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コード・レガシー

#けものマキナ #アルワーツ魔術学園

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#けものマキナ
#アルワーツ魔術学園


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「今回は緊急の案件ではない」
 (自称)レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)がいつもの如くゆったりと椅子に座って手を組んでいる。
「けものマキナの住人はユーベルコードに酷似した能力であるデモンズコードを用いる。そうだな、かつてのシルバーレインやエンドブレイカーで言う所のアビリティ、異世界のケルベロスが持っていたとされるグラビティ。それと似たような関係だと推測する」
 つい先日発見されたばかりのケルベロスディバイドには、酷似したケルベロスブレイドと言う世界があるらしい。そして、ケルベロスブレイドから来て猟兵になった者も居るようだ。ただ、今までの世界と違って一方通行のようだが。
「そして、現地民の諸君は他の世界行った事があればデモンズコードがユーベルコードに変化している事を……理解してるかは分からないが、変化している。それでも使う感覚は変わらない筈だ。それ程、デモンズコードとユーベルコードは酷似している」
 人間が使っているのもデモンズコードだし。と、なるとあの人間達はオブリビオンとは無関係なのだろうが。
「さて、本題だが……諸君はいつも使っているユーベルコードをどうやって取得したか理解しているか?」
 鍛錬場で|世界への影響力《ワールドポイント》を支払ってという意味ではなく。
「鍛錬を積み獲得した者もあるだろう。何らかのデータベースから習得した物もあるだろう。あるいは、どこかで誰かが使っている所を見て自分にも近い事が出来る、と思って閃いたのかもしれない。方法も機会もそれぞれだろう」
 ユーベルコードに同じ物は一つとして存在しない……猟兵として目覚めた時に三つほど得る奴と、サバイバルで入手できる奴は別として。それ以外の膨大な数のユーベルコードは全て別な物の筈である。
「どうやら、デモンズコードもそうであるらしい。けものマキナにはデモンズコードの訓練と取得を目的とした学校があるのだ。そこに特別講師として赴き、諸君のユーベルコードを教えてやって欲しい」
 自分のユーベルコードを他人に伝授しようと言う話だ。それが先のデモンズコードとユーベルコードが酷似している話と繋がっている。
「無論、諸君のユーベルコードをそのまま取得する事は不可能だろう。だが、近い物を習得できる可能性はある。諸君もこの機に自分のユーベルコードがどういう物であるのか、掘り下げて考えてみてはどうだろうか」
 ユーベルコードを使っている猟兵でもその全てを把握して使っているかと言われると疑問は出るだろう。どう考え、どう動き、どう使うのか。それを改めて再確認してみるのも良いではないだろうか。
「赴任先はアルワーツ魔術学園だ。この世界に魔法は無いが、体系化され習得しやすくしたデモンズコードを魔術と称する事がある。この全寮制の学園で八年間、それを学びながら自らのデモンズコードを見つけていく。そういう場所だ」
 アルワーツ魔術学園の3Dモデルを表示する。中世ヨーロッパのようでいて、よく見ると物理的にありえないような形状。アルダワ程ではないが十分大きく、堅牢だ。沢山の子供達が様々な事を学んでいるに違いない。
「最大の目的はデモンズコードの伝授だが、この学園で教えている事はそれだけではない。言語学、数学、社会学、化学等々総合的に学ぶ場所だ。他にもできる事はあるだろう」
 ユーベルコードを教える為の外部講師だが、それに拘らなくてもいいという事だ。
「……これは予兆ではなく勘というレベルだが……近々とんでもない事が起きる気がする。その時に向けての一つの備えにもなる」
 椅子に深く座って偉そうに手を組むレイリス。
「私は見えた事件を解説するだけ……と、いつもなら言う所だが、今回は単なる仕事の仲介だな」
 そして、赴任先である『アルワーツ学園』へと繋がる転送用のゲートを開く。
「では、往くがよい」


Chirs
 ドーモ、Chirs(クリス)です。今回は某魔法学校的なシナリオと見せかけつつ、自分のユーベルコードを深く掘り下げてみようと言うシナリオとなっております。組み分け帽子とかもありそうですね。
 雰囲気としては日常、望むなら戦闘。戦って見せるのが一番というなら生徒たちは喜んで戦います。基本、けものマキナの住人は戦闘好きが多いので。
 今回もアドリブはマシマシにしつつ、内容的に連携は難しいかなと思ってます。まあ、繋がったら連携します。お時間は頂くと思いますが、皆さんのやりたい魔術学園講師生活を提供できれば良いなと思う所存でございます。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:仁吉

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

叢雲・凪
SPD 連携歓迎

「ドーモ 初めまして ジンライ・フォックスです」
魔術学園の校庭に作られた仮設ドージョーの檀上でアイサツ
背後には【カラテ】【奥ゆかしさ】等の単語が極太ミンチョ体で書かれた掛け軸がかけられている。頭部に【熱狂的】と書かれたハチマキを巻き生徒たちを見よう。
戦闘が未経験の子供たちが多いだろう。


「ボクが教えるのは【奥ゆかしさ】 そして【速さ】だ」
「速さと精神状態は深い結びつきがある。ゼンの心が大事だ」

しばし黙り 脳内に過去のイメージが蘇る

父「もし、百の打撃を与えて倒せない相手が現れたらどうする?」
凪「はい! 千回殴ります!」
父「それも良し。だが、実戦では千回も殴る暇は与えては貰えぬぞ?」
凪「では、どうすれば良いのですか?」
父「見せてやろう」



仮面の奥で生徒達に見えないように笑みを作り脳裏に【白い兄弟子】を思い浮かべる。

目の前にある木人に対してライメイケン!
「水面の如く静寂の心 そして 鍛錬と【守りたい物】を想うんだ」


青空を見上げ…
「そうだよね? 兄弟子さん…」
小さく呟く。



●カラテ防衛術の先生
 アルワーツ魔術学園では寮と学年ごとにクラスが分かれている。同じ学年の違う寮の生徒はライバルだ。
 全寮制のこの学園生活では同学年の生徒からナメられるという事があってはならない。陰湿なイジメのターゲットにされたり、カツアゲやパシリのようなマケグミにされてしまうのだ。たとえ先生であろうと自分のメンツを潰す者には容赦がない。
 その為、生徒は大きく二つのタイプに分かれる。派手な言動で目立ってスクールカースト上位を目指す者と、奥ゆかしく授業で結果を出し生徒会や部長、委員長等のポストを目指す者だ。実際は大半の生徒はその中間のどこかで適当に日々を過ごしている。
 だが、今日の生徒はそうではない。スクールカースト上位のチバが居るからだ。子分のシバタとオニヤスを引き連れて廊下をわが物顔で歩いている。

 アルワーツ魔術学園の外庭にそのドージョーは奥ゆかしく作られていた。何体もの木人が並び『カラテ』『奥ゆかしさ』『あなたを守る』『決断的な』等々の極太オスモウ・フォントでショドーされた見事な掛け軸がかけられている。
「はっ、カラテ防衛術? ここは魔術学校だぞ。チョップとかキックとか教えるのか? はははははっ」
「「あっはっはっはっは!」」
 スクールカースト上位者のチバはたとえ先生でも譲らない。ナメられたら終わりだ。
「こんな所で僕が教わるべき事なんかあるとは思えないね」
 叢雲・凪(断罪の黒き雷【ジンライ・フォックス】・f27072)はドージョーの壇上で静かに正座している。その額には『熱狂的』と決断的ショドーされたハチマキ!
「アンタセンセイ? どーも、適当にやってくれよ」
「ドーモ、初めまして。ジンライ・フォックスです」
 ジンライ・フォックスは座したまま一礼した。
「アイサツ? アイサツしたか今」
「「がっはっはっはっは!」」
「ドーモ、ラオモト・ドラゴ・チバです。アイサツしたって事は、決闘するって事でいいンだよなぁ~?」
 ナムサン! この学園では決闘と称した武力行為が平然と行われているのだ! 何たるマッポーか。だが、全体的に争い事が好きで簡単には死なない頑丈な体を持つけものマキナの住人ならばこの程度のカワイガリは実際チャメシインシデントな光景に過ぎない。
「|引き寄せ《アクシオ》ッ!」
 チバは杖を抜き、壇上のジンライ・フォックスに向けてデモンを放った! |引き寄せ《アクシオ》は対象を自分の近くまで引き寄せる魔術系デモンだ。射程の短い|着火《インセンディオ》や|切断《ディフィンド》でまとめて切断するコンボの始動技になる。ジンライ・フォックスは正座姿勢のまま引き寄せられる!
「イン」
「イヤーッ!」
 立ち上がる瞬間が見えなかった。それほどまでに鮮烈な、研ぎ澄まされた速いカラテだ。チバの眼前、ショージ紙一枚分の距離で寸止めしていた。
「続けるか?」
「で、|弾き飛ばし《デパルソ》ッ!」
 殆ど反射的に弾き飛ばして距離を取るデモンを放つチバ。
「|ひっくり返し《フリペンド》ッ! |叩き付け《ディセンド》ッ!」
 立て続けにデモンを放つ! 空中に飛ばしたジンライ・フォックスをひっくり返し、地面に叩き付ける! 相手は屈辱的に地面に頭から落ちるしかない!
「イヤーッ!」
 だが、ジンライ・フォックスはそうならない。ウケミで地面に衝撃を逃がし、瞬時に間合いを詰めケリ・キック!
「イヤーッ!」
 チバの前髪が数本、切断されて散った。
「まだ、続けるか。そろそろ授業の時間だが」
「ふ、ふん。最低限僕が教えを”受けてやる”程度の実力はあるみたいだな」
 |降参《ハンズアップ》して杖を収めるチバ。センセイ相手なら決闘で負けてもメンツは潰れず……むしろ誇れる事ですらあったはずが……しぶしぶドージョーに座る。不遜な態度は崩さないが、自分が学ぶべき物はあると見た貪欲な目だ。

(少しばかり、兄弟子を思い出すな)
 ジンライ・フォックスはいきなり吹っ掛けて来たチバをそう評価した。
(ギラギラして、常に強さを求めている。強いが、危険だ……正しく導かねば)
 他の生徒も入って来てドージョーに並ぶ。神聖なドージョーでは正座すべき、と言いたい所だが体躯的に正座が困難な生徒も居るし、半身が鳥やら蛇やら蛸やら蜘蛛やら馬やらの生徒が珍しくないのでとりあえず座っていればよい、という事にした。|馬人《セントール》の正座の仕方など凪にも分からない。
 体躯が大きく違うなら教えるべき格闘技は大きく違う物になるだろう。腕が翼ではセイケン・ツキは出来ない。足が蹄ではケリの形は大きく変わる。
 だが、ジンライ・フォックスが教えるのは格闘技ではない。カラテだ。カラテとは単なる格闘技にあらず。
「ドーモ、初めまして。ジンライ・フォックスです」
「「「ドーモ、ジンライ・フォックス=センセイ」」」
 改めて一礼する。勿論、決闘開始などではない授業の前の一礼だ。
「ボクが教えるのは”奥ゆかしさ”、そして”速さ”だ」
 速さとは何だろうか。移動する速度は速さではある。|馬人《セントール》ならば人型種より足が速いのは自明だ。ならば|馬人《セントール》はジンライ・フォックスの言う速さを持つ者なのかと言えば当然違う。ただ単に移動速度を上げたければ車でも飛行機でも使えばいい。当然、そう言った戦略的な速さは十二分な長所ではあるのだが。
「センセイ、カラテは|馬人《セントール》でも出来ますか?」
「|鳥人《ハーピー》には?」
 非人型種の生徒がそう疑問を持つのも当然だ。出来ない授業に出ても仕方がない。実際、武器よりも更に内側の近接カラテ距離は人型種の独壇場と言ってもいい。非人型種はまずそこまで近寄らせない事が基本だ。
「出来る」
 ジンライ・フォックスは当然の事として断言した。
「まずはセイケン・ツキだ。人型の上半身を持たない生徒はボクが直接やり方を教える。ハジメテ!」

「「「「「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」」」」」

 非人型種の生徒にも出来るセイケン・ツキのフォームを教えると、ジンライ・フォックスも共にセイケン・ツキをする。これは単なる肉体の鍛錬ではない。
 心技体の合一。どれか一つが先走っても、遅れてもカラテとはならない。正しい姿勢の技、鍛錬した肉体、それを命じる心。三役揃って初めてカラテとなる。
 ……色々と気になる所はあったが、まだ初日だ。あれこれ手直しするよりまずやり遂げる事が大事だ。
「よく頑張った。君達は今、カラテの入り口に立った」
 息を荒げている生徒も、こんなのは何でもないという生徒も居る。それでいい。まずは自分を正しく知る事だ。
「速さと精神状態は深い結びつきがある。ゼンの心が大事だ」
「センセイ」
 生徒が一人、手を挙げた。栗毛の|馬人《セントール》の女生徒だ。
「センセイの仰る速さとはなんですか?」
 走る速さではない。他ならぬ、|馬人《セントール》であればこその意見だ。
「言うなれば、機先を制する事だ。状況判断し、対応する。または、相手に状況判断を迫る。これがカラテの速さだ」
 ただ素早く動く事でもない。高い精度で、効果のある行動を取る事。ジンライ・フォックスの脳裏には在りし日の記憶が蘇っていた。

「もし、百の打撃を与えて倒せない相手が現れたらどうする?」
 師である父が問うた。
「はい! 千回殴ります!」
 当然の事と凪は答えた。
「それも良し。だが、実戦では千回も殴る暇は与えては貰えぬぞ?」
「では、どうすれば良いのですか?」

「見せてやろう」
 速さを持つという事がどういう事か。ジンライ・フォックスは立ち上がり、木人と向かい合った。
「スゥー……ハァー……」
 僅かに調息する。空気が振動し、僅かに黒い光が見える。
「このセンセイ、魔術系デモン使えたのか……!?」
「じゃ、じゃあさっきの決闘、全然本気を出してなかったって事じゃ」
「そんな事は無い。チバ=サンは淀みなく正しいデモンを撃った。使わない事が最適解だった。ただ、ボクの方が速かったと言うだけだ」
 ジンライ・フォックスは、床を踏み切った。
「ヒサツ・ワザ!」
 稲妻の如き足払い! その身を黒雷へ転じる! 右肘! 左膝! 右フック! 左足! 更に空を蹴る! 右脚! 左ストレート! 右裏拳! 地を蹴り再跳躍! 黒雷化が可能にした文字通りに光の速度の打撃! その打撃ベクトルの中枢を、蹴り抜くッ!
「ライメイケンッ! イヤァーッ!!」
 ぱぁん! という奇妙な破裂音と共に木人が内側から破裂した。
「これが、速さだ」
「す、すごい……」
「炸裂魔法?」
「違う、そんな物じゃない」
「カラテだ」
「これがカラテなんだ」
 生徒達にざわめきが広がる。ジンライ・フォックスはそれを咎めず、ただ皆に聞こえる様に低い声で言った。
「水面の如く静寂の心。そして、鍛錬と”守りたい物”を想うんだ」
 荒ぶっていた水面が凪いだ。
「……だいたいわかった」
 凪いだ水面に、一石が投じられた。
「マスダラ=サン!?」
「無茶だぜあんなの!」
 マスダラと呼ばれた生徒は決断的に歩みを進め、木人と相対した。
「スゥー……フゥー……」
 フイゴの如く自らの心に風を送って燃やす。その内には確かなカラテが籠っている。
「スゥー……フゥー……ッ!」
 緊張と静寂。ジンライ・フォックスはただそれを見守る。マスダラの体から、黒い光が爆ぜた。
「イヤーッ!」
 足払いを放つ! その身を黒い雷へ転じる! 右肘! 右フック! 左足! 更に空を蹴る! 右脚! 左ストレート! 地を蹴り再跳躍! その打撃ベクトルの中枢を、蹴り抜くッ!
「ライメイケンッ! イヤァーッ!!」
 ばぁん! という音が響いた。木人は壊れなかった。
「スゥー……フゥー……」
 マスダラは息を整え、ジンライ・フォックスに一礼した。
「まずは見事だと褒めよう。大きな加点だ」
「ありがとうございます」
「では質問だ。何故、木人は壊れなかったか分かるか?」
「はい……恐らく、打撃ベクトルの合成が不完全でした」
「そうだ。打撃の瞬間の型が出来ていない。だから、一撃の重さが足りなかった。だが、それを理解しただけでもさらに得点を与える価値はある」
「ありがとうございます」
 マスダラは僅かに喜びと、悔しさを滲ませた表情で下がった。

(兄弟子も、若い頃はこんな感じだったのかな?)
 授業が終わり、生徒を見送った後一人ドージョーの前に佇み、なんとなく空を見上げる。
(あんなにあっさり黒雷をコピーされたのは驚いたけど、この世界の住民はそれが出来るって事か)
 ユーベルコードを模したデモンズコード。ユーベルコードを見せれば生徒が習得できるかもしれないと言われてはいたが、秘伝の黒雷を模倣されると複雑な心境にもなる。
(だったら、尚更正しく導かないと)
 それが、センセイと言う物だろう。遠くに、次の授業を受ける生徒達が見えた。
 ジンライ・フォックスは奥ゆかしく、ドージョーの奥へと座した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桃枝・重吾
アド歓迎
星降丸視点
UCのイメージ某VMAX
重吾は現実で農業体験の講師

◼️心情
さて、折角用意された通信網なので活用させていただきました。
本日、オンライン教室の講師をさせていただく星降丸です。
試験的に外部との連携、また、直接オンラインに来れる方のみとなりますが本日はよろしくお願いいたします

◼️限界の越え方
後程シミュレーションによる実技を行いますが、
まずは私のマスターを例に、デモンズコードの制限の回避方法を学びましょう。
こちらのUCですが、
本来はセーフティがあり、
攻撃には不向きなものです、が。
認識させなければ回避可能となります、
私は欺瞞情報を使い、
マスターの制限を回避しましたが皆さんならどうします



●ほとんど無法行為
「今日は農業の授業という事でこのガジガジ白菜を育てていこう」
 桃枝・重吾(スペースデコトラ使いXLスペース食べ歩き道中・f14213)は温室内で怪しい植物の育て方を講義中だ。
「ええと、肥料に使うのはなるべく新鮮なお肉。危険だから取り扱いには十分注意だ」
 白菜、これ、白菜の育て方で合ってる……? 猛獣か何かを育てているような感覚だ。

 まあ、それは今回舞台裏の事なのだが。

『さて、折角用意された通信網なので活用させていただきました。本日、オンライン教室の講師をさせていただく星降丸です』
 野外の通信端末からホログラム映像で授業をする|星降丸《スペースデコトラ》先生。マキナ種の中には喋る乗り物タイプも珍しくは無いので特に疑問には思われない。
「なんか、派手な車だな」
「ふん、多少はいいセンスじゃないか」
 生徒達は何かしらの乗り物を用意するように伝えられているので自転車、バイク、箒、馬、アームドフォート、キャバリア、武装霊柩車、ヤクザベンツ等々の様々な乗り物が並んでいる。
 だが、一人の|馬人《セントール》は乗り物を用意していなかったようだ。
「ふん、貧乏人は乗り物一つ用意できないのか?」
「自分より遅い乗り物に乗る意味なんて、休む時だけでしょう。ノロマな人は大変ですね」
「なんだとぉ……?」
「それより、授業が始まります! 集中しましょう」
『試験的に外部との連携、また、直接オンラインに来れる方のみとなりますが本日はよろしくお願いいたします』
 |星降丸《スペースデコトラ》先生の声は各自の持つラジオ機器から聞こえている。通信技術が大きく衰退したけものマキナの世界でも、ラジオに限れば普及率は高く安価で手に入る。ただのラジオなので、生徒を監視する機能は無いから一部生徒はさぼり始めているが。
『後程シミュレーションによる実技を行いますが、まずは私のマスターを例に、デモンズコードの制限の回避方法を学びましょう』

『この時、私は良くわからない土地だけど割りといい感じの長期契約を結べて浮かれていたんだと思う。普段、古代文明最後の一人が、とか、うるさい星振がやけに素直だったのも、怪しかった……』
 遠くの生徒にも見える様に画面を大きくして資料映像を流している。
 カーステレオではお気に入りの楽曲を流し、かすかに鼻歌を歌いながらデコトラが走る。正確にはデコトラじゃ無いらしいんだが、実質デコトラ。
 どんっ、と決して軽く無い衝撃。
「え!? なんか轢いちゃったよ!」
 重吾は『マスターキー』赤くて巨大な万能工具に手を伸ばす。
「ヤバイ、ヤバイよ、知らない土地で事故るとか、星降のナビだから人身じゃないと思うけどなぁ」
 星降丸の指示でマスターキーを手に車外へと降りる。
『オウコラメンキョモッテンノカッテメッコラー!』
 対物事故だった。対キャバリアと言うべきか。まあ、星降丸の方は凹み一つ無いが。もはやなんか轢いたってレベルじゃない。

『これではいけませんね』
(((そりゃそうだろ……)))
 明らかに大規模集落抗争のど真ん中だ。事故らない方が無理がある。

『ワドレナックンコラーッ!』
 勢い良く走り出すスペースデコトラとそれを追うキャバリア。
 重吾は華麗なハンドル捌きでマークされたチェックポイントを走り続ける。
 そう、周囲がどうなろうと重吾はただマークされたポイントを走っているだけだ。
「「「グワーッ!」」」
 なんか、色々と轢きながら。
「俺と、勝負しようってのか?」
 行く手にはバッファロー! 走るデコトラ!
「面白ぇ! いくぜぇッ!」
 本日、色々な物を突撃で屠って来たバッファロー。当然、デコトラも正面から突っ込む!
「ブモォォーッ!!」
 武装鉄道殺戮カラテバッファローめいた突撃! だが、デコトラは真正面からこれに挑む!
「グワーッ!?」
 意外! 押し負けたのはバッファローの方だった。それもその筈【|スペースデコトラ運転手は止まる気が無い模様だ《ミチハアトカラツイテクル》】によって運転に没頭している間は完全に攻撃を受け付けない状態なのだ。本人的にはただ走ってるだけなので追撃も何も無いんだが。
「今度はこっちかー。このルート本当に合ってる?」

『こちらのデモンズコードですが、本来はセーフティがあり、攻撃には不向きなものです、が』
(((そもそも戦闘向きじゃないだろ……)))
『認識させなければ回避可能となります、私は欺瞞情報を使い、マスターの制限を回避しましたが皆さんならどうします?』
 そう、星降丸はただルートをしていしただけ。重吾は指示通りに走っただけ。戦闘行為を行った認識すらない。これはもうほとんど違法行為、いや、そもそも従う法が無いし、実際無法行為では。
「ムッハハハハ! 中々面白いではないか!」
 チバは気に入った様子。
「いけません! 運搬用のデモンをこんな使い方をするなんて!」
 真面目な|馬人《セントール》少女、コトホギ・ジーン・スキュテイアーは手を上げて抗議した。
「車も買えない貧乏人には出来ないもんなぁ?」
「ですから、買う必要が無いのです! そもそもスキュテイアー家が貧乏だったら他の人は乞食か何かですか? 家にまで喧嘩売るとはいい度胸です!」
「あー、運送屋だっけ? ムッハッハ、悪い悪い。ネコソギファンドのCEOから見たらお前ら全員貧乏人だったわ」
「「アーッハッハッハ!」」
 チバの笑いにヤクザベンツに同乗した取り巻き二人も合わせて笑う! 嫌な連中だ!
「もう我慢なりません! 勝負です!」
「いいぞ、決闘だな?」
「いいえ、競争にしましょう。貴方のご自慢のベンツがどれほどノロマか見てやります!」
「ムッハッハ! 構わんぞぉ? おい、オニヤス。分かってるな?」
「当然ですよチバ様!」
「おい、コトホギ。流石にあのベンツ相手は無理なんじゃないか?」
「無理なんかじゃないです。自分の脚で勝負できない人は黙って見てなさい!」
 心配してピザワゴンから声をかけたタキの忠告も無視だ。もうどうにでもなれって感じでタキはスケベ・ピンナップを広げた。
「ならこの勝負、おれが判定しよう」
 マスダラがバイクから降りて大きめの石を拾った。
「これを投げて、地面に落ちたらスタートだ。あの山の山頂がゴール。分かったな」
 遠くに見える山を指差した。
「いいぞ、別に何でもな」
「ドンナニモ、ナッチマウゼ!」
「いや、ゴール遠くね?」
「ムッハハハ! 構わんぞ。実際、僕のヤクザベンツなら5分もかからん」
 チバのヤクザベンツは当然の様に様々な残滓の技術を組み込まれ、戦闘にも対応できるハイスペック仕様だ。緊急時にはマシンガンを展開し、ミサイルも撃つ。伐採バズソーを備え、短時間ではあるが飛行も出来る。
「5分、遅いですね」
 マスダラが、石を、投げた。
「5秒です」
 石が、地面に落ちた。

 コトホギはその瞬間全てを置き去りにした。戦闘に転用すると言う無法行為を目に憤りを感じてはいたが、学ぶべきものはしっかりと学んでいた。
(邪魔な物は全て無視すればよいのですね!)
 コトホギは走った! 決断的に!
 走るという行為は結構な危険を伴う。大前提として地面が必要だ。歩くより早く移動するにはバランス感覚も必要。ましてや|馬人《セントール》は四本足。首の部分から人間の半身が生えている為、馬よりバランスが悪い。当然体力も必要で、疲労もたまる。さらに足場も重要だ。不整地を走るには軽快な身のこなしも必要になる。さらにゴールは山だ。標高がある。坂道もある。

 コトホギはその全てを置き去りに、ただ走った。どこまでもただ速く、速く、速く!
 空気抵抗も無視した。摩擦熱も無視した。ただゴールに向けて一直線に走った!

「勝負あり、だな」
「バ、バカナー!?」
 遠い山頂でコトホギはきっと勝ち誇っているだろう。遠すぎて見えないが。
「……5秒もかかってねーじゃん」
 コトホギが通った後はまるで破壊光線でも突き抜けて行ったかのように地面がえぐれ、木々が倒れ、岩も砕けていた。山も少し欠けている。
 一方、チバのヤクザベンツはスタートラインから動きも出来ずに横転していた。
「ムッハハハハハ!」
「チバ=サン!?」
「いや、負けだ負け。あの馬女、何なら先生より無法じゃないか。もう負けでいい」
 確かに、この威力を戦闘転用されたらヤバい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
DCの学校ってのがあるんだ
向き不向きはあっても
誰でもDCを会得できるってことだよな
凄いぜ

あんま自分のUCのことって
考えたことはなかったけど
学園の皆に話してみるか
とんでもないことが起きるかもってのも
気になるしな

行動
俺もUCのことはよくわかってない
けど自分についての認識から来てるのは間違いない

俺の内には炎が燃えている
観念的にも
そして文字通りにも、だけど

轟々と燃える炎が風を生み
風が歌っている
それが俺であり
俺の力、UCだ

体の一部を「地獄の炎」に変えてみせる

自分が何者なのか何になりたいのか
己へ問いかけながら歌うといい
その時に自分の心に何が浮かぶのか
それがきっとDC発現の鍵になる

マキナならきっと焔だけじゃなくて
風や水、雷光や岩石の他、動物、虫や鳥の群れ、ミサイルポッドやレーザー砲とか
色々とバリエーションがありそうだ

お見事
いっちょ模擬試合といくか

自分のあり様の現れがDCだ
使いこなそうなんて力むなよ
自然体で感じるままでいい
駆け引きを覚えるのはその後だ
さあお前達のあり様を
力を見せてみろ



●歌う炎
 アルワーツ魔術学園は八学年ある。入学した年を一年生とし、産まれてすぐ入学する生徒も居れば、親元で数年間過ごしてから入学する生徒も居る。見た目の年齢で学年が判断できない為、学年毎に決められた柄のスカーフが与えられ、生徒達はそれを見える位置で身につける事が義務付けられている。
 学年が上がる毎に線が増えていくデザインで、色は寮のカラーになっている。アラクネ製の糸で作られたアルワーツ魔術学園でしか手に入らない限定モデルで、卒業後も大切に保管している卒業生は多い。
「デモンズコードの学校ってのがあるんだ。向き不向きはあっても、誰でもデモンズコードを会得できるってことだよな。凄いぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)が今日受け持ったクラスは一本線の真新しいデザインのスカーフを身に着けた一年生だ。
 基本的には親と同じ種族なら同じデモンズコードを習得しやすい。デモンズコードはけものマキナの住民にとっては使えて当たり前の物で、わざわざ学園で学ばなくてもその種族が得意とするデモンならば自然と習得する。
 では、アルワーツ魔術学園は何の為にあるかと言うと、種族に関係無いデモンズコードを習得するためにある。炎を操ったり、物体を冷却したり、電撃を操ったり、物体を操作したりするデモンズコードは種族とは関係無いので学ぶ事で習得できる可能性があるのだ。
 こうした種族とは関係無いデモンズコードの事は魔術系デモンと呼ばれている。魔術系デモンの最大の長所は体系化して分析されている事で、習得の難易度を下げている事だ。逆を言うと、親が魔術系デモンを得意としているからと言って子供も使えるかどうかはその子供次第という事だ。魔術系デモンにとって最も大切な事は、発動までのプロセスを頭でしっかりと理解し、それが出来て当然であるという認識を持つ事。
 つまり、出来ると言う自信を持たせればいい。
「あんま自分のユーベルコードのことって考えたことはなかったけど、学園の皆に話してみるか。とんでもないことが起きるかもってのも気になるしな」
 その辺は恐らく、ユーベルコードも大差はない筈である。

 赤の一本線スカーフを首に巻いた少年、ザッカリー・ウィーズリーは不安げに次の教室に向けて歩いていた。
 アルワーツ魔術学園に来てからそれなりに時間は起っているが、まだ魔術系デモンを一つも習得出来ていなかったからだ。デモンの習得は簡単ではないのでザックだけが出来てない訳では無かったが、既に半数以上は何らかの魔術系デモンを習得しているのでザックは焦っていた。
(このままじゃマケグミ一直線だ……!)
 マケグミになるという事は、八年間を卑屈に生きなければならないという事である。出来る奴に何を言われても逆らえず、惨めな学生生活を送る……そんなのは誰だっていやだ。
(のし上がるんだ、何か一つでも出来るようになって)

「今日の講師の木霊ウタだ。専門は炎と歌って所かな。よろしくな」
 背中に大剣を背負った、若い先生だ。燃えるような赤いマントはしっかりと使い込まれていて、見た目の年齢より戦い慣れしてる印象だった。
「「「ヨロシクオネガイシマス!」」」
 多くは8歳前後、たまにそれより2最ほど前後する生徒も居るが、学園一年生なので素直な物だ。しかし、スクールカーストの形成は既に始まっており、事実としてまだ魔術系デモンの一つも習得できていない生徒は下に見られている。魔術系じゃなければ使えるのだが、アルワーツでは魔術系以外を下に見做す傾向がある。実社会に出ればそんな事は無いとはっきりするのだが。
「俺もデモンズコードのことはよくわかってない。けど、自分についての認識から来てるのは間違いない」
(大丈夫かなこのセンセイ)
 不安になったのはザックだけではないだろう。実際、ウタは当然魔術系デモンなんて何一つ知らないし、他の猟兵もそれは同じ。それでも、外部講師として招いたのは体系化されたデモンとは違う刺激を与える事が目的だったからだ。
 そもそも、デモンズコードもユーベルコードも無限の可能性があり、それを決まった型に嵌めようと言う方がおかしな話ではある。だが、何事も自分なりの型を見つける前に、基本の型を学んで置いて損は無いのだ。
「俺の内には炎が燃えている。観念的に、そして、文字通りにも」
 ウタは指先から少し獄炎を灯し、それを自在に踊らせて見せた。
「黒い炎だ」
「魔術系っていうより|自然発火《パイロキネシス》の超能力っぽいけど」
「魔術系と超能力って正直見分け付かないよね」
「あら、魔術系でもアレは出来るわよ。|呪文《スペルワード》はあくまで現象の|起点《トリガー》でしかないもの。|着火《インセンディオ》!」
 ナンシーは同じように指先に小さな炎を灯して見せた。同じように踊らせてみようとするが、少しばかり形を変えただけだった。
「うーん、理屈的には合ってるはずだけど……」
「炎を動かそうとするんじゃないんだ。炎を動かすには何が必要だと思う?」
「……風?」
「そうだ」
 手を振って指先の炎を浮かせ、手の平を広げて人魂めいた獄炎へと変える。
「轟々と燃える炎が風を生み」
 空気を熱する事で発生する上昇気流。炎を、熱の動きを制御できるなら結果的には風も自在に操れる。
「風が歌っている」
 屋外の教室の空気を軽く熱した。生徒達の周囲を風が双方向に回転し、衝突で渦が生まれて風が歌う。
「それが俺であり」
 躍らせた熱風を収束するし、ウタの右腕が炎上した。
「うわ! 先生腕燃えてるって!」
「え、何? 失敗?」
 右腕が無くなっている。あるのは腕の形をした獄炎だけで。その獄炎が一度振られると、元の腕に戻る。
 今度は胸に手を当てると、文字通りに胸の内側に獄炎が燃え上がる。
「俺の力、ユーベルコードだ」
「……ユーベルコード?」
「デモンズコードじゃなくて?」
 唐突に登場した聞きなれない単語に疑問を挟む生徒達。実際、ウタはデモンズコードを使えないので間違ってはいない。デモンズコードと言ってしまっても良くはあったが。
「自分が何者なのか何になりたいのか。己へ問いかけながら歌うといい」
 その疑問へは触れずに、全てを元に戻す。
「その時に自分の心に何が浮かぶのか。それがきっとデモンズコード発現の鍵になる」
「「「ハイ!」」」

「つまり、今のは|着火《インセンディオ》の授業と言うより|変身術《トランフィギュレーション》の授業では?」
「そうかもな。炎の使い方を教わりたかったか?」
「いいえ、センセイ。私、|着火《インセンディオ》は既に出来ますので」
 ナンシーはミレナリィドールの生徒だ。けものではなくマキナ側の生徒である。マキナ種は元から年齢が分かりにくいので他の生徒より実際はかなり年上なのかもしれない。ナンシーにはそう言った大人の落ち着きが感じられる。見た目は幼い女の子なのだが。
「マキナならきっと焔だけじゃなくて、風や水、雷光や岩石の他、動物、虫や鳥の群れ、ミサイルポッドやレーザー砲とか色々とバリエーションがありそうだ」
「レーザーはともかく、ミサイルに変身するのはどうかと。私の場合は……んん」
 チリチリと、ナンシーの指先がノイズめいて揺らぐ。
「集中するよりリラックスした方がいいかもしれない。出来て当然の事だと認識するんだ」
「ハイ」
 ナンシーは目を閉じて、息を吐いた。すると、指先が徐々に01ノイズに変わっていく。
「わお、ちょっとだけ出来ましたよセンセイ」
「上出来だ。得点を与えるぜ」
「ありがとうございます」

(ヤバイヤバイヤバイ)
 一方でザックは全く出来ていなかった。
(まだ|着火《インセンディオ》の方が出来そうな気がする。コレは難しいだろ!)
 どれだけ指先を睨んでもちっとも何も変わらない。
(このままはマケグミだ!)
 とは言え、少しでも出来たのはナンシー位のもので、他の生徒はやはり指先を睨みながら何も出来てないのだが。
「緊張するなよ、リラックスだ。自分が何者なのか、自分の心に浮かぶ物を見るんだ」
(浮かぶ物って何だよ!)
 あまりに出来ないので、他の生徒達はあまりやる気が無くなってきているようだったが……
「あれ、出来た」
 唐突に、体の一部を水に変える事が出来た生徒が現れた。
「何それどうやったんだよ!?」
「いや、ほらオレ泳ぐの得意だから水っぽいかなーって」
「そう言うのでいいのか?」
 二人も出来るとちらほら出来る生徒も現れ始める。
(ヤバイヤバイヤバイ!)
 ザックは全然出来ていないが。
「ほら、落ち着くんだ」
 ウタが優しくザックの肩に手を置いた。
「アッハイ!」
「まだ力んでるな。何なら出来るとかじゃないんだ。俺もお前が何になれるかは分からない」
(分からない事教えるなよ!)
 ザックは心の中で不貞腐れた。
(ピザ食いてぇ)
 不貞腐れたままにザックは心の中にピザを浮かべた。
(アツアツのチーズにサラミをトッピングして)
 ザックはピザ屋の息子だ。ピザは好きだし将来ピザ屋になってもいいと思ってた。魔術系デモンズコードは出来たらかっこいいと思ってた程度だった。別にイクサが好きな訳では無いし、出来たら便利かもしれないとは思ったが、正直他の生徒程真面目にはなれなかった。
(これじゃマケグミにもなるよな……)
 マケグミとして八年間を送るのか。
(そんなの、嫌だ!)
「自分は何なのか、よーく自分の心を見つめてみな。見える物がある筈だぜ」
 センセイはさっきからそれを繰り返してる。他に何かいう事は無いのか?
(ピザ食いてえ)
 食堂のピザは何か違うのだ。窯で焼いたピザが食べたい。
(ピザピザピザピザ)
 どろり、と。指先が溶けた。
「アイエッ!?」
「出来たじゃないか」
「エッ、エッ!?」
 指先が溶けてる。
「エッ! これどうやって戻るんですかセンセイ!?」
 指先からどんどん溶けていく。
「自分の元の形を思い出せ」
「アッハイ」
 自分の手がどんな形をしていたか。それを思い浮かべたとたん全てが元に戻った。
「ふー……先に解除方法教えておいて欲しかったぜ」
「悪い悪い。戻り方分からないと思わなくてな。でも、出来て良かったな」
(でも俺、今何になったんだ?)
 もう一度さっきの感覚を思い出そうとする。どろりと溶ける指先。
(……あ、これチーズだ)
 チーズになったから溶けたんだ。チーズなら溶けるのは当たり前だ。
(チーズ、チーズか……エ、食べられるの?)
 あくまで自分の体が変化した物なので、食べようと言う気は起きなかった。
「よし、今日の授業はここまでだ」
「「「アリガトウゴザイマシタ!」」」
(でも、一つでも使えるようにはなったぜ!)

●後日
「だいたい分かった」
「マジかよマスダラ=サン!」
 マスダラはウタがしたように腕を赤黒い炎に変えて見せた。
「雷よりはやりやすい」
「凄いですね! 私、人差し指しか変わってないんですけど」
「オレは何も変わってねぇよ……」
 タキはげんなりした。
「お見事。初見でそこまで使いこなせるのは凄いぜ」
「カラテのセンセイに一度見せてもらった物と基本が同じだった。だが、雷より炎の方がやりやすい」
 マスダラはもう自在に使いこなせているようだ。
「じゃあ、いっちょ模擬試合といくか」
 一年生相手じゃ模擬試合でも危うかったのでやらなかったが、六年生のマスダラなら大丈夫だろう。
「オネガイシマス」
 マスダラも既にやる気だ。

 ウタはけものマキナの住人なら真剣でも大丈夫な事は既に体験していたが、生徒相手に真剣持ち出すのはどうかと思うので大きめの木剣を用意した。耐火性の木材で作っているので簡単に燃える事は無い。
 一方でマスダラは素手のカラテを構えている。
「ヌンチャク使わないのか?」
「試したい事がある」
「もしかして、この間の……?」

(あの構えって、凪のだよな)
 ウタは対面する相手に見覚えのある癖を見出す。
(ジンライ・フォックスも赴任してるんだったか。そう言えば、ドージョーがあったな)
 大剣と素手では得意な距離が異なる。いかに大剣の間合いに持ち込むか。
(喧嘩慣れはしてそうだけど、妙に力が入ってる感じはするな)
「自分のあり様の現れがデモンズコードだ。使いこなそうなんて力むなよ」
「ハイ」
(試したい事があるって言ってるしな)
 なら、試させてやるのが先生って物だろう。

 その、試そうとしてたのが何だったのか。思えば先に聞いておいた方が良かったかもしれない。

「さあお前のあり様を、力を見せてみろッ!」
 獄炎加速しながら大剣を振り抜く。剣その物を加速させられない分、いつもより振り抜きが遅い。だから腕を加速させて腕力で振り抜いた。剣自体もいつもよりだいぶ軽い。
「イヤーッ!」
 横薙ぎの振り抜きに重心を落とし、マスダラはメイアルーア・ジ・コンパッソを放つ!
「オラァッ!」
 ウタは蹴りを避けず、むしろ自身を加速し肩から突っ込んだ!
「グワーッ!」
「オラァッ!」
 そのまま縦に振り被って振り下ろす!
「イヤーッ!」
 ズドンッ! と地面に木剣がめり込む! マスダラは紙一重で側転回避、反撃のソバット!
「イヤーッ!」
(拳が届かないから蹴り技主体か。でも)
 ウタはソバットの内側に踏み込み、左腕を叩き込む!
「オラァッ!」
「グワーッ!」
 剣を持っているからと言って剣で戦わなければならない訳では無い。加速した肉体はそれその物が武器だ。態勢を崩してから袈裟斬りを叩き込む!
「オラッ!」
「イヤーッ!」
 マスダラは深く身を沈め、すり抜けながらウタの軸足を刈る足払いを放った!
(避けられると言えば避けられるけど)
 脚裏から獄炎爆破すれば避けられる。普段ならそうしている所だが。
(これがやりたかった事だろ?)
 ならば、あえて受けてみよう。軸足を刈られたウタは宙に浮かぶ。
「スゥー、フゥーッ!」
 その直後の構えで、ウタは何をしようとしてたのかを理解した。
(これ、ライメイケンっ!? だとすれば直撃は流石にマズい!)
 マスダラの体が赤黒い炎に転じた! 脇腹へ拳! 飛びながら肩に肘! 更に側頭部に蹴り!
 だがウタは! そのカラテをすり抜け、木剣を爆破加速させながら空に浮いたマスダラを斬り飛ばした!
「オラァッ!」
「グワーッ!」
 強打され、弾き飛ばされるマスダラ!
(ライメイケンじゃない。獄炎化じゃライメイケンのスピードが出ないからか)
 ウタは先のカラテを吟味した。
「ココマデ!」
 そして、試合終了を告げた。
「……アリガトウゴザイマシタ」
 マスダラは立ち上がり、一礼した。
「今の技は?」
「名前は、無い。出来ると思ったからやった」
「そうだな、出来てたと思うぜ」
 咄嗟に獄炎化回避していなければ倒されていたかもしれない。ライメイケンと同じ発想で産まれた技なら致命傷になり得る。
「だが、当たらなかった」
「そうだな。当てるならもう少し集中力を削ってからだったか。やりたい事が見えてたからな」
「ハイ」
「あれ、ライメイケンだよな?」
「ライメイケンはおれには出来ない。だから別な技に変えた」
「確かに獄炎化でも似たような動きは出来るか」
 似たような動きではあっても同じ技ではない。
「……今のは、ただ代用しただけだった」
 マスダラはウタの動きを見て何かを掴んだようだ。
「そうか、この炎はそう使うのか」
(次にやる時はもっと本気じゃないと駄目だな。いや、もう手を抜く必要も無いかも?)

大成功 🔵​🔵​🔵​

巨海・蔵人
アドリブ絡み歓迎

◼️方針
僕も自分のUCの使い方やついでにツーシン広げちゃうけど、
個人的にお呼ばれしたし幸村さんの助手もしに行くね、
なんだか、甘いもので意識を失いたい?のと介抱お願いされちゃったし、がんばろー
◼️VR必要の部屋
はい、と言うわけで、
愉快なバイオモンスター蔵人君の出張デモン使い方いってみよー

まずは基本のおさらい。
デモンズコードはナノマシンを使うからね、きちんとイメージと誘導すれば補填や残滓の修復なんかの戦い以外にも有効な筈だしこう言うのも使えると便利だよね(ドローンを駆使して遠隔でマキナタやツーシンで繋がった所にも配信授業を届けつつ)
最近は定期的にスペースデブリも回収してるし通信用サーバーの設置も進んでるからね、
デモンストレーションも兼ねてここの通信網も強化しちゃおう、 
名付けてVR必要の部屋、電脳上に擬似的に必要なものを揃えてくれるんだけど、誰か試すかな?

◼️餅
推定日本人の幸村さんの為に幸村さんの肉体に合わせた程よい窒息属性付きの餡ころ餅を授業で愛情たっぷりに用意してきたよ!



●AR必要の部屋
 廊下をマスダラ、タキ、コトホギの三人が歩いている。
「次はツーシン技術のセンセイか」
「ツーシン技術ですか? でも、通信系インフラは一万年以上前の大戦時に徹底的に破壊されている筈です」
「情報が古いぜ。最近、マナキタの里を中心にツーシン技術を復旧しようとしてる……らしいぜ」
「上手く行ってはいないようだが」
 そうなのである。現在、マナキタの里を中心に通信技術の復旧が行われてはいるのだが全く上手くは行っていない。
「それはそうでしょう。人間時代の人工衛星を使った通信技術は事実上封印されていますし」

 けものマキナ世界の宇宙、正確には地球の衛星軌道上には大量のスペースデブリが散乱している。これは人間が世界を破滅させる大戦を起こしていた時に行ったインフラ攻撃の影響の一つだ。
 最初は恐らく、限られた戦場で兵器の見本市のような統制された闘争をしていたのだろう。それがいつからか過熱し、世界が戦場になっていった。どんな強い兵器があっても燃料や弾薬、何より兵站抜きで戦う事は出来ない。インフラ攻撃は必然的に行われていたとみるべきだ。
 無論、通信関係のインフラだけではない。エネルギー、食糧、素材、水。ありとあらゆるインフラを徹底的に破壊しつくしたのだろう。その結果、ただの人間では生存できない環境まで行ってしまったのだから。
 全く、たかが一万年程度で再生出来たのは僥倖とみるべきだ。その裏には異常と言えるほど発展したナノテクノロジーがある訳だが。

「地上に通信ハブを作って繋いでるんだ。確かに、衛星と比べたら効率は悪いけどな」
「地上に敷設している都合上、ケダモノの問題もありますしね」
「そうだな」

「はい、と言うわけで、愉快なバイオモンスター蔵人君の出張デモン使い方いってみよー」
 巨海・蔵人(おおきなおおきなうたうたい・f25425)は大きな屋内教室で大きく手を広げた。
(((ノリが軽い)))
「皆、配ったデバイスは装着したかな? 何か不具合が起きてる子は遠慮なく言ってね」
「「「ハイ、大丈夫です」」」
 それぞれが耳に近い場所にピアスのような物を付けている。蔵人の耳にもそれは付いている。

 これはこそがキマイラフューチャーで近頃普及しだしているデバイス、BMIだ。もちろん、Body Mass Indexではない。正式名称をBrain Machine Interfaceと言う。
 元々蔵人はVRデバイスを用いて授業をするつもりだったが、まず生徒全員分のヘッドセットを用意するのが難しかった。何せ、キマイラ規格でも使えない生徒もちらほら居たからだ。五感を完全にVR空間に没入させるデバイスもある事はあったのだが、生徒達はその類の技術への知識は全く無い。
 と、なると|仮想現実《Virtual Reality》よりも現実世界に投影する|拡張現実《Augmented Reality》の方が生徒達に馴染みやすいと判断した。ARは普段から目にしている現実世界に映像を重ねる技術だ。VR酔いや、VR自我喪失等の危険性は無い。
 最も、BMIは脳に作用して映像を見せる技術なので|拡張現実《Augmented Reality》よりも|複合現実《Mixed Reality》寄りに技術かもしれないが、正直VRとARとMRの違いなんぞそこまで意識する必要も無いだろう。どうせ数年もすれば新しい呼び名で新しい技術が出てくるだろうし。
 ともかく、生徒達の意識を読み込んで映像を見せる便利なデバイスという訳だ。

「デモンズコードはナノマシンを使うからね。きちんとイメージと誘導すれば、補填や残滓の修復なんかの戦い以外にも有効な筈だし、こう言うのも使えると便利だよね」
 蔵人は遠隔操作のドローンを使い、配信授業をしてるマキナタの映像を繋げて見せた。
「お、なんかこっちが見えてるみたいだぞ」
「どもどもー、アルワーツの生徒さん勉強頑張ってる?」
 見覚えのあるマキナタ住民が手を振っている。生徒達も何割か手を振り返している。
「最近は定期的にスペースデブリも回収してるし通信用サーバーの設置も進んでるからね」
「はい、センセイ」
 まっすぐに手を挙げた生徒が一人。|馬人《セントール》の女生徒だ。
「何かな?」
「ツーシン技術の復旧は本当に進んでいるのですか?」
「進めてはいるよ」
 言いながら、蔵人は実際の映像を投影して見せた。つまり、衛星軌道上のデブリ回収の映像を。
「この通りにね」
 空の無数の星達を一つずつ拾っていくような物と言えばいいか。頑丈な捕獲ネットを広げてスペースデブリの回収をしてはいるのだがあまりの量が多過ぎる。
「……進んでいるようには見えませんが」
「進めてはいる。だから、いつかは終わるさ」
 それが海の水全てを匙で全て掬うような気の遠くなる作業であっても、時間さえあればいつかは終わる。そのいつかがいつになるかはともかく、やらないよりはマシだ。
「地上の通信用サーバーの設置もあるからね。マキナタはこうして繋がってるし」
「それについても、ケダモノからの防衛はどのようにお考えですか?」
「近くの集落に見回って貰って対処するって事位かな」

 ケダモノとは何か。
 けものマキナには多数の知恵を持つ種族が居る。千年の寿命を持ち、デモンズコードを操る住民達だ。それとは別に、デモンズコードを使えずUDCアースの動物と同程度にしか生きられないケモノモドキも居る。
 だが最近、知恵を持ちデモンズコードを使える身でありながら何らかの理由で会話が成り立たない”ケダモノ”と呼ばれる存在が現れ始めているらしい。それは丁度猟兵達が干渉を始めた辺りから確認してはいる。人間の関与も考えられるがどうも別な存在のような気がする。しかも、グリモア猟兵として知っている存在のような……ああ、オブリビオンじゃない事は確かなんだが。
 近い内に、このケダモノについての調査もする必要はあるだろう。ただ、住民は会話が成り立ち連携も取れているので基本的にケダモノに負ける事は無い。そのお陰で私の予兆に引っかかってなかったのだが。

「では、通信網を広げれば守る範囲も広がってしまいます」
「そうだけど、そうでもない。理由は分かるかな?」
 問い返されたコトホギは少し考えてから答えた。
「通信技術その物が哨戒に使えるから、ですか?」
「その通り。得点を与えよう」

 確かに、物理的に守る範囲は広がってしまう。だが、通信技術が広がるという事は見える目や耳が広がっていくという事だ。ケダモノも|偶発的遭遇《ランダムエンカウント》めいて唐突に現れる訳では無い。どちらかと言うといきなり現れるのは人間の方だし。
 一方で人間が意図的に通信を破壊する可能性もあるのだが、こっちは現状さほど警戒する必要すらない。人間にとってもこの通信網には価値があるからだ。ましてや進行している2023年の人間は通信技術の価値を知っている。だからこそ壊しに来る可能性もあるのではあるが、集落が奇襲されるよりはるかにマシだ。
 何せ、正面戦闘では数に優る住民に人間は勝てないのだから。

「デモンストレーションも兼ねてここの通信網も強化しちゃおう」
 既にアルワーツ魔術学園への通信サーバーの設置は完了している。だからBMIも自由に使える訳で。
「名付けてAR必要の部屋。電脳上に擬似的に必要なものを揃えてくれるんだけど、誰か試すかな?」
「なら木人は出せるか?」
 マスダラが唐突に聞いた。
「出せるけど、自分の肉体を動かす系は別の先生に頼んでね」
「わかった」
 VRなら出来た事ではあるのだが、いかんせん生徒一人一人の全てのデータを読み込んで電脳空間に取り込むのは中々に手間がかかる。ましてや、マスダラの望む物は物理肉体との接続を絶った状態で習得しても逆に理解が遠のく危険すらある。
 そもそも、ここは魔術学園なので肉体を動かす系はさほど望まれていないのし、明らかに魔術系ではないし。

「|引き寄せ《アクシオ》! |着火《インセンディオ》! |叩き付け《ディセンド》! |爆発《コンフリンゴ》!」
 タキは木人を引き寄せ、炎上させ、地面に叩き付けて爆破した。
「コイツはスゲー! 一流の魔術使いになった気分だ!」
「発音や動作が完璧では無くても発動するんですね」
「そうだよ、ここは思った通りの事が起きる部屋だ」
 デモンズコードは想像した通りの事が現実に起きる物ではない。そんな事が出来てしまったら全てが滅茶苦茶になる。そうなる過程を正確にイメージして誘導する必要がある。ただ起こしたい事を想像するだけではなく、どうしてそうなるのかを正確にイメージしなければならない。だから、最初は小さな火を起こすような簡単な事から始めるのだ。
「スゥー、フゥー……」
 マスダラは掌の上で炎を作り、形を変えている。それをぎゅっと握ると、アブストラクトなオリガミになった。
「ウタセンセイの奴か?」
「そうだ。確かに、現実にはこう簡単にいかなかったが」
 もう一度握る。再び炎が燃え上がった。
「こうなる為の過程を省略しているから出来ているだけだ」
「でも、正しくイメージする為には答えがどうなるかのシミュレートは有効だと思います」
 コトホギはスペースデブリを回収して、デブリ回収する残滓を作り出していた。
「デブリを使ってデブリを回収するのか」
「ええ。実現すればネズミ算式に回収が進みます!」
「でもそれ、宇宙まで行かなきゃ使えなくね?」
「衛星軌道上に上がるだけならもう教えてもらったじゃないですか」
 コトホギは得意げに胸を張った。
「……ああ、アレね」
「私ちゃんと練習してます! 今度は、なるべく余計な物巻き込み過ぎないように」
「余計な物を無視するデモンだったはずだが」
「バランスが大事なんです」

「よし、今日の授業はここまで」
「「「ありがとうございました!」」」
 BMIを回収して生徒達を退室させる。
 さて、ある意味本番はここからだ。蔵人は|遥かに望む夢と理想の巨塔《クッキングマスター》・|(パンダ師父監修)《パンダマジック》を起動し、大量のお料理用のパンダ型とテレビウム型のドローンを召喚した。
「そう言えば、ケダモノってもしかしてこうやって召喚した物と関係あったりするのかな?」
 ケダモノに付いてはまだ情報が少ない。単なる推測だ。
「いやいや、お昼まで時間はそんなにないし急いで作らないとね」
 蔵人は一瞬浮かんだ疑問を打ち消して調理を始めた。
「推定日本人の幸村さんの為に幸村さんの肉体に合わせた程よい窒息属性付きの餡ころ餅を授業で愛情たっぷりに用意しないとね!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御宮司・幸村
おじさんが担当するのは指定UC読みは敢えて言わずに英名でー

さて、このUCには適正がある
自分の力で戦う者、それと超常現象苦手な子
ちょっち難しいけど禅問答と言うか、優しく言ったら卵が先か鶏が先かに白黒求める者は教室を出て行ってねー

っていうか、君たちは既に資質があるというか既に会得してるんだ
と、言うのもこのUCは世界の理を超える力
ただそれだけだからねー
って言っても、良く解らないだろう

この世界が誰かに作られたモノだとしたら?
そして、君ら自身…いや、おじさんですら誰かに作られたモノだとしたら?

この力はね、そう言う常識を捨て去って世界の真実を受け入れる事でその『誰か』に干渉し
自分を操って貰うって力なんだよー

勿論、その『誰か』が意地悪だったり、その誰かもおじさんを完全に掌握してなければ痛い目に遭うかも知れない

でも、ケモノマキナの『誰か』は経験上おじさんの便利使いが上手いし
君らの事も熟知してるから
UC発動中でも面白そうな他のUCを伝授してるかもねー
んじゃあ、どんな授業になるかお楽しみー(気絶)



●最後に残った必要な|要素《コード》
「さて、このユーベルコードには適正がある」
 御宮司・幸村(いいかげんサマナー・f02948)はうす暗い教室で生徒達の前に立った。
「自分の力で戦う者、それと超常現象苦手な子」
「だったよマスダラ。流石に今回は出番無いんじゃないか?」
「いや、そうは思わない」
「どちらかと言うと私の方が苦手分野かもしれないです」
 コトホギは考え込むように首を捻った。

 デモンズコードはナノマシンに命令を出し、超常現象の様に見える現象を起こす物である。デモンズコードは超常現象を模した物理現象なのである。まあ、質量保存の法則とかエネルギー保存の法則とか無視してるような挙動をしているように見えるが、実は世界全体から少しずつエネルギーを引っ張ってきたりしているので物理法則は守られている。それを可能にしているのがありとあらゆる物にナノマシンが偏在していると言う特異な環境だ。
 なので、必ずしも全てのユーベルコードがデモンズコードとして使える訳では無い。猟兵なら逆は出来るが。

「ちょっち難しいけど禅問答と言うか、優しく言ったら卵が先か鶏が先かに白黒求める者は教室を出て行ってねー」
 代表的な因果性のジレンマで遺伝学、生化学、統計学、進化生物学、神学、循環時間論と様々な解を求める試みがなされている形而上学的問題である。ちょっと調べてみると案外奥深い。
 とりあえず、出ていく生徒は居ないようだ。
「っていうか、君たちは既に資質があるというか既に会得してるんだ」
 疑問顔で互いを見合う生徒達。
「と、言うのもこのユーベルコードは世界の理を超える力」
 頭上には?が浮かんでいる事だろう。
「ただ|それだけ《・・・・》だからねー」
 ぞわり、と一部の生徒は身震いした。
「って言っても、良く解らないだろう」
 誰一人として理解はしてないが。

「この世界が誰かに作られたモノだとしたら? そして、君ら自身……いや、おじさんですら誰かに作られたモノだとしたら?」
「はい、センセイ」
 すっと手を挙げるコトホギ。
「それは当たり前の事なのでは? 私達ははるか昔に滅んだ人類が作った存在ですし、直接的に私を作った両親も居ます」
「唯物論的にそうだね。でも、ここで唯物論と唯心論でぶつけ合うつもりは無いんだ」
「では、センセイのそのユーベルコードは唯心論による物だと?」
「いいや、その言い方で言えば唯識論に近い。話を戻すよー?」
 コトホギはやはり分かったような分からないような、理解は出来ないなりに納得は出来た様子。
「この力はね、そう言う常識を捨て去って世界の真実を受け入れる事でその『誰か』に干渉し、自分を操って貰うって力なんだよー」
「不可能だ」
 マスダラが決断的に断じた。手も上げずに。
「君はそう言うと思ったよ」
「ユーベルコードなら出来るのかもしれない。だが、デモンズコードでは不可能だ……」
「確かにそうだね」
 幸村はその主張をあえて認めた。間違ってはいない。マスダラは紛れもない自分の力で戦う者だ。
「原理的にはこれを再現するのは不可能だよ。でもね、元々ユーベルコードを疑似再現する事を目的として開発されたデモンズコードでは再現できない物があるのは仕方がないんだ」
「デモンズコードが、ユーベルコードを疑似再現する物……なんですか!?」
「うん、ここまで色んなデモンズコードを見て、実際使っている所も見てるけどそうとしか考えられないんだ」
 ざわめく教室。確かに、ここまでの授業でユーベルコードの名は何度か登場している。だが、やっている事はデモンズコードと変わらないように見えた。それがここではっきり別物だと断言されるとは。

 実の所、幸村は既に【|Metafiction †Ambivalent†《シンジツハキョコウ》】を発動させている。一体いつから? この教室に入る前に既にだ。
「いっただきまーす」
 昼ごはんのデザートに出された餡ころ餅。それは蔵人が愛情たっぷりに作った程よい窒息属性付きの餡ころ餅なのだ。甘い物で気絶したいと言う謎リクエストに応えた結果だった。
「んじゃあ、どんな授業になるかお楽しみー」
 幸村はしめやかに気絶した。

「だから、最初に言ったでしょ? 卵が先か鶏が先かに白黒求める者は|出て言って《ファック・オフ》ってねー」
「デモンの|起源《ルーツ》、それがユーベルコードなのですか?」
「そうだよ」
「だとしたら、デモンズコードを発明した時代に……ユーベルコードを扱えた存在が居た事になりませんか?」
「そうだね、居たね」

 ユーベルコードを扱えるのは猟兵かオブリビオン、あとヒーローとか悪魔とか使える奴もちらほら居るが、世界が滅ばずに伝播しているという事はオブリビオンではないのだろう。
 過去の人類がユーベルコードを使えた可能性はある。だが、地上に現れる人間はデモンズコードを使っているし、どちらかと言うと猟兵が介入した事があった可能性の方が高い。
 だとすると、もう一つ疑問が出る。何故この世界にはオブリビオンが居ないのか。これは簡単に答えが出る。過去の介入した猟兵がフォーミュラーを倒したのだろう。

「ま、その辺は今回の授業の趣旨じゃないから話を戻すよ。|Metafiction《メタフィクション》 †|Ambivalent《アンビバレント》†これは何でも出来て何も出来ないユーベルコードだ」
 これは実際、単独ではほぼ意味が無いユーベルコードだ。自分が戦える猟兵ならそうでも無いが、幸村はただのゲーマーなので直接戦闘力を上げても意味が無い。むしろ、他のユーベルコードと併用する事で真価を発揮する。
「おじさんのユーベルコードは色々あるからねー。単純な攻撃系は少ないけど、相手を無力化する系は山ほどあるよー」
 幸村は戦闘能力は高い方ではない。だが、根本的に戦闘に持ち込まない能力が異常に高い。猟兵は現れる敵も現れるタイミングもすべて事前に知っていて、その上で対処ができる。猟兵はグリモア猟兵の支援下なら情報面で確実なアドバンテージを得られる。その上で、特定状況に持ち込む事で相手を無力化し、戦う意思自体を半ば強引に奪えると言うのはもはやチートと言ってもいい。
「でも、あり過ぎて何でもいいって言われると割と困るんだ」
 出来る事は多いが、多すぎる。しかも癖の強いユーベルコードが多い。ハマれば強いユーベルコードを無数に持っているが故に、こう、アドリブで全投げされると割と困る。
「でも、今まで誰も戦うって発想自体出てこなかったでしょ?」
「!?」
 確かに、他の先生とは実技という事で戦うと言う選択肢があった。何なら授業の前から決闘挑む事すらあった。
「何も出来ないユーベルコードだけど、何もさせないユーベルコードでもあるんだなー」
 幸村が教壇の下に隠した手元には、ゲームコントローラー! 生徒たち全員にサブリミナルで難易度Unlimitedのプレイ動画を見せ続けている。【|#上手すぎて参考にならない《ジンリキタスシューティング》】に加え、【|Don’t look back!《フリムクナ・マエヲムケ》】を併用する事でドキドキの感情を与えつつも一切の抵抗を無意識で禁じている。
 何をされているか分からないが、何も出来ない。
「君達は何も出来ないままにこの授業は終わっちゃうかなー」
「それは、違う」
 マスダラは抗おうとした。だが、カラテが伴わない。この先生に、物理のカラテは使えない。ならば、論理のカラテを使うまでだ。

「だから、最初に言ったでしょ? 卵が先か鶏が先かに白黒求める者は|出て言って《ファック・オフ》ってねー」
「これは何でも出来て何も出来ないユーベルコードだ」

「でも、あり過ぎて何でもいいって言われると割と困るんだ」

「でも、今まで誰も戦うって発想自体出てこなかったでしょ?」

「何も出来ないユーベルコードだけど、何もさせないユーベルコードでもあるんだなー」
「それは違うッ!」
 マスダラが斬り返した!
「何もさせていないのはそのユーベルコードではない。別なユーベルコードの併用だ」
「そうだよ。でも、起点にしているのは|Metafiction《メタフィクション》 †|Ambivalent《アンビバレント》†だ。これは君達には理解できないユーベルコードだ」

「君達にはこれを使う資格が無い」
「それも違うッ!」
 マスラダがカラテを通した!
「『君たちは既に資質があるというか既に会得してる』センセイ自身の言葉だ」
「いいね、アガッて来たじゃん?」

「で、このユーベルコードの仕組みは理解できたかな?」
(ここじゃない。反証する意味が無い)
「この世界が誰かに作られた物で」
(否定する材料が無い)
「君たち自身も誰かに作られているんだ」
(ここだ、このポイントだ! だが、反証するカラテはどこにある)
「でもさ、センセイ」
 タキが、不意に口を開いた。
「それを受け入れたとして何が出来るんだ? 結局何も変わらないんじゃねーか?」
「そうだね、出来る事は何も変わらない」

「やる事が変わるんだよ」
「そうだ、それだ。おれが求めていたカラテはそこに在る」
「へー、カラテが?」
 幸村が訝しむ。
「高精度の肉体操作。それにはまず、自分自身から視点を外さなければならない」
「……どういう事でしょう?」
「あの授業の応用だ。邪魔な物を無視する」
「なるほどねー。少しは掴んだようだね」
 幸村は煽る様に嗤う。
「でもそれじゃ足りないな。何が足りないのかなー?」
「風林火山だ」
「……風林火山?」
「大地と繋がり、人と繋がり、世界と繋がる。その全てをおれと繋げ、カラテする」
 ゆっくりと、マスラダが歩く。
「わかってきたぞ」
「いいね、おじさんとは違う解釈だけどやろうとしている事は悪くない」
 幸村は映像を手に取り、投げ付ける!
「さあ、その力で何をする?」
「イヤーッ!」
 『超高速戦闘』の文字をブリッジ回避!
「イヤーッ!」
 『射撃戦』の文字をブリッジ回避!
「イヤーッ!」
 『メタ視点』の文字に、カラテ! 弾かれた文字が幸村に衝突する!
「おおっとー」
 だが、寸前の所で文字が空中分解!
「そうだ、メタ視点だ。それならデモンズコードでも出来る」
「……メタ視点って何だ?」
「物事を俯瞰的に、上から見下ろすように客観的にとらえる事ですね」
「いいね、いい答えだ。近接格闘はFPSよりTPSの方がやりやすいからねー」

●伝承
「スゥー、フゥー」
 ドージョーの木人の前でマスダラがカラテを構える。
(ジンライ・フォックスの技、星降丸の度胸、ウタの獄炎、蔵人の見せたイメージ、幸村から得たメタ視点)
「スゥー、フゥー」
 呼吸を深め、カラテを整える。
(今なら出来る。いや、出来て当然と心得ろ)
 視点を外す。自分を外から見ているような俯瞰視点を意識する。
(出来る。やる)
「イヤーッ!」
 爆破加速した脚で払い、木人を宙に浮かせる! 脇腹へ拳! 飛びながら肩に肘! 更に側頭部に蹴り! 回転し首筋に裏拳!
 その全てに獄炎爆破加速。メタ視点で得た情報から撃ちこむ位置を正確に割り出し、障害となる物はすべて無視!
「イヤーッ!」
 腰を低く落とし、地獄めいた正拳突き! ぱぁん! と、木人は内側から弾けた。
「見事だ」
 見届けたジンライ・フォックスは素直に感嘆した。
「ありがとうございます」
「これはもうライメイ・ケンではないな」
 ライメイ・ケンをベースにして、起きる結果は同じではあるが過程は異なっている。同じ物ではない。
「レンゴク・ケン。そう名付けた」
「良い名だ。これからも精進を続ける様に」
「ハイ、センセイ」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年08月11日


挿絵イラスト