●雨の色
色濃い緑と水の香り。しとしとと降る水音が響く中、瑞々しく咲く七変化。
今この世界を色で表すならば、緑や青だろう。
そう想う程に色濃い自然の空気を、肌で、耳で、香りで感じる俗世と離れた雨の世界。
触れれば身体の熱を奪うであろう、春と夏の狭間の冷ややかな雫。
咲く心の花は、何色だろうか。
●心の雫
「梅雨入りの時節ですわね。今年もサムライエンパイアの梅雨へご案内致しますわ」
微笑みと共に、杠葉・花凛(華蝶・f14592)は猟兵へ向け案内を述べる。
雨降る景色の中でも梅雨の時期は独特だ。
春と夏の狭間故の空気の熱や湿気、まだまだ冷たい雨。夏に向け伸びる草花はどれも色濃く、曇り故に灰色がかった世界に色鮮やかに咲き誇る。雨の雫を纏った花々はまた美しく煌めき、葉や傘を打つ雨の音色が心に潤いを与える。
そんな短い季節への案内と共に――猟兵としての仕事もお願いしたいと花凛は告げた。
「今回訪れますのは雨降る庭園。――と云っても、背の高い木々が並ぶ森のような場で整備された様子はございません。だからこそ、緑と雨の香りを楽しめるかと思いますわ」
広い森の自然はそのままに、歩きやすく道を整えた場らしい。
広い故に雨を凌げるほどの木々が密集した道も、逆にぽっかりと開けて雨雲から射し込む陽射しが紫陽花の雫を煌めかせる場もあるだろう。庭園の進み方に正解は無い。ただ己の思うがままに、心惹かれる場に向かえばそれが正解。
「特に変わったものは無い場ではございますが、一つ言い伝えがございます。……何でも、心を写す紫陽花があるとか」
心を写す紫陽花――その正体は、集うがくが普通の丸では無く、ハートの形をした紫陽花の花。そういった品種のようだが、綺麗な形には中々ならないらしい。
色は白、水色、ピンクや紫と普通の紫陽花と同じように変化する。様々な紫陽花の中に混じって咲いているようなので、『心を探す』人も多くいるらしい。
「森の中にはこちらの品種だけを集めた場もあるようですわ。とても珍しいようで、多くの方が訪れてはお気に入りを見つけているようですの」
疲れたならば途中の小屋で休憩も良い。傘の下とは違う、屋根を打つ雨音に耳を傾けながら、温かな飲み物等持参しほっと一息吐くのも良い。
一通り散策を終えた頃合いで、敵と出逢うことが出来るだろう。
オビリビオンは、姿形はただの少女。――しかし艶やかな黒髪と菖蒲の着物はしっとりと雨に濡れており、傘を差すその行動に意味は無い。
俯いた頬には常に涙の雫が零れており、ただただ悲しげに彼女は佇む。
「何時からでしょう、此の地は雨が降り続いているようで。恐らく、関係があるかと」
すっと瞳を細めると、花凛は真剣に言葉を紡いだ。
オブリビオンが世界に与える影響は数多あるが、此の地の災害もまた彼女が関係していると予測される。けれども、ただ佇むだけで攻撃をしない彼女にどんな力があるのか、何を考えているか。それについては、今はまだ不明だ。
それはきっと、雨を楽しんだ後に彼女と向き合えば分かることなのだろう。
色濃い緑。青や紫と七変化のように移り変わる様々な紫陽花。そして、世界を彩る雨。
ただそれだけの世界なのに、その瑞々しさが心地良いと思うのは何故だろう。
「雨の空気も、音色も、そして雨の中でしか味わえない景色も。楽しんで頂けると嬉しいですわ」
優雅な笑みの後、一礼をすると。花凛は宜しくお願い致しますと猟兵を送り出す。
――ぽつり、ぽつりと降る雫。
――それはきっと、心を潤す恵みの雫。
公塚杏
こんにちは、公塚杏(きみづか・あんず)です。
『サムライエンパイア』でのお話をお届け致します。
●シナリオの流れ
・1章 日常(梅雨もまた風流なり)
・2章 ボス戦(雨に濡れる少女)
シナリオ通して雨の中での出来事です。
あくまでフレーバーですので、戦闘の判定には影響致しません。
●1章について
緑濃い森の中に広がる紫陽花庭園。
開いた雨空から落ちる雨や、天を覆う木々により雨を凌げる場と様々な世界が広がっています。
咲く紫陽花の色も種類も様々です。広地土地なので、お好きな景色をご指定下さい。
途中に雨宿り出来る休憩所もあります。
水を帯びた濃い緑と雨の香りと共に、散策を行う感じです。
傘を差すか差さないかもご自由に。
雨の強さは様々ですが、ご指定無ければ傘に当たる雨音が心地良いくらいの強さをイメージ致します。
・心紫陽花
小さながくが集って咲く姿が、通常の丸では無くハートの形に咲く紫陽花があります。
森の奥には心紫陽花が群生するエリアもありますが、全ての紫陽花の中に混じっているので、探すのを楽しみにする人もいます。
●2章について
森の開けた場に佇む少女のオブリビオン。
傘を差していますが身体は雨に濡れ、髪で隠れた瞳からは常に涙を零しています。
彼女の居る場には雨が降り続けるとの話もあります。
●その他
・全体的に心情重視のシナリオです。
・同伴者がいる場合、プレイング内に【お相手の名前とID】を。グループの場合は【グループ名】をそれぞれお書きください。記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
・受付や締め切り等の連絡は、マスターページにて随時行います。受付前に頂きましたプレイングは、基本的にはお返しさせて頂きますのでご注意下さい。
以上。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
第1章 日常
『梅雨もまた風流なり』
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POW : 雨の中を散歩する。
SPD : 雨音を聞きながら、室内でくつろぐ。
WIZ : 雨に濡れる紫陽花を鑑賞する。
イラスト:kom
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●雨の心
緑濃い森の中、しとしとと降り続ける雨の雫。
夏に向け色濃くなる葉に雫が落ちれば、伝い地へと落ち紫陽花を濡らす。
雨が降ることにより緑の香りも濃くなり、水気と共に胸へと広がる瑞々しさ。それは、春でも夏でも無い梅雨特有の空気で、重々しくもどこか心落ち着く不思議な色。
視界に広がる色は緑の他、青に白に紫――七変化を告げる花々と共に、ひと時の憩いを楽しもうか。雨雫に濡れたそれらの花は、この瞬間が一番美しく映るから。
まん丸花毬の中。
心を浮かべた花が咲くのはどこだろう。
杣友・椋
リィ(ミンリーシャン/f06716)と
二人を隠すのはあの日と同じひとつの傘
リィ、はしゃぎすぎだっつの
楽しげな彼女に此方まで破顔して
咲き誇る紫陽花たち
また見に来られて良かった
ふと目に留まった不思議な形の其れ
心を写す紫陽花、だったか
美しい天色はまるで君の彩りのようで
俺がおまえのことばかり考えてるの、
紫陽花にもばれちまってるみたいだな
泣き出しそうな彼女の髪をくしゃり撫でる
小屋に足を踏み入れ、腰を下ろし
持ってきた文庫本を開く
降り頻る雨音
頁同士が触れ合う柔いささめき
時折君と視線が通えば思わず微笑んでしまう
本の中の祝福された虚構よりも幸せな世界が、
すぐ傍らに在るなんて
瞑られた瞼に落とす口付け
愛してる、リィ
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と
椋!
みてカエルさんだよ〜!
カタツムリさんだよ〜!
鳥さんが雨宿りしてる〜!
二人きりの傘の中
隠れているのにはしゃいじゃう
優しい眼差しをくれる彼が紫陽花の中から見つけた特別な花
彼の心に反応し私色に染まるのを見れば
なんだか胸がいっぱいになって泣いちゃうかもしれない
だって、だって…
幸せなんだもの
寄り添い辿り着いた小屋
彼の隣で私も本を読み始める
難しい本を読む彼に早く追いつきたくて彼が普段読んでいるものを借りてきたけれど…難しい
本を嗜む横顔をちら、と見れば
気付いて笑みをくれるから
本に顔を埋めながら足をパタパタしちゃう
紙を捲る音
雨と生き物達が奏でる音
全てが心地よくて
いつしかうとうとして……
●
雨雲のせいで少し暗い森の中。二人で一つの傘で雨を凌ぎながら歩みを進めれば――。
「椋! みてカエルさんだよ~!」
少し鬱々とするような天気の中でも、ミンリーシャン・ズォートン(戀し花冰・f06716)は何時ものように楽しそうで。辺りを見回しては紫陽花の中のカエルやカタツムリを報告し、木立ちの中で雨宿りする鳥を見つければ可愛いと声を上げた。
「リィ、はしゃぎすぎだっつの」
そんな彼女の姿が可愛らしくて――杣友・椋(悠久の燈・f19197)は言葉とは裏腹に、釣られるように自身の顔も零れるような笑みを浮かべていた。
傘の中からくるりと見回せば、咲き誇る色とりどりの紫陽花は露に濡れ輝いている。
「また見に来られて良かった」
そっと零れた椋の言葉は小さいけれど、同じ傘の中ならば雨音に消えることは無くミンリーシャンの耳に届く。こくりと頷きを返した時、ふと椋が立ち止まった。
――心を写す紫陽花、だったか。彼がそう零した通り、数多の紫陽花の中に咲くハート型。そのハートは淡くも美しい天色で、紫陽花へ向けていた視線を傍らの君へと向けると、くすりと椋は笑みを浮かべる。
「俺がおまえのことばかり考えてるの、紫陽花にもばれちまってるみたいだな」
そう紡ぐ椋の眼差しはどこまでも優しく、甘く。
近い距離だからこそ、傘の中と云う特別な空間だからこそ、強く強く響いて聴こえ。ミンリーシャンの胸がとくんと鳴る。
沢山の紫陽花の中から特別な『私色』を見つけてくれたのが嬉しくて、震える胸がいっぱいになれば無意識にミンリーシャンの頬は雫が伝っていた。
少し俯く小さな彼女。その雫に気が付けば椋はくしゃりと紫陽花のような髪を撫でる。
「だって、だって……幸せなんだもの」
震える声は心が震えた証拠の色。
けれどもこの涙は幸せな色だから――椋はまた彼女の髪を撫でた。
雨の道行きを進めば、辿り着いたのは雨宿りの小屋。
壁は無い東屋の為雨音も雨の空気もそのまま触れることが出来る場で、二人は傘を畳むと唯一設置された椅子へと腰を下ろした。
雨の日は特別。――傘を打つ雨の音色も心地良かったけれど、木造りの屋根を打つ音もまた違う色で。その下での人心地は、まるで雨に包まれたような感覚に満たされる。
隣り合う傍らで、椋が取り出したのは一冊の文庫本。
ぱらりと頁を開くその横顔を見て、ミンリーシャンも真似するように本を取り出した。少し分厚いそれは、何時だって難しい本を読む彼に追いつきたい一心で、普段椋が読んでいたものを借りたのだ。けれども開けば難しい言葉が並んでいるだけで、少し進めるだけでミンリーシャンの頭はぐるぐると。まるで、雨が紙面に落ちるような文字の羅列。
ふうっと溜息を零し、そのままミンリーシャンは隣を見る。
じっと本へと視線を落とした、綺麗な椋の横顔。
見慣れたその姿は何時だってミンリーシャンの胸を高鳴らせる。心の音に合わせるように、雨音と共にぱらりと頁を捲る淡い音が響いたその時――視線に気付いたのか、椋が顔を上げるとミンリーシャンを見て、ふわりと微笑んだ。
(「本の中の祝福された虚構よりも幸せな世界が、すぐ傍らに在るなんて」)
本よりも温かく、愛らしく――幸せな存在を前につい零れたその笑顔に、ミンリーシャンは顔を真っ赤に染めると、本で顔を隠しながらその場で足をばたつかせる。そんな仕草も可愛らしく、小さく笑いながら椋が読書を再開すれば彼女も改めて本を開いた。
しとしとと降る雨が屋根を打つ音。
ぱらり、ぱらりと不規則に鳴る微かな紙の音。
そして、ケロケロと楽しげに鳴くカエルの鳴き声。
ほんのり冷たい、けれども包まれる梅雨の気配が心地良くて――何時しかミンリーシャンは、うとうとと眠気に襲われそのまま椋の肩へと身を預ける。
不意に訪れた重みに椋は本の世界から意識を戻すと――直ぐ傍らの彼女の姿に微笑み、そっとその瞼へと口付けを落とした。
「愛してる、リィ」
その甘い言葉は、誰も聞いていない椋だけの秘密。
――雨の中に仕舞っておこう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
雨空から雫が落ちる
ひとつの番傘
愛しい巫女が濡れないようにと傘をサヨに寄せて、奏でられる雨音に咲む
そうだね、サヨ
今年も一緒にみられて嬉しいな
笑えばきみの桜だって咲く
醍醐味を楽しもう
傘の下
身を寄せられるのが嬉しい
サ、サヨ!また、そんなっ
耳を抑える
顔が熱い
鼓動が跳ねてしまうのは仕方の無いことだ
…サヨは声も全部、綺麗だよ
紫陽花の花言葉か
己の心の彩を探すとは浪漫ちっくだ
私の心彩はきみの彩
移ろえど同じ彩に染るのだ
噫、これが!
見事なハート型だね、サヨ
桜も紫陽花も共に連なり咲く花
家族──そうだね
皆、美しい
無邪気な笑顔が愛おしい
ほら、また私の心はきみの彩に染まる
雨の日の祝福を貰えたみたいで
心の中は晴れ空だ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
傘の上跳ねる雨音に耳を傾けて
故郷の梅雨の美しさに吐息をもらす
カムイ
今年も一緒に紫陽花が観られたわね
歓びに角の桜も花開く
紫陽花庭園をお散歩よ
梅雨の醍醐味!
一つの傘の下
身を寄せあい
傘の下だと互いの聲がいっとうに綺麗に聴こえるのですって
なんて
神様の耳許をくすぐり咲う
照れちゃう姿もかぁいらしくて揶揄いたくなる
これも梅雨の楽しみ方のひとつ
あわいの彩が移ろい咲く紫陽花は移り気ともいうかしら
まるで咲いてはうつろうひとの生きる道みたい
私は好きよ
色んな彩に染まりながら己を探すようで
ね、と指さすのはとりどりの彩に染る心を探しの心紫陽花
かぁいい心の形ね
まるで皆の心が連なりひとつの家族として咲いているみたい!
●
ぱらぱらと、差した一つの番傘に雨が落ちる音が響く。
それは普及した傘とは違った音色を奏でるけれど、誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)と朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)にとっては耳に馴染んだ音。
柄を持つカムイは、濡れないようにと傘を櫻宵へと寄せて。ぽたりと傘の縁から雫が垂れれば、その煌めきに櫻宵は魅入るように桜霞の瞳を細めた。
「カムイ、今年も一緒に紫陽花が観られたわね」
ほうっと零れた吐息は、故郷の梅雨の美しさを感じたから。甘やかに語られるその言葉にカムイは頷くと、今年も一緒に見られて嬉しいと素直に言の葉にする。
綻ぶ心を表すかのように、花開くのは角の桜。
梅雨には咲かぬ薄紅の淡い春告げ花を揺らしながら、紫陽花庭園を歩み出す。
――それこそが、梅雨の醍醐味だから。
一つの傘の下、身を寄せ合えば何時もよりも随分と距離が近い。降りしきる雨はまるで幕のようで、此の傘の下だけ別の世界へと隔離されたかのよう。
触れるか、触れないか。そんな独特の距離感と、外気が冷えるが故に伝わる温もりにカムイは幸せそうにひそり笑みを零せば――。
「傘の下だと互いの聲がいっとうに綺麗に聴こえるのですって」
不意に訪れる、耳許での櫻宵の声。
くすぐる吐息が露出した部分を撫で、愛おしい声が直ぐ傍に聴こえればカムイは一瞬で顔を赤く染め、慌てて櫻宵を見る。
「サ、サヨ! また、そんなっ」
先程の熱を感じるように、赤くなった耳を隠すように。耳を抑えるカムイの様子に櫻宵はころころと楽しげに笑い声を零す。――照れちゃう姿もかぁいらしくて、つい揶揄いたくなってしまうのだ。これもまた、梅雨の楽しみ方の一つ。
そんな彼の笑い声も、笑う顔も。傘の下だからよく聴こえてよく見える。
「……サヨは声も全部、綺麗だよ」
とくん、と跳ねる心の蔵を感じる為胸元に手を置きながら、カムイが紡ぐ。
それは傘の下と云わず、何時だって――その心を透かすかのように、櫻宵は静かに笑みを浮かべる。そのまま視線を揺らせば、彼の瞳に映るのは数多の色へと移ろう紫陽花。
「あわいの彩が移ろい咲く紫陽花は移り気ともいうかしら」
雫に濡れたその姿を愛おし気に、瞳を細め紡ぐのは、決して良い意味ばかりでは無い紫陽花の花言葉。『移り気』は、咲いてはうつろうひとの生きる道のようだと櫻宵は想う。
だから――。
「私は好きよ。色んな彩に染まりながら己を探すようで」
ぽたりと雫が落ち、跳ねる紫陽花の葉を見ながら櫻宵が紡げば。カムイは櫻宵を、紫陽花を交互に見てそっと微笑む。
「己の心の彩を探すとは浪漫ちっくだ」
すうっと息を吸い込めば、胸に満ちるは濃い水気と緑の香り。
此の景色に咲く紫陽花の花のように――カムイの心彩はきみの彩。移ろえど、同じ彩に染まるのだと強く、強く想った。
「ね、」
言葉と共にくいっと、傍らの櫻宵がカムイの袖を引く。何かと想い視線を移せば、彼の指差す先には紫陽花の花――美しいハートの形をした、とりどりの彩に染る心を探す、心紫陽花が咲いていた。
「噫、これが! 見事なハート型だね、サヨ」
話に聞いていた花を目の当たりにして、少しだけ興奮したように声を上げるカムイ。彼にとって一番愛おしい桜の花。それと同じように、連なり咲く紫陽花はどこか特別に感じるのだ。そしてそれは――きっと櫻宵も、同じだろう。
「かぁいい心の形ね。まるで皆の心が連なりひとつの家族として咲いているみたい!」
「家族──そうだね。皆、美しい」
嬉しそうに語る櫻宵の言葉に、カムイは深い息と共に語る。
楽しそうに語る櫻宵の無邪気な笑顔が、愛おしいと強く想う。その想いと共に、カムイの心がきみの彩に染まっていくのを感じる。
それはまるで雨の日の祝福を貰えたようで――。
(「心の中は晴れ空だ」)
しとしと降る雨は未だ止む気配は無いけれど、特別な距離のままカムイは想った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルゥ・アイシテ
中津・水穂ちゃんと
(してくれるとゆうので、恋人役よ)
小川にカエルに紫陽花の葉を打つ雨の音。どれも懐かしくて。もう、忘れてたと思ってたわ。
恋人役も出来るって、水穂ちゃん、大人なのね…。こういう事言っちゃうのは営業妨害かしら?
演技派じゃない私には、ドキドキをかくすのも、むずかしいわ。
アイドルを恋人にすると、こんなにもキラキラするものなのね。
ハート型の紫陽花、きれいに整った不思議な形。心の形、私にはきっと入ってない物。
休日の過ごし方、たまには誰かと過ごしてみる。とか、私の考えは浅はかだったわ。…すごく、イケナイ事、してる気分。
風がすぎれば小雨でも、体を冷やすわ。
「まだ庭園は広いみたいだし、休憩小屋で暖を取りながらいきましょう」
暖炉とかムーディー感あるわね。薪はぱきぱき、火の粉はパチパチ。
水穂ちゃんと一緒に、ちょっと早い軽食を。
サンドウィッチに唐揚げに卵焼き。
髪もタオルとドライヤーで乾かすわ。ほっといたら重いし服まで湿気っちゃうもの。
水穂ちゃんと一緒に過ごした時間は、不思議と距離が近く感じたわ。
中津・水穂
【恋人役】ルゥ・アイシテさんと
(アイドル活動の一環として、アイシテさんの恋人役としてお出かけしています)
「ルゥさん、今日のデート、楽しみですね♪
あ、今は恋人なんですから、役とか言っちゃダメですよ?」
内心のドキドキは隠しつつ、アイシテさんと庭園デートです。
紫陽花を眺めながら、のんびりと小川沿いを散策しましょう。
「あっ、見てください、ルゥさん!
ハート型の紫陽花ですよっ!
まるで私とルゥさんの心を繋いでくれてるみたいですね♪」
アイシテさんのイメージに合いそうなピンク色のハートの紫陽花の前で記念撮影です。
「くしゅんっ、ちょっと身体が冷えちゃいましたね」
アイシテさんに連れられて、小屋で休憩します。
暖炉に当たって服を乾かしながら、アイシテさんに髪を乾かしてもらいます。
「わあ、このお弁当、ルゥさんが作ってくださったんですか!」
女の子らしい可愛いお弁当に嬉しくなりながら、ありがたくいただきますね。
「こののんびりとした時間が、いつまでも続けばいいですね……」
雨音の中、自分の心臓の鼓動が大きく響くのでした。
●
ぽつりぽつりと降る雨の音が響く。
雨が地に、草葉に、紫陽花に落ちる音にカエルの鳴き声。その全てが懐かしく――。
(「もう、忘れてたと思ってたわ」)
そっと大きな瞳を細め、ルゥ・アイシテ(愛してルゥ!・f36388)は心に想う。目の前に咲く傘の花がくるりと回ったかと思えば。
「ルゥさん、今日のデート、楽しみですね♪」
中津・水穂(【コネクト・ハートNPC】新人アイドル・f37923)が、人懐っこい笑顔を見せ弾む声でそう紡いだ。――キラキラと輝くその笑顔は、雨の雫に更に輝く。視線を奪われるようにルゥはじっと見つめれば、ほうっと溜め息を一つ。
「恋人役も出来るって、水穂ちゃん、大人なのね……」
「あ、今は恋人なんですから、役とか言っちゃダメですよ?」
こういう事を言うのは営業妨害か――そうルゥが思った時、水穂が駆け寄りめっと、叱るようにルゥの鼻先へと人差し指を差す。けれども直ぐに笑顔になり、くるりと傘を回し水穂は庭園へと視線を向ける。早く進もうと、笑顔で手招きするその姿にルゥは心臓が跳ねるのを隠すことが出来ない。
彼女は、アイドルではあるけれど。
演技派という訳では無く、ただ背一杯にアイドルとして活動している。勿論演技の努力はするけれど、やはりドキドキと高鳴る胸を隠すのは難しい。
(「アイドルを恋人にすると、こんなにもキラキラするものなのね」)
きゅっと唇を結び、心を抑えるように胸元で手を握り。動揺した顔を隠すかのように、少しだけ傘を傾けるルゥ。そんな彼女へ水穂は奥へ進もうと手を伸ばし、先導する。
その姿はルゥの目にも眩しい程に美しく、堂々としているように見えるけれど――実際には水穂の心だってドキドキと高鳴っている。ただ、アイドルとしての経験で隠すことが上手いだけ。染まる頬もアイドルとしての魅力の一部にしているだけ。
それは水穂が一番分かっていることだから――気付かれないようにと心に想いながら、散策しよう手を引き、紫陽花咲く小路へと歩み出す。
「あっ、見てください、ルゥさん! ハート型の紫陽花ですよっ!」
数多の色が咲き誇る、紫陽花に囲まれた小路へと踏み込むと早速水穂が心紫陽花を見つけ声を上げた。キラリと光る大きな瞳は雨粒が反射してだろうか。楽しそうな声も、その笑顔も魅力的で――視線を奪われながらも、ルゥも指差された心紫陽花を見る。
其処に咲くのは、心紫陽花でも珍しいであろう綺麗なハート型をしている。小さながくの密集で、こんなにも見事に形作れるのかとルゥは感心したように吐息を零した。
「まるで私とルゥさんの心を繋いでくれてるみたいですね♪」
そっと覗き込むように顔を寄せ、輝く笑顔を見せる水穂。その笑顔と言葉に、ルゥはアイドルとして笑みを返すけれど――心の中には、ざわつく心地があった。
(「心の形、私にはきっと入ってない物」)
心に過ぎる言葉。この心の奥底に、宿る形は一体何だろうか。乱れる心を感じていれば、水穂はルゥへと腕を伸ばすと二人肩を寄せ合う。
「!?」
「記念撮影です!」
不意なことに驚きを露わに、瞳を瞬くルゥ。そんな彼女の様子に状況を説明するように語ると、水穂はスマートフォンを向ける。
画面に映るのは、二人のアイドルが並ぶ姿。その後ろにはピンク色の心紫陽花。――それは、ルゥのイメージに合うだろうと水穂が想ったから。
カメラを向けられれば浮かべる笑顔は自然に輝く程のもの。パシャリとシャッター音をサムライエンパイアの世界に響かせて、画像を確認していれば――。
「くしゅんっ、ちょっと身体が冷えちゃいましたね」
不意に水穂がくしゃみをした。
夏が近付き熱帯びてきたとはいえ、梅雨は独特の冷たさがある。風が吹けば雨粒が身体を僅かでも濡らしていき、体温を奪っていくだろう。
「まだ庭園は広いみたいだし、休憩小屋で暖を取りながらいきましょう」
彼女を気遣い、ルゥが辺りを見渡した時――紫陽花小路の先に休憩所を見つけた。
水穂の長い黒髪は、滴る程では無いがしっかり水気を帯びていて。ルゥは持参していたタオルで彼女の髪を拭いてあげる。その柔らかさが、温かさが心地良くて。瞳を閉じて水穂が身を預けていれば、終わったと云うルゥの言葉に慌てて瞳を開く。
つい、居心地が良くて気を抜いてしまった。慌てて瞳を瞬きアイドルとして現実へと意識を向けた時――ルゥが鞄から取り出したのはお弁当箱。蓋を開ければ鮮やかなサンドウィッチに、唐揚げと綺麗な色の卵焼き。見目が綺麗ならばふわりと広がる美味しそうな香りについ水穂は前のめりに。
「わあ、このお弁当、ルゥさんが作ってくださったんですか!」
綺麗な彩りだけれなく、ハートや兎のピックと云った女の子らしく可愛いお弁当に瞳をキラキラと輝かせ。頂きますと水穂は手を伸ばす。
ぽつり、ぽつりと落ちる雨は止まないけれど――この時間は心地良い。
「こののんびりとした時間が、いつまでも続けばいいですね……」
サンドウィッチ片手に、水穂がふと零した言葉。
その言葉に乗せるように、雨音の中でも己の心臓の鼓動が大きく響いているのを感じる。けれども、その心の音は傍らのルゥには聞こえていないだろう。
彼女の言葉が耳を掠めれば、ルゥの耳をくすぐるよう。誤魔化すように自分も卵焼きを口にしながら、今日の日を彼女は想う。
――水穂と一緒に過ごした時間は、不思議と距離が近く感じる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
傘を、葉を叩く雨の音が好き
お洗濯が捗らないことだけ困ってしまうけれど
きっと、あたらしい雨靴も喜んでいると思うから
えっ、えっ
それではその、ええと、あの
大きい傘を
えっと、でも、その
縋るような瞳に見詰められてしまえばそれ以上紡げなくて
緊張しながら視線を泳がせるけれど
わたしを庇うばかりで、彼の肩が濡れていることに気付いたなら
慌ててその肩を引き寄せて、
もう!
ディフさんが風邪をひいてしまったらたいへんです
……、……ひゃあ!
近付いてから自分のしたことに気付いて情けない声を上げ慌てて手を離し
赤くなって俯くその先に、心紫陽花が淡く染まっていた
『心を溶かされたくないのなら
心の奥底を、雨に暴かれたくないのなら
――雨曝しの庭へ、出てはならないよ』
……ね、ディフさんならどうしますか?
不意に齎した問いはあなたを困らせてしまうかもしれないけれど
聞いてみたくて……雨は、父さまと母さまの思い出ですから
ふふ、わたしも
ディフさんとなら雨格子の外に出ても
きっと……臆病な自分を溶かし出されても平気です
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
雨音を聞きながら静かな時を過ごすのが好きだ
同じが嬉しい
ヴァルダ、おいでよ
心地よい雨脚の中
笑って広げた傘一つ
オレ、大きい傘を持ってるんだ
一緒にはいろ?
誘ってみるも中々近づいてはくれないから
……だめ?
なんて少し残念そうに、窺うよに見詰めたら
照れながらも入ってくれる貴女が可愛らしい
ゆるり歩む雨の庭園
貴女に風邪などひかせてはいけないから
傘は自然と貴女の方へ
多少オレが濡れようが、貴女が濡れなければそれで……
なんて思っていたら、突然ぐいと引かれて目を瞬かせた
驚いた自分の目と貴女の陽色が近づいて
何か言う前に飛びあがった貴女
くるくると変わる表情が可笑しくて、くすりと笑みが零れた
オレは大丈夫だよ
しかし残念、手を離さなくても良かったんだけど
辿り着いた心紫陽花を眼を細めて眺めていれば
不意の問い
うん?
謎々か何か?
意図を掴み切れず首を傾げ
けれどご両親の思い出と聞けば再び思案
濃紺の心紫陽花に触れながら
……貴女と二人なら、出ても構わないよ
雨に心溶かされて
貴女と奥底を曝け出すのもいいんじゃない
●
ぽつぽつと――降りしきる雨が傘に落ちる音も、葉に落ちる音も。違う音色だけれど透き通るその色は同じで、人の心に潤いを与える。
とんっとヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)が足元を踊るように弾ませれば、水溜まりがぱしゃりと微かな音を立て新しい雨靴が雫に濡れる。
曇り空からの光を浴びてきらりと煌めく雨雫。その美しさを陽の瞳に映せば、ヴァルダは楽しそうに微笑んだ。――洗濯が捗らないことだけが困ってしまうけれど。傘を、葉を叩く雨の音が好き。だからこのような雨の世界に身を置けば、雨音に包まれ幸せな心地。
そして、そんな楽しそうなヴァルダの姿にディフ・クライン(雪月夜・f05200)は嬉しそうに笑みを浮かべる。彼もまた、雨音を聞きながら静かな時を過ごすのが好きだから。愛おしい彼女と新たな『同じ』を見つけることが出来て、心の底から嬉しいと思う。
「ヴァルダ、おいでよ」
楽しそうに雨の音を纏う彼女へと、優しく声を掛けるディフ。
ぽんっと音を響かせて、彼の手元に咲くのは大きな傘の花。声と行動にヴァルダは視線を向けるが、少し戸惑うように小首を傾げる。
「オレ、大きい傘を持ってるんだ。一緒にはいろ?」
もう一つ、誘いの言葉を続けるディフ。入りやすいようにと傘を差し出し、微笑みを浮かべる少し影になった彼の顔を見て――。
「えっ、えっ。それではその、ええと、あの。大きい傘を――えっと、でも、その」
みるみるうちにヴァルダの顔は赤く染まり、視線を泳がせ落ち着きなく言葉を零す。
いくら彼と共に過ごす時間を重ねて、ある程度距離の近さに慣れたとしても。此処は外であり、恥ずかしがり屋なヴァルダにとっては一歩を踏み出すことが出来ない。
そんな、なかなか踏み出せない彼女の姿に――。
「……だめ?」
そっと腰を屈め、覗き込むように見つめ問い掛けるディフ。彼の青い瞳が真っ直ぐにヴァルダを見れば、その瞳は少し残念そうな色を宿していて。そんな縋るような瞳で見つめられれば、ヴァルダはきゅっと唇を結び――勇気の一歩を踏み出した。
近付く距離は、触れていないのに体温を感じる。
逸る鼓動を抑えるように胸元で手を握り、赤くなかった顔を隠すように俯くけれど、長い耳まで赤く染まっているから隠しきることが出来ていない。
そんな、照れながらも望み通り入ってくれる彼女が可愛らしくて。ディフはこっそり笑みを深めていた。
そのまま彼等は緑濃い庭園を歩み出す。
しとしと降る雨は止みそうもなく、傘を叩き森の緑を、紫陽花を濡らす。心地良い空気、心地良い香り、心地良い音色――そして君が隣に。
そう想えば満ちる心は幸せ一色で。穏やかに微笑みながらディフは無意識にか、彼女が濡れないようにと傘をヴァルダの方向へと傾けていた。肩幅のあるディフは大きな傘とは云え随分とはみ出していて、黒の衣服は濡れそぼり雫を垂らす。風が吹けば冷たさを感じるが――貴女が濡れなければそれで……。
「もう! ディフさんが風邪をひいてしまったらたいへんです」
己の冷たさを感じていた時、不意に聴こえた声とぐいっと寄せられる細い肩。触れる熱と近付く陽色の瞳。息が掛かる程の距離に青と陽を交わせて、ディフが驚いたように瞳をぱちぱちと瞬けば。
「……、……ひゃあ!」
自分のしたことの大胆さに気付いたのか、ヴァルダは先程よりも更に顔を赤く染め、声を上げつつ慌てて手を離す。
自分が何かを語る前に離れてしまった彼女の手。くるくる変わるその表情も、仕草の一つ一つも愛おしいと感じて、ついつい笑みが零れてしまうけれど――。
「オレは大丈夫だよ。しかし残念、手を離さなくても良かったんだけど」
残念に想う気持ちを素直に言葉にすれば、ヴァルダは両頬を押さえ俯いてしまう。するとその視線の先――淡く染まる、心紫陽花を見つけ顔を上げた。
彼女のその仕草に、ディフもその視線の先を追えば心紫陽花に気付く。綺麗だね、と紡ぎ瞳を細めていれば、そっとヴァルダが唇を開く。
「『心を溶かされたくないのなら。心の奥底を、雨に暴かれたくないのなら。――雨曝しの庭へ、出てはならないよ』……ね、ディフさんならどうしますか?」
――それは、同じ傘の下だからこそ。雨音に消えずにしっかりと耳に届く。
彼女の問いの意図を掴み切れず、ディフは首を傾げる。そんな彼の様子を見て、やっぱり困らせてしまったのだとヴァルダは小さく微笑んだ。
「聞いてみたくて……雨は、父さまと母さまの思い出ですから」
ぽつり、ぽつりと零れる言葉はまるで雨粒ように。
彼女の紡いだ『両親との思い出』に、ディフははっとし再び思案する。どう思うのか。どんな言葉で表せば良いだろうか。
ぽつり、ぽつり。幾度の雨が傘を打っただろう。それはほんの僅かかもしれないし、とても長い時間だったのかもしれない。じっと考える彼の横顔をヴァルダが見つめていれば、濃紺の心紫陽花にそっと手を伸ばしつつディフは――。
「……貴女と二人なら、出ても構わないよ」
ヴァルダへと視線を向け、微笑みながら紡いだ。
――雨に心溶かされて、貴女と奥底を曝け出すのもいいんじゃない。
そう語るディフの言葉がじわりと心に広がっていく。それは雨の冷たさに触れる筈なのに、なんと温かなものだろう。ふわりと零れる笑みは無意識に。彼の瞳を見て、仄かに頬を染めヴァルダは言の葉を零す。
「ふふ、わたしも。ディフさんとなら雨格子の外に出ても。きっと……臆病な自分を溶かし出されても平気です」
ぽつり、ぽつりと雨が降り続ける中。
『キミ』と一緒ならば――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
【月光】
今年もアジサイ散策できてうれしいわ!
ね、今日も傘なくていい?
雨と傘の音楽もステキだけど
傘でゆぇパパと距離が出来てしまうからもったいなくて
!えへへ…ありがとう
でもパパは濡れてしまうようなら傘をさしてね?
ルーシーはこうしてぎゅっとして近くで温めるから
ハートのお花、探そうよ
心を…ええ、本当にステキ
探すのはね、ピンク色がいい!
白と赤が混ざって出来る優しい色
パパが嘗て願った白と、お好きな赤
合わさって優しいピンク
…というのはモチロン、ヒミツ
やった!うんとキレイなハートを見つけるわ
どこ?あの辺り?
本当、ハートがいっぱい!
でも青や白が多いわ
しゃがんだり背伸びをしたり
真剣に探して
…このコ!
キレイなピンクにハートの形よ!
ふふー、かわいい
そうか
わたしの『心』が求めるもの
この色の様にパパとの優しい時間
わたしはね
パパと居るから優しくなれるの
わ、雨強くなってきた
うん、小屋に急ぎましょう!
ありがとう
次はパパを拭く番よ
頬に触れる手が温かくて心地いい
ココで頂くコーヒーもカクベツね!
あちち
ええ、雨が歌ってるみたい!
朧・ユェー
【月光】
えぇ、今年も紫陽花を観れて嬉しいですねぇ
雨が降ってきましたね
傘を…おや、ささないのですか?
ふふっ、そう言われたら仕方ありません
でも濡れて風邪をひいてはいけないので
上着の片側を広げて
この中に入ってくださいね?
ほら、そうすれば僕ととっても近いです
ハートのお花
珍しいですね
『心を探す』なんてとても粋な紫陽花です
自分の心を探す様で
見つけられたらきっと素敵な事がありそうですね
ピンク色?
白と赤が混じった色
なるほどきっとこの子は僕の為に探して下さっている
ふふっ、わかりました
一緒に探しましょう
彼方にハートの紫陽花が良く咲いてますよ
ピンクの子は見つかりましたか?
とても可愛らしい、優しい君みたいな『心』ですね
小屋が
雨宿りをしましょうか?
タオルで彼女を拭いていく
ありがとうねぇと少し屈めて
頬にそっと触れて
おやおや、冷たくなってるじゃありませんか
水筒を取り出しコップに
ホットミルクコーヒーです
熱いので火傷には気をつけて
大丈夫ですか?
小屋の中で聴く雨音も演奏してるようで良いですねぇ
素敵な時間を娘と過ごして
●
「今年もアジサイ散策できてうれしいわ!」
嬉しそうに二つの金髪を跳ねさせて、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は雨模様とは真逆の晴れやかな声色で紡ぐ。
共に紫陽花を観た数だけ、一緒に過ごした月日を重ねた実感がある。その感覚は勿論朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)も同じで、同意を示したその時――ぽつり、と空からの雫が彼の鼻に落ちた。
「雨が降ってきましたね。傘を……」
手にしていた傘を広げようと触れた時、「ね、」とルーシーが彼の腕に触れる。
「今日も傘なくていい?」
「おや、ささないのですか?」
真っ直ぐにこちらを見上げるルーシーについ言葉を返してしまう。
雨が葉に、地に、差した傘に落ちる音色も素敵だけれど――傘でゆぇパパと距離が出来てしまうからもったいなくて、とルーシーが真っ直ぐに告げれば。ユェーは嬉しそうに笑みを返す。
「ふふっ、そう言われたら仕方ありません。でも濡れて風邪をひいてはいけないので」
自身の長い上着の片側を広げて、この中に入って下さいと彼は紡ぐ。
娘の願いを叶えたい。けれども、娘が風邪を引くのは心配で仕方が無い。そんな優しい彼の想い感じる行動に、ルーシーは嬉しそうにぴょんっと足音弾ませ彼の懐へ。
「ほら、そうすれば僕ととっても近いです」
「! えへへ……ありがとう」
温もりに包まれるだけでなく、零距離で感じる大好きな父の存在。くすぐったそうに、嬉しそうにルーシーが笑えば、ユェーの心に温もりが宿る。
ぽつり、ぽつり降る雨がユェーの煌めく髪を濡らす中、二人は歩む。探すは、話に聞いていたハートの紫陽花。
「『心を探す』なんてとても粋な紫陽花です」
紫陽花咲き誇る路を見回しながらユェーは零す。――それは、まるで自分の心を探すようで。見つけられたらきっと、素敵なことがありそうだ。
「心を……ええ、本当にステキ。――探すのはね、ピンク色がいい!」
ルーシーはこくりと頷くと、ユェーを見上げる瞳を輝かせた。
ピンクは、白と赤が混ざって出来る優しい色。――パパがかつて願った白と、好きな赤。それが合わさってピンク色になるから、探したいと思ったのだ
けれどもそれは勿論秘密。
「ピンク色?」
不思議そうに聞き返すユェーに向け、また頷きふふー、と嬉しそうに両の指先で口許を隠すルーシー。その姿に、ユェーは瞳を瞬いて。ふっと笑みを零していた。
そう、彼には分かるのだ。――彼女が、自分の為に探してくれているのだと。
「ふふっ、わかりました。一緒に探しましょう」
少しだけ強くなった雨で濡れないようにと、外套の位置を調整しながら語るユェー。彼から離れないようにときゅっと服を掴みながら、ルーシーはキレイなハートを見つけると意気込みを言葉にした。
降りしきる雨の音も、水気と緑を感じる濃い香りも心地良い。
すると――背の高いユェーの視線の先に、少し違う景色が見えて彼は瞳を細める。
「ルーシーちゃん、彼方にハートの紫陽花が良く咲いてますよ」
きょろきょろと辺りを見る彼女が気付くように、そっと背に触れながら彼は紡ぐ。小さな彼女が見つけるのは難しかったけれど、見つければ今にも走り出してしまいそう。
けれど、濡れてしまえば父が心配することは分かっているから。ぐっと堪えて――ほんの少し早足になったのに、こっそりとユェーは合わせて歩む。
「本当、ハートがいっぱい! でも青や白が多いわ」
視界いっぱいに広がるハートの紫陽花。けれども青や白といった落ち着いた色ばかり。勿論この子達も可愛いけれど、見つけたい色は違うもの。
その場でしゃがんだり、背伸びをしたり――懸命に探す娘の姿を見て、微笑ましく想い笑みが隠せないユェー。つい紫陽花探しを彼女に任せ、行動を見守っていれば。
「……このコ! キレイなピンクにハートの形よ!」
嬉しそうな声を上げ、ルーシーが青の影に咲く心紫陽花を指差した。雫に濡れるピンク色は、ほんの少し小さいけれど。そんなところも可愛らしくて、美しい。
「とても可愛らしい、優しい君みたいな『心』ですね」
見つけてくれたことが嬉しくて、微笑みながらそっと心紫陽花を指先で撫でるユェー。彼が微笑んでくれたから、ルーシーの胸にも嬉しさが満ちる。
それと同時に――彼女は、気付いた。
(「そうか。わたしの『心』が求めるもの」)
それが、何なのかを。
彼女が求めるのは、この色のように――パパとの優しい時間。
「わたしはね、パパと居るから優しくなれるの」
きゅっとユェーの腰回りに抱き着いて、見つけた心を言葉にするルーシー。雨で体温や音が奪われても、その言葉の熱だけは奪われない。奪わせない。
彼女の言葉に、その温もりに。ユェーが瞳を見開き、言葉を返そうとした時――途端に雨が強くなり、彼の髪を、肌を、服を濡らしていく。
「わ、雨強くなってきた」
衣服では雨避けも出来ない程の雨の中、何時までも佇むわけにもいかず。彼等は近くに見えた小屋へと向かう。
雨避けの小屋へと辿り着いた頃には、互いに雫が落ちる程濡れていた。直ぐにユェーがルーシーの身体をタオルで拭けば、その柔らかさと温もりに少女は嬉しそうに笑う。お返しにとルーシーが背一杯腕を伸ばし拭いてあげれば、ありがとうとユェーは柔らかなその頬へと触れるけれど――。
「おやおや、冷たくなってるじゃありませんか」
掌に伝わるひんやりとした感覚。触れたユェーの掌が温かくて心地良さそうに瞳を閉じたのは一瞬で、慌てたようにユェーは水筒とコップを取り出す。
雨音に混じる注ぐ水音。ふわりと経つ湯気と、漂う珈琲の香り。
「ホットミルクコーヒーです」
どうぞと差し出せばルーシーは両手で大切そうに受け取り、冷えた両の手を温める。
「ココで頂くコーヒーもカクベツね! あちち」
「大丈夫ですか?」
火傷しないよう気を付けてと言ったけれど、冷えた身体にはより熱く感じたのだろう。ふうっと冷ます為息を吹き掛けて、喉を通せばじんわり温もりが広がっていく。
強くなった雨が屋根を打つ音は、先程までの雨に濡れる散歩とは違うけれど――。
「小屋の中で聴く雨音も演奏してるようで良いですねぇ」
温かなコップを揺らしながら、音色に身を委ねるように瞳を閉じるユェー。コップで手を温めながら、ユェーに倣うようにルーシーも瞳を閉じ――。
「ええ、雨が歌ってるみたい!」
ぴちょん。
屋根から雫が落ちて水溜まりへ落ちれば、また新たな音色が生まれる。
――これは、雨が止むまで続く二人の為の音楽会。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黄・焔誠
【想焔】
「そんなにはしゃぐと転ぶぞ」
手を引かれるままに着いていくが
離れると濡れるぞと引き寄せ傘を傾ける
近くにいれば万が一コイツが足を滑らせたとて支えることは容易だ
世話の焼けるお姫さんだと軽く溜息を吐きながら
それでも彼女が楽しげなのは悪くない
恋人でもない男の手を引くその無防備さだとか
心配だとか色々あるけれど
「…そうかい」
無邪気にはしゃぐ様子に水を差すのも憚られて
花なんてこうしてゆっくり見たのは久しぶりかもしれない
戦うこと、そればかりだったから
ぼんやり眺めていた意識がミラの声によって引き戻される
「どうした」
そんな彼女の視線の先にはハート型の紫陽花
心?…ああ、そういえばグリモア猟兵が言っていたな
白色の花言葉を思い出して、然し野暮かと口にはしない
「そうだな、…お前の心を映しているのかもな」
『寛容』、『一途な愛』。誰に対しても優しく、他者に真っ直ぐに愛情を向けているその様を知っているから。まさしく彼女の花だと思った
願わくば、いつまでも散らず、枯れず、咲き誇っているといいと
頭の片隅でそう思う
ミラ・オルトリア
【想焔】
雨の風景の中で淡い花々達が迎える庭園
こんなに綺麗な景色を見たのは初めてで心が躍る!
共に訪れた彼の手を引いて
雨の庭園を往く
「焔誠くん、見て…!あれがアジサイ?
可愛いー!まあるいお花がいっぱい!」
好奇心に溢れる蜜彩の眸を輝かせ
紫陽花を指さす
彼を振り返れば傘を傾けて心配の色
てへっと茶目っ気づき
「だって
雨の日をこんなに楽しく過ごしたのは初めてで…ついっ」
日々眸に映すは数多の戦場
こんな風景を見られるなんてなんだか奇跡みたいで
雨音に誘われ
淡い花彩に誘われるように歩みは止めず
――あ
声を零す
視線の先には話に聞いていたハート型の花が在った
その花は淡い白の花弁で静かに咲いてた
愁いを帯び寂しそうなのに凛として
力強くて綺麗
「…ハートだと…心を映すお花なんだっけ?」
心を探して訪れる人もいると聞く
私ももしかして…
無意識に自分の心を探してたのかな?
冷たく優しい雨の中で
彼は肯定する言葉を紡ぐから
はにかむ様に微笑を1つ
「綺麗な真白のお花が私の心なんて
もったいないね…」
誠に心が白と云うなら
きっと志した憧れのお陰かも
●
緑濃い世界に降り注ぐ、雨の恵み。
薄暗い雲から零れる光。青々とした夏の準備をする葉。移り変わる色を持つ紫陽花に、等しく恵みを捧げる雨の音色。
初めて見る美しい景色に、ミラ・オルトリア(デュナミス・f39953)は蜜彩の瞳を輝かせると、黄・焔誠(フレイムブリンガー・f40079)の手を引いた。
「焔誠くん、見て……! あれがアジサイ? 可愛いー! まあるいお花がいっぱい!」
色とりどりの紫陽花を指差して、彼の手を引きながらミラは紡ぐ。その瞳に溢れる程の好奇心の色も、弾むようで楽しげな声も悪い気はしないが――。
「そんなにはしゃぐと転ぶぞ」
ほんの少し溜息混じりに、焔誠は心配そうに紡ぐ。けれども手を引かれるのを拒みはせず、はしゃぐ彼女の思うがままに付き合って。このままだと傘を飛び出し濡れてしまいそうだから、それだけはと手を引き傘を傾けた。
斜めになる傘の縁から零れる雫が、ぽたりと地に落ちる。
その雫を瞳で追った後振り返ってみれば、ミラを見つめる焔誠の心配そうな瞳があった。――こうして近くに居れば、万が一ミラが足を滑らせても支えることが出来ると想い焔誠は手元へと寄せたのだ。
「だって。雨の日をこんなに楽しく過ごしたのは初めてで……ついっ」
ミラの眸に日々映すは――数多の戦場。
だから、こんな風景を見られることは奇跡のようで、ついつい心が踊り、前へ前へと進みたくなってしまうのだ。だから今も、雨音に誘われ、淡い花彩に誘われるように、歩みは止めずに焔誠に語り掛ける。
心に闇を描きながらも、悪戯に笑う彼女。そんなはしゃぐ彼女の姿と言葉を前にすれば、それ以上は紡げなくて。
「……そうかい」
焔誠は引かれる手の熱を、離れぬようにとぎゅっと少しだけ力を強めながら零す。
ミラと焔誠は恋人では無い。そんな男の手を引く無防備さや、心配だったりと想いはまだ残るけれど。無邪気にはしゃぐ様子に水を差すのははばかれた。
ぱしゃり、水溜まりを踏めば水音が響く。
ぽつぽつと傘を打つ雨の音は終わる様子は無く、二人は紫陽花の路を進んで行く。
すうっと焔誠が息を吸えば水と緑の濃い香りが広がる。――溢れる程の花と緑。こうしてゆっくり見たのは、久しぶりかもしれないと彼は思う。
そう、彼にとっての日常は、戦うことばかりだったから。
銀色に輝く瞳を細め、無意識に首を傾げれば左耳の飾りが揺れる。その時――。
「――あ」
「どうした」
耽っていれば傍らから聴こえた声に現実へと戻る。ぴたりと足を止めた彼女に合わせ足を止めれば、ミラの瞳の先には淡い、ハート型の紫陽花が咲いていた。
ぽつりぽつり降る雨の雫を受け止めて、美しく濡れる花。
それは愁いを帯び寂しそうなのに凛として、力強く綺麗だとミラは想う。
「……ハートだと……心を映すお花なんだっけ?」
そっと長身の焔誠を覗き込むように、ミラは紡いだ。
心――そっと己の胸元へと手を当てたのは無意識だろうか。この花を、心を探して訪れる人もいるらしい。
(「私ももしかして……」)
ざわりと騒ぐ心。ミラも、無意識に自分の心を探していたのだろうか――?
冷たく優しい雨の中で、咲き誇る真白の花を、私は探していただろうか。
「心? ……ああ、そういえばグリモア猟兵が言っていたな」
きゅっと唇を結ぶ彼女の隣で、問いに応える焔誠の視線が揺れる。この場へ案内した彼女の言葉を思い出し、そのまま彼は口から言葉を零しそうになって――思い直し、零れないようにと己の手で口を覆う。
白色の花言葉を思い出したけれど、語るのは野暮だと思ったのだ。
「そうだな、……お前の心を映しているのかもな」
だから彼は、ただそれだけを添えてミラを見下ろす。傘の影になっていてもそう紡ぐ彼の顔は美しく、紡ぐ言葉に滲む優しさにミラははにかむように笑みを零す。
それは仄かな問いに、彼が肯定の言葉を零してくれたから。
「綺麗な真白のお花が私の心なんて、もったいないね……」
愛おしげに蜜彩の瞳を細め、白の心紫陽花を見つめミラは紡ぐ。戦果で唄う彼女を纏うものは何かと不安もあったけれど、誠に心が白と云うのなら――きっと志した憧れのお陰かもしれないと、彼女は想う。
じわり、心に広がる温もりは冷たい雨の中でも溶けぬ熱。
先程とは違い、落ち着かないからでは無い。その温もりを大切にするように、ミラは己の胸元へと手を重ねる。
そんな彼女の姿を静かに見守りながら、焔誠は心の中では首を振っていた。
もったいない――そう彼女は紡いだけれど、誰に対しても優しく、他者に真っ直ぐに愛情を向けるその様を知っているから。まさしく、彼女の花だと彼は想う。
『寛容』、『一途な愛』――言葉にはしなかったけれど、花の持つ意味は彼女を表すに相応しいとすら焔誠は想うから。
(「願わくば、いつまでも散らず、枯れず、咲き誇っているといい」)
言葉にはせずに、頭の片隅でそう想う。
傘の柄を握る力を強めれば、傘は揺れ。溜めていた雨の雫をぽたぽたと落としていた。
――傘で隠し切れない背の翼は濡れてしまっても、此の地に訪れたことは意味がある。
――初めて触れる、美しいと思える情景と共に。
――真っ白の心に、触れた気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『雨に濡れる少女』
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POW : 永久に乾かぬ雨
自身が戦闘で瀕死になると【悲しみの涙が凝固した妖魔】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 涙雨
【悲しみと恐怖】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ : 尽きぬ雨
【雨の洪水】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:るひの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠春日・陽子」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●雨の力
ぽつり、ぽつりと降る雨は止む気配は無い。
強くなったり、弱くなったり――繰り返す雨の中進めば、紫陽花の中に佇む少女の姿を見つけた。艶やかな髪を下ろし、菖蒲色の着物と和傘を手にした少女。けれどもその姿は濡れそぼり、傘などまるで意味をなさない。
ぽたり、ぽたり。
髪から、着物の袖から。雨の雫が零れていく。
『私が、いるから……』
誰に語るでも無く、少女は紡ぐ。
これは昔より伝わる話である。
とある雨の多い国に生まれた少女の御話。大雨で川が氾濫した際に流され、悲しみと恐怖で地縛霊になった少女がいたそうな。彼女の涙は大雨を引き起こし、水害を引き起こす天災へと成れ果てた。
本来は心優しき少女。己の存在が人々を苦しめていることに気付いてはいる。けれども悲しみも恐怖も拭いきれず、ただ現世に佇み人々を苦しめ続けることで罪を重ねる。
私のせいで。
私がいるから。
どうしてこんなことに――。
そんな伝わる少女の霊が、オビリビオンとなり今目の前に居るのだ。
濡れた身体は雨にだけでは無いのだろう。水と縁の深い彼女の引き起こす災害は、年によっては大きな被害を生みまた彼女の心を傷付けている。
救うことは出来ない。
けれども、この世で佇むことすら彼女にとっては苦痛ならば――猟兵として出来ることが、救うことに繋がるだろう。
誰も、彼女を救うことはまだ出来ていない。
杣友・椋
リィ(ミンリーシャン/f06716)と
どうした、リィ
恋人の視線を追う
——あの子か
震えるリィの頭をぽんと撫ぜ
俺の傍から離れるんじゃねえぞ
想起する伝え話
しとどに濡れたその姿は、宛ら少女の哀しみを映したようで
救う、なんて
そんな容易いことじゃないな
少なくとも、俺には
リィなら、いつものこいつなら
この子にどう言葉を送るだろうか
少女の傍に歩み寄り
——怖かったな
ずっと独りで苦しんで
つらかったよな
俺たちが話を聞く
時間が掛かってもいい
君が納得するまで
君は……どうしたい?
俺たちの出来る方法で、君の助けになりたい
俺たちは、敵じゃない
——だよな、リィ
隣の恋人に眼差しを遣り、柔く笑む
必要があれば「小夜創」を使用する
ミンリーシャン・ズォートン
※幽霊怖いです
椋(f19197)と
霊だと察した瞬間凍りつく
恐怖で声は出ず体も震えるけど
優しい掌と言葉に頷き目を瞑る
彼の背中に隠れ耳を傾ければ二人の掛け合いに心が震えた
最愛の彼に
うん!
漸く声が出る
怖くない
此処にいるのは
泣いてる小さな女の子
考えろ
考えるの
私ならどうしてほしかったか
優しく触れ
確りと彼女の手を握る
大丈夫、大丈夫だよ
私、隠れたりしてごめんね…っ
私達は絶対にこの手を離さないからね!
怖かったね
辛かったね
違う世界、違う時間に生まれてごめんね
助けてあげられなくてごめん
いま逢えたね
名前を教えて
貴女がいたこと
私達が絶対忘れない
話を聞き共に泣く
耳許で揺れる‘花心’
彼女の心の痛みを少しでも分かち合いたい
●
分厚い雲は世界へ光を届けにくくし、まだ日中なのに薄暗く夜が近付くかの錯覚を。
「!?」
美しき紫陽花の中に佇む、黒髪の少女。その正体が霊だと察すると、ミンリーシャン・ズォートンは一瞬で身体が凍り付き無意識に杣友・椋へ身体を寄せていた。
小さな身体が震えている。身体が固まったように動かない彼女に。
「どうした、リィ」
椋は大丈夫かと声を掛けつつ、彼女の視線を追えば――彼もまた少女の霊を認識し、納得したように頷いた。未だ震え続けるミンリーシャンが、幽霊が苦手だとは彼も知っている。だから、安心をさせるように彼は小さな頭へ掌を乗せると。
「俺の傍から離れるんじゃねえぞ」
優しく、包み込むようにそう紡いだ。
椋の言葉にミンリーシャンの心が温かなものが広がり、喉への違和感が消え声が紡げるように。たった一言と温もりだけで、前へと進めるようになる。
ほんの少し心が軽くなった。けれども大きな彼の背中からは離れようとせず、様子を伺うミンリーシャン。そんな彼女の様子に小さく微笑みを零した後、椋は改めて目の前の少女を見遣る。しとどに濡れた姿。それは言い伝えを想起する様子で、少女の哀しみを映したようだと彼の心がちくりと痛んだ。
救う、なんて。そんな容易なことでは無い筈だ。――少なくとも、椋には。
だって彼女は霊であり、語り継がれる程の被害を招いたのだろう。例えそれが本意で無かったとしても、その事実がまた優しい彼女へ重くのしかかる。
だから、難しい。けれども、ミンリーシャンなら。いつもの彼女なら、この子にどう言葉を送るだろう。
瞳を閉じて、考える。考えて、考えて――椋は一歩踏み出すと、ぽつりと音を零す。
「――怖かったな」
雨に溶けぬ芯の通った声。
ずっと独りで苦しんで、辛かっただろう。せめて、椋に出来ることは――。
「俺たちが話を聞く。時間が掛かってもいい、君が納得するまで」
――だよな、リィ。
その声を聴いても彼女はこちらを見はしない。だが俯き、傘を掴む手は微かに震えているように見えた。
彼の言葉に、少女のその様子に。ミンリーシャンははっとする。
幽霊は怖い。けれど、この子は怖くない。だって――此処にいるのは、泣いている小さな女の子なのだ。顔を上げない悲しげな姿。濡れそぼり傘が意味を成していない様子。
(「考えろ、考えるの。私ならどうしてほしかったか」)
瞳を瞑り、きゅっと両手を握り己の心へと問い掛けるミンリーシャン。椋が変わらず彼女の言葉を待つ中――ミンリーシャンは背から前へと進み出ると、傘を握る少女の手へと自身の手を伸ばし、そっと包み込んだ。
「大丈夫、大丈夫だよ。私、隠れたりしてごめんね……っ。私達は絶対にこの手を離さないからね!」
怖かったね、辛かったね。違う世界、違う時間に生まれてごめんね。助けてあげられなくてごめんね。
雨に濡れるように、次々とミンリーシャンの青い瞳から零れる涙の雫。ぽとりと地に落ちれば雨に紛れて分からなくなるが、その言葉と温もりに顔を上げた少女にはしっかりと映ったことだろう。
長い前髪で表情は分からない。けれど、こうして顔を上げてくれただけでも嬉しい。
「いま逢えたね」
彼女の顔を見て、笑顔で言葉を零すミンリーシャン。その表情に恐れの色は無いし、身体の震えも嘘のよう。そんな、温かくも優しい彼女の姿に椋はつい瞳を細める。
「君は……どうしたい?」
そのままミンリーシャンに沿えるように言葉を零す椋。俺たちの出来る方法で、君の助けになりたい。俺たちは、敵じゃない。それをしっかりと伝えたくて、ミンリーシャンへと同意を示せば彼女も大きく頷いた。
「名前を教えて。貴女がいたこと、私達が絶対忘れない」
『なまえ……?』
ずっと閉じていたその唇が開かれる。
私の、私の名前は――。
『美雨。美しい、雨と書いて美雨。お母さんが、つけてくれた名前』
その名前の温かさに、そして起こしてしまったことの残酷さに。ミンリーシャンの頬からはまた新たな涙が零れ落ちる。
――君のその痛みを和らげる、力を送ろう。
――君の痛みは、耳元で揺れる水晶花からしっかりと伝わったから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朱赫七・カムイ
⛩神櫻
悲しげな雨だね
噫……彼女は厄災に呑まれてしまったのか
過ぎたる試練は災いになる
そなたはいっとうに雨に愛されてしまったのだね
私は禍津神だ
そなたを呑み込んだ禍の雨から、掬いだそう
私の愛しい巫女もそれを望んでいるからね
サヨ、無茶はしないように
共に駆けて、斬撃波をなぎ放つ
太刀筋を合わせて隙なくいこうか
再約ノ縁結──巡らせるは神罰
成すことができないという、不運の厄災
その水害は約されないのだと打ち消していく
時に結界術で水を防いで、サヨが溺れないように即座に救う
そなたの洪水に誰も飲み込ませはしない
この雨はそなたのせいでは無い
だけど、そなたの雨空のおかげで
私はサヨと素敵なひとときを過ごせた
礼を言っておくよ
誘名・櫻宵
🌸神櫻
滴る雨はきっとあの子の流した涙なのね
雨とは恵であり、厄災なのよ
祝と呪が表裏一体のように
カムイ……そうね
私のかぁいい禍津神、彼女を縛る厄災を──然りと断ち切り咲かせましょう
救うことは叶わずとも
涙の海に流されてしまわぬように
溺れてしまわぬように
掬いましょうか
濡れ鼠のような姿も痛々しいわね
私の桜はそう簡単には散らせられないわ
浄華──雨の洪水を跳ぶように駆けて
桜化の仙術と共に薙ぎ払う
そう、水ごとね!
カムイと協力していくわ
少しは泳げるようになったけど、まだ苦手だからっ
桜花の結界でいなし抉るように斬撃波を放つ
ほら、もう怖くない
晴れ空に咲う姿を思う──あなたも、咲ってほしいわ
雨はね、やがてはやむのよ
●
「悲しげな雨だね」
降りしきる雨。雨に濡れる少女。
その空気に、姿に、そして繰り返される災厄に朱赫七・カムイは龍瞳を細めた。
――噫……彼女は厄災に呑まれてしまったのか。
息と共に零した言葉は音にはならない。けれども、真なる『神』である彼が紡ぐからこそその言葉には重みがある。
ぽつり、ぽつりと零れる雨は止む気配は無い。それはまるで、あの子の流した涙のようだと誘名・櫻宵は想う。
雨とは恵みであり、厄災である。そう、それは――祝と呪が表裏一体のように。
此の地が故郷だからこそ、分かる感覚もあるのだろう。櫻宵が雨の様子に瞳を細め、一つ息を零した時。傍らのカムイは前へと進み出ると。
「過ぎたる試練は災いになる。そなたはいっとうに雨に愛されてしまったのだね」
雨に濡れる少女に向け、言葉を零していた。
「私は禍津神だ。そなたを呑み込んだ禍の雨から、掬いだそう」
そっと手を伸ばし、カムイが告げる。――そう、それを愛しい巫女も望んでいるから。
「カムイ……そうね。私のかぁいい禍津神、彼女を縛る厄災を──然りと断ち切り咲かせましょう」
彼の言葉に、櫻宵は雨から視線を戻しつつ想いを言葉にした。
命を助ける等の意味での『救う』ことはもう叶わない。けれども、ずっと苦しんできた少女の心を、『掬う』ことは出来るはずだから。
それは涙の海に流されてしまわぬように、溺れてしまわぬように。
そのまま櫻宵はしっかりと幼い少女を見遣ると。
「濡れ鼠のような姿も痛々しいわね」
川に落ちたかのようなずぶ濡れの姿に、瞳を細めた。そのまま彼が血桜の刀を手に取ると同時、視界に溢れる程の水が生まれる。
ごうごうと音を立てる強き水流。水厄である洪水だと察せば、櫻宵は真っ直ぐに駆け出しその水を断ち切った。
「サヨ、無茶はしないように」
次に襲い来る水流に斬撃波を放ち打ち消すカムイ。直ぐ傍で愛しい君をサポートしながらも、しっかりとその道行を見極める。
斬っても、消しても。彼女が生み出す災厄は終わらない。それはまるで彼女のこれまでと、そしてこれからを意味しているかのようで――ちくりと胸が痛んだ。
生まれる水流の強さも、その量も。彼女の持つ厄災が強いことを意味するのだろう。
――けれどその水害も、攻撃も、彼女の意志では無いのだ。
意に反した強い水流が櫻宵を襲う。刃を向けようにも、寸でのところで間に合わないと思った時――すぐさまカムイが結界術を展開し、その水害から櫻宵の身を守った。
「サヨ、大丈夫か?」
「ありがとう、少しは泳げるようになったけど、まだ苦手だからっ」
飛沫が掛かり身体を濡らすが、護ってくれる存在が傍に居ることを改めて実感し櫻宵はまた前を見る。直ぐに襲い来る洪水を血刃で切った時、その奥で祈るように手を合わせる少女が二人には見えた。
だから――。
「そなたの洪水に誰も飲み込ませはしない」
安心させるように、言葉を紡ぐカムイ。
災厄に負ける神では無い。確かな力をカムイは、そして巫女たる櫻宵は持っているから。涙を零す心優しき少女の厄を打ち破る事だって、出来るのだ。
「この雨はそなたのせいでは無い。だけど、そなたの雨空のおかげで。私はサヨと素敵なひとときを過ごせた」
君のせいでは無い。けれども、君のおかげでもあったと。確かな感謝と掬いの言葉を述べれば、少女はカムイを真っ直ぐに見た。お前のせいだと語られ続けた少女にとって、とても温かく感じただろう。――けれど新たな水災が二人を襲う。
刃を振り、桜花の結界で水をいなす櫻宵。桜を散らせず斬撃波を放てば――空を覆う雲は一部分だけ切り開かれ、澄んだ青空が垣間見えた。
「ほら、もう怖くない」
雨の影響はまだ色濃く残るけれど、ほんの僅かな光に少女は傘から顔を覗かせ天を仰ぐ。一体どれ程ぶりに見る青空なのだろう。それは櫻宵にも、カムイにも分からないけれど。空を見る少女が、言葉に出来ない程動揺していることは分かる。
「──あなたも、咲ってほしいわ。雨はね、やがてはやむのよ」
魅惑的な笑みと共に、そう紡ぐ櫻宵。
その言葉は青空から射し込む光が更に説得力を増し、彼を美しく輝かせていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミラ・オルトリア
【想焔】
「そして、誰のせいでもないんだよ…」
焔誠くんに続くように
そっと囁くように言葉紡ぐ
彼女の寒さは彼が包み込んでくれる
なら私は…そっと身を屈め
彼女と目を合わせる
「一人でずっと…寒かったね
雨の中、心細かったよね…?」
でも、もう大丈夫よ…
優しく温もりを彼女に分け合うように
その濡れそぼる体を抱きしめる
彼女はとても優しい子
皆を苦しめると分かっていながら
でも
彼女の悲しみを拭う温もりだって必要だ
恐怖を分ちあう言葉だって
「ねぇ、歌は好き?」
無邪気な笑み浮かべ
彼が魅せる劫焔の花々にのせ
初夏の爽やかな風のように
この歌響かせる
音色は花開くように温かに
宙を舞う指先は天へと伸ばし
歌が放つ音が空へ光放とう
顔をあげて空を見てて
あなたの涙空に虹をかけてあげる
輝く七彩が少女の心に寄り添うように
優しい陽の温もりで世界を包む
――その涙は罪じゃない
あなたを見つける為の大事な雨
見つけた私たちはどうするかって?
そんなの決まってる!
この歌を導にして、陽となり光となって
そして、虹となろう
命に花を
心に光を
少女と犠牲者に安らかな眠りを
黄・焔誠
【想焔】
アドリブ歓迎
_
「お前のせいではなかろうよ」
誰に語るでなくとも俺は聴き取った
故に断言する
紡ぐそのか弱さを丸ごと包み込むように
理不尽なその運命にさぞ恐ろしい思いをしただろう
彼女がこの現状に苦しんでいるのなら解き放ってやりたい
これは同情や憐憫などといった微温いものではなく
この場に居合わせた猟兵としての責務でもあり
何より哀しみ苦しんで泣いているのを目の前にして、見捨てるのは性に合わない、合いたくもない
「…女性が身体を冷やすものではないな」
己が羽織っていた上着を彼女の肩に掛け、雨の中に咲くは劫焔の花々
熱くはない。雨を晴らしていくだけだ。
「ほら、顔を上げろ。──もうじき雨は止む」
その涙は、貴女を見つけるための雨
…ああ、そうだな
フと微笑って
「もう大丈夫。…よく独りで頑張ったな」
頬に張り付く彼女の黒髪を払って、瞳細め
「貴女に罪はない。貴女の罪ではない。だから安心して、もう休め」
_
全てが終わった後、洪水のかつての犠牲者に
そして此度の彼女へ
花と鎮魂の祈りを
●
「お前のせいではなかろうよ」
名のように燃える色を宿す声で、黄・焔誠は零す。
握る拳は強き意志を表すかのように震えている。――少女の言葉は、誰に語るでも無い呟き。けれども、焔誠は聴き取った。だからこそ、断言と云う強き言葉を放てるのだ。
――それは、紡ぐそのか弱さを丸ごと包み込むように。
「そして、誰のせいでもないんだよ……」
烈火の如く強く放つのが焔誠ならば、包み込むような柔らかな音でミラ・オルトリアが語る。それはそっと囁くように、けれども雨に負けぬ確かな音は、彼女が轟音である戦場で歌う歌姫故なのだろう。
二人の言葉に、少女は肩をぴくりと反応させる。けれどもまだ顔を上げるまではいかず、傘を傾け雫を零し続ける。そんなか弱い姿にまた、焔誠の心は燃え上がる。
大雨の結果幼いながらに亡くなったことも、厄災に呑まれたのか不思議な力で人々を苦しめ続けることも。全てが彼女の本意では無い。決して楽しそうでは無い、罪と云う重しに潰されそうな目の前の小さな身体からそれは確か。
それは理不尽な運命だ。さぞ恐ろしい思いをしただろう。この現状に苦しんでいるのなら、解き放ってやりたいと焔誠は強く強く想う。
その想いは同情や憐憫などといった生温いものではない。此の場に居合わせた猟兵としての責務でもあり、何より――哀しみ苦しんで泣いているのを目の前にして、見捨てるのは性に合わない、合いたくもない。そんな、冷静沈着な焔誠の心に秘めた熱さ故だ。
「……女性が身体を冷やすものではないな」
一歩、一歩。
水溜まりなど気にせず歩を進めると、そっと彼は己の羽織っていた上着を少女の細い肩へと掛けてやる。そのまま彼は雨の中へと、劫焔の花々を咲かせた。
それは熱くは無い、人の身を燃やしはしない焔。――段々と雨を晴らすであろう。
「一人でずっと……寒かったね。雨の中、心細かったよね……?」
焔に照らされる中、少女と目線を合わせミラは語る。――彼女の寒さは、劫焔が包み込んでくれている。きっとそうしてくれると信じていた。だからミラの役割は、また別のことだ。その心細い身体へと手を伸ばし、優しく温もりを分け与えるようにそっと身体を抱き締めた。濡れそぼる身体を寄せれば、ミラの身体も濡れてしまう。けれどもそれ以上に、彼女のことを温めたいと思ったのだ。
もう大丈夫だと、伝える為に。
彼女はとても優しい子。皆を苦しめると分かっていながら――でも、彼女の哀しみを拭う温もりだって必要だ。恐怖を分かち合う言葉だって、必要だ。
「ねぇ、歌は好き?」
そっと包み込んだ身体を少し離し、顔を見合わせミラは紡ぐ。
その貌に浮かぶ無邪気な笑みは、きっと雨に冷えた少女の心を温めるであろう。何時振りかも分からない温もりに、動揺した少女は戸惑うように、けれど問いに頷いた。
しっかりと彼女の反応が貰えたことが嬉しくて、ついついミラはまた笑みを深める。そのまま息を深く吸うと――焔誠の魅せる焔花に乗せ、初夏の爽やかな風のように歌を雨の世界へと響かせた。
音色は花開くように温かに。
宙を舞う指先は天へと伸ばし、歌が放つ音が空へ光放つ。
――顔をあげて空を見てて。そっと少女の耳元へと紡げば、少女は動揺したように息を呑んだ。前髪のせいで表情は見えないけれど、確かに心の距離は近付いている。
「あなたの涙空に虹をかけてあげる」
しとしと降り続ける雨に響くミラの歌声は、鬱々とした灰色の世界を色付かせる。それはまるで輝く七彩が少女の心に寄り添うように――少女の生きた時の苦しみも、そして死して重ねた苦しみも、全て晴らしてくれるのだろう。これこそが、ずっと戦場で歌姫として歌ってきたミラの力。
「ほら、顔を上げろ。──もうじき雨は止む」
高く、高く。響く歌声に意識が向く少女の肩を叩けば、焔誠は空を指差した。
ミラの歌声で開かれた空からは微かな光が注ぎ、世界を照らす焔が晴らす雨は、段々と弱くなり音も聞こえない程になっている。
それは、どれ程ぶりに見た光景だろう。意図に反し降り続ける雨は終わることは無いと思っていた。何時だって少女の身体を濡らし、世界を濡らし、水で満たし愛すべき人を苦しめてきた。だから、こんな日が来るとは思ってもいなかった。
『雨、が……』
信じられない、そう言いたげに空を見上げる少女。
濡れた長い前髪が動けば、そこには着物と同じ菖蒲色の瞳が光に輝く。ぽたり、彼女の頬を伝う雫は雨か、涙か。分からないけれども――。
「――その涙は罪じゃない。あなたを見つける為の大事な雨」
柔らかく、けれど強く言い放つミラ。
そのあまりの真っ直ぐさに焔誠は小さく笑みを零しつつ同意を示した。
彼の同意が嬉しくて、ミラは笑みで返事をする。そのまま戸惑う少女へと視線を向けると、しっかりと顔を見合わせつつ唇を開く。
「見つけた私たちはどうするかって? そんなの決まってる!」
――この歌を導にして、陽となり光となって。そして、虹となろう
それは、迷いなど無いどこまでも真っ直ぐな光のような言葉。
強い、強いその光は雨に満ちた世界でずっと存在した少女には眩しい程。けれど決して視線を逸らせずに、惹かれるようにミラを見つめる。
もうかつての少女を知る人は存在しない。けれど話だけ伝わり、忌み嫌われこっちに来るなと言われてきた。そんな自分を見つけてくれると、言ってくれる人がいる。
傘を持つ手が震える。唇を噛み締め、頬を伝う雫が増える。
「もう大丈夫。……よく独りで頑張ったな」
その雫に気付きながらも言葉にはせず、焔誠は優しい声色で言葉を掛けた。
そっと大きな手を伸ばして、少女の頬に張り付いた黒髪を払い瞳を細める。
「貴女に罪はない。貴女の罪ではない。だから安心して、もう休め」
小首を傾げれば水気を吸った五彩が揺れる。そのあまりの鮮やかさに、少女は見惚れるように視線を向けた後、焔誠の銀の瞳を見た。
『……私は、悪くないの?』
一つ、問い掛ける。
ずっとずっと自分が悪いと思っていた。悪いと言われてきた。
けれども許されるなら――縋るような眼差しに、焔誠もミラも迷い無く頷きを返す。
――全てが終わったその時には。
――洪水のかつての犠牲者に。そして此度の彼女へと花と鎮魂の祈りを捧げよう。
――命に花を。
――心に光を。
この先に待つ二人の祈りは、此の地に確かな光と安らかな眠りを誘うだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】
オブリビオンも優しい子が居るのですね
居る事で災いが起こる
誰がそんな事を言ったのでしょうか
彼女はきっと悲しみにくれているのでしょう
私のせいで…
自分もそう言った時期はあった
不幸が起こるのは自分のせいだと
手に温もりを感じる
心配してる娘に大丈夫ですよと握り返して
それは違うと教えてくれたのはこの子だった
僕もルーシーちゃんと一緒にいられて幸せですよ
辛いのは彼女、救ってあげましょう
ルーシーちゃんの頭を優しく撫でて
貴女の哀しみは貴女のもの
でも、この雨は全て悪いものではありません
恵みの雨
雨があるからこそ植物は育ち、海や川は存在する
喜ばれる方もいらっしゃるのですよ?
ふふっ、そうですね
紫陽花もカエルさんもきっと喜んでいますよ
少なからず僕達は今日の雨は素敵な雨でした
ねぇルーシーちゃん
傘や小屋を鳴らす雨音は好きです
雨を感じて見た紫陽花はとても綺麗でした
嘘喰
さぁ、貴女の哀しみは嘘にしましょうか?
哀しみでは無く喜びを思い出して
嘘は全て喰べてあげますから
今日のこの子の様に笑えますように
可愛い子達を見守りましょう
ルーシー・ブルーベル
【月光】
……居ることで災いを招く
私のせいで、なんて
本当は思わないでほしいのに
オブリビオンになったのだってあの子のせいじゃないのに
ゆぇパパ
パパが今何を思い出しているのか
何となく想像がついてしまって
ぎゅうとパパの手を握る
……パパ
ルーシーはパパが居てしあわせよ
あの子を想うと胸が苦しくなる
でも本当にお辛いのはルーシーじゃなくてあの子、……よね、パパ
ええ、
ルーシー達に出来ることは、まだあるはず
そうよね
雨は何も災いだけではない
恵みをもたらすもの
次の季節へ廻る鍵となるものよ
喜ぶ……、ふふ
アジサイさんとかカエルさんとか?
ええ、ええ!
ルーシー達、今日の雨でもっと雨が好きになったわ
雨音はずっと聞いていたい位だったし
紫陽花の花も葉も、とびきりキレイだったもの
あ、あと雨降り小屋で頂く熱々のコーヒーもカクベツね
『無限花序の開花』
かつてはふつうの女の子だったのなら
きっと楽しい思い出だってあるはず
思い出して
せめて大切な記憶に満たされて
悲しみと恐怖を少しでも減らして旅立てますように
いつか命が廻った時は
いっしょに遊ぼうね
●
私がいるせいで――。
彼女が零した言葉が、重く重くルーシー・ブルーベルに圧し掛かる。彼女が居る事で、災いを招くことは本当だ。けれども、そんなことは思わないで欲しい。
だって――オブリビオンになったのだって、あの子のせいでは無いのだから。
きゅっと唇を結んで、両の掌を握り締めて。彼女の零した言葉を心で繰り返す。
「居る事で災いが起こる、誰がそんな事を言ったのでしょうか」
懐の中のルーシーへ、守るように腕を回しながら朧・ユェーは疑問を言葉にする。世界を破滅に誘うオブリビオンであることは確か。けれども、心優しい存在なのも確か。
彼女は悲しみにくれていることだろう。それは痛い程に分かる。だって――『私のせいで……』そう繰り返す彼女と同じように、ユェーもそう言った時期があったから。
不幸が起こるのは自分のせいだと。自分の中で繰り返し、その罪を忘れないようにと刻み続けたあの日の自分が、雨に濡れる少女に重なる。
きゅっと唇を結べば、彼の頬を雨が伝った。その時――きゅうっと、彼の掌を強く握る温もりを感じてユェーは意識を戻す。視線を下ろせば、心配そうな瞳で見上げる娘の姿。
言葉にはしていない。
けれどもルーシーには、大好きなパパが何を想いだしているのか想像がついてしまった。だから、大丈夫だと自分に出来る精一杯で伝えたいのだ。
「……パパ。ルーシーはパパが居てしあわせよ」
瞳に宿る心配の色。その心優しい少女の温もりと、言葉にユェーの心は確かに軽くなる。ほっと息を吐きながら、心配に握る彼女の手を優しく握り返した。
「大丈夫ですよ」
力だけでなく、しっかりと言葉にして伝える。
そう、それは違うと教えてくれたのはこの子だった。この子だって辛い過去があるのに、自分の過去を包み温かな想いをくれた。
「僕もルーシーちゃんと一緒にいられて幸せですよ」
そっと優しく小さな頭を撫でれば、それは何時もの温かさ。包まれる大きな手にほっと安堵すると、ルーシーは再び佇む少女を見遣る。
世界が違う為定かでは無いが、恐らくルーシーと同じ年頃であろう。だからこそ彼女の涙に、生い立ちに少女の胸は締め付けられる。けれども――。
「でも本当にお辛いのはルーシーじゃなくてあの子、……よね、パパ」
「辛いのは彼女、救ってあげましょう」
瞳を滲ませルーシーが問い掛ければ、ユェーは頷きと共に前を向く言葉を紡ぐ。
それは過去に囚われた彼では無いからこそ零せる言葉。頭を優しく撫でるその大きな手に確かな安らぎを感じながら、ルーシーはどうすれば助けられるかを考える。
考えが導きだされるより先に、唇を開いたのはユェーだった。
「貴女の哀しみは貴女のもの。でも、この雨は全て悪いものではありません」
そう、雨は恵みの雨とも言う。
雨があるからこそ植物は育ち、海や川は育ち自然を作り出す。災いも運んでくるけれど、素晴らしい存在でもあるのだ。――何よりも、次の季節である夏へ廻る鍵となる。
しとしとと、降る雨の心地は此の世界特有の色。
「喜ばれる方もいらっしゃるのですよ?」
「喜ぶ……、ふふ。アジサイさんとかカエルさんとか?」
雨に鬱々とした想いをするヒトは多いけれど、雨の時期だからこそ活き活きとする存在も確かにいる。そして自然物や動物だけでなく、ユェーとルーシーも同じ。
「少なからず僕達は今日の雨は素敵な雨でした。ねぇルーシーちゃん」
問い掛けられれば顔を上げ、ルーシーは瞳を輝かせる。
「ええ、ええ! ルーシー達、今日の雨でもっと雨が好きになったわ」
喜びを、大好きを表現する為今にも跳ねそうな程勢いよく頷くルーシー。しとしと降る傘や屋根を打つ雨音の心地良さはずっと聞いていたい程。雫に濡れた紫陽花や葉はキラキラと輝き美しく、確かに心が潤うのだ。
「あ、あと雨降り小屋で頂く熱々のコーヒーもカクベツね」
ふふふ、と火傷してしまいそうな熱さを思い出し口許へと指先を添えルーシーは笑う。雨に濡れ、散策をして、雨音と共に頂いたからこそあの味になったのだろう。
今日一日を振り返れば、全てが魅力的でワクワクが止まらなかった。それは全て、雨が魅せてくれた風景。雨がくれた時間。――そして、それは彼女のお陰でもある。
そっとルーシーは祈るように手を組むと同時、雨に濡れた少女の頭へとイングリッシュブルーベルの花が咲く。それはまるで髪飾りのように美しく、菖蒲色纏う彼女によく似合う。雫に濡れ艶めく花、ルーシーはその心へと強く強く言葉を込めた。
「かつてはふつうの女の子だったのなら。きっと楽しい思い出だってあるはず」
思い出して、と。真剣な眼差しで語る少女。彼女には温かな思い出があるのだと、信じているから。だって、心を痛める心優しさは大切に育てられた証である。
『たのしい、おもいで……』
たどたどしく紡がれる言葉。それはまるでうわ言のようだけれど、しっかりとルーシーの言葉が彼女に響いている証拠。つうっと頬を伝う雫は、雨か涙か。分からないけれど、彼女は明瞭不明な言葉をいくつか零すと――。
『おかあさん、おとうさん……だいすき、だった』
最後に震える声で紡がれた言葉は、確かな想いで温かな思い出。彼女が此処に立つ前の、遠い遠い昔の御話。――嗚呼、それを思い出せれば大丈夫。
「さぁ、貴女の哀しみは嘘にしましょうか?」
そっと口許に笑みを浮かべ、人差し指を当てながらユェーは紡ぐ。ぱくりと喰らいつく喰華が、彼女の哀しみも恐怖も全て食べ尽くしてくれることだろう。
今日のこの子のように笑えますように。そう願い少女を見るユェーの眼差しは、とても温かい。それは少女が娘と同じ年頃なのも、ユェーと被る部分があるのも理由。
喰らわれ、温かな思い出と共に少女はその場で膝を突く。
先に死んじゃってごめんねと、少女は小さく零すのをルーシーは確かに感じた。少女の瞳に涙が滲む様子に気付くと、ユェーはそっと娘の身体を抱き寄せる。
「いつか命が廻った時は、いっしょに遊ぼうね」
命は巡り、また生として誕生した際の約束を交わすように。ルーシーは小指を伸ばす。
――その指に触れるのは、雨の雫だけ。けれども熱を感じたのは、気のせいだろうか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
強い思念の残花
その地に縛られる多くは怨嗟や後悔を抱いている
けれど、彼女は
武器を持たぬまま共に一歩踏み出す
それ以上はまだ近付かない
雨曝しの彼女を怯えさせない為に僅か身を屈め
……おなまえは?
わたしはヴァルダ
彼の名はディフ
あなたのこわいゆめを、終わらせに来ました
祈る
咲かせるは燭光花
ひび割れた心を少しでも柔く包んであげられるように
どんなことをして遊ぶのがすき?
どんな物語を読んでいたのかしら
ね、……あなたの『だいすき』を、教えてくださいな
少女の言葉に頷いて
僅かでもこころを開いてくれたならゆっくりと歩み出す
あたたかな思い出まで涙で消してしまわないで
……ずっとひとりで抱えてきて、つらかったでしょう
そっとディフさんと彼女のちいさな手を取る
悪いゆめはもうおわりだと伝えるように
浄化の光で照らし出す
彼女が帰り道を間違えないように
帰りましょう
あなたの大切なひとたちのもとへ
大丈夫
もう――泣かなくてもいいんですよ
笑顔で見送るわたしの頬にも一筋涙が伝った
ディフさん
あしたは、きっと晴れですね
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
止まない雨
昔話を想えば、この雨は涙や恐怖に濡れた心そのものなんだろうね
悲しみの淵に沈んだままでは雨を止めることも出来ないだろう
せめて、掬い上げてあげたいね
傘は差したままでいよう
彼女が雨に濡れぬよう
雨が彼女を襲わぬよう
それがあの子の心を傷つけぬよう
二人を冷たさから守ろう
積極的に戦いに来たわけじゃないんだ
救えるのなら救ってやりたい
肩に呼ぶ雪精のネージュ
彼女が穏やかに問う間
雨の洪水を迸る最果ての冷気の風で凍らせて
大丈夫
この雨が誰も傷つけぬよう、オレが止めるよ
己が役目はそれと知っている
一歩ずつ、ゆっくりと歩み寄って
彼女と共に少女の手を取った
雨は冷たかったろう
怖かったね、悲しかったね
もう大丈夫、雨は止むよ
ほら。雨雲に光が差している
彼女が照らす光へと
背を押すように静かに笑って
帰りたい場所、大好きな人たちがいるだろう
思い出してごらん
その光は、その場所へと導いてくれるから
顔をあげて、おうちにお帰り
きっとみんな、待ってるよ
……雨に冷気にで冷えたろう
そう言って、彼女の肩を引き寄せた
●
強い思念の残花。
その地に縛られる多くは、怨嗟や後悔を抱いている。――けれど、彼女は。
雨の中、傘を手に佇む少女を目の前にしヴァルダ・イシルドゥアは息を吐く。ざわつき、締め付けられる心が今にも飛び出しそうで、ぐっと胸元で両の手を握った。
「止まない雨。昔話を想えば、この雨は涙や恐怖に濡れた心そのものなんだろうね」
彼女の傍らで、ディフ・クラインは言葉を紡ぐ。傘を傾け降りしきる雨へと手を伸ばせば、変わらぬ梅雨の冷たさを帯びた雫が彼の手を濡らす。
この雨は、自然現象とは少し違うもの。けれども、悲しみの淵に沈んだままでは雨を止めることも出来ないであろう。
だから――掬い上げてあげたいね、と。ディフが微笑みヴァルダを見れば、彼女は真っ直ぐな瞳で強く強く頷きを返す。
同じ傘の下で、一歩踏み出すヴァルダ。
そんな彼女へ傾ける傘はそのままに、ディフも一歩踏み出す。――彼女が雨に濡れぬよう。雨が彼女を襲わぬように。
踏み込む距離は、一歩だけ。
急に距離を詰めては少女も怯えてしまうかもしれない。だからまずは距離を取りつつ、小さな少女を安心させようと意識する。
空いた両の手を見せるのは、武器を手にしていないと伝える為。それは積極的に戦うつもりは無いと云う、分かりやすいアピールだ。そのままヴァルダは僅かに身を屈め、彼女の視線辺りに身体を合わせると――。
「……おなまえは?」
少し離れたところから、一つ問いを紡いだ。
『……』
ちらりと少女はこちらを見る。長い前髪で表情は見えないが、確かに意識を向けていると感じ、ヴァルダは笑顔のまま言葉を零す。
「わたしはヴァルダ。彼の名はディフ。あなたのこわいゆめを、終わらせに来ました」
そっと傍らの彼の名を呼べば、ディフは挨拶をするように軽く会釈をする。
『……名前は、美雨』
どこかたどたどしい音で紡がれるその名前に、ヴァルダは綺麗な名前だと微笑んだ。その笑みと共に辺りに咲くは燭光花の花弁。温かな光で照らされれば、彼女の心も軽くなるだろう。――それは、ひび割れた心を少しでも柔く包んであげられるようにと云うヴァルダの優しさを表した力。
返事をくれたことが嬉しい。名前を教えてくれたことが嬉しい。だからより一層、彼女を掬いたいと強く想う。
「どんなことをして遊ぶのがすき? どんな物語を読んでいたのかしら。ね、……あなたの『だいすき』を、教えてくださいな」
目線を合わせたまま、笑みと共にヴァルダはゆっくり問い掛ける。伝える言葉は好意と興味のみ。寄り添い、温もりに触れれば彼女はゆっくりと唇を開いていく。
『どんな……、忘れ、ちゃった。もうずっと前のことだから』
その言葉に込められた意味は、どれ程の時を彼女がこうして佇んでいるのかと云う事。伝え語られている程なのだ。恐らくサムライエンパイアの様々な地を訪れては、その地に水害を招いてきたのだろう。その都度心を痛めた彼女を想えば、ヴァルダの胸も痛む。
『あ、でも……お母さんがくれた毬が、好きだったなあ』
胸の痛みに一瞬俯いてしまった時、少女は思い出したように言葉を零した。相変わらず水が滴り目は見えないけれど、その口許に浮かぶのは確かな笑み。
それは温もりが、確かに彼女の心にあるのだと云う証拠。
その温もりにほんの少し触れさせて貰えたことが嬉しくて、ヴァルダは唇を震わせた。今なら大丈夫だろうかと想い一歩、踏み出してみれば。彼女は身体を身構えることなく、ヴァルダの様子を見守っている。
一歩、一歩。
ゆっくりと歩むのは彼女の心に近付いているかのよう。そんな彼女に寄り添い、ディフは歩幅を合わせつつ傘を傾け続ける。
ちらり、ちらり。
ヴァルダが少女へ語り掛ける間、周囲に降るのは雨の雫では無く雪の花。
それはディフの肩に乗る雪精のネージュが、己の力を用い周囲を凍て付かせているから。春と夏の狭間で見ることなど無い筈の雪が、今此の狭い世界に降り注ぐ。
しとしとと、雨が傘を打つ音は消え全ての音を吸収するかのよう。――だからこそ、ヴァルダと少女の声は此の狭い世界にだけしっかりと響く。
この雨が、誰も傷付けぬよう止める事。――それが役目だとディフは知っているから。
そしてついに、少女へと手を伸ばせば届く程の距離に近付けば――。
「あたたかな思い出まで涙で消してしまわないで。……ずっとひとりで抱えてきて、つらかったでしょう」
変わらず目線を合わせ、ヴァルダはそう紡いだ。
その言葉に、少女は傘を握る手を震わせた。その震える手へとディフが、ヴァルダが手を重ねれば――なんと冷え切ったことだろう。
「雨は冷たかったろう。怖かったね、悲しかったね」
大きな手で少女の手を包みながら、ディフは紡ぐ。黒の髪から覗く青い瞳は、柔らかくも温かく、少女へ安堵を誘うだろう。そのまま彼はそっと傘を下ろすと――。
「もう大丈夫、雨は止むよ。ほら。雨雲に光が差している」
添えるディフの笑顔は、彼女が照らす光へと背を押すように――零れる光は厚い雲が薄くなった証。光が少女を射せば、濡れそぼる髪が一際輝いた。
「帰りたい場所、大好きな人たちがいるだろう。思い出してごらん」
注ぐ陽射しは天使の梯子となり、少女を大切な人の元へと導いてくれるだろう。彼の言葉に、その光に。少女は震えると、誰に語るでもなく『お父さん、お母さん』と大切な人のことを呼んだ。それは齢十程の少女にとって、全てとも言える存在だ。
「帰りましょう。あなたの大切なひとたちのもとへ。大丈夫、もう――泣かなくてもいいんですよ」
きゅっと少女の手を両手で握り締め、笑みと共にヴァルダは紡ぐ。
霊である彼女の居るべき場所は此処では無い。家族を想うならば、きっとその人たちが少女のことを待っているのだろう。
「顔をあげて、おうちにお帰り。きっとみんな、待ってるよ」
そのことをしっかり言葉に表せば、少女は頷き――その口許には笑みが咲く。
――ありがとう。
最後に耳を掠めた声。その色は、先程までの雨に濡れた色とは違う光を纏っていた。
「……雨に冷気にで冷えたろう」
そっとヴァルダの肩を寄せれば、細い肩は冷え切っている。その冷たさは先程の少女を思い出すが、大切な人故に心配の想いは一際強い。
「ディフさん。あしたは、きっと晴れですね」
彼の温もりに身を任せながら、笑みと共に零れる言葉。小さく鼻をすする音が響いたかと思えば、ヴァルダの柔らかな頬に一筋の涙が伝っていた。
大成功
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