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闇の救済者戦争⑨〜花影のプルガトリウム

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #プレイング〆切

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#闇の救済者戦争
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●その門をくぐる者は
 月の明かりに愛されたこの花園は季節が知れぬ。
 日輪草が夏の陽の色をして咲き並ぶ傍らで、大輪の薔薇たちは五月の盛りを謳歌する。鮮やかな百日紅の樹の下に水仙が揺れていた。何処からともなく漂う香りは沈丁花のものか。
 思い思いに絢爛に花の盛りを誇る花々は誰が為に咲き誇るものだろう。
 この場所の門は誰にでも開かれる。真鍮の門扉は姿持たぬ門番が傍に侍りでもするかの如く、音もなく貴方の前に開くだろう。
 だが、花々を愛でる時間など用意されては居ないらしい。瞳が花を映した刹那、夜露に濡れた花々の色彩は溶けて滲んで、紡ぎ出される幻はいつかの幸せな日を描く。愛したひと、大切な言葉、胸の奥底にしまっておいた忘れ得ぬはずの一幕。その全てが全て、真黒く塗り潰すかの様に歪み、蝕まれ、耐え難き悪夢へと姿を変える。慈愛は呪詛へ、誓いは偽りへ、全ての希望は絶望へ。
 全く知らぬ地獄ではない、いつかの続きとして訪れる、誰も望まぬ|物語 《 i f》。
 花々は何も知らない顔をして月の光に咲うのみ。
 
●その花は誰が為に
「花は好き? 俺は部屋に花飾るタイプじゃないけど、誰かに贈ったりするのは結構、嫌いじゃないよ」
 白い軍服のグリモア猟兵チェーザレ・ヴェネーノは、手元に置いたミニブーケのリボンの加減を整えながら猟兵たちへとそう告げた。煙る様なカスミ草の中、天鵞絨の様な暗い紅の薔薇が座している。
「あぁごめん、これはあげられないんだよね。じゃなくて、素敵なお花畑をちょっと見て来て欲しいんだ。まぁ仕事の一環としてだから、素敵なだけな筈がないのはお察しだろうと思うけど」
 言葉を続けながら、白軍服の憲兵崩れは猟兵たちの反応よりも、花の向きを加減するのにご執心。
「何だっけ、現実改変ユーベルコード? あれが強力に効いてる場所だから、最高の楽園から最悪の地獄まで急転直下でご案内。どう、スリルあるでしょ?」
 漸く猟兵たちを見て、薄い唇より牙を覗かせて語って曰く、それはまるで楽園の様な花園だ。
 だが、招かれざる客らへとこの花園が見せるのは麗しい花々のすがたなどでなく、絶望だ。猟兵たち自信の幸せな記憶を歪めて作り出したそれらはさぞかし気分が悪かろう。
「誰が何の為に作った楽園もどきだか知らないけど、オブリビオンのこう言うのって大体招かれざる客に手厳しいよねぇ。ーーまぁ、彼らは猟兵なんてお呼びじゃないだろうから、仕方のないことかも知れないけど」
 漸く花束の出来に満足したか、よし、と小さく頷いて、チェーザレは白手袋の指先に血の色をしたグリモアを浮かべた。
「え? 侵食に抗えなかったらーーさぁ? 知らないな。死ぬんじゃない?」
 冗談めかして笑った声音を他所に、暗色の光が満ちて猟兵たちを偽の楽園へ連れてゆく。
「じゃあ、楽しんでーーいやいや、気をつけて行って来てね」


lulu
ご機嫌よう、luluです。
庭園散策にちょうど良い季節ですね。

闇の救済者戦争⑨〜追想侵食のシナリオです。
プレイングには幸せな記憶の具体的な場面を記載頂ければと存じますが、だいたい酷いことになります。
幸せな記憶がない場合には人生の契機や思い入れのある一場面なども応用出来るのかも知れません。
侵食に抗えないプレイングの場合には苦戦しますが死にはしません。

採用・執筆共にマイペースな感じになるかと存じます。
予めご了承くださいませ。

それでは、宜しくお願いいたします。

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プレイングボーナス……「幸せな記憶」の侵食に抗う。
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第1章 冒険 『追想を穢す花園』

POW   :    気合いでおぞましい光景に耐え抜く。

SPD   :    大切な品物を触媒に、自身の記憶を確かめる。

WIZ   :    魔法的な防護で精神侵食を和らげる。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジュジュ・ブランロジエ
出身世界の危機だからより一層頑張らなくちゃ!
『ジュジュならできるよ!』

うんと小さい頃
両親達からは放置気味で寂しかったけど人形工房に行けばお祖父ちゃんがいる
お祖父ちゃんは私をちゃんと見てくれる
そしてある日メボンゴと出会う
一目でわかった
この子は私のための存在
私はもう絶対に孤独にならない
貴女の名前はメボンゴね!私はジュジュだよ!
私、すぐに大きくなるよ
誰よりも上手く扱えるようになるから待ってて

どんな悪夢に襲われても平気
『ジュジュのメボンゴはここにいるよ!』
そう、私にはメボンゴがいる
『メボンゴ達なら何があっても負けない!』
行こう、メボンゴ
立ち止まってる時間はない
家族も他の人々もこの世界みんな助けるよ!



●操り糸が繋ぐ絆は
「故郷を守る為にも頑張らなくちゃ!」
『ジュジュならできるよ!』
 番人の居ない門を潜りながら、ジュジュ・ブランロジエは腕に抱き締めた兎頭の人形・メボンゴと励まし合う様に言葉を交わす。日頃から猟兵として世界の為に戦う彼女ではあるが、家族が住まうこの世界の命運を賭けた此度の戦争に関しては常よりも熱が入る。
 とは言えジュジュの瞳が今ここにある現実を見つめて居たのは、白薔薇のアーチに目を奪われるまでのこと。小ぶりな花を無数に咲かせたその蔦薔薇の白と柔らかな緑が溶ける様に滲んだ後に、ジュジュが見るのは年季の入った人形工房の風景だ。
 懐かしい泥漿の匂いがした。壁に並んだ作りかけの人形たちが、既に瞳を入れられたものはジュジュのことを見つめている。
 人形であるが故によく整っていながらもまるで今にも喋り出しそうな彼女たちの、そのあどけない愛くるしさも、生き生きとした表情も、同じ人形師ではありながら技量に恵まれなかったらしい父には真似の出来ないものである。その人形たちも、それを生み出す祖父の腕前も、勿論祖父本人のことも、ジュジュは大好きだった。家族との間に感じる距離感も、それ故に自宅で感じる居心地の悪さも、この場所では忘れられる。
 机の上に、見慣れない人形がある。白いドレスを纏ったそれは人間の少女ではなく、白兎の頭をしていた。
 この日のことをジュジュはよく覚えている。
「お祖父ちゃん、この子を私にちょうだい!」
 一目惚れだった。考える前に告げていた。
 目尻の皺を深めて頷いた祖父の柔らかい微笑みも記憶の中のあの日と同じ。ジュジュのことをよく見てくれている彼は、彼女がこの人形を気に入ることを最初から解って居たのだろう。
 人形を腕に抱きながら、一生涯の友を得たと、不思議なまでの確信が持てた。もう絶対に孤独になんてならない。これからはずっと、祖父が自分の為だけに創ったこの子が傍に居てくれる。
「貴女の名前はメボンゴね!私はジュジュだよ!」
 幼いジュジュにはメボンゴは少し大きくて重たくて、けれどその存在を感じさせてくれる重みすらどうしようもなく愛おしい。
「私、すぐに大きくなるよ。誰よりも上手に貴女のことを動かせるようになるから待ってて」
 白兎頭の人形はこの時何も答えなかった。その筈だった。メボンゴが生き生きと動いて喋るようになったのはもっと後のこと。ジュジュがこの時誓った通りに、成長して、人形使いとして彼女を動かすようになってからである。いつも元気いっぱいに、それでいて何処かジュジュの心の深層を代弁するかの様なメボンゴの言葉だって、言ってしまえばジュジュが裏声で紡いでいるものだ。
 それなのに。
『嫌だよ。メボンゴはジュジュのお友だちにはならないよ』
 幼い日のジュジュは何も言わぬのに、操りなどしていないのに、勝手に動き出したメボンゴが振り払う様にジュジュの腕を抜け出し、冷たく言い放つ。ジュジュがよく聞き慣れたメボンゴの声で。
『ジュジュよりももっとメボンゴのこと上手に動かしてくれる人なんていくらでもいるよ。それなのにどうして待たなきゃいけないの?』
 引き留めようとしたジュジュの手から逃れる様に机の上を少し歩いて、メボンゴが振り返る。
『勝手に決めて勝手に盛り上がらないで。メボンゴにだって自分の持ち主を選ぶ権利があるよ』
 赤い硝子の瞳は、単にそれが無機質であると言う以上に冷ややかだ。
 気づけば祖父の姿はない。机の上のメボンゴと向き合いながら、ジュジュは彼女の言葉の意味を頭で考えまいとする。これが幻だと理解しながらも、考えて理解してしまったならば、あの日覚えた幸せに何らかの疑念を抱いてしまいそうなことが怖かった。
『それに、自分の家族からも愛されていない子をどうしてメボンゴが愛さなくちゃいけないの? 』
ーー愛されていない。
 こてりと首を傾げたメボンゴの無邪気な仕草が、その言葉の冷たさと鋭さを一層際立てた。
 愛されて、いない。
 意味を考えずとも解るその明解な一言の残酷なこと。
 家族とは何処か距離がある。折り合いが悪い。姉たちの方が可愛がられている。これまでそんな曖昧な言葉で表現することで、無意識に目を背けようとしていた真実、それこそがその言葉そのものだ。
『家族に愛されない分を他で補おうなんて浅はかだよ』
『ジュジュ!メボンゴはそんなこと思ってないよ!』
 目の前のメボンゴの言葉に重ねる様に、頭の奥でメボンゴの声がする。だが、それを否定するのもまたメボンゴだ。
『嘘だよ。ずっと思ってたよ。ジュジュが勝手にメボンゴに自分の都合の良いことばっかり喋らせてるだけで』
『聞かないで、ジュジュ!』
『そうやってずっと目を逸らすの? 自分が欲しい言葉を自分でかけるだけの独りよがりなお人形遊びなんてしてて楽しい?』
 心の拠り所、或いはジュジュの在り方そのものを否定するかの様に目の前のメボンゴが嘲笑う。
『ジュジュ!幻だよ!ジュジュのメボンゴはそいつじゃないよ!メボンゴはここにいるよ!』
 その言葉に、ジュジュはこの幻を見る前からずっと腕の中に抱きしめたままでいた本当のメボンゴの存在を思い出す。その定かな感触を指の中に確かめた刹那、まやかしの人形工房の風景に罅が走った。崩れ落ちる様に消えた景色の代わりに目の前にあるのは慎ましく咲く白薔薇だ。
『おかえり、ジュジュ』
 本物のメボンゴの声は少し涙声に聞こえた様な気がした。ジュジュの声は、と言うのが正しいか。メボンゴは此処に居る。あの日、あの幻の様にジュジュを拒むことはなく、今、この場所に居てくれる。その事実が齎す安堵は救いにも似た。
 故に、ジュジュは真っ直ぐに顔を上げ、夜の花園を歩き出す。
「行こう、メボンゴ。この世界を助けなきゃ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

琴平・琴子
花は好き
上手く育てられなかったけど漸く咲かせる事ができるようになった
ハーブすら枯らしていた私を見て困った顔をしていた貴方と笑っていた貴女はどう思うかしら
ねえ、|王子様《貴方》、|お姫様《貴女》

入院していた病院の一室という白い箱庭の中で勉強を教えてくれた王子様——眩かった、暗い院内教室が明るく見える程に優しく朗らかで
それに寄ただり添い笑っていたお姫様——ああお姫様、引っ張らないで
お勉強の後に遊んであげるから

王子様と、私と、お姫様でお花畑で寝転んで笑って――

笑っていたのに
どうして?
どうして貴方も貴女も
王子様とお姫様に憧れた愚かな子供と蔑むの?

小さな体でそんなものになれやしない
女なのだから王子様になれるわけがない
可愛げのない子にお姫様なんてできない
否定しないで
嫌わないで
置いていかないで!

からんと鳴ったのは手元の輝石ランプの中の輝石

そう、ですよね
王子様もお姫様もそんなこと言う筈がない
思う筈がない
何時だって貴方達は微笑むだけ
話なんて聞いちゃいない

それでもいいの
また貴方達と会う為に

私は歩み続けるの



●むかしむかしあるところに
 夜気が連れて来る香りは何の花だろう。沈丁花に金木犀、ジャスミン、蝋梅、調香師の仕事部屋もかくやと言う程に、門を潜る前から香る程、この花園には種々の香気が満ちている。その持ち主たる花の姿をよく思い浮かべることが出来る程度に、琴平・琴子
(まえむきのあし・f27172)は花が好きだ。どの花をどう植えて、どう世話をしてやれば良いかもよくよく知っているし、今や植物の声さえ聴ける。過去に多くの花を見て来た。育てようとして、そして、枯らした。漸く綺麗に咲かせるようになったのはどちらかと言えばこの最近のことである。昔は繊細な花々はおろか、手のかからない筈のハーブすらも枯らしてしまっていたものだ。枯れたミントの植木鉢を手にした琴子を見つめて困った顔をしていた彼といつもの通りに笑っていた彼女とは、今の琴子を見たならどう思うだろうか。
 ――ねえ、|王子様《貴方》、|お姫様《貴女》。
 庭の一角に敷き詰められる様に植えられた白いマーガレットの花を見て、思わず心の内に呼びかけた琴子の言葉に呼応する様に、その幻影は訪れた。
 夜の花園と打って変わって、淡く陽の差し込む白い部屋だ。清潔な白いベッドに白いカーテン、壁も、リノリウムの床も皆白い。琴子はベッドの上で体を起こし、目の前に据えた可動式のテーブルには計算のドリルが開かれていた。その傍らで鉛筆を握る自分の手は、今よりも小さい。ベッドの傍らに置いた靴は琴子のお気に入りのパンプスではなくて、ここでの為に用意した室内履きだと、視界に映らずとも解る。
 幾つの時のことであったか。ここは琴子が入院していた病院の一室だ。清潔でどこか薬品臭く思える冷えた空気、夜中には酷くよく響く気がするサイドボードの時計の秒針の音、広く透明なくせをして外界との隔たりを突き付けてくる窓も、よく、覚えている。
 ベッドの傍らに腰かけて居た金髪の青年、王子様が、琴子の書いた答えに赤いペンで丸をつけ、微笑んで頷いた。常緑の樹の葉の様な深い緑の瞳はいつも通りに何処までも優しい。
 影の様に彼の後ろに寄り添う少女――お姫様は目元をリボンで覆いながらも、その口元だけで解る程にご機嫌な笑顔だ。ご機嫌なまま、彼女は王子様の傍らを離れて宙を滑る様に琴子に近寄り、腕を引く。言葉はなくとも、小さな子どもが遊ぼうとねだる様なその素振りに、彼女の言わんとすることは琴子にも理解が出来た。
「ああ、お姫様、引っ張らないで? お勉強の後に遊んであげるから――」
 お姫様を拗ねさせぬよう琴子はそう告げた。王子様がお姫様の髪を撫でて宥める内に、残りの問題に取り掛かる。次の頁で今日は終わりだ。とは言え、琴子が計算をする間にも、お姫様からのちょっかいが止むことは無いのだけれども。
 琴子は二人のことが好きだった。ともすれば箱庭のような病室で完結してしまう味気なく単調な日々を、王子様の優しさとお姫様の無邪気さにいつも救われていたのだと思う。王子様の優しさがなければ琴子は勉強なんて嫌いになっていたかもしれないし、お姫様が誘い出してくれなければ、病室の窓からは決して見えない病院の裏庭の花畑になんて、いつとも知れぬ退院の日まで足を運ぶことはなかったかもしれない。
 約束通りに今日の課題を終えた後、三人で訪れた花畑には、白いマーガレットが咲いていた。瑞々しい花々の中で寝転んで浴びる陽は、病室の白いばかりのレースのカーテンに濾されたそれと同じものとは思えぬほどに暖かかったことを覚えている。
「私、二人みたいな王子様とお姫様になりたい」
 三人で笑い合いながら、脈絡もなく琴子が告げたそんな言葉にも、お姫様と王子様は微笑んで頷いてくれると知っている。
 事実はそうであったとも、知っている。
『そんな小さな体でそんなの無理よ』
 嘲る様なその言葉を耳にして、琴子には、それが誰の声だか解らなかった。だが、くすくすと笑い続けるお姫様を見て、理解する。彼女の声などこれまでに聴いたこともなかったものを。
『そもそも女の子が王子様になれる訳がないよ。そんなことも解らないの?』
 お姫様の傍らでそう告げた王子様は憫笑混じりだ。
『でも、だからってお姫様だって無理よ。可愛げのない女の子にお姫様なんてできないわ』
 笑顔がどうしてこうまで酷薄になれるのだろう。言い募るお姫様の言葉は鋭い刃の様に琴子の胸を貫いた。鋭い刃同様に、少し遅れた痛みを伴って。
 どうして? 女の子なら誰だってお姫様になれると思っていた。
 男の子じゃなくたって、誰かの為の王子様になれるものだと思っていた。
『憧れるだけ無駄よ。貴女なんて絶対に私たちみたいになれっこないわ』
『君に勉強を教えて来たのも無駄だったかな。こんなに愚かだと思わなかった』
 笑い合う二人の仲の睦まじさはいつも通りなのに、そこに琴子が加わることは決して許されない。見えぬ壁と言う以上の拒絶を感じ、白い花の上で思わず跳ね起きた琴子の傍で、二人も身を起こしていた。
『こんな子はもう友だちじゃないわ』
『そうだね。あっちに行こう』
 立ち上がって踵を返す王子様と、その背に寄り添うお姫様。
「待って、嫌わないで!置いていかないで!」
『大嫌いよ。顔も見たくないもの。何を言っても無駄よ。追って来ないで』
 悲痛に叫んだ琴子の言葉に、少し振り向いたお姫様が冷たく吐き捨てた。それを見つめる琴子の視界が滲む。喉につかえた声が言葉にならず、為すすべもなく二人の背へと伸ばす琴子の手元で、――からん、と何かが音を立てた。
 音の主は小さな輝石。琴子が手にしていた輝石ランプの核のその石は、偽りの陽射しの下で尚負けず煌めいている。その導きの光が照らすものは夜闇だけではないと言わんばかりに。
「……そう、ですよね」
 噛みしめる様に、自らに言って聞かせる様に琴子は唇を開く。
「王子様もお姫様もそんなこと言う筈がない。思う筈がない」
 だって彼らはいつも微笑むだけだ。琴子の言葉なんて聞いていない。琴子が何を思い、願って、剰えそれを口にしてみたところで、彼らの関心はそこにない。それでも琴子は彼らのことが好きだ。いつも朗らかで優しい王子様。よく拗ねてよく笑うお姫様。もしかしたら琴子だって、彼らが琴子の心の内に興味がないのと同様に――……
 手にした輝石ランプの灯が、黒いパンプスの足元で揺れるマーガレットを照らしていた。現実に帰って来たのだと理解すると同時に、琴子は小さく息を吐く。そうして、間を置かず歩き出す。石畳に、軽快な足音がよく響く。
 お気に入りのこの靴の名前は『歩行証明』。
大好きなお姫様と王子様にもう一度会う為に、琴子は歩み続けなくてはならぬのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
花は好きだけど
こういう形で利用されるのは、ちょっと不愉快かな

恋人と
友人と
家族と過ごすかけがえのない日常
いや…同居人だし全員家族みたいなものか

皆で海に行って花火をしたのは楽しかった
姉さんが選ぶ水着はいつも女の子みたいで恥ずかしいけど…
褒めてもらえるのは、嫌な気はしないんだよね

飲み物奢ってもらったり
皆で写真撮ろうとした瞬間に一人がねずみ花火暴発させてびっくりしたり
凄く…楽しかったから
滅茶苦茶にされたら悲しい…以上に腹が立つというか

どんな改変にも絶対に負けない
だって僕は、皆を…恋人を信じてる
左手の薬指に嵌められた小さな指輪にそっと触れ
指定UC発動
【浄化】で侵食を祓う事が出来たら

決めたんだ
強くなるって



●その花言葉にたがわずに
 百花繚乱の言葉を以て尚足りぬほどの花園にありながら、あたたかな夕陽の色をしたその花に栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の琥珀の瞳が吸い寄せられたのはある意味では必然である。白い石畳の道の傍らの花壇にて夜風にそよぐ金蓮花は、澪の絹糸の髪の先に咲くそれと同じものだった。
 花は、好きだ。生来の己が身の彩として授かった花であるならば尚のこと、思い入れもひとしおだ。それがこうして得体の知れぬ力の媒介に利用されているのは澪にとっては不愉快としか言いようがない。花そのものに何ら罪が無ければ尚更だ。何を思ってか思わずか、何の気もなく伸ばした指先が橙の花弁に触れるか触れぬかで、夜の庭園が陽炎の様に溶け消えた。
「あら、やっぱりよく似合うわよぉ」
 いかにもな喜色を隠し切れないで、おっとりした声がそう告げた。ハッとした澪の目の前に義理の姉が嫋やかに微笑んでいる。向こうの方で、波打ち際で、先に着替えを済ませた友人たちが、楽しげな声をあげていた。
 自分は何をぼんやりしていたのだろう? 澪が思わずそんなことを考えてしまう程、まるで先までの夜の花園こそが夢幻ででもあったかの様に、この幻はうつつそのものよりも鮮明だ。
「ありがとう。でも、ちょっと女の子みたいじゃないかな……?」
 自らの装いを見下ろして、澪は僅かに頬を染める。白いフリルをあしらったツーピースに、バックに襞の豊かなトレーンまでも備えた水着は控えめに言って男らしいとは言い難い。寧ろ、年若い少女にしたって着る者を選ぶであろうそんな類の可憐なデザインだ。姉がいつも澪に選んでくれる水着のご多分に漏れず。
「そぉ? 折角可愛いんだから、可愛いものを着なくっちゃ」
「……うん、ありがとう」
 にこにこと何の衒いもなく告げられた言葉がくすぐったくて僅かに俯くと、ポニーテールにした琥珀色の髪先がさらりと澪の頬を撫でた。先刻、姉に結んで貰ったのだったか。大振りなリボンもやはり女の子らしくて辞退しようとしたと言うのに――それでも、一抹の気恥ずかしさもありながらも手放しに褒められるのは決して悪い気がしなかった。
「さぁ、私たちも遊びましょう」
「うん!」
 細い指先に手を引かれながらからりと乾いた潮風の中を小走りに、浅瀬で水を掛け合ってはしゃぐ友人らの元へと急ぐ。友人、否、共に暮らしているのだからいっそ家族と呼ぶべきか。共に何の変哲もない食卓を囲むだけでも笑顔の尽きぬ仲なのだ。夏を満喫するとでも言わんばかりに海で泳いで、じゃれ合って、楽しくなかろう筈も無い。折角姉に整えて貰った澪の髪がすぐに台無しになってしまったことも、ビーチボールが沖合に流されそうになって皆で慌てたことも、喉を潤す為に浜辺で奢って貰った果汁のジュースの美味しさも、追体験して尚感慨を抱く程、澪にとっては佳き想い出の一つである。
 それが崩れたのは突然だ。砂浜で皆で写真を撮る筈だった。その時に誰かが爆発させたねずみ花火に驚いた、後にはそんな他愛ない笑い話になる筈の一幕で、爆ぜたのは花火なんかではなかったらしい。何が起きたのか解らなかった。頬を濡らした血潮を、目の前で千切れ飛んだ誰かの手足を、耳をつんざくような悲鳴と苦悶の声を、澪はどう受け止めて良いのか解らない。辛うじて無傷だったらしい姉が、視線を遮る様に澪を抱きすくめたが後の祭りだ。砂浜を赤く染めた血だの、散らばる人体の欠片だの、既に澪は瞳に映した後である。
 誰かのすすり泣く声を聴きながら澪はこの現実を――現実? 否。幻だ。あんなにも楽しかった思い出をこうも穢されてなるものか。奥歯を噛み締めながら、澪は左手薬指の指輪に触れた。刹那、辺りを満たすのは浄化の光。血腥い空気を祓い、偽りの追憶をかき消して、澪を夜の庭に連れ戻す。
 俯いて小さく息を吐いた澪の視線を、澄ました顔で咲き誇る金蓮花が受け止めた。その色が心なしか先よりも朱をさした様に赤いのは気のせいか、気の惑いか。
 ――強くなると決めたのだ。
 澪は気を強く保つ様に頭を振って、視線を切った。美しくも悪意に満ちた花々を背に、己の花の色だけを携えて次なる戦いの場へと歩み出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゾーヤ・ヴィルコラカ
 ……こんな世界で、ほんの些細な心の拠り所さえ奪われるなんて、考えただけでもぞっとするわね。わたしならきっと大丈夫、先へ進むためにもここを乗り越えなくちゃ。

 庭園に踏み入ったわたしの頭の中には猟兵になる前の思い出。村の教会、優しい神父様、無邪気な子供達、両親を知らないわたしに優しくしてくれたみんな。子供たちはみんなわたしをお姉ちゃんって呼んで、神父様からは歌が上手って褒められたっけ。

 記憶が燃え上がって灰になってしまうような感覚……いつのまにか皆の表情も曇り始めて、わたしを責め始めているわ。

 思わず耳を塞ぎたくなる。震えながら口ずさむのは【生命の歌】。優しさを忘れず苦難に立ち向かえば、どんなに小さくても幸せと希望は得られる。この歌を教えてくれた神父様は言ってたわ。

 あの頃には戻れない、みんなあの場所にはもう居ない。でも、小さな幸せを大切に抱きしめて、前に進むことはできるの。大丈夫、わたしは負けない。残酷さと悲しさになんて、負けていられないわ!

(WIZで挑戦、アドリブ等々大歓迎です)



●小さな希望と幸せを
 生きるも地獄、死ぬのも地獄。ダークセイヴァーに生まれ育ったゾーヤ・ヴィルコラカ
(氷華纏いし人狼聖者・f29247)はこの常闇の世界のそんな理を肌身に染みて知っている。
 この世界では、弱きものとして虐げられるばかりの人類は豊かさとかけ離れた生活を強いられて、慎ましい日々を健気に生きたところで時に理不尽に命さえも奪われる。いかな教義が説く救いも死後の楽園もそこになく、魂人に生まれ変わって死後までも虐げられるだけであるという宿命を、猟兵たちも、ゾーヤも既に知ってしまった。今にも未来にも救いの見えぬこんな世で、人々がほんの僅かにでも拠り所がするものがあるとするならば過ぎ去りし平穏な日の想い出だろう。それすら穢され、奪われるとしたら何と悍ましい話であろう。そこまで考え、怖気づきそうになる自身に気付いて、ゾーヤは無理矢理思考を切り替える。
 ――わたしならきっと大丈夫。
 弱気を叱咤する様に、ゾーヤは心の中で己へと言って聞かせる。仮にもダークセイヴァーの世で生き抜いて来た身だ。今更多少のことには、それも幻ごときには負けるつもりなどありはせぬ。
 その気概の甲斐あってか、花咲き乱れる庭園へと歩むゾーヤの前に幻はなかなか現れない。何の罠かと身構えながら、彼女の視界が揺れたのは或る白い花を見た刹那。
 スノードロップ。四季を持たず、万年雪に鎖されたゾーヤの故郷にも咲く花だ。
「おねーちゃん、これあげる!」
 そう言って小さなその花の花束をゾーヤに差し出してくれたのは、教会にいた子どもたちの中で二番目に年少の女の子だった。彼女を取り囲むようにして他の子どもたちがにこにこと、ゾーヤの反応を見守っている。
「みんなで摘んできたの!」
「きれいでしょ?」
「いつもいっぱい遊んでくれるお礼!」
 長さの不揃いなスノードロップの花束はお世辞にもよく出来たものとは言い難い。花を束ねている擦り切れたリボンは、花束を渡してくれた彼女が一昨年の誕生日に貰ったプレゼントにかけられていたものである。村人の厚意や寄付から賄って、受け取った時から既に新品ではなかったそれを彼女がどれだけ大切にしていたか、傍で見て居たゾーヤは知っている。スノードロップの群生地が、子どもの足では随分と遠い場所にあることと共に。
 だからこの不格好な花束が、どれだけ価値のあるものであるのかも。
「ありがとう。大切に飾るね。枯れてもドライフラワーにしちゃうんだから!」
 きゃっきゃとはしゃぐ声に包まれて花束を受け取りながら、ゾーヤは胸の奥と目頭とが温かくなる感覚を覚えていた。
 両親の顔を知らぬゾーヤがこの教会の神父に引き取られてからこの方、神父は勿論のこと、先にこの場にいた子どもたちもまたゾーヤに優しくしてくれた。年で言うならゾーヤの方が上であり、お姉ちゃんと呼ばれる立場ではある。しかし子どもというものは得てして人の心の機微に敏感だ。最年長として、家事や子守りと言った形で少しでも神父や彼らの役に立とうと努めたゾーヤの努力や気負いをきっと見透かしていたのであろう。子どもながらに折に触れてはこうして報いてくれようとした彼らの気遣いはいつもゾーヤの心に染みるものだった。親を持たない、或いは親の顔さえ知らないことはゾーヤのみならず教会の子どもたちとて同じであるにも関わらず、神父の教育と人柄ゆえにか他人のことをも慮れる彼らのことがゾーヤは好きだった。それを感じ取った子どもらが一層彼女に懐くのも必然と言えば必然だ。神父もそんな彼女の振る舞いを見て、ゾーヤにひと際心を傾け見守ってくれていた様にも思われる。
「良かったですね、ゾーヤ。さぁ、皆で晩餐の準備をしましょう」
 造りが荒くてガタつく粗末な食卓に並ぶ皿の数が少なかろうと、その皿の大部分が余白だろうと、皆で囲む晩餐はいつも満ち足りたものだった。今日の糧への感謝の祈りを捧げて皆で同じ食事を摂って、食事と後片付けとを共に終えた後には、ゾーヤは子どもたちにせがまれて歌を歌ったり、本を読み聞かせたりするのが日課であった。中でもゾーヤが神父に教えてもらった『生命の歌』は子どもたちも気に入りで、今日も晩餐の後に歌って欲しいとせがまれる。
 慎ましくも賑やかな晩餐の場が翳るのは、果たしてどの瞬間であったか。目の前の光景は何も変わらぬと言うのに、記憶が燃え上がり灰になるかの様なゾーヤのその感覚は、たとえば古い写真を端から炎が舐める様にも似た。そうして炎が舐めた端から全てが褪せて黒く染まって、それは例えば今目の前の子どもたちの表情が曇り、沈んで、責める様な幼い無数の双眸がゾーヤに注がれている様然り。
 いつの間にか実際に、随所に炎が揺れていた。ごうごうと激しさを増して燃え上がり、熱気がゾーヤの白い肌を撫で、なぶる様に髪を躍らせる。
「どうして助けてくれなかったの?」
 詰る様な幼い声音がいつ何どきのことを指しているのか、痛いくらいによく解る。
 領主によってゾーヤの故郷が滅ぼされた時、この教会もまた喪われた。まるでその再現ででもあるかの様に、炎に巻かれながら、子どもたちの身が焦げる。それをも意に介さぬ様に、黒い眼窩がゾーヤを真っ直ぐ向いている。
「お姉ちゃんなら助けてくれると思ったのに」
「どうしてお姉ちゃんだけ大人になっているの? わたしたちはなれなかった」
 助けられるものならば助けたかった。共に大人になりたかった。だが、今の様に戦う力はおろか癒す力すら持ち得なかった当時のゾーヤに何が出来たと言うのだろうか。
「皆信じてたのに、うらぎりもの」
 耳を塞ぎたい心地がする。あの子どもたちは今際のきわにもしかして、本当にゾーヤのことを斯くも恨んで居たのだろうか? だが、それが真であろうと異なろうと、もはや確かめる術はない。
 確たる事実として、あの子たちにはもう会えない。仮にゾーヤが故郷のあった地に戻れども、誰一人としてそこには居ない。彼らが健やかに成人をしてあの教会を巣立つのを、神父同様にゾーヤだって心の底から願って居たと言うのに。嗚呼、だが、その神父とてもう居ない。
「――……♪」
 ゾーヤは震える唇で生命の歌を口ずさむ。神父にも褒められたゾーヤの歌声はか細く震えるものであってもよく通る。
 苦しみも悲しみも、いつか必ず癒される。優しさを忘れることなく苦難に立ち向かうならば、どんなに小さくとも幸せと希望に必ず手が届く。たとえ吹けば飛ぶ様に小さな小さなものであっても、それを大切に抱きしめて前に進むことは叶うのだ。神父が教えてくれたそんな歌を、ゾーヤは無心で紡ぎ続ける。
 幼い声がゾーヤのことを咎め続ける。炎が爆ぜて柱が傾ぎ、釣られる様に天井が嫌な音を立てて撓む。その狂騒をものともせずに、ただただゾーヤは歌い続けた。絶対に負けない。この世界がどれほど残酷で悲しいものであろうとも、全てを喪い、また手に入れた希望を今度こそ手放さない。炎がゾーヤの肌をも焦がす。その熱はもはや耐えがたく、やがて燃え落ちて来た天井に目を閉じようとした途端、目の前にあるのは夜露を纏ったスノードロップの花畑。
「――♪」
 宛ら己の寝言で眠りを破られた、そんな心地と言えば近いか。我知らず歌い続けていた自分の歌声にハッとして、思わずゾーヤは口元を覆う。そうして徐に下ろしたその手を胸元で組んで小さく祈りを捧いだ。あの日受け取ったものと同じ姿かたちのスノードロップの花々は何を答えることもない。
 やがてゾーヤが立ち去った後の花園で、雪を待つ花はただ清かな月の光を浴びて咲っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月14日


挿絵イラスト