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繋いでいくもの

#ダークセイヴァー #ノベル

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冴島・類



城野・いばら




 その村は変わらずそこにあった。
 豊かではなかった。何も変わらにというわけでもなかった。それでも、大過なく人々が前向きに暮らしているさまは、それだけで奇跡なのだと冴島・類(公孫樹・f13398)は知っていた。
 勝手知ったるなんとやらだ。城野・いばら(白夜の魔女・f20406)とともに軽く村を案内しながらいつもの家にたどり着く。丁度外で洗濯物を取り入れていた、隣家のおばあちゃんが二人を見て……そして洗濯物を取り落とした。
「ちょっとあんた……あんた!」
「なんだぁ……?」
 慌てて大きな声をあげるおばあさん。面倒くさそうに隣の……類の目的の家から出てきたのはお爺さんだ。お爺さんは……マッケンジーは、類の顔を見てああ、と頷く。そうして隣につれた人の姿を見て……固まった。
 のちに隣家のダリアさんは語る。
『前からねえ、言ってたのよあの人。『もし類が誰か連れてきたら、あいつはぼんやりしてるところもあるから、厳しい目で見てあらん限りのいちゃもんを付けてやる』なんてね。……それが、まあ』
 まあ、そう。マッケンジーはいばらを見て固まって、そして二人のつないだ手を見て、思わずその場で、頭を下げたのだ。
「……宜しく頼む」
 それだけだった。それだけの言葉も、どこか涙をこらえているような声で。
 いばらはほんの少し驚いたように瞬きをして……そしてそれから、ふんわりと笑ったのであった。
 それきり、マッケンジーは言葉にならないようであった。類もまた、微笑んで二人に軽く頭を下げる。
「マッケンジーさん、ダリアさん。彼女が、以前言っていた僕の『帰る場所』です」
 なんだかそのまま、いつまでも黙っていそうだったので(それはそれで心地よい時間だろうが)改めて、類はいばらを紹介する。
「愛らしいけど、同じように色んな世を駆ける頼もしい子で……守られることも多いんですよ」
 そんな紹介がなんだか嬉しくて。躍り出したいようなポカポカした気持ちを抑えながらいばらは一歩前に出る。頼もしいなんて言われるとつい胸を張ってしまう。類の前ではいばらはリティに成れるから、彼の大事なお二人には白薔薇のリティとして接したい……。
「ごきげんよう、マッケンジー、ダリア。お会いできて嬉しいわ」
 だから、完璧な淑女の礼をした。白薔薇のように気高く、そして柔らかな礼。
「リティ。こちらがマッケンジーさんとダリアさん。この世ですごくお世話になって。調査の為、偽ったりもしたのに……優しくしてくれて」
 そんないばらのあいさつに、類もちょっとはにかむように説明する。でもその説明には、
「一緒に暮らさないかって言ってくれたことも。僕にとって祖父母みたいな方々なんだ」
「(……うーん)」
 なんだか申し訳なさそうな顔をしている類である。きっと偽った時のことを気にしているのだろう。
「(ごめんなさいってした時に、雷は落してもらえなかったのかしら……っと、だめだめ)」
 思わず指摘したくなるけれども、今日のいばらはリティなのだ。淑女としては言葉だって気を遣う。
「あ、此方はお土産さんです。二人で育てたのよ」
「あらあらまあまあ。ご丁寧に。……おや、ハーブ?」
「はい。お茶やお料理、お薬にと色々活躍してくれる頼もしいコ達だから……ぜひぜひ、紹介させてほしいわ」
「まあ! うれしいわ! こんなところだからお薬も調味料も貴重で……って、ほらほらいつまでお嬢さんを立たせておくつもり? 入るわよ、中。片付けるわよ!」
「お、おう」
 ようやく衝撃から立ち直ったマッケンジーと、ちょっと待っててとマッケンジーの家へ入っていくダリア。二人の背中を見ながら、いばらがこっそりさっき思っていたことを聞いた。
「ふふ、雷は落とされなかったよ。……大事にしたいのと同じだけ、この縁を守り繋ぎ続ける、かたちを探しているんだ」
「かたち……」
 ささやかな内緒話のように語る類に、いばらは少し考え込む。花からヒト型となった彼女には、血のつながりも幼少の記憶もない。
「……その時のお話、リティにも聞かせて欲しいな?」
 だから、なんとなく類の言いたいことは分かった。どうしたいのかも。
「出会ってからの話をするとなると長くなるかな。お茶のときにしようか」
「ええ。それにね、他にもききたいことがあるの」
「そうだね。僕も2人の今までとかも聞いてみたいし……それに」
 そこまで言って、さらに類は声を小さくする。と言っても、後ろめたい雰囲気ではない。
 なんだかとっても甘い内緒話をしているような声だった。
「リティと秋にめおとになることも、きちんとお二人に報告しておきたいかな」
「……うん」
 改めて言うと、ちょっといばらは照れた。ほんのり頬が赤く、照れたように笑う。
「可能なら……式にお招きしたいけど」
「大丈夫、きっと……」
 あの二人は断らない。いばらはなんとなく、それだけはしっかりとわかった。どんなところにだって、来てくれるだろう。そんな気がした。

 勿論結婚式は行く、という話になる、さまざまな近況を交換して、帰り際にもう一度、二人は村を歩くことにした。
 決して豊かではないが、人が生きている。子供たちは痩せているが楽しそうに遊んでいるし、老人も切り捨てられずに生きている。それだけで温かい何かが村を包んでいる気がした。
「嬉しかったわ」
 街の広場に植えられた、やせた桜の木を見ながらいばらはぽつりとそう呟いた。……木々と話していてもそう。辛いけど、精いっぱい頑張ってる。幸せもある。そんな健気さがいばらには嬉しいのもあるが、
「紹介したいと考えてくださる事も、類が紹介したいと思うコがいらっしゃる事も嬉しくて。……類がとても幸せそうで」
 だから、守りたいと思った。この村も、ここの人も。なんてない村なのに、かけがえのないものに見える。
「ふしぎ。リティもね、類とこんな風に大切なご縁を紡げるとは……二人で一緒に日傘で飛んだ時は、想像もできなかったわ」
 「めっ、て怒るあなたも」。小さく付け足された言葉に、類は思わず笑う。語る言葉は、本当に楽しそうだ。
「確かに一緒に飛んだ時は想像もできなかったけど……あの時から君の手や心意気は眩しく、格好良かったよ」
 最初は思ってもいなかったことも、最初から気付いていたことも、全部幸せで愛しいことで。そしてそれを誰かに繋いで拡げていって。……そんなことができるのが、何よりうれしく。そして類は彼女が誇らしい。
 そんなことを、すべてわかっているのだろうか。いばらはちらりと類を見る。 
「それに」
「ん?」
「類がかわいかったわ」
「えっ」
 唐突な不意の言葉に、いばらは楽しそうに微笑んだ。祖父母のような二人と少し照れくさそうにする彼が可愛くて愛おしくて。
 なんだか普通の家族みたいで。それがすごく嬉しかった。
「類の想い、リティにも一緒に叶えさせて、抱えさせてね」
 だから、とびきり思いを込めて。とびきりの笑顔で。リティはそう言って類の手を握った。類は不意に、とても……とてもまじめな顔をして。
「……うん」
 本当に、本当に愛おしそうなその声に。その綺麗な笑顔に。類は思わず言葉に詰まる。
 類はいつだって、リティの咲みに支えられているんだ。……なんて、
 口に出すのも少し恥ずかしかったから、類は握った手に力を籠めることで返事とした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月23日


挿絵イラスト