●クルセイダーは混乱していた
|魔空原城《まくうはらじょう》を根城とし、上空よりサムライエンパイアを攻撃していた猟書家――クルセイダー。
しかし、彼は未熟であった。過信もあった。だから、喰われてしまった。
超・魔軍転生の業によって、その身に憑装した「陰陽師『安倍晴明』」が、くすりと笑う。
「造作も他愛もありませんね。ですが、その心意気は興味深いものでした。蛮勇は見事でございましたよ、クルセイダー」
返事はなく、ただただ――「清明クルセイダー」は嗤う。
「この肉体とユーベルコードをもって、サムライエンパイアの転覆への悲願、私が叶えてご覧に入れましょう」
もはや見ることもできないクルセイダーが、返事をするわけもなかった。
●猟兵は首を傾げたが彼は真剣だった
決戦になると告げた鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、佩いた愛刀の柄をこつこつと指で叩く。
「魔軍将に、安倍晴明ってのがいた。そいつが、クルセイダーの躰を奪った」
まさに策士策に溺れるってヤツだな――なんて、茶化してみたはいいけれど、誉人の眉間の皺は伸びていない。
のっとっただけではない。
安倍晴明は、自身の尖兵である「生殖型ゾンビ」に、魔軍将を憑装させる超・魔軍転生を行う実験を成功させた。
「つまり、生殖型ゾンビと、安倍晴明……清明クルセイダー――って名乗ってンだけどォ――がいるかぎり、魔軍将が増殖するわけだな、クソが」
息を吐くように唾棄。
清明クルセイダーは、このゾンビを速やかに量産化しようと画策、今、サムライエンパイアに未曾有の危機が迫っている。
「この事態に気づいた幕府が先手を打ってる。いま天空にあった魔空原城は地上に引きずり降ろされて、呪詛の鎖に繋がれてっから、これが切られて逃げられる前に斃しきらねえといけねえわけだ」
城からは、わらわら湧いて出てくる「島原一揆軍」の軍勢が猟兵たちをまず襲ってくるだろう。
その見目はまさに白い悪魔。
小さいながら、夥しい数で圧倒してくる。
「これが、やべえ。とにかくやべえ。情緒不安定になるくらい、もふもふしてやがる」
「は?」
「なにがやべえって、魔軍将の日野富子ですら、もふもふに癒されちまうくらい、もふもふしてる」
「……え?」
「え? 聞こえンかった? この距離で?」
「聞こえたわ!」
「お、ならいい。この白いもふもふな、安倍晴明にちょっと改造されてて、すげえもふもふなんだわ。ちょっとやそっとのもふりじゃ斃せねえくらいもふもふなのォ」
「……ちょっとやそっとの、もふり?」
「ああ、完膚なきまでにもふらねえと斃せねえ」
至極、真剣な眼差しで、誉人は深くゆっくりと首肯した。
もふり斃したら、城内へ入れる。そこにはゾンビに宿った日野富子がいて、|いつも通り《﹅﹅﹅﹅﹅》ブチギレているから、これも斃してほしい。
「日野の怒りは相当なもんだ。なんせ唯一の癒しだったもふもふがねえからなァ……新しいもふもふでもありゃァ別かもしれねえけど」
「新しいもふもふとは」
腐っても魔軍将。強敵であることにはかわりねえ――と迫真のツッコミを華麗にスルーした誉人。
「日野も退けると、いよいよ清明クルセイダーとの決戦ってワケだが、こればっかりは、力で捻じ伏せてきてくれ。搦め手なんぞじゃァどうにもならん」
しかも肉体と霊体の二回分の攻撃をしてくるから厄介そのものだ。
「きなくせえわなァ……マジで得体が知れねえって感じで――でもここで止めることはできる」
誉人の掌上に光が収斂していく。まあるく蒼い光は、魔空原城前へと空間を捻じ曲げ繋げる――ひりつく怒りを孕んだ潮風が、どことなく綿菓子のような甘い香りとともにグリモアベースに吹き込んだ。
「いや!!!! テンションのもっていきかた! 迷子すぎて!!」
「ええ? ンだよ、新鮮な羽毛をもふれンだぞ、めっちゃうらやまし――いや、なんでもねえ」
「いまの本音だろうが!!!」
「あ、そォだ、小鳥チャンは綿菓子が好きだから、ハイこれ。土産」
さらりとスルーした誉人が差し出したのは、袋いっぱいの綿菓子だった。そのほかにも金平糖ががっさり入っている。
「あと日野富子にもふもふの幸せを語って悶えさせて来い……俺の視たアレ、ちょっと、なんか違うからァ」
じゃ、よろしくな! なんて(やや投げやりに突き放して)笑った誉人に呼応して、グリモアの蒼が眩くなった。
藤野キワミ
サムライエンパイアで決戦ですから、我慢できるわけありませんよねー
わー! ひのさんだー! セイメ、清明だー!
藤野キワミです。よろしくお願いします。
▼一章プレイング受付
・受付開始はタグやマスターページ、ツイッター(@kFujino_tw6)にてアナウンスします。
・採用は先着順ではありません。
・二章と三章の開始日時も、一章同様にアナウンスします。
▼以下、補足
一章:ぶんちょうさま
安倍晴明によって改造された「ちょっとやそっとのもふり」では倒せないげきつよぶんちょうです。
戯れるだけだとつつかれまくること確定なので、ワイロをどうぞ…(綿菓子と金平糖すっ)
もちろんカッコよく戦ってくださってもかまいません。
二章:大悪災『日野富子』
唯一の癒しだった「もふもふ」を根こそぎ奪われてめっちゃ怒ってます。あと晴明のことはだいっきらいです。
プレイングボーナスはありません。思うままにプレイングをかけてください。
純戦でももふもふゴリ推しでも大丈夫です。
三章:清明クルセイダー
この章にだけプレイングボーナスがあります。
=============================
プレイングボーナス:クルセイダー(肉体)と清明(霊体)による「二回攻撃」を打ち破る方法を見出す。
※二回攻撃:一回の行動につき、フラグメントのユーベルコードを好きな組み合わせで、肉体と霊体のそれぞれが一回ずつ使用する。
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おふざけはおしまいですから、最後はカッコよくきめてください!
▼最後に
いろいろなお願いはマスターページにあります。
みなさまのご参加をお待ちしています!
第1章 集団戦
『ぶんちょうさま』
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POW : 文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:橡こりす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●白い悪魔は存外やる気に満ちていたが空腹に耐え切れなかった
もふっとして、ころころと転がり、ちょんちょん跳んで、小さく啄み、小さな羽を震わせる。
まっしろい羽毛を、綿菓子でべたべたに汚してなおゴキゲンで……ぴよぴよと囀っては、砂糖をつんつん。
「|うんまーい《ぴよぴよちち》!!」
なにより脅威なのがその数だ。
ずんずんと増える白い羽毛は、喰い尽くした綿菓子を探してひよひよ鳴く。
口々に甘露甘露と囀るものだから、やかまし……否、姦しい。
しかし、ないものはいくら探してもない。
その事実がぶんちょうたちの目を昏くさせる。
自慢の羽毛が空腹と絶望による怒りで膨らんで――それはもう、りっぱなもふへと成長!
「|あまいの《ひよひよ》、|どこ《ちち》、|あまいの《ひよひよ》、|くれ《ちょ》ー!」
なぜか囀りの意味が理解できた。
これは安倍晴明のせいだから、ラッキーぐらいに思っておいて大丈夫だろう。たぶんメイビーきっとそう。
甘いの寄越せ、甘味を寄越せ、せいめいさまの命令? せいめいさまのめいれ……(……いち、にの、ぽかん)わたがしどこ?
「|おなかすいた《ぴよぴよぴ》ー!」
もっふりまんまるなぶんちょうさまの大群が、もこもこしながら待ち構えている。
氷咲・雪菜(サポート)
人間のサイキッカー×文豪、16歳の女です。
普段の口調は「何となく丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
独り言は「何となく元気ない(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
氷や雪が好きな女の子で、好きな季節は冬。
性格は明るく、フレンドリーで良く人に話しかける。
困っている人は放ってはおけない。
戦闘は主にブリザード・キャノンを使って戦う。
あとはお任せ。宜しくお願いします!
いやに賑やかしい白くてまあるいぶんちょうさまの大群を前にして、氷咲・雪菜(晴天の吹雪・f23461)は、担いでいたクーラーボックスをどすんっと下ろした。
「……あなたたち、雪玉そっくりですね」
白くてまるくって、雪菜の好きな冬を俄かに感じさせた。
しかし、今は残念なことに冬ではないから――と、持ってきたのは、かき氷。
小さなまるい|容器《カップ》にぎっしりと詰まっているのは、いちご味の、練乳ソース入りのお手軽かき氷だ。
「お腹すいてるって聞いて来ました。みんな、きっと喉も渇いてるでしょう?」
水分補給もできて、甘みも楽しめるなんて、かき氷最強。
雪菜の声に反応した白い悪魔の目がぎらんと輝く。
「|それ《ぴちゅ》 |なに《ひよ》!」
口々に囀るぶんちょうさまが、ツイっと飛んできて――その一羽だけではなく、次から次へと飛んできて。
あっという間に、雪菜の手にあるカップにもふだまりが出来上がった。
漂う甘い香りがぶんちょうさまのテンションを上げる。つんつんと啄んだ最初の一羽の、|歓喜の雄叫び《ぴちょぉぉおお!》が号令となった。
ガツガツと食い荒らされる衝撃に、うっかりカップを落としてしまいそうになるが、しっかりと支えてあげる。
「|うんめ《ぴひょ》! |うんまーい《ぴよぴぃ※○%&~》!!」
囀りながら食べるせいで噎せた。その隙にほかのぶんちょうにつつき尽くされたカップは、すでに空っぽで。
「そんなに慌てなくても大丈夫です。まだまだありますよ」
その様子に、小さく微笑みながら雪菜はクーラーボックスの蓋を開けようと手を動かした。ぶんちょうたちがばさばさと飛び立つ――その白がひらけたあとにも、白があった。
「……えっと……」
クーラーボックスの上に、ぶんちょうさまが犇めき合っていたのだ。
まるで媚びているような可憐なシナモン文鳥の眼差しと、期待にキラキラと輝く白文鳥の瞳と、はよはよと催促する桜文鳥が、むぎゅっと折り重なるようにぴいぴい鳴きながら雪菜を見ている。
「|はよ《ぴよ》! |はよ《ぴよ》! |はよ《ぴよ》!」
「わかりました! わかりましたから! 用意するからどいてください」
ぶんちょうまみれのクーラーボックスを開けようとすると、雪菜に向って一斉に飛びかかってくる。
頭も肩も腕も――止まり木にされてしまった。
頬にさらりとしたフェザーが触れる。体温をもった羽毛が雪菜をつつむ。この暑さがあまり得意ではない雪菜を。
暑い。
「どうして今は冬ではないんでしょう……冬だったらよかったのに」
詮無い妄想がぐるぐるする。どことなく覇気のない独り言がもれつつも、雪菜の手は止まらない。
クーラーボックスを開ければ、指先がわずかに冷気を触って、ふいに安堵する。
かき氷の蓋がべりっと剥がれた瞬間、耳の傍にいたぶんちょうが騒ぎ始めた。ああ、やかましいかしましい。黙っていれば可愛いのに。
「|はよ《ぴよ》! |もっと《ぴよぴよ》!」
冬空の下、大好きなかき氷と、あったか羽毛――本当、今が冬だったら最高のシチュエーションだったろう。
持ってきたすべてのかき氷がもふもふのもこもこによって食い尽くされていく様をその場にしゃがんで眺めていたが――雪菜は思わず、ふふっと笑声を上げた。
白い羽をいちごのピンクに染めて、もっふもふにふくれたぶんちょうさまが雪菜の手の甲に頬擦りしたのだ。
「美味しかったですか?」
満足そうにちょんちょん跳ねて、ちゅぴちゅぴと|なにかを言いながら《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》羽ばたき飛んだ。
成功
🔵🔵🔴
響納・リズ
まあまあまあ!! こんなに可愛らしいもふもふもとい、ぶんちょうさまと戯れることができるなんて、行かないわけにはいきませんわね!!(大興奮!!)最近はいろいろとあって、ささくれてましたから、慰安旅行ということで……!!
というわけで、私、とっても高級なアフタヌーンティーセットをご用意いたしましたわ。ぶんちょうさまには、ちゃんと一肌に温めたミルクもご用意しております。さあ、ご一緒に美味しいスイーツをいただきましょう!
ああ、お手(羽?)を使わなくても、私めがフォークできちんと差し上げますわ!!
ですから……あなたさまのもふもふ……堪能させてくださいませ……!!!
あ、オイタをする方は、UCにどうぞ。
「まあまあまあ!!」
響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)の黄色い悲鳴が上がる。
見ろ、この心躍るもふの塊を。ここ最近は、いろいろあってリズの心はささくれていたから――その堂々たるもふの集合体に興奮せざるをえない。
「可愛らしいですわね! こんな|もふもふ《ぶんちょう》さまと戯れることができるなんて! ああ、可愛らしいですわ……!」
リズの胸は高鳴る。可愛い。刺々していた心はまあるくとけて、やわくほどけていくのが判る。可愛い。
これはれっきとした依頼遂行のための出陣だ!
「|おなかすいた《ぴよぴよぴよ》ー!!」
口々に囀る白い塊の、実に|狂暴《﹅﹅》なこと。
この狂暴さには、さしものリズも悶えるしかない。
「お腹がすいてしまっているんですね!? そんな可愛らしいお顔で見つめられるなんて、役得……!」
紫瞳はきらきらと輝いたまま。
今すぐもふを掬い上げ、両手いっぱいにもっふもっふを感じたいのだが、今はまだ早い。出会ったばかりで、抱っこさせてくれるわけもあるまい――となれば、ちゃんとリズの|安全性《﹅﹅﹅》を解ってもらう必要があるのだ。
あの上質な羽毛を堪能するまでは!!
高鳴る鼓動をおさえつつ、リズは早速準備に取り掛かった。
ダイニングセットの用意は難しかったから、大きなトランクの上で我慢。
てきぱきと、ケーキスタンドにたっぷりのケーキとスコーンを並べていく。このぶんちょうさまたちが、大の甘党で、甘味を求めて騒ぎ立てているのだと聞いたから、あえてのチョイスだ。
ふわりと漂う甘いクリームやバニラの香りに、ぶんちょうさまたちは一気に色めき立つ。
皿に取り分けることを知らないぶんちょうであるから、ケーキスタンドにとまって、準備も整っていないのに、今まさにつつこうとしている!
「ああ! そんな! 独り占めなさらないでくださいませ!」
悪魔の所業を止めて、慌てて差し出したのは、人肌に温まったミルク。小鳥が飲みやすいようにと浅めの皿に注がれたミルクをずいっと差し出して、
「まずは、喉を潤してから、ゆっくりと堪能してくださいませ」
たくさん用意してきたのだから、がっつく必要はない。リズの勢いに押されたぶんちょうさまは、ぱたぱたっと羽搏いて、皿の縁にとまる。
わずかな重みも可愛らしく感じて、リズは双眸を細める。つんつんつつけば、ミルクは波打って――震えるようにもふっと大きくなったぶんちょうさまが、一度首を傾げて、
「|うまっ《ちょ》!」
一声。なぜか理解できる鳴き声に、リズは微笑みを深くさせた。
「私もご一緒させてくださいませ」
リズが用意したのは、アフタヌーンティーセット~甘党ぶんちょうさまのためのおもてなし~だ。
綿菓子と金平糖が好物らしいから、シュクレフィレを降らせたものを用意して。
スコーンもシュクレグラスを纏って華やかに。
そのスコーンを、なんとか食べようと四苦八苦しているぶんちょうさまが一羽。
「ああ、お手(……羽でしょうか?)を使わなくても、私めがカットいたしますわ!!」
ぱかりと割って、ぶんちょうさまへとシェア。ケーキもフォークで掬いとって、差し出した。
「|うんめ《ぴよぴよ》!? |もっと《ぴち》!!」
「もちろんございます! ああ、そのかわり……できれば、あなたさまのもふもふを……堪能させてくださいませ……!」
「|いいよ《ぴ》!」
恐悦至極!
広げたリズの掌の上(スコーンつき)に、もっふと乗ったぶんちょうさまの感触は、まさに極上の羽毛の中に手を差し込んだよう。
そっと優しく背中を撫でれば、小さな羽をパタパタさせて。すべての所作ともふに癒されていく。
しかし、幸せにずっとは浸らせてくれないのが、げきつよぶんちょうさまといったところか。
懐柔できたのは、リズの掌の上の子だけ――浅ましくもケーキの奪い合いを始めている連中がいた。
「|よこせ《ぴよ》! |もっとよこせ《ひよひよひよろろろ》!」
「|やめろ《ぴよ》! |これはぼくのだ《ぴぴぴぴぴぴぴ》!!」
「たくさんありますから、ケンカはおやめくださいな」
「|うばえ《ぴよ》! |あいつからうばえ《ぴぃぃいひよひよ》!」
「|たりねえ《ぴよぴよぴ》!」
言っても聞こえていないぶんちょうさまは、もっこもっこのもふもふ同士で、ころりころりとケーキをめぐるケンカを始めたけれど、その様子は、どうしたって可愛らしく尊みに溢れていたが、リズに向って八つ当たりとは。
「そんなオイタをする方は、|あちら《﹅﹅﹅》でどうぞ。ご案内いたしますわ」
リズの言下、颶風が駆け抜ける。濃密な薔薇の香りが舞い上がって、ぶんちょうさまではない|白《﹅》が視界を埋め尽くす。
白薔薇の花弁だ――猛烈な花弁の竜巻が、ぶんちょうさまを飲み込んでいく。
後に残ったのは、目を丸くさせた、オイタしなかったぶんちょうさまたちだけ。白い羽をクリームでべったり汚して、ミルクで濡らして、黒いつぶらな瞳をぱちくり。……いち、にの、ぽかん。
「|おなかすいた《ぴよぴよぴよぴょぉぉお》!」
「……すぐに見なかったことにできるなんて、素晴らしいですわ!」
リズの手の中で、|もっふ《ドヤァ》…と羽毛を爆発させて、なぜか得意げなぶんちょうさまを嫌がらせないように、やわく包んでフェザーのさらっとした触感と、もっふもっふのダウンをいっぺんに堪能した。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
【月風】
恋人の瑠碧と
驚きのもふもふっぷり…
確かにこいつは手強そうだな
とりあえずそっと金平糖を差出し
うわっ…めっちゃ来た!
瑠碧ほら
もふれ!
完膚なきまでにもふらないといけないんだし
心行くまでもふればいいぜ
瑠碧の様子に表情を緩め
可愛いと可愛いで最強か
おおありがとうな
あっマジ羽毛もっふもふ
綿菓子とこいつらどっちがもふもふだろ?
綿菓子も出してもふもふ
うんどっちもなかなかのもふもふ
ちょっとべたべたしてきたけど
羽毛拭き
てかそんなに美味いのか?
出来心で一口味見
…甘
って痛っ
突くな!
もう取りゃしねぇよ
全部出して
てかマジで文鳥の海に溺れそう
瑠碧が見えねぇ
いやでももふもふしながら埋もれるのわりと気持ちいいぜ
ほら瑠碧も
泉宮・瑠碧
【月風】
恋人の理玖と
鳥好きなのでぶんちょうさま達に目がきらきら
はい…っ
理玖に群がった子達にもふぅ
ふわふわ…可愛いです
撫でたり、掌で包んだり、柔らかく手で挟んだりと
存分に愛でます
…幸せ
理玖の手の金平糖が減ったら交代しますね
理玖ももふると良いですよ
理玖が綿菓子を出したらまた交代
わぁ…と、もふもふ
頬ずりしてもふもふ
なでなでしつつ
日野富子の心を癒していて…偉いですね
綿菓子で少しべたつく子は濡れタオルで拭き
一口食べた理玖を見て
思わず、あ、と声が
…大好物らしいので、取られまいと必死ですね
ごめんなさいと理玖を突いた子達をなでなで
理玖は後で私のクッキーをあげますね
気付けば理玖が凄い事に…
え…なら私も埋もれます
「驚きのもふもふっぷり……」
眼前の衝撃光景に、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、驚き半分楽しみ半分の笑みで頬を緩ませた。
ぶんちょうさまの大群を前に青瞳をきらきらさせているのは、鳥好きの泉宮・瑠碧(月白・f04280)だ。
あのもふもふの中に飛び込んでしまえれば、どれほどの至福に包まれることだろう。想像すれば、ほわりと心はときめいてしまう。
「確かにこいつは手強そうだな」
もこっとまるいフォルム、きらっとした黒い目、ちょこちょこ跳ねては、躓いて転がって――体についた砂を震えて落とす――そのときの、ひろがった羽毛のせいで余計にまんまるになったぶんちょうさまの、あまりにあざといまるさ。
加えて。
「|あまいの《ひよひよ》、|どこ《ちち》、|あまいの《ひよひよ》、|たべたーい《ちゅぴちゅぴぃぃいい》!」
なんて、理解できるはずのない、トリ語まで聞こえてくる。これがまた、舌足らずな感じで、庇護欲をそそられる――これを満たしてやることのできる金平糖は、手の中にあるのだ。
そっと瑠璃を見やれば、そわわぁっと浮足立っている。
こちらも金平糖で満足させてあげることができる――だから、理玖は、そっと金平糖を差し出した。
「|あまいの《ひよひよ》!? |それ《ぴ》、|あまいやつ《ひよひよひよろろろ》!!」
大興奮しながら飛んでくるぶんちょうさまの勢いに、「うわっ……めっちゃ来た……っ!」と、思わずたじろぐ。
「瑠碧、ほら……もふれ!」
「はい……っ」
理玖がもふまみれになっている。手の平をつつかれて痛そうだけれど、彼の言葉に甘えて、もふぅっと。
瑠碧は、そっと手を金平糖に夢中になって、触られていようがまるで気にしていないぶんちょうさまの、ふわふわに、心躍る。
「ふわふわ……可愛いです」
「完膚なきまでにもふらないといけないんだし、心ゆくまでもふればいいぜ」
食べているのを邪魔しないように、撫でる。
「|なに《ち》!?」
警戒が解けていないらしいぶんちょうさまが、もごもごしながら振り返って瑠碧を睨んだ。
「可愛い……!」
「|かわいい《ぴち》??」
金平糖の欠片で嘴を汚した、睨むぶんちょうさまを手の平で包んでみれば、あたたかくて、やわらかくて、ふわふわで。包んでしまったから、食べられないと抗議してくるぶんちょうさまに指をつつかれた――と思いきや、指の間から嘴をにゅっと出して、金平糖をつつき始める。
「み、見ましたか、理玖」
「ああ、可愛かったな」
「にゅっと出ました!」
|可愛い《コイビト》と|可愛い《もふもふ》が合わさって、まさに最強可愛いが爆誕。
「可愛い……幸せ……」
莞爾と笑む瑠碧の様子に、理玖の表情も甘く緩む。
「交代しますね。理玖も存分にもふればいいですよ」
瑠碧の手の平の上には色とりどりの金平糖が、すでにこんもりしている。
小さく感嘆した理玖だったが、彼女の手に群がる小鳥の山を堪能。
「あっ、マジ、羽毛……もっふもふ……」
カタコトになるくらいの衝撃的もふもふの威力を食らった。そのもふ|力《ヂカラ》にすでに魅了されている瑠碧は、「いいもふもふですよね」なんて。
理玖の眉間が緩んで伸びているのを感じて、ふふりと笑声が漏れた。
この白さ、この柔らかさ――幸せしか詰まっていないこの時間。あったかくって、やわくって。
「金平糖も好きだけど、綿菓子も好きなんだよな?」
「|すき《ぴち》!!」
「即答…………綿菓子とこいつら、どっちがもふもふだろ?」
そんな疑問が湧いたのも、ぶんちょうさまの羽毛があまりにふっかふっかしていたから。
たしかに、このぶんちょうさまたちは、綿菓子に負けず劣らずの白さとやわさだから、比べたくなるのも、頷けた。
袋から出てきたのは、ぶんちょうたち垂涎の綿菓子!
その|大好物《アイドル》を前に興奮したぶんちょうたちは、賑やかしく囀りながら飛んで集まる。囀りの意味さえ|聞こえて《﹅﹅﹅﹅》いなければ素直に楽しめたかもしれないが。
綿菓子のもふもふは、やわらかだけれど脆くて砂糖菓子特有のべたつきが指先に残った――が、それを差し引いても、このもこもこ感は捨てがたい。
「うん、どっちももふもふだな、きもちいい」
綿菓子に群がってくるぶんちょうさまのもふもふは、いわずもがな。
「わぁ……!」
その光景に心を躍らせて、そわりと浮足立つ者がひとり。
ひとつの塊となったような、もふもふの山に、思わず頬擦りして――瑠碧の白磁のごとき頬にも、やわく甘い熱。
もふりたおす――その使命を背負って、完膚なきまでに、ぶんちょうさまたちを愛でまくるのだ。
素晴らしき建前のもと、ふたりは、もふもふを堪能する。
やわらかな羽毛は、あまりに心地よくて、ずっとすりすりしていたくなるほどで。
癖になる感触に、心がほどけとろけて、綿菓子に夢中な子をそっと撫でた。
「日野富子の心までも癒していて……偉いですね」
かの『大悪災』と称された魔軍将の一人――その怒れる心を癒したもふもふだ。
もっふ…とまんまるにふくらんだぶんちょうさまは、ピンク色の嘴を綿菓子でべたべたに汚しながらも、瑠碧の言葉に誇らしげ。
その子の汚れを、濡れたタオルで拭って、キレイな白に戻った体で、ぱたぱたと飛び回る。
「|さっぱりした《ぴよぴよぴよ》!」
嬉しそうに飛び回る子がまた増える。理玖だ。
「汚しすぎだろ」
言いながらも、べたついているぶんちょうさまをふきふき。飛び上がって、しっとりと湿った体を乾かすように、ひよひよ囀りながら空を飛んでいた。
ぶんちょうさまがそれほどまでに夢中になる綿菓子だ。
「…………てか、そんなに美味いのか?」
「あ」
と思ったときには、すでに遅く。
「……甘」
ぽつり呟く理玖の声を掻き消す喊声が上がる。
「|どろぼうだ《ぴぢゅるるる》!!」
出来心で一口食べた理玖に向って、ぼふっとふくらんだ文鳥たちが一斉に群がっていく!
「って! 痛っ!? 突くな!」
「|ふしゃああああ《ぴよよろろろびゃああああ》!!」
「怒りすぎだって――わかった、痛っ!? もうわかったから!」
食べ物の恨みは怖いときくが、まさかこれほどまでとは――一口たりとも許してもらえなかった。ぶんちょうたちの勢いに押されて、尻もちをついたところに雪崩れ込んでくるもふの滝!
「うあっ、溺れる!」
つつかれて痛いのに、打った尻は痛いのに、それでもこの、もふもふにまみれている時間が、なぜだか幸せ――だが、痛いものは痛い。
「……大好物らしいので、理玖に取られまいと必死ですね」
「もう取りゃしねぇよ」
ぶんちょうまみれになってつつかれて、小さな傷がたくさん――オレンジの髪もぐちゃぐしゃに乱されてしまって。
まさに一瞬の出来事で、彼の様子に瑠碧は、【|清願伝心《シンシアリティ・ホープ》】を向けて、ぶんちょうさまたちの心を鎮め始めた。
「もうつまみ食いはしませんから、落ち着いてください」
願いを込めて、心を籠めて、「ごめんなさい」と、理玖をつついた子を撫でた。
理玖も持っていた綿菓子のすべてを出して、もふもふたちに進呈。
「理玖には、あとで私のクッキーをあげますね」
「お、楽しみ――……」
「あの、理玖?」
「…………なに、瑠碧」
「どんどん、増えてますけど……」
「マジでぶんちょうの海に溺れそう」
言い得て妙だが。
理玖は、いままさに、ぶんちょうだるまになっていた。溺れるのも時間の問題。オレンジの髪が白で覆い尽くされた。
「瑠碧が見えねぇ」
「私も理玖が見えなくなりました……大丈夫ですか?」
もふまみれの理玖だったが、さきほどのようにつつかれることもなく、やわらかな羽毛と綿菓子の甘い香りに包まれて、
「いやでも、もふもふしながら埋もれるのわりと気持ちいいぜ」
羽毛まみれの理玖の手がにゅっと出てきて、「ほら、瑠碧も」なんて呼んでくれるから。
「え……なら私も埋もれます」
実をいえば、もふもふを全身で堪能している理玖が羨ましかった。
だから、瑠碧も迷わずぶんちょうさまの群れの中に飛び込んでいく。
「|なんだなんだ《ぴよぴよぴよ》?」
「|おひるね《ぴよよよ》、|するの《ぴ》?」
綿菓子をつんつんと啄むぶんちょうの声が遠ざかる。ぴよぴよと|なにごとかを囀って《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》、綿菓子へとふたたび集中して食べ始めた。
なんて気持ちがよくて、心地が良くて、幸せなのだろう。
「はああ……可愛い」
目の前でちょこちょこっと跳ねたぶんちょうさまのまるい体をそっと抱きしめた。
そうしてとろける恋人の姿を、白の隙間からようやく見つけ、理玖も青瞳を細めて。
もふるが勝ち――なんて、たまにはいいかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、まるどりさんだ♪
しかもはらぺこだって。(同類な妹をちらちら)
ん、甘いの好きなんだね? 目がマジだ。
(お腰につけたお菓子を進呈)
コッチの綿はあーまいぞー♪(冠毛)
アッチの星もあーまいぞー♪(遠投)
ぶ、ぶ、ぶーんちょ こーい♪
(お手製文鳥型痺れ毒入り豆大福混ぜ)
もひとつついでに アンちゃん こーい♪
(肉焼売も投げる)
ふー。はらぺこ集団は、見境が無いね。
(もふにまみれる妹 含む)
よっし、そろそろ痺れが回ったかな。
れっつだんしん!(ぱちん)
お腹いっぱい食べた後は、適度な運動。
向日葵さん、懲らしめてあげなさーい♪
びったんびったんしたら、あれ。
潰れいちご大福、増えた?(にぱ)
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
両手に果物、お菓子を抱え、背には大量の特大綿菓子をぷすぷす刺してる出で立ちで
何、まつりん
ふ、いつまでも食とまるどりさま達にちょろい杏ではない
まつりんの身長が伸びた分わたしも成長してる
さ、クール&ビューティに倒そう!
まつりんに攻撃の隙を与えるべく自ら囮にぶんちょうさまの群れにダイブ!
さあ!おやつにまみれたわたしをどうぞ!
…あ
頬を踏むぶんちょうさまのおみ足
見上げるお腹とお尻のふわ毛
おやつ(食べカス)をシェアする贅沢空間…天国かな?
む!
お肉の気配を察知し
跳び上がり肉焼売キャッチ
もふ美味しい、まつりんさいこー…
(はっ)
そ、そろそろ華麗に倒そう
ぎゅっと抱き潰す(怪力
甘い香りが漂っている。これは、砂糖菓子の甘さであることは、疑う余地もなかった。妹のすごい――すごい装備を見るまでは。
彼の銀の瞳には、もっふもっふに膨らんで、ぴよぴよと囀り続ける白くてやわい山が見えている。
「アンちゃん、アンちゃん」
「何、まつりん」
「まるどりさんだ♪ しかもハラペコさんだって!」
「ふ……っ」
いつもと違う様子の妹――木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)に、木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)は、「んん?」と首を傾げた。
「いつまでも食とまるどりさま達にちょろい杏ではないのよ……」
「お、おとなになったの?!」
「その通り! まつりんの身長が伸びた分、わたしも成長してるの!」
「おおお、アンちゃんがおとなになったんだね! すごいや!」
両手に果物とお菓子をたんまり抱え、背には大量の特大駄菓子をハリネズミのように差している出で立ちの杏を、なるたけ凝視しないようにちらちら確認したが、杏の意気込みは熱い。
「さ、クール&ビューティに倒そう!」
(比較対象は普段の杏だが)いつにも増して、くーるびゅーてぃーな杏へと変身!
ぴちゅぴちゅ鳴いているぶんちょうさまの、囀りの勢いが増したのは、そんなときだった。
「|あまいのくれ《ぴちゅぴちゅぴぴぴぴ》! |おなかすいた《ひよひよひよ》!」
ぴよぴよひよひよと囀っているのに、その囀りの意味を理解できてしまう。なんとも不思議なまるどりさん。
「ん、本当に甘いの好きなんだね?……おお……目がマジだ」
祭莉はたじろぎながら、それでもポーチの中からお菓子をジャーンと取り出した。
そして、どーんとぶんちょうさまの群れの中にダイブしたのは――杏。
「さ! おやつにまみれたわたしをどうぞ!」
「あっ、そういう使い方かあ! さすが、アンちゃんだ」
攻撃する隙を生むために、自ら囮となった杏の(いろんな角度からの)本気に、何度も頷いた祭莉だった。
それならば、杏の心意気にお応えせねばなるまい!
「コッチの綿はあーまいぞー♪」
綿毛のように綿菓子をふわふわと飛ばして。ぶんちょうたちがひよひよ喜びながらついていく。
「アッチの星もあーまいぞー♪」
金平糖を見せつけてからの、びゅんっと遠投。ぶんちょうたちがぴよぴよ笑いながら追いかけていく。
「|うまーい《ぴよぴよぴー》!」
右往左往するぶんちょうさまと甘味の数々。甘味の中に紛れ込ませるのは――甘味だけど、甘味にあらず。
「ぶ、ぶ、ぶーんちょ こーい♪」
にぱっと笑みながら、ぶんっと投げたのは、お手製のぶんちょう型痺毒入りの豆大福だ。
「|なんだこれ《ぴちゅぴちゅ》!?」
「|うううううんめええええ《ぴよぴひょろろろろ》!!」
すごい鳴き方をしたぶんちょうさまを筆頭に、がつがつと豆大福に喰らいつく。
「ステキな勢いー」
銀色の双眼を大きく瞠って、二度ぱちくり。一呼吸おいて、
「もひとつついでに アンちゃん こーい♪」
独特な節をつけて歌いながら、肉焼売をぽーんと高く放り投げた。
◇
「……あ」
ほっぺにぶんちょうが乗っている。
もにもにとほっぺを踏むぶんちょうさまのおみ足のほのかな冷たさ。
見上げたところ(というかおでこ)にあるのは、ふわふわでもこもこのお腹のふわ毛のあたたかさ。
おやつを取り合い転げまわって杏の鼻に激突したぶんちょうさまの、もっふりしたやわらかさ。
持ってきたバナナの皮を素早く剥いて、そっと差し出して、ころりといちごも転がしておけば、まんまと杏の目の前で豪快なお食事タイムが始まって、派手なケンカでもっふもっふに膨れ上がった姿を堪能できる。
一方で|おやつ《食べカス》をシェアしてぴちょぴちょ跳ね喜ぶぶんちょうさまたちの無邪気さに、心を掻き乱される。
「天国かな?」
嗚呼、至福。
つかの間の幸福に浸る。役得役得。こうしていれば、祭莉は攻撃の準備を整えられるし、杏はまるどりさんの可愛さを全身で補給することができる。
「アンちゃん こーい♪」
祭莉の声、瞬間、杏の目の色が変わった。
「む!」
素晴らしい身のこなしで跳び上がった|CBA《クールビューティーアン》は、空高く放物線を描く肉焼売を見事キャッチし、ぱくりと口の中に放り込んだ。
ぎゅっと旨味が凝縮された焼売の、一噛みごとに滴る肉汁にうっとり。
「もふおいひ……まつりんさいこー……」
もふもふと肉を堪能している杏の、なんとも幸せそうな表情を見て、うんうんと肯く。
「はらぺこ集団は見境が無いね」
ふー……といろんな感情をそのため息に乗せて吐き出した。
祭莉の呟きは、杏には聞こえていなかったようで。
満足そうにこくんっと嚥下して、はふっと倖せの嘆息を漏らし――祭莉の生暖かいような、微笑ましいものでも見るような、そんな名状しがたい視線に気づき、はっと息を飲んだ。
食とまるどりさんに誘惑されっぱなしであったことを、思い出す。
「焼売はおいしかった?」
「さいこーだった……とてもおいしか、はっ……」
危なかった。もう少しでぽろりするところだった。
杏は、自動化した【うさみん☆】がぶんちょうさまたちと|戯れている《もふりあっている》のを見ながら、口をついて出てくるのは――
「いいなあ、わたしも一緒にもふもふしたい」
「アンちゃん?」
「そ、そろそろ華麗に倒そうかなーって言ったの」
「……へえ?」
気のない返事をした祭莉だったが、彼の瞳はしっかとぶんちょうさまたちの様子を見極めていた。
よろよろと千鳥足、小さな石にも躓いてころころと転がっていく。
「|あれ《ち》……?」
「|しびびって《ひよひぃ》、|びりびりする《ひよひよ》……」
「よっし、そろそろ準備おっけーかな!」
豆大福に仕込んだ痺れ薬が効き始めたのを確認し、「よーっし!」と、伸びをするように両手を突き上げた。
「れっつだんしん!」
突き上げた手をそのままに、ぱちんと頭の上で|クラップ《ぱちん》!
それを合図に、ぶんちょうさまの側で|夏花の後継人《サンサンフラワーズ》が咲き乱れる。真夏を思わせる向日葵畑が、未だ弱い日差しを浴びて――精一杯に咲き誇れば。
「お腹いっぱい食べた後は、適度な運動が必要だよ」
祭莉の言葉は、もうぶんちょうさまには届いていない。向日葵を初めて見るようなリアクションで、痺れて動けない体のまま、じっと見上げている。
ひよひよと力無く鳴いて、太陽を仰ぎ見ているようなぶんちょうさまだが――祭莉たちが容赦をしてやる義理はない。
「向日葵さん、懲らしめてあげなさーい♪」
踊り始めた向日葵は、見とれているぶんちょうさまを|持ち上げて《﹅﹅﹅﹅﹅》、びったん! と地面に叩きつけた。
びったん! ぴよー!
びったん! ぴよー!
悲鳴が聞こえてくるが、これも踊る向日葵流の愛で方だ。
「……最後にもう一回、ぎゅってしていいかな」
びったんびったんと踊る向日葵が暴れて、その様子を遠巻きに見ていたぶんちょうさまに、近寄ってそのままぎゅっと抱きしめた。
杏の怪力が火を噴いた。もっこもっこと増える数々の文鳥も、まんまるなぶんちょうさまも――このもふっとした倖せも、あたたかさも、全部まるっと抱きしめ、潰す。
「あれ? 潰れいちご大福、増えた?」
にぱっと笑って訊く祭莉だったが、杏に首を振られてしまった。
それでも。
ぶんちょうさまの数はぐんっと減って、賑やかしさはずいぶんと落ち着いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
香神乃・饗
誉人の覚悟…凄まじかったっす
俺も心を鬼にして
もふでもふにもふをもふもふるっす!
敵をひと睨みし拳を握り締める
皆がもふを楽しむという地形を利用して
皆にもふがいきわたるように撮影しやすい場所に誘導する様に綿菓子や金平糖の罠を仕掛ける
愛用の武器スマートフォンを香神写しで増やし
もふだるまを様々な方向から動画撮影・適宜写真撮影に切り替え
記録に残す
見るだけじゃ足りないかもしれないっす
でも何もないよりきっといいっす!
綿菓子パフェ作ったっす!
仕上げに大タルに山盛りの綿菓子をドン!
くっ!強敵っす
心底苦し気な息を吐き
この山に誉人を放り込みたい衝動を抑える
天性の可愛い物ハンター誉人の技には届かないっす
でも今こいつらをなんとかできるのは俺だけっす!
やるしかないっす
撮影しながらもふ山にダイブ
もつふり追体験ができる動画に仕上げる
もっふもっふーっす!
持ち込んだ綿菓子を喰われるままに
もつふりに身を委ねる
緩い力でなでなでご機嫌をとる
ふわもこするもふをころころ
良い顔も撮影
びゅうっと吹いた風は、すっかり夏の気配を孕んでいた。
香神乃・饗(東風・f00169)をここまで送り届けたグリモアの光が網膜に焼き付いているようで、ぱちぱちと瞬きした。
もっこもこで、ふわっふわの白い悪魔の集合体が、口々に空腹を訴える――危険な場所なのに、緊張感を感じさせない。悪魔たちは、実にまるい。そして見るからにやわらかそうで、あたたかそう。
ちいちいぴよぴよと鳴いているだけだというのに、なぜか意味は理解できた。
「これは……――」
よく我慢できたなと、あるじの覚悟を讃える。心を鬼にしなければ――この魅惑に負けてしまわずに、もふもふをもふりたおさなければならないのだ!
「もふでもふにもふをもふもふるっす!」
悪魔たちをひと睨み――まって饗、なンて言ったン? なんてツッコミは聞こえてこないけれど。
饗も覚悟を決めて、拳を握り締めた。
すでに綿菓子も金平糖も、かき氷も果物も駄菓子も、ケーキもスコーンも、豆大福も。ぶんちょうさまたちはありついているだろうけれど――まだまだ足りていないらしい。
(「これを、ここに……こうして……こうっす!」)
みんながもふをもふもふしている空間を壊さないように、そうしてもっとみんながハッピーになれるように、金平糖をぱらぱらっと投げ撒き、綿菓子をあちこちに設置。
「|え《ち》!? |こんなとこに《ぴひょろ》、|わたがし《ぴよぴよ》!!」
ぼふんっと大きく膨らんだぶんちょうさまが、興奮しながら|綿菓子《ワナ》にかかる。
あっちこちっちで囀っては興奮で、もっふもふに膨らんでいた。
(「ふおおっ、これ、生で見せてあげたかったっす!」)
《報》が、爆発的に複製されていく――【香神写し】に増えていったスマートフォンが、一斉にカメラを起動させる。
悪魔的な可愛さを撒き散らすぶんちょうさまの、貴重な一瞬を逃さず、あますことなく動画に収めていく。適宜写真も残しながらも、カメラは止まることはない。
貴重な|今《﹅》の記録が増えていく。
とはいえ、今すぐ出来栄えを確認することはできない。すべてを終えてからの楽しみにしておこう。
こんな写真や動画を見るだけでは、きっと足りないだろう。悔しがる仕草や、羨ましがる様子を簡単に想像できる。今まさにこの瞬間、ここに居て、その肌で感じ取りたかったろう。
(「でも、何もないよりはきっと良いっす!」)
饗の行動には意味が詰まっているのだ。そのベクトルがぶれることはない。
だからこそ、饗の手は止まらない。
「|それ《ぴよ》、|なに《ぴち》!」
ぶんちょうさまたちは語気強めに饗に迫ってくるが、そのフォルムのせいで恐怖を微塵も感じない。
「綿菓子パフェっす!」
「|わたがしぱふぇ《ぴ よ》!!!」
饗手製の綿菓子パフェ――こんもりと、|もっ《﹅﹅》っと盛られ、どでーんと迫力満点にある。
ぶんちょうさまの黒い目が爛々と輝く。まさに綿菓子の山だ。それが、ぶんちょうさまの目の前に聳え立つ!
「まだまだっす! 仕上げは、こうして……やるっす!」
大タルにどどーんと綿菓子を盛りつけていけば、ぶんちょうさまの群れは一気に色めき立つ。
入道雲のようにうずたかく、|もっ《﹅﹅》と盛られた綿菓子の、驚くべきインパクトのパフェが出来上がる。
「できたーっす! うわぁっ」
大興奮に綿菓子を叫びながら、白いもふもふの【文鳥の海】が押し寄せてくる。凄まじい波濤は、容赦なく綿菓子パフェを飲み込んだ。
「|うんまーい《ぴよぴよちち》!! |うんまーい《ぴよぴよぴよぴぃぃぃいい》!!!」
口々に叫びながら、赤い嘴も白い羽毛も砂糖でべたべたに汚れていくが、折り重なるように、我先にと綿菓子を取り合いころころと転げていくぶんちょうさまたちの不謹慎な可愛さに、「くぅっ!」と饗は唸った。
心苦し気な息を吐いて、本日何度目かの「ここに誉人がいたら……!」を呟く。この山の中にあの男を放り込んで、デレデレに溶かしてやりたい衝動を抑える(もなにも、もちろんできないことは承知の上で、だ)。
なんという強敵か。
可愛いものハンターとしては駆け出しの饗ですら、この光景は心を掻き乱させる。
(「天性の可愛いものハンターの技には届かないっすけど!」)
あの羽毛、もっふりした胸の羽毛に手を突っ込んでみたい――今、このぶんちょうさまたちを斃すことができるのは、饗だけだ。
「やるしか、ないっす……!」
ちょっとやそっとのもふりでは斃せないとのこと。
衝撃の綿菓子パフェに夢中になって、溢れかえっているぶんちょうさまのもふの山――饗は|複製元《オリジナル》の《報》を片手に、様々な画角でこの一瞬を捉えるために|複製《コピー》を配置。
大きく深呼吸。もっふり体験に没頭してはいけない。あるじのように没頭していい場面ではない。言い聞かせる。はやる心に言い聞かせて――
「|どうしたの《ちぴ》?」
首を傾げて饗を見上げてくる小さな黒い双眸はまんまるで、じっと見つめたまま。赤い嘴をこつこつっと鳴らした。
それを振り払うように、覚悟を決める。おのれをしっかりと保つ覚悟だ。
可愛いもの好きのあるじのため、もっふり追体験ができるような動画に仕上げなければ!
「いくっす! もっふもっふーっす!」
とうっ、とダイブ。
ぴちゅぴちぴよぴよと喧しい羽毛の白に覆われた。
やわいだけでないコシのあるふわふわ。
極上のもっふりに包まれ――けたたましい鳴き声が耳を劈く。
「|あたらしいわたがし《ぴよ――――――――――》!!!」
歓喜にして狂気。
綿菓子を奪い食われるままに身を委ねながら、啄まれる痛みに耐える。
「そんなに慌てなくても大丈夫っす、たっぷり持ってきたっす」
痛みに耐えて、そっと手を伸ばした。大きな手の平の上に乗ってきたぶんちょうさまが、饗の指をつんつんつつく。
罠を仕込んだままの饗をつつきながら、|甘露甘露《ぴよぴよ》と囀って、ちょんっ、ぴょこっと跳ねる。
ごろんっと地に寝そべって、饗の手で遊ぶぶんちょうさまを撫でて機嫌をとる。ころんと転げては手に戻ってきて。撫でられてはもっふりとふくれあがる。
このもこもこの魅力は確かに抗い難い。今感じている感触を忘れないように、手に覚えさせるように、ぶんちょうさまをやわく包んで撫で回す。
甘い香りを纏って、甘味を心ゆくまで食って、|ぴよぴよ《﹅﹅﹅﹅》と囀って饗に転がされて。
その夢中になって遊んでは食ってを繰り返す姿を、そっと動画に収めた。
まんまるシマエナガがゆらっと揺れるのを見て、
(「きっと、喜んでくれるっす」)
帰りを待つ人の弾けるような笑声を思い出し、饗は――自身の頬にもふわりと笑みを刻んだ。
●白の悪魔はやっと満腹になった
あらゆる甘味、大好きな綿菓子と金平糖で、腹を満たし、様々の大きさの優しい手に撫でられて満足したぶんちょうさまは、くありと大きな欠伸をひとつ。
それは、ふわりふわりと伝播する。
甘い香りにつつまれ、倖せに満ち満ちて、ぶんちょうさまたちは安らかな寝息をたてはじめた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『大悪災『日野富子』』
|
POW : アタシの前に立つんじゃねぇ!
【憎悪の籠った視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【爆発する紫の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : アタシのジャマをするな!
自身の【爪】が輝く間、【長く伸びる強固な爪】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : 誰かアイツをぶっ殺せよ!
自身が【苛立ち】を感じると、レベル×1体の【応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊】が召喚される。応仁の乱で飛び交った火矢の怨霊は苛立ちを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:みそじ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●日野富子は激怒している
「あああああああ!!! ムカつく!!! あのっ! あのやろう!! アタシを蘇らせたからって! いい気になりやがって!! デカいツラしてんじゃねえええええ!!!」
気炎をふいて、怒り狂う日野富子の足元に、たったの一羽転がっていた白い悪魔は、その役目を終えて、しゅわ……と消えていく。
そしてはたと気づく。
大悪災と呼ばれたかつての日野の怒りを僅かに癒したもふもふが一羽残らずいなくなっていることに。
あいつらが好きな綿菓子はまだあるというのに、一羽もいないとはどういうことか。
「――――――え?」
気づく気づく。
喧しく、腹立たしい足音が、すぐそばまで迫っていることに。
それが、大嫌いな猟兵どもの接近であることに。
容易に想像できる。
そいつらに、|もふもふ《うるおい》を奪われたということが。
怒りで呼気が乱れる。果てない怒りで脳みそが焼ききれそうだ。
「ゆるさん!!!!」
ローズ・ベルシュタイン(サポート)
『さぁ、楽しませて下さいますわよね。』
人間のマジックナイト×電脳魔術士、女の子です。
普段の口調は「高飛車なお嬢様(私、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」、宿敵には「薔薇の棘(私、あなた、呼び捨て、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は高飛車なお嬢様風の偉そうな感じです
花が好きで、特に薔薇が大好き
武器は、主にルーンソードや精霊銃で戦う。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
レイン・ファリエル(サポート)
『さぁ、貴方の本気を見せて下さい』
人間のサイキッカー×ダークヒーローの女の子です。
普段の口調は「クールで丁寧(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、機嫌が悪いと「無口(私、アナタ、ね、よ、なの、かしら?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は落ち着いてクールな感じのミステリアスな少女です。
人と話すのも好きなので、様々なアドリブ会話描写も歓迎です。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
気炎を噴き上げる日野富子の、苛烈な怒りに触れ、「まあ……」と嘆息したのは、ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)だった。
嫋やかな夕焼けを映した長い髪を払って、肩から落とす。
どのような事情があろうとも、眼前の存在を見過ごすことはできない。
なぜ怒っているかは、ローズの知るところでも、気にかけて温情をくれてやることもない。
「そのように怒っていて、私を楽しませることができますの? 落胆させないで下さいませね」
「突然踏み込んでおいてアタシを怒らせてんのはそっちだろうが!」
吐き棄てて、あらゆる怒りを放出するように紫焔を噴き上げる。美貌を憤怒に歪ませて、凄絶に尖る青はローズを射抜く。
「【アタシのジャマをするな!】」
憤怒の紫焔を纏って、激怒に呼応した十指の爪が凶悪に伸びた――その爪は、いわずもがなローズを切り裂かんと迫ってくる。
《夕の憩い》を素早く抜き――夕焼け色の刀身が、日野の爪撃を一合、二合――と受け止める。しかし、一撃は重く速くて。頬に灼けるような痛みが走った。
「それが貴方の本気ですか」
鋭爪の猛攻に割って入ってきたのは、聞き覚えのある声――共に放たれた暗器が凶爪を弾き、気勢を削ぐ。
「またジャマしにきやがったのか! わらわら増えやがって!」
「ゾンビに言われたくはありませんね……」
いまや――かつて大悪災と呼ばれ、魔軍将のひとりとして恐れられたその人といえど、いまや――猟書家クルセイダーと同じ、安倍晴明の掌の上で転がされる駒のひとつだ。
レイン・ファリエル(クールビューティー・f17014)の澄み渡る空色の瞳に、影が落ちる。
「騒々しいのは好きではありません。賑やかなのは好きですけれど」
淡い紫のふわりと広がる長い髪を揺らして、ローズの隣に並んだ。挨拶は後回しにして、眼前の怒れる女の対処を、と言外に互いに同意した。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!! 【アタシの前に立つんじゃねぇ!】 目ざわりなんだよ!!」
憎悪の籠る視線がレインに突き刺さる。日野に見られないようにすることは至難――それでも。
厄介な視線を遮断することはできる。
瞬間、爆発的に膨れ上がり生長したのは、荊棘――ローズだ。
日野の憎悪に触れて、爆ぜるように燃えていくが、棘の気勢が鈍ることはない。
「私をお忘れになりましたか? ですからお伝えしましたのに」
とても残念――ローズの声は、静かに揺れた。
「これは【夕焼けの薔薇の棘】……今からあなたの躰を射抜きますわ」
その手にあるのは、黄昏に咲く一輪の薔薇。込められたローズの想いを喰らって増長して、鋭い棘はあっという間に日野を絡めとっていく。
混乱の悲鳴が日野から迸ったが、その衝撃も痛みもすべて、不変の怒りに侵食されて――彼女の眉間に刻まれ、歪んだ|表情《カオ》で、
「なんだこの、いってええ! 燃やしてやる、こんな棘、燃やしてやる!!」
邪魔ばかり。
苛立つことばかり。
すべてが気に食わない。
嫌いだ。嫌いだ――そう呪詛を吐き、紫焔を噴き、吠える日野の四肢に、ローズの荊棘が纏わりついて離れない。いくら焼き滅ぼそうとしても、荊棘の生長は止まらない。
だが、それでよしとしてやるわけにはいかない。レインは素早く隙なく暗器を擲った。
「逃げ場などありませんよ、これで切り裂かれなさい」
荊棘に拘束され傷にまみれる四肢へと、【ナイトメア・カッター】が奔る。命中した暗器は、深々と日野の脚を腕を抉って――その烈しく灼けるような痛みに、彼女の怒りはなお激烈になった。
「アタシが逃げるわけねぇだろうが!」
日野はさらに声を荒げ、苦々しげに――悲痛すら感じさせる怒号を迸らせた。
「アタシにはまだ! やんなきゃなんねぇことがあるんだ!」
「やらなきゃならないこと?」
その目的を訊いても日野が応えることはないだろう――口が裂けても、言わないだろう。
さがしものが、いなくなったもふもふであるとは、口が裂けても。
「てめえには関係ねえええええ!!!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
響納・リズ
あらあらまあまあ……ですが、あのもふもふを独り占めしたいという気持ちは、とてもとても分かります。
あんな素敵なふわふわ堪りませんものね!!
ですが……これとそれとは話が別ですわ!
ちょっと怖い顔をしておりますが、臆することはありません。
どちらかというと、同志として、あまり苦しませぬよう、こちらも全力で戦いますわ。
「さあ、始めましょう。戦いの輪舞は、私、心得ておりますの」
光の槍でもって、慈悲の気持ちを込めた全力でもってお相手します。
「……ところで、先ほどの子達は綿菓子がお好きなのですね。今度は和菓子……いえ、駄菓子も用意した方がよさそうですわね」
と、新たに得た知識をしっかりと心に刻んでおきます。
日野は叫ぶ。やらねばならないことがあるけれど、猟兵には関係がない、と。
その悲痛すら滲ませた怒りの咆哮に、響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)は紫瞳を丸めてみせた。
「あらあらまあまあ……ですが、あのもふもふを独り占めしたいという気持ちは、とてもとても分かります」
「なんの!? な、なん!!? ちがう!!!」
慌てた日野のその動揺に、リズはふふふと可憐に笑んだ。
「あんな素敵なふわふわ堪りませんものね!! 分かります、とても幸せでしたから!」
「ちがう! ちが、そんなんじゃねえええ!! 」
なにやらを必死に隠そうとしているが、その情報は、すでに筒抜け――そして、容易に想像できる。
彼女が、何を隠しているのか。
「ですが……これとそれとは話が別ですわ!」
「てんめぇ……! ひとの話をきけぇ!!」
どことなく――なんとなく、気のせいかもしれないが――日野の頬に朱が差している。
怒りによるものなのか、それとも|別のなにか《﹅﹅﹅﹅﹅》が原因なのか、リズには見当はついたが、確信があるわけではなかった。
その少しばかりの|怖い顔《照れ隠し》に臆することはない。
どちらかといえば、むしろ同好の士として微笑ましくも思える。だからこそ、リズも全力で戦えるというもの。
「ぜひともお話してくださいな!」
それはきっと楽しいもふ談議になるに違いない!
癒しであったもふもふを奪われてしまった哀しみと怒りは――そこはかとない罪悪感を覚えさせるけれども、彼女らのこれから行われる約束された蛮行は、到底看過できるものではない。
「うるせえええ! なんでてめえとおしゃべりなんかしなきゃいけないんだよ!!」
「まあっ、もふを語りたくないのですか?」
「もふ……も、っ! ちげええ!!」
頑なな日野の怒号。怒りに任せたその叫び声に、眉を曇らせた。話を聞けと言ったり、話さないと言ったり――リズに一体どうしてほしいのだろう。
「だいたい! アタシはてめえらがキライなんだよ! 次から次へとやってきやがって! つーか、【アタシの前に立つんじゃねぇ!】」
憎悪の籠った視線がリズを貫く。瞬間、紫焔に包まれ、燃え上がる。灼熱にまかれ一瞬息を奪われた――《ルナティック・クリスタ》が煌然として、紫焔よりも燦然として網膜を焼く。
耐えきれずに瞼を下ろした日野へと鋒鋩を向ける光が、槍のかたちへと収斂していく。
「嫌ってくれても構いませんわ。戦いの輪舞は、私、心得ておりますの」
先刻、仲間が受けた傷の哀しみも、リズが負った傷の哀しみも――それを覆い包んであまりある深い慈悲を纏い、すべてを浄化してしまいそうな|清浄なる月光の槍《リベンジ・ライトランサー》が日野を刺し貫き、邪悪な紫焔の勢いを殺す。
もふもふが好き、もふもふに癒された。その|心《﹅》を少し開いてくれるだけで、良かったというのに。
彼女があまりに頑なで、攻撃的であるから、リズもそれに応えないわけにはいかなかった。全力で受け止め、聖性を解き放った。
苦しめてしまうのは、本意ではないから。
クリスタルの聖性に気勢を削がれた日野は、貫かれた胸を抑え、奥歯を噛みしめる。
「……ところで、先ほどの子達は綿菓子がお好きなのですね」
「あいつらは、綿菓子と金平糖に目がなかっ――は!!! そんなもん知らねぇんだよ!!」
「何事も素直になられた方がよろしいですわ」
莞爾と笑んで、白い手で口元を隠す。
「今度は洋菓子だけではなく、和菓子も用意しておきますわね」
叶うのならば、いつまでも誰もが平安に暮らすことができればいい。斃さねばならないことも往々にしてあるだろうけれど。
「あの子達のもふもふを触らせていただいたのですが、とても素晴らしいもふでしたわ」
「……ふん!」
もふを褒められてまんざらでもなさそうな日野だったが、次第に紫焔は勢いを取り戻していく――
「そうでしたわ! あの子達、駄菓子も好きなようですの。今後、機会があれば、」
「知ったこっちゃねええええ!!!」
新たに得た知識をしっかりと心に刻んで、できれば日野と共有を――なんて思って口にしてみたが、勢いよく一蹴された。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
俺サムエンの戦争の時まだ猟兵じゃなかったしよく分かんねぇんだけど
日野富子って足利誰だかの奥さんだっけ?
まぁそれは置いといて
あのぶんちょうさまたち
あんたのペットだったんだ?
すっ……げぇ(溜め)
いいもふだったぜ
鳥好きの俺の彼女もご満悦だった
ありがとうな
まぁ飼い主に似たのかちと傍若無人だったが
あれだけもふもふだと鳥堕ちしちまいそうになるけど
俺は犬が好きだ
そう子犬
まん丸くてめっちゃもふもふでころっころしてるのが
まとわりついて来るのもすげぇいいぜ
あとは結構頭いいし空気も読むし
それはもふは関係ねぇか?
でも普通に大型犬とかも可愛い
埋もれて寝るのとか最高だぞ?
あれもいいもふだぞ
小さいのとはまた違う方向性だな
第六天魔軍将図に名を連ねた歴々の魔軍将――その中の一人、大悪災と恐れられた日野富子――それが、いま、眼前でツンデレを隠しきれずに、あわあわしている。
|かつての戦乱《エンパイアウォー》が勃発したころ、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、猟兵ではなかった。
そのころなにがあったかは、聞き及んではいるが詳しくは分からない。
「日野富子って……足利誰だかの奥さんだっけ?」
元来の歴史好きがひょっこりと顔を出す。歴史はいい。過去の出来事の断片を知り、欠片同士が繋がって、ひとつのストーリーが浮かびあがったときのロマンは、強烈な楽しみを覚えるのだ。
詳しくは知らないなりに、それなりに歴史の知識を蓄えてある――それになぞらえていないことは、重々承知の上であっても、|彼女の過去《﹅﹅﹅﹅﹅》を想像してしまう。
「まぁ、それは置いといて」
くるりと思考を切り替える。先刻の理玖の呟きにも答えない日野は、怒りでふーっふーっと息を荒げながら理玖を睨み上げている。
諸手の爪がぎらりと紫に光り、凶悪に伸びてきて――この好戦的な姿は、きっと|あのころ《﹅﹅﹅﹅》から変わっていないのだろう。
「あのぶんちょうさまたち、あんたのペットだったんだ?」
「はあ!?!? ちがっ、ちがう!!?」
「そうなのか?」
言った割には綿菓子の準備は万端で、いつでも愛でることができるようになっているように思える――その視線に気づいたのか、日野は綿菓子をささっと体で隠した。
「な、なん、そんなことあるかよ! なにを、……だったらどうしたっていうんだよ!!」
「すっ……っっっっげぇ、――いいもふだったぜ」
あの感動を力いっぱい溜めて褒める。あのもふもふ、あのやわさ、包まれたときの幸福感――言葉の限りに語ってやりたいが、あわあわと震え出した日野の頬が、だんだん赤く染まっていく。
「鳥好きの俺の彼女もご満悦だったんだ。ありがとうな」
彼女の嬉しそうな笑顔を見ることができたのは、確固たる事実だ。一筋縄ではいかない傍若無人さはあったが、それはきっと飼い主に似たのだろう――が、それを上回るほどの可愛さとふわむち触感だった。
意図せずに、うっかりと、――あれほどのもふもふに当てられてしまうと|鳥堕ち《﹅﹅﹅》してしまいそうになったが、踏み止まる理性は残してあった。
まさか礼を述べられるとは思ってもみなかったのだろう、日野の頬はさらに赤くなって、拍子抜けしたような、素直に喜んでしまいそうな、なんともいえない表情になった。
「鳥も小さくって可愛くっていいけど――俺はさ、犬が好きなんだ」
「いぬ?」
「そう、犬。とくに子犬。まん丸くて、めっちゃもふもふで、ころっころしてるのが、いいんだぜ」
短い手足でもつれるように歩き走り、目に映るものすべてに興味津々に飛びついて、無邪気に跳ね転げ、短いしっぽをぶんぶん振り回して、きょうだいたちとひとつの塊になって眠るところなんか、この世の『かわいい』の縮図だ。
「まとわりついて来るのもすげぇいいぜ。必死に追いかけてくるんだよ。あとは結構頭いいし空気も読むし――……それはもふは関係ねぇか?」
ともあれ、つぶらな瞳に見つめられて、言外に遊べと催促をされて、そのもっふり感と、ころっころぐあいに、きゅん死させられること間違いナシなのだ。
「従順な、もふもふ、だと……! そんなものがいるのかよ!」
「ああ、こどものころから育ててやれば、それはもう……立派なあんた専用のもふもふだぜ」
日野、理玖の話に浮かれすぎて、自分でもふもふって言ってることに気づいていない。
それを指摘して、せっかく芽生えた興味に水をさすことはしない。この勢いのまま、さらにもふロスを加速させ、新しいもふもふも良いものであると隙なく布教する。
「でも普通に大型犬とかも可愛い」
じっと日野を見返す理玖の青眼は真剣そのもの。ごくりと固唾をのんで、こちらの話を聞く日野の、ある種の没入感を煽った。
「埋もれて寝るのとか最高だぞ?」
先のぶんちょうさまのように寄せ集めて、もふの塊を作り出し埋もれてしまうことも倖せにかわりない。
だが、大型犬ともなれば、重厚なもっふりに埋もれ包まれる埋没感は、比ではないのだ。
多少無理をしても許してもらえる大型犬の穏やかな包容力に勝るものは、他ではなかなかお目にかかれない。
言葉少なに、それでも的確な表現で、理玖は日野の心を追い詰める。
「あれもいいもふだぞ。小さいのとはまた違う方向性だな」
もちろん小さなもふを否定するわけではない。彼女の|怒り《ストレス》を癒したという刷り込みは大きいだろうから、ぶんちょうさまを推しつつ、他の可能性を知らしめる。
「あんたならできるだろ。想像してみろよ、大きなもふもふと、ころころのもふもふに埋もれて、腹のやらけぇふわふわに頬擦りする倖せを」
「ふわふわの、もふ……頬擦り……ふぇっ、もふに、もふもふに、うもれる……!!? 殺す気か!! アタシを殺す気か!? うそだろ……! もふもふ……ううっ、くるしい……」
はわわわぁっと舞い上がって、胸を押さえてその場に崩れ落ちてしまった。
「犬、全力で推すぜ」
「いぬ……もふりてぇ……!」
日野のもふロスを加速させて、心をぎゅんぎゅんに締め付けて、あらたなる扉をそっと開けた。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と
富子、もふロスでお怒り
ん、慰めにいこう
まつりんと一緒に挙手しつつ
んむ…まつりん、おばちゃん違う、おねえさん
お・ね・え・さ・ん
フォローを入れて綿菓子もらえる確率上げ(?)つつ、もふロスには大いに同意
ぶんちょうさま、もふもふだったー…(思い出してふわふわ
(はっ)たまこあげちゃダメ(きり
まつりんが飛び出すに合わせて【Shall we Dance?】
まつりんの動きはダンスのよう
うさみん☆のダンスもそれに倣おう
怒ってる富子は楽しめない=動きを遅くできればまつりんのサポートになるね
…
……そのしっぽはわたしがブラッシング担当
富子は触っちゃダメ
怪力で灯る陽光をぶんと投げつける
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、行くよ!
綿菓子、ください!(挙手)
おばちゃんも、トリスキーなの?
白くて、羽が生えてて、狂暴な?
(何かを想像中)
……たまこ?
うーん、たまこは……(葛藤)……(妹を見て)うん、渡せないなあ!
代わりにおいらが遊んであげる♪
しっぽぶんぶんしながら、纏わりつく!
ほらほら、ふっさふさでしょー?
先っぽの白いトコに向かって、赤茶が濃茶に変わっていくのもキレイでしょー?
(へへへん)
あ、お耳は触っちゃダメ!
ココは敏感だからネ♪(ぱたぱた)
触ろうとしてきたら、逃げるー。
逃げながら、正拳突きどん!
もうー、くすぐったいって言ってるじゃんー♪
払いながら、カウンターでもどん!
もふもふは正義だゼ!
「アンちゃん、行くよ!」
「ん、慰めにいこう」
推しをロストすることの辛さはわかる。木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)は木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)と一緒に、もふロスで悲しんでいる日野富子へと、しゅぱっと手を上げた。
「あ?」
怪訝そうに顔を顰めて二人を睥睨。日野の鋭い視線をものともせずに、にこにこの祭莉。
「綿菓子、ください!」
「わたしも、ください」
「これはてめえらにくれてやるもんじゃねええええ!!!」
もふロスで悲しみ、一周回って怒っていた――通常運転かもしれないが、沸点が低すぎる日野。
ともあれそう簡単にもらえるとは思っていない。
怒れる日野の凄まじさを肌で感じながらもどこ吹く風と、意に介さず、
「おばちゃんも、トリスキーなの?」
ぶちり。
低すぎる沸点が故に見え透いた煽り(たぶん)にも日野は青筋を立てたから、杏は彼の服をちょんと引っ張る。
「んむ……まつりん、おばちゃん違う、おねえさん」
「え?」
そっと訂正。女心は祭莉より杏の方が判っている(たぶん)。こうしてフォローしておけば、なんとなく、日野から綿菓子をもらえそうな気がして、
「お・ね・え・さ・ん――ね?」
「ん~? あ! さっきのまるどりさん、すっごくもふもふだったよ!」
日野の悲しみをえぐってみせた。
祭莉と杏がもふりまくったあのぶんちょうさまは、日野のお気に入り。そのお気に入りをいましがた奪ってきたのだが、そのことをおくびにも出さず、
「ぶんちょうさま、もふもふだったー……」
日野のもふロスに拍車をかける。もちっとして、ふわっとして、ほわっとした、白くてまるい|悪魔《いやし》を思い出させるように、杏の手は、もふもふをエアもふする。
「かわいかったね、まつりん」
「うん、やわらかくって、まるくって、白くて、羽が生えてて、――ちょっと狂暴だったよ……ん?」
あのピンクの嘴でつつかれるのは勘弁願いたかったが、飼い主に似て、かなりの傍若無人であったもふもふたち。
ぶんちょうさまを思い出させるキーワードを連想していくと、祭莉はどうしても首を傾げてしまう。
「…………たまこ?」
思い当って、はっとした。
傷心の日野の心を癒すことができるのは、新しいもふもふだけ。
あの凄まじい怒りを溶かすことができるのは、素晴らしいもふもふだけだ。
そのすべてを満たす存在を、祭莉は知っている。
「たまこだ!」
名探偵まつりん☆爆誕!
「ダメ! たまこはあげちゃダメ」
慌てたのは、もちろん杏。たまこは毎朝ふたりのためにたまごをくれる大切な|存在《にわとり》だ。
「白くてふわふわの鳥が他にもいるのか!?」
杏の必死の形相が迫り、日野のそこはかとない期待感に弾けた視線が刺さる。
「う、うーん…………」
しまったぁ言っちゃいけなかったぁ――妹の様子に、兄として反省。
「どうだっていうんだ! え!? それは……も、……もふもふっ、なんだろ!?!?」
「うん! でも、やっぱり渡せないなあ!」
「くそがああああああ!!!」
「代わりにおいらが遊んであげる♪」
目の前でふわっふわっと自慢のしっぽを揺らせて、ぶんッなんて緩急をつけて。
「ほらほら、ふっさふさでしょー?」
「……っ!!」
怒り以外の感情が、日野の頬を歪ませる。
ついさっき、これでもかと犬推しされて、もふもふへの渇望を煽られまくったところだ。
「先っぽの白いトコに向かって、赤茶が濃茶に変わっていくのもキレイでしょー?」
祭莉の言う通り――彼のしっぽの、なんと表情豊かなこと。
「念願のもふもふしっぽだよー」
へへんと得意気に言って、ぎゅんぎゅんに煽られている日野にはお構いなしに、もふもふしっぽを見せつける。
「ふ……ふわ……もふもふ……!」
思わず手を伸ばして、スカっと空を切る。ひらりと逃げた祭莉は、にぱっと笑って、思い出したように「あ!」と声を上げた。
「お耳は触っちゃダメだよ! ココは敏感だからネ♪」
煽る煽る。
ふわもこの耳も、ぴこぴこっと震わせて。
「そんな、ふわもこ……もふらせろ!!!」
ぴゃっと突き出した指の先が、ほんの少しだけ耳に触れた気がした。目に見えて、|無邪気《﹅﹅﹅》に喜んでいる日野の手は止まらない。
もふもふでふかふかのしっぽも、ふわもこの耳も、日野のもふ欲を刺激する。
「じっとしろ! くそ、逃げるな!!――っ!!!」
ぽわっと日野の表情が崩れる。祭莉の耳に触れることができた感動に、手も足も止まる。
「もうー、くすぐったいって言ってるじゃんー♪」
触られた祭莉がさっと日野の手を払い除け、カウンター――固めた拳に力を込めて、日野へと鋭い拳撃を突きこんだ。
衝撃にぐうっと唸って、日野の瞳に紫焔が燃える――しかし。
目の前にあるのは、祭莉の魅惑のしっぽ。
ぎらんっと光って伸びる十指の爪だったが、もふもふを愛でるときの彼女なりの作法なのだろう――怒りに任せずしゅるしゅるとしぼんでいって、眼差しに宿る紫焔ももふもふを焼かないようにするために、勢いを弱めていった。
「おーにさん、こっちらー!」
「くっそ……! まて!」
ひらりふらりと躱されて触れなかった悔しさは、日野の中で怒りにすり替わっていくが、瞬く間にその怒りを鈍らせる。原因は、火を見るより明らか。
祭莉が踊るように日野を翻弄しているように、|うさみみメイド《うさみん☆》も一緒になってダンスをしているからだ。
「…………んむ」
唸る杏は、《うさみん☆》がきちんとダンスをしまくっている状況を見据えつつも、釈然としない面持ちで兄と日野を睨みつけた。
祭莉のしっぽに夢中になっている、あれ。やはり気分は良くなくて。しかし、そうは言っていられない。でも。
日野の動きを鈍らせることができるのだから、祭莉は彼女の手から逃れやすくなるし、なにより――
「てやー!」
しっぽに触れられる前に、全身のばねを撓らせ放つ狼拳――超高速で大威力になった正拳突きが、一切の容赦も躊躇いもなく日野に突き刺さる。
息を詰まらせ、よろけた隙を見逃さない。
「……そのしっぽはわたしがブラッシング担当してるから」
《灯る陽光》の白銀の光の粒が舞い散る――華奢な見目とは裏腹に、凄まじい膂力でもって投げつけられたのだ。
日野が夢中になったしっぽは、杏が手入れをしているから、魅惑的にふわふわでふかふかでもふもふなのだ。それを横から搔っ攫われるのは、腹立たしい。
暖陽の彩は煌いて、日野を赤く色づかせ――
「富子は触っちゃダメ」
ぽつり呟かれた言葉は、日野の怒り心頭に発した罵声に掻き消される。
「アンちゃん、見た!? もふもふは正義だゼ!」
むんっと力こぶを作って、自慢のしっぽをふりふり。杏のもやもやを吹き飛ばす祭莉の笑顔が弾けた。
「で、綿菓子、いつくれるの?」
「誰がやるかああああ!!!!」
耳を劈く怒声が轟いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真宮・奏
義兄の瞬(f06558)と参加
もふもふは癒しです。物凄く良く分かりますとも!!私はもふもふに埋まるのも本望ですし!!でもそんな炎出して怒ってるともふもふも逃げると思うのですが。
ああ、ごめんなさい〜。トリニティ・エンハンスで防御力をあげ、【オーラ防御】【結界術】【火炎耐性】で攻撃に耐えます。
貴女が敵でなければもふもふの同志となれたのに・・・残念です。それに八つ当たりで世界焼き尽くされたら大変ですので容赦無く倒させていただきます。
ええ、貴女の様な気質の婦人使う炎は物凄く恐ろしいって母さん見てわかってますので!!【怪力】を込めた【シールドバッシュ】で押し切ります!!
神城・瞬
義妹の奏(f03210)と参加
何か怒り狂ってる様ですが。ああ、癒しのもふもふを退治された挙句邪魔者押し寄せてストレスが溜まってると。
奏ほどじゃないですが、僕ももふもふは好きですよ。それに(小声で)もふもふと一緒にいる奏は大変愛らしいですし。
でもその炎は危険ですね。【残像】【オーラ防御】【心眼】で爪の攻撃を凌ぎ、【高速詠唱】で六花の舞を発動!!【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【部位破壊】【目潰し】を氷の結晶に付与してその攻撃を抑えます。
奏のいう通り貴女の様な気質の婦人が使う炎の威力の恐ろしさは母さん見てよくわかってますので、被害が広がる前に倒させて貰いますよ。
もふもふできないとか、ふわふわに触れないとか、やることがあるとか、綿菓子あげないとか――癒しのもふもふを退治された挙句、大嫌いな猟兵が押し寄せて、もふをちらつかせられて、大層怒り狂っている――と。
「……ストレスになりますね、分からなくもないです」
神城・瞬(清光の月・f06558)は眉を顰め、フーッフーッと荒い息を吐く日野を見る。
「もふもふは癒しですから! 貴女の気持ち、物凄く分かりますとも!!」
こちらも鼻息荒く、こくこく頷き。
真宮・奏(絢爛の星・f03210)はきゅっと拳を握って、
「もふもふに埋まるのも本望ですし! ずっともっふもふに埋もれていたい……」
理解を示された日野は、それでも煽られたもふ欲は怒りへと変換されていて、治まることを知らない。
「奏ほどじゃないですが、僕ももふもふは好きですよ。それに――あー……」
肩先で揺れる栗色の小さな頭を流し見、「もふもふと一緒にいる奏は大変愛らしいですし」と、もごもごと口の中で惚気ることも忘れない瞬の言葉は、果たして小さすぎて奏には届いていないようだった。
「もふもふに癒されるお姿は、相応に愛らしいはずですのに――そんな炎を出して怒っていると、もふもふも逃げてしまうと思うのですが」
「てめえになにがわかるっつーんだ!! アタシのこと、知ったように言うんじゃねえ!!」
憎悪の籠った視線が奏を射抜く。
「ああ、ごめんなさい~」
溢れ出た魔力が、奏の躰前に展開――緻密に織り上げられた結界は、紫焔の暴発を寸でのところで食い止める。ちりちりと肌の表面が焦げるような灼熱に、紫の眼差しは曇った。
そして、目の端を奔ったのは氷の刃。
「その炎は、確かに危険ですね」
日野の頭にかけてやる水の用意は生憎とないが、瞬の生み出す氷はある。
ぎらりと光る十指の爪が凶悪に伸びて伸びて、紫焔を纏い迫りくる――|二彩の眸《オッドアイ》は、凄絶に冴える爪撃を見極め躱し、負傷を最小限に抑えて凌ぐ。覇気を織り、即座に展開した僅かな防壁は、いとも容易く日野の爪に引き裂かれた。たったそれだけだ――その僅かな時間さえあれば、瞬の術は完成する。
充分な時間が稼ぐことができた。上々だ。
口の中で発したのは、氷を喚ぶ声。猛然と生まれ凍てる六花は日野へと躍りかかる。
爆発的な紫焔に燃え尽くされそうとも、その刃が鈍ることはなく。日野の四肢へと突き刺されば、そこから彼女の自由は奪われていく――暴発したように、しゅうしゅうと上がる湯気の向こう――揺らいだ影は、奏のもの。
「……貴女が敵でなければもふもふの同志となれたのに……残念です」
怯んだ日野へと《エレメンタル・シールド》を叩きこむ!
華奢な躰からは想像しにくい怪力で殴り飛ばされた日野を、逃がすことなく追いかける。
彼女はただ、素直になれなかった自分を悔いているように感じて――その八つ当たりが、方々に迷惑千万となっている。
「くそ……! だから! |猟兵《てめえら》が嫌いなんだよ!!!」
憎しみに満ち満ちた眼差しが猛火を生んで、肺腑の底から燃やされてしまいそうだ。
世界が焼き尽くされてしまう前に、食い止めなければ。
それは、瞬とて同じ想いだ。
なぜなら――母の姿が蘇る。
「母さんみたいですから……物凄く恐ろしいってこと、知っています」
「ええ、そうですね……よく分かります……よく知っていますよ」
日野のような気質の持ち主が扱う炎の凄惨さも無慈悲さも――ふたりはその身をもって知っている。
だからこそ。
食い止めなければならないと発奮して。
「くっそが……絶対ゆるさん!!!」
燃えて燃えて、怒りを燃やして。満たされないもふ欲は、紫焔となって燃え上がる。
攻防一体の熾烈な盾に翻弄され、怜悧に研ぎ澄まされた氷に裂かれた躰はよろけてはいるが――凄惨な青に輝く双眼は、いまだ強く奏と瞬を睨み据えていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
香神乃・饗
シマエナガの着ぐるみを装備して颯爽と登場
かわいいぽーずを決めるっす!
ぴよよよよー!新鮮な羽毛がきたっす!
今回はもふもふかわいいこそ最大の武器っす!
愛用の極上のふわっふわっシマエナガぬいぐるみこと
きょうだい達を香神写しで増やすっす!
ありとあらゆる可愛い動きをさせて心を惑わす罠をはるっす
そんな力強く触れると消えるっす!もふもふにふれるときは優しくするっす!
優しくしてたらぎゅううってくるっす!ぴよよよー!
ふわっふわエナガチャンぬいぐるみでぎゅっと包み込むっす
魔将軍が幸せを堪能してても赦されるっす
もふを愛しているならその愛に身を委ねるっす!
あのもふはとってもいいものだったっす
失いたくなかった気持ちは解るっす!
(でも所詮オブリビオンっす、還さないといけないっす)
間近で見たぶんちょうさまの動きを再現、さらに一番可愛いシマエナガの動き!
極上のもふ楽園を作り上げるっす!
きょうだい達をあげることはできないっす
でも、満足はあげられるっす!
せめて幸せなまま葬るっす!
たっぷりもふでもふしてもふるっす!
綿菓子が大好きで、金平糖を撒けば、歓喜の叫び声をあげて、ぴよぴよ囀りながら遊んでいた――あの姿を見ているだけで時間が過ぎていた。その時間だけは、怒りを忘れていた。激しい怒りを忘れるほどの、魔力を秘めていた。だからこそ、あいつらのために、綿菓子を用意して、金平糖を用意してやろうなんて、柄にもないことを想っていた。
それが、いなくなった――ぽかりと感じる空洞は、あの|悪魔《もふもふ》がいなくなった穴だ。ずいぶんと広い場所を占領されていたらしい。寒々しく思えた。その空虚を埋めるように、湧いて溢れる悲しみ――それを誤魔化すための、激しい怒り。烈々の燃やす紫の炎が弔いであるように。
◇
日野富子の悲しみは幾許か――ともあれ香神乃・饗(東風・f00169)は、意に介することはなかった。
その哀しみと怒りと、言外に語られる後悔を利用しない手はない。
「ぴよよよよー! 新鮮な羽毛がきたっす!」
「あ?……――っ、はあァあ!?!?」
(「デレながらキレるっすか……ははあ、新しいっす」)
凄まじい照れ隠しであることは、明々白々。それは、誰かを彷彿とさせた。驚きつつも、その頬にあからさまな喜びが刻まれる。むずりとしたような、僅かな――僅かすぎて分かりにくいが確かな笑みだ。
そうなってしまうのも道理だった。
日野が慌てふためき、色めき立つのも、|饗の姿《﹅﹅﹅》から想像するに無理からぬこと。
現れた大嫌いな猟兵が、心を乱すもふもふだったのだから!
真っ白いダウン、茶色の黒のフェザー、もっふもふの胸から腹にかけてのふくらみ、つぶらな黒い双眼も――身の丈六尺を超す美丈夫の装いではないだろうが、饗はそれをよしとする。目的が明確なのだから、最短距離で、全力で事態の収束を目指すこと。
すべての事象が複雑に交錯している。|この日野《﹅﹅﹅﹅》も、あらゆる事象が折り重なって、もふに色めく女子になったのだから。
だからこそ、折り重なって形成された現状を、最大限利用する――しゅばっと|翼《うで》を広げて、まっしろでもっふりした腹をさらす。
「どうっすか! こうすると、もふもふし放題になるっす!」
「だれっ、だっ! アタシがてめえにもふりにいくわけねえだろうが!!!!」
「だったらこれならどうっすか!」
はなから日野が無防備に抱き着いてくるとは思っていない。
いわばこれは最初に提示する無理な要求――交渉の初歩だ。そして次に提示するのが、ハードルを下げた本命!
すっと出して見せたのは、手のひらサイズのもふもふの権化――ぬいぐるみ。
しかし、ただのぬいぐるみにあらず。
きょうだいとして甲斐甲斐しく手入れをして大切にしている、まっしろシマエナガのぬいぐるみだ。
「いくっす!」
ふわっふわっシマエナガのぬいぐるみたちが、もこんもこんと増えていく。合わせ|香神《かがみ》に映されたように、精確な複製が生み出される。
今回限定で、この|きょうだい《ぬいぐるみ》たちで、日野の弱点を的確に突くことができる。
「なっ! わっ……!」
息を飲んだように引き攣った日野は、あからさまに動揺して、舞い上がっている。
ぬいぐるみたちは、そこにあるだけでも可愛いというのに、饗の意のままに動くのだから、日野にとっては、地獄であり楽園となる。
ありとあらゆる可愛い動きで日野の心を掻き乱す。ぴょっぴょっと可愛く鳴くことはないが、きょうだいたちは日野を翻弄した。
手を伸ばしかけて逃げられる。追いかけては逃げられる。逃げられるから全力で追いかけて――あまりに捕まらないから、十指の爪がじりっと炎を帯びて光り伸びる――それではいけない!
「ああっ! そんな力強く触れると消えてしまうっす!」
乱暴に触れられた|複製《きょうだい》が、しゅわ…っと解けていく様は、口の中にいれた綿菓子がなくなっていく瞬間に似ていた。
「ああ……消えちまった……」
その瞬間の、日野の悲しみに染まった青眼の揺らぎを見逃さなかった。
「もふもふに触れるときは優しくするっす!」
饗に言われて、はっと息を飲んだ日野の爪は瞬く間に元通り。
「優しくっす、やさしーく、やさしーく、そしたら――ほら……むぎゅうううってくるっす」
「ふ、わ……!」
きょうだいたちの幸せのプレスがきまる!
もっこもこのもっふんもっふんに包まれた日野は、邪気の抜けた眉間を露呈させる。
ぬいぐるみであるから、白い悪魔のように可愛く鳴いたりはしないが、日野をつつむ温かさは|アイツ《﹅﹅﹅》たちを思い出させる。
「魔軍将だからって幸せを堪能してはいけないことはないっす。それくらい赦されるっす」
「っ! そんなんじゃない!!」
「もふを愛しているならその愛に身を委ねるっす!」
もふ愛は人智を超える。
もふもふによる突撃は止まらない。容赦なく続けられる。日野の鉄壁の|守《いか》りは、懐柔寸前。
「……あのもふはとってもいいものだったっす」
頬は緩み、眉間の皺は消え、怒れる紫焔は勢いを失って。
もふもふでもこもこのきょうだいたちの倖せプレスを受け入れて、眦を下げる。
そんな日野の心をさらに揺さぶるのは、抜かりない饗の、|うるおい《もふもふ》を褒める言葉だった。
先のぬいぐるみがひとつ消えてから、彼女の周りからもこもこが消えていないのだ。
それが、どういうことか――想像できない饗ではない。
「もふもふ……かわいい……てめえらは、きもちいいな」
ぽつんと漏れた日野の囁きは、本心の吐露だ。
「やらけえ……ふふっ、くすぐってえな……」
声の棘がとれて、まるみを帯びた。彼女の怒りを鎮めていた|安定剤《もふもふ》にとってかわる存在となったか――心が焼失してしまうほどの烈しい憤怒を抱えていたのだから、自然と|癒し《もふもふ》を求めてしまうのだろう。
日野のように、身を焼くくらい怒っていなくとも、あのぶんちょうさまの可愛さとやわさを失いたくないという想いには同調できる。
いろいろなもふもふと触れあった饗をして、惜しいもふだったと言わしめるほどに、あのもふもふの海は「とってもいいもの」だったのだ。
嘗て大悪災と呼ばれた魔軍将のひとりにあるまじきいじらしさで、もふもふでもこもこの海に沈んでいる。
できればこのまま――しかし、彼女の沈むべき海は別にある。
(「還さないといけないっす、こいつはここにいるべき存在じゃないっす」)
日野は自身を焼く怒りの炎を忘れて、デレデレにとろけている。緩み切ったぎこちない微笑みがその証拠。
その怒りが二度と蘇ってこないように、饗は|自身の翼《﹅﹅﹅﹅》をバッサァと広げた。
間近で見てきた、先の白い悪魔のあざとかわいい動きを、ぬいぐるみに再現させて。
「うぁっ、それ……! アイツらの……!」
大好きな綿菓子に喜んだときの体のゆすり方だ。さすが日野、よく観察していたらしい。
そして、こちらは饗の一押し、最強かわいいシマエナガの、雪の妖精たらしめる愛嬌たっぷりの行動を再現!
「……なん、だ、その……かわいい、……もふ……ううっ」
とんでもない大きな感情が口から溢れてしまわないように、口元を押さえた。
まさに極上のもふ楽園をつくりあげた|饗《おおきなもふ》は、ふんぞり返る。ちょうど腹のもふもふが強調されるような魅惑のポーズだ。
「きょうだい達をあげることはできないっすけど、満足はあげられるっす! どうっすか、いま、幸せっすか!」
訊かれて素直に首肯する日野ではなかったが、その満ち足りた表情と、すっかり毒気を抜かれて腑抜けと化した姿に、饗はうんうんと肯いた。
その表情に、饗もまた満足する。
「いいっす、たっぷりもふでもふしてもふるっす!」
倖せを享受したままに、憤怒を忘れていまに消えゆく紫焔とともに、日野の姿が消えていくまで。
しっかとその漆黒の双眼は、彼女の満ち足りて、安らかに笑むさまを見続けた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『憑装猟書家『晴明クルセイダー』』
|
POW : 十字槍「人間無骨」
【十字型の槍】が命中した対象に対し、高威力高命中の【体内の骨を溶かす光線】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 憑装侵略蔵書「ぱらいそ預言書」
【預言書に書かれた未来の記述を読むことで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 『魔軍転生』秀吉装
レベル×5体の、小型の戦闘用【豊臣秀吉(フェンフェンだけで意思疎通可)】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:kawa
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ティエル・ティエリエル(サポート)
◆キャラ特徴
ボクっ娘で天真爛漫、お転婆なフェアリーのお姫様です。
王家に伝わる細身のレイピアを使った空中からのヒット&アウェイで戦うのが得意な女の子です。
・冒険大好きお姫様
・珍しいものにも興味津々
・ノブレス・オブリージュの精神で弱者を放っておけないよ
・ドヤ顔がよく似合う
・困ったら動物さんに協力を!
◆戦闘方法
・背中の翅で羽ばたいて「空中戦」や「空中浮遊」で空から攻撃するよ
・レイピアに風を纏わせて「属性攻撃」でチクチクするよ
・対空攻撃が激しそうなら【ライオンライド】
・レイピアでの攻撃が効かない敵には【お姫様ビーム】でどかーんと攻撃
●安倍晴明は興味深そうに笑った
あんなに怒り狂えるモチベーションはどこからくるのだろう。
怒りはパワーだ。
怒ることは疲れる。
なぜ日野富子は四六時中怒っていられるのか、純粋な興味はあったが、猟兵どもに斃されてしまったらしい。その一報を受け取って、彼は残念そうに鼻を鳴らした。
しかし――彼はくすりとしてしまった。
あの怒りも溶かし解すほどの、|もふもふ《﹅﹅﹅﹅》とは、実に興味深く感じたのだ。
「仕方ありませんね。後ほど、再び|喚び《つくり》出して聞いてみることにいたしましょう」
満足いく結果となるか否か――それすらも愉しむように。
クルセイダーの肉体ではあるが、それを操る安倍晴明は、ぱらいそ礼拝堂の清らかな床を《人間無骨》の柄で一度叩く。
硬く反響し戛然として殷々と。
胡乱な微笑みを湛えたまま、彼(ら)は、猟兵を待ち構えていた。
「それってとっても嫌味だからやめておいた方がいいと思うよ!」
ぱらいそ礼拝堂に、きらっとした金色の輝きが奔った。
「戦ってでも止めないといけないってことだね――じゃあ、先手必勝だよー!!」
ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)の溌剌とした声の、その鮮やかさが礼拝堂に降る。
携えるは、《風鳴りのレイピア》――繊細な薄翅をひらりと羽搏かせ、清明クルセイダーへと突進していく。刀身には風が纏わり、ティエルの背を押す。
ひゅんっと鋭い風が吹いたのは、少女の接近を意味する――胡乱な薄水の双眼は、ただただ無感動に揺るがない。
「ああ、なんと賑やかしい」
ぽつり呟く泰然たる静かな声音とは裏腹に、その身を護るように、無数の【豊臣秀吉】が召喚される――長い黒尾を生やす黒い毛玉だが、ティエルの体躯と大差ない。夥しいまでの軍勢だ。眼窩からは薄気味悪い光が放たれ、一斉にティエルへと襲い掛かる。
「うわあっ!? 多いよ!」
フェンフェンフェン…と絶え間ない鳴き声は濁流となって飲み込まんと大顎をあけ、ティエルを喰らうよう。
宙を奔るように飛んで翻り、風纏うレイピアで刺突。黒蛇にも似た【豊臣秀吉】は、貫かれれば消滅する。
「おっと? 意外といけちゃう?」
ティエルの薄青の眸がくるりと彩を変える。風の力の後押しを受けて、閃く銀線が黒を刺し貫き、間抜けな断末魔を聞き続けた。
「それで終わると、ゆめ思われぬよう」
フェンフェンという鳴き声の向こうから、鮮烈な男声――瀟洒な衣装をティエルの風に揺らせるクルセイダーだ。
「私は……|私《安倍晴明》であると同時に、この身はクルセイダー……彼の力を侮ってはいけませんよ」
カツ――長靴が礼拝堂の床を蹴る――瞬間、【人間無骨】の鋒鋩がティエルに迫る。黒壁の影から突然槍が突き込まれたのだ。ひゅっと息を飲むと同時に、《風鳴りのレイピア》がひゅわりと鳴る。僅かな時間の中で、確信的な危機を感じ取る――躰は即座に反応した。
極限まで高められた集中力をもってして、レイピアの切っ先を清明クルセイダーへ向け、眩い光線が発出。
ティエルの気合が発露した【|お姫様ビーム《プリンセス・ビーム》】が、《人間無骨》の軌道を逸らせ、燦然と鋭利な光を放って、礼拝堂から一瞬間、色を奪う。
光線に焼かれた清明クルセイダーは、なにやら口惜し気に呪詛を吐いているが、ティエルの意に介することはない。
「あぶなかったー! どっかーんって効いたかな?」
滲み出る彼女の高貴さが、持ち前の天真爛漫さに隠される。
|精神《安倍晴明》と|肉体《クルセイダー》の、二人分の攻撃を凌いだティエルは、ふうっと吐息をひとつ、背の翅を震わせた。
成功
🔵🔵🔴
響納・リズ
二回攻撃だなんて、面倒なことをしてくれますね。
なれば、両方を一度で足止めしましょう。元々私は後方支援型なんですけど……とにかく、このジャッジメント~なら、どちらかを足止めできるはず。
後は続けてジャッジ~を何度か出せば、戦闘用豊臣秀吉ごと、まとめて一掃できることでしょう。もし、仲間と共闘できるのなら、彼らと協力して、より良いタイミングで、ジャッジ~を放って、有効的な攻撃を放っていきたいです。
「ごきげんよう。ですが、ここで消えていただきます。この世界をまた傷つけられるのは困りますから」
「こんな私でもお役に立てることが出来たでしょうか」
「さようなら、もう二度とお会いしたくありませんわね(くすり)」
網膜を焼くような煌然たる|光線《ビーム》が糸を垂らすように消えて。
ぱらいそ礼拝堂に色が戻る。
フェンフェンと|なぜか意思疎通のできる《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》獣のような自動戦闘機だけは無数に残っている。
響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)は、嫋やかな金の髪を揺らして、魔導杖を握り締める。紫の双眸でしっかと見据える先には、やや乱れた瀟洒な外套の裾をばさりと叩いたクルセイダーがいた。
泰然自若とした風体は、危機を感じているどころか、現状をどこか愉しんでいるように見える。
「ごきげんよう」
「おや、挨拶だなんて殊勝なことを」
「――ですが、ここで消えていただきます」
リズの言葉に、きょとんと眼を丸めてみせる。そのニンゲンらしい仕草に違和感を抱かずにはいられなかった。
サムライエンパイアを混乱させる存在だ。それが、ニンゲンの真似事をしているようで――その違和感たらしめるのが、彼であって彼ではないということ。
|肉体《クルセイダー》と|精神《安倍晴明》のちぐはぐさが輪をかけているのだ。
クルセイダーの姿で、つかみどころのない安倍がくつくつ笑っている。
月に抱かれる青のクリスタルが眩く輝く――精緻な意匠の魔導杖は、リズの力を引き出し高めて、極限まで緻密に編み上げられ、パリっと小さく弾け始める。
「この世界をまた傷つけられるのは、困りますから」
面倒で厄介なことを企み、迷惑を顧みず驀地に進む歩みを押し止める。
《ルナティック・クリスタ》の放つ光は強さを増していく。
肺腑の奥まで、指の先まで、否、金糸が如き髪の毛の一本に至るまで、リズの聖性は強かに巡り輝きを放つ。
男の心身は別であると俄かには信じがたいが、それでもそれを実として、同時に二度のユーベルコードを放つ。実に厄介なことであるが、|すでに《﹅﹅﹅》眼前の男の周りには、黒い【豊臣秀吉】が犇めいている。
「|フェンフェン、フェンフェンフェン《すべては、清明様のご意思のままに》」
「……なにを仰っているのか判るにしても――さきほどのぶんちょうさまのお言葉の方が、私は好きでしたわ」
「これは異なことを。猟兵ともあろう貴方が、私がゾンビ化したあの鳥を好きと仰るとは! これはこれは……なかなかに、面白い」
興味を示した清明クルセイダーの心の機微をくみ取ったように、フェンフェンと大きく騒ぎ出して、リズへとその狂牙をむいて襲い掛かってくる。その群れと共に、《人間無骨》の鋒鋩が、閃いて。
瞬間。
「裁きの雷を!」
全身を巡り高まった聖性が、【裁きの雷】へと形を変える。閃光と轟音と激震。ぱらいそ礼拝堂に溢れかえる|天の雷《ジャッジメント・スパークニング・サンダー》は、その場にいる全員へと余すことなく落ちる。
まさに青天の霹靂――礼拝堂の中で、頭上から雷に打たれるとは思いもしなかったか、リズのもとへ到達する前に果てていく。
それは伸びる十字の穂の元――胡乱に笑む冷徹な美貌をも歪ませた。
「ぁぐっ……!?」
がらんっと《人間無骨》を取り落とす。その穂先に刺突されていたら、骨をも溶かす光線の餌食となっていただろう。しかし、彼の躰は今、激しく痺れて自由に動けない。その様子に、リズはほっと小さく息を吐く。そろりと呼気にすら帯電する聖力が滲み出していた。
本来であれば、後方から、前線に立つ仲間の支援に奮闘することが性にあっているのだが、そうもいっていられない。
ひとりでふたり分の攻撃だ。悠長に構えていられなかった。敵が全力でくるなら、それに匹敵する力で、否、それを上回る策で迎え討たなければ、またこの世界が戦火に包まれる。
(「それは、避けなければなりません……!」)
天の雷は、大罪を断じて、横暴たる力の奔流を瓦解させていった。
「さようなら、もう二度とお会いしたくありませんわね」
くすりと微笑んで、感電して呻き膝を折る清明クルセイダーを見下ろす。なんとか、痺れる手で槍を手繰り寄せ、取り戻していた。石突を床に押し付けて、立ち上がろうとする男の双眸が、リズを射抜く。
雷に打たれ、無惨に消えていった黒壁の残骸が、弱々しく鳴くが、もはや応える者はいない。
「こんな私でもお役に立てることが出来たでしょうか」
大成功
🔵🔵🔵
真宮・奏
義兄の瞬(f06558)と参加
我を忘れていたとはいえ富子さんのもふもふに対する思いは切実なものでしたよ。
その思いを鼻で笑いますか晴明。まあ、元々何考えているかわからない奴でしたが。そろそろ黙らせますか。
「人間無骨」に対しては【瞬間思考力】【心眼】を駆使して回避し、森羅牙道砲で吹き飛ばす。
預言書に対しては【怪力】【シールドバッシュ】を【限界突破】で行使して吹っ飛ばし読む事自体を阻止。
秀吉装は【衝撃波】を【範囲攻撃】化してまとめて吹き飛ばします。
常時【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】【受け流し】【ジャストガード】で防御体勢を取っておきます。
好き勝手は終わりです。観念してください!!
神城・瞬
義妹の奏(f03210)と参加
何かを知ること自体はいいと思いますが晴明の場合、必ず犠牲が出ることが問題なんですよね。奴の場合、それさえ織り込み済みということがあり得るんですが。
人間無骨は【気配感知】【心眼】を駆使して回避した後、【誘導弾】に【マヒ攻撃】【武器落とし】を合わせて槍を逸らす。
預言者に対しては月光の狩人と共に【電撃】に【部位破壊】【目潰し】を合わせて打つことで読むこと自体を阻止。
秀吉装は【限界突破】【全力魔法】にて【凍結攻撃】を【マヒ攻撃】を合わせて【範囲攻撃】化して行使。まとめて凍らせた上で【衝撃波】で消し飛ばします。
いい加減黙ってもらいましょうか。終わりです。
すべての罪を穿ち焼き断罪し尽くすような雷が、礼拝堂を震撼させた。それを発生させたのは、金色の髪のオラトリオの聖女――彼女の発した呟きに、真宮・奏(絢爛の星・f03210)は、「もちろんです」と答えた。彼女の作り出した清明クルセイダーの隙は、好機そのもの。
そして、そのいけ好かない鼻っ柱に拳を叩き込む隙でもある。
神城・瞬(清光の月・f06558)は、奏の盾になるつもりで、傍らに立つ。
安倍の知識欲には感服するが、諸手を上げて歓迎することは到底できない。その欲を満たすときに必ずと言っていいほどに、犠牲が付き纏うのだ――それを容認することになる。許せるものか。ただでさえ、|そうなると判っていてやっている《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》のは、火を見るより明らかだ。
多少の犠牲より、|大義《﹅﹅》を優先させている安倍晴明が、反吐が出る程に憎い。
「嗚呼……油断をしました……これほどまでとは……」
「そのまま油断して、あっさりと斃れてしまってほしいのですが」
「……そうはまいりませぬ。私には、楽しいことが山と待っているのですから、ここで斃れてやることは叶いませぬよ」
クルセイダーの美貌が醜悪に歪み、にたりとした嘲笑が浮かんだ。
痺れている躰の具合を確かめるように身じろぎをひとつ。震えているような指先を睥睨して、鋭く舌を打っていた。
「我を忘れていたとはいえ、富子さんのもふもふに対する思いは切実なものでしたよ」
「左様ですか。ふふふっ、では猶更、あれをもう一度作って聞いてみることにしましょう」
「……まだ鼻で笑いますか、清明」
「言ったところで無駄だろう……」
もとより、会話が成り立つとは思っていないし、元々なにを考えているのかも、見えてくる言動からは分かり難かったのは、確かだ。奏も、瞬も、眼前の男の思考を理解してやろうとは思っていない。
「そろそろ黙らせますか」
奏の言葉に、静かに頷きを返す瞬――彼の赤い瞳めがけ、《人間無骨》の切っ先が猛然と迫る。その刹那、考えるよりも先に、奏の躰は動く。
鋭い呼気と共に、不可視の衝撃波が打ち出され、十字の穂の軌道が逸らされる。清明クルセイダーは衝撃に瞠目した。
「骨を溶かされては困りますから」
遠くへ吹き飛ばされた槍が、がらんッと大きな悲鳴を上げた。奏の【森羅牙道砲】は放たれたのが、開戦の合図であったかのように、【豊臣秀吉】の軍勢が、フェンフェンと鼓舞し決起し、ふたりに牙をむく。
清明クルセイダーもまた、失った槍を追いかけることもなく、《ぱらいそ預言書》の表紙をめくる。
「そちらの方から、|厄介なもの《﹅﹅﹅﹅﹅》が放たれるのですか、――ならば、手は一つ」
|預言書を読んだ《﹅﹅﹅﹅﹅﹅﹅》彼の、虚ろな双眼は、俄かに彩をくゆらせる――奏の持つ《エレメンタル・シールド》が、その不吉にそわりと反応――先の槍のように吹き飛ばさんと走れども、数多の【秀吉】が一斉に跳びかかってくる。
精霊の加護が奏を護って、その黒の濁流に飲まれ――甲高く鋭い鷲の威嚇音が響いた。
「さあ、獲物はそこですよ! 容赦は不要です!」
【月光の狩人】を喚ぶよりも先に、預言書を読まれてしまったが。
《月白の霊符》に込められた強い力が、雷花を万に咲かせる。鷲と雷撃が、黒の奔流を裂きながら清明クルセイダーへと迫りゆく。
「くっ、――」
小さくも苦々しい呻き声。咄嗟に黒い盾を築いていたが、完全に間に合うことはなかった。
「そちらが雉だと気づきましたか」
鷲たちが獲物と定め、鋭い爪で【秀吉】を抑え込む。
瞬の声が、フェンフェンと耳障りな吶喊の向こうから聞こえてくる。肌は容赦なく裂かれ、刺された。忌々しい【秀吉】どもの直中で、風の精霊の笑声がした――清廉な風が舞い起る――《シルフィード・セイバー》が抜かれ、渾身の力を込めて振り抜く!
衝撃波は風刃となって、機械獣を吹き飛ばす。数を優先した技であることは明白。泡が弾けるように消えていくが、一撃の強さはさもありなん。
「私が狩られる側であるはずがありますでしょうか」
ぽつりと呟かれた声色の悍ましいこと――その凄絶な静かな威圧は、ぞわりと彼の影を揺らして歪ませる。
その一瞬のうちに、【豊臣秀吉】が補充される。
清明クルセイダーを護る盾のように、瞬と奏の連携を崩すように、雪崩れ込んでくる。
「好き勝手は終わりです。観念してください!」
「いい加減に黙ってもらいましょうか」
シールドは、奏の攻防一体の要。
霊符は、その身を護り抜く覚悟を宿す。
冷気が立ち込める――瞬の力が冷えて凍えて牙を剥き、礼拝堂を凍てつかせる。
「終わりが見えましたか」
残った【月光の狩人】たちも、主の噴き出る力を糧として清明クルセイダーへと飛来、鋭く尖った爪と嘴の間断ない襲撃と、凍てつき動けず麻痺して消えゆく機械獣の壁を切り崩し、奏が臆することなく接敵。
瞬の放つ冷気に押されて、《シルフィード・セイバー》を清明クルセイダーへと突き立てた。
「観念してください」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
安倍晴明ってのはとんだ盗人野郎の名前だったんだな
知らなかったぜ
人の身体奪って人のもふもふも奪って
今度はサムエンってか?
…やらせねぇ
龍珠弾いて握り締めドライバーにセット
変身ッ!
衝撃波飛ばしつつダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴って吹き飛ばし
同時にUC起動し後追い追い打ち
蹴りからの連続コンボ
要は
連続攻撃させなきゃいいんだろ?
本読む時間なんざ与えてやんねぇし
槍取り回す間合いもくれてやらねぇ
限界突破し更に加速
残像フェイントに暗殺も用い
死角から預言書や槍狙いの部位破壊
拳の乱れ撃ちで思いっ切り殴る
肉体と霊体の連続攻撃って言うと
そいつはすげぇかもってなるけど
一網打尽って言うか?
一気に片付いてラッキーだよな
荘厳な装飾が施された、ぱらいそ礼拝堂。
すでに戦闘痕が刻まれた、滑らかな石床を割り砕くように、陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、ぐっと躰を沈み込ませた。
「変身ッ!」
無数の裂傷、致命的な刺傷、激しく夥しい火傷――多くの傷をその身に刻んでなお立ち、怜悧な眸で睥睨してくる男へと疾駆。
連続攻撃をさせる時間を作らなければいいのだ。猟兵たちの隙を見て、【豊臣秀吉】は彼に手放した槍を届けていたが――その《人間無骨》を構えるひまも、《ぱらいそ預言書》を紐解く時間も与えなければいいだけだ。
先手必勝。
虹色の輝きが連なる《龍珠》がセット――理玖の躰は装甲に包まれ、様相を一変させた。
十字槍を存分に振るう間合いもなにもない。理玖の発する烈気は凄まじい衝撃波となって、清明クルセイダーを牽制、そのわずかな時間があれば、拳撃はきまる。固めた拳に確かな衝撃、殴られまいと掲げた預言書ごと殴り飛ばした。瞬間、理玖の心身の限界を突破する覇気が噴き上がる。
「ああ、なんと情緒のない……急いてはことを仕損じると申しましょう?」
「先んずれば人を制すっていうだろ」
即座に言い返す。渾身の力が込められた殴打を受けてなお、《預言書》を落とさなかったのは、さすがというべきか。
感興が醒めることもなさそうに、にたりと嗤った――こちらを不愉快させることは、得意らしい。
手負いであっても、憎まれ口をたたく余裕をみせた――押し寄せてくる【豊臣秀吉】の群れを操ることすら造作もないことも――
(「気に入らねえ……これ以上、好きにはやらせねぇ」)
止まっている時間が惜しい。理玖は大きく息を吸って、酸素を血を全身に巡らせる。
そして、超高速を解き放つ――【|閃光烈破《アクセラレート・エリミネーター》】
心臓が激しくポンプする。跳ね上がる心拍数は、無理矢理外したリミッターのせいで暴発する力を支え、全身の装甲は超加速に耐える。
拳撃は眼前の空気を圧縮して、その摩擦は凄まじい衝撃波を生み出す。フェンフェンという耳障りな鳴き声を衝撃波で黙らせながら、清明クルセイダーとの間合いを詰め、彼を掴み上げるように殴りつける。
足元に生み出した力場は即席の足場。少し体重を乗せるだけで砕け散るような軟なものではなく、むちゃくちゃな方向転換に付き合ってくれる。それを蹴って反転、回転する力をそのまま蹴撃にのせて、清明クルセイダーの横っ面を蹴り飛ばした。
それで終わってやるわけがない。
音速の壁を軽々と超えて、その身が床に打ちつけられる前に着地点へと先回り。ラッシュは終わらない。その瞬間の無防備な清明クルセイダーへ拳は刺さり続ける。正直な真正面からの拳に混ぜるのは、厄介な《預言書》への攻撃――その分厚い書を手放せば、未来を読むことはできなくなるだろう――しかしそれは、彼の予測の範囲内だったか、苦痛に声を潰しながらも、取り落とすことはなかった。
「あんたの|業《カルマ》だ。観念しろよ」
あまりに深い業は、もはや救いようがない。
開きかけた《預言書》を落とさないように抱え、預言を得ることは叶わない。倒れぬように踏ん張ることに精一杯で槍を構えることすらできない。
まさに清明クルセイダーにとって、八方塞がりだ。
(「肉体と霊体の連続攻撃って、そいつはすげぇかもってなるけど、それって一網打尽って言うか?」)
未熟だったクルセイダーの躰を乗っ取った安倍晴明――その悪魔的な思考回路を理解しようとは思わない。あっさりと乗っ取られたクルセイダーに同情の余地もない。だが、その付け焼刃の肉体を、己の意のままに寸分の狂いなく操るには、いささか|彼《﹅》を見くびっていたのではないか。
強力な|力《ユーベルコード》を持っているからこそ、気付きにくい。一挙手一投足は、どこか歪に見えた。
だからこそ、肉体と霊体の|二度《﹅﹅》があるのではないか。
「でもさ。俺からすると、一気に片付いてラッキーだ」
ぐっと沈みこんで、全身の発条をきかせ、リミッターを外したプログラムの補助を受け――ひとつの弾丸と化す。
「安倍晴明ってのは、盗人野郎の名前だったんだな」
クルセイダーの躰を奪い、ひとの|享楽《もふもふ》を奪い、さらに世界を奪い壊そうとする。
「そんな野郎だとは、知らなかったぜ」
だから、ここで、終わりだ。
《人間無骨》の刺突をも凌駕するような高速の正突きが、クルセイダーの鼻っ柱へと突き刺さった。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)、クルセイダーが晴明背負ってやってきた
…どちらもわたし好みのイケおじではない
遠慮なくやっつけよう
二回攻撃?わたしとまつりんだって負けてない
まつりんとアイコンタクトで連携確認
わたしは幅広の大剣にした灯る陽光を盾にオーラを放ち、【あたたかな光】で2人分の防御を強化、光線に備えよう
秀吉はうさみん☆も混じえ倒していくよ
うさみん☆はリボンでぷち秀吉をまとめて締め上げ潰し、
わたしは大剣のオーラをぶんと飛ばして複数個体毎まとめて撃破
まつりんの攻撃が回避されてもわたしがいる、逆もまた然り
回避の先の未来から、怪力で思い切り懐からパンチを叩き込もう
晴明、往生際悪い
さっさと海へ還って
木元・祭莉
アンちゃん(f16565)、セイメイだー。
むっ、イケメンぽい?
……え、肉厚が足りない?
そっかー、残念だね♪
アイツ、二人羽織?らしいよ。気を付けていこうー。
先制はないみたいだし、先手うって動く!
れっつ・だんしん!(指ぱちん)
向日葵に視線が逸れた隙に、正面からダッシュ!
如意な棒は片手で振り抜ける長さに、目の前のふぇんふぇんには、衝撃波を飛ばして薙ぎ払い!
この憑装だと、ゆべこ技能がふたつあるって聞いたケド。
身体はひとつでしょ?
おいらたちはね、身体二つでゆべこもふたつ使えるからね♪
死角からの攻撃は、守りの力と耐性で振り切り。
向日葵が巻き付く一瞬の隙を逃さず。
最近接から、カウンターダブル正拳でぶち抜く!
容赦のない蹴撃と拳の|猛攻《ラッシュ》に翻弄されて、派手に殴り飛ばされた清明クルセイダーは、傷にまみれていた。
ボタっと落ちた鼻血を拭って、ふらりと立ち上がった男は、覚束ない足取りで――それでも【|秀吉《グレイズモンキー》】が持ってきた《人間無骨》を杖にして、立つ。
「ッ……――忌々しい……」
苛立つような吐息と、舌打ち。とめどなく流れる鼻血は、痛々しくもあるが。
「アンちゃん、セイメイだー」
ボロボロに傷ついているとはいえ、もとの美青年然とした雰囲気は崩れていない。むしろ、箔がついたというべきか。
「イケメンぽい?」
木元・杏(ほんのり漏れ出る食欲系殺気・f16565)は、|頭《かぶり》を振った。
「……どちらもわたし好みのイケおじではない……ちょっと、違う、もっと、こう……」
「え……肉厚が足りてない?」
木元・祭莉(まつりん♪@sanhurawaaaaaa・f16554)の指摘は、言い得て妙――杏は、肯く。
「そっかー、残念だね♪」
「ん、残念仕様だった……せっかくのかもねぎなのに」
かもねぎ――クルセイダーが清明を背負ってやってきたというのに、これで杏のテンションが上がる風貌だったら……考えてみたが、これは絶好の好機。一石二鳥。遠慮なく、あと腐れなく斃せるというもの。
「遠慮なくやっつけよう」
「先制の制約もないし、先手うって動く!」
うんうんと大きく肯いた祭莉は、軽やかに高らかに手を突き上げ、|弾指《ぱちんっ》。
「れっつ・だんしん!」
礼拝堂の石床は、繰り広げられた戦闘の痕が刻まれていて、罅割れ砕かれている――その隙間なんぞ無視、割れていない床材を押し割って、【|夏花の後継人《サンサンフラワーズ》】が咲き笑う。
「アンちゃん、アイツ、二人羽織?らしいよ」
「それなら、わたしとまつりんだって負けてないじゃない」
「そうそう、おいらたちの方がすごいってこと♪」
ありとあらゆるものの視線を釘付けにしてしまう不思議な向日葵を、|見てしまった《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》清明クルセイダー。
|兄妹《ふたご》の呼吸は、阿吽のそれ。不可思議な魅力を振りまく向日葵に視線が囚われた瞬間、祭莉は驀地に駆ける。
《灯る陽光》は大剣へと形を変えて、駆けゆく彼を護る盾になる。
【|あたたかな光《マモリノカベ》】が特攻を支える。祭莉の意のままに伸び縮みする棒を、|ちょうどいい《﹅﹅﹅﹅﹅﹅》サイズに調整した。清明クルセイダーの命じる声はないが、黒い獣どもは無能ではないらしく、フェンフェンと互いに呼応し合って、黒い波と化した【秀吉】の群れが祭莉を飲み込まんと迫りくる。
「とりゃー!」
ちょうどいいサイズの《如意みたいな棒》をぶんっと一振り、掻き混ぜられた空気は衝撃波をつくりだし、機械獣を薙ぎ払う。
そのまま向日葵に見惚れておけ。もうしばらく、あとすこし。向日葵が清明クルセイダーを掴み絡め取るまで。だから、彼の助けになるよう、杏は《うさみみメイド》の手も借りる。まずは、この波を蹴散らしてしまわないと――金色の双眸にきゅっと決意が光る。
オートメイションのうさみみメイドは、ひらひらとリボンを揺らした。
「いっけー、うさみーん☆」
杏もまた大剣をぶんっと振りながら、うさみん☆にエールを送る。リボンでむぎゅっと雁字搦めにされた【秀吉】は、「フェンフェン、フェ……」なんて鳴きながら、しゅわりと解けるように消えていく。むろん、杏も負けてはいられない。陽光の大剣から放たれる衝撃波は、祭莉に追いすがる群れを一掃。
|仕事《﹅﹅》を忘れ、陽光に見惚れる向日葵ではない。しっかと清明クルセイダーを見つめて、動かないように釘付けにする。凄まじい魅力――力を発揮する。その視線の外から、祭莉は清明クルセイダーに超接近した。
「つっかまえーた!」
それが合図。
清明クルセイダー、まさか向日葵に引っ掴まれることになろうとは思ってもみなかっただろう。
「なっ、この!?――ひっ……! おやめなさ、うわっ!?」
ひょいと持ち上げられ、ぶんぶんと振り回されおもちゃにされる。加減は一切ない。凄まじい怪力でぐりんぐりんに、下を上への大騒ぎ。
「くっ、いいかげんに、……!」
手負いであるから余計に、情け容赦なく振り回されては目が回っただろう。特別小さくも、特別軽くもない躰を、持ち上げられ弄ばれたから虫の居所はひどく悪い。そもそもご機嫌取りをしてやるつもりは毛頭なく、びったーん! と激しく強かに床へと叩きつけられたその躰に向って、渾身の力で二度の正拳突きを叩き込む!
「せいっ!」
確かな手ごたえは拳をつたって駆けのぼって、清明クルセイダーが激痛に喘ぎ激しく噎せる様子に確信する。
しかし、それは油断にはならない。祭莉の銀瞳は手にしたままの《人間無骨》の切っ先が動いたことを見逃さなかった。瞬間、祭莉に深く刺さる――突如閃く光は、骨を溶かす光か、はたまた祭莉を護るオーラの輝きか。
「……今の状態って、ゆべこ技能がふたつあるって聞いたケド、身体はひとつでしょ?」
けろりとして首を傾げてみせた。
あの凄まじくも烈しい光は後者の輝きであったのだ。
「おいらたちはね、身体ふたつで、ゆべこもふたつ使えるからね♪」
「まつりんの攻撃が外れたって、わたしがいる――逆もまた然り」
意思疎通はピカイチ。それが兄妹であるからか、双子であるからか、判然とすることはないが、杏がつくり練り上げたオーラの防護がその役目を終えて砕け散った。
「外れてないし!」
「次は分からないでしょ?」
祭莉の正突きに咳きこみ、血を吐いたその躰はとっくに限界を迎えているのだろう――しかし、|霊体《安倍晴明》が停止することを許していないのだ。美貌を血で汚しながら、自身から流れた血で《ぱらいそ預言書》を汚して、書に縋るように頁をめくる。
「打開策が、ある……きっと、私は、……噫……」
その頁には、確かに未来が記されていただろう――このような|状態《﹅﹅》でなければ、易々と回避できた|現実《﹅﹅》だろう。
「わたしたちにはカバーし合える相手がいたけど、ひとつの身体だものね……でもね、」
ふッと呼気。
瞬時に込められた怪力は、およそ杏の見目からは想像できないくらいの威力をもって、清明クルセイダーの鳩尾へと突き刺さる。
「晴明、往生際悪い――さっさと海へ還って」
どこまでもつかみどころのなかった清明クルセイダーだったが、その最期の瞬間だけは、苦み走って、歪んで、まるでニンゲンのような表情をしていた。
蹲り、咳きこみ――その咳が治まるころ、その背は動かなくなる。
「ふー、おわったねー♪」
「ん……まつりん、怪我ない?」
「だいじょーぶ!」
ふたりは互いに頷き合って、もう一度、安堵の吐息を漏らした。
●海へ還る姿を見ていた
クルセイダーの身から逃れることもできず、すでに霊体と成り果てた安倍晴明には、もはや打つ手はない。
口惜しや。
噫、噫……あな口惜しや――
腸が透くような、浮き上がるような、|重力《しがらみ》から解き放たれるような――否、引き摺り込まれる、無数の手に四肢を捕らえられて、墜ちる堕ちる囚われる。
|静寂《しじま》の中へ。
永久の海へ。
大成功
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