雲峰サマー・メモリー
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注ぐ陽射しの眩しい夏の日。
太陽はまだ真上には届かないけれど、既にうだるような暑さに包まれている。此処、UDCアースの夏は、夏休みと云う事もあり人で溢れている。特に夏に相応しいプールのレジャー施設となればその人の数も老若男女様々。次々と更衣室から現れる人の姿を眼鏡の奥の金色の瞳に映し、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は人を待っていた。
数多の人が続々と現れる中、目当ての白薔薇の少女を見つけ永一は手を挙げる。見慣れた彼の姿に少女――メノン・メルヴォルド(wander and wander・f12134)はきょろきょろしていた瞳を真っ直ぐに彼へ向けると、ぱたぱたと嬉しそうに駆け寄って来る。
「永一さん! お待たせしました、なの」
「おお、メノン、素敵な水着じゃあないか!」
お待たせすると伝えてはあったけれど、こうして笑顔で迎えて貰えれば少しほっとする。そのまま流れるように水着を褒めてくれる彼に、頬を染めて俯いてしまった。
「……ん、新しい水着を新調して……えと、ありがとうなのよ」
編み込んだ髪が大丈夫かと、気にするように髪へと触れつつメノンは笑う。――出る時に最終チェックはしたけれど、女の子としてやっぱり気になるのだ。
そんな彼女の姿を瞳に映しながら、永一は少しだけ心配そうに辺りを見る。――花のような装いの、愛らしい少女。一人ならば男が放っておかないだろうと云う心配はその通りで、ちらちらと彼女を見る視線が気になる。
「あ、動きやすい方がいいかと思って……結構待った?」
「いやあ、そんなことは無いよ!」
彼が辺りをきょろきょろ見るその様子に、メノンは不安そうに紡ぐ。こてんと小首を傾げる彼女へと、永一は慌てて否定の言葉と共に早速泳ぎに行こうと彼女へ笑い掛ける。
「いやぁ快諾感謝するよメノン。空調の利いた部屋に引きこもり続けるのは健康にも良く無いからとプールに行こうとしてたけど、黙々と泳ぐのも面白みに欠けるからねぇ」
「ん……毎日本当に暑いの……溶けてしまいそうなのよ。だから今日はプールへ連れて行ってくれると聞いて、楽しみにしていたの」
真白の肌が焼けないように、日焼け止めクリームも塗って準備は万端。
まだ水に触れてもいないのに、二人はワクワクする心地を隠せずに笑い合い。そのまま煌めく水面へと向かっていく。
――賑やかな笑い声と、ツンと鼻に刺激を与える香りは夏休みらしさを表していた。
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大きなレジャー施設のプールの種類は様々。大きなスライダーに波の発生する海のようなプール、洞窟の中のような場に鮮やかで可愛らしい場もあるけれど。
「それじゃ早速泳ぎに行こう。あの辺は少し深いけど、その分自由に泳げそうだ」
彼等が真っ先に向かったのは、何の変哲も無いプール。広々としたプールは多くの人で賑わっているが、かなりの深さがあるようで子供はいない様子。
こくりと頷き、メノンはほんの少し恐る恐ると足先を水面へと浸ける。少しの勇気を出して身を沈めれば、陽射しにじりじりと焼かれた肌が冷ややかさに包まれ心地良い。
彼女が無事に水の中に入ったことを見届けて、続くように永一もその身を沈めていく。長身の彼だから余裕はあるけれど、思った通りこれなら思う存分楽しめそう。
とぷんとその身を水に預けながら揺蕩う、彼の様子を楽しそうに眺めながら、メノンはふう、と一つ息を吐く。冷たい水は心地良く、響く水音は心地良い。
「ぷかぷか浮きながら流れに身を任せるのも楽しい、ね」
特別な仕掛けが無い分、プールを思う存分楽しめるのもこのエリアならでは。無限大の楽しみ方の中、メノンのように穏やかにプールに身を任せるのも一つだ。
ゆらり、ゆらりと。
水に揺られる感覚に身を任せるように、そっとその大きな瞳を閉じようとした時――。
「……きゃっ?!」
突然上がる飛沫が掛かり、驚き彼女は身構える。
その飛沫の方を見れば、先程までは見えなかった永一の姿があった。
「ははは! 油断大敵、不意打ち成功だねぇ」
驚いたメノンの姿に、永一は楽しそうに笑い声を上げる。不意打ちにメノンは軽く頬を膨らませて見せるけれど、夏の太陽にも負けぬその笑みには怒ることは出来ない。
「隣にいると思っていたから……ビックリしたのよ、もうっ」
言葉ではそんな風に言ってみせるけれど、悪い気はしなくてくすくすと楽しげに小さな笑い声を零してしまう。――それは、大人な彼が子供っぽい悪戯をしたからだろう。
それならば、と。メノンは水面を勢いよく弾き永一に向けお返しと水を掛ける。彼女のその行動が合図となったのか、彼等は童心に返ったように水を掛け合い続けた。パシャパシャと上がる水の音と水飛沫、注ぐ陽射しに煌めく様子も美しいが、上がる楽しげな二人の声が心地良くつい夢中になってしまう。
ただの水の掛け合いから、手から発射される水鉄砲の勢いへと変化すればまた笑い声が上がり続けるのだ。
それはほんの短いひと時だったのかもしれない。けれど夢中で水を扱えば、楽しさが溢れて笑顔が零れ続けるから不思議なもの。少し息を切らせながら、楽しそうに笑うメノンの細い手を永一が取ると――。
「よぅし、メノンも一緒に潜水しよう」
「潜水?」
彼の言葉に、ぱちぱちと瞳を瞬くメノン。
彼が誘ってくれるのならばと、頷きを返すと互いに大きく息を吸い――とぷんとその身を水へと預ける。ぷくぷくと上がる水の泡。水面から射し込む光がキラキラと煌めき、外から眺める水面とは全く違った世界が見える。
その幻想的な光景にメノンは瞳を輝かせ、繋いだ手の先の彼へと視線を向ければ。彼もまたメノンを見ていて、視線が合った二人は楽しそうに笑い合った。
*
水中を堪能した後、彼等が向かったのは施設のメインとも言えるスライダー。
「ふふ、ワタシ、ね。スライダーは好きなの」
見上げる程に高くそびえ立つスライダーを前に、怖気づくことなく、むしろ得意げにメノンは笑う。そんな彼女と同じように永一は楽しげに笑うと、二人はスライダーの列へと並んだ。ゴムボートに乗るタイプと滑るタイプ、二つが選べるようだが今回はシンプルにただ滑るだけのほうへ。じりじりと射す陽射しは強いけれど、楽しげに響く人々の声と水音に耳を傾けていれば、自然と期待に胸が躍ってしまう。
列が進めば段々と視界も高くなり、夏の青空が近くなる。
思わず空へと手を伸ばした後、プールの広がる下を見れば予想以上の高さにメノンは驚く。けれども、怖さよりもワクワクが勝っているのが分かる。
「さぁて、先ずは俺から」
「行ってらっしゃい」
やっと呼ばれ、まず前に出たのは永一。慣れた様子で横たわる彼へ見送りの言葉を掛ければ、振り返り笑顔で手を振り勢いよく滑り出す。
幾度の経験がある為慣れたもの。出来る限り抵抗を無くす姿勢を取った為スピードはぐんぐん上がっていく。うねうねと曲がる心地も、上がる水飛沫も、全てが刺激的で自然と永一の顔には笑顔が零れる。
そのまま滑り続ければ――終点と共に身体は水へと放り出され、飛沫が上がった。
「いやっほーぅ! いやぁ爽快だよ」
水中から顔を上げ、素直に感動を言葉にする。今は隣にいないけれど、今まさに滑っている彼女には聞こえているだろうか。
ちらりと今飛び出てきたスライダーの出口へと視線を向け、そのままぶつからないようにと移動した時――見慣れた少女の姿が見えたかと思えば、勢いよく水へと落ちていく。
上がる水音。
水飛沫はキラキラと太陽の光に煌めいて、その中心から顔を上げるメノンを照らす。
「どうだったかい?」
「速くて楽しかったの!」
直ぐに合流する彼女へと問い掛ければ、メノンは大きな瞳をキラキラと輝かせ、どこか興奮気味に語った。弾む声色も、自然と零れる笑顔も本当に楽しかったことが伝わってきて、永一も先程の感覚を思い出し、自然と彼等は笑い合う。
「良かったなら幸いさぁ。一回なんて勿体ないし、もっと滑りに行こうかぁ」
「もう一回? いいの?」
永一の言葉に嬉しそうに声を跳ねさせるメノン。そんな彼女の様子に笑うと、永一は勿論と頷いた。――折角だから、今度は一緒に。その誘いにメノンは更に嬉しそうに笑顔を零し、彼等は先程並んだ列へと再び加わる。
一度経験しているからだろうか。先程よりも高揚感は上がっているようで、その心地を隠せずに零れる笑顔は止まらない。順番を呼ばれ、先程上がった滑り台へ今度は二人で。
「……こういうのは初めてだから、どうなるの、かしら」
永一がメノンの身体を抱えるような体勢。離れないようにと肩を支えれば、メノンがほんの少し緊張している様子を感じ取れた。大丈夫だと笑い掛けて、係員の合図と共に彼等は水の中を走り出す――その勢いも、水飛沫も、それは先程とは全く違った感覚で。初めてのことにメノンは思わずぎゅっと永一に掴まってしまう。
「ほほぅ、一心同体の状態だと一人でスピード出すのとは別のスリルがあるなぁ。メノンも俺から離れないようにねぇ?」
そんな彼女の様子に気付き、永一はどこか余裕有りげに声を掛ける。水音に負けぬ、耳元で聞こえたその声に、メノンは言葉を返す余裕はとても無くて。ただこくこくと何度も頷きを返すだけで精一杯だった。
長い長いスライダーも、二人で滑れば短く感じる。
先程よりも大きな飛沫を上げながら、プールへと辿り着けば二人は楽しげな笑い声を夏空に響かせた。
「あっという間だった、ね」
溢れる程の高揚感が笑顔と声と共に零れていく。
――これも、夏の暑さの中だからこそ楽しいひと時だろう。
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プールで遊び、スライダーを何度か挑戦し。
温度の変化や水中での行動に空腹感が襲ってくる。気付けば強い陽射しも天辺に昇っており、じりじりと地を焼く熱も強くなっている。
それは満足するまでスライダーを楽しんだ後、どうしようかと相談しながら施設を歩いていた時の事だった。自然と零れるのは、お昼にしようかという言葉。
「ちょうど売店もある事だしねぇ」
ちらりと永一の金色の瞳が向けられた先には、数多の売店が並ぶエリア。水着のまま入ることの出来るレストランもあるようだが、折角だから此処は売店で。パラソルの下で楽しむのも夏らしいひと時だろう。
「どれも美味しそうで迷ってしまうの。永一さんは何を食べる?」
「フランクフルトにフライドポテトに揚げたこ焼きに……うーん、実にジャンクで素晴らしい。身体に悪いものは美味しいからねぇ」
看板に並ぶメニューに視線を向け、楽しそうに笑う永一に悩むメノン。レジャー施設ならではの高揚感とジャンクな食べ物はどこかぴったりで、その言葉だけでも心が躍るから不思議なもの。普段の生活でも勿論味わえるものではあるが、やはりこう云った場で食べることが美味しいスパイスの一つになるのだ。
「メノンももう決まったかい?」
「ワタシは……カレーライスにしよう、かな。こういう所で食べるカレーやラーメンは美味しいって聞いたのよ」
沢山悩んだ末、ぴっと彼女が指差したのはやはり鉄板の一つ。お店で食べる沢山の煮込んだカレーは美味しいけれど、それよりも美味しく感じると聞いたことがあるから。
「それじゃあ向こうのテーブルで食べようかぁ」
どこかワクワクとした心地の隠せない彼女のその姿に笑うと、永一は注文をした後に空いた鮮やかなパラソルの下の席を指差す。
ふわりと漂うカレーの香りは食欲をそそり、揚げたてのポテトやたこ焼きの熱々は火照った身体にどこか沁みる夏の醍醐味。
響く水飛沫と楽しげな笑い声。
プールの独特な空気の中味わう昼食は、やはり特別なものだとメノンは笑っていた。
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お腹を満たし、火照った身体を休めた。勿論これで終わりではなく、まだまだ遊びの時間は終わらない。天辺で地を焼いていた太陽も、少し傾いたがまだまだ暑い時間は続く。
「さぁて、腹も満たされて一休みできたしまた泳ぐか」
水分補給もしっかり済ませ、コップを置いて永一は笑う。彼の言葉にメノンはこくこく頷くと、どこに行こうかと少し迷ったけれど――施設のマップを見て、その目に留まった場へと彼等は向かう。
「良いねぇ波のあるプール。普通のプールより刺激がありそうだ」
「ふふ、なんだか本当に海へ来たみたい」
寄せては返す波を人工的に作り上げたその場は、数多の人の笑い声が上がっていた。耳に届くその波の音は、瞳を閉じれば本物の海に来たような心地にさえなる程。そうっとメノンが足を波の元へと近付ければ、寄せては返すその波が少しくすぐったくて小さく笑みを零す。そのままゆっくりと奥へと進む彼女を追うように、永一も波へと身を沈める。
「海よりは安全だし水飲んでもしょっぱくないところは有り難いなぁ」
勿論、海には海の魅力があるけれど。プールでしか味わえないこともある。
むしろ波に身体が飲まれても心配することなく楽しめるのは、この場ならではだろう。敢えて襲う波に向かい、身体を沈めて遊ぶ永一のどこか無邪気な様子にメノンはくすくすと小さな笑い声を零した。
たぷん、たぷん――。
波に乗るように身体を揺らしながら、奥へ奥へと進んで行けば。
「まだ先へ行く?」
真っ直ぐに奥を目指す永一に向け、メノンはほんの少し心配そうに声を掛ける。
海を模した此処は、入り口は浅いが段々と深くなっていく様子。足が付かなくなるかもしれない、という心配が過ぎったのだ。
彼女のその声にくるりと振り返った永一は変わらぬ笑顔で。
「どうせなら一番奥を目指すのもいいだろう?」
そのまま余裕げに零されたその言葉に、メノンは少しだけむぅっと唇を尖らせる。
「むぅ、永一さんはまだ余裕なのね。少ししか、身長差はないのに」
「あっはっは、その少しが天下の分かれ目なのさぁ。なぁに、今の背丈でもメノンは十分だよ」
水に隠れて見えないけれど、メノンは足元を気にしながら歩んでいる。そんな彼女の様子に気付いてはいないけれど、彼の言う通り彼女も決して小さい訳では無い。むしろ女性としては長身の部類になるのだが、いかんせん永一の背が更に長身なのだ。
いつも通りの彼の笑い声が響く。けれど心配そうに水面を見つめるメノンの様子に――永一はそっと、己の腕を差し出した。その行動にメノンは瞳を瞬くと、彼を見上げる。掴まって良いよと彼が紡げば、彼女はふわりと微笑みその腕へと掴まった。
たった一箇所、控えめに触れているだけなのに何故だろう。先程までの不安はすっかり消え去り、流れる波に乗るように彼等は奥へ奥へと進んで行く。
たぷんと水音響く中、揺蕩い続ければ――。
「「タッチ!」」
最奥の壁へと手を伸ばし、上がる声は二人同時に。顔を見合わせ微笑み合った後、何故かくすくすと零れるメノンの笑い声に永一は不思議そうに瞳を丸くする。その様子に気付いたのか、メノンは彼の腕に掴まりながら。水中を覗き込み何も触れない足元を揺らす。
「ほら、ここなら2人とも足は届いてないでしょう?」
「その様だねぇ。対等となった訳だ」
先程の身長差の会話を気にしていたのだろう。そんな彼女の言葉に永一は笑うと、自身も泳ぎ続けていた足元が、何も触れていないことを改めて実感した。
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ぐるりと輪になったプール。
その水は絶え間無く流れており、人々は流れに沿って揺蕩っている。
けれど永一はそんな素直に従う性格では無かった。メノンが乗る大きな浮き輪を引きながら、気分屋に泳ぐ彼のその様にメノンは少し驚きながらも笑っていれば――。
「あ、永一さん永一さん」
ちょんちょんっと、前を泳ぐ彼を突く。「なんだい」と顔を上げれば、彼女はプール外を歩む人を指差した。歩む女性が手にしていたのは――鮮やかな色をしたかき氷。
「カキ氷、食べたいの。……お腹が冷えちゃう、かしら?」
そわりとした心地を隠せぬまま紡いだ後、水で楽しんだ身体には悪いかとメノンはほんの少しの不安を過ぎらせる。そんな彼女へからりと笑えば。
「なぁに、一気に食べ過ぎなければいいってものだよ。頭も痛くなるしねぇ」
行こうとメノンが乗る浮き輪を引いて、彼等はプールから上がるとかき氷を売る鮮やかなワゴンへと足を運ぶ。メニュー表に書かれたのはイチゴにメロンにブルーハワイ……定番とも言える味わいのそれらに視線がさ迷う。
「何味にしよう……色々あって迷ってしまうけれど、やっぱりイチゴ? 永一さんは?」
じいっと彼女の灰色の瞳が迷う中、問い掛けられた彼は迷うことなくメロンを。店員から差し出された鮮やかな緑は何とも夏らしい色合いで、メノンも赤色を受け取った。
メロンとイチゴ。ただの氷に鮮やかな甘いシロップを掛けただけのかき氷は、今流行るトッピングも鮮やかな、所謂『映える』豪華なかき氷とは全くの別物。けれど、古より愛された素朴なかき氷にこそ惹かれる魅力もあるのだ。
スプーンで掬い、口に含めばシャリっと響く音と口に広がる冷たさと甘み。
「このワザとらしいメロン味、素晴らしい」
永一の唇から零れるのは、この素朴なかき氷ならではの味わいへの満足感。――シロップは同じ味わいだと云う一説もあるけれど、本当にそうなのだろうか? 色と香りだけでも全く違う味わいに感じるから不思議なもの。
シャクリ、シャクリと音を響かせ、嬉しそうに笑うメノン。その開いた口許から見えた舌が赤く見えたから。
「おや、メノンの舌がいつもより赤くなってるねぇ」
「そんなに真っ赤?」
彼の指摘にぱちぱちと瞳を瞬き、そっと控えめに舌を出してみるメノン。確かに赤く染まるその舌を確認して頷けば、彼女の眼差しは永一へと真っ直ぐに向けられる。
言葉にはしないけれど、その眼差しの意図を察した永一は。
「俺かい? カクリヨファンタズムの妖怪もビックリの緑色さぁ!」
自身も舌を出してみれば、その舌は確かに鮮やかな緑色に染まっていて。互いに染め上げた舌を確認する、そんな些細なことが楽しくて、面白くて。二人は笑い声を零した。
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――夏の陽は長いと云うけれど、時が経てば陰りゆくのは仕方が無い。
高く青かった空も朱へと変わり、響く蝉の鳴き声も今はヒグラシの声へ。
「すっかり夕方になっちゃった、ね」
着替えて外へ出ればすっかり変わってしまった景色に、メノンは瞳を細めながら紡ぐ。
「いやぁ泳いだ泳いだ。外は相変わらず暑いけど泳いだお陰かまだ心地いい感じだ」
「ん、泳いだ後だからか、風が気持ちいい……」
満足そうに伸びをし、その風を身体中で受け止める永一。そんな彼へとこくりと頷きながら、メノンも風へと身を任せるようにそっと瞳を閉じた。
今年の夏は随分と暑い為、夕方になってもまだまだ熱気がある。けれど、その熱がむしろ心地良いと感じるのは、プールで遊んだ後だからだろう。
「今日は実に愉しめたよ。一夏のいい思い出となったねぇ。今回も付き合ってくれてありがとうだよ、メノン」
「ワタシも、とっても楽しかったのよ。いっぱい満喫して、いい夏の想い出になったの」
――こちらこそ誘ってくれて、ありがとうなのよ。
感謝の言葉を添えて、笑い合う二人。朝からレジャープールを楽しむ時間は正に夏らしい一日で、眩しい光に煌めく水面も、焼けるような陽射しも全てが心に残る。
あの鮮やかな一日は、きっと心の一頁としてしっかりと刻まれている。
そっと胸元に手を当て笑う彼女の姿に、どこか満足そうに笑うと――永一は朱から紺青へと移り変わる空を見上げ唇を開く。
「さぁ帰るとしよう。帰る迄が遠足って言うし、今気を抜いて倒れないようにだ」
互いに笑い合い、キラキラと眩い程に輝く一日。
これは、長い長い夏の日の記憶。
成功
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