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闇の救済者戦争⑩〜黒き終末の叫喚を

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争

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●月の輝きを得た奇妙な迷宮城
 それは雨のように降り注ぐ薄い光だった。
 五月雨のようで途切れ途切れの、蜘蛛の糸より細いが、雨のように輝く線だった。
 普段から薄暗いこの世界、それでいて辺境に正しい輝きは届かない。
 しかし、――それは確かに"届く"ことがのだ。
 魂を"狂わせる月"はある。鏡がどこまでも反射して届けるなら"届いてしまう"のだ。
 ほら聞こえるだろう、遠吠えが。
『――ッアァアア!!』
 狂った魂の、猛り叫ぶ声音が。
 奇妙な迷宮の中で、乱反射する光に魂ごと焼かれ続ける痛ましい音が。

●狂乱のミラーハウンド
「割れない鏡は決して外を映さない。踏み入ッた奴を逃さないんだそうだ」
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は闇の救済者の訪れを待つ。
 当然、この場合の救うものは世界を股に掛けて挑める君たちだ。
「鏡だらけの城の中。鏡像に紛れ暴れ狂うオブリビオンがいるな。イイづらいが、入り込んで出られなくなッた系の存在だ。狂気にどッぷり堕ちていて、死への恐怖や痛みは皆無だ。戦闘用に改造を施された人狼病の獣たち。城の中は明るいぜ?月のかすかな光さえ、その城は逃さねェんだ。まるで捕まえたモンを逃さねェ檻のように」
 人狼病を疾患した、狂化人狼兵がその城で叫んでいる。
 城の鏡は決して割れず、光を浴び続ける彼らは正気を取り戻す事なく暴れどのみち命をずっと削っている。
 助けられない――だが放っておくわけにもいかないものたちだろう。
 此処より飛び出し暴れだしたなら、彼らは言葉通りの狂犬となり見境なく死ぬまで破壊活動を辞めることはない。
「だが大丈夫、鏡像の中で"黒い炎"を放つ"狂えるオブリビオン"として一気にどばッとてめえらを囲うだろうからな。狼が獲物を狙うように、黒い炎の力を携えてだまッてても襲ッてくるだろうよ。奴らに、察知されたなら、だが」
 その炎は飾りに非ず。
 あらゆる防護を侵食する食らう炎だ。
 燃え続ける薪代わりになんだって喰らい、焦がす。
「黒い炎は消えない。燃え続け、更に黒い炎に変えて吸収並びに侵食してくる。侮れない敵、とも言うだろうが……強い力には代償というものがある。奴らは『視覚・嗅覚の情報で敵を判断しない。相手が抱いた恐怖や絶望の感情を感知する以外の手段で攻撃対象を見つけ出すことはできない』ときた。つまりだ、その性質をうまいこと利用すれば裏を取ることだッてできるっつーことだよ」
 今はや狩り場となった城へ赴いたなら、獣たちの慟哭が響き渡る。
 探せ、苦しむ狂化した魂を。
 月の光が鏡の反射で差し込むせいで天に月が輝くのと同じ効果を得たその、明るい城で。


タテガミ
 こんにちは、タテガミです。
 この依頼は【一章で完結する】戦争系のシナリオです。

●プレイングボーナス
 鏡像に紛れた「実体の敵」を見つける(または)狂えるオブリビオンの性質に対処する。
 上記どちらも該当する必要はこの依頼ではありません。
 どちらかだけでも、大丈夫。

●簡単な概要
 割れない鏡の迷宮城に、黒い炎を燃やす狂えるオブリビオンが居るようです。
 月の光がわずかに差し込んでいる為、狂化人狼兵は月関係のユーベルコードを普通に使用します。城の中はほどほどに明るいです。
 敵は黒い炎の代償に、視覚嗅覚を駆使した猟兵の到来を認知しません。
 相手が抱いた恐怖や絶望の感情を感知すると、攻撃対象を認知するようで襲ってきます。たくさんの鏡があり、周囲にたくさんの自分が映って居るために、空間は貴方を惑わせるでしょう。

●その他
 断章などはありません。敵オブリビオンは理性を無くしておりますので、会話がうまいこと成立せず、狂犬を相手にしている感じになる可能性がありますが、プレイング次第で異なる場合があるかもしれません。視覚と聴覚では猟兵を認知できない。お間違えなきように。
 場合により全採用が出来ないかもしれませんし、サポートさんを採用しての完結を目指す事もあるかもしれません。可能な範囲で頑張ります。ご留意いただけますと幸いです。
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第1章 集団戦 『狂化人狼兵』

POW   :    群狼死重奏
【集団で一斉に人狼咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    群狼狂爪牙
自身の【狂気に身を委ねた兵達が魔獣化し、天に月】が輝く間、【魔獣化した人狼達全員】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    群狼月光陣
【月の光】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

檪・朱希
恐怖や、絶望で私達を探知するなら……UC発動。燿がいると安心出来るから、一緒に戦ってくれる?
『おう! けど無理すんなよな?』

鏡に映る自分を見ていると、昔の事が思い出される。ダークセイヴァーが故郷だから、なおのことかな。
今だから、雪や燿もいるし、友人も増えて、自分は幸せものだと思える……けど。

心の奥底で、自分の異能の力に呑まれる恐怖が湧き上がってくる。大丈夫、そう自分に言い聞かせても、拭いきれてない。

……それでも、私は、前に進む。戦うんだ。この恐怖とも。

襲い来る人狼兵の気配感知が出来たら、燿の旋風衝でなぎ払い、私の刀に破魔を纏わせ、斬撃波で追撃する!

……私は、負けない。



●ひとりじゃないから

 眩いばかりの鏡の室内。
 目に届く光は、弱いのに――だが反射を繰り返す輝きは、目をわずかに焼いてくる。
「……私が、いっぱいだ」
 生まれついてのオッドアイに映り込む光源でさえ、同じ景色と自分の姿ばかり映すこの場所は奇妙に映る。
 無限に存在する合わせ鏡の何処かに、見てはいけないもがあるのではないかと疑う。
 見すぎてはいけない。僅かばかりに恐怖心がじわじわと湧き上がってくる。
 ――これのどこかに何かが居るんだ。それもたくさん。
 気配は確かに"ある"のが分かるが、鏡の隙間が、居場所がわからない。
 檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)は喚ぶ。此処にあって、決して失われない明るく陽気な彼を。
 鎖術・心象顕現で応えないはずがない。"彼"は直ぐ側に、いてくれるから。
「絶望や恐怖で私達を探してくるのなら……燿がいると安心出来るから」
 ね、と声をかければ返す言葉と共に守護霊の燿は顕われる。
「一緒に戦ってくれる?」
『おう!けど無理すんなよな?』
 やっぱり明るく彼は笑った。一人で感じた不安がふわりと、消えていく気がした。
 目を開けば鏡しかみえない。朱希は、その姿が大量に映る事自体から、わずかに気持ちを逸したかった。
「……昔のこと、やっぱり思い出すからね」
 辺境とはいえ、此処は故郷の世界だ。
 ダークセイヴァーの空気を吸っていると、嫌でも――記憶がリフレインして、囁くのだ。
 記憶に雫が落ちるように、染み渡って直面させてくる。
『だが、今はそうじゃないだろ。隣、誰が居る?』
「……うん」
 隣には、燿がいる。だから、不安は少しだけだ。
 普段なら、雪だっている。ひとりなんかじゃ、ないのだ。
「私にもだんだんと友人も増えて、自分は幸せものだと思える……けど」
 朱希は、ヘッドホンを抑えるように目を背けるだろう。
 心の奥底で、湧き上がるものを感じるから。
 ざわざわと"異能の力"に飲み込まれてしまったら――ずっとある、恐怖の印。
「大丈夫、って言い聞かせてるけどね」
 けど、だけど。自分が納得してない部分もある。
 "もしも"は起こるかもしれない。自分に言い聞かせても拭いきれない――。
『言い聞かせ続けるのは、イイことだ。挫けてない証拠!』
「……私は、前に進む。戦うんだ。この恐怖とも」
『おう。……ちょうど、来たっぽいな』
 だだだだだだと走る足音。群れで狂化人狼兵は現れた。真っ黒い炎を宿しながら、真っ赤な瞳をギロリと向けて。
 あ"ぁ"あ"あ"、なんて苦しげな声を出しながら、尖った自前の爪で二人の首元を狙い駆ける。
 聞こえる音から感じる響き――殺せ、壊せ、衝動のままに――それだけだ。
 自我と呼べるものは、誰かの手によって初めから壊れているのだろう。
 そんな狂ったオブリビオンは止まらずに、閉ざさない口から野犬のように涎を慣れ流しながら。
『止まんなあ!』
 見えぬ鎖纏う拳銃【鴉】は放たれる。止まらぬ獣に、薙ぎ払い目的で行うのは――旋風衝。
『止まれ、止まれないなら止めてやるよ』
「……止まれと言われて、止まれない子たちなのかも」
 ふっとばされて、腕を負傷した個体に、寄り添い集まってくるのは"月の光"。
 輝く光を自身から発して行う群狼月光陣――怪我した個体を治療して、同時に光をモロに浴びた個体にドーピングを仕掛ける。人狼の群れが脅威を仲間ごと増していく。その爪は――破壊対象あるなら全てに向ける為。
 握る霊刀に力が籠もる。
「援護、お願いするよ」
『ああ!』
 燿によってバランスを崩され、霞が散る刀によって斬撃波が生み出され、切り結ばれる。
 ――黒い炎に捕まらないうちに。
 ――退ける。数を減らすんだ。
 破魔の力を纏った刀の斬撃で切り裂かれたならば、慟哭のような痛みに咆える声が響き渡る。
 禁断の力から力を得た"狼"どもは、絶命の叫びを上げて沈黙するだろう。
 強化すればするほど、同時に自分たちで"命を削り続ける"のだから。
「……私は、負けない」
 この絶望だらけの景色にも。
 ――自分の中にある、恐怖にも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シエナ・リーレイ
狼さん、わたしはここだよ!とシエナは呼びかけます。

鏡の迷宮をくるりくるりと舞い踊る回るシエナ
そんな彼女のナカで渦巻くのは鏡の中を駆けまわる可愛らしい狼達への溢れんばかり親愛です
鏡、見まわし外へと駆け出す子を見つけたら鏡の傍に立ちスタンバイし狼さんが飛び出したらすかさず[怪力]で[グラップル]
無事に捕まえられたら狼さんと仲良くなる為に[好意]と[呪詛]を撒き散らしながら楽しいダンスを始めます

ジュリエッタもこっちにおいでよ!とシエナは『お友達』を誘います。

狼さんと楽しく踊って気分が高揚としてくればシエナの狂気も最高潮、鏡の中の自分へ呼びかけながら周囲の者と無差別に踊り始めます



●狼さんこちらです

 ふふふ、少女の軽い声が響く。
 "楽しい"そんな感情を乗せた、愛らしいものだ。
 鏡だらけの城の中に入り、少女シエナ・リーレイ(取り扱い注意の年代物呪殺人形・f04107)は周囲を見渡す。
 どこを覗き込んでも、シエナの姿が見渡す限り写り込んでおり、本物のシエナと同様に可愛い少女がどこを見ても笑みを浮かべている。
 遠く、遠くどこかで唸り声、聞き取れない叫びもあるが、――その声の主の姿は見当たらない。
「狼さん、どこですか?わたしはここだよ!とシエナは呼びかけます」
 とん、とんと恐れる様子など無いシエナは鏡の中をシエナたちと一緒にくるくる回る。
 舞い踊る彼女には、恐怖もちろん存在しない。
 "お友達"の到来を、今か今かと待ちわびる踊り子だ。
 ――たくさんいるのでしょう?
 彼女のナカに渦巻くのは、溢れんばかり信頼の感情。
 "お友達"の訪れは、いついかなる時も気分が高まる。
 ――愛らしい狼さんたち。
 ――どこかな、どこかな?
 どだどだと、鏡の中を走る音。物音はたしかに近くで聞こえた。
 それから続いて、割らない鏡にぶつかる音、威嚇の声音。
 狂気に飢える魔獣が群れが鏡の向こうから飛び出してくる。
 攻撃的な野生の群れは、すぐさま攻撃の姿勢を取る――初対面のシエナへ向けるものは、黒い炎に覆われた人狼の形をした怨嗟に近い。その見た目は正気の欠片などない。月の欠片が微量似合った彼らの――理性さえも推し殺したのだ。
「わあ、こんにちは狼さんたち!シエナはハグで迎えます」
 盲目で不憫な獣たちが集まって鏡の中から飛び出してくる――シエナは分かった。
 だからこそ、飛び出すだろう鏡の隣に立ち、すかさずがしりと捕まえる。
 まるで飛び込んでくる勢いで、すこし体がぐらりと揺れたけれど。
 がうがうぐるると喉を鳴らす狼さんは、暴れて逃げてもがこうと爪を深く突き刺して、噛みつく獰猛さを見せて来たけれど。
「無事に捕まえたよ!もうひとりじゃないよ!シエナは話しかけます」
 好意を込めて抱きしめて、反面シエナの複雑な在り方を体現する呪詛はばら撒かれる。
 侵食するように、狂化人狼兵を強制的に押さえつける。
 楽しいでしょう?楽しいよ、シエナは踊るのをやめない。
 攻撃の手段を封じられ、仲間を傷つける事ができない彼らはがんがん寿命を削っていく。
『う"う"ぅ"』
 魔獣化した獣とも、シエナは"お友達"になれる。
「ジュリエッタもこっちにおいでよ!とシエナは『お友達』を誘います。」
 攻撃しても天真爛漫な少女は踊るのをやめたりしない。捕まえた狼さんが寿命のすり減らしでへたり込み、元気が失われるのをみると今度は次の狼さんに手を出す。踊り続けよう、この場所で。
 気分が高揚してくれば、シエナの狂気も最高潮。
 鏡の中の自分にだって話しかけながら、"お友達"と仲良く無差別にダンスパーティーを開くのだ。
 終わらないエンドレスワルツ。
 此処からできる可能性の低い脱出を目指すより、いつか終わるだけの短命な命しか持ち得ていないのなら壊して殺して叫んでだけの終焉よりも、今楽しい事を一緒にしましょ?
 少女は可憐に笑うのだ。狂気を孕んで尚、可愛らしく。
 言葉を理解せぬ獣たちと、終わりのない夢の中で遊ぶように。
 いつか獣が短い寿命を終えて死して消える、その時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百海・胡麦
故郷に似てる
妖が喰い合い、人を顎でつかう下衆が嗤う
ね。何の為暴れるんだい
炎は…好きよ

幼いアタシは碌に自身の焔も従えられず
血みどろを生きた
懐かしいね
「蜜霰」の弾を「息名」の焔で象った炎刃で
溶かしべっとり身を包む
飴にゃ魔力宿る
良い香り、行き交う筋が命のようだ

こわいものか…
貴方らのよう何ぞに呑まれ
“好き”を知れなくなるのが怖い
見えず鼻が効かずとも、触れ、声音ぬくもり
感じる心があれば

在るのに

とてもこわい

――餌は効いた? 本音だけれどね
月があんまり綺麗だから
暴かれた

戴きますね
攻撃が自らに刺さる瞬間、溶けた飴と焔が敵の身体ごと呑む

『謡牙』発動

牙と華で葬いましょう
痛みなど。とうに慣れました

どうか静かに眠って



●綺麗に消えるその時まで

 ぼんやりと、綺羅びやかな城の中を流し見る。
 ――ああ、故郷に、似てる。
 薄暗いこの世界、在り方。
 訪れたばかりだが、百海・胡麦(遺失物取扱・f31137)は不思議とそう思った。
「妖が食い合い、人を顎で使う下衆が嗤う」
 言葉を失って、魂を擦り減らして、暴れ狂うは元人間。
 改造されて今度は魂を燃やす一兵士にまで転落を余儀なくされたとは。
 割れぬ鏡にぶつかる音は、鏡を隔てた向こう側からだろうか?
 鏡には胡麦自身が写っているだけだ――乱反射する合わせ鏡の中で、黒い炎がちらりと揺れた。
「炎は……好きよ」
 鏡越しにどこかで揺らめく炎は暴れて一つの場所に留まらない。
 集団で一斉に吠え立てる様相は、耳から破壊する群狼死重奏。
 とにかく壊れればいいのだと、手当たり次第にやらかす手練だ。

 ――幼いアタシは。
 炎と鏡が陽炎のように気持ちを思い起こさせる。
 ――碌に自身の焔も従えられず、血みどろに生きた。
 今じゃそうは至らない。
 だからそう、炎を自由に繰る事無い狂犬たちを薄く見る瞳は、"古きもの"を見る気持ちに似ている。
「懐かしいね」
 自分を見ているような錯覚。
 ――幼い子。明日を強く生きることさえ、有せない子。
 撃つべき敵を見つけられず暴れ続ける子。
 蜜霰の弾を息名の焔で象った炎刃で溶かし、べっとりと身を包む。
「飴にゃ魔力が宿るモノさ」
 良い香り、でもそちらは鼻がさえ効かないのだったか。
 改造の果てに失われたものは多かろう。
「行き交う筋が命のようだ」
 さあおいで、アタシはこっちだ。
「……ああ、こちらを"認知できない"からアタシ個人を狙わないのかい」
 吠え声は怒号のように、響き続けるビリビリと、肌を叩くのだ。
「こわいものか……」
 使い潰される事を運命づけられた悲しい命に。
 終わりのほうが近い、人狼病の疾患者たちに。
「貴方らのよう何ぞに呑まれ、己の有り様と"好き"さえ知れなくなる方が、――」
 ――こわいだろう。
 見えず、鼻が効かずとも、触れ、声音ぬくもりなんでもいい。
 感じる心がほんの少しでも取り戻せたら――いや、在るんだろう?
 イキモノとして、そうして嘆き叫ぶのだから。
 在るのに――ああ、とても、こわいな。

 黒い炎がこちらが一斉にこちらを向いた。
 吠え声は全部、胡麦へと向かって伸ばされる。勢いよく炎を高めて突撃してくる様は波のよう。
 黒い嵐、黒い海が呑み込まんとする様は圧巻だ。
 鏡さえ塗りつぶす炎が、視界をどんどん覆っていく。
「ああ、――」
 ――餌は効いた?
 こわいのだ、という意識に誘われてこうしておびき寄せられてしまったのだろう?
「月があんまり綺麗だからね」
 暴かれたのは、果たしてどちらだろうか。
「じゃあ、――戴きますね」
 襲い来る黒い炎を纏った先走った個体が触れる間際、すううと溶けた飴と焔で身体ごと呑み込まれてしまう。あがいた。もがいた。しかし群れであって狂犬の群れだ。
 助けの手はなく、挑む人狼は増すばかり。
 ――逃げ出すなんて恐怖心を抱く事だってできないのでしょう?
 |謡牙《ウタウキバ》が発動――その体はアタシの炎の向こう側へ。
 終わりの向こう側、命使い果たすその時まで。
 戦って果てるのが唯一の希望だというのなら、極彩の光輪を背負い空舞う魔犬となってこの場を支配し迎え撃とう。唸り声が聞こえなくなるまで、自分の炎を駆使しながら、鏡の城の中を穿ち続けるだけ。
 牙と華で、最善の形をなぞるように葬り踊ろう。
「痛みに苦痛、わからぬのでしょう?アタシもそう」
 ――とうに慣れました。
 どうか、命燃え尽きるまでこの場で戦い続けて――眠りの果てに没するといい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

堺・晃
恐怖だの絶望だのと…残念ながら、そういう類とは無縁なんですよね、僕
とっくの昔に、狂っていますから

あぁ、でも…来てほしいなぁ
演技でもいいんでしょうか

【操り鏡の生き人形】発動
念糸の存在も駆使して僕自身の周囲を囲う檻のようにワイヤーを張り巡らせ
そこに猛毒を染み込ませておきましょう
無策に突っ込んできたなら
触れた瞬間毒に侵されるように

念のため住まう者に【オーラ防御】を張らせ
敢えて、思い出してみます
僕の過去…僕が、母が
父に酷い虐待を受けていた頃を
母を守れない、あの絶望を

敵が罠にかかった瞬間ワイヤーで縛り上げ動きを封じ
★龍狼剣で【暗殺】の如く急所を切断、まとめて討伐を狙います
(【毒、罠使い】)



●火を見るよりも明らかな

 鏡に写り込んだ自分自身を見て、それから堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)は目を細める。どこを見ても鏡だ。呆れてしまう。こんな城をどんな奴が作り上げたというのだろう。
「恐怖だの絶望だのと…残念ながら、そういう類とは無縁なんですよね、僕」
 とっくの昔に狂っているから。
「ああ……でも、進んで現れて欲しいなあ」
 ――演技でも、いいんでしょうか。
 普段の顔と、本性に温度差を抱え持つ晃だ。
 猫を被って演じる事は造作もない。
 操り鏡の生き人形を息をつくように発動し、滑らかにその指は繰る。
 見えない念糸を繰ることで、罠とするのだ――抱く感情を察知する狗共が引き寄せられて罠に容易く嵌まるように。
 晃の周囲を囲うように張り巡らせるは糸の檻。
 人も獣も、見えない糸だ。加えてワイヤーのように細かく織りなす檻を、思考しない生き物が回避する事はまず不可能――であれば細工を施すのが"優しさ"というもの。
 使い捨ての命、改造を施された狂人の群れが警戒心を強く踏みとどまるとは思えなかった。しっかりと、絶命するように導いて遣るほうがいっそ"優しい"というものだろう。
「何がいいかな、ああ……そうだね」
 優しさと形容する絶望の素材をたっぷり染み込ませる。
 黒い炎に侵食すると同時――触れた瞬間、体を侵す|猛毒《優しさ》を。

 念のためにと、|住まう者《髑髏》にオーラ防御を張らせ準備完了。
 気持ちをなるべく落ち着けて、晃は思い起こす気分にシフトする。
 思い描くのは過去。
 遠いあの日、あのときあの場所。
 晃と母親が、酷い虐待を受けていたあの頃――浴びた言葉の数々よりも、体に受けた物理的|疵《痣》の方が多かった。
 息をするのも、我慢をし続けるのも耐え難いほどの、暴力。
 常に守れずのままだった母親。
 忘れるはずもない、――そこから先の少し未来。
 晃がしたことは夢でも幻でもなく、現実だ。
 絶望は高まり続け、人生で一番の絶望であると自負できる。
 歯車が狂い出したのは、きっとそこから――。
『ガァア”ア”ア"』
 思い出している間に、狂気に身を委ねた兵達は狂う魔犬と成り果てて激しく狂ったように荒々しい攻撃を繰り出す。
 編み上げられた猛毒ワイヤーの檻にだって気を止めない。
 連続攻撃に暴れ狂う、狂犬となって猛毒を浴びて絶命ギリギリの痛みの声を叫ぶ。
「攻撃対象を見つけて嬉しいですか?それとも浴びるほどの優しさに咽び泣いているのですか」
 絡まりもがく魔狼は、檻の拘束から逃げるすべを持たなかった。
 触れば触るほど毒が回っていく――苦しむ時間が長くなる。
 黒炎とは別に、魔狼化の代償ですり減る寿命だ、彼らに逃げるという言葉もない。
「絡め取るように頑張りますか?……ああでも」
 龍狼剣を振るい、やかましい声を凪ぐように掻き消す。
 か弱い子犬ではないが、最期は静かに悲鳴なく人生の終わりに没する。
 切断した体が散り果て消えていく間も、他の魔狼共は襲い来る。
 同じ作戦、同じ効力、同じように何度も――学ぶ力さえ狂気に覆われ搭載されず、人生という短い生でさえ自分のものと使えなかったモノたち。
 ――ならばさっさと掃除してしまいましょう。
 ――しかし短い命を毒で終えるか、龍狼剣で終えるか――それくらいを選ぶ猶予くらいは、さしあげます。
 決める猶予があっても、命の残り時間があるとは――思えないが。
 魔狼たちが晃の考えつく局地にたどり着く前に、この場で動く存在などいなくなっている。それをするのは――晃自身であるのだが。
 今や鏡に写った自分以外、誰も見ていない。意地悪く、戦い続けよう。
 この盛大な吠え声は、彼らが最期に残す――遺言だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
あやー、鏡の迷宮城でっすかー!
つまりつまりなんということでしょう!
藍ちゃんくんがいっぱいなのでっす!
可愛いがいっぱいなのでっす!
絶望している暇なんてないのでっす!
それにでっすねー、狼さん達も怖くないのでっすよー。
だって、狼さん達とっても苦しそうなのでっす。
とっても可愛そうなのでっす。
なので、ええ!
歌うのでっす!
聴覚では探知できないとのことでっすが!
あくまでも探知の話!
歌が届かないわけではないのでっす!
それにもし聴覚が効いて無くても藍ちゃんくんの歌は魂に響くものでっすので!
鏡像も実像も巻き込んで攻撃されない中、ステージを歩むように歌い続けるのでっす!
その苦しみを吹き飛ばし安らかに眠れる歌を!



●心の耳で、魂で聞いて

 見渡す限りの自分自身が、合わせ鏡の中に立っている。
「あやー、これは難攻不落感すごすごなのでっす」
 映り込む紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が見える以上、そこには"鏡"がある。
 大量の鏡は道を失わせる。ああ、これは入り込んだら最後、脱出は容易では無いだろう。
 対処は分かる、入り込まないことだ。
「つまりつまりなんということでしょう!浴びるほど藍ちゃんくんがいっぱいなのでっす!」
 杞憂だった。藍は可愛いが視界たっぷりに無限に浴びれる事を、面白がっていた。
「こんなに面白おかしいお城が辺境にあるってだけで面白いのでっす」
 絶望してる暇なんてない。藍はワクワク感が勝っているから。
 本来暗さが強いダーウセイヴァーに置いて、逆にこの場が明るいことは上位種族が施した意図的の悪意を感じたほどだ。もしかしたら、――"強化改造"した人狼が自滅するように仕向けた特別な城なのかもしれない。
 短命を運命付けられ、まともな感情さえ奪われたなら――壊れかけの玩具だ。
 使い潰してしまうのが最適解。人間の上位を取るヴァンパイアならばそう考えてもおかしくなかった。
「お話は聞いたでっすけどー、狼さん達も怖くないのでっすよー」
 黒い炎を特別扱える改造を受けたのだとして、感情も理性も奪われた。
 それが苦しくて叫ぶのだろう。魂が痛いと叫ぶのだろう。
 戦う事を残りの寿命の範囲で強いられた人狼達。
 それのどこを笑えるだろう。強化と狂化を加速させる月の光が差し込むこの城で。
「とっても可愛そうなのでっす」
 出口を知る知力さえ、無くしていく一方なんて――牢獄も同じだ。
「なので、ええ!藍ちゃんくんはここで歌うのでっす!」
 ダクセに光を、希望を、楽しい日々よ降り注げ!
 さあ、藍テールを此処に広げよう、空無き城内に青空を思わせる爽やかな歌を。
 どこまでも同じ景色の空間で、青空の如く澄んだ歌声を響かせる――。
 ――聴覚で探知できないとのことでっすが、あくまで探知の話!
「――♪」
 響き渡る空、広い空。自由、華やかな光景。
 ダークセイヴァーでは――見られることが殆どない"空想"であるかもしれない。
 ――歌が届かないわけではないのでっす!
 "空想"が"歌"という自由が、此処には在る!
 ざわり、ざわり。物音がする、移動する音だ。
 がうがうと、言葉を亡くした者たちが真っ赤に腫れ上がった瞳を見開いて、群狼月光陣を常時構えて躍り出てくる。
 負傷はすぐさま癒やし、言葉と思考の代わりに狂化と強化を得続ける。
 黒い炎をオーラが如く燃やし、命を削り猛りて吠える。
 どれもが戦士、どれもが命を落とすギリギリの人狼病疾患者。
『う"ぅ"……』
 戦士たちの足が止まる。大きな瞳からぼたぼたと、涙を流しはじめたのだ。
 魂に響く自由の歌に、知らぬ景色を夢見て。見ること叶わぬ晴れ渡る空に希望を見て。
「ほうら、藍ちゃんくんの歌は晴れやかでっすよー!」
 鏡像も、実像も立ち止まって休め!泣きはらして戦意を喪失していけばいい。
 衝撃に胸打たれ、渦巻く狂化の苦しみを吹き飛ばして、安らかに眠る歌となれ。
 ステージに見立て、藍は歩く。人狼たちは攻撃意志を喪失して、狂ったように叫ぶのだ。
 それは襲う為ではなく、泣くには異なる魂の啼き声。見るに叶わぬ空、もどかしい気持ち。
 晴れ渡る空を胸に抱くのだ――呼び起こせ、夢と歌に希望を描いて。
 歌が途絶えるまで、藍は歌う事をやめない。
 君たちが眠るまで、――涼やかで晴れ渡る空の|藍《いろ》を謳う歌は、終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎

…なるほど
辺境で燃え盛っていた黒い炎と同じ性質なわけだな
だとすれば絶望や恐怖を抱かなければ発見されることはないはずだが…
…これだけ鏡があると、己を見失う恐怖は抱きかねないか

ならばその鏡を血色で塗りつぶそう
指定UC発動しヴァンパイアに変身
鏡が見えなくなるほど濃密な血色のオーラを纏い
戦場全体に「吸血鬼の存在を認め、我に従え」と精神に直接届くよう命令

聞こえるかどうかは賭けだが
狂気に囚われた兵ならば、本能的に俺に逆らうだろう
逆らったらすかさず無数の吸血コウモリをけしかけ「吸血」させ干からびさせてやる

従った兵や無反応の兵は
有無を言わさず黒剣の「2回攻撃、怪力」で斬り捨てる



●誰も逃がすはずもなく

 冷静に、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、分析する。
 これまでの戦いから思うに、黒い炎と辺境は無縁ではないのだ。
 何度もこの目で見た。意志などは無いが生き物を飲み込む地獄のような炎の群れを。
「……辺境で燃え盛っていた黒い炎と同質なわけだな」
 炎を宿した存在が正気で居るはずがない。代償は大きい。
 人狼病疾患者の身で扱えるものではない、と頭が理解する。
 ――絶望や恐怖を抱かなければ、発見される事などないだろうが。
「だが……これだけの鏡の中ならば、見失う恐怖は抱きかねないか」
 壊せないのならば、別の方法を試すのもいいだろう。
 敬輔は思うのだ、映らなくすることが出来たなら――敵の姿は炙り出せるはずだ。
 血色で惹きつけし吸血鬼――敬輔の姿はヴァンパイアへと変じる。
 血色のオーラを纏い、そして同時に、領域として広げる。
 染まらぬ色など無いように。濃密な血の色で塗りつぶせ。
 "吸血鬼の存在を認め、我に従え"と、命じて瞳を光らせた。
 本命は、狂化人狼兵へと届くこと。耳ではない、精神へと命じて言葉を落としたのだ。
 たとえ届かなくとも、手はある。
 しかしそれも杞憂。キイキイと吸血コウモリたちが一斉に同じ方向へ向かい出した!
「もしやとは思ったが……やはりな」
 先行したコウモリたちを追いかければ、一斉に人狼咆哮を怒声に混ぜる狂化人狼兵の姿が。
 一斉に放つ衝撃に、耐えられなかったコウモリたちは散り散りに。
 ただしコウモリも諦めない。逆らった者たちである以上攻撃の手は緩めない。
「狂気に囚われた兵ならば、本能が逆らう。少しでも群れる場所が分かれば此方のものだ」
 一息で放つ一斉咆哮だ、もちろん限界は在る。
 衝撃波が収束すると一気にコウモリたちが吸血せんと張り付いていく。
 みるみる干からびるまで血を吸い取られ、ばたりと倒れた個体は絶命している。
「仲間を想う慈悲すら亡くした獣たちよ、此処で終わり。眠りて終われ」
 従おうとした個体、無反応の個体。
 相応に様々であったが、敬輔――ヴァンパイアには関係なかった。
 どのみち姿を暴いたならば、お前達は黒剣で終わりを叩きつける。
 吠え声だけで尻込みする猟兵などいるものか。
 黒い炎に触れてみようとする猟兵など居るものか赤に染まれ。
 赤に沈め、絶命の叫びを自身の終わりにひたすら饗せよ。
 狂気に染まったお前達が、唯一己自身に、できること。
 黒騎士は、斬り捨て歩く。いくらか逃した。
 それらは訪れた猟兵が追い込んでいくことに変わりない。
 敬輔もまた、追い詰め歩くのだ――この城に響く声が途絶えるまで。
 獣狩は終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
アドリブ◎

…この現状に怒りが湧く
同時に…討ち倒す事でしか救えない事が口惜しい
…ここが僕の出身世界だからだろうか
目の前の現実に、かつて抱いた絶望の記憶に繋がってしまうのは
届かなかったものがあった
零れ落ちてしまったものがあった
離れ離れになった。守れなかった。―失ってしまった
己の未熟さに何度も嘆いた
古傷が、胸が痛む程に
忘れはしない

―それでも、いや
だからこそ僕は剣と盾を取るんだ
迫る彼らを【蒼穹眼】で見据え
防御ではなく、行動を予測し全て躱してみせる
…蝕む月の光でなく
夜明けの光を以って君達を送ろう
更なる絶望の運命へ向かわせない為に
躱す事で生じる隙へと
剣に宿した破魔と浄化を込めた光属性の奔流を全体に放とう!



●優しいヒカリを

「……この現状に怒りが湧くよ」
 騎士道が痛む想いとでもいうのか、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は静かに目を伏せる。この状況が導いた、命を強化改造した"誰か"がいたこと。
 大量の被験者がこの城に押し込められて、あとは命尽きるまで自分がなにか分からぬまま暴れ続ける日々を送るのだろう。
「打ち倒す事でしか、救えない事が口惜しいね」
 手を出した存在なら、検討は付く。
 おそらくどこかの上位種族。または、他の階層からの、人類に対する悪意のある施し。
 上位種族にとって、命は軽い。
 これはそう――実験の結果であり、同時に見世物に近いのだ。
「……ここが僕の出身世界だからだろうか」
 目の前の既に過ぎた現実と、かつて抱いた絶望の記憶とが交差する。
 繋がってしまう。届かなかったものがあったから。
 零れ落ちてしまったものが、あったから。
 蹂躙するのはいつも支配者の側だ、奪われるのはいつも此方側。
 それがこの世界の、不平等を重ねた方程式。
 離れ離れになったんだ。守れなかったし――失ってしまった。
 己の未熟さに何度も感情任せに歯噛みした。何度も何度も、悔いて嘆いた。
 古傷が、胸を痛む程――忘れる事のない傷みだ。

「――それでも、いや。だからこそ僕は」
 戦わないという選択をしない。
 剣と盾を取り、打ち倒すことで終わりを与える事を選ぶんだ。
 それが唯一人類から君たちへ贈る魂の救済だろう。
 人の恐怖を敏感に察知して、集まる習性など――悪趣味だ。
 共感も、同情も無く――ただ"哀れなるもの"という標的を定めてくるのだから、あまりに見てはいられない。
 ――恰好の餌に群がる壊れた狼兵たち。
 ――ああ、たしかに。そうも思えてくる。
 青の瞳でしっかり見据え、黒い炎を纏う者たちを蒼穹眼(ストラトスフィア)で見透かす。
 たとえ鏡だらけの迷宮の中でも、駆ける足音や訪れる特攻まで見えない筈がない。
「……さあ、間違いなく僕の元へ来るといい」
 恐怖心を抱いた騎士は此処だ。アレクシスは"あえて"呼ぶ。
 真っ赤に腫らした目は限界が近い顔。
『――アァアアア!!』
 喉を潰し、叫ぶ声はほのかに輝く自身に月の光を帯びさせていた。
 どこかで怪我を負ってきた群れなのか、薄っすら存在する光を集め自分以外の対象に浴びせ駆ける連鎖反応。
 群狼月光陣によって回復を施し、高められる戦闘力。同時に削りゆく寿命。
「殺す事、壊す事しか心を占めていない――僕でさえ蝕む月の光に見えるのかい」
 鋭い爪で顔面を狙ってくる手に黒い炎がジジと揺れる。
 しかしそれら全てを行動を予測したアレクシスは躱し続ける。
「僕に悪意などないとも」
 ――夜明けの光を以って君達を送ろう。
 其の輝きは、更なる絶望への続く運命を収束、終焉させるチカラとなる。
 剣に宿すは破魔と浄化を込めた光――本流となって彼らを纏めて押し流す。
 狂った心を落ち着けて、同時に終わりの向こうへ――旅立つといい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
薄い月の光にこちらまで精神が昂ぶってくるように感じる
凶暴化した人狼である敵が、未来の自分の姿のように思えて
自分もいつかそうなってしまう可能性に恐怖を覚える

…しかし、恐怖を理解出来るからこそ退けない
その苦しみを終わらせる為にここに来たのだからな

相手の1回目の攻撃に合わせてユーベルコードでの反撃を狙う
相手の攻撃の瞬間であれば、こちらを惑わせる鏡の城でも当てやすい

湧き出す恐怖の感情は攻撃への極度の集中によって抑え込む
上手く行けば一度見つけたこちらを不意に見失う事になり、一時的な混乱や撹乱も狙える
その瞬間を狙って仕留めたい

…こうなる前に助けられず、すまなかった
せめてこれ以上苦しまず眠れる事を祈っている



●近距離と零の間

 叫びに混ざり、絶命の啼声と物音が響く。
 別の何処かで、猟兵たちが遭遇し各々の戦い方で構想している為だろう。
「……成程」
 居るだけで、ざわり、と高揚感を感じる。
 薄っすらと薄い月の光が自分にもまた影響を与えているとシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は理解した。
 精神の昂り。凶暴化した人狼たちにも襲っているだろうこの現象。
 あれらは狂化に加えて命を更に弄ばれた者たちであるようだが、だが、未来のシキが狂化に堕ちる可能性は――。
 頭を横に振る。自分もいつか、それに近い状況に陥るのでは――僅かに考えてしまった。
 足が竦み、身が竦む程ではないせよ。
 恐怖を理解できる心があるからこそ、男は引かずを選ぶ。
 引くものは、普段と同じく引き金のみ。
「その苦しみを終わらせる為に此処に来た。長引かせたりなどしない」
 濁声溢れる遠吠え、突撃してくる大きな質量。
 黒く燃える火炎の鬣、狂気に身を完全に堕とした魔獣の群れは現れる。
 シキが発した恐怖を餌に、僅かな月の光を浴び続けながら化物化を加速させる。
 兵士として――死を目前にした終わりかけの玩具として。
 魔獣化した人狼たちは、群狼狂爪牙を繰り出さんと暴れ狂う。
 具体的には魔狼と化して、爪や牙を伸ばしオーラのように作用させた黒い炎を伸ばして燃やすのだ。
 どんな手を使ってもいい。どんな手段を使ってもいい。
 見つけた"敵"を壊すまで、暴れることを辞めぬものたちだ。
「俺を壊せたところで、止まれもしないのだろう」
 差し向けてきた攻撃を、シキは――躱し、鋭い眼光で最適な部位めがけてストライク・バックを放つ。
「お前達の得意は近接攻撃。今は間違いなく"狼"の距離感だ。だがな……」
 此方を惑わせる鏡の城の中でも、"距離"がコレほど近ければ間違うこともあるまい。
「俺が得意なのは"零距離"だ。もっと近い」
 打ち込まれても尚、怯んだ様子を僅かに見せて挑み襲う姿勢に転じるさまは、まるで人狼とも思えない。
 莫大な力の本流。ユーベルコード後からとは言え、魔狼ですらないと思えた。
 破壊の機構、その――廃棄物とでも言ったところか。
 ――湧き出す恐怖は。
 攻撃的センス、集中力で抑え込む。今はそれを考えるべきではない。
 呼吸を整え、攻撃のタイミングをシキは読む。
 魔獣たちは、今しがた追い縋っていた相手の気配の消失に――面白いくらいに答えた。
 うろたえ、頭を振っている。見失っている――攻撃対象を、シキを。
「……こうなる前に助けられず、すまなかった」
 戦うためだけの機構と成り果てた人狼病疾患たちよ。
 お前達の敵は此処になどいない。しかし、此処から出すことも出来ない。
「せめて、これ以上苦しまずに眠れる事を祈っている」
 銃声が、響く。
 遠吠えが、嘆きの声が、打ち消されるように鳴り響く。

 "獣性"が銃声に押し負けたとき。
 鏡の城に響く、叫喚は途絶えて消えた。
 全ての人狼病疾患の兵士たちは、これで救済されたのだろう。
 この城に響く獣の声は、もう――聞こえない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月04日


挿絵イラスト