帝先輩のパーフェクトおのろけ教室
……さーて、どうしてくれようか。
源・全(地味目主人公系男子・f40236)は頭の中でこれでもかと思考を回転させ、この状況を打破せんとしていた。
食物文化研究同好会、略して食研はただいまおやつ買い出しタイムに入っていた。
部活中にそんなんしてきていいの?何を言ってるんですか食研なんだからお菓子も当然研究対象ですよ。ええ。
それはさておき、このおやつ買い出しタイム、もとい先程からずっと続く沈黙空間をいかに凌ぐかを切実に悩んでいた。
「(……ああ、俺が負けてたらまだこうも胃が痛くならないで済んだのに……!!)」
じゃんけんの勝ち札を出してしまったことをここまで後悔することはなかったし今後も多分これ以上後悔することはないだろう。
元々食研のおやつ買い出しタイムはじゃんけんで負けた者が買い出しに行くというルールがある。
それによって今回買い出しに行くことになったのは全の先輩である知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)であり、勝ってしまった全はもう一人の先輩である一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)と共に飛鳥が買い出しから戻るまで待つことになったのだが。
この飛鳥の帰ってくるまでの時間が、それはそれはもう、とてつもなく気まずくて胃が痛くて仕方ない!!
それが今の全の心境である。
帝は決して悪い人ではないだろう、それはわかる。彼と幼馴染だという飛鳥からの話でもその認識は間違いではないと確信しても良さそうだ。
だがしかし、びっくりする程ポーカーフェイスで何を考えているのかがめちゃくちゃわかり辛い。
その何を考えているのかわかり辛いという部分が、全が帝に対して苦手意識を強く持つ一番の要因だ。
わからないもの程怖いことはない。わかっていれば余計な地雷を踏むこともないし周りに合わせられずに浮いてしまうなんてこともないのだから。
「源?」
「えっあっはい!?!?」
とかそんなことを考えていたら帝から声がかかって思わず全は声が裏返る。
まずい、まさか顔に出てただろうかと嫌な想像がもはや走馬灯の如く素早く流れていく――が。
「……何か驚かせたみたいですまない。顔色があまり良くないように見えてな。大丈夫か?」
「あっいやそんなことないですはい大丈夫ですはい!」
「そうか?ならいいんだが」
杞憂であったようで、全はほっと胸を撫で下ろすと同時に寿命が2,3年ぐらい縮まった気がした。
とはいえ、気遣われていることが嫌というワケではないし、こういうところが帝が悪い人に思えない所以でもある。
それはそれとして、苦手な人に声をかけられるのはやっぱりびびらずにはいられないもので。
とはいえこのまま沈黙を保ち続けることも全にはとても耐えられない。
何とかこの状況を打破したい……何か、そう、何か話題はないものか!
とりあえず何か当たり障りなくて程よく続きそうな何かは……!
「……そういや」
「ん?」
「一ノ瀬先輩って知花先輩とすごく仲良いですよね」
「そりゃあ、幼馴染だからな。飛鳥を好きな気持ちはこの世の誰にも負けない自負がある」
「(ん!?何か変なスイッチ入れた!?)」
ああ、そうだなぐらいの反応がくるぐらいで思っていたらむしろ「よくぞ聞いてくれた」とでも言うかのような回答。
あまりにも予想の斜め上をいくものだから全は一瞬思考が固まった。
しかしこっちをちゃんと見て回答している帝の目は痛いレベルで真っ直ぐであり、全く嘘を吐いてないと理解するには十分すぎる。
しかもこう、何かすごくわかりやすく目がきらきらと輝いているのもも余計に困惑する。
「…………へえ、そんなに知花先輩のことが好きなんですね」
「もちろん。世界中の誰よりも大好きだ。愛してると言っても過言ではない」
「……そ、そうなんですね(感情デカくない????)」
「何なら飛鳥との間にあったこれまでを語るだけで72時間は余裕だぞ」
「そんなにですか!?(どんだけ語るんだよ!?!?)凄いですね……」
やっべ、間違いなく変なスイッチ入れちゃったわコレ。
ツッコミが口から飛び出そうになるのを必死に堪えつつ、相槌を打つ全。
軽率に話題を振ったことをこの時少しばかり後悔した。
そう、ここから帝による別に聞かれてもない飛鳥語りが始まる――!
「そうだな、まずは……」
「(あっこれ長くなる奴だ)」
「ああ見えて飛鳥は大の虫嫌いでな。蚊を手で叩くのすら躊躇うぐらいには受け付けないんだ」
「そうなんです?(えっそれ俺聞いちゃっていいのかな、気持ちちょっとわかるけど)」
「昔は蝶やとんぼが近づいてきただけで大べそをかいてたぐらいだからな。今でも服に小さなてんとう虫がついてただけで涙目で助けを求めてくるんだが、それが最高に可愛い」
「そ、そうですか……(いやそんなのぶっちゃけちゃってホントにいいの!?)」
「あと割といじらしいところがあってな。スプラッタモノやホラーが苦手なのに、スプラッタDVDを最後まで俺を気遣って一緒に観てくれたりとか」
「優しいですね……(いや知花先輩それ無理しすぎじゃね???優しすぎん???)」
「それと、飛鳥はああ見えてめちゃくちゃ女子力が高いんだ。この場合の女子力というのは料理洗濯家事育児の総合的な奴な」
「そうなんですか?」
「弟妹が多いからな、親の代わりに面倒を観たり食事や洗濯を引き受けることも多かったからその辺りは一通りできるし俺もいくつか小技を教えてもらったりした。効率的な部屋の片付け方とか」
「へえ……凄いなあ(片付け方……正直俺も聞いてみたい)」
「いつか毎朝味噌汁を作って欲しい」
「それだけ料理上手ならきっとおいしいですもんね(同棲する気満々だ……)」
「それから――」
それからというもの、帝はそれはもう饒舌に飛鳥の可愛いところを語り続ける。
幼少期、カルガモの子供のように自分についてきていた姿がめちゃくちゃ可愛かったこと、自分との別れを想像しただけで泣いてしまう程に泣き虫だったのがとても愛らしかったこと、
弟と妹ができてからそれが段々と収まり、兄として立派に成長していった姿が眩しく尊かったこと。
立派な兄となっても尚、自身を頼り甘えてくれるのが最高に可愛くて可愛くて仕方ないこと……
普段の帝のイメージとは正反対なマシンガントークぶりに全は内心圧倒されていた。
「(……何ていうか、一ノ瀬先輩ってこんだけ喋れる人なんだな)」
などと、失礼であろうと思いながらもそんな感想を抱いた程には。
学年が違う為部活以外で顔を合わせることはそんなにないが、そんな中でふと見かけた時の帝は飛鳥と一緒にいる以外では何かと頼りにされるのか誰かを手伝ったり、何かしら頼み込まれたりするような光景が多い気がする……と、思い返した。
なる程、飛鳥の言及以外でも悪い人でないだろうと印象づくようなところばかり見かけていたのかと、一人勝手に納得した。
それはそれとして、何を考えているかわからないからどうしても苦手意識が強かったのだが……案外彼の考えていることはシンプルなのだろう。
飛鳥が好き――ただその一つなのだと。
実際今こうして全の前で飛鳥についてこれでもかと語りに語り尽くす帝の姿は、表情や声色こそ変わらないが普段の彼と比較すると遥かに活き活きとしている。
変なスイッチを入れてしまったと思ったが、帝に抱いていた気まずさや苦手意識が少し溶けていった、そんな感覚がした。
「――どうだ可愛いだろう。その時の写真があれば見せてやりたいぐらいだ」
「へ、へぇ……知花先輩にそんな一面が……(いやこれ俺が聞いていい情報なの!?!?バレたら怒られない!?!?大丈夫!?!?)」
「それとは別にこれはこの前新しく開いたショッピングモールでパフェを一緒に食べた時の飛鳥」
「(えっ)……お、おおー、めちゃくちゃ嬉しそうに食べてますね(いや今の流れで写真見せる流れになる!?というかこれ俺が観ちゃっていいの!?てかパフェでっか、これあそこのチェーン店のやつか予想以上にでかくない???)」
「飛鳥は飯を食う時はどれもおいしそうに食べる。だから見ていて心が暖かくなるし、最高に可愛い」
「おいしそうに食べてると作った人も嬉しいですよね(それは確かにそうだけど本人に許可取らず出していいのかソレ!!)」
そもそもパフェの写真を撮るという名目で撮ったものなのでそもそも自分が写っていることを本人は知らないだろうし今どきイ●スタにそういった写真を挙げるのはよくある話なので多分本人は気にしないだろう。
当然、全はそんなこと知る由もないが。
「……ふう。大分喋ったな。何か自販機で買ってくるか。源もいるか?」
「えっ、あ、は、はい。そうですね、喉乾いたし(そらこんだけめちゃくちゃ語り散らかしてたら喉乾くわ)」
「何がいい?飲みたいものがあれば買ってくるぞ」
「えっ?!いやいいです自分で買います!!」
「気にするな、話に付き合ってくれたんだからこれぐらいは奢る」
「え、い、いやあの…………(いや待てよ、ここで拒否り続けるのも逆に失礼って思われるかも……)
……あ、ありがとう、ございます。じゃあその、デ●ビタで……」
「ん、わかった」
そう言って教室を出る帝は表情こそ結局変わらないし、声色も普段と変わりない。
しかし今まで感じていた苦手意識が減ったからか、その中に少しだけ見える穏やかさや人の良さがほんのりと全に伝わってくる――ような、気がした。
「(……何ていうか、めちゃくちゃ意外だったな)」
とはいえ、あの情熱的なまでの飛鳥LOVEガチ勢っぷりは全が帝に抱いている普段のイメージとは大分真逆だ。主にノリが。
そう、ノリが。大事なことなので2回言う程度にはイメージが覆った。
まるで好きなもののことになると途端に饒舌になりめちゃくちゃ早口で語り始める感じのノリ――一応言っておくと普段キョドりやすい全でも普通に聞きやすい程度のペースを帝は保ってくれていたのだが――。
それに入ったばかりの後輩であるにも関わらず寛容な姿勢といい、思っている以上にあの先輩は悪い人ではないのかもしれない。軽率に後輩に奢って良いのかという疑問はあるが。
「……何ていうか、俺が怖がりすぎてたんかな……」
「はい、デカ●タ」
「うぇあちょっちょあっ(ヤッベいまの聞こえた?!?!?!?!?)あ、あ、ありがとうございます……」
「?どうした?」
「なんでもないです!!!!!!!!!」
聞こえていなかったようだ。セーフ。
全は胸を撫で下ろした。
また寿命が1秒程度縮んだかと思いつつ、受け取った●カビタを口にする。
「話、聞いてくれてありがとうな」
「え、あ、いや……その、お気になさらず……」
「今までこういった話ができる相手がいなかったからな……つい喋りすぎてしまった。悪いな」
「い、いえ大丈夫です……(そうだったのか……いやでも普段見るとそうかも……)」
確かに、普段の帝を考えると飛鳥を介さない限りなかなか話には繋がりにくそうだし、内容を考えると話す相手も限られてくるだろう。
変なスイッチ入れてやらかしてしまったかと思ったが……ある意味でよかったのだろうか?
全は心の中で某チャットで考えるスタンプのような表情をした。
「あの、その……まあ、部活の間は俺でもよければ、その、聞きますよ(いや待て俺軽率にそんなこと言っていいのか)」
「本当か?助かる」
「(あ、何か目がきらっとした。顔全く表情出てないけどすげ―――――きらきらした)」
「源も何か話したいことがあるなら、俺でよければ聞くぞ」
「あ、はい。ありがとう、ございます…………一ノ瀬先輩って、面倒見すごく良いんですね」
「先輩が後輩の面倒を見るのは当然だ」
「(すげえ、さらっとマジで当たり前かのように言ってる……)」
この日から全と帝の間にあった距離が少しだけ縮まり、買い出しから戻ってきた飛鳥も交えておやつを頬張りながらLI●E交換した全。
陰キャにあるまじきコミュの広がりように自分でも内心驚きを隠せずにいた――
『聞いて欲しい。今飛鳥が――』
『また何か可愛いことしたんですか?』
そしてそれをきっかけに帝から定期的に全に対して飛鳥語りをするL●NEメッセージが届くようになり、
本当に話せる相手がいなかったんだろうな、と少し生暖かい目になりつつ彼の惚気話に付き合い続けることにした全であった。
その結果全の相槌スキルが上がり、結果としてクラスでふとしたことから一部のクラスメートから聞き上手として話かけてくる人が少し増え・
「何があったの!?」と内心ビビリ散らかしながら学校に通うことになるのだが――当然、それはまた別の話である。
成功
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