ある金曜日の放課後。
いつも通りに学校の帰り道を歩きながら、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)は幼なじみの一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)に話を切り出す。
「なあミカ、明日空いとるか?」
「特に予定はないが」
「遊び行こうや。学校近くに新しくショッピングモールできてんねん」
「ああ、そういやできてたな。いいぞ」
「よっしゃ、んじゃ明日の9時ぐらいに駅集合な」
「ああ」
お互いにスマホを取り出し、スケジュールに予定を記入する。しかもほぼ同時に。
「……今動きがハモったな?」
「まあ、忘れないようにメモするのは当然だし」
「せやな。でもここまで綺麗にタイミング合ってんのもないやろ。流石幼なじみって感じやない?」
「そうだな」
気の合う中だと、意識していなくとも同じことを考えていたり、同じ行動に出たりすることはままあるもの。
幼なじみ程の仲、それこそ常に二人ひっついていたなら尚の事。
それぐらい仲良しな親友なのだと、改めて実感させられながら、笑う飛鳥の横顔を見つめる帝。
――願わくば、彼が覚えていない言葉通りの関係へ至れる日がくるといいのだが。
「んあ?ミカどないしたん」
「……頭、アホ毛ができてるぞ飛鳥」
「ええー……言うてえなぁもぉ~」
アホ毛があるのも可愛いと思うが……という本音は敢えて心の中にしまっておく帝であった。
◆
翌日、午前9時。
さて、ショッピングモールといえばだいたいが午前10時開店である。
生鮮食品や惣菜コーナーは大凡この時間からも空いているが、少なくとも飛鳥や帝のような男子高校生のお目当ては大凡10時開店である。
なのに何故こんな時間に集まるのか、それは開店セール等諸々のサービス等で客が押し寄せやすいからに他ならない。
飛鳥たちの通う男子校の近くに開かれたショッピングモールでは、学生の間で大流行のブランドやキャラクターグッズ等が取り扱われている。
開店前から並ぶ客も多いだろう……と踏んでのことだ。
「ほら見てみ、もう並んどるで!」
「これは……今のうちにきておいて良かったな」
「せやな、これぐらいなら何とかお目当て買えそうや」
列に並び、駅のマ●クに立ち寄って購入したシェイクを飲みつつ、他愛のない話をして開店を待つ。
「……もう開店10分前?早いなあ」
「そうだな」
「やっぱミカと喋ってると話が捗るからなあ、せやからあっという間なんかもな」
ずきゅーん。
そう告げる飛鳥の笑顔、そして言葉が帝の心にクリティカルヒットを決めていく。
顔こそ無表情だが心の中では歓喜のあまり吐血してそのまま昇天できるレベルの衝撃を受けたのだ――!
「……そうだな」
「ん?どしたんミカ」
「いや別に。お前の言う通りだなと思っただけ」
「何や照れとんか?俺とミカの仲やん~」
全くこの親友は、こちらの気持ちに気づいていないからとはいえそういうことをさらっと言ってのけてくれる。
だがそれが飛鳥の何よりの長所でもある。
誰に対しても別け隔てなく笑顔を向け、時には手を引いて、輪の中に連れて行ってくれるその真っ直ぐな心が帝は何よりも好きなのだ。
そんな話をしていると開店を告げるBGMが鳴り響き、列がゆるりと進み出す。
「お、開いたな。ほないこか」
「ああ」
◆
「う゛~~~~~~~~~~ん、どっちにしようか悩む……!!」
ニ枚のシャツを何度も何度も交互に見ながら唸る飛鳥。
帝から見るとデザインそのものにそこまで大きく違いがあるようには見えないのだが、飛鳥にとってその細やかな違いこそこだわるべきところ、らしい。
なる程ショッピングは奥が深い、と思いながら一度飛鳥が悩み始めたらそれはもうとてつもなく時間をかけることも知っている。
「悩むなら両方買えばいいだろう」
「そうしたいのは山々やけど……財布がピンチなんよなぁ……」
ああ悲しきかな、男子高校生のお小遣い額というものは大した額ではないのである。
アルバイトをしているなら違うが、残念ながらショッピング好きな飛鳥の財布の紐は緩い。
だが、ここで買うとこの後食べようと思っていた噂の新作パフェが食べられないと最後の一線(?)を越えない為に唸っているのだという。
「てかそない言うならミカ奢ってや」
「いいぞ」
「ホンマか?おおきn――いやいやいやいや!!冗談!冗談やって!!!?」
「別に構わない。先日財布を忘れた時に奢ってもらった分、どこかで奢ろうと思ってたし」
「いやいやいや学食と服は値段釣り合わへんやろ!!!!……ん゛ん~でもせやな……そない言うならこの後食うパフェでお言葉に甘えさせてもうっちゅうことでどや」
「ああ、それでもいいぞ」
ふう、と飛鳥は胸を撫で下ろす。
冗談のつもりで振ったら本当にOKが出るとは思わず流石に焦ると同時に、そんなほいほい承知してしまって大丈夫なのかと親友が少し心配になった。
帝からすれば、飛鳥の為なら惜しまないというだけなのだが――当然ながら、飛鳥がそれに気づいているかと言われれば、否である。
「あんなあミカ、俺とミカの仲やからええけど他の人に言われてもやったらあかんで?」
「飛鳥以外にするつもりはないから安心してくれ」
「ならええんやけdいや俺相手にも軽々やっちゃあかんと思うで!?」
「別に、飛鳥は悪いことを考えたりしないだろ」
「せえへんけども……!!」
自分もあまり人のこと言えないとはいえ、冗談だろうと素直に答えるのは大丈夫だろうかと不安になりつつ、
それはそれとして、とりあえず帝の言葉に甘えることにした飛鳥は両方持ってレジへと向かっていったのだった。
◆
――数分後、ショッピングモール内、飛鳥行きつけのカフェのチェーン店にて。
「お待たせしましたー、こちら新作のトロピカルバズスイーツパフェでございます。ごゆっくりどうぞ~」
「お、おお、……こら随分でかいな……」
流石のサイズに飛鳥はごくりと唾を飲む。
バズスイーツ、と書いているだけあってイ●スタ映えを意識した盛り方と量、男子高校生じゃなきゃ二人なんて人数で食しきれるものでは到底無い様相だ。
帝も表情と声にこそ出さないものの、その圧倒的な姿におお、と声を漏らす。
「これ食べたらお前夕食いらないんじゃないか?」
「そないな気したから外で食って帰る言うとる」
「そうか。せっかくだから撮っておくか……」
「あっせや流石にこれは撮らんと」
あまりにもの規格外サイズに二人してスマホで写メ不可避――当然、帝は飛鳥のきらきらした顔が入るように調整している――。
「いやあしかし、この新作ずーっと食ってみたかったんよなー!んじゃ早速いただきますっと」
うきうきとした顔で早速上のソフトクリームをすくってぱくりと頬張る。
「……!!!!!」
刹那、飛鳥に衝撃走る――!!
「め、めちゃうま……!!!!評判通りほんまめちゃうま……っ!!!」
そう、それはあまりにも美味。めちゃくちゃおいしい。目を輝かせながら次々口に放り込まずにはいられない!
「いやこれマジヤバいて、うますぎひん!?ミカもそう思わん!?」
「……ああ、そうだな」
確かに飛鳥の言う通りこのパフェはとても絶品だ。
だが帝にとってはパフェの味よりも、飛鳥のこの幸せそうな笑顔の方に満たされる。
パフェの美味と飛鳥の笑顔の相乗効果で、帝の心は今にも目頭を抑え、手を合わせてごちそうさまと拝み倒したいぐらいにはテンションが上がっていた。
「感動のあまり言葉が遅れてくる程うまいやろ~!」
「……ああ」
当然飛鳥はそんな帝の心境には気づかない。
逆に言えば、その分慎重に進めていけるということでもあるのだけど。
――大きくなったらミカと結婚する!
あの時そう泣きべそをかきながら言った言葉。
飛鳥はもうすっかり覚えていないけど、帝は今でもその言葉を覚えている。
あの日の飛鳥の言った通りの関係に至れることを願いながらも、今の関係が壊れるのは怖い。
だからこそ彼の気持ちも考えずに強引なことはしたくない。
けれどこの幼なじみはまあそんなこともつゆ知らず、こっちの心の琴線を何かと揺らしに揺らしてくるのだから。
ある意味でずるいとすら思うが、故にこそ、飛鳥と過ごせる時は帝にとって一番幸福を噛み締められる時でもある。
「……全く。そこがお前の良いとこで、俺の好きなところなんだけどな」
「んあ?ミカ何か言うた?」
「このパフェめちゃくちゃうまいなって言った」
「ははは!ホンマにめちゃうまなやつ食うと語彙なんてなくなるもんなあ!」
「そうだな」
他愛のない話をしながらパフェを食し、映画を見て、ゲーセンで遊んで。
楽しくて、永遠に続いて欲しいとすら願う日常――その一日が、またこうして過ぎていくのである。
成功
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