●あきらめとはまた別の感情を持つ者
サムライエンパイアにおいて猟兵たちとクルセイダー……今は『晴明クルセイダー』との最終決戦は既に始まっている。その光景を遠くから眺めている者がいた。
『おいおい、なんだよこれは』
巨大な太刀を持った偉丈夫の正体は猟書家『真柄十郎左衛門直隆』だった。かつての豪傑と同じ名を持つ直隆が今は亡きクルセイダーの江戸幕府転覆という使命のために企てた計画はヤドリガミの暗殺だった。改めての解説になるが、ヤドリガミは百年使われた器物に魂が宿って人型の肉体を得た存在である。なので当然、ヤドリガミの『本体』である器物を使っていた者がいる。その人は存命だったり物故者だったりするが、直隆の狙いはヤドリガミの『本体』を破壊することによってこれを殺し、もしその『本体』を使っていた『主』が存命ならこれも殺す。そして死んだヤドリガミと、死んでいる、あるいは死んだ『主』とを合成することで強力なオブリビオンを製造する事であった。こうして得た強力なオブリビオンをクルセイダーの目的のために使おうとしていたのだが……。
『クルセイダーがなんか妙な事になっちまったって事は……俺のやってる事も意味なくなっちまったって事か?』
クルセイダーは安倍晴明の制御に失敗して死亡し、今はガワだけ残ったクルセイダーを晴明が使っている形になっている。そして江戸幕府転覆という目的は消滅し、晴明がほぼほぼ暇つぶしに強力な手駒を生み出して徒にばらまいている状況となっている。すなわち、もはや直隆がヤドリガミを殺して新たなオブリビオンを生み出す意味は既に消滅しているのだ。だが。
『ま、それならそれで俺は昔みたいに気ままにやるだけだが、ただこのまま何もできずに終わるってのも、おもしろくはねえなぁ』
直隆がこれまでヤドリガミの暗殺を狙ったのが9回。だが猟兵の奮闘により、それらは全て未然に防がれたのである。武辺者として、このままただの一度も成功しないままで終わるというのはなんとも忌々しい事だったのだ。
『最後に、もうひと暴れと行くか』
直隆の原点の地である越前国上真柄(現:越前市上真柄町)にほど近い敦賀湾。『最後』の戦として選んだのは、そこの小さな漁村であった。
同時期、グリモアベース。
「……ぶっちゃけ腹いせだよね、これ」
サムライエンパイアの話という事で説明するのはエンパイア出身の大豪傑・麗刃(25歳児・f01156)であった……なんかどっかで似たようなセリフを聞いたような気もしないでもないが、まあ大した問題ではない。
「ということで、これまでヤドリガミを狙ってきた直隆くんが最後の標的として選んだのが、敦賀湾の漁村にいる漁船のヤドリガミ……えっと名前は『|武生《たけふ》・|鯖弘《さばひろ》』くんなのだ。みんなには彼を守って欲しいのだ!」
敦賀湾および隣接した若狭湾といえば日本でも屈指の漁場のひとつである。特にサバが有名だ。代表的なのは鯖一本をまるごと焼いた『浜焼き鯖』だろう。有名な鯖寿司や『へしこ』が登場するのは江戸中期なのでもう少し先の話だ。また同地での漁業といえば越前ガニを思い出す者もいるかもしれないが、この頃は他の魚を獲る際に偶然かかる程度であり、まだまだメジャーな存在ではなかったらしい。
ともあれ、ヤドリガミになるほどに漁船を使っていた主人ならば、かなり熟達した漁師である事が容易に想像される。仮に鯖弘が直隆に殺され、亡くなった主人との合成オブリビオンが生まれるとしたら、間違いなく海に熟達した者となり、敦賀湾や若狭湾の漁業に大打撃を与える事になるだろう。
「で、みんなも知っての通り、ヤドリガミって人間の様に見えるけど、そっちをいくら斬っても死なないわけで、殺すつもりならどこかにある『本体』、今回だったら船だけど、それを壊さなきゃならないと。でも本体を探すのはめんどくさい。ならどうするか?で、直隆くんが考えたのが、かつて風魔小太郎が幕府軍を迎え撃つために使おうとしていた忍法、隕石落としなのだ」
なんとたったひとりのヤドリガミを殺すために、ヤドリガミの本体どころか村ひとつを隕石で全滅させようというのだ!ただこれだけの大技、使うのには大規模な儀式が必要なので、まずは発動される前にそれを潰せば良い。漁村なので周囲はむろん海であるが、すぐ近くに山も存在するという。あちこちでやっているであろう儀式のどこを探すか。海と山、自分が探しやすい方を担当するのが良いと思われる。また守られる対象である鯖弘は地元住民なので地域の地形には詳しいだろう。その助けを借りるのも良いかもしれない。
そして儀式を阻止したら、あとは直隆と直接対決し、倒せば良いのだ。
「仮に今回の戦いで直隆くんを滅ぼせなかったとしても、クルセイダーくんがあんなことになっちゃった以上、今後出てきたとしても隕石落としみたいな大それた事はしなくなるはずなのだ。なので戦争で忙しいトコなのは重々承知だけど、なんとかしてほしいのだ!」
麗刃の一礼を受け、猟兵たちは戦争真っ只中のサムライエンパイアへと向かうのだった。
らあめそまそ
らあめそまそです。たぶん最後のサムライエンパイア通常猟書家シナリオをお送りいたします。このシナリオにはプレイングボーナスがあり、それをプレイングに取り入れる事で判定が有利になります。
プレイングボーナス(全章共通)……ヤドリガミ達と協力して戦う(猟兵ほど強くはありませんが、周辺の地形を熟知しています)。
漁船のヤドリガミの【|武生《たけふ》・|鯖弘《さばひろ》】は必要があれば下記のユーベルコードを使用できます。
錬成カミヤドリ:自身が装備する自分の本体(器物)をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
それでは改めまして皆様の御参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『浪人』
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POW : 侍の意地
【攻撃をわざと受け、返り血と共に反撃の一撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 怨念の返り血
【自身の返り血や血飛沫また意図的に放った血】が命中した対象を燃やす。放たれた【返り血や血飛沫、燃える血による】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 斬られ慣れ
対象のユーベルコードに対し【被弾したら回転し仰け反り倒れるアクション】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:箱ノ山かすむ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ヤドリガミとはいえ、武生・鯖弘はただの一介の漁師だ。
「な、なんで私が狙われなければ……」
なので、自身がオブリビオンの標的になるなどすぐに信じられる事ではなかった。だがオブリビオンの思考を読み取る事こそ、そも無駄なのかもしれない。ただ自身が狙われている、という事実のみがそこに存在し、それで十分なのだろう。
「……わかりました。このあたりで身を潜めそうな場所ですか、海や山等ありますが、いくつか思い当たるフシはございます」
『我らが忍法隕石落とし、いまだ発動を見た事がない』
浪人者に憑装されている風魔小太郎がつぶやいた。彼らはまさに邪悪なる大量破壊忍法の準備の真っ最中であった。
『そろそろ読者の皆皆様も、一度ぐらいは隕石の炸裂する光景を見たいに違いない、此度こそはぬかるまいぞ』
浪人の能力は以下の3種類だ。
【侍の意地】は攻撃をわざと受け、返す刀によるカウンターで強力な斬撃をくわえるものだ。射程距離が短いという弱点はあるが、それだけに威力そのものは決して侮れるものではないだろう。
【怨念の返り血】は攻撃をわざと受け(2回目)、返り血を相手に浴びせる事でその相手を燃やすものだ。広範囲に飛ぶ血しぶきは回避がかなり困難なことが予想されるし炎の威力も侮れないだろう。
【斬られ慣れ】は攻撃をわざと受け(3回目)、大げさに倒れることでユーベルコードを相殺するというものだ。一度見たものは成功率が上がるとのことで複数の敵を相手にするなら注意が必要だろう。
以上、なかなか厄介な能力がそろっているし、そも魔軍将を憑装されたオブリビオンという時点でかなり強力だろう。だがいずれのユーベルコードも後の先をとる関係で、猟兵側が先制攻撃をしやすいというのは付け入る隙になるかもしれない。いずれにせよ、相手は強いかもしれないが所詮は尖兵。前哨戦はさっくりと終わらせて本番の猟書家戦に備えようではないか。
リカルド・マスケラス
あの猟書家っすか……一度戦って(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=48023 )ひどい目見たから、できればもう戦いたくないっすけど、そうも言っていられないっすよね
鯖弘に協力を仰いで人間体に仮面(本体)をつけてもらうっす
「ちょっと案内頼むっすよ」
海の方が戦いにくそうっすし、他の猟兵のためにも先に探してくっすかね
「見つけたっすよ! 鯖弘、ちょっと技を借りるっすよ!」
【錬成カミヤドリ】で複数の漁船を召喚。燃えにくいよう水【属性攻撃】をまとわせた上で【念動力】で操り叩き潰す
「そっちに気を取られていいんすかね?」
更に命中率を上げるため【手裏剣投げ】も放つ
●因縁
「あの猟書家っすか……」
ヒーローマスクであるリカルド・マスケラス(ロープ際の魔術師・f12160)が表情を変える事はない。だがグリモアベースにて、グリモア猟兵より『真柄十郎左衛門直隆』の名を聞かされた時、仮にリカルドが表情を作る事ができたならば、それはさぞかし沈痛で壮絶なものになったに違いない。リカルドが出したのはそんな声であった。
「一度戦ってひどい目見たっすからねえ……」
確かにリカルドは直隆と一度交戦している。だがそれはグリモア猟兵の依頼で直隆の隕石落としを、そしてヤドリガミの暗殺を阻止したわけではない。リカルドがサムライエンパイアでツーリングを楽しんでいた時に偶発的に遭遇し、リカルドをヤドリガミと誤認した事で一方的に襲い掛かられたのだ。なお直隆の誤解はわりとすぐに解けたような気もするが、それでもまったく戦いを止める様子もなく、リカルドはどうにか命からがら逃走には成功したが、かなりの痛手を負ったのであった。
「ほんっとに、あれにはびっくりしたっすよ」
あの時、リカルドは分身を出し、それ囮として斬らせる事で相手の隙を生み出し逃走に成功した。しかし直隆の剣はヤドリガミを殺すために磨いてきたものだ。そうして得た力は……ヤドリガミは本来分身を斬っても本体には全く影響がないはずなのに、なんと分身を斬る事で本体に傷を負わせる事ができるのだ!この力で分身を斬られた事でリカルド自身が傷を負う事になってしまったのだった。なんとも苦い経験ではあったが……
「できればもう戦いたくないっすけど、そうも言っていられないっすよね……」
それでもリカルドは猟兵であり、オブリビオンの引き起こす悲劇を見過ごす事はできないのであった。サムライエンパイアは越前国に到着したリカルドは早速ヤドリガミの武生・鯖弘を訪ねた。
「な、なんで私が狙われなければ……」
「話せば長くなるっすけど、そういうヤツらしいんっすよ、そいつは」
「……わかりました。私にできる事なら、なんでもおっしゃってください」
襲撃について聞かされ、鯖弘はさすがに驚いた様子であったが、それでもサムライエンパイアにおける猟兵への信頼は抜群だ。戸惑いながらも協力を約束してくれた鯖弘に、リカルドは早速いくつか頼んだ。
「じゃあ、まずは海を案内してほしいっす」
敵は村の周囲に散らばって隕石落としの準備をしているとのことである。で、村の周囲には海も山もある。おそらくは山を得意とする猟兵が多いと踏んだリカルドは、自身は海に回る事にしたのだった。
海岸にほど近い、とある岩礁にて。
『猟兵が来るやもしれぬ、ぬかるまいぞ』
浪人者に憑装されている風魔小太郎が今まさに儀式の真っ最中だった。さすがに幾度となく阻止されているだけに、今度こそ絶対成功させんとする熱意はかなり強いようだった。だがむろんそんなものをただの一度たりとも成功させるわけにはいかない。
「おそらくはあそこだと思いますが」
漁船……むろんそれは鯖弘の本体の漁船ではない……に乗った鯖弘が、頭上に乗るリカルドに呼びかけた。リカルドの依頼で儀式のために潜めそうな所を案内するために海に出ていたのだ。
「なるほど……あれじゃないっすか?」
「……たしかに、このあたりの者ではなさそうです」
「……見つけたっすね」
そしてリカルドは岩礁の上に数人の人影を認めた。明らかに漁師ではない、こんな平和な港町には到底相応しくない、血の匂いのするような粗末な服を着た、抜刀した男たちの姿を。間違いない、あれこそ風魔小太郎が憑装されているオブリビオンに違いあるまい。
『くっ、早速来たな猟兵!だがそれが貴様らの命とりよ!生きて帰れるとは思わぬ事だ!』
「鯖弘、ちょっと技を借りるっすよ!」
どうやら敵もこちらに気が付いたようだ。ならば迷っている暇はない。リカルドは鯖弘のユーベルコード【錬成カミヤドリ】を発動させた。今乗っている漁船は鯖弘の本体ではないが、おそらく装備欄にはある扱いなのだろう。たちまちのうちに漁船の複製が大量に出現した。その数なんと138艘(杯あるいは盃とも)。当然本来の鯖弘なら到底行使できる数ではなく、リカルドの力あってのことだ。それらが念動力にとって操られ、海ではなく宙を飛んでくるのだ。それは本来の漁船としての用法ではなく、立派な質量兵器といえよう。
『小癪な!だが所詮は木造船よ!』
浪人は刀で手首を切ると、血液を噴出させて漁船を地で濡らした。むろんこれはヤケになったわけではない。ユーベルコード【怨念の返り血】により、血を浴びた漁船を燃やそうというのだ。木造船ならさぞかし派手に燃えてたちまちのうちに燃え尽きる事だろう。そう踏んでいたが……。
「惜しかったっすね、漁船なので水をしっかりと吸って燃えにくいっすよ」
『何!?』
リカルドはしっかり燃焼対策で漁船に水属性を付与していたのだ。五行でも水は木を生み(水生木)、非を抑える(水剋火)とされる。これで強化された漁船は業火に耐え、浪人どもをなぎ倒していったのだった。
『くっ、おのれ、だが……』
「そっちに気を取られていいんすかね?自分のターンはまだ終わっちゃいないっすよ」
『なんだと……ぐわっ!?』
さらにリカルドの手裏剣投げも加わった。これの他との大きな違いに、別のユーベルコードとの連携を主眼に置かれているという点があった。すなわち手裏剣が命中した相手の機動力を抑える効果で錬成カミヤドリの効果をさらに上げるのだ。こうなっては浪人側に勝ち目はない。
『むうっ、これはいかん、ここは放棄し、他の者と合流するのだ!』
かくしてまずは儀式をひとつ撃破した。だが、まだまだ潰すべき儀式は多い。本番はここからなのだ。
大成功
🔵🔵🔵
ケイラ・ローク
【トーゴf14519】に協力する🐾
いつ来ても侍エンパイアってナチュラルに田舎よね♥和む~
ここに隕石とかあり得ないし💢
はろぉ、武生クン
あたしは白猫又のケイラよ♥
キミの本体は洞窟っぽい隕石でも即影響受けない場所ある?物を隠す!
キミはあたし達と一緒に戦いましょ(ウィンク✨
実際の戦闘はあの赤毛がほっといても暴れてくれるから援護射撃って感じで
あいつホラ羅刹だから
あたしは歌唱でパフォーマンス!
キマフューには無いこの綺麗な景観と住んでる人を護りたい気持ちをUCの唄に込めるね♪
浪人のオジさんがコケたら武生クンにUC漁船で突撃して貰いましょ
武生クン轢いちゃって♥
あたしも踏みつけながらフラワービーム乱れ撃ち~
鹿村・トーゴ
ケイラ【f18523】と
キマフューと比べたらそりゃ長閑でしょーな
オレは鹿村、宜しくな
早速だけど武生殿
この辺の…特に山側の地形教えて貰える?それもとに儀式に集まってる連中の不意突く場所確保
【情報収集/地形の利用】
ケイラと武生殿が仕掛けたらオレはその背後から撒き菱、手裏剣を【投擲】しUCに繋ぐ
神経毒が効けば良し
相殺されても倒れてる隙を突くぜ
【念動力】でさっき投擲した武器を再度浮かせ速度突けて一気に投下
忍びだもん
もちろん【毒使い】済みな
ちょっと浮き足立ったらクナイを手に斬り合い有りの乱闘【激痛耐性】
敵の剣【武器受け】で弾き【カウンター】から裂き斬り
時には布の猫目雲霧で足搦め【串刺して暗殺】
アドリブ可
●読者は隕石落としなんか期待しちゃいない
これから戦いの舞台となる地に降り立ち、ケイラ・ローク(トパーズとアメジスト・f18523)は開口一番に。
「いつ来てもサムライエンパイアってナチュラルに田舎よね、和む~」
「キマフューと比べたらそりゃ長閑でしょーな」
あきれたような言葉は鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)だった。たしかにまあ、ケイラの出身地であるキマイラフューチャーはどこもかしこも未来的な感じの都市で、しかも毎日がお祭り騒ぎと言っても過言ではない。サムライエンパイアも大都会ならかなりの賑わいを見せるとは思われるし、今ふたりがいるような漁村は漁村で、若狭湾は今の時期は漁でそれなりの活気はあるようだし、漁の前に大漁祭りとかあったりするのかもしれないが、まあキマイラフューチャーに比べればあくまで生活感の強い活気なのは確かなようであった。だがケイラの言葉は決して悪いニュアンスではない。それはそれで人々が平和で暮らしている事の証であり、またこういう時間の流れの中に身を置くのも時としては心地良い事もあろう。したがって。
「ここに隕石とかあり得ないし!」
こういう結論にケイラが至るのは当然の流れだった。むろんのどかな漁村でなくてもオブリビオンの隕石落下など許してはいけないわけだが。早速ふたりは狙われているヤドリガミ、武生・鯖弘に接触を図った。
「はろぉ、武生クン!あたしは白猫又のケイラよ」
「オレは鹿村、宜しくな」
つい先刻他の猟兵と協力して敵に相対したばかりという事もあり、すぐに話は進み、挨拶もそこそこに話題は早速実務レベルに移行した。
「早速だけど武生殿、この辺の…特に山側の地形教えて貰える?」
先刻は海が戦いの舞台となったが、トーゴは山の方が得意のようであった。ならば山の地形について聞くのは当然の事だ。敵がいる場所にアタリをつけるのもあるが、その上で敵に奇襲をかけるのに適した場所についても知る必要がある。一方でケイラは。
「洞窟っぽい、隕石でも即影響受けない場所ある?」
「洞窟……ですか?」
「そ。キミの本体を隠す場所」
仮に隕石が落下してしまった時のために、鯖弘の本体である漁船を安全な場所に隠しておけないかと考えた……のだが、残念ながら海に面した地形がゆえに海岸線付近にはそのような場所は鯖弘にも思い当たるフシがなさそうであった。あるいは山の中ならばそういう場所もあるかもしれないが、やはり漁船だけあり、あまり海岸から離れた場所に移動する事にはちょっと居心地の悪さを覚えるようだった。
「うーん、じゃあ隕石落ちる前に決着つけるしかないか」
「まあ、当初からの予定通りだし、何も問題ねーな」
そう。隕石が落下したら鯖弘ひとりの問題ではなく、村そのものの存亡の危機なのだ。万にひとつの危険を考慮する段階から、万に一つの危険すら許さない事に切り替わった。そこに大した違いはないだろう。いずれにせよ、鯖弘の本体は他の漁船と同じ海岸にあるようだ。ならば。
「キミはあたし達と一緒に戦いましょ」
ケイラはウインクしながら鯖弘に呼びかけた。山を戦場とするのであれば、戦闘になっても本体が巻き込まれる事はあるまい。
「え?私も……ですか?」
鯖弘は先ほども最前線には立ちはしたが、実質上は猟兵が代わりに戦ったようなものだ。再度の戦いには多少逡巡した様子もあったが、ケイラは安心させるようにさらに続けた。
「あー、だいじょぶだいじょぶ、実際の戦闘はあの赤毛がほっといても暴れてくれるから!援護射撃って感じでいいから」
「オレがかよ!」
「あんな事言ってるけど、あいつホラ羅刹だから!」
「いや、そうだけど!」
改めての解説になるが、羅刹はサムライエンパイアにおける戦闘民族である。サムライエンパイアで最も有名な羅刹といえば徳川家であろう。彼らが天下を武で統一したのもさもありなんといったところであろうか。その羅刹が最前線に立つというのはやはりエンパイア住民にとっては心強い事この上ないようで、ならばと鯖弘も再び戦場に立つ事を承知してくれた。
『海にて儀式の準備をしていた者が猟兵に敗れたようだ』
漁村にほど近い山中にて隕石落としの儀式を行っていた風魔小太郎がつぶやいた。
『やはり猟兵は現れたか。侮れぬ存在である事は把握していたが、これ以上後れを取るわけにもいくまい』
改めて気合を入れなおすと、小太郎は儀式の遂行を継続する。
『妨害が入る前に儀式を完遂せねば』
「……いたぜ」
鯖弘に案内された場所にて、確かにあやしげなオブリビオンの一群と、あやしげな儀式を認めた。そして鯖弘を伴ったトーゴとケイラは敵の儀式を一方的に見る事ができる位置を取れた。これは大幅なアドバンテージを得たといえよう。
「じゃ、手筈通りに頼むぜ」
「任せて!こんないいトコに、隕石なんか落とさせはしないんだから!」
サムライエンパイアののどかな漁村の風景。それはいつも騒がしく、カラフルな風景が広がるキマイラフューチャーとは対極にあるものだ。この綺麗な景観、そしてそこに住む人たち。それらをオブリビオンの魔の手から絶対に守り抜かねば、そのような思いが歌としてケイラの口からあふれ出てきた。
『なんだ!この音楽は!』
「狼藉者だぜ!」
ケイラの【サウンド・オブ・パワー】で強化されたトーゴが飛び出すと、浪人者たちに手裏剣を連射した。不意打ちである事に加えて戦闘力が上昇された事により、手裏剣は狙い違わず浪人者たちに命中する。
『ぐわー!や、やられたぁ』
手裏剣を受けた浪人者たちはなすすべもなく倒れた……と思われたがあっさりと立ち上がった。トーゴが投げたのはただの手裏剣ではなく、平衡感覚を狂わせる毒が塗られた【千鳥庭】なる技だったが、その影響を受けたようにも見えない。だがトーゴは動じる様子もなかった。
「なるほどねぇ、これが聞いてたやつか」
浪人たちが攻撃を受けた時に、まるで時代劇の斬られ役のように大袈裟な動作で倒れる事でユーベルコードを無効化する【斬られ慣れ】という技を使う事は事前に聞いていた。互いにユーベルコードを封じた状態ならば純粋な戦闘技量での勝負になる……と思いきや、猟兵側はちゃんと対策をとっていたのだ。再度トーゴが手裏剣を投げ、再度浪人たちが倒れる事で毒を無効化する。そしてその時。
「武生クン!今よ!轢いちゃって!」
「はい!」
浪人がユーベルコードを封じるためには一度倒れないといけない。そして倒れた状態は大きな隙となる。そこを狙い、ケイラの指示で鯖弘が本体のコピーである漁船を質量兵器として浪人に飛ばしたのだ。
『くっ!小癪な!』
起き上がる隙を与えない攻撃だったが、敵はただの浪人者ではない。さすがは風魔小太郎が憑装されただけのことはあり、どうにか転がって質量兵器を回避した。だが、転がった先に新たな手裏剣が飛んできていた。
「残念、オレもいるんだよね」
トーゴが投げ、地面に落下した手裏剣を念動力で浮かせ、再度投擲したのだ。今度はユーベルコードではない攻撃のために相殺もできず、浪人者たちは特殊な毒を塗られた手裏剣をまともに受けてしまった。
『おのれ、味な真似をしおって!』
「忍びだもんな。あんたらだって同じ忍びならわかるだろ?」
ひどい車酔いに近い、目が回り強い吐き気を伴う感覚に襲われつつもどうにか刀を手に立ち上がった浪人者に、クナイを手にしたトーゴが一気に接近する。純粋な忍者体術剣術の勝負なら風魔小太郎にとってもお手の物ではあったが、今回はさすがにデバフが強すぎたようだ。ケイラの歌による強化、光線銃の援護射撃を受けつつ、痛みに耐えながら肉を切らせて骨を断つトーゴの戦術の前に、浪人者たちは次々と倒されていった。
「……さて、こっちはこんな所かね」
「ちょっと、無茶しすぎじゃないの?この後もあるのに、大丈夫?」
「あー、だいじょぶだいじょぶ、羅刹よ?オレ」
とはいえさすがに疲労もある。浪人者たちが退避のを他の猟兵に任せつつ、トーゴとケイラは次の戦いに備える事にした。本当に倒すべき相手がこの後に控えているのだ。
大成功
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フィア・シュヴァルツ
「ほほう、隕石で標的を葬り去ろうとは、考えたな……」
『まったくでございます、フィア様。そのような卑劣な輩には鉄槌を――と申したいところでございますが、敵の居所がわからねばどうしようもございません』
「なにを言っているのだ、フギンよ。
敵がやり方を教えてくれたではないか。
相手の居場所がわからぬなら、当たるまで適当に隕石を落とすまで!」
そう、我の得意魔術【隕石召喚】で辺り一面を荒野に変えてくれるわ!
さすればどこかで敵に当たるであろう!
「さあ、我の魔力が尽きるのが先か、敵に隕石が命中するのが先か――
いざ、勝負だ!」
『その前に漁村が壊滅いたしますが!?』
「そのときは敵の隕石落としのせいにするまでよ!」
●さすがに審議には一応なった
フィア・シュヴァルツ(|宿無し《キャンプアスリート》の漆黒の魔女・f31665)は猟書家と戦った事は幾度となくあるが、サムライエンパイアの猟書家と戦った経験は1度だけだ。しかもその時の相手は猟書家本人ではなく、その死後に後継を自称するオブリビオンであった。なので当然、真柄十郎左衛門直隆とは初対決ということになる。で、その直隆のやり口が、ただひとりのヤドリガミを殺すために隕石を落として村ひとつ壊滅させる事だというのを聞いて、第一声がこれであった。
「ほほう、隕石で標的を葬り去ろうとは、考えたな……」
それはあまりに大雑把で乱暴な手段であった。なにせ、かつては徳川家の大軍を一挙殲滅するために使われようとしていた大規模な破壊用の忍術だ。到底、戦闘要員ではないたったひとりの庶民を殺すために用いていいものではない。最新鋭のゲーミングマシンをPBWにしか使わない事よりもさらにもったいない使い方といえよう。だが確かにそれでヤドリガミは殺せるだろう。なぜこのような大掛かりな事を直隆が目論んだのかと言われれば……そこに然程の意味はないのだろう。ヤドリガミの本体を探すのも面倒だし、ならば一挙に全部潰してしまえば良いという事だったやもしれないし、単に隕石落下という一大スペクタクルを見物したかったというのもあるかもしれない。いずれにせよ、人ひとりに隕石は間違いなく過剰戦力ではあるが、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすの例えの通り、注ぎ込める戦力を全て注ぎ込む事自体は決して間違いとは言い切れない事であろう。
『まったくでございます、フィア様』
フィアの肩に止まるワタリガラスの使い魔フギンがあるじに同意した。フギンは敵の卑劣なやり方に、またたったひとりを殺すために村全てを破壊し村民を殺し尽くし、その事にまったく疑問も罪悪感も抱く事のない邪悪きわまりない猟書家に対する怒りを隠そうとしなかった。
『そのような卑劣な輩には鉄槌を!』
と、勢い込んで言ったフギンだが、しばし押し黙った。
『――と申したいところでございますが』
「ん?どうした?」
『はい、敵の居所がわからねばどうしようもございません』
そう。それは確かに懸念事項であった。敵は漁村の周囲の数か所で隕石落としを発動するための儀式を行っているという。猟兵はそれが成立してしまう前に儀式を探し出して破壊しなければならないのだ。
「ふむ、そうだな」
『あのグリモア猟兵は、狙われているヤドリガミの武生鯖弘様に思い当たる場所を聞くようにとおっしゃっておりました。やはりここは武生様に接触するのが最優先事項でしょうか』
フギンの言葉は王道だろう。他の猟兵はみな鯖弘に思い当たる場所を聞き、それをもとに儀式の場を探り当てる事に成功していた。ならばここはプレイングボーナスを取りに行く意味でも同じ方法をとるのは最善策なのは間違いないだろう。だがフィアは難色を示した。
「だがその鯖弘とやらもあくまで想像で儀式の場所を予測しているだけであろう?儀式の場所そのものを知っているわけではあるまい」
『それはそうかもしれませんが、他に考えられる方法が思いつきません。めくらめっぽう手当たり次第に探すのでは、見つかる前に儀式が完成してしまう恐れもございますから』
「なにを言っているのだ、フギンよ」
じつに自信ありげにフィアはない胸を張った。そう、プレイングボーナスはあくまで判定が有利になるだけであり、他に確実な手段があるなら別に取り入れなくたって良いのだ。ならば余程自信のある方法という事になるのだろうが……。
「ようは敵の居場所がわかれば良いのだろう?」
『フィア様には何か良い方法があるのですか?』
「敵がやり方を教えてくれたではないか」
『……え?』
……え?思わず地の文も聞き返した。敵のやり方っていうと……。
「相手の居場所がわからぬなら、当たるまで適当に隕石を落とすまで!」
『……え?(2回目)』
……え?(2回目)
「そう、我の得意魔術【|隕石召喚《メテオストライク》】で辺り一面を荒野に変えてくれるわ!さすればどこかで敵に当たるであろう!」
ちょ、ちょっとちょっと!確かにこのあたりに隕石落としまくればまあそりゃあ一発ぐらいはまぐれあたりもあるだろうし、そうなれば儀式は潰せるだろう。にしてもよ。敵さんの悪い真似をこっちがわざわざするというのもねえ。
「さあ、我の魔力が尽きるのが先か、敵に隕石が命中するのが先か――いざ、勝負だ!」
『その前に漁村が壊滅いたしますが!?』
そう。これはさすがにフギンが正論だ。敵の漁村滅亡計画を阻止したって、こっちの手で漁村が滅亡してしまっては元も子もあるまい。当然守るべき対象であるヤドリガミの鯖弘くんも無事では済むまい。だがフィアは言い切った。
「そのときは敵の隕石落としのせいにするまでよ!」
……おいおいおいおい。
「まずはあのあたりからだな。いかにも敵が潜んでそうだ!」
『む、無茶はやめてくださいフィア様ー!今からでも武生様にー!』
「天空より来たれ、全てを破壊する一撃よ!」
『ふぃーあーさーまあああああああ』
そしてフギンの懇願も空しく、フィアの力ある言葉によって隕石が落下し……
『な、なんだ?猟兵か!?』
『……え?』
「え?」
隕石の落下地点からほうぼうの体で這い出してきた浪人者たちの姿。間違いない、オブリビオンだ。まさかのまぐれ当たりに驚愕するフギン、そしてフィア。
『……え?』
「……ふっ!我の予測したとおりであったな!あそこに敵が潜んでいる事ぐらい、当然知っておったわ!」
『……本当ですか?』
「今はそんなことどうでも良い!とにかく敵があそこにいるからにはさらに追撃するだけの話よ!」
『……はぁ……』
さらに隕石を連続投下するフィア。浪人者はたしかに強かったが、残念ながら近接戦専門であり、隕石の落下を防ぐ手段はなかったのであった。なにはともあれ、これで儀式はあらかた破壊する事ができたのであった……まあ、結果オーライってことで。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『真柄十郎左衛門直隆』
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POW : 太刀嵐
【太郎太刀】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD : 戦場こそが我が死に場所
【防具】を脱ぎ、【戦を求める鬼】に変身する。武器「【次郎太刀】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ : ヤドリガミ殺し
【道具やヤドリガミ目掛けて、気合】を籠めた【太郎太刀】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【使い手や本体の命】のみを攻撃する。
イラスト:つばき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リカルド・マスケラス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●瞬間、皆の視線は一点に集中した
『おいおいおい、やってくれたなあ』
隕石落としの儀式をあらかた破壊され、ついに猟書家【真柄十郎左衛門直隆】が猟兵たちの前に立ちはだかった。
『しかも、まあ派手に隕石なんざ落としてくれやがって。俺がやりたかった事を横からかっさらうような真似をしやがって、こいつは高くつくぜ』
愛刀である五尺三寸の大太刀『太郎太刀』を構え、直隆は不敵な笑みを浮かべる。そこにあるのは純粋なる戦いへの渇望、そしてこれから来る勝利という名の美酒を味わう事への期待だった。
『さあ抜きやがれ。猟書家としてはたぶんこいつが最後の戦だ、せいぜい楽しませてくれるんだろうな』
真柄十郎左衛門直隆の能力は以下の3種類だ。
【太刀嵐】はただでさえ巨大な太郎太刀をさらに巨大化させ、それを剛力で振り回す事で多数の目標を一気になぎ払い斬るという豪快な攻撃だ。しかも敵味方の区別をしないなら3回攻撃ができるらしい。そして今現在、直隆の周囲に味方はいない……すなわち区別の必要は存在しないのだ。
【戦場こそが我が死に場所】は理性を消失した鬼と化し、史実では弟の直澄あるいは息子の隆基が使っていたという四尺七寸の次郎太刀を呼び寄せて大太刀の二刀流というとんでもないスタイルで戦うものだ。その戦闘力は恐ろしいが、防具を脱いでいる事と理性がない事が付け入る隙になりうるかもしれない。
【ヤドリガミ殺し】は本来いくら傷ついても問題ないヤドリガミの『肉体』を攻撃する事で、なんとヤドリガミの『本体』を傷つけるという技だ。ヤドリガミ以外の相手への応用として、猟兵の道具や術を斬る事で、猟兵本人にダメージを与えるというとんでもない事をやってのけるらしい。
以上、猟書家だけあってかなりの強敵なのは間違いないが、それでもこいつを倒さない事には平和が訪れる事はないのだ。その、なんだ。なんとかしてください!
フィア・シュヴァルツ
「ほう、隕石落としを企んだ悪の権化が現れたようだな」
『あの、フィア様がそれをおっしゃるので?』
見たところ、敵は剛の者。
一方、我はか弱い美少女魔術師。正面からの勝負では分が悪いというもの。
「ならば、遠距離から一方的に魔法で攻撃するのみよ!
受けてみよ、我が【極寒地獄】!」
『フィア様!?
またそういう卑怯な手を!』
ふっ、どんな手段を使おうとも勝てばいいのだ、勝てばな!
「くくく、どんな剛の者でも氷に閉じ込められてはどうしようもあるまい!」
『フィア様!
敵が氷を斬り裂いてきてございます!
これは……術を通して術者を斬る攻撃!?』
「な、なんだとっ!?
ぐあああっ!」
『隕石を落として迷惑をかけた罰でございますね』
●自爆系のプレイングをいただいたのは今回が初めてでした
自分が隕石落としを仕掛けるはずが、よもやの逆隕石によって部下を失うハメになった真柄十郎左衛門直隆が猟兵に対してこう言い放つのは当然の流れであった。
『まあ派手に隕石なんざ落としてくれやがって。俺がやりたかった事を横からかっさらうような真似をしやがって、こいつは高くつくぜ』
そしてその時、皆の視線が集中したその先に、掟破りの逆隕石落としを仕掛けた張本人であるフィア・シュヴァルツがいたのもまた、当然の流れであった。そしてそのフィアはといえば。
「ほう、隕石落としを企んだ悪の権化が現れたようだな」
いや、まあ、その言葉自体は決して間違ってはない。決して間違ってはないんだ(2回目)。ただ、その悪の権化のやり方を模倣して、それをそのままやっちまった人が言うとなると、ちょっとどうなのかなあ、と思わないでもない。
『……あの、フィア様がそれをおっしゃるので?』
「なんだ?我は何も間違った事は言ってないぞ?」
『……』
使い魔であるワタリガラスのフギンの言葉もどこ吹く風。まあフギンとしても、今この件について議論するよりも、眼前にいる強敵をどうするか考える方が先決な事ぐらいわかっていたし、大体にして問い詰めたところでおそらく無駄であろうと思われたので、あまり深い事追及しないようにはしたようだ。
『なるほど、お前が隕石を落としたってわけか』
不敵な笑みを浮かべた直隆は当然フィアをロックオンした。太郎太刀を構え、既に臨戦態勢だ。
『で、どうするんですか?フィア様』
「ふむ、そうだな」
フィアとて眼前の猟書家を倒す事が今の自分に与えられた課題である事ぐらいはわかっていた。そも、相手の悪い真似をして隕石を落としたのだって、一応は敵の隕石落としの儀式を破壊するためであり、直隆と違って破壊のための破壊ではないのだ。その点に関してはまあオブリビオンよりははるかに正義を主張する権利はある……周囲がどう評価するかはまた別問題としても。
「見たところ、敵は剛の者。一方、我はか弱い美少女魔術師」
オブリビオンを見た目で評価できないとはいえ、強そうな見た目をしている者は素直に強いと見るべきだろう。そして直隆の巨躯や、体格に相応しい巨大剣は、素人目に見ても間違いなくこいつ強いと思わせるものであった。一方のフィアは……まあ美少女で通る顔であるか。身長153cmは平均より低いらしい。そして何より胸がない。
「胸は関係ないであろう胸は!」
いやまあそれを称して戦闘力って呼ぶ人おりますし。ともあれ、白兵戦技が猟兵の強さそのものを示しているわけではないのでか弱いという呼び方が正しいかはわからないけど、少なくとも直隆と近接戦はあまりやりたくはない感じではあった。で、結局フィアの選んだ戦法はというと。
「正面からの勝負では分が悪いというもの。ならば……」
『ならば?』
「ならば、遠距離から一方的に魔法で攻撃するのみよ!」
『フィア様!?またそういう卑怯な手を!』
「ふっ、どんな手段を使おうとも勝てばいいのだ、勝てばな!」
フギンは真っ向からの戦闘を避けて安全な遠距離攻撃を行うフィアを非難したが、これについてはフィアの方に分があるように思えた。戦場が越前国という事で、80年前ぐらいに活躍した同地の著名な武人である朝倉教景(宗滴)の言葉を借りるなら「武者は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候」である。猟兵も基本的には勝利が絶対なので卑怯な事をしても勝てばいいのである。
「そう!だから我が隕石を落としたって別に問題ないのだ!」
……それはまた別の話として。
『どうした、隕石落としするほどの腕前を見せぬままに死ぬのが望みか?』
直隆はフィアが動くのを待っていた。それはれっきとした意図あっての行動だったが、武人として純粋に強者であるはずのフィアの技量を見たいのもあるいはあったかもしれない。だがこのままではフィアの行動を待たずに斬りかかって来るかもしれなかった。もうこれ以上引き伸ばすわけにもいくまい。
「ほう、そんなに我の実力を見たいというのか。ならば見せてやろう!我が魔力により、この世界に顕現せよ!極寒の地獄よ!!」
『!?こ、こいつは……』
フィアの力ある言葉に呼応し、直隆の周囲に極寒の世界が出現したのだ。それはたちまちのうちに直隆を包み込み、分厚い永久凍土のごとき氷に閉じ込めるのだった。
「見たか我の力を!まあ、もうこうなっては見る事もできぬだろうがな!くくく、どんな剛の者でも氷に閉じ込められてはどうしようもあるまい!」
勝ち誇るフィア……だが、並みのオブリビオンならこれで決まっていたかもしれない必殺の魔力だったが、相手は猟書家なのだ。氷の棺に閉じ込められながらも、太刀を握る直隆の拳がわずかに動いていたのだ。やがて。
『……くっくっく、よーく見せてもらったぜ』
「なんと!我が極寒地獄を受けて動けるというのか?」
『今度はこっちの番だ!礼にたっぷり拝ませてやるぜ、ヤドリガミ殺しのために磨いた俺の力を!』
太郎太刀を中心として相当の強度を持つはずの氷の壁にヒビが入る。やがて右腕がある程度自由になったところで、直隆は太郎太刀を一振り。それで極寒の棺はあっけなく切断されたのだ。そして、直隆の太刀は氷壁を斬っただけにとどまらない。
『フィア様!お気をつけください!術を通して敵の攻撃が……来ます!』
「な、なんだとっ!?ぐあああっ!」
フギンの警告も空しく、道具や術を斬る事でその使い手を斬るおそるべき斬撃がフィアを襲ったのだった。
『フィア様!』
倒れた主を案じるフギンだったが、隕石を落として村民に迷惑をかけた罰もちょっとあるのかな。そんな事をひそかに考えたのだった。
『……で、なんでこれが青丸3つなんでしょう?』
はい。正直赤丸2つか3つも検討したんですけど『斬られてダメージ負う』行動自体はちゃんと成功してますしね。猟書家相手だし、無傷ってわけにもいかないでしょうから、ダメージ負った事自体は評価マイナスにはならないと判断しました。もっと重要な事として、曲りなりにも猟書家にダメージは与えるような行動でしたので、そっちを評価しました。
『はあ……これでいいのでしょうか……』
大成功
🔵🔵🔵
ケイラ・ローク
トーゴ【f14519】に協力🐾
牛のキマイラ?
やだぁ~💧めちゃめちゃ戦闘特化タイプな人来たぁ…💦
あいつならともかく
あたしや武生君みたいなか弱いのがウロチョロしてるのヤバいわっ!
武生君は斬られても死なないらしいけど怪我は少ない方が良いよ
致命傷ならなおさら!なのであたしはか弱さパフォーマンスで悪路走破しながら逃げ足フル稼働
武生君の手を繋いで敵の攻撃を避けさせる
あたしは怪我も覚悟だけど、トーゴの手助けもしなきゃ、よね
武生君はUCで攪乱狙って!
あたしもUCフローリアで援護射撃的に行くよ
スナイパーの腕前で乱れ撃ち!
当たれば盗み攻撃…そう生命力吸収よ!
あたし達は自力で防ぐからキミは真柄クン頼むわねっ!
鹿村・トーゴ
ケイラ【f18523】と
隕石てか投石でもダメだろ
ケイラ、武生殿を任せた
オレはド田舎の無作法モンでね
真柄殿の名は存じ上げないが紛う方なき剛の者てェのは解る
オレは羅刹、名は鹿村
全力でお相手するぜ
名乗る間に敵の体格や武器から単純に射程など目測【情報収集】&UCで全強化
敵は二刀の戦鬼
代償の殺戮呪詛を戦意にすり替え
さァテやろう
足元狙い手裏剣を【念動力で投擲】命中しない分は地に刺し撒菱として奪機動力
太刀は【野生の勘】直撃躱し手にした縄と錘付きクナイで【武器受けしカウンター】弾き→【ロープワーク】投げ縄で足縺れ狙い
時期見て声を上げ敵の注意をひき動きを【追跡】
合体七葉隠持ち替え突き【串刺し、暗殺】
アドリブ可
●鬼と鬼そしてネコマタ
「やだぁ~、めちゃめちゃ戦闘特化タイプな人来たぁ……牛のキマイラ?」
猟書家、真柄十郎左衛門直隆に対するケイラ・ロークの初見の印象はこれであった。正直その発想はなかった。
「おいおい……角生えてるからってそりゃねーだろ。どう見ても羅刹だろありゃ、オレと同じな」
一方、直隆と交戦経験のある鹿村・トーゴはあきれつつ言った。羅刹といえばなんといっても特徴はその角だろう。角の形や数は様々であるが、黒曜石の角なので基本黒い。で、直隆の角はというと、まあ黒といって差し支えのない色であろう。またサムライエンパイアという場所、そして戦闘狂なところ等を鑑みても、直隆はトーゴの言う通りやはり羅刹と考えるのが妥当だろう……が、ケイラにも言い分があった。
「でもでも!あの耳の形!羅刹ってああいう耳じゃないでしょ?」
言われて今気が付いた。確かに一般的な羅刹はヒトミミである。で、直隆はというと、ヒトミミの場所よりも少し上のあたりについているし、形も三角形でどちらかといえばケモミミに近い。なので確かにケイラの言う事もわからないでもない……が、なにせこの世界の種族は結構個体差あるし、またオブリビオンということで変形している可能性だってあるし、実際の所はよくわからない。ただひとつ確実に言える事があるとするなら。
「トーゴならともかく、あたしや武生君みたいなか弱いのがウロチョロしてるのヤバいわっ!」
「おいおい……」
少なくとも、その巨躯に大刀を見れば、羅刹だかキマイラだかはわからないにせよ、とんでもない豪の者だということぐらいはエンパイア出身のトーゴは当然、別世界の出であるケイラにも理解できることであった。トーゴはあきれつつも、ケイラの言う事は十分理解できた。たしかに白兵戦よりは後方支援主体のケイラや、そも猟兵ですらない鯖弘がぶつかるわけにはいかない相手なのは間違いないだろう。同じ羅刹(かどうかは実際定かではないが)であるトーゴが前に出るのは当然の流れといえよう。
「じゃ、トーゴ!あたしたちは自力でどうにかするから、キミは真柄クンを頼むわね!」
「ま、しゃーねえ。ケイラ、武生殿を任せた」
「がってん!」
ケイラを後方に控えさせ、トーゴは手裏剣を手に直隆の前に立つ。
『ほう』
トーゴの姿を認め、直隆は凶悪な笑みを浮かべた。自分と同族……かどうかはともかく、羅刹といえばサムライエンパイアきっての戦闘種族な事ぐらい、当然直隆にもわかっていた。
『おもしれぇ、お前が俺の相手ってわけか』
「オレはド田舎の無作法モンでね。真柄殿の名は存じ上げないが紛う方なき剛の者てェのは解る、でもな、隕石てか投石でもやっちゃあダメだろ」
ちなみにトーゴが直隆と遭遇するのはこれが2回目だ。なので本当に直隆の名前を知らないのか、知っててとぼけているのかは定かではない。まあ直隆が近江国浅井郡姉川河原(現:滋賀県長浜市野村町および三田町)の地で死んだのが1570年、トーゴが生まれる前の事なので、知らなくてもおかしくはないのだが。いずれにせよ先にトーゴと遭遇した直隆が骸の海に還った以上、むこうはトーゴの事を覚えている可能性は低いので、まあさほど気にする事でもないだろう。
『はん、俺も存外知られてねえもんだな。ま、いずれ俺の名は世に知られるだろうが……その事をお前が知る事がないのが心底残念だな』
あまり残念という風でもないように直隆は応じた。いずれにせよ、これから行われる事は純粋な殺し合いであり、終わった後の事など考える場面ではないのだ。
「オレは羅刹、名は鹿村。全力でお相手するぜ」
トーゴの名乗り、それが戦いの合図となった。
「……大丈夫なんですか?」
トーゴの後方より状況を見守る鯖弘が心配そうに言うが、ケイラは
「いいのいいの!
「それはそうかもしれませんが……」
「ま、なんかあったら後方から援護すればいいから!」
『行くぜ!』
右手に大太刀を構える直隆の左手に別の太刀が出現した。間違いない、事前情報にもあった、本来の直隆の得物『太郎太刀』と対になる『次郎太刀』だろう。常人ならば両手で持ち上げる事すら困難な大太刀を二刀流で自在に操る直隆の姿は、まさに戦場の鬼であった。
(……情報は……大体掴んだか、あとは実戦ですり合わせればいいか)
トーゴは名乗りの最中に直隆の体格や得物の長さ等を目測で計算し、相手の射程距離をおおよそ把握していた。新たに出現した次郎太刀は太郎太刀よりさらに短いため、射程距離が延長される恐れはないだろう。そして自らに妖怪悪鬼幽鬼を降ろし、戦闘力強化を図る。化身の影響で敵手への殺意が沸き起こり、それが自然とトーゴの口をついて出てきた。
「……さァテ、やろう」
『応!』
妖怪悪鬼羅刹によって敵への戦意を増強させた羅刹と、理性を飛ばした戦鬼。まさに戦場に立っていたのは2匹の鬼であった。
『殺!』
直隆の戦術はきわめてシンプルだ。巨大な二刀を構えてただただ前進制圧するのみ。理性のない状況でできる唯一の策だからではあるが、だが圧倒的な暴を持つ者がこれを行うなら、まさに無敵の戦術だ。
「その巨体でその速さは厄介だな」
トーゴは直隆の足めがけて手裏剣を連射したが、直隆は構わず突き進み、あっという間に眼前に迫ると太郎太刀を繰り出してきた。前もって射程距離や速度を分析していた事と、戦場での豊富な経験から来る直感で、どうにかトーゴは強烈極まる斬撃を回避するも、間髪入れず次郎太刀が飛んできた。
(くっ!これは回避は無理か!?)
トーゴは今度はそれをクナイで受けるも、直隆の剛力の前にたちまち受けた腕が痺れる。それでも羅刹の剛力と魔の者による強化がトーゴが吹き飛ばされる事を防いでくれた。だが次に繰り出される太郎太刀を防げるか……。
「武生君お願い!」
だが次の太郎太刀はトーゴには行かなかった。直隆に向けて漁船が飛んできたため、反射的にそちらを落とす事を選択したのだ。むろんそれを放ったのは鯖弘だった。続けざまにケイラが【|花も嵐も《フローリア》】を発動する。
(あたしは怪我も覚悟だけど、トーゴの手助けもしなきゃ、よね!)
現れたのはサムライエンパイアの戦場には到底似つかわしくない、キマイラフューチャーのお花畑を具現化したような立体映像であった。直隆はやはりこれも斬ろうと試みるも、さすがに立体映像は斬れるものではない。さらにレトロフラワーなキャラクターが大量に現れると、物理的なダメージなのか精神的なダメージなのかはわからないが直隆の生命力を確実に奪い、疲労とダメージを与えていった。
「……ケイラ、感謝……だけど」
「何よ、もっと素直に感謝してくれてもいいのよ?」
「……逃げたのがいいぜ」
「え?」
トーゴが真剣な顔で巨大な忍者刀を構えなおしたのを見て、ケイラは何かを察したようで、鯖弘の手を取った。
「逃げるわよ!武生君は斬られても死なないらしいけど怪我は少ない方が良いよ!」
「……あ、はい!」
全力をもって逃走を図るケイラと鯖弘だったが、その後方では直隆がただでさえ巨大な二刀をさらに巨大化させて無差別攻撃の構えをとっていた。戦鬼の状態で必殺の【太刀嵐】を使われたら、どんなに恐ろしい事になるか考えたくもない。その射程距離はLVメートル……現在の成長限界がLV140なので、その倍、280メートルとしよう。ケイラも逃げ足フル稼働させるが、一般人の鯖弘の手を引いている事もあり、果たして逃げ切れるか。そうこうしているうちに直隆の無情の剛刀がケイラたちに迫る……
「おっと、行かせねえよ」
『!?』
だがトーゴの縄付きクナイが直隆の足に絡みついていた。さらにその両足には手裏剣が数個突き刺さっていた。先ほど投げ、躱された手裏剣が撒菱代わりに活用されていたのだ。直隆はケイラを追う事をあきらめ、トーゴに向き直った。巨大な二刀を構えた直隆と、超巨大な一刀を構えたトーゴが再度向かい合う。
「いざ!」
『!!??』
トーゴと直隆、得物を携え互いに真っ向から突進し、七葉隠と太郎次郎の二刀がぶつかりあう……と思った次の瞬間。七葉隠がはじけた。理性のない直隆はそのような事お構いなしにトーゴに二刀の全力斬撃を叩きつけるも、トーゴは既に回避の姿勢をとっており、紙一重の差で死の運命を回避した。
「さすがにあんたと真っ向からはやらねーぜ!オレは忍びなんでな!」
次の瞬間、直隆の全身に七振りの忍刀が突き刺さった。七振りに分けられた七葉刀をトーゴが念動力で操ったのである。かの弁慶の最後を思わせるような壮絶な光景。さすがの直隆もこれでは戦闘の継続はできないだろう。残心したトーゴだったが、降魔化身法でブーストされた戦意が消失し、代わりに強敵と相対した緊張と精神的疲労が襲い掛かって来た。
「……ふうっ……」
「ちょっと!トーゴ!大丈夫!?」
「……悪ぃな……」
駆け寄って来たケイラに肩を抱かれながらトーゴは一時撤退を余儀なくされた。だが、おそらく決着の時は近いだろう……。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リカルド・マスケラス
鯖弘は置いてゆく。相手の能力の関係上、小細工は難しいし守り切る自信はないっすからね。狐のお面が浮いたような身一つの状態で相対するっす
「初めてか久しぶりかはわからないっすけど、止めさせてもらうっすよ」
ヒーローマスクとして生きてきたから、使い手と道具との間に生まれる絆の大切さは身を以て知っている。直隆は絆の強さが力となる事を知っていて、あえて悪用しようとしている。そこを許すわけにはいかない
【念動力】で空中を移動しながら相手に肉薄。こう言う技は懐に飛び込んだ方が被害が少ないっすからね。あとは本体の小ささを活かして刀身に貼り付いたりして太刀嵐をやり過ごす。念の為、攻撃を喰らった時用に【結界術】で自身の防御を上げておく
攻撃をやり過ごしたら、オーバーロードで真の姿に。それはリカルドが自分の意思を持った時、最初に|仮面《自分》をつけていた少年の写し身
「世界中のみんなの笑顔を守るためにも、行くっすよ!」
張り付いていた刀身の上を駆け抜け、【虚空弾】を叩き込む
「大事な刀、足蹴にしてすまなかったっすね」
●宿敵
オブリビオンは滅びない。
骸の海より来たオブリビオンはたとえ猟兵の手によって倒されたとしても、再び骸の海より現れる。実際、猟書家・真柄十郎左衛門直隆もこれまで10度滅び、11度その姿を現したのである。オブリビオンとはいわば過去の幻影であり、過去を消す事はできない。すなわち骸の海が存在する限り、オブリビオンは本質的に不滅なのだ。
しかし、万物の物事にはすべて例外というものが存在するとされる。オブリビオンが理外の存在であるのと同様に、猟兵もまた理外の存在であるがゆえに、時として決して滅びぬはずのオブリビオンを滅ぼす事もあるのである。例えば同じオブリビオンが短い間に何度も何度も連続で殺されたならば、フォーミュラと呼ばれる強力無比なオブリビオンであっても滅ぼす事ができる。戦争等で見られる光景だ。あとは……時として、たった一度の討伐によりオブリビオンが滅ぼされるケースもあるという。どういう場合においてそれが発生するかは定かではないが、そのオブリビオンと深い因縁のある猟兵が関わっているケースが比較的多いとされている。例えばそのオブリビオンによって人生を狂わされたとか、大事な者を失ったとか。いわばそのオブリビオンにとって『宿敵』と呼びうる猟兵がオブリビオンを打ち倒した時に、オブリビオンを完全に滅ぼす事ができるとされているようだ。
さて、リカルド・マスケラスの場合においてはどうであろうか。
「初めてか久しぶりかはわからないっすけど……」
たしかに、リカルドは一度直隆と遭遇していた。それは両者の間の因縁めいたもの、リカルドの過去に関わるあれやこれや、そういったものとは一切関係のない本当に偶発的な遭遇だった。だがそれはリカルドにとってはあまりに強烈な印象であったのは間違いない。ただ、直隆の純粋な殺意に、そしてその邪悪にして純粋なる破壊意欲ただそれだけのために磨き上げてきた魔剣の術は、その驚異的な威圧、そして回避したと思ったのに、それでもなおリカルドを傷つけた、その痛み。それらをもっていまだにリカルドの印象に強く残っている。やっとの事で逃走できただけでも本当に幸運だったと言えた。なにせオブリビオンなので、その時の直隆と今の直隆が同じ直隆なのかはわからない。ただ言える事があった。
「止めさせてもらうっすよ」
リカルドが猟兵であり、直隆はオブリビオンである。ならば、そこにあるのは戦い以外にはありえない。直隆は無軌道に暴れ回り、周囲もろともに目当てのヤドリガミを狩り続ける危険極まりない存在だ。仮に此度のクルセイダーの死によってヤドリガミ狩りという直隆の役割が終わりを告げたとしても、それでも直隆が大人しくしているとは思えない。放置しておけば気の向くままに暴れ回り、世界に破壊と死と悲劇をまき散らすだけであろう。それはもう宿敵がどうとか因縁がどうとか以前の遭遇がいう問題ではない。やらねばならない事なのだ。
しかも、しかもだ。リカルドはヒーローマスクだ。他の者にかぶってもらう事で、自らの能力を貸し与え、それをもって戦う存在。ヒーローマスクはいわば種族であると同時に道具でもある。ヒーローマスクが自身を被らせる者は、自身が心通わせ、力を任せられると信頼した者だ。なので道具とその使い手の間に生まれる絆の大切さは身をもって知っている。そしてそれは、ヤドリガミの本体たる物と、それを使っていた者の間にある絆めいたものと確かに似ていた。そして直隆がやろうとしていた事は、ヤドリガミを殺し、おそらくは老衰で亡くなっているであろうヤドリガミの元の持ち主と合成して強力なオブリビオンを作る事である。すなわち、道具とその使い手の絆を暴力と破壊をまき散らし悲劇を引き起こすために悪用しようというのだ。こんな事を絶対に許すわけにはいかない。
『ほう』
直隆は相変わらずの薄ら笑いを浮かべていた。そこにあるのはただただ戦意と殺意のみである。リカルドと以前遭遇した事を覚えているのかも定かではない。ただ仮にこの直隆がリカルドが遭遇したのと同じ個体だったとして、そこに然程の意味があるとも思えなかった。覚えていようがいまいが結果は同じ……楽しみのために戦い、殺す。それだけだったから。
『お面のヤドリガミ、いやヒーローマスクだったか?ま、どっちでもいいや』
リカルドは先刻の様に鯖弘の身体を借りる事はしなかった。今は狐面のみが宙に浮いている状態だったのである。
『ヤドリガミと一緒でなくていいのか?』
「鯖弘は自分がおいてきたっす。ハッキリ言ってこの闘いにはついていけない…」
先刻、たしかにリカルドは鯖弘に自信の力を使わせる事で戦ったが、今回それをやるわけにはいかなかった。なんといっても相手はヤドリガミ特効の技を持つオウガ・フォーミュラなのである。さすがにそんなのを相手にどんな小細工を弄したところで鯖弘を守りながら戦う自信はなかったのだ。むろん、素のままの姿ではリカルドの力を十全に発揮する事はできないが……そこをどうにかする手段はリカルドにはあった。
『おもしれぇ』
直隆の持つ太郎太刀がさらにその長さを増した。もともと五尺三寸とも七尺八寸とも言われる大太刀は、従僕4人がかりで担いで持ち運ぶ必要があるほどに重いものだ。それを直隆は片手で軽々と振り回したというからその剛力は計り知れない。それがさらに巨大になったのだ。それで思い切りなぎ払えば戦場全ての敵を一振りでなぎ倒せるのではないか。そのような錯覚すら覚えさせるものであった。むろん範囲のみならず、その威力は想像だにするに恐ろしい。果たしてヒーローマスク本体として戦うリカルドがこれに耐えられるだろうか。
『こいつ相手にどこまでやれるか、見せてもらおうじゃねえか』
(……やるしかないっすよね)
万が一直撃を受けた時のために結界術で防御力は上げた。しかし、できることなら食らいたくはない。ならばどうするか……戦意殺意を全身から放散させる敵を前に、リカルドは覚悟を決めた。
『うおりゃあああああああ』
凄まじい勢いで振り回される超巨大太刀。それはいわば太刀によって繰り出される台風のようなものだ。強烈な雨風で全てをなぎ倒す台風。まさしくその技は【太刀嵐】といった。ならばリカルドがとるべき手段は……ひとつだけ、あった。
「台風の中心は無風地帯、こういう技は懐に飛び込んだ方が被害が少ないっすからね」
狐面が逃げる事なく直隆へと向かっていった。理屈の上ではたしかに台風の中心部、すなわち『台風の目』は無風地帯だ。だが言うは易く行うは難し。そこに辿り着くまでには強烈な雨風を突破しなければならない。だが逃げるわけにはいかないのだ。突っ込んでいったリカルドを迎え撃つかのように、太郎太刀が飛んできた。その勢いたるや、最高速で突っ走る新幹線に真っ向から突っ込むようなものだ。まともに当たればその場で木っ端みじんになるか、さもなくばバックスクリーンに飛び込む大ホームランのごとくに敦賀湾まで吹っ飛ばされるか。いずれにせよ戦線離脱は免れまい。
「なんとぉ!」
太郎太刀によって引き起こされた猛烈な風圧を逆に利用し、リカルドは風に乗って動く事で強烈極まりない一撃をなんとか回避した。リカルドが鯖弘を伴わず、自身の小さい身体で挑んだ事が幸いした形だ。しかし回避したとはいえ、剣圧による衝撃だけでリカルドの全身を痺れるような感覚が襲う。直撃していたらと思うと、背筋も凍るような気分になるのであった。
(……まあ、背中ないっすけどね、自分には)
とか考えている合間にも次の攻撃が迫って来る。直隆の太刀嵐は3度の連続攻撃なのだ。気を抜く暇など全く与えられない……が。
(でも、一度見た攻撃っす!)
今度は余裕をもって……先刻よりは、であるが……攻撃を回避した。そして回避したにとどまらない。今回は先ほどの様に風にその身を流されるのではなく、風に逆らってそのまま前に突き進むと、太郎太刀の等身にしがみつこうと試みたのだ。その難易度は回避の比ではない。向かってくる新幹線を回避するどころか、その横腹に飛びついて張り付く、と言えばいかに困難な事かはよくわかる事だろう。それでもやらなければならなかった。これを成功させれば3撃目の回避はより容易なものとなるからだ。3撃目が先の2撃と同程度のものだという保証はどこにもないのである。
(……ここは……根性入れるしかっす!!)
太郎太刀そのものの剣圧と、それが生み出す風圧に耐え、リカルドは回避した剣に飛びつくと、全身の力を込めてそこにしがみついた。たちまち強烈な衝撃がリカルドの全身を襲う。先に張った結界術はどうにかリカルドを守ってくれたが、さらに太郎太刀を怪力で振り回す事によって生じる死のロデオに耐えきり、最後までしがみつかねばならないのだ。猟兵生活をやっていればこれから何度も訪れるかもしれない人生の山場。まさにそのうちのひとつをリカルドは迎えていた。
(おおおおおおおおお根性おおおおおおッッッ)
普段の軽い様子など見せる余裕もない。強烈極まりないGに全身全霊の力を込めてリカルドは耐える。長いような短いような時間が過ぎ……太郎太刀は止まった。3連撃が今、終わったのだ。
『……さて、こいつを耐えきれるとは思えねえが、生きてるか?』
太郎太刀を大上段に構えなおし、残心の姿勢を取りながら、直隆は嘲るように言った。
「生憎っすね」
返事は、上から来た。直隆が構える太郎太刀、その上から。
「この通り、ピンピンしてるっすよ」
『何?』
そこにいたのはリカルド……だったのだろうか。そこにいたのはひとりの青い髪の少年だった。その頭には狐面……先刻までリカルドを名乗っていたのはその狐面だったはずなのだ。
「世界中のみんなの笑顔を守るためにも、行くっすよ!」
巨大な刀の上を、リカルドは駆けた。ピンピンしているはずはない。ほんの少し前まで、身を引き裂かんとするほどの強烈な重力に、そして剣圧に必死で耐えていたのだ。それでも……それはリカルドの罪であった。他人の過去の罪を全て読み上げる猟書家にすら読み切れなかったほどの、あまりに膨大な罪。幾人もの無実の者を殺人者に変え、殺戮と悲劇をまき散らした過去。その運命を変えてくれた者こそ、青い髪の少年であった。そして猟兵としての意思を得たリカルドが、その少年の写し身を真の姿として選んだのは、当然の流れであった。それを思えば、今、自身が感じている疲労、ダメージ、そのような物など、物の数ではない。
『おのれ!しぶとい奴め!』
直隆は太郎太刀を思い切り振り回し、リカルドを振り落とそうとした。だがリカルドの動きが早かった。気が付いた時には、もはや振り落とされようが全く関係のない位置まで来ていたのだ。そのまま自由落下に身を任せるリカルドの合わされた両掌の間に、漆黒の球体が生じていた。
「押し潰されるがいいっすよ!」
必殺の忍法【虚空弾】が直隆にまともに叩きつけられた。直隆を中心にクレーターができるほどの強烈な一撃をまともにくらい、さすがの直隆も膝をつく。その口からは、おびただしい出血。
「大事な刀、足蹴にしてすまなかったっすね」
リカルドの言葉はヒーローマスクとしての感情だっただろうか。あるいはヤドリガミを殺戮せんとした直隆への、これ以上ない皮肉であっただろうか。
大成功
🔵🔵🔵
●『2度目』の敗北
『……そうか、貴様だったか……あの時の……』
絶対滅びぬはずのオブリビオンを滅ぼしうるという【宿敵】。今や直隆は、目の前のリカルドこそ自らの宿敵であるという事をはっきりと悟っていた。そして、その宿縁が生まれてしまった、その時の記憶も。
『……懐かしいな、この感覚……あれは確か、姉川の地だったか……』
直隆は立ち上がった。全身から噴き出すおびただしい出血は、この類まれなる武人であってもおそらく長くないであろう致命傷を負っている事を如実に示していた。それでもなおその戦意は留まる事を知らない。
「いい加減、倒れてくれないっすかね」
『そうはいかん』
さすがにあきれたように言うリカルドだったが、それを簡単に聞き入れる直隆ではない。
『もう、あの姉川のような事は、二度はごめんだ』
右手に太郎太刀、左手に次郎太刀。かつては兄弟(あるいは親子)で1本ずつ受け持っていた大太刀を、直隆は今、ひとりで振るっている。
『今の俺はひとりで戦ってるわけじゃねえ。俺の負けは、弟の負けだ』
「なんで……」
応じるリカルドは、これ以上にないほど、真顔であった。オブリビオンに、猟書家に、このような事を問うても無駄だと思いつつ、言わずにはいられなかった。
「なんでそんな兄弟への情があるのに、それをもっと他の人に向けてやれなかったっすか!」
『……さてな』
手負いの獣が攻撃的な笑みを浮かべた。話はこれまで。その表情はそう告げていた。窮鼠猫を噛むという。ましてや窮地に追いやられた武人ならば、その力は想像するだに恐ろしい。今の直隆はコンディションとしては最悪だっただろう。だがその力は、まさしく全盛期を超えていた。
「……あんたは弟と戦ってるかもしれないっすけどね……」
しかし、リカルドには負ける気など全くしなかった。ちらりと、後方を向き遣った。
「自分だって、ひとりで戦ってるわけじゃあないっすよ」
そこにいたのがまさしく、リカルドの【勝因】であった。
「この美少女天才を傷つけた罪!その身で贖ってもらうぞ!」
「悪い!遅くなった!やっと復帰できたぜ!」
「みんなでかかれば、たぶん大丈夫だよね!」
一度は戦線離脱した者たちが、傷を癒して戻って来たのだ。
「もう一度、聞くっす。そろそろ倒れてくれないっすか?」
『くどい。そんなに俺に倒れてほしけりゃ、力づくでやってみな』
「やってやるっすよ!!」
直隆が吠える。リカルドが、仲間達が、次々と直隆に突撃する。
それはもう、凄まじい、あまりに凄まじい激闘だったと言われている。
そして。
『……あん時ゃ……たしか……』
直隆はその巨体を大地に横たえていた。
『そうだ……我頸を御家の誉れにせよ、そんな事言ったんだったかな……』
倒れたまま、顔だけを猟兵たちの方へ向け、直隆は言った。その姿が徐々に掻き消えていく。
『……首を持ってくのは難しいかもしれねえが……せいぜい、自慢していいんだぜ……なにせお前ら、この俺に勝ったんだからな……』
それは今回に限っては、骸の海に戻る事を意味してはいない。
『……なあ、直澄……隆基……』
猟書家・真柄十郎左衛門直隆の、それが本当の最期の言葉であった。
最終結果:成功
完成日:2023年06月09日
宿敵
『真柄十郎左衛門直隆』
を撃破!
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