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闇の救済者戦争⑱〜雷の如きもの

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争 #禁獣『ケルベロス・フェノメノン』

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#禁獣『ケルベロス・フェノメノン』


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 その三つ首の獣は、あまりにも巨大で、あまりにもちぐはぐで、そして、あまりにも無敵であった。
 全てを守るために生まれたかのように、何物にも傷つかず、その存在、在り様はあまりにも強かった。
 さながらに、それそのものが重力であるかのように、それそのものが剣であるかのように、それは力強く在った。
 地獄の番犬の名を冠する禁じられた獣、ケルベロス・フェノメノン。
 禁獣の座するポイントは、今やだれも近づけない。
 死を思わせる魔獣の如き生命力と、燃え立つような起こりを見せる無尽蔵の魔力と、無限の進化の果てを思わせるような機械兵器とが、禁獣を退けようとする者を悉く打ち破ってきたのだろう。
 それがひとたび暴れれば、強大な存在が跋扈するダークセイヴァー第三層といえど、ひとたまりもあるまい。
 しかしながら、ケルベロス・フェノメノンは、彼自身の座するがゆえに形作られた禁域から出る事はなかった。
 まるで、何かを守るかのように、最強の剣はその場に突き刺さるままであった。

「ふーむ、ケルベロス。ケルベロスですかー。なんとなく、聞いた覚えがあるんですよねー」
 グリモアベースはその一角。給仕服姿の疋田菊月は、こたびの戦争案内の傍らに、集まった猟兵たちに紅茶を配しながら小首をかしげるのだった。
 悪魔召喚士でもある彼女は、その造詣にもそこそこの知識はあるのだが、どこぞの愛犬が変貌した姿というには、あまりにも違い過ぎるのが、今回の相手である。
「本来、かの禁獣は、無敵の存在であったそうです。ですので、今まで直接の対決は避けてきたわけですが……。このたび、皆さんの活躍もあって、彼の者の存在の欠落を破壊するに至りました。
 これでようやく、ケルベロス・フェノメノンは無敵ではなくなりましたが……いやーでもですねー。第三層の強敵は、いずれも圧倒的な存在感を持っている方ばかり。
 苦戦は免れない事でしょう」
 圧倒的な存在がいくつもある第三層。その中でも祈りの双子によって封印を解かれたという『究極禁獣』の一体。
 全長数百メートルの巨体に宿るのは、無尽蔵の生命力と魔力、強靭さと破壊兵器。
 まずもって体格差からして、生半可な武器やユーベルコードが通用するかどうか。
 予測されるスペック。その概要だけでも空気が重たくなる中で、菊月はぴっと指を立てる。
「ところで皆さん、こんなお話を御存じですか?
 その者、地獄のような咆哮と光と共に降り立って、木々を裂き森を焼く炎をまき散らすという。
 伝承に語られるケルベロスの正体は、実は落雷だったというお話です。
 これはあくまでたとえ話の一つですが、物事にはそれを解き明かすヒントと、それを成す真実が隠れているものです」
 その正体が知れたとき、ケルベロスという幻想は、落雷という自然現象に変わる。
 どうしようもない相手にも、攻略の糸口は必ずある筈である。
「私の得た情報によりますと、あ、予知のお話ですよ。
 彼の者は攻撃の際、稀に小さな剣を産み落とすようです。これ自身は大した武器ではなくて、おおよそ敵を傷つけるのには向かないようなものですが、実はこの『|小剣《グラディウス》』には、我々のユーベルコードを何倍にも増幅するような力が秘められているようですよ。一体何で出来てるんでしょうね」
 戦に於いて剣よりも有用な武器は幾つも存在してきたが、権力者が手に持つもの、そして力の象徴として示されるものは剣であった。
 ならば、この|小剣《グラディウス》は、意志を示すためのものであろう。
「彼の者の吐き出すそれが何を意味するのか。それは今は置いておいて、これをうまく利用できれば、無敵に限りなく近いケルベロス・フェノメノンを倒せるかもしれません」
 糸口は見えた。それは針の穴の様なか細いものであったが、その希望を、猟兵たちは常に見出し、押し広げてきた。
 今回の戦いもまた、そうであると願いたい。
「間違いなく、大きな戦いの一つとなるでしょう。準備は怠らず、そして、必ず無事に戻ってきてくださいね」
 そうして菊月は、猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。


みろりじ
 どうもこんばんは、流浪の文章書き、みろりじと申します。
 ケルベロス。なんとも懐かしいような響きですが、そういえばそのビジュアルに触れる事は、あちらではなかったような気もします。
 ケルベロス・フェノメノンがその相手と同一の何かであるかどうかはひとまず置いておいて、今回の戦いは1章完結のボス戦オンリーとなっております。
 戦争シナリオであるため、プレイングボーナスが設けられておりますので、オープニングの菊ちゃんのお話の通り、禁獣が攻撃の際にたまに出してくる小剣を拾ってユーベルコードを使うと、何故かベビーに力を与えられたサ〇スのようにユーベルコードの増幅が可能になるようです。
 心に刃を持つ相手に、どうやら彼の者は弱いのかもしれませんね。
 もうなんというか、どちらかに決着がついてしまいそうですが、今回の戦いでは二体の禁獣が存在しておりますが、どうやら二体一度に討伐はできぬようです。
 どちらかを倒してしまうと、もう片方、たとえばケルベロス・フェノメノンを倒すと、デスギガスはどこかへ姿を消してしまうようですね。
 どのような影響が出るかは、いやーぜんぜんわからないなー。どうなるんでしょうかねー。
 というわけで、どちらか倒したい方を選ぶ必要があるかもです。私のシナリオでは、ケルベロス・フェノメノンを倒すシナリオですよ。はい。
 というわけで、今回も断章なしで、いつでもプレイング募集しておりますので、好きなタイミングでお送りくださいませ。
 それでは、皆さんと共に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 ボス戦 『禁獣『ケルベロス・フェノメノン』』

POW   :    グラビティブレイク・フェノメノン
【自身の肉体または武装】に触れた対象の【肉体を地表にとどめている重力】を奪ったり、逆に与えたりできる。
SPD   :    インフェルノファクター・フェノメノン
命中した【機械兵器】の【弾丸や爆風】が【炎の如く燃え盛る『地獄』】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
WIZ   :    サイコフォース・フェノメノン
着弾点からレベルm半径内を爆破する【呪詛と魔力の塊】を放つ。着弾後、範囲内に【消えざる『地獄』の炎】が現れ継続ダメージを与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ロロ・ラリルレーラ
「でっかいわんちゃんだァ☆★☆ カワいいね、オトモダチになろ?★☆」
「ねえねえ★☆ もう、ロロのおハナシちゃんとキいてよねッ★☆★☆」

(お互い)会話が成り立つわけもないのでバトル。
まずは連れてきたオトモダチをけしかける。が、当然燃やし尽くされる。
図らずも兵器群からの盾にしてしまった形になるがまあ気にしない。
その隙に、落下した小剣に向けて物理的に手をぐぐんと伸ばし。
掴んだ小剣を、きらきらしていて美味しそうだったのでごっくん。

そのときふしぎなことがおこった!
ユーベルなコードが増幅されて、ロロの身体が大きく大きく……相手と同じサイズまで。
更に伸びる腕で捕まえて、三つ首まとめてバックドロップ! キメ!



 強大な存在があちらこちらに独自の領地として所有される、ダークセイヴァー上層。
 それら絶対的な闇の種族の数々ですら、その領域には近づこうとしなかった。
 彼等自身、自らの強大な力同士がぶつかり合えばただでは済まないことを理解していたし、とりわけ禁獣と呼ばれる者に手出しする事のリスクの高さを、高度な知性体であるがゆえに理解していた。
 お互いの領域に手を出さない。その不文律を越えて、ケルベロス・フェノメノンという存在は恐れられてすら居た。
 何者をも退ける無敵。
 三本頭の奇形なる獣。それ以上に、実に多様な在り方を見せるその力の数々を前に、絶対不壊の決意と、対峙するのみで死すら思わせる存在感を放つ。
 そんなものを相手に、本当に勝てるのだろうか。
 数多くの難関を、難敵を突破してきた猟兵とて、数百メートルに及ぶ巨大な獣を相手取るには、しり込みする者も居よう。
 だが、彼女は違っていた。
 数百メートルの巨大な獣を前にすれば、その背丈は実に小さく見えたろう。
 しかしそれはあくまでも相対的なものであり、ロロ・ラリルレーラ(猛毒電波を送信します・f36117)の原色をちりばめたようなド派手な頭髪及び衣装は、さながらサーカスのテントを思わせる。
 常人からすれば5メートルに及ぶ巨人の体躯は非常に大柄と言えるが、その特徴を抜きにすれば、その姿は美少女にも見えたかもしれない。
 派手なメイクに彩られたその顔に浮かんだあまりにも純粋な笑みと、ぐるぐると渦を巻くような狂気を孕んだ形相さえ目の当たりにしなければ。
 ロロという少女は、年嵩の割にその認識は童女のそれであった。
 知恵が足りぬのではない。ただ、純粋な願いを持ち続けただけ、と言えば聞こえはいいが、その巨体と手にした電波送受信ロッドを兼ねる長大なパラボラランスから発するのは、あらゆる生物にとって毒となりかねない波紋を生んでいた。
 それは、この領域、ケルベロス・フェノメノンが封じられていた禁域に居座る数百メートルもの巨体をも警戒させるほどに。
『止まれ。汝より極めて危険な波動を感じる。それ以上近寄れば、侵略と見なす』
 根源的な何かを引き寄せそうな毒電波。その存在感、存在力は、怪物と遜色ない。
 強力な存在感を持つ者は、それだけである種の引力を帯びている。
 鋭敏なものは、他に影響を与えるそんな引力を感じ取り、知性のある存在に圧を覚えるのである。
 だが、知ってか知らずか、ロロは見上げるばかりの巨大な獣を前に歯を剥いて笑う。
「でっかいわんちゃんだァ☆★☆ カワいいね、オトモダチになろ?★☆」
 地響きのようなケルベロス・フェノメノンの警告は、しかし層の厚い電波に阻まれてしまっているのか。それとも正気を感じさせぬロロの認識には及ばなかったのか、彼女の存在理由と言っても過言ではない目的、即ち──トモダチ一億人へ向けて申し分ないでっかいワンちゃん……言うほどワンちゃんか?
 とにかく、目の前の相手と交流を持たねばというその心意気のみが、全てを無視して突き進む。
『……よもや、汝の如き猛毒を招き入れるは叶わぬ……去ぬるがよい!』
 空間を引き裂くような喉鳴りと共に、ケルベロス・フェノメノンの背に負う機械兵器から無数の砲弾が射出される。
 山なりに放たれる迫撃砲の雨は、一発一発がドラム缶サイズの榴弾である。直撃すればひとたまりも無いが、ロロ的にはそんな事よりも、友達申請を拒否られたことの方が気になった。
「ねえねえ★☆ もう、ロロのおハナシちゃんとキいてよねッ★☆★☆」
 ちょっぴりおこな電波を感じ取ったらしい、ロロに付き従う──具体的には彼女の甲斐電波に充てられて付いてきた異形のミュータントたちが榴弾の嵐を迎撃、そしてケルベロス・フェノメノンに襲い掛かっていくのだが、そこは多勢に無勢。
 この場合は、戦力的に勝るケルベロス・フェノメノンの機械兵器が圧倒する。どこからやって来たかのよくわからない異形のモンスターたちは次々と榴弾の爆風に巻き込まれ、吹き飛ばされ、あるいは粉々に焼き尽くされてしまう。
 おかげでロロを守るように飛び出した形となったため、ロロの被害は最小限に収まったが、オトモダチの多くを失う事となった彼女は、その事実に悲嘆に暮れたり……は特にしなかった。
 その興味は既に別のものに移っていたからだ。
 激しい攻撃とその余波で、周囲は目も開けていられないような爆風だったが、ロロはそんな足元にいつの間にか転がっていたキラキラと光るものに目を奪われていた。
 【変形電波を受信しました】によって、かなり面白い事になってしまったロロの肉体は、その腕をぎゅーんと伸ばす事ができる。
 同胞たちが倒れていく中で、指先程の小さなきらきらするを摘まみ上げると、それはケルベロス・フェノメノンの攻撃の際に吐き出された|小剣《グラディウス》であった。
 それが何を示しているのかは、ロロにはわからなかった。だが、子供はキラキラ光るものが好きだ。
「はぇー★☆ きれぇー★☆ あめちゃんみたいッ★☆★☆」
 言い知れぬ引力の様なものを感じたロロは、それを食欲のままにぱくりと飲み込んでしまった。
 図らずもユーベルコードを使用した状態でそれを身に着け……いや、食べちゃったんだが。
 とにかくその身に取り込んだロロは、すぐさま身体に変調をきたしたことを悟った。
 そう、そのとき、不思議な事が起こった!
 小剣によりユーベルコードを何倍にも増幅されたロロの身体は、ぐんぐんと巨大化していく。
 本来は3倍超くらいに巨大化したり、手足を伸ばしたりするその力は、数倍、数十倍に、つまりは、ロロの身体を巨大化させていき、ついには数百メートルに及ぶケルベロス・フェノメノンの体格に迫った。
 下から見ちゃダメだぞ。
『なんと……それが、汝の意志……!』
「ロロはたいようのこ!★☆ ハグしちゃうぞー!★☆」
 友達になるなら、まずは触れあい、心からのハグを。とばかりに、のびーる両腕を精一杯伸ばして、その三つ首を抱え込んだ。
 だが、敵も然る者。その巨体が踏ん張れば、いかな巨人の膂力と言えども容易にはいかない。
 もっと身を寄せて、潜り込むように体幹で相手の体重を支配する。
 そう、臍で相手を抱え上げるようにして振り上げるそれは、バックドロップ!
 一瞬の無重力と共に、大地へ向かって加速する二人分の超重量を乗せた叩きつけが、第二層の大地を大きく揺らした。
「キメッ!」
 大量の瓦礫と粉塵の中をガッツポーズと共に立ち上がる影は、二つ。
 力いっぱいに叩きつけた筈だが、お互いにまだまだ参った様子はないようだ。
 だが、友情とは触れ合いから育まれることだってある。
 いっぱいぶつかり合えば、きっとオトモダチにだってなれる。
 そう信じて疑わないロロの瞳は、まだまだ爛爛とした輝きを湛えているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
欠落を壊しても、力は変わりませんか…。

「何だか、圧倒的な力の中に強い怒りも感じるネ」

なら、その怒りに対して強い心を持って挑みましょう。

今回はトラウムに乗り、シュトゥルムで飛翔して出撃。

グラディウスが落ちるまでは攻撃の回避に専念です。
飛んでくる弾丸は【野生の勘で見切り】、【軽業と残像】を駆使して回避。
爆風や地獄はシュトゥルムの烈風を当てて吹き飛ばすか、風の【オーラ防御】で受け流します。

グラディウスが出たら【空中機動】で接近してトラウムの手で壊さないようにキャッチ。
増幅したUCで雷の魔鳥さんを呼んだら反撃開始です。

魔鳥さんには爪で掴みかかって攻撃してもらい、更に羽から雷を放って【追撃】です。


夜刀神・鏡介
無敵だとか、死に至る呪いを振りまくだとか、とんでもない兵器を持つとか……まさに禁獣と呼ばれるに相応しいのだろうが
連中はこんなのをどうやって封印していたんだろうな。敵ながら天晴とでも言うべきかね

小剣を手に入れるまでは、どうにか攻撃を凌ぐ必要がある
神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化しつつ、絶技【無常】の構え

ダッシュで逃げ回りつつ、折を見て【無常】の一太刀で飛来する攻撃を迎撃
跳ね返すまではいかなくとも、着弾点を逸らすことができればいい

奴が小剣を落としたなら、できるだけ最速で確保しよう
小剣にも神気を伝えて、増幅した【無常】の太刀を放つことで今度こそ奴の攻撃を跳ね返してやる



 草木一つ生えない、そこはおおよそ生物の到達できるような空間とは呼べなかった。
 存在あるすべてが平伏するかのような、命を狩り尽くしたかのような、そこは命を感じさせない領域であった。
 そこにあるのは巨大なただ一つ。
 何人をも、侵略させぬという強い意志がただ一つ。
 強大な存在は、そこにあるだけでもう強い。
 数百メートルに及ぶその一つは、その存在感のみで圧力を持っているようだった。
 宇宙の法則として、質量のより大きなものに引力は生じる。
 故に、光すらも遮断するほどの重力、ブラックホールはあらゆるものを吸い込むとされている。
 そう、存在とは言い知れぬ引力を持つ者。
 自身がその身を、武器を持つ手を、重いと感じさせるその実感こそが、存在であり、重力の証明。
 だとするならば、目の前の巨大な獣、ケルベロス・フェノメノンの持ち得る存在感、重力、引力たるや。
 今や、絶対的な無敵の能力は、存在の欠落を破壊したことで解除され、討伐可能とされているにも拘らず、その在り様は未だに圧倒的であった。
「欠落を壊しても、力は変わりませんか……」
 魔女の様なシルエットを持つキャバリア『トラウム』のコクピット越しに、その全容を把握するのも難しい巨体を前に、結城・有栖(狼の旅人・f34711)は、その圧倒的存在感を前に操縦桿を握る手が汗ばんでいる事に気づく。
 走行を介して尚、悪寒を覚えるほど粟立つ感覚ながら、集中を欠くまいとついつい力んで握りしめていたらしい。
『何だか、圧倒的な力の中に強い怒りも感じるネ』
 胸の内の灯が冷えるのを、彼女の内なるオウガ、オオカミさんが温めるかのように声をかける。
 シュトゥルムシステムで飛翔しつつも、その頭頂を見越す事すら難しい規模の違いを覚える相手に委縮する気持ちも、オオカミさんと一緒ならば心強い。
「なら、その怒りに対して強い心を持って挑みましょう」
 二人で一つ。三つ首相手には厳しいかもしれないが、巨体を相手取るもキャバリアの真骨頂とも言える。
 風のオーラを纏い、空中で波に乗るように飛行するトラウムを見上げるのは、刀を携えた軍装の男。
 キャバリアが味方に居るのはこの上なく心強い。が、5メートル規格のキャバリアの勇ましい姿をもってしても、今回ばかりはその背が小さく見えてしまう。
 それほどまでに、対峙する相手は巨大だ。
「無敵だとか、死に至る呪いを振りまくだとか、とんでもない兵器を持つとか……まさに禁獣と呼ばれるに相応しいのだろうが──」
 ぱちん、と鯉口を切る乾いた音が腰のあたりから鳴る。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の帯びた神刀から溢れ出る神気が、外気に流れ出して間もなく彼自身の身体に吸われていく。
 神器を使う彼の肉体を、精神を、蝕むと共に次の段階へと押し上げる神気と呼ばれるそれは、人の身を神の刃へと変じていく猛毒だ。
 だが、強敵を前にした鏡介は、迷うことなくその劇薬を煽る。
 道の示すままに。
 その敵を討つためならば、己の信じた道を往くためならば、信念の名のもとにその身を捧げていくのだろう。
 だがしかし、人から人でなしに変わりつつあるその身に、刀一本。果たして、追いつけるものだろうか。
 そして、思うのは、
「連中はこんなのをどうやって封印していたんだろうな。敵ながら天晴とでも言うべきかね」
 恐ろしく巨大で圧倒的な存在感を持つ者が、何者かに封印されたというのも驚きだが、それを思えば五卿六眼のいずれかが協力でもしたのだろうか。
 疑問は尽きないが、とにかく人の身でケルベロス・フェノメノンを退治するのは実に骨が折れそうである。
 何よりも、間合いの差がまず大きすぎる。
『容易く力を振るう……その力が、強大過ぎる事も知らず……故に、近付ける訳にはいかぬ……』
 地響きのような低い声と共に、その背部に負った巨大な機械兵器が駆動する音が響く。
(来る……!)
 猟兵たち二人の認識、そして作戦は共通していた。
 果てしない体格差の前に、生半可な攻撃は通用しない。
 ならば、反撃のチャンスを待つしかない。
 そう、グリモアベースでの話に合った通り、ケルベロス・フェノメノンが攻撃の際に出現させるという小剣を拾うため、なんとしても彼の者の攻撃を凌がなくてはならない。
 選ぶのは、必然的に回避。
 受けるという選択肢は、二人には無かった。
 それほどまでに、雨の如く飛び交う弾雨が、大地で、空中で炸裂し、その爆風、爆炎が地獄の業火の如く燃え広がる。
「う、うう……!!」
 空中でそれらを巧みに回避するトラウム、有栖の形相は口の端に泡を浮かべる程に必死であった。
 動物的な勘と直感からくる先読み。それらを駆使しても、どうしても回避不能な密度で迫られるのを、巨大な砲弾に張り付いて飛び越すような要領で乗り越え、或は当たったように見せかけて残像に肩代わりしてもらったりと、幾重にも広がる不可能弾幕を気合で乗り越えていく。
『右ー、上ー! あ、あ、目が回るネー!』
 思考が追い付かない部分をオオカミさんに手伝ってもらいつつ、しかし下には絶対に避けない。
 降り注ぐ攻撃である以上、下に避けるのが最も安易で無難である。しかしながら、下方に高度を下げれば最後、二度と這い上がれぬほどの弾雨を再び回避しなくてはならないし、何より地面では鏡介が奮闘していた。
「……カッ!」
 裂帛の気合と共に洩れる呼気が空を裂く。
 弾雨の中で吹き荒れる爆風の中を、鏡介は熱風に煽られながら、驚異的な集中力で針の穴の様な安全地帯を低く踏み込んで進み、目の前に巨大な弾丸が迫れば、神刀を振るった。
 迎撃の一撃は、たとえ完璧に入ったところで、巨大な砲弾を切り裂くことも跳ね返す事も叶わない。
 何で出来た砲弾なのか、その弾道を逸らして道を確保する事はできるにしても、鏡介が細心の注意と渾身の抜き打ちによって成るのは、悔しいところ逃げの一手である。
 それが、神気を帯びた剣圧、神刀を用いた絶技【無常】だとしても、その攻撃を本来の用途である、打ち返しとして発揮できないのは、流石に内心に焦りを覚える。
 が、そこで持ち崩すようでは、刀を持つ者として敗北を認めたも同じ。
「無茶は百も承知。あんなものを、斬ろうって言うんだからな」
 人でなしの何かに変貌しつつあるその腕に電撃の迸るような衝撃を残しながら、鏡介は鋭く息を下腹に溜める。
 いつまで、この弾雨は続くのか……?
 もうもうと、炎なのか煙なのか、奪われる視界の果てにケルベロス・フェノメノンの姿すら見えなくなりつつある中に、必死に視線を巡らす二人の猟兵。
 果たして光明は、正に星の如く現れた。
 いや、それはもしかしたら、爆炎の中に垣間見えた粉塵の燃える一片だったのかもしれないが、たとえそうであったとしても、手を伸ばさざるを得なかった。
 人ならざる鏡介の腕が、金属装甲のトラウムの腕が、地に突き刺さったそれを、空に舞うそれを、拾い上げた。
 小さな、幅の広い刀身を持つそれは、まさしく|小剣《グラディウス》。
 手にした瞬間、不思議なものが流れ込んでくるような、その存在が自らの存在と重なるような、胃の腑に落ちる様な感覚があった。
 それと共に、実感が生まれた。
「オオカミさん、今なら、できる気がします」
『そう? なら、やっちゃいナー!』
 身体の中に風を感じる。自分がそこに在っていいのだという妙な自信が、有栖にユーベルコードの使用を駆り立てていた。
 【想像具現・雷の魔鳥】により生み出された雷を纏うハーピーが、光の尾を引いてケルベロス・フェノメノンに襲い掛かる。
 その軌跡に迸る雷が砲弾の雨に誘爆し、巨大な獣に確かな傷を与えていく。
「そうか、今なら──」
 軍装の胸に差し込んだ小剣が、妙に身体に馴染む。
 駆けずり回っていた足は、いつしかつま先から踵まで大地を踏みしめ、あらゆる場所が危険地帯になってしまった戦場に於いて、足を止める余裕が生まれていた。
 此処に在っていいのだという不可思議な確信と、この場所からならばできるという確信が、鏡介を強く出させていた。
 そこに居れば、必ず飛んでくる砲弾があると、確信めいたものが見えていた。
「今一度、我が一刀、悉くを斬り返す――絶技【無常】」
 斬るでなく、打つでなく、向かい来るその攻撃を、返す。
 神気とそれによって生じる剣圧とを、正しくぶつけ、力の向きを変える。
 それが、相手の規模によっては極めて不可能に近い事であっても、それが成せるという確信のもとに、それは成った。
 音も光も無用。その事象に、ひと時、剣を打てばそれで片が付く。
 地獄と化す機械兵器による砲弾が、正確に打ち返され、その炎がケルベロス・フェノメノン自身を焼く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日野・尚人
【陽のあたる家】
あんたが何を守ろうとしてるのかは知らない。
でも俺たちからしたら突然因縁吹っ掛けて襲って来るあんたの方が性質悪いぜ?
ともあれ守るものがあるのはこっちも同じ!聞く耳を持たないなら力で捩じ伏せるまでだ!

まずは小剣の入手だな。
|魔力障壁《オーラ防御+呪詛耐性+火炎耐性》を展開。
<視力>と<集中力>、<第六感>で攻撃を<見切り>、<ダッシュ>で躱しながら機会を窺うぞ。

で、入手出来たらポーラとの|連携技《UC》で猛吹雪のような銃弾と斬撃の<連続コンボ>をお見舞いだ!
そりゃ出会いの全てが良いものじゃないのは認めるけどさ。
中には何ものにも代えられない運命の出会いってのもあるんだぜ♪な、ポーラ♪


ポーラリア・ベル
【陽のあたる家】
そうよそうよ!ポーラ達の世界もこの世界もまっ血っ血にするわけにはいかないんだから!

グラディウスを入手する為に叩くのよ!
【凍結攻撃】のオーラを展開し、地獄の炎を緩和。
【天候操作】で嵐を呼んで、爆風を明後日の方に逸らしつつ、
なおなお(尚人)に【騎乗】して一緒に突撃し、【見切り】で攻撃を回避し
【凍結攻撃】で大きくした氷のベルで【怪力】任せにぶん殴るわ!
わんこ!伏せ!

グラディウスを手にしたら反撃だわ!
UCで冷気を増幅した超強力な銃剣を生み出すから、受け取ってなおなお!ポーラ懐に入ってる!
猛吹雪の銃弾と斬撃でかちこちのぱりんぱりんにしちゃえー!

そうよ。託したこの想いは嘘にならないもの!



 それはまるで、怒りの炎。
 焚き火に触れたことはあるだろうか。
 広大なダークセイヴァー上層の中でも、ひときわ生物の気配の少ない禁域と呼ばれる場所に、その巨大な獣は座していた。
 全長数百メートルに及ぼうかという巨体は、それ自体が山のようであり、それはまるで怒れる炎のように揺らめいてすら見えた。
 それを目の当たりにした日野・尚人(あーちゃんの早朝襲撃に断固抵抗する会終身(?)会長・f01298)は、幼い頃に焚火をしていた頃の記憶が過ぎる。
 思った以上に燃える炎が、ふと風にあおられて煙を向けてくる。まあそれはいいとして。
 その火に触れたわけでもないのに、近くにいるだけでその熱気を感じるひと時。
 汗ばむでも温もるでもなく、ただ表皮をちりちりと炙るような熱気が、子供の頃は恐ろしくも感じた。
 それでも、目の前の存在は、その比ではない。
 少年の心中は穏やかではなかった。
 それが無敵を廃したとはいえ、絶対的な存在である事を、今まさに肌で感じる。
 その手に握る銃が、ナイフが、いかにも頼りなく思える程に、それは圧倒的だ。
「う、うー……!」
 その頭上、正確には尚人の頭に乗っかる青い妖精、ポーラリア・ベル(|極晶《きょくしょう》アイスエイジプリンセス・f06947)も、言葉にならぬ声で唸る。
 無垢なる少女、妖精たる本能なのだろうか。その存在感に思わず気圧されている。
 対峙しただけで火に煽られたかのようなピリピリとした感覚を味わう。その存在感の強さは、空気にすら重力を持たせているかのような圧力であった。
 その空気に呑まれてしまえば、息をするのすら困難に思えてしまう。
 いや、何をやっているんだ。
『まだ、来るのか。六番目の猟兵。何人たりとて、|惑星《ほし》の侵略は許せぬ……』
 地響きのような声が響く中で、尚人は自身を叱咤する。
 敵を前に、ビビってんじゃねぇ。自分にはもう、守るものがいっぱいなのだ。
 頭越しにかすかに震える相棒の存在を感じると、尚人はもはや腹を据えるしか道を見出せなくなる。
 どんな絶望的な相手であろうとも、自分らしさを貫くことでしか、最大限に戦う事などできない。
 腹が決まると、たどたどしかった呼吸が深く行えるようになり、湧き出そうになっていた恐怖心が腹の底に落ち込んだのが理解できた。
「あんたが何を守ろうとしてるのかは知らない。
 でも俺たちからしたら突然因縁吹っ掛けて襲って来るあんたの方が性質悪いぜ?」
『汝らは、不用意に力を振り撒き過ぎる……我が星には、不要だ』
「話になんねーか。まあ、だろうよ」
 相手はとんでもなく強敵だが、石のように重く感じていたその身体は、言動に伴うかのように軽やかになっていた。
 その意気は、先ほどまで委縮していたポーラリアにも伝播する。
 二人一緒にいる限りは、どのよう絶望的な状況でも、勇気が湧いてくる。
 ぐっと強く踏みしめる気配が、頭皮に感じる。踏まれてますけど、それはいいんですかね。
 いや、いつもの調子を取り戻したポーラの気配を感じれば、尚人とてもはや折れぬ勇気を手に入れたも同じ。
「ともあれ守るものがあるのはこっちも同じ! 聞く耳を持たないなら力で捩じ伏せるまでだ!」
「そうよそうよ! ポーラ達の世界もこの世界もまっ血っ血にするわけにはいかないんだから!」
『去ぬるがよい、猟兵ども!!』
 恐ろしい気配が爆発的に燃え立つのがわかる。
 それと同時に尚人は、前に──いかずに、全力で後ろへ跳ぶ。
 瞬間、目の前が眩い紅蓮に染まる。
「うおおっ!!」
 全力の魔力障壁。
 体格差は絶望的。その存在感、感知出来得る魔力の総量は、吐き気を催すレベル。
 そんなものが、不意に目の前を業火に染めて地獄と化す。
 膨大な呪詛と魔力に依る地獄の業火が薙ぎ払われるのを、直前に回避したまではよかったが、その余波ですら障壁を貫く熱波が尚人の腕を炙る。
「うわーっちぃ!! ポーラ、平気か!?」
「集中してるから、今無理なのよ!」
「よーし、無事だな!」
 主に肉体労働してるのは尚人であり、その頭に乗っかっているポーラはマスコットをしているわけではなく、ケルベロス・フェノメノンの攻撃に対抗するために凍結魔法と天候操作を駆使して雪嵐のような防護壁を構築することによって、地獄の炎をなんとか緩和しつつその余波を逸らしているのだった。
「長引いたらやばいわ! 輻射熱って、ホントにやばいんだから!」
「ああ、マグマ的なあれだろ。わかってる。もう引けないぜ」
 遠赤外線効果とも通ずるものがあるその熱伝導は、肌を焼くより早くその中身にまで伝達する。
 長期戦は不利。
 そう判断した二人の行動素早く、消えざる地獄の業火の最中を敢えて突っ切る大胆な戦法に出たのだった。
 消えざる業火を振り撒かれ続けては、遠からず二人ともこんがり仕上がってしまう。
 グリルにされる前に、相手をブッ飛ばすなりしなくては活路はない!
 そしてさらに言えば、二人には確信があった。
 攻撃の最中にこそ、彼等が本当に求めるものが転がっている筈と。
 果たして、目眩のするような紅蓮の最中に、金属の光沢を見た尚人は、咄嗟にそれを拾い上げる。
「う、次が来る! ポーラ!」
「ううー! まーかせて!」
 降り注ぐ濃密な魔力塊。それを正面から受け止めるのは不可能に近い。
 敢えて踏み込む。巨体ならば、その足元にこそ死角はあるはず。
 その間に、ポーラリアの掲げる氷のベルが、更に氷を増設して巨大化していく。
「わんこ、伏せ!」
 がぁん、と鉄塊同士がぶつかるような激しい衝突音と共に氷の欠片が舞う。
 まさか、打ち負けたというのか。いや、ちょうど角度を変える様な形で炎がそれていく。
 それに、ポーラリアの気配も感じる。
「大丈夫──、受け取って、なおなお!」
 絶望が過ぎったかと思った、次の瞬間には、二人は不意に溢れ出てくる自信、なにやら確信めいたものを胸に抱いていた。
 それはほとんど無意識のうちに二人が手にしていた、拾い上げていた|小剣《グラディウス》がもたらす、不可思議な安心感。力。そこに在ってもいいのだという、重力にも似た実感。
 それに促されるように、ポーラリアはきらきらと舞う氷の欠片の中で【終焉を告げる凍氷の銃剣】をユーベルコードにより創造していた。
 からんからんと、まるで鐘を鳴らすかのように氷の欠片が鳴る。
 小剣と重なるように作り出された氷の剣と銃は、まさしく尚人の使うために生まれたものであり、在るべくしてその両手に収まる。
「ぱりんぱりんにしちゃえ」
「ああ、獣はもう、眠る時間だ」
 幸いにも深く踏み込んだ二人は、もはや武器の間合いであった。
 【終焉を齎す清冽なる氷鐘】。猛吹雪を呼ぶ銃と剣による、激しい連撃が、地獄の業火を突き破り、ついにはケルベロス・フェノメノンの巨体を駆け上がるようにして切り裂き、撃ち抜いていく。
『むううっ……やはり、強すぎる力だ……星を破壊しかねない。このようなものと、出会うべきではない……』
「そりゃ出会いの全てが良いものじゃないのは認めるけどさ。
 中には何ものにも代えられない運命の出会いってのもあるんだぜ♪ な、ポーラ♪」
「そうよ。託したこの想いは嘘にならないもの!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリヴィア・ローゼンタール
その身が地獄だというのなら、討ち滅ぼし、生ある世界を取り戻す!

戦場を駆けずり回り、夥しい弾丸や呪詛を躱す
泥に塗れてもしぶとく好機を待つ(継戦能力)
訪れる好機……小剣を【心眼】で見逃さず、奪取
天来せよ、鋼の大英雄――!

虚空より現れるヘラクレスに【騎乗】
パイロットスーツに身を包み、小剣を握り締める

大地を踏み砕きながら吶喊、【極鋼爆裂拳】を叩き込む!
重力を奪われ宙に浮きそうになればしがみ付き、更に【極鋼爆裂拳】!!
重力を与えられ押し潰されそうになっても【気合い】と【根性】で抗い、全身全霊の【怪力】で【極鋼爆裂拳】!!!
ケルベロスの名を持つ者よ! 神話に倣い、ヘラクレスの剛力に沈むがいい!!


夕凪・悠那
文字通り番犬か
どうして|惑星《ほし》に行かせたくないのかは知らないけど、無敵ギミックが消えたんだ
ここで倒させてもらう

まずは|小剣《キーアイテム》を手に入れる
『エルドリッジ』に搭乗
機体の電磁障壁と、『Metis』でブーストした『Virtual Realize』の防御プログラムを全力で展開
小剣を見つけたら磁力付与で手元に引き寄せる

【|壊獣王《ベヒモス》】
小剣でのブーストを召喚時の存在拡大に使用
本来は100m級
だけど数倍化すればケルベロスに正面から匹敵する規模だ
初撃、"獣王無尽"で消えざる地獄の炎ごと地形を砕いて継続ダメージ解除

ボクは巻き込まれないように離れるよ
ベヒモス、後は任せた



 燃え立つ戦場の中で、それは未だ山のように在った。
 数百メートルに及ぶ巨大な獣の姿は、そこに在るだけで威圧感を放つ世界にとっての異物であった。
 太陽より重い天体はない。なぜならば、一つの銀河は、最も質量のあるものに引き付けられる性質があるからだ。
 重力、引力。そう、存在の強さは、ある種の引力を持っている。
 恐ろしい悪魔のような形相。無数の瞳が浮く凶悪な形相。沸き立つ炎のような憤怒の形相。
 三つ首の獣に、数限りなく積層されたそれらの要素は、まるで一つの星の辿った幾重もの歴史を物語るかのようであった。
 それが仮に何かを守るためにあるならば、どうしてダークセイヴァー上層に封じてあったのか。
 その謎は尽きないが、そんな怪物を手駒として配しているならば、いかに恐ろしい獣であろうとも排除しておかなくてはなるまい。
「そうは言うけどもね。サイズ差エグいよこれは」
 キャバリアのコクピット越しにも感じ取れるほどの熱気。地獄のような外気とは遮断されている筈なのに、遠目に山の如く佇む怪物のサイズ感は、実に奇妙であった。
 夕凪・悠那(|電脳魔《Wizard》・f08384)は、UDCアースに割と一般的と言ってもいい若者の感性の持ち主である。
 さすがに全長数百メートルの三つ首の獣を相手に、まあでかい犬などとは言えまい。
 電脳の海に揺蕩うバトルゲーマーであるからには、多少偏りのあるサブカル知識で補えなくもないものの、いいところヤバめのレイドボスと表現するくらいか。
 その表情は冴えない。
 彼我のスペック差を、ざっくりと想定してみても、まるで勝てる見込みが無いように思えて仕方ないのだ。
 キャバリア『エルドリッジ』の性能を疑う訳ではない。ただ、人より大きな機体といっても5メートル規格のロボットだ。体格差だけでも60倍以上はあろうか。
 表情の薄い悠那とて、人目を憚らずクスリと笑ってしまいそうなくらいに規模が違う。
 なんてばかばかしい。でも、だからこそ、やりがいを見出してしまうのがゲーマーであった。
「文字通り番犬か。
 どうして|惑星《ほし》に行かせたくないのかは知らないけど、無敵ギミックが消えたんだ。
 ここで倒させてもらう」
 やる気を見せる傍らで、悠那はふと懸念を覚えつつ、眼下に視線を移す。
 そこに一人佇むのは、戦う修道服姿の女が一人。
 まさか生身で対抗するつもりだろうか。
 猟兵には変わり者が多いらしいが……オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)という猟兵のその在り様には、目を見張るしかない。
 機体越しに視線が交わったらしい。眼鏡越しにオリヴィアは「お気遣いなく」と微笑みを浮かべると、眼前に山の如く在るケルベロス・フェノメノンに対し向き直った。
「その身が地獄だというのなら、討ち滅ぼし、生ある世界を取り戻す!」
 その挑戦的な宣言は、まるで踏み潰せるものならやってみろと言わんばかりのものであり、よもやケルベロス・フェノメノンも猟兵相手に油断などせず、その身に負ったあらゆる武装から雨の如く銃弾を発射する。
「マジか……障壁展開……!」
 あっという間に、オリヴィアを心配する余裕など微塵も無くなるほど、悠那は回避行動に専念せざるを得なくなる。
 電脳魔術士である悠那の脳には、常駐する電脳術式『metis』が刻まれ、その膨大な演算を補助し、翻訳し、並列的かつ高速で処理する事を可能としている。
 知識としてイメージしやすいゲームのアイテムやプログラムなどを高速で現実に投影して再現する『Virtual Realize』を介し、あらゆる側面から外敵の侵入を阻む防御障壁を展開して弾雨の猛攻を凌ぐが。
 視界はほぼ紅蓮の炎で埋まってしまう。
 もはやどこが上で下かも見ただけでは判別しかねるほどの猛烈な弾幕。
「うおおおおっ!!」
 それでも、どこかしらから、オリヴィアの叫び声が聞こえてくる。
 ダンピールの反射神経は常人を遥かに上回り、その身体能力は筋肉の瞬発力から打たれ強さまで並外れている。
 とはいえ、たとえ直撃を避け、見切り、その全てを回避しようと試みても、面の攻撃の全てを、その余波まで完璧に躱し続けることは不可能であった。
 だからこそ、オリヴィアはその黒い装束が千々と食いちぎられ、そこかしこに血の染みを黒い煤をこびりつかせても、喉を潰す勢いで叫ばずにはいられなかった。
 声がしているうちは、生きている。生きていれば、地獄を踏破できる余地があるという事だ。
 泥にまみれ、灼熱がこの身を焦がそうとも、信念が折れなければ、必ず目的のものに到達できる。
 巨大なものを相手にするときに、格言じみた言葉がある。
 ゲーマーである悠那はそれを知っていた。
「やばいな。障壁が間に合っていない。いつまでもつか……けどまあ、敗北は心が折れたとき。まだいける」
 猛攻にさらされる事など、百も承知。
 なぜならば、ケルベロス・フェノメノンを討伐できる可能性をわずかでも高める光明は、彼の者が攻撃をする際にしか姿を見せないという話だったからだ。
 そして、その時はやってくる。
「金属反応……! 磁力付与……駒は揃った、かな?」
 思わず疑問形にしてしまったが、キャバリアの手に収まったその金属片、いやグラディウスを拾い上げた瞬間、それは確信へと至った。
 何かが胃の腑に落ちる様な、納得する気持ち。地に足が付くような感覚が、その小さな剣からは流れ込んでくるようだった。
 そしてそれは、もうもうと立ち上がる爆炎の中にたたずむオリヴィアの手にも握られていた。
 無数の火傷跡、いや焦げ跡もあろうか。それでもしっかりと両の足で立ち、掲げた手に握る小ぶりな幅広のグラディウスを見上げるその眼差しは、闇雲の中で眼鏡にひびが入ろうと見逃さぬ心眼でしっかりと掴み取っていたのだった。
「やっと、これで……勝負ができますね。天来せよ、鋼の大英雄――!」
 しっかりと|小剣《グラディウス》を握りしめ、オリヴィアは虚空より出でたキャバリア『ヘラクレス』へと乗り込む。
「ケルベロスに、ヘラクレス……シャレきいてるな。さてこっちも」
 切り札と言わんばかりにスーパーロボットを引っ張り出してきたオリヴィアを横目に、悠那もまた、ユーベルコードによって【|破壊王《べへモス》】を呼び出す。
 捩じれた角、青銅の如き筋骨隆々として筋肉、大木の様な尾を持つという、天災の具現たる怪物。電脳から現実へ再現するその大魔術は、手にしたグラディウスによって数倍にその存在を巨大にする。
 ゲームで相手取った時はだいたい100メートル級。しかし、今回は相手に合わせてその数倍超。
『ヴォオオオッ!!』
 猛然と雄叫びを上げて体当たりを仕掛けるべへモスの力はまさに破壊王の名に相応しく、煮え立つ業火の炎を押しのけて削り取る程の衝撃をもたらした。
「これで条件は五分……うっ」
 ぶつかり合う怪物同士を見下ろした辺りで、エルドリッジのスラスターにオーバーヒートの警告が鳴る。
 これまでの攻防で熱に当たり過ぎたらしい。とはいえ、悠那自身の出番はもう十分だろう。
「ボクは巻き込まれないよう、離れとくよ。べへモス。後は任せた」
 そして、一人戦闘空域から離れんとする悠那と入れ替わるように、ケルベロス・フェノメノンに飛び掛かる人影がもう一機。
 ボロボロの黒装束を脱ぎ捨てたその下には素肌……ではなくパイロットスーツと、そして握りしめるグラディウスにより、乗り付けたヘラクレスにはその存在の力とも言うべきものが加わっていた。
 跳びあがるべく踏み抜いた大地が罅割れる。
「打ち砕け!」
 いくつも課された苦難の試練を悉く生き抜いたという大英雄。それを模したキャバリアの鋼の拳が唸りを上げる。
 【極鋼爆裂拳】それは、ヘラクレスの剛腕による、シンプルな打撃。
 重量、そして膂力。そして、自らの存在を改めて自覚したかのような、迷いのない力を得たグラディウスによって倍増されたユーベルコードは、その拳の威力を増大させていた。
 一撃、二撃、打ち込まれるたびに周囲の地形が歪むほどの衝撃が響き、この場に知性など無いかのような怒号と悲鳴がかち合う。
「うっ……!? 重さが!?」
 不意に踏みつける足場が無くなった。浮遊感を得たヘラクレスは、自身が重力を奪われて身体が浮き上がるのを感じた。
 これでは打撃に力が乗らない。いや、密着すれば膂力のみで打ち続けられる。
 だが、その手は空を掻く。万事休すか……歯噛みするオリヴィアの背後に怒声を上げるもう一匹の獣が迫る。
『ヴォオオオッ!!』
「べへモス……! わかりました!」
 凶悪な形相の破壊王は、果たしてヘラクレスを味方と捉えているのかは不明だったが、オリヴィアはそれを好機と読んだ。
 弾丸のように身を縮めたヘラクレスの身体が、べへモスの体当たりによって肉弾と化す。
 そのインパクトに合わせて全身のバネを使って蹴りつけたヘラクレスはさらに加速し、伸ばした手が再び【極鋼爆裂拳】を放つ。
「ケルベロスの名を持つ者よ! 神話に倣い、ヘラクレスの剛力に沈むがいい!」
 オリヴィアの全身全霊の怪力を、余すことなくヘラクレスに伝え、その拳は山の如き雷の如きものに突き刺さった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バーン・マーディ
機神搭乗

ケルベロス…ケルベロス…何故か分からぬが我が心が騒めく

【戦闘知識】
ケルベロスの動きと攻撃の癖を分析

対POW
元よりあれは肉体に作用する物ならば
肉無き機械の身に影響を及ぼせるか…?

【オーラ防御・属性攻撃】
炎のオーラを機体に纏わせ

【武器受け・カウンター・怪力・運転・二回攻撃・切断・鎧無視攻撃・鎧破壊】
敵の攻撃を軍神の剣で受け止めカウンターに連続斬撃で切り刻みながら激突

小剣を落とせば回収すると同時にUC発動

突き刺し破壊のオーラを流し込む!
いかに事象だろうと肉体があるならば

内側から粉砕せん!



我が遠い遠い記憶が叫ぶのだ
|勇者《エインへリヤル》の敵であるケルベロスよ
貴様の滅びに叛逆してくれる!!!


ユリウス・リウィウス
馬鹿でかい獣だよなぁ、無駄に。
まあいい。獣は人に狩られるのが役目だ。きっちり狩られちまえ。

「先制攻撃」させてもらうぞ。「範囲攻撃」で絶望の地を発動。「呪詛」をケルベロス現象に打ち込んで、地表を闇に塗り替える。
これで大抵は地面の屍体が相手の脚にすがりついて動きが止まるんだが、このサイズじゃそうもいかんか。「影縛り」も仕掛けてみよう。
反撃は「呪詛耐性」で凌ぎ炎は「環境耐性」でなんとか耐えてみる。

地力の底上げは出来ている。領域内を駆け回って、小剣が落ちてきたらすぐに確保しよう。
この剣を使えば、ケルベロス現象に終止符を打てるんだな。
ならば、もう一度呪詛を放ってみよう。さあ、今度はどうなるか。



 おおよそ、生物の気配の感じない禁域と呼ばれる地は、凄まじい気配一つを除けば厳かな静けさがある場所に思えた。
 何しろ、全ての生物、あるいは生物でないものであろうとも、この領域にある空気すらもが、それに平伏しているかのような圧力があるからだ。
 ケルベロスと言えば、鱗の生えた獅子とも言われ、三つ首の獣とも言われ、業火をまき散らすとも雷を纏うとも言われている。
 その形容の多さ故だろうか。
 数百メートルを誇るその山の様な存在は、なんとも形容のしがたい姿をしていた。
 死神とも悪魔とも、炎そのものとも言える様な多様な姿に、背に負うのは近代兵器を思わせる機械の装甲。
 地獄の底の様な静かで大きな生命力と膨大な魔力を感じると共に、その成り立ちは高度な知性体による結晶のようにも感じさせる。
 話し合う事でも叶えば、それと意思を交わす事も可能やも知れぬ。
 穏健な猟兵ならば、そう考える者も居たかもしれない。
 だが、これを目の当たりにしてまで、同じ考えを持つ者は居るだろうか。
 空気を凍り付かせるようなそれは、紛れもない敵意。
 常人ならば、その威圧感だけで膝を折り絶望してしまうであろう、その正面に佇むのは鎧姿の騎士二人。いや、その人影は三つ。
「ケルベロス……ケルベロス……」
 漆黒の全身鎧に身を包むバーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)は、自らの意志に応えて現れたというキャバリア、機神『マーズ』の機上に仁王立ちしながら、なにやら口の中で言葉を反芻する。
「お、総帥殿は、あの馬鹿でかい犬に覚えでもあるのか?」
 膝をつきつつも油断なく目の前の巨大な気配を前にするマーズの、その傍らに立つもう一人の黒騎士、ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)は、そんな訳はないと知りつつも訊く。
 いや、いつの間にか神の座へと到達したという異色の経歴を持つバーンなら、神に連なる知り合いの一人や二人いてもおかしくなさそうだが。
 しかしながら、当座の馬鹿でかい獣の知り合いはどうやらいなかったらしく、バーンは瞑目していた目を開く。
「覚えはない。が、何故か分らぬが、我が心が騒めく」
「知らん記憶というのは、そうだな……案外、生まれる前の記憶なのかもしれないな」
「……む、浪漫だな」
「怖い顔で浪漫と言われてもな」
 強敵を前にしているとは思えぬほどの穏やかな交わしつつ、ゆるく肩を揺らすユリウスが、両の腰に下げた剣を抜き放ちつつ、前に出る。
 全長数百メートルに及ぶ獣を相手に、その身一つで戦えるものだろうか。
 しかし、バーンは引き留めない。
「先に仕掛けさせてもらうぜ。どうやら、待っていても好機は訪れんらしいからな」
 振り返らず、ユリウスは数歩前に出て、すぐさまユーベルコードを使用する。
「大地に満ちるは救われぬ亡者の怨嗟の声。摂理は死すらも万人に対して平等ではない。不条理に生きて死んだ亡者ども、その怨念を解放せよ」
 両の剣で描いた魔法陣は死霊を操る術の一つ。どす黒く染まった靄の様な呪詛の塊がケルベロス・フェノメノンの前足に着弾する。
 それを避けようともしないのは、単純にその体格が大きすぎる故か、それとも避ける必要も無いと判断したのか。
 とにかく、命中すると共に、溢れ出たヘドロの様な闇が周囲の地形をも巻き込んで沼のように広がっていく。
 【絶望の地】は、瞬く間にその場を絶望と怨嗟を振り撒く亡者の空間を作り上げる。
 それは、死霊術士でもあるユリウスにとって都合のいい戦場を形成するものであった。
 ユリウスの術に加え、その能力を引き上げる効果もあるが、一番の目的はケルベロス・フェノメノンの足を封じるためであった。
 その足に這うのは、闇の底から出でた無数の怨念と亡者たち。
『死を弄ぶか……しかし、ここはもとより地獄……我が呪詛は、億万に上れり』
「チッ、やっぱりこれだけでは足りんか!」
 サイズ差は如何ともしがたい。おびただしい数の亡者たちに群がられ、闇に足を取られようとも、ケルベロス・フェノメノンはその全身から同等の呪詛を吹き出し、ついにはその身から地獄の業火をまき散らす。
 力任せに、その圧力と圧倒的存在感で以て、拘束を引き千切らんとするのに抗おうと、ユリウスはその巨大な影を縛り付ける術を重ね掛けするが、その力は個人で押し留められるようなものではないようだ。
 その顔が熱気で煽られる。いや、顔と言わず、全身、甲冑すらも通り抜ける地獄の業火と呪詛が、絶望の地を熱波で覆う。
「ぐ、おお……っ!!」
 全身の血が沸騰するかのようなその熱量、圧迫感。逆にこちらが巨大な圧力で身動きを封じられるかのようなその力量。まさに、圧倒的。
 例えるならば、これは重力。
「そうか、重力……!」
 全身の筋肉や骨が軋みを上げる中で、ユリウスは確かにその声を聴いた。
 『マーズ』に騎乗したバーンが、そこにはいつの間にか滑り込んでいた。
 焔を帯びる光輪を背負うキャバリアのシルエットは、まさに破壊神を彷彿とさせる。
 軍神の剣でケルベロス・フェノメノンの膨大な呪詛を受け止めたバーンは、何かに気づいたようであった。
「元よりあれは肉体に作用する物ならば、肉無き機械の身に影響を及ぼせるか……?」
 受け止める者が、ユリウスからマーズに変わったとて、その数十倍の体格差は容易には埋まらない。
 だがしかし、それが重力に作用するというのなら、飛翔可能なマーズにとっては軽微な問題ではないだろうか。
 そして、沸き立つような地獄の業火の中でも、光り輝く炎の光輪を背負うマーズは、その輝きを失っていない。
 もしかすれば、この機体はケルベロス・フェノメノンと相性がいいのではないか。
「く……どうした、軍神よ。目の前の怪物は、まだ討滅しておらぬぞ」
 全霊のマーズの剣は、その腕を軋ませる。
 搭乗するバーンとて、相手になっているのが常識外の相手である事は理解している。
 そうであるからこそ、叱咤の言葉と共に神機と共に気勢をかける。
「ぐう、くそ……得意科目で押し返されるとは、俺もまだ未熟というわけか……」
 一方のユリウスは、おびただしい熱と呪詛に充てられて、その耐性を十分に発揮していながら全身を引き裂かれんばかりの苦痛に、今にも膝を折ってしまいそうになっていた。
 膝をつくのは、自らが作り出した闇の沼の如き絶望の地。
 懐かしくすら思える、我が身の地獄。どす黒い血みどろの戦場の空気。
 ただ、生き抜くことで必死だったあの戦場を切り抜けて、今はいささか、棘を抜かれ過ぎたか……。
 前のめりに倒れそうになったユリウスは、思わず手近にあった何かを支えに危ういところで踏み止まる。
 馬鹿を言え。ここで心が折れたら、ただ無様に踏みつぶされてしまうだけだ。
 せっかく、棘を抜かれるほどの居心地のいい場所を見出したのだ。
 こんな戦場で死んでたまるものか。
「そうだ。俺は、俺たちはもう、ここに居る」
 不意に手にしたそれが、握りしめると妙に手に馴染むその小ぶりな幅広の|小剣《グラディウス》が、自らの存在を改めて知らしめるかの如く、ユリウスを奮い立たせる。
 見ればもう一本、それはまるで、手にしろと言わんばかりに運命とでも言うかのように、在ったのだ。
 それを手に取って、振るうのか。いや、
 その時を同じくして、真上で戦うバーンの声が轟く。
「我が遠い遠い記憶が叫ぶのだ。
 |勇者《エインへリヤル》の敵であるケルベロスよ、
 貴様の滅びに叛逆してくれる!!!」
「そうだな。獣は人に狩られるのが役目だ。きっちり狩られちまえ。受け取れ!」
 放り投げたグラディウスが、マーズの手に渡ると、それは吸い込まれるように大質量の軍神の剣へと入り込んでいく。
「おお、征くぞ!」
 ごう、と燃えるようなオーラを放つマーズから溢れる熱気が、おびただしい量の呪詛を跳ね除ける。
 高速で飛翔するユーベルコード【城壁の破壊者】もまた、グラディウスによって数倍に強化され、その機体に課せられた重力の鎖をも引き千切る怪力を前に、さしものケルベロス・フェノメノンも距離を取ろうとするが、
「今度は、逃がさんぞ……今一度、くらえ!」
 グラディウスを手にしたユリウスの再びの絶望の地から湧き出る亡者の群れが、ケルベロス・フェノメノンの動きを今度こそ封じ込めた。
 その隙を逃さず、飛翔するマーズが、その機体ごと軍神の剣を怪物の胴に突き入れた。
「いかに事象だろうと、肉体があるならば──」
 【城壁の破壊者】は空を飛ぶためのユーベルコードのみではない。速度の乗った機体から打ちだす攻撃によって、万物を破壊するオーラを叩き込むものである。
「──内側から粉砕せん!」
 破壊の煌めきが迸る。
 山の如き、獣の様な異形の巨体に亀裂が走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久遠寺・遥翔
アドリブ連携歓迎
イグニシオンに[騎乗]しての[空中戦]
無敵能力が失われたとはいえ未だ圧倒的な相手、小剣を回収するまでは敵の攻撃を誘発しつつ[残像]による回避に専念する

蓄積された[戦闘知識]と研ぎ澄まされた[心眼][第六感]で敵には直接触れないように立ち回りながら小剣の落下を[見切り]、右掌に回収だ

「いくぜイグニス、この戦いを終わらせる。オーバーロード、イグニシオン・ソーリス」
ここからは小剣で増幅したUCで反撃
全ては未来を守るために、在り得ざる過去を焼却する
この地に蔓延る痛みを束ねて、小剣を核にさらに増幅した真焔の太刀を、この地の皆とイグニスと心を重ねて振り下ろす

「またせたな番犬、そうはならなかった過去の残滓よ。この|剣《ブレイド》の一撃で、思い出の中に還るがいい。俺達は未来へ飛ぶ!」

回収できそうなら小剣はそのまま回収しよう



 どこかの地底深くを層にする。ダークセイヴァーとはそのような世界らしい。
 それゆえに、その世界は薄闇が常にかかっており、暗黒の空は何処かの天蓋であるらしい。
 ならば、本来そこに在る筈の空は、本来そこに浮かんでいるはずの太陽は。
 この世界に空は無い。
 しかしながら、それは太陽の如く、迸る火を帯びて浮かんでいた。
『……火の者。何度煮え湯を飲んだか知れぬ……。汝の様な者を、近付けさせる訳にはいかぬ……』
 久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)の乗り込むキャバリア『イグニシオン』のその機体を浮かしている機能の一端、機体の放つ炎を忌々しげに複数の瞳が睨みつける。
「イグニスを見ている……? いや、誰かと勘違いしちゃいませんかってんだ」
 もとはオブリビオンの骸魂からできているという黒剣と強いつながりを持つ遥翔は、眼前に山の如く在るケルベロス・フェノメノンが、自分を通して別の何かを見ているような感覚を覚える。
 地の底から胃の腑を突くような、地響きめいた声には怨嗟にも似た響きがあるが、そんな見当違いな怒りを向けられても困る。
 ただでさえ、相手は絶大な生命力と物理的パワー。それに加えてキャバリア越しにも伝わってくるほどの魔力をも感じる。
 無敵を誇っていた能力は、欠損を破壊する事により無効化されているとはいえ、直接やり合う事の無謀さをひしひしと感じるのであった。
 本物の化物とは、こういう奴を言うのだろう。
 これ以上踏み込めば、遠景に見える様な距離感からでも、その全霊をもって攻撃に転じてくるであろう。
 だが、そうせねば、この世界が血に沈む。
 巨悪には見えぬ、ただただ大きな存在を、この手にかける意味はあるのか。
 しかしながら、大きな存在は、|惑星《ほし》を守る為ならば巨悪にも堕する覚悟を見せている。
 こいつはもはや、巨大なオブリビオンなのだ。守るために黒く染まった|現象《フェノメノン》に過ぎない。
「行くぜ、イグニス……!」
 キャバリアのスロットルを上げる。異界の技術により組み上げられたアームドフォートの変形機構の進化系によって形を成したイグニシオン。その核に組み込まれた火の炉が遥翔の意志に応える。
 焔の軌跡を描きつつ加速するイグニシオンへ向け、ケルベロス・フェノメノンは無数の呪詛を振り撒いてくる。
 黒い煙を纏うような近代兵器の砲弾が、雨あられと降り注ぐ最中を、イグニシオンは高速で駆ける。
 足場を用いない空中を選んだのは正解だったかもしれない。
 この弾雨の中を平面的に回避するのは至難の業だったろう。立体的な機動と、動きに緩急をつけた残像を引くフェイントを交えた行動は、面制圧の攻撃を巧みに回避していく。
 その実、それは逃げの一手だった。
 コクピット内では、遥翔の全身の発汗が止まらない。
 イグニスの熱気に中てられたからか。いや、全身全霊で回避に当たっているためだ。
 これまでに経験した激闘。その知識を動員し、極限まで集中し五感全てに至るまで神経を巡らせて肉眼のみならず心の眼で、敵の攻撃を捉えていた。
 それですら、機体の全てに被弾を避けて相手に踏み込もうなどとは、虫のいい話だ。
「う、ぐ……機体が重い!? 当たっちまったのか。イグニス……これくらいで、へばるな!」
 イグニシオンの装甲を掠めた黒い呪詛。たったそれだけで、機体重量が激増したかのようにスラスター出力が思うように機能しなくなる。
 異常を告げるアラートは無い代わりに、重力異常を検知するそれは、どうにもケルベロス・フェノメノンの能力らしい。
 敵に直接触れなければ、と思っていたが、その影響力は存外に広いらしい。
 これで敵に不用意に触れようものなら、機体ごとぺしゃんこにされてしまうのではないか?
 一旦、距離を取るべきじゃないのか。射程外に逃れて、体勢を整えるべきか。
 極限の集中の中で、遥翔の中に逡巡が生まれるが、ここで退いても状況が好転するかどうかわからない。
 既に鈍足状態の機体で、どこまで回避できるかも怪しい。
 このまま接敵できぬまま、押しつぶされてしまうのか。
 背筋が冷えるのを感じる。
 だがしかし、機体の震え。鼓動は、イグニシオンが重力に抗い続けている証だ。
 こんなところでは、終われない。こいつはまだ、諦めてはいないのだ。
 装甲が赤熱する程に、出力を上げて肥大した重量に抗う。
 機体熱量が増大する中で、拘束で流れる周囲の暗黒の景色の中に、遥翔は血走る視界の中に、かすかな光を見る。
 自らの火ではなく、まして、暗闇の中に佇む巨大な獣の地獄めいた炎の煌めきでもない。
「みつ、けたぁ!」
 それが最初からの目的とでも言うかのように、遥翔は、イグニシオンはそれに手を伸ばす。
 猛攻の最中に、ケルベロス・フェノメノンがその存在を産み落とす。まるで、対峙する者の求めに応じるかのように、それは攻撃に合わせて地に落ち、突き刺さっていた。
 |小剣《グラディウス》その名の通り、小ぶりな幅広の剣は、イグニシオンの金属装甲の手には小さすぎるものであったが、その手に触れるとまるで吸い込まれるかのように溶け込んでいった。
 触れたような感触はほとんど感じなかったが、それを手に入れたという実感はあった。
 それは、確信めいたものだった。
 今ならば、やれる。
 重く、圧し掛かるような重力。それが、まるで自分自身の重さを取り戻したかのように、自由に感じた。
「……もう一度、行くぜイグニス。この戦いを終わらせる。オーバーロード、イグニシオン・ソーリス」
 太陽の名の通りに、溢れ出る火の輝きが、イグニシオンの姿を変貌させる。
 オーバーロード。
 その手に握られるのは、黒剣イグニスの原初の炎によって鍛え上げられたキャバリア用の太刀。
 それが何倍にも光り輝いて、降り注ぐ呪詛の塊を、その因果を斬り払う。
 暗黒の地獄。地獄の如き業火が、切り裂かれて、その空間へ更に切り込むようにイグニシオンは踏み込む。
『見えるぞ……破滅を招きかねん、灼熱……我、悪となりて、阻まねばならぬ』
 火を引いて迫る遥翔の姿を、地獄が睨みつけていた。
 それは、未来を守るために絶対的な存在へなさしめた怪物。しかしながら、在り得ざる過去だった怪物。
 この獣がいる限り、未来はやってこない。
 ならば、斬らねば。
 仲間たちの残した傷跡を、イグニスと重ねた心の火で以て、
「またせたな番犬、そうはならなかった過去の残滓よ。この|剣《ブレイド》の一撃で、思い出の中に還るがいい。俺達は未来へ飛ぶ!」
 【因果を灼く真焔の太刀】が、亀裂を帯びたケルベロス・フェノメノンへと切り込んでいく。
 振り下ろされた炎の一閃は、不思議と、吸い込まれていくかのように怪物の負傷をつき、ついにはその因縁を断ち切った。
『……。いずれ、重力の鎖は、汝らを導くであろう。そして、貴様の様な剣を持つケルベロスもまた……』
 ごう、と、燃えて爆ぜる炎の奔流が、地響きのような彼の者の声を押し流していく。
 聞き違いか?
 巨大な存在の去った虚空を見つめるイグニシオンの熱量は徐々に冷えていく。
 それと共に、緊張の糸の切れた遥翔に猛烈な疲労感と眠気が襲い掛かる。
 そろそろ時間切れかもしれない。
 だがたしかに、その手のうちに、小さな刃の存在を感じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月26日


挿絵イラスト