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Gelidiaceae・Persica

#封神武侠界 #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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厳・範




●修行アンド修行
 全ての事柄が自らの血肉へと変わっていく。
 それが修行というものであると宝貝人形『花雪』は思っていた。世界と繋がるための手段と言って良い。
 己の触覚は敏感に世界を感じることができない。それは時として良い面もあるだろう。刺激というのは時として痛みを伴うものだ。
 自身が宝貝人形だからこそ感じぬ痛みは、人によっては得難きものであろう。
 けれど、『花雪』は思う。
 自身も人のように鋭敏に何かを感じ取ることができたのならば、痛みもまた喜びと共に受け入れることができるのではないかと。

 自分が生まれ落ちた世界には刺激が満ちている。
 大なり小なりと言い換えることもできるけれど、それでも己には無い五感の一つを人のように感じることができたのならば……。
「あぅ、やっぱりわからないです。熱いということと冷たい、ということ。違いが」
「いいのいいの。これも修行でしょ」
 そういうのは『若桐』だった。
 二人は桃園から帰るとすぐさま自宅で桃のお菓子作りに勤しんでいた。
 普段であれば『若桐』がこういうことはすぐに済ませてしまう。自分ができるのは手順を覚えることと、味見くらいだった。

「さーて、作っちゃおうか!」
「今日は何を作られるのです? この温めている透明なものは……?」
「寒天だよ! 桃のね、寒天ゼリーを作ろうと思っているんだ。明日の休憩時間まで冷やしておいたら、この暑い夏でも涼を感じられていいだろう?」
『若桐』の言葉に『花雪』は頷く。
 確かにここ数日、とても蒸し暑い日が続いている。
 そんな時に涼やかな見た目の寒天ゼリーなどはうってつけの涼菓であったことだろう。
「良い考えだと思います、お祖母様。でも、寒天って溶かすのが難しいですよね。私にはとても……」
「そうそう。均一に溶かさないと固まらなくなってしまうからね。でも、何事も挑戦さ。成功から得られるものは酷く少ないんだ。失敗こそ、多くを得ることができるって思えばいいのさ」

 そう言ってやってみようよ、と『若桐』の言葉に促されるようにして『花雪』は道具を受け取る。
 確かに温度を感知できない我が身を呪うことは簡単だろう。
 人ではないことに憂うことだってできる。
 けれど、それが時間の浪費であることを彼女は知っている。ならばこそ、浪費ではない時間を使うというのはどういうことか。
 つまり。
「修行! ですね!」
「そうそう。その調子」
『若桐』は苦笑しているけれど、修行というフレーズであれば、なんであっても挑戦しようと思う精神性が『花雪』らしいと言えばらしい。
「でも、寒天ゼリーって珍しいですね。どうしてまた……桃であれば、他にもお菓子つくれようものですが……」
「あー……それはねー……」
『若桐』の頬が少し赤らむ。

 あ、と『花雪』は思っただろう。
 これはきっとお祖父様、厳・範(老當益壮・f32809)絡みの事柄ではないかと推察できてしまう。
「範がさ、美味しそうに前食べてくれたからさー」
 だから、単純かもしれないけれど、と『若桐』は照れくさそうにほほえみながら寒天を熱しながら混ぜている。
「作り甲斐があるっていかー! ね、わかる? わかるかな?」
「ええ、わかります。お祖父様が喜んでくれると嬉しいのですよね。私も嬉しいです。お二人が幸せそうなのが、私にも幸せだということを教えてくれるのですから」
「そ、そう? ならいいんだけど」
 これって惚気話になるのかな、なんて思っていたものだから『若桐』はちょっとうれしくなって寒天を混ぜる手が速くなってしまう。

「あっ、と……速く混ぜすぎると空気を含みすぎちゃって仕上がりに影響出るからね。切るようにね、混ぜようね」
 なんて、と照れ笑いしながらかき混ぜる『若桐』に『花雪』は微笑ましく思うし、またこの二人のもとに自分がいることへの喜びが込み上げてくるようだった。
「明日が楽しみです」
「うん、お茶の時間にはみんなでそろおう。これも『花雪』たちが桃を取ってきてくれたからだよ。ありがとうね」
「いいえ、こちらこそです。ご指導ご鞭撻、またよろしくおねがいします」
「あはは、大げさー! でも、前より『花雪』も温度の加減というか、そういうのを判別できるようになってきたね?」
「火力の様子と時間の経過から類推しました」
 そっかーと、『若桐』は笑みながら『花雪』と共に仕込みを終えて、氷を入れた冷蔵箱二寒天ゼリーを容器に流し込んだものを入れる。

「さあ、これでいいだろうね」
「明日が楽しみです」
 パタン、と冷蔵箱の扉を閉じる。
 桃の味わいは、きっとみんなを笑顔にするだろう。そういう約束をするように閉じられた冷蔵箱の暗闇の中で寒天ゼリーは徐々に冷え、固まっていく。
 それは二人の絆が育まれていくのに、よく似ていたのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年08月11日


挿絵イラスト