闇の救済者戦争⑬〜Lament
●薔薇色のノクターン
「みんなお疲れ様。どこへ行ってもとんでもないモノしかいないけれど……また厄介な相手を頼んでいいかしら?」
ダークセイヴァーにおける『闇の救済者戦争』は、いずれの戦場も苛烈を極めている。第二層へも手が届いたところだが、今回行ってほしいのは第五層だとベルナルド・ベルベット(薔薇々・f01475)は告げた。
それは禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の『欠落』に繋がると思しき場所だ。
「それが月光城。本来は異端の神々と戦うための城塞群だけれど、この城を治める主たちが現れたの。間違いなく欠落を隠すためでしょう。……アタシが予知で捉えたのは『アリシア・ローズ』という吸血鬼よ」
それは可愛らしく、美しく、無邪気で残酷な少女だと、ベルナルドは言う。
「気持ちの良くない話よ。――アリシアは生きた人間を飾っている」
もともと人間を人形と呼んで愛でるような性格だったらしいアリシアは、件の欠落への道筋と思しき謎の『魔空回廊』に、手に入れた人間たちを展示しているのだ。
だが歪んだ趣味嗜好のためだけにそうしているわけでもない。アリシアは城主として月の眼の紋章と融合し、この魔空回廊にいる限り戦闘能力が元の660倍となる。その力の源こそが彼女が展示した人間たちだと、ベルナルドは笑みも浮かべずに伝えた。
元より強力な力を持つ吸血鬼だ。その力が桁外れの強化を受ければ、苦戦どころの騒ぎではない。
「だから、囚われた人々を解放するのが重要になるわ。半分も解放することができれば、強化は完全に失われるはずだから」
とはいえこれも、簡単な話ではないのは確かだった。解放が叶うまでは、常に強化された状態のアリシアとの戦いになる。
「……ただ、アリシアはお気に入りの『人形』を殺さないの。もしもアナタたちの容姿がアリシアの気に入るものなら、少しは攻撃の手を緩めるかもしれないわ」
例えば美しい長い髪。
例えば美しい宝石のような瞳。
例えば美しい翼。
「まあ、要するに美形よ」
アタシみたいな、と無駄に自信に満ちた笑みを浮かべてから、ベルナルドは猟兵たちを見渡した。
「容姿に自信があれば、自分を囮にして気を引いてもいいと思うわ。一般的な正論を聞くような相手ではないけれど、『お気に入り』とならお喋りもしてくれるかもしれない。……とはいえ危険な相手に変わりはないから、注意するのよ」
そう言って、ベルナルドは猟兵たちを美しい硝子の棺が飾られる回廊へと送り出した。
●月明りのラプソディ
「ここが私のお城になるの?」
痛いほどの静けさと冷たい月明りが支配する城塞――『月光城』へと降り立った吸血鬼は、金糸雀色の髪を靡かせてくるりと辺りを見渡した。
「あんまり美しくないのね」
城の内装は整ってはいるがどこか古めかしく、華やかさは少ない。
物足りないわ、とアリシア・ローズはぷうと頬を膨らませた。気まぐれにやって来たとは言え折角のお城なのに、綺麗も、美しいも、可愛らしいも足りないなんて。
「そうだわ!」
ぱっと表情をほころばせて、アリシアは少女のように駆け出した。目指すのは城の回廊だ。そこには、とっておきのものを集めて持って来てある。
「みんな、良い子にしていたかしら? ――まあ! まあまあ! そんな一生懸命見つめなくても、元の場所に帰すなんて言わないわ」
だってあなたたちは、私の可愛いお人形だもの。
心底楽しげに無邪気に笑って、アリシアは冷たい回廊で蹲るたくさんの|人間たち《お人形さん》を見渡した。どの子もこの子も素敵で綺麗で美しい。色んな所から集めて、中でもお気に入りをここに連れて来たのだ。
だから物足りないこの城に飾るなら、とっておきのこの子たちがいい。
アリシアは赤く艶めく指先で『人形』の顎を上げさせる。指先から生じた薔薇の花弁は、次の瞬間には美しい硝子の棺に『人形』を飾り付けていた。
「ああ、やっぱり素敵!」
きゃあ、とアリシアは無邪気な声をあげて、次々に人間たちを硝子の棺へ納めてゆく。しばらくの後には、薔薇の花と共に生きながら飾られる人間たちの展示――|人間画廊《ギャラリア》がそこに出来上がっていた。
「大丈夫、殺したりしないわ。だって減るのは勿体ないもの」
ぐるりと取り巻くように作り上げた城の回廊を踊るように歩んで、アリシアは楽しげに笑った。欲を言えば、行方を見失ったお気に入りのあの子がここにいないのが残念だけれど。
「私があなたたちを守ってあげる!」
柳コータ
お目通しありがとうございます。柳コータと申します。
こちらは一章のみのダークセイヴァー『闇の救済者戦争』シナリオとなります。
●プレイングボーナス
|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する。
※敵の好みに合う容姿を武器にした場合もボーナスが発生します。おすすめは黒髪長髪です。
容姿を武器にした場合、心情や会話によった攻略も可能ですが、容姿判定はより『やや難』相当になりそうです。
●プレイング受付について
【5/12(木)8:31~】から受付を開始します。断章はありません。
以降の受付状況はMSページでお知らせします。
先着順ではありません。戦争シナリオのため進行優先&少数採用を予定しております。
技能やアイテムの羅列でお任せされても効果的に反映できませんのでご注意ください。
クリアに至れない場合は、サポートで進行予定です。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『アリシア・ローズ』
|
POW : 薔薇色のロンド
レベルm半径内に【血液から変じた薔薇の花弁】を放ち、命中した敵から【自身に向いた敵意・殺意と共に生命力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
SPD : 硝子色のラメント/ベル・カント
戦場全体に【薔薇咲く硝子の庭園】を発生させる。レベル分後まで、敵は【悲哀や絶望の記憶を増幅する雨】の攻撃を、味方は【硝子の小鳥による囀り】の回復を受け続ける。
WIZ : 白金色のドルチェ
【過去・現在の自分=アリシアの行いに疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【人形楽士団の幽霊】から、高命中力の【甘く響き魂囚える旋律】を飛ばす。
イラスト:白
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リオネル・エコーズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
有栖川・夏介
可憐な容姿で油断させ、近づくものを傷つける。無邪気に。悪意なく。
まるで棘ある薔薇のようですね…。
敵の好みにあうような容姿をしているとは思えないので、攻撃で注意を引きつけ、その隙に捕らえられた人々を救出します。
敵の攻撃に注意しつつ間合いを詰めていき、UCを発動
「……薔薇の花はお好きでしょう?」
敵が怯んだら、その隙に捕らえられた人々を救出。難しければ、攻撃の手は緩めずに救出活動は他の猟兵にまかせます。
…それにしても、無邪気に他者を傷つける貴女は、私が知る吸血鬼の少女によく似ている。……吐き気がします。
栗花落・澪
残念ながら自分に自信は無いので
普通に相手させてもらおうかな
念のため【オーラ防御】と
鎌を武器兼盾として保有しつつ
【空中戦】と地上戦の切り替えも駆使した回避重視
そもそも僕本来はサポート寄りだし
マイクを手に【彩音】発動
更に【催眠術】を乗せた【歌唱】の【範囲攻撃】を組み合わせ
攻撃は出来ずとも足止め狙い
同時に紡いだ歌詞を全て
拡声された音量と同等のサイズで実体化させ続けながら
一部は雨を凌ぐ傘の代わりとして
残りはローズさんの進路妨害と
人々が囚われてる硝子の棺破壊用として遠隔操作
お人形遊びが好きな気持ちは否定しないけど
本物の命でやる事じゃないと思うんだよね!
だから、返してね(この言葉も全部実体化)
回廊には美しい硝子の棺が並んでいた。
しかし、一見すればつい見入ってしまうほど精緻を極めるその棺が収めているのは、人である。
そうしているのはこの回廊の中で無邪気に笑う吸血鬼の少女――アリシア・ローズ。
「あら、あなたもお人形さんを愛でに来たの?」
有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)の接近に警戒した様子もなく、アリシアは笑って夏介を振り向いた。無邪気な瞳に、悪意はどこにもない。
可憐な容姿で油断させ、近づくものを傷つける。それが彼女にとって当然のことなのだろう。
「まるで棘ある薔薇のようですね」
「あら、薔薇はお嫌い? ――なら、お人形は見せられないわ」
わざとらしく首を傾げるアリシアは、夏介が猟兵であるとわかっているのだろう。それでもここまでの接近を許すのは、強化の力から来る絶対的な自信によるものが大きいのだと察するに容易い。故にこそ、好機がある。
夏介は更に一歩を詰め、白薔薇の花弁を放った。伴う全ての武器を無数の花弁へと変じた花嵐はアリシアを斬り刻まんと唸りあげる。
「……薔薇の花はお好きでしょう?」
「やだ、この花は綺麗じゃないわ。花はお人形を飾るのが相応しいのに」
高い声で不満をこぼし、アリシアは一時行動を足止めされる。
「お人形遊びが好きな気持ちは否定しないけど」
そこに踏み込んだのは栗花落・澪(泡沫の花・f03165)だった。構えた鎌と身体に巡らせた力で回避に千年すると同時に身を守り、夏介と並び立つ。
「本物の命でやることじゃないと思うんだよね!」
――だから、返してね。
そこまで澪が紡いだ言葉全てが実体を持ち、回廊へ降り注ぐ。それは夏介の花弁と合わせてさらにアリシアをその場に押し留め、同時に多くの硝子の棺にひびを入れた。
そのまま澪は歌い出し、その歌詞さえも形を得て、どこまでも響きそうな歌声と共に大きく頭上を覆い、絶望の雨を遮った。
機を見た夏介は素早く棺から囚われた人々を救い出してゆく。
「なるべく急いで! そんなに長くはもたないよ!」
「わかっています」
幾人かを助け出したところで、アリシアの導いた幽霊楽師団たちの音色が響き出した。その音は澪の声をも打ち消すように鳴り渡り、魂を囚えんと揺らす。止まぬ嘆きの雨もしんと心を凍らせてゆくようだ。
ぐ、と夏介も澪も思わず呻く。強化された力は想像よりもずっと強大だ。
「私のお人形を返して?」
アリシアの可憐な声と共に、幽霊楽師たちの音楽はなお響く。身体の制御が効かなくなるような感覚に、夏介は僅かに眉を顰めて耐えた。救出は一時中断して、白薔薇の花弁をまた放つ。
「今度は私が止めます。そちらで救出を」
「うん、わかった!」
夏介に代わって、今度は澪が棺の人々を救出にかかった。それでも澪の歌は続いている。
「……それにしても」
攻撃の手を緩めることなくアリシアを見据えた夏介は、微かに瞳を揺らす。絶えず無邪気な笑みを浮かべたアリシアには、どこか既視感があった。姿ではない。その行い自体がだ。
「無邪気に他者を傷つける貴女は、私が知る吸血鬼の少女によく似ている。……吐き気がします」
脳裏に浮かぶ姿は、目の前の吸血鬼とは異なれど。
言葉と共に夏介の攻撃が更に勢いを増す。その背で、がしゃりと硝子の割れる音がした。時を同じくして、常に大きく響いていた幽霊楽師団の音楽が小さくなる。またひとつ強化が解かれたのだ。ならば。
「いま、畳みかけよう! ――教えてあげる。世界に溢れる鮮やかな音!」
「紅く染めよ、と女王が言った」
澪の歌とその言葉が、夏介の放つ白薔薇がアリシアへと一挙に押し寄せ、その姿を花弁と音の渦の中へと呑み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ディフ・クライン
人形を飾るのが好きかい
ならば正しく『人形』が此処に居るよ
君の気に召すかい?
その柩に入る気はないけどね
宵艶の髪、ベニトアイトの宝石眼
多少なりこの見目が気を引くに役立てば良いが
難しければ出来るだけ仲間が解放する為の隙を作れるよう
視界に入り続けて気を引こうか
あぁ、そんなに猛らずとも喚ぶさ――王よ
ダークセイヴァーの亡国の王
貴方の民の安寧の為に戦うと約束した
それを果たすよ
王を降ろし焔纏い、意識を保てるギリギリまで同調して
王の剣を握る
ダンスは好きかい?
王に突き動かされるように剣を振るう
身を冬のオーラ纏い守りながら
たった一瞬でいい
硝子の棺を壊す隙を
人々を逃がす隙を
この身を賭して
されども己が帰る場所を胸に
いざ
「人形を飾るのが好きかい?」
「ええ、大好き!」
ディフ・クライン(雪月夜・f05200)が問うた言葉に、アリシアは振り向きもせず、硝子の棺に飾り付けた人形に見惚れるままに答えた。敵が来ているのは察しているはずだ。既に壊された棺も見て取れる。けれど身構えもしないのは強化で得た力ゆえと、何より人形を愛でることを無邪気に楽しんでいるがゆえだろう。その証拠に背を向けた今も、隙らしいものを感じない。
コツ、と魔空回廊にディフの靴音が響いた。進むほど、おぞましいほど美しく飾りつけられた硝子の棺と、中の人々が見える。幾つかを通り過ぎながら、すぐに助けるから、と胸の裡で呟いた。
硝子の棺に映る、深い宵艶の髪とベニトアイトの宝石眼。美しいものとして作られたこの姿。
「――ならば正しく『人形』が此処に居るよ」
コツン。足音が止まる。その言葉に振り向いたアリシアが、ディフの姿を捉えた。
「まあ! まあまあまあ!」
君の気に召すかい、と尋ねる声に歓声を被せて、ぱあっとアリシアの表情が華やいだ。どうやらお目に適ったらしい。
「なんて美しい髪かしら。その髪がもっと長ければたくさんくしけずってあげるのに。ああでも、瞳も美しいわ。本物の宝石かしら?」
もっと近くで見たいわ。アリシアがぱたぱたと駆けて来る。その視界から外れぬように、ディフはゆっくりと硝子棺の並びから離れた。自分が難しくとも、隙さえ作れば仲間の誰かが人々を救い出してくれるはずだ。
今ディフがすべきは敵の気を引くこと。無邪気に圧倒的な力を振り翳すアリシアに恐怖せず、それを打ち砕くこと。
タン、タタとアリシアの靴が踊るように鳴り迫る。それと同時に、彼方と此方の狭間から猛る声が聞こえて来た。暗く黒く、宵闇よりも明瞭なそれは。
「あぁ、そんなに猛らずとも喚ぶさ――王よ」
ディフと共に在るダークセイヴァーの亡国の王。その死霊が刃を振り上げんとしている。かの王の民の安寧の為に戦うと、ディフは約束したのだ。
「あら、なあに?」
アリシアがすぐそこまで来て、首を傾げている。その背で人々が助けられているのが見えた。今ならば。
「王よ。約束を果たすよ」
オレの身体を貸そう。笑みを浮かべた唇を真っ直ぐに結び、ディフはその身に漆黒の騎士王を降ろす。同時に黒焔がディフの周りにごうと吹き上がった。アリシアが眉を顰める。
「いやね、美しくないわ。纏うなら薔薇の花のほうが似合うのに」
黒焔を跳ね返すようにアリシアが纏ったのは赤き血だ。吹き上がったそれは真っ赤な薔薇の花弁へと姿を変え、ごうとディフへ渦となって押し寄せた。
「そう言わずによく見ておくれ。……ああ、ダンスは好きかい?」
ディフは裂き乱れる花弁を、手にした王の剣で斬り裂く。同調を限界まで深く落としてゆけば、その剣の動きは武勇を謳った騎士王そのものとなる。
身体が動かされている。動くほど、宿す王の敵意がアリシアに向かうほど、彼女の攻撃がディフを切り裂いた。
けれどそれで構わない。易い敵でないことは百も承知、この身を賭すつもりでここに来たのだ。
「踊らされているのはあなたでしょう? ねえ、お人形さん」
「ああ、そうかもしれない。――その柩に入る気はないけどね」
花弁が身を裂き、赤が噴き出す。このあいだ治してもらったばかりだと言うのに、また専属医師に怒られてしまいそうだ。
熾烈を極める戦いの中で、それでもディフは帰る場所を胸に描く。
飾られに来たわけでも、壊されに来たわけでもない。黒焔が大きく吹き上がり、薔薇の嵐ごとアリシアを呑み込んだ。動きが止まった一瞬を、王の剣が斬り裂く。
(たった一瞬でもいい)
少しでも長く、人々を逃がす隙を作る。彼らを家に帰し、そしてディフも帰るのだ。
愛しいぬくもりが燈る、家へ。
大成功
🔵🔵🔵
アパラ・ルッサタイン
確かにヒトは賞賛と鑑賞にあたるものだろうよ
けれど、こうも閉じ込めて眺めて、自由を奪う
……あたしとはちと、美的感覚が合いそうにないな
このオパールの髪や目はあなたのお眼鏡にかなうかい?
生憎とこの宝石は大人しく箱に収まるタマじゃないがね!
身体のオパールから炎を多量に喚ぶ
煌々と照らし暗闇を退け、花弁を焼却する
最初は大部分を防御に回しておいた方が良さそうだな
常に動き続け包囲攻撃は避けたいところ
その間に一部の炎で画廊の棺を壊していこう
無論、囚われた人達を傷つけたりはせぬように
彼女の攻撃に晒さぬよう、救助は背に庇いつつ
好みの姿ゆえ囚われたとしても、念の為ね
解放叶ったならば
たんと炎を束ねてお見舞いしよう
月明りに浮かび上がる緻密な意匠を施された硝子の棺は、まるでショーケースのようだ。
けれども、中に在るのは生きた人間。選び抜かれたその造形は、カンテラオパールの身を持つアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)から見ても美しいとは思う。
「確かにヒトは賞賛と鑑賞にあたるものだろうよ」
けれどヒトとは自ら動き、考え、その感情によって各々が、さまざまな輝きを放つものだ。こうも閉じ込めて眺めて自由を奪い、それを美しいと愛でるのは。
「……あたしとはちと、美的感覚が合いそうにないな」
「まあ、どうして? 私、あなたはとても美しいと思うわ」
くすくすと無邪気な笑みを浮かべて、アリシアはふとアパラの目の前に現れた。無邪気な少女は、嘘偽りなく瞳を輝かせてアパラを見ている。
しかしその圧倒的な存在感は強大な敵の脅威そのもの。本能的にも反射的にも距離を取ろうとしかけて、しかしアパラはそうしなかった。
今、アパラの背にはまだ救われていない硝子の棺に囚われた人々がいる。
「……へえ。このオパールの髪や目は、あなたのお眼鏡にかなうかい?」
適ったからこそ、アリシアは今アパラの目の前にいるのだ。わかっていて、敢えて問いかけた。今は人々を救い出す、その時間が僅かでも必要だ。
「ええ勿論。さっきから、私の可愛いお人形さんが奪われているの。でも、時折ね、あなたみたいにとても素敵な子がいるから」
この月光城にやって来ている、他の猟兵たちのことを言っているのだろう。まるで本当に人形遊びの延長線上なのだ。
飾って愛でて守ったつもりで、よりお気に入りを見つけたらそれまで。ひとの命を悪意なく玩具にしている。
「ねえ、あなたも私のお人形にならない?」
可愛がってあげるから。そう無邪気に笑ったアリシアに、アパラは少しだけ笑う。――そして同時に身体に走る裂け目から、ごうと紅き獄炎が噴き出した。
「生憎と、この宝石は大人しく箱に収まるタマじゃないがね!」
紅蓮の炎は月明りさえも煌々と照らし、アリシアが連れる暗闇を退ける。
たまらずアリシアは悲鳴をあげて下がったが、次いで炎を押し返したのは薔薇の花弁だった。やはり強化された力は並ではない。アパラは動きを止めることなく駆け続け、花弁に巻かれるのを避けた。
そうしながら、身から出ずる炎の一部で、硝子の棺を壊してゆく。硝子の砕ける音と炎が猛る音が重なり、炎と花弁が交じり合い、互いを裂き焼き尽くす。
「だめよ、私のお人形を奪うなんて!」
「ぐ……っ、さすがに押し負けるか」
画廊の人々を救い出すたび、僅かに攻撃の手は緩まる気がした。けれど未だ解放された人々は半分に満たない。
「走れるなら外へ、動けないならあたしの後ろへ!」
硝子の棺から救出されてもすぐには逃げれぬ人々に声を掛けて、アパラは絶えず炎を咲かせながら背に庇う。アリシアはお気に入りを殺さないとは聞いたが、うっかり巻き添えになる程度を厭いはしないだろう。
アパラが駆けられる範囲の人々を救い出す頃には、薔薇の花弁の嵐は最初に比べて随分小さく感じられた。
それを見計らって、アパラは炎を束ね、アリシアへ放つ。
「どうして? 私が守ってあげるのに」
真っ赤な炎と薔薇の花弁がぶつかり合い唸り上げ、そしてついに炎が花弁を焼き尽くした。アパラは炎と共に身体にきらめく遊色を揺らして、その口元が笑う。
「言っただろう? あたしは大人しく飾られてやらないよ」
大成功
🔵🔵🔵
ヲルガ・ヨハ
……ふむ
この様な人間画廊等
われには理解出来ぬが
からくり人形の"おまえ"と共に
拳で、尾で。棺を砕いて回ろうか
煙(けぶり)のオーラ防御で雨を凌ぐ
嗚呼、なれど
わがからくり人形は土塊の総身
故に水に濡らせぬのだ
多少はわれにかかろうとも赦す
苦痛さえ甘んじ受けてみせる
敵が肉薄するならば
われの手ずからこの面紗を捲る
(秘されしそれは、月長石の綺羅)
この顔を、瞳を見せ気を惹けたならば
微笑み神罰をくだそう
神威の蒼白の流星を放つか、
比翼の"おまえ"に任せるかはわれの気分次第
力が削がれれば【硝煙弾雨】浴びせ
それはわれのもの
お前にはやらぬ
敵が"おまえ"迫るならば
触れる事は赦さない
尾を翻し強かになぎ払う
※アドリブ動かし歓迎
「あなたも私のお人形を奪いに来たの」
ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)と"おまえ"が踏み込むと、回廊に並ぶ硝子の棺の前で、アリシアが声を上げた。
どうやら既にかなりの人々が救い出された後らしい。回廊には硝子の残骸が散らばっている。これ以上奪われまいとする吸血鬼はまるで、玩具を取られまいとする子供のようだった。ヲルガはふむ、と面沙の下で嘆息する。
「お前の『人形』など欲しくはない」
棺に飾りつけられた人間より、月の光を浴びて輝く硝子の破片のほうがいくらかうつくしい。けれどそれは、アリシアには理解できぬことだろう。ヲルガにとっても同じことだ。
「この様な人間画廊等、われには理解できぬ」
故に。
目配せひとつ必要なく、ヲルガとからくり人形たる"おまえ"は同時にその尾で、拳で硝子の棺を打ち砕いた。残る棺は最早ほとんどアリシアの近くにしかない。ならばそこへ近づくだけだ。
なんてことをするの、と叫ぶ声を知らぬ顔で"おまえ"が回廊を駆け抜け、更に二人は棺を砕いてゆく。硝子が砕ける音が、しゃらしゃらと続く。
「そう、悲しいわ。綺麗な姿なのに……」
あなたたちにも悲しみを分けてあげる。そう言いながらもアリシアは微笑んだまま、薔薇の花弁を纏い嘆きの雨を降らせた。
「――嗚呼、ならぬ」
殆ど同時にヲルガはけぶるオーラを纏う。けれど雨から守るのは、己よりも傍に添う"おまえ"のほうだ。からくり人形は土塊より成るもの。故にこそ水に濡らすことはできない。
細い腕を自身を抱く抱くからくり人形の首に回せば、"おまえ"に降るのは銀の髪ばかりとなる。その代わりヲルガを打った嘆きの雨は裡に抱える悲哀と絶望を煽ったが、構わない。
「あら、あなたも『お人形』と仲が良いのね?」
くすくすと無邪気な声がすぐ傍でした。見ればそこでアリシアが笑っている。その真っ赤な指先が、ヲルガたちの方へと伸びた。
「ああ、やっぱり! なんて素敵な髪かしら。髪の長いあなたのほうが素敵だけれど、そのお人形も美しいわ。ねえ、ちゃんと顔を見せて」
「……ほう?」
伸びた指先が"おまえ"に届くより先に、ヲルガは自ら面沙を捲る。
秘されたかんばせには、まさに綺羅の如き美しさがあった。月の輝きを映す瞳が、アリシアを映し、ただ美しく微笑む。
けれどもその龍乙女の微笑みは――神罰を伴うものだ。
まあ、と見惚れながらに歓声をあげたアリシアに蒼白の流星が落ちた。
それはまさしく神威、神罰。|軍神《いくさがみ》の逆鱗に触れたその証。
次いで"おまえ"がアリシアを容赦なく蹴り飛ばし、ヲルガの尾が強かに打つ。その衝撃で砕ける硝子が、先よりも激しくしゃららと音を立てた。
「それはわれのもの。お前にはやらぬ」
既に隠された面沙の下から、笑みもせぬ唇が冷ややかに告げる。
けれど次いでからくり人形を呼ぶ声は、うたうように柔らかい。
「"おまえ"よ、"おまえ"。――さあ、示せ」
なにゆえここへ来たのかを。なにゆえ闘うのかを。その身が誰のものであるのかを。
そうして叩き込まれるふたりの連撃は、けぶり、雨のようにアリシアを打った。
大成功
🔵🔵🔵
アルベルト・エコーズ
中に収めたものがよく見える硝子の棺達
アリシアだからこその光景をリオネル様が見たら…
…変わってないと、困ったように笑うのでしょうね
1人でも多く救うべく
姿が見えない所から救出に取り掛かりましょう
鞘に収めたままの剣の先端を蓋の隙間へ入れ
テコのナントカで蓋を外せれば
難しければ囚われた方へ一言かけてから
棺の内側から外へ向かうよう蓋のみをUCで破壊
…忘れていました
硝子とは割れれば結構な音がするもの
手を止めず時間稼ぎの会話に興じましょう
初めまして
収めるならば彼らより私の方がいいと思い
勝手ながら入れ替え作業を
色艶、手触り共に絹糸のような髪
瞳はシトリン
そう褒められた事がある私はここに相応しいと思うが
お前の好みは、もっと違う色か?
本当は全部知っている
花咲く黒髪を楽しげに梳き、弄っていた
可愛い色の瞳だと顔を見つめて笑い
抜け落ちた羽根は、綺麗と喜び飾っていた
鍵だった頃の記憶は
見ているしか出来なかった寂しさばかり生む
いい頃合いになり次第雑談は止めにしよう
ここまでやって悪いが、帰ろうと思う
私にも、守りたい方がいる
ただそこに在るだけの存在は、正しく飾りにしかなり得ない。
いま、ただ綺麗に飾られた硝子の棺に在る人々と、嘗て鍵であった自身が重なって見えるようで、アルベルト・エコーズ(ひかり・f25859)は拳を握りしめた。けれどその拳は、脳裏に浮かんだ主人の顔でゆっくりと解かれる。
美しくも悪辣なこの光景を、主人たるリオネルが見たならば。
――変わってないなぁ。
そう、困ったように笑うのだろう。よくわかる。よく知っている。だからこそアルベルトはここへ来たのだから。
「……今、出してさしあげます」
聞こえぬと知ってそれでも声を掛けてから、鞘に納めたままの剣の先端を硝子の棺の蓋へ差し入れる。ぐ、と力を込める手に、一人でも多く救うのだと、自分の意思を乗せた。蓋が動く。
未だアリシアはアルベルトの存在に気づいていない。その目の届かぬところから救出を試みたのが功を奏した。
ガシャン、と硝子の蓋が外れると同時に倒れ、大きな音が鳴り響く。
「……忘れていました」
硝子とは割れれば結構な音がするもの。とはいえ既に鳴ってしまったならしょうがない。
生真面目な口ぶりとは真逆の力技で、アルベルトはガシャン、ガシャンと次々に蓋を砕いてゆく。これまでに他の猟兵たちが解放した分と合わせれば、半分に至るにはあと僅か。
「まあ。まあまあ、ねえあなた、何をしているの?」
悪戯を見つけたかのように弾んだ声がする。同時に腹の底が冷えるような感覚と共に、拳にきつく力を込めた。そちらを見もせずとも、そこに彼女がいることはわかる。どんな姿をしているかもアルベルトは知っている。だけれども。
「初めまして」
彼女にとってはそのはずだ。ゆえにこそ、その血に心に覚えた感情を腹に堪えるようにして、なんでもないような形式ばった挨拶を向ける。視線は向けない。手も止めない。
「収めるならば彼らより私のほうがいいと思い、勝手ながら入れ替え作業を」
「あら、その子たちよりあなた一人の方が価値があるということ?」
「そう見えないか」
月光を注いだような、色艶、手触り共に絹糸めく金色の髪。冷たくも澄んで輝く瞳はシトリン――そう褒められたことがある。冷静な口調のままに自らを形容する言葉を並べるアルベルトは、そこで初めて彼女を、アリシア・ローズを見た。
戯れに人の命を弄ぶ無邪気な薔薇色の瞳がアルベルトをはじめて映す。
「私はここに相応しいと思うが」
お前の好みは。そこで一度言葉が切れた。何故だか喉が詰まったのだ。己の心に湧く感情には未だ慣れないが、この感情をアルベルトはもう知っている。
「もっと、違う色か?」
知っている。
花咲く黒髪を楽しげに梳き、弄っていた。可愛い色の瞳だと顔を見つめて笑い、抜け落ちた羽根は綺麗と喜び飾っていた。
本当は全部知っている。見ていたから。見ているしか出来なかったから。
それは、アルベルトがまだただの鍵でしかなかった頃の記憶だ。主人たるリオネルが、目の前の少女に囚われていたそのとき。何もできなかった“器物”であった頃。
|寂しさ《・・・》を初めて覚えたのは、きっとあの頃だった。
「そうね、あなたの髪も綺麗だけれど……本当はね。私、艶やかな黒髪が大好きなの。花が咲くならもっとすてき」
金糸雀色の髪が靡くその奥で、最後のひとつの硝子が壊れる。最早アリシアはそれを気にしてもいないようにも見えた。目の前にとびきりの“素敵な人形”がいるなら、容易く他に飽きてしまうのが彼女の性だ。真っ赤な指先が月明りの中で伸びる。
「瞳はオールドオーキッドがいいわ。翼もほしい。朝焼けみたいな色で、飾り羽にしても綺麗な、」
「――ここまでやって悪いが、帰ろうと思う」
よく知る姿を『人形』としてうっとりと語るアリシアの言葉を遮って、アルベルトは腹に溜めた息を全て吐き出した。
「……ねえ、あなた。もしかして私の『お気にいり』のお人形を知っている?」
引き留めるのは言葉ではなく薔薇の花弁だ。ごう、と唸り渦を成し、花弁は刃となってアルベルトを呑み込もうとする。強化は失われたと言えど、強大な吸血鬼のひとりに変わりないその力は遊ぶように、されど痛烈に。
「知らない」
かの主人は、人形と呼ばれていい存在などではない。アルベルトにとってただひとつの、ひかりに等しい。
「あら、帰れると思う?」
「帰らせて貰う。私にも、守りたい方がいる」
無数の鍵が薔薇の嵐を内側から撃ち穿つ。嘗てひとつの鍵であったものが、捕えようとする花を散らし、帰る道を拓く。
後に残ったのは星屑のように砕けた硝子と、冷たい月光。それだけだった。
大成功
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