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きっと素敵な夏休み。――とは形容しがたい何か

#アックス&ウィザーズ #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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ヴィクトル・サリヴァン




 今年の夏は群竜大陸で遊びたい!
 思い立ったが吉日で、やって来ました創世雷雲領域。
 諸々あってずれ込んで、暦の上ではもう秋だけどどの世界でもまだ暑いからギリセーフ。
 都合よく今の時期は丁度雷雲達がいい感じに弱まって過しやすくなっているらしいので、残り物にはなんとやら。
 ちょっと色合い怪しい雲の切れ間から、青々とした大空が顔を見せ、降り注ぐ陽光が真っ白な雲、いいや大地? を照らす。
「おお……ふかふかなのにパラソルきちんと刺さるんだ、面白いね」
 一度は来て見たかった雲の海。自慢の巨体で飛んだり跳ねたり寝転んだりしても、浜辺はさながらマシュマロの様な弾力でヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)を受け止めて、これは漏れなく人を駄目にする奴。
「おーい、ヴィクトル殿~!」
 大の字で寛いでいたヴィクトルの耳朶に届く喧しい声。身を起こすと、濃い群青色の雲の上で、アロハ姿の祓月・清十郎(異邦ねこ・f16538)が、ぷかぷか小舟を浮かべていた。
「雲の海。ん~、心地まさに大海に揺られるが如くでござる」
 つられて群青色の雲に足を浸す。その感触や性質は雲であるにも関わらず、慣れ親しんだ海のそれ。ざばんと全身で潜り込む。海を泳ぐ心地良さそのままに、違いがあるとするなら全体的に霞がかってるのとしょっぱく無い事位。
「拙者的に海と言えばやはり釣り! 凄い大物釣り上げる予定なので、お夕飯は期待して良いでござるよー!」
 滅茶張り切って釣り竿をぶんぶかブン回す清十郎。果たして雲の海に魚はいるのかと、そう言う疑問は置いといて、
「大丈夫? 何だかあちこち浸水してるっぽいけど」
 歪な船の三割が、既に雲へ沈んでた。
「レプリカクラフトで無理くり作った船でござるからなー。でも大丈夫! こう柄杓なんかを作って……」
 本来の用途では無いので、作り出した柄杓にも漏れなく穴が開いて漏れている。
「ふはは! 大丈夫大丈夫! 拙者の事など気にせずに楽しんでくるでござるよー!」
 まぁそこまで言うのなら。ヴィクトルはサーフボードを手に取って、群青の雲海へと漕ぎ出す。
 直後。背後で盛大な沈没音が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。

 寄せては返す雲海の、大波が作り出す長い長いトンネルを華麗に潜り抜け、どんなもんだとガッツポーズをした直後、立ちはだかるのはさらに高く渦を巻く数十mの大雷雲。
 見上げる程の雲相手、彼方此方とボード上で格闘するが、あと半分と言う所で足を滑らせ雷雲に落ちる。大仰な見た目の割にちょっと肌がピリッとした程度だった。
 乗り越えようが落っこちようがシリアス抜きの夏休み。楽しい事に変わりなく、束の間波間に揺蕩い息を吐く。
 雲の上でゆるりと過ごす贅沢な時間。アレな感じにどす黒い色の雲だとか、何か一回入ったら変な魔女のASMR激しそうな雲を避ける必要はあるけども。
「あ、そう言えば、クーナから薔薇の剪定お願いされてたっけ」
 何でもソレは、命を喰らい繁殖するヤバい奴だとか。

 管理地へ足を運んだヴィクトルは薔薇を眺め、確かに悍ましいくらい綺麗だね、と――不意に、つい最近荒らされた形跡がある事に気づく。
 そんな折、能天気な清十郎の声が響き、
「見てこれ! 立派なターキーが釣れたでざるよ~」
 釣り糸の終点には沢山の薔薇の花束を抱えたずぶ濡れのターキーの姿が。
「オーゥ、センキューベリマ」
 即勇魚狩り。
「アウチッ!」
 そう言えば。温泉地での一件で竜の卵なる物がお出しされていたらしい。
 ……急に雲行きが怪しくなってきた気がした。

 野生の勘を存分に。チャレンジ精神の赴くまま、道中魔女の囁き声に魘されたりしつつ、最終的にどす黒雲の大嵐を突き抜けた先、何やら大きな卵を囲う、イカの残党共を見つけ出す。
「ククク、ようこそ猟兵。此処に辿り着いたという事は、孵化場から盗んできた卵をこの領域に隠匿し、不滅の薔薇を餌にして最強の竜を育てる我らの極秘計画を予知で看過した、という訳でいかね? それじゃあ盛大に」
「いや、全然? ヴィクトル殿知ってたでござる?」
「うん。ごめん。右に同じく」
「――えっ!?」
 尺も無いので問答無用。ヴィクトルは三又銛を振り被り、二人揃って大暴れ。
 そんなこんなの紆余曲折。
 温泉残党達の邪悪なる計画は、貰い事故の要領で完全に潰えたのだった。

 いつの間にやら夕陽空。
 釣り上げ締めたターキーを、清十郎がどう捌こうかと睨んでいた。
 今年の夏は途中から何と言うか何だったのだろう。良く解らない。
 けれどこれも時が経てばきっと掛け替えのない思い出の1ぺー、いやどうだろう。
 ヴィクトルは惜しむような眼差しで、沈みゆく晩夏の太陽を見やる。
 片手間だろうが世界を救ったのは事実なので、無理やりにでもそんなノスタルジックな感じで綺麗に締めておくことにした。
 有難う太陽。回収した竜の卵は後で領地に戻しておこう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年09月12日


挿絵イラスト