闇の救済者戦争⑤〜重力の鎖の呼び声
●重力の鎖の呼び声
その耳障りな音は幻聴だろうか。
眼前に広がる闇は幻覚だろうか。
幻覚とともに肉体はまるで自らのものではないかのように不気味に蠢くと、肌を突き破って無数の翼が現れる。
酷い激痛だ。だが、その激痛は同時に、彼らに強い使命感を与えてしまう。
――我らが|惑星《ほし》には、何人たりとも近付かせぬ。
――例え其の者に悪心無くとも、熱き血潮の勇者であっても!
――悪となりて邪となりて、我らが惑星に到達する可能性のある者は、全て打ち砕く!
神殺しの獣――。
あの獣を殺さなければ。あの|現象《フェノメノン》を、止めなければ。
●闇の救済者戦争
「皆様、ダークセイヴァーで大事件が発生しましたわ!」
集まった猟兵達に向かって、エリル・メアリアル(|孤城の女王《クイーン・オブ・ロストキャッスル》・f03064)が叫んだ。
ダークセイヴァーは、長らくヴァンパイアに支配された闇の世界とされていた。
しかし、猟兵達の活躍により、この世界は何層にもなった地底世界であることが判明する。
「そして、第三層にはヴァンパイアさも従える『闇の種族』という存在が明らかになりましたの!」
猟兵たちは闇の種族との奮戦の末に、彼らの弱点を見出した。それが、今回の戦いの発端となったのだ。
「ダークセイヴァーの支配者『|五卿六眼《ごきょうろくがん》』の一員、『祈りの双子』は弱点を知る者を全て滅ぼすことで、その存在を隠そうと画策しましたわ。その為に行われるのが……『鮮血の洪水』なんですの」
エリルが語るそれは、第三層を支える『天蓋血脈樹』から鮮血を溢れさせ、第三層以下を、オブリビオンもろとも全て沈没させるという計画だ。
「このような大虐殺止めなくてはなりませんわ! 皆様、力を貸してくださいまし!」
●翼圧症の魂人
「皆様に向かって頂くのは、鉄と病の森。そこには元オラトリオの魂人達が、翼圧症という病に苦しんでいますわ」
翼圧症とは、全身に無数の翼が生えるという奇病である。この病はこの戦争発生を境に、突如として発症者の数が激増したのだという。
「発症者の皆様は、全身から翼が生える激痛とともに、幻覚に苛まれていますの。……そして」
エリルが神妙な顔で語る。
「彼らはみな、この戦争で解き放たれた禁獣『ケルベロス・フェノメノン』へと向かっていることがわかりましたわ」
彼らは無意識化に『神殺しの獣』を殺さなければならない』という使命感を得ているのだという。
「激痛に苦しんでいるというのに、何故……」
エリルは沈痛な面持ちを一瞬見せて、首を振る。
「ともかく、そんな彼らを放置するわけにはいきませんわ! 皆様はまず、魂人の皆様を止めてくださいますかしら!」
続けてエリルは猟兵達に注意を促す。
「翼圧症にかかった皆様は、幻覚や苦痛でまともな会話は出来ませんわ。それに、皆様を見れば襲い掛かってくるはず。ですからまずは応戦し、一旦戦闘不能にさせて安全な場所まで連れ帰ってくださいますかしら」
魂人はみな、オブリビオンではない。殺さないように注意が必要だ。
また、魂人は永劫回帰によって死の淵からほぼ無限に蘇ることが出来るが、使わせたぶんだけ心的外傷を与えてしまう。いたずらに彼らの苦痛を増やす必要もないだろう。
「翼圧症が何故こんなに大発生してしまったのか、彼らが感じる神殺しの獣への敵意は何なのか……今、わたくし達にそれを知る術はありませんわ。ですから……」
エリルは猟兵達に告げる。
「せめて魂人の皆様がこれ以上危険な目に合わないように……お願いできますかしら」
そうしてエリルのグリモアが輝き始める。
重力の鎖がもたらす謎の現象を止めるため、今、猟兵達の戦いが始まった。
G.Y.
こんにちは。G.Y.です。
とうとうダークセイヴァーでの戦争が始まりました!
今回も皆様のお手伝いが出来れば幸いです。
今回の目的は『翼圧症』を発症した魂人達を止めることです。
全身から翼を生やし、酷い苦痛と幻覚に苛まれる奇病に苦しみながらも、魂人達はケルベロス・フェノメノンを目指しています。
そんな彼らを一旦戦闘不能にしたうえで、安全な場所へと連れ帰ってください。
彼らはオブリビオンではありません、殺さないように注意が必要です。
また、万が一死に瀕しても永劫回帰の力で復活を果たしますが、魂人をさらに苦しめる結果にもなりますので、なるべく力を使わせない工夫が必要でしょう。
今回のプレイングボーナスは『なるべく魂人に「永劫回帰」を使わせず、戦闘不能に追い込む。』です。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
第1章 集団戦
『翼圧症患者』
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POW : おぞましく伸びる翼
【全身から伸びる翼】が命中した敵を【さらに伸びる翼】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[さらに伸びる翼]で受け止め[全身から伸びる翼]で反撃する。
SPD : 痛苦の叫び
【体内に生えた羽で塞がれた喉】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【肉体の羽毛化】の状態異常を与える【痛苦の叫び】を放つ。
WIZ : 時空凍結翼
【全身に生える翼】から【オーロラのような光】を放ち、【時を凍らせる現象】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:ろきと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
チェリカ・ロンド
ひどいわね……早く解放してあげないと。
これ以上苦痛を味わわせるのは嫌だし、なんとか動きだけうまいこと止めるわよ!
とはいえいつも通りに魔法ぶっぱすると死んじゃうかもだし……ここはやわらかいのでいきましょ!(UC)
柔らかな聖なる光砲で包み込んで、魂人の戦う力を封じるわ。時を止められて攻撃されても、【激痛耐性】で耐え忍んで強行!意地でも助けてみせる!
やわらかチェリカ砲で相手を捕縛できたら、そのまま抱えて【空中浮遊】で安全圏まで連れていくわ。この繰り返し。地道な作業だけど、これが一番確実!
私の光じゃ、あなたたちの痛みまでは抑えられないかもしれないけど……きっと苦しみから解き放ってみせるからね。
「ひどいわね……早く解放してあげないと」
苦痛に悶えながらも鉄と病の森を進む翼圧症患者たち。その痛々しい姿に、チェリカ・ロンド
(聖なる光のバーゲンセール・f05395)は顔をしかめた。
「これ以上苦痛を味わわせるのは嫌だし、なんとか動きだけうまいこと止めるわよ!」
そう意気込んだチェリカであったが、同時に二の足も踏んでしまう。何故なら彼らはオブリビオンではない、ただの魂人なのだ。チェリカの普段通りの戦い方では、彼らを死の淵へと追いやってしまいかねない。
「なら……ここはやわらかいのでいきましょ!」
きぃんと聖なる光がチェリカの内から溢れ出した。するとその光に吸い寄せられるように、翼圧症患者たちの瞳がチェリカへと向いた。同時に彼らから生えた翼から、オーロラのような光があふれ始める。
「うっ……」
オーロラの光に、チェリカが顔を歪める、光が『時』そのものを凍結させ、チェリカの動きを鈍らせたのだ。
そこにすかさず、翼圧症患者たちが襲い掛かる。その攻撃を受けながらも、チェリカは自身の内から溢れる光を絶やさず、じっと耐えていた。
「……待っててね」
チェリカに向けられた視線から感じた、憎悪と殺意。その内側に感じる、助けを求める声。理不尽な痛みを背負わされた彼らを真に助ける手段は、今のところない。
だが、それでもせめて今だけは。
「私の光で包んであげる!」
チェリカの全身から、聖なる光が放たれた。その柔らかな光は翼圧症患者たちの放つオーロラをかき消して、戦場中に広がってゆく。
「あぁ……っ」
やわらかな光に包まれた翼圧症患者の、痛みにひきつった表情が若干和らいだ。攻撃の手が止まり、彼らは目を瞑る。ユーベルコードが封印され、意識を失ったのだ。
「よしっ」
今が好機。チェリカは光に包まれた翼圧症患者を光ごと抱え上げて、ふわりと浮き上がった。
翼圧症患者を抱えたまま、チェリカはその場を離れてゆく。やわらかな光で戦闘不能にしたまま、安全圏まで運ぶ。それを繰り返そうというのだ。
「地道な作業だけど、これが一番確実!」
安全地帯へと翼圧症患者たちを降ろしたチェリカは、意識を失いながらも未だ苦しみ続ける彼らを見て語り掛けた。
「私の光じゃ、あなたたちの痛みまでは抑えられないかもしれないけれど……きっと苦しみから解き放ってみせるからね」
その声が聞こえたのか、翼圧症患者の表情がやや穏やかなものへと変わった気がした。
そして、チェリカは再び、戦場へと戻ってゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
エドゥアルト・ルーデル
拙者はどっちでもいいけど殺さないであげてと言うならちゃんと生かしておいたやりますぞ
てかげん攻撃すればいいんでござろう!わかってるわかってるって!おめぇら集団でうるっせぇなぶっ殺すぞ!
特に何もせず突っこむでござるよ!だって自由だからネ!状態異常からもな
あと大体の状態異常は|叫んで《シャウト》りゃ何とかなるんでござるよ、ホントダヨ?
とにかく拙者は【羽毛化】したりはせんので自由にやらせてもらう!
オラッ愛のパンチだオラッ!UCも異能も使ってない単純な打撃、手加減してるでござるな!現役だったら殺していたでござるよ!
ぐったりさせた個体は|流体金属《オウガメタル》君に縛らせようね
肉体ないもんな、金属だから
謎の奇病、翼圧症を発症した魂人を前にして、エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)が言う。
「拙者はどっちでもいいけど、殺さないであげてと言うならちゃんと生かしておいたやりますぞ」
そんなわけで、ルーデルはひゅっひゅっとシャドーボクシングをする。
「てかげん攻撃すればいいんでござろう! わかってるわかってるって!」
そういうわけで翼圧症患者たちを挑発すると、彼らはルーデルへと向き直り、苦痛の叫び声を上げる。喉にさえ生えた翼が、その叫びをくぐもらせて戦場に響き渡らせる。
「おめぇら集団でうるっせぇなぶっ殺すぞ!」
さっきの自分の言ったことに思いっきり反した言葉を吐くルーデルであった。
「さぁ行くでござる!」
ルーデルが翼圧症患者たちへ突っ込んでゆく。特に策はない。曰く『だって自由だからネ!』だとか。
しかしルーデルにも考えはある。
「大体の状態異常は|叫んで《シャウト》りゃ何とかなるでござるよ、ホントダヨ?」
そういう重力的な力が加わっているのかは謎だが、ともかく何とかなりそうなのがルーデルだ。
「とにかく拙者は自由にやらせてもらう! オラッ愛のパンチだオラッ!」
ぼかっ、と翼圧症患者を殴りつけるルーデル。ユーベルコードでも異能でもない、ただただ単純な暴力だ。しかし翼圧症患者には確かに十分な手加減攻撃だ。手加減攻撃なら慈悲の力が働いて殺すことはない。たぶん。
「現役だったら殺していたでござるよ!」
そう言いつつもちゃんとぐったり戦闘不能にだけさせているルーデルはやさしい。そうしてぐったりした翼圧症患者には、|流体金属《オウガメタル》君の出番である。
「肉体ないもんな、金属だから」
なので苦痛の叫びを受けない流体金属君は、翼圧症患者をぐるぐる縛って、安全地帯へとえっさほいさと運んでやるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
ひどい、こんな、地獄はないよ…
自分の人狼病もまだ克服できてないぼくだけど、今できる全てで助けてみせるの
全身に翼が生える翼圧症…
原因だけを潰せれば良いんだけど、それで元の姿に戻るとも限らないね
研究が足りてないから、即治療は難しい
なら、その苦痛と浸食を抑えるの
ぼくを蝕む、狼と月の力で
ぼくを中心にドーム状に結界を展開
境界面を鏡にしてオーロラ光の届かない空間を確保、防御も固めて動きを止められないようにするの
できるだけ、魂人さんたちの中心へ
ぼくの叫びが隅々まで届く場所へ
UC発動
オーロラ光や叫び、翼はここまでで見てきたの
それを打ち消す変化の力と、病気の基を抑制させる魅了の力を込めて
みんなに届け、ぼくの声!
「ひどい……、こんな、地獄はないよ……」
ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は、翼圧症患者たちの惨状を見て、痛ましそうな顔を見せた。
「自分の人狼病もまだ克服できてないぼくだけど、今できる全てで助けてみせるの」
ロランそう言うと、改めて翼圧症患者たちを見る。彼らの症状は特殊である。この戦争が始まってから急激に患者が増えたのだから、何か原因があるはずだ。
「原因だけを潰せれば良いんだけど、それで元の姿に戻るとも限らないね……」
ロランは思案する。研究が足りていない現状では、治療は難しいだろう。
「なら、その苦痛と浸食を抑えるの」
そうしてロランは決意とともに告げる。
「ぼくを蝕む、狼と月の力で」
すると、ロランを覆うように結界が現れた。
大地から伸びた結界の力はロランの頭上で収束し、ドーム状の空間が出来上がる。結界は翼圧症患者たちから放たれるオーロラのような光を遮り、ロランはゆっくりと翼圧症患者たちへと歩み寄ってゆく。
「できるだけ、魂人さんたちの中心へ……」
苦悶の表情を浮かべた翼圧症患者の視線を感じつつも、臆せず中心へと向かってゆく。
「ぼくの叫びが、隅々まで届く場所へ……!」
そして、ロランは精神を集中させ、満月の魔力を顔に集中させてゆく。
「ここまで、みんなの翼は見てきたの」
隈取のような模様が発生し、ロランの姿が狼のような見た目に変ってゆく。
「みんなに届け、ぼくの声!」
すぅ、と息を大きく吸って。
『うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!』
ロランが咆哮を上げた。その叫びには満月の力が乗せられて、戦場に響き渡ってゆく。
今この場に着くまでに見てきた翼、オーロラ、叫び。それらを打ち消す魔力を込めて、病気の基を抑制する力を籠めて。ロランの想いとともに、超常を貪る力強い咆哮が広がってゆく。
「あぁ……あああ……」
翼圧症患者たちが呻き声を上げた。だが、その声は苦痛とはまた違う、どこか救われたような声であった。
そして、全身から生えた翼が僅かに小さくなった。症状の完治とまではいかなかったが、ロランの魔力が症状を抑制したのだ。
苦痛から僅かながらに解き放たれた翼圧症患者たちが、次々と眠るように倒れ込んでゆく。苦痛の表情も僅かに和らいでいるように感じられた。
「みんな、ぜったい助けるからね」
安堵したロランは彼らを担ぐと、安全な場所へと連れてゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
月守・ユエ
【双月】
とても苦しそうな姿…
あの翼は病…なんだね
使命感を植え付けて魂人さん達を操作しているの?
…考えるのはあと、だね
なるべく
これ以上の痛みが伴わないようにしないと
LunaryでUC展開
範囲攻撃
歌による精神攻撃を織り
彼らの心に少しでも干渉
動きを鈍らせるマヒ攻撃を応用する
大きな怪我させたくない
永劫回帰で君達の心が傷つくのも見たくない…
…ごめんね
この唄も苦痛になるよね…
どうか、この唄が彼らの僅かでも心に届くなら
浄化の力でせめて苦痛少しでも緩和されればいいと
やれるだけの事は尽くしたい…!
あとは、お願い――ユア!
彼らの無力化が叶えば
ユアのUCを頼りに彼らを運ぶ手伝い
…この病
治す方法…見つけられたらいいな
月守・ユア
【双月】
アドリブ◎
病を発生させた奴は
神殺しの獣というのを殺せるなら見境がないのか…
……まるで病で兵隊を作っているようだ
己が背には翼を捥がれたような傷痕が生まれつきある
なんだか彼らを見ているとその傷が疼きそうだ…
…あの病の正体は自ずと分かってくるだろう
今は魂人達を戦場から救う事だけを考えよう
大丈夫。ボクらならできる
ユエの歌の効力を祈り
武器受けで敵の攻撃を受け流して時間を稼ぐ
――OK。任せて!
UC使用:武器月下美人の花弁に変えて
花弁を鞭のように操れば
魂人達に致命傷を与えないように力を加減し気絶攻撃に留める
抵抗するなら花弁が
彼らの身を絡め取り捕縛をする
無事に無力化に叶えば
UCの花弁を用い運びだそう
禁獣ケルベロス・フェノメノンの出現によって大量発生した
「とても苦しそうな姿……あの翼は病……なんだね」
月守・ユエ(皓月・f05601)が痛ましげに呟くと、隣に立つ月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)が頷いた。同時にユアは顔をしかめた。
全身から無数に翼が生えてくる奇病。その姿に、ユアの背にある、まるで翼をもがれたかのような傷が疼いたのだ。
そんな疼きに耐えながら、ユアは呟く。
「病を発生させた奴は、神殺しの獣というのを殺せるなら見境がないのか……」
奇病といいつつも何か作為的なものを感じる翼圧症を、ユアはそう考えた。
「使命感を植え付けて魂人さん達を操作しているの?」
ユエが尋ねる。それは確かな事実というわけではないが、神殺しの獣『ケルベロス・フェノメノン』を殺そうという何者かの意志が、彼らを駆り立てているのだから、そう思えた。
「……まるで病で兵隊を作っているようだ」
ユアはそう返すと、同時に翼圧症患者たちが二人を捉えた。幻覚に囚われた彼らは二人を敵とみなし、ふらふらと襲い掛かってくる。
「考えるのはあと、だね」
ユエの言葉に、ユアも頷いた。
「……あの病の正体は自ずと分かってくるだろう」
ならば、今やるべきことは一つ。
「今は魂人達を戦場から救うことだけを考えよう」
ユエとユアが頷きあう。
「大丈夫、ボクらならできる」
「なるべく……これ以上の痛みが伴わないようにしないと」
翼圧症患者の様子に心を痛めながら、ユエはLunaryを手に取った。
Lunaryに付属したスピーカーが複数に分かれ、戦場中にばらばらと散ってゆく。それらが翼圧症患者達を取り囲むように展開したのを確認して、ユエは大きく息を吸った。
オブリビオンでない彼らに、大きな怪我を負わせたくない。さらに、永劫回帰の力で心が傷つく姿も見たくない。そんな想いを込めて、ユエは歌う。
(「少しでも……心に響いて……!」)
歌声が戦場中に響き渡る。浄化の力が籠められた歌声は、翼圧症患者達の苦痛を少しでも和らげようと、紡がれてゆく。
「うぁああ……あぁっ……」
翼圧症患者たちの喉に詰まった羽の奥から、くぐもった呻きが上がった。
(「……ごめんね、この唄も苦痛になるよね……」)
ユアは苦しそうな顔をする。それでも、聲が枯れてしまうまで、彼らの心に届くまで、ユエは諦めずに歌い続ける。
患者達の叫びによってぞわりと身体から羽毛が生えようと、ユエは歌うことをやめない。優しく、力強く、想いを込めて歌い続ける。
すると、次第に呻き声が小さくなっていくことに、ユエは気が付いた。気付けば全身に生えた羽毛も消えている。
ユエの歌が、彼らに届いたのだ。患者達の表情も、僅かに和らいだように感じられた。ならば今こそ――。
「あとは、お願い――ユア!」
「――OK。任せて」
ユエの言葉に合わせて、ユアが飛び出した。
手にした武器を月下美人の花弁に変えて、それを鞭のようにしならせる。
「ユエの歌が効いたんだ。それを無駄にはしないよ」
その歌はユアの祈りでもあった。二人で掴んだ今を、最大の好機としなくてはならない。
ひゅんと風を切った花弁が、翼圧症患者達へと巻き付いた。
「あぁあっ……」
翼圧症患者達の身体が、眩く光る。オーロラのような輝きをしたそれが花弁を照らすと、花弁はその場で停止する。光が『時』を凍らせたのだ。
「まだだよ」
ユアは時の止まった花弁の影から、新たな花弁を放つ。花弁は光を放つ翼に巻き付き、光を覆ってゆく。
「う……ぁ……」
身動きの取れなくなった患者に、花弁の一撃が放たれた。
最小限に力を抑え、僅かな力で彼らの意識だけを奪う一撃だ。その攻撃を受けて、患者達が膝をつき、次々と大地に倒れてゆく。
患者達が戦闘不能になったのを見て、ユアがユエに言う。
「よし、ここから運び出そう」
「うん!」
ユエがユアのもとへと走り寄った。ユアはそのまま花弁を操り、患者達に巻き付かせて持ち上げる。ユエはユアの力が届くところへ患者達を運ぶ、というような流れで、患者達を安全な場所へと移動させる作業は続いた。
そんな作業の中で、ユエがぽつりと呟いた。
「この病……治す方法……見付けられたらいいな」
「きっと見つかるよ」
悲しそうな表情を見せたユエを元気付ける様に、ユアは答えるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レナータ・バルダーヌ
翼圧症……聞いたことがありませんね。
この戦争に関係あるのは間違いなさそうですけど、今は考えても仕方ありません。
出来ることをしましょう。
永劫回帰を使わせるわけにはいかないので、殺傷力の高い攻撃はダメ……でしたら。
【念動力】で自身の両腕を自縛し【A.E.トラメル】を発動、相手の腕を操って急所を打ち気絶を狙います。
打撃なら、加減を誤らなければ致命傷にはなりにくいはず。
昔はわたしにも翼があったので、翼の操作も同じ要領でできると思います。
この状態の間は防御が疎かになりますけど、反撃されても【痛みに耐え】て凌ぎます。
腕に生えた翼の感覚、気持ちのいいものではなかったです。
治す方法があればいいのですけど……。
「翼圧症……聞いたことありませんね」
レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は、鉄と病の森を進む翼圧症患者達を見て呟いた。
彼女もまたオラトリオだ。だがそのような症状が出たことも、聞いたこともなかったようだ。 おそらくは元オラトリオの魂人だけの病であり、オラトリオそのものは発症しないのだろう。
さらに、発症者が突如増えたのはこの戦争が始まってからである。
「この戦争に関係あるのは間違いなさそうですけど、今は考えても仕方ありません」
レナータは祈るように手を合わせ、誰にでもなく告げた。
「出来ることをしましょう」
「永劫回帰を使わせるわけにはいきません……でしたら」
レナータは自身の念動力を腕へと集中させて、縛り上げる。自身でも簡単には解けることの出来ない自縛の力だ。
自身の行動を制限することで発動する『A.E.トラメル』。その効果は、自縛した部位と相手の同じ部位を操ること。
「うぁあ……っ!」
翼圧症患者の腕が上がった。全身から生える翼がぞわりと大きくなるが、それもレナータは操って押さえつける。
「昔はわたしにも翼がありましたから」
翼の制御さえも奪われ、圧症の患者の腕が彼自身の鳩尾へと打ち付けられた。
「ごほっ……っ!!」
「これなら、致命傷にはなりにくいはず」
その狙いの通り、翼圧症患者ががくりと膝をついた。意識は失っている、しかし大きな外傷は無さそうだ。
「よかった、これで……っ」
だが次の瞬間、大きく伸びた翼がレナータを打ち付けた。別の翼圧症患者が、レナータへと攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ぐっ……ですが……!」
レナータは痛みに耐えながら、その腕の自由も奪って急所へと打ち込んでゆく。どれだけの痛みがレナータに襲い掛かろうと、患者達の痛みや苦しみはそれ以上のものだ。
レナータの腕に鳥肌が立っていた。患者達を通して感じた、腕から生えた翼の感覚が未だに残っているのだ。
「……腕に生えた翼の感覚、気持ちのいいものではなかったです」
倒れた患者達を担ぎ上げ、レナータは呟く。
「治す方法があればいいのですけど……」
その時まで、彼らをこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかない。
レナータは気絶した患者達を安全地帯へと運び込むと、再び戦場へと向かってゆくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
シャオ・フィルナート
殺さず、戦闘不能…
動きを封じたらいいのかな
【暗殺】技術を用いた【ダッシュ】力で
素早く戦場を駆け回りながら
氷麗ノ剣を用いてまずは放出した水流による【範囲攻撃】
更に即座に剣に乗せる魔力を水から氷に変換し
【凍結攻撃】で呼吸が出来る程度…
翼も含めて口元あたりまで凍結、動き封じ
更に【指定UC】発動と同時に死星眼を解放
強化した【催眠術】の力で視界に映した敵全員まとめて昏倒狙い
生命力吸収の力もあるけど、短時間ならそこまで害にはならない筈だよ
なるべく声をあげさせないように工夫してるつもりだけど
敵の人数次第では一度では片付けきれないかもね
【激痛耐性】で状態異常にも無反応のまま
全部片付くまで同じ作業を繰り返す
鉄と病の森をゆく翼圧症患者達。呻き声を上げながら、目指すはケルベロス・フェノメノン。彼らが何故そうしているのかはわからない。だが、彼らの行動によって生まれる悲劇の未来を、猟兵達は止めなくてはならない。
「殺さず、戦闘不能……」
シャオ・フィルナート(悪魔に魅入られし者・f00507)は思案する。翼圧症患者達はオブリビオンではないので、殺すことは望ましくない。また、たとえ致命傷を与えたとしても、彼らは永劫回帰によって、心に傷を受けながら蘇ってしまう。
「なら、動きを封じたらいいのかな」
そう方針を決めたシャオは地を蹴り、音もなく駆け出した。
森の間を風のように疾るシャオの手に握られているのは氷麗ノ剣。魔力を込めて生み出した刀身を振えば、勢いよく水流が迸る。
「う、うぅっ……」
水流が翼圧症患者達へと浴びせかけられた。だがその勢いは彼らを止める程までとはいかず、翼圧症患者たちは、ゆっくり、じわじわと進み続けている。
「でも……これなら」
シャオが剣に乗せる魔力を変換してゆく。すると一気に周辺の気温が下がり、水流が一気に凍結を始める。
「呼吸は出来る程度に……」
ぴきり、ぴきりと翼圧症患者達の浴びた水流が凍ってゆく。身動きが取れなくなった彼らはその場で立ち止まると、口を開いた。
「…………ぁぁっ!!」
羽で塞がれた喉から、くぐもった叫び声が響いた。苦痛の叫びが、シャオにも呪いを与えようと襲い掛かる。
「……」
ぶわりとシャオの身体から羽毛が生え始めた。全身を突き破るような痛みと共に発生するそれらであったが、シャオは無表情のままに耐え、剣から魔力を放ち続ける。全てが片付くまでは、手を止めるわけにはいかない。
より一層の力で発生させた氷で患者達の口元を塞げば、叫び声は止まり、シャオの肌も元に戻ってゆく。その状態を見計らって、シャオの右目が金色に輝き始めた。
「これで……あとは眠っていてね」
シャオの瞳が、翼圧症患者達を映し出す。催眠の力を籠めた視線に、翼圧症患者達の瞳がゆっくりと閉じてゆく。
眠りについた患者達の姿を確認すると、シャオは即座に目を逸らした。もう彼らに戦闘能力はないだろう。ならばいたずらに生命力を吸収する必要は無い。
眠りについた患者達を解放し、安全な場所まで運んだシャオは、再び戦場へと舞い戻る。
どれだけ彼らの痛みを受けようと、全てが片付くまで――。
氷麗ノ剣を手に、シャオは再び音もなく駆けるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
延々と激痛と幻覚…生き地獄な世界だよな
オレに出来るのはグリモア猟兵が示したように一旦動きを止める事だけ
>敵UC
【視力/情報収集】で敵の挙動を見定め、且つ【野生の勘】で方向や速さを割り出し躱す
事前の抵抗として【念動力】で翼の動きを抑え敵の思う方向やタイミングで技を放てないよう妨害
被弾しても【激痛耐性】で堪え可動時即反応を
術の隙に【カウンター】的にクナイや手裏剣を念動で操り【投擲】
深い傷よりかすらせる程度の軽傷を多数負わせ、行使UCの仕込みとし、発動
ダメージも倒れ込む程度に加減
この毒は三半規管を狂わせるが無痛化する効果もある
幾らか効けば…いや、今ンとこあんたらの動きを止められりゃ上出来だ
アドリブ可
「延々と激痛と幻覚……生き地獄な世界だよな」
呻きながらケルベロス・フェノメノンへと向かい続ける翼圧症患者を見て、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は痛ましそうに呟いた。
「今俺に出来るのは、あんたらの動きを一旦止めるだけだ」
そう言うと、トーゴは意識を集中させる。その力を感じたか、翼圧症患者たちはじろりとトーゴへと振り返り、全身から生えた翼を広げ始めた。
その様子をじっと見つめ、トーゴはその翼の動きを予測する。
「そっちか!」
翼がオーロラのように輝き始めた瞬間、トーゴが念動力を放つ。翼の向きが変わり、光が大きく逸れてゆく。しっかりとした観察に加えて、野生の勘が噛み合って、見事に攻撃を回避したのだ。
そこにすかさず、トーゴは更なる念動力でクナイや手裏剣を飛ばす。クナイと手裏剣はトーゴの念動力に合わせて自在に飛び回り、翼圧症患者に小さな傷をつけてゆく。
この攻撃では翼圧症患者には大きな傷とはなりえない。しかし同時に、それだけで戦闘不能に出来る程のダメージは与えられてもいない。
だが、それでも十分。これはあくまで、仕込みなのだから。
「今だ!」
トーゴが術を放つ。
「千鳥砂嘴ひと刺し浅しニワトコに 天地五感を掠め狩る──」
すると、翼圧症患者がぐらりと身体を揺らし始めた。傷口から入り込んだ毒が三半規管を侵し、彼らの平衡感覚を狂わせたのだ。
ぐらり、ぐらりと揺れる患者達にトーゴは優しく告げる。
「この毒は三半規管を狂わせるが、無痛化する効果もある」
見れば、翼圧症患者達の表情が幾分か和らいでいるように見えた。だが、それも一時的なものでしかないだろうが、それでもトーゴは、彼らを止めることが出来ただけで充分だと思えた。
どさり、と倒れる患者達を抱え上げながら、トーゴは語る。
「今はまだ……な」
いつかこの病が完全に治療される時を信じ、トーゴは彼らを安全地帯へと運ぶのであった。
こうして、鉄と病の森をゆく翼圧症患者たちの救出を果たした猟兵達。だが、これで問題が解決したわけではない。いずれこの病の原因そのものを解消し、彼らが安らぎを得るために、猟兵達は戦いを続けるのだ。
大成功
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