闇の救済者戦争②〜みんな幼女になる。
暗い闇の中で頁の捲れる乾いた音がしている。
書架に何百冊と並べられた「意志を持つ禁断の魔導書」。
……即ち「禁書」たちは、戦いの気配に自ら溢れ出すように動き出していた。
ばらばらと飛び立ち、主たる紋章つかいの元へ向かおうと空中を舞う。
このままこの禁書たちが紋章つかいの処へ集まれば、敵の戦力を増大させることになるだろう。
ありとあらゆる悍ましい知識を詰め込んだ書物を野放しにしてはならない。
一冊残らず捕まえて破壊しなくてはいけない。
行く先は、禁書庫迷宮――血肉を喰らい蠢き膨らむ「侵蝕迷宮城」の一角にあるエリアだ。
複雑に入り組んだ構造をしており、侵入者を排除するための魔法罠が仕掛けられている。そしてなぜか、この区画にだけ「かわいい物」が設置されている。
ぬいぐるみやリボン、絵本やお花、おいしそうなケーキ等々。幼児の気をそらすようなものばかり。
おわかりだろうか。
「迷宮に踏み込めば魔法罠が発動し、あなたは瞬く間に 幼女 になる」
冗談でもなく、予知された未来を努めて淡々とクック・ルウは口にした。
「ひらひらのドレスを着た。とても可愛い幼女に変身させられるだろう」
埒外の力によって、幼く小さな女の子になるのだ。
幼女――即ち幼女だ。
魔法罠は、侵入者の外見から意識すらをも幼く可憐な幼女に変える。
着ているものさえ幼女にふさわしいものへ変化する。
なんとか罠を防げたとて、空間に留まり綴る限り、幼女化は侵食してくる。
見た目はそのままであっても、意識だけが幼女となっていくのだ。
ふわふわのぬいぐるみや甘いおやつを好むようになり、フリルのリボンをつけたくなり、ちょっとの事で「ふええ」と声を上げてしまうようになるだろう。
「だが、あなた達は猟兵だ。たとえ幼女になっても戦えるはず」
禁書を破壊する。それさえ出来れば、罠も破壊され元に戻る。
「この事を心に留めておいくれ、そうすればきっと大丈夫だ」
だから頼む。どうか頼む向かってくれ。と拝むようにクックは手を合わせた。
グリモアが輝き、道を拓く。
鍵森
●こちらは一章完結の戦争シナリオとなります。
幼女化の罠が待つ書庫迷宮で飛行する禁書を破壊して下さい。
見た目は幼女、中身も幼女。
あるいは意識だけ幼女。
とにかく幼女になりますが、空飛ぶ禁書を破壊すれば元に戻れます。
がんばえー。
●プレイングボーナス
逃げ出そうとする禁書を確実に壊す。
断章はありません、公開直後からプレイング募集となります。
よろしくお願いします。
第1章 冒険
『禁書庫迷宮』
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POW : 力任せに禁書を破壊する
SPD : 逃げ回る禁書を素早く捕まえる
WIZ : 禁書の魔力を感知して先回りする
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ロラン・ヒュッテンブレナー
幼女になる魔法の罠?
(なんのことか分かってない)
とりあえず進んでみるの…
(赤ずきんのような幼女になって)
ふぇ…、こ、これは……変わったのかな?
(よく分かってない)
でも、いそがなくっちゃ、なの
ふぇ…、壁に手を付いて魔力を接続、禁書の魔力をついせきなのぉ…
ふぇ…、けっこうとおくにいるのぉ…
ふぇ…、急がなくっちゃ…
ふぇ…、見つけたのぉ…
急いで壊すの
UC発動(呪文も幼女化)
ふえぇ…、熱を奪って氷漬けにしてから熱を戻して形象崩壊させちゃうよぉ…
ふぇ…、まだまだとんでくるのぉ…
ふぇ…、できるだけこわしちゃうのぉ…
――幼女になる魔法の罠?
なんのことなのか解らず、きょとんと首を傾げる。
そんなロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)の姿も、迷宮へ一歩踏み入れた途端、可憐な幼女へと変身していた。
「ふぇ……、こ、これは……変わったのかな?」
低くなった視界、縮んだ手足の感覚にロランは困惑の表情を浮かべた。
思わずきゅっと握った手を口元に当てると、不安げに眉は寄り大きな瞳は無意識に潤む。
誰もが守ってあげたくなるような庇護欲を掻き立てる姿だ。
元から可愛らしい少年であったけれど、幼女となったことでさらに愛らしさが倍増している。
更に漆黒の髪は艶やかな赤い布で纏められ、服装もまた赤いエプロンドレスに変わっており。まるで童話の中から抜け出した赤ずきんちゃんような服装も加わって、その愛らしさは無限大となっていた。
「よく、わからない。……でも、いそがなくっちゃ、なの」
ここに来たのは迷宮内を飛んで逃げる禁書を見つけて破壊するため。
ててて、と軽い足取りで駆け出したロランは、迷宮の壁に手をついた。
「ふぇ……、よいしょ、うんしょ……」
あどけない口調が漏れるが、行う術式は身に染み付いた高度な魔術。
壁に手を当てて魔力を流し込み、複雑な構造をした迷宮内と接続、禁書の魔力を追跡する。それを最短スピードで的確に行える技術力と探索範囲を広げる魔力量は流石のものである。
そしてロランは禁書を感知すると小さな手で壁をぺちぺちと叩いた。今の動作に特に意味はない。幼女だから。
「ふぇ……、けっこうとおくにいるのぉ……ふぇ……、急がなくっちゃ……」
巨大な書架が並ぶ通路を小さな背が駆けていく。
途中にお菓子やお花が置かれた場所が、道草しようと誘いかけても、一生懸命走る。
見た目は赤ずきんちゃんであっても、その心は獲物を追う狼の如しだ。
「ふぇ……、見つけたのぉ……急いで壊すの」
眼差しの先で、かさついた紙音を立てながら複数の分厚い本が宙を飛んでいる。
「禁断の魔導書」その中身に何が書かれているのか、読まずともロランは解った。
あれは存在してはならないものだと、全身の感覚が訴えてくる。
確実に破壊する。
ロランの唇が開き、呪文を紡ぎ出した。
「えんとろぴー移動術式、てんかい。りあらいず完了。ぶんり、かいほう。……おぺれーしょん、すたーと……なの」
熱のない機械的な呟きも、今だけは舌足らずな音が交じる。
けれど、その威力は凄まじいもの。
放たれた魔術の炎が禁書に当たった瞬間、冷気が走り燃える炎に飲まれた本はたちまち凍りついてから間髪入れず燃焼し、形を保てなくなるまで破壊される。
「ふえぇ……、熱を奪って氷漬けにしてから熱を戻して形象崩壊させちゃうよぉ……」
ぼろりと崩れた紙片が塵となって降る中で、ロランはとても無邪気な笑顔を浮かべた。
自分の作戦が上手くいったことへの純粹な喜びが胸に広がってくる。
それもまた幼女化の影響なのだろうか。
「ふぇ……、まだまだとんでくるのぉ……」
まるで鳥の群れのように禁書が飛んでいる。驚異的な敵の出現に恐れおののくように、その動きは逃げ惑おうとしている。けれど逃さない。
先に魔力で感知していたロランにとってこの状況は想定の範囲内だからだ。
「ふぇ……、できるだけこわしちゃうのぉ……」
火花が散り暗い迷宮に光を灯す、冷たい炎を操る赤ずきんちゃんは、くるりと体を回し踊るように魔術を行使するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
バロン・ゴウト
迷宮に罠が仕掛けられてるのは分かるとして、なんで幼女になっちゃうのにゃ?
ふええ、そんなこと言ってる間に幼女になっちゃったのにゃ!
けどボクは元々ケットシーとしても小柄だから武器もそのまま使えるし、普段からマントを付けてるからヒラヒラのお洋服でも戦えるのにゃ!
……あ、このおリボンかわいいのにゃ。ボクに似合うかにゃ?
若干幼女としての本能に引きずられつつお菓子を食べながら迷宮を進み、魔導書を発見するのにゃ。
【ダッシュ】で魔導書に駆け寄りレイピアで【串刺し】し、トリニティ・エンハンスの炎の魔力で魔導書を灰にするのにゃ!
絡み、アドリブ大歓迎にゃ。
「迷宮に罠が仕掛けられてるのは分かるとして、なんで幼女になっちゃうのにゃ?」
もっともな疑問だったが、それはそれとしてバロン・ゴウト(夢見る子猫剣士・f03085)の姿は幼女となっていた。
「ふええ、本当に幼女になっちゃったのにゃ!」
なんということでしょう。少年剣士たる凛々しい服装もお姫さまのようなひらひらのドレスへと変わり、手足も普段よりぷにっと丸みを帯びて、そこにいるのはちいさな天使………いや幼女猫でした。
「みいぃ……、声まで変わってるのにゃ」
まるで母猫に甘える子猫のような声が口から出てくる。
バロンは思わず自分の喉や顔をペタペタと触って確かめた。
金色の瞳を丸くして猫耳をぴょこぴょこと動かしながら困惑する姿はとても可愛らしい。
「ちょっとびっくりしたけど、ボクは元々ケットシーとしても小柄だから、武器もそのまま使えるし、普段からマントを付けてるからヒラヒラのお洋服でも戦えるのにゃ!」
だから大丈夫なのにゃ!
バロンはドレスの裾を翻し剣を構えると、決意を固めて一歩を踏み出した。
「行くにゃー!!」
巨大な書架が並ぶ迷宮を駆け抜けるその姿は勇ましく、そして微笑ましい。
ちっちゃい幼女猫が走るのだ。可愛いに決まっている。
黒いふわふわの毛並みをなびかせて、時にぴょんと跳ね、狭いところをくぐり抜け。
ケットシーとしての感覚と卓越した身体能力を生かして、縦横無尽に跳ねて駆ける。
その動きには危なげがないが、小さき命が奮闘する様子は見るものが見れば、はらはらしながら見守りたくなるだろう。
「……あ、お菓子があったにゃ。おいしそうだにゃあ」
好奇心いっぱいの様子で迷宮を探る内、見つけたお菓子を摘んだりしつつ。
目当てのものを探すべくロランは妙案を思いつく。
「そうだ。禁書は飛んでるはずにゃ、こうやって上から探せば見つかりやすいかもしれないにゃ」
そう言って、ひょいっと棚の上に飛び乗って辺りを見回した。
しかし、そこで予想外の事態が起こる。
「……にゃ? あれは」
そこにあったのは、ひらひら、と風に揺れるリボン。
迷宮にはところどころ可愛らしい装飾がされていたけれど、不意に見つけたリボンに、バロンの心はときめいていた。
真っ白なシルクで作られたリボンはなめらかな光沢を放ち、天井から垂れ下がっている。
バロンはその端っこを手に取ってみた。
「……わあ、このおリボンかわいいのにゃ。ボクに似合うかにゃ?」
それは今までにない不思議な感覚だった。
今の姿は普段とは別物であると自覚があるはずなのに、それでもなぜかリボンを付けた自分を想像してしまう。これが、幼女としての本能……?
「ふええ……」
引きずられる。このときめきに。
しかしその瞬間、一つの影が視界を横切った。そう――近くを飛んでいた禁書である。
「にゃっ! 見つけたにゃあ!」
獲物を見つけたロランの意識は即座に戦闘態勢へと切り替わる。一瞬の躊躇もなく禁書目掛けて飛び出したその手にはレイピアが握られていた。
「そこにゃ!」
鋭く細い刀身が寸分の狂いなく分厚い禁書を貫く、致命傷だがそれで壊れるような代物ではないのか、意識を持った魔導書は抵抗するようにジタバタと藻掻いた。
ロランはすかさず書物を串刺しにしたレイピアを床へ突き刺すと、魔力で生んだ炎で禁書を飲み込ませた。ごうと炎が立ち上る。
「まずは一冊にゃ」
おぞましい内容が記された頁が灰燼となるまで燃やし尽くされ、この世から完全に消滅するのを闇の中でも輝く美しい金色の瞳が見届けた。
大成功
🔵🔵🔵
メフィス・フェイスレス
えっとこわさなきゃいけないのよね……なにを?
そんなことよりおなかへった!ごはんちょーだーい!
ごはんないの……?やだやだやだー!
おなかすいたおなかすいた!ごーはーんー!!うぇえええええ!!
(へたりこみ泣き喚く。泣き声よりデカイ腹音)
――ごはん!!
(不意に目の前を横切った魔道書に飛びついて齧り付き)
まずーい!もっとおいしいのちょーだい!よこせぇえ!!
(無意識にUCで骨羽を生やした眷属を体外に喚び出す。本体に合わせて小さくなっているが如何せん数が多く。泣き声に呼応しさらにどんどこ躰から湧き出てるソレが群れをなし魔導書に襲いかかる)
こんなんじゃぜんぜんたりないの!!もっともっともっともっとぉー!!
その幼女は己の欲求に素直だった。
常ならば働く理性も、冴え渡る頭脳も鳴りを潜めている。
ゴシック様式に似合うフリルたっぷりの黒いドレスに身を包まれ、メフィス・フェイスレス(継ぎ合わされた者達・f27547)は迷宮の中をキョロキョロと見回した。
「えっとこわさなきゃいけないのよね……なにを?」
忘れてしまった。
それはなにか大事なことだったような気もするし、どうでもいいようなことだったような気もする。
「そんなことよりおなかへった! ごはんちょーだーい!」
思い出せないなら気にしない、やりたいことをやれと体が動く。
だってメフィスは幼女だ。わがままだって言うし、ご飯が食べたいなら大声だって上げる。
「ねーえ! ねぇぇえーーえ!」
欲求を満たすために声を張り上げても、返事はない。
周囲には誰も居ないのか、暗がりの廊下に声はむなしく吸い込まれていく。
胸のあたりがギュウッとするのは何故なのだろう。
一人ぼっちでメフィスは食べ物を探して歩き出した。あるいは自分にご飯を与えてくれる誰かの姿を探していたのかもしれない。
「ねええーー! ごーーはーーんーー!」
腹の底から大声を上げると、もっとお腹が空いてくる。
どうして誰も返事をしてくれないのか、私はこんなにもお腹が空いているのに。
「ううぅ~~」
ぐず。ぐず。
いつのまにか、メフィスは鼻を啜りこぼれそうな涙を袖で拭っていた。
「なんっで」
喉が勝手にしゃくりあげる。泣いてしまうのだ。幼女だから。
硬い床に向かって地団駄を踏む。悲しいのと怒りがごちゃ混ぜになって、せり上げてくる。
ぐるぐるぐるとお腹の中がからっぽで気持ちが悪いのに、ごはんがない。
「なんでごはんないの……? やだやだやだー!」
とうとうメフィスは床にへたり込んで泣き喚き始めた。
スーパーでお菓子を買ってほしいと訴える子供のように、それはこの世の理不尽に断固として立ち向かうかのごとくの本気泣きであった。
幼女でなければ許されない所業であるが、今のメフィスは幼女なので許される。
「おなかすいたおなかすいた! ごーはーんー!! うぇえええええ!!」
迷宮のあらゆる物を震わせるかのような大音声が響き渡る。
そしてそれを上回るほどの、うおんうおんと獣の唸り声のような腹の音が鳴った。
「もおおぉぉおおお!! ごーーはーーんーー!!」
ついに地べたにひっくり返ったメフィスは、そこで空中に動く影を捉えた。
涙に濡れた顔にぱあっと輝くような笑みが浮かぶ。
「――ごはん!!」
彼女がごはんと呼んだのは、宙を舞い飛んでいた禁断の魔導書である。
メフィスは恐るべき速さで体を起こし、宙を横切る禁書に向かって飛びつき齧りついた。
躊躇もない。地面に着地しながらそのまま分厚い装丁を食い千切り、怪しげな文字を連ねたページを咀嚼する。
「……!」
ガリガリ、ビリリ。容赦なく無惨に食い散らかした紙片が飛び散る。
メフィスの瞳にはギラギラとした輝きが浮かぶ、それはまさに捕食者の形相だった。
「まずーい! もっとおいしいのちょーだい! よこせぇえ!!」
咆哮を上げたメフィスの体から無意識に喚んだ骨羽を生やした眷属達が次々と飛び出す。
本体に合わせて小さな姿をしたソレらは群れをなすと、飛んで逃げる魔導書へと襲いかかっていく。蟻のように獲物に集い本体の元へ運んでやるために。
「こんなんじゃぜんぜんたりないの!! もっともっともっともっとぉー!!」
本体の泣き喚く声に応えるようにぞろぞろと体外へ溢れる眷属達が禁書を狩り始める。
まずくても食べなくては、だってご飯が足りない。
幼女は欲す。故に捕らえられた獲物は――残らず平らげられてしまうのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
花園・椿
おぉ、生まれた時からこの体だった私にとって童女の姿などとても新鮮
目線の低さに瞬きを繰り返し、空飛ぶ本へと手を伸ば…
届きません
梯子などあれば良いのですが…
ありません
…いいえ泣きません、この椿、如何なる時であろうとも冬の寒さの如く冷静さを失わ(顔面に本が激突)
…此処には涙や抱き締めたり慰めてくれる姉や達はおりません
だから泣きません、泣きませんった、ら(再び顔面に本が激突
…怒りが湧いてまいりました
カトラリーは投げるものではないと姉やたちが言っていたような気がします
ですが手の届かないものを落とすには丁度良いですし
姉やたちも「空飛ぶ本を落としてはいけない」なんて言ってないですし
…落ちると呆気ないですね
くすり、と鈴を転がすような声色で小さく笑う。
おぉ、生まれた時からこの体だった私にとって童女の姿など、とても新鮮。
「こんなに手足が小さいなんて、不思議」
ミレナリィドールたる花園・椿(静寂の花・f35741)は小さくなった我が身をしげしげと眺めた。其身には幼い少女が着るような可愛らしい服を纏わされ、絹糸のような茶色の髪にはあどけない顔立ちに似合う髪飾りなどがあしらわれている。
あっという間の変身だった。
何が起こるのか事前に解っていたからか、動揺はあまりない。むしろどこか楽しいような気持ちにあふれている。……それともこれが童女の気持ち、なのだろうか。
「さて、空飛ぶ本を壊さなくてはいけないのですよね」
周りを見渡すと、椿は自分の目線がずいぶん低くなっている事に、あらためて不思議な心地となりまばたきを繰り返した。
童女の目で覗いた世界のなんと広く大きなこと。
見上げても尚高い本棚に囲まれた迷宮は、天井が遥か彼方にあるように感じられ、薄暗がりの廊下の先がとても遠く感じる。
「あ」
不意に空を飛ぶ影を見つけた椿は駆け出す。紙が擦れる音をさせながら本が飛んでいる。間違いなく、禁断の魔導書だ。
「逃しません」
童女となってもその身体運びは常人の比ではない。するりと静かな足音を立てて、滑るように走り出す。幼くなった身体が軽い。
けれど。
「……届きません」
空飛ぶ本のところまで迫ったというのに、なんということだろう。どれだけ精一杯手を伸ばしても、背丈が足りないのである。
「……んん」
椿はすぐさま辺りに視線をやり、梯子やなにか上に上がるための道具がないかを探った。しかしそれらしいものはない。
「ありません」
きゅっと唇を噛む。椿は涙がこみ上げそうになっていたのだ。
平素ならばこんな事で泣くはずもないと解っているのに。
くやしい。本当に泣いてしまうかもしれない。でも。
「……泣きません、この椿、如何なる時であろうとも冬の寒さの如く冷静さを失わ」
べちっ。
己を叱咤する言葉を言い切る前に、椿の顔に本が落ちてきた。痛い。
「ふっ……にゅ……」
ぷるぷると椿の体が震える。頬は紅潮し、大きな瞳が潤んでいく。
姉や。
とっさに思い浮かべてしまった。姉や達が恋しい。彼女達が今の小さくなった自分を見たらどうするだろうか。やさしく涙を拭いて抱きしめて慰めてくれるだろうか。あたたかな愛情で包んでくれるのではないだろうか。
でも、此処に彼女達は居ない。椿は一人だ。
「私は、一人……だから泣きません、泣きませんった、ら」
べちーん。
再び顔面へ落ちてくる本。こうなると偶然ではない。椿は確信した。上を見ると、小馬鹿にしたように悪辣な禁書たちが本棚の上に居座っているではないか。先程から本を落としてくるのもこいつらの仕業に違いない。
「……」
ぷつりと堪忍袋の緒が切れた。
泣きたくなるような気持ちは静かな怒りへと変わり、冷静さが取り戻されていく。
椿はカトラリーナイフを握った。手入れの行き届いたそれは茶運び人形である彼女の為の道具である。
「カトラリーは投げるものではない、と姉やたちが言っていたような気がしますけれど」
ヒュッ。と鋭い風切り音が響いた。投げ放ったナイフによって本棚に鎮座していた禁書が深々と切り裂かれる。
「ですが手の届かないものを落とすには丁度良いですし」
仲間がやられて飛び立つ禁書たちをカトラリーナイフで迎撃しながら、椿は静かに呟いた。
「姉やたちも『空飛ぶ本を落としてはいけない』なんて言ってないですし」
カトラリーナイフに撃ち落とされた禁書たちが次々と落下し、床に紙片を散らばらせる。
「……落ちると呆気ないですね」
地べたに散らばる残骸を見下ろして、椿はあどけないかんばせに美しい微笑を浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
花織・ヒメ
わたしには子供の時の記憶がないから、子供気分って知らないの
だから未知数でドキドキする
あんまり変化しないかもしれないけど、楽しんでいくわ!
迷宮に入った瞬間、可愛いドレスを着せてもらえて嬉しくなっちゃう
えへへ、ひらひら……
あっちにはぬいぐるみ、こっちにはキレイなお花
どれもすてきね!
絵本も気になるし、ケーキも食べたい……
迷っていたら空飛ぶお本を見つけたの!
すてき!ほしい!
でも高い所のお本には届かないかも……
だからこれ!と祈刃を引きずるわ
あとは欲望のままに空飛ぶ本を追いかける
素敵なお本さん、捕まえさせて?
UCと共に祈刃を振り回し、すぱっと切って
禁書は読めなくなっちゃったけど、冒険は楽しかったから満足よ
花織・ヒメ(よせあつめワンダラー・f37008)には幼い頃の記憶がない。だから子供気分を味わうのがちょっと楽しみだった。
胸がドキドキする。
世界を巡りながら素敵なものを見つけては本に書き記す彼女にとって、未知の出来事というのは好奇心を掻き立てられるものなのだ。
「……わあ」
迷宮に踏み込んだ途端。ちょこんと小さくなったヒメは、童話のお姫さまのような可愛らしいドレス姿に変身していた。自分にはあんまり変化はないかもしれないと思っていたけれど、これは予想外。
「えへへ、ひらひら……」
くるりと回るとスカートの裾がふわりと舞う。それが楽しくて何度も回って、くすくすと無邪気に笑ってしまう。くすぐったいような不思議な心地がしている。
「子供の気持ちってこんな感じなのかな」
いつもよりも楽しい気持ちが湧いてくるような気がする。低くなった視線で周りを見ると、見るもの全てが新鮮で興味を惹かれるのだ。好奇心のままに、小さなヒメは早速冒険を始めることにした。
「あっ、ぬいぐるみ!」
ちょこちょこと迷宮の中を歩いていると、お人形や絵本などがたくさん置いてある一角を見つけた。色とりどりの小さなぬいぐるみたちが棚いっぱいに並んでいる。
見ているだけでうきうきするような光景に、ヒメは瞳を輝かせて屈託のない笑みを浮かべる。誰が何のためにこんな場所を設けたのか、そんな事は尊き笑顔の前では些細なことである。
「こっちにはキレイなお花……どれもすてきね!」
素敵なものを見つけるたび、足を止めてはしゃぐように喜ぶヒメ。あちらこちらに散りばめられた素敵ものを心の赴くままに楽しんでしまう。
「わ、わ……どうしよう」
次に見つけたのは面白そうな絵本に、おいしそうなケーキ。
こんなに素敵なものを見つけたら、どちらを先に楽しもうか迷ってしまう。絵本に書かれた題名や表紙の絵には興味を惹かれるし、クリームをたっぷり乗せた美しいケーキも食べたいと思ってしまう。
二つの魅力を前にして、どうしたものかと立ち止まっていると―――不意に床の上を影が過った。
「あ、空飛ぶお本! 見ーつけた!」
上を見たヒメはきゃっきゃっと嬉しそうな声を上げる。
ここに来たのは「意志を持つ禁断の魔導書」を破壊するため、だけれど、こんな場所にある禁書を見られる機会なんてそうそうない。
「すてき! ほしい!」
はやく捕まえなくては。と、ヒメは禁書をどうやって追いかけようかと考える。高いところに手は届かないかもしれないし、それなら。
「待って待ってー」
ズン、と呪剣「祈刃」を手にしたヒメは幼女には大きすぎる武器を引きずりながら走り出した。その頭にはもう空飛ぶお本のことしかない。
一つのことに夢中になってしまうと他のことは忘れてしまうのだ。幼女だから。
「素敵なお本さん、捕まえさせて?」
声を掛けても止まってくれるような相手ではなかったが、ヒメにはもう関係がなかった。
逃げるのなら、動きを止めてしまえばいいのだ。
無邪気な笑みを浮かべたまま駆け寄ると、そのまま剣を振り上げて。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に振り下ろす、剣から放たれた斬撃によって禁書は真っ二つになった。ギロチンの如き鋭い一撃の前に為す術もない。禍々しい術を収めた魔導書が、斬撃の衝撃にビリビリと破けて砕けていく。
「ああ……壊れちゃった」
これでお終い。ちょっと残念そうに呟いて、かぶりを振る。
禁書は読めなくなっちゃったけど、楽しい冒険だった。
遊び疲れた子供のような満足感にヒメは楽しそうに笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ジュジュ・ブランロジエ
アドリブ歓迎
予め掌にマジックで『そらとぶほんをもやしてね』と書いておく
いざ、迷宮へ!
わぁ!可愛いぬいぐるみがいっぱい!
私のメボンゴ(絡繰り人形)のお友達になってくれる?
ありがとう
おリボン結んであげるね
今日からあなたもお友達!
(一人遊びに慣れてる
あっ、ケーキもあるー!お菓子も!
ジュジュ、クッキーだぁいすき!
ぬいぐるみさん達にもはいどーぞ!
……あれれ?
(掌のメモに気付く
おそらをとぶ本?
(上を見て
あー、とんでるね!燃やすのね?
ジュジュがいっぱい燃やしてあげるー!
(UCの炎に風属性の衝撃波で威力増加させて舞いあげ本を燃やす
きゃっきゃっ、きれい〜!
ぜーんぶ燃やしちゃおうね〜!
あ、戻った
幼女も楽しいね!
なにかを忘れているような気がするけれど、それを思い出す前にジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)の意識は目の前に飛び込んできた光景に奪われてしまった。
「わぁ! 可愛いぬいぐるみがいっぱい!」
小さな歓声を上げてジュジュは大き見開いた瞳を煌めかせた。
こんなに沢山、誰が用意したのだろうか。迷宮の一角たる場所に小さな椅子やテーブルがあり、周りにはクマや犬などの定番から、ユニコーンといった幻想的な生き物まで様々なぬいぐるみ達が所狭しと並べられている。
「こんにちは、ぬいぐるみさんたち。私、ジュジュっていうの」
駆け寄って、ちょこん、と頭を下げて自己紹介をしたジュジュはおしゃまな笑みを浮かべた。それから腕に抱えた白いうさぎの絡繰り人形メボンゴにもちゃんと挨拶をさせる。ジュジュが促してあげると、メボンゴは手を振って『こんにちは』とお辞儀をして膝の上に座るのだ。
「ねえ、みんな、私のメボンゴのお友達になってくれる?」
そう尋ねると、ジュジュはぬいぐるみ達の声を聴くように少し黙った。これはおままごとであったかもしれないが、幼女であるジュジュには本当にぬいぐるみ達の声が聴こえているのかもしれない。そう思わせるのは、彼女の芸当が優れているからだろうか。
「ふふ、ありがとう。よかったね、メボンゴ」
笑いかけると、メボンゴも嬉しそうに頷く。ジュジュはすぐそばの棚からリボンを取ってきて、ぬいぐるみ達にプレゼントすることにした。
「おリボン結んであげるね……今日からあなたもお友達!」
リボンを結ぶと、ぬいぐるみ達はさらに可愛らしい姿になり。その様を見てジュジュは満足げに微笑む。
「そうだ、メボンゴ。みんなとパーティしよう、せっかくオシャレしたんだもの」
ね。と話しかけながら、ジュジュは早速準備に取り掛かった。
「あなたもいい考えだと思うでしょう? えっと、椅子を動かして……うんしょ」
部屋の真ん中にあった丸いテーブルの周りに椅子を集め、そしてそこにぬいぐるみ達を座らせていく。そうすればティーパーティーに相応しい様子となった。
「えっと、次はお茶とお菓子が必要ね……」
なにかあるかな。とジュジュは小走りで駆けていった。そして戻ってきた時、彼女の手にはどこからが見つけ出してきたケーキやクッキーが乗ったお皿があった。そう、幼女とは置いてあるお菓子を見つけるのが上手なのだ。
「ケーキもお菓子もあったよー、ジュジュ、クッキーだぁいすき!」
ご機嫌なニコニコ笑顔で、椅子に座ればパーティの始まり。
「ぬいぐるみさん達にもはいどーぞ!」
……あれれ?
ぬいぐるみへお菓子を差し出したジュジュは、掌に書かれた文字に気がついた。
そう、それはこの迷宮に来る前に幼女となった自分宛てにジュジュが書かいたメッセージ。
「……『そらとぶほんをもやしてね』……」
なんのことだろう。でも、これはきっと大事なこと。そんな気がする。
ジュジュは上を見た。頭上から遠く、本の群れが、ゆうゆうと飛んでいく。
「あー、とんでるね! 燃やすのね?」
どうすればいいのか、ちゃんと解っている。ジュジュは賢く、言われたことはちゃんとできる子なのだ。相棒のメボンゴと共に立ち上がり、鋭いフィンガースナップを鳴らす。
ぬいぐるみ達が観客となって見守る中、生み出された魔法の炎が空飛ぶ本めがけて矢のように放たれる。七色に輝く美しい炎は一瞬にして本を包み込んだ。
「ジュジュがいっぱい燃やしてあげるー!」
燃え上がった火の粉が弾け飛び、眩しい光が辺りに降り注ぐ。その光を浴びて、ジュジュはもっと楽しい気分になった。きゃっきゃっ、と嬉しそうに笑い手を叩く。
「きれい〜! ぜーんぶ燃やしちゃおうね〜!」
燃え落ちた禁書が床に落ちて砕けると、全てを燃やし尽くしたジュジュはいつの間にか元の姿に戻っていた。
数度、瞬きをする。
それからぬいぐるみのお友達を眺め「幼女も楽しいね!」と零してその場を後にしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ミーガン・クイン
やぁだぁ、ちいさくなっちゃったぁ。
ご本さんまってぇ…。
ふぇぇん。
【想像魔法・私を食べて】
おいしそうなけーき、みつけたぁ。
もぐもぐ。
わぁぁ、おおきくなっちゃったぁ♪
これでおいつけるかなぁー?
ご本さんまってー♪
艶のある美貌は、無垢な幼女と変じ。小さくなった手足はぷっくりと丸みを帯びて、目線はずっと低くなった。ミーガン・クイン(規格外の魔女・f36759)のあどけない顔立ちには不安げな表情を浮かぶ。感情すら子供めいて抑制も効かないのだ。
「やぁだぁ、ちいさくなっちゃったぁ」
舌っ足らずに訴えても、周りに誰もいないことにますます不安が募る。
んうう。と泣き出しそうなのをこらえて、ミーガンは迷宮を歩き出した。
背の高い書架がずらりと並ぶ長い廊下を小さな歩幅で進みながら、彼女はぎゅっと両手を握りしめる。きれいなドレスに身を包んだ幼女の姿では、どこか頼りない気分になってしまうのも無理はない。
「ご本さん、見つけるのぉ……」
呟いた声は少しだけ震えていた。けれどこんなに小さくてか弱い姿にされていても、ミーガンの心には果たすべき使命がある事を覚えている。
「がんばぇ……がんばれぇ……」
そっと自分を励ましながら、ミーガンは空を飛んでいるという本を探した。
小さな体では何もかもが広くて大きい、ようやく頭上高くを飛ぶ本の姿を見つけても追いかけるのが一苦労だった。
「あ……ご本さんまってぇ……まってぇ……ふぇぇん」
どんなに走っても飛び跳ねても届かない。
あの本を壊さないといけないのに。
ミーガンは一生懸命、時に慣れない体で転びそうになりながら禁書を追いかけた。
「ふぇぇ」
けれど、どうすればいいのかわからなくなって、ついに立ち止まってしまう。
くすん、と鼻を啜り。ため息を吐く。
「……どうすればいいのぉ」
もっと大きな体なら良かったのに。とミーガンの中に悔しさが込み上げた。
(おおきなからだ、なら)
ミーガンは心の中で自分の理想の姿を思い描いた。あの本に手が届くほど大きくて。強くて、格好良くて……素敵に成長した自分を。
心に生まれた強い願い――その願いは魔法の力となった。
次の瞬間、胸の奥から浮かび上がるように小さな箱がミーガンの前に現れる。
「あれ? なあにこれぇ……」
恐る恐る箱を開けてみると、中にはおいしそうなケーキがひとつ。
「おいしそうなけーき、みつけたぁ」
ぱあっとミーガンは顔を輝かせて箱の中からケーキを取り出す。つややかなチョコレートのコーティングに覆われたケーキの表面にはたっぷりの生クリームが飾られていて、甘い香りを漂わせていた。
「いただきまぁす」
嬉しくなってミーガンはそれを頬張った。すると。もぐもぐと幸せそうに味わう彼女の姿が、ケーキの魔法によってみるみる内に大きくなっていく。まるで不思議の国のアリスのように、彼女が着ていたドレスまで大きくなる。
すぐに自分の大きさが変わったことに気がついたミーガンは、大喜びだった。
「わぁぁ、おおきくなっちゃったぁ♪」
先程までの不安が嘘のように晴れ、明るい表情となったミーガンは自分の体を確かめるようにくるりとその場で回ってみせた。先程まで見上げるほどに高かった書架も、今ではおもちゃのようだ。ミーガンは巨大幼女となっていた。
「これでおいつけるかなぁー? ご本さんまってー♪」
ぴょんぴょん跳ねながら、ミーガンは再び本を追い始める。さっきまであんなに苦労して捕まえられなかった空飛ぶ本も少しを手を伸ばせば届くところにある。
「あははっ、つかまえたぁ♪」
無邪気な掌が禁書を捕まえて、握りしめた拍子にくしゃりと潰す。
楽しい遊びに夢中になって、ミーガンは愛らしい笑顔を浮かべるのだった。
大成功
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瀬河・辰巳
うわー背低っ。後はどこまで自分の元の性格とか残…あ、可愛い犬のぬいぐるみだ。
見た目:幼少期と同じで背中まである淡い金髪、白い肌に赤い目。動きやすい赤のワンピース(猫柄)姿だが、何故か狩り用の弓矢を背負っている。
「ねえ皆、不思議な空飛ぶ本を一緒に探して!」
UCで動物を大量に召喚し、野生の勘を頼りに探索。自分は犬のぬいぐるみを抱えながら熊に乗って移動。
見つけたら影のオトモダチに足止めをしてもらいつつ、弓で射たり、全力魔法でどんどん燃やしたりして無邪気に破壊してゆく。
「本落とすのおもしろーい!皆もべしべし落としちゃえ!爪研ぎしちゃえ!齧っちゃえ!」
…あれ、これ、食べちゃっても皆お腹壊さないよね?
「うわー背低っ」小さくなった自分の体を確かめて、瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)は思わず呟いた。
雪のように白い肌、紅玉の如き赤い瞳。淡い金色の髪は動くたびに、ふわりと波打って。
着ているものは、かわいい猫の模様が入った赤いワンピースだ。
予め知っていたとは言え、いきなり可憐な幼女に変化させられたのだ。まずは自分の状態を確かめなくては――そう判断する冷静さは残されている。
そして幸いにも、背中には狩りに使うための弓矢が背負われている。
(これなら……)
この姿のままでも、まだ戦える。
「後はどこまで自分の元の性格とか残……あ、可愛い犬のぬいぐるみだ」
果たしてこれが幼女化の罠による力である。
辰巳の表情は無邪気な子供そのものとなって、見つけたおもちゃ目掛けて走り出す。わんちゃんはかわいいから仕方がない。書架の隅に転がっていた犬のぬいぐるみを拾い上げ、ぎゅっと抱きしめる。白くて長い毛並みにつぶらな黒い瞳をしたその犬のは、辰巳の大事な相棒の姿によく似ていた。
「白くてふかふかだね」
よしよし。と頭を撫でてあげる。その光景は百億満点の可愛さであった。
「大丈夫。もう寂しくないよ、一緒に行こう」
辰巳は嬉しそうに笑うと、ぬいぐるみを抱きかかえたまま歩き出した。
書物だらけの迷宮は広くて大きい、薄暗く静まり返った空気の中、辰巳は人差し指を掲げた。そして「この指とまれ」と呼びかけたのなら。
にわかに辺りは騒がしくなって、あちらこちらからと現れいでたるは、様々な動物たち。
どうしたの。なにか御用かしら。キィキィ。くうくう。
リスや兎に鹿も熊も、皆がこぞって辰巳の周りに集まってくる。
「ねえ皆、不思議な空飛ぶ本を一緒に探して!」
いいとも。と身を屈めた熊の背にヒラリと飛び乗った辰巳を先頭に、動物たちが列をなして付き従う。それはまるでパレードのような光景だった。
空飛ぶ本を見つけたらどうするの?
「落として、壊しちゃうんだよ」
こわしちゃうの?
「そう」
不思議そうに尋ねるリスの背中を指でくすぐり、はしゃいで飛び跳ねる狐に微笑んで。静かだった迷宮に賑やかな声が響き、やがてさまざまな生き物たちが楽しげに駆け走りだす。
どんなに暗い場所でも、動物たちが集えば森の中と変わらない場所になる。森は辰巳の領域だ。感覚は冴え渡り、僅かな物音で獲物の居場所を嗅ぎ分ける。
「見つけた!」
空を飛ぶ禁書を発見した辰巳は嬉しそうに声を上げた。
幼くなった辰巳はいつもよりも振る舞いが大胆になっていく、だってこんなに楽しい。我慢をしたくない。
「オトモダチも手伝って!」
その声に応えて、獣の形をした影が躍り出た。天井高く跳躍し、禁書へ食らいつく。動きを止めたところを、すかさず辰巳の矢が禁書を貫き、破壊した。羽毛のように紙片を飛び散らせて禁書だったものが墜落していく。
「本落とすのおもしろーい!」
あははは! 高揚した笑い声を上げ、辰巳は腕を振って動物たちに指示を送った。
「皆もべしべし落としちゃえ! 爪研ぎしちゃえ! 齧っちゃえ!」
咆哮を上げて動物たちが禁書へ向かって飛びかかる。
牙が、爪が、食い千切り、深々と突き立てられ、禁書達はたちどころに狩り尽くされていく。ボロボロになったそれを、玩具のように扱うものもいれば、そのまま齧るものもいて……そこで辰巳ははたと気がついた。
「……あれ、これ、食べちゃっても皆お腹壊さないよね?」
はわわ。
慌てた辰巳の口から、可愛らしい声が零されたのだった。
●
そして猟兵達の活躍によって、周辺の禁書は全て破壊された。
あなた達は元の姿に戻り、その場を立ち去っていく。
紋章の禁書庫の一角を無力化させたことは、後の戦いにおいて大きな意味を持つことだろう。
大成功
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