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第2ターン(大陸歴939年2月第1週)

#Reyernland über Alles!

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 大陸歴939年2月3日15:30。
 ライエルンジーゲン特別市中央区・国防軍最高司令部内陸軍参謀本部・参謀総長執務室。

「……それで、総統閣下とはどのようなお話を?」

 白磁のカップに白い湯気を立てる深煎りコーヒーを注ぎ、目の前に座るこの部屋の主へと差し出す、フリンゲル少将。立ち昇る芳香を愉しみながら、フィールドグレーの軍服に身を包んだ初老の将軍は、自らの遠縁にあたる主任参謀に向かって曖昧に微笑みかけました。

「"金の場合"の進捗に関して、貴重なご意見を頂いたよ……詳しい内容は全体会議まで秘密だが」
「立案を急ぐように催促を受けた、という訳ですか?」
「想像に任せるよ」

 やんわりとした口調ながらも、参謀総長は回答を拒み、漆黒の液体を静かに口に含みます。

「ほう。代用コーヒーじゃなく、本物の豆を挽いているようだね。今や贅沢品の仲間入りを果たそうとしている筈だが?」
「ええ。去年の暮れに、連合王国が西方大陸産のコーヒー豆を我が国への禁輸リストに追加しましたからね」
「フフ、我々の弱点はお見通しという訳だ」

 軽口を交えながら、上級大将は貴重な一杯を堪能します。
 第1次ヴェーヴェルスブルク戦役で失陥するまでの間、ライエルンは西方大陸南部に植民地を領有していましたが、その影響で、ライエルン国民の間では同大陸産のコーヒー豆の人気は今も非常に高く、連合王国政府も、つい最近まで、輸出規制を課すのは外交上好ましくないと考えてきた程です。

「会議までは何も言わないつもりだったが、気が変わったよ。本物のコーヒーの御礼に、一つだけ、話してあげるとしよう」
「どんな事ですか?」

 期待と不安の入り混じる眼差しで、ジーベルトを見つめる主任参謀。
 空になったカップを執務机の上に置くと、参謀総長は茶目っ気たっぷりに笑いかけました。

「たまには早目に仕事を切り上げて、細君と食事にでも行きたまえ。家庭内の平和を維持する事も、ライエルン軍人の重要な任務の一つだぞ、ゴットリープ」

●今回、結論を出す必要のある議題(第2ターン)
 C軍集団の作戦行動方針。

 ジーベルト参謀総長より、『C軍集団の作戦行動方針について意見のある者は早急に提出するように』という指 示が発出されました。
 C軍集団は、プランAでもブランBでも、共和国軍の第2軍集団を南方地域に釘付けにしておくための囮部隊と位置付けられており、両案共に大きな差異は存在しない事から、参謀間の合意形成は比較的容易と考えられます。ただし、プランAは、現状、C軍集団と親衛隊装甲軍を共同で行動させる内容となっています(親衛隊は、その方針に難色を示していますが)。参謀総長は、複雑な問題の絡む親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、C軍集団のそれとは切り離して議論を行い、後日結論を出す方針のようです。

●懸案事項の一覧(第2ターン)
(1)全体会議の前に、NPCに面会し、質問したり、交渉を持ち掛けたりする事が出来ます。
 対象のNPCは、クロースナー上級少将、フリンゲル少将、ヴェーゼラー少将、グロースファウストSD上級少将の4人です(第2ターンは、ジーベルト上級大将には面会出来ません)。なお、4人はかなり多忙であるため、いずれか1人だけに面会を希望する場合は必ず面会出来ますが、複数人に面会を求めた場合、希望通りに面会出来ない可能性があります。

(2)空軍総司令部より、『空軍降下装甲猟兵師団(通称”ワルキューレ装甲師団”)を中核とする空軍野戦軍団を”金の場合”に参加させたい』旨の打診が舞い込んできました。
 前回の全体会議の結果、橋梁制圧の功績を陸軍と空軍とで分け合う形で何とか折り合いをつける事に成功したため、”リンデン部隊”の投入に対する空軍の抗議は回避されました。ただ、空軍の上層部にはこの合意に不満を抱く一派があり、空軍総司令部を動かして、参謀本部に対し、空軍所属の陸戦部隊の作戦参加を要求してきました。”ワルキューレ装甲師団”は、空軍野戦師団を改編した空軍の装甲部隊ですが、精鋭として名高い降下猟兵師団と異なり、その実力は未知数となっています(なお、降下装甲猟兵師団は、降下猟兵師団と異なり、空挺降下作戦を行う能力は有していません)。
 『作戦参加を認めれば、陸軍部隊の足を引っ張る厄介者となる可能性が高い』と考える者も多く、西方総軍司令部は参謀本部が空軍の要求を上手く断ってくれる事を期待しています。

(3)B軍集団司令部より、『国防軍特殊作戦旅団(通称”リンデン部隊”)をレーヌス川支流域の治水ダムの制圧に投入すべきである』という意見具申が上がってきています。
 前回の全体会議の結果、A軍集団司令部の意見具申を容れて、”リンデン部隊”を橋梁の制圧に投入する運びとなりましたが、その直後、B軍集団司令部から新たな意見具申があり、この件に関しては現在も継続審議となっています。
 新たな意見具申は、『国防軍情報部の諜報活動により、”アンドレライン”が突破された場合、共和国軍がレーヌス川の支流に建設された複数の治水ダムを爆破して下流部を水浸しにし、侵攻部隊の進軍を妨げる計画の存在が判明した。これを阻止するため、”リンデン部隊”を投入すべきである』という内容です。情報が真実であるならば、確かに大問題ですが、参謀本部からの照会に対する情報部の回答は、『当該情報については、目下、真偽を確認中』というものです。また、仮に情報が真実であったとしても、A軍集団司令部が”リンデン部隊”の投入先変更に難色を示すのは想像に難くありません。A軍集団とB軍集団、どちらの意見具申を容れるのか?慎重な判断が求められるでしょう。

(4)総統府より、『ラティニア王国からの軍事顧問団の派遣要請を受け、ラインハルト総統が1個装甲軍団の派遣を決定した』との通知がありました。
 ラティニアの植民地である南方大陸のプトナーン地方(※現実世界のリビア東部に相当します)では、独立運動が活発化しています。独立派には隣接するサクソニア連合王国の植民地から密かに支援が送られているらしく、業を煮やしたラティニア政府はライエルンにプトナーン地方への派兵と駐留を求めてきました。ライエルン側としては、数か月後に開戦を控えたこの時期に、貴重な装甲部隊を派兵するのは避けたいというのが本音なのですが、同盟国ラティニアの親ライエルン政権への支持が低下すれば、原油をはじめとするラティニア産の資源の輸入に影響が出るのは必至であるため、やむなく要請に応じる事にしたものです。
 参謀本部には、西方総軍の中から装甲師団と自動車化歩兵師団を各1個、派遣部隊として選定する事が求められています。この選択肢を選択する場合、どの軍・軍団に所属する師団を派遣すべきであると考えるか?プレイングに明記して下さい。ただし、親衛隊装甲軍(及び空軍)の師団を指定する事は出来ません。

(5)総統府より、前回に引き続き、ラインハルト総統の『”金の場合”に於いては、親衛隊装甲軍が重要な役割を果たす事を期待している』という内々の意向が伝達されています。
 今回も正式な総統命令という訳ではなく、あくまで個人的な要望というレベルに留まってはいますが、要求のトーンは前回よりも強いものとなっています。


安藤竜水
 PBWアライアンス【Reyernland über Alles! シナリオ#1”金の場合”】へようこそ!

 本ゲームは、異世界<レーベンスボルン>に存在する軍事国家ライエルン連邦とその西隣に位置するゴール共和国との戦争を題材とする仮想戦記風PBWです。
 皆さんには、ライエルン連邦国防軍最高司令部に所属する陸軍参謀本部の参謀将校となり、数か月後に実施される予定の共和国侵攻作戦"金の場合"の作戦計画の立案にあたって頂きます。

 ゲームのゲームの開催期間は約1年間、ターン数は5回です(なお、ゲーム内では1ターンは約1週間に相当します)。
 ゲーム期間終了後、制作された全リプライを元に最終的な判定結果を導き出した上で、断章として執筆・公開を予定しています。

 本ゲームへの参加にあたっての注意点です。
 皆さんの立ち位置は、陸軍参謀本部所属の佐官クラスの参謀将校であり、前線司令部で部隊を直接指揮したり、自ら最前線に立って敵と戦ったりする立場ではありません。従って、リプライの中で、戦闘や戦場の場面が描かれる事は無いものとお考え下さい(そもそも、このゲームの対象期間は、最後に制作する予定の断章を除き、ライエルンとゴールとの戦争が始まる数か月前の時期となっています)。

 皆さんに行って頂きたいのは、

(1)公開済みのリプライやゲームサイトに掲載されている情報(各ターンの初期情報、戦略マップ、戦力表、各種図表類、ルール、世界設定等)を活用して、オリジナルの作戦案を立案する。
(2)ゲームサイトに掲載されている、NPCが立案した二つの作戦案のどちらかを支持し、正式な作戦計画として採用されるように努力する。
(3)ゲームサイトに掲載されている各ターンの初期情報や各ターンのシナリオ・オープニングに掲載されている懸案事項に関して、意見を述べ、解決に向けて努力する。

 のいずれか、です。
 ただし、(3)だけを選択する事は出来ません((3)を選択したい方は、必ず(1)又は(2)と一緒に行って下さい)。また、(3)については、懸案事項を解決出来なかったとしても、ただちにゲーム上の不利益が発生する訳ではありません。もっとも、懸案事項の解決に貢献したと認められた方は、上官や関係者から好感を獲得出来るだけでなく、状況によっては、本国からの増援部隊の来援等、ゲーム上の利益となる事象が発生する可能性もありますので、挑戦してみる価値は十分にあるでしょう。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:みやの

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

パウラ・ヒンデンブルク
(2)引き続き、プランAに支持を表明(理由は補足プレイングに記述)。

C軍集団の作戦行動方針については、基本的には、プランAの通り、共和国第2軍集団を南方戦域に釘付けにする事に専念すべきと主張(ただし、ヴェーゼラー少将との面会の結果次第で、修正を加える)。

懸案事項は、(1)について、ヴェーゼラー少将に面会を求め、プランAを支持する理由を問い質す。
C軍集団司令部からの依頼に基づく行為と思われるが、一体、C軍集団は何を望んでいるのか?と確認。
また、(4)について、A軍集団直轄の第24装甲軍団の装甲師団(二)とB軍集団第2装甲軍所属の第16装甲軍団の自動車化歩兵師団(二)を充てるべきだと主張する。



大陸歴939年2月3日09:45。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。


「……以上、説明を終わります。ご静聴に感謝いたします」

1月26日の定例全体会議に引き続き、プランAを支持する意見を表明したパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐。
説明を終え、自席に戻ろうとする彼女を、ハインツ・ヴェーゼラー少将が呼び止める。

「何か御用でしょうか、主任参謀?」
「いや……用事という程のものではないが、一言、礼を述べたくてね。わたしの意を汲んでくれて、ありがとう」

そう言って、軽く頭を下げるヴェーゼラーに、パウラは無言のまま会釈を返す。
二日前、少将に面会を求めた彼女は、彼がプランAを支持する理由と共に、にも拘らず、プランAの正式採用を然程強く推していない理由を問い質し、その回答を得ていた。一見矛盾する二つの行為は、C軍集団司令部からの依頼に基づくものなのでは?というパウラの問いに対し、ヴェーゼラーはあっさりとそれを認めた上で、自分にそのように振る舞う事を求めたC軍集団司令部の思惑を、特に隠し立てする素振りも見せず、率直に打ち明けたのだった。

(……要するに、C軍集団司令部は、”金の場合”に於いて、軍集団に所属する各部隊が大きな損害を蒙る事を回避しようと躍起になっている、という訳ですね……)

胸の奥で、少将の言葉を反芻する、歩兵少佐。
つまるところ、C軍集団の司令部要員達は、軍集団の現有兵力から考えて実現困難と思われるような軍事行動を割り振られる事を恐れ、そのような事態を防ぐために、陸軍参謀本部でC軍集団を担当する主任参謀のヴェーゼラーに対して善処を依頼し、彼自身もまた、彼らの意を汲んで行動する事を了承した、という訳である。
慎重であると考えるか?それとも、消極的であると考えるか?は意見の分かれる所だろうが、C軍集団と彼らが相対しなければならない共和国第2軍集団との兵力差を考えれば、C軍集団の幹部達がそのような要望を行うに至ったのもあながち理解できない事とは云えないだろう。

(そういえば、C軍集団司令官のリッター上級大将は、今年一杯で退役の予定だった筈。軍歴の最後の最後で、晩節を汚したと後ろ指をさされかねない敗北を喫するのは何としても避けたい……そんな心理も働いているのでしょうか?)

胸の奥で独りごちる、歩兵少佐。
陸軍部内に於けるリッターの評価は、”可もなく不可もなく”で一致していると云っても過言ではない。若い頃はそれなりに武勲も立て人望も厚かった人物だが、寄る年波には勝てず、その行動が人々の耳目に触れる機会も殆ど無くなって久しかった。
そのリッターが、ライエルンにとって重要極まりない軍事作戦である”金の場合”の一翼を担う事になった、と聞いて、『国防軍最高司令部は、何故、あんな老人にこんな重要な役職を与えるのか!?』と驚いた者も多かったようだが、C軍集団の任務内容を考えれば、功名心に逸って猪突するような若い将軍よりも、むしろ、彼のような退役間近の老将の方が適任であると言えるかもしれない。

(……あるいは、この人事の裏には、何かもっと別の理由があるのかもしれませんが。
ともあれ、ヴェーゼラー少将は、南方戦域での積極的攻勢の可能性を摘み取るために、敢えてプランAの支持者となり、作戦案のこの部分の修正を図ろうとしていた、という事ですか)

些か複雑な想いを抱いたまま、パウラはヴェーゼラーの傍らを通り過ぎ、自分の席へと向かった。
少将がプランAを支持する側に回ったのは、プランBに於けるC軍集団の役割が、最初から共和国第2軍集団を南方戦域に釘付けにする事のみに限定されていたためである。それに対し、プランAでは、第2軍集団を南方に釘付けにしておくのが主目的という点では変わらないながらも、そのための手段として、親衛隊装甲軍と共により積極的な攻勢を実施する事も選択肢の一つとして考えられていた。C軍集団としては、それは非常に不味い、という訳である。……もっとも、現時点に於いては、親衛隊が南方戦域への親衛隊装甲軍の投入に否定的な姿勢を明確にしたために、ヴェーゼラー自身の動きとは無関係に、C軍集団のその懸念は消滅しようとしていると云っても過言ではないだろうが。

(逆に言えば、少将にとっては、今後もプランAを支持し続ける理由はなくなった、という訳ですか。
さて、この御仁は、これから先、どのように動かれるおつもりなのでしょうか?)

ちなみに、全体会議に於いて、パウラが主張した意見は、概ね以下のような内容である。

『引き続き、”金の場合”の全体戦略としては、プランAを支持する』

前回の全体会議から引き続き、プランAこそが”金の場合”の基本作戦としてふさわしいと述べ、参謀達に支持を呼び掛けたパウラ。前回の会議に於いて、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐が問題提起した、ヴァノアールで包囲される事を嫌った連合軍が海上移動で隣接する港湾都市へと撤退を試みる可能性に関しては、「連合軍の首脳部がそのような決断を下す可能性は、現実問題としては、ほぼあり得ないと言って良いでしょう」と反論を展開した。
彼女曰く、「連合軍にとってヴァノアールの放棄は、単に一つの都市の失陥を意味するのみに留まりません。共和国の北部地域全てをライエルン軍に明け渡す事と同義であり、同時に、膨大な国費と労力を注ぎ込んで完成させた”アンドレ・ライン”が無用の長物であった、と自ら認めるに等しい行為です。連合軍の首脳部、特にゴール軍の最高幹部が、そのような決断を下すとは考えにくい、と小考いたします」。

彼女のこの主張に対しては、賛同する参謀も多かったものの、一部の参謀達からは、「共和国軍についてはその通りかもしれないが、サクソニア軍は大陸派遣軍の精鋭部隊をみすみす危険にさらす事を望まないのではないか?」という意見が上がり、更なる議論を呼ぶ事になった。

『C軍集団の作戦行動方針については、基本的には、プランAの通り、共和国第2軍集団を南方戦域に釘付けにする事に専念すべきです。
ただし、プランAに於いては、ケルシェから出撃したC軍集団は、”アンドレ・ライン”を突破し、レーヌス川にかかる橋梁を制圧した後、パイスの制圧を目指す、とありますが、パイスの制圧に関しては、”損害に関わらず、必ず成し遂げねばならない”目標とはせず、”状況的に可能であれば、実現を目指す”目標とすべきであると考えます』

言うまでも無く、この提案は、ヴェーゼラー少将との話し合いの結果を受けての方針変更であるが、事情を知らない参謀達の多くは、親衛隊が親衛隊装甲軍の南部戦域投入に否定的な見解を示した事に影響を受けた修正案であるものと判断した。列席者(特にプランAの支持者)の中からは、「親衛隊の一方的な要求に迎合する弱腰な意見」と批判的な受け取り方をする者も現れたものの、おそらく、事前に少将が手を回してくれていたためだろう、反対意見を表明した参謀はごく少数に留まり、最終的に、彼女の提示した案は、(親衛隊装甲軍の作戦行動方針が決定するまでの)暫定的な採用案として選定される運びとなったのだった。

『南方大陸に派遣する2個師団については、A軍集団直轄の第24装甲軍団の二線級装甲師団とB軍集団第2装甲軍所属の第16装甲軍団の二線級自動車化歩兵師団を充てるべきです。
両師団は二線級部隊であり、一線級の師団を転出させるのに比較すれば、作戦への影響を小さなものとする事が可能でしょう。また、両師団の所属する2つの装甲軍団は、現状、3個師団により編成されているため、その中から1個師団を転出させたとしても軍団の再編成を行う必要は無く、各軍及び各軍団司令部の負担を最小限に留める事が可能と判断いたします。
言うまでも無く、”金の場合”の作戦発動を数か月後に控えたこの時期に、二線級部隊とはいえ、装甲師団や自動車化歩兵師団を他戦線に転出させねばならないのは痛恨の極みではありますが、同盟国の要請を受けた総統閣下の政治的判断とあれば、致し方なし、と申し上げる他ございません』

パウラの述べた意見に反対する者は無く、提案は原案の通り実施される運びとなった。
(前回の全体会議に於いて彼女が提案し採用される事となった)親衛隊装甲軍所属の第2SD装甲軍団の東部国境地帯への一時的な転出と異なり、プトナーンに派遣される2個師団は、今後、現地の情勢がどのように変化しようと、”金の場合”に参加出来る見込みはまずない。彼女の考えは、参謀本部に所属する軍人達の大多数の想いを代弁するものだと云っても過言ではないだろう。

(無事に提案が通ったのは幸いでしたが、この雰囲気は些か不味いですね。
総統閣下は、参謀本部内のこの空気を把握なさっていらっしゃるのでしょうか……?)

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルヘルミナ・グレーナー
(1)前回に引き続き、独自の作戦案の採用を求めます。
総統閣下の御意向を前面に押し出す戦術が裏目に出たのは計算外でしたが、幸い、総統は現在も親衛隊装甲軍の活躍をお望みのご様子。逆転の機会はまだ残っている筈です。

懸案事項の(1)を選択し、フリンゲル少将に共闘を提案します。
幸い、自分の作戦案はブランBと多くの点で共通しており、少将の側にも抵抗感は少ないと判断します。
更に(2)に関して、グロースファウストSD上級少将を通じ、親衛隊作戦本部に、打診を撤回するよう空軍に圧力をかけて欲しいと要請。
(陸軍の手を汚さずに)厄介事を見事解決したとなれば、私に対する参謀達の評価も変わってくるでしょう。



大陸歴939年2月1日16:25。
陸軍参謀本部・作戦課第3小会議室。

「すまないが、今日は結婚記念日でね。仕事を早めに切り上げて、妻と食事に行く予定なんだ。
……という訳で、話があるのなら、なるべく手短かにお願いするよ、上級少佐」

ヴィルヘルミナ・グレーナー砲兵上級少佐に面会を求められたフリンゲル少将は、要望を拒みこそしなかったものの、彼女との面談にはあまり乗り気ではない様子と見受けられた。

(やはり、先日の一件が尾を引いているのでしょうか?)

少将の態度にかすかに焦りを覚えるヴィルヘルミナだったが、その本心はおくびにも出さず、営業スマイルを心掛ける。

「どうかご容赦を、主任参謀殿。お時間は取らせませんので」

何はともあれ、自分の構想するプランを現実化するためには、目の前にいるプランBの立案者を説き伏せ、取引を成立させなければならない。幸い、自分の作戦案はブランBと多くの点で共通しており、少将の側も提案の受け容れに対する抵抗感は比較的少ない筈だったが、前回の全体会議で、(プランAとプランB、いずれの支持者であるかを問わず)多くの参謀達に忌避の感情を与えてしまった事実は彼としても見過ごす訳にはいかない、と考えて間違いないだろう。

(ここは踏ん張りどころですわよ、ヴィルヘルミナ……)

そう、自分自身に言い聞かせながら、フリンゲルに向かって説得を試み続ける上級少佐。
彼女の忍耐と努力が実を結んだのは、壁に掛けられた時計の針が17時を回り、しばらく経った頃だった。

「……考えはよく分かったよ、グレーナー砲兵上級少佐。
確かに、君の提案に乗った方が私にとってもメリットが大きいようだ。君の意見を幾つか取り入れる形でプランBを修正し、改めて提示すると約束する。
もっとも、今週の全体会議は2日後に迫っている。今からだと関係各所と調整する時間が足りない。発表は来週の会議で行うしかないだろうが、それでも構わないかい?」
「ええ、それで結構です。ご英断に感謝申し上げますわ、主任参謀殿」

懸命の交渉が功を奏した事に、ヴィルヘルミナは胸の奥で勝利の味を噛み締めた。
無論、この取引の結果、形式の上では、自分が立案・提示した作戦案は(プランBの修正案となる形で)プランBに吸収・統合されてしまう事になるが、フリンゲルに接近した彼女の目的は、最初から『名を捨てて実を取る』事にある。どのみち、このまま自分の作戦案を、プランAともプランBとも異なる、独自のプランとして全体会議の場で主張し続けたところで、(前回の誤算のせいで)参謀達の支持を得られる可能性は殆ど無いだろう。それならばいっそ、自分のプランをブランBの修正案としてフリンゲルに売り込み、新しく生まれ変わったブランBの実質的な共同提案者としての地位を手に入れた方が良い……というのが、今回の取引を持ち掛けた彼女の目論見だった。

なお、少将との会談の翌々日に開催された定例の全体会議に於いて、ヴィルヘルミナが主張した意見は、概ね以下のような内容である。

『(前回に引き続き)独自の作戦案について説明を実施。ただし、参謀達の感情を刺激しないよう、”総統の御意向”に関する言及は、可能な限り、控え目な表現に差し替え、その分、親衛隊装甲軍にA軍集団の側面を守らせる事の重要性について丁寧な説明を心掛ける』

フリンゲル少将との交渉の結果、自分の作戦案は、ブランBの修正案という形で、プランBに吸収・統合される事で合意に達していたものの、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐のようなプランBを支持する参謀達に対してその事を説明し、根回しを行う時間が不足していたため、今回の会議に於いてはその事実を伏せた上で、次回の全体会議までに修正案を纏め上げて細部の調整を図る、という段取りとなっていた。
これに伴い、ヴィルヘルミナの主張は、前回とは打って変わった控えめなトーンに終始し、なかんずく、多くの参謀達から忌避感を持たれる原因となった、”総統の御意向”に関する言及は、今回の意見陳述に於いてはすっかり影を潜めたものとなっている。その影響だろうか?相変わらず、大多数の参謀達からは距離を置かれているものの、彼女に向けられる眼差しは前回程にはトゲのあるものではなくなっていた。

『空軍からの要求については、西方総軍司令部内にある不安の声を尤もな意見だと判断する。一方で、この問題が陸軍と空軍との対立に発展する事は極力避けるべきであり、問題の解決のため、中立の立場にある親衛隊に仲裁を依頼する事を提案する』

「具体的には、グロースファウストSD上級少将を通じて、親衛隊作戦本部に、打診を撤回するよう空軍を説得して欲しい、と要請してみてはどうでしょうか?」というヴィルヘルミナの提案に対して、参謀達の反応は、「妙案だ」と評価するものと「それで空軍が引き下がったとしても、今度は親衛隊に借りを作る事になるのでは?」と危惧を覚えるものとに大別された。
どちらかと云えば、前者にはプランBを支持する者が多く、後者にはプランAの支持者が多い。当の連絡将校殿は、と云えば、彼女の提案に大いに興味を示している様子だったが、その本心は「目下の状況は、参謀本部や西方総軍司令部に恩を売るまたとない好機である」という所にあると見て間違いないだろう。

また、参謀達の中には、ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐やヴィリー・フランツ参謀大佐のように、要求を全面的に拒絶する事による、空軍との関係悪化を懸念して、”金の場合”の大勢に影響を及ぼす可能性が少ない、C軍集団の担当する南部戦域に投入する事を条件に、”ワルキューレ装甲師団”の作戦参加を認めてはどうか?という意見を主張する者もいた。
西部戦線の実戦部隊を統括する西方総軍司令部は渋い顔をするだろうが、陸軍と空軍との対立が深まる事を望んでいないのは彼らも同じであり、空軍の陸戦部隊を、主戦場となる北部戦域ではなく、南部戦域に限定して作戦に参加させる、というプランは、現実的なラインとして妥協可能であるのは間違いのない所だろう。

長時間にわたる議論の末、参謀達の見解は、C軍集団の担当戦域に限り、空軍部隊の作戦参加を認める事、及び、空軍側がこの方針に異を唱えた場合は親衛隊に仲裁を依頼する事に傾いた。案の定、北部戦域での作戦参加が認められなかった空軍は受け入れに難色を示したものの、参謀本部の要請を受けたグロースファウストSD上級少将が親衛隊作戦本部に掛け合った結果、後日、ハインリヒ・ベッカーSD長官立会いの下で、陸軍参謀本部と空軍総司令部との”手打ち”が行われる運びとなる。空軍はさぞや切歯扼腕したに相違ないだろうが、仲裁案を突っ撥ねて、親衛隊の体面に泥を塗るリスクを冒す事は彼らとしても避けたかったらしく、これ以降しばらくの間は、空軍からの無理筋な要求は途絶える事となった。

その結果、陸軍の手を汚す事無く、厄介事を見事に解決してのけたヴィルヘルミナの手腕には、(彼女が意図した通り)参謀達も評価を改めざるを得なかった。もっとも、親衛隊に”借り”を作る結果となってしまった事に関しては、批判的な捉え方をする者も決して少なくはなかったのだが……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルミーナ・モルトケ
(2)全体会議では、引き続き、プランAを支持。
ただし、補足プレイングの通り、A・B両軍集団の装甲部隊によるヴァノアール攻撃と並行して、親衛隊装甲軍によるノールの包囲を実施する形に作戦行動方針を修正する。

C軍集団の作戦行動方針については、プランAの通り、作戦行動を実施すべきだと主張。


懸案事項の(1)に関し、グロースファウストSD上級少将に面会を求め、上記のプランAの作戦行動方針の変更について説明した上で、所感を訊ねる。
また(5)に関し、親衛隊装甲軍の活躍を望む総統の意志は固いと判断した上で、クロースナー上級少将に対し、ある程度の妥協はやむを得ないのでは?と、作戦行動方針の修正に同意を求める。



大陸歴939年2月1日16:10。
陸軍参謀本部・作戦課第1小会議室。

「では、小官の修正案にはどうしてもご同意頂けない、と……?」
「残念だが、その通りだよ。中佐」

ヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐の問いかけに、目の前に佇む眼鏡の男……マルティン・クロースナー上級少将は表情を消したまま答えた。失望を隠せない様子の彼女を、レンズの奥の双眸がじっと見つめている。

「誤解の無いように言っておくが、私個人としては中佐の考えに反対ではない。むしろ、採用すべき意見だと考えている」
「ならば、なぜ……」
「現状では、参謀達の多くがこの修正プランに反発する事は確実だからだよ。前回の全体会議で、グレーナー砲兵上級少佐のプランに対して、彼らがどんな反応を示したか?中佐も目にしていただろう」

クロースナーの言葉に、黙り込むヘルミーナ。
自分が纏め上げた、A・B両軍集団の装甲部隊によるヴァノアール攻撃と並行して、親衛隊装甲軍によるノールの包囲を実施する、という内容のプランAの修正案が、プランA・プランBいずれの作戦案を支持するか?に関わり無く、大多数の参謀達にとって愉快なものではないだろうと事前にある程度予想してはいたのだが、主任参謀の語った言葉は、彼女の想定を超えていた。

「確かに、親衛隊装甲軍の活躍を望む総統閣下の御意志は堅く、そう簡単に覆りはしないだろうとは私も感じているがね。その現状に対する、参謀本部内の受け止め方もまた、複雑さを増しているのだよ。
この状況下で、安易に迎合する姿勢を示す事は、却って大きな混乱を招きかねないものと判断せざるを得ない」

国家元首への批判にあたらぬよう、慎重な言い回しに終始しつつも、”総統の御意向”に対する参謀達の感情が悪化しつつある事を強く示唆する上級少将に、肩を落とすヘルミーナ。実は、ここに来る前、グロースファウストSD上級少将と面談してプランAの作戦行動方針の変更について説明を行い、かなり前向きな評価を獲得していたのだが、その際に、彼からも、(やはり、慎重に言葉を選びながらではあったが)同様の指摘を受けていたのである。

(国防軍と親衛隊とが良い意味でのライバルとして切磋琢磨し合いながら互いの能力を高め合っていく……私の考え方は甘いのでしょうか?)

厳しい現実を突きつけられるヘルミーナ。
彼女に背中を向けると、クロースナーは、何処か自分に言い聞かせるかのような口調で話を締め括るのだった。

「申し訳ないが、今回の提案については保留とさせて貰うよ。今後、状況に変化が生じた場合には、また話し合いの場を持つ必要もあるかもしれないがね。
中佐の考える未来の在り様それ自体に問題があるとまでは思わないが、大事を成し遂げるにあたっては、主張を切り出すタイミングの見極めというものが重要となる……要するに、今はその時ではない、という事だよ」

ちなみに、クロースナー上級少将との面談を受けて、その2日後に行われた全体会議の席上、ヘルミーナが主張した意見は、概ね以下のような内容だった。

『全体戦略としては、プランAを支持する』

前回の全体会議から引き続き、プランAこそが”金の場合”の基本作戦としてふさわしいと述べ、参謀達に支持を呼び掛けた。
本来の計画では、その後、A・B両軍集団の装甲部隊によるヴァノアール攻撃と並行して、連合軍の退路を断つため、親衛隊装甲軍によるノールの包囲を実施する形に作戦行動方針を修正する旨の修正案を提示するつもりであったのだが、これに関しては、クロースナー上級少将から「現時点での公表は不可とする。どうしても全体会議の場で主張を行いたいのであれば、プランAの修正案としてではなく、独自の作戦案として意見を表明したまえ」と釘を刺されていたため、結局、一言も口にする事無く、発言を終える事になった。
前回と同様、彼女の理路整然とした理論展開は多くの参謀達から好感をもって迎えられた。その一方で、ヴァノアールの連合軍が海上移動による撤退を試みる可能性への言及が無かったため、その支持は今一つ広がりを欠く結果に終わらざるを得なかった。

『C軍集団については、プランAの通り、作戦行動を実施すべきと考える』

これに関しても、本来であれば、親衛隊装甲軍をノールへの進軍に振り向けるため、C軍集団の作戦行動はプランAの内容よりもかなり縮小した規模となる筈だったのだが、親衛隊装甲軍の作戦行動方針に関しては、クロースナー上級少将の意向に従い、「プランAの通り」とせざるを得ず、それに引き摺られる形で、C軍集団の方針変更も主張する事は叶わなかった。なお、結果的に、グロースファウストSD上級少将との面談時の話し合いは無駄になってしまったが、このような首尾となる事は先方も薄々予期していたのだろう、全体会議の後も特に機嫌を損じたような様子は見られなかった。

更に、『親衛隊装甲軍の作戦行動方針については、後日改めて議論を行い、決定する。それまでの間、親衛隊装甲軍の投入を前提とする作戦案の採否は保留とし、同装甲軍の投入を前提としない作戦案を以て暫定的な採用案とする』というジーベルト参謀総長の方針により、ヘルミーナが(自らの本心を隠したまま)主張した、プランAを元にした作戦案もまた、保留扱いとなり、親衛隊装甲軍の作戦行動方針の決定後に改めて検討が行われる事になった。
ちなみに、C軍集団の作戦行動方針に関して、現時点に於ける暫定的な採用案として選定されたのは、(彼女と同じく)プランAを元に一定の修正を加えた、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐のプランである。内容的にはヘルミーナの作戦案と殆ど同一だったパウラ案が採用されたのは、彼女が親衛隊装甲軍の作戦行動については極力言及を避け、C軍集団の作戦行動方針に絞って意見を陳述したためと云って良い。一部には「玉虫色の解決策」という批判の声もあったものの、大多数の参謀達は、複雑な問題の絡む親衛隊装甲軍の作戦行動方針についてはひとまず棚上げとするのが現時点に於ける最善策である、と判断した訳である。

成功 🔵​🔵​🔴​

エリーシャ・ファルケンハイン
(2)"金の場合"の戦略方針に関して、全体会議の場で意見を述べる。
現状では、プランBの採用が適当と考える。
ただし、プランAが、ヴァノアールの包囲と同時に、包囲を嫌った連合軍が海上移動で撤退するのを防ぐため、ノールを制圧又は包囲する作戦行動を追加するのであれば、その方針については是とする。

C軍集団の作戦行動については、立場上、ブランBの方針を支持するが、正直な所を言えば、プランAも大きな違いは無いため、どちらでも構わない、というのが本音。

なお、懸案事項の(3)に関して、B軍集団からの意見具申は、国防軍情報部の情報解析が終わるまでの間、一旦保留の扱いとし、結論を先送りにしてはどうか?と提案する。



大陸歴939年2月3日13:25。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。

「それでは、主任参謀殿は、ヴァノアールの包囲を嫌った連合軍が海上移動で撤退を試みたとしても、さしたる問題では無いと仰るのですか!?」

舌鋒鋭く、マルティン・クロースナー上級少将を問い詰める、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐。
前回の全体会議の席上、彼から『持ち帰って検討する』との言質を引き出す事に成功した、プランAの問題点……
すなわち、ヴァノアールの連合軍は、たとえ陸上から包囲を受けたとしても、輸送船を掻き集め、海上を移動して近隣の港湾都市に撤退可能だ、という指摘に対する上級少将の回答は、要約すれば、『連合軍のヴァノアール撤退の可能性は低い。仮に撤退を試みたとしても、海上で、我が空軍や海軍の潜水艦部隊による妨害を受け、壊滅的損害を蒙る筈である、との結論に達した』というものだったのである。

(幾らなんでも、楽観的すぎます。ヴァノアール周辺海域の制空権は、連合軍の航空部隊と空母機動部隊に掌握され、潜水艦とて護衛艦艇に阻まれて輸送船団に近付くのは容易ではないでしょう)

思わず、怪訝そうな眼差しを向けるエリーシャに対し、苦虫を嚙み潰したような表情でそっぽを向くクロースナー。その態度に、上級中佐は、もしや、という疑問を抱かずにはいられなかった。

(……もしかして、主任参謀殿ご自身もこの回答には納得していらっしゃらないのでは?
だとしたら、その理由は……やはり、親衛隊装甲軍の問題が影響しているのでしょうか?)

彼女の予想は、正鵠を射たものだった。
全体会議の前にヘルミーナ・モルトケ装甲兵中佐に語った通り、クロースナーは、現在の参謀本部内の状況に鑑みて、今はまだ、プランAに於ける親衛隊装甲軍の作戦行動方針を改定する時期ではない、と判断している。エリーシャの問いかけに対する『連合軍がヴァノアールから海路撤退を図ったとしても、空軍と海軍の力で阻止する事は十分可能』という現実離れした回答は、つまるところ、その真意を隠蔽するための窮余の策に過ぎないのである。

(親衛隊装甲軍は南方戦域に投入すべし、という従来の方針を変更しない以上、ヴァノアール包囲と並行して、連合軍の退路を断つための別動隊として同装甲軍を用いるという策は使えない。かといって、プランAに於いて、ノールへの進撃を実行可能な部隊は親衛隊装甲軍以外には存在しない……上級少将としては、何とか理由を捻り出して、ノールへの攻撃自体が不要であると主張するしかなかった、という訳ですか)

クロースナーが垣間見せた、日頃は殆ど表に出す事の無い表情から、銀髪の才女は全てを悟ったのだが、無論、この時点で、彼の真意を理解している参謀は、エリーシャやヘルミーナなど、ごく一握りの者に限られていた。大部分の参謀達は『空軍も海軍も全くの役立たずという訳ではあるまい。多分大丈夫なのではないか?』と考える者と『クロースナーの見解は楽観的に過ぎる。プランAは連合軍を取り逃がす可能性が高いと考えざるを得ない』と考える者とに二分されていた。
その影響だろう、プランAを支持する意見とプランBを支持する意見との差は、前回の全体会議に比べると明らかに縮小していた。正々堂々たる議論を通じてプランAの問題点を明らかにする事により、プランBへの支持者を増やすという、エリーシャの目論見そのものは不発に終わったものの、結果だけを見れば、形勢はプランBの不戦勝(あるいはプランBの不戦敗)と云っても過言ではない状況である。

なお、全体会議の席上、エリーシャが主張した意見は、概ね以下のような内容だった。

『”金の場合”の全体戦略としては、プランBこそが最良である』

前回の全体会議から引き続き、プランBこそが”金の場合”の基本作戦としてふさわしいと述べ、参謀達に支持を呼び掛けた。
なお、前回の会議に於いて問題提起した、「ヴァノアールで包囲される事を嫌った連合軍が海上移動で隣接する港湾都市へと撤退を試みる可能性」に対しては、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐などプランAを支持する参謀からいくつかの反論があったものの、決定打とはならず、議論は次回の全体会議に持ち越されている。
ちなみに、エリーシャは、プランAに、ヴァノアールの包囲と並行して、包囲を嫌った連合軍による海上撤退を防ぐための作戦行動が追加されるのであれば、その方針については了とするつもりでいたのだが、今回、プランAを支持する参謀達の間からそのような修正意見が提示される事は無かった。どうやら、幾人かの参謀達はこの種の修正に前向きであったようなのだが、いずれもクロースナー上級少将からの賛同を得られず、今回の全体会議での提示は諦めざるを得なかった模様である。

『C軍集団の作戦行動については、ブランBの方針を支持する』

「C軍集団の現有兵力は、相対する共和国第2軍集団の60パーセント前後に過ぎず、積極的攻勢に打って出るのは困難だと言わざるを得ない」との現状認識を示し、第2軍集団を南部戦域に釘付けにする任務のみに専念させるべきであるという意見を提示した。
エリーシャ自身は、「C軍集団の作戦行動方針に関しては、プランAもプランBも大きな違いは無いため、正直な所、どちらが採用されても構わない」というのが本音であり、ブランBの方針を支持したのは、立場上、そのように振舞わざるを得なかったからに過ぎない。
最終的に、エリーシャが提示したプランは、議論の最終段階に於いてパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐が提出した案に僅差で競り負け、惜しくも、(親衛隊装甲軍の作戦行動方針が決定するまでの)暫定的な採用案として選定されるには至らなかったものの、採用となったパウラの案も、内容的には彼女のプランと殆ど変わりはないと云っても過言では無かった。

『B軍集団からの意見具申のあった、”リンデン部隊”による治水ダム爆破阻止作戦については、国防軍情報部の情報解析が終わるまでの間、一旦保留としてはどうか?』

前回の全体会議に於いて、A軍集団司令部の意見具申を容れて橋梁の制圧に”リンデン部隊”を投入する事が一旦は決定したものの、その後、B軍集団司令部から新たな意見具申が舞い込んできたのを受けて、一転、継続審議となっていた懸案事項に関して、そもそも、そのような計画が本当に存在するのか否か?国防軍情報部に於いても意見が分かれている事を理由に挙げ、情報の真偽が確定するまで結論は保留にしてはどうか?という主張である。
難色を示すであろう、A軍集団司令部に対しては、「情報が事実であれば、B軍集団の作戦行動に重大な障害となるものであり、"金の場合"の基本戦略としてプランAが採用された場合は勿論、プランBが採用された場合も、A軍集団の作戦行動への影響は避けられない、と説得に努めるべきである」と付け加えている。
参謀達の間では『妥当な意見である』との声が多く、討議の結果、彼女の提案は採用される運びとなった。

(どうやら、最初から親衛隊装甲軍を北方に投入する方針だったプランBの支持者と違って、南方に投入する方針のプランAを支持する参謀の中には、装甲軍の投入先を変更する事に心理的な抵抗を覚える方が多いようですね。
……とはいえ、親衛隊装甲軍を北部戦域に投入するのは、親衛隊作戦本部のみならず、ほぼ確実に総統閣下御自身の意中の策である筈。
その事が今後の議論に与える影響がどのようなものとなるのか?よくよく注視していく必要がありそうですね……)

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
C軍集団の作戦行動方針について:今後も親衛隊を蔑ろにすれば総統閣下の作戦への横槍が懸念される。
ケルシェのC軍集団第1軍の数個部隊を攻勢部隊として部隊を改変、砲兵隊も合流させた一線級の部隊へ昇格させる事を提案。
バイスさえ落とせれば親衛隊は予定通りリンドル包囲、もしくはリーベンツに攻勢をかけるゴール軍の側面を突ける。

3:空軍装甲師団ついて
仮に投入しても北部A・B軍集団の機動戦には使えず、同調が乱れ懸念された各個撃破の危険性も高くなる。C軍集団のバイス攻勢に回ってもらった方が無難だ、ゴール軍の攻勢は強く、相手には事欠かない筈、そこで空軍装甲師団の実力を示す事でこの場は納得してもらうよう説得する。



大陸歴939年2月3日15:00。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。

『ちょっと一服して良いか?』

隣の席に座る同僚に声を掛けると、ヴィリー・フランツ参謀大佐は愛用のシガレット・ケースから紙巻き煙草を一本取り出し、燐寸を擦った。
ライエルン軍の高級士官達が好む上品な香りとは異なる、野趣に富んだ力強い紫煙が鼻腔を満たしていくのを感じながら、もうしばらく経てば、自分に順番が回ってくる、全体会議の意見陳述に関して、これまでに登壇した参謀達の発言を頭の中で再生し、予定している発言内容と比較する。

(……今回は、プランBを推す参謀達の方に勢いがあるな。プランAへの支持も堅調には違いないが、前回程の優位は確保できそうにない。
予測通り、親衛隊装甲軍の作戦行動方針に関しては、参謀総長殿は今日の会議で結論を出す気はないようだが、まぁ、意見を言うだけなら別に構わないだろう。肝心のC軍集団の作戦行動方針については、どの参謀の考えも似たり寄ったりか……これもまた、事前の予想通りではあるが)

ニコチンの刺激が中枢神経に作用して、感覚が研ぎ澄まされ、思考が加速していく。その結果、今この瞬間まで見落としていた、自論の欠陥に考えが至り、急ぎ修正する必要がある事に気付けたのは僥倖と云うべきだろう。

(俺としたことが、些か勘違いをしていたようだ。
二線級の師団と一線級の師団の差は、単純に基幹兵力である歩兵連隊の数だけじゃない。あるいは、砲兵大隊や工兵大隊等、各種支援部隊の有無だけでもない。兵員の練度や士気、配備されている武器や装備品の年式や整備状況、そして、何より師団に配属されている各級指揮官達の指揮・運用能力こそが重要な基準だ。
二線級の歩兵師団に同じような水準の歩兵連隊を追加配備したとしても、出来上がるのは”3個歩兵連隊を有する二線級歩兵師団”で、”一線級の歩兵師団”じゃあない。一線級と呼ぶにふさわしい歩兵師団を作ろうとするなら、3個歩兵連隊のうち少なくとも2個は一線級の実力を具えた連隊である必要があるだろう……)

煙草を口に咥えたまま、腕時計の盤面に視線を走らせる参謀大佐。全体会議での発言の順番が回ってくるまで、あと20分乃至30分……ヴィリーにとって、そこから先は、時間との闘いだった。

『……C軍集団の作戦行動方針については、ケルシェに展開する第1軍の一部を、作戦開始までに一線級部隊に改編した上で、作戦開始後、最初の週のうちに、第7軍及び空軍の”ワルキューレ装甲師団”の攻撃により、パイス前面の”アンドレライン”を突破。第2週の初めに降下猟兵師団をレーヌス川に架かる橋梁に降下させ、これを確保した上で、”ワルキューレ装甲師団”と第1軍、親衛隊装甲軍を通過させ、パイスに攻撃を仕掛ける。
首尾良くパイスを陥落せしむる事に成功した場合、続く第3週に於いて、第1軍は同市で再編成に入り、”ワルキューレ装甲師団”と親衛隊装甲軍はリンドルに進撃、これを包囲下に置く、もしくはリーベンツに攻勢をかけるゴール軍の側面を衝く。第2週に於いてパイスの制圧に失敗した場合、第3週に於いて、第1軍はケルシェ-パイス間の”アンドレライン”まで後退して再編成に入り、残る第7軍、”ワルキューレ装甲師団”及び降下猟兵師団、親衛隊装甲軍の共同作戦により、パイスに総攻撃を仕掛けるべきだ、と考える』

ヴィリーの披露した、C軍集団の作戦行動方針についての見解は、基本的な内容としては、プランAの枠内に収まるものであるとはいえ、これまでに発言を終えた参謀達の中では、最も積極的な部類に入るプランだと云って良いだろう。親衛隊装甲軍や”ワルキューレ装甲師団”の投入は勿論、C軍集団第1軍に所属する第30軍団と第54軍団に、東部国境の防衛部隊から引き抜いた歩兵師団(一線級)を各1個増強した上で、パイス制圧を目指す、という彼の案は、他の参謀達の提示したそれよりも、明らかに積極攻勢に力点を置いたプランだった(一応、『攻勢の継続は困難だと判断される場合は、ケルシェに後退』という文章も盛り込まれてはいたが)。
出席した参謀達からは、『歩兵師団とはいえ、東部国境から2個師団もの兵力を引き抜くのは、ファントーシュとの軍事的均衡に影響を及ぼす恐れがある』という懸念の声が寄せられた他、(目下、親衛隊が北部戦域での作戦参加を強く要望している)親衛隊装甲軍の戦闘参加を前提とする作戦案である点を問題視する意見も多かった。その結果、彼の提示したプランは、『後日、親衛隊装甲軍の作戦行動方針を話し合う場に於いて、改めて検討を行う』という形で、一時保留の扱いとなる。
なお、(親衛隊装甲軍の作戦行動方針が決定するまでの)暫定的な採用案として選定されたのは、彼と同じく、プランAの作戦内容に沿う形で立案されたパウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐のプランである(ヴィリーの案と異なり、彼女が提示したプランは、親衛隊装甲軍については殆ど言及せず、C軍集団の作戦行動のみに焦点を当てた内容となっていた)。

『空軍が作戦参加を要望している、”ワルキューレ装甲師団”については、仮に北部戦域での戦いに投入したとしても、A・B両軍集団の装甲部隊が展開する機動戦には随伴出来ないばかりか、各部隊の同調を乱し、各個撃破の危険性を高める不安要素となる可能性も高いと言わざるを得ない。
彼らには、バイス攻略を目指すC軍集団に協力して貰う方が無難であると考える』

これは、彼の少し後に発言した、ヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐と同様、空軍の陸戦部隊を、主戦場となる北部戦域からは排除する一方、南部戦域に限定して作戦に参加させる事により、空軍の面子を立てつつ、西方総軍司令部の懸念に対しても最大限払しょくを図ろうとするアイデアだった。
この提案は、会議出席者の間に、少なからず議論を巻き起こしたものの、ヘルムート以外の参謀からも賛同意見が寄せられた事で、最終的にヴィリーの案に沿った形で採用となり、紆余曲折の末、空軍総司令部も(渋々ながらではあったものの)これに同意する運びとなる。

(……よし、空軍の方は、何とか上手い具合に決着させる事が出来たぞ。ただ、親衛隊は、相変わらず、南部戦域での作戦行動に興味なしの様子か。
参謀達の間では、フリンゲル少将がプランBを大幅に改定する方向で修正案の準備に取り掛かったらしい、という噂が立っているが、それが事実なら、やはり、親衛隊装甲軍を北部戦域……それも、メディスやクリスベルンのような戦略上の要衝を巡る戦闘に投入する腹積もりなんだろう。少将にしてはなかなかの策士ぶりだが、あるいは、誰かに入れ知恵されたのかな?
いずれにせよ、この分だと、次回の全体会議は大荒れの展開になるかもしれないな……)

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルムート・ロートシュタット
前回に引き続き、私はA案を支持する。
その理由は「兵は拙速を貴ぶ」と「戦力分散反対」だ。
そして、A案支持の立場からC軍集団の作戦行動方針についての意見は「共和国軍第2軍集団を抑える囮に徹する」だ。具体的には、「ケルシェで待機しA軍集団とB軍集団がヴァノアールを包囲するのを待ち、両軍集団がヴァノアールを包囲し同国軍第2軍集団がその救援の為に動いたら、パイスに進軍制圧する」というものだ。
そして、ワルキューレ装甲師団は、このC軍集団と共に進軍する旨、空軍総司令部に提案する。空軍総司令部が不服なら「同国軍第2軍集団を抑える事の戦略的重要性=A・B両軍集団が側面を突かれるのを防ぐ」を力説し、理解を求める。



大陸歴939年2月3日16:15。
陸軍参謀本部・作戦課第一会議室。

『……前回の全体会議でも申し上げた通り、私はプランAを支持する。
その理由は、これもまた前回の発言の繰り返しとなるが、「兵は拙速を貴ぶ」と「戦力分散反対」にある』

ゆうに百人以上の参加者を収容可能な広々とした作戦会議室も、朗々たる声量と堂々とした立ち振る舞いを兼ね備えたヘルムート・ロートシュタット歩兵上級大佐が発言台に登壇すると、些か手狭に感じられるのが常である。
敢えて奇をてらったり、目新しい見解を付け加える事無く、自信に満ちた態度で、前回の全体会議で主張したのと同様の戦略の基本を繰り返したヘルムートの発言は、今回もまた、居並ぶ参謀達に大きな説得力を有する言葉として受け止められたと云って良いだろう。ただ、今回、マルティン・クロースナー上級少将をはじめとするプランAの支持者達は、エリーシャ・ファルケンハイン歩兵上級中佐が前回の全体会議に於いて指摘した問題点に対して、効果的な反論を行う事が出来ずにいる。そのため、折角の彼の弁論も、前回程の劇的な効果を発揮するのは困難だった。

『C軍集団の作戦行動方針については、「共和国軍第2軍集団を抑える囮に徹する」……これに尽きる。
具体的には、C軍集団は、ケルシェで待機し、A軍集団とB軍集団がヴァノアールを包囲するのを待ち、第2軍集団がその救援の為に動こうとした場合は、パイスに進軍し制圧を試みるというのはどうだろうか?共和国軍第2軍集団がヴァノアールの包囲を解く為に北上を開始した場合、A軍集団とB軍集団は、ヴァノアールを守る連合軍部隊に加えて、第2軍集団までも相手にせねばならなくなり、包囲を解かねばならなくなるどころか、最悪の場合、ヴァノアール守備隊と第2軍集団の挟撃によって包囲殲滅されるリスクを負いかねない』

ヘルムートのこの提案に対しては、『妥当な考えである』という意見が参謀達の多数を占めた。
もっとも、その後に続いた、『共和国第2軍集団がヴァノアールの救援に動けば、そこに隙が生まれる。二線級部隊が主体のC軍集団であっても、パイスに進軍し制圧するのはそれ程難しい事ではないと考える』という見解に関しては、『第2軍集団がヴァノアール救援のため北に向かうとしても、C軍集団の攻勢に対処するために一定程度の兵力は残しておく可能性が高い。その考えは些か楽観的に過ぎるのではないか?』という慎重な意見が多く寄せられた。
彼にとって意外だったのは、そのような懸念を口にした参謀の多くが、C軍集団との関係が深い人間だった事である。これは、C軍集団司令部、とりわけ、軍集団司令官のリッター上級大将自身が、積極的攻勢を行う意志を欠いていたためだったのだが、ヘルムートにとっては誤算だったと云って良い。
この一件が影響したのだろうか?彼の主張したプランは、ごく僅かな票差ではあったものの、(親衛隊装甲軍の作戦行動方針が正式に決定されるまでの)暫定的な採用案として選定されるには至らなかった。ちなみに、採用されたのは、ハインツ・ヴェーゼラー少将を通じて、C軍集団司令部の思惑を把握した上で、その意向に出来るだけ沿う形を意識して纏め上げられた、パウラ・ヒンデンブルク歩兵少佐のプランである。

『”ワルキューレ装甲師団”は、このC軍集団と行動を共にする旨、空軍総司令部に提案する。
空軍総司令部が不服を申し立てるならば、『共和国軍第2軍集団を抑える事の戦略的重要性=A・B両軍集団が側面を突かれるのを防ぐ』を力説し、理解を求めるべきであると考える』

今回の全体会議に於ける彼の発言の中で、最も物議を醸したのがこの提案である。
”ワルキューレ装甲師団”は、空軍野戦師団を改編した空軍の装甲部隊ではあるものの、精鋭部隊として名高い降下猟兵師団と異なり、陸軍部内に於ける評判は決して芳しくはなく、『その実力は未知数であり、作戦参加を認めれば、陸軍部隊の足を引っ張る厄介者となる可能性が高い』と考える者も少なくないのが現状だった。そのため、西部戦線の各軍を統括する西方総軍司令部からは、参謀本部に対し、内々に『空軍の要求を上手く断って欲しい』という要請が舞い込んでおり、その事は参謀達の間では半ば公然の秘密だったのだが……。
勿論、ヘルムートとて、その辺りの事情については重々承知の上であり、”ワルキューレ装甲師団”の実力に関しても『最も良い状態であったとしても、陸軍の二線級装甲師団と同程度』と見積もっていた。にも関わらず、敢えて火中の栗を拾うような提案を行ったのは、ヴァノアールの危機を知った共和国第2軍集団がC軍集団を無視して北上を開始する可能性を潰す事を最優先したためである。確かに、ヘルムートが考える通り、パイスを陥落させる事が出来れば、ライエルン軍はゴール共和国の首都アストリアス及びその周囲に広がる共和国の中心部(所謂グラン・アストリアス地域)を直接狙う事が可能となる。共和国軍としては絶対に回避したい筈の事態であり、第2軍集団がヴァノアール救援を断念してでもパイスの防衛を優先する可能性は高いと云えるだろう。
同時に、ヘルムートは、”ワルキューレ装甲師団”の作戦参加を申し出てきた空軍の真意が、C軍集団の担当する南部戦域での”地味な”軍事行動ではなく、西方総軍の主力であるA・B両軍集団が担当し、親衛隊が何としてでも食い込もうとしている、北部戦域での”華々しい”活躍にあるのは百も承知であり、空軍との交渉が厳しいものとなるであろう事を十分に予期して、説得に向けた準備を積み重ねていた。
これに関しては、彼と意見を同じくするヴィリー・フランツ参謀大佐のサポートや彼とは呉越同舟の間柄ながらも、この懸案事項の解決にあたっては利害の一致から一時的な協力関係を築く事になった、ヴィルヘルミナ・グレーナー砲兵上級少佐の親衛隊への働きかけが功を奏して、空軍の反発を見事に抑え込み、”ワルキューレ装甲師団”の作戦参加を南部戦域での軍事行動に限定させる事に成功した。

(空軍の件は上手くカタを付ける事が出来たが、C軍集団司令部の思惑を見落としていたのは正直痛かったな……。
それにしても、国防軍最高司令部は、何故、リッター上級大将のような消極的な人物を軍集団司令官の要職に留めているのだろうか?これでは、”C軍集団は積極的に戦場に出て戦う必要は無い”と云っているようなものではないか。一体、何なのだ、この司令官人事の目的は……!?)

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月31日


挿絵イラスト