11
エンドブレイカーの戦い③〜未来への選択

#エンドブレイカー! #エンドブレイカーの戦い #戦神海峡アクスヘイム

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#エンドブレイカー!
🔒
#エンドブレイカーの戦い
🔒
#戦神海峡アクスヘイム


0




 純白のドレスに白い手袋。美しい傘に仮面をつけて、貴婦人のような出で立ちである。だがドレスから覗く巨大な球状の肉塊は醜悪で別のもののようだ。
「ぼうやよ ぼうや……」
 女は歌っている。美しい声であった。しかしどこか正気を感じさせぬ声であった。
「かわいいぼうや……」
 ふんわりと浮き上がり、女は進む。ぱっと傘を広げて悠然と落下していく。降り立った地点は、どこか街中のようであった。
「ぼうやよ ぼうや わたしのぼうや」
 しかし、女にとってそんなことはどうでもいい。うつろな歌を歌いながら、進軍を開始する。
 進みたびに生み出されるのはジャグランツと呼ばれる半獣の種族だ。生み出された種族たちは、瞬く間に状況を把握できない周囲の人間に襲い掛かった。
「優しく 強く 賢いぼうや」
 同時にその醜悪な下半身から棘のついたいばらが生み出される。……そして、
「やりたいことを やりなさい
 生きたいように 生きなさい」
 その声。その、正気を失ったような声。
 住人の悲鳴とジャグランツたちの怒号の中なぜか、まるで生き物の精神を蝕むように、その声は遠く迄響き渡るのであった……。

「エンドブレイカーの世界が襲撃されてる」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の旅人・f02586)は淡々とそう言った。戦争の始まりだね、という言葉を添えて。
「彼らの目的は、エンドブレイカーの世界の地母神を殺すことだ。そして、それにより俺たち猟兵を世界から追い出すこと」
 そのための一手がこれ。と、リュカは二枚の絵を差し出した。
「ギルバニア」
 そこには、斧を掲げた都市の絵と、仮面をかぶった貴婦人の絵が描かれていた。
「子供のころ、師匠に何度も話をせがんだ。ギルバニア討伐戦の話も」
 まさか、自分がかかわることになるとは思わなかったと。
 リュカはほんの少し、戸惑うような。懐かしむような口調でそう呟いた。
「簡単に言うと、こいつがアクスヘイムに降り立って、市街地で悪さをしようとしているから、対峙してきてほしいんだけど」
 けど、そうだね。彼にしてはほんの少し曖昧な口調で、
「厳しい戦いになると思う」
 それは、場所が市街地だからか、と誰かが問うので、リュカは首を横に振った。
「違う。単純に個体として強いから。基本の攻撃手法は薔薇の棘をぶん回してくる。後配下のジャグランツを呼ぶから、それも少し面倒臭い。配下のジャグランツは何もなければ周囲の人々を殺戮して回る。……なにもなければ」
 何もなければ、と、リュカは一つ強調して、うなずいた。
「ギルバニアの仮面。あの仮面の下が彼女の弱点だ。それ以外は、胸を刺そうが首を斬ろうが……いや、弱めることはできるけれども……トドメはさせない。だから、そこを狙ってほしい」
 そう知ればジャグランツたちもみんなを敵とみなして、襲ってくるから、とリュカはそう告げた。
「仮面を壊せばこのギルバニアは死ぬ。……だからと言って、それが容易では決してない」
 だからみんな、気を付けて。と。
 リュカはそう言って話を締めくくった。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。
状況は大体リュカが言った通り。

=============================
プレイングボーナス……敵の弱点を突く準備を万端に整える。
=============================

敵は喋りますが、意思疎通はできません。
戦闘中ずーーーーーっと気味悪い歌を歌っていますが、
精神的に滅入るぐらいで特にダメージはありません。気持ちの問題です。

場所は市街地で周囲には人がいますが、ギルバニアの仮面に向けて攻撃する限りギルバニアもジャグランツも皆様を攻撃してくるので周りは安全です。勿論簡単に破壊はできません。
仮面を壊す以外で死にませんが、それ以外の攻撃が全く無駄というわけではありません。ちゃんと弱ります。

POW等の選択肢は飾りなので、皆様お好きなように好きな感じで戦ってください。こちらも、好きに戦います。

●お知らせ
スケジュールはタグにて記載します。
また、予想以上にご参加いただいた場合(ありがたいことです!)早めに閉め切る場合があります。

今回は一括採用を予定しておりますので、そんなに大人数は採用できません。
また、そういうわけですので、見ず知らずの誰かと一緒に戦うことを前提としていただきたいと思います。
再送はなしで行きたいので、もし手が届かないときはプレイングをお返しすることもあると思われます。ご了承ください。
後、怪我はすること前提にしてください。死闘しようぜ死闘―。

それでは皆様、良い一日ヲ。
267




第1章 ボス戦 『白婦人』

POW   :    魔女の護り
対象を【薔薇の蔓】で包む。[薔薇の蔓]は装甲と隠密力を増加し、敵を攻撃する【薔薇の棘】と、傷を癒やす【純白の果実】を生やす。
SPD   :    ジャグランツ・パレード
レベル×1体の【バルバ『ジャグランツ』】を召喚する。[バルバ『ジャグランツ』]は【猛獣】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
WIZ   :    マザーコール
自身が【危機意識】を感じると、レベル×1体の【バルバ『ジャグランツ』】が召喚される。バルバ『ジャグランツ』は危機意識を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

西条・霧華
「私のやりたい事や生き様は皆を護る事です。だから、あなたを止めます」

それが私の…守護者の【覚悟】ですから…

一般人に被害が行かない様に、負傷を厭わず一気呵成に攻め立てます

【居合】と【斬撃波】で牽制しつつ、纏う【残像】と【フェイント】でジャグランツ達を眩惑
ギルバニアへの道を拓きます
その勢いのまま【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
例え私の刃が届かなくとも、他の方の助けとなる様に頑張ります

敵の攻撃は高めた【集中力】と【視力】を以て【見切り】、【残像】と【フェイント】を交え回避
避け切れなかった時は【オーラ防御】と【覚悟】を以て受け止めます
何れの場合も【カウンター】を狙います


ルシエラ・アクアリンド
色々と巡り結局最後に戻ってきたのはアクスヘイム
私の生まれ故郷。やっと皆が平和を享受出来たの
知らない子供だって居るだろうな
だから歩みの邪魔はしないで

弱点を狙う為開幕精神攻撃織り込みUC発動
動きを阻害しつつ攻撃すると同時に
少し離れた所から弓を駆使し彼方が仕掛けてくる事自体を抑えたい
二回攻撃の一撃目を囮に利用したり
矢弾の雨で此方への攻撃に対抗すると同時に
ジャグランツを呼ばれた時も考慮し絶え間なくダメージを与え此方へ注意をよせる
軽業等で攪乱する動きを取り相手の死角に入れる様動く
隙を作る動きを心がけ同じ場に立つ仲間の動きも良く見る事
多少の怪我は承知の上で攻撃優先

歌は…
私こういう時は幾らでも耐えられるから


リヴィ・ローランザルツ
俺の生まれは此処らしい
気が付いた時にはアクエリオで暮らしていたけれど
―でも心がざわつくのは、きっとそういう事なのだと思う
放置しておくつもりは、毛頭ない

で、セラは大人しくしてくれよ(懐の桃華獣を見
まあお陰で歌も対して気にならないんだけどな

対処
UCの同時使用を最大限に生かす
六花の舞を展開させ少なくとも動きを少しでも制限出来れば良い
続けて近すぎずの所で四重双撃にて分身と共に追い打ちをかける
いざとなれば分身を囮にするつもりで望みたい
ジャグランツは出させないのが一番だろうけど
万一の時は早急に切りつけすぐ離れる

急いて機会を逃すよりは確実に動きたい
一人で戦っている訳ではないしな
怪我だってきっと気にならない


マウザー・ハイネン
ギルバニア…そしてバルバの魔女姉妹の一人、白婦人。
実は直接相対した事はないんですよね。
ここに再び現れたなら全力で討ち果たさせて頂きます。

万全に攻めるにまずUC起動。
氷細剣を媒介に吹雪を呼んで召喚ジャグランツ全ての四肢を凍てつかせ鈍らせ、その隙に本命へ切り込みます。
飛来した大剣を白婦人の顔に投げつけ体勢を崩し、氷槍で反撃を受け流しつつ距離を詰め胎の中のギルバニアの仮面を氷槍を全力で串刺し。
更に二回攻撃、刺さったままの氷槍を足場に跳躍、魔女の仮面の下を狙い氷細剣で貫きましょう。
…貴女の生み出した種族は、今も世界各地で自由に生きていますよ。
答えは期待せずただ伝えたいだけ、です。

※アドリブ絡み等お任せ


シキ・ジルモント
歌を不気味に感じはするが、戦意は一切衰えない

拳銃を用いて遠距離から仮面へ攻撃
味方の隙を埋めるように射撃を差し込む
負傷しても手は止めない、敵の狙いを引き付ける為だ

仮面への決定打を与えられる方法を持つ者が味方にいれば、その後押しを意識した行動を考える
射撃を行う際は常にユーベルコードを使用し、味方の行動成功率を引き上げる

薔薇の蔓や棘での攻撃は射撃を当てて軌道を逸らし
配下の邪魔が入れば牽制して足止めを行い、仮面への攻撃を通す為の状況を整える

危険な状態の味方も援護、立て直しを支援する
包囲される場合は駆けつけ、致命的な攻撃が迫れば庇っても構わない
味方の継戦時間を延ばす事が勝利に繋がる筈だ、協力は惜しまない


冴島・類
なんだろうな、この歌は
言葉と籠る声色がちぐはぐな分
違和感がある
深呼吸し、精神統一
乱戦は確定なので
致命傷だけは避ける為
自身と瓜江に守りの力増す結界張り

喚ぶ配下の数が多い分
近づき仮面に狙いを定めるには策がいる
まずは…当たらずとも
薙ぎ払いで中距離から顔(仮面)目掛け仕掛け
配下達の敵意を引き次第
戦場に鏡片を巻く

叶うなら、ギルバニアの視界も乱したいが…
敵意とか無さそうなので
配下のを乱せたら御の字

自身や、味方猟兵の位置をずらし
誤認させることで、味方の攻守に生かしたり
防御しそうな配下の壁を開け
仮面への攻撃の機を生みたい
半獣達なら、視界乱しても鼻で補って追って来そうだが
数秒でも、困惑させられれば値千金
慣れる前に、自身は破魔込めた刀で
瓜江は持たせた黒曜で斬り
機を作るに徹する
隙を作れば、貫く矛たる猟兵仲間がいると信じて
楽観じゃなく、今この場で戦う方々見て客観的にね

なんとか撃破叶えば
ああ……
元気出る、薔薇の歌が聞きたいや



 こえが きこえ る……。

「……なんだろうな、この歌は」
 人々が逃げていく。冴島・類(公孫樹・f13398)の反対側に。邪魔にならないように気を付けながら、類はその声の主をとらえた。
「ギルバニア……そしてバルバの魔女姉妹の一人、白婦人。実は直接相対した事はないんですよね」
 類の言葉に、マウザー・ハイネン(霧氷荊の冠・f38913)がその女の名を呼ぶ。恐れなくただ静かに、その仮面をつけた女を見た。
「ここに再び現れたなら……全力で討ち果たさせて頂きます」
「……」
 傍らのシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が淡々と銃の確認をしている。特に所感はない。彼にとっては気負うことない……いつもの仕事。たとえどのような不気味な化け物であれ。
「確かに、耳に障る歌だ。俺は情緒は解しないが、なぜだろうな」
 行動に支障は出まい。と判断つけるシキであったが、ふいについでのように、そんな言葉を口にした。
「おそらく、言葉と籠る声色がちぐはぐな分、違和感があるのでは? 子を思う母の歌のはずなのに、その声から愛情が感じられない」
 シキの何気ない疑問を、類が考察する。なるほど、と得心が言ったようにシキは頷いた。
「それで違和感を感じるのか。……だが、どのような状況であれ、勝つために、努力するだけだ」
 それがたった一つのことだと、シキの目が告げていた。きゅっと、西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)が胸の前で手を握る。
「私のやりたい事や生き様は皆を護る事です。だから、あなたを止めます。それが私の……守護者の覚悟ですから……」
 静かで、消えそうで。けれどもどこかしっかりとした霧華の声。戦の前の緊張感に、ふっ、とリヴィ・ローランザルツ(煌颯・f39603)が息をついた。
「俺、生まれは此処らしいんだよね。気が付いた時にはアクエリオで暮らしていたけれど……」
 だから、アクスヘイムに覚えもないし、もちろん、ギルバニアに相対したこともないんだけど。
「――でも心がざわつくのは、きっとそういう事なのだと思う……。不思議だな」
「そう……なのね」
 リヴィにとっては、ただの呟きだったのだろう。けれどもその呟きに、胸が詰まったのはルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)であった。
「知らないのね。大戦も、彼女のことも……」
 リヴィは顔を上げてルシエラを見る。
「うん、でも放置しておくつもりは、毛頭ない」
「ええ。わかっているわ。……ごめんなさい、少しうれしかっただけだよ」
 私の生まれ故郷。やっとみんなが平和を享受できた世界。
 戦いを知らない子供がいる。それだけのことがなんと嬉しかったことか。
「できるならばこれからも、そんな故郷でいて欲しい……。だから歩みの邪魔はしないで」
 戦場にはうつろな歌が響いている。
 ルシエルたちの声を、ギルバニアが聞いていたかどうかはわからない。
「……セラ、大人しくしてくれよ」
 ただ、ギルバニアがこちらを見た。仮面に隠れてわからないけれども、こちらを向いて彼らを認識した。リヴィが懐の中のふわふわの桃華獣に声をかけると、任せろ、とばかりにセラは頷いたようだった。
「……まあお陰で、歌も対して気にならないんだけどな!」
「……」
 向こうはこちらを認識している。だがその視線からは何の感情も……もしくは思考すら伺えない。類は深呼吸をして、心を落ち着ける。己の絡繰り人形、瓜江を戦闘体制に移行させ、守りの結界を張った。
「……乱戦になるな」
 ぽつりと言った類に、そうだね、とルシエラは頷く。
「きっと、休む間もなくなるね。……私、こういう時は幾らでも耐えられるから。大丈夫」
「……望むところ。一気呵成に攻め立てます」
 ルシエラの言葉に乗るように、霧華が一つ、うなずいた。
「そうですね。終わらせましょう……全力で」
 マウザーがアイスレイピアを構える。リヴィも小さく頷いた。
「大丈夫。一人で戦ってるわけじゃないしな」
「……」
 リヴィの呟きに目を眇め、シキが無言で引き金を引く。
 仮面に向かって一直線に飛んだ弾丸は、その眉間を貫くように見えた。……が、
「ぼうやよ ぼうや」
 歌が途切れない。その体から現れた茨が即座に伸び、迫る弾丸を叩き落とす。
 ギルバニアがこちらを見た。今度は確かに、こちらを見たとわかった。向かうべき敵として認識した。その証拠に、周囲を囲うようにわらわらと、人と獣が融合したような姿を持つ生物が現れる。
 ジャグランツが吠え、ひときわ歌声が高くなる。そして……戦いが始まった。

「斬り込みます!」
 真っ先に霧華が走り出した。
「お供致しましょう」
 マウザーが続く。茨が前に出てきた二人を、薙ぎ払うように鞭のようにしなった。
「……せい!」
 鞭のようなひと振りを、刀で抑える。勢い殺しきれずしなる茨が刀を起点に背中に回って霧華を撃つが、霧華は気にせずそのまま茨を切り落とす。
「この程度ですか。私は、まだ立っていますよ……!」
 声かけに、次々と茨が放たれる。それを残像交じりでかわし、受け止めていく。
 いばらに対処する霧華と同時に、マウザーは飛来した大剣をぶん投げた、もちろん目指すは、ギルバニアの顔。
「やりたいことを やりなさい」
 勿論、破壊できるとは思っていない。顔面へのそれは彼女を守るジャグランツが肉の盾になって阻まれる。
「どきなさい、私の邪魔をするなら排除します」
 体験の動きを目で追いながら、マウザーは周囲に吹雪を発生させた。彼女の肉塊から現れるじゃグランツの志士を凍結させようと、吹雪は動く。
「生きたいように 生きなさい」
「!」
 ジャグランツの動きが鈍る。刹那、目の前に迫った茨がマウザーの肩のあたりを貫いた。ぱっと血が散る。
「させない」
 現われた無数の茨がマウザーと霧華めがけて殺到する。同時に動きを鈍らせながらもジャグランツが駆ける。その前に、類の瓜江が動いた。刀身から柄まで全てが黒い一振りのナイフを瓜江は一閃する。それはギルバニアの仮面に向けた衝撃波だ。
「!」
ジャグランツが奇声を上げる。奇声を上げてかぎ爪を持って迫る。その衝撃波を腕で受け、類のことを敵と認識して少し離れた場所にいる類の方へと向かっていく。怯まず、ぱんと一つ、類は両手を叩いた。
「……其の両眼、拝借を」
 敵意は今、こちらに向いた。類の柏手とともに、周囲に魔境の欠片が散乱する。敵の死角を奪い、一を誤認させるその瞬きが、周囲に散った。
「さすがに、あのご婦人までは胡麻化されないようだが……!」
 ギルバニアにちらりと視線を向ける。彼女はただ、歌を歌っていた。襲い来る敵を、機械的に攻撃するための茨と、彼女を守るためのジャグランツを生み出し続けている。敵意……感情を感じさせないその様子は、
「なんだろう。なんとも」
 哀れと言えばいいのか。それとも不気味と言えばいいのか。ほんの少し判断を迷わせる類のすぐそばで、
「わからないけど」
 リヴィが己の分身を作り出した。
「……領域展開。氷雪の華よ」
 分身と共に敵の行動を阻害する、触れた対象を凍結させる氷雪の華を作り出す。マウザーの吹雪とともに、美しい氷の結晶達が周囲に飛び散った。
「こうして……みんなで頑張っていると、なんだか力が湧いてくる、な」
 そうしてそのまま、分身を利用して切り込む。ギルバニアだけなら、距離を保つが、現れたジャグランツは早急に退治したい。銀の柄に翠玉が填まったレイピアが翻る。わらわらと生み出され、そしてリヴィや類たちに向かってくるジャグランツたちを切り伏せる。
「瓜江!」
 類もまた、囲まれる前に絡繰り人形を操る。数が多い! ジャグランツを対処すると同時に、ギルバニアの茨が走る。瓜江を戻して盾にするか。一瞬のその思考の間に、
「こっちだ!」
 リヴィの分身が飛び出した。鞭うたれた分身が即座に霧散する。
「!」
「君!」
「大丈夫!」
 しなった茨は分身のレイピアに斬り裂かれ、その破片が弾丸となってリヴィの足に突き刺さった。関係ない、とリヴィは首を横に振る。
「!」
 ジャグランツが奇声を上げて迫る。その咆哮する口の中に、弾丸が叩き込まれた。
「……」
 二人よりさらに離れた遠距離で、シキがハンドガン・シロガネの引き金を引いた。リヴィの迫っていたジャグランツたちを、次々と撃ち落としていく。
「あ……ありがとう!」
「構わない。……後ろだ」
「ああ!」
 例を言うリヴィ。シキの言葉に類が反応する。即座に銀杏色の組紐飾りの付いた短刀を抜き、二人の背後に迫るジャグランツを斬り裂いた。
「!」
 ジャグランツが吠える。断末魔の悲鳴とともに、そのまま首が落ちる寸前類の腕にかみついた。
「この程度」
 動きを鈍らせているジャグランツの首をそのまま刎ねる。倒せば彼らは消え、そして塵となって消えていく。破魔の力を宿した刀を振るい、類は心の中でどうか次は幸せな生をと願う。
「ぼうやよ ぼうや わたしのぼうや」
 ジャグランツの数が減った。減ったと思うとともに歌が聞こえた。わらわらと生まれてくる獣たち。……だが、
「どうか力を貸して頂戴ね」
 ルシエラが天に手を掲げた。掲げると同時に空の色が確かに変わった。……檻だ。青い空間の檻が戦場に広がっている。けれども類たちには不思議と不快感はなかった。涼やかな風が吹き、傷が癒えていく。
「!」
 対する敵の方はには嵐が吹きつけた。傷と同時に混乱を与えるその嵐に、ジャグランツたちの悲鳴が響き渡る。
「悪いけれど……あなたたちを生かしておくわけにはいかないの」
 そして混乱するジャグランツに、ルシエラの弓が、シキの弾丸が降り注ぐ。生まれた獣は、即座に数を減らしていく。
「ぼうやよ ぼうや かわいいぼうや
 優しく 強く 賢いぼうや」
 だというのに。己の子供たちの悲鳴を聞いてなお。
「やりたいことを やりなさい
 生きたいように 生きなさい」
 ギルバニアは歌っていた。滔々と。感情のうかがえない声で。……声に合わせてしなる茨のみが、強くなり。周囲の建物を破壊しながら、猟兵たちのように迫っている。
「ぼうやよ ぼうや わたしのぼうや」
「今ですね」
 視界が晴れた。一瞬、ジャグランツが途切れたのだ。マウザーが言う。その前からすでに霧華は走り出していた。
「私は」
 うつろなままに戦う女を正面から見据える。破魔と鎧砕きの力を籠めた愛刀を握りしめる。
「……例え私の刃が届かなくとも、他の方の助けとなる様に頑張ります」
 何のために、あなたは戦っているの。
 あなたは、そうしていて幸せなの。
 問いかけが口をついて出そうになり、霧華はその言葉を飲み込む。胸を突いて出たその問いに、きっと答えが返らないことは知っているから。
 拒むように茨がのたうつ。無数にしなる鞭が霧華の腕を、足を撃ってなお。霧華はその手を、足を、止めなかった。
「鬻ぐは不肖の殺人剣…。それでも、私は………」
 疾走と共に敵との距離を誤認させる。そしてそのまま問答無用で刀を抜いた。抜き打ちでそのまま斬り裂く。目指すはその……仮面。
「!」
 悲鳴。それはギルバニアではなくジャグランツからであった。霧華の腕にジャグランツが飛び掛かる。棲んでのところで霧華の刃はギルバニアの仮面をとらえた。
「じゃかましい、です」
 仮面に罅が入る。それでやれるとマウザーは確信する。正面から、華々しく。霧華についでは己が目を引くように、マウザーは真正面でギルバニアと対峙する。
「……さて」
 迫りくる茨を氷槍でぶった切りながら、流れるようにギルバニアの腹に槍を突き刺す。
「……これからが、本番です!」
 背後からジャグランツが迫るのを感じる。構わず槍を足場に跳躍し、アイスレイピアを構えた。
「……貴女の生み出した種族は、今も世界各地で自由に生きていますよ」
 特に、答えは期待していない。
 ただ言いたかっただけだと、後にマウザーを言った。
 その言葉とともに、アイスレイピアがギルバニアの仮面をつく。……硬い。だが、傷がついている!
「!」
 マウザーの背後に、ジャグランツが忍び寄る。しかしながらその爪が届く前に、幻惑する鏡の光とともに、
「させぬ、と言っている」
 絡繰り人形が躍った。呪詛の力を込めた黒いナイフとともに踊りながら、それを操る類はついになるようには魔の短刀を振るう。
「僕がいる限り、君たちは抑えさせてもらうよ」
 決して派手な立ち回りではない。仲間を助ける立ち回り。
「もちろん彼女にも、あまり好きにはしてもらいたくないけれど」
 瓜江とともに踊る。ギルバニアへの攻撃は、あくまで己に攻撃を向けるためのものに抑える。地味な動きかもしれないが、それでも、
「仲間たちはみんな強いから……そうすれば、きっと倒してくれると信じてるんだ。楽観じゃなく、今この場で戦う方々見て客観的にね」
「ぼうやよ ぼうや かわいいぼうや」
 ジャグランツが生み出されていく。生み出されると同時に類たちがその数を減らしていく。生まれると同時に殺す。それに何も思わないわけではない……けれど。
「これは……戦争、なのだろう」
 なら、大事なものが焼け落ちる前に。
「だから……倒すだけだ」
 それ以外のものを、守るために殺す決意があると類は言った。

 絶望の悲鳴が上がる。それはギルバニアではなくジャグランツから。彼らは己の母の死を感じている。ギルバニアは変わらず、歌ったまま。
「倒せるか」
 不意に、弾丸を叩き込みながら式が行った。ルシエルが瞬きを一つ、する。ギルバニアに対する決定打があるかと問うている。ルシエラは頷いた。
「大丈夫だよ。……あ」
「あ?」
「でも、頼んでいいかな。なんでかな。未来を……思ったんだ」
 ちらと視線を向ける先。それにシキも目を向けて、一度うなずいた。
「承った」
 弾丸の雨が降る。ジャグランツは類が抑えてくれている。ならばギルバニアの仮面と、その周囲の茨に向けて。
「こ……の!」
 再び分身を作り出したリヴィが雪を散らせながらレイピアを振るう。距離を離してに方向からギルバニアに迫る。
「やりたいことを やりなさい」
 声とともに、いばらが広がっていく。リヴィを圧し潰そうとするかのように、走ったそれはしかし……、
「……おや」
 その仮面に迫った矢を叩き落とした。落とした瞬間、二射目がすぐそこにあった。仮面の端にあたり、仮面に罅が入る。
ルシエラはわざと冗談めかした声を少し大きめに上げる。羽根を模した、持ち手に蒼水晶が使用されている、小さな真珠が連なり纏わる優美な弓が、ぎりぎりと引き絞られる。絶えることなく、矢を射かける。
「鬼さん、こちら」
 死角に回り込むように、常に背後に回ろうとするルシエラの矢を警戒し、ジャグランツの体がそちらを向く。囮のように放たれた矢は手数が多く、ギルバニアは出鱈目に茨を振り回す。
「……!」
 もどかしそうにジャグランツが回りこもうとする。だが、類たちに抑えられて動けない。
「あれ、今」
 それでリヴィは顔を上げた。レイピアを握りしめる。霧華とマウザーが気づいて一瞬、左右から迫った茨を押しのけるようにして道を作ってくれる。
 急いて機会を逃すよりは確実に動きたい。その機が来たのだと、リヴィは不意に思った。吸い寄せられるようにレイピアを双方向から構える。
「……」
 見た。ギルバニアがこちらを。初めて……歌以外で彼女が何か言った気がした。そう思った瞬間、茨が走る。攻撃ではなく、無数の茨がギルバニアの顔を覆おうとして……、
「……そこだ」
 不意にシキの声がして、周囲の茨に弾丸が飛び散った。リヴィの目の前が開く。……動ける。そのまま、
「それじゃあ、そろそろもう、いいんじゃないかな」
 分身とともに、同時に仮面を貫かれて、
 その仮面は、音を立てて砕けた。

 ぼうやよ ぼうや かわいいぼうや……

 美しい、歌が聞こえる。
 仮面の下には、何もなかった。……何も、なかったのだ。
「ああ……」
 仮面を砕かれた瞬間、即座にギルバニアは消えていく。塵となり、まだ生きているジャグランツとともに、何も。何も残さずに。
「元気出る、薔薇の歌が聞きたいや」
 あとにはただ、歌声だけが尾をひいて残された気がして。
 類の小さな呟きが、塵とともに流れて消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年09月05日


挿絵イラスト