた、そう思って手を伸ばした瞬間、桜吹雪がフィーナに襲い掛かる。
 思わず腕で顔を覆い、再び視界を戻せば、あの桜色の影は忽然と姿を消していた。

 そして眼前に聳えるのは帝都タワー。
 延々と続く桜並木の風景も消えて、夜の帝都の空気が戻ってくる。

(「もしかして、導いてくれたんでしょうか……」)

 フィーナは思い出したように、そっとカステイラの包みを抱きしめて。
「……ありがとう、鈴鹿さん」
 ぽつりと零しながら、蒼い月の夜空を仰いだ。

(「――帰ったら、甘いお土産を持って遊びに行きますからね」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

一般の方々は気になりますが
迷宮化の解除が現状難しいのであれば
先へ進むしかありません
行きましょう

蒼い桜…
少し不安になりますね
影を追って
一時でも早くここを抜けましょう

私の探しもの
この事態を引き起こした影朧の少女
貴方を私は捜しています
白燐蟲を呼び出して少しでも明るさを確保
影を見付けたら
可能な限り速やかに後を追います
葛城さんとはぐれないよう
手を繋いで進みます

葛城さんには、何が見えているのでしょうか
…お兄さん
以前お話して下さった事がありますね
能力者として覚醒されていたのなら
それに弟の葛城さんの事なら
きっと助けてくれますね

もし怪我をする事があれば
桜灯籠で治療
はい
私も手は放しません


葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と

花の帳と迷宮か
咲き誇る花は確かに異能や怪異を隠すのにうってつけだけど
「人を惑わせたり泣かせて良いものではないから、ね」
影朧まで必ずたどり着こう

見回すと何処とも知れぬ花闇の先で
何かが動く

ああ、兄貴だ…
反射的にそう思った

「兄貴さ、能力者に覚醒してたと思うんだよね」
だからきっと
解ってて探させてくれるって思うんだよ、と言いつつ

方向音痴気味の俺と違って兄貴は道に迷わない
それ知ってるから疑わず後ろをついてく
神臣の導きの影も良く見て追う

「ククルカン、お前たちも手伝って」

神臣の残花ちゃんと一緒に蟲たちの灯にも照らされながら
花闇を抜け正しい場所に到達するまで
大事なダチの手は離さないよ



 蒼い月の下、桜吹雪が舞う。
 その一瞬の、冷たい夜風が全てを攫ってしまったかのように。
 周囲の景色は蒼い桜並木に覆われた。

 薙人と時人は驚き、互いに顔を見合わせて。
 けれども繋がれた手は離れず、伴に在れたことにホッと安堵の表情を浮かべた。

「……蒼い桜。美しいですけれど、少し不安にもなりますね」
 薙人がぽつりと零した言葉も、夜の空気に静かに溶けてゆく。
 先程までの祭りの賑わいこそが幻だったのではと思うほどに、辺りは静寂に包まれて。
 ざわざわと吹く風だけが応えるように、桜の枝を揺らしていた。

 ――花の帳、桜の迷宮。
 美しく咲き誇る花々は、異能や怪異を隠すのに誂え向きではあるけれど。
「でも、人を惑わせたり泣かせて良いものではないから、ね」
 時人の言葉に、薙人も小さく頷いて。
「ええ、一時でも早くここを抜けましょう」
 囚われたままの人々も気に掛かる。
 彼等を救ける為にも、影朧を追ってこの桜の迷宮を抜け出さなければならない。

 二人は一旦留まり、注意深く周囲を見回した。
 此処が影朧によって作り出された迷宮ならば、闇雲に歩き回るよりも何かの痕跡を探した方が得策だと考えたからだ。
 迷宮を抜ける目印、出口へと繋がる綻びが見つかれば、或いは――。

 ふ、と花闇の先に何かが動く。
 その影に、二人はそっと顔を見合わせた。
「いま、何か居たよね。薙人も見た?」
「……ええ、私も見えました。後を追ってみましょうか」

 月明かりが在るとはいえ、桜の木々に覆われた周囲は薄暗い。
 薙人はふわりと浮かぶ残花を、時人も片腕からククルカンを呼び出して。
「これなら、少しは歩きやすくなるでしょうか」
「うん。ククルカン、お前たちも手伝って」
 白燐蟲の淡く白い光が、二人の周囲を優しく照らし出す。

 桜闇の向こうに居る影は二人を待つように立ち止まり。
 けれども近づこうとすれば、まるで逃げるように遠ざかっていく。

 薙人の視界に映る影は、白いワンピースを着た少女の後ろ姿だった。
(「あの子が、この事態を引き起こした影朧の少女なのでしょうか……」)
 薙人は確かに今、あの少女を捜している。
 心に想う者。だからこそ、追う影もあの姿をしているのだろう。
(「……葛城さんには、何が見えているのでしょうか?」)

「――兄貴さ、能力者に覚醒してたと思うんだよね」
 そんな薙人の心の声に応えたのか否か、時人は影から視界を離さず言葉を零した。

 時人の追う影は、兄の後ろ姿に良く似ていて。
 方向音痴気味の自分とは違って、兄貴ならきっと道に迷わない。
 それを知っているからこそ、幻の影でも疑わずに後ろをついて行けると思った。

「……お兄さん。以前お話して下さった事がありますね」
 うん、と時人は小さく頷く。
「だからきっと、解ってて探させてくれてるんだ、って思うんだよ」

「……ええ、能力者として覚醒されていたのなら。それに弟の葛城さんの事なら、きっとお兄さんも助けてくれますね」
 時人は優しい友人の言葉に柔く笑みを返し、再び視界を前に向けた。

 互いに視えるものの違う、一つの影を追い。
 影が導く、迷宮の出口へと向かって。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
蒼い桜並木の迷宮…!?影朧の仕業でしょうが…
困りましたね、どこまで行っても桜並木が続くばかりで…綺麗ではあるけれどずっと同じ景色というのも…
(…と、いうか私元々方向音痴で迷路とか苦手なんですけど!)

私が迷子になるとよく先輩が探しにきてくれたものだけど。今日は一緒じゃないし…
私以外の人の姿も見えないしどうしよう、と見上げた先にふと先輩の影が視えた気がして。
…─さん!?今日は来てないはずなのに…会いたすぎて幻覚視えた?
ってそれじゃ私が先輩を好きすぎるみたいじゃないですか…
若干赤面しつつ、ともあれ先輩の影を追ってみます。
私が迷った時に見つけてくれて、いつも手を引いてくれるのは私の大切な先輩だから。



 ざわざわと、冷たい夜風が吹く。
 蒼い桜吹雪が宙を舞い、夜空を見上げる詩織の視界に広がっていった。

「――あれ?私、確か月を見ていて……」

 片手には双眼鏡、腰を下ろしていたベンチはそのままだけれど。
 気付けば周囲の景色は鬱蒼とした桜の木々に覆われていて。
 祭りの賑わいも人々も、一瞬のうちに何処へ消え去ってしまったのか。
 こんな奇怪な現象はおそらく、件の影朧の仕業なのだろう。

 詩織は立ち上がると、周囲の様子を伺いながら一歩踏み出した。
 カコン、と下駄の足音が静寂の中に響き渡る。

 当て所無く歩いてみるも、何処まで行っても同じ様な桜並木が続くばかりで。
(「綺麗な景色ではあるけれど、ずっと同じ景色というのも……」)
 いや、そもそも出口らしい場所も道標も見当たらないこの場所は、宛ら桜並木の迷宮とも呼べる。
(「――というか私、元々方向音痴で迷路とか苦手なんですけど!」)
 心の裡で思わず本音を零しつつ。
 ふぅ、と詩織は軽く肩を落とした。

(「私が迷子になるとよく先輩が探しにきてくれたものだけど。今日は一緒じゃないし……」)
 ふと詩織は何時もの日常を思い浮かべるも、小さく首を横に振る。
 ――なんて、今この場に居ない人の事を想ってもしょうが無いのに。

 落ち込んだ顔を再び上げれば、桜並木の先に見知った人の後ろ姿が視えた気がして、詩織は目を丸くした。
「……―さん!?」
 思わず人影に向かって名前を呼んでしまった。
 ――けれど、同時にはたと気付く。
 あの人が此処に居るはずは無い。
 もしかすると、会いたいと想う気持ちが幻覚に現れてしまったのだろうか。

(「――って、それじゃ私が先輩を好きすぎるみたいじゃないですか……」)
 自己解決した結果、詩織は頬が熱くなるのを感じて。
 小さく悶えながらも先導してくれる影を追ってゆく。

 自分が迷った時にいつも見つけてくれて、手を引いてくれる大切な先輩ならば。
 たとえ幻だとしても、きっとこの迷宮の出口へと導いてくれる気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
あれ、帝都タワーを目指していたはずですが、いつの間にか迷宮に迷い込んでいますね?兄さんも見えません。困ったなあ、私迷宮探索苦手なんです。それに一人となると。

とりあえずもふもふなお友達を呼び出して手伝いを頼みますが、何しろ一人なので心細さは否めません。右往左往してると桜吹雪の中に見慣れた影。間違いない、お母さんだ。


いつだってお母さんは逞しい背中で、強い腕で私を引っ張ってくれた。時々物凄く怖い事あるけど、付いていけば、間違いなく先へ進めるって確信出来た。まだまだお母さんには敵わない。

心中を表してるのか、影を追いかけても捕まえられない。でも追いかけていけば迷宮を抜けられる、確信できる。


神城・瞬
おや?目的地は帝都タワーのはずなのにいつの間にか迷宮に迷い込んでますね?奏の姿も見えませんし。奏は基本的に迷宮探索は得意ではないので、一人にするのは不安ですね。まずはこの迷宮を進んで見ますか。

月読の戦士を呼び出してみますが、何しろ未知の迷宮なので進むのに難儀してしまいますね。桜吹雪の向こうに見えるのは律お父さん。義理のお父さんです。男としての生き様を行動で示してくれる、何より僕が憧れ、尊敬する人。その背中に追いつくにはまだまだ遠い。

幾ら追いかけてもお父さんの影は捕まえられない。でも今はこれでいいんです。お父さんの背中を追い続ける事が僕の生きる糧になるから。さあ、迷宮を抜けましょう。



 祭りでお腹も満たした二人は、そのまま並木道を通りながら影朧の現れる帝都タワーへ向かうはずだった――。

「――あれ、兄さん?」
 奏が違和感に気付き振り返って声を掛けるも、先程まで後ろに居たはずの瞬の姿は消えていて。
 それどころか、祭りの屋台も人々も、楽しげな喧騒は忽然と失くなってしまった。
 ざわざわと、桜の木々が夜風に吹かれて揺れる音が響く。

「……もしかして、私、ひとり?」
 様々な依頼や事件にも赴いてきた奏だが、冷たい風のせいか少し身震いをして。
 抱え込む自分の腕を見ながら。あ、と何かを思いついたように両腕を軽く広げた。

「もふもふさん達、お願いします!!」
 もふもふもふっと、奏が広げた両腕の中に沢山のもふもふな動物たちが召喚される。
 ほわほわと優しい温かさに包まれて、奏は一人の心細さを紛らわしつつ周囲に広がる桜並木へと足を進めた。

(「何処も似たような景色……。困ったなあ、私、迷宮探索苦手なんですよね」)
 ぽよぽよもふもふとした動物たちに囲まれて、奏は出口を探してみるも中々それらしい場所は見つからず。
 途方に暮れかけた所で、ふと桜吹雪の中に見慣れた影を見つける。

(「――お母さん?」)

 あの後ろ姿は間違いない。
 奏は反射的にその影を追い掛けていた。

 ――いつだって、お母さんは逞しい背中で、強い腕で私を引っ張ってくれる。
 時々、ちょっと怖い事もあるけれど。
 それでも頼りになるのは間違いなくて、だから今もこうして、私は頼っている。

 追い掛ける母親の背中は未だ遠く、追いつける気がしなくて。
 けれども見失うこと無く、常に奏の先を歩いてゆく。

(「……まだまだ、お母さんには敵わないな」)

 * * *

 ――同刻、奏と同じ様に瞬もまた、桜並木の迷宮へと迷い込んでいた。

「……ここは、」
 周囲は一面、蒼い桜並木に覆われて、傍に居たはずの奏の姿も見当たらない。

(「コレは宛ら、桜の迷宮といった所でしょうか。……とすると、少し心配ですが」)
 奏はこういった迷宮探索は得意ではなかったはず、それに一人で心細く在るかもしれない。
「――まずはこの迷宮を進んでみなければ」

 瞬は月読の戦士を呼び出し、脱出の手掛かりを探しながら桜並木の迷宮を歩く。
 けれども未知の迷宮を進むにも難儀して、出口への痕跡も中々見つからない。

(「……おや、あの人影は……?」)
 桜吹雪の向こうに視えるのは、瞬の義理の父親、律だった。
 瞬が何より憧れ、尊敬する人物でもある。
 そしてその背中は、まだまだ遠い。

 瞬が影を追えば、一定の距離を保ったまま後ろ姿の人影は桜並木の奥へと進んでゆく。
 その光景はまるで、瞬と律の関係性を表しているかのようで。

(「追いつけそうにはないな、でも今はコレ良いのかもしれない」)
 義理父の背中を追い続ける事こそが、自分の糧にもなるのだから。

 そうして幾許かの時は過ぎ、背中を追う律の影がぴたりと足を止めた。
 ――と、同時に強い桜吹雪が瞬を襲う。

「――兄さん!?」
 聞き慣れた呼び声に振り返れば、駆け寄ってくる奏の姿。
「……奏?よかった、無事だったのですね」
「兄さんも!あ、ううん、兄さんならこんな迷宮抜けるのも難しくはないよね」
 ふふ、と瞬は幽かに微笑み返し、奏もにこりと笑みを浮かべる。

 無事迷宮を抜けた先に在るのは、高く聳える帝都タワー。
 二人は再び合流し、帝都タワーへと急ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
とても綺麗。
ふっと溜息をついて、催し物であれば楽しめるものでしょうがそうでないですから解決するのが最優先ですね。
人が作った迷宮なら右手または左手の法則が使えるかもしれませんが、影朧が作ったのならそうもいかないでしょうね。
どう進もうか思案しながら歩いていると足元に見えたのはぽつりぽつりと咲く彼岸花。まるで灯籠のように等間隔で咲く花。
直感できっとこれが私を導いてくれるのだと感じます。
夢現不明瞭なこの場では此岸湖岸の境界に咲くこの花が確実さを感じさせてくれる。
意を決して彼岸花のあとを追いましょう。
少し、少しだけ通り過ぎたあとの彼岸花がどうなったのか気になりますが、黄泉平坂では振り返らぬものですから。



 冴えた月夜に、蒼い桜吹雪が舞い踊る。
 先の視えない、何処までも続くような桜並木の迷宮。
 この神秘的な光景は、影朧が作り出したものではあるけれど。

「――とても、綺麗」

 ふっと溜息をつき、藍は暫し幻想的な眼の前の光景を眺めた。
 これがもし、催し物の一つでもあるならば、素直に楽しめたのかも識れない。
 今はどうやら、そう悠長に構えている時間は無さそうで。
 少し惜しくも感じつつ、迷宮の出口を探すため藍は歩みを進める。

 現実に在るような、人が作った迷路ならば片側の壁に沿っていけば何れ出口に辿り着ける筈だ。
 けれど影朧が作り出したこの迷宮は、そういった類のものとはきっと違うのだろう。
 桜並木にも規則性は無く、ときおり吹き荒れる桜吹雪で視界もままならない。

 どう進めばよいものか、考え倦ねる藍の瞳に一際目立つ紅が映る。
 ――それは、桜の木の根元に咲く紅い彼岸花だった。
 ぽつりぽつりと等間隔に咲き、まるで紅い灯籠のように藍の行先を導いている。

(「……この花を、追ってみましょうか」)

 どのみち他に目印らしきものは見当たらない。
 突如現れたこの彼岸花にはきっと意味があるのだろうと藍は感じた。

 ――そういえば。
 古い言い伝えで、彼岸花は此岸と彼岸の境目に咲く花だと聴いたことがあった。
 葉見ず、花見ずとも云われ。
 此岸に花が咲いている時、葉は彼岸に在り。
 此岸に葉が生えている時、花は彼岸に在るのだという。

 いま目の前に咲く花は何方岸の花なのか。
 それは考えても、きっと答えは判らないけれど。

 灯る彼岸花を辿ってゆく藍は、ふいに足を止めた。
 少し、ほんの少しだけ、今通り過ぎてきた後の彼岸花がどうなったのかが気になったのだ。
 そのまま道標として咲き続けているのか、役目を終えて消えているのか。
 振り返りその目で見るのは簡単なこと、でも……。

 此処が、もし彼岸だとしたら。
 後ろを振り返るのは、きっと良くないことだろう。

(「……私がいま行くべき場所は、此岸へと続く出口ですから」)

 藍は目を伏せ、静かに意を決し。
 けして振り返らずに、紅い花の導く先へと進んでいった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
!?ハロちゃん(f13966)、下がって!
前に出て結界を張るよ

……これは、迷路?
周りを見回すと先にはぼくとハロちゃんの姿を見付けるの
それはとても親密でまるで恋人の様で…
何より大事な|3人組《ファランビー》じゃなくなった、選びたくない未来の一つ

幻影はぼくの欲望そのもので、認めたくなくて、後ずさるの
3人で居られなくなるくらいなら捨てると決めた物だから
この気持ちは決して教える訳にはいかない

ハロ、ちゃん…?
引かれる手は温かく柔らかく、幻影のせいで意識しちゃって…
まるでハロちゃんがその未来を…
いや、だめ、あっちはだめ…

それでも振りほどけなくて、言葉も違う意味に聞えて
ただ顔を背けて引っ張られていくの


ハロ・シエラ
分かりました、ロランさん(f04258)。
無理をしないで……どうやら迷路に閉じ込められたようですね。
とりあえず抜け出しましょう。
……あそこに見えるのは、ピンクの猫と竜胆色の狼。
何だかとても暖かくて心地良い雰囲気で、しかも私を呼んでいるような気がします。
私の【第六感】も告げています、あの子達についていかなければならないと。
ロランさん、あの子達がきっと出口に案内してくれます。
急ぎましょう……どうしたんですか?
どうやらロランさんには何か恐ろしい物が見えているようです。
ですが、それなら尚更早く脱出しなければ。
ロランさんの手を取り、猫と狼の導くまま走り出します。
大丈夫、怖くありません。
私が守りますから!



「――!?ハロちゃん、下がって!」
 祭りを楽しむさなか、ロランは不穏な空気をいち早く察知し、反射的にハロの前に出て魔法の結界を張った。
「ロランさん?……大丈夫ですか、無理しないで」
 ハロは一瞬驚きつつも、周囲の異変に気付きロランの後ろで気配を研ぎ澄ます。

 すると祭りの賑やかさは一変し、二人を取り囲む景色は蒼い桜並木へと姿を変えていった。
 ざわざわと桜吹雪が舞い、鬱蒼と生い茂る桜の木々、それはまるで先の見えない迷宮のようで。
 二人は思わず顔を見合わせた。

「……これは、迷路?」
「ええ。どうやら、閉じ込められたようですね」

 影朧によるものだろうか、とすれば此処に長居するのは得策ではない。
 何処かから抜け出す方法はないかと、二人は桜並木を慎重に進みつつ、辺りを見回していった。

(「――?あそこに見えるのは……」)
 ハロは桜吹雪の向こうに、小さなふたつの影を見つける。
 それはピンク色の猫と、竜胆色の狼だった。
 不思議とその二匹に既視感と温かい心地好さを覚えたハロは、一歩踏み出す。

「ロランさん、あそこに見える――、」
「え……?」
 きょろきょろと周囲を警戒していたロランは、ハロの指し示す方向に視線を向けた。

 桜吹雪の向こうに佇むふたつの人影、それは自分自身と隣に居るはずのハロだった。
 思わずロランはハロに振り返るが、当の彼女はいつも通りの表情で赤い瞳を向けてくる。

(「ちがう、あの影はまぼろしで……。ううん、それよりも、」)
 ロランの視線の先に居る幻影の自分たちは仲睦まじく、笑い合っている。
 それは傍から見れば、親密な恋人同士のようにも見えて――。
 けれどその光景は、ロランの選びたくない未来の一つだった。

 ――三人で一組、ぼくらファランビーはいつも一緒だった。
 三人で遊んで過ごした、かけがえのない日々。
 三人で居られればそれだけで楽しくて幸せで、だからこそ、

 ――壊したくない。認めたくない。
 あの幻影は、ぼくの欲望そのものだ。
 内に秘めた気持ち、表に出してしまえば今のこの関係が音を立てて崩れ落ちる気がして。
 だから決して、彼女にも教える訳にはいかない……。

「……ロランさん、大丈夫ですか?」
 ハロは様子のおかしいロランを察し、心配そうに顔を覗き込む。
「――あ、ハロ、ちゃん……?」
 ロランは必死に取り繕うように、俯きかけていた顔を上げた。
 その様子に、ハロは小さく笑顔を浮かべて。
「ロランさん、あの子達がきっと出口に案内してくれると思うんです。だから追い掛けてみましょう?」

「え……、いや、だめ、あっちはだめ……」
 行きたくない、見たくない。
 幻影だと頭では理解していても、ロランの身体は動いてくれない。
 拒絶するロランにハロは心配そうに首を傾げつつ、自分が視える猫と狼を見つめ直して。

(「もしかして、ロランさんには別の恐ろしいものが視えているのでしょうか……」)

 ――それなら、とハロはロランの手を取った。
「大丈夫、怖くありません。私が守りますから!」
 追い掛けましょう!と、ハロは猫と狼の導くままに走り出す。

「ハロちゃん、ま、まって……」
 引かれる手は温かくて柔らかくて、あの幻影のせいで嫌でも意識してしまう。
 けれど繋がれた手は振りほどけない、そんな事出来るはずもなくて。

 ぐるぐるとロランの裡で沢山の感情が渦巻いてゆく。
 今はただ、彼女に引かれて着いていくのが精一杯だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『桜の霊』

POW   :    花の散るらむ
命中した【包囲し孤立させる強烈な桜吹雪】の【花弁】が【無限の痛みを与え続ける棘】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    命ともがな
レベルm半径内を【視野を完全に奪う桜吹雪】で覆い、[視野を完全に奪う桜吹雪]に触れた敵から【抗う気力と生命力】を吸収する。
WIZ   :    我が涙かな
レベル×10m内のどこかに【忘却の有無を問わない過去の恐怖】を召喚する。[忘却の有無を問わない過去の恐怖]を見た敵は全て、【足許より這い上がる桜花から生命力奪取】によるダメージを受ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黒葛・旭親です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
 癒やす筈と願われて、庭に植えられた一本の桜の木。
 その桜に宿ったのが『わたし』だった。
 毎日のようにあの人はわたしを愛でてくれた。
 だからわたしは沢山の花を咲かせた、あの人もその姿を喜んでくれたから。

 ――そうして沢山の季節が巡り、ある冬が過ぎた春の頃だった。
 あの人が、わたしを見に来てくれなくなったのは。

 誰の目にも留まらず、放置された桜の木は瞬く間に花が付かなくなって。
 朽ち果てる家屋と共に、庭木の桜も枯れ落ちたのだ。

 * * *

(『――ゆめ?……懐かしい、イヤなゆめ』)

 蒼い月夜に耀く、帝都タワー。
 其れを形造る鉄骨に腰を掛け、影朧の少女は地上を見下ろしていた。
 タワーの根本からは無数の桜の木々が伸び続け、塔を包み込むように侵食してゆく。

 祭りの人々を閉じ込めた桜も、この塔を呑み込む桜も、こんなに沢山の桜を操る力はわたしには具わっていなかった気がするけれど。
(『この場所は、沢山の霊力が集まっている、だからかしら……』)
 桜の霊である自分の力も高まっているのを感じて。

 影朧の少女は徐ろに頭上を見上げた。
 取り分け、この塔は特別だ。
 天高く聳えて、幻朧桜の力も人々の想いも一心に集めている。

(『……わたしだって、本当は――』)

 どう、成りたかったのだっけ?
 肝心の部分は曖昧で、けれど唯、欲しかった記憶は強く刻み込まれている。

 羨ましい、妬ましい、憎い――。

 だからもういっそ、わたしのモノにしてあげるの。
 今のわたしにはその力が具わっている、誰にも邪魔はさせない。

 ざわざわと桜の木々に侵食されてゆく帝都タワーは、ただ静かに光り輝いていた。

 * * *

●マスターより
 待ち受ける影朧は、桜の精に成りそびれた桜の霊の少女です。
 帝都タワーを桜の木々で覆い尽くし、その力を自分のものにしようと目論んでいます。
 少女と対峙し、帝都タワーをどうか守り抜いてください。

●プレイングボーナス(2種)
 ・蒼月祭(1章の祭り)に参加した方。
 守護の霊力を得た状態で戦えます。
 敵の攻撃を任意のタイミングで一度だけ無効化出来ます。
 戦法にどう組み込むか、敢えて使わないかも皆様にお任せします。

 ・鉄骨でできたタワーを利用して応戦する。
 敵はタワー上部に居座り、鉄骨を足場として移動しながら遠隔攻撃を仕掛けてきます。
 同じようにタワーを飛び回りながら応戦すると有利に追い詰める事が出来るかもしれません。

●影朧の少女『桜の霊』
 過去の記憶が曖昧な影朧です。
 帝都タワーに集まる守護の霊力の影響で、本来よりも強力な力を駆使出来ています。

 種族:桜の精の方は、優先的に敵の攻撃の対象にされやすくなります。

 影朧なので平和的に転生を促すことも出来ますが、説得の難易度は高めです。
 行動不能にさせることで強制的に転生させることが出来ます。
 桜の精の方が居れば、影朧の最期を癒やして転生をさせることも可能です。

●プレイングについて
 こちらはボス戦です。
 敵は一体ですので、必然的に止めを刺せるのもお一人になります。
 その役はいただいたプレイングやタイミングにより、此方で決めさせていただきます。
 出来るだけご希望は反映出来るように善処しますが、
 その点を踏まえて行動を考えていただけると良いかと思われます。

 例:止めを刺す部分を中心に書かれますと、結果的に活躍の場が少なくなる事もあります。

●連携について
 この章では複数人を纏めて描写させていただく場合があります。
 グループ参加の方はグループ単位で扱いますので、ご心配なく。

 詳細、説明は以上となります。
 それでは、よろしくお願いいたします。
 
 
フィーナ・シェフィールド
桜の精になれなかった、桜の霊…
もし桜の精になっていたら、もしかしたらお友達になれたかも。
せめて転生して次の生で出逢えることを祈って、今は戦います!

「ドローン展開!」
翼を広げてタワーの鉄骨に舞い上がると、シュッツエンゲルにオーラを纏わせて周囲に展開、防御の結界を形成します。
桜の精の方がみえましたら、シュッツエンゲルをいくつか飛ばしてかばいましょう。
過去の恐怖…大切な人ともう会えないかも、と言うあの想いだけは、もう味わいたくありませんね。

「貴女はどんな風に咲きたかったの?」
問いかけつつ、ツウィリングス・モーントを左右に配置し歌う準備。
無事に転生されることを願い、破魔の力を込めた【輪廻の唄】を桜の霊に向けて歌い、その存在を浄化します。

守護の霊力を受けたオーラで攻撃を防ぎつつ、心を込めて歌い続けます。
「大地に根を張って、新しい花を咲かせてください!」
そして、わたしの大切な人のように、今度は桜の精になれることを祈り願って。

「運命が微笑みかけてくれたら、笑顔で巡り会えますように」
お別れの時も笑顔で!


夜鳥・藍
目的と手段が入れ替わってしまったよう。
同情する所はありますが放置はできません。
まずは動きを止めなければ。

白銀を呼び出し騎乗して追いかけます。移動は白銀にお願いして私は攻撃に専念です。
彼は翼をもち飛ぶことができますし、鉄骨を足場とする空中の移動も私より得意でしょう。
さらに鳴神も貸与します。
私は青月を抜き少しづつ距離を詰めて参りましょう。
桜吹雪を守護の霊力で振り払いそのまま突き進み、私と白銀とで斬りかかります。

私だって朧げながらも強い想いが残ってる。
寂しい、そばにいてくれないならせめてそう答えて欲しかった。
でもそれだけじゃだめなのよ。せめて彼女の行く先がありますように。


八坂・詩織
イグニッション!
髪を解き、瞳は青く変わり防具『雪月風花』を纏う

あの影朧は誰かに見つけてほしかったんでしょうか…
生憎と私は桜の精ではないですし説得も難しそうですからここは戦いに専念しましょう。

雪女の力で吹雪の竜巻を身に纏い【オーラ防御】。桜吹雪を【吹き飛ばし】視界を確保、気力と生命力吸収に抗う。
指定UC発動、月祭中の今なら時間制限はありませんね。桜吹雪の花弁を月光の刃で斬り裂きつつ倍増した能力を持って鉄骨を足場に飛び回り、姿を捉えたところで加護による攻撃の無効化。一気に距離を詰め月光の刃を【一斉発射】。
桜の迷宮を幻であっても大好きな人と歩めたことには感謝しますよ。
周囲に聞こえないようにぽつりと。



『――だれ?』
 ぽつりと小さく零された言葉は、桜吹雪に掻き消される。
 帝都タワーから見下ろす人影は何処にでも居そうな白いワンピース姿の少女。
 影朧の少女は桜の迷宮を抜けてきた猟兵達に気付き、ゆらりと立ち上がった。

(「――あの子が、」)
 桜の精に成れなかった、桜の霊。
 フィーナは帝都タワーに駆け付けるさなか、見上げた塔に居る人影をみやる。
 見た目は本当に、普通の女の子だ。
 もしも、出会い方が違って。
 あの子が桜の精に成れていたならば、好い友人になれただろうか?
 フィーナは大切な誰かを一瞬重ね、柔く目を細める。

 ――朧気に霞む記憶。
 けれど強い想いだけは残っていて。
 それは何処か自分にも似ていると、藍は影朧の少女の想いを汲む。
 その記憶と想いの入れ違いが、今の少女を突き動かしているのかも識れない。
 自分も誰かの願いから生まれた存在だからこそ、影朧には同情してしまう所もあるけれど。
(「だからといって……放置はできませんね」)
 少女の行いは赦されるものではない、猟兵として対峙するならばやるべきことを。

(「あの影朧は、誰かに見つけてほしかったんでしょうか……」)
 肝心の誰かはあの少女自身にも判らないようだけれど。
 その想いだけは強く伝わって、詩織は複雑そうに口を結ぶ。
 自分は桜の精ではない、癒やしや転生に関わることは出来ない。
 ――でも、戦う事はできる。
(「イグニッション!」)
 ふわりと詩織の黒髪が解け、瞬く瞳は青く、花と蝶が舞う白い着物を身に纏い。
 詩織は氷雪舞う雪女へとその姿を変えた。

『……邪魔を、するのね。――させない!』
 帝都タワーへと向かってくる者を邪魔者だと認識すれば、影朧の少女元に桜花の力が集う。
 手に集めた力を解き放ち、視野を奪う程の猛烈な桜吹雪が猟兵達に襲い掛かった。
「吹雪なら、こちらも吹雪で対抗すれば――!」
 詩織は盾になるように前に踊り出た。
 自らも吹雪の竜巻を身に纏い、桜吹雪を受け止める。
 そうして逆に吹雪の力を利用し、桜吹雪ごと吹き飛ばした。

「ありがとう!よし、――ドローン展開!」
 フィーナは詩織が吹き飛ばした桜吹雪の隙間を抜け、翼を広げ風に乗った。
 耀くドローン、シュッツエンゲルと共に向かうは影朧の元。
 空中に飛び上がり、周囲にオーラを纏わせたシュッツエンゲルを展開し、味方側に防御の結界を形成する。
「――私も、行きましょう」
 藍も翼を持つ銀狼、白銀を召喚し、騎乗して影朧を追い掛ける。
 途切れた桜吹雪の間を、青と金の瞳の銀狼がふわりと宙を舞った。
 移動は白銀に任せ、藍は青月をすらりと抜き、影朧との距離を詰めてゆく。
 すると今一度、敵の桜吹雪が藍を襲う。
 透かさず藍は守護の霊力で身を守り、吹雪を振り払うとそのまま影朧の元へと突き進んだ。
『……その力は――!?』
 何かの加護によって護られた、その力は他でもない幻朧桜の守護の力。
 影朧の少女はその霊力を感じ取り、驚きと怨めしさで表情を歪ませる。
 その一瞬の隙を、藍と白銀は見逃さなかった。
 白銀が咥えた鳴神と、蒼白く耀く藍の青月の刃が影朧を斬り裂く。
 相手が桜の霊だからだろうか、振り下ろした感触は不思議と無く、代わりに斬り付けた少女の腕からは桜の花弁がぶわりと飛び散った。
『――っ……!』
 影朧の少女は苦痛の表情を浮かべ、斬り付けられた腕を抑える。
 その姿に藍は少しばかり心が傷んだけれど、手心を加えるつもりも無い。

 カン、カン、と鉄骨を飛び回る軽やかな音を奏で、詩織も次いで影朧の元へ辿り着く。
 蒼い月から零れる月光の魔力を浴び、宙に浮かぶ月の刃を携えて。
 けれど少女の痛ましそうな姿に、思わず躊躇いが生まれた。
「――あの桜の迷宮を作ったのも、あなたですよね?」
『……そう、だけど、あなた達を閉じ込めるのは失敗した』
 詩織は小さく頷き、そっと少女に向かって小さく言葉を零す。
「……幻であっても、大好きな人と歩めたことには感謝しますよ」
『――?だいすきなひと……』
 影朧の少女はその言葉に一瞬表情を和らげて、けれど次の瞬間には二人の元を離れるように反対側の鉄骨へと飛び移る。

「――貴女は、どんな風に咲きたかったの?」
 結界の形成を終え、フィーナもふわりと影朧の元へと飛んでくる。
『……あなたたちには、何もわからないわ』
 話すつもりもない、少女の表情がそう物語っている気がした。
 ――そう。とフィーナは落胆を瞳に落とし、次いで新たなドローンを宙に飛ばす。
 それは小型のスピーカーの役割を担う、ツウィリングス・モーント。
「それならせめて、転生して次の生で出逢えることを祈るだけ」
 フィーナは願いと破魔の力を込めた輪廻の唄を少女に向けて唄う。
 その存在を浄化し、鎮め、癒やすように――。

『――イヤ、やめて……』
 影朧の少女は耳を塞ぎ、咄嗟に桜吹雪の竜巻をフィーナに向けて放つ。
 然しフィーナは守護の霊力でその一撃を防ぎつつ、歌い続けることをやめなかった。
「今は辛いかもしれないけれど……。運命が微笑みかけてくれたら。いつかまた、きっと巡り合えるわ」
 大地に根を張り、新しい花を咲かせるように。
 そして、わたしの大切な人のように、今度は桜の精になれることを祈り願って。
 フィーナの唄声が、帝都タワーへと響き渡る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・奏
瞬兄さん(f06558)と参加

戦場で幾度か桜の精の方とご一緒しました。その方も色々考え、桜の精ゆえの背負った事情に苦しんでいました。桜の精はいいことばかりではないのですよ。ただ、生まれる事情を考えれば、敵の気持ちもしょうがないといえるかもしれませんね。でも、害を及ぼすのは看過できません。

守護の力は、花弁が突き刺さる攻撃に使用します。突き刺さる事さえ防げば害はない。ただ、桜吹雪がメインである以上、【オーラ防御】【盾防御】【武器防御】【拠点防御】での防御体勢は万全に。

攻撃は【限界突破】を併せた森羅牙道砲で。その動き、崩させていただきます。

悲しい思いを抱えた貴方。せめてその手を血で染める前に。


神城・瞬
妹の奏(f03210)と参加

戦場でご一緒した桜の精の方は深く考え、出自ゆえに苦しんでもいました。桜の精は必ずしもいい事ばかりではありません。でも生まれる事情を考慮すれば、目の前の敵の様な無念の思いもあり得ますね。しかし、害となるならば。

朧月夜の狩人を召喚。召喚した狩猟鷲の一匹に捕まり、飛び回ります。守護の力は攻撃の過去の恐怖を無効化するのに使いますが、攻撃は足元からくるため、飛ぶのはその攻撃の範囲から逃れる為ですね。【オーラ防御】【心眼】で防御の準備を。

攻撃は無数の狩猟鷲と共に【高速詠唱】【全力魔法】【限界突破】を併せた【電撃】で。

貴方が愛した世界を傷つけさせたくありません。せめて、その前に。



 奏と瞬の二人は桜の迷宮を抜け合流し、帝都タワーへと急いだ。
 既に塔の下層は桜の木々に覆われて、鉄骨に立つ小さな人影を遠目に見る。
 人影の周囲には桜吹雪が吹き荒れている、あれが件の影朧なのだろう。

 二人は今までも、幾度か戦場で桜の精を目にしてきた。
 その出自と与えられた力に悩み苦しむ者も屡々で、桜の精に成ることは必ずしも良いことばかりではないのも識っている。
 けれど、きっとあの少女には彼女なりの強い想いもあるのだろう。
 それを無碍にすることも出来ない、が――。

「でも、周囲に害を及ぼすのは看過できませんね」
「……ああ、ならば」

 二人の思いは一緒だった。
 瞬が小さく指笛を吹けば、無数の鷹が現れる。
 その一匹に捕まり、瞬はふわりと鷹とともに飛び上がった。
「奏、援護を頼みましたよ」
「はい!兄さん、まかせてください!」
 奏は瞬を見送り、意識を集中して力を溜める。
 隙を見て兄の援護を出来るように、その集中が削がれないよう、敵の桜吹雪による攻撃に備えてオーラを纏い防御も固める。

 瞬は鷹の翼を得て帝都タワーの上層、影朧の少女の元へと近付こうとする。
『――来ないで!』
 影朧の少女が瞬の存在に気付けば、桜花の力を行使した。
 それは恐怖を連れた桜の木々。
 捕まれば立処に生命力を奪おうとする其の攻撃を、瞬は守護の霊力で攻撃を跳ね除ける。
 ざわざわと追尾する桜の木々は勢いを失い、飛翔する鷹の翼には追い付けない。

『……また、そのチカラなのね……』
 影朧の少女は自分の桜花の力が、幻朧桜の守護によって防がれる事に余程堪えているのだろうか。
 対峙する猟兵達がその力を使う度に、戦意を喪失していくようで。

 放心して動きが止まった瞬間を、地上から注視していた奏の目に留まる。
「――その動き、崩させていただきます」
 悲しい思いを抱えた貴方が、その手を血で染める前に止めなければ。
 溜めた力と想いを込めた衝撃波が、影朧の少女を一直線に狙った。
 少女は迫りくる巨大な力に咄嗟に気付いて振り向くも、受け身を取ることは間に合わず、打つかる衝撃波により身体を蹌踉めかせる。
『――っ……!』
 少女の顔が苦痛に歪む。
 タワーの鉄骨から足を踏み外しそうになり、慌てて近場の足場へと着地した。

「……これ以上、貴方が愛した世界を傷つけさせたくありません。せめて、その前に」
 影朧の少女が着した足場には既に、瞬が先回りをし魔法の詠唱を整えていた。
『……!』

 ――刹那、帝都タワーに雷鳴が轟き、桜吹雪が舞い散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「貴女も此の地の桜に縁在る方だったのですね…」

UC「精霊覚醒・桜」
桜鋼扇構えマッハ12で吶喊
彼女の体を両断する勢いでぶち抜く
上半身抱え転生説得
彼女の攻撃は 避けず受け
血を吐いても笑う

「人の生命は樹より儚い。貴方の愛した方が貴女に会いに来れなくなったのは、きっとその方がお亡くなりになったからでしょう。家すら直ぐに朽ちたのは、継ぐべき方がなかったからでしょう。其の方の最期を看取り慰められなかったのが、貴女の後悔ではありませんか。人ならば桜の精ならば、彼の方を最期迄看取り慰められたのに、と」

「人は転生をするものです。貴女も転生して、彼の方に添われませ。彼の方に添いたいと強く願えば、願いはきっと叶います」

「桜は桜を見捨てません。此の儘只朽ち消えるより、自らの願いの儘に転生なさいませ。彼の方と貴女が共に連れ添い幻朧桜を眺めにいらっしゃるのを、私達も楽しみに待っておりますから」
鎮魂歌歌う

何時か御所の桜になって
今上帝の御心の慰めに成れれば
こんなに嬉しい事はない
「私は…貴女が少し、羨ましい」
見送り又歌う



 月夜に耀く帝都タワーを前に、桜花は桜鋼扇をしゃらりと広げた。
 タワーに視える人影、件の影朧を見据えて自身の周囲に渦巻く桜吹雪を巻き起こす。
 それは桜の精、幻朧桜から生まれた桜花の力だ。

(「貴女も、此の地の桜に縁在る方だったのですね……」)

 自身も桜の精、そして相手の境遇を垣間見た今は、伝えるべき言葉も在る。
 桜花は桜吹雪を纏い、トンと地を蹴ると高速で宙を舞う。
 そして吶喊の勢いで影朧の少女を目掛けて飛んでゆく。

 一瞬にして迫りくる桜花に咄嗟に気付けば、影朧の少女は反射的に自身の桜吹雪を放った。
 その花弁は鋭利な棘のように変化し、迫る桜花に襲い掛かる。
 然し桜花は速度を緩めず、花弁の攻撃を真正面から受け止めて少女に全身で打つかってゆく。
『――わたしの花弁を正面で受け止め――……きゃあっ!』
 影朧の少女は避けもせず突貫する桜花に驚愕しつつ、衝撃で桜花ごと固い鉄骨の上に倒れ込んだ。

 身体に刺さった幾つもの花弁から、肌を通して鈍い痛みがじわりと伝わる。
 それでも桜花は笑顔を絶やさず、凭れる影朧の少女に迫るように語り掛ける。

「人の生命は樹より儚い……。貴方の愛した方が貴女に会いに来れなくなったのは、きっとその方がお亡くなりになったからでしょう」
『――え?』
 少女は突然の話に黒目がちな瞳を瞬かせた。

 ――そう、きっと少女が宿っていた桜の木と共に家が朽ちたのも。
 きっと其処に住むべき人が居なくなったからだろうと桜花は考えた。
「……其の方の最期を看取り慰められなかったのが、貴女の後悔ではありませんか?」
 もし桜の木ではなく、人ならば、桜の精だったなら。
 彼の方の最期を、行末を見届けることが出来たかもしれないのだから。

『……わたし、は、』
 少女は記憶を辿るも、抜け落ちた其れは見つけることが出来なくて。
 虚ろだった瞳に正気を取り戻せば、桜花の身体を払い除けて距離を取る。

『――わたしは、願われた。だから成りたかった、只其れだけよ』
 少女は曖昧な記憶の中、意思を保つようにふるりと首を横に振る。

 桜花はゆらりと身体を軋ませながら立ち上がると、目の前の少女へ向き直った。
「人は転生をするものです。貴女も転生して、彼の方に添われませ。彼の方に添いたいと強く願えば、願いはきっと叶います」
『……願い、』
 その言葉に少女の顔が歪む。
『けれど、もう願ってくれるあの人は居ないの。あなたの云うように亡くなったのかもしれないし、わたしを置いて何処かへ行ってしまったのかもしれない……』
 少女は小さく項垂れた。

「――ならば、私が願いましょう。桜は桜を見捨てません」
『あなたが……?』
 少女は桜花の言葉に顔を上げる。
 その表情には変わらず笑顔が零れていて、少女は否定も肯定もせずに只真っ直ぐ見つめ返した。

 ――転生し、何時か御所の桜になって。
 今上帝の御心の慰めに成れれば、こんなに嬉しい事はない。
 桜の精は幻朧桜から生まれた者なのだ。
 大正の世を愛し今上帝のお役に立ちたいと願うのは、当然だろうと。

「私は……貴女が少し、羨ましいです」
 転生し、次の生を迎えられる影朧に対し、桜花はそっと目を細めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハロ・シエラ
ロランさん(f04258)の様子がおかしいのは気がかりですが、何とか迷宮は抜けました。
一体どんな幻覚を見せられたのか……どうやらそれを推理している暇はなさそうです。
敵の攻撃で視界と気力を奪われ、その衝撃で繋いでいた手を離してしまいます。
視覚ではなく【第六感】の導くままに再びロランさんの手を取ったはいいものの、このままではやられてしまうのは時間の問題でしょう。
吸収されていく気力と生命力を【気合】で補い、何とか耐えて……気付くと少しずつ体力が戻ってきていました。
どうやらロランさんが気を取り直してくれたようですね。
戦闘中ながら、思わずほっと安心のため息をついてしまいます。

いいえ、大丈夫です。
ここから反撃開始と行きましょう。
狼の脚力には敵いませんが私も【軽業】で鉄骨を飛び移って敵に追いすがります。
私達なら言葉を交わさなくても連携が取れます。
どこかタワーの角に追い詰めて、ロランさんの魔力も借りてユーべルコードの一撃を放ちます。
行きますよ、ロランさん……逆転です!


ロラン・ヒュッテンブレナー
ハロちゃん(f13966)に手を引かれて迷宮を抜けた後も心は乱れていて
桜の霊が現れたのにも気が付かないで
相手の攻撃に咄嗟に結界魔術を発動しようとして、失敗してタワーから弾き飛ばされるの
心の乱れは魔術の行使に影響して、ぼくに手立てはなくて、これで終わりかと覚悟して

無意識に伸していた手を掴まれるの
その先には相手のUCを受けて傷付いていくハロちゃん
幻覚に惑わされて、自分の感情に振り回されて、今側にいる大事な人を守れて無くて、ぼくは何をしてるんだろ?
必死に助けようとしてくれるハロちゃんの姿が自覚させる
ぼくはハロちゃんが、二人の事が…

UC発動、大事な人を傷付ける者は許さないの
足下に結界を作ってそれを蹴って復帰するの
ハロちゃん、ごめんね
もう、傷付けさせないの

一緒に鉄骨を利用しながら狼の脚力で飛び回って桜の霊さんを追い詰めるよ
ぼくたちの連携なら簡単なの
花びらはぼくのUCが風化させるの
この危険な力もそればかりじゃない!

追い詰めたらハロちゃんと手を繋いで魔力と霊力を預けるの
うん、ハロちゃん!この一撃で!



 繋がれた手は離さずに、二人は桜の迷宮を何とか抜け出した。
 視界が晴れた眼の前に聳えるは、夜空に耀く帝都タワー。
 件の影朧もきっとあそこに居るのだろう。

 ハロはロランの手を引きながら、少し息を乱して早足に駆ける。
(「ロランさんの様子がおかしいのは気がかりですが……」)
 未だ狼の少年は俯いたまま、成すがままに自分の手に引かれている。
 彼が桜の迷宮でどんな幻覚を見せられたのか、今の状況はきっとそれが原因には違いないけれど……。

 ――けれどその原因を、ゆっくりと推理している余裕は無さそうだ。
 帝都タワーに近付いたところで、タワーから強烈な桜吹雪がハロに襲い掛かる。
 おそらくタワーに駆け付けた自分達に気付いた影朧による攻撃だろう。
「――っ……!」
 ハロは咄嗟に攻撃を防ぐように腕を翳すものの、視界を覆う桜吹雪に為す術もなくのみ込まれてしまう。
 ――瞬間、
「――!ロランさんっ!」
 その衝撃で、繋いでいた少年の手を離してしまった。
 ハロは桜吹雪の中に独り取り残され、荒れ狂う嵐に取り囲まれる。
 視野を完全に奪う桜吹雪は、少女の気力と生命力を徐々に蝕んでいった。

「――っ!?」
 ハロの手がふいに離れ、成すがままに引かれていたロランは躓く様に視界が反転する。
 直後、影朧の攻撃を肌で感じ取り、咄嗟に結界魔術を発動しようとするが其れも上手くいかず、小さな少年の躰は弾き飛ばされた。
 硬くて冷たい地面の衝撃に、ロランは漸く視界を取り戻す。
 けれど桜の迷宮で見た幻は未だ脳裡に焼き付いて、心の奥を掻き乱していた。
(「……そうだ、集中しないと。でも……」)
 心の乱れは魔術の行使に直接影響する。
 落ち着いて、いつも通りに。
 そう意識すればするほど、魔力の回路が紡げ無くて。
(「こんなんじゃダメだ、ぼくは……」)

 無意識にロランは手を伸ばしていた。
 離してはいけないもの、今掴むべき大切な何かを探すように。
 宙を彷徨う手の行先は、温かくて優しい――、
「……ロランさん……っ」
 桜吹雪く嵐の中、ハロは離れてしまったロランの手を必死に探して、そうして再び繋ぎ留めた。
「――ハロちゃん……!?」
 ロランは掴んだ手を握り直し、眼の前の光景を目の当たりにする。
 影朧の攻撃により疲弊し傷付くハロ、それでも自分の手を掴んでくれた彼女に。

(「……ハロちゃんがこんな目にあっていたのに、ぼくは、」)
 幻惑に惑わされ、自分の感情に振り回されて。
 眼の前に居る大事な人も守れない。一体、何をしているんだろう?

(「そうだよ、ぼくはハロちゃんが、二人の事が……」)
 顔を上げたロランの瞳に光が宿り、身体に魔力が充ちる。
「――大事な人を傷付ける者は、許さないの」
 足元へと展開した結界を踏みしめ、ロランはハロの隣に立ち並ぶ。
 結界で桜吹雪の影響を弱めつつ、ハロに治癒力活性化の力を与えた。
「ハロちゃん、ごめんね……。もう、傷付けさせないの」
「ロラン、さん……」
 影朧の攻撃に何とか耐えていたハロの身体が徐々に楽になる、ロランの力により体力が少しずつ戻ってきていたのだ。
 傍らで自分を心配そうに見つめるロランの姿に、ハロは安堵の表情を浮かべて。
「……いいえ、大丈夫です。ここから反撃開始と行きましょう」
「――うん、行こう!」

 回復したハロも立ち上がり、二人は改めて帝都タワーを見据える。
 桜吹雪の攻撃を放ってきた影朧。桜の霊はタワー上部の鉄骨を足場に、此方を見下ろしていた。
 空を飛ぶ手段は持っていない、けれど二人には身軽な躰と脚力がある。

 言葉無く目配せをしたロランとハロは、同時に駆け出した。
 ロランは狼の脚力を、ハロは軽業な身の熟しでタワーの鉄骨に飛び移り、素早く駆け上る。
 影朧を追い詰めるように縦横無尽に飛び回り、二人は敵との距離を縮めてゆく。
『――っ、来ないで!』
 桜の霊の少女は再び桜吹雪の嵐をハロに向けて放つが、間に割り込んだロランの目の前で花弁は褪せるように風化し、ぼろぼろと散り落ちる。
 死の循環による生命の早送り、その力を一瞬にして高め、襲い掛かる花弁を全て風化させたのだ。
『……わたしの桜が……!』
 終わらせるだけじゃなくて、誰かを生かせる力。
 そう、こうして攻撃を防ぐ盾にだって成れる。
(「この危険な力も、そればかりじゃない――!」)

「桜の霊さん、追い詰めたの!」
 思わず怯んだ影朧が次に飛び移った先は、逃げ場のないタワーの角だった。
「先程のお返しです」
 ハロが生み出した雷の短刀に、繋いだ手から伝わるロランの魔力と霊力が合さる。
「行きますよ、ロランさん……逆転です!」
「うん、ハロちゃん!この一撃で!」

 二人の力を合わせた強烈な一撃が、影朧に振り下ろされた。
 桜の霊の少女の躰からは、弾けるように沢山の桜の花弁が舞い散ったのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

やっと、追い付きました
ここを手に入れて
本当に貴方は満たされるのでしょうか
私にはそうは思えない
葛城さん
ありがとうございます
全力で止めに行きます

鉄骨に飛び乗って真の姿解放
初手でヤドリギの織姫使用
多重詠唱で葛城さんにも同時に

鉄骨から鉄骨へ飛び移り
可能な限り近付いて植物の槍で攻撃
狙う際は足元を
相手が移動すればすぐに追跡
過去の恐怖
恐らくは死に瀕した時の記憶
大丈夫
私は生かされたから
だから今この姿でいる

負傷時は生命の実で治療
葛城さんの負傷時も同様に
足場には気を配り
攻撃等で落下しないよう注意
万一の際は葛城さんに掴まって回避
ご迷惑おかけしてばかりですね

声が届く位置まで来れば呼び掛けを
貴方は桜の精になりたかったのではないのですか
それなら
妬みも憎しみも全て私が引き受けます
貴方が呼び出す恐怖も受け入れます
私は助けて貰ったから
忘れられる事も無かったから
だから
貴方は妬んで、憎んでいい
それが過ぎ去ったら
もう一度、生まれ直しませんか
私には貴方を
桜の輪廻に戻す力がある
次の生の幸いを願わせて下さい


葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と

本物への嫉視と憧憬と絶望と慟哭が
ないまぜで激烈になってる感じ
気持ちは分かるけど…放置は出来ないね

神臣が転生を必ずと決意した顔で俺を見る
「思うようにして良いんだよ」
手伝うよ
それが俺の当たり前

「起動!」
真の姿を解放しUC白燐武空翔詠唱
全盛期の能力者で大人だ
動きも力も増す
一匹に騎乗し高速・多重詠唱で攪乱用にもう一匹

神臣が苛烈に狙われる
「ククルカン!近くで食い下がれ!」

あの姿だと身は軽いけど
万一があれば即時割り入り足場に
「掴まれ!神臣!」
体を抱き止め勢いを付けて送り出しも
全技能も用い全力で庇い死力を尽す
「気にしたら駄目だよ。当たり前じゃん」

攻撃で恐怖に魂を掴まれようが引かない
「俺は誓ったから」
護るべきを護り盾となる事を!

ダチを護りつつ桜の霊にも攻撃を
止めは刺さない
そして
機を見て攻撃を無効化し俺からも言葉を

「俺のダチは君が絶望のまま逝くのを良しとしないんだ」
恨み苦しみだけを抱いて消えるなんて
「勿体ないよ」

神臣の説得が奏功したら
俺はただ見送ろう
「次は良い生であるように…」



 はらはらと、傷痕から桜の花弁が舞い落ちる。
 人成らば紅い血潮が流れ出るのだろう、けれどわたしは所詮、実態を持たない桜の霊。
 舞い散る花弁と共に、この力も流れ出していくようで。
『――わたし、また、散るのかしら』
 ……また。
 この繰り返しは果たして幾度目なのかも思い出せない儘。

「……やっと、追い付きました」
 桜の迷宮を抜け、眼前に聳える帝都タワーは桜吹雪に包まれていた。
 彼処に探していた桜の霊が居る。
 薙人は呼吸を整え、幻想的にも見える光景を金茶の瞳に映す。
 聳える帝都タワーの存在は大きく美しくて。
 人々と加護の力を集める象徴には相応しい姿をしていた。

 ――けれど、あの力を手に入れて影朧は本当に満たされるのだろうか。
 薙人にはそうは思えなくて。
 大切なものは、きっと傍に在ったはずなのに。

「――神臣」
 薙人の横顔を見ていた時人は静かに友の名を呼んだ。
「……葛城さん、私は、」
 振り向き、薙人が言い掛けた言葉、彼の決意した表情を察して時人も頷く。
 影朧の想い。
 本物への嫉視と憧憬と絶望と慟哭が織り交ざって、きっと制御できなくなっているのだろう。
 気持ちは理解出来る、そして同情も。
 けれど被害が出ている以上、このまま放置することも出来ない。
「神臣。思うようにして良いんだよ」
 友の背を押す言葉、其のためならば助力も惜しまない覚悟で。
「……葛城さん。ありがとうございます、全力で止めに行きます」

 二人は目配せをし、そして同時に地を蹴った。
 向かう先は眼前の帝都タワー、そして影朧の元へと。

 先陣した薙人はタワーを覆う桜の木々を足場にしつつ、鉄骨へと飛び移る。
 同時に、裡なる力を解放した。
 瞳は桜色に染まり、駆ける足取りは軽く、力が溢れ出るのを感じる。
 宙を指でなぞれば自然の織り成すヤドリギの糸が集まり、編まれてゆく。
 そうして出来たヤドリギのローブを薙人は身に纏い、同時に編み出したもう一つを時人にも纏わせた。
 時人も友の後を追いながら、真の姿を解放する。
 そして自身の裡から荒ぶる巨大な​白燐蟲――ククルカンを召喚した。
 一匹には自身が騎乗し、もう一匹はタワーに向けて先行させる。

 カン、カン、と軽い足取りで薙人はタワーを駆け上る。
 影朧の居る足場まではもう少し、そう思った所で視界がぐらりと歪んだ。
 歪む景色の先に視えたのは、忘れ去ってしまった過去の恐怖。
 恐らくは、自身が死に瀕した時の記憶だろうか。
 覚えが無い筈なのに、瞬間ぞわりと背筋が凍る気がして。
 ――けれど。
(「大丈夫、私は生かされたから。だから今この姿でいる」)
 生まれ直し、桜の精として此処に。
 恐怖を払い除ければ、足許から這い寄る桜花の力も弱まり、虚しく宙を舞った。

 ――そうして漸く、薙人は桜の霊の少女と対峙した。
 同じ足場にトン、と足を着け。ゆっくりと相手へ歩み寄る。
 蹲る少女の躰からは、はらはらと沢山の桜の花弁が絶えず零れ落ちていた。
 既に力を使い果たし、満身創痍なのは見て取れる。
 薙人も片手に編み出していた植物の槍をそっと仕舞い込んだ。

「……貴方は桜の精になりたかったのではないのですか」
 薙人の言葉に、少女は静かに顔を上げる。
『――……』
 少女は口を噤んだまま、静寂の間が訪れた。
 それはとても長く感じて、けれど刹那の時間だったかもしれない。

『……あなたは、桜の精なのね。わたしとは、違う』
 同じ桜の枝を持っていても、薙人の桜には幻朧桜の加護が宿っている。
 桜の精に成り損ねた、桜の霊の少女には無いものだった。
「……ええ、けれど私は助けて貰ったのです。そして忘れられる事も無かった。だから、この姿で今此処に居られる」
『――ふふ、羨ましいわね』
 少女の声は嘲笑したようにも、真にそう思ったようにも聴こえた。
「それなら、妬みも憎しみも全て私が引き受けます。貴方が呼び出す恐怖も受け入れます」
 桜の精である自分ならば、それを向ける相手としては十分だ。
 全てを受け入れて、それで影朧の気が少しでも休まるならば。
 敢えてその身を挺することも厭わない。
「それが過ぎ去ったら……。もう一度、生まれ直しませんか。私には貴方を、桜の輪廻に戻す力がある。次の生の幸いを願わせて下さい」
『……次の、生……』
 少女は静かに視線を落とした。
 自身の躰からは桜の花弁が零れ続け、夜空に散って儚く消えてゆく。
 この姿を保てるのも、もう長くは無いのだろう。

『わたしは、もうすぐ散りゆく桜……。ならば、最期に――』
 少女の白いワンピースがふわりと靡くと、次の瞬間には薙人の懐へと姿が移動して――。
『あなたの望み通り、もう一度恐怖を見せてあげる……!』
 少女は細い指で、薙人の両肩を掴むとそのまま力任せに押し倒す。
「――っ!?」
 薙人の身体はぐらりと倒れ、その背を支えるものは夜の澄んだ空気だけ。

 二人は帝都タワーの上部から空中へと放り出された。
 ふわりと宙を揺蕩う浮遊感は一瞬で、直ぐに重力へと引かれて身体は落下する。

 落下の恐怖と、再びの過去の恐怖が薙人に襲い掛かる。
 そして桜の霊の、少女の感情も同時に流れ込んできて。
(「……嗚呼、これは、」)
 妬みと憎しみ、憧れと希望。少女が願うこと、それは――。
 再び彼の日に戻り、彼の人に逢うこと。
 けれどもそれは、もう誰にも成し得ないことで。
(「――誰にだって、やり直したい事は沢山あります。私にも……」)

「――神臣!!」
 ククルカンで二人の動向を見守っていた時人は、急降下して落下する薙人の元へと向かう。
「葛城さん……!今は――、」
 桜の霊の少女は恐怖の憎悪を解き放っている。
 時人がククルカンで飛翔し近付けば、その視界がぐらりと歪む。
 襲い掛かる恐怖、魂を掴まれるようなその感覚に伸ばしかけた手が震えた。
「――っ、俺は、誓ったから!」
 護るべきを護り盾となる事を。今目の前に居る友、そして桜の霊の少女も。
 恐怖を気合で吹き飛ばし、ククルカンの速度を上げて薙人に真っ直ぐ手を伸ばす。
「掴まれ!神臣!」
「葛城さん……!」
 互いに伸ばした手は宙で繋がれ、時人は二人の体を抱き止める。
 けれど落下する勢いはククルカンの飛翔速度だけでは殺し切れなくて、もう一体のククルカンも呼び寄せ、時人自身も二人を抱えて庇うように地面へと勢いよく叩きつけられた。
「――っ、ったぁ~……」
 ククルカン二匹がクッションとなり、そして友が編んでくれたヤドリギの力のお陰もあってか、時人は顔を顰める程度の痛みを堪えつつ、何とか身を起こす。
「葛城さん……!大丈夫ですか?」
 薙人も身を起こし、心配そうに時人の顔を覗き込む。
「はは、大丈夫だよ。ちょっと痛かっただけ」
「……ありがとうございます。ご迷惑おかけしてばかりですね」
「気にしたら駄目だよ。当たり前じゃん」
 友人が危機に瀕しているなら、当たり前の行動だと時人はカラリと笑って。
 つられて薙人も頷きながら柔く笑みを零した。

「――と、それよりあの子は……」
 薙人の腕の中に居た、
 ――いや、居たはずの桜の霊の少女の姿は気付けば何処にもなくて。
 代わりに遺されたのは、沢山の桜の花弁だった。
 きっと、落下の途中で姿を保てなくなり。力尽きてしまったのだろう。

 薙人は遺された花弁をそっと掬い上げると、寂しげに空を見上げた。
「私は、次の生の幸いを願いたかった……けれどそれは、望まれなかったのでしょうか」
「ううん。俺だって、恨み苦しみだけを抱いて消えるなんて、勿体ないなって思うし」
 きっと心の奥底では幸いを望んでいたはず、それが届かなかっただけで。
 そう、思いたい。きっと、そうだ。
 二人は願った。
 せめて次は、良い生であるようにと――。

 ――元凶である影朧が消えたことで、桜の迷宮に囚われた人々も直に開放されるだろう。
 そうして再び、帝都タワーは元の姿を取り戻す。
 蒼い月夜に幻朧桜の花弁を纏わせ、神秘的に耀く塔は、唯唯静か。
 今宵の出来事を静観していたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年11月11日
宿敵 『桜の霊』 を撃破!


挿絵イラスト