闇の救済者戦争⑬〜ひとりぼっちのおるすばん
●わたしの価値
ちをあげる。
ちをあげるから、かわりに――、
「ひっ……」
……ちを、あげるね。
真っ白な髪とリボンのついたワンピース。
背には天使の翼と、頭の上でぴょこんと可愛らしいお耳も、一様に穢れ亡き純白。
「ひぃぃ……」
大の男がそんな格好の幼い女の子を見て怯える理由は、その小さな“化け物”が呼び出した怪物に殺される仲間を、これまで幾度と無く見てきたからだ。
どんなに無害そうに見えても、薄い緑の瞳がうるんで今にも泣きそうな顔をしていても、自分たちを捕え此処に閉じ込めた支配者たちの手先――化け物の仲間であることに変わりはない。
おくち、あけて……?
「ひっ、はぁぁ……ッ」
赤い血がしたたる白くて小さな指先が口内にそっと差し込まれると、回廊に奪われ擦り減っていたはずの生命力が蘇ってくる。それが幸福なことかどうかは分からないが、従っている間は死なずに済む。
……ちをあげる。
ちをあげるから、だから、ね……。
「い、いやっ……こないで……」
……ち、を。
ちを、あげ、る……。
代わりに、顔色は血の気が引いて、足取りは頼りなくふらつく。
それでも、女の子は、次の人間へ向けて同じように呼びかけてはこの“日課”を続ける。
何百回、何千回繰り返したのか、もう覚えてはいないけれど。
――きょうも、ぱぱも、ままも……わたしを、おむかえに、きてくれなかった……。
●グリモアベース
「未だ謎の多い『月光城』……第五の貴族をも凌駕する恐らくは、異端の神々と戦う為の城塞だったのではと言われてはいますが……」
調査が不十分だったためか、確かなことはまだ分かっていないようだ。
ともあれ、第五層で第五の貴族の干渉すら阻んでいたというかの城砦も、デスギガスの『歓喜の門』によって第三層に顕現している。そして、どうやらこの月光城の城砦群の中央には禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の欠落が隠されているという。
「神殺しの剣――猟兵にも敵意をむき出しにする、不死の獣」
その欠落を探り、城砦に囚われた人々を解放するのが、今回の依頼。
ただし、これを守る『月の眼の紋章』と融合した月光城の主は、紋章と魔空回廊の相乗効果により、戦闘能力が元の『660倍』になっているという。
今一つピンとこない人、それくらいイけるぜ! と思った人は、一度想像してみて欲しい。
通常☆330……オーバーロードなら☆660。
通常の660倍というのは、つまりそういうことなのだ。しなくて済む苦労は、しない方が賢い。
「この強化は、回廊の周りに造られた『人間画廊』に展示品にされている人たちを全体の半分解放すれば、無効にできるみたいです」
絵の中に半分埋まっている形で身動きが取れない人たちは、額縁を破壊すれば脱出が可能だという。
ただし、当然ながらそれを黙って見ていてくれる『月光城の主』ではない。
猟兵たちは、この超強化された恐ろしいオブリビオンの攻撃を搔い潜り……、
「いえねこです。います」
……!?
「さびしい、ねこさん……」
グリモア猟兵――リア・アストロロジーのIQが唐突に低下していた。
戦争の緊張状態が続いたことによる、ストレス症状なのかもしれない。それか脈絡ないミーム汚染。
「ねこさんがね、いるの。とってもさびしいので、えっと……さびしくなくなると、さびしくないの」
……はい。
「ぱぱがね。きてくれないの」
そっすか。ねこですね。
「さびしい……」
よろしくおねがいします。ねこでした。
常闇ノ海月
アメショと天使のミックスらしいです。若干ゃ狂気。
貢献できるうちに🔵貢献して置こうかなという趣旨のアレです。常闇ノ海月です。
ご覧の通りのねこなので、どなたでも参加しやすいかなと思います。ねこですし。
●達成条件
場所:月光城内部、人間画廊にて。
対象:『慈愛の聖女』の注意を惹いている隙に、囚われた人々を、
目的:救出し、しかるべきのちに弱体化した『慈愛の聖女』を討伐する。
●プレイングボーナス
|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する。
追加ボーナス:『慈愛の聖女』の孤独感を紛らわせる。
●プレイング受付
先行シナリオの参加状況を確認してから調整しますので、タグでご案内するまでお待ちください。
●慈愛の聖女
ユーベルコードと見た目通り、此方が害意を抱かなければ基本的にほぼ無害ですが、普通に救出しようとすると涙目になって660倍でポカポカ叩いてきます。それでも猟兵は死なないかもしれませんが、避けてください。ねこですし。よろしくおねがいします。
上手く気を逸らしてあげられると、救出対象はその間に他の猟兵らが解放していくものとして扱います。
つまり……ネコと和解せよ。ということです。ねこでした。
そんなノリです。よろしくおねがいします。
第1章 ボス戦
『慈愛の聖女』
|
POW : ちをあげるから、かわりにあいをください
【指先から流す血液】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD : こわいの、こっちにこないで
自身が【殺意】を感じると、レベル×1体の【相手が畏怖する存在】が召喚される。相手が畏怖する存在は殺意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : たすけて、ぱぱ
無敵の【ぱぱ】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
イラスト:moya
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「メルヒェン・クンスト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
バレーナ・クレールドリュンヌ
◎
【雪解けの歌】
猫と和解するのね?
えぇ、もちろん……猫さんもお父さんもお歌を聴いて言って、寂しくない、優しい歌がいいわね……?
歌声と誘惑の優しさに変え、分かり合えるように、歌を……猫さんが望む歌はどんな歌?聞かせてちょうだい?
【絶影】
画廊に閉じ込められた人を救出するのは溶け出したタールのように黒い、影のように這い、存在を感じさせない、湿りを帯びた澱みから吹く風。
一人一人を救助して、バレーナが猫の気を逸らす……。
それでも、バレーナの和解を望む心は変わらず……ただ、歌のように優しい世界へ……彼女、猫さんが安心していられる世界へ導かれるように祈りを込めて歌う。
●ネコとの和解
来訪者。
血の雨を降らす|新入り《補充要員》、支配者たちの|視察《暇つぶし》。
それはこの城砦の人々にとって、吉兆であった試しがなかった。
緊張に息を凍り付かせる人々を背景に、
「まま……?」
大きな不安と、微かな期待の入り混じった薄緑の目が、バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)をじっと見つめていた。『月光城』の主たるオブリビオン――『慈愛の聖女』。
(この……猫と和解するのね?)
バレーナは脳裏に浮かんだ啓示に従い、ここまで来た目標をぽややんと再確認する。
――そう。バレーナはそのどこか神秘的な外見の通り、あまり世間ずれしていない女性のようで。
それはつまり、予言に記されたネコの国の到来が近いことを意味していた……かもしれない。閑話休題。
「あなたのままは、どんな人?」
「まま、まま……」
違うよといってしまえば、此方をジッと伺うその子猫が泣いてしまうような気がして、バレーナはおっとりと尋ね返す。すると、子猫は記憶を探るように考え込んで……。
「……わかんにゃい」
「あら。そうにゃのね……」
それでも、やっぱりへにょりと眉を歪めて、泣き出しそうになってしまって。
「まま、まま。どこぉ……」
ひっく、ひっく、としゃくりあげ、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始める。
あまりにも心細いその泣き声に、|人間画廊《ギャラリア》に囚われた人々までが思わず困惑し言葉を失う中。
――……~〜♪
歌が、響いた。
それは春の先駆け、小さな芽吹き。
凍てついた大地にお日さまが帰ってきて、水がちょろちょろと流れはじめるおと――雪解けの、歌。
●にゃんこ大家族
「おうた」
「えぇ、もちろん……お歌を聴いて。寂しくない、優しい歌がいいわね……?」
「うん」
警戒しいしい寄ってきた子猫に微笑んで、バレーナは次に歌う歌を思案する。
明るい歌、悲しい気持ちに寄り添う歌……この世界にはたくさんの歌があるけれど。
「……猫さんが望む歌はどんな歌? 聞かせてちょうだい?」
「……にゃぁぁ……ん」
子猫は、いっぱいうにゃうにゃと悩んで、考えてみたけれど、結局答えを見つけられなくて。
「ぱぱと、ままと、いっしょがいい……」
ぽつり、つぶやいた。
それはきっと、ただの子猫の願望だったけれど。
「そう……そうね」
バレーナはその心を汲んで、歌い出す。
和解を――……敵だったものが、友となることを望む、その真心をこめて。
(……猫さんが、安心していられる世界へ導かれますように)
ただ、口ずさむ歌のように、優しい世界へゆけるようにと。
祈りを込めて、歌う。
――運命に引き裂かれ、分かたれた者たちが、ふたたび巡り合えますように。
たしかに重なりあった愛が、それっきりでおしまいだなんて、あきらめずに。
「ん……にゃぁ……」
両眼を閉じ、夢見るように歌うバレーナ。
おずおずと身を寄せる子猫もまた、同じように瞳を閉じて、旋律に身も心も委ねて聴き入る。
「ぱぱ、まま……」
画廊に閉じ込められた人々を、溶け出したタールのように黒い、影のように這い、存在を感じさせない、湿りを帯びた澱みから吹く風が――《|二度目の永訣を刻む者《シェイプシフターシャドウアサシン》》が解放していくが。
そんなことに気付く気配もなく、『慈愛の聖女』はやさしい歌の世界でまどろむ。
白銀色の髪、翠の瞳の娘の指先が、そのふわふわでやわらかな猫耳をくすぐりながら、そっと頭を撫でて。
その様子は、あるいは母娘のようにも映ったかもしれない。
そんな束の間、心を重ねた二人の間に響くのは、いのちを紡ぐ小さな輪。
迷子の子猫が帰りたいと願う場所。
そこで生まれて、寄り添い生きた――家族の歌。
大成功
🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ
POW アドリブ連携歓迎
……ここは役割分担デスネ。
人間画廊に捕らわれている方々の救助活動は、ミニ・バルタンたちに任せ、ワタシは陽動しマショー!
お駄賃を払って、いざ参りマース!『バルッ……!』
ハーイ、リトルガール!
美味しいお菓子の配達デース!
格納型メイド用キッチンを展開して、ふわふわの綿菓子やクリームたっぷりのクレープなど、甘い食べ物を作って注意を惹きつけマース!
時間稼ぎが目的なのでバルタン・クッキングではなく通常の料理技能での調理で十分でありますな!
戦闘に入ると660倍パンチで死んでしまうので、敵意は出さずに接客しマース!
そうして気を逸らしている間に、バルタンズが救助活動を進めるプランデース!
●現場は安全な猫
「……ここは役割分担デスネ」
役割分担――すなわち、人間画廊に捕らわれている人々の救助活動は、ミニ・バルタンたちに任せ。
バルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)自身は陽動として『慈愛の聖女』を惹きつけておくという|作戦計画《プラン》である。
「カモン、バルタンズ!」
そんなわけで、さっそく《|秘密のバルタンズ《シークレット・サービス》》を呼び出すバルタン。
139体ものミニ・バルタンが召喚され、バルタンからのお駄賃を固唾を飲んで待ち受ける。
「お駄賃は……奉仕活動なので、100円デース!」
『バルバルバルバル♪』
それで良いのかミニ・バルタンと言いたくなる良心価格だが、139体ともなるとバルタンの出費も馬鹿にはならない。そうして、100円を受け取り満足そうに任務に就こうとしたミニ・バルタンだったが……、
「そうそう、戦闘に入ると660倍パンチで死んでしまうので、敵意は出さずに接客しないとデース!」
『バルッ……!?』
バルタンがぽつりと漏らした言葉に、ざわつくミニ・バルタン。
え? これってそんなにあぶないおしごとなの? そう言いたげに、バルタンを見る278の瞳。
『バルッ……!』
「Oh……賃金交渉……フム。危険手当デスカ?」
確かに、何かそういう雰囲気ではないとはいえ、これも立派なボス戦依頼。ミニ・バルタンたちの言い分も一理あったが――仮に500円ずつ支払った場合、お☆さま換算で約60……これは大きい。
結局、バルタンはこの労使交渉を見送った。
「その話はあとデース! いざ参りマース!」
『バルルゥ……』
命に比べれば、お金などケチるべきではなかったと、あとで後悔することになるとも知らずに。
――次回、バルタン、生まれた日に死す!
お誕生日、おめでとうございます!! 660倍ぬこパンチを喰らえッ!(祝意)
●猫の手
「ハーイ、リトルガール!」
「うにゃぁっ!?」
バルタンのハイテンションに驚いて、思わずピョーンと跳ねる『慈愛の聖女』。
尻尾がぼわっと膨らんで、タカタカタカッと謎のサイドステップを刻み始める。
……これは……やんのかステップ!!
「美味しいお菓子の配達デース!」
だが、その程度の威嚇はバルタンには通じない、動じない、威力が足りない。
その程度のジツが通用してしまうなら、シリアスさんもきっと死ななかったのだから。
「時間稼ぎが目的なので、バルタン・クッキングではなく通常の料理技能での調理で十分でありますな!」
「にゃ、にぁぁ……」
格納型メイド用キッチンを展開して、まずはふわふわの綿菓子を作り出すバルタン。
にゃんこ程度の足止めにユーベルコードを使うまでもない……という舐めプぶりに、目的まで白状してしまっているが、そんなバルタンのハイテンションに圧倒された子猫は、あっさりと壁際まで追い詰められてしまった。
「フッフッフ……さぁさぁ! お近づきのしるしにお一つどうぞデース!」
「にゃ……ぁぁ……にゃっ?」
プルプルと震える『慈愛の聖女』の目の前に出来上がった綿菓子を持っていくと、スンスンとその甘い匂いを嗅いで、ペロリとひと舐め。
「にゃぁ……!?」
カプリ、とかぶりつき。
「!?」
子猫の目が、しいたけになった。
……一応補足しておくと、輝く瞳の比喩表現というか、イラスト等で良く使われる表現方法である。
「にゃぁぁん……♪」
「HAHAHA! 次のを作りますので、それを食べて待っててくだサーイ!」
そうして、慈愛の聖女のちいさな手に綿菓子を握らせると、次なるお菓子の作成に取り掛かるバルタン。
そんな彼女の隣に、可愛らしい猫耳がぴょこんと生える。綿菓子をペロリと平らげてしまった子猫だ。
「にゃ、にゃ」
「Oh……お手伝いでありマスカ?」
「うにゃぁん❤」
さっきまでの警戒っぷりが何だったのかと言いたくなるような、媚び媚びの甘えた声を出してバルタンに擦り寄る『慈愛の聖女』。
けれど、それも無理もないこと。
このダークセイヴァーで生を受け、幼くして死んだ彼女にとって、はじめて食べる甘いお菓子の、その感動は。
「……HAHAHA! では、いっしょにクリームたっぷりのクレープを作りマショー!!」
バルタンにだって理解できるもの。
だから、彼女はこうして明るく笑うのだ。
そうして、二人は仲良く並んで……あんまり役に立たないどころではない子猫の“おてつだい”を見守りながら、次なる|お菓子《デザート》を作り上げていく。
『バル……』
――そんな二人を、|人間画廊《ギャラリア》の人々の解放に従事しながら、若干ハイライトさんが迷子になった目で見つめる、ミニ・バルタンたちが居た……。
§
「Oh……なんてコトデース……」
『バルバルバルバル!!!』
「にゃぁあああ……!?」
出来上がった、生クリームたっぷりのクレープに群がる、ミニ・バルタンの群れ。
雇用主への不満をついに爆発させた彼女らは、サボタージュの上クレープのご相伴を要求したのだ。
こうなってしまえば、もはや作戦も露見したようなもの――これから、『慈愛の聖女』の660倍ぬこパンチによってバルタンは死ぬのだ。
こんなことなら、あの時お駄賃をケチらなければよかった……。
所詮は500円程度、660倍の66000円×138=お☆さま換算で約39,000(家が建つぞイェーガー!)に比べれば、誤差でしかなかったのに。
悔やんでも、悔やみきれない……。
――なんてことは無く。
「にゃにゃ、にゃーん♪」
『バルバルバルバル♪』
ミニ・バルタンたちとじゃれあいながら、仲良くクレープを味わう『慈愛の聖女』。
そこには寂しさなんてもうどこにもなくて。
幼い子猫が、小さき者たちが笑っていられる平和な世界が、確かにあったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
オヴィリア・リンフォース
ご覧の通りのねこなのです
捕まっている人達を救出するのです
でもただ助けるだけだと怖いねこさんが
襲ってくるから無害である事をアピールするのです
モーラット達も召喚して手伝ってもらうのです
モーラット達には慈愛の聖女と仲良くしてもらって
その隙に捕まっている人達を助けるのです
もしくは自身が聖女の注意を引いている間に
モーラット達に助けた人たちの避難を任せるのです
尻尾を振って猫らしさをアピールするのです
ぱぱとままをまっているのです?
ねこ達がいるから寂しくないのです
捕まっている人達を無事に逃がして、
その時が来てしまうなら辛いけれど覚悟を決めるのです
きっと、ぱぱとままもそこで待っている筈なのです
●ねこなのです
銀色の毛並みの小柄の猫。
オヴィリア・リンフォース(銀色の魔女猫・f25140)の正体は、頭脳明晰で人間と変わらない知性知識を持つ“賢い動物”だったが、普段は人懐こく甘えん坊な子猫として振舞う、結構計算高い猫さんである。
自分たちの可愛さを絶対わかって人間に接していそうな、ある意味猫らしい猫さんと言えるだろう。
「ご覧の通りのねこなのです。捕まっている人達を救出するのです」
そんな彼女もこの『月光城』の人々の救出に赴いたわけだが、
「でも、ただ助けるだけだと怖いねこさんが襲ってくるから」
そこで、ねこである。
ご覧のとおりである。
ねことして、無害であることをアピールするのです(計算)。
――このままでは、いずれ世界はねこに支配されるのではないか?
いや、もしかして……我々が気付かないうちに……とっくの昔に……。
そんな怖れすら抱かせる、ねこの智謀。
「そして、モーラットたちも召喚して手伝ってもらうのです」
つまり、可愛いに対して可愛いの追加――おかわりである。
もう、やりたい放題……まさに、猫らしいやり方であると言えるだろう。
そして、オヴィリアはおそらく分かっているのだ。たとえモーラットがどれだけ可愛くても、それが自分の可愛さを霞ませるものでは無い、と。むしろ、モーラットの群れでさえも引き立て役にしてしまえるほどの自信があるからこその作戦に違いなかった。
「そういうわけで、GOなのです。食べたお菓子の分、しっかりと働いてもらうのです」
「もきゅきゅ~!」「きゅぴぴ~!」
118体のモフい毛玉たちが『慈愛の聖女』と仲良くして注意を惹き付けておこうと進撃する。
――ふ。子猫と遊んであげる程度、このわたしが出るまでも無いのです。(※言ってません)
「うにゃっ!? なに、なに?」
「もっきゅ!」「もきゅ~!!」
「にゃぁぁぁああああ……っ!」
「もきゅきゅきゅ!!」「きゅっぴ~!!」
「もきゅもきゅもきゅ!」
モーラットたちは、首尾よく毛玉あたっくに成功したようだ。
ただ、モーラットたちはモラ語(?)しか話せないのでくわしいことは分かりません。
「今の内に捕まっている人達を助けるのです」
「ね、ねこ……?」
ねこです。よろしくおねがいします。
絵に囚われた人がびっくりしていたが、世界の加護により外見での違和感はない筈なので、ねこであるオヴィリアの可愛さにおののいていると思われる。
そうして、爪でカリカリと額縁を壊しては人々を絵から解放し、こっそりと逃がしていたオヴィリアだったが……。
「あーっ!!」
「にゃっ!?」
「もきゅ~?」
カリカリしているその背中に、『慈愛の聖女』の驚いた声が降ってくる。
どうやら、モーラットたちが当初の目的をすっかり忘れて普通に子猫と遊んでいる内に、オヴィリアの救助現場までやってきてしまっていたらしい。あまりにも不運が重なった、想定外の事故といえた。
実は途中からカリカリするのに夢中だったオヴィリアの不注意では、ない。決してない。
「イタズラ、メッなの」
「にゃ? にゃ~ん?」
660倍ねこパンチされれば、いくらオヴィリアの愛らしいねこボディでも一たまりもない。
だが、オヴィリアはこんな時こそ冷静さを失わず、尻尾を振って猫らしさをアピールしてみせる。
――何も、イタズラなんかしていませんよ? ねこですし……ねこですよ?
人間相手であれば、確実に論破されていただろう完全な理論武装と、ねこ仕草による思考誘導。
だが、相手もねこたるもの。
オヴィリアの誤魔化しに屈せず、人間画廊の絵画の様子を確認するため、薄緑の目を走らせる。
(……まずいのです)
絵画から人々が居なくなっていることに気付かれたら、きっとこの先の救出も難しくなってしまう。
しかして、『慈愛の聖女』は救出済みの、もう誰も居ない絵画をじっと見つめて――
「……よかった。みんな、いるの」
「もっきゅ~!」
「えぇ……にゃ」
ほっと安心して息を吐く。
避難させた人々が元居た絵画の穴には、いつのまにかモーラットたちが埋まって……なぜかみっちり詰まっていた。
§
「ねこさんも、ひとりぼっち?」
いまは、ひとりぼっちじゃないです。
ねこさんは、ぱぱとままをまっているのです?
「だいじょうぶだよ。わたしが、いてあげるね」
うん……ねこ達がいるから、ねこさんももう、寂しくないのですよ。
オヴィリアは慈愛の聖女に抱っこされて、ただの甘えん坊な猫としてにゃぁと鳴く。
こうして接していても、聖女は本当に敵意を持っていないようで、フリーダムに戯れるモーラットを含めて、小さなものに接する態度もやさしい。
(……それでも、)
オブリビオンである以上、“その時”が来たら――覚悟を、しないといけないのだろう。
骸の海から生まれた彼女には、帰れる場所は骸の海でしかないのかもしれないが……。
(きっと、あなたのぱぱとままも、そこで待っている筈なのです……)
どうかそうでありますように、と。
ひとりぼっちのおるすばんが終わった時。
永い孤独が癒される、望んだ|再会《場所》が待っていることを、願わずにはいられないオヴィリアだった。
大成功
🔵🔵🔵
ジード・フラミア
メリア『ウワァ〜!カワイイデスネェ。そこに居マスネ。よろしくお願いシマス。』
ジード「えっと、よろしくお願いします。……じゃなくて、ちょっとメリア。お気楽すぎない?」
メリア『マァ、今倒せるわけじゃないデスシ、遊べるウチに遊んじゃいマショウ!』
UC【人形のおもちゃ箱】を使用。様々な人形を作成します。一部は慈愛の聖女と遊ぶために、残りの部分は捕まった人間の救出部隊として動かします。もし慈愛の聖女様からポカポカ攻撃された場合は人形に紛れて躱します。
……戦いが始まった場合、作成した人形と共に攻撃を仕掛けます。
アドリブ・連携は歓迎です。
●人形劇
『ウワァ〜! カワイイデスネェ。そこに居マスネ。よろしくお願いシマス』
「えっと、よろしくお願いします。……じゃなくて、ちょっとメリア。お気楽すぎない?」
そろそろ遊び疲れたのか、回廊の壁に背を預けて目を閉じていた『慈愛の聖女』。
その小さくて、白くて、ふわふわした愛らしい容姿は、ジード・フラミア(人形遣いで人間遣いなスクラップビルダー・f09933)と共にこの城を訪れた女の子人形『メリア』の目にも適ったようだ。
ジードの方は、メリアのあまりにもお気楽すぎる物言いにちょっと困っている様子だったが、
『マァ、今倒せるわけじゃないデスシ、遊べるウチに遊んじゃいマショウ!』
「ん……にゃぁ……」
うとうとしていた聖女が目を覚ましたようだ。
目をこしこしとこすって、二人の来訪者を認めて、にっこりと微笑む。
先に訪れた猟兵たちの接し方も良かったのだろう。きっと、また遊んでくれると思っているのだ。
『サァ! 新しい人形達よ、ワタシ達と遊びマショウ!!』
メリアの号令一下、|人形のおもちゃ箱《ドール・トイ・ボックス》から様々な人形たちが現れる。
子猫は猫耳をピンと立てて、見たことも無い立派なお人形たちに目を輝かせる。
「にゃ、にゃ……」
『フフッ。サァ、今日はどんな人形が手伝ってくれるのかな?』
「聖女さんは、どんなお人形が好き?」
メリアがウィンクを一つ送って。
うにゃうにゃ頭を悩ませる子猫に、ジードもやさしく声をかけ尋ねれば。
「……ぱぱは、いる?」
「もちろん、いるさ」
『HAHAHA! ぱぱダゾ~!!』
何やらやたらとテンションの高いパパがぴょんと飛び出して、子猫はにゃああと喜んだ。
興奮冷めやらぬ子猫の、次のお望みは、
「にゃ、にゃ。ままは、いる?」
「ああ、もちろん」
『ままデスヨ。大好きなあなた』
これで、仲の良い夫婦が一緒になれて、子猫もとっても嬉しそう。
「あの……ね」
「うん?」
それからしばらくして、今度は少し遠慮がちに、
「それじゃ、あかちゃんは……いる?」
「あたりまえじゃないか」
『にゃ~んにゃ~ん』
とてもかわいい赤ちゃんを授かって、人形のぱぱとままたちも、とっても嬉しそう。
『かわいい赤ちゃん、お菓子をつくってあげヨウネ』
『大好きな赤ちゃん、お歌をうたってあげマショウ』
二人は赤ちゃんをとても大事にして、かわいがったので、赤ちゃんもぱぱとままのことが大好き。
そんな人形たちの様子を『慈愛の聖女』はうるんだ目で、夢中で見つめて、目が離せない様子で。
だけどしばらくすると、すこし困った顔で、何か言いたげにしていたから。
ジードはやさしく微笑んで、子猫に促す。
「なんだい? なんでも言ってごらん。どんなお人形でも、大丈夫だよ」
すると、その言葉になぜか子猫はビクっとして。
服のすそをぎゅっとかたく握って、か細く震える声で、おそるおそるジードに尋ねた。
「それじゃ……りょうしゅさまも、いる?」
「えっ」
『あっ』
瞬間、何かを察した二人は、慌てて前言を撤回。
「だ、大丈夫。りょうしゅさまは、お留守番をしてもらってるから、いないんだ」
『むしろ、最初からいないカモ!?』
その言葉を聞いて、聖女はほぅっと安心したように、強張っていた体を脱力させて、言った。
「……よかった。それじゃ、いたいいたいって、ないてるおねえちゃんたちも、いないね……」
「……」
『……』
思いがけず|ダークセイヴァー《出身世界》の闇の深さを再認識させられるジードとメリア。
愛し合っていた夫婦の下に生まれた、生まれながらの光を放つ、癒しの力を持つ|女の子《聖女》。
それが、その光の輝きゆえに領主に目をつけられて……そのあとの話なんて、考えたくもなかった。
「ありがとう。おにいちゃん、おねぇちゃん……ふにゃぁぁ……にゃ、ふぅ……」
ぱぱと、ままと、あかちゃんの人形を抱いて。
聖女はまた耐えきれない眠気に襲われたかのように、冷たい石の壁に背を預けて目を閉じる。
『ジード、この子は、もしかして……もう……』
「……うん」
つつがなく進む救出劇。
回廊から注がれる力を失いつつある聖女は、血の気の引いた青白い顔で、浅い呼吸を繰り返す。
癒しの力を持ちながら、その力は自らには使えないのか――小さな指先からは、赤い血が滲んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
ねこは好きです。よろしくお願いします。
さり気無く【指定UC】で分身達を放出
救出に向かわせます
気づかれないように静かにね?(しーのポーズ)
僕と同じ、属性問わず魔法使える子達だし
小さくても力を合わせればそれくらい出来ると信じて
それから聖女さんに話しかけるね
寂しいのは嫌だよね
今日は僕も一人だから、君と同じだよ
だから、一緒に遊ぼうか
お父様もご一緒にいかが?
聖痕の力で足元に花園を生成
花は好き?
花冠の作り方教えてあげる
花畑の中でお昼寝も気持ちいいよ
あ、子守歌でも聞く?
君のやりたい事、教えて
笑顔を絶やさず話しかけ
器用に作った花冠をプレゼントしたり
【歌唱】で落ち着かせてあげたり
僕と遊んでくれたから、飴あげるね
●|極めて小さい天使の物量アタック《キワメテチイサイツユリンノカワイイアタック》
「気づかれないように静かにね?」
「……(こくこく)」
しー、と口の前に指を立てながら言い含めると、695体の『ミニ澪』は神妙な顔でこくりと頷いた。
その姿に満足げに頷いて、この小さな子らには人間画廊に囚われている人々の救出に向かって貰う。
身長僅か数cmしかない無邪気なミニ澪たちではあるが、本体である栗花落・澪(泡沫の花・f03165)と同じく属性魔法だって使いこなせる分身、きっとしっかり役目を果たしてくれることだろう。
「……さて、と」
そうして、いざ『慈愛の聖女』の下へと向かった澪だったが……。
「にゃ……にゃふぅ……にゃ……」
「ええと、静かにした意味あったのかな、これ……」
子猫の安眠を妨げない、という意味では適切な配慮だったかと思われる。
猟兵の救出劇を阻止する筈の『月光城』の主――『慈愛の聖女』は、にゃふにゃふ寝息をたてていた。
「すっごい、ガバガバ警備だぁ……」
「にゃっ!? ね、ねてませんにゃぁぁ!」
夢の中ではきっと油断なくお留守番をこなしていたのだろう子猫は、澪の接近に反応してピョーンと飛び起き……ふらふらと目を回してよろけてしまう。
「お……っと、だ、だいじょうぶ?」
「にゃぁぁ……ん」
|猟兵《宿敵》に気遣われるオブリビオンの図。
倒れそうになった体を澪が抱き留めると、害意に敏感な聖女はそのまま大人しく腕の中に納まって。
「にゃふふ……」
にゃふにゃふと頭を擦り付けてきたりするものだから、今までよっぽど寂しかったのだろうと思われた。
「……そうだね。寂しいのは嫌だよね」
一体どれくらいの間ここに居るのかは知らないけれど、ずっと、ひとりぼっちだったのだとしたら。
「ねぇ、一緒に遊ぼうか」
「うにゃ!」
今日は、彼女にとっては今までにないくらい、幸福な一日であったのかもしれない。
――それが、たとえ死に向かって堕ちていく、破滅への旅路であったのだとしても。
「今日は僕も一人だから、君と同じだよ」
ひとかけの憂いを滲ませてそんなことを呟けば、薄緑の瞳がそうなの? と心配そうに見上げていた。
●GIFT
月光城の深奥、光射さぬ場所にある魔空回廊。
その無機質な石の床が、春の日に咲き誇るような、鮮やかな花の色彩で埋まっていく。
それは澪の聖痕――身代わりの証たる傷痕に魔力を込めることで顕現する、|どこにでもある花園《everywhere garden》。
「うにゃぁぁぁぁ……!!」
花は好き? と尋ねるまでもないくらい、興奮する子猫の手を引いて。
「ちょっと待っててね……」
「……??」
この子に似合うのは、どんな色だろう?
そんなことを考えながら、摘んだ花々を器用に繋げて、花の冠を編んでいく。
「はい、どうぞ!」
「にゃぁぁ……♪」
白色の女の子には、どんな色でも良く似合って。
まるで、汚れのない真っ白なキャンバスみたいで。
それが例えばこんな風にきれいな花や、かわいいお人形、仲良しの友だち、美味しいお菓子、やさしい歌――そんなものばかりで彩られていたら、どんなにか良かっただろう。
「作り方教えてあげる。一緒に作ろう?」
「つくぅるっ!」
それから、澪と子猫はしばし花の冠作りに勤しむ。
ちいさな指先から滲む赤い血で、どうしようもなく、少し血で汚れた花冠になってしまったけれど。
「あげる」
「え? これ、僕の分なの? あ、ありがとう……」
「にゃふふぅ……」
やや不格好な出来のそれを受け取って被ってみたら、慈愛の聖女は満足げにドヤ顔をしていた。
彼女的には、渾身の出来だったのだろう。
(……君のやりたい事は)
もうそれで、十分だったのだろうか。
うつらうつらと船をこぎ、眠そうに目をこすりはじめた聖女に、澪は尋ねる。
「花畑の中でお昼寝するのも気持ちいいよね……ええと、子守歌、歌おっか?」
「……ううん。まだ、ねむりたく、にゃ……」
「そっか」
「でも、おうたは……ききたい……にゃぁ……」
「ふふっ。それ、絶対寝ちゃうやつだよね……」
澪は笑顔のままで、子守唄をくちずさむ。
くぅくぅと、あっという間に夢の国へ帰っていったオブリビオンは、660倍だろうが何だろうが、いとも簡単に命を奪えてしまえそうな無防備さで。
(君が、生きている内に出会えていたのなら、良かったのにね……)
それには痛みがあって、喜びもある。
望んでオブリビオンとして蘇った訳でも、望んで人々を閉じ込めているわけでも無い。
使われているだけなのだ、支配者に。
こんな子まで、滅ぼさないといけないのだろうか。
理不尽に殺され、理不尽に蘇らされ。
そして、『その存在が罪なのだ』と、今度は猟兵の手で殺されるのだろうか。
かつて、『光を抱いて生まれた』という理由で、ヴァンパイアが彼女にそうしたのと同じように?
――それでも、答えは是である。
少なくとも、過去が未来を喰らい、過去が世界を埋め尽くすのを拒むのであれば。
だとすれば、僕に出来るのは、
「――……にゃぁっ! ……ねてません、ねてませんにゃぁぁ……」
「眠たかったら、寝てたって良いんだよ。無理は、良くないからね」
プルプルと頭を振って、必死で起きていようと、眠気を払おうとする聖女に、
「僕と遊んでくれたから、飴あげるね」
「にゃ……あまぁ…い……」
甘いキャンディを一粒、食べさせて。
ふにゃふにゃと笑う、まだ眠りたくない、目を開けていたいという子猫の為に。
祈ろう。
その心が、救われますように、と。
(この時間を止めることができなくても、思い出は、残せるから……)
彼女と過ごした今日のこの時間も、過去になって骸の海に流れ着くのだろうか。
それが海で眠る、過去に痛みばかりを負わされた者たちの、慰めとなるのなら。
――せめて、どうかその最後の|記憶《思い出》が、幸せなものでありますように。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ絡み歓迎
待って、お話しない?
(狼の耳としっぽを動かしながら気を引こうとする)
さみしいの?
ずっとひとりぼっちだったの?
今はぼくが一緒に居てあげるの
ねこさんとおおかみの、動物同士のお話で時間を稼ぐ…、というより、すこしでもこの聖女さんのさみしさを解消してあげられないかな?
言葉に耳を澄ませて、座ってお話に集中するの
(みんな、救出できたかな?)
聖女さん、あのね、あなたには還る場所が、あると思うの
一度そこに還って、次に目を覚ましたときに、また、お話しよ?
そこにはきっと、パパとママがいると思うの
UC発動、優しく、子守歌を唱うの
お膝においで?撫でてあげるの
聖女さん、お名前、教えて?
おやすみなさい
●おるすばんのおわり
どん、どん、どん!
おうちのどあを、たたくおと。
にゃあにゃあとてをのばしてみても、とどかにゃい、ぱぱとままのかなしそうなおかお。
だいじょうぶよ。ここにかくれてにゃさい。
おぼえておいで。はなれても、ぼくらは……
いかにゃいで、いかにゃいで。
きえていくひかり。
とおざかっていく、ぱぱと、まま。
てをのばしても、わたしのては、とどかにゃい。
くらいあなにおっこちて、もうとどかにゃい……
§
「にゃぁ……ん」
子猫は血の気の引いた顔で、焦点の定まらない目で、ぼんやりと眠たそうにしていた。
時系列もでたらめな、曖昧で不確かな断片の記憶が、走馬灯のようにその脳裏をめぐっていた。
「待って」
「……ん、にゃ」
何を待つというのか。
待つ必要なんてもう無いのに。
猟兵たちの救出劇は、これ以上ないほど首尾よく進み、『人間画廊』から注がれる力を失ったオブリビオンは、強化される前の、『月の眼の紋章』に縛られるだけの過去の残骸へと還っていて。
強力な治癒効果――人間画廊の人々が死なないように、毎日毎日、その力を使っていたものだから。
囚われた人々に血を分け与えていた子猫は、その弱体化に耐えられず、今にも滅びようとしていた。
これにて、一件落着。
邪悪な化け物は滅びました!
何、当然のことですよ……目出度し、目出度し。
そんなハッピーエンドでも良かったはずなのに、
「さみしいの? ずっとひとりぼっちだったの?」
ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は、そわそわとどこか落ち着かなげに耳と尻尾を動かして、死の淵にてまどろむ『慈愛の聖女』へと尋ねた。
「……にゃ」
寂しいかと言われると、そうであるとも言えるし、今日は賑やかだったと思えるかもしれない。
でも、不可逆にして恒久的なその欠落は、埋まることは無い。それは、過去のことなのだから。
だけど、そんな小難しい理屈を考えることは、幼い女の子にはまだできなくて。
ただ、ひとり立ち尽くしていたロランに気付いて、うにゃうにゃと甘えるようにその身を寄せる。
「……お話、しよっか」
「うにゃん」
さみしくても、今はぼくが一緒に居てあげるの。
そうして、腰を下ろしたおおかみの隣に、こねこもピタッとくっついて。
「そうだ。聖女さん、お名前、教えて?」
「……じあいの、せいじょ?」
「えっと……」
幼い二人のおしゃべりがはじまったけれど。
……それは、きっとお名前ではないと思う。
「わ、わかんにゃい……」
薄緑の眼がうるっと潤む。
オブリビオンとして蘇った際に欠落してしまったのか、自分の名前も覚えられないくらい幼い時分に、名前を呼ばれなくなってしまったのか……。
「そうなの。ぼくはロランだよ」
「ろらん」
「うん。聖女さんのお名前も、見つかると良いね」
彼女が探し求める“ぱぱ”と“まま”も、きっと愛をこめて呼んでくれていただろう、その名前が。
「みんにゃは……」
誰も居なくなった|人間画廊《ギャラリア》の絵を見上げて、今度は子猫が尋ねる。
流石にここまで来れば、彼ら彼女らがもう居なくなっていることに、聖女も気づいていたようだ。
「……お家に、帰ったの」
「そう……よかった」
聖女は意外と落ち着いた様子で、少しだけ寂しそうに笑った。
「おうちにかえれて、よかったねぇ……」
「……お膝においで?」
「にゃぁん♪」
抱き寄せた華奢な躰は、もう力が入らないのか、猫みたいにぐにゃぐにゃで。
ロランは子猫の、体温も失われて冷え切った躰をあっためるように、ぎゅうと抱きしめる。
そうして頭をなでてあげると、子猫はにゃふにゃふと嬉しそうに微笑んだ。
「聖女さん、あのね、あなたには還る場所が、あると思うの」
「にゃん? かえるばしょ?」
「一度そこに還って……次に目を覚ましたときに、また、お話しよ?」
「……う、にゃん……」
ロランが言っていることが良く分からないのか、あいまいな返事。
ほんとうはまだ眠りたくないのだと、思って……だって、おっこちたくらいあなのなかは。
そこへ、迎えに“来てしまう”のは……。
「そこにはきっと、パパとママがいると思うの」
「にゃんっ!?」
猫耳をピンと立てて、眠気が吹き飛んだような、興奮した様子で、子猫はロランに確かめる。
「ほんとうにゃ?」
「うん。きっとね」
「にゃぁぁぁん……♪」
何の裏付けも確証もない、そんな簡単な言葉一つで、嬉しさを堪えきれずに悶える幼い聖女。
疑いもなく呑んだ言葉は、やさしい“うそ”であり。
また、子らがそう信じたい“ほんとう”でもあって。
「だからね。安心して……」
人狼の少年は、優しく、子守歌を唱う。
――ろぉぉぉぉぉぉ……。
反響するように幾重にも重なる穏やかな遠吠え――《|微睡み誘う音狼の唄《マドロミサソウネロウノウタ》》に、自分自身を癒すことは出来なかったのだろう、聖女の指先の傷も癒えていく。
「にゃふ……にゃ……ふ……」
だから、痛いところは、もうなくなって。
ひっそりと瞼を閉じる『慈愛の聖女』のほほを、やわらかなしずくが伝い、こぼれ落ちていった。
「……おやすみなさい」
魔力によって生まれた遠吠えが響く。
仲間に位置を知らせるこのおとが、どうか聞こえていますように。
ここにいる、ここにいるんだよ、と叫ぶ声が。
「――……ぱぱ、まま……」
どうか、迷子の子猫の大切なひとたちに。
――|血《いのち》をあげなくても、愛をくれるひとたちのところまで、届きますように。
大成功
🔵🔵🔵