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Cattleya

#封神武侠界 #ノベル

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厳・範




●ユーベルコード
 人の歩みというのはいつだって当人にさえ予想しない道へと繋がっているものである。
 自覚あるなしに関わらず、生きるということはそういうことであったのかもしれない。そうであるのならば、己の視界あるもの全てが無意味であるとは言えないだろう。
 だからこそ、宝貝人形『花雪』は思うのだ。
 自分に秘された機能。
『生命力吸収』能力。
 これを制御するための装置にも慣れてきた頃だった。自在に操る事ができるという基礎ができたのならば、次なるは応用である。
 考えても見れば、それは当然の帰結であったことだろう。
「では、やってごらん」
 範の言葉に促されて『花雪』は頷く。
 集中する。

 己の力の在り方。
 拠り所。
 そうしたものを感じるのだ。拡張していく意識。薄く、薄く伸びていくかと思えば、細く撚り合わさり、蜘蛛の巣の糸のように夜露すら捉えて見せる。
「練り上げる」
 小さく呟く。
 そう、これは己の在り方。力を練り上げる行為だと彼女は知る。生命力を吸収するという行為。それを違う方向へと捻じ曲げるのではなく、川の流れを変えるように導くのだ。
 きらめくユーベルコードの輝き。
 其の輝きが失せた時、其処に立っていたのは――。

●思う姿
「えっ!?」
 思わず花雪は呻いていた。
 そう、ユーベルコードの発現。その力をうまく制御できたことまではよかった。
 だが、それは彼女にとって予想だにしない結果であった。
「花雪……其の姿は」
 範にとってもこれは意外な結果だったのだろう。
 髪を止める桃の葉の髪飾りと桃の花弁も模した耳飾り。風にそよぐようにして揺れる様を見やり、範は驚きを隠せなかった。
「ええええっ!?」
 そう、今の花雪は成人女性と変わらぬ体躯であった。
 言ってしまえば、花雪が成長した姿、とも取れる。
 だが、彼女は宝貝人形である。成長しない。しないはずなのだが、しかし、現にユーベルコードで成人女性と変わらぬ姿へと変貌しているのだ。
「お、おおもっていたのとちがうのですが!」
 それはそうだろうな、と範疇は頷く。だが、悪い、というわけではないなと、彼は思ったことだろう。
 と云うより、これは、と思いたるのだ。

「なるほどな。身長と体型。その雛型は、若桐か……」
「えーなになにー?」
 呼ばれたと思ったのか若桐がやってくる。そこまで来てようやく花雪にも事態が呑み込めてきた。
 そう、生命力を吸収することができるのならば、それを反転し放出することができる。ならば、溢れた生命力はどうなるのか。
 答えは簡単である。
 宝貝人形である花雪の外側を多い、外骨格のように今の姿を形成するのだ。
 そして、そのイメージの形というのが若桐だというのだ。

「お、恐れ多いことをしてしまいましたっ!」
「なんでなんでー! そんなことないよ! 嬉しいよ、お婆様はさー! そっかそっかー僕をモデルにしちゃったかー! お目が高いねー! いやはや、わかるよ、わかるともさー!」
 若桐は喜んでいた。
 というより、成長した花雪の姿に単純に喜んでいるのだろう。孫娘として彼女を迎えたのだ。成長した、と可愛がりたくなるのも無理な駆らぬものであった。
 というか、と範は思うのだ。
 恐らく花雪が接してきた成人女性が偏っていたのだ。いや、少ない、といった方がいい。
 若桐が最も出会う成人女性であったということなのだろう。
 偶然にして必然。
 されど、若桐にはそんなこと関係ない。

「で、でも、お婆様の姿を真似てしまうだなんて……」
「僕が嬉しいんだから問題なーし!」
 体型も身長もほとんど同じだというのならば、それは喜ばしい。何故なら、若桐は瞬時に計算したのだ。
 自らに似合うものは自ずと花雪にも似合う。
 ならば、自分だと思って花雪を着飾れば、ニ倍楽しい。自分できて楽しい。花雪に着せて楽しいのニ倍である。
 こんなにうれしいことはない。
「じゃあさ、じゃあさ、あっちでお婆様の服を見繕って……ああ、いや、違うな。これはお店に行かないといけないやつだね! そうだね、そうだよね、範!」
「あ、ああ」
「ええええっ!? そ、そんな、ダメです。お金、いっぱい使ってしまいます!」
「いいのいいの、こういうときじゃないと研究材料意外に使う所なくなっちゃうでしょー!」
 そんな! と花雪は目を丸くしてしまう。

 ただでさえ、宝貝の研究というのはお金がかかるのだ。
 節約してこそ、とさえ彼女は思う。
 なのに、若桐は自分の服を買うために散財しようとしているのだ。これはいけない。ただでさえ厄介になっているのに、此れ以上は……と思うのも無理ない。
「お爺様……」
 助けを求めるように範に視線を送る。
 だが、範は頭を振るばかりであった。ああなった若桐を止められようはずもない。
「わしは今お前のユーベルコードを調べなければならない。詳しく識ることができれば、これもまた力になるであろうからな」
 なんか尤もらしいことを言っただけに過ぎないのではないかと花雪は疑いたくなったが、そう言われてしまっては従うしかない。

「花雪ーおいでおいでー! さあ、お婆様と一緒に行こうねぇー!」
「まって、待ってくださいお婆様!」
 ぐいぐいと引っ張られていく花雪を範は見送ることしかできなかった。むしろ、止めたらどうなるかなんてわかっている。
 若桐に恨まれることはしたくない。 
「というもののな……」
「ねー」
「本当にー」
 ニ頭のグリフォンが頷く。
 明らかに若桐が生き生きしているように思えるのだ。孫娘ができたー! と喜び勇んでいた彼女の姿は、きっと範にとっても喜ばしいことであろう。
 だから、敢えて止めないのだ。

 だって、笑顔になっている。
 花雪は戸惑いのほうが大きいのかも知れないけれど。それでも誰かを笑顔にしてあげることができるなんて、なんて素晴らしいことだろうと思う。
 それは範にとっては難しいことだ。
 花雪には簡単なことであっても、それが出来ぬ者だっている。難しいと感じる者だっている。それを咎めることも、褒めそやすことも必要ないだろう。
 あれはきっと。
「あの子の資質であり、また同時に得難きものである」 
 故に、と範疇は見目だけではなく心根も彼女が成長していることを喜ばしく思うのだった――。

●追伸にして余談
「お爺様! 私気が付きました!」
「な、なにをだ?」
 いつも以上に花雪が己の成長した姿になるユーベルコードを使用し、新たなる可能性を見出そうと頑張っている。
 けれど、なんだか艶っぽいのは気の所為だろうか。
 どういうことなのかわからない。
 だが、確実に花雪はユーベルコードを己がものとして扱うようになってきている。
「これ、リーチが伸びます!」
 成長した姿を持っていつもの動きをする。
 それだけで手足が長くなった分、間合いが変わってくるのだ。これまで届かなった場所に届くようになる。
 其の喜びに彼女は飛び跳ねている。

「なんとも……」
 見目麗しくなったとて、なんとも色気のないことであろうか。
 だが、それが好ましくも思える。
 そういうところも踏まえて、彼女の魅力なのだ。きっとそうなのだと範は思ったのだが、しかし、あまりこれは使わぬようにと思うのだ。
 理由は簡単だ。
 またぞろ良からぬ虫が花雪の周りをうろつくであろうから――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月28日


挿絵イラスト