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#封神武侠界 #ノベル

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厳・範




●守られるべきもの
 宝貝を研究し、作るのが『若桐』が見出した厳・範(老當益壮・f32809)の隣りにいたい、共に在りたいと願った技であり術であった。
 同時に宝貝の道というものに対しての入れ込み具合を示す度合いでもあったことだろう。
 作り上げることは勿論、森羅万象、世の中に満ちる素材のあらゆるものが彼女にとっては研究の対象であった。
 組み合わせ、時には素材同士によって相性が生まれ、そして奇跡めいた現象を呼び起こす。
「だから面白いと思えるんだろうけれどね……とはいえ、これってどうしたものかなぁ」
 彼女が今手にしているのは砕けた黒曜石製方尖塔型宝貝であった。
 範がユーベルコードに寄って攻撃や偵察を行わせることのできる便利な宝貝であるのだが、脆いのだ。
 攻撃に使えば確実に砕けてしまう。
 かと言って偵察に使ったとしても、範のユーベルコードの力に負けて、すぐに割れてしまう。

「致し方あるまい。こればかりは消耗品だと割り切るしか……」
「そんなことないよ! 絶対何かやりようがあるはずなんだって!」
 範の言葉に若桐は頭を振る。
 そう、己の師より教わった多くのことがあれば、この耐久性という問題はクリアできるはずなのだ。
 だが、この宝貝の耐久性を上げるとなると、多く問題が必要になる。
「どうしようもないのではないか?」
 範の言うことは最もだ。
 最初に若桐が思ったのは素材となる鉱石の変更だった。

 けれど、うまくはいかない。
 そもそもユーベルコードの使い方は千差万別である。同じような力に思えても、まるで異なる力の発露となることが多い。
 そこで範の力を黒曜石以上に受け入れることのできる鉱石を探すのは骨が折れる。同時に耐久性だって高いとは思えない。
 ならば、どうするか。
「うーん、うーん……」
「悩むのも試行錯誤も善いだろう。だが、根を詰め過ぎぬようにな」
 範は悩む若桐の肩を叩く。
「何処行くの?」
「またぞろオブリビオンの出現が伝えられている。ならば、向かうが猟兵というものであろうよ」
 行ってくる、と範が出ていく。

「もー、僕ってば、ほんと役に立たない……」
 その背中を見送って若桐はますます己が役に立っていないことを思って落ち込んでしまう。
 そんな彼女を見かねたように二頭のグリフォンがそばに寄ってくる。
「そんなに落ち込まないで」
「範だって役に立たないなんて思ってないよ」
「ありがとーでもね、やっぱりこれがうまく行けば、範の手助けになると思うんだよね」
 だから、と、指で鏢の形を模したような、尖塔型の黒曜石をいじる。
「この黒、きれい!」
「この形、好き!」
 二頭は若桐の手元にある宝貝を見て興味津々だった。普段ならば若桐も止めるところであったが、今ばかりは少し元気がない。注意する気力も内容だった。

「ねえ、若桐」
「ぼくら、ここで歌いたい」
「え、いいけど、なんでまた……」
「これ、気に入ったんだ」
「綺麗だし、なんだか嬉しい。だから歌いたい」
 その言葉に若桐はそういうものだろうかと思った。自分は今ちょっと不貞寝したい気持ちであったけれど。
 でもまあ、いいだろうと思った。
「いいよ。好きなだけ歌いたまえよ! でも、ちょっと僕は不貞寝……いや、お昼寝したい気持ちだから、できれば子守唄か、声量を抑えて歌ってくれると助かるな!」
 その言葉に二頭はごきげんに歌い出す。
 響く歌声を背に若桐はまだ頭を悩ませていた。

 どうしたって砕けてしまう宝貝。
 砕けたら二度と使えない。何せ、砕けた鉱石を元に戻す術がないのだ。人間の肉体のように治癒能力があるわけではない。
 響く歌声と共に思考を深めていく若桐。
「うーん、うーん……」
 寝ても、覚めても。
 ずっと宝貝のことを考えている。そもそも鉱石にこだわることが間違いないだろうか? 他に善い素材があれば、それも考えただろうが、やっぱり力の伝達は他の素材だと難しい。
 ならば、どうすればいいのだろう。

 そんな風にして一昼夜眠っているような、眠っていないような、半端な状況のままいるものだから、若桐の顔色はどんどん悪くなっていく。
 半端に目が覚めてしまったもので、若桐は作業場に足を運ぶ。
「おっ、と……」
 そんなものだから、彼女の足がもつれ、作業台に置いてあった黒曜石尖塔型宝貝に手が触れ、床に落ちてしまう。
「あー……ちゃー……」
 やっちゃった、と砕けた黒曜石を若桐は見下ろすしかなかった。
 寝不足。
 集中力の欠如。
 思い悩むのはいいかもしれないが、こんなことになってしまうのならば、むしろ何もしなかったほうがよかったまである。
「ダメだなぁ、僕は……えっ」

 拾い上げようとした宝貝の欠片。
 だが、それは若桐の眼の前で徐々にくっついていくのだ。磁石で引き寄せられるように、だ。これは一体どうしたことかと若桐は目を見張る。
「……どういうことこれ? 黒曜石に……磁力は宿らない。なのにくっつこうとしている……いや、それどころか、元の形に戻ろうとしている? なんで?」
「どうしたのー」
「変な音したー」
 作業台から落ちた宝貝の音に気がついて二頭がやってくると、磁石のようにくっつこうとしていた黒曜石が瞬時に復元したのだ。
 明らかに二頭の声に反応していた。

「こ、これだー!!」
 若桐は気がついた。
 二頭の歌声には活気と癒やしを与える力がある。
 それが歌声によって染み渡り、自己再生能力へと変貌したのだろう。だが、二頭の歌声が響かなければ再生しない。いや、実用に足り得ない。
 ならば。
「ちょっと君らの羽根を頂戴ね!」
 そこからの若桐は速かった。
 二頭の羽根を混ぜ、歌声を聞かせ、定着させる。徹夜なんて当たり前だった。
 少しでも早くあの人のためにと思ったのだろう。
 彼女は目の下にクマを作りながら、誇らしげに範に出来上がった宝貝を手渡す。

「これは……」
「できたよ! でも、ごめんね! ちょっと寝かせて!」
 電池が切れるように若桐は範の胸にもたれて寝息を立て始める。それは彼女にとって最も安心できる場所。
 その彼を守るために役に立つようにと願った宝貝は、彼女自身の手によって範の力になるのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月08日


挿絵イラスト