闇の救済者戦争㉑〜疾く朽ち果てて
●ダークセイヴァー第二層――|五卿六眼《ごきょうろくがん》『腐敗の王』
私は「生と死の循環」を操るもの……。
私が「死の循環」を加速すれば、即ち世界は腐敗に満ち……。
腐り落ちて「過去」となった万物は、オブリビオンとして蘇る……。
腐り落ちたお前の肉から、お前のオブリビオンを拵える事もできる……。
生と死を超克した者の刃しか、この私には届かない。
さあ、私に見せてくれ。今度の猟兵達が、果たしてどこまで戦えるのかを。
●グリモアベース
「――ザッザザアアアアア―――」
闇の救済者戦争と称される戦争もいよいよ大詰め。今日もまた招集に応じて駆け付けた猟兵たちが目にしたのは――グリモア猟兵である遠千坊・仲道の、壊れた姿だった。
否。テレビ頭から音量調節の狂った耳障りなスノーノイズを発しながらジタバタと身悶えてはいるが、未だ生きてはいる。とりあえず。
それに、よく耳を澄ましてみれば、内容までは分からないがノイズの向こう側で悪態を吐いているらしい声も聞こえる。
どうやら常になく憤っているらしい様子の仲道に声を掛ければ、余程夢中になっていたのか「うおっ」と小さく悲鳴を上げて飛び跳ねた。
「……わ、悪ぃ。気づかなかった。来てくれて感謝するぜ、猟兵」
仲道は決まりが悪そうに項を触りながら、適切な音量に調整した声で非礼を詫びた。
そして微妙な空気を変えようとわざとらしい咳払いを一つして、猟兵たちを招集した目的を話し始めた。
「もう知っている奴もいるかもしれないが、|五卿六眼《ごきょうろくがん》の一柱『腐敗の王』が現れた。どうも、こいつが生と死の循環を停止しているせいで、ダークセイヴァーの人は死んでも魂人として転生するようになっちまったらしいぜ。……しかも『欠落』が健在なせいか、現段階じゃ腐敗の王を滅ぼすことは“不可能”だ」
それでは、今はまだ腐敗の王と相対しても意味はないのかといえば、そうでもないと彼は首を左右に振った。
「確かに滅ぼせはしねえ。けどな、あいつを倒せば倒すほど『生と死の循環』が解放されて、何%かの確率でダークセイヴァーの人が死後に魂人へ転生させられることなく、死ねるようになるんだよ」
だからこれは、決して無駄な戦いではない。そう言いながらも、仲道はどこか気乗りしない様子だった。
と、いうのも。
「腐敗の王は『死の循環』を加速し、視界に映る全てを腐敗させる能力を持ってんだよ。そこには血管で埋め尽くされた大地だけじゃなく、あんたら猟兵も含まれる。それだけじゃねえ。腐敗し消滅した肉や血は全て『オブリビオン』として、腐敗の王の傍らで蘇る、とか言いやがる! つまり、あんたらは腐敗によって崩れていく身体で、腐敗の王だけじゃなく『オブリビオン化した自分』も相手にしなきゃならねえ、ってことだ」
やや拗らせ気味の猟兵ファンとして、腐敗の王の遣り方には色々と見過ごせないものがあるのだろう。仲道の音声には熱が入り、またしても酷い雑音が混じり始めている。
ただ今回は直ぐに我に返り、前のめりになっていた姿勢を気恥ずかしそうに正した。
「まあ、この能力の発動中は腐敗の王も自身の傷を癒せねえから、その分、耐久力も脆くなる。つまり、少しづつでも与えた傷を積み重ねていけば、いずれは腐敗の王も倒せるはずだ。だから、」
言葉が詰まる。本心で我儘を言えば、仲道は皆を行かせたくはないのだ。
それでも、自分も、目の前にいる彼らも、猟兵だった。だから、今、此処にいる。
そう。だから。
「……頼んだぜ、猟兵」
葛湯
猟兵のオブリビオン化した姿を見たい。見たいだけです。
|葛湯《くずゆ》と申します。十六作目です。
どうぞお手柔らかに、宜しくお願いいたします。
●シナリオ構成
第一章『五卿六眼『腐敗の王』』
腐敗していく(種族によっては朽ちたり壊れたり)身体を抱えながら、
腐敗の王、及びオブリビオン化した|猟兵《自分》と戦ってください。
※戦場が戦場なので判定で大成功が出ても、ある程度負傷描写が含まれます。
※但し、どの程度の負傷になるかはプレイング内容とダイス判定によります。
【オブリビオン化した猟兵について】(必要に応じて説明省略印「★」)
腐敗の王の力で完全な肉体で蘇った彼らは、腐敗の王に利のある行動を取ります。
どのような姿形で、どのような言動をとるのか等書いていただけると嬉しいです。
●プレイングボーナス条件
僅かずつでも腐敗の王に与えたダメージを重ねる。
●お願いと諸注意
基本的に一人ずつのご案内で、少数採用の予定です。
リプレイ執筆はゆっくりめ。書き切れない場合は流す可能性があります。
受付状況はシナリオのタグなどでお知らせいたします。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『腐敗の王』』
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POW : フレイムビースト
自身の【全身】を【熱き魂の炎】化して攻撃し、ダメージと【装備焼却】の状態異常を与える。
SPD : オブリビオンソード
【腐敗による「消滅と忘却の宿命」】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【ユーベルコード知識忘却】の状態異常を与える。
WIZ : 死の循環
【この世界を司る「世界法則」そのもの】から、戦場全体に「敵味方を識別する【死の循環】」を放ち、ダメージと【肉体腐敗】の状態異常を与える。
イラスト:佐渡芽せつこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
末代之光・九十
|収集《第九権》にて再構築し|結合《第十権》にて定着。
|大地《ホノリ》の御名に応じこの一時再臨せよ。
王弟・戦士長・一族最強・神殺しの英雄!
(UC発動)
おっすおっす先生久しぶりー(激しく軽いノリで剣を投げ渡して)
これ生命の循環で作った剣だよ。モロ逆属性だから効くだろうしー
(腐敗の王を指して)
あいつの相手よろしくー
ああ、何か生と死の循環を勝手に止めたり加速したり好き放題やってる人だよ。何してんだてめえって感じだよねー。これでも僕って死と生命の循環の管理神だからねー。
許せる筈ないんで本当お願い。先生になら任せれるから。
僕はあっちを相手しなきゃだからさ。
(あらゆる生命の入り混じった歪な巨人と化した己に向き直る)
オブリビオンになった僕かー。
…腐らされ過ぎたね。落ちた腐肉の分相当本格的だなあ。
(先生の手前隠していた損傷、腹部とその中身がほぼ無い)
望んで得た『人の形』まで放棄しちゃってまー…
…君は君で許せない。刺し違えてでもぶち殺す。
なあに。結局は僕だ。二つの|核《瞳》を砕けば死ぬ。
さあ泥仕合だよー!
●
血の管が脈打つ闇夜の大地に煌々と、半身を燃やす腐敗の王は邪悪な灯籠のように、末代之光・九十の前方に二本脚で立っていた。
「|収集《第九権》にて再構築し|結合《第十権》にて定着――」
己が不滅に驕っているか。それとも、この期に及んで『正々堂々と』戦おうとしているとでもいうのか。九十と対峙しながら腐敗の王は置物のように身動ぎもせず、ただ炎のみを揺らがせてUCの発動を待ち兼ねている。
九十を含め猟兵との闘いを、ほんの戯れ程度にしか思っていないのだろう。そこに悪気や嘲りは欠片も無く。だからこそ余計に質が悪い。
「――大地ホノリの御名に応じこの一時再臨せよ。王弟・戦士長・一族最強・神殺しの英雄!」
抽出、結合、再構築――その末に顕現したのは、一人の男だった。
『……?』
腐敗の王は少々拍子抜けした気分で首を傾げ、しげしげと男を観察した。
――ダークセイヴァーでは見慣れない古めかしい衣服を身に着けているが、それ以外は九十の語るような特筆すべき点も見当たらない、無骨そうな人間である。
『何を召喚するのかと楽しみにしていれば……それだけか?』
どうであれ異界の神であるというから期待していたというのに。
腐敗の王は落胆を隠せぬ声音で、男の向こう側にいる九十に尊大に問いかけた。
しかし九十は男こそが間違いなく数多の肩書きに値する大人物であると心底信じている様子で、寧ろ察しの悪い愚かさを貶すように腐敗の王の声を無視しながら、自らの正面に立つ男に片手を振った。
「おっすおっす先生久しぶりー」
挨拶もそこそこに、九十は激しく軽い調子で剣を男に投げ渡す。
神から“先生”と呼ばれる男は、九十の剽軽さに呆れた顔を浮かべながらも唐突に放られたそれを危なげなく受け取り、矯めつ眇めつ眺めた。
「これ生命の循環で作った剣だよ。モロ逆属性だから効くだろうしー」
生命の循環で作った剣、などと尋常ではないことを事も無げに言ってのけながら、九十は人差し指を掲げ。
「あいつの相手よろしくー」
ひょい、と先生の背後を指差した。
呼び出された瞬間から存在には気づいていただろうが、ここで漸く初めて振り返って腐敗の王を目にした先生は、怪訝な面持ちで腐敗の王を睨んだ。
――何だ、あれは。
「ああ、何か生と死の循環を勝手に止めたり加速したり好き放題やってる人だよ。何してんだてめえって感じだよねー。これでも僕って死と生命の循環の管理神だからねー。許せる筈ないんで本当お願い。先生になら任せれるから」
溜まりに溜まった鬱憤が堰を切ったように溢れ出し、九十の飄々とした態度の裏に秘された憤りの深さを知る。
表出した怒りの一端に触れ、腐敗の王は俄然嬉し気に炎を燃やした。
『ほう、“任せられる”か。余程、その者を高く買っているらしい。……思えば、私を目にして動じない男が只人である筈も無かったな』
顔の半分を覆う炎の向こうで笑う気配がしたと同時、この場を支配する死の循環が加速していく。
溜息のように息を吐いた先生の、剣を握る腕に力が籠められたのが視界の端に映った。
「僕はあっちを相手しなきゃだからさ」
お願いだよと繰り返し腐敗の王とは反対を指しながら言えば、いいから早く行けというように先生は九十の額を弾いた。
心底、有り難いことだと思う。
実のところ、九十と先生の間に傍目から想像されるような主従関係はない。いつだって先生は、ただ九十の我儘に付き合ってくれているだけなのだ。
●
あらゆる生命の入り混じった歪な巨人がいた。九十は己が肉体の腐敗より生まれ出でた悍ましいと形容するのが似合いの巨体を仰ぎ見て、黒い眼を|瞳孔ごと《・・・・》糸のように細めた。
「オブリビオンになった僕かー……腐らされ過ぎたね。落ちた腐肉の分相当本格的だなあ」
上衣をちらと捲って覗いてみれば、九十の腹部は中身ごと全部爛れてしまって、ぽかりと暗い穴が開いている。
先程までは先生の手前隠していたが、人間なら疾うに死んでいなければ奇妙なほどの深手だった。
「望んで得た『人の形』まで放棄しちゃってまー……」
怒りはすれど驚きはせずに、九十は捲り上げた裾を丁寧に戻す。こうしておけば、自ら告げない限り布の向こうが空洞だとは誰にも分かりはしないだろう。察しの良すぎる誰かに会わない限りは。
不意に。腐り落ちた肉だけでは物足りないと無造作に九十の體へ伸びてきた猩々の腕が、目視不能の何かによって弾け飛んだ。
何時の間にか面を上げていた神は、大きく見開いた異彩の双眸で、じいと己のオブリビオンを捉えていた。
「……君は君で許せない。刺し違えてでもぶち殺す」
状況は此方が圧倒的劣勢。そんなことは重々承知している。
だが、それしきのことでコレを許容してやるほど九十は、潔い性質をしていないのだ。
「なあに。結局は僕だ。二つの|核《瞳》を砕けば死ぬ」
そんな物騒な言葉を軽口のように易々と吐きながら。しかし自分が倒されてやる気などは微塵もない雰囲気で、九十は満面の笑みを巨人に差し向けた。
「さあ泥仕合だよー!」
成功
🔵🔵🔴
空桐・清導
POW
アドリブや連携も大歓迎だ
★ボロボロのブレイザイン
誰かのために!明日のために!と熱いがどこか無感情な言動
「う、ぐうう…!こいつは、キツイぜ…!!」
腐敗していく自分の体に[気合]を入れて立つ
現れる自分のオブリビオンとは真正面からぶつかる
万全の自分だ。流石に強いな、と苦笑を浮かべる
腐敗の王の一撃を[根性]で捌く
武装の一部が焼けていくが、尚も倒れない
「なあ、過去のオレ。お前にゃ、魂がねえ。
ブレイザインは!熱い魂が宿ってこそだろ!」
UCを発動させて負傷や状態異常を全て吹き飛ばす
端から腐敗しようが関係ない
[限界なんざ、突破する!!]
真に誰かを想う心でオブリビオン達を
蹴散らして腐敗の王に一撃を入れる!
●
血管が張り巡らされた大地の上をもう随分と長い間、二条の真紅の光が幾度もぶつかり合いながら火花を散らしていた。
すると――ガゴンッ、と一際大きな音が鳴り響いたかと思えば、一方が大地の血管を裂いて遥か遠くへ弾き飛ばされていく。
「う、ぐうう……! こいつは、キツイぜ……!!」
真紅の機械鎧――“超鋼真紅 ブレイザイン”を身に纏うヒーローであり猟兵の空桐・清導は、地面に倒れかけた上半身を気合で持ち上げ、荒々しく息を吐き出した。
今も腐敗が進む四肢は体の重みを支えるのもやっとの状態で絶えず細かく震えたが、休んでいられるような時間はなかった。
地面から吹き上がる血煙の向こうを霞む両目で見据えれば、清導のものと同じ、選ばれし者のみが装着できるはずのブレイザインを身に纏った少年が姿を現す。
『誰かのために! 明日のために! 俺はオレを倒す!』
少年は清導を殴り飛ばした拳を力強く握り締め、声高に叫ぶ。
壊れた頭部装甲から覗く顔は鎧と同様、やはり清導と瓜二つであった。
「(万全の自分だ。流石に強いな)」
清導は、どこか虚ろな笑顔を浮かべる自分に酷似した顔を見上げ、苦笑する。
彼の腐敗した肉片から生じたオブリビオンは、端から半ば壊れた姿を完全体として蘇った。
しかし、ソレが有する力は万全な状態の清導と同等のもので。更には、肉体の腐敗が進んで思うように体を動かせない清導と対照的に、戦場を支配する“腐敗”の影響を受けないソレは常に万全な状態を保ったまま清導を襲撃し続けた。
初めに蘇った時点では拮抗していた力の差は、時間が経つにつれて次第にオブリビオン側の有利に傾いていた。
そして。
『――まだまだ、こんなものではないだろう。猟兵、お前の力をもっと私に見せてくれ』
傍らでそんな声が聞こえたと同時。
グジュ、と突如現れた灼熱が清導の鎧を熔かし、爛れた肉を焼いた。
瞬く間に清導の傍らに詰め寄ってきた腐敗の王が、全身を熱き魂の炎と化して清導を斬りつけたのだ。
「ぐ、うっ……おおお!」
戦場で磨き抜かれた瞬発力と根性によって間一髪で腐敗の王の一撃を捌くことには成功したが、その代償は大きく。
腕の装甲は焼却され、腐敗した肉は地に落ち、目の前でオブリビオンの自分へと吸収されていった。
悶えるような耐え難い苦痛が清導を襲い、顎が砕けんばかりに食い縛った歯の隙間から唸り声が漏れ出た。
しかしそれでも清導は、敵を前にして膝を折ることを、決して己に許しはしない。
『……ほお。まだ、倒れないか。見上げた精神力だ』
そうこなくては詰まらない。そう腐敗の王が笑えば、腐敗の王の傍らに立っていたオブリビオンは、自信満々に前へ歩み出た。
『そうか! ならば、その|精神《たましい》ごと、俺が燃やし尽くそう!』
王のために、と笑って言うソレを、清導はさっと睨み据えた。
『――っ?!』
オブリビオンは、自分と同じ姿形をしているはずの、自分や王との攻防、そして腐敗の力によって弱り切っているはずの人間が放つ視線の力強さに、思わず足を止めていた。
その瞬間。ソレが抱いたのは、理解不能の感情――“畏怖”、或いは“予感”とも呼ばれるものであったろうか。
『……? どうした、あの猟兵を倒すのではなかったのか』
圧倒的有利な立場にいるはずのオブリビオンは、支配者たる腐敗の王の問いかけも聞こえないかのように清導だけを凝視し、恐れるように身構えながら後ずさる。
清導は己のオブリビオンから目を離すことなく、焼け爛れた身体を心根と同じく真っ直ぐに伸ばし、口を開いた。
「なあ、過去のオレ。お前にゃ、魂がねえ――ブレイザインは! 熱い魂が宿ってこそだろ!」
燃え盛る魂の熱を声にのせ残った片腕を大きく広げれば、清導の全身から巨大な炎が立ち上った。
それは腐敗の王が齎す災厄の炎とは真逆の心地好い熱で清導の腐敗した肉体を包み込み、見る見るうちに傷を癒していく。
『おお、治癒のUCか。……だが、【死の循環】からは逃れられんぞ』
揶揄うような腐敗の王の言葉は正しく、UCによる治癒でさえ戦場を支配する腐敗の力から完全に逃れられるわけではない。実際、清導の肉体は治癒する端から腐敗し続けており、UCを使ってもなお完治とは程遠い状態だった。
――だが、それがなんだ。
「限界なんざ、突破する!!」
喉を焦がすように叫ぶと、清導は不死鳥のように天高く飛翔した。
脳裏に浮かぶのは、ダークセイヴァーで出会った人々や仲間たちの顔――清導にとって心から大切な日常や、守りたいものたちへの想い。
清導は、崩壊と再生を絶えず繰り返す肉体の苦痛も忘れる程に胸の内が熱くなるのを感じ、知らぬ間に笑んでいた。
「――フェニックス・メテオ!!」
刹那。光の閉ざされた闇夜の世界に眩く輝きを放つ紅き流星が降り注ぎ、偽の紅き炎と腐敗の王を貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
ロー・シルバーマン
厄介じゃのう。
しかし生と死の循環を取り戻さねばこの世界の人々に安らぎはない。
老骨に鞭打ってでも為さねば。
浄化の結界で周囲を覆い腐敗の進行に抵抗、同時UC起動。
陽の光で傷を癒しつつ太陽風叩きつけ腐敗の王を攻撃じゃ。
範囲は広い上庇う事も無理、少しずつ傷を重ねるなら丁度いいじゃろう。
…当然倒そうとしてくるじゃろうが、野生の勘と瞬間思考力で見切り腐敗の王の武器を最優先で回避しつつ少しでも長くUCを維持するぞ!
※アドリブ絡み等お任せ
儂のオブリビオンは姿はそのまま恐らく遠距離から猟銃で狙撃、或いはUCで援護してくるじゃろうな。
きっと喋らんじゃろう。余計な情報を此方に与えん為に仕事人に徹する…恐らく。
●
「……厄介じゃのう」
転移して早々、ぐずぐずと腐り始めた指の先を見下ろし、ロー・シルバーマンは嘆息をもらした。
「(しかし生と死の循環を取り戻さねばこの世界の人々に安らぎはない。老骨に鞭打ってでも為さねば)」
必死に護ると誓った居場所を幾度となく失ってきた。護りたかったものは護れずに、何の因果か自分ばかりが生き延びてきた。苦痛に満ちた寄辺無き世界だ。だが、それでも、愛した日々の属する世界。
秤の皿に載せられたのが|世界《ダークセイヴァー》であるならば、この老耄の肉が幾らか腐り落ちる程度のことは瑣末であった。
とはいえ、対抗手段を持ちながらそれを使用しないなどという自罰的なことをする気も無い。世界を救い、己も生き延びる。その為に戦場へ降り立ったのだから。
ローは世界を支配する【死の循環】――腐敗の進行に抗う浄化の結界で自身の周囲を覆うと、脈打つ血管の大地から闇に覆われた天を仰ぎ、自らが信ずる異端の神へ咆哮のように希った。
「≪祓い清める太陽よ、今一度ここへ!≫」
ローの見開かれた金の瞳がつるりと光を反射する。
はじめに木漏れ日のような光が暗黒を割り、次第にそれは真昼の太陽のように戦場全体を燦燦と照らし出した。
旧き太陽を奉ずる清らかな神域が展開し、温かな陽光が腐敗に苦しむローの肉体を癒す。
しかし、それは同時に敵への刃となって襲い掛かっていた。
『太陽! おお、太陽! 面白い……。しかし私に、この光はあまりに、眩しい。嗚呼、眩しい……』
悪しき感情や病毒を灼く強烈な太陽風が戦場内の全ての|敵《オブリビオン》に降り注ぐ。
腐敗の王は初めて感じる種類の苦痛に、悲鳴とも嗤いともつかぬ叫び声を上げて異形の腕を顔に翳す。
「(範囲は広い上庇う事も無理、少しずつ傷を重ねるなら丁度いいじゃろう)」
戦場どころか世界に及ぶ腐敗の王の【死の循環】を無効には出来ないが、確実に腐敗の進行は遅くなっている。
腐敗の王も今は平然として見えるが、このまま時間が経過していけば、どうなるか。
思案していたローは、先程まで何事か独り言を呟いていた腐敗の王が黙り込んでいることに気づいた。
嵐の前の静けさ。そんな言葉が連想されるような不穏な空気に、肌がざわつく。
警戒し様子を窺うローに、腐敗の王は徐に炎に包まれた顔を向けて言った。
『故に、お前は疾く滅ぼそう……』
腐敗の王の隣にゆらりと現れた影に目を瞠る暇も無く、毛が逆立つ感覚で本能的に大きく横へ飛び退けば、間を置かずに撃ち込まれた弾丸が先程までローの胸部があった辺りを過ぎ去った。
「(儂のオブリビオンか)」
爛れた腕を見遣る。
腐敗し消滅した血肉が形成したのは、自分をそっくりそのまま写し取った人狼の姿だった。
笠を目深に被っていた為どのような顔をしているのかまでは分からなかったが、恐らく何の感情も浮かべてはいないのだろう。ローがそうであるように、余計な情報を此方に与えないように。
――ふと、己が血肉の腐り落ちる臭いが鼻を突いた。
「っぐう……!」
瞬間。反射的に半ば強引な動きで身を捩り無数の血管が絡みつく地面を蹴れば、空間に音もなく差し込まれた巨大な刃が髭を掠めた。
僅かでもアレに触れてはならぬと野生の本能が警鐘を鳴らす。
何時の間にか接近してきた腐敗の王は、全体が刃と化した右腕で大地をぶつぶつと削りながら幽鬼のようにローに向き直った。
『避けるのが随分と上手いらしい。ならば、お前が何時まで逃げられるか……試してみるとしよう』
腐敗の王の背後で己と同じ姿形をしたオブリビオンが静かに猟銃を構えた。
UC【|古の太陽は再び昇る《ハイペリオン》】の効果が失われるまで、残り約2時間。
相手は強敵が複数。捕まるどころか、触れられた時点で一巻の終わりである。
たとえ効果時間一杯まで逃げ切れたとして、腐敗の王を倒すまでには至らぬだろう。
だが。もし最後まで逃げ切れたならば、確実に蓄積したダメージは腐敗の王を弱体化させ、いずれ訪れた他の猟兵が王へ止めを刺すのを容易にする筈であった。
ローは言葉を発することなく、僅かに口角を上げた。
「(上等じゃ)」
合図のように銃声が高らかに響き渡り――長い鬼ごっこの幕が開く。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◎◆
自身のオブリビオンには敵愾心を隠さず徹底抗戦
全てを諦め屈したこれが、自分自身とは認めたくない
腐敗の王の炎と★の挟撃を受けないよう常に走りつつ、敵の攻撃の合間に射撃でダメージを与えていく
しかし腐敗と負傷で動きが鈍れば回避し続けるのは困難だ
これ以上は躱し切れないと判断したら弾倉を特注弾へ交換
足を止めて★の攻撃を誘い、敢えて避けず負傷覚悟で喰らいつかせる
攻撃の瞬間は★の動きが止まる筈
その隙を突き、腐敗の王を狙いユーベルコードで反撃
腐り果て、装備諸共焼き尽くされる前に
反動を厭わず可能な限りの最大の攻撃でダメージを重ねる
…過去はどうあれ
こんな世界でも諦めず生きる者を知っている
彼らが死すら奪われ弄ばれる事が許せない
戦う理由はそれで十分だ
★詳細
人の姿だが四肢が獣化し牙も鋭い
銃は無く、身体能力強化のユーベルコードを好み、爪や牙を使い接近戦を行う
仲間の裏切りや人狼の迫害から世界に絶望し、諦念や抑えきれない苛立ちをぶつけるような言動を取る
『もう良いだろう、|お前《俺》を拒絶した世界の為に戦う必要は無い』
●
噛み千切った血肉を地面に吐き捨て、人狼は真っ赤に汚れた唇を拭うことなく囁いた。
『もう良いだろう、|お前《俺》を拒絶した世界の為に戦う必要は無い。――シキ・ジルモント』
薄く開いた口の隙間から、命を喰らう為に鋭く尖った牙が覗く。
人狼は、シキと全く同じ顔をしながら、しかし彼ならば好んで見せることのない狼の特徴を堂々と曝け出していた。
「……」
浅く削られた左肘から流れる血に応急処置を施しながら、シキは人狼の言葉に答えることなく駆けた。
人間の脚と強化された人狼の脚では、相手に本気を出されれば直ぐに追いつかれるだろうが、立ち止まれば腐敗の王との挟撃に遭い兼ねない。それだけは避けたかった。
人狼は余裕を見せているのか、歩くような速度でシキを追いながら、尚も話を続けた。
『まだ、分からないのか。どれほど身を粉にして戦い続けたところで……この世界は、決して|俺《お前》を受け入れはしない』
――だから。だから、もう、こんな世界は全て壊してしまった方がいい。
そう言った人狼は、深い苛立ちと諦念の入り混じった目をしていた。
自分よりも口数が多いのは、この人狼が骸の海より滲出した|オブリビオン《世界の敵》であるが故の差異だろうか。
そんなことを逃避のように考えながら、シキは振り向き様に人狼へ向かい弾丸を放った。
「お前と一緒にするな」
『――……』
シキの撃った弾は標的の額を的確に貫き、人狼は一度ビクッと身体を跳ねさせ止まる。
しかし、貫通穴はシキの肉体から零れ落ちる血肉によって、時間を巻き戻すように埋められていった。
その様を幾度も見てきたシキは、もはや些かも驚くこともなく、突き放すように言葉を紡ぐ。
「……過去はどうあれ、俺は、こんな世界でも諦めず生きる者を知っている。彼らが死すら奪われ弄ばれる事が許せない。――戦う理由は、それで十分だ」
全てを諦め屈したあれが、自分自身とは認めたくない。
そんな敵愾心が剥き出しになった表情と声音は、シキと|人狼《オブリビオン》が決定的に相容れない“敵”であることを明確に示していた。
『……そうか』
人狼は残念そうに呟くと、これまで積極的には戦闘に加わらず静観を続けていた腐敗の王を見遣った。
『やはり、交渉は決裂か……。そうだろうと思っていた。そうでなくては、戦う甲斐がない』
くつくつと笑うように肩を揺らしていた腐敗の王の、左半身を覆う炎が不意に揺らいだ。
身構えるシキの前で、炎は剥き出しの血管が這う腐敗の王の総身を瞬く間に呑みこみ、一つの巨大な鬼火のように変化させていく。
『さて。それでは、本番といこう……。準備はいいか、猟兵?』
腐敗の王が言うや否や、人狼は弾かれたようにシキへ飛び掛かった。
UCを発動し先程までよりも格段に速いスピードで迫りくる人狼に対し、シキもまた冷静に射撃を繰り出しながら回避行動を取る為、脚に力を入れた。
「――っ!?」
がくん、と。突如として足元の地面が消えたかのような浮遊感。咄嗟に見下ろせば、踏み出した足の先が腐って崩れていく光景が目に映る。
シキは状況を把握すると瞬時に脳内で計画を組み直し、左腕が半ば腐りかけているとは思えない速度と動きで、ハンドガンの弾倉を切り替える。
この脚で人狼の襲撃を躱し切ることは到底不可能だ。ならば、とシキは足を止め、
「――ッグゥ、う゛、……ッ!」
|敢えて《・・・》、人狼を喰らいつかせた。
鋭く大きな牙が左肩と首の間の爛れた肉をグチャリと潰し、その奥の骨までもへし折らんとして強靭な顎に力が籠められるのをシキは間近に感じていた。右脇腹には爪が抉るように突き立てられ、シキを力任せに地面へ押し倒そうとした。
そして、灼熱が迫る。
『さあ、燃え尽きるがいい』
組み付かれ身動きの取れないシキへ、腐敗の王が炎と化した腕を伸ばした。
だが。
『――何?』
シキに触れる直前。鳴り響いた破裂音と共に、腕が大きく弾け飛んだ。
一瞬、腐敗の王は何が起きたのか分からず、消えた自身の腕を見下ろした。
――いつの間に、我が身はこれほどまで脆くなっていたのか。
茫然とした心地で思考していれば、その隙を好機と弾丸が更に容赦なく腐敗の王へと撃ち込まれる。
『ぬぅっ……!』
幾つか弾丸を掠めながらも、辛うじて致命傷は避けながらシキの顔を睨めば、汗と血に塗れながら静かに煮え滾る熱を抱いた暗い瞳に射抜かれる。
右手に構えられた|銀《シロガネ》の銃には、先程まで使用していたものとは異なる色の弾倉が装着されていた。
弾倉に装填された特注弾とUCが、腐敗の王の身体を破壊する規格外の威力を出しているのだろう。
その分反動も大きく、今の脆い身体では一度撃つのも厳しいはずだが、シキは反動で崩れていく肉体も構わずに、何発も連続で撃ち続けていた。
己を喰らい続けている人狼には目もくれず。どころか、自分の邪魔はさせないと言うように、取れかけの腕で人狼の頭を自らの肩に押さえ込みながら。
それは偏に、腐敗の王を打倒する為に。
『ふっ、……はっははははっ!』
ゆっくりと状況を把握した腐敗の王は、消えた腕のことなど忘れたように笑い声を上げた。
『私をどこまでも愉しませてくれるな、猟兵……』
笑いながら腐敗の王は、此度の戦いの終わりが近いことを悟り、酷く名残惜しく想っていた。
成功
🔵🔵🔴
イェフ・デルクス
こんな役立たずもコピーするなんざ難儀だねェ。
腐敗っつっても今更コクピットで自分の腐臭を嗅ぐくらいどうってことねェよ。傷口が腐って膿んだことくれェ何度もある。俺ァ、キャバリアが動き続ける限り戦うだけだ。
で、俺のオブリビオンたァ、へ、へへへ、おもしれェなァ、世界を滅ぼすなんて――そんな『御大層な』目的を、この『俺』が抱える日が来るなんてな。
ああ――笑っちまって仕方ねェ。
俺は『それさえ』できねンだ。だからガラクタなんだ。役立たずなんだ。
空っぽの――玩具なんだよ。
記憶も命も棺桶も、贅沢なくらい全部持ってて、なのに俺にゃなんもねェ。
本当はなにも感じてない。
なにも。
羨望さえ。
浮遊自走砲で陽動、ミラージュユニットで索敵妨害しつつ、UCのために有利な地形を探して悪路走破。てめぇが俺なら、考えることは全部わかるぜ。
『目的』があるなら、余計に。
ロングレンジライフルで一直線に腐敗の王まで狙えたらいいが、そりゃ欲深いかね。
なァ、てめぇはオブリビオンなんだろ?
俺に今どんな気分か教えてくれよ。
『参考』にしてェんだ。
●
結論から言おう。
“腐敗の王は倒された。”
止めを刺したのは誰だと思う?
それはもちろん、猟兵だった。
だが、猟兵は猟兵でも、イェフ・デルクス――|異世界《クロムキャバリア》の放浪者。役立たずの生き残り。
腐敗の王は、酷く残念だったろう。
確かに、王が態々こうして姿を現したのは、猟兵の戦いぶりを見る為だった。だが、戦闘を通じて感じられる魂の衝突であったり、熱い言葉の応酬であったりも、王は心底愉しみにしていたのだ。
それなのに。選りに選って最後に現れたのが、激しい感情の揺れ動きとは無縁の、著しく情緒に欠ける男であったから。
この世界を巻き込んだ大規模な戦争のボスであった腐敗の王は、自分が蘇らせたオブリビオンの“ついで”みたいに、倒されることになったのだ。
●
イェフは腐敗の王の傍らに侍るようにして出現した、自分のオブリビオンだというそれを見て、感嘆のように呟く。
「こんな役立たずもコピーするなんざ難儀だねェ」
言葉に籠められた意味合いは、皮肉というよりも憐憫に近かった。しかし本心から憐れだと感じているわけではないので、そういう意味では皮肉でも間違ってはいないかもしれない。
コックピットはイェフの爛れた肉体から漂う腐臭に満ちていた。
けれども彼は自分の腐った肉も、それが発する悪臭も、少しも気にしていなかった。
亡国でプラント争奪戦の駒として作り出された時から今まで、数十年。清潔な環境を保てず適切な治療を施せない状況に陥るというのは、ままあることで。故に、傷口が腐って膿むくらいのことは彼にとってそう珍しい出来事ではなかった。
イェフはキャバリアが動き続ける限り戦うだけだった。生まれてこの方、それしか知らずに存在している。これからもそうだろう。
だと、いうのに。
「俺のオブリビオンたァ、へ、へへへ、おもしれェなァ、世界を滅ぼすなんて――そんな『御大層な』目的を、この『俺』が抱える日が来るなんてな」
ああ――笑っちまって仕方ねェ。
息を吐くのに合わせて音声を付け足したような、浅い笑い声がイェフの口から漏れた。
「(俺は『それさえ』できねンだ。だからガラクタなんだ。役立たずなんだ。空っぽの――玩具なんだよ。記憶も命も棺桶も、贅沢なくらい全部持ってて、なのに俺にゃなんもねェ)」
こんな風に思考する今も、本当はなにも感じてない。なにも。羨望さえ。
イェフは不意に笑う真似事を止め、キャバリアを動かした。
浮遊自走砲を繰り出し陽動している間に自身はミラージュユニットで索敵を妨害しつつ、UC【アドバンテージ・アンサー】の効果を最大限発揮できる有利な地形を探して悪路を駆ける。
無数の血管でできた大地には所々に小高い丘のように隆起した箇所があり、イェフは少ない労力で超長距離の狙撃に適した位置を見つけることができた。
ちなみに、その間、腐敗の王は転移直後に姿を消してから一向に現れないイェフに何事か話しかけ続けていたが、他愛ない雑談じみた話とだけ認識して、内容は右から左と抜けていった。
肉眼では米粒程にしか見えない距離にいる自分のオブリビオンを、キャバリアのコックピットから観察しながら、イェフは静かにロングレンジライフルを構えた。
「てめぇが俺なら、考えることは全部わかるぜ。『目的』があるなら、余計に」
視線の先。陽動に気づいたオブリビオンのキャバリアが、どこかに隠れているイェフを探すように頭部を巡らした。
だが直ぐに見つからないと諦めると、今度は腐敗の王の盾になるように動く。情からではないだろう。ただ、与えられた役割を果たす為に。自身は腐敗の王さえ生きていれば、幾らでも蘇るのだから。
……それで、どうなったか?
結果は最初に告げた通りだ。
腐敗の王は、倒された。
●
猟兵たちが与え続けたダメージは、腐敗の王やイェフが想像していたよりも蓄積されていたらしい。
悲鳴も哄笑も上げず、驚くほど呆気なく、そして味気なく腐敗の王は倒れた。
その|後《のち》のことだ。
イェフは、ある意味では生みの親である腐敗の王を失くしても、何故だか消えずにいた残骸の傍らに立った。
止めを刺す為、ではない。
腐敗の王の力で猟兵の腐肉や血から蘇り形を保っていたオブリビオンは、供給源を断たれた今、放っておいてもいずれ消え失せる。
だから、そんなことよりもイェフは、自分のオブリビオンを見た時からずっと彼に尋ねてみたいと思っていたことを聞いた。
「なァ、てめぇはオブリビオンなんだろ? 俺に今どんな気分か教えてくれよ。『参考』にしてェんだ」
勝利の愉悦に浸った嫌味でも、敗者への嘲笑でもなく。ただ『参考』にしようとして、問いかけた。
『――……』
だが、イェフの問いに返ってくる言葉は無い。
「……死んじまった?」
赤く脈打つ血管の柔らかな地面の上に、見慣れたキャバリアが瓦礫のように転がっている。
コックピットの位置は、正確に把握していた。だから、イェフは自然な動作で眼下のキャバリアを、墓荒らしのように暴いた。
そして、目を瞬き――笑った。喉から押し出すような笑い方だった。
そうやって一頻り息を吐いてから、無感動に呟いた。
「ああ。そう。成程なァ……」
コックピットは空だった。
大成功
🔵🔵🔵