闇の救済者戦争⑨〜嗚呼美しき|最終章《フィナーレ》
●|最終章《フィナーレ》は高らかに
そこには何もない。
ただただ美しい花園が広がり、優しいそよ風が肌を撫で、眩しい太陽が青空に浮かぶ。
よく見れば、誰かが花園の中で微笑んでいる。
それは家族であったり、友人であったり――愛する人であったり。
そう、長い長い戦いの間、待っていたのだ。貴方の帰りを。貴方がここへ辿り着くのを。
『おかえり』という言葉を伝えるためだけに、笑顔で待っていたのだ。
嗚呼、思えばここを目指していたような気がする。
もう何も考えなくていいのかもしれない。辛い想いなどしなくていいのかもしれない。
ここが終点なのだとすれば、もう戦う理由など、どこにもない。
――物語の最後くらい、主人公が幸せを覚えてもいいだろう?
私はね、ハッピーエンドが好きなんだ。
勇ましき猟兵たちよ。貴方たちの人生を讃えるため、私が最高の|最終章《おわり》を綴ろう。
貴方の人生は、素晴らしかったのだと。
●花園は戦火に歪む
「どこの世界にも、大胆なこと考える奴がいるものだね」
嫌だねぇ、とディルティーノ・ラヴィヴィス(黄昏の獅子・f38911)が首を傾ける。突如始まったダークセイヴァーの戦争に、グリモアベースでは猟兵たちが慌ただしくしている様子が見受けられることだろう。
『闇の救済者戦争』。第三層以下をオブリビオン諸共滅ぼさんとする計画の阻止に、猟兵たちは挑むこととなる。
「さて、早速だけど僕が見た戦場の説明をするね。でもその前に一つ質問させて」
ディルティーノが猟兵たちに人差し指を立てる。
「キミたちに大事な人はいるかな?」
唐突な問い掛け。|彼《彼女》はにやりと笑う。
「ま、いようがいまいが関係ない。キミたちが向かう先は『楽園』と呼ばれる場所さ」
そこは闇に塗れたダークセイヴァーとは到底思えない、光に満ちた花園。きっと足を踏み入れた時、こう思うだろう。『天国とはきっとこういう場所なのだろう』と。
「その花園には待ち人がいる。『キミの大事な人』だ」
その人は言うだろう。待っていた、と。彼らは猟兵たちの手を引き微笑むことだろう。
「……足を踏み入れて引き込まれた瞬間、こう思うかもしれない。『ここが目指していた場所だ』ってね」
決してそのような記憶がなくとも誰しもがそう思い込んでしまい、楽園に居座ろうとしてしまうだろう。大事な人の傍に居られる温かさを覚えてしまうかもしれない。
「……そう、勿論ぜんぶ嘘。楽園に見える場所は呪いの戦場。大切な人は所詮幻。それも『現実改変ユーベルコード』の力を持つオブリビオンの仕業だ。幻想に飲まれた瞬間、楽園は姿を変えて呪い殺してくるだろうね」
そのオブリビオンは『魂の改竄師』。彼は作家であり、魂を弄ぶ者だ。偽りの『楽園』を創り上げ、猟兵を安らかに殲滅せんと目論んでいるのだろう。
そんな偽りの楽園の|誘い《洗脳》からいち早く抜け出し、オブリビオンを討伐することが今回の目標だ。
「死のハッピーエンドなんて誰かがわざわざ用意するものじゃない。そう思うでしょ?」
面白くない、とディルティーノは笑ってやった。
「最終地点はここじゃない。最高のフィナーレとは何か、キミたちが教えてやってよ」
そう伝えると、|彼《彼女》はグリモアを輝かせた。
ののん
お世話になります、ののんです。
メリバは好きです。
●状況
ダークセイヴァー『闇の救済者戦争』の戦争シナリオとなります。
1章で完結します。
●戦場について
美しい花園が広がっており、そこには『大切な人』がいることでしょう。
それは誰でも構いません。会話をしても構いません。
しかしそれらは全て偽りです。どうにかして『現実の自分自身』、すなわち猟兵としてやるべきことを思い出して下さい。
幻想を振り切ればオブリビオンは自ずと姿を現すでしょう。
プレイングボーナスは以下の通りです。
====================
プレイングボーナス……「現実改変ユーベルコード」に対処する。
====================
●プレイングについて
受付はいつでも。『#プレイング受付中』のタグがある間だと採用率は高めです。
キャラ口調ですとリプレイに反映しやすいです。
お友達とご一緒する方はIDを含めた名前の記載、または【(グループ名)】をお願い致します。
同時に投稿して頂けると大変助かります。
以上、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 ボス戦
『『魂の改竄師』ソウルメーカー』
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POW : 人生の改竄師
【改竄した魂人の苦痛に満ちた人生を記した紙】を放ち、命中した敵を【魂人の苦しみに満ちた記憶】に包み継続ダメージを与える。自身が【自身の魂の情報を改竄】していると威力アップ。
SPD : ペンは剣よりも強し
【ペン】で触れた敵に、【魂破壊】による内部破壊ダメージを与える。
WIZ : 燃ゆる魂の終わり
【魂人の人生を記した紙を燃やし生まれる白炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【人の一生を種火に燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
イラスト:イツクシ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ビードット・ワイワイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
息を飲む美しさとは、きっとこういう場所のことを言うのだろう。
あの暗く廃れた世界が夢であったかのように錯覚してしまう。
そこは危機迫る中であることを思わず忘れるほどの、美しい花園だったのだ。
本当に何もない、花が揺れるだけの優しい静けさ。
そこで待っていたのは、記憶に焼き付いた|あの人《・・・》の姿――。
迎・青
(アドリブ歓迎)
…大事なひとは、いる
ずっと探してる、ボクのおねーちゃん
(対の品として作られた首飾り。ヤドリガミとしての面識はない)
(青とよく似た外見の少女が、紫色の宝石の首飾りが入った宝石箱を差し出し
青の首飾り(本体)も一緒に箱にしまって、この楽園に埋めて
ヤドリガミとしての命も心も捨てて、ただの宝石に戻ろうと誘う)
…キレイなところ、きっともうコワくないし、さびしくない
だけどボクは、おねーちゃんと、いろんな所に行きたい
いろんなものを見たい
だからおねーちゃんが、ボクといっしょにいこう
(紫色の首飾りを箱から掴み取り、現れた敵には全力の【L.L.L.】を撃ち込む)
(戦闘後、首飾りは手元から消えている)
「あう……」
本当にダークセイヴァーなのだろうか。そう疑ってしまうのも仕方のないことだろう。それだけ眩しい場所だったのだ。
「す、スゴいや……本当にキレイなところ……」
思わず驚いてしまったが、すぐにその心は落ち着いた。迎・青(アオイトリ・f01507)はきょろきょろと辺りを見渡しながら美しい花園に足を踏み入れる。瞬間、ふわりと心地良い香りが全身を包み込む感覚に陥った。
「……?」
天から差す光が花たちに元気を与えていた。そしてその中に誰かがいることに気付く。
――自分とよく似た姿をした少女だ。
少女は青に気付き振り向く。わぁ、と無邪気な笑顔を見せると、嬉しそうに駆け寄ってきた。青にとって正直見覚えはない。なのに、彼女が誰なのか不思議と認識できた。
「……おねーちゃん?」
ぽつりと零れたその言葉に、少女は頷く。あぁ、やっぱりそうだったんだ。あの人はずっとずっと探していた、もう一人の|姉弟《片割れ》。
「えっと……初めまして? それとも、おひさしぶり……かな?」
どちらが正しいのか悩みながら話し掛ければ、どっちも、と姉は笑う。青もそれにつられてへにゃりと笑い返す。
「え、えへ……会えて、うれしい」
首に下げた首飾りをぎゅっと握る。青い宝石が埋め込まれた鳥の首飾り。それが彼の本体だ。そして姉もまた、自らの本体である紫色の宝石が埋め込まれた鳥の首飾りを、ぎゅっと両手で包み込んだ。
あのね、プレゼントがあるの。
そう語り掛けながら姉が差し出したのはきらきら輝く宝石箱。その中にあったのは、二羽の鳥が仲睦まじく向かい合えるように作られた二つの窪み。姉は自らの首飾りを取り、片側に埋め込む。
「わ、もしかして、ボクとおねーちゃんの……?」
そう! と姉は頷きながら青の頭を撫でる。これからはずっと一緒だよ、と。
「ほんと? ずっといっしょ?」
そう、この綺麗な場所で一緒に眠ろう。ヤドリガミとしての命も心も捨てて、ただの宝石に戻ろう。そうすれば、もう怖い思いなんてしなくていいのだから。――ね?
「……」
確かに本来の姿に戻れば、何も恐れることなどないのだろう。青はもう一度花園を見渡し、姉に言葉を返す。
「うん……ここはキレイなところ。きっともうコワくないし、さびしくない」
だけどね、と申し訳なさそうに相手の顔を見上げる。
「ボクは、おねーちゃんと、いろんな所に行きたい。いろんなものを見たい。今は、そういうきもちでいっぱいなの」
まだ一緒にお昼寝をするには早いと。その気持ちが勝ってしまって。
「だからおねーちゃんが、ボクといっしょにいこう」
衝動的に腕が伸び、箱の中から首飾りを握り締める。直後、美しかったはずの周囲の空間が歪む。
「ひゃあっ!?」
驚いた青は咄嗟にユーベルコードを発動する。青い光の矢が金色を纏い、流れ星の如く周囲を飛翔する。姉を庇うように座り込む青には誰も近寄ることはできない。『魂の改竄師』は手傷を負い、『悠久の眠り』の|物語《ページ》は燃え尽きてしまった。
青がその手の中から紫色の首飾りが消えていたことに気付くのは、もう少し時間が経ってからであろう。
大成功
🔵🔵🔵
有栖川・夏介
大事な人:幼い夏介に優しく接してくれた女性。家族に愛されず育った夏介にとって姉のような存在。
罪人として処刑されたが、そのような人物ではない。
咲く花は美しく、まるで貴女のよう。
かつての私に優しくしてくれた唯一の人。
全てを笑って許してくれる、泣きたくなるほど優しい人。
……あいたかったんだろうか、私は、貴女に。
いや、そんな資格なんてない。貴女はもういない。
だって、俺が|処刑《ころ》したんだから。
惑わされてはいけない。これは夢……悪夢だ。早く醒めなければ。
UCを発動。
彼女ごと空間を破壊します。
……こんな時にまで、貴女はあの時のまま優しく笑うのですね。
……本当に悪夢だ。
風に揺れる花の音がさらさらと聞こえる。それだけでこの空間が何もない『平和』であることを感じられる。
花園を進む有栖川・夏介(白兎の夢はみない・f06470)。彼が足をやっと止めたのは、陽の当たる場所に座る憧れの人を目にしてからだった。
そうか、貴女か、と。まるでここに居るのを最初から知っていたかのような感覚。
「……――」
そっと腕だけを伸ばすも掛ける言葉は見つからない。喉が開かず口だけが開く。女性は彼に気付くと、はにかんだ笑顔を見せながらそっと立ち上がる。
仕方ないわね、と言いたげなその表情。姉が弟を見るような目。咲き誇る花々に包まれ、差し込む光に照らされた彼女は、まるで天使のようで。
おかりなさいと、まるで家へと迎えるように彼女は声を掛けた。
愛情を知らない自分にそれを教えてくれた人物。幼い頃から優しさを与えてくれた唯一の存在。
夏介は彼女の姿を改めて眺める。……間違いない、確かにあの人だ。だけどこんなに小さかっただろうか。いや違う。自分が彼女より大きくなったのだ。
彼女は夏介の成長をとても喜んだ。それでも変わらない所はあるのね、と、彼の跳ねた髪の毛を撫でて直してあげた。
――そうだった。貴女はいつもそうやって優しくしてくれていた。
ふと蘇る記憶。胸の辺りからじんわりと感じる何か。こんな感触を感じたのはいつ振りだろう。
(「……会いたかったんだろうか、私は、貴女に」)
今でも貴女は、そうやって私を許してくれるのだろうか?
違う。そんな資格なんてない。だって貴女は|もういない《・・・・・》。
許してくれるはずだってない。だって、俺が|処刑《ころ》したんだから。
もうあの温かさを感じることはできない。あの優しい感触を感じることはできない。それが自らの罪であると、彼は思い出した。
胸の辺りからぎゅう、と感じる痛み。気持ち悪さ、吐き気。……『悪夢』を見た時と同じ感覚だ。
早く、早く醒めなければ。数々の赤色を吸った剣が、ほろほろと崩れる。色を失い、白くなった花びらのように。
この花園は白色の花が多すぎる。嗚呼、染めなければ。急いで染めなければ。
「――紅く染めよ、と女王が言った」
女王の仰せのままに。罪人は花びらを操り花園を刈る。斬られた花からは何故か紅色の液が染み出る。花園はあっという間に美しい薔薇園へと姿を変貌した。
脚本と違うと怒り狂う『魂の改竄師』。しかし彼の描いた『愛の介抱』の|物語《ページ》は、赤色のインクに染められてしまった。
「……こんな時にまで、貴女はあの時のまま優しく笑うのですね」
薔薇園に横たわる『何か』が、弱々しく震えた腕で彼の頬を撫でる。
本当に悪夢だ、と処刑人は呟いた。
大成功
🔵🔵🔵
堺・晃
大切な人…僕の、母親
僕を愛し続けてくれた人
守りたくて、助けたくて
僕が父を殺す、きっかけになった人
会いたかった
会ってはいけないと思っていた
酷い男とはいえ、彼女の愛した男を奪ったのだから
手を引かれる心地よさに身を委ねてしまいたくなる
あぁ…でも
ダメなんだ
やっぱり僕はまだ彼女には会えない
僕はまだ、罪を償っていないから
貴方の手まで穢してしまう
だから
ごめんね、母さん
僕はまだ帰らない
その時が来たら自分から会いに行くよ
だから今は、さよならだ
その手をそっと振り払う
幻相手でも強く出れないのは、未練ゆえか
それでも
あぁ…ムカつくな
【操り鏡の生き人形】発動
操作した人形を攻撃への盾にして
同時に龍狼剣の【なぎ払い】で攻撃を
「……あぁ」
堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)は自然と声を漏らした。それは視界に広がった花園があまりにも幻想的であったから、ではない。その花園に一人の女性の姿を見つけたからだ。
記憶に焼き付いているその後ろ姿を間違えるはずがない。あれは間違いなく、母だ。
「……母さん」
晃は静かに彼女を呼んでみる。振り向いて見えたその顔は、あまりにも懐かしい。
母と呼ばれた女性は優しい笑顔を見せ、我が子の元へ歩み寄る。久しぶりねと一声掛けてからは、元気にしているのか、病気はしていないのかなど、息子を心配する問い掛けをいくつもしてみせた。質問の度に晃は頷く。
「……会いたかった」
本当は会ってはいけないのだとずっと思ってきた。だけどこれは、間違いなく本心から出た言葉。
(「……だって」)
今でも鮮明に覚えている。あの時起きてしまった、人生の分岐とも言える出来事。
そう、貴方は最愛の人でもあり、自分が|今《・》に至るきっかけとなった人なのだと。
(「僕は父を殺した。助けるためだったとはいえ、それと同時に、貴方の愛した男も奪ってしまった」)
すべては母を守るためだった。守るにはそうするしかなかった。すべては貴方のためであり、あの男が悪かったのだ。
微笑む中でも浮かない表情を見せる息子に、母親はそっと彼の手を包む。
思いつめなくてもいい。こんなにも立派に大きく成長してくれただけで十分、と。そう優しく囁いた。
(「僕を許してくれるの?」)
彼が声を出さずとも、母親は理解したかのように頷いた。
――さぁ帰りましょう。もう辛い思いなんてしなくていいの。
母親は誘う。恐れることなどない優しい世界へと。だけど息子の足は動かなかった。
「……」
母は許してくれた。なのに、どうして心がもやもやするのだろう。包まれた手を見ながら晃は考えた。
(「今の僕がいるのは、本当に誰かのせい?」)
まさか。自分は悪くないとでも?
(「僕は母に|許されたくて《・・・・・・》今まで生きてきたのか?」)
違う。誰かに許して貰えれば終わる話ではない。
「ごめんね、母さん。僕はまだ帰らない」
晃は顔を上げ、母親と対面する。
「母さんが許してくれても、僕が許していない。僕はまだ罪を償っていないから、貴方の手まで穢してしまう」
これもまた、貴方を守るためだから。
「……その時が来たら、自分から会いに行くよ」
だから今は、さよならだ。
母親の手を一瞬、ぎゅっと握り締める。そのままそっと振り払うと、晃は背を向けた。もう彼女の方へは振り向かない。
「あぁ……ムカつくな。そうだろう?」
踊る人形が彼と手を取り花園を荒らす。現れた|脚本家《オブリビオン》がペンを突き付け配役が違うと主張するが、人形は知らんぷり。晃と共に『赦しと労り』の|物語《ページ》を斬り裂いてやった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
あやー!
ここが天国!
藍ちゃんくんの目指していた場所なのでっすねー!
やや、あれに見えるは恋人のおねーさん!
なるほどなのでっす!
つまりつまり――ありえないのでっす。
藍ちゃんくんが待つ側になることはあっても、おねーさんが天国で待つ側にはならないのでっす。
悠久を生きる神様なおねーさんを藍ちゃんくんはいつか置いて逝くのでっす。
ですから、ええ。藍ちゃんくんはまだまだしたいことがあるのでっす!
死のハッピーエンド?
いいえ。藍ちゃんくんが死んだその先でさえもおねーさんを幸せにするためにも!
歌い続けるのでっす!
魂人さんの苦痛に満ちた記憶もこの歌は癒やすのでっす!
苦しみの原因である改竄師さんにはたまらない歌かと!
美しい花園を前にした紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)は目を輝かせる。ここがまさに目指していた場所であると。
「あやー! なんということでしょう! なんと天国に着いちゃった藍ちゃんくんでっす!」
さらさらと流れる風。天から差す光を浴びる一面の花々。この幻想的な光景を天国と呼ばず何だというのか。
藍は鼻歌を歌いながら花園に足を踏み入れる。くるりと回れば宙を舞う花びらが彼と踊る。それを見た小鳥たちが一緒に輪唱する。
まるで声が世界の果てまで伝わりそうな、そんな清々しい気持ちになれた。その素敵な素敵な舞台の特等席に居るのは――勿論あの人。
「やや! いたのでっすね! おねーさん!」
藍の歌声に拍手を送るのは、世界で一番愛しい彼女。花園に佇むその姿は普段よりも神々しく見えて。
「いつから来てましたー? 藍ちゃんくんはここが気に入ったのでっす!」
うきうきとしながら駆け寄る藍に彼女はこう返す。素敵な場所だったから、先に待っていたんだよ、と。
「そっかそっか! なるほどなのでっす!」
いつものようにギザ歯を見せながら元気に笑う藍だが、その声量は最初よりも少なく。
「つまりつまり――ありえないのでっす」
困りましたねー、と彼は笑いながら眉をひそめた。
「だってだって、藍ちゃんくんが待つ側になることはあっても、おねーさんが天国で待つ側にはならないのでっす」
だって、彼女は『神』だから。
「藍ちゃんくんを追い越したら困っちゃうのでっす。そんなこと絶対させないのでっす!」
彼女は自分よりもずっと前から生きていて、自分が眠った後も長く長く生きるはずなのだ。だから天国で待つことなど許さない。あってはならないのだ。
「悠久を生きる神様なおねーさんを、藍ちゃんくんはいつか置いて逝くのでっす。それはおねーさんにとって一瞬の出来事かもしれないでっすがー……その一瞬というのはつまりつまり! 藍ちゃんくんがピカっとお星様になった瞬間でもあるのでっす!」
神にとって、人との関わりなど短い間に感じるだろう。だがその一瞬を記憶に刻めるような輝きを遺せれば――その一番星はきっと、彼女にいつまでも幸せを与えてあげられるだろう。
だから藍は歌う。今までも、そしてこれからも生きる彼女のために、もっともっと、たくさん!
「藍ちゃんくんはまだまだしたいことがあるのでっす! だから、天国は下見だったということで! 次は予行練習でっす!」
高らかに歌うその声は花園という空間すべてに反響する。彼の過去、現在、未来。思うがままに紡いだ|歌詞《メッセージ》は、|脚本家《オブリビオン》を苦悩させた。
やがて脚本家の手から『ペテン師に捧げる讃美歌』の|物語《ページ》がバラバラと落ち、花園と共に燃え尽きる。|神《彼女》もまた、微笑みながら炎に消えた。
大成功
🔵🔵🔵
ヤーガリ・セサル
だいじな人……ですか。守護神じゃなくて守護悪魔の方が出てくるとは。バーヴクト。あたしが救おうとしている零落した古き神。角持つ自然の王。
ああ、あなたは神に戻れたのですねえ。あたしも「戦えぬ者の痛みを背負え」という守護神の教えを胸に、地獄の道を歩んでよかったと思ってますよ。
いえ、そんなはずはないですね。地獄に落ちてもいい、というのは本当。
あなたを救いたいのも本当。
ですが、あたしは歩き出したばかりですからねえ。あなたはまだ悪魔のままだ。何もしないで奇跡は来ない。
電脳城塞生成。身を守り、電脳魔法によるハッキングで世界の原則を書き換えます。
……どうぞあたしを恨んでください、夢の中のバーヴクトよ。
光差す花園に立つ何者か。それは自分がよく知った悪魔の姿。
ヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)は名を呼ぶ。
「……バーヴクト」
小動物を司る自然の王。森に住む小鳥やリスたちが彼を囲む。その様子はまるで神のよう。
「ああ、あなたは神に戻れたのですねえ」
さく、さく、と。花園を踏む音を響かせながらヤーガリは歩み寄る。自然の王はただただ佇み彼を待つ。
「なかなか似合ってますよ、意外とね」
守護神らしいです、とそっと付け足し。
かつてあなたはこう言った。『戦えぬ者の痛みを背負え』と。
あたしはその教えを胸に生きてきました。いかなる時も、片時も忘れずに。
地獄の道ではありましたが、今ではそれも良かったと思ってますよ。
穏やかな時が訪れる、その時までは。
神は独白を聞き入れ、すべてを赦そうとする。
しかしその導きをすんなり受け入れることは、どうしてもできなかった。ヤーガリは手をかざし目元に影を作る。
「いえ、そんなはずはないですね。地獄に落ちてもいい、というのは本当。あなたを救いたいのも本当」
今のあなたはあまりにも眩しすぎる。溶けて消えてしまいそうだ。そう、あまりに神々しくて|悪魔らしくない《・・・・・・・》。
「……あたしは歩き出したばかりですからねえ。あなたはまだ悪魔のままだ」
何もしないで奇跡は来ない。赦される訳がない。
「……すみませんねえ。良い構図ではありましたが」
花園が揺れる。乱れる。まるで『映像が乱れた』かのように。
「悪くはない演出だったかと思います、ええ。是非脚本家の方に拍手を」
ヤーガリは乾いた拍手を送る。
何故だ、何故舞台に|脚本家《オブリビオン》が登場してしうのか? 予定にない自身の登場に『魂の改竄師』は戸惑う。
乱れる花園の中、スポットライトのように陽の光が脚本家を狙う。あまりの眩しさに脚本家はしゅうしゅうと燃える。
広がる炎。燃ゆる花園。それはまるで地獄のようで。
「……どうぞあたしを恨んでください、夢の中のバーヴクトよ。あたしは偽りの天国をハッキングし、地獄に書き換えてしまいました」
炎に包まれた神は天国と共に消えゆく。『贖罪』の|物語《ページ》も、ペンと共に黒く染まり、形を失っていった。
舞台は悪くはなかった。だが、脚本家が誤ったのはただ一つ。
――|最終章《フィナーレ》に入るには、まだ早すぎたのだ。
夢幻に別れを告げ、猟兵たちは闇の世界に戻り往く。
大成功
🔵🔵🔵