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闇の救済者戦争⑦〜愚者の祭典

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争

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#闇の救済者戦争


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 吸血鬼、カルドニア卿の所有する、お気に入りの奴隷が死んだ。
 他殺なのは誰の目にも明らかで、犯人はお屋敷で働く誰かであるとしか思えなかった。
 カルドニア卿の使用人達は互いに疑心暗鬼の目を向け合い、時に結託し、時に裏切り、事件の概要が明らかになっていく。
 外部から訪れた探偵は、ついに事件の全容を把握し――。

 そこで、観劇するヴァンパイア達は口々に囃し立てるのだ。
 この事件を犯した人間、主の持ち物を傷付けた不届き者は、苦しんで死ななければならない。

 ――さあ、犯人は誰だ?

●The Fool
「君達は、『人形劇場』って知ってるかい?」
 集まった猟兵達に、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が問いかける。
 それはダークセイヴァーの第四層に存在した、生きた人間をそのまま人形として使う、ヴァンパイア用の娯楽施設だ。人体構造を無視した操作や、残酷な演目でヴァンパイア達を楽しませてきたこの劇場だが、それが現在、この戦場に移動してきているという。
「あのデスギガスって奴の力かな? とにかく、この『人形劇場』は大規模な魔術儀式場だったみたいでね、劇場内の人間の苦悶とヴァンパイアの歓喜に応じて、『五卿六眼』に力が捧げられるつくりになっているらしいんだ」
 そうなると、捨て置けないよね。そう言って、オブシダンは話を進める。

「今回向かってもらう劇場だけど、舞台のテーマは殺人事件みたいだね」
 一人の奴隷の死を皮切りに、人間達の保身や出世欲、どろどろの愛憎劇が繰り広げられるという筋書きだが、吸血鬼達が喜び、最高に盛り上がるのは、やはり舞台の最終盤。
 それは犯人を明らかにし、その者を拷問用の椅子に座らせるシーン。椅子に座った者は爪を一枚ずつ剥がされ、歯、耳、鼻、足の指、手の指……と、順に細切れにされることになるらしいが、『椅子に誰かを座らせる』その場面だけは、人形を操る糸が緩められるという話だ。
 演者である人間達の中から一人、犯人――つまりは生贄を捧げさせる。死んでも良い者を、死んでほしい者を、捨てる命を選ばせる。泣きわめき呪いの言葉を吐く一人を、人間達の手でそこに座らせる――それが『良い』のだろう。
「このまま好きにやらせておくわけにはいかないでしょう? 君達が『人形』として潜り込む算段は立てておいたから、ちょっと行って、この演目を崩してきてくれないかな」
 一般人ならぬ猟兵であれば、そう簡単に殺されることもなく、糸に逆らってある程度自由に動けるだろう。それによってこの演目を、『ヴァンパイアが喜ばない話』に導いてしまえば、戦わずして『五卿六眼』の強化を抑えられるという寸法だ。

「まあ固く考えないで。ざっくり言うと、適当言って引っ掻き回して来れば良いんだよ。君達そういうの得意でしょう?」
 最後に恐ろしく雑な説明で締めくくって、オブシダンは一同を送り出した。


つじ
 どうも、つじです。
 当シナリオは『闇の救済者戦争』の内の一幕、一章構成の戦争シナリオになります。

●演目『カルドニア邸の殺人』
 文字通りの劇場型殺人事件です。本来であれば本当に演者が死に、最後には一人を惨死させる、吸血鬼好みの凄惨な芝居になる予定でした。
 その中でご自分の演じる配役、場面、台詞などを想定して、プレイングをかけ、舞台の行く末を導いてください。プレイングは全体を薄くいくより、特定場面に力を注ぐ方が良い感じになりやすいような気がします。

●プレイングボーナス
 ヴァンパイアが嫌いそうな内容の劇を演じる。
 POW、SPD、WIZの選択肢の文面は、今回あんまり気にしなくても良いです。

●リプレイについて
 アドリブ込み、複数人同時採用の形になるかと思います。

 以上、皆さんのプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『あやつり人形劇・改作』

POW   :    力ずくで「人形」の動作を別の動作に捻じ曲げる

SPD   :    舞台の機構に細工し、危険を取り除く

WIZ   :    即興でヴァンパイアがより嫌がる物語を作り、演じる

👑7
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ユウ・リバーサイド
役:序盤の被害者(?)兼、生き霊

食事の最中に突然倒れて死亡判定される
実は食べ物を喉に詰めて仮死状態

靴だけ残して上からシーツを被せて貰ったら
UCで白く儚い印象のドレス(←役は『男』)に代わりつつ抜け出す

「(背後から)あの、ぼく、ほんとに死んじゃったんでしょうか?」
「確かに浮いてますし、壁抜けも(セットの外側飛んで)できちゃいますし
って幽霊、どこっ(怯え)」
「いやあの、死んだ本人が報復なんて望んでませんよ!?」

ピントズレ気味の天然ボケ
ややテンション高めのお人好し

後半に死体を揺すぶられるか
乱暴に扱われそうならすぐに戻ってUC解除
食べ物を吐いて蘇生する

「死んだと思った」
(目を白黒)

アドリブ歓迎


シキ・ジルモント
ヴァンパイアの人形遊びに付き合うのは気が進まないがこれも仕事だと割り切る
配役は容疑者である使用人の一人
ヴァンパイアは疑心暗鬼に陥る人間たちの様子を好みそうだ
ならばこちらは糸に力ずくで逆らい他者を疑わない姿を演じる

犯人を追求する場面でも他の演者に疑いの目を向けず、本心から信じ切っている様子を演じる
誰かが疑わしい点を指摘されても、多少強引でも全て否定し何も可笑しなところは無いと流す

そもそも使用人の中に犯人が居るという前提が間違いの元だとして
強い力を持つ外部の者…ヴァンパイアが真犯人であると言ってしまうのも良いかもしれない
人がヴァンパイアに逆らうなど、物語の中だろうと奴等にとっては不愉快なものだろう


ジョン・フラワー
僕あれ一回やってみたかったんだ!
死体役!

黙って寝ておくだけだけど、ほんとは奥深いんだって聞いた気がするよ!
しっぽとおみみがふさふさぴこぴこしてても初めてだから許しておくれ!
このまま静かに寝ておいて、最後はびっくり死体が生きてたってサプライズさ! わくわくだろう!

まだかなまだかな

はやくお喋りしたいな

ねえ僕の出番まだ?(起きる)
あっセリフ!
僕があの程度で死ぬようなおおかみに思えたかい? おろかだねえ!
そんなおろかなにんげんどもはお茶会にお招きしちゃうぞ! 楽しいぞ!
ていうか死体が生きてたんだから犯人いらなくない?
じゃあ最後はみんなで乾杯して拍手で終了だね!
この素晴らしい出会いに! 乾杯!


戦犯・ぷれみ
よくわかんないけど、吸血鬼はたぶん陰鬱で耽美な世界観の劇が観たいのよね?
それをぶち壊せばいいのよね?
だったら任せておきなさいなの!
自分で言うのもなんだけど――舞台にぷれみが混ざってるだけでもう台無し感が半端ないわ

最早このまま突っ立ってるだけでもいい説あるけど
でもどーせならぷれみアレやりたいの!
クライマックス、追い詰められた犯人が、その場の人間や死体を掴んで肉盾にして逃げるやつ!
……の、肉盾のほう!
ぷれみの体型ならたぶん防御性能ばつぐんよ
あらゆる攻撃をいつもの笑顔で受け止めてみせるわ……!
絵面のシュールさがひどい

なかなかクソ映画っぽくできた気がする
肉盾にされたまま舞台を向いて、メタなテーマ性みたいなものを語っておきましょう
これもクソ映画っぽい

犯人の動機はなんだったのかしらね?
実利があるとは思えない状況だし、やっぱり怨恨?
この世界の人間なりに頑張って、たとえば吸血鬼のお気に入りになれたとして
それは愛なんて不確かなものの枠を奪い合う椅子取りゲーム
クソゲーよね
人生なんて
殺す側も殺される側も……


矢来・夕立
椅子に誰かが座ればいいだけで推理にも筋書きにも興味ないクセに高尚ぶりやがって。趣味の悪い展開だけが良けりゃB級ホラーでも見てろってんですよ。

あ~…分かりました。イヤガラセのやり方。
オレは“そこに居てはいけない役”をやります。
すなわち死体。恐らく本来は小道具でしょうが、その殺された奴隷に成り代わります。
他に志望者がいればまあそのへんの使用人でも良いです。

"吸血鬼どもにとって嬉しくない要素"を考えたんです。
みんな幸せ・ご都合主義・椅子も永久に失われる大団円。努力・友情・勝利。
・殺された奴隷が実は生きてる
・生きてるし生き別れの兄妹とかと再会できる
・他殺じゃなくてすごい偶然の事故(必要なら紙技で再現します)
・すごい偶然の事故の再来で椅子がぶっ壊れる

…考えてて眩暈がしてきましたが、大丈夫です。オレはUDCアースで沢山の映画を観てきました。
その中には「どう考えてもそうはならんやろ」というクソ…いえ。味のある映画も多く含まれており、ダメ…いえ。味わい深いお約束も承知しています。
意訳:アドリブ歓迎


八上・偲
ヴァンパイアが嫌がる話ってどんなだろう?
恋バナになったら嫌かな?

わたしはお屋敷のメイド見習い!
あの人が死んだ時はお部屋のお掃除をしていたの。
お屋敷はお部屋が沢山あるからお掃除も大変!
殺す暇なんてなかったの。
でも聞いて!わたし、あの人のことは遠目にしか見た事ないけれど、ずっと悩ましげにため息ついてたの。
寵愛されてるのになんでため息なんてつくのかなあ?
もしかしてご主人様への禁断の恋?
ヴァンパイアと人間じゃなにもかも違いすぎるもんね。相思相愛になるには、ってやつ。
そういえば!新しい庭師がすっごくカッコいいの!知ってる?


※ヴァンパイアは嫌いなのでぶっ潰してやろうという気概
※アドリブ・絡み大歓迎です!


紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
藍ちゃんくんがなんの役なのかというと!
な、なんと!
ステージの役なのでっす!
え、どういうことかって?
あれなのでっす!
木の役とかそんな感じなのでっす!
実は藍ちゃんくんステージと合体できるのでっしてー。
人形劇場と合体して物理的に乗っ取ってるのでっす!
仕掛けや拷問道具をユーモアでファンシーなものにしてしまうのはもとより!
どんなにシリアスにしていようとも、なんかステージに顔が生えていてめちゃくちゃ目立ってる時点で台無しかと!
シュールなのでっす!
シュールにしちゃうのでっす!
この状態の藍ちゃんくんはほぼ動けないでっすが、歌うことはできまっすのでー!
BGMもお任せなのでっす!


アンリ・オヴォラ
やーんアタシも役者デビュー?やるやるーっ!
戦わないのはちょっとつまんないけどネ

気を取り直して!
ねぇねぇ、これって最初に死んだ子になるっていうのはアリなのかしら?
周りもみーんな仲間なんでしょ?だったらやれるわよね
死んだフリしちゃいましょ!
大丈夫、アタシこう見えて力持ちなの
糸なんかに負けないわん

お話次第だけど、出るなら終盤かしらね
劇場の床をぶち抜いてバーン!と復活よ~
サプラーイズ❤
からの~、ハッピーな音楽を流して一曲歌いまーす
紙吹雪とか花弁とか舞っちゃうし、炎も出ちゃうし、でっかい階段とか降りちゃう
アタシ馬鹿の一つ覚えみたいに残虐なのもう飽きちゃったの
これからはこの世界もハッピーでなくっちゃ!


冴島・類
物語も人形劇も好きですよ
幸福な結びのが好みではありますが
ほらーやみすてり、残酷な話も読みます
でも……これは劇と言う名の拷問です
心置きなくぶち壊しましょう!

自分は人形として潜り込み
瓜江は縁の糸で手繰り、黒子的に幕裏で援護できたら

役割は殺人事件を追う記者か医者
前者なら、事件の香りする場所を追いかけ
殺人が起こるのを邪魔したり
医者なら殺されたと思った方を介抱して
一命を取り留めさせるなど悲劇の邪魔

心折れないとか団結とか嫌いでしょうし
他の皆さんと一緒にいるはずの真犯人見つけましょう!と声かけたり
こんな椅子があるから…!私刑を許してはとか言って
椅子破壊へ持っていってもありかな

観客が真犯人って話もありますよね


ダンド・スフィダンテ
まっじで吸血鬼って奴らは趣味が悪いな?
いや、趣味の悪い奴らが集まって胸糞悪い事してるだけか
良い吸血鬼も居るもんな

とりあえず途中までは台本通りに進ませた方が良いよな。オッケーオッケー任せとけ。

三桁の演技力で都合の良い夢魅せつつ、殺人は防壁なり言葉を誘導するなり、死ななそうな者を狙うなりでバレない様に阻止するぞ。
なんなら俺様が犯人でも良いし、殺される役でも良いし。吸血鬼の奴隷なのはめちゃめちゃ腹立つけども、それはそれってやつだからな。媚び諂ってやっても良いさ。
 
まぁ、演じる役は台本だか舞台だかに合わせて完璧にするから、使いやすい様に使ってくれ。
でも頼むからミューズ殴ったりする役じゃありませんように!ワンチャン抗っちゃうから!!
でもこれはもう運の問題だからどうしようも無いならどうにか頑張るけど!!

さて、どうやってぶち壊すか、に関しては他の猟兵に任せて、そのサポートに回ろう。
再動って便利なUCもあるし、支援は得意な筈だからな。



●開演
 カルドニア卿の所有する、お気に入りの奴隷が死んだ。事故ではない、背中から刺されたのだ。
 屋敷に住まう使用人たちは恐怖する。なぜ? 誰が? 殺人者はこの中に居るのか?
 だが、何よりも彼等が恐れていたのは、外遊に出ているカルドニア卿が戻ってきた時のことだ。主の留守中に起きたこのような不始末、カルドニア卿は決して許すことはないだろう。せめて犯人を特定し、差し出すくらいのことをしなくては、怒り狂った主に使用人全員が殺されてしまうことも十分あり得る。
 主の帰還まで、日数はあまりない。その間に事件を明らかにし、犯人を見つけ出す。そのために、使用人たちは、目端の利きそうな第三者――偶然近くの宿に宿泊していた、記者を屋敷へ呼び寄せた。

●第一幕
 事件解明のために協力を乞われた『記者』――冴島・類(公孫樹・f13398)がと押されたのは、屋敷の地下にある蔵の中だった。多数の棚が立ち並ぶそこは、整えられてはいるが置かれている物が多く、どこか息苦しい印象を与える。薄暗い室内の中央部、置いてあったテーブルをどけたのであろうそこには、一枚のシーツが被せられていた。
「それでは、こちらが被害者の……?」
 記者の問い掛けに、『侍従長』――ダンド・スフィダンテ(挑む七面鳥・f14230)が頷いて返す。とりあえずこの辺りは台本通り、演技力に長けた彼は役柄に徹し、話を誘導していく。
「今朝方、使用人の一人がここで倒れているのを発見しました」
 シーツが捲られ、哀れな被害者の姿が露になる。記者は早速、その傍らにしゃがみ込んで。
「あの……二人死んでいるようですが」
「えっ」
 俺様そんなの聞いてないんだけど。慌てて侍従長が視線を落とせば、そこには確かに被害者である『奴隷』――アンリ・オヴォラ(クレイジーサイコカマー・f08026)と矢来・夕立(影・f14904)が倒れていた。
(「あらやだ、バッティングしたわ」)
(「普通もっと早く気付きません?」)
 そんなこと言っても既に死んだふり状態でステージに上ってしまっている。慌てて状況を修正しようとしたのか、人形の操り糸が奴隷の片方を退場させようと引き絞られるが。
(「ちょっと! アタシの役者デビューの邪魔しないでくれる!?」)
 その程度の力であれば、かよわく見えるアンリのパワーでも抵抗できる。強引に居座った『奴隷A』に対し、『奴隷B』は役柄被ってるなら退く構えでいたが、何故かそのまま放置された。
 まあ今回の場合、いきなり全てをぶち壊しにして解散するよりは、ぐだぐだのまま冗長に進めていった方が有効だろう。クソもといB級C級の映画の味わいも知っている夕立の目配せに、「どうしたもんかな」と頭を捻っていたダンドが溜息を吐く。吸血鬼に媚びるようで業腹ではあるが、ここは他の者のためにも演技を続ける方針で動く。
「殺された奴隷は、双子だったので……」
「はあ……」
 とはいえ苦しい。欠片も似てないけどなあ、などと思いながら、侍従長の適当な理屈に記者が頷く。取り始めていたメモは、早々に投げやりな文面になりはじめた。
 向かい合う形で倒れた二人は、両者とも背中を刃物で刺されている。他に目立った外傷は見られないことから死因はこれで間違いないだろう。死亡推定時刻は夜半から明け方までの間。しかし彼、もとい彼等は何故そんな時間にこの場所へ……?
「殺害現場としては不自然な点が多すぎますね……」
 腰を上げ、立ち上がった記者が言う。これは台本にも用意されていた台詞だが、半分素の感想でもあった。二人同時に背中を刺されるとかどういう状況だ?
 ホラーやミステリにも親しんだ類だが、物語の中の彼等も困難に直面した時はこんな気分だったのだろうか、と思いを馳せる。いや、今回は順序が違うのだけれど。
「次は、死体を最初に発見した方のお話が聞きたいです」
 第一発見者は、今朝最初に蔵を開けた使用人の一人、という話だった。とりあえず舞台を進めにかかった彼の言葉に合わせて、メイドが一行を呼びに訪れる。
「お食事の準備が出来ました」
 時刻は昼。丁度、屋敷の使用人も休憩に入る頃合いである。

●幕間
 使用人のために設えられた控室は、屋敷の外観からするといかにも質素な作りをしていた。調度も清潔さも、先程見た物置の蔵と大差ない。このお屋敷での人間の立場を思えばそれも当然か。用意されたいくつかのテーブルについて、休憩に入った使用人たちは、賄いの食事をとっていた。
 今朝起きた殺人事件のことは、既に知れ渡っているのだろう。ここに居る者達もまた、疑いの目を交わし、秘かに探り合っていた。

 ……というような話をダンドが朗読させられている間に、暗転した舞台は別の場面へと作り替えられていく。
「ここは藍ちゃんくんにお任せなのでっす!」
 裏方の仕切りを買って出たのは紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)……なのだが、もちろん彼はただの裏方では終わらない。こと舞台装置が相手であるのなら、藍ちゃんくんはそれと合体できるのだから。
「次の場面は、こんな感じが良いのではないかと!」
 この人形劇場の一部とひとつとなり、柱から顔だけ出した藍は、舞台の上の大道具をごっそりと塗り替えてしまう。そうして暗転が開ける頃には、超絶ファンシーで、お花畑の壁紙で飾られた使用人控室が出来上がっていた。
 観客席がざわざわし始めているが、まあ些細なことだろう。

●第二幕
「やあ助手くん、死体の第一発見者は見つけておいてくれましたか?」
 記者の『助手』――戦犯・ぷれみ(バーチャルキャラクターの屑・f18654)がエラーダイアログのような顔で「あの人よ」と部屋の一角を示す。そこでは『使用人』――ユウ・リバーサイド(壊れた器・f19432)が食事を取っていた。
「今朝のことについて、お伺いしても?」
「はあ、いいですけど……」
 この辺りの展開は台本通り、使用人は、今朝見た死体の様子と、背中に刺さっていた包丁の情報を明かす。ここからは推理と、疑念を抱いた人々の会話に展開するはずの場面。そこに、『メイド見習い』――八上・偲(灰かぶり・f00203)が割り込んだ。
「奴隷さんのこと、昨日の夜遅くに廊下で見かけたよ」
 今思うと、思い詰めた表情をしてたような気がするの、と新たな目撃情報を提示した彼女は、さらに不思議そうな様子で付け加える。
「わたし、あの人のことは遠目にしか見た事ないけれど……いつも悩ましげに溜息をついてるのよ」
 でも、寵愛されてるのになんでため息なんてつくんだろう。そう首を傾げて。
「もしかして……ご主人様への禁断の恋?」
 種族違い、そして身分違いの恋。その手の話に夢見るような様子で、メイド見習いは言う。
「なんだいそれ、面白そうな話だねえ」
「おいおい、滅多なことを言うもんじゃないぞ」
 首を突っ込んできた『庭師』――ジョン・フラワー(夢見るおおかみ・f19496)とメイド見習いを、『料理人』――シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が窘める。「えぇー」と不満げに口を尖らせながら、庭師は料理人の淹れたお茶を啜っていた。
 とにかく、と話を戻した記者は、手帳に取ったメモを見直しながら、彼女に問う。
「ちなみに、それは二人ともですか?」
「ええ、ふたり……二人???」

 少々行き違いはあったようだが、とりあえずコイバナをぶちこむメイド見習いのおかげだろう、最初の事情聴取は極めて和やかに進んだ。
「そういえば! 新しく入った庭師の人がすっごくカッコいいの! 知ってる?」
「それって僕のこと? 照れちゃうなあ」
「え、あの、だから新しい方の――」
 物騒な展開を期待していた吸血鬼への肩透かしはこれで成功したとして、完全に雑談へと向かっていった者達から少し離れ、記者は情報を整理する。すると。
「……俺には、使用人の誰かがあの二人を殺したとは思えないんだ」
 いつの間にか傍に立っていた料理人が、記者へと告げる。どうやら、先程の話が聞こえていたらしい。
「それは、どういう……?」
「ああ、勘違いしないでくれ。俺は皆を信じている」
 記者の問い掛けに、料理人はそうはっきりと口にする。吸血鬼が見たいものは、動揺し、疑心暗鬼になった人間たちの争う様だろう。ならば、それの逆をいくまで。
「だからこそ協力は惜しまない。事実を明らかにし、俺達の中に犯人は居ないとはっきりさせてやろう」
「わかりました、では――」
 記者は表情を明るくしてそれに頷く。考えていることは類も同じ、人間の結束、団結など観客は望んでいないはず。
「一緒に、事件を解決しましょう!」
 こうして、二人の間に協力関係が結ばれた。だが、その直後のことだった。
「うっ、ぐ――!?」
 食事中だった使用人が、突如苦しみだし、その場に倒れ込んだ。そんな、まさか――毒を?
 動揺する他の者達の介抱も及ばず、使用人はやがて動かなくなる。これは一体、どういうことなのか。新たなシーツが力尽きた彼に被せられると、突如白い輝きが降り注ぐ。
「あの、ぼく、ほんとに死んじゃったんでしょうか?」
 そこには何故か、ドレス姿の使用人が浮かんでいた。
「……」
『……』
 これはこれで反応に困る。人形達も含め、とりあえず見なかったことにしようと無言の内に決まったところで。
『……料理人が毒を入れたんじゃないのか?』
 一般人である人形達が動き始めた。
『奴隷を刺したのも包丁だったんだろ……?』
『仇を、取ってやらないと……』
「いやあの、死んだ本人が報復なんて望んでませんよ!?」
 幽霊の発言はなかったこととする。疑いの目、つまり生贄候補を探す目は、料理人へと向けられていた。
「俺は毒を入れてなんかいない」
 料理人はそう抵抗し、冷静になるように促す。ここで恐慌を起こせば、それこそ人形劇場の儀式が成ってしまう。
「そもそも、俺達使用人の中に犯人が居るという前提が間違っているんじゃないのか?」
 人形達は、一瞬それに縋るような表情を作る。『ヴァンパイアが戯れに人間を殺した』、この世界ではありふれた事柄であり、ある意味最も穏便な回答だが。
『馬鹿を言うな! そんなことがあれば……!』
『とにかく、こいつが犯人だ! あの部屋に連れていけ!』
 そうして、舞台はカルドニア卿のサロンへと移る。

●幕間
 カルドニア卿のサロン、それは言葉の響きに相応しく、豪奢で広い特別な応接間である。卿は来客時以外もそこを多用し、お茶を楽しみ、悦楽に耽る。部屋の中央には、何人もの血を吸ってきた拘束具付きの椅子が置かれていた。

 ……という旨のナレーションをダンドが読み上げている間に、藍による舞台変更が行われる。柱から別の場所へと移った彼は、ついにBGMまで担当し始めた。
『おい、暖炉が歌い出したぞ!』
『このわけのわからん絵描き歌を止めろ! 即刻だ!!』
 観客席から怒号が聞こえるが、再度幕が上がれば多分黙るだろう。

●第三幕
 拷問用の椅子があるサロンには、既に先客が居た。
「これは……庭師さん!?」
 騒ぎの前に控え室を出た庭師が、サロンの床に倒れている。記者が駆け寄るが、返事はない。伏した彼の手元にはティーカップが握られており、ここで中の紅茶を飲み干したことが察せられる――。
『やっぱりな、料理にもお茶にも、お前が毒を入れたんだろう!』
 ここぞとばかりに疑いの声が飛ぶ。庭師の死体が若干そわそわしているような気がするが、とにかく。
「待て待て、まだ確たる証拠はないだろう」
「そうだ、俺は何も――」
 まずは危険を察した侍従長が、両者の間に割り込む。すると案の定一般人の人形が務める使用人が、料理人を犯人とするべく襲いかかった。この状況を予測していたダンドは、その動きを抑えることに成功するが。
『ああ、そんな……』『い、嫌だ――』
 続く別の使用人達は、限界を超えるほどに強く糸に引かれている。状況が状況だけに、人形の自主性ではなく操作に頼ってきたのだろう。
 それを止めること自体は容易いだろうが、『無傷で』となるとどうか。ダンドが、そしてシキが糸に逆らい対処する方法を吟味する、その一瞬。助手のウイルス検出時のポップアップみたいな瞳が輝いた。
「来なさい……!」
 料理人の盾となる位置に倒れ込んだ助手は、使用人達の突進をその身で受けることになる。
 ……が、特に何も起こらなかった。多分バーチャルキャラクターだからだろう。変わらぬ笑顔で攻撃を受け止めた助手はともかく、料理人と記者は、そのまま暴走していた使用人達を取り押さえることに成功した。
「すまないが、少しだけ大人しくしていてくれ、な?」
『うう……』
「落ち着いてくれ、俺は犯人じゃない」
『じゃあ……誰がやったって言うんだ……』
「犯人は……」
 料理人が言い募ると、使用人は苦い表情で問い返す。そこで、皆の視線が記者へと集まった。
 「犯人は誰か」という問いは、つまりここで「誰を生贄に選ぶのか」という問いであり、推理とはそれに対する言い訳である。
 ここまでの舞台に置いて、吸血鬼的な盛り上がりどころは大体外してきた。残るは最後の選択、終わらせ方について。
 記者として、類は思考する。舞台に居る誰かを犯人として選べば、吸血鬼達の思う壺。しかし舞台に居ない『誰か』を選んだ場合は? 犯人を捕まえられないので、『カルドニア邸の殺人』は終わらない?
「これクソゲーでは?」
 ぼそっと助手が呟くのと同時に、記者の視界の隅に、ピンクの毛並みが動くのが映る。
 第三幕の冒頭から倒れている庭師、その尻尾が、「なんか静かになったけど、そろそろ起きても良いのかな?」みたいな調子で揺れていた。
「さぷらい」
「サプラーーーーーーーーイズ!!!!」
 次の瞬間、劇場の床が破壊された。

●最終幕
 吸血鬼の舞台などぶっ潰れてしまえば良い。それが、彼等に食い物にされる人間を題材としているのなら、なおのことだ。
 メイド見習いは突然の事態に目を丸くして、偲は内心の願いが叶ったと、花火の光を見上げながら悟って、少しだけ頬を綻ばせた。
 床を叩き割って奴隷Aが現われると同時に、藍によるやたら気合の入った演出が舞台上で展開される。花火は上がったしファンファーレも鳴った。ついでに用意された赤絨毯の階段を、奴隷Aがゆっくりと下りてくる。
「できるだけハッピーな音楽流してもらえる?」
「ずるいなあ、それ僕も歌っていい?」
「なら藍ちゃんくんも歌っちゃうのでっす!」
 完全に起き上がるタイミングを食われた庭師も参加して、彼等は楽し気な曲を合唱し始めた。
「……死んでいたのでは?」
「ふふふ、僕があの程度で死ぬようなおおかみに思えたかい?」
 一曲歌い切って満足した様子の庭師に問えば、彼は料理人へと笑いかける。
「今日のお茶が美味しすぎてね、引っくり返っていただけだよ!」
 あの倒れっぷり、あんまり美味しそうに見えてわくわくしたよね? 大人しく死体をやって暇だった分なのか、それともいつも通りか、庭師は食い気味で話し続ける。とりあえずそちらの相手は他の者に任せて、記者は最初の被害者達に問うた。
「それで……お二人はどうして?」
「背中のツボを押そうとしてたのよね。疲労に効くらしいのよ、アレ」
「ええ、まあ。それで気を失っていたようですね」
 いつの間にか合流していた奴隷Bもそれに頷く。雑な説明この上ないが。
「毒を飲んだ件は?」
「ああ。パンが喉に詰まりまして」
 死んだかと思いましたよ。のどに詰まっていたらしきものを吐き出して、使用人は飄々とした様子で答えた。
「まあいいじゃない、アタシ馬鹿の一つ覚えみたいに残虐なのもう飽きちゃったわ」
「ていうか死体が生きてたんだから犯人いらなくない?」
 お茶会した方がよくない? 良いよね? じゃあお茶会しよう。
 そんなこんなで平和なお茶会の準備が為されていくのを背景に、記者は舞台袖に追いやられた拷問用の椅子へと歩み寄る。
「では、こんなものはもう不要ですね」
 被害者が居ないのだから犯人も居ない。誰も選ぶ必要はなくなったのだから。
「こんな椅子があるから……人は疑心暗鬼になるのです」
 それに、私刑を許してはいけない。破壊してしまおうと口にしたところで、助手がそれを遮った。
「助手くん……?」
 問いかける記者を他所に、彼女はフリーズしたデスクトップみたいな顔を観客席へと向け、語り掛けた。
「結局、犯人なんていなかった。早とちりって、怖いわね」
 でも人々を疑い合わせ、犯人捜しへと掻きたてたのは、何が原因だったのかしら。
 日々の鬱憤、希薄な人間関係、それに嫉妬や羨望? でもこの世界の人間なりに頑張って、たとえば吸血鬼のお気に入りになれたとして、それは愛だか執着だか知らないけれど、不確かなものの枠を奪い合う椅子取りゲームに過ぎないのよ。
「――クソゲーよね、人生なんて」
 テーマ性とか教訓めいたことをつらつらと口にして、彼女は遠くを見つめる。世の無情を思わせる無機質な瞳、だがそこに。
「もう良いんです、妹よ」
 奴隷Bがそう呼び掛けた。
 棒読みで告げられる衝撃の真実。「いやそうはならんやろ、そんな伏線なかったし」という文字列付きで見返す助手に、奴隷Bはそれっぽい台詞を被せにかかる。
「こうしてまた、会えたじゃないですか」
 でもその方がクソ映画っぽいわね。ということで助手はそれに乗った。
「あっ、あなたは……えーっと、生き別れだった兄さん?」
「あら、じゃあアタシの妹でもあるってコト?」
 感動の再会の瞬間である。実は兄弟だった奴隷二人と助手は、互いの手を固く握る。無機質だった助手の瞳から涙が零れた、ような気がした。
「そう、そうね……人生も捨てたものじゃないのかも知れない……」
「……もう壊しても良いかな?」
「良いんじゃないですか」
「おっけー」
 今度こそ、人間である記者の手で、拷問用の椅子が破壊される。

●カーテンコール
 猟兵達の手によって、舞台は大団円を迎えた。
 もはや修正不可能と察したのだろう、操り糸は既に力なく垂れさがっている。まだステージと一体化している藍の、高らかな歌声が響く中、役者達がステージの上で揃って一礼。
 観客席の吸血鬼達は「時間の無駄だった」、「脚本担当は首をくくれ」、「ふざけんな金返せ」などの大歓声を上げて帰っていった。

 儀式はもちろん失敗したという。めでたしめでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月07日


挿絵イラスト