|インヴァイト・ユー《プレイウォーター》
「ほんと!マ~ジ圧倒的感謝!ミカってばホントに神~!」
これは一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)が知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)に、感謝の言葉を並べ立てられた一言。飛鳥がくじ引きで当てた『人気遊園地のペアチケット』は、こうして気軽に誘われてくれた神と共に使われることっとなった。
「まあ、夏休みだからな。絶対乗りたいアトラクションでもあるのか?」
「えっ?」
遊園地に遊びに来た当日。当然、誘われた帝は問う。
何が一番乗りたいのかと。
「その声は、あるだろう。言ってみろ」
「……あれ」
控えめにおずおずと指さされた先に見えるのは、水の上を走る絶叫系アトラクション。
――成程。
帝は納得する。これは神だとも称するだろう。
――わりとすぐにビビる癖にな。
「少し空いているようにも見えるな、すぐに順番が来そうだが」
ひっ、なんて小さな声を上げた飛鳥。
ぴたっとくっついてくる事は、内心笑っている帝である。
"二人で乗れば怖くない"、なら其れは其れで役得という奴だ。
誘導の係員に声を掛けられて、ウォーターライドのアトラクションに足を踏み込む。
ボート型の四人乗りスライダーに乗り込んだ時点で飛鳥はワクワクと不安が同時に顔を覆っていた。
人数に余裕があるからか、そこへは二人のみで乗ることとなったのだ。
絶叫するなら固定一名。不意にゆらゆらと揺れるだけで、わ、わ、と小さな声が漏れ出て聞こえる。
「なんだ。まだ動いてもいないんだぞ」
「わ、わあっとる!」
声をかけるだけでビク、とする様は図星としか言いようが無かった。
「リラックス、リラックス」
「わあっとるって!」
落ち着けと声をかけると儚くにこりと笑って、すぐ、絶叫タイムは開幕する――。
「……ひやぁああああ!!」
動き出すと、不安定の水の上。揺れる度に情けない声が飛び出した。
やはり、飛鳥は激しくビビリであった。
ジェットコースターより不安定、ばっしゃばしゃと水しぶきが上がるスライダーが、じわじわと下へ下へ流れるようにスピードを上げていくと同時に声が大きくなる。
「ミカそこにいる!?」
「どうしていないと思った」
いつもどおりの帝の姿は、飛鳥をとても安堵させた。
ビビりだけど乗ってみたかった!チケットを当てたからには、存分に楽しみたかったのだ!
でもやっぱりこわい!そんな声がガタガタ揺れるアトラクションの上で絶叫に変わる。
ぐわん、と急激にコースターの進行ルートが落ち込む、カーブでばしゃああと盛大に水を被る。
ただ其れだけで、飛鳥は叫びまくった。
「さあ、覚悟を決める時間だ」
かたかたと音を立てて、徐々にコースターは上へ上へと登っていく。
「ひ、ひぃ……!」
「目を閉じてる時間が勿体ないだろう。向こうの、あのアトラクションとかなら平和的に面白そうだが」
「見とる余裕なんであるんや!」
クールで冷静な帝は、どこ吹く風だ。
「いや……」
風景を見る余裕と同時に、飛鳥の姿を見ているとこの後起こる一大イベントの前には霞むというか。
「いつもと同じ姿で堂々としてるなんてズルぅ……」
がくん、とボートは角度を変えた。急激に角度が変わった事で、スピードが加速する。
飛鳥の言葉は断ち切られ、その流れで悲鳴がドップラー効果を残して木霊する。
「ひぃぃいやぁああああああ!!」
帝の耳に、ひと際大きな叫び声が響く。ざっぱーんと、コースターがプールの水を跳ね上げる――当然、スピードを上げたまま突っ込んだのだ。高く波はあがり、勢いよく跳ねた水が大量に頭に降りかかる。ざあざあと降りかかる雨のような水を、叫びながら浴びた飛鳥は、ボードの縁を掴み思い切り咳き込む。少し遅れて、運の悪いことに鼻の奥がツーンと痛んだ。
「あ~……あかんわ、鼻に水入ったああ……!!」
鼻を指で摘み、なんとか痛みを和らげようとする飛鳥に、帝は手を差し出す。
「ほら、もうアトラクションは終わったから。降りてからケアしよう」
――ちり紙は、使い物にはなりそうにないな。
――まあ、時間経過で収まるだろう。
歩けるか?なんて、手を差し出されたら、飛鳥は手を握り返す。
鼻は痛いが、その言葉の意味だって分かるから。
「ここまでずぶ濡れになるとは予想外だった……」
「で~もミカはイケメンやからなー!」
ぐっ、と指を立ててサムズアップ!
「水かぶった姿も絵になっとるな!ほらなんやったっけ、……『水も滴るいい男』ってやつ?」
ぼたぼたと、髪から滴る行く宛のない水が頬を伝い首へと落ちる。
びっしょり濡れたのは、自分一人ではないはずなのに。
「(――そういうお前だって)」
帝は言葉を飲み込んだ。
此処で言うべき言葉は……。
「そうだな」
とりあえず、肯定。
「……んーでミカがさっき言ってたアトラクションってどれや?」
ずぃい、と身を寄せてくる飛鳥はそのまま受け答えをスルーした。
これもまた、いつものことだ。
「ああ、こっちだが……その前にそこの受付に向かおう」
帝がなにやら受付で一言二言話しているのを、横目で見ていた飛鳥は――手元を覗き込んでぎょっとする。
「二枚……あ、いや五枚で。記念に多めに買おう」
それは最終の坂から水に突っ込む最高スピード時に自動撮影された写真。
当然、すごい顔をしているのだが……何故か帝は飛鳥の分より一枚多く購入した。
――アルバム用に。写真立て用に、保存版にそれぞれ必要だ。
真面目に考えている事は表情から想像すること、叶わず。
「わはは!いつもとおんなじ顔やんミカ!絶叫系で無表情なのシュールやなー!」
「お前はこの世の終わりみたいな顔をしていて面白いな」
「ちょっ、そこには触れんといて!でも、うん……俺ってばすっごい顔~~!にらめっこでも此処まで変顔は……」
途中から自分の写真に大笑いする飛鳥がいた。
腹を抱えて笑うものだから、帝だってふわ、と笑ってしまう。
先程までビビり散らかしていた様が嘘のよう。
しかし――そんなところを含めて、今この瞬間が楽しい時間であると帝は断言できる。
さあ、濡れた髪が乾かぬうちに次のアトラクションへ、向かおう。
この時間はもう少し続く。ズブ濡れた衣服に夏吹く風は、心地良いから――。
成功
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