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Trifolium Pratense

#封神武侠界 #ノベル #猟兵達の夏休み2023

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厳・範




●夏季休暇
 休む、というのは中々に難しいものであると厳・範(老當益壮・f32809)は常々思っていた。
 そのことを告げた時、友は呆れ果てたような顔をしていたが、お互い様であろうとも言える。水辺の気配は風に触れて涼やかな雰囲気を範に運んできてくれる。
 水の跳ねる音は宝貝人形『花雪』と『若桐』、二頭のグリフォンの織りなすものであろう。瞳を伏せていてもわかる。
 彼女たちの気配は常に感じ取れている。
 別段心配することはないとは思っているのだが、しかし、やはり警戒というのは怠るべきではない。
 如何に休暇とはいえ、ここは水辺。
 如何なる水難が襲いかかるとも知れぬとあれば、気を張っておくにこしたことはない。

 とは言え、である。

 いつまでも瞳を伏せているわけにもいかない。
 何故か、と問われたのならばなんとも答えようがない。何故なら、気恥ずかしいからだ。
「何が、です? お爺様」
 その言葉に範は目を開く。
 思わず口に出してしまっていたのだろう。目の前には若葉を思わせる鮮やかな彩りをした水着に身を包んだ『花雪』がいた。
 隣には妻である『若桐』。
 彼女もまた水着を着込んでいた。
「いや、何。思索に耽っていただけであるよ。それで、修行の方は抜かりないか」
「はい! 勿論です!」
 その言葉に『若桐』は苦笑いしてしまう。

 何故なら、この水辺にやってきた名目は修行ということになっているからだ。
 どれだけ『花雪』に水辺で水遊びをしよう! と言っても素直にはやってこない。どうしたって修行にかこつけてしまうし、結びつけてしまう。
 ならば、と『若桐』が一計をあんじてこの形になったのだ。
 そう、つまり。
「そうだよね、『花雪』。その被膜宝貝の遣い心地を確かめに来ているのだから」
 彼女も合わせて言うが、本来の目的は彼女に水着で水遊びをさせたいと思っていたためだ。
 水着なのは水濡れてもいい複素うだから! という強引なものであったが、まんまと『花雪』は水着に着替えて水辺での修行と云う名の遊びに取り組んでいる。
「よく似合ってる。『若桐』の見立ては正しかったようだ」
「違います、お爺様。お婆様の作ってくださった宝貝のおかげです」
 なんとなく話が噛み合ってない、と範は思ったが、『花雪』が、では! とすぐさま水辺での修行に戻っていく。二頭のグリフォンも追従して修行っていう名の水遊びに嬉しそうにしているのを見送る範は、どうも隣でソワソワしている『若桐』を認め、息を吐き出す。

「どうやらうまくいっているようだな」
「えっ!? 何が!? あっ、うん、そうだね。やっぱりあの子らの羽を使うのは良い案だったよ。撥水性能があるのならば、と思ったけれど、織り込んでいく家庭で薄く伸びる特性があったのはありがたいことだね!」
『若桐』は、さっと範から目をそらしていたが、範も『若桐』から目線をさり気なく逸していた。
 彼女が皮膜のような宝貝を求めたのは、『花雪』が球体関節を持つ『宝貝人形』だからである。

 そう、関節部が露出しているからこそ、多くの細かい塵などが噛み合いを阻害し、動きを悪くすることが予想されていた。
「人の皮っていうのは、口や瞼といった裂孔あれど、つなぎ目なしの一枚だからね。そもそも『花雪』とは作りが違う。じゃあ、一枚で覆ってしまえばいいじゃないって思ったんだけど」
「当たりだったな。撥水するということと弾性と展性があることを両立させるのは至難ではなかったか」
「それはもー、僕の技量をご覧! って感じ!」
 ね、と『若桐』は意識せずに範に近づいて、肩を揺する。
 ほとんど無意識だからこそ、彼女はぐいぐいと水着姿で範に近づいている。近づくことができている。

 いつもならば、こうして肌を晒す格好を誰かに見せることを好まない二人である。
 けれど、今は水辺で休暇であり、また家族しかいないというのならば話は別だ。
 少し気が緩んでいた、とも言える。
 いや、範は己を厳しく律しているので、関係はない。関係はない。関係はない、のだけれど……。
「……『若桐』、少し」
「あっ……」
 えっと、ごめんね、と『若桐』が顔を真赤にしながら離れる。そういう範の耳元も心なしか赤いような気がするのだが、それは言わぬが華というやつであろう。
 そんな幾年経っても初々しい似た者夫婦は人知れず、心通うやり取りをしていたのだが、そんな彼らをよそに『花雪』だかは真面目に水辺での修行に勤しむ。

「むん、なるほど。水に沈んだ砂、というのは乾いた砂よりも脚を取られやすいのですね。これは私の足元の感触をしっかり確かめて……ああ、でも砂の種類でも変わるのでしょうか」
 お婆様、と訪ねようとして『花雪』は目を丸くする。
 そこにあった光景に顔を赤くして、仲睦まじい夫婦の姿を見る。慌てて口を覆うけれど。
 でも。
「はわわわ」
 と挙動不審になってしまうのは止められない『花雪』のだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月22日


挿絵イラスト