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エンドブレイカーの戦い⑯〜薄氷の瑕

#エンドブレイカー! #エンドブレイカーの戦い #燦然楼閣ゼルフォニア #ウリディムマ

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#ウリディムマ


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●露命の痕
「こんにちは、『ウリディムマ』です」
「かつては『密告者』とも名乗っていました」

 それは、嘗て永遠の森を覆い尽くしたもの。
 自分を見上げる人間とエルフを。生きとし生けるもの全てを見下ろし、朗らかに嘲笑ったもの。
 あの日。あの時、あの瞬間。
 膨張した『密告者』に内側から破壊される家があった。
 『密告者』の分身が囁く『密告』に精神を押し潰され、発狂死する者が、幾つも、あった。

 ――再び≪戒律≫による封印が出来ないための手は講じました。
 ――そのための記憶と意志の剥奪です。
 ――妖精騎士は、再び≪戒律≫による封印を行うことは出来ません。

「……とはいえ、以前私は失敗しました」
「御覧ください。小世界より押し寄せる、無数の『|ウリディムマ《私》』を」
「そう、私は予め無限増殖をした上で、この世界に戻ってきました」
「最早私に死角はありません。この世界を無限に増殖した私達で埋め尽くします」
「それはとても素晴らしい光景ですよ。ぜひ見せて差し上げたい――」

 燦然楼閣ゼルフォニアの空を異形の群れが覆い尽くす。
 人々の胸から、唇から、眼球から、零れ、溢れ、出づるもの。腐り落ちた肉に繁殖する蛆が如く、際限なく湧き出て止まることのないそれは。数十年の時を経ても尚忘れはしない。忘れた日など、一日たりともありはするものか。

「あぁ、……ぁ、……あ……!」

 赤黒く染まる空を見上げた妖精騎士のおんなの震える唇が紡ぐ音は絶望だった。
 ああ、この胎を喰い破る欲望のかたちは。そう。本当なら、私が――私が、こうなる筈の――。

「――――!」

 名を呼ぶ声は何処か遠いもののように思えた。
 頽れたおんなの身体を抱き止めるおとこの姿があった。
 撃鉄の弾ける音と破裂音が重なって、血液と呼べぬ程に凝った醜い体液が四散する。

「ぁ……、……」

 これが、永らく甘ったるい微温湯のような夢に浸った代償なのだろうか。
 呼吸の代わりにごぽりと鮮血の泡が口から溢れ出る。
 傷を塞ぐよう、寄り添う妖精が懸命に癒しの光をおんなに注ぐ。
 濁った青い瞳に仇敵の姿を映して。朦朧とする意識の中、それでもおんなは武器を手放さぬままでいた。

●無窮の空
「11の怪物のひと柱であるウリディムマが、燦然楼閣ゼルフォニアを占領しました」
 ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)はみっともなく泣き出しそうになる己を叱咤しながら、それでも毅然とした振る舞いで以って事実のみを口にした。
 嘗ての名は『密告者』。人々の欲望より生まれ、人々が在る限り無限に増殖し続ける存在。
 永遠の森に住まう全てのエルフが戒律によってその身を捧げ封じ込めていたもの。
「ゼルフォニアの街中には、既に人々の欲望を糧としたウリディムマの群れが犇いています。成長し切ったウリディムマは一体でも強大な存在ですが……それでも、ひとつ残らず殲滅しなければ際限なく増殖を続け、やがてゼルフォニアを越えて世界をも侵食していくことでしょう」
 人が在る限り、隠しきれぬ欲望が在る限り、ウリディムマはただそこに存在し続ける。
 手を付けられなくなってしまう前に。取り返しの付かないことになる前に、彼のひと柱を討たねばならない。
「ゼルフォニアの地には今、永遠の森のエルフたちが義勇軍として集い、嘗て自らを戒めていた忌を討ち払わんとしています。彼らは何れも歴戦の勇士達ではありますが……、……それでも、あと一歩が足りないのです」
 だから、どうか。
 今一度、我々に力を貸してはくれないかと。
 己が視た終焉を振り払うようにかぶりを振って。涙を滲ませた声を震わせ、ヴァルダは猟兵達に深く頭を下げた。


なかの
 こんにちは、なかのと申します。
 こちらは戦争『エンドブレイカーの戦い』のシナリオです。

●進行順序
 【第一章】👿『ウリディムマ』(断章追加なし)
 秘められし欲望より出づるもの。
 原初の感情を喰らうもの。
 『密告者』改め『ウリディムマ』との戦闘になります。一体でも強力な個体が街を埋め尽くさんばかりに溢れています。一つ残らず殲滅しましょう。
 永遠の森エルフヘイムの勇士達がウリディムマの群れと交戦中です。彼等と力を合わせることが物語の鍵となります。

●プレイングボーナス
 プレイングボーナス……ウリディムマの群れと渡り合う為の工夫を行う。

 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
 よろしくお願いいたします!
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第1章 ボス戦 『ウリディムマ』

POW   :    抵抗を望む欲望も、私の餌となります。
【小さなウリディムマ】をレベルm半径内の対象1体に飛ばす。ダメージを与え、【言葉で指定】した部位の使用をレベル秒間封じる。
SPD   :    あなたが隠したい欲望は、何ですか?
対象への質問と共に、【対象の秘めたる欲望】から【新たな無数のウリディムマ】を召喚する。満足な答えを得るまで、新たな無数のウリディムマは対象を【欲望を奪う視線】で攻撃する。
WIZ   :    これもまた、素晴らしき光景の一端です。
【ウリディムマ】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[ウリディムマ]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。

イラスト:タヌギモ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

冴島・類
嘗ての戦いの激しさ
懸けられた想いを正確に知ることは、叶わない
けれど…

守る為に戦う方々
この地に在る日々と命
意志を奪わせないよう
出来ることがあるのなら

戦闘中の義勇軍さん達に加勢
負傷者が襲われていたり
攻撃が集中している場があれば
瓜江によるかばいで護り
くれあに結界での支援によるエルフさん達への援護を頼み
治癒などの時を稼ぎ

自身は、枯れ尾花で攻撃の軌道上に放つ風で
広がるウリディムマを引き寄せる
相手の能力を断ち切る手になるかは…思えぬが
気休めだろうと
炎で視線が通らぬよう覆い、燃やしたい

内に秘める欲、ね
ありますよ
が、こんな風に無遠慮に暴きたてる
瞳の、口の
餌にされるのは勘弁願う

燃やし祓う
一欠片も残してなるものか



●深淵に臨む
 |不滅の存在《マスカレイド》を悲劇を打ち砕く者達が勝ち取った束の間の平穏。今は共に並び立つ彼らを、人は|終焉を終焉させる者《エンドブレイカー》と呼ぶ。
 (「嘗ての戦いの激しさ。懸けられた想いを正確に知ることは、叶わない。けれど……」)
 この世界について知る事は多くないけれど、守るべきものの為に戦い明日を望む人々の祈りを知らぬ訳ではない。
 (「動乱を生き抜いた人々の命と日々を。意思を――奪わせぬよう、出来る事があるのなら」)
 冴島・類(公孫樹・f13398)は赤黒く蠢く無窮の空を見上げ、痛ましげに眉を寄せながら道を急ぐ。
 手を差し伸べる理由など、たったひとつあればいい。

「くれあ!」
 宙空へ咲いた炎の精。その煌々と燃える髪が風に巻き上がり、炎の渦が蹲った長耳の青年を包み込むように突っ立てば、無数に浮かぶ悍ましき異形の舐めるような視線をこがねに燃え盛る壁が遮った。
「うぅ、……ぁ……、……きみ、は」
 赤糸と共に跳躍した影の如き絡繰人形が言葉なく青年を守る為に立ちはだかる。がちがちと恐怖に噛み合わぬ歯を鳴らしながら、庇われたことを知った青年が恐る恐るに声の主を辿った。
 共に戦う為に馳せ参じたのだと。擦り寄るように近付いてくるウリディムマを刃で押し返しながら告げれば、涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を隠すこともせずに青年は忌まわしきその名を呼んだ。
 あれなる災厄が振り撒くもの。
 それは裡に秘めたるものを曝け出す|言葉《密告》。
 それは心の奥底を見透かす|視線《悪意》。
 それは、ひとの原初の感情を|映し出す瞳《暴き出す唇》。
「私達は、……わたし、たち、は」
 永遠の森のエルフ。嘗てあれなる災厄をその身で以って封印していた者達。
 彼等にとってウリディムマは最も唾棄すべき仇敵に他ならない。
 如何なるものか。類の中で欠けていた疑問が音を立てて解を導き出したなら、最早惑う必要さえありはしない。
「大丈夫。ただ一つとて奪わせはしません。……どうか、」
 折れぬ心を。
 その言葉に、弓を握る手に血を滲ませながらも長耳の青年はゆらりと立ち上がり、顔を乱暴に拭い矢を番えた。呼吸は浅く早い。紫紺の双眸に怯えこそ残しても、確かな抗う光を宿して類を仰ぐ。
「援護、する。……きみは……走っ、て」
 涙に濡れた声に信と頷きを返し、類は思い切り地を蹴った。それと同時に嘗て喰らい損ねた|死に損ない《エルフ》を再び仕留め損なった事を知ったウリディムマのあかい瞳が、ぎょろりと一斉に類を『視た』。
「足掻こうと、潰そうと、全てが無価値。無意味です」
 談笑でもするかのような声音が、この場に於いて異質さを際立たせている。
 四方八方から響き渡る声はどこまでも朗らかだった。
「あなた方に秘めたる欲がある限り。|ウリディムマ《私》は永遠に在り続けるでしょう」
「……内に秘める欲、ね。ありますよ。だが、」
 チリ、と音を立てて空気が燃えて火花が散る。それは風を受けて舞い上がる焔の旋風。
 枯れ尾花の軌跡が生み出す焔に誘われた異形の群れが集まると同時、後方より放たれた矢が俄雨が如く降り注ぐ。矢に阻まれた僅かな隙に、類の返し刀が鋭く奔った。
「こんな風に無遠慮に暴き立てる瞳の、口の餌にされるのは勘弁願う」
 燃やし、祓う。
 巻き上がる浄化の焔は瞬きのうちに嵐となって、ウリディムマの群れをひと舐めで焼き払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マシュマローネ・アラモード


【空に軌跡を】
無限に増える……なら一掃するまで!
敵は私が引き受けます、誘導をお願いしますわ!
(敵の回避ルートに軌跡を引きつつ)
ブリリアント・バーニィの機動で一気に寄せますわ!
ウリディムマの集結する場所を縫うように飛翔し、準備は万全!

【悪意に相剋を】
UC|崩壊する星《グラビティ・コラプス》!軌道上に斥力と引力の相剋の破滅を撒き、起爆しますわ!

敵の集団を相手取るのと撃破を同時に致しましょう。

最後に本体が残っているなら、キネティックリパルサーの戦鎚の一撃とUCの起爆で終わりにしましょう!

この世界にはあなたは相応しくない。勇気と覚悟ある戦いの前に、欲望を贄にする行為は愚劣にも劣りますわ!



●刻の狭間
 真白と青が折り重なり、宙に線を描きながら稲妻の如き速さで飛翔する。
 マシュマローネ・アラモード(第十二皇女『兎の皇女』・f38748)は身に纏いしスカート状の高機能バーニアから青い炎を噴出しながら悍ましき異形の群れの間を縫うように飛翔し、今なお悪なる群れに応戦するエルフ達へ自らが救いの手を差し伸べるものであることを宣言した。
「敵は私が引き受けます、誘導をお願いしますわ!」
「あ、ああ……だが、」
「早く! 道が消えてしまう前に!」
 指し示した指の先に描かれた軌道を仰いだエルフ達は、傷付きよろめく身体を支え合いながら歩き出す。
 エルフ達が撤退をはじめたことを視界の端に留めるや否や、マシュマローネは更なる加速を交えてウリディムマの気を引くように目前を過ぎ去り、追い越しながら自らを餌にするように飛び回った。
「なぜ、抗うのですか?」
「なぜ、怒るのですか?」
「その足掻きも。怒りも。あなた達の根底は、すべてが欲望。私の餌です」
 ひとならざるものの声が木霊する。
 可笑しげに、楽しげに。小細工など無用とばかり。集められた邪悪なる異形が一斉にマシュマローネに眼を向け、血走ったそれをぐにゃりと歪に撓めて笑った。
 ウリディムマを集めること。それ即ち一個体の力を大いに高めてしまうリスクを孕んだ決死の行為。それでもなお、マシュマローネは一撃に全てを賭けていた。

 助け合い、瞳から赤黒い血を流しながら、引き摺るように歩を進めるエルフ達が振り返る。振り向き際に、彼らは少女の勇姿を見た。抗う意思を、救いを齎さんとする慈愛を、勇気を見た。
 少女一人救えずして二度と戦士を名乗れはしない。ああ、この場に彼女ひとりを残してなるものか。
 最後の力を振り絞り、星霊術師の長耳達は寄生木の杖を掲げ、時の支配者たるその名を呼んだ。
「『――クロノス、時の支配者よ!』」
 カチリ。
 一度だけ響いた秒針の音に次いで、赤黒く蠢く群れが数拍、瞬きさえも忘れてその場に縫い止められた。笑い声も、淀んだ空気が揺れる音も、何もかも。世界の全てが呼吸を止め、秒針の狭間にエルフ達とマシュマローネだけを置き去りにしていた。

 ――どうして、逃げなかったのです!

 驚き混じりの声を上げるよりも早く、齎された好機を逃さぬ為にマシュマローネは戦鎚を大きく振りかぶった。秒針が再び時を刻もうとする刹那の間に、兎の皇女は斥力の権能全てを杵の先端に集中させ――次の瞬間、再び時は動き出した。
「|崩壊する星《グラヴィティ・コラプス》! 爆ぜ散りなさい、悪辣なるものよ!」
 眼前を抜ける、否、身体を打ち据え突き破らんばかりの勢いで群れを薙ぎ払う絶対的な力。
「な、――――」
 それは異なる矛盾の力。拒絶と抱擁、顎を開いた崩壊の螺旋、相剋する力が限界まで膨れ上がる。熟れた果実が破れるが如く、ぱちんと破けた次の瞬間閃光が炸裂し、数拍置いて爆音が街を大きく揺らした。
 訪れた暫しの静寂。マシュマローネは肩で息をしながらも、ウリディムマの群れだった残骸へと高らかに告げた。
「この世界にはあなたは相応しくない。勇気と覚悟ある戦いの前に、欲望を贄にする行為は愚劣にも劣りますわ!」
 それは皇女たるものの高潔なる宣誓。
 異世界の気高き勇者の声は、エルフ達の胸に確かに届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リヴィ・ローランザルツ
エルフヘイムに向かうのではと危惧していたけれど当たったか
ならばその前に残らず打ち取るまで

俺が言うのも何だけど泣かないで欲しい
見ていると遠い昔を思い出す
完全に片をつけたつもりがやはり何処かで引っかかるんだ
それに彼女の為に駆けつける人もいるのでは
…完全に感だけども

エルフ達に害は与えたく無いので心持ち前で動くと伝える
継続ダメージで威力底上げさせた六華の舞を展開
吹雪で足止めさせた後すかさず属性攻撃、衝撃波、生命力吸収を乗せた四重双撃発動
分身と死角を作りつつ見切りや空中機動生かし躱しつつ殲滅させる

あの森で過ごすひと時が凄く好きで
緑の匂いや柔らかい日差しが
だからそういう意味でも護る
これがお望みの俺の欲望だ



●相思樹の番
 震える声で可能性の未来を紡ぎ、今にも零れ落ちそうなほど陽色の双眸に雫を湛えた娘の面影を思い出す。
 彼女がグリモア越しに視た終焉は、それほどまでに凄惨なものだったのか。リヴィ・ローランザルツ(煌颯・f39603)とて悲劇の終焉をその瞳に映した経験が無い訳ではない。けれど、あれはもっと――完全に勘だけれども。
 (「……まるで、当事者のようだった」)

「そう、私は予め無限増殖をした上で、この世界に戻ってきました」
 燦然楼閣ゼルフォニア。
 永遠の森からは離れたその場所に、エルフ達が怨敵を討ち倒す為に集っている。然し、ウリディムマの口から紡がれた悪意ある言葉は何処までも朗らかで。正しく、そして等しくエルフ達に絶望を齎した。
 せせら嗤うように。それでいて、泣く子をあやすように穏やかに。|ウリディムマ《密告者》はあの日、あの瞬間と全く同じように謳う。
「どうですかみなさん、たったの2時間程度で構いません」
「静かに瞳を閉じ、安らいでいてください。この世界を無限に増殖した私達で埋め尽くします」
 耳に。眼前で。真後ろから。
 悪意に溢れ、擽るように囁く声が告げている。
 所詮はまやかし。|弱き者《エルフ》の束の間の平穏など、泡沫の夢のようなものであったと。赤黒く染まった空に犇めき合うように、ウリディムマの群れが輪唱が如く嗤笑の声を重ねていた。

「いや……、いや、あぁ――!」
「やめろ、止せ!! やめろ、災厄め……ああ、くそ!」
 あの日と同じように|首裏《烙印》からずるりとウリディムマが生まれ出づるその感触に、ハーフエルフ『だった』女が半狂乱に陥りながら髪を振り乱し自らの傷跡を掻き毟らんとする様を、ハイエルフ『だった』男が羽交い締めにして抑え込む。
「――下がって! どうか落ち着いてくれ。俺達の仲間が、第六の猟兵達が今、皆を救わんとしている」
 女の瞳を間近で覗き込もうとした異形の瞳を、六花の結晶が鏡面の如く輝き弾く。
 身を無理矢理に割り込ませ、リヴィは過去の戒めに引き戻されたエルフ達に届くように声を張り上げる。
「俺はいい! 彼女だけでも……! どうか、」
「諦めるな、戒律は最早あなた達を縛り止めはしない。――俺が二人の刃となる。その間にその人を呼び戻せ!」
 縋るような男の嘆願にかぶりを振って。一歩踏み出したリヴィの体が蜃気楼のようにぶれて、ひとつ、ふたつと影を重ねる。縦横無尽に空を埋めんとするその姿に向かい、瓦礫を伝うように飛び上がったリヴィが宙空を舞う。振るう刃は一つとて、幾重にも残像を重ねた旋風が、凍て付く氷柱が、魔力の圧力、剣戟が畳み掛けるようにウリディムマの群れを同時に切り刻む。
「あの森で過ごすひと時が凄く好きだ。緑の匂いや柔らかい日差しが。……だから、その森を守ろうとする彼らの事も護る」
 その唇が悪意を持つ問い掛けを口遊むよりも早く。
 その視線がこの胸の裡を舐るよりも早く。
「――これがお望みの俺の欲望だ」
 リヴィは自らの|欲望《祈り》を口にして、血走った眼球へと迷う事なく鋒を突き立てた。
 絶叫が響き渡る。
 それは手に武器を取り直し立ち上がったエルフ達のものではなく、無数のウリディムマが視野を失い悶え苦しむ怨嗟の声だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァニス・メアツ
ほぼ20年ぶりですか
長命なエルフの皆様からすれば最近の話なのでしょうがね
しかし相変わらず気味の悪い姿ですね
怪物と言うなら正しいのか

そもそも私には欲望を隠す理由がない
常に食欲のまま菓子を食らい、寝たい時に寝、欲しい物は欲しいと口にする
それが人に後ろ指差される事であっても気にしません
自由とはそう言う事なのだから

そして今の欲望はただ一つ
貴様を一つ残さず全部ぶっ潰す!

UC発動
目に付く密告者達に向けて乱れ撃ちと言う名の援護射撃開始
さぁエルフの皆さん、貴方達を戒律で縛っていた怨敵は目の前だ
止めは我々が引き受けます
あの虹彩、ゲームの的の様じゃありませんか
ど真ん中目掛けて撃ってやりますよ
百点いくつ奪えますかね



●悠久の果て
 あの日から数十年。
 とこしえを生きるエルフ達からすれば、それは昨日のことのように思えるものなのかもしれない。
 傷はいつか癒える。
 痕を残しても、痛みはいつか薄らいで、日常を取り戻せるようになる。
 その、筈だったのに。

「しかし相変わらず気味の悪い姿ですね。まあ……怪物と言うなら正しいのか」
 ヴァニス・メアツ(佳月兎・f38963)は空に蠢く過去より出でし災厄を見上げ肩を竦めた。
 鬱陶しげに眉を顰め、今なお数を増やしながら現れ出づる異形の群れに小さく舌を打つ。ウリディムマの裡に秘めたる感情を無遠慮に見透かす視線にも動じぬ様は歴戦のエルフの勇士達でさえも怯え身を竦ませるこの場に於いて異質なものだったのかもしれないが、そもそもヴァニスにとって欲望とは秘するべきものではない。
 欲の赴くままに菓子を喰らい、眠り。欲しいものは欲しいと口にして手を伸ばす。それが時に他者から後ろ指を指される事であったとしても気にすることはない。ヴァニス・メアツと云う男にとって、自由とはそういう事なのだから。
 そして今この瞬間、彼が抱く欲望はただ一つ。
「――貴様を一つ残さずぶっ潰す!」

 蠢く群れの先に蹲る人の影。囲まれていたのは過去の戦乱を生き抜いたのであろうエルフの一団であった。自らより出でし悪意の囁きに、古傷を暴かれ抉られた胸の痛みに耐えられず意識を手放した者。自身の剣が折れようと、倒れた仲間の武器を取りその背に仲間を庇い立ち続ける者。恐怖に涙を溢れさせながらも懸命に癒しの術を仲間に捧ぐ者の姿があった。
 彼らはまだ諦めていない。絶望的な状況にあってなお、二度と同じ轍を踏ませはしないと云う強い意志があった。
 彼らは決して無力ではない。なればこそ、今一度ヴァニスは手を貸すのだ。
 横薙ぎに滑らせた掌から滑らせたカードの束が無数の刃となってウリディムマを僅かに後退させる。天命に屈しかけたエルフ達ははっと顔を上げ、目前で繰り広げられた奇術が奇跡ではなく、確かな救いの手であることを知る。
「さぁエルフの皆さん、貴方達を戒律で縛っていた怨敵は目の前だ」
「あなた、は……」
「止めは我々が引き受けます。……この意味、貴方達なら分かるでしょう?」
 終焉を終焉させる者。
 閉ざされた永遠の森からエルフ達を解放したその名を知らぬ者はない。
「ねえ、あの虹彩。ゲームの的の様じゃありませんか」
「……違い、ない!」
 喘鳴を漏らしながらも、それでも。瞳に光を取り戻したエルフの剣士が前へと躍り出る。「あなたに応える我々でありたい」と、強く、強く奮い立つ。ヴァニスは唇の端を釣り上げると、猫のように瞳を撓め可笑しげに笑って見せた。
 抗う意思を宿した刃がウリディムマを宙より叩き落とす。均衡を保てず地に堕ちた巨大な眼球の中心へ、すかさず放たれたヴァニスの紫弾が吸い込まれ――腐り落ちた果実を壁に叩き付けたような、粘着質で耳障りな音と共に異形の姿を大きく弾け飛ばせた。

 悲劇を喜劇に。
 ああ、それこそが旅芸人たる自らの本懐なのかも知れない。
「百点。いくつ奪えますかね」
 これは遊戯。
 過去の残滓を、遺恨を晴らす、彼等の為の物語だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
ならばこそ
声高らかに、宣言しましょう
アナタの好きにはさせないわ!
人数では負けても
キモチでは負けないの
元々、内緒事が苦手なお喋りバラですもの堂々と
想いを力に
立ち向かうアリス達にもこの想いが届くと良い

不思議な薔薇の挿し木を
大きな瞳に負けず伸ばし咲かせて
茨蔓で吹き飛ばし距離を作ったり
アリス達を攻撃から武器受けてかばうわ
咲かせた薔薇は、皆を護る為に

欲しがりなアナタ達にも
魔女から贈りものを
護りたいと想い籠めたトロイメライで、思い切り貫く
アナタが欲張れば欲張るほど
魔法はアナタを縛るでしょう

石化後は怪力籠めて砕くけど
先ずは石化で行動不能化を優先に動くわ
だから、ね
皆の頼もしい弓のサポートお願いしても良いかな?



●枯れぬ白
 |ウリディムマ《密告者》。
 それは嘗て永遠の森を包み込んだ者。エルフ達が長きに渡り、自らの身を捧げて封じ込めていた災厄の形。
 彼等の動揺は顕著だった。十数年の時を経て、漸く塞がった傷を無遠慮に引き裂かれたようなもの。食い貫かれた痕は一面を赤く染め、曝け出された過去の痛みに泣き叫ぶ哀れなその姿。今まさに悪意に呑まれかけたエルフの戦士の前に、立ちはだかる一輪の薔薇の姿があった。
「ならばこそ――アナタの好きにはさせないわ!」
 城野・いばら(白夜の魔女・f20406)の高らかな宣言をせせら嗤うかのように、ウリディムマの血走った瞳がぎょろりといばらを凝視する。
「元々、内緒話が苦手なお喋りバラですもの」
 だから堂々と。数で劣ろうとも心で負けることはない。
 怯えを孕んで泣き濡れるエルフの娘が恐々と顔を上げれば、蕾が綻ぶように咲ういばらと一度だけ視線が重なった。
 立ち向かう|アナタ《アリス》に、この想いが届けばいい。
 そのかんばせを、決して赤く染めさせはしない。

「なぜ抗うのです? この先に待つのは、とても素晴らしい光景ですよ」
 それは純粋な疑問を紡ぐ声だった。
 過去を、遺恨を、秘匿を。
 悪意を以って全てを曝け出さんとするその瞳に、唇に、いばらの手から伸びゆく緑が意志を持って拒絶の檻を作り上げる。これ以上エルフ達が傷付かぬように、涙を流すことのないように。咲かせた薔薇は護るために。
「これが、素晴らしい光景ですって?」
 いばらの喉が僅か、怒りに震えた。
 枯れんばかりに涙を溢れさせ、必死に生きようと抗うエルフ達の苦悶の声は今も背後から微かに聞こえてくる。誰かの涙を代償に得られるものなど、決して許されはしない。
「貴女も。貴女にも。生きとし生けるもの全ての傍に、『ウリディムマ』は在るのです。どうか身を委ねて。大丈夫。そう怯えることはありません、……――!?」
 その怒りさえ自身の餌だと。
 可笑しげに嗤うウリディムマの虹彩を貫く、一条の矢があった。
 見れば、戦意を失っていた筈のエルフの娘が今まさに二本目の矢を番える姿があった。唇を噛み締め、血を流しながら、それでも。自分を守ろうとするいばらを助ける為に、その瞳に決意の光を宿して。
「……、……わたしたち、は、……大丈夫。だから、」
 共に戦う。告げる言葉に、いばらは是を唱える代わりにトロイメライを思い切りウリディムマの巨大な瞳へと突き出した。
「ァ、――、――」
「欲しがりなアナタ達にも、魔女からの贈り物よ」
それはウリディムマの欲望が尽きぬ限り、より強固にその身を縛り止める魔女の紡錘。音を立てて石へと変じていく異形の姿を、いばらは自らの拳で以って打ち砕いた。
「ね、皆の頼もしい弓のサポート。お願いしても良いかな?」
「……任されました!」
 未だ霧は晴れない。終わりの見えぬ戦いの中でも、彼女達はもう膝をつくことはない。
 確かな信を抱き、いばらは再び糸紡を手繰りその身を踊らせた。
 薔薇は咲く。凛と気高く、数多の夢を護る為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルシエラ・アクアリンド
悲しい思い出があっても、逆らい、逃げる様に出奔しても
結局の所帰ってきたのは|アクスヘイム《自分の故郷》だった
自分の原点でもあるのだと、そう思える様になったのは最近の事

恐らく故郷を心から愛し、周りからも愛されているのだろう彼女を見ていると懐かしい顔が浮かんでくる
雰囲気は母親に似たのかな…彼女は私の事は知らないだろうけれど
泣かないで、大丈夫
その姿を見せてくれただけで私は十分歩める
―大切な友人が居る森には決して行かせはしない

エルフ達とは攻撃、支援回復で連携
相手が数で押してくるのなら結界術と精神攻撃で強化した檻に閉じ込めさせて貰う
UC使用後は風の力と弓での不意打ち、矢弾の雨、範囲攻撃、援護射撃で一度に多数撃破
阻害は少しでも足止めになれば重畳
空中機動や軽業、気配察知等身軽さ生かして死角を作りつつ攻撃は避け
本体へは2回攻撃の一撃目を囮とする等確実にダメージを蓄積させて行く
状況次第でオーラ防御し前へ出る

名が変わろうと私にとって貴方は『密告者』の侭
欲望を答えろというのなら
始まりの地を踏む事無く消えなさい



●追想の揺籠
 悲しい思い出があっても。その悲しみに逆らい、逃れるように出奔しても。ルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)の帰る場所は、結局|アクスヘイム《自分の故郷》だった。それが自分の原点であると、そう思えるようになったのはつい最近になってからのこと。
 (「雰囲気は母親に似たのかな……彼女は私の事は知らないだろうけれど」)
 故郷を愛し、愛されて育ってきたのであろう娘の姿に懐かしい面影が重なる。
 ほんとうは誰より先に飛び込んで行きたい筈。グリモアを介して視た終焉を託すことしか出来ぬ歯痒さに涙を流すしかない哀れな娘を見上げ、ルシエラは安心させるように微笑んで見せた。
「泣かないで、大丈夫」
 告げる言葉の、声の柔らかさに。溢れ出る涙を懸命に拭いながら、それでも確かに娘は頷いた。
 その姿を見せてくれただけで十分歩める。
 逃れ得ぬ悲劇の終焉を打ち砕くために。決意を胸に、ルシエラは一歩を踏み出した。

 転送陣を潜ったその先に広がっていたのは、嘗て見た光景よりも凄惨たるものだった。
 成長し肥大しきったウリディムマの群れは止まることを知らず、意志を持つ全ての生命体の秘匿を、欲望を暴き出さんと猛威を振るう。苗床にしたエルフを余す事なく喰らわんと厚ぼったい唇をいっぱいに開いたその瞬間に、ルシエラが放った矢がウリディムマの眼球を貫いた。
「奪わせない。もう、何一つ」
 一陣の風が吹く。
 怯んだ隙を見逃す事なく放たれた蒼の天蓋は見る間に吹き荒れる嵐となり、宙空を泳ぐ異形をひとつふたつと巻き込み、やがて渦となったその中心で互いに身を打ち据え合いながら縺れ、鈍い音を立ててぐちゃりと四散して行く。
 ウリディムマが嵐に翻弄されるその間に、ルシエラは倒れたエルフの元へと駆け寄った。
「――あなた、は」
 助け起こしたその姿に、面影に、想定していた『もしも』が合致したルシエラが絶句する。食い破られた腹部の傷は柘榴のように開き、息をする度に傷口からひゅうひゅうと音がするようだった。
 それでも生きている。まだこの人は生きる事を諦めてはいない。
 蒼の天蓋が齎す癒しの力に、不意に大きく咳き込んだエルフの女が薄らと瞳を開く。きんいろの頭が揺らいで、濁った青に僅かな光を宿して、それから。
「……ルシエラ、……さん、……?」
 名を呼ぶ声。
 ああ、それは酷く懐かしい。
「うん。そうだよ。……良かった、間に合って」
 ねえ。あなたの娘さんに会ったよ。
 あなたは元気にしていたのかな。
 話したいことが、聞きたいことが、沢山、沢山――けれど、それは今ではない。
「待っていて。直ぐ方をつけるから――、」
 再び闘いに身を投じんとするその姿へ、意識を失っても決して離す事のなかった魔鍵を掲げた女が地に臥したまま、それでもなお震える声で加護を紡ぐ。はっとして振り返ったその先で、血に塗れながらも女は薄く微笑んでいた。
「……もう。そういう所だよ!」
 弦を引き絞る身体が軽い。後押しする力が、ルシエラの矢を増長させて行く。

 ――死なせるものか。その為に自分はここに居る。

「貴女が、アナタ、あなた、が。隠したい、欲望ハ、欲、」
 幾重にも重なるウリディムマの耳障りな問い掛けを吹き荒ぶ嵐が掻き消して行く。
「名が変わろうと私にとって貴方は『密告者』の侭」
 番えた矢が放たれる。どよめき、畝り、それでも尚嘲笑う、原初の感情を喰らう者の群れへ。吸い込まれるように着弾した矢が、次々とウリディムマを弾けさせていく。
「欲望を答えろというのなら――始まりの地を踏む事無く消えなさい」
 命を賭す仲間は必ず護る。
 彼女の信念は、決して翳る事はない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
雪姫を呼ぶ
玄冬を纏い、この身は最果ての冬となる
降り立つと同時に凍気を解放し
悍ましい感触と共に生まれる周囲のウリディムマを凍らせ踏み砕く
冴えた冬の空気は少しの冷静を周囲に齎せるか
戦うエルフに並び立ち

此処はオレに託して
怪我をした方が居たはず、どうかその方の傍に
…余裕があれば
少しだけ援護してくれたら嬉しいです

微か笑んで駆ける
家族を酷い目に合わせて
誰より大切な子を泣かせて、苦しめて
ああ、怒っているよ。当然だろう
理解を望んではいないが

集結などさせるか
絶望を、弱さを囁かれようが
雹の嵐を巻き起こし
小さなウリディムマを纏めて叩き落とす
オレは幾つもの想いを託されて此処に居る
生半可な言葉で折れると思うなよ

嵐を手繰りながら氷を駆け上がり本体へと迫る
守ってみせる
絶望なんかさせてたまるか
だから

ネージュ!
最低限の魔力だけ残ればいい
オレからありったけを持っていけ!

限界近くまで解き放った魔力で編み上げる雪姫の魔法
空に咲く特大の青の魔法陣
召喚した数多の氷槍を冬の大嵐と共に解き放ち、貫く

一つ残らず、冬に飲まれて消え去れ…!



●最果てより来たり
「ネージュ」
 冬の末姫の名を呼んで、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)はそっと睫毛を伏せた。
 仮初の姿より変じた本来の雪精が齎す冬の加護を纏い厳冬の王へと自らの身を変じさせる只中で。巻き起こる凍気が、ディフが舞い降りた先から溢れ出る霜が、産声を上げたばかりのウリディムマを凍らせて歩みとともに踏み砕いて行く。
 絶えず銃声が鳴り響くその先に、単身で毅然と災厄の群れに立ち向かうエルフの男が居た。
 血を流し、紫煙の大樹に背を守らせながら迅雷の如く駆けるその姿はとうに限界を超えている。死を厭わぬ者の抗い方を、怒りと焦燥に囚われた面影を、ディフの|こころ《コア》は知っている。理解出来るからこそのこと。
「怪我をした方が居たはず。どうかその方の傍に」
 ディフは男が弾薬を込める僅かな隙に身を割り込ませ、常の穏やかな声音で以って語り掛けた。
 陽色の双眸がばちりと開いて、それから。
「……来て、くれたんだね」
 どの位戦い続けて居たのだろうか。
 数多の裂傷を抱えながら、それでも青年を見て微笑んで見せるその姿にディフの眉間に皺が寄った。
「大丈夫。……彼女は……無事、とは言えないけれど」
 生きてはいる。告げて、紫煙の弾を装填し終えた男は細く息を吐き出し眼前に広がる怨敵を見据えた。
「援護するよ。どの道、全て倒さなければ落ち着いて手当ても出来ないから」
「分かりました。貴方の事も必ず守ります。……どうか、死に急いだりしないで」
「はは。それを言われたのは、二回目かも」
 
「不可解です」
「不理解です」
「なぜ、怒るのですか?」
「どうしたら、もっと怒るのでしょう?」
 ひとはなぜ。他人のために涙を流し、怒りという|炎の発露《原初の欲》を生み出すのか。
 ディフの間近まで迫り、青き宝石眼を覗き込まんとするウリディムマの唇を紫煙の弾丸が貫き弾く。鳥の首を絞めたような醜い悲鳴を上げて後退するその姿を、雹の嵐が纏めてそのかいなへ抱いて攫う。
「ああ、怒っているよ。当然だろう。理解を望んでもいない」
 分かるものか。
 彼等の痛みが。嘆きが、怒りが。
「『カアサン』と『ニイサン』に『アイサレタカッタ』」
 不意に銃弾を逃れたウリディムマが、嗤う。
 お前の腹の底を視たと言いたげに、けらけら、けたけたと笑い声を上げる。
 遊んでいるのだ。
 怒りに我を忘れた人間の情動は、欲望は、ああ、とても|悍ましい《愛おしい》!
「……オレは、幾つもの想いを託されて此処にいる」
「『アイサレタカッタ』。貴方は愛されなかったのですね。可哀想に」
 噛み合わない言葉。にんまりと瞳を撓めた異形が、さも理解を示すかのように優しげに囁いた。
 何も思わない訳ではない。
 無遠慮に曝け出された古傷が痛まない訳でもない。けれど、それでも。
 生半可な言葉で折れると思うなと。ディフが口にするよりも早く、刃の如き柊の一閃がウリディムマの眼球を深く貫く。やれやれとばかりに肩を竦めたエルフの男が小さく息を吐いた。
「お生憎様だけどね。この子はもう、沢山の人に愛されているんだよ」
 だから、折れない。
 寄せられる確かな信頼に、胸に秘めし核が熱を持つ。
 行っておいでと。告げられる言葉に頷きを返して、ディフは吹き荒れる嵐の中を駆け上がる。
 守ってみせる。
 絶望なんかさせない。

 ――オレはもう、何も出来ない人形じゃない。

「ネージュ! 最低限の魔力だけ残ればいい。オレからありったけを持っていけ!」
 
 今は遠き最果ての|姉姫《イヴェール》。寄り添う|末姫《ネージュ》が呼応し、街を覆わんばかりに宙に咲いた陣が青く輝き意味を成す。
 世界が、空気が、時間さえも凍り付くその只中より降り注ぐは、厳冬が齎す死の概念そのもの。
 質量を以って落ちる氷槍が、赦されぬ災厄を貫き打ち砕く。
「一つ残らず、冬に飲まれ消え去れ……!」
 夜の帷に、雪が降る。
 崩れかけたその背を、確かに支える腕があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロウ・デイクロス
●アドリブ・連携歓迎
はっ、今回の戦いは随分と懐かしい連中が雁首を揃えてんじゃねぇの。
一度倒されて懲りないってなら、何度でもぶっ倒してやるよ!

その為には兎にも角にも手数だな。右手に月刃、左手に魔導銃、腰には魔導書。手持ちの得物をフル活用して、当たるを幸いに薙ぎ倒す。
確か前ん時はすぐ近くに湧き出てきたんだっけな? 死角を取られねぇ様に気を配るぜ。

気を配ると言えば妖精騎士のフォローもしておきたい。寿命の長い連中だ、ヤツの脅威がまだ色褪せちゃいないかもしれねぇ。今は頭数も要るんだ、窮地に陥ってれば救援に向かうとしよう。

で、頃合いを見てUCを起動。纏めてこっちの領域に引き摺り込む。出歯亀野郎は目を潰せってな。
エルフたちの夜目が効くかもわからんから、月明かりはそのまま保持。先陣を切って切り込むから、援護を頼みたい。

で、密告者どもは群れ集まって迎撃準備は万端ってか。だったら、こっちもとっておきを見せてやるよ。こんだけ夜の魔力が満ちてりゃ、コイツが動かせる。

行こうぜ【D】、思いっきりぶん殴ってやらぁッ!



●賽は投げられた
 永遠の森エルフヘイム。嘗て|その地《密告者》を縛り止めていた戒律は多くのエルフの犠牲のもとに成り立っていた。
 多くの派閥があった。少なくない血が流れた。
 正義を掲げ、|愛し合う者《戒律破り》を引き裂く戦乱があった。
「はっ、今回の戦いは随分と懐かしい連中が雁首を揃えてんじゃねぇの」
 クロウ・デイクロス(悲劇を許せぬデモニスタ・f38933)にとって、その元凶となる異形の声を聞くのは二度目だった。吐き捨てるように溢した笑いは、勿論再会を喜ぶものではない。
「エンドブレイカー。|ウリディムマ《私》を退けた者達。貴方達でさえ、矮小な|命《餌》に過ぎません」
 過去の失策を踏襲した上で、ウリディムマは再びこの世界に飛来した。
 最早人間も、エルフも。エンドブレイカーも、猟兵でさえも恐るに足らない。
 くすくす。
 からから。
 げたげた。
 漣のように押し寄せる不快な笑い声はいつしかクロウを囲み、赤々と光る虹彩にその姿を映していた。
「――抜かせ!」
 耳障りな声を断ち切るように、真紅の月が閃いた。
 如何に頭数を揃えようとも。どれだけ不利な状況にあっても、屈することはない。
「一度倒されて懲りないってなら、何度でもぶっ倒してやるよ!」
 理不尽な悲劇を終わらせる。
 それこそが、エンドブレイカーたる者の根源なのだから。

 赤き月の刃が今まさにクロウの真横から生まれ出た小さなウリディムマを切り捨てる。代わりとばかりに秘めたる欲望を嘲笑わんとする瞳を、唇を、振り向き様に突き出した月追いの銃口が火花と共に吼え掛かり喰らい付く。
 死角を奪わせまいとするクロウ一人に対して圧倒的な数を誇る異形の群れ。手数に劣るかと小さく舌を打ち、身に降り掛かる負荷を増やさんと意識を集中させようとした、その瞬間だった。
「勇者さま!」
「……はっ?」
 背後で声がした。
 もの慣れぬ呼称に思わず素っ頓狂な声を上げたクロウの視線のその先に。顔に色濃い恐怖を滲ませながら、それでも剣を、杖を握りしめて。嘗て自らと森を戒めていた破滅の象徴をクロウから少しでも遠ざけんとするふたりのエルフがそこにいた。
「……私の娘は、この子は、|ハーフエルフ《戒律破り》です。嘗て、カシアス老の乱に於いて。貴方に、貴方達に、命を救われました」
「レジスタンスであった父も。母も……私も。皆さんがいなければ、今日この場に立っていることはありませんでした」
 今や戒律はこの世界に存在しない。
 未来を。明日を見せてくれた、あなたへ。
「貴方の背中は我々が守ります!」
「どうか……どうか! 私達に、今一度!」
 出づる不動の城塞が、降り注ぐ星霊スピカの浄化の光が、クロウの背を押している。
 今一度。どうか――、
「……上等! 俺から離れるなよ!」
 その祈りに、願いに応えよう。
 夜が満ちる。それは己が身に宿す|悪魔《デモン》と共鳴することで生まれる、真なる夜の静寂。
「無駄なことを。私は貴方達の感情を視るのです。帷が降りようと、貴方達の恐怖を見失いは――、――ッ!?」
 クロウの支配する夜に引き摺り込まれ、視界を奪われたウリディムマの赤い瞳がぎょろりぎょろりと周囲を探り出す中で。突如浮かび上がる月の光が、闇に慣れたウリディムマの目を眩ませる。大きく瞬いた瞳が月光を反射すれば、クロウにも、エルフ達にも悍ましき悪意の居場所を容易に知らしめることが叶う。
「こんだけ夜の魔力が満ちてりゃ、コイツが動かせる」
 過去の痛みに立ち向かう彼等が勝ち取った好機。それを決して逃しはしない。
 開いた魔導書から浮かび上がる陣が目覚めを告げる。《Deus Māchinā》――機械仕掛けの神。その名を冠する機体が、クロウの呼び声に応じてその姿を変えていく。
「行こうぜ【D】、思いっきりぶん殴ってやらぁッ!」
 振り被られた彗星が如き一撃がウリディムマの群れを薙ぎ払う。
 耳を劈く醜い悲鳴が連鎖する。過去より出でし怨嗟の断末魔が街を満たし――後には、静かな夜が佇んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年09月18日


挿絵イラスト