闇の救済者戦争⑬〜死せるが花、生きるが華
●幻創屍蝋領域
月が導く月光城の砦郡。
異端の神々と戦う為の城塞は、秘匿物を隠し通す為の要塞と化している。
第五の貴族を凌駕するという「月光城の主達」たちは、禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の欠落を隠している。
それが一体何たるか、暴くためには挑まねばならない。
例えそこに、何があろうとも。
中央に位置する城の中、そこは静か過ぎる場所でもあった。
城の中に――だれもいない。
深部まで至る中で誰一人目撃することはなかった。
しかし、恐ろしいほどの威圧感を感じる。
「どうして此処までいらしたのですか?」
フフフと笑う月の瞳の紋章と融合した女城主の声は、魔空回廊より響き渡る。
そこは回廊、飾られた絵画が異様な気配を漂わせている回廊だ。
いや、違う。飾られている絵画はどれも"生きた魂だ"。城主は捉えた人々の嘆きを囚えて、形を与えて従える。
感情、有様から屍蝋を作り上げて、従わせる。
「成程、此処の一つになりたいのですね」
|人間画廊《ギャラリア》から生み出すは、城主好みの――血の気の失せた肌の色のあり得ざる死体の大群――。
●懺悔より深く罪深いもの
「その月光城は、もともとは教会を併設していたらしいが、――面影は一つもない」
フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)が語るは、廃れた月光城への潜入案内。
「城主は、女吸血鬼――であり、聖女サマ。元々、墓暴きと異名をとッていた存在らしいんだが、あり方が異端に過ぎた。死者の墓を暴き、動く屍蝋へと変えて兵力へと加えていたらしい。……が今は、どうやら方法と楽しみ方を変えたようだ」
死者を利用するなどたまにあること。
冒涜的であると、吸血鬼相手に道徳を説くには一手足りない。
「今は、人間画廊《ギャラリア》……生きた人間を魂ごと絵画に閉じ込めて、感情や嘆き、涙から魂のない屍蝋のようなものを作り出す術を得た。絵画の中の人間がいる限り、城主は配下を思うままに自分の趣味の姿で増やす事ができるッつーわけ」
魂のない屍蝋。それを死体と呼べるだろうか。
生きてもいない。死んでもいない。
なにものにもなれなかった"感情の成れの果て"でさえ、良いように手駒に使う。
感情を生み出した人間の魂をもとに形が作られるため、その姿は似た顔が多く魂の有無を除けば、ドッペルゲンガーやスワンプマンに近いものと言えるだろう。会話など、到底出来ない"使役された死体"であることは共通だ。
「……問題は、その先だ。女吸血鬼は、屍蝋兵を無限に作り続けられる回廊にいる。人間画廊《ギャラリア》……魔空回廊とも呼べる、固有の属性を色濃く出した回廊いる。ただの趣味を量産できる胸糞機構であるはずもなく、「回廊内にいる限り、戦闘能力が元の『660倍』になる」なんて、相乗効果を得てるんだ。つまりだ、女領主に従う従順な屍蝋共はお前たちより異常な強さを誇る」
この強さの大本は「展示品」として飾られた絵画にある。吸血鬼による封印で、魂が体ごと封じ込められていて、彼らは外部の手助けなしには逃げ出せない。
「この城は、女領主の紋章の力で支えられているからな。「展示品」が画廊の"固定の位置にあること"で機能する。結界も、術式も固定の位置からずらされるとだんだん効果を失ッていくモンだ。攻撃を掻い潜りずらせ、落とせ、恩恵効果を壊してしまえ」
無敵を作り上げている術式を破壊して、この城に働く効果自体を無力化してしまえ。
ケルベロス・フェノメノンの欠落――そいつを秘匿し続ける働きだって、失われる筈だから。
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。
●プレイングボーナス
|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する。
●簡単な概要
月光城深部、魔空回廊での戦い。室内です。
ボスが扱う屍蝋は全て、この空間に渦巻く"感情"から生み出したもの。
たくさんの感情があふれているので、実質無限に屍蝋を使い続けられます。
「回廊内にいる限り、戦闘能力が元の『660倍』になる」という恩恵を受けているボスは、猟兵たちも自分好みの血の気の失せた肌色が美しいと語ります。画廊の一部にしようと、捕らえる為の攻撃を行います。
|人間画廊《ギャラリア》の絵画は特殊な技法が組み込まれているため、壁から落とす、外すをするだけでボスの強化がじわじわと失われます。中の人たちは人間人狼オラトリオ、だいたい色んな種族が散見されますが絵画に封印されてる状態。基本的にみんな生きていて声や嘆きや色々が聞こえますが絵画は城の外に持ち出すか(戦後)、ボスがいなくなれば封印は解除されます。絵画の中にいる人たちと絵画自体に加えられた衝撃は連動しません。ただ完全に真っ二つにしたら、――どうなるでしょうね。
●その他
断章などはありません。ボスは自分の名を忘却する形で欠落しているため、名を思い出すことが出来ません。場合により全採用が出来ないかもしれませんし、サポートさんを採用しての完結を目指す事もあるかもしれません。可能な範囲で頑張ります。ご留意いただけますと幸いです。
第1章 ボス戦
『墓暴きの屍蝋聖女』
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POW : 屍蝋染め
自身からレベルm半径内の無機物を【死蝋化した死体】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : 屍蝋黒の駒
召喚したレベル×1体の【屍蝋化した死体】に【異形の部位】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
WIZ : 屍蝋き雨
レベル×5本の【毒】属性の【屍蝋を纏った瓦礫弾】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「嘉納・日向」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
神臣・薙人
悪趣味だと…吸血鬼には言うだけ無駄なのでしょうね
今の私に出来る事をやりましょう
気休めかもしれませんが
白燐奏甲を使用してから臨みます
次いで白燐蟲を呼び出し
屍蝋兵の視界を撹乱するように動くよう指示
戦いは極力避け
人間画廊の絵画を外す事を優先
瓦礫弾や屍蝋兵の攻撃がこちらに向いたら
身を屈める・空いた空間に跳び退く等
回避行動を取ります
絵画がなるべく攻撃に巻き込まれないよう留意
どうしても無理な場合は
真っ二つになりそうな時を除いて
自分が傷を負わない事を優先
絵画がばらばらになったら
中の人がどうなるか分かりませんからね
それだけは避けたいです
こちらの攻撃が通りそうなくらい弱体化したら
白燐蟲に手足を噛ませて攻撃します
●魂のない兵団、心を通わす白燐の群れ
ひた、と。足を止めた。
うっとりと、芸術品を愛でる聖女は、異常な存在とも言えた。
訪れた猟兵の来訪を拒んでいる様子はない。変わった存在だといえば、そこまでだ。|吸血鬼《ヴァンパイア》である以上、人間を崇高な存在としては当然見ていない。
『良いですよ、誰でも。誰であれ、いずれ私の手に落ちるのですから』
ふふふ、と笑う聖女は狂気の色を瞳に灯し、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)に手を差し伸べる。
『歓迎します。誰であれ。もし人生に懺悔がお有りなら、私は寛大な心で聞きましょう』
――悪趣味だ。
薙人は言葉を飲み込んだ。白燐蟲がひとつの個体を体の表面に停めて、無数のふわりと優しい白い光の気配を纏いて成すは白燐奏甲。
宿主には祝福を、周囲へは不幸を返す輝きは、誰よりも薙人の助けとなる。
――吸血鬼には言うだけ無駄なのでしょうね。
侍らせ並べた、彼女が隷属。屍蝋兵。
人ならざる人ですらない"言霊"を屍蝋の形に変えて従わせる死霊使い。
どの顔も、壁に掛けられた"絵画の中の存在"に色濃く似ている。
今彼女が呼び集めているのは、屍蝋の人狼騎士たち――ああ、ぐにょりと形状を変えて屍蝋の形になって身を差し出している。成れの果て、とはああいうものをいうのだろう。どろり、と蕩けた屍蝋を今度は別の人狼騎士の弓使いたちに武装として渡してるようだ。
彼女は優しげな顔をしていても、訪れた者を囚えて使う。この世界の人間を虐げる方のヴァンパイアと同じだ。
「……いえ、歓迎などいりません」
次いで、戦いに使う白燐蟲を溢れさせて回廊を白く染め上げる。
ふわああ、と聖女の自分の間を遮るように優しい光は覆い尽くした。
「此処で強さを誇っても、それは一体なんの強さなのでしょう」
『強さには意味があります。だってほら、この屍蝋兵たちは最高に"美しい"でしょう?』
ぎりりと引き絞る弓の音。屍蝋で固めた毒の瓦礫弾を装填し、飛来する雨は蝋の鏃。再現のない無限の弾丸(屍蝋)の充填。狂気的な気分が悪くなるような匂いが立ち上り、蝋の飛沫は毒として飛び散り壁にあたり、柱に当たり、画廊の壁にぶち当たる。ばちばち爆ぜる。呪怨の毒は当たれば蝋のようにどろりと何でも溶かして見せた。白燐奏甲を予め使い、備えていなければ、服の端々を溶かされていたかもしれない。当たりどころが悪ければ――など、考えるだけで恐ろしい。しかし、そんなことは起こらなかった。身を屈めるように回避に専念し、注意しつつ身を滑らせるように空いた空間へ転がして、薙人は事なきを得たのだ。
――絵画は、はい。無事に見えますね。
ちらりと伺った絵画には、損傷や被弾の様子はない。防弾の素材なのだろうか。
もしかしたら、意図的には彼女はあれらを狙わないのだろう。しかしそれ以外は別だ。激しくどうでもよく、壊れるならばそれまで。
"愛すべき屍蝋兵"たちが無事なら彼女はそれでいいのだ。
『中身が気になりますか。生きていますよ、ちゃんとね』
「見る限り中の方々は生きていても不幸そうですよ」
『では不幸せかどうか、訪ねて見てはいかがでしょう』
ニコリとわらう聖女は優勢の立場を崩すことはなく、傍らに立つ屍蝋兵たちを口を開くことはない。
訪ねたとしても答えない。理不尽を、強いる。
「そうですね、ではあなた直接のお許しをいただきましたから」
――反論する口を封じ、複製コピーを隷属させるのがこの人の手管か。
――創造主に従順な存在が、欲しいだけなのでしょう。
「……こうさせて、いただきましょう」
壁から絵画を外す。ひとつふたつ、そして白燐蟲の助けを借りて、絵画を定位置から喪失させる。煙を吐くような音がする。なにか空気が抜ける音。
ひぅ、と風が抜けていくような音。
『それ以上は悪魔が所業。あなたのことを直々に殺害しなければなりません』
「やれるものならどうぞですよ」
聖女が足元に、ちくりと針が群れて襲うような痛みが走る――威厳を失った少女のような表情で、聖女は足元を見た。
コロコロ丸い白燐蟲が、薙人の意志を読み取ってびっしりと喰らいついているではないか。
「まあ、屍蝋兵――人以外にご興味がない方に、"僕"が殺せると思わないけど」
指先にまで群がった白燐蟲は攻撃を加え続ける。"敵は喋らぬ蟲"など意識の外だった。
喰らいつき、聖女の足をじわじわと食い破っていく。だがそれでも、一斉に蹴り上げるようにあしらわれたなら、群れはたやすく散り散りにされてしまった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
人を捕らえて芸術品呼ばわりとは、悪趣味なことこの上ない
手早く片付けて……と言いたいが、まずは強化状態を解除しないと話にならないか
神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化して敵と相対
とりあえずダッシュで距離を取りつつ、陸の秘剣【緋洸閃】
無数の緋い刀を周辺の床に突き刺して、敵の動きを妨害……命中しても碌なダメージにはならないだろうな
妨害で時間を稼いでる間に絵画を取り外す。多少の衝撃は問題ないって話なのだから速度重視で
取り外した絵画はその辺りに放置して大丈夫か?流石に抱えながら戦う訳にはいかないしな
敵が幾らか弱体化しているなら、攻撃されないように守りつつ戦えるだろうが
あとは臨機応変にいこう
●切り捨て穿て、強さなど凌駕していけるのだと
視界の端に、邪悪な笑みを浮かべる"聖女"の姿が見える。
展示品の絵画を撫でる。恍惚の表情で、うっとりとしている様が実に満足そうだ。
『いいでしょう?罪深きもの、罪なきものみんなこうしてしまえば、芸術品へと早変わりです』
「人を捕まえて芸術品呼ばわりとは、悪趣味なことこの上ない」
夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は、堂々と口にする。
人類を蹂躙するはこの地に置ける吸血鬼の蛮行。ゆえに、噤む口を持たなかった。
『あら、残念です。神はこうして、私の力を増幅させて"祝福"してくださったのに』
女は気分を害した様子を見せず、あくまで聖女として落ち着いた様子で対応してくるつもりのようだ。
聖女の指が、空中をゆるりと撫でると――むくり、反応した複数体の屍蝋が起き上がる。
滑らかな黒の質感。オラトリオの屍蝋は一人の複製体のように顔も雰囲気も同一。
ふわりとした黒翼と頭にキンギョソウの花をはやし、人間ではない証拠に異形の腕が一対多く生えている。
『この娘は懺悔を私に告げたのです。仕事をサボりったことで母親が罰を受け吸血鬼により即座に殺されたのだと』
聖女は笑う。本人の感情から作り上げた屍蝋黒の駒はこうして、異形の私兵へ。当の本人は懺悔代わりに聖女に蒐集されて絵画の中に封じ込まれ、今や咽び泣く絵画の一人に成り果てているのだ。
『あなたの罪は自分と同じ顔をしたスワンプマンが誰かを殺したとき、平等に許されるでしょう!』
吸血鬼は語る。暴力的で、快楽的な人類に嫌悪と愉悦を見て取るように。
鏡介は、答えずに神刀の封印を静かに解除する。まともに取り合ってはいけない。
まともに会話して、心を乱されてもいけない。
『私のこれは、祝福なのです。ええ、新たなる生命に、祝福を』
溢れ出る神気が鏡介を包み込み、強化する。踏み出す一歩は臆するを良しとしない。
武器を振るう腕は羽のように軽く、鋭く動くだろう。
見定める敵は"悪しき者"。祓う為に形を成した、力だ。
神刀に手を掛けながらも、鏡介はダッシュにより、オラトリオの屍蝋の間を抜けて、一気に振り抜く!
「神刀解放。斬り穿て、千の刃――陸の秘剣【緋洸閃】」
攻撃などさせない。練り上げた神気によって形成した、無数の緋色の刀を周辺の床に突き刺して、行動を阻害する。屍蝋とはいえオラトリオの翼を持つが、室内だ。兵たちが一斉に飛ぶスペースなどあるものか。
オラトリオのいらぬ腕の切断まで狙おうとしていたが、見た目よりも強靭な体は今の一撃で傷が殆ど付いたようにはみえず、
鏡介はすぐに考え方を変える。
――では次の行動に移ろう。
『あら、あら。私の兵団は、どこまでも行けますよ』
異形の一対ので、強引に緋色の刀を引き抜こうともがいている。見た目よりも屈強で、見た目よりも乱暴だ。
空路を作られたら殺到される――ヒヤリとした空気を背に感じながらも、鏡介は絵画を外すことを選んだ。
術式の起点、"絵画"を数多く外すことが出来たならば、驚異のレベルは圧倒的に下がる。
太刀打ちできれば、どんなに絵画の人物たちと似て非なる存在だとしても――戦いに希望を見いだせる。
「ご冗談を。そうして自由をわずかに閉ざせば、飛翔するまでに時間を要するでしょう?」
あえてわざと丁寧に語りながら、壁から外し、飾られた場所からさほど遠くない場所にまとめて立てかける。
強い留具などはない。触るのを妨害するトラップなどもない。
ただ飾られ、中身の絵が生きた人類が、絵画の中の世界で動いている。
――取り外した絵画を、持ち運びながら戦う方が危険だ。
放置する事に些か引っかかりを抱えながら、がしゃん!と強い音を耳が捉えた。
屍蝋たちが飛んでくる――!差し出してきた腕は、爪の類など無いのに刃のような硬さ。
それでいて怪力を誇り、鏡介の神刀に引けを取らず押し込んでくる。
押される――だが、先程よりも隙があるようにも映るのだ。
空気の綻び、気配のほつれ。
「手荒く行くぞ、魂亡き者たちよ!」
弱体化した屍蝋たちの背後、聖女は胸を抑えている。
空間への異常は彼女へ伝播するのか?――しかし、鏡介には関係ない。
彼女が作り上げた黒の駒を力いっぱい邪悪な力を祓いのけ、僅かに生まれた綻びめがけて振り抜き思い切り吹き飛ばした。オラトリオが吹っ飛んだ先、――それは当然聖女の立つ場所だ。
聖女に直接ぶつかりガラスのように高音をたてて容易く壊れ、ばらばらになる屍蝋兵のオラトリオ。
残骸を見て、彼女は余裕か崩れ"信じられない"といった顔をした。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
あやー、660倍でっすかー!?
なんてことでっしょう、それ程の倍率!
聖女さんがアイドルさんじゃなくて良かったのでっす!
チケットが手に入らないと皆様涙したでしょうからねー!
え、現実逃避している場合じゃない?
なんとなんと現実でも飛んで逃げているのです!
追っかけいっぱい藍ちゃんくんなのでっす!
660倍が無尽蔵でっすからねー!
真っ向勝負では出オチ間違いなしなので!
まあ数も地の利もある以上、時間の問題ですがー。
ただこのUC、幸運の青い鳥の加護があるのでっすよー?
画廊を追いかけっこしてたのでっす。
飾られた絵の数々が余波で落ちたりずれていてもおかしくないですよねー!
美術館ではお静かにということなのでっすよー!
●museumでは全員静粛に!
決して明るいとは言い難い月光城の中、聖女は当然のように屍蝋の兵団を作り上げ、流れるようにぽたりぽたりと屍蝋に染める回廊の中に立つ聖女の瞳もまた、轟々と滾らせる我欲の狂気に染まっている。
『今日は来場の多い日です。あなたのことも、|絵画《コレクション》にしてさしあげましょう』
ぶぉん、と振るわれる無機質な屍蝋の腕。
よおく目を凝らせば血の気のない狼耳と尾が揺れる。人狼だ、当然のようにその瞳には生気がない。聖女の為に生者から"作り上げられた死体"だ。壁の破壊も、拳一つで難なくやり遂げる。勢いをつけた屍蝋兵の人狼の拳が、もろく壊れて失われていても、当然のように聖女は微笑むだけだ。
『見てください。こんなにも皆様お強いのです。此処に私がいることで、その強さは莫大な桁に登ります――単純な計算ならそう、660倍――』
「あやー、パワー660倍でっすか!?」
厳かな回廊の中で紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の声は愉快に響いた。
「それは怖い!強敵って事じゃないでっすかー……ああなんてことでっしょう。それ程の倍率!って、コト!?」
独特な間合いの取り方でぴょこぴょこ動き回る藍は、聖女にとっては不思議な生き物として映るのだろう。
『……今は最強から劣るかもしれませんが。それでもそこまで劣化したとは思いませんね』
ではあなたのことも、飾らせて頂きましょう。
微笑む聖女と、その腕の向く方へ従う屍蝋兵。
ただし藍が返した言葉は、やや想定したものとは異なっていた。
「聖女さんがアイドルさんじゃなくてよかったのでっすー!」
胸をなでおろす藍。だって此処、入場制限とかなかったしー!
万人御礼の人数が、声が、此処には聞こえてまっすしー!
「それにそれにチケットが手に入らないと皆様涙したでしょうからねー!」
流さなくて良い涙への配慮もバッチリ。なんだ、聖女さんいい人?
ああどこからとも無く咽び泣くあなたを賛美する涙の嵐!
『……あら、あら。貴方には此処での声も感情もそう聞こえるのですか?』
藍渾身の、現実逃避した自分のペースで語る言葉の上を、聖女は看破して緑の瞳を細める。そう思ってなどいらっしゃらないのでしょう?疑う聖女は、屍蝋兵団を引き連れて囲うように布陣を敷く。
「えっ、現実逃避なんて御冗談!なんとなんと、藍ちゃんちゃんは現実にちゃーーんと飛んでいるのでっす!」
¡Aquí hay Ai!(アイチャンクン・イズ・ヒア)望まれたならば、すぐにでも。
幸福を運ぶ青い鳥の守護を受けて、ハイテンションアッパーボーイはふわりと体を浮かべて逃げるのだ。
現実逃避?さあするのはどっちだ!
自分が愛する心の|音楽《メロディ》が月光城の中だって、聞こえてきそう!
「ああ、藍ちゃんくんにもこんなにも追っかけが!?こんな日が来ようとはー!」
追っかけがぞろぞろ生まれ、ぞろぞろと追いかけてくる様相。
声高々に自分目当ての黄色い声援ならもっと気分がアガがるのに!重苦しい、ゾンビのあ”ー……という小さな声がより一層矛盾ちぐはぐな追っかけを生んでいる!
「でもでもそう!出オチにボコられるのは性に合わないでっすからねえええ!」
660倍の戦力が無尽蔵で作り上げ続けられるのなら、数の利も地の利も含めて単独で戦闘に持ち込むには部が悪い。
だからこそ、藍は幸運を身に着けて、回廊をカッ飛び抜けていく。
追いかける屍蝋兵が徐々に無へと変じていくのは、聖女の操作の範囲を出たからか?いや――違う。
『貴方……』
「お気づきになられましたでっすか?画廊を追いかけっこしてたのはちゃあんと意味があるのでっすよ」
青い鳥の加護――幸運は、どたばた逃げに特化していた藍に味方していた。無限に増えた兵団が追いかけっこの間に、大移動の振動でわずかに位置がずれた絵画は数多く。
くるり、と振り向いた藍は、とびきりのアイドルフェイスでウィンクを一つ。
「美術館ではお静かにということなのでっすよ!」
ふわふわ浮いた藍は当然、静かに事を勧めていた。
聖女はその策略にまんまと嵌められて、聖女らしからぬ舌打ちをして睨む。
彼女は、コレクション欲しさに手を伸ばし続けた結果、逆に自分の戦力をがくんと落とすこととなったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
死者の遺骸を冒涜し、今は人の感情を冒涜する
聖女を名乗るのもおこがましい、あまりにも醜悪で悍ましい行い
今感じているこの怒りや嫌悪の感情すら利用するというのなら
悪意をも凌駕する正義の心で背徳の女怪に神罰を
【奇しき薔薇の聖母】に変身
瓦礫弾の直撃を受けないよう見切り回避しながら翼で飛び回り
茨の蔓や花びらをぶつけ敵の攻撃を相殺
万が一かすめた弾丸から毒を受けてしまったら激痛耐性で耐えながら傷を浄化
ほんの少しでも絵の位置をずらせば、人間回廊の強化は弱まる
壊さないように慎重に
しかし敵に邪魔されないように迅速に
絵画の本体=閉じ込められた人々が直接傷つかないように
額縁の隅を茨の蔓で叩きつけて壁から浮かせ外す
●"聖なる"者がするべきこと
訪れてまず、すすり泣く声を聞いた。
一つどころではない。この回廊には声が、感情が悲しみや怒りに溢れ渦巻いている。
吸血鬼によって発生した人生の絶望。強引な手段で囚われた怨嗟。
その色は決して一つで編まれてなどいない。
"たすけて"と。"かえりたい"を、かすかに聞いたのだ。
――ああ、この場の絵画の数だけ本当に人がこの場にいるのですね。
ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は心を落ち着けるように努め、微笑む城主に対面する。
逃げる様子はまったくない。聖女がごとき微笑みを絶やすようすもみせない。
聖女はまだ、自分が優位であると疑ってすらいないのだ。
『ああ、雑音のようで心地良い音ですね。好ましいともいえるでしょう――感情を汲み取って、刷り込んで最新作の屍蝋兵をつい作り上げて増やしたくなります』
ああ、たのしい。声音は明るく、だからこそ。
「口を謹んで頂きましょう――死者の遺骸を冒涜し、今は人の感情を冒涜する。貴方は今や"聖女"を名乗る事すらおこがましい!」
感情をより集めて自分好みに作り上げた屍蝋の兵。立ちふさがるは菫の花を髪に咲かせたオラトリオ。ヘルガの咲かせている花とは違う。これはこの画廊の誰かの感情――を悪意的に歪めて屍蝋で固めたものだ。
その顔色は絵画の中の本物たちより土気色。生気の欠片だって、ヘルガには感じない。
――扱う術も、なんて醜悪。冒涜的で、醜悪で悍ましい行いだ!
この世界を支配する数多の吸血鬼の一人であるのなら、そのような趣味があるのを否定はしない――認めもしなければ悪を断つのがヘルガだが今感じている感情そのものにまで、屍蝋で固められては堪らない。己が胸に抱く燃え上がる怒りや嫌悪を、相手の悪意を凌駕して――正義の薪として燃やすのだ。
「ああ、大地と恵みと生命を司る慈悲深き聖母様、どうかわたくしに、人々を守るための奇跡をお与えください……!」
眼の前の聖女ではない。懺悔の欠片だって言葉交わして落とすものか。
奇しき薔薇の聖母(ローザ・ミスティカ)により白いベールをふわりと纏う。
薔薇の花びらが、ヘルガの周囲で舞い踊る。その姿はまるで、ヘルガ自身が聖母のよう。
『私の"大事な"絵画を持ち帰るおつもりなのですね、それは……困ります。お引取りを』
とん、と聖女が肩を叩くと従順なオラトリオたちの指がどろりと溶解して指が"銃"を形作られる。
触られた事により屍蝋は毒素を帯びたのだ、瓦礫と屍蝋と感情の複合物――無尽蔵に打つは"自分自身"だ。
屍蝋であり、本物の死体ではない。削ろうが目減りしようが損なわれるのは"芸術性"その一言のみだ。
ヘルガめがけてだだだだ、と画廊の中を発砲音が吹き荒ぶ!
音と同時に目減りして小さくなっていく個体と、補填の速さは流石聖女の支配する領域と言ったところだろう。
「ああ、……またそうやって……!」
――人類をなんだと思っているのですか。
――作り直せば何度でも使用できる体の良い……消耗品?
屍蝋の雨を、ヘルガは翼を広げて躱す――外とは違い空間に制限のある画廊の中で、飛び回り弾丸への不発を狙う。
逃げ切れないと思った瞬間、ヘルガは願う――弾け、防げ、と。
望みは茨の蔓と、花びらが遠隔により届けてくれる。
毒を浄化の力で相殺し、屍蝋を弾きじゅううとその場に存在しなかった綺麗な空気へと変えていく。
『此処に素材はいくらでもあります。いくらでも作り直せるのです。それのなにが、いけないのでしょう』
この世界には戦いがつきもの。人類は敗北し、勝利した者たちが管理するのが当然のこと。
管理するのなら、代償を強いるのも当然だ。安全過ごせる代わりに、自由を奪う。
『彼、彼女らは絵画の中で、きちんと生を保証しているではないですか』
それがどうしていけないのでしょう。ただ暴力と圧政でひたすら虐げている他の吸血鬼たちと、私は違います。
聖女の演説に、ヘルガは共感する耳を持たない。
――これが、この吸血鬼のやり方なのでしょう。
寄り添い、次の瞬間には手駒に収めて悪用。ああ、どうしてそうも小狡いものか。
「……そうでしょうか。貴方様の生の保証はあまりに窮屈。であれば、わたくしはこうするまでです!」
ほんの少しでもずらしたなら、彼女と屍蝋兵たちの力はがんがん目減りしていく。
ぎゅうぎゅうに詰まって見えていた屍蝋の数も、大きさも、今では目に見えて少なくなった。
『……あっ』
茨の蔓で絵画の位置はずらされていた。額縁の隅を叩きつけて壁から浮かせた後、外していた。
それもかなりの数――床の隅の方に、集められている。
敵に邪魔されないように己に集中させて、その間に迅速に行われたのだ。
絵画の本体――閉じ込められた人々が直接傷つかないように――聖母の如き優しさを尽くして。私利私欲に手を染め続けるあの自称聖女とヘルガは、違うのだ。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…民の死をも食い物とし、今は生きたまま捕えその嘆きを己が糧とする。
弱き者を強者が喰らうは命の摂理なれど、死した命を踏み躙り、ただ己が快楽の為に生を弄ぶとあらば其れは摂理に非ず。
この地に生きる民はこの地が紡ぐべき今と未来そのもの。
故に貴女の画廊を、此処にて断たせて頂きます。
UC発動、見切り、野生の勘にて相手の攻撃を感知し残像、アイテム『氷柱芯』による立体的な移動も併せ間隙を掻い潜り、民の囚われた絵画を外し敵の攻撃に晒されない場所へ
…かの者は、必ずや我らが討ちましょう。
敵の弱体が十分に進めば怪力、グラップルによる無手格闘にて相対
野生の勘、見切り、殺人鬼の技巧も併せ敵の存在の核を見極め打ち抜く
シキ・ジルモント
此処の一つに?
悪いが、付き合っている暇は無い
…聖女の人への仕打ちに対する怒りは抑えて、冷静に
戦闘能力に対応する為、防戦主体に戦いつつ敵を絵画から引き離す
絵画の周りの敵が減った所でユーベルコードで聖女と屍蝋を牽制、更に気を引きつつ足止めを試みる
同時に対人随伴型自編律ビーム兵器「ムーンフェイス」を起動
24枚のカード型ドローンを真っ直ぐ絵画へ向かわせる
絵画を固定している部分をビームの射出で破壊させ、絵画を纏めて落下させるか元の位置からずらしたい
数を活かして周囲に飾られている複数の絵画をまとめて落とし弱体化を狙う
敵の攻撃の手が緩んだら攻撃を仕掛ける
説教をするつもりは無いが、絵画にされた者は返してもらう
●神の御旗のもとに
展示品の正しい位置が猟兵たちの介入で乱され出した。
絵画は元の位置に無いものばかり。|人間画廊《ギャラリア》に置ける固有性は地の利を崩されだしたことで大きく乱れた。
女城主が固執する自分好みの調度品溢れる魔空回廊の崩壊の音が、聞こえるか?
「……聞こえる。終わりの音。そっちは」
「聞こえる。終焉は止められない。……悪いが、付き合ってる暇は無い」
獣の耳が揺れた。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の視線は聖女へ向けるものではなかっただろう。
聖女だと語る吸血鬼が並べ立てて飾った"人類"の生き様がこれらだ。
聖女の仕打ちに怒らない方が無理だろう。しかしシキは感情を抑えて、あくまで冷静に表情の裏に感情を隠しきった。
月白・雪音(|月輪氷華《月影の獣》・f29413)もまた、コクリと頷く。
『……少しくらい崩されても、私の優位性はどのみち上にあるでしょう。囚えてさえしまえば、口答えだって』
「……民の死をも食い物とし、今は生きたまま捕えその嘆きを己が糧とする」
それが領主に君臨する者が徴収するものか、と問う。
「弱き者を強者が喰らうは命の摂理なれど、死した命を踏み躙り、ただ己が快楽の為に生を弄ぶとあらば其れは摂理に非ず」
城主と民の道理に劣る。私利私欲のための、――愉悦。
真実全てを奪い、虐げたわけではないのかもしれない。
だが命こそ守られていても、尊厳が一つとて護られていない。
同じ顔の屍蝋が人を殺したならば、本物が戻ったとき――そこに本当に絶望や妬みが生まれないと誰が言い切れる。
吸血鬼が主導し敵と戦うためとは言えイメージとして刷り込まれた蹂躙を、大切な居場所を、友や家族を失った者ことがある者たちは決して癒えない傷の中で恨むだろう。既に生まれている、軋轢。
生まれ続けている罅。圧政の果に、聖女が導く戦場のひとつがコレ、だなんて。
「この地に生きる民は、そうやって囲われる為に生きてはいない。この地が紡ぐべき今と未来そのもの」
未来を閉ざして良い理由はない。雪音は語る。
「故に貴女の画廊を、此処にて断たせて頂きます」
『では、討ってご覧ください。私が悪で、あなた方が"正義"であるというのなら』
女は笑う、どこか影を纏った狂気を顔に上げた顔で。
ずずずと立ち上がるような気配。ピンと立った獣耳、複数の尾が揺れている人狼の屍蝋が並び立つ。
だがよく見ると、人形に限りなく近い人狼病疾患者の足は一対多い。
見るに堪えない芸術センスだ。なりふり構わずに、なり始めたのか?
屍蝋黒の駒は、一斉に悍ましい声を上げて叫びだす――。
「正義、など自称するつもりはないんだが……」
やることが全て。必要と、思ったことが全てだ。
戦闘能力の増加を察知したシキ、は防戦主体の戦いを強いる。
此処までの戦いで減った絵画の影響もあり、召喚された数はシキの視界に収まるほど。
「――そこだ」
不意打ちのガンロック・レイズを発動――愛銃は吠える。どこまでも。
射撃することで、超近接格闘戦術を封じる。
それから動きも、射程範囲内に囚えてシキは逃さない。
「これでそいつらはそれ以上こちらに危害を加えられないが、あんたはどうする?そろそろ自分で動き出すか?」
『いいえ……私は屍蝋が行う動作は全て、私がやることに同じ。彼らの痛みを共有することが出来ないにしても、私は悲しい……』
完全に注意を自分に向けて、味方の攻撃成功度を補正する。
同時展開で、対人随伴型自編律ビーム兵器"ムーンフェイス"を起動し素早く24枚組の銀色のカード型ドローンを真っ直ぐに絵画に向かわせる。AI制御による解析で固定具をレーザー射撃で破壊。当然、絵画は無事に取り外すことが出来た。
万全を期して、外しきれない絵画はもとの位置からずらし、全にして一である術式としての効果を損なわせる。数を活かし、スピーディに。シキが足止めしている間に、聖女の力は非力なモノへと差し替えられていく。
残された戦力は、有り余る数だけを誇る屍蝋兵。
「悲しくても、貴方が行った所業は罪深い」
――……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば。
落ち着き払った雪音は、呼吸を整えて落ち着きを払い――、シキが食い止めた屍蝋の群れを駆けていく。
敵の攻撃の成功率は格段に落ちていた、故に雪音の動きは『氷柱芯』による立体的な移動も併せ、身を滑らせるように掻い潜る。"ムーンフェイス"の作業の手が届かなかったところへ素早く手を掛けて、民の囚われた絵画を外し敵の攻撃に晒されない場所へ隔離する。
「……必ずや、かの者は我らが討ちましょう」
小声にて、彼らに告げよう。安らぎと終わりの宣言を。
『ああ……そんな。私の素敵なコレクション達を、この画廊の最高のあり方を、こうも安々と此処まで無茶苦茶に……』
弱体化が進み、呼吸が荒くなっていく聖女。
『私は、私だけが悪者になり続ければ苦しみなど生まれなくて良いと思ったのですが……』
ああそうだ、願いは重いのだ。
お前が命を弄んだぶんがそうして懺悔の言葉を吐かせたのだ。
身を滑り込ませた雪音の瞳は、――真紅の色にギラついていた。
その言葉が最期でいいのかと、見定める瞳だ。
屍蝋の攻撃など、手を払う動作で払いのけられる。何も脅威ではない。
お前たちは敵ですらない。シキの援護射撃もある――雪音の標的は、聖女ただ一人に収束する。
「説教をするつもりは無いが、絵画にされた者は返してもらう」
聖女が返事をする前に、雪音の手は女の首を捉えた。
その首は人と同質のもの。終わりは容易く、あっけない細さ。
「聖女"様"……貴方様は決して、強者足り得ない」
拳武を発動している雪音の手は、捉えた者を離さない。
獣が如き喰らいついた素手は――女の首を噛み砕く。
ごきり、と終わりの音が画廊に響いた。
一息に呼吸の仕方を忘れた女の顔は――行われた現象とは裏腹に何故か穏やかなものであったという。
儀式の術が溶けたなら、聖女は即死を拒むほどの強さを消失していた。
屍蝋の兵団も、どろりと溶け出して元の形を忘れて霧散していく。
"私は負けたということは、神は私が悪だと仰っしゃられているのですね"。
"私はああ、そうか。そうですね、吸血鬼たる私は人類にどうしても寄り添うモノではなかったから"。
嘲るような気配。そして、道化を演じていたと自覚した聖女の気配はどんどん薄くなり消えていく。
回廊の領域が撃たれ、女城主は没した。
次第に静寂が広がり、奥に隠されていた何かが壊れたような気配を感じる。
秘されていたのはモノではなく封じられた"概念"であったのだろうか。
今となっては知ることは出来ないが――絵画から、放り出されるように人類は開放される。
猟兵たちが救い出すことが出来た民は、みんな喜びに咽び泣いた。
すぐに全員出ること自体は叶わなかったが、廃城の領域から遠く離れたならばいずれ順番に封印は風化して彼らは全員元の姿を取り戻し、生活に戻ることができるだろう。
|闇の救済者《ダークセイヴァー》こそ、我らが信じるべき人類の希望だ。
画廊にて。愛すべき屍蝋と共に暴れに暴れ廃城の中に、女の首が転がり眠る。
吸血鬼たる聖女にも懺悔したくなる事もまた消え去るまでにあるだろう。
終焉なる廃城の聖なる棺に浴びる月光の下で、さあ眠りの中へくだるがいい。
お前が屍蝋に至る、その日まで。
大成功
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