闇の救済者戦争⑧〜汝、見た目で敵を図ることなかれ~
●見た目は確かにそうでもない
――ダークセイヴァー第四層、とある人類砦にて。
「……何だこの、雲みたいな奴ら……?」
「もくもくー」
「もくもくー」
「もくもくー」
砦の外の異様な空気を感じ、武器を構えて外に出た若者たちの目に広がったのは、何かそんな感じで鳴き声を上げる雲のような何かだった。
「雲……雲か??」
「いやでも雲喋らないだろ」
「と、とにかく吸血鬼の罠かもしれない、用心して……」
次の瞬間、若者の一人の顔を雲が覆う!
「う、うわ何だ!!?あっ、う、な、何だこれ、何か急にとんでもなく不安に……どうしよう俺たちこのままやられるのかな……」
「おいしっかりしろ!?いやマジで何なんだこの雲…!??」
「もくー」
若者の一人からすぽん!と離れた雲が満足そうに揺れる。
何をやるかわからない以上は何かされる前に叩くしかない、そう武器を振り上げる若者たち。
しかし。
「もくー!」
「う、うわああああ!?」
満足げな雲から大量の雲が発生し、慌てて砦に逃げ戻る。
だが雲。そう、雲である。
砦の扉を閉めたぐらいで砦に入るのを防げたら苦労はしないのだ。
●
「めちゃくちゃ気が抜けるって?仕方ねえだろ、予知した以上はこれが現実なんだからよ」
猟兵たちの何それ、と言いたげな視線に皆まで言うなとフィルバー・セラ(|霧の標《ロードレスロード》・f35726)は眉間を抑えた。
ミスター・グースに鉤爪の男……猟書家との最終決戦に勤しむ猟兵たちに追い打ちをかけるかのように、ダークセイヴァーの真の支配者たる『五卿六眼』――その一員である『祈りの双子』が動き出したことはすでに猟兵諸君は予兆に見ているだろう。
『闇の救済者戦争』――そう名付けられたこの戦争では、ダークセイヴァー第三層に第四層……我々が一番よく知っているダークセイヴァーの人々を第三層に|送り込み《・・・・》、あらゆるオブリビオン、あるいは闇の種族によって人々が蹂躙される光景を、すでに何人ものグリモア猟兵が予知している。
フィルバーもその一人であり、今回彼が見たのが何とも言えない微妙に力が抜けるようなオブリビオンが人類砦を襲う瞬間である。
「まあ確かに気が抜けるのはわかる、わかるよ。鳴き声がまず気が抜ける。
能力も散々死線をくぐり抜けたお前らならそこまで脅威に感じない可能性はあるだろう――だが問題はそこじゃねえ。
これによって人類砦の連中が完全に不安に呑まれて絶望する可能性が高いってことだ」
どうやらこの雲の主食は"人の幸福な気持ち"であり、それを食らうことで増殖し、強化されるという。
そうして幸福をくわれきった人々は不安に呑まれ絶望し、抵抗することを諦めてしまうかもしれない。
そうなれば当然、オブリビオンにとっては格好の餌になってしまうワケで、そうするとどうなるか――当然、言うまでもないだろう。
幸い、今はまだ人類砦の|闇の救済者《ダークセイヴァー》達全てが絶望しているワケではなくこの雲の群れと戦ってはいるが何分数が多い。
時間の問題と言っても過言ではない状態なのだ。
「今まで俺たちが護ろうと奮闘してきた結果がなかったことにされちゃあ溜まったもんじゃねえし、人のいない世界に意味はねえ。
あらゆる世界の構築要素は生命あってこそ成り立ち、生がなくなれば死が待つだけだ。
クソッタレな思い出しかねえが、仮にも俺の故郷……それが滅びるのは流石に頂けねえ。
老いぼれのわがままを聞くと思って、力を貸しちゃあくれねえか」
そう言って、フィルバーは自らの故郷へと通ずる転移陣を開いた。
御巫咲絢
最近もっぱら戦争シーズンになったら顔出すポジションになりつつあります。
どうも数ヶ月ぶりです、MSの|御巫咲絢《みかなぎさーや》です。
シナリオ閲覧ありがとうございます!御巫のシナリオが初めての方はお手数ですがMSページもお目通し頂けますと幸いです。
はい、今年の5月も無事戦争が始まりましたね!
今回はダークセイヴァーの『闇の救済者戦争』ということで。
御巫にとってはMSになって間もない頃、ダクセで一本書かせて頂いたシナリオが結構大きな転機になったと思っておりましてちょっと思い入れがあったりします。
だいぶ久々に筆を取るのでリハビリも兼ねておりますが、書ける範囲で書いていけたらいいなあと思っているので、ご縁がありましたら是非よろしくお願い致します。
●シナリオについて
当シナリオは『戦争シナリオ』です。1章で完結する特殊なシナリオとなります。
また、当シナリオには以下のプレイングボーナスが存在しています。
●プレイングボーナス
|闇の救済者《ダークセイヴァー》たちと協力して戦う。
●エネミーについて
『もく』という人の幸せな気持ちが主食の雲です。何かどこかゆるっとした空気を感じさせます。
が、仮にもオブリビオンなので人類砦の人たちだけでは流石に応戦もしんどくなってくるので皆さんで助けてあげてください。
●プレイング受付について
OP承認後の「翌朝」8:31から受付、締切は『クリアに必要な🔵の数に達するまで』とさせて頂きます。
受付開始前に投げられたプレイングに関しましては全てご返却致しますので予めご了承の程をよろしくお願い致します。
オーバーロードは期間前OKですが、失効日の有無の都合上執筆が後の方になりますのでご容赦ください。
頂いたプレイングは『5名様は確実にご案内させて頂きます』が、『全員採用のお約束はできません』。
また、『執筆は先着順ではなく、プレイング内容と判定結果からMSが書きやすいと思ったものを採用』とさせて頂きます。
以上をご留意頂いた上でプレイングをご投函頂きますようお願い致します。
それでは長くなりましたが、皆様のプレイングお待ち致しております!
第1章 集団戦
『もく』
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POW : じめじめ、うつうつ
【闇】【湿気】【周囲の幸福】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : もくー
全身を【ふわふわとした雲】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : おいしいー
【不安】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の分体】から、高命中力の【幸福を喰らう雲】を飛ばす。
イラスト:lore
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
佐那・千之助
幸福を喰われる……この世界でどれほど心細いことか
かわいいゆるかわに滅法弱いが、今回ばかりは篭絡されぬ。されぬ。
もう一つたりと奪わせぬよ
闇の救済者たちの盾になる形で雲を薙ぎ払い、焼き落とし
無事な救済者たちには負傷者の保護をお願いしよう
余裕があれば私の視界が及ばぬ範囲の雲の動きを教えておくれ。共に戦おう
かわいいフォルムのようじゃが雲は無形、逃げられては手に負えぬし
私以外を狙う雲から焼き落として此方に引き付け
雲の捕食の瞬間、最大の焔を。重い一撃を喰らっても構わない
幸せを喰われることに不安は無い
果てのない幸いをくれるひとがいる
それに幾つ失ったとしても
取り戻した皆の笑顔がきっと私を幸せにしてくれるから
●獄炎は陽光の如く燃え盛る
早速現地に駆けつけた佐那・千之助(火輪・f00454)は思う。
「(幸福を喰われる……この世界でどれ程心細いことか)」
ダークセイヴァーは絶望が世の大半を占めていると言っても決して過言ではない過酷な世界である。
――その中で僅かばかりでも抱かれた希望と幸福があるのなら、それらが砕かれた時にもたらされる影響は、決して小さなことではない。
明日の糧を得ることすらままならぬ不条理ばかりの世界で、希望を抱けるということ、幸せを感じられるということが、どれほど大きなことであるか。
この世界で人々の盾となり続けている千之助だからこそ、それがどれ程大事なことかを理解できていた。
「もくー」
「もくもくー」
「…………」
だがしかしこの『もく』の群れ、鳴き声からしてゆるっとかわいい雰囲気を醸し出している。
千之助は自身の頬を気合を入れるようにぺし、と叩いた。
ゆるっとかわいい系に滅法弱い千之助にとって、このオブリビオンは特効と言っても過言ではない強敵。
少しでも気を緩めれば危険なのである。
「今回ばかりは篭絡されぬ」
「もくー?」
「……されぬ……!!」
そんな可愛く首を傾げるような動作――いや雲のそういう動作ってわかるのかはさて置き――をされても絶対に落とされるものか。
意志をより堅く持って黒剣を握り、すぐ側で闘う闇の救済者たちの盾となるかのように割って入り薙ぎ払う。
生命の力で燃え上がる黒剣の焔がその身を蒸発させ、一匹の『もく』が水滴一つ残らず消え失せた。
「た、助かったよ!ありがとう!」
「この場は私が引き受けよう。お主たちは負傷者の保護を最優先しておくれ」
「本当か!?ありがたい、あまりにも数が多くて相手取らざるを得なくって……!」
千之助が辺りを見回せば、確かに『もく』によって何人か既に幸福を喰われているようだ。
その場で三角座りして落ち込んでたり、四つん這いになってぶつぶつ言いながらうなだれていたり……
何か色々な意味で負傷者であって負傷者ではないような光景だが、精神的ダメージの方が大きい故と見た方が良いだろう。
「これは……確かに手間が取られそうじゃな……」
「何とかその場から引っ張ろうにも動かなくて……とにかくすごく助かったよ!避難させ終わったらすぐに援護する!」
「ああ、共に戦おう」
余裕があればで構わないと、千之助は自身の視界の範囲外での連中の動きを伝えてもらうよう救済者たちに告げ、再び黒剣を片手に前を向く。
この『もく』の群れ、可愛らしい姿をしているが雲という無形の姿をしている以上、考えて攻撃をしなければ逃げられる可能性は高い。
ならば一点に引き付けるのが得策だろう。
前線維持の為に残っている救済者を狙い襲いかかろうとする個体を狙い、千之助は再び炎を放つ。
「も゛!?」
「もくくーっ!?」
不意打ちも同然に炎を浴びた『もく』たちが次々と焼け落ちていく。
すると「こいつご飯の邪魔する気だな!?」と認識したのか『もく』の群れが次々と千之助を狙って寄ってくる。
近づく『もく』たちに対し、千之助は敢えて無防備にすら見える体勢で迎え撃つ。
雲の捕食の瞬間、自らにも重い一撃が与えられかねないそのギリギリの瞬間を狙う。
「猟兵さん!?危ない!」
「大丈夫だ」
救済者たちが慌てて声をかけるが、それを優しく制する。
大丈夫というその言葉に嘘はない。
例えそれで幸せを喰われるとしても、千之助に不安は何もなかった。
脳裏に浮かぶ、果てなき幸いをくれるひと……そして今まで取り戻すことができた笑顔たち。
例え幾つか失っても。きっと私を幸せにしてくれるから。
だが、そうだとしても。
「――もう一つたりと奪わせぬよ」
刹那、炎が『もく』の群れを一つ残らず呑み込む。
【千思蛮紅】の地獄の炎が幸福を喰らわんとする暗雲を一つ残らず焼き尽くしていく。
その燃え上がる様は、まるでダークセイヴァーにはない太陽が姿を現したかのよう。
救済者たちはその光景に思わず惹き込まれるかのように見る。
――綺麗だ。そう誰かが思わず呟いて。
「ん?……足を止めては危ないぞ、早く安全な場所に逃がすといい」
「あっ、は、はい!ほらいくぞ、立てるか?」
救済者が負傷した仲間を支えようとすれば、それに従って体を預け、安全な場所に逃げていく。
かくして千之助の働きによって、人類砦の一角は安全を確保されることとなった。
ここを起点とし、猟兵たちと救済者たちによる反撃が始まる――!
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
鳴き声も見た目もゆる可愛なんだけどなぁ
やってることがなぁ…ただの食事とはいえ、ね
雲って水や氷で出来てるんだっけ
オブリビオンの場合はわからないけど
蒸発させられるかな
翼の【空中戦】で適度に周囲の状況を把握し
【高速詠唱】で炎魔法の【属性攻撃】
更に【浄化と祝福】を発動
【破魔】の炎を縦横無尽に飛翔させる事で
接近すら許さず一掃する【範囲攻撃】
取りこぼしはあるかもしれないし
魔法主体な分連続発動には時間がかかるから
戦える人は協力してください!
雲に触れないよう気を付けて
大丈夫…ちゃんと守るから
念のため自身に【オーラ防御】を纏い
代わりに鳥達は人類砦の人達を守る事を最優先
皆強いもん
不安に思う事なんて、何も無いよ
瀬河・辰巳
もくもくー?もふもふーじゃないのか。残念。
不安な時はオブリビオンに八つ当たりだな。生物の形じゃないから遠慮なく殴れるし、それで行こう。
「俺達の1番の敵は吸血鬼。こんなのにまで幸福な気持ちを食われるの、腹立たしいと思わない?」
UCで吸血鬼化し、不安になった者達を煽る。これで復活する人がいればラッキーかな。
戦闘は時々上空から状況を把握し、全力魔法で雲を吹き飛ばしたり、人が少ない所は凍らせて大鎌で割る等、彼らが戦いやすいように配慮。
闇の救済者達には戦闘不能の仲間の避難も頼むかね。
吸血鬼へ立ち向かう者達からすれば、不安になって動けなくなる事自体が大敵。気持ちを食われた人も無事に立ち直ってほしいね。
●とりあえず困ったらオブリビオンに当たれば
「もくもくー?もふもふーじゃないのか」
瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)は残念そうに呟いた。
見た目は可愛いが、もくもくとしたものよりはもふもふしたものが欲しかったのだろうか。
「うーん、鳴き声も見た目もゆるかわなんだけどなぁ……」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)はその可愛らしさは肯定しつつも、やっていることに眉を顰めざるを得ない。
やっていることはただの食事である。ただ、人の幸福を主食とする、という点が何よりも厄介だ。
一角の安全は確保されているとはいえ、まだ危険にさらされている箇所は多い。疾く殲滅せねばならないだろう。
事実、澪が空中から人類砦の現状を確認すると、既に何箇所かで幸福を喰われどんよりしている救済者たちの姿が見受けられた。
「とりあえず被害者も出ているワケだし、早いとこ片付けなきゃね」
「ああ、こいつら生物の形じゃないから遠慮なく殴れるしな。不安な時はオブリビオンに八つ当たりだ」
「なる程一理あるね。よし、二手に分かれようか」
不安な時やむしゃくしゃした時はオブリビオンに八つ当たり、猟兵的には最も最適解なストレス発散であることは間違いない。
ああ、哀れなるかな『もく』の群れ。こうして不安を煽った結果、待ち受ける運命が蹂躙のみとなったのだ……
◆
「(雲って水や氷でできてるんだっけ。オブリビオンの場合はわからないけど……蒸発させられるかな?)」
澪は空中に魔法陣を描く。高速詠唱で陣を編み上げ、湧き出るは炎の力。
「"鳥たちよ、どうかあの人を導いてあげて”――!」
|【浄化と祝福】《ピュリフィカシオン・エト・ベネディクション》をその身に宿した破魔の炎鳥、その数にして137匹。
それらが一斉に空から降り注ぎ、縦横無尽に駆け巡る如く『もく』の群れに突撃!
「も゛!?」
「も゛ーっ!?!?」
救済者たちに近づく『もく』の群れが、その接近を一つも許されることなく消え失せる。
「怪我はないですか?」
「あ、ありがとう……!」
「まだ戦えそうですか?それなりの範囲を攻撃したけど取りこぼしはあるかもしれないし、魔法だから連続発動には時間がかかるから協力して欲しいんです」
「もちろん!助けてもらった恩義を返さないワケにはいかないさ!」
「ありがとう!大丈夫、ちゃんと守るから。雲には触れないよう気をつけて」
澪は呼び出した炎鳥たちに砦の人々の守護を優先するよう指示を出し、再び空中から魔法による爆撃を試みる。
「よしみんな行くぞ!あの子の詠唱の邪魔をさせるな!」
炎鳥の庇護を受けながら、救済者たちは澪を支援すべく『もく』の群れへと突撃。
雲である以上空を飛ぶことも可能な以上、澪の詠唱の邪魔をさせない為に引き付ける必要がある。
接近を許しても炎鳥たちがそれらを焼き尽くす以上、盤石な体勢でありそれらをこのゆるっと可愛いオブリビオン共が阻害するのは至難の技だろう。
そのたくましい様に澪はふっと微笑んだ。
「流石ダークセイヴァーに生きる人達。みんな強いね」
だからこそ、不安に思うことなど何もない。
澪の破魔の炎が再び天より流星の如く降り注いでいく――。
◆
「だ、ダメだ……もう終わりだぁ……」
「お―――い!しっかりしろ!!そこで止まったら喰われるぞ!?」
一方ではすぽん!『もく』が頭から離れ、幸福を吸われた救済者がその場に項垂れ始めていた。
何とか立ち上がらせようと必死だが、その間においしい幸福を食べた『もく』はパワーアップ!さらには追加で分身をも生み出した!
人一人を抱えた状態で退けられる数では当然なくなった。万事休すか、と思われたその刹那。
「も゛ー!!!?」
間に何者かが割って入り、『もく』の群れが瞬時にして消え失せる。
呆然とする救済者たちを、人影――ユーベルコードで吸血鬼の力を解き放ちヴァンパイア化した辰巳の反転した左目が見つめる。
「怪我はない?」
「あ、ああ……でもこいつが」
「うう、もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
完全にネガティブになってしまっている幸福を喰われた救済者。今にも口から魂が抜けそうだが、抜けられたら流石に困る。
立ち直らずとも何とか逃げる動きはして欲しいもの。んー、と少しだけ辰巳は考えた。
「……あのさ、俺たちの一番の敵は吸血鬼だよね?」
「あ、ああ、それはそうだな」
「なのに、こんなのにまで幸福な気持ちを喰われるの、腹立たしいと思わない?」
も?と首を傾げる『もく』の群れを親指で差しつつ辰巳は言った。
こんなの、と言われていることに気づかない『もく』たちはもくもくふわふわとその場に留まっている。
救済者はえっ、と言った後に考え込む。じ、と辰巳の視線をまっすぐに受けながら……
「……ま、まあ、それは確かに……?」
「でしょ?こんなのより吸血鬼の方が何倍も何百倍も嫌じゃない?なのにこんなのにむざむざと幸福を喰われるのはどうなんだい?」
「――言われて見れば確かにその通りだわ。こんなゆるっとしたワケわかんねえ奴に俺の幸福を喰われてたまるか……!」
何と、幸福を喰われた救済者が再び武器を握り始めたではないか。
ふざけんなよこん畜生、何が「もくー」じゃこら、と何かぶつぶつ言い出して前線へと向かっていく。
先程のこの世の絶望を見たかのような表情が嘘かのようだ。
「お、おお……?回復した、のか?」
「と、見ていいと思う。復活したならラッキーだね、人手は一人でも多ければ多い程救助も捗る」
先程突撃していった救済者はこちらで何とかするのでと、戦闘不能になった仲間の避難を頼んで辰巳は空へと舞い上がる。
注意深く周囲を観察すれば、明らかに圧されている一角を発見。
すぐさま魔力を練り上げ、殲滅術式として放り投げれば一瞬にして『もく』たちが溶けていく。
それを確認してから再び地上に下り、先程の救済者たちに対してと同じように辰巳は発破をかけつつ負傷者の保護を優先するように指示をする。
そうしてまた舞い上がり、人が少なければ凍結術式で凍らせた上で大鎌で叩き割り、相手の規模が大きければ再び魔法で殲滅、それが間に合わないなら間に入って敵を薙ぎ払う。
同時にかけられる発破が次々と救済者たちを良い方向に刺激し、ますます彼らに立ち向かおうという意志を与えていく。
「俺たちも猟兵の皆さんに任せてないで、戦うぞ!吸血鬼に比べたらこいつらが何ぼのもんだ!!」
「「おお――――ッ!!」」
そうして救済者たちは猟兵たちの下に集まり、再び団結。
負傷した仲間たちをやらせまいと、猟兵の負担を少しでも和らげんと各々にできることで最善を尽くそうとするその姿に、辰巳は安堵する。
「(これなら、気持ちを喰われた人たちも無事に立ち直れそうだ)」
吸血鬼へ立ち向かう者たちからすれば、不安になって動けなくなることそのものが最大の敵。
なればこそ、この程度の敵に立ち向かえなければ吸血鬼を倒すことなど夢のまた夢でしかない。
辰巳たち猟兵が人々に灯していくのはまさしく、いつか良い明日を迎える為の希望そのもの。
暗雲を猟兵が晴らし、光のない闇は彼らに灯した希望の火が照らす――
そうすることで、ダークセイヴァーという世界はきっと、本当の意味での夜明けを迎えるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鳳凰院・ひりょ
た、確かに気が抜ける敵だけど…
砦の人達が危険なのは変わりない!急いで援護しなきゃ!
取り出した護符を手にUCを発動!
ダメージと共に行動不能効果を付与
分体召喚及び幸福を喰らう雲の生成を妨害
敵を行動不能に出来れば砦の人達の消耗も防げるし、反撃もしやすくなるだろう
UCで発動させる拡散波動は複数の敵を一度に攻撃出来る
敵の数を一気に減らす意味でも俺は果敢に敵に挑んでいこう
【覇気】+【鼓舞】を周囲へ放ち、砦の人達を激励
【救助活動】し、皆の気力回復を狙う
劣勢状態を覆しつつ【集団行動】、皆で防衛だ!
俺の目の前でこれ以上誰も失わせはしない!
敵迎撃は投されたた雲を【見切り】回避しつつ、敵を【破魔】付与の刀で一刀両断
クロト・ラトキエ
ふぁんふぁん浮かんで不安を撒き散らす、と。
雲だけに。
…僕は至って真面目ですが何か?(曇りなきまなこ)(雲だけに!)
場を温める(?)のはこの辺に。
敵の数、布陣、速度。
標的選定の基準。近い者、弱い者、建物内外…
動きに攻撃前の挙動など、あらゆるを見切り、知識に照らして。
次にどう来るか、どこが手薄で、どこが弱点か…等々。
時には敵に鋼糸を巻き引き斬って、隙作り。
そうして人類砦の方々へ攻撃、可能ならトドメの機を作り、
彼らに自信と新たな希望を灯せればと。
ただ。ふわふわ無敵化したなら…
動けないとは好都合。
“命中する”なら、此方のもの。
UCにて、終焉を。
相手が何であろうと怯む必要は無いと、行動を以っても示したく
●空に浮かばぬ雲なれば籠の中も同然とも言う
「なる程?ふぁんふぁん浮かんで不安を撒き散らす、と。雲だけに」
「えっ」
状況を把握したクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は真面目な顔でそう言って。
鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は思わず振り向いた。
えっ、て多分言っちゃいけないタイミングな気もするが、思わず口から飛び出してしまった以上は視線が交差せざるを得ない。
「え、えっと……それは、その……?」
「……?僕は至って真面目ですが何か?」
曇りなきまなこでひりょを見つめるクロト。雲だけに。
当然ひりょは「そ、そうですか」としか返せなかった。
多分場を和ませることでみんなの緊張を解そうっていう考えなんだろうな、と思うことにして。
「さて、場を温めるのはこの辺に」
「(あ、やっぱりそのつもりだったのか)そうですね、確かに気が抜ける敵だけど、砦の人たちが危険なのは変わりない……!」
急いで援護しなければ、とひりょは精霊の力を宿した護符を手にし、魔力を流し込む。
「"数多の精霊よ、かの者に裁きを"――!」
詠唱句と共に宙に投げた護符から、魔を退ける波動が拡散。
退魔の力は当然ながら、『もく』のようなオブリビオンにとっては何よりもの猛毒。
「も、もく……」
「も~……!!」
先程まで幸福を食って次々と分身を生み出していた『もく』たちが次々に力が抜けていくかのようにしぼみ、動くこともままならない。
そして退魔の波動は拡散される以上、人類砦全域に広げることも容易。
そうして力が弱まれば、救済者たちで撃退するのも然程難しくはならないだろう――既に何人か負傷していなければ、だが。
「よし、これで消耗も防げるし反撃もしやすくなるハズ……!今のうちに砦の人たちを!」
『もく』たちの動きが完全に弱まっている今こそ、人々を一箇所に集め体勢を立て直すには絶好の機会と言える。
ひりょは救済者たちを勇気づけるべく覇気を纏い、破魔の力を纏った刀で『もく』共を両断しながら救済者たちの救助を始める。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ!ありがとう猟兵さん……!助かったよ!」
「ここは一度全員で合流しましょう、俺から離れずについてきてください!」
ひりょが先導し、救済者たちを再び集結させていく。
希望を失った者も彼の聖者の覇気に当てられ、僅かながらも希望を再び取り戻し彼の手を取って次々に集まり行く。
現状、負傷者はいるものの死亡者は出ていないと、救済者たちは口を揃えて告げる。
ならば、尚の事ここから立て直すことはきっとそう難しくはないハズだ。
時に退魔の波動から逃れ、襲いかかろうとする『もく』は皆ひりょが一刀両断の下に斬り伏せて。
「皆さん、建物の中へ!」
そうして大きな集団となりつつあるひりょたちを、クロトがある一角へと誘導する。
比較的広く、その上で武器を振るう余裕のある空間がそこには広がっている。
本来なら集会所として使われる場所に入り込めば、『もく』たちも当然それを追いかけて入ってくるが――
「も゛!?」
クロトの鋼糸による一撃に引き斬り裂かれ、『もく』の群れの動きが止まる。
「相手は雲、即ち無形。しかし、空間が遮られているなら回避は容易とはいかないでしょう。今が好機です」
「そうか……!!よしっ」
救済者の一人が果敢に向かい、手にした剣を振り下ろす。
気の抜けるような断末魔と共に『もく』の一匹が霧散。
ひりょの退魔の波動の影響、そして建物内という限られた範囲の場所で奴らは自由に動くこともままならない。
それをクロトの鋼糸が引き斬ってしまえば、救済者たちの攻撃で簡単に倒せてしまうのだ。
「いける……いけるぞ!これなら勝てる!」
「このまま一気に畳み掛けよう!」
救済者たちが次々に『もく』の群れに畳み掛けていく。
彼らに及ぶ攻撃はひりょの結界とクロトの支援が巧みにいなし、先程までの劣勢気味の状況がみるみると好転し始める。
全員を集結させるまでは猟兵たちが先導して倒していたが、有利な状況に持ち込めば、猟兵だけではなく救済者たちの力も存分に発揮できる。
そしてそれが自身と新たな希望に繋がり――生存への道を切り拓くのだ。
「も゛も゛も゛も゛も゛も゛も゛くー!!!」
しかして『もく』たちもただではやられまいと足掻く。
その可愛らしいシルエットがひときわ可愛くふわっふわと化し、救済者たちの一撃にもびくともしなくなったのだ。
「な、何だこいつ!?攻撃が利かなくなったぞ!」
「これは無敵化のユーベルコード……!けどこの手のユーベルコードは自由に動けなくなるハズ――」
「――動けないとは、好都合です」
"命中する"なら、こちらのもの――
刹那、光の軌跡と共に薔薇の花が舞う。
クロトのその動作はまさに一瞬と言う表現が相応しく、その【薔薇の剣戟】は『もく』に何が起きたかを理解させることもなく。
五手目まで読むことを放棄したも同然なオブリビオンは、無敵状態とかしているのが嘘かの如く霧散し、消え失せる!
「お、おお……!剣が全く効かなかった奴が一瞬のうちに!」
「本当に俺たち勝てるぞ!」
「やろう、俺たちの家を俺たちで守るんだ!相手が何だ、人間の底力を見せてやれ!!」
救済者たちの士気は鰻登りの如く。
その顔に溢れるは確かな勝利という"希望"。
相手が何であると怯む必要はないと、クロトはまさに行動を以て示したのである。
「まだ外には数がいる。こちらで引きつけて誘い込んで確実に仕留めましょう」
「そうですね。怪我は俺が治療します、皆さんは思う存分戦ってください!」
ひりょの献身とクロトの機転により、救済者たちの士気は見違える程に上昇している。
まだまだ数がいるが、確実に状況は好転しつつあった。
そう、希望はすぐそこにあると、誰もが実感できる程に――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紫・藍
あや~。見た目と違って厄介な雲さんでっすかー。
でしたら見た目通り可愛い藍ちゃんくんの出番なのでっす!
藍ちゃんくんでっすよー!
藍ちゃんくんのライブにようこそなのでっす!
是非是非、藍ちゃんくんの歌と踊りとパフォーマンスを楽しんで幸せになってくださいなのでっすよー!
やや、絶望していた人々を幸せにしたとしてもまた食べられちゃうのでは、でっすかー?
いいえ!
幸せを奪うのも不安を与えるのもライブ妨害なのでまるっと弱体化なのでっす!
不安を与える方々を追い出しちゃうのはライブへの貢献になるのでっす!
救済者の皆様、ガードマンよろしくなのでっす!
悪意の弱体化により雲さんもなんだかふわふわ踊ってくれるやもでっすねー!
●全ては藍ドルの名の下に
「藍 ち ゃ ん く ん で っ す よ ― ! ! !」
絶望から希望の色に染まりつつある人類砦に元気な声が響き渡る。
すると何と、どうしたことか次々にライブ設備が降臨していくではないか!
そうこれは紛れもなく彼の為せる|妙技《ユーベルコード》。
ダクセに光を齎すスーパー藍ドル、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)の突発出張ライブが今幕を開けたのである!
「お、おおお!?」
まあ当然だが、突然ライブが始まれば救済者たちもびっくりである。
だがそんな戸惑いも、藍の前にはあっという間に消え去っていくが道理である。
何故なら藍ちゃんくんは藍ドル――そう、人々を幸せにする存在なのだから!!
「藍ちゃんくんのライブにようこそなのでっす!是非是非、藍ちゃんくんの歌と踊りとパフォーマンスを楽しんで幸せになってくださいなのでっすよー!
それでは一曲目聴いてくださいなのでっす、|【藍のままに輪が侭に】《ずっとずっと君が君であるように》!」
Present day,Present time!
ライブ会場と化した人類砦に響き渡る藍ドルの青空が如く澄んだ歌声。
天使のような歌声に、キレッキレのダンスとパフォーマンス。
自然と救済者たちの手にはライブ会場補正で呼び出されたサイリウムが握られ合いの手を次々と入れ出していくッ!!
その光景に対し『もく』の群れになす術は何もない。
そりゃそうだ、ライブ会場で暴力ごとはご法度。
ライブに関係のない行為のあらゆる全て、あと何かしらの悪意は全部藍ちゃんくんの最高のライブが見せる輝きの前では霞みまくってかっすかすとしかならないのである!
故に絶望していた人々の幸福を再び喰われることなどあり得ない。
幸福を奪う、不安を与える、これがライブ妨害でなければ何だろうか。そういうことだ。
「皆さん盛り上がってて最高でっすよー!でも不安を与える方々はマナー違反なのでっす!皆様ガードマンよろしくなのでっすよー!!」
「任せろー!」
「藍ちゃんくんの邪魔は誰にもさせないぜー!!!」
\PPPH!!/
「も!?」
もう完全にドルオタと化した救済者の皆様方。
ある意味でおそらく一番バフを受けているであろう彼らに対し、『もく』の群れは反射的に逃げ出していく!
逃げるのを追い詰めるのはめっ、でっすよ!という藍ちゃんくんの言いつけによりそれらを追いかけはしないものの、
残って攻撃しようとしてくる『もく』たちは次々と薙ぎ払われていく!
「ガードマンありがとうなのでっす!でももし一緒に踊ってくれる雲さんがいたら、歓迎してあげて欲しいのでっすよー!」
「「うおおー!藍ちゃんくんなんて優しいんだー!!」」
「何なら皆さんも一緒に踊って盛り上がって欲しいのでっすよー!!」
「「藍ちゃんく――――――ん!!!」」
\PPPH!!/\PPPH!!/
サイリウムを巧みに振り回し、救済者たちは踊りまくる。最早その踊り本当にダクセ民か???ってぐらいに完全にライブに染まっている。
何か『もく』の群れはそれを見てだんだんと自分たちも動きたくなってきたのか、一緒にその場の中に入ってふわっふわっと踊りだす。
「おおー!雲さん方も踊ってくれるのでっすかー!嬉しいのでっす!一緒に歌って踊るのでっすよー!」
「もっくー!」
この時、オブリビオンも人間も関係なく、会場はまさしく一つになっていた。
これこそ、夢と希望を齎すスーパー藍ドルのユーベルコードの為せる業。
この時だけ、そう、この時だけ。
ここはダークセイヴァーではなくキマイラフューチャーとかUDCアースになっていたと言っても、決して過言ではきっとないだろう――!
大成功
🔵🔵🔵
ベルゼ・アール
幸福感!? そんなもんすぐに逃げていくわ!!
なんだったら普段から食われてるわよどっかの社長とどっかの西のラスボスに!!
今この瞬間も何やらかすかわかったもんじゃないもの!!
自由の女神沈没事件……アリスラビリンスの巨大不明生物事件……次は何が来るのかしらね!!
逆に楽しみになってきたわ!!!
わーい☆☆☆もうどうにでもな~れっ☆☆☆
とまぁ、悲惨な現状を口走りながら戦うことで、
絶望している闇の救済者の皆さんもきっと思うことでしょう。
「私よりマシだ」と。
その状態でUCで取り出すのは……自宅から持ってきたUAI社製の空気清浄機!!
貴様ら全員そこに直れィ!! マイナスイオン効果の糧にしてくれるわこの野郎ォ!!
●人間だろうが悪魔だろうが過度なストレス負荷にあるとまあこうなる
かくして、人類砦はだいぶ持ち直してきたワケであるが、それでもお腹がへって仕方がない『もく』の群れは今もしつこく襲ってくる。
「しつこいなこいつら!いい加減何とか……」
と、救済者がこちらに向かってくる『もく』に対して攻撃を試みようとした――その時である。
「も゛っ!?」
背後からスタンロッドの雷撃を受けてゆるい断末魔と共に悲鳴を上げる。
しかし救済者は思わずぞくぅ!としたものを感じて縮こまった。
別に新たな敵がきたワケではなく、むしろ味方が駆けつけたのだが、何分その放つオーラがあまりにも異様で、あまりにも色々と複雑な闇のようなものを纏っていたのでビビったのである。
「ふふふ……幸福感?ふっふふふ……」
遠い目でスタンロッドについた水滴――蒸発したのに?という問いは吝かである――を振り払い、ベルゼ・アール(怪盗"R"/Infected Lucifer・f32590)は笑う。
「幸福、幸福感ねえ。そんなもん……
すぐに逃げていくわこんちくしょうが―――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
魂の叫びがダークセイヴァーの空に木霊する。
そう、ベルゼの色々な意味での運のなさは多くの猟兵たちが目にしていることだろう。
彼女の不運の原因の大半、それは何といっても彼女の 上 司 である。
「何だったら普段から喰われてるわよどっかの社長とどっかの西のラスボスとどっかのプレジデントにさァ――――――!!!!」
「だ、大丈夫かい……??」
「ええ大丈夫私は大丈夫!今この瞬間もあいつらが何やらかすかわかったもんじゃないけどもうどうにでもなればいいし!!!!!!」
それは果たして大丈夫と言うのか。救済者たちは彼女が心配になった。
一歩、『もく』の群れは何じゃこいつ、と何か引き気味――雲の姿のどこでそれを判別しろと――である。
「自由の女神沈没事件……アリスラビリンスの巨大不明生物事件……
次は何が来るのかしらね逆に楽しみになってきたわ~~~~わーい☆☆☆もうどうにでもなーれっ☆☆☆☆」
完全にタガが外れたかのようにあっははーと笑いながらベルゼの拳銃が、スタンロッドが、カードが乱れ飛び『もく』の群れを次々に仕留めていく。
その光景、ある意味で闇の種族や狂えるオブリビオンよりよっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっぽど狂っているようにすら感じる。
ヤケ起こしたかのように暴れ散らかしては『もく』の群れを薙ぎ払っていくベルゼの姿を見て救済者たちは思った。
――何かさ、もしかして俺たち……彼女よりマシなんじゃね????
「……俺たちは手出さずに見守っといてあげようか……」
「うん、ストレスめちゃくちゃヤバそうなのが嫌でもわかるし……」
『もく』に幸福を喰われてダウンしていた救済者もむくっと起き上がって負傷者の避難やら何やら、あと彼女がストレス発散した後何かしら飲み物用意してあげようとかそんなことを思いながらそそくさと離れていく。
嗚呼恐るべしトロイカ体制。こうして助けにきた猟兵の方があまりにも悲惨(?)な様相と化し、ダークセイヴァーの危険や絶望が霞んで見える程になるとは。
ベルゼさんは本当に強く生きて欲しい。うん。
「オラァッ貴様ら全員そこに直れィ!!!!!!!!!!マイナスイオン効果の糧にしてやるわこの野郎ォ!!!!!!!!!!」
ユーベルコード|【怪盗/探偵八百万ツ道具】《クリミナルマルチプルツール》で呼び出したのはベルゼが自宅で使用しているUAI社製の空気清浄機。
何か軽く偵察キャバリア程度のAI機能が備わっているおかげでめちゃくちゃ適切な量でマイナスイオンを出してくれるらしい。
……いや何でそんなAIをつけてんだよ空気清浄機だぞ????
「も、もく~~!!!」
「もっ、も~~~!!?」
空気清浄機が何なのかわからないがとにかく命の危険を感じたようで『もく』の群れは一目散に逃げようとする。もくだけに。
しかしそんなキャバリア程度のAI機能が備わった空気清浄機が果たしてそれらをむざむざと逃がすだろうか。
当然、否。
『空気汚染率80%。深刻な状態と判断。急ぎ清浄化、及びマイナスイオン生成を開始します』
刹那、ギュオオオオオオ!!!と音を立てて空気清浄機が次々『もく』の群れを吸い込み、とてつもない速度でマイナスイオンを吐き出していくッ!!
いやどう聞いてもその勢いと音は掃除機なんだがこんな機能つけてこういう時以外に使う時あるんだろうか??
多分UAI社のことだから不審者撃退用にこうした機能をつけていうのかもしれないが真相は当然UAI社のみぞ知る。
もしかしたらベルゼに聞けば教えてもらえるかもしれない。すっきりしたらだが。
「あーっはっはっはっは!オブリビオン共がゴミのように吸い取られていくわねえ!!!!!!」
最早そこまでくると悪役の台詞だが、彼女の出身はデビルキングワールドなのできっとこれで良いのだろう。
「何ていうか、猟兵さんも苦労してるんだなあ……」
その完全に吹っ切れて大暴れするベルゼの姿を見て、救済者たちは思わず涙ぐまずにはいられなかったとか、どうとか。
とりあえず、無事『もく』の群れは撃退され人類砦の平和は確保されたので結果オーライということにしよう、そうしよう。
それとベルゼさんはマジで強く生きて欲しい。ホント。
大成功
🔵🔵🔵