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やさしい日

#ダークセイヴァー #ノベル

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冴島・類




「うん、これで全部……かな?」
 一通り村の周囲を巡回して、冴島・類(公孫樹・f13398)は顔を上げた。目の前にいた狼のような獣がざらりと灰になって消えていく。
 村の方を顧みる。ダークセイヴァー上層、オブリビオンより逃れた魂人の村は決して豊かとはいえない環境に、ひっそりと佇んでいた……。

「来ていたのか」
 目的の家は村の少し外れの方にある。主は留守だったけれども、勝手に掃除をして壊れた椅子を類が直していると帰ってきた。主、マッケンジーという老人は、類を見てそんなコメントをする。家にいることを咎めはしないけれども、修理や掃除にお礼も言わない。気難しい顔の老人は、たまに帰ってくる孫を迎えるように、当たり前に二人分のお湯を沸かした。
「はい。近くに来たので」
 類もまた、そんな風に返した。仕事帰りに様子を見に寄ったのだ。間違いはない。ついでに村周辺にいた危険なオブリビオンも対峙してきたのだが、それはついでの範囲内だし、言わなくてもいいことだ。
 そんな類の気遣いを、マッケンジーも気付いているのかいないのか。彼は言葉を探すような間の後で、
「それで。その……最近はどうなんだ?」
 孫と会話がもたないお爺ちゃんみたいな問いかけをするので思わず頬が緩みそうになるのを類は堪えた。
「ええと……」
 さて。ダークセイヴァーで不穏な気配があるとか、村の周囲に奇妙な獣が増えたとか。そんな話はしたくない。類が言葉を選んで簡単に近況を報告していると、玄関の扉が叩かれた。
「あら。あらあらあらまあまあまあ」
 足の悪いマッケンジーの代わりに類が出ると、類も見知った老婆が立っている。
「あ。ダリアさん」
 また、思わず嬉しそうな顔になる類の背中から声が飛んだ。
「なんだお前。呼んでないぞ」
「いいじゃない! まぁ~。類ちゃん大きくなって!」
 前に訪ねてから、そう時間もあいていないのだけれども。会うたびにそんなことを言うので類は笑いながら老婆、ダリアを迎え入れた。
「あ。お茶、一緒にどうですか。お土産持ってきてるんです」
「こら、類」
「いいじゃないですか。お茶、ダリアさんの分もいれますね」
 人と関わるのをものぐさがるマッケンジーに、類が朗らかに言う。
「ありがとうねぇ。……それで、今日は一人なの? この前言ってたいい人は連れてきてくれないの?」
 流れるような問いかけに、類はもっていたポットを落としそうになる。
「そ、そんな話してましたっけ……?」
「してたわよう。帰る場所があるって。そうなんでしょ?」
「お前は本当に遠慮がないの」
 呆れたようなマッケンジーの言葉に、類はああ、と瞬きを、一つ。
「あー……」
 恥ずかしいような。ちょっと誇らしいような気持がある。
「ええと……今度は……その人と一緒にきても?」
「ええ。ええ。大歓迎よ」
「こら、勝手に返事をするな……!」
 以前も聞いたやり取り。マッケンジーは咳払いをする。
「あ―類。だが、この村も、安全じゃない。大事な人を連れてくるならなおさら、気を付けて来るんだぞ。無理してこなくていいからな」
「……わかりました」
 大丈夫です、とは言わなかった。村を取り巻く環境はよくない。だから、類自身が、ここを守っていこうと。口に出さずに心に決める。その表情に、
「類ちゃんは無口で頑固なのねぇ」
 おっとりというダリアに、類は答えずに少し笑った。
「……あの、良かったら困ってることがあれば、手伝っていきましょ」
「あら、それじゃあね……」
「いらん、ゆっくりしていけ」
 そうしていつも通りのやり取りに、類は静かに息をついた。
 どうか、この日々がいつまでも変わらぬようにと。願わずにはいられなかったのだ……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月09日


挿絵イラスト