星写す歌の名は
●新月
見上げる先にあるのは星の海。
中国大陸を支配遷都する多世界侵略船団『コンキスタドール』は、『人民租界』にそびえる異様なる都市……その名も|『須弥山型都市』《シャングリラ・シュミセン》 の一つを見上げる。
かの都市は山一つを改造した仙術サイバー都市。
「中々に厄介なことをしてくれたものだ」
見上げる『コンキスタドール』……『ノイン』と名乗ることにしている『クロスファイア・コマンダー』は腕組みをして、斥候に飛び立たせた『コウモリ爆撃兵』が一向に戻ってこないことにため息を一つ吐き出した。
この『須弥山型都市』を破壊し、大量のオブリビオンを生み出さなければならない。
しかし、惜しいと思ったのだ。
「『封神武侠界の仙術武侠文明』と『サイバーザナドゥの機械化義体技術』の融合した都市……確かに『コンキスタドール』にとっては掌握しきれぬものへと変容したかもしれないが、これは惜しい」
彼女はこれを無傷で一つ手に入れることはできないかと考えた。
良い手が一つ浮かぶものであったが、しかし彼女は雇われの身。雇い主が破壊しろ、というのならば、そうせねばならぬのが雇われの辛いところであった。
「多くの可能性が秘められた都市。どうにか得られないものか……いや、仕方のないことだ。斥候のオブリビオンが戻ってこない、というところを見ると気取られたか。ならば、次の段階に移るとするか」
『クロスファイア・コマンダー』はまた一つため息を吐き出して肩をすくめる。
気が乗らないが、やらねばならない。
「山を崩すのは地面から、ではないからな。かの|『有頂天天蓋』《ウチョウテン・ルーフ》を利用させてもらおう」
空を落とすように『須弥山型都市』の天蓋を落とせば、その下にあるものは瓦解する他無い。
ならば、と彼女は部下である『コウモリ爆撃兵』と共に『須弥山型都市』へと潜入するのであった――。
●メーデー
月が空より消える夜。
新月の夜に死せる者を悼む。それがこの『須弥山型都市』の習わしであった。
確かに『封神武侠界』と『サイバーザナドゥ』の文明と技術が融合を果たしたとて、人の営みは様変わりすれど、大元は変わらない。
その星瞬く空に舞い降りる影があった。
歪な影だった。翼が広がる影。
そして、その下には何か得物を掴み殺したかのようにまた翼持つ何者かがぶら下がっている。
背にある大鴉の翼を羽撃かせ、『有頂天天蓋』の頂点に彼――『熾天大聖』は降り立つ。
顔を覆う『ティタニウム・マキア』のロゴの刻まれた嘴の如き仮面を外した亜麻色の髪の青年は、星空を見上げた。
そして、強靭なる大鴉の脚部の鉤爪が掴んでいたのは一体のオブリビオン『コウモリ爆撃兵』であった。すでに息はない。
「月光が無き夜は、星の天蓋を輝かせる。人の魂。死せる者の魂。戦いの最中にあって、人の生命は星のように煌めくけれど」
しかして、それは哀しいことだと黒い瞳が星を映す。
「死した後は、どうか安らかであって欲しいと思う。争うことなく。奪われることなく……それでも戦わなければならないのなら……『戦いに際しては心に平和を』」
戦禍階梯たる身を翻し、大鴉の獣人……『熾天大聖』と名乗る彼は『有頂天天蓋』の頂点を蹴って飛ぶ。
彼の足元にあった『コウモリ爆撃兵』の死体が転がるようにして天蓋の下へと落ちてく最中、それは霧散して消えていく――。
●善
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを迎えたのはナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)だった。
「お集まり頂きありがとうございます。獣人戦線において中国大陸『人民租界』に侵攻する多世界侵略船団『コンキスタドール』配下のオブリビオンが『須弥山型都市』の一つを破壊し、大量のオブリビオンを生み出そうとしています」
その言葉に猟兵たちは驚くことだろう。
つい先日、猟兵たちは『人民租界』が未だ『コンキスタドール』たちによって掌握されていない地域であると知ったばかりだ。
その一つの都市を破壊する、という予知は急を要するものであったことだろう。
「はい、ですが予知は『須弥山型都市』の一つに潜伏したオブリビオンの手腕によって放置すれば、確実に破壊されてしまうことを示しています」
とは言えどうしたものか。
猟兵たちも『須弥山型都市』に足を踏み入れるのは初めてだ。
となれば、オブリビオンの潜伏先を突き止めるのは難しい。ならばどうするのか。
「現地の獣人達と接触し、彼等の信頼を得ることが肝要であることでしょう」
猟兵たちが転移する『須弥山型都市』は、新月の夜には戦死者を悼む慰霊祭を行なうのだという。
ならば、彼等の信頼を得るためには、この慰霊祭を手伝うなどして彼等と接触するしかない。
どうやらナイアルテの予知では大鴉の戦禍階梯の青年がオブリビオンの潜伏先に心当たりがあるようであることが示唆されている。
慰霊祭で彼と接触し、信頼を得る事ができたのならば予知の結果を防ぐ事ができるだろう。
ただ、彼等は猟兵を含めた『余所者』の気配を感じ取る霊気を纏っている。
偽りや打算は通用しないと考えた方がいいだろう。
「その後はオブリビオンの潜伏先へと向かい、撃破するのみです」
死者を悼む祭り。
それは猟兵たちにとっては事態を好転させる切欠となるだろう。けれど、『須弥山型都市』に住まう人々にとっては、親しい者を亡くした憂いの日でもある。
「この都市に住まう獣人の皆さんは、元より中国大陸に存在していた方々。彼等が最も心を熱くさせるのは、やはり『信義と友情』なのです。そういう意味では、今回、慰霊祭の日に事件が起こったのは不幸中の幸いであると言えるでしょう」
彼等の心に寄り添うことこそが、大鴉の戦禍階梯の青年の心に近づく何よりの鎹となるだろう。
新たな戦域。
そして、新たな邂逅。
いずれも世界を如何なる方向に導くのか。
今は誰も知らない、その歌は今も世界に響いている。
名もなき歌を小さく口ずさんで、ナイアルテは猟兵たちを見送るのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
『獣人戦線』において『超大国』の一つ『人民租界』の戦域の予知が開放されたことにより、この地に迫る『コンキスタドール』との戦いを繰り広げるシナリオになります。
今回は山一つを改造してそびえ立つような『須弥山型都市』の一つが舞台となっています。
『コンキスタドール』のオブリビオンたちも強敵ではありますが、この地に住まう獣人たちは『封神武侠界』と『サイバーザナドゥ』の文明と技術と融合しており、中々の強さを持っています。
彼等と協力し、『須弥山型都市』の破壊を防ぎましょう。
●第一章
日常です。
オブリビオンによって破壊される予知がされた『須弥山型都市』の一つを訪れます。
住人である獣人たちは宝貝や機械化義体によって武装した者たちです。
皆さんが訪れた日は丁度、新月の夜。
慰霊祭が行われています。
大鴉の戦禍階梯の獣人である青年がオブリビオンの潜伏先に心あたりがあるようです。彼と心を通わし、信頼を得ると、その後の戦いで良いことがあるかもしれません。
●第二章
集団戦です。
第一章の結果、オブリビオンの潜伏先を突き止めました。
その潜伏先へと向かう最中、それを阻止せんとするオブリビオン軍団『コウモリ爆撃兵』との戦いになります。
彼等は通常のユーベルコードに加え、『天人飛翔』のユーベルコードを使います。回避率が上がる効果が発動しています。
●第三章
ボス戦です。
『人民租界』軍のオブリビオン『クロスファイア・コマンダー』との戦いになります。
戦いの場は都市の山頂、『有頂天天蓋』。
この場には多くの獣人たちが居ます。彼等をうまくノセることができれば、圧倒的な有利な状況を生み出すことができます。
彼等の心を熱くさせ、動かすのはやはり『信義と友情』です。
これらを踏まえた上で彼等の心に寄り添えば、強大なオブリビオンとて不利に追い込むことができるでしょう。
それでは、『獣人戦線』において『超大国』の侵略に抗う獣人たちと共に戦い抜く、皆さんの活躍を彩る物語の一片なれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『死者を弔う満天の星空で慰霊祭を』
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POW : 慰霊祭を執り行う手伝いをする
SPD : 戦死者の遺族を弔問する
WIZ : 死者へ安らかな祈りを捧げる
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
戦禍階梯は戦場にて生まれることの多い獣人である。
『熾天大聖』と名乗る青年は、夜空を見上げ、己の境遇を思い出す。多くの記憶が欠落しているけれど、彼はこの世界で多くの戦友たちを亡くした。
戦いが常であるのだから、仕方のないことである。
わかっている。
けれど、それでも哀しいと思ってしまうのだ。争いがなければいい。どうしてこんな悲惨な出来事が常に起こるのか。一刻も早く闘いが終わってほしいと願う。
けれど、『戦いに際しては心に平和を』抱くように彼の心の中には、邪悪を打ちのめす得も言われぬ快感が走ることもまた自覚していた。
「悪しきを懲らしめ、善を勧める……これを後暗く思うこともあるとは思いもしなかった」
見上げる先にあるのは、星空。
月光無き夜空に瞬く星の輝きは、鮮烈だった。
「いつまで戦えば良いのだろう。平和になるまで戦えばいいとわかっているのに。それでも僕は、敵を求めてしまう。敵などいなければいいと思うのと同じくらいに」
あの星のように人の平和への願いが叶えば良いと願うのと同じくらいに彼の心の中には打倒して然るべき悪を求める心がある。
「なんと不毛なことだろう。哀しくなるほどに」
己は愚かだと嘆く。
胸に抱える善と悪。揺れ、惑う心がどうしようもなく彼の『熾天大聖』の中をかき乱していく。
得難き答えを求め、彼は祈り満ちる『須弥山型都市』の慰霊祭の明かり灯る街中を一人歩む――。
サーシャ・エーレンベルク
亡き者を尊ぶ日に、新たな死者を出しては元も子もないわ。
献花用の花束を持って熾天大聖に接触しましょう。
私は余所者の身、けれどこの慰霊祭に参加させて欲しいの。
私も戦場で多くの友を喪ったわ。でも、今でも彼らの心は私と共にある。
彼らが遺した武器を手に、今でも戦っているの。
敵を求める気質は、戦火に飲まれれば誰もが持ってしまうもの。それなら、目的を見失わないようにしないとね。
望むは平和。その平和への道筋から目を逸らさなければ、貴方はきっと闘争の愉悦に呑まれることはないでしょう。
私がここに来たのは、この都市を破壊しようとしている者を探し出すためなの。
その存在について何か、知っていることはない?
人の心は揺れ動く天秤のようであったというのならば、その秤を持つ手在る者は戦うものであったことだろう。
争いを厭うが、戦禍の火の粉を払うためには争わねばならぬという矛盾。
空に月はなく。
星の瞬きは鮮烈。
故に人は星に亡き者たちを思う。
悼む心があるからこそ、人は己の心を慰める。他者の憂いに寄り添う事ができる者こそが善性と悪性の狭間で葛藤する者。
『熾天大聖』と呼ばれた大鴉の戦禍階梯たる獣人の青年の亜麻色の髪が風に揺れる。
星写す瞳が見上げる空は、何も答えてはくれない。
だから、サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)は白い髪を揺らし、手にした花束を手向ける。
「……貴方は」
「ええ、余所者の身。けれど、この慰霊祭に参加させて欲しいの」
告げる言葉に偽りはない。
己の手の中にある多くの『遺品』が告げているようだった。彼もまた己と同じであると。多くを戦禍の中に失った者であると。
だからこそ、わかるのだ。
例え、サーシャ自身がこの地にゆかりのあるものでなくても。
それでも同じ傷を心に持つ者であると。
「死者を悼むのに出自の所以は必要ないでしょう」
「ええ、そうね」
サーシャは手向けた花束を見やる。風に揺れている。花の美しさは心を慰めるものであった。
いつだってそうだけれど、人は手を伸ばした先に在るものを全て守れるわけではない。
身体も、心も。
全て守れないのである。
けれど、とサーシャは思うのだ。
「私も戦場で多くの友を喪ったわ。でも、今でも彼等の心は私と共にある」
「それは思い違いでないと言い切れるものですか」
「ええ。彼等が遺した武器を手に、今でも戦っているの」
「己の中に在る敵を求める心に踊らされているとは考えませんか」
「いいえ。敵を求める気質は、戦火に飲まれれば誰もが持ってしまうもの」
復讐も。
恩讐も。
いずれもが感情に起因するのならば、その因果はやはり戦禍の中にこそ存在するものである。
「なら、目的を見失わないようにしないとね」
「目的とは」
黒い瞳がサーシャの瞳を見据える。『熾天大聖』と名乗る青年は、わかっている。自分たちが余所者であることを。
けれど、彼女の言葉に偽りがないこともまた分かっているからこそ、尋ねるのだ。
如何なる思いでもってそれを、と。
「望むのは平和。その平和への道筋から目を逸らさなければ、貴方はきっと闘争の愉悦に呑まれることはないでしょう」
サーシャは瞳を伏せる。
自分が何のために此処に、『須弥山型都市』にやってきたのかを告げる。
「私が此処に来たのは、この都市を破壊しようとしている者を探し出すためなの。その存在について何か、知っていることはない?」
「オブリビオン。それならば、先刻、僕が屠りました。あれはおそらく斥候。次なる手を打つというのならば、軍勢を率いての力押しでしょう」
「けれど、敵の姿は見えない」
「それは……」
「なら、どこかに潜伏しているはずではないかしら」
その言葉に『熾天大聖』は考える。
潜伏する場所。つながっていく情報。けれど、まだ彼の中にある幾つかの事柄がつながっていかない。
「一人より二人、とは言わないかしら」
その言葉と共に手を差し伸べる。人は一人では生きていけない。戦うこともままならない。ならば、と差し出す手は、『信義』に値するものであると『熾天大聖』に思わせるものであったかもしれない――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
どれだけ私達が生命の埒外が居ようとも、全てに手を伸ばせる程では無い…ね
いやそもそも、全てを救おうって考え自体が傲慢そのものか
んー、こういう時にどんな言葉をかければいいか分かんないや
熾天大聖はどう思う?
私はさいつかは出来る限り全てを救う、傲岸不遜なデミウルゴスに至れれば…とは思う
思うけど、結局そこへ至る為の過程が楽しいんだ
その中ではきっと色んな事があるだろうけど…まあ、気にしない事にしてる
心の赴くままに、自分自身の心に従えない人はきっと誰も助けられないと思うしね
だから別に…良いんじゃない?
敵を求めたって、戦いを求めたって
ノーテンキくらいが丁度良いんだよ
さあ情報を精査しようか
私達の敵は何処だろう?
どれだけ『宝貝』を手繰る力量があろうと。
どれだけ『戦闘義体』の性能が高かろうと。
それでも届かぬものがある。己の指の隙間から零れ落ちていった生命がある。それを亜麻色の髪の青年、大鴉の戦禍階梯たる獣人『熾天大聖』は思う。
後悔ばかりが満ちている。
けれど、その後悔を甘美なものとするのが敵の存在であった。許せないという思いは、激情であった。
同時にどうしようもなく。
「敵を打ち倒すという快感を身体が覚える」
猟兵と接触した彼の心にあるのは仄暗い悪性であったことだろう。
それを悪性と呼ぶのならば、であるが。
「どれだけ私達が。生命の埒外がいようとも、全てに手を伸ばせるほどではない……ね」
慰霊祭の灯火を見上げながら、月夜・玲(頂の探究者・f01605)は思う。
そもそもこの、全てを救おうという考え自体が傲慢そのものであるように彼女は思えたことだろう。
それは『熾天大聖』もまた同じ思いを持つ者であった。
けれど、望んでしまう。
生命を助けることのできる力を。あまねく全てを救う力を求めてしまうのだ。
「んー、こういう時にどんな言葉をかければいいかわかんないや」
自分は聖人君子ではない。
生命の埒外たる猟兵であっても、全てを正しく理解できるわけではない。
だから、惑うこともあるだろう。揺れ動くこともあるだろう。確かなことは半歩進んだだけで不確かなものへと様変わりするのだから。
「君はどう思う」
「……僕は。それでも、正しいことをしたいと思うのです。惑いながらも、正しさの先に手を伸ばせるような」
そんな存在になりたいと彼は願う。
その黒い瞳に映すのは星。
「私はさは、いつかはできる限り全てを救う、傲岸不遜なデミウルゴスに到れれば……と思う。覆うけど、結局そこへ至る過程が楽しいんだ」
結果は結果でしかない。
因果を見るのならば、その道程をこそ見定めねばならない。様々な困難が待ち受けるだろう。どうしようもないこともあるだろう。
全てに報いることができるとは思えない。
けれど、と玲は頭を振る。
その瞳が見据える。
「心の赴くままに、自分自身の心に従えない人はきっと誰も助けられないと思う」
「それが悪道に走ることになっても、ですか」
「いいんじゃない? 君のいう所の悪道とは一体なんだろうね? 敵を求めることかい。それとも戦いを求めることかい」
『熾天大聖』は頷く。
平和を求め、戦うという矛盾。
戦いのさなかにこそ平和を求める。平和の内にこそ争いが満ちる。
そのことを知るからこそ、躊躇う。迷う。惑う。どうしようもなく揺れ動くのだ。
けれど、玲はあっけらかんと笑うのだ。
「ノーテンキぐらいが丁度良いんだよ。君の進む先に如何なる結末が待っているのだとしてもさ、君の道程は君にしか刻むことができないものなんだからさ」
だから、と玲は笑む。
笑み、手を伸ばす。
「今、君がこの都市を守りたいと。人を守りたいと思うことが全てさ。さあ、情報を精査しようか。私達の敵は」
「オブリビオン……それは」
「そう。君は敵は大軍で押し寄せる、と予想した。それはこれまでそうだったから、だよね。けど、今回は違う。なら、どうすると思う?」
「……外部から、が無理であるというのなら。内側から突き崩すが定石」
「そう。ならさ、この雑多な『須弥山型都市』を突き崩すのは」
玲は目星をつける。
天蓋。
空を覆う『有頂天天蓋』を支える支柱の如き場所――。
大成功
🔵🔵🔵
笹竹・暁子
※アドリブ連携歓迎/オーバー分は参照扱い◎
メイガス改造の部品調達時に、人民租界の技術力を垣間見たけど、現地に来ると圧倒されるものがあるわ…
けれどこれも超大国の影響の産物と思うと、馴染みのある慰霊祭こそが本来の文化だって静かな主張をしているのかもしれない。
そうよね。自分たちの文化を上書きされる。
どんなに便利でも当事者にとって…冗談じゃないのよ。
【指定UC】の糧食班と共に、出店や炊き出しのお手伝いをしているわ。
私自身は客引きもとい、案内・整理員役になるけれど
あら、余所者だと分かる?
ええ、私は雀のお宿の者。…お隣の日本で似たような目にあった一人。
正直に言えば、私は幻朧帝国との戦ういつかの日の為に、繋がりを作ろうとしているわ。世界を飛び回っているのも、そのため。
……けれど、私は「雀のお宿」の仲居。
訪れるお客様を、ヒトを、笑顔で過ごし日々へ帰ってもらう。
それは決して忘れないわ。
立派な翼を持つ空の同胞さん。
あなたの信念は何?
もし迷いがあるならば――
(肉まんを掴んできて)それはお腹が減っているからよ!
多くの人たちに幸いがあるようにと願うことは尊いことであろう。
しかし、その願いは多くの犠牲を強いるだろう。多くの棘を心に生み出すことになるだろう。いずれも、人の心が在るがゆえに生み出されるものである。
人の良心は美しい。
美しいが故に人を傷つける棘を生み出す。
無自覚に。
だからこそ、と思うのだ。
大鴉の戦禍階梯たる獣人『熾天大聖』は、そう思う。己の心にある悪性を否定しきれぬことを。平和を求めながら、争いもまた同時に求めている。
他者を守りたいと願いながら、仇為す者を打ちのめす快感に心が震える。どうしようもないことなのかもしれない。
慰霊祭の灯火が煌めく。
空には星。
鮮烈に輝く星は、月光無き夜であるからこそ強く輝き、亡き者たちの面影を映し出すのかもしれない。
それがこの『須弥山型都市』に残るかつての文化であった。
『武侠封神界』と『サイバーザナドゥ』の文明と技術が融合した『人民租界』にありて、残されたそれを思う。
笹竹・暁子(暁を臨む一夜の為に ~雀のお宿の外仲居~・f39919)は少なくともそうであった。
「メイガス改造の部品調達時に、『人民租界』の技術力を垣間見たけど、現地に来ると圧倒されるものがあるわ……」
自然階梯たる暁子の姿は雀そのものであった。
忙しなく炊き出しを行っているのは、慰霊祭であるからこそお腹を満たした方がいいと彼女が考えているからだ。
いや、それ以上に、と思う。
確かにオブリビオンの『超大国』の脅威は拭えぬものであったけれど。それを振り払うのが多世界の文明と技術なのだとしても。それでも馴染みのある慰霊祭こそが本来の文化だと静かな主張をしているように彼女は思えたのだ。
「そうよね。自分たちの文化を上書きされる。どんなに便利でも当事者たちにとって……冗談じゃないのよ。さあ、出撃!「雀のお宿」の仲間たち(アビリティ・オブ・ナンバーズ)!」
「お任せチュン!」
「ボクたちの美味しい料理で哀しい気持ちは!」
「ええ、アタシたちが満腹幸せな記憶に!」
階梯の異なる雀獣人たちが飛び出す。そう、『雀のお宿』が来たからには、少しも哀しい思いはさせない。
少なくともお腹が空いてしまうなんてことはないのだ。
「さあ、おいでになって。美味しいご飯をどうぞ」
暁子は雀の小さな体躯をもってはばたきながら、道行く人々を引き寄せる。
「……失礼。御婦人にこのようなことをお尋ねするのは無礼であると存じますが」
そんな彼女のもとに一人の戦禍階梯の……大鴉の獣人の青年がやってくる。
戦闘義体の脚には『宝貝』が装着されている。両腰に備えられた二刀は彼が戦うものであることを示していた。
「この都市を出自とされている方ではないと」
「あら、余所者だと分かる?」
「はい。纏う霊気が異なります。おそらくオブリビオンではないことも」
「ええ、私は『雀のお宿』の者……お隣の日本で似たような目にあった一人」
そんな者がどうして此処に、と青年の瞳が告げる。
「正直に言えば、私は『幻朧帝国』と戦ういつかの日の為に、繋がりを作ろうとしているわ」
「即ち、獣人たちの抵抗を一過性のものではなく束ねようと」
「そういうことになるわ。世界を飛び回っているのも、そのため」
「不躾なことを言いました。ご容赦いただければと」
「気にしないで。私は笹竹・暁子」
「僕は『熾天大聖』と、そう呼ばれています。貴方は猟兵と呼ばれる方々。オブリビオンを追って、と考えても?」
その言葉に暁子は頷く。
けれど、彼女は言葉を転ずる。
「猟兵……けれど、私は『雀のお宿』の中居。訪れるお客様を、ヒトを、笑顔で過ごし日々へ帰ってもらう。それは決して忘れないわ」
「その志は、僕にも理解できます。尊きことであると」
「こちらからも良いかしら。立派な翼を持つ空の同胞さん」
暁子の言葉に『熾天大聖』が頷く。
その瞳にはゆらぎと迷いがあった。己の中にある二つに揺れ動いている。それは彼にとっては己の未熟を証明するものであったかもしれない。
けれど、暁子にとってはそうではない。
凝り固まった考えよりは良いものである。だから、尋ねるのだ。
揺れ動く心を持つのならば、その揺らめきはきっと信念があるからだ。
譲れぬ支点の如きものがあるからだ。
「あなたの信念は何?」
その言葉に詰まる『熾天大聖』。
わかる。答えられないのだろう。確かに胸にあるものを言葉にできないでいる。それが若さというのならば、そうであっただろう。
けれど、好ましいと思える。
「それ、は……」
「言葉にできないほどに、己に迷いがあると思っているのね。それならば――」
彼女は小さな雀の身体で飛び、炊き出しを行っていた『雀のお宿』の調理場からむんずと肉まんを掴んで来て、『熾天大聖』の前に差し出すのだ。
「きっと、それはお腹が減っているからよ!」
胃に余白があったとしても、それは心の余裕があるわけではない。
眼の前の『熾天大聖』の顔色と身体を見ていればわかる。
食べていないのだろう。
懊悩が、食事を許さないのだろう。そんなこと許せるわけがない。
「今は食べて。そうして、生きているってことをわかりなさいな。食べ物って、生命ってこんなにも暖かいものなんだってことがわかれば、自ずとあなたの信念も言葉にできるはずだわ」
そう言って暁子は『熾天大聖』に肉まんを押し付ける。
暖かい。その暖かさが彼の中にある心の澱を徐々に溶かし、ほぐしていく――。
大成功
🔵🔵🔵
シプラ・ムトナント
【WIZ】
この世界の出ではありますが、わたしは中国という国には馴染みがありません。
大鴉の方に声を掛け、祈りの作法を教わりながら接触を図ります。
わたしも祈りを捧げます。
国は違えど、志を同じくしたその魂が、どうか安らかでありますようにと。
戦う度に、|軍人《わたし》が必要とされない未来は近づくけれど。
それでも、わたしはその先にあるものを見てみたい。
その為の戦いが、誰かの命や心を助けると……わたしはそう信じています。
隠し事はしません。わたしがここへ来たのは、この都市に危機が迫っていると知ったからです。
このままでは多くの命が失われますが……こちらから敵を叩けばまだ間に合う。何か、ご存知ではありませんか?
6つのオブリビオンの『超大国』が世界を侵略する。
その最前線である『獣人戦線』は世界各地で緊張状態が続いている。戦乱が長引き、平和というものの意味すら問いかけられることが薄まってきている。
何処まで行っても戦いばかりだ。
シプラ・ムトナント(鋼の衛生猟兵・f39963)は中国大陸、『人民租界』に存在する『須弥山型都市』の一つを訪れていた。
見上げる空は星空。
月光無き、新月の夜に都市の街並みに灯るは、死者を悼む燈火であった。
此処またそうなのだ。
戦乱に人が死ぬ。
死す者は戻っては来ない。例え、オブリビオン、過去の化身として舞い戻ることがあろうとも、それはすでに過去に歪んだ者である。
生命とは不可逆なるものであることをシプラは知っている。
「国は違えど、志を同じくしたその魂が、どうか安らかでありますように」
膝を付き、手を組む。
それは異国の祈りであっただろう。けれど、『須弥山型都市』に住まう人々は、理解する。例え、余所者であると理解できるのだとしても、シプラの祈りは偽りではなかった。
心から祈っていた。
戦った者も、戦えなかった者も。
死した生命、その魂の在処がどうか安寧であるようにと。
「……他の方はわたしのことを余所者と知りながら、そっとしておいでです。ですが、貴方は?」
シプラが膝を上げ、振り返る。
そこに立っていたのは大鴉の獣人。戦禍階梯である青年の亜麻色の髪が揺れ、黒い瞳がシプラを見つめていた。
拱手。
右拳を右手で包み込む。その礼節足りる一礼をシプラは知らなかったが、しかし、それは中国という大陸に馴染みがないせいであった。
けれど、死せる者の魂の安寧を願う祈りを捧げる彼女の姿に、礼を失するものであると告げることはない。それは意味のないことであったからだ。
「僕は『熾天大聖』と。貴方は猟兵……それも軍人とお見受けします。失礼ながら、此処にいらっしゃったのは」
「無論、戦うためです」
しっかり、と鮮明な声で彼女は告げる。
物腰は柔らかく羊毛のようであったけれど、秘めたる意志は鋼鉄。
「戦うため」
「はい。わたしが求めているのは未来。戦うたびに、|軍人《わたし》が必要とされない未来は近づくけれど。それでも、わたしはその先にあるものを見てみたい」
「故に戦うと。争いを厭いながら戦うと、そう仰るのですか」
「そのための戦いが、誰かの生命や心を助けると……わたしはそう信じていますから」
だから、躊躇いはないのだとシプラは告げる。
「隠し事は致しません。わたしが此処へ来たのは……」
「この都市に危機が迫っている、そうでしょう? 聞き及んでいます。どうか試すような言葉をお許しください。僕は『熾天大聖』。あなた方は僕と志を同じくするのですね」
「何か、ご存知なのですね?」
「はい。敵は斥候を放っていました。それは僕が屠りましたが……次なる手を考えれば、大軍を率いる、とも。けれど」
そうではないのだと頭を振る。
シプラは理解した。
ここで敵を叩けば、予知は起こらない。ならば、先にオブリビオンの潜伏する場所を見つけなければならない。
その鍵を握っているのが眼の前の『熾天大聖』。
「おそらく、敵は『有頂天天蓋』……支える下に」
彼が指差すのは天蓋の如き都市の一部。そこは、無数の獣人たちが慰霊祭を粛々と行っている場所でもある。
その支柱の下にオブリビオンがいるというのなら。
「急がねばなりませんね」
シプラは迷うこと無く、彼の指差す先へと走り出すのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
風花・ゆきみ
どんな国や世界でも、大切な人を亡くす痛みもそれを弔う気持ちも変わらないのであります
まずは慰霊祭にしっかり参加するのであります!
お花を献花して祈りを捧げて
やり方はこの地の風習に習います
そして熾天大聖さんを見かけたら声をかけるのであります
戦乱で多くの人を失った悲しみは分かるのであります
だから一緒に祈らせて頂ければと思います
……私達は生まれた時から戦い続きなのですよね
だから平和な世界がイメージしづらいのかもしれないです
いつかそんな世界になれば、受け入れられる時が来るんじゃないかなと思うのです
その時を目指せるよう一緒に頑張るのであります
私は私のやり方で、あなたはあなたのやり方で
きっと大丈夫であります!
人の生命は失われる。
いずれの場合においても喪われたものは戻ってはこない。どんなに過去の化身が故人の姿を伴って舞い戻るのだとしても、それは違う存在である。
少なくとも『須弥山型都市』に住まう獣人たちは理解していただろう。
身にまとう霊気は余所者を明確に判別する。
故に彼等は猟兵達であってもひと目で『須弥山型都市』の外から来た者たちであると理解している。
だから、だろうか。
自分が見られている、と風花・ゆきみ(戦場の綿雪・f39971)は感じる。
一挙手一投足。
全てが値踏みされているようにも思える。けれど、それも無理なからぬことだった。余所者とは即ち、この都市に不和を齎すものである。不穏なる空気。
けれど、ゆきみは構わなかった。
どんな国も世界も。
大切な人を亡くす痛みも、それを弔う気持ちも変わりないものである。
なら、小さなた体躯ではばたき、一輪の花を捧げるのだ。
花の一輪で何が変わるかと問う者もいるかもしれない。けれど、そうしたいと思った気持ちに偽りはない。
「……」
そんなゆきみを見る獣人たちの視線は幾分和らいだようだった。
悪いやつではなさそうだと理解したのだろう。
「……花を」
「はい、花を」
ゆきみのそばに降り立つ大鴉の獣人を彼女は見上げる。
膝をついて彼女の小さな体躯に視線を合わせる亜麻色の髪の青年の黒い瞳がゆきみをみている。
その瞳に哀しみの色を見たのは、彼もまた多くを喪ってきたからだろうと理解できる。
「戦いが哀しいですか」
「哀しいと思わぬ者もいないでしょう。厭う者こそいれど、好む者など……」
いや、と頭を振る青年の瞳にゆきみは揺れ動くものを見ただろう。
「戦乱で多くの人を喪った哀しみは分かるのであります。だから一緒に祈らせていただければと思いました。あなたは」
「『熾天大聖』と名乗っております。小さき翼のお嬢さん」
彼が探していた青年だとゆきみは理解する。
戦禍階梯。
人の姿に翼を持ち、その手足は戦闘義体。足元には宝貝だろうか、車輪が備わっている。
嘴のような仮面を外した青年の顔はまだどこかあどけないと思える顔立ちであった。
「……私たちは生まれた時から戦い続きなのですよね」
「ええ、戦いのさなかにあって、戦いから逃れることのできない宿命めいたものを感じております。ですが、それも『平和』のためと思えば」
辛くはない。いや、辛いと思う時間さえ許されないのだろう。
「平和な世界がイメージし辛いのかもしれないですね。でも、いつかそんな世界になれば、受け入れられる時がくるんじゃないかと思うのです」
何を、と『熾天大聖』は問う。
ゆきみは応える。無論、揺れ動く己の心である。
悪性と善性に揺らぐからこそ、良心が生まれるのである。ならば、ゆきみは告げるのだ。
きっとそんな揺れ動く心も肯定できる日がやってくるはずだと。
「その時を目指せるように一緒に頑張るのであります」
「そんな日が来るでしょうか」
「私は私のやり方で、あなたはあなたのやり方で」
それは自信たっぷりの言葉だった。
ゆきみは揺れ動く心こそを良心だと思った。ならば、目の前の青年にはとびきりの良心が宿っているのだろう。
なら、とゆきみはちゅん、と小さく鳴いて告げるのだ。
「きっと大丈夫であります!」
だから、とゆきみは羽撃いて夜空を飛ぶ。
「あなた方が猟兵であるということはわかります。おそらくオブリビオンは」
「あっちなのでありますね!」
ゆきみは『熾天大聖』が言わんとすることを理解する。最初から彼は自分が猟兵であるとわかっていたのだ。
彼が視線が示す先、『有頂天天蓋』の根本、その支柱へとゆきみは小さくとも白き翼を羽撃かせ、飛ぶのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
エイルさんの凸とか、いきなり下ネタですか!?
(それに『なぜ』といいいますか、エイルさんがステラさんと、
極力接触しないように行動しているように見えてしまうのですが……)
と、これは口にだしてはいけないですね。
それにしても、ひさしぶりにみると破壊力がすごいです。
しかもなにかくねくねに悶えちゃってますし、
どうみても不審者メーターのレッドゾーン、振り切ってる感じですよね。
これ以上いろんなものに目覚めたら、
いよいよ世界から危険分子認定されそうです。
っと、歌、歌うんですか?
わかりました。
ステラさんがその気なら、わたしはもちろん応援しますのですよ!
光の勇者が、その全力を持って伴奏させて痛ぁ!?
ステラ・タタリクス
【ステルク】
|エイル様《主人様》の! 香りがしまぁぁすっ!!
これはエイル様凸案件!?
いつの世もあの方は周りを巻き込まずにはいられないのですね
というか!なぜ!貴方の|メイド《犬》を巻き込まないのか!!
(四つん這いの態勢から地面をだんだん叩く)
では行きましょうルクス様
何引いているんですか前に進まないとエイル様には会えませんよ?
エイル様…じゃな、この世界では熾天大聖様ですね
見事にサイザナのメリサ様と封神武侠界の熾天大聖様の特徴が混じった獣人とは…私、何かに目覚めそう
さて
歌などどうでしょう?
名も無き…いえ、壊れない歌
暁の歌
私も聞いただけなので再現度は微妙ですが
貴方に捧げるならこの歌しかない、気がします
「|『エイル』様《主人様》の! 香りがしまぁぁすっ!!」
開口一番に叫ぶ声が『須弥山型都市』の街中に響き渡る。
そうでなくても猟兵たちはこの都市の『余所者』として身にまとう霊気によって判別されているのだ。酷く目立つ。
そんな慰霊祭の空気を引き裂かんばかりにステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は叫んでいた。
正直に言えば獣人たちの誰もが、このやべーメイドに慄いた。
というか、関わってはならんあれであると理解しただろう。
「これは『エイル』様凸案件!?」
「何いきなり下ネタ突っ込んでるんですか!?」
嫌な意味で注目を集めてしまったステラにルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は思わず突っ込んでしまった。
だが、ステラは構わなかった。
己の情動の赴くままに叫ぶ。
「いつの世もあの方は周りを巻き込まずにはいられないのでうね。というか! なぜ! 貴方の|メイド《犬》を巻き込まないのか!!」
突っ伏し、四つん這いで地面をステラはだんだんと叩く。
やっぱりやべーメイドである。
そんな彼女の様子を見てルクスは心中で思う。
『なぜ』って。そりゃあ。
『エイル』と呼ばれるステラが『主人様』と慕う存在が彼女に極力接触していないように行動しているように見える。
それはちょっと言葉にするといけないあれなので、ルクスはお口チャックしていた。いや、言葉にしたら絶対面倒なあれそれになるとわかっているからではない。
面倒くさいことになったら、絶対累が及ぶのは自分なので。それを避けたいってだけではないのである。多分。
「それにしても、ひさしぶりに見ると破壊力がすごいです」
ルクスは地面でのたうつようにくねくねしているステラに、どう見ても不審者のメーターがぎゅんぎゅん跳ね上がっているのをルクスは別の意味で心配していた。
どう考えてもこの都市の治安機構的なあれがそれしてお縄になる感じであった。
だが、そんなルクスの心配を他所にステラはすくっと立ち上がる。
ひとしきり悶えたからもう大丈夫ということなのだろうか。発散できたのだろうか。
「では行きましょうルクス様」
「えぇ……」
「何引いてるんですか。前に進まないと『エイル』様には会えませんよ?」
「えぇ……」
ルクスは二度引いた。
何事もなかったかのように振る舞っているステラもステラである。
しかし、そんな二人の前に降り立つ影があった。
それは大鴉の翼。
戦禍階梯。亜麻色の髪。黒い瞳。
「失礼致します。僕は『熾天大聖』。この街を……」
「……」
ステラがブルブル震えている。
ルクスは、あ、これはやべーやつではないかと思った。暴走するあれじゃないかと。
だが、ステラはフリーズしたように固まっている。
いや、違う。
ステラの唇が高速で動いている。小さな声。隣りにいるルクスだけが聞き取れる小さな声で、彼女は何事か呟いていた。とっても早口だった。
「『エイル』様……じゃな、この世界では『熾天大聖』様ですね。いえですがこれは。ほんもの? 見事にサイザナの『メリサ』様と封神武侠界の『熾天大聖』様の特徴が入り混じっった獣人とは……」
うわ、とルクスは思った。
なんか別の扉を開きかけているようである。
これ以上いろんなものに目覚めたらいよいよ世界から危険分子認定されそうだと思った。
やべーメイドが、マジでやべーメイドになってしまう。
「あの……御二方は猟兵……いえ、何処かでお会いしていませんか?」
「……?」
どういうことだと、ステラは思う。
本能は告げている。
けれど、それならば、自分たちを知らないということはないはずである。どこかで会っていないかと問う言葉。初対面のはずだ。けれど、『熾天大聖』と名乗る青年は二人に何処か懐かしさを覚えているようである。
「私、何かに目覚めそう」
「ステラさん何言ってんです!?」
「いえ、失礼。取り乱しました」
「……?」
「本日は慰霊祭とお聞きしました。せっかくです、歌などどうでしょう? 名もなき……いえ、壊れない歌。暁の歌」
「え、歌、歌うんですか?」
ステラの言葉にルクスが目を開く。なんか知らないが『熾天大聖』とステラの間にただならぬ空気が流れているような気がする。
なら、とルクスは応援しなければならないと思ったのだ。
「わかりました! ステラさんがその気なら、わたしはもちろん応援しまうのですよ! 光の勇者が!」
「勇者」
「ええ、勇者ルクスが、その全力を持って伴奏させて痛ぁ!?」
『熾天大聖』の視線にルクスが張り切った瞬間、背後からツッコミという名のスリッパが飛ぶ。
こんな街中の往来でルクスの演奏が響こうものなら、今度こそ『須弥山型都市』からつまみ出されてしまう。
「いい加減にしてください。こんな往来で破壊音波魔法など」
「いや、だから奏魔法ですから!?」
そんなやり取りを見て、『熾天大聖』は笑った。
年相応の顔で。
青年より幼い顔で、笑った――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
イーブン・ノルスピッシュ
連携アドリブ歓迎
(ドッグタグの束を握りしめる)
死者を悼む日か……
墓標を作り冥福を祈ってもらえるだけでも幸運だ
いつか俺にも、そんな安息を得られる日が来るのだろうか?
件の大鴉の獣人を探しがてら
慰霊祭に参加する人々にも
ドッグタグに刻まれた名前に覚えが無いか尋ねて回ろう
おそらく嘗ての仲間のものだと思うが、自分でも確信が持てない
それでも、これが俺に唯一遺る|もの《よすが》だ
(ドッグタグに関する情報は収穫なし)
平和の為に
誰かの為に
自らを擲って戦える者はそう多くない
まして何度も生き残る実力を伴う者は尚更に
俺はお前の戦いに敬意を表する
この街の獣人と
一足先に自由になった者達の安息の為に
共に戦わせてほしい
掌の中の金属の板……認識票――『ドッグタグ』の束の冷たさをイーブン・ノルスピッシュ(戦闘猟兵・f40080)は感じ取ることができた。
悪霊である己にとって、それは己をこの世に止める楔のようなものであったことだろう。
『人民租界』、『須弥山型都市』の一つの空を見上げる。
そこに月光はない。
星空が広がっている。
街中には燈火があふれている。いずれも死者を悼むためである。この『獣人戦線』の世界では、争いが常である。
終わらない戦争。
オブリビオンの『超大国』との戦いは苛烈であった。明日もわからない。その先のことはもっとわからない。
暗闇の中を手探りで進むしかなく、その先の道が絶たれていたのだとしても、立ち止まることさえできないのだ。
「死者を悼む日か……」
イーブンは『須弥山型都市』の街中を歩く。
人々の表情は幾分晴れやかだった。弔うこということは、別れを認識することである。もう二度と会うことのできない者への心を慰めるものである。
だから、イーブンはこの『人民租界』で死せる者を幸運だと思った。
墓標を作り、冥福を祈る者たちがいる。
それはあまりにも。
「いつか俺にも、そんな安息を得られる日が来るだろうか?」
歌が響いている。
誰かを思う歌か。それとも、これから死せる者を思う歌か。
いずれにせよ、イーブンはその歌声に惹かれるようにして歩み、そして大鴉の戦禍階梯と出会う。
青年だった。
年若い、とイーブンは思ったし、また歌を聞く彼の顔が幾分か年相応のものになっているように思えたのだ。
「……この名前に覚えがないだろうか」
これまでの道中でもイーブンは訪ねてきた。認識票の束。自分の名であるかどうかもわからない。誰の名であるかもわからない。
いつの間にか手のうちにあったもの。
それを掲げて見せる先に亜麻色の髪が揺れている。黒い瞳が認識票のくすんだ鈍い輝きを写し、煌めく。
「……いえ、残念ながら。これは」
「かつての仲間のものだと思うが、自分でも確信が持てない」
「お役に立てず申し訳ないです。貴方は」
「流れてきた余所者だ」
イーブンはドッグタグを握りしめる。金属がこすれる音が聞こえる。情報は何も得られなかった。収穫はなかった。
わかっている。
けれど、と思わずには居られなかった。
「大切なものなのですね」
「この中に己の名はないのかもしれない。確信一つ持てない。だが、それでもこれが俺に唯一遺る|もの《よすが》だ」
だから、とイーブンの瞳が亜麻色の髪の青年を見下ろす。
「ええ。確かに貴方は余所者の霊気を纏っておられる。ですが、その在り方を僕は知っている。猟兵、というものなのでしょう。僕は『熾天大聖』。あなたと同じ方々を探していました」
それは共に戦うという意味であるとイーブンは理解しただろう。
今も黒い瞳は揺れ動いている。
己の中にある悪性と善性の間に良心というものを抱えながら惑い続ける者。
「何のために、と問いかけてもいいか」
「それは平和のために。人の為に」
「自らを擲ってか」
「はい。そうすると己の心が叫ぶが故に」
その言葉にイーブンは頷く。年若い者がそう告げているのだ。惑いながらも、揺れながらも、しかしその黒い瞳がまっすぐにイーブンを見上げているのだ。
ならば、とイーブンは一つ頷く。
「俺はお前の戦いに敬意を表する」
「僕は……」
「お前がどれだけ惑うのだとしても、そのまどい迷う道こそ正しいものであると知れ。いつだって、正しい道は遠回りに見えるし、険しく厳しいものである」
だから、とイーブンは躊躇わずその道を征く者に敬意を抱く。
『熾天大聖』は名乗り、拱手でもってイーブンに乞うのだ。
「どうかこの街の住民たちの為に、共に」
「無論。俺から告げるつもりだった」
共に戦おうと。
その言葉こそが、人の心に熾火の如き意志を宿す、信義へと至る――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
獣人達に接触し、慰霊祭の手伝いや、
彼等の仕来たりに倣って戦死者を悼みましょう。
「生れも、戦場も違いますが、それでも戦いに生きるモノとして、
戦って死んでいった者達に、敬意と安寧を願いたいのであります!」と、
偽らざる本心でもって、説得いたします。
……そして戦死者達に誓うのです。
守るべきを守れず、死に切れもしなかった自分ですが、
だからこそ、今この地を蝕ばまんとする破滅を必ずや壊すと。
自分はその為に在る…だから、どうか安らいでいてくださいませ。
|闘争心《こころ》改たにした所で、
獣人達の方々に熾天大聖なる方に会いたいと、お願いしてみます。
ダメだったら……『眼倍』で頑張ってオブリビオンを探しましょう!!
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は猟兵である。
その前に兵士であるし、戦いの最中を疾駆することを宿命として持つ者である。
故に、この世界……『獣人戦線』にてオブリビオンの侵略に生命を懸けて抵抗する者達に敬意を持つのだ。
当然のことにも思えただろう。
けれど、小枝子にとって、それは難しいことの連続だった。
壊すこと、戦うことは息を吸うようにできることだった。
それ以外のこと。
即ち、慰霊祭の手伝いをするとなれば、それはあまりにも難しいことだった。
力加減とでも言えばいいのだろうか。何をやっても壊してしまうのだ。
正直に言えば、しょんぼりしてしまっていたかもしれない。
「生まれも、戦場も違いますが、それでも戦いに生きるモノとして、戦って死んでいった者達に、敬意と安寧を願いたいのであります……」
それは偽らざる本心であった。
けれど、それでもやっぱり手伝いはうまく行かず、『須弥山型都市』の往来で一人肩を落としていた。
獣人たちは小枝子が余所者であるとわかっていた。
彼女を外に出したのは、別に遠ざけたかったからではない。戦いに生きてきたものであることはわかるし、そして疲れていることもわかっている。
そうであるべきと造られた者であるから、そこに疲れは介在しない。
それでも積雪のように積もった疲労というものは如何ともし難い。だから、獣人たちは小枝子に少し休むように告げたのだ。
「……せめて誓いましょう」
小枝子は慰霊の歌声響く街中で捧げられた一輪の花の前に膝をつく。祈る、というのはわからない。だから誓うのだ。
「守るべきを守れず、死にきれもしなかった自分ですが……」
だからこそ、今この地を蝕ばまんとする破滅を必ずや壊すと。壊すことでしか己という存在を示すことが出来ない己であっても。
それでも自分という存在が、そのためにこそ在るのだと死せる者たちの魂に誓いたいと思ったのだ。
「それは死に場所を求めているということですか」
小枝子の小さく呟いた言葉に、彼女の背後から声が降り注ぐ。
振り返れば、そこにあったのは一人の青年であった。
大鴉の翼を持つ戦禍階梯。亜麻色の髪と黒い瞳を持つ青年。何処か小枝子は鋼鉄の巨人が疾駆する世界で出会った者の面影を見たかもしれない。
「……自分が兵士だからであります。そのために戦うのであります。存在意義を。何一つわからぬことばかりの世界で、たった1つだけ確かなことのために示すために」
「『熾天大聖』と申します。猟兵の方とお見受けしました。貴方と同じ方々を探していました」
「貴殿は……そうですか、貴殿が『熾天大聖』。知っているのでしょう」
「はい。オブリビオンの所在について」
似ているのかもしれない。
二人は一瞬互いのことをそう思った。
単一の目的のために存在するかのような、己の中にある意義。
それを互いの瞳の中に両者は見たことだろう。
「ならば、征きましょう」
言葉は多く要らなかった。なぜなら、互いがどうすべきかを瞬時に理解していたからだ。似通ったものを持つ者同士、言葉はなくともわかるものがある。
「破滅を壊しましょう。そうすることが、今日という日に死した者たちへの手向け。そして今を生きる人々へと安寧を齎すことになるのでありますから」
だから、と小枝子は『熾天大聖』が差し伸べた手を取る。
他人のような気がしない。
そこには、確かに『信義』とい名の架け橋が懸けられたように、そんな風に小枝子は思うのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
オーガスト・ガンバレル
【心境】
「普段はゾルダートグラードやワルシャワ条約機構の連中とドンパチしてるから人民租界の領域に来るのは初めてくまー。」
ま、ろくな奴らじゃないのは共通なんだがな。
【行動】
判定:SPD
慰霊祭か…
オブビリオンのくそ野郎どもがいなければ出なくて済んだ犠牲者ばかりなんだがな。
まあ、戦場が故郷なんて言うつもりはないが、この身に染み付いた血と硝煙の匂いを線香の煙で洗う日があってもいいだろう。
献花台に途中で購入した花を献花して、焼香台に線香を焚いて来るくまー。
さて、この線香の煙の数を増やさないためにも…なんでもいい。
情報はないか?
オブリビオンの侵攻は多くの生命を奪う。
当然のことだ。争いが起こるのならば、失われる生命もまた膨大なものとなる。長きにわたる抵抗は、さらに血を流すことになるだろう。
それが常であった。
喪われた生命が作る血河が脈々と紡いできたのは、明日へのか細い希望だ。
オブリビオンに侵略されてしまえば、全てが過去に沈む。
メーデーと誰かが叫んだ声に応える者たちが居たからこそ、この世界は未だ戦うことができている。
オーガスト・ガンバレル(8月のキムンカムイ・f39985)にとって、それは戦火の煤の如き仄暗い未来であったのだとしても、そこにロマンを見出すことができたからこそ、今日まで戦い続けることができたことを理解する。
「普段は『ゾルダートグラード』や『ワルシャワ条約機構』の連中とドンパチしてるから、『人民租界』の領域に来るのは初めてくまー」
見上げる『有頂天天蓋』。
それは『須弥山型都市』の空を覆うような天蓋そのものであった。その先にあるのは月光なき星空。
新月の夜に死せる者たちを悼む慰霊祭が執り行われる。
この都市の習わしであった。
「ま、あんな連中がいなければ、でなくて済んだ犠牲者ばかりなんだろうな」
オーガストは『須弥山型都市』の街中に掲げられた燈火を見やる。
どれもが死者を悼むものであった。
街中に響く歌声も。備えられた一輪の花も。
いずれもが人々の心を慰撫するものであったことだろう。通りに構えられた出店も、多くが無償で食事を振る舞われている。
戦いのさなかにあっても、こうした人の善性を見ることは、戦いに身を置く者達にとっては、一つの慰めにもなるのだろう。
オーガストは街中に並ぶ店の一つで花を買う。
華やかではないが、しかし花の美しさは人のささくれた心を癒やしてくれる。献花台にオーガストは花を備え、焼香台に線香をたく。
地域によって弔う作法と言うのは文化として異なるものであった。
オーガストにとっても、それは新鮮なものであったし、知らぬ風習であったことだろう。けれど、死者を悼む心は同じだった。
この都市に居る者たちも、自分たちも、皆同じ心の傷を抱えているのだ。
視界に移る全ての人々が、大なり小なり喪っている。
人を、ものを、尊厳を。
それを奪うオブリビオンがいる。
「クソ野郎共がいなければな……」
己に染み付いた血と硝煙の匂い。それは線香の煙と香りが洗い流していく。
戦場は穢れだらけだ。
命の遣り取りをするのだから当然であったかもしれない。けれどとオーガストは思うのだ。
「こういう日があってもいいだろうって、な。そうは思わないかい。大鴉の兄ちゃんよ」
オーガストは振り返らずに告げる。
ずっと自分の背後を歩いていた者がいる。とっくに気がついていたのだ。
自分を見ていた、とわかっていたからこそ、オーガストは好きにさせていた。値踏みしていたのか、それとも余所者であるから警戒していたのかはわからない。
「失礼を致しました。僕は『熾天大聖』。この都市の者ではない、ということ。されど死者を悼む心をお持ちの御仁と存じ上げます」
振り返ると、そこには拱手でもってオーガストに一礼する青年の姿があった。
亜麻色の髪が揺れ、黒い瞳が見つめている。
若い、とオーガストは思ったことだろう。
まだ少年と言われても通じる年齢。こんな年齢の者も戦わなければならないのが、この世界である。
「なんでもいいさ」
オーガストの背後にある焼香台に並ぶ線香の煙の数を増やさないためにできることがあるのならば、なんでもいいとオーガストは告げる。
「情報があるんだろう? わざわざ俺達猟兵を探しているということは」
「はい。すでに多くの猟兵の方々にお伝えしております」
彼が告げる言葉。
敵はおそらく『有頂天天蓋』の真下、その天蓋を支える柱の下にこそ潜伏しているであろうと。
その言葉にオーガストは二つ返事を返す。
オブリビオンを打倒する。
ただ、それだけで信じるに値する。そう手放しで彼は『熾天大聖』を信じるのだった。きっとそれは過ちではない――。
大成功
🔵🔵🔵
リア・アストロロジー
●おくすり
故郷の、弔うこともできずに置いてきた人たち
わたしが追い詰め銃を向けた妹たちを想い
黙祷を捧げ
「…大丈夫ですか?」
鴉さんに気付いて
「ええと。少し、ほんの少し、お疲れのように見えたので…」
いつも持ち歩いているキャンディーをゴソゴソ。
「お供えものの余りだけど、良かったらお一つどうぞ」
甘いものが、苦手じゃなければ良いのだけど…
「わたしの造られた世界では。長く戦場に身を置き続けた人は、とても疲れて…神経がささくれて」
そんな彼らを救うのは、とっくに居なくなった神さまでも、ごみ箱に捨てられた性善説でもなくて。
「必要だったのは抗鬱剤や睡眠薬。それから、こんな風に人として息をするための、嗜好品でした」
なので、良かったら一緒に味わってほしいんです、と。
「こうしてわたしたちが死者を偲ぶとき、その周りには花が咲くそうです。たとえ作り話でも。そうだったらいいなと思います」
きっとあなたも、わたしもいつかそこに行くのなら。
「嵐のように荒れ狂う海ばかりでは無くて、なつかしい花の匂いが香る中で、眠れるような……」
息を吐き出す。
空を見上げれば、星。
その瞬きを生命に例えるのならば、明滅する光は人の生涯を示すものであっただろうか。
リア・アストロロジー(M2-Astrology・f35069)は荒廃した世界で己が妹たちのことを想って、祈りを捧げる。
『須弥山型都市』の一つは、新月の夜に死者を悼む慰霊祭を行っている。
リアもまた、その慰霊祭において一輪の花が風に揺れ、歌声が響く街中を見た。
燈火は、人の心を暖かく慰める。
闘いが続く世界。
オブリビオンの『超大国』があっても、なくても。人の世界に争いは絶えぬものであっただろう。
こうして残された者たちの心を慰めることができるのは幸いであるように思えた。
リアは故郷の弔うこともできずに置いてきた者たちのことを思う。
静かに、ただ静かに黙祷を捧げる。
彼女の心中は彼女にしか理解できぬものである。
多く喪った者は、多くを語らない。
奇跡は二度起きない。だから、リアは黙祷より瞳を開き、『須弥山型都市』の街中を見やる。
彼女の視線の先にあったのは、偶然か運命か……大鴉の戦禍階梯の獣人の姿がった。
亜麻色の髪が風に揺れ、黒い瞳は揺れ動いている。
その姿にリアはなんとも言葉にし難い感情を胸に浮かべる。
自然と歩みを寄せたのは。
「……大丈夫ですか?」
今にも彼の身体が崩れそうだったからだ。肉体的な疲労も、精神的な疲労も。いずれもが彼の身体を苛むものであったようにリアには感じられたからだ。
「ああ、いえ……はい。大丈夫です」
おもったよりも年若い。青年の戦禍階梯。ともすれば少年のように思える顔立ち。
「あなたは……」
リアが余所者であると彼は気がついたのだろう。
黒い瞳がリアを捉えている。
「ええと。少し、ほんの少し、お疲れのように見えたので……」
「ご心配には及びません。僕は僕の為すべきことをしているだけにすぎませんから」
「けれど……」
身体の無理は、よくない。
そういうようにリアは己のカバンを探る。いつも持ち歩いているキャンディーを取り出し、青年に手渡す。
「お供えもののあまりだけど、良かったら、お一つどうぞ」
甘いものが苦手じゃなかったあろうかと、リアは手渡してから気がつく。
けれど、目の前の青年は嘴のような仮面を外して微笑む。
「ありがとうございます。猟兵の方、ですね?」
「え、ああ、なんで……?」
「確かにあなたは余所者であるけれど、しかし優しさをお持ちだ。それはオブリビオンには持ち合わせぬもの。人の憂いに寄り添うことのできる方を、オブリビオンだと僕は思いません。ですから、そう思っただけです」
微笑む青年は『熾天大聖』と名乗った。
手にしたキャンディーを持て余すようにしているのは、それがどういうものか知らないからだろう。
「これは……その、どうしたら」
「あ、あの……わたしの造られた世界では。長く戦場に身を置き続けた人は、とても疲れて……神経がささくれて」
リアは言葉を紡ぐ。
前置きが長いような、と思ったかもしれない。けれど、リアは眼の前の青年、『熾天大聖』が自分の知るそうした者たちと同じように思えてならなかったのだ。
彼等を救うことができたのは、神でもなければ性善説でもなかった。
どんなに言葉を紡いでも、傷ついた心は簡単には言えない。完全になかったことにはならない。
人はそれを練磨と呼ぶのかもしれないが、摩耗しすぎてしまえば、それは最早すり潰されたというのと同じなのだ。
だから、とリアは言葉を懸命に紡ぐ。
たどたどしい言葉だったかもしれない。
けれど、懸命だった。
「必要だったのは抗うつ剤や睡眠薬、。それから、こんな風に人として息をするための、嗜好品でした」
それが、これなのだとリアは言う。
必要なものは人の個によって違う。異なるのだ。その差異を許容できぬ者からは、心無い言葉を浴びせかけられることもあるだろう。
不寛容が人を傷つける。
けれど、寛容であることが世界をより良くするものでもないこともまた事実だ。
だから、とリアは『熾天大聖』に手渡したキャンディーの包を取って、その手を彼の口元に運ぶ。
「よかったら一緒に味わってほしいんです」
「これを、というのが貴方の慰撫にもなると?」
「共にあるということは、そういうことでしょう?」
その言葉に『熾天大聖』はキャンディーを一つ口に含む。甘い。舌に感じる甘さは、情報でしかないだろう。
けれど、と思うのだ。
今己の口の中に広がっているのは、目の前の少女の優しさであると。
「こうしてわたしたちが死者を偲ぶとき、その周りには花が咲くそうです。たとえ作り話でも。そうだったらいいなと思います」
どんな生命も必ず死ぬ。
その時、行く先があるというのならば。
それはきっと良いものであったほしいと思う。花咲く場所で、と。
「嵐のように荒れ狂う海ばかりではなくて、懐かしい花の匂いが香る中で、眠れるような……」
そんな最期がほしいと思う。
懸命に生きるのはそのためであるとも言えるだろう。
「そうですね。皆、そうであって欲しい。そのためには」
戦わねばならないのだ。
リアは頷く。例え、この世界が地獄であっても。生きることが辛いことの連続であっても。
それでも、生きねばならぬというのならば、戦わなければならない。
共に、とリアは手を伸ばす。
心を同じくするの者がいるのならば、戦いもまた意義あるものであろうからと――。
大成功
🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎
|須弥山型都市《シャングリラ・シュミセン》とはよく言ったモンだ。
ここをぶっ壊そうってんだから相変らずイカれてやがる。
ま、止めてやるがな!
慰霊祭を執り行う手伝いをしつつ熾天大聖と接触しよう
肉体労働系の仕事に就きながら探してみるか
動きゃ腹が減るモンだが、それが「生きてる」ってコトだよなあ
この辺に美味い屋台かメシ屋はあるかい?
オレかい?見ての通りの傭兵稼業さ。こんな世の中じゃ珍しくも
ないだろ?
基本は金次第……だがオレは筋が通らない仕事は受けない主義さ
この街丸ごとぶっ壊そうとしてる連中がいるらしいと聞いたモンでね
そのぶっ壊し計画をぶっ潰しに来たってワケさ!
アンタ、何か知ってるかい?
「まったく|『須弥山型都市』《シャングリラ・シュミセン》とはよく言ったモンだ」
『人民租界』の一つの都市を見上げるのは、ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)であった。
彼の視線の先にあるのは、月光無き新月の夜空にそびえる都市。
燈火が灯るのは、慰霊祭であるからだ。
戦場に在るのが常。
それが『獣人戦線』の世界である。獣人たちはオブリビオンの『超大国』の侵略に抵抗するために戦い続けている。
ならば、生命が奪われることも。失われることも。
全てが日常でしか無いのだ。
だから、人は心を慰める。
花を供え、祈りを捧げ、鎮魂の歌を歌う。
「ここをぶっ壊そうってんだから相変わらずイカれてやがる。ま、止めてやるがな!」
ロウガはオブリビオンたちの企みを知っている。
けれど、彼等の所在がわからないのだ。猟兵たちは予知によってオブリビオンの凶行を知る。それを止められるかどうかは、己たちにかかっている。
「『熾天大聖』といったか……大鴉の戦禍階梯、と聞いてるんだが……」
慰霊祭を手伝いながらロウガは、自分が見られていることに気がつく。
それもそうだろう。
この『須弥山型都市』において、余所者はひと目で判別がつくものである。霊気をまとう住人たちは、全てがその術を持っているのだ。
ならば、自分が余所者であると自覚せねばならない。
「うーむ。とは言え、どうしたもんかね」
ロウガは慰霊祭を手伝って、どうにも腹の虫が騒ぎ出したことに気がつく。腹が減っては戦はできぬとは言うが、このままでは腹が背にくっついてしまいそうだ。
「なあ、この辺に美味い屋台かメシ屋はあるかい?」
共に手伝っていた獣人に尋ねる。
「そこで今、炊き出しをやってくれている余所者もいたし、何なら、その先にある飯屋も美味いよ」
「そっか。あんがとよ。行ってみるわ」
そういってロウガが手伝いから離れて、己の腹の虫に従うようにして通りを歩く。
すると背後に気配を感じるのだ。
「……そろそろじゃないかと思ってたんだよ」
「わかっておいででしたか」
振り返れば、そこにあったのは戦禍階梯の青年。亜麻色の髪と黒い瞳を持つ、大鴉の獣人の姿があった。
戦闘義体に置き換えられた手足。
脚には宝貝らしきものが備えられている。おそらく、彼が『熾天大聖』なのだろうとロウガは当たりをつける。
「『熾天大聖』というのだろう、おまえさん」
「ええ、よくご存知で。あなたは……」
「オレかい? 見ての通り傭兵家業さ。こんな世の中じゃ珍しくもないだろ?」
その言葉に『熾天大聖』は頷く。
互いに互いの力量はわかる。
どちらも只者ではないと理解できるだろう。
「基本は金次第……だがオレは筋が通らない仕事は受けない主義さ。この街丸ごとぶっ壊そうとしてる連中がいるらしいと聞いたモンでね」
「はい。オブリビオンの策動の兆しありと。故にお伝えに上がった次第です」
彼の瞳が示すのは、『有頂天天蓋』。
空を覆う天蓋の如き場を支える支柱。その根本。
「あそこにおそらくオブリビオンは潜伏しているかと。僕は、それをお伝えに参りました。猟兵の方々の助力を賜りたく……」
そんな『熾天大聖』にロウガは肩を組むようにして引き寄せる。
「わかってるよ。けどよ、動きゃ腹が減るモンだが、『生きてる』ってことだよなぁ。なら、いっちょ腹ごしらえしてやらねぇとな」
ロウガは笑って『熾天大聖』を伴って、まずは飯屋だと連れ込む。
どんな相手も一食共にすれば仲間意識が芽生えるものだ。ロウガは、ともに戦うのならば、そうしたいと思うだろう。
例え、僅かな時共にする者であっても。
いつ生命が失われてしまうかも知れぬ世界であるのならば。
それはきっと何一つ無駄ではないだろうから――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『コウモリ爆撃兵』
|
POW : 無差別爆撃
戦場にレベル×5本の【焼夷弾】が降り注ぎ、敵味方の区別無く、より【多くの被害と死者が出る】対象を優先して攻撃する。
SPD : 反響定位
【超音波】を体内から放出している間、レベルm半径内で行われている全ての【攻撃】行動を感知する。
WIZ : 空飛ぶ悪魔
戦場内で「【助けて・死にたくない・怖い・熱い・神様】」と叫んだ対象全員の位置を把握し、任意の対象の元へ出現(テレポート)できる。
イラスト:はるまき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちは大鴉の戦禍階梯たる獣人『熾天大聖』に示された『有頂天天蓋』を支える支柱の都市区画へと至る。
無論、此処が潜伏先である、という確定は得られていない。
けれど、猟兵たちは理解する。
この都市に暮らす『熾天大聖』は、オブリビオンを既に一体屠っているのだという。ならば、この都市を彼が常日頃から警邏のようにして飛び回り、オブリビオンの脅威を未然に防いでいたこともまた事実であると。
故に、彼の示した『有頂天天蓋』の真下に潜伏しているというのは、理解できることであっただろう。
「……やれやれ」
その声と共に『有頂天天蓋』を支える支柱の壁面が吹き飛ぶ。
爆風の最中を飛び出すのは、オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちであった。
無数に飛び出す彼等が上げる爆煙の向う側で『ノイン』と名乗ることにしている『クロスファイア・コマンダー』は首を傾げ、潜伏先を割って見せた猟兵たちを見やる。
「猟兵たちが来た、ということは負け戦だな、これは。諸君らは、適当に戦って離脱したまえよ。無駄に戦力を喪うことはない。機会の一つが失われたと思えばいいさ」
気だるそうに。
それこそ、やる気を削がれた者のように『クロスファイア・コマンダー』は『コウモリ爆撃兵』たちに告げる。
消化試合にしかならないと思っているのだろう。
しかし『コウモリ爆撃兵』たちは違う。無為にやられることなど、そんなことがあってたまるかと、そのユーベルコードを発露させる。
『天人飛翔』――そのユーベルコードを発露しながら飛び交う彼等の回避性能は飛躍的に向上する。
『クロスファイア・コマンダー』は傾けた首を更に反対側に傾けて、嘆息する。
「仕事熱心だな」
オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちが『有頂天天蓋』を支える支柱の周りを飛ぶ。彼等は支柱を破壊し『須弥山型都市』を破壊することを諦めていない。
ならば、猟兵たちはこれを討ち倒さなければならない。
空を飛ぶ『コウモリ爆撃兵』たち。その攻撃を回避する飛翔能力は向上している。だが、彼等の飛翔を妨げる影があった。
「空は僕が抑えます。皆さんは!」
大鴉の翼。
戦闘義体に置き換えられた手足が唸りを上げるように明滅し、脚部に備えられた宝貝『風火大車輪』が炎を撒き散らしながら、『コウモリ爆撃兵』たちの頭上を抑える。
猟兵たちは『熾天大聖』の協力を得て、疾くオブリビオンたちを打倒しなければならない――。
サーシャ・エーレンベルク
瞬時に撤退を判断できる指揮官は相当な手練ね。
優秀な指揮官はどの戦場にいても厄介なものだけど……配下がそれに従わないのであれば何も意味はない。
コウモリたちの飛翔を抑え込んでくれる熾天大聖がいるなら、私も確実に狙い撃てる。
【氷禍輪舞】を以て、コウモリ爆撃兵たちを銃撃していくわ。炎と氷の輪舞といったところかしら。
翼を重点的に狙い撃つ。命中部位の凍結で動きが鈍くなったところを、熾天大聖へ追撃をお願いすることにしましょう。
それでもコウモリ爆撃兵たちが攻撃してくるなら、ユーベルコードによる舞踏じみたステップで回避し続けるけど……炎の牽制と氷結の狙撃、上と下どちらも取られた爆撃兵にどれだけ抗えるかしら?
サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)は敵の指揮官の判断の速さに、その脅威性を感じ取っていた。
此方の動きを見て瞬時に撤退を判断できる。
それは上官として戴くには十分すぎる素養であったことだろう。それが敵の手強さであることもまたサーシャは承知する所のものであったことだろう。
優秀な指揮官というのは、如何なる洗浄においても厄介そのもの。
此処でオブリビオンを逃してしまっては、再びこの『須弥山型都市』へと蹴撃を企てるかわからない。
猟兵にとって、それがもっとも危惧する所であったのだ。
「でも、配下がそれに従わないのであれば何も意味はない」
同時に此方にとっての幸いでもあったことだろう。
「貴様たち猟兵を排除できれば、この都市を破壊することもできる! 臆病風に吹かれた雇われ者の言うことなど!」
オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちが一斉に『須弥山型都市』の空を舞う。
新月の夜空は、その姿を星の瞬きの中に隠すだろう。
彼等とて、無駄にやられるつもりなどなかったはずだ。それは裏返せば、この闇夜に乗じて猟兵たちを撃破できるという自身の裏返しでもあったのだ。
「恐れろ! 俺達こそが空を征する者! 頭上より降り注ぐ――……」
だが、その言葉は響かない。
頭上にありて炎を撒き散らしながら圧倒的な速度で空を掛ける大鴉の戦禍階梯『熾天大聖』の戦闘義体たる脚部の鉤爪が『コウモリ爆撃兵』の首を一撃でへし折ったのだ。
「――なっ……!?」
「頭上は僕が抑えます。だから」
「ええ、私が確実に狙い撃って、数を減らす」
サーシャの瞳がユーベルコードに輝く。
手にした双銃『シャッテン・アドラー』。影鷲の名を持つ銃は、呪術の弾丸を持って、空を割るような銃声と共に『コウモリ爆撃兵』へと叩き込まれる。
凄まじ連射性能。
弾丸に限りがあるのではない。
呪術によって即座に弾丸が装填され、氷禍輪舞(ヴィンター・レイゲン)の如き戦技でもって『コウモリ爆撃兵』たちを次々と撃ち落としていくのだ。
「瞬きなんて許さないわよ」
そう、彼女の銃撃に瞬きは命取りである。
僅かな隙。
瞬きという一瞬であっても、サーシャの放つ弾丸は『コウモリ爆撃兵』たちの翼を射抜き、さらに一瞬で凍結して皮膜を侵食し砕いていくのだ。
羽撃くことのできぬ爆撃兵に存在意義はない。
彼女の銃撃は凄まじい連射速度と尽きぬ呪術の弾丸に支えられ、まるで氷の嵐のように地上から彼等を撃ち落としていく。
「く、このまま終わると!」
急降下し、サーシャに襲いかかる『コウモリ爆撃兵』たち。
しかし、それを頭上より迫る『熾天大聖』の手にした二刀が走らせる蒼雷と赤炎が打ちのめす。
サーシャにはわかっていた。
自身の死角は『熾天大聖』が埋めてくれる。繋がれた『信義』は厚いものであった。僅かな時間であっても、戦場という死地にあって紡がれたものは確かなものだ。
故に信頼に値する。義を以て助けることは当然のことであったのだ。
「叩き落とします!」
「ええ、いつでも」
蹴り放つ義体の一撃が『コウモリ爆撃兵』の頭部を打ち、その身体を空より失墜させる。そこに叩き込まれる無数の弾丸が爆撃する暇すら与えずに彼等を霧散させていくのだ。
「炎の牽制と氷結の狙撃……上と下どちらも取られた爆撃兵にどれだけ抗えるかしら?」
サーシャは双銃の銃口を向け、『須弥山型都市』の空に飛ぶオブリビオンたちを見つめる。
そう、今日は新月。
死者を悼む日。
人の心を慰撫する夜に舞う『コウモリ爆撃兵』たちは相応しくない。
それを示すようにサーシャの放つ弾丸は、次々と彼等を打ちのめすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
オーガスト・ガンバレル
【心境】
「情報は正確だったな。」
…なら、あとはオレ達の仕事の時間だな。
【行動】
悪いが逃がさない。
貴様らの存在が害悪なのはこの線香の匂いが証明してる。
結局は硝煙の匂いがオレにはお似合い…か。
アマロックの弾倉を『誘導弾』に交換して、こいつで銃撃して撃ち落とす。
カトンボは…落ちる時間だくまー。
<ストライクイェーガー>で『制圧射撃』くまー。
なるべく多くのカトンボを『範囲攻撃』でまとめて迎撃だ。
ツキミズキには『自動射撃』モードでスターダストチェイサーの『乱れ撃ち』で無差別爆撃の焼夷弾を迎撃させる。
もう貴様らごときに…死者を出せる時間は残ってない。
空を舞う大鴉の翼がオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちに高度を取らせない。
彼等は本来遥か空の彼方から焼夷弾を放ち、被害を拡大させていく戦法を取る。しかし、空を戦禍階梯たる獣人『熾天大聖』によって抑えられ、十分な高度が取れないでいるのだ。
「頭を抑えられたとて……!」
彼等の放つ焼夷弾は脅威だった。
如何に『須弥山型都市』が封神武侠界とサイバーザナドゥの文明と技術の融合によって生まれているのだとしても、焼夷弾の脅威は言うまでもない。
だからこそ、『熾天大聖』は空を抑え、地上にある猟兵たちは、これ以上戦火を以て人々が生命を散らさぬようにと走り抜ける。
「情報は正確だったな」
『熾天大聖』の言葉。
オーガスト・ガンバレル(8月のキムンカムイ・f39985)はそれを思い出していた。
『有頂天天蓋』。
それはこの都市の天蓋の如き場所である。そこには多くの娯楽施設が存在しており、さらには今日という慰霊祭のために人々が集まっている場所でもあった。
支える支柱を破壊するために、潜伏しているオブリビオンたちを打倒することこそ己たちの仕事であるとオーガストは己のキャバリア『ツキミヅキ』を自動操縦モードに切り替え、その肩部に装着された多目的八連装有線式誘導ミサイルを以て『コウモリ爆撃兵』たちを爆風に包ませる。
「キャバリア……! 連中!」
「悪いが逃さない。これはオレ達の仕事なんでな」
手にしたアサルトライフルを頭上に飛ぶ『コウモリ爆撃兵』へと向け、引き金を引く。
オブリビオンという存在が害悪なのはわかっている。
己の身に纏った線香の香りが証明しているのだ。あれは血と硝煙の匂いがこびりついている。そして、この香りが告げるのだ。
あれこそが戦火を齎すものであると。
「カトンボは……落ちる時間だくまー」
オーガストの瞳がユーベルコードに輝く。
手にした弾倉を誘導弾に交換し、銃口を向ける。
狙いをつけ、引き金を引く。放たれた弾丸が『コウモリ爆撃兵』たちの皮膜を打ち抜き、空中で姿勢を崩す。
そこへ叩き込まれる蒼雷と赤炎。
「『熾天大聖』か!」
「はい、敵の機先は削ぎ落とします!」
空を走るようにして飛び、手にした二刀が放つ雷と炎が『コウモリ爆撃兵』たちを打ち据える。崩された体勢でふらふらと空を飛ぶ『コウモリ爆撃兵』などオーガストにとっては的でしかなかったのだ。
「なら、行くくまー! 釣瓶撃ちみたいなもんくまー!」
『熾天大聖』が空より敵を崩し、オーガストが撃ち落とす。『ツキミヅキ』がミサイルランチャーをばらまき、再びオーガストが撃ち落とす。
それは弾丸を装填する時間を稼ぐ、という意味では有効な手段だったことだろう。
何より、『コウモリ爆撃兵』たちが焼夷弾をばらまく隙を与えないという意味では、有効な戦術であったことだろう。
敵の目的は『須弥山型都市』の破壊。
ならば、その一欠片とて崩させるわけにはいかないのだ。
「もう貴様ら如きに……死者を出させる時間は残ってない」
オーガストは見据える。
此処は文明と技術が融合した都市。綺羅びやかな光景は、人の縁となるだろう。ならばこそ、オーガストは己の存在が此処にはなじまぬことを知っている。
余所者だからではない。
己の身に染み付いたものはオブリビオンたちと同じだった。
人の心を慰める線香の香りは薄く身に纏ったまま。されど、己の肉体に染みきったのは、硝煙の匂い。
「なら、せめて誰かが血に染まらぬようにとそう戦う……だけくまー!」
アサルトライフルの引き金を引く。
それが他の誰かを守ることになると知るのならば、オーガストは躊躇わず己の身を硝煙に染み込ませるように『コウモリ爆撃兵』を撃ち落とし、駆け抜けていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
シプラ・ムトナント
あれが、彼の宝具……!
空を覆うかのような炎の助力、有難くお受け致します。
これならば、空の方面に極端な距離は取れない……ここは『睡眠の羊眼』を使います。
『|bonne nuit bons rêves《お休みなさい、良き夢を》』……|故郷《フランス》のお休みの挨拶です。
わたしは獣呪術師の専門家ではありません。
高度な詠唱は出来ませんが……挨拶をゆっくりと、在りし日の子守唄に乗せて、【呪詛】とします。歌姫、という訳でもないのですけれどね。
できる限りの|子守唄《えいしょう》を紡ぎ、敵陣に眠りを齎します。
湧き上がる眠気は避けられないものです。
空飛ぶ最中に眠ってしまっては、後は落ちていくしかないでしょう?
吹き荒れる炎が空を天蓋のように覆う。
そのさらに上にあるのは『有頂天天蓋』。そこには今、慰霊祭のために人々が祈り、また亡き者を悼む心の慰撫たる時間を過ごしているはずだ。
守るために振るう力は、いつだって大いなるもの。
しかし、そうしたものを覆そうとする暴力もまた同様に強大なものであったことだろう。
オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちは、その炎の天蓋を越えようとする。
「邪魔立てを……!」
その炎を以て空を飛ぶは大鴉の戦禍階梯の獣人『熾天大聖』。
戦闘義体の手足、その脚部に備えられた宝貝『風火大車輪』によって『コウモリ爆撃兵』たちは、高度を取れない。
それが猟兵たちにとっては幸いであったことだろう。
「あれが、彼の宝貝……!」
シプラ・ムトナント(鋼の衛生猟兵・f39963)は空を見上げ、天の星をくらませるかの如き炎を見やる。
空を覆う炎の助力。
絆いだ『信義』はシプラたちに返ってきていた。
「幾ばくか。しかし、それでも貴方達ならば!」
僅かな時間しかオブリビオンである『コウモリ爆撃兵』たちはしのげないだろう。けれど、此処には猟兵たちがいる。
それこそが『熾天大聖』の猟兵へと向ける信義であったことだろう。
「助力有り難くお受け致します。これならば……!」
オブリビオンは高度を取れない。
ならばこそ、シプラのユーベルコードの輝きは『コウモリ爆撃兵』たちへと届くのだ。
見開かれた眼。
「……魔眼!」
「|『bonne nuit bons rêves《おやすみなさい、良き夢を》』……」
それは幼子に聞かせる言葉であったかもしれない。
この地においては馴染みのない言葉。けれど、それは睡眠の羊眼(スリープシープス・アイ)より放たれた輝きと共に『コウモリ爆撃兵』たちへと届くのだ。
ただ、見るだけでいい。
彼女のユーベルコードは『コウモリ爆撃兵』たちに突如として抗いがたい睡魔を与える。
「……なん、だ……これは」
「眠気が……瞼が、重い……!?」
「せえ、その通りです。|故郷《フランス》のお休みの挨拶です」
己は獣呪術師の専門家ではない。
高度な詠唱など望むべくもない。
歌姫でもない。
けれど、それでも彼女の魔眼が煌めくのならば、それはただの一瞥が呪術へと昇華するのである。
彼女のユーベルコードは、あらゆる物に催眠を届ける魔眼そのものであると言えるだろう。
「湧き上がる眠気は避けられないものです」
シプラの瞳が『コウモリ爆撃兵』たちの瞼を抗えぬ眠りへと引きずり落とす。
空を飛んでいるのならば、その肉体が如何に反射的に動くのだとしても、意識が削がれているのならば。
「空に在りて、その刃を振るう御仁がいらっしゃるのならば……後は墜ちていくしかないでしょう?」
その言葉が示すように蒼雷と赤炎が迸る。
『熾天大聖』の放つ二刀より放たれた斬撃が隙だらけの『コウモリ爆撃兵』たちの身体を切り裂くのだ。
「見事なものです」
「いいえ、専門ではありませんから……ですが、彼等にもあったのですね。在りし日の子守唄を歌ってもらったという過去が」
シプラは墜ちていくオブリビオンを見やる。
過去の化身。
故に、彼等にもまた歪み果てた今があるのだとしても、過去が在るということである。紡がれる今日という日の終わりを告げる言葉は、呪詛となって『コウモリ爆撃兵』の今日を終わらせる。
失墜していく彼等は、放置すれば必ず誰かの明日を奪う者たちである。
故にシプラは誰かの明日を守るために己の魔眼をユーベルコードに輝かせる。
「いずれ終わるのだとしても、穏やかな終わりを。決して来ることのない明日を夢見て――」
大成功
🔵🔵🔵
笹竹・暁子
お待たせ!
慰霊祭の方は糧食班の同僚の子たちに任せてきたわ
万が一、避難が必要でも彼らの【道案内】なら大丈夫!
もちろん、そうならないように…行くわよ!チュン!
方針:熾天大聖の支援
いくらホームでも、一人では限界があるはず
手伝うわ、空の同胞さん!
〔オウル〕形態の〔サウス〕に搭乗し飛び立ち、夜間センサーで敵位置を【暗視・索敵・情報伝達】していくわ
私の機体なら、熾天大聖や味方の足場にも使えるでしょう
そして【羽根を飛ばす】事で【指定UC】を展開
敵の上空や行く手に複数の「手」を広げ、面で行動範囲を制限する
コウモリなら尚の事、壁に感じるはず
抜けようとした敵や着弾前の焼夷弾は【捕縛】し阻止するわ
おとなしくなさい!
猟兵とオブリビオンの戦いが始まっている。
笹竹・暁子(暁を臨む一夜の為に ~雀のお宿の外仲居~・f39919)は大鳥型機動甲冑『サウス』を腹部にコンテナを有する梟型形態へと移行させ、『有頂天天蓋』の真下へと飛ぶ。
「おまたせ! いくらホームでも、一人では限界があるわよね! 手伝うわ、空の同胞さん!」
「ご助力感謝致します」
大鴉の戦禍階梯の獣人『熾天大聖』の脚部に備えられた宝貝『風火大車輪』より炎が噴出する。
空をかける彼の炎によってオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちは高度を取ることができないでいた。
彼等が投下する焼夷弾は高さがなければ意味がない。
『須弥山型都市』を炎に包むというのならば、手出しできない高度から一方的に投下しなければならないのだ。
しかし、それは『熾天大聖』によって阻まれている。
ならばどうするか。
暁子は『サウス』に搭載された夜間センサーで夜空に飛ぶ『コウモリ爆撃兵』の姿を捉える。
「私の機体なら!」
「女性の方の乗り物を踏む、というのは憚られますが」
「いいのよ、そのためのメイガスなのだもの!」
暁子が笑う。
『サウス』の直上で『熾天大聖』が二刀を構える。
宿る蒼雷と赤炎が十字に放たれ、暁子たちに迫っていた『コウモリ爆撃兵』へと走る。
それに合わせるように暁子の瞳がユーベルコードに輝く。
『サウス』の翼が羽撃く。
否。
それは霊網羽掌【メイガス】(ハンド・オブ・アルゴス)。
「鳥型だけど――『手』は貸せるのよ!」
それは見えない巨掌。
霊力を網状に展開した霊刃羽が蒼雷と赤炎の後に続くようにして走る。
「……なんだ、見えない何かが!」
「頭上を、いや側面からか!」
『コウモリ爆撃兵』たちが『熾天大聖』のユーベルコードに寄って鮮烈を乱され、惑うようにして飛ぶ最中、暁子の放った霊刃羽の掌が彼等を挟むようにして圧砕するのだ。
ユーベルコードによる敵の包囲と捕縛。そして無力化。
それこそが暁子の望んだ力である。
「抜けようとしたって無駄よ」
暁子の言葉と共に網目状の霊力が引き絞られる。
天網恢恢疎にして漏らさず。
その言葉がしっくり来るほどに暁子のユーベルコードは『コウモリ爆撃兵』たちを捉える。
「焼夷弾だけでも……!」
だが、『コウモリ爆撃兵』たちは足掻く。
自分たちの腰にぶら下げた焼夷弾を眼下にある街中へと投下しようとするのだ。けれど、それは全て暁子のユーベルコードに寄って掴み取られる。
「おとなしくなさい! 街は焼かせないのよ!」
その言葉と共に霊刃羽の掌の中で焼夷弾が爆発し、炎を押し留めるのだ。
オブリビオンの為すことの何一つとて、成し遂げさせない。
暁子は小さく、チュン、と鳴いて『サウス』を手繰る。足場にしていた『熾天大聖』が宝貝の噴射と翼でもって飛び立つ。
「肉まん、ありがとうございました」
「元気出たかしら?」
「それはもう」
その言葉を聞き、戦場を縦横無尽に駆け抜ける姿を暁子は見送るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
風花・ゆきみ
熾天大聖さん、案内ありがとうであります!
一緒に戦ってくれるのも頼もしいのです
まずはコウモリ達を倒さないといけませんね!
相手は凄まじい飛行能力を持っているようですが、熾天大聖さんのおかげで動きは制限出来ているはず
相手も広く散らばらず地上付近を飛び回ることでしょう
だったら……纏めて『全力の鳴き声』を浴びせてやるのであります!
コウモリさんは耳が良いですからね
たとえ素早く回避出来ても音からは逃れられません
その素晴らしい聴力でたっぷり驚くと良いのです!
相手が怯めばすかさずライフルによる【制圧射撃】を
狙いを定めてどんどん撃ち落として行くのであります
翼を狙って動きを制限しつつ的確にスナイプしていきましょう!
大鴉の戦禍階梯。
『熾天大聖』の言葉通りだった。オブリビオンは『有頂天天蓋』の真下にある支柱の如き区画に潜伏していた。
彼等が行おうとしていたのは『有頂天天蓋』を落とし『須弥山型都市』を破壊しようというものであった。その先駆けとしてオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちはうってつけであったことだろう。
もしも、『熾天大聖』がオブリビオンの襲来を警戒していなければ。
猟兵が駆けつけていなければ。
この『須弥山型都市』は破壊を免れなかったであろう。
誰一人として欠けてはならなかったのである。
「『熾天大聖』さん、案内ありがとうであります!」
風花・ゆきみ(戦場の綿雪・f39971)は彼の存在が頼もしいと思った。
猟兵でないのだとしても、戦力として申し分ない。これが『人民租界』、封神武侠界の文明とサイバーザナドゥの技術が融合した地に生きる獣人の力である。
羽撃く翼の力強さを知り、ゆきみは『熾天大聖』が力強く頷くのを見た。
「いえ、皆さんの助力あればこそ。まずは」
「ええ、まずはコウモリ達を倒さないといけませんね!」
ゆきみもまた羽撃く。
『熾天大聖』と猟兵たちのユーベルコードによって『コウモリ爆撃兵』たちは戦列を崩している。
確かに飛行能力は恐るべきものであったかもしれない。
けれど、『熾天大聖』の宝貝によって空は炎の天蓋で覆われ、彼等は高度を高く取ることができないでいた。
「空は抑えています!」
「私は、下から征くであります!」
「……邪魔立てしてくれる!」
『コウモリ爆撃兵』たちは忌々しげにゆきみたちを見ただろう。己たちが焼夷弾によって街を焼くことを許さぬと周囲を飛ぶゆきみを疎ましく思っているようだった。
「俺達は獣人共恐怖に叩き落とすために飛ぶ! それを!」
「させないというのであります!」
「さかしい! ただの雀程度が!」
「空に飛びながら、体躯の大きさを誇るなど!」
『熾天大聖』の炎が、ゆきみに迫る『コウモリ爆撃兵』たちを打ち払う。その一瞬こそが、ゆきみに必要なものであった。
ゆきみの瞳がユーベルコードに輝く。
息を吸い込む。肺が膨らむ。そして、喉を鳴らす。
それは甲高く、そしてまた同時に凄まじい鳴き声となって大気を震わせる。圧倒的な音圧と衝撃が迸る。
ゆきみの全力の鳴き声(ゼンリョクノナキゴエ)であった。
ただの鳴き声がユーベルコードにさえ昇華する。
しかも『コウモリ爆撃兵』たちは、反響定位を利用するほど耳が良いのである。
それが仇となった。
僅かな音の反響すら捉えることのできる彼等は、ゆきみのすさまじい鳴き声に絶えられなかった。
「ガッ、っ!?」
意識が飛ぶ。
音は見えない。そして、圧倒的な速度でもって『コウモリ爆撃兵』たちの身体を吹き飛ばすのだ。
空において、そのような衝撃を受ければどうなるかなど言うまでもない。
「その素晴らしい聴力でたっぷり聞くと良いのです!」
ゆきみの鳴き声で動きを止めた『コウモリ爆撃兵』たちが空より墜ちる。
それをただ見ていることなどゆきみはしない。即座にライフルを構え、引き金を引く。
「狙いたい放題なのです!」
墜ちるだけのコウモリなど、ただの的でしかない。
彼等は動きを封じられ、意識すら喪っているのだ。ならば、ゆきみは狙い過たず、彼等を打ち抜き、地面に墜ちるより早く霧散させていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
『奔れ、この命が壊れ失せるまで!!』
破魔の鉄大団扇をなぎ払い、吹き飛ばし、
豪風でコウモリ共の飛翔を狂わせ、駆ける。
プラズマシューズと、メガスラスターの推力にもの言わせ、
コウモリ共へ接近、大団扇で重量攻撃、叩き割る!!
貴様らに、壊させるものなどない!!
此処で壊れて終われ!!オブリビオン!!!
戦いながら、
闘争心で膨れ上がる念動力を黒鎖に換え、鎖の結界術・オーラ防御
サイキックシールドが焼夷弾とその爆風から支柱を守り、鎖が、敵を捉え、捕え、逃がさず、奔る鉄杭でコウモリを刺し止め壊す!
鎖の結界を広げながら、第六感でもっとも強い敵を|見やる《呪う》
こいつらを壊し尽くしたら、次は貴様だ!!!必ず壊す!!!!
漲る力は誰のためであっただろうか。
己のためであっただろうか。
いや、と思う。己を気遣ってくれる者たちがいた。それは優しさというものだと知った。
だから、その優しさに報いたいと思うのは当然のことであっただろう。
けれど、自身は優しさを抱くことはできない。
「奔れ、この生命が壊れ失せるまで!!」
叫ぶ。
自分ができることは唯一つ。
壊れるまで壊すこと。それしかできないからこそ、朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は己の闘争心を持って風と成す桃花の如き扇型の宝貝を振るう。
生み出される風は突風となってオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちを吹き飛ばす。
彼等の飛翔は風を受けての滑空に近い。
だから強風が吹き荒べば、それだけで空中においての体勢は崩れてしまう。さらにそこに小枝子は駆け抜ける。
プラズマシューズが大地を蹴り、メガスラスターの推力が彼女を一気に飛翔させる。
「この高さを飛んでくるだと!?」
「この程度の高さを、高さと呼ぶか、オブリビオン!!」
小枝子の瞳に映るのは驚愕する『コウモリ爆撃兵』たちの瞳だった。彼等にとって空とは自由なるものであり、己たちの領域であった。
けれど、彼等の空は蓋をされている。
宝貝『風火大車輪』が解き放つ炎によって天蓋のように覆われているのだ。それをなしたのが大鴉の戦禍階梯たる獣人『熾天大聖』であった。
彼もまた共に戦ってくれている。
絆いだ手は、確かにそこに信義を齎すものであったことだろう。
故に、小枝子は鉄大団扇を振り下ろし『コウモリ爆撃兵』の身体を打ちのめす。
「貴様らに、壊させるものなどない!! 此処で壊れて追われ!! オブリビオン!!!」
漲る力はユーベルコードに寄って発露する。
膨れ上がる闘争心があった。
これを後ろ暗いと思えることは良心がある証明であった。けれど、それは今の小枝子にとっては些細なことだった。
己の中にある何かが叫ぶ。
戦って。戦って。戦って。戦って。
その結末が如何なるものであっても、自覚なく狂える悪霊は、己の肉体の負荷など気にかけることもなく、ただ只管にオブリビオンを討ち果たす。
鎖が走り、『コウモリ爆撃兵』たちが焼夷弾をはなとうとする手を絡め取り、大地に引きずり下ろして叩きつける。
そこに飛び込む『熾天大聖』の蹴撃の一撃が備えられた宝貝の炎と共に撃ち込まれ、オブリビオンの身体を焼き滅ぼす。
「……――」
「――……」
言葉は必要なかった。
互いに己が成すべきことを理解している。
『熾天大聖』は空を覆う。
小枝子は敵を屠る。
単純なことだった。あの『有頂天天蓋』を支える支柱区画は守る。何をおいても守る。それだけの為に小枝子は瞳をユーベルコードの輝きを迸らせながら戦場を走る。
振るう鎖は宝貝と接され、迫り来る焼夷弾の炎すらも弾き返すように爆風から守るのだ。
そして、小枝子は視線を感じる。
見ている。見られている。己を。いや、違う、と小枝子は視線の主、この部隊を率いているであろうオブリビオンの姿を捉える。
彼女はやる気がなかった。猟兵を見て即座に撤退を決め込むほどに判断に優れていた。けだるげであったし、そもそもが……。
「関係ない。こいつらを壊し尽くしたら、次は貴様だ!!!」
小枝子が咆哮する。
己を見ていないオブリビオン。
「貴様が誰を見ていようと壊す!! 必ず壊す!!!」
その視線の先に在るのは『熾天大聖』。
目を見開き、歓喜に笑うオブリビオンに小枝子は射殺すかのような視線を向けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
月夜・玲
爆撃兵なのは分かるけど
生身?に爆弾括りつけて飛ぶのって怖そう
というか罰ゲームじゃん
オブリビオンだからまあいっか
それに上を抑えてくれてるみたいだし…まあ狙いやすいね
《RE》IncarnationとBlue Birdを抜刀
【高速演算】起動
地上からコウモリ爆撃兵を衝撃波で狙い、撃ち落とす!
一太刀目で翼を
『2回攻撃』、バランスを崩した所で身に付けている焼夷弾を狙って衝撃波を放ち誘爆させよう
芸術は爆発だ!
…いや、違うか
常に移動しながら、相手の超音波の射程外からどんどん剣を振り衝撃波を飛ばしていこう
仕事熱心で助かったよ
一匹たりとも逃がすつもりは無いからね
そんな物騒な物抱えて、ヤケを起こされても困るしね!
オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちは被膜を持って空を飛ぶ。
夜空に飛ぶ彼等の舌打ちが聞こえる。
それはこの現状に苛立っているからではない。放つ音によって彼等のユーベルコード、反響定位で敵である猟兵たちの位置を悟るためである。
確かに『須弥山型都市』を破壊するには『有頂天天蓋』を落とすのがより破滅的である。しかし、必ずしもそうしなければ破壊できないというわけではないのだ。
例えば、己たちに装備された焼夷弾。
此れを放てば『有頂天天蓋』は無理でも真下にある街は炎に包むことができる。
「だというのに……!」
猟兵たちが邪魔をする。
それだけではない。大鴉の獣人『熾天大聖』が彼等の頭上を抑えるように宝貝による炎と飛翔でもって阻んでいる。
頭を抑えられてしまえば、空の自由は極端に下がる。
そうなれば地上からであっても狙い撃たれてしまうだろう。
「爆撃兵なのは分かるけど、爆弾くくりつけて飛ぶのって怖そう。というか罰ゲームじゃん」
月夜・玲(頂の探究者・f01605)の瞳がユーベルコードに輝く。
同時に彼女の腰に装着されたガジェット……模造神器を扱うためのサポートガジェットが起動し、高速演算(コウソクエンザン)を開始する。
それは彼女の斬撃を確実に『コウモリ爆撃兵』たちへと届けるためのサポートである。敵は反響定位によって此方の動向を察知する。
「オブリビオンだからまあいっか」
放つ斬撃波。
それは模造神器の蒼い刀身より放たれ、空を舞う。
しかし、それは『コウモリ爆撃兵』たちにとって躱すには容易いものであった。
斬撃の波とは言え、それは空気を切り裂いて飛ぶ。
ならば、反響定位によって攻撃を察知することに長けた彼等であれば避けることはできるのだ。たっだ、一つ。
それが単一の攻撃ならばだ。
「そりゃそうだよね。知覚できても、反応出来なければ意味ないし。それが殊更上と下からの同時攻撃ならさ」
「ええ、そのとおりです」
蒼雷と赤炎の斬撃が蒼い残光と工作するようにして『コウモリ爆撃兵』の身体を切り裂く。
『熾天大聖』の放った二刀が飛ばす雷と炎が『コウモリ爆撃兵』たちの回避行動を狭め、玲の放った斬撃波の嵐が彼等を容易く切り裂くのだ。
一撃目は被膜を。
二撃目は焼夷弾を。
空中で爆発する『コウモリ爆撃兵』たち。その様子を玲は見上げる。
「芸術は爆発だ! ……いや、違うか。正直あんまり綺麗じゃないし」
「散開しろ! 敵は此方を囲うつもりだ!」
『コウモリ爆撃兵』たちが散らばるようにして空を飛ぶ。けれど、玲は相手にならないと走る。
空は『熾天大聖』によって抑えられている。
そんな空の自由聞かぬ敵は上ばかり気にして地上に対して注意力散漫になるのも当然のことだった。
「あのまま逃げられたのなら、正直追撃する手立てがなかったからさ……仕事熱心で助かったよ」
玲の放つ蒼い残光の一撃が『コウモリ爆撃兵』の翼を引き裂く。
体制を崩しながら『コウモリ爆撃兵』たちは叫ぶ。
怨嗟のように眼下にありし玲を睨めつけるのだ。死なばもろともということだろう。本当に、と玲はつぶやく。
「いいさ、突っ込んでくるなら。一匹たりとて逃すつもりは無いからね。そんな物騒なもの抱えて、ヤケを起こされても困るしね!」
放つ二振りの模造神器の斬撃が『コウモリ爆撃兵』を切り裂き、その身につけた焼夷弾を上空へと跳ね飛ばす。
それを『熾天大聖』の二刀の斬撃が破壊し、爆風荒ぶ中を玲と共に走り抜ける。
目指すは『有頂天天蓋』。
敵は頭上たる其処に――。
大成功
🔵🔵🔵
イーブン・ノルスピッシュ
連携アドリブ歓迎
勝敗が決したつもりで高を括るか
舐めるなよ、オブリビオン
追い込んだ獲物は慎重に殺せ、これが狩りの鉄則だ
自身の足元から勢いよく噴き上がる炎
広く展開させ、コウモリ共を包囲してやろう
この炎は執念深いぞ
こちらの行動を探知したとて、反応する余裕など与えない
一匹たりとも逃がすものか
逃げ場を限定できれば、後は刈り取るだけだ
追尾する炎に気を散らした者、捕まった者
片端から狙っていこう
俺は下から|改造銃《フィフティー・フィフティー》の徹甲弾で
お前は上から頼む、熾天大聖
……超音波は耳が痛くて敵わん
さっさとこの不快音を止めなければな
敵オブリビオンの指揮官は、この戦いを放棄しようとしていた。
猟兵がこの場に現れたことが己たちの目論見を御破算にするものであると理解しているのだろう。無駄に戦って消耗するよりも、次なる機会に向けて潜伏する方が良いと判断したのだ。
それは正しい。
正しすぎるくらいに正しい。
そうなっては猟兵たちも追う手立てを持っていなかった。
しかし、部下を抑えきれぬというのならば、話は別だ。オブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちが血気盛んに己たちに迫ってきていることは幸いだった。
「舐めるなよ、オブリビオン」
イーブン・ノルスピッシュ(戦闘猟兵・f40080)は、己の身体から燃え盛る炎を噴出させる。
「追い込んだ獲物は慎重に殺せ、これが狩りの鉄則だ」
「ウサギ風情が生意気を!」
『コウモリ爆撃兵』たちがイーブンに殺到する。
反響定位によってイーブンの位置はすでに割れている。どれだけウサギの瞬発性や機敏さがあるのだとしても、『コウモリ爆撃兵』たちはイーブンを十分に殺せると思っていた。
けれど、それは過ちである。
敵は己を獲物だと思っている。
逆だ。
カメリアの殺劇(カメリア・オペラント)はこれより始まるのだ。
足元から吹き上がる炎が『コウモリ爆撃兵』たちへと迫る。しかし、『コウモリ爆撃兵』たちは反響定位によって攻撃の位置を悟っている。
「馬鹿め! 無駄に炎を噴出させた所で!」
「この炎は執念深いぞ」
広がる炎がどこまでも『コウモリ爆撃兵』たちを追従していく。まるで執念深い怨霊のように彼等を追いすがり、遂には彼等を包囲する囲いのように炎が形成される。
「一匹たりとも逃すものか」
イーブンは見上げる。
確かに空を飛ぶ者は厄介だ。地を跳ねるようにして駆けることしかできぬ己にとっては、空を飛ぶ者は天敵にほかならない。
けれど、今は一人ではない。
放たれるユーベルコードの炎。
その揺らめく炎の先にあるのは、己の炎とは異なる炎。天蓋のように空を覆う宝貝『風火大車輪』が噴出させる炎。
それは。
「頼む、『熾天大聖』」
イーブンがつぶやく。
言葉は聞こえなかった。けれど、きっと応えてくれるとイーブンは理解していた。それは『熾天大聖』も同じであったことだろう。
炎の天蓋と囲いの中に大鴉の翼が羽撃く影が見えた瞬間、イーブンは改造銃に装填した徹甲弾を『コウモリ爆撃兵』へと放つ。
「……超音波は耳が痛くて敵わん」
長い耳をぺたりと折りたたんで、イーブンは飛ぶ徹甲弾が『コウモリ爆撃兵』たちを打ち据え、その身体を大地に失墜する様をみる。
「さっさとこの不快な音を止めなければな」
これより先にあるのは戦いではない。
狩りだ。
獲物はウサギたる己ではなく、空を飛ぶ『コウモリ爆撃兵』のみ。
炎囲う空は、すでに自由の象徴たり得ない。炎だけが恩讐の彼方にあることを知らしめるだろう。奪い続けてきたものたち。過去の化身。オブリビオン。
それを許せぬと言う感情こそがイーブンを走らせるのだ。
漲る炎は、吹き荒れ『須弥山型都市』に凄まじい突風を噴き上げさえ、戦いの場が炎の囲いより遥か上、『有頂天天蓋』に至るのをイーブンは知るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
ステラさん!? なんで尊死してるんですか!?
エイルさんとはまたちがう斜め上の扉の開放とか、いまはそういうのいいですから!
っていうか『熾天大聖』さん、たしかにかっこいいですね。
とっても『勇者』っぽい感じがします。
あ、いえその、なんといいますか!
ライバル出現かなって意味の『かっこいい』でして!
決してそういう意味ではないですから!
わたし、わんこ属性かもしれませんけど、わんこにはなれませんので!
そ、そんなことより、せっかく頭を押さえていてくれていますから、
いまのうちにしっかり叩きのめしちゃいましょう!
飛んでる相手には、バランス異常が致命傷!
ということで、【ボレロ】いっちゃいますよー!
ステラ・タタリクス
【ステルク】
……(じめんには『えがお』とダイイングメッセージがかかれている)(尊死)
いえ、獣人属性は斜め上かもしれませんが
あの微笑みには私の|エイル様《主人様》の香りが濃厚でした
それに、この『熾天大聖』様にはお会いしたことはないはずですが
もしそう感じたならエイル因子に『メイドのステラ』が刻まれた証拠では?
幸福で脳髄が焼き切れそう
『熾天大聖』様が前に立っているのなら
メイドの私が遅れるわけには!
ルクス様いきますよ
というかルクス様?
また『あててんのよ』しようとしてます?
かく乱はルクス様が得意なので
私はシンプルに撃ち落としていくとしましょう
【テールム・アルカ】起動!
パルスマシンガンの弾幕かわせますか?
笑顔を見た。
久方ぶりに見た笑顔だと思った。
戦禍階梯の大鴉の獣人、『熾天大聖』は青年であったけれど。それでもあの笑顔は少年のような笑顔だった。昔、そうやって笑ったことを思い出したかのような笑顔だった。
それをステラ・タタリクス(紫苑・f33899)は受け取って、倒れていた。
地面には『えがお』とダイイングメッセージが刻まれていた。
「なんで尊死してるんですか!?」
いきなり倒れたステラにルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は思わず突っ込んでいた。
いや、突っ込まざるを得ないが、その前に駆け寄ってあげてもいいんじゃないかと思わないでもない。
「『エイル』さんとまた違う斜め上の扉の開放とか、いまはそういうのいいですから!」
空を見てくださいよ! とルクスは倒れているステラの肩を揺さぶる。
その先にあったのは宝貝の炎でもって空を覆いながらオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちを自由に飛ばさせない『熾天大聖』の姿があった。
戦いは始まっているのである。
「いえ、獣人族製は斜め上かもしれませんが。あの微笑みには私の|『エイル』様《主人様》の香りが濃厚でした」
むくっと立ち上がってステラはでかけていた鼻血をずっと吸い込んだ。
あ、出そうだったんだ、とルクスは思ったが黙っていた。
なんか言おうものなら、ステラからのぐりぐりやらスリッパが飛んできそうだった。
「あの『熾天大聖』様にはお会いしたことはないはずですが、もしそう感じたなら『エイル』因子に『メイドのステラ』が刻まれた証拠では?」
「えぇ……何言ってるかわからないですけど……」
「これまでの道程を見ていればわかりますとも。ええ、わかりますとも! きっと『主人様』が応えてくださっているのです! 幸福で脳髄が焼ききれそう」
ステラの脳髄の前に血管がヤバそう。
ステラの目は爛々としていた。ユーベルコードに煌めく瞳と共にリサイズされたキャバリア兵器、パルスマシンガンが彼女の両手に構えられる。
やる気満々が過ぎる。
ルクスは確かに、と思った。
確かに、あの『熾天大聖』は『勇者』ぽい感じがするのだ。
懊悩があるからこそ、得られるものがある。
苦しみを得るからこそ、楽しみが得られるように。あの戦禍階梯の獣人の青年は、揺れ動くものを胸に秘めながら、しかして誰かのために戦うのだ。
「たしかに、かっこいいですね」
「――ッ!」
その言葉にステラは目を剥く。
瞳孔がガン開きであった。ルクスの発言になにか思うところがあったのだろう。『熾天大聖』が前に立っているのならば、メイドの己が遅れるわけにはいかないと思ったのだ。
けれど、それ以上に今、ルクスは聞き捨てならないことを言った。
「ルクス様? また『あててんのよ』しようとしてます?」
いつぞやのことを思い出す。
妙な迫力があった。迫力しかなかった。いや、今詰め寄っている暇なんてないはずなのだが、とルクスは思った。というか、余計なことを言った。
いや違うのである。
「あ、いえその、なんといいますか! ライバル出現かなって意味での『かっこいい』でして! 決してそういう意味ではないですから!」
確かにルクスはわんこ属性である。
師匠師匠師匠って言っているし。わからんでもない。けれど、ルクスは誤解だと首をブンブン振る。
そういう意味ではないのだと。
「は?」
ステラの圧がすごい。すごすぎる。瞳孔開きっぱの目は怖い。
「そ、そんなことより、せっかく頭を抑えてくれていますから、いまのうちにしっかり叩きのめしちゃいましょう」
「……」
「そ、それに、ステラさんの活躍を見れば『熾天大聖』だって褒めてくれるかもしれないじゃないですか!」
ね! んね! とルクスが指差す先にあるのは『コウモリ爆撃兵』たちであった。
それもそうであると、ステラは納得してパルスマシンガンの銃口を向ける。
「わかりました。ならば、ルクス様は撹乱を。私はシンプルに撃ち落としましょう」
「はーい、ということで、ボレロいっちゃいますよー!」
ルクスがドスン、と重たい音を立ててグランドピアノを地面に置く。
その光景を見て、ステラはルクスに追求している場合ではなかったと、耳栓を取り出そうとして慌てる。
生憎両手はパルスマシンガンが塞いでいる。
「あ、待ってルクス様。みみせ……」
「わたしの魂を響かせますよ!」
旋律が響き渡り、グランドピアノの音色が、いや、音色と呼ぶにはなんていうか、その語弊のある奏魔法と云う名の破壊音波が戦場に響き渡るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎
OK、|空《うえ》は任せた!コッチも飯屋のワリカン分位は働かせてもらうとするか!
一応一般人に被害が出ないよう気配りしつつ戦闘
余裕あれば避難勧告及び誘導しておこう
コウモリなんざどっちつかずの代表と思ってたが根性あるじゃあねえの。
敬意を表して苦しまねえように逝かせてやるよ!
UC発動、グレイプニルより複製した「レージング」により
敵の拘束と無力化を狙う
行動感知で避けられた場合は囮として動かす
動きを読んでる?まあいいさ。|「認識」《lock-on》は|既《とっく》に終わってらあ!
ガンディーヴァによる【誘導弾】【制圧射撃】で仕留めていく
特に爆弾や焼夷弾は誘爆狙いで念入りに攻撃しておこう
「OK、|空《うえ》は任せた! コッチも飯屋のワリカン分位は働かせてもらうとするか!」
ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)は『須弥山型都市』の街中を走る。
その彼より先に飛ぶのは大鴉の戦禍階梯たる獣人の青年『熾天大聖』であった。戦闘義体に換装された四肢。
建物の屋根を蹴って飛ぶ。
脚部に備えられた宝貝『風火大車輪』が噴出する炎が天蓋のようにオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちの頭上を抑える。
「頼みます」
『熾天大聖』の瞳には迷いはなかった。
これまで彼の瞳には戦いに対する後ろ暗さがあった。揺れ動く悪性と善性があるからこそ、良心を獲得できたように、彼は常に迷っていた。
けれど、ロウガは共に食を取った仲である。
わかる。
どんなに迷い、惑いながらも、それでも人は決断していかなければならないものなのである。故にロウガは己より先に飛び、『コウモリ爆撃兵』たちの頭上を抑える『熾天大聖』を信頼するのだ。
「上を抑えてくれているってんなら!」
ロウガは街中を駆け抜ける。
オブリビオンによる攻撃で一般人たちに攻撃が及んではならない。声をかけながら走り、ロウガは彼等が決して弱き者たちではないことを知るだろう。
彼等だってそうなのだ。
戦わなければ奪われるばかりであると知っている。だからこそ、ロウガは炎の天蓋によって自由に飛ぶことの出来ない『コウモリ爆撃兵』たちを睨めつける。
「忌々しいことを!」
「へっ、コウモリなんざどっちつかずの代表と思ってたが、根性あるじゃあねえの」
「地を這う者がほざくな!」
反響定位によって『コウモリ爆撃兵』たちは此方の攻撃の起点を即座に察知する。
放たれるワイヤーの一撃を軽々と『コウモリ爆撃兵』たちは躱すのだ。
こちらの攻撃を読まれている、とロウガは即座に理解する。
ならば、と彼の瞳がユーベルコードに輝く。
「反響定位です! 彼等は音で」
「こっちの攻撃の起点を理解してるってこったな! ならよぉ!」
ロウガのユーベルコードが走る。
不空羂索(ラウンドアップ・ストラングラーズ)たる力が発露する。己が手にしたワイヤー『グレイプニル』が百を越える数複製され、ロウガの念力でもって全てがバラバラに空中に走るのだ。
それは炎によって高度を取れぬ『コウモリ爆撃兵』たちにとって致命的な囲いとなる。
「その根性に敬意を表して苦しまねえように逝かせてやるよ!」
ロウガの掌が握り込まれる瞬間、ワイヤーが一気に囲っていた『コウモリ爆撃兵』たちへと迫るようにして捕縛するのだ。
締め付けられるワイヤーに彼等が呻く。
「|『認識』《lock-on》は|既《とっく》に終わってらあ!」
手にしたスマートガンの銃口がワイヤーに絡め取られ、空より墜ちる『コウモリ爆撃兵』たちを捉える。
放たれる弾丸が彼等の身に付けた焼夷弾を貫いた瞬間、空に吹き荒れる爆発が『須弥山型都市』の上空で炸裂する。
火の粉が飛び散る最中、ロウガは更に走る。
「戦えねー奴らは建物の中にいな! こっちがかたを付けて来るからよ!」
何も心配することも、怯えることもないのだというようにロウガは笑って走る。
戦場にあって生命とは奪い、奪われるものである。
争いは戦火でもって日常を戦場に変える。その恐ろしさは言うまでもないだろう。故に、ロウガは見なくて良いものは見なくて良いと思うのだ。
戦うことは、戦うものが抱えれば良い。
どれだけ恐ろしくとも、自身がそれを抱えている限り、火の粉は他者にふりかからぬのだと知っているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
リア・アストロロジー
(変えられないもの。望んでも望まなくても、彼らはそこに在るのなら……在ってしまうのなら。わたしたちにできることは――、)
指定UCの使用と共に3機のドローンを展開。
熾天大聖さんは、わたしを敵だと決めつけることも出来たけれど、そうはしなかった。
余所者の私から受け取ったハートのキャンディを、一緒に食べてくれた。
ひとの心の中に湧き出る感情が、変えられないものだったとしても、それは確かに、迷うあなたが選んだ道で……私はそれが嬉しかったから。
わたしも、その心に応えます。
メルキオールを中心に指向性の音響砲で空中戦に対応。
「あなたたちも……もう、帰る時間」
音響兵器で落ちてきた敵に拳銃でとどめを刺していきます。
自分に出来ることはなんであろうかと思う。
その思考はいつだって己の中にゆらぎを齎すものである。そのゆらぎを迷いと呼ぶのならば、そうであると思うし、また同時に断言したくないものであるとも思えたかもしれない。
空を飛ぶ大鴉の戦禍階梯の獣人『熾天大聖』の広げた翼の先には、宝貝による炎の天蓋が広がっている。
彼の放つ炎がオブリビオン『コウモリ爆撃兵』たちのアドバンテージの一つである飛翔を妨げているのだ。
彼は迷い、惑いながらも戦うことを躊躇わなかった。
迷うことは戦場において、致命的に成りかねない行いである。それらを排除することこそが、兵士としての機能を果たすことになるのをリア・アストロロジー(M2-Astrology・f35069)は知っている。
これまでもそうであったのだ。
自身の傍らで、もしくは自身の対面で。
そうやって生命尽きる者達を見てきた。
変えられないものがある。
望もうと、望まなくとも、そう在るという者たちが居る。そうであってしまう。
「なら、わたしたちにできることは――」
悠久なる星々に捧げた願いがリアの瞳をユーベルコードに輝かせる。
星降る夜が炎の天蓋の下に生まれる。それはリアのユーベルコードであり、その力は内部にある者たちの負傷を癒やし、そして同時に次なる行動に背中を後押しする力。
その力を得て翻るのは『熾天大聖』の振るう二刀が放つ蒼雷と赤炎の斬撃であった。
「……これは……!」
彼の周囲に飛ぶ三機のドローン。
それはリアのもたらす福音の名。それらが『熾天大聖』を援護するように飛び交い、さらに『コウモリ爆撃兵』たちを追い込んでいくのだ。
彼等を放置すれば、『須弥山型都市』の街中に焼夷弾による炎が吹き荒れることになるだろう。そうなれば、また生命が失われる。
泣く者たちが増えるということだ。
それをさせぬためにこそリアはユーベルコードの力を振るう。
それは、星かげさやかに(ホシカゲサヤカニ)煌めく願いのようなものであった。
リアは知っている。
「『熾天大聖』さんは、わたしを敵だと決めつける事もできたけれど、そうしなかった」
彼等には余所者を判別する術がある。
余所者であるのならば、要らぬ争いの火種を持ち込むこともあるだろう。それを厭うこともまた理解できるものである。
むしろ、そうしなければ、この戦乱の世界を生き抜くこともまた難しいはずであっただろうから。
けれど、そうしなかったのだ。
『熾天大聖』はしなかった。
自分たちのことを知り、否定するのではなく受け入れ、飲み込むのだ。
迷い、惑いながら、しかして悪性と善性の間に身を置き、己の良心によって決めたのだ。
「うれしかった。受け取ってくれて。一緒に食べてくれて」
それは真心というものであったことだろう。
人の心の中に湧き上がる感情は否定できない。変えることもできないのかもしれない。
けれど、それでも、とリアは嬉しいと思ったのだ。
それもまた変えることのできない真実であったことだろう。
「いつまでも揺れ動き、迷い続けている僕であっても、ですか」
『熾天大聖』の瞳が此方を見ている。
迷い、揺れ動き、定まらぬ良心故に苦悩する者を信じるのかと、その瞳が告げている。
リアは迷うこと無く告げた。
「迷うあなたが選んだ道……それが私は嬉しかったから。わたしも、その心に応えます。『メルキオール』、『バルタザール』、『カスパール』!」
リアの精神感応によって操作されるドローンが一気に空を飛び、その備えられた音響兵器でもって『コウモリ爆撃兵』たちを打ち据える。
「……音響兵器だと……!? 俺達を狙い撃ちに……!」
墜ちた『コウモリ爆撃兵』をリアは見下ろす。
手にした拳銃の銃口が彼等へと向けられていた。
「あなたたちも……もう、帰る時間」
リアの唇が小さく言葉を紡ぐ。
オブリビオンの存在はいつだって、戦乱を呼び起こすもの。
それゆえに人は傷つき、嘆くしかなくなるのだ。ならばこそ、リアは見上げる。そこにあったのは、このオブリビオンの部隊を引き連れていた指揮官のオブリビオンの姿。
彼女の瞳は『熾天大聖』に向けられていた――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『クロスファイア・コマンダー』
|
POW : 進軍命令
攻撃力に優れた【砲戦型パンツァーキャバリア部隊】、レベル×2体出現する【砲撃型機械兵士部隊】、治癒力を持つ【機械衛生兵部隊】のいずれかを召喚し、使役する。
SPD : 焼却命令
【背中に装着された巨大ガトリング砲】から【無数の焼夷弾】を放ち、敵及び周辺地形を爆発炎上させる。寿命を削ると、威力と範囲を増加可能。
WIZ : 殲滅命令
自身の【背中に装着された巨大ガトリング砲】を【殲滅砲火形態】に変形する。変形中は攻撃力・射程が3倍、移動力は0になる。
イラスト:bit.
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「煙草・火花」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『クロスファイア・コマンダー』は、最初撤退しようとしていた。
猟兵に露見した以上、この戦いは負け戦にしかならない。そうであるというのならば、徒に戦力を消耗することは無為なることであったからだ。
だから、即座に撤退しようとしていた。
しかし、彼女の傾げた首は、反対側へと傾けられる。
「……あれは」
猟兵たちの幾人かが己を見ていた。
わかっている。オブリビオンである己を打倒することこそ彼等の使命であるからだ。
だが、彼女の視線は猟兵ではない者へと注がれていた。
「……そう、なのか? そうなんだな。そうだな!」
見開かれる目。
爛々とした輝きを放つ『クロスファイア・コマンダー』、『ノイン』と名乗ることにしているオブリビオンは目を見開き、笑っていた。
歓喜に震えているようでもあった。
彼女の視線の先にあるのは大鴉の戦禍階梯たる獣人の青年『熾天大聖』。
戦闘義体と宝貝をたぐり、猟兵と共に戦う青年の姿を捉え、彼女は駆け出す。今までの撤退戦を、と考えていた彼女はもう居ない。
「あれがそうなら、私が此処に居る意味もあるというものだ!」
恐るべき速度だった。
彼女は『有頂天天蓋』へと飛ぶ。
支柱を蹴って、まるで地面を走るようにして垂直なる壁を駆け上がって『有頂天天蓋』へと至る。
そこには慰霊祭を執り行っていた数多の獣人たちがいた。
彼等は戦いの音を聞き、怯えているようであった。しかし、彼等とて多世界の文明と技術を融合させた獣人たち。
戦う力は持っている。
けれど、どうしようもなく怯えているのだ。
「そうだろうとも。戦う力を持っていたとしても! 心は竦んでいるのだろうよ! わかるよ。諸君らは臆病なだけだ。人より多く傷ついてきたから、此れ以上がないようにと、己が身を守ってる。いや、猟兵よ。彼等をせめてあげるな」
『クロスファイア・コマンダー』は『有頂天天蓋』を覆う天蓋、その頂上に在りて手を広げて、首を傾げる。
「彼等は守りたいだけだ。穏やかな日常を。己の身を。己の親しき者たちを。慰霊と言いながら、その実、自分たちが傷つかないようにと祈っているのだから!」
傾げた首を反対側に倒し、『クロスファイア・コマンダー』は笑う。
それはまるで挑発しているかのようであった。
戦いによって冷え切った心を嘲笑うように。そのまま冷えて、ただ徒に生命を散らすばかりであれと、彼女はもう一度反対側に首を傾げ彼等を見下し、猟兵たちを『有頂天天蓋』の天井にて迎え撃つのであった――。
月夜・玲
ふうん、何を見出したのかは知らないけれど
知ったこっちゃないね!
けど、撤退しないんだ
それじゃあこれで終いに出来る
執着は時に身を亡ぼす
反面教師として刻ませて貰おうかな
君は世界の敵、オブリビオン
たとえ元が何であろうとも
どんな思いが内にあろうとも
過去が今を生きる人の邪魔をするんじゃないよ
【剣技・嵐流剣】起動
蒼嵐を纏い、地を蹴り駆ける
ガトリングの射線を予測し、射線からズレて走り接近しよう
周囲に被害が出そうな焼夷弾は『斬撃波』で『吹き飛ばし』安全な場所に
4倍火力、なめんなよ!
というか走って出す速度じゃない!
おっと、ここでインド人を右に…じゃなくて
火線を搔い潜り一気に接近
勢いそのまま一気に剣で『串刺し』だ!
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』は嘲笑する。
今を生きる者たちを見下げ、嗤っている。
彼女にとって、それは挑発であったが『有頂天天蓋』にて慰霊を行っていた人々にとっては侮辱以外の何物でもなかった。
背に追うガトリング砲が展開し、装填された焼夷弾の重さを彼女は感じ、そして己に迫る蒼い残光を見た。
「来たか、猟兵」
「何を見出したかは知らないけれど、知ったこっちゃないね!」
放たれた蒼い残光。
それは模造神器の刃の光。撃ち込まれた一撃とガトリング砲が激突し、火花を散らす。
月夜・玲(頂の探究者・f01605)の振るう斬撃の一撃は痛烈なる重さを持っていた。踏みしめた『有頂天天蓋』のフレームがきしむ。
「私の戦う理由である。あれは『熾天大聖』と名乗っている。あれが大元だ。あれが平和を願ったがゆえに、争いが起こっているという事実をあれ自体が知らぬということが私には許しがたい」
ただのガトリング砲を振るだけで玲の模造神器の一撃を弾き飛ばす『クロスファイア・コマンダー』。
強大なオブリビオンであることが理解できるだろう。
「けど、撤退しないんだ。それじゃあこれで終いに出来る」
「そのつもりはないよ」
「そういうのを執着って呼ぶのさ。身を滅ぼすほどの執着、反面教師として刻ませて貰おうかな」
対峙する瞳が交錯する。
互いに煌めくはユーベルコードの輝き。
「やってみるがいいさ。猟兵。世界の悲鳴に応える者」
「言われなくても。元がなんであろうとも、どんな想いが内にあろうとも、過去が今を生きる人の邪魔をするんじゃないよ」
身に魔塔は蒼嵐。
玲の踏み込む速度が桁違いにまで上昇する。蹴って飛ぶようにして走る彼女の蒼い一房の髪が戦場に一閃の如く引かれる。
振るう斬撃の速度は圧倒的だった。
ガトリングから放たれる焼夷弾すら玲は斬撃で切り上げ、跳ね飛ばす。空に舞うように火の粉が舞い散る最中、玲はさらに踏み込むのだ。
「君は世界の敵、オブリビオン。ならさ!」
「私の敵は猟兵、諸君らだよ。過去を踏みつけて来た報いを今受けてもらおうか!」
『クロスファイア・コマンダー』は、その圧倒的な速度にすらついてくる。
「四倍火力、なめんなよ!」
玲の速度は圧倒的すぎた。ただ一歩を踏み出すだけで雷鳴のような轟音が響き渡る。
放たれる牽制の弾丸すら玲には止まって見えただろう。
「おっと、ここでインド人を左に……じゃなくて!」
火線を切り抜け、かいくぐる。
今の玲ならば、それができる。しかし、敵もさるものである。玲の挙動を見きったかのように弾丸を『置き』に来ているのだ。
剣技・嵐流剣(プログラム・ストームエッジ)は、確かに玲の速度を上げる。
しかし、疾走することによって攻撃力と回避力を上げるが人の身であるがゆえに止まることができない。
即ち、弾丸を『置いて』いるだけで玲は弾丸にぶつかってしまう。その時のダメージは計り知れないものとなるだろう。
だが、そこに割り込むのは大鴉の翼だった。
弾丸を受け止める『熾天大聖』の翼。玲の窮地を救うように彼の身より血潮が飛ぶ。
「……ッ、今です!」
「嵐はただ、全てを乱す!」
玲が大鴉の翼と蒼雷、赤炎の間から飛び出す。
『クロスファイア・コマンダー』へと迫る玲の手にした模造神器の煌めきが迸るようにして彼女へと突き出される。
交差した腕。
その中心を射抜くように突き出された蒼い刀身は、吹き荒れる炎と雷。その蒼き嵐と共に『クロスファイア・コマンダー』の胸を貫くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
シプラ・ムトナント
戦いとは理不尽にも命を奪うもの。それを恐れ、自分や誰かを守ろうとするのは当たり前の話です。
だからこそ、わたし達がそれを嘲笑ってはならない。
己の利益と守りたいもののために、理不尽に命を奪えるわたし達は……!
『催眠の羊眼』を使います。背中のガトリング砲は明確な脅威、狙うのはあそこです。
敵の射撃体勢に合わせて、こちらも眼の力を解放します。
僅かな時間、わたしに友好的になって頂きます……射撃は、厳禁ですよ。
持って2分強、近づくには充分な時間です。
虚を突けるうちに攻め込みます……『熾天大聖』さん、ここが好機です。
全力で接近して距離を詰めきったら、|散弾銃《レミー》をその体に押し当てて【零距離射撃】を。
いつだってそうだ。
戦いというのは否応なしに人の命を奪い去っていく。
どんな尊き者も、どんなに卑しき者も。
いずれも砲火は平等に扱う。老いも若きも、須らく奪い去っていく。炎の中に消えていく生命を見た。
故に『須弥山型都市』の『有頂天天蓋』にて慰霊祭を行っている人々の瞳にあるのは怯えだった。
多世界の文明と技術。
それらが組み合わさってなお、彼等の心に刻まれていたのは争いに対する恐れだった。
「見給えよ。これが真実というものだ。こうやって人々は闘いを忌避するが、己以外の誰かがそれを担ってほしいと願っているものだ」
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』のガトリング砲が唸りを上げるようにして変形していく。
胸に叩き込まれた斬撃の一撃に血潮を溢れさせながらも、それでもなお『クロスファイア・コマンダー』は立っていた。
嘲笑するように、そのガトリング砲を殲滅形態へと移行していくのだ。
「戦いとは理不尽にも生命を奪うもの。それを恐れ、自分や誰かを守ろうとするのは当たり前の話です」
シプラ・ムトナント(鋼の衛生猟兵・f39963)は『須弥山型都市』との天井とも言うべき『有頂天天蓋』に至りて、オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』と対峙する。
変形するガトリングは恐ろしいものであった。
あのシリンダーの銃身が回転を始めれば、瞬く間に破壊が撒き起こるだろう。
そうなれば、この眼下にある天蓋の下にいる獣人たちを巻き込むものである。だからこそ、シプラの瞳はユーベルコードに輝く。
催眠の羊眼(ヒュプノスシープス・アイ)は、視線だけで催眠を引き起こすものである。
「あなたは明確な脅威。故に此処で……!」
「催眠の魔眼か」
「ええ、僅かな時間ですが、わたしに友好的になって頂きます……射撃は厳禁ですよ」
その言葉を告げた瞬間、『クロスファイア・コマンダー』が踏み込んでくる。
確かに彼女の 催眠の羊眼(ヒュプノスシープス・アイ)は『クロスファイア・コマンダー』にあたっている。効果を及ぼしている。
けれど、その友好を上回る敵意があった。
ガトリングを遣わないところが限界であったのだろう。その銃身を振るいながら、シプラへと叩き込まれる一撃に彼女の骨身がきしむ。
咄嗟に腕でかばうことが出来たのは幸いであった。
しかし、それでも。
「無駄だよ。友の情けとも言うべきかな。射撃はしないでおこうとは思うが、それ以上に猟兵、諸君らは私の敵だ。そして『熾天大聖』と名乗るあれと共に在るということは、私にとっては何者にも凌駕するものであると知るがいいさ!」
叩き込まれる拳。
白兵戦に持ち込まれている。
「……! それほどまでに憎しみに囚われて!」
「そうさ。それが戦争というものさ。憎しみと憎しみの連鎖。断ち切れるものではない。どこまでも続いていくのさ。怨嗟というものは、そうすることで生み出されるものであるから!」
「それを断ち切ろうとは」
「思わないさ。私は過去の化身。オブリビオン。なら!」
過去にこそとらわれる。
歪み果てる。
踏みつけられてきた過去は『今』という重力に寄って歪められているがゆえに。
「踏みつけにされてきた過去に逆襲されるのは、どんな気分だい!」
振るわれる一撃を受け止めるのは二刀。蒼雷と赤炎。吹き荒れるそれを振るうのは『熾天大聖』であった。
シプラは走る。
己がすべきことを知っている。
炎と雷が迸る最中、シプラは己に迫る銃弾を大鴉の翼が受け止めている事を知る。
「頼みます……あれは、ただ憎しみだけを糧にしている。全ての生けるものを嘲笑わなければいられない者」
「あなたが作ってくださった好機……此処で!」
シプラが飛び込む。
こじ開けられたガード。『クロスファイア・コマンダー』の懐に飛び込んだシプラの手にした切り詰められたソードオフのショットガンの銃口が突きつけられる。
「あなたが嘲笑うものをこそ、わたし達が嗤ってはならぬもの。守りたいもののために、理不尽に生命を奪えるわたし達は……!」
「それが猟兵だとでも言うのかい」
引き金を引く。
躊躇いはなかった。なぜなら、シプラたちは多くを喪ってきている。だからこそ、己の鋼は曲がらない。折れない。屈しない。
如何なる嘲笑も、その鋼の意志をくじくに値しないと、その弾丸を持って『クロスファイア・コマンダー』を打ち据えるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
貴様が、彼等が、
何を思おうとも、自分のする事はただ|これ《戦う》だけだ!
瞬間思考力、人工魔眼の|超視力《千里眼》で展開された敵軍を視認、
念動力、黒鎖鉄杭を翻し、敵の攻撃を受け流し、
邪魔な敵部隊を念動鎖で捩り倒し、刺し壊し、
メガスラスターでノインを追う!
『M'aider』
戦え!壊せ!求めるのなら!!声を上げろ!!!
はじまりの猟兵、そのハルバードを掲げ、
見据えた先、ノインへ、突っ込む!どんな攻撃でも、
この斧槍を、そこに込められた想いは、壊せはしない。
壊させはしない、戦い続けるのは、自分達だ!!
あらゆる障害を弾き、なぎ払い、ハルバードでノインへ切断する!!
叩斬れ、壊せ!!|猟兵《イェーガー》!!!
「良く言うものだ! 猟兵、諸君らは過去であろうと我らオブリビオンを確実に滅する。どれだけ過去が今という時間に踏みつけられてきて歪むのだとしても、それでも諸君らは!」
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』の声が響く。
『有頂天天蓋』。
『須弥山型都市』の最も高き場所において猟兵達と彼女の戦いは続く。
ユーベルコードが激突するたびに。
両者の武器がぶつかるたびに。
天蓋の骨子は軋み、揺れる。そのさなかに飛ぶようにして走る者があった。
「貴様が、彼等が何を思おうとも、自分のすることはただ|これ《戦う》だけだ!」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)は叫ぶ。
己は単一のことしかできない。
そう、戦うことだけだ。力を振るい、己の存在意義を問うこととする。それが兵士である己であると示すように小枝子は人口魔眼が見せる輝きを迸らせながら、戦場たる『有頂天天蓋』の上を疾駆する。
「戦うことだけと言ったな、猟兵。戦うことしか見てこなかったがゆえに、平和の意味も知らぬ申し子よ。君は!」
掲げる手により飛来するのは『クロスファイア・コマンダー』が招来せしめた砲戦型パンツァーキャバリア部隊であった。
地鳴りがするように天蓋の上に降り立つパンツァーキャバリア部隊。
その砲火が一斉に小枝子に向けられる。
「そうだ。そうだとも! 戦う! 戦い続ける!」
漲る力がある。砲火の中を駆け抜けてこそ、己が存在している意味を知る。これはきっとそういうものだ。
充足というのならば、小枝子にとって、これのことを示すのだろうと思った。
平穏なる日常で感じる風よりも。
戦場で荒ぶ爆風の中でこそ、小枝子は己の心が満たされるのを感じる。翻る黒鎖鉄杭が砲火を弾き、さらに迫る。
奔る黒鎖がパンツァーキャバリアの一騎を捻るように縛り上げ、鋼鉄の躯体を拉げさせる。引き寄せ、穿つ鉄杭の一撃が爆炎を上げながら天蓋の上に残骸を晒す。
さらに飛び込む。
「笑わせるな。戦いしか知らぬのならば、この戦いに意味などないさ。君も求めているのならば、この偽りの如き平和を壊すことこそ戦いであると知れ!」
『クロスファイア・コマンダー』が示すのは、眼下の天蓋に集う慰霊を行っていた獣人たちの怯えた顔だった。
争いを厭う者達。
火の粉がかからぬことを願うばかりの者達。
だが、小枝子は見た。
大鴉の翼が広がっているのを。戦闘義体の四肢。携えた宝貝。いずれもが戦いの道具である。どうしようもなく戦争というものを体現した戦禍階梯たる獣人。
『熾天大聖』もまた小枝子と共に『クロスファイア・コマンダー』へと向かっている。その身は猟兵達に迫る攻撃をかばって傷ついている。
血潮が流れている。
「それでも、誰かの痛みを己によって肩代わりできるのなら」
それが戦うことだと『熾天大聖』は叫ぶ。
その叫びを小枝子は聞く。
戦うと言いながら、助けを求めている。ならば、と小枝子は告げるのだ。
「M'aider――戦え! 壊せ! 求めるのなら!! 声を上げろ!!!」
小枝子は叫んだ。
それは助けを求める声であったけれど、同時に代弁でもあった。
『熾天大聖』は助けを求めている。
戦いにあって、戦いを忌避しながら、戦いの渦中にて得られる感情に翻弄される者。彼の在り方に小枝子は叫ぶ。
理由などわからない。どうでもいい。けれど、それでも言うのだ。
その声こそが己たちの標。
小枝子の瞳がユーベルコードに輝く。
手にしていたのは、はじまりの猟兵の武具(ハルバード・スタート)。
爆煙上がる天蓋の上を走る。手にしたハルバードの重みを感じ、『クロスファイア・コマンダー』、『ノイン』と名乗るオブリビオンへと肉薄する。
「壊させはしない!」
「いいや、壊すさ!」
「戦い続けるのは、自分たちだ!!」
振るわれる一撃を受け止め、薙ぎ払い、さらに肉薄する。迫るパンツァーキャバリアすらもねじ伏せる。しかし、彼女の背後から迫る機体に小枝子は気が付かない。気がつくことができない。視覚の外から攻勢に彼女は反応できない。
けれど、蒼雷と赤炎が走る。それは『熾天大聖』の放つ二刀。それが小枝子に迫る敵を打ち払うだの。
「貴様が嘲笑を持って、今を生きる人々の障害となるのなら!」
振るい上げたハルバードの一撃が『クロスファイア・コマンダー』へと叩きつけられる。
火花を散らしながら、交錯したガトリングの銃身を押し切るようにして振り下ろされる。
「叩き斬れ、壊せ!!|猟兵《イェーガー》!!!」
いつかの誰かが助けを求める声に応じたように。
戦場にて声無き助けを求める声に答えるように、小枝子のハルバードの一閃がオブリビオンのガトリングを叩き切るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
笹竹・暁子
――聞き捨てならないものを聞いた
展開していた「手」を翼に戻し【推力移動】と併せ一気に敵がいる天蓋上空まで飛翔
攻撃に対し、射出した〔霊刃羽〕を〔盾形態・銃形態〕に移行
適切な防御を【見切り】盾の霊力力場で熾天大聖も支援しながら、こちらも【弾幕】で牽制
目立つよう旋回軌道を描き、簡単にこちらから視線を切れないよう陽動する
…ああ、身体が熱い
――臆病で何が悪い
日々を、身を守る事の何が悪い
力があろうとなかろうと、生きる事に懸命な心持ちをどうして責められる
怯えていても、彼らの心底に勇気はある!
武器を取るだけが戦いじゃない!
明日へ、暁の先へ希望を繋げていく事も、戦いの一つなのよ!
メイガスの〔スザク〕形態を解放
文化圏的にもこの姿が皆の心を奮わせると信じる!
そして、これが合図よ!
ここまでの【時間稼ぎ】中に展開し【闇に紛れる】事で潜伏していた【指定UC】達たちの出番!
〔赤熱シャベル・霊力武器〕で【不意打ち・部位破壊・集団戦術・フェイント・早業・連続コンボ】!狙うはガトリング砲!
小さく、臆病でも、希望の為になら!
『須弥山型都市』の『有頂天天蓋』を目指して飛ぶ機動甲冑があった。
羽撃く。
それは意志を載せていた。
譲れぬものがあった。
多くのものを喪った者たちがいる。友人であったり、家族であったり。いずれも大切な者たちであったことだろう。
日常が掛け替えのないものなのではない。
日常を形作るものが掛け替えのないものなのである。
それが失われることを厭うことを謗られる謂れなどないはずである。しかし、オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』は嘲笑と共に『有頂天天蓋』にて慰霊を行なう者たちを見下げ果てるように謗る。
「守る価値があると思うかい。猟兵」
斬り伏せられたガトリングの銃身を捨て、さらに新たなるガトリング砲が背面から現れる。
装填された焼夷弾が爆発を『有頂天天蓋』に齎す。
揺れる天蓋。
悲鳴が上がる。恐怖に震える心の震動を聞いたような気がした。
少なくとも、笹竹・暁子(暁を臨む一夜の為に ~雀のお宿の外仲居~・f39919)にとってはそうだった。
機動甲冑『サウス』を駆り、暁子は天蓋の直上へと飛翔する。
羽撃くようにして放たれた霊刃羽が『クロスファイア・コマンダー』へと襲いかかる。
けれど、それを彼女は容易く躱し、また振り払いながら天蓋の上を走る。爆発が撒き起こり、爆風が圧倒的な熱を伴って『サウス』を押し戻す。
身体が熱い、と暁子は思った。
聞き捨てならない言葉を『クロスファイア・コマンダー』は言った。
臆病で何が悪いのだと思った。
「日々を、身を守ることの何が悪い」
「悪いさ。今、此処に身を擲つものがいるのに、自分たちは動こうとしていない。猟兵、諸君らの戦いを見てなお、彼等は動かない。戦える力があるというのに!」
「いいえ。力があろうとなかろうと、生きる事に懸命な心持ちをどうして責められる」
「お優しいことだ。諸君らは、かの怯えきった者たちを守らねばならぬと市営に駆られている。しかし、それに彼等が報いると思うかい?」
その言葉に暁子は押し黙る……ことはなかった。
「怯えていても、彼等の心底に勇気はある! 武器を取るだけが戦いじゃない!」
焼夷弾の生み出す爆発と霊刃羽が乱舞する。
その最中に『熾天大聖』の放つ宝貝の炎と雷が走る。
しかし、それでもなお『クロスファイア・コマンダー』を追い詰めることはできなかった。
「明日へ、暁の先へ希望を繋げていくことも、戦いの一つなのよ!」
人々を見上げただろう。
そこにある戦いを見ただろう。
確かに戦いは疎まれて当然のことである。誰もが傷つきたいとは思わないだろう。戦いに赴けば必ず痛みが走る。
わかっているからこそ、一歩を踏み出せない。
だから、暁子は信じたのだ。
自分の言葉ではない。揺れ動く人の良心を信じた。人の心に悪性と善性があるかぎり、生まれる差異は良心。
故に暁子の瞳がユーベルコードに輝く。
赤熱する機動甲冑の装甲。迸るように炎と霊力の矢が『クロスファイア・コマンダー』へと飛ぶ。
「私たちは信じている。力の大小なんて関係ない! 小さく、臆病でも、希望の為になら!」
これまでの暁子は時間稼ぎをしているに過ぎなかった。
けれど、彼女の瞳はユーベルコードに輝く。
専用装備での奇襲を齎す夜雀隊が影から飛び出す。一撃離脱の一撃。
「そのか細い希望を手繰り寄せるかい!」
「ええ、私だけではなく。私達で!」
その言葉に声が上がる。
暁子は見ただろう。天蓋の下で獣人たちが声を上げるのを。これまで猟兵とオブリビオンの戦いを見ることしかできなかった彼等の瞳を見た。
怯えもあっただろう。迷いもあっただろう。
『熾天大聖』が抱えていたように、それは誰しもの心に宿るものである。だから、暁子は信じたのだ。
「私達がどれだけ弱いのだと謗られるのだとしても、心までは傷つけられない。例え、この身が恐怖に竦んでいるのだとしても悲鳴だけはあげたくない」
「それが奴らの思うつぼだとわかっているから」
響く声に暁子は笑む。
戦うという言葉の意味は様々である。震える声が、脚が。それでも、と声を上げた者たちがいるのだ。
ならばこそ、暁子は己の心のなかで彼等の言葉を反芻する。
心までは傷つけられない。
ならば、と暁子は己の力を振るう。そこにあったのは超克の輝き。その瞳に輝く光が、見せるは人の意思だ。
振るう赤熱したシャベルの一撃が『クロスファイア・コマンダー』を打ち据える。爆煙の中を機動甲冑が走る。
鍔迫りあうように喋るとガトリングの銃身が火花を散らす。
「聞こえるかしら。これが貴方が謗った人達の声よ!」
振り払う一撃が『クロスファイア・コマンダー』を打ちのめし、天蓋を覆う天井を砕きながら彼女を『有頂天天蓋』へと叩き落とすのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
風花・ゆきみ
死者を弔う気持ち、穏やかに過ごしたい気持ち
それをあなたが嘲笑う権利などないのであります!
何かを守るのだって力が必要なのです
それは勇気ある行動だと私は思います
こうやって慰霊祭を行えるのも、皆さんの心あってこそ
それを守るためなら私は迷わず戦うのであります!
何が呼び出されても相手の手数が増えるでしょうね
だったら攻撃回数を増やし敵を牽制しつつ、司令官を素早く狙えるようにしたいところ
特製ダイナマイトを投擲して相手の動きを撹乱しつつ、ライフルでどんどん制圧射撃するのであります
私は余所者とはいえ、同じ戦乱の世界で生まれ育った猟兵なのです
何かを守りたい気持ちは同じ
例えどんな強敵が現れようとも決して退きません!
砕けた『有頂天天蓋』の天井。
そこからオブリビオン『クロスファイア・コマンダー』は墜ちてきた。
猟兵の一撃を受けて身体を軋ませながら、慰霊を成す獣人たちの元へ。猟兵の言葉によって彼等は心に火を灯されていた。
誰もが戦えぬわけではなかった。
けれど、戦いに心冷たくされていただけなのだ。
喪った痛みは、誰しもが知ることのできるものであったが、傷がすぐに癒えるものでもないこともまた同様であった。
「笑わせてくれる。何処まで行っても彼等は臆病者だ。奪われ、傷つけられてなお、戦う力を得ても、それでも!」
『クロスファイア・コマンダー』が掲げた掌にはユーベルコードの輝き。
現れるのは砲戦型パンツァーキャバリア部隊。
体高5mの鋼鉄の巨人たちが『有頂天天蓋』の中を砲火で包み込む。
「死者を弔う気持ち、穏やかに過ごしたい気持ち、それをあなたが嘲笑う権利などないのであります!」
風花・ゆきみ(戦場の綿雪・f39971)は天蓋の中を飛ぶ。
敵の数が多い。
ここに来て『クロスファイア・コマンダー』は無数のパンツァーキャバリアを手繰り、獣人たちの抵抗の一切を奪おうとしている。
彼等の心に冷水をぶっかけるように、砲火と鋼鉄の巨人で持って押しつぶさんとしている。誰かの心が折れれば、それですぐに胸に灯った火は消える。
だからこそ、ゆきみは先陣きって飛ぶ。
「何かを守るのだって力が必要なのです。それは勇気ある行動だと私は思います」
己の身を守ることも。
今の生活を守ることも。
ささやかなことであるかもしれないけれど。それでも人々にとっては大切なことなのだ。その大切を守ることに多くの力が必要となる。
恐れもあるだろう。
身の丈に合わぬ力もあるだろう。
力と恐れの差異を勇気と呼ぶのならば。
悪性と善性の差異を良心と呼ぶのだ。
「度し難いな。人の心にそれを期待するとは!」
放たれるパンツァーキャバリアたちの砲火。『クロスファイア・コマンダー』の指揮で天蓋の中には悲鳴が巻き起こる。
けれど、その悲鳴を噛み殺す者たちがいたのもまた事実であった。
ゆきみは聞いた。
彼等の悲鳴が途中で途切れたのを。だから。
「皆さんの心があってこその慰霊なのです! その時間を! その心を守るためなら私は迷わず戦うのであります!」
その言葉に天蓋の外から飛び込んでくる影があった。
大鴉の翼が羽撃く。
『熾天大聖』であった。その手にした二刀の宝貝を振るい、蒼雷と赤炎でもってパンツァーキャバリアを切り裂く。
「道を開きます……!」
「ええ、私は余所者といえ、同じ戦乱の世界で生まれ育った猟兵なのです」
言葉にしなくてもわかる。
何かを守りたいという気持ちは皆同じなのだ。噛み殺した悲鳴の主たちに報いるためにこそ、ゆきみは彼等を守らんと飛ぶ。
「例えどんな強敵が現れようとも決して退きません! これが先祖代々、伝えられていた教えなのであります!」
ユーベルコードに輝く瞳。
脈々と紡がれてきたものがある。血脈が途絶えず、技は途切れず。そうして、今につながっているのだならば、ゆきみは飛ぶ。
手にしたライフルの弾丸が『クロスファイア・コマンダー』を狙う。
「見返りがなくてもかい?」
「それならもうもらっているのであります! 恐怖を噛み殺した人たち! あの人達に報いるためには!」
ゆきみは「クロスファイア・コマンダー』の頭上に飛び、抱えるようにしていた特性ダイナマイトを投擲する。
人々は恐怖を噛み殺した。
『熾天大聖』は道を開くように力を振るった。
ならば、ゆきみはそれに応えるようにライフルの引き金を引き、『クロスファイア・コマンダー』へと弾丸を叩き込むのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
リア・アストロロジー
指定UCで獣人たちに戦域からの退去を促し
「世界の疵よ。そうして疵を残さずにはいられないあなた」
その時間稼ぎ
「あなたは彼らを臆病だという。けれど、わたしは知っている。その臆病ないのちが、勇者でも英雄でもない平凡なひとたちが。だれかの父が、母が、子が――愛する者が」
わたしにはないものを持っていた人たちを
「傷付き、怯え、眠れず、心磨り減らし消費されていった戦場を」
憶えている
「わたしにひどい嘘をついたひとを。わたしをひどく混乱させたひとを憶えている。散歩に行くような気楽さで、二度と帰らなかったひとを。全身の拒絶反応に苦しみながら、笑おうとしたひとを」
知っているの
だから、彼の言う「大丈夫」だって信じない
「……ねえ、忘却の化身。あなたがどれだけ勇敢で高潔だったとしても。理由のない憎しみなど無いのだとしても。それは慰霊の日に死を悼む人たちを弾劾し、打ちのめす理由にはならないわ」
かつては、あなただって……
だから、わたしはただ、わたしのために
感覚が繋がったその脳髄をかき混ぜ、引き裂き、焼き切ろうと、全力で
『有頂天天蓋』の内部へと戦場を移したオブリビオン『クロスファイア・コマンダー』と猟兵たちの戦いを人々は悲鳴を噛み殺して見守っていた。
戦禍階梯たる『熾天大聖』の身体は傷だらけであった。
猟兵達の戦いをずっとサポートしてきたのだ。当然であっただろう。そういうふうにしか戦ってこれなかったのだろう。
いつだって誰かの憂いのためにこそ、走る。
それが己であるというように『熾天大聖』の瞳は輝いていた。
「君のその在り方が、争いを呼ぶ。平和のために戦うということを肯定してしまう。そうやって君は争いを呼び起こす平和の使者となったことのを、まだわからないか!」
『クロスファイア・コマンダー』の瞳が見開かれる。
そこにあったのは怒りか。
「世界の疵よ。そうして疵を残さずにはいられないあなた」
リア・アストロロジー(M2-Astrology・f35069)は『有頂天天蓋』の内部へと降り立ち、『クロスファイア・コマンダー』と相対する。
それは時間稼ぎの言葉であったが、本心でもあった。
「あなたは彼等を臆病だという」
「その通りだろう、猟兵。君たちに戦うことを任せている。それ以上のことをしようとしない。傷を負うのを憂い、平和が勝ち取れるわけがない」
その言葉にリアは息を飲む。
確かにそうだ。
わかっている。けれど、彼等は恐怖を噛み殺しているのだ。逃げ惑うだけかもしれないけれど、それでも悲鳴を挙げない。
彼は彼等の心に従っているのだ。
なぜ、恐怖を噛み殺したのか。わかっている。だって、彼等は自分たちの戦いを見ている。
「だから、私は知っている。その臆病な生命が、勇者でも英雄でもない平凡な人達が。誰かの父が、母が、子が――愛する者が」
いずれも彼等はリアにはないものを持っている。
同時にリアもまた彼等に無いものを持っている。
「傷つき、怯え、眠れず、心磨り減らし消費されていった戦場を」
憶えているのだ。
どうしようもなく。
記憶の中は死の光景で満たされている。
喪われていく生命を見た。
「わたしにひどい嘘をついた人を。わたしをひどく混乱させた人を憶えている。散歩に行くような気楽さで、二度と帰らなかった人を。全身の拒絶反応に苦しみながら、笑おうとしたひとを」
知っている。
だから、とリアは見据える。その瞳をユーベルコードに輝かせた瞬間、『クロスファイア・コマンダー』は己のガトリング砲を殲滅形態へと移行させる。
弾丸が嵐のように飛ぶ。
荒ぶように撒き散らされる弾丸は、獣人たちをも襲うだろう。
だが、その弾丸は人々を穿つことはなかった。
「……どういうことだ」
『クロスファイア・コマンダー』は暴風の如き弾丸を解き放ちながら、しかし、それが一つたりとて獣人たちと猟兵を穿たなかったことに目を見開く。
信じられない光景が彼女の目の前に広がっていた。
それこそがリアのユーベルコード。
彼女のユーベルコードは己を核として、精神感応によるネットワークを生み出させる。
そのネットワークによって膨れ上がったリソース。
有り余るリソースによる代理演算と未来予測。獣人たちは目にしただろう。繋がることによって得られる弾丸の迫る未来を。
それを如何にして躱すかを。
もたらされる未来を。
生きる、というのならば、その未来に手を伸ばすことを彼等は躊躇わなかった。
「……ねえ、忘却の化身」
リアがつぶやく。
攻勢に転じるネットワークの情報が膨大にリアの身体を中心に流れては走り抜けていく。この場にいる者全てを傷つけさせない。
リアにとって、それこそが戦いであった。
「あなたがどれだけ勇敢で高潔だったとしても」
リアの瞳が爛々とユーベルコードに輝いている。
漲る力は、己がためではない。いつだって誰かが己の心の中に疵を付けていった。省みれば、それはきっと自分におぼえていてほしかったということなのだろう。
だから、おぼえている。
忘れるわけがない。
リアの瞳が『クロスファイア・コマンダー』を見据える。
「理由のない憎しみなど無いのだとしても。それは慰霊の日に死を悼む人達を弾劾し、打ちのめす理由にはならないわ」
「それで私を諭したつもりかい!」
放たれる弾丸。
けれど、それは意味をなさない。
どれだけ弾丸を放つのだととしても、リアが居る限り獣人たちに弾丸は届かない。生きる意志が在り、日々を守りたいと願う限り。
それらの意志が、感覚が己の脳髄をかき混ぜ、引き裂き、焼き切る。
けれど、それでも越える。
己を越える。
超克たる輝き宿すリアの瞳は迫る弾丸の嵐さえ止まって見える。
「かつては、あなただって……」
誰かの死に泣いたはずなのだと。
己と繋がらぬオブリビオンを前にリアは、暁を残して(アカツキヲノコシテ)煌めく星の如き輝きを戦場に発露させるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
サーシャ・エーレンベルク
責める筈がないわ。立ち上がる人と立ち上がらない人、そこに勇気という名の衝動が必要だとしても、平和を願う心は同じでしょう。
どうやっても拳を握れない人はいるのよ。だから誰かが立って剣を抜かなければならないの。
……今この瞬間から、『白き剣』として立ち向かいましょう。
【白剣の御旗】を発動、白き剣はここに在ると知らしめるわ。
熾天大聖、そして周囲に獣人たち含めて光の領域に包む。
私に続け、とは言わない。立ち向かう背を見てくれる者がいるなら、私は幾らでも|オブリビオン《非情》に立ち向かう!
超強化された脚力でダッシュ、縫うようにガトリング砲を回避しながら、熾天大聖の援護を受けて軍用サーベルの一撃を叩き込むわよ!
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』は謗る。
『有頂天天蓋』にて慰霊を行っていた獣人たちを。戦いを疎む者たちを。
彼等の心に恐れと不安があることをなじる。
それは戦いに赴く者にとって不要なる感情であったからだろう。戦いで生きて、戦いに死ぬ。兵士にとって当然のことだ。
「誰かに戦うことを押し付け、己たちは影に隠れる。そのくせ宣う言葉ばかりは立派と来たものだ。結構なことであるが、それを嫌う者の心根があることを理解していないことは、度し難き悪性であると思わないかい。責められて当然であるとは」
『クロスファイア・コマンダー』の言葉が『有頂天天蓋』の中に響き渡る。
猟兵との戦いによって戦場は『有頂天天蓋』の上ではなく、その内部へと移行していた。
吹き荒れる砲火。
しかし、それでも。どれだけ謗られようと獣人たちは悲鳴を挙げなかった。噛み殺していた。
それが猟兵と『熾天大聖』の戦いによって感化されている証明であるとサーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)は理解していた。
「責める筈がないわ。立ち上がる人と立ち上がらない人、そこに勇気という名の衝動が必要だとしても、平和を願う心は同じでしょう」
「そうなのだとして、立ち向かわぬ者は須らく淘汰されるべきではないかな」
「どうやっても拳を握れない人はいるのよ」
「卑怯だとは、怯弱なる者をいつだって力ある者がかばわなければならない。強者に痛みを強いる弱者の言葉など」
『クロスファイア・コマンダー』のガトリング砲が殲滅形態へと至る。
あの嵐のような銃弾を再び放たれれば、被害が出る。
慰霊の日に再び、生命が散る。散華する。それを厭うことの何がおかしいことか。
サーシャは己の瞳をユーベルコードに輝かせ、剣を抜き払う。
「だから誰かが立って剣を抜かねばならないの」
示すは、白剣の御旗(リヒト・デア・ムーテス)。
翻るは、ユーベルコードの輝き。聖なる魔力が発露し、『有頂天天蓋』に在る全ての獣人たちのみに光の粒が降り注ぐ。
光の領域。
それはサーシャが獣人たちを味方であると認識させる。
「無駄だ。彼等は戦わない。戦わないことこそが、己たちの戦いだなどと嘯くものには!」
弾丸が迫る。
しかし、それを防ぐ影があった。
大鴉の翼。弾丸に散る羽と血潮。白い剣、その御旗には届かない。
「『戦いに際しては心に平和を』――そうだとも。戦わぬこともまた戦いであるのだと、僕らは恥ずかしげもなく叫ぶ。そうすることが」
「私に続け、とは言わない」
サーシャは光満ちる領域に立ちて、背後を見ない。
そこには己の背を見る獣人たちの瞳があっただろうから。怯えも不安も、恐怖も。何もかもが込められた瞳があっただろうから。
だから、その瞳は己にだけ向ければ良い。
己の背中にだけ向けていれば良い。
その視線を受けて己は立ち向かう。
「困難に。恐怖に。脅威に。立ち向かう背を見てくれる者がいるなら、私はいくらでも|オブリビオン《非情》に立ち向かう!」
金色の瞳が輝く。
いつだって人は恐れる。戦うことは恐ろしいことだ。生命が喪われるという恐ろしさは、何者にも耐えられる者ではない。
あの日、あの時、|彼等《戦友》たちの吐露を聞いたからこそ、サーシャは踏み込む。
彼等が戦場でそうしたように。
今も己の背で恐怖を噛み殺す者たちが震えているというのならば。
「詭弁を! そうやって弱者に利用されるだけ使い潰されているとなぜ理解しない!」
「私が、私を『白き剣』と規定しているから」
踏み込むサーシャの手にした『白き剣』の所以たる白刃を振るう。
それは標だ。
今という日に誰かの背中を押すことがなくてもいい。いつの日にか、彼等の心を押してくれるだけでいい。
吹き荒れる蒼雷と赤炎がサーシャに迫る弾丸を吹き飛ばす。
切り抜け、サーシャは己の手にした剣を振るう。
「なら、私はそうあるべきだと思うから。だから、この戦に勝利をもたらすために!」
振るう一撃が『クロスファイア・コマンダー』の胸を切り裂く。
血潮が旗を赤く染める。
いつだって、戦いは、血に塗れる。
けれど、それでいい。己が守るべきと思ったものが血に塗れぬためには、己がその痛みと恐怖に塗れる。
それが己の戦いであるとサーシャは戦場を『白き剣』として駆け抜けるのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
イーブン・ノルスピッシュ
平和あれと祈る事を罪と言うならば
平和を奪う|お前達《オブリビオン》の罪は計り知れぬ程に重い
報いを受けてもらうぞ
この街の祈りと
それを守る者にかけて、必ず!
背後に拡がる炎を翼のように纏って、天蓋へ駆け上がろう
何を喚ばれようと獣人達の方へは行かせない
炎の【オーラ防御】と【範囲攻撃】によって【焼却】
眼前を塞ぐものには【零距離射撃】とパイルバンカーの【貫通攻撃】だ
側面から炎を回り込ませつつ吶喊
左右に炎、正面に俺
上空には彼がいる
どこへ向かおうとも、俺の銃口と杭はお前に狙いを定めているぞ
今を生きる者達の安寧に|過去《俺達》は不要だ
先に|地獄《骸の海》で待っていろ
成すべきを成したら、いずれ俺も……
慰霊はいつかの誰かを思う。
人の心を慰めるのは如何なるものであっただろうか。
花が散る。
『有頂天天蓋』の中に戦場は移行している。『クロスファイア・コマンダー』の招来した砲戦型パンツァーキャバリアたちが砲火を持って慰霊の場を戦禍に包み込む。
誰もが恐れただろう。
戦いを前に脚のすくまぬ者は、勇気あるものであろうが、しかしてそれは覚悟を決めた者だからこそ宿るものである。
故に、獣人たちは悲鳴を噛み殺すことしかできなかった。
いや、それだけでも出来たことを喜ぶべきであったかもしれない。彼等の身体は確かに多世界の文明と技術によって支えられている。
けれど、戦うことを強いるわけではないのだとイーブン・ノルスピッシュ(戦闘猟兵・f40080)は思う。
彼等は平和を思う。
「偽りの平和だ。彼等は皆、見ないふりをしているだけだ。ここに自分たちが在るといことを、数多の犠牲の上に立っているということを。慰霊とい名でもって誤魔化しているだけだ。その祈りは罪であるとしか言えないだろうに」
其の言葉にイーブンは激情が胸に満ちるのを感じただろう。
身体が震える。
「平和あれと祈る事を罪と言うならば、平和を奪う|お前たち《オブリビオン》の罪は計り知れぬほどに重い」
「それが真の平和であるのならば、そうだろうがね」
「真偽りを語るかオブリビオン」
イーブンの瞳がユーベルコードに輝く。
全身から炎が吹き上がる。
己の中にある激情が滾り、満ちていく。ウサギの獣人たるイーブンは、これで互角だと思った。
怒りに身を震わせ、走る。
吹き上がった炎は翼のようにイーブンの背に負う。彼が見据えているのは鋼鉄の巨人。
砲戦型パンツァーキャバリアの脅威は言うまでもない。砲火に包まれていようとも、累を及ぼすことをさせてはならないと駆け抜ける。
己が戦うのは、己の激情にしたがってのことである。
けれど、それでも誰かが傷つくことを厭う心が勝るのである。
「無駄だ、猟兵。君たちがいようといまいと、砲火は全てを燃やす!」
放たれる砲弾をイーブンの身より吹き上がる炎が受け止める。
それでも止まらない砲弾をイーブンは地面を蹴って飛び、身一つで受け止め、蹴り上げる。爆発が頭上で起こる。
身を焼く痛みが奔れど、それでもイーブンは構わなかった。
己は悪霊。
名もわからぬ者。認識票が揺れる。くすんだ銀色が戦火に揺れて鈍い輝きを放つ。この中に己の名があるのかもしれない。けれど、同時に己の中にこれがあったということは、多くの認識票があったということは。
今日という日に猟兵として戦場に舞い戻ったことにこそ意味がある。
「報いを受けてもらうぞ」
「なぜ、そこまで君が苛立つ。縁もゆかりもないはずだが、ここには!」
「……祈り」
「何?」
イーブンは炎の翼を羽撃かせながら、オレステスの業怒(オレステス・アヴェンジ)に満ちる身体を走らせる。
小さく呟いた。
「この街の祈りが、俺を呼んだのだろう。オブリビオン。お前たちが、死せる者への祈りを妨げる。故に」
迫る鋼鉄の巨人。
パンツァーキャバリアを前にイーブンは止まらない。わかっていた。
己の横を凄まじい速度で踏み込む影があった。
大鴉の翼。『熾天大聖』。その手にした二刀の宝貝の放つ蒼雷と赤炎がパンツァーキャバリアを両断し、イーブンの道を切り開く。
「それを守る者にかけて、必ず!」
イーブンが飛ぶ。
わかっている。空には戦友がいる。僅かな時であっても、戦場を共にするのならばそれはもう戦友である。
手にしたパイルバンカーの一撃が『クロスファイア・コマンダー』へと叩きつけられる。
炸薬が弾け、鉄杭が苛烈なる轟音を響かせ、撃ち込まれる。
「どこへ向かおうとも、俺の銃口と杭はお前に狙いを定めている。今を生きる者たちの安寧に|過去《俺達》は不要だ」
「未練たらしく……!」
「お互い様だ。先に|地獄《骸の海》で待っていろ」
打ち込む一撃が『クロスファイア・コマンダー』を吹き飛ばす。
其のさまを見遣り、イーブンはつぶやく。
オブリビオンの行く先は一つ。そして、悪霊たる己もまた、いずれ。その思いを抱えながら、しかし、認識票の重さがイーブンを『今』に留めさせるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
オーガスト・ガンバレル
【心境】
「?臆病なのが何は悪いのか??」
いや、本気で分から。
怯える感情があるから、傷つきたくないから…だから戦える。
だから慰撫できる。
…まあ、しょせんオブビリオンの戯言か。
それより、こいつが主旨を曲げた理由は何だ?
【行動】
ツキミヅキは引き続き『自動射撃』モードでスターダストチェイサーの誘導弾の『範囲攻撃』で召喚された敵部隊を吹き飛ばしてもらう。
さて、オレは…<夜の森の神>を発動し、変身する。がおー…なんてくまー。
『野生の勘』が冴えてるぜ。
強化された速度で勘を頼りに回避しつつ、強化された『怪力』から繰り出す爪の攻撃をお見舞いだ。
こう、鮭を狩るヒグマのように!!
まあオレはツキノワグマだがなー(ぇ)
「強者の影に隠れ、平穏を、平和を享受する臆病者たちに感化されて……!」
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』は吐き捨てるように己に撃ち込まれた鉄杭を引き抜き、戦火齎す砲戦型パンツァーキャバリア部隊を走らせる。
彼女の傷は浅からぬものばかりであった。
しかし、未だ彼女は破壊を『有頂天天蓋』にもたらそうとしている。
すでに戦場は天蓋の中へと至っている。獣人たる人々は悲鳴を噛み殺した。戦う力を持ちながら安寧を喪うことを恐れる者たち。
慰霊の日に彼等は死を思うだろう。
故に動けない。それを猟兵たちは責めなかった。そうであってもいいと思った。
なんのために己たちがこの場に駆けつけたのかを猟兵たちは知っている。
誰もが勇気を持てるわけではない。
誰もが戦えるわけではない。
そして、誰もが戦うためだけに生きているわけではないのだ。だから。
「臆病であることの何が悪いのか?」
オーガスト・ガンバレル(8月のキムンカムイ・f39985)は理解に苦しむとオブリビオンの言葉に首を傾げる。
天蓋の中に飛び込んだパンツァーキャバリア『ツキミヅキ』を自動射撃モードに移行させ、その肩部にオーガストは立つ。
その瞳はユーベルコードに輝く。
その威容は夜の森の神。膨れ上がる身体。体躯は、恐怖を与えることだろう。
「いや、本気でわからないな。怯える感情があるから、傷つきたくないから……だから戦える」
「それを勇気と呼ぶのは兵士だけだ。それは蛮勇無謀というのだよ」
パンツァーキャバリアの砲火を受けながら、オーガストは漲る力と共にユーベルコードの発露によって変貌を遂げた姿で駆け抜ける。
「そうして死んでいった者たちに思いをはせるなど!」
「だから慰撫できるんだろうよ。人を哀れに思うことができる。お前の言い分じゃあ、それすらしないのが謗られる者たちってことだろう?」
「哀れみなど何の力にもなりようはずもない!」
砲撃が炎を巻き上げる。
破片が飛び散る。
其の中であっても、獣人たちの悲鳴は噛み殺されている。それが彼等の戦いだ。力を振るうことができなくてもいい。
オーガストはそう思っていた。
「しょせんはオブリビオンの戯言か」
「真理と言ってもらおうか、猟兵!」
オーガストの巨腕の一撃がパンツァーキャバリアを吹き飛ばす。己の体躯の倍以上は在る鋼鉄の巨人を吹き飛ばし、なぎ倒しながらオーガストは『クロスファイア・コマンダー』へと迫る。
「それはさておきよ……お前がいきなり主旨を曲げた理由は何だ? 撤退しようとしていたじゃねぇか。なのに急にやる気になりやがって」
そう、オーガストは訝しむ。
彼女は無駄に戦うことをしようとしていなかった。指揮官としては正解であったが、それを曲げてでも彼女はこの戦場に飛び込んできた。
それは猟兵にとっては幸いであったかもしれないけれど。
しかし、妙だと思ったのだ。
放たれる弾丸をオーガストは躱し、迫る。
「平和のために争いを呼び込む存在がいるからさ。平和になるためには争いを意識しなければならない。『戦いに際しては心に平和を』などと!」
「それがてめえの主旨変えの本音ってやつか、ならよ!」
オーガストの爪が唸りを上げる。
聞きたいことは聞けた。敵は『熾天大聖』のことをそう呼んだ。平和のために争いを呼び込む者。平和のために争いを引き起こす者。
それが『熾天大聖』であるというのならば。
「そういうのを全部飲み込める度量を持てって話なんだよ。まあ、オレはツキノワグマだがなー!」
振るう一撃は川を登る生命を狩るヒグマのように。
夜の森の神は、爪を振るう。
其の一撃はあらゆる生命を屠り、食らうための一撃。その痛烈な一撃でもってオーガストは迫るパンツァーキャバリアごと『クロスファイア・コマンダー』を吹き飛ばすのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
ルクス・アルブス
【ステルク】
『熾天大聖』さんが狙われている感じです?
あ、でもステラさん、さっきのボレロで……。
と振り返ってみたら、仁王立ちオーラ!?
完全に『やる気』から『殺る気』満々になっちゃってるじゃないですか!
……『殺る気』の何%か、わたしに向いてないですか?
当てる気も予定もないですから、圧、やめてほしいです!?
えっとえっと。
そ、そうです!
日常や親しい人を守りたいと思うのはとっても自然なこと!
そして、傷つきたくないと思うのも普通のことです!
だからこそ、|勇者や猟兵《わたしたち》がいるんですからね。
みなさまの平穏と引き換えに傷つくのがわたしたちのお仕事です。
ですから今回も、しっかり守らせていただきますよ!
ステラ・タタリクス
【ステルク】
くっ、|殺人音波《フレンドリーファイア》で倒れている場合では!
ちょっとルクス様ごと倒していいですか?(笑顔)
とかやっている場合ではなくて
『ノイン』様と『エイル』様…じゃなかった、『熾天大聖』様との邂逅
骸の海を越え、世界を越え、過去と現在が交わるならば
それを止める術は無く
それに言葉を交わすのも必要な事
たまにはルクス様も良い事をいいますね
善悪に揺らぐ心が人の証ならば
『ノイン』様、今の貴方は紛れもなくオブリビオンなのでしょう
ですが!
|私《メイド》がいる限り、『熾天大聖』様に触れられると思わない事です
『アンゲールス・アラース』を装着&空中機動
【スクロペトゥム・フォルマ】で仕掛けます!
大鴉の戦禍階梯『熾天大聖』の身は傷つき、ボロボロだった。
羽は砲火に燃え、身は弾丸によって穿たれていた。此れほどまでに血を流す姿を数多ある世界に在りし彼の面影を持つ者にはなかった。
「どんなに謗られるのだとしても。彼等は、彼等が生きることをやめない。生きること自体が戦いなのだから。これは戦いじゃあない」
揺れ動く悪性と善性の中で良心が育まれるというのならば、『熾天大聖』は不完全そのものであったのだろう。故に完璧でもある。
「平和のために争いを呼び込む者よ。君の存在は人の心に影を落とす。君という存在は人に光を意識させる。君のようでありたいと願いながら、君の表層しか彼等は見ない。君の言葉はただの耳障りの良い雑音でしかない」
オブリビオン『クロスファイア・コマンダー』の声が響く。
その姿を『有頂天天蓋』の内部、砲戦型パンツァーキャバリアたちが慰霊の花を踏みつけ、砲火でもって焼く中、ルクス・アルブス(『魔女』に憧れる『出禁勇者(光属性)』・f32689)は見る。
『クロスファイア・コマンダー』は此れまで猟兵たちのユーベルコードでもって消耗している。
傷つきもしている。
だが、それでも彼女は滅びていない。
「『熾天大聖』さんが狙われている感じです……あ、でもステラさん、さっきの演奏で……」
ルクスは思わず振り返る。
そこにあったのはステラ・タタリクス(紫苑・f33899)の仁王立ちする姿であった。凄まじい気迫であった。
確かにルクスの|殺人音波《フレンドリーファイア》で倒れ込んでいたはずである。
だが、ステラの瞳には強靭なる意志が輝いている。
倒れている場合ではない。寝込んでいる暇もない。鼓膜が裂けようとも、ステラは今こそ立たなければならない。
「『ノイン』様と『エイル』様……『熾天大聖』様との邂逅。骸の海を超え、世界を超え、過去と現在が交わるのならば、それを止める術はなく」
けれど、と思うのだ。
彼等に如何なる因縁があるのだとしても。
過去と今が歪に交わることが良いことではないのだとしても。それでも言葉を交わすことは必要なことだと思うのだ。
「あのー……どう考えてもステラさん、『殺る気』になってません? その何%か私に向いてないですか?」
ルクスはブルブルしていた。
今までに無いくらいに凄まじい殺気というかやる気というか、なんかそういう凄まじ圧のようなものを感じるのだ。
このままでは、自分ごとやられかねないと背中にゾワゾワしたものを感じるのだ。
「雑音なんてこの世にはないんですよ!」
「いいや。ノイズはあるのさ。君はそれを知っているはずだと思うのだがね」
『クロスファイア・コマンダー』が指揮するパンツァーキャバリアが一斉にルクスとステラに迫る。
砲撃が降り注ぎ、花を散らす。
炎が巻き上がる。
けれど、二人は止まらなかった。
「誰かのためにと戦う者がいる反対で、己のために戦えと叫ぶ者がいる。誰かが傷つくさなかに自分だけが安全な場所にいたいと思う。それを!」
この『有頂天天蓋』にありし獣人たちは思っているのだとなじる言葉にルクスは頭を振る。
「日常や親しい人を守りたいと思うのはとっても自然なこと! そして、傷つきたくないと思うのも普通のことです!」
だから、とルクスの瞳がユーベルコードに輝く。
ヴァイオリンを振りかぶる。
振り回した遠心力の一撃がパンツァーキャバリアの一体を砲塔ごと叩き潰すように拉げさせ、爆発を引き起こす。
「だからこそ、|勇者や猟兵《わたしたち》がいるんですからね」
「それで諸君らが傷つくのが当然という顔をされてもいいのかね」
「みなさまの平穏と引き換えに傷つくのがわたしたちのお仕事です。ですから!」
ルクスは迫るパンツァーキャバリアをなぎ倒し、叫ぶ。
「ですから、今回も、しっかり守らせていただきますよ!」
そうすることが当然であるとルクスは平然と言う。
噛み合わないな、と『クロスファイア・コマンダー』は首を傾げ、更に反対にかしげる。平行線だと言わんばかりにパンツァーキャバリアの砲塔を彼女たちに向ける。
だが、砲弾は放たれなかった。
それは撃ち込まれた弾丸によって内部から爆発させられ、爆風が荒ぶ。
「たまにはルクス様も良いことを言いますね。善悪に揺らぐ心が人の証ならば」
ステラは踏み込む。
手にした双銃が煌めくようにして、銃身を戦火に晒す。
「『ノイン』様、今の貴方は紛れもなくオブリビオンなのでしょう」
だが、とステラは両手に構えた拳銃の引き金を引く。弾丸がパンツァーキャバリアの砲口へと飛び、内部にあった砲弾を打抜き、爆発を引き起こす。
「ですが! |私《メイド》がいる限り、『熾天大聖』様に触れられると思わないことです」
「君の許可がいるとでも?」
「あの方は私の『主人様』! なら、当然のことでしょう!」
ステラが飛ぶ。
ルクスのヴァイオリンの一撃が壁となるパンツァーキャバリアを吹き飛ばして、道を開くのだ。
「ステラさんの|メイド《犬》道は、こんなものじゃないですよ!」
「『戦いに際しては心に平和を』と、其の言葉を信じるのならば、これは平和への祈り! 故に!」
ステラは踏み込み、その双銃の銃口でもって『クロスファイア・コマンダー』のガードをこじ開け、弾丸を解き放つ。
血潮が噴き出す。
双銃より放たれた弾丸は、狙い過たず。
彼女の道を阻む生涯たるオブリビオンの胸を穿つ――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロウガ・イスルギ
大層なご高説どうも。一つわかったことがある。
お前さんとメシを食ったらさぞ不味いだろうな!
|お前等《オブリビオン》の茶々入れで死ななくていい奴が命を落とす!
泣かなくていい奴が涙に暮れる!
そんなモン……筋が通らねえだろうが!
奴を捕らえろ、グレイプニルッ!|世界終焉《ラグナロク》が来ようが
離すんじゃねえぞ!
【先制攻撃】【早業】にて敵に先んじてUC発動、周囲に被害を
出させないようにする
止めは熾天大聖に任せよう
|貪る者《グレイプニル》の名が伊達か!その身で確かめるがいい!
止めは任せるぜ、|熾天大聖《相棒》!!
例え今が偽りの平和、一時の平穏でしかないとしても……
|未来《明日》を諦めるな。傭兵の戯言だがな
ロウガ・イスルギ(白朧牙虎・f00846)は明日を思う。
『今』に生きるからこそ、明日を思う。懸命に生きる者達が明日を願うのと同じように。故に、大鴉の戦禍階梯『熾天大聖』と共に取った食事は美味いと思ったのだ。
誰もが傷つかずにはいられない。
傷を厭うことを攻め立てる言葉は、人の傷口をえぐるものであった。えぐらなくたっていいものをえぐる者たちは、それを正論だと言うだろう。
感情を認めぬ言葉だ。
真理というまやかしで煙に巻くように、人を攻め立てることに喜びを見出す者の言葉だ。そんな言葉を吐き出す者と。
「一つわかったことがある。お前さんとメシを食ったら、さぞ不味いだろうな!」
ロウガは戦場と成った『有頂天天蓋』の内部を走る。
何処を見ても、戦火に荒ぶ。
獣人たちは皆悲鳴を噛み殺していたた。
どれだけ戦うための力が身に宿るのだとしても。それでも慰霊の日に際して思い出して、身が竦むのだ。
仕方のないことだ。
わかっている。誰も彼もが強くあれるわけではないのだ。強い者がいるから、弱い者がいる。
「それを肯定しよう。猟兵。諸君らはな、そうやって弱者の使い走りをしていればいい。どれだけ言葉を弄するのだとしても、諸君らは!」
『クロスファイア・コマンダー』のガトリング砲の銃口がロウガに向けられる。
焼夷弾が飛ぶ。
炎でもってこの天蓋の中を満たさんとしている。
「|お前等《オブリビオン》の茶々入れで死ななくて良い奴が生命を落とす!」
「ならば、死んで良い者がいるとでも言いたげだな!」
「そういうのを茶々入れってんだよ! てめえの撃つ弾丸が、泣かなくて良い奴が涙にくれることになる! そんなモン……筋が通らえねえだろうが!」
それを不条理と呼ぶのならば、その通りだろう。
戦場には不条理が満ちている。
強者を殺すのは強者とは限らぬ。弱者が強者を殺すこともある。だからこそ、ロウガは走る。
弾丸の中を。
「奴を捕えろ、グレイプニルッ! |世界終焉《ラグナロク》が来ようが!」
走るグレイプニル……ワイヤーが『クロスファイア・コマンダー』の身体を縛り上げる。
魔狼縛縄(カラミティストラングラー)は、しかして『クロスファイア・コマンダー』の尋常ならざる膂力でもって引きちぎられんとしている。
消耗しているはずだ。
なのに、それでも彼女は強大なオブリビオンとしての力を発露させる。全て否定すると言わんばかりの瞳に輝く力でロウガのユーベルコードを内原ワンとする。
しかし、それでもロウガはワイヤーを手繰る。
「|貪る者《グレイプニル》の名が伊達か! その身で確かめるがいい!」
「さかしい!」
「いいや、お前は終わりだっつってんだよ! 任せるぜ、|『熾天大聖』《相棒》!!」
血潮が走る。
それは『熾天大聖』の翼から奔るものであった。多くの弾丸を受けた。猟兵を守るために、人を守るために、己のみを犠牲にすることを厭わぬ者の翼は赤く染まっている。
けれど、それでも飛ぶのだろうとロウガは知っている。
そういう奴だ。
そんな奴だからこそ。
「アイツと食ったメシは美味かった。なあ、オブリビオン。例え、今が偽りの平和、一時の平穏でしかないのだとしても……」
ロウガはワイヤーを手繰る。
破られようとしている拘束を締め上げ、『熾天大聖』の限界を超えた蒼雷と赤炎の一撃を持って『クロスファイア・コマンダー』のガトリング砲を破壊させる。
バラバラに砕ける銃身の破片の最中、ロウガは彼女を睥睨する。
「|未来《明日》を諦めるな。傭兵の戯言だがな。これもまた正しいってことだと思うぜ――」
大成功
🔵🔵🔵
朱鷺透・小枝子
怒りも、憎しみも、全部持っていく。
生者が安らがなくて、どうして死者は安らげる?
今宵は慰霊祭、そう、死者も生者も安寧を願う日だ。
そんな日でも戦わなくてはならないのなら、
安寧を願う彼等の、戦い散っていった者達の、その『瞋憎を喰らえ』
|そうする事が《戦うことだけが》、祈りの形。
これは戦いであり、慰霊式だ
『禍戦・瞋憎喰』
【呪詛】生者と死者達の祈りを纏め、
怨念結界を広げて、獣人達に【闘争心エネルギー充填】
獣人達よ、祈れ、戦え!それが力になる!!
雷霆架台が闘争心に因って放つ光子を、
【念動力】でハルバードに込め蒼く染め上げ【属性攻撃】
【瞬間思考力】ノインを、敵部隊を、そして、熾天大聖と獣人達を認識、
熾天大聖達と連携し守り敵部隊を【怪力】でなぎ払い、【投擲】
騎兵刀に持ち替え、蒼く輝かせ、熾天大聖に一瞥を。
蒼雷は自分が担う。奔ろう。一緒に!
【早業】自身の蒼雷と、熾天大聖の赤炎で属性攻撃【限界突破】
ありったけの|怨念《想い》を雷と炎に換えてノインへ、叩き込む!
また明日を廻す為に、過去よ、怨念よ、昇華せよ!!
蒼雷と赤炎がオブリビオン『クロスファイア・コマンダー』を切り裂く。
しかし、戦場を『有頂天天蓋』の天蓋の中へと移行した戦いは終わらない。未だ鋼鉄の巨人、砲戦型パンツァーキャバリアは地面を踏み鳴らすようにして歩を進め、砲火でもって慰霊の花を吹き飛ばし、燃やす。
まるで意味のないものとして。
死せる者は、屍でしかない。
モノでしか無い。
そこに生命は宿っていない。慰撫など意味ないのだと示すように、炎が染め上げていく。
「慰霊は次なる争いを生む。戦争など一刻も早く終われば良いと願いながらも、人は英雄の存在を望む。そうであれと願う。それを生むのはいつだって、尋常ならざる力を持つ強者の存在だ」
『クロスファイア・コマンダー』は立つ。
穿たれた傷は無数。
だが、嗤って、立っている。人々の思う感情を全て嘲笑っているのだ。
「……それでも」
大鴉の戦禍階梯『熾天大聖』は傷だらけになりながら、血潮塗れる頬を拭う。
「怒りも、憎しみも、全部持っていく」
朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)もまた立つ。
「生者が安らがなくて、どうして死者は安らげる? 今宵は慰霊祭。そう、死者も生者も安寧を願う日だ」
「そんな日であっても戦わなければならないのが人というものだ。戦乱とはそういうものだ。そんな細やかささえ、許されないのが戦争というものだ、猟兵!」
砲戦型パンツァーキャバリアが砲火を持って迫る。
全てを炎に包み込み、灰燼へと変えようとしている。どんな尊きものも。どんな汚らわしいものも。
全て、炎によって燃やし尽くさんとしている。
それがオブリビオンである。
破滅に導く。炎の破滅によってこそ世界を破壊しようとしている。
「獣人たちよ、祈れ、戦え! それが力になる!!」
目の前にあるのは戦争が生み出す怨念そのものだった。
小枝子は己の闘争心たる怨念を広げる。
祈りとは戦うことだ。
「偽りの平和と温ま湯に浸かった彼等にとって、それは劇薬だよ、猟兵!」
『クロスファイア・コマンダー』が迫る。パンツァーキャバリアたちが一斉に砲撃を小枝子に叩き込む。
しかし、其の砲撃は小枝子に届かない。
『熾天大聖』の広げた翼が砲撃を受け止めた。血潮が飛ぶ。崩れ落ちる身体を小枝子は支えながら、前に踏み出す。
「安寧を願う彼等の、戦い散っていった者達の、その『瞋憎を喰らえ』、|そうする事が《戦うことだけが》、祈りの形。これが戦いであり、慰霊式だ」
小枝子は怒り狂う。
戦いのさなかにあって、戦いの中でしか存在できないのだとしても。
己の意義を狂わせるものであっても。
それでも争いに怒り狂う。
呪詛が広がる。広がる闘争心は、獣人たちにも伝播することだろう。
抱えた『熾天大聖』が目を見開き、身を起こす。
「……征きます」
小枝子の手から傷だらけの大鴉が飛び立つ。其の背中を小枝子は見ただろう。
あれが祈りの形。
集約。
そうであってほしいと願う心の結末。故に小枝子は手にしたハルバードを青く染め上げ、光子を解き放つ。
禍戦・瞋憎喰(デッドオーバー・ハート)。
それは小枝子の闘争心の源たる怨念によって引き起こされる力。
大地を蹴る様は、まるで飛ぶように。
一直線にパンツァーキャバリアを吹き飛ばし、なぎ倒す。
戦場に炎に焼かれた花びらが舞う。どれだけ人の心を花が慰めるのだとしても、それを吹き飛ばし、燃やす戦火を齎すのもまた人である。
不変などない。
普遍たる価値もあるはずもない。変容していく世界がある。獣人たちもそうだ。恐怖を噛み殺すことができたとしても、一歩を前に踏み出すことができない。
けれど、小枝子は聞いてきた。
「臆病者たちはいつまで立っても変わらぬよ。人が変わらぬのと同じように!」
「それでも。それでもだ、オブリビオンよ!」
小枝子は叫ぶ。
『熾天大聖』の宝貝の一刀が『クロスファイア・コマンダー』によって弾かれる。さらにもう一刀の宝貝もまた弾丸に弾かれる。
宙を舞い、地面に突き刺さる刀。
それでも、小枝子も『熾天大聖』もまた前に進む。愚直そのものであった。果敢というには、あまりにも無謀だった。
「これで終わりさ、君はここで終われ! 平和のために争いを呼び込む者!」
『クロスファイア・コマンダー』のガトリング砲の銃口が『熾天大聖』に向けられる。刹那の満たぬ瞬間。
けれど、獣人の幼子が駆けた。
突き刺さった赤炎放つ宝貝を腕に抱え、涙を溢れさせながら駆けた。
「――……ッ!」
それを『クロスファイア・コマンダー』は目を見開き見た。予想だにしていなかった。その幼子に追いつくように獣人たちが駆けていた。
それまで動かなかった彼等が動いた瞬間だった。
彼等の冷え切った心を、これまで猟兵たちが戦い紡いだ結果だった。守り通した。誰もが傷つかずにはいられなかった今を、守ったのだ。
結実が今此処にある。
「見ろ! これが人だ!」
小枝子が叫ぶ。投げ放たれた赤炎放つ宝貝の一刀を『熾天大聖』が握りしめる。幼子の獣人より受け取った思いは、迸るように。
そして、小枝子の手にしたハルバードが蒼雷を放つ。
「どれだけの恐れがあろうとも!」
ありったけの|怨念《想い》を雷へと変え、小枝子は奔る赤炎の斬撃と交錯させるように『クロスファイア・コマンダー』……『ノイン』と名乗るオブリビオンへと叩き込む。
「また明日を廻す為に、過去よ、怨念よ!!」
昇華せよ、と叫ぶ声があった。
吹き荒れる炎と雷は夜空に舞う。
崩れる身体。
霧散していく身体。伸ばした手は届くことなく。けれど、小枝子は、猟兵たちは見ただろう。
悲惨たる今を超えてなお、明日を求める者たちを照らす朝日を。
今日という日を。
喪ったものは戻らない。けれど、それでも明日は続くのならば。今を賢明に生きることこそ、死せる者たちの安らぎを慰めるものであると知る獣人たちは、今日とは違う明日を見つめる。
そこに星は写さない。
けれど、響く歌の名は――。
大成功
🔵🔵🔵