15
さくら、夜歩き、インビテーション

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




●桜夜の招待状
 サクラミラージュ、帝都。不思議なことも多々あるこの帝都で、まことしやかに囁かれる今流行りの不思議といえば――。
「夜歩きの招待状?」
 微かに首を傾げ、帝都桜學府の學徒兵である|蘇原・幸路《そはら・ゆきじ》が一通の封筒を受け取った。
 白地に金の箔押しが入った上品な封筒、差出人はないが切手を貼るべき場所には桜模様が、封には桜色の封蝋に八重桜の印璽――どこぞの舞踏会への招待状かと思う程。
「これがですね! 毎回招待する場所が違うんだそうです! 国内外を問わず、あらゆる場所への夜歩きの招待状なんですよ!」
 怪訝な顔をする幸路とは逆に、面白そうだという表情を隠し切れずにいるのは封筒を渡した|裏手・伊寿美《うらて・いずみ》だ。
「……旅行会社の新手の宣伝活動じゃないのか?」
「そういう噂もありますね」
「それ以外だと?」
「|妖《あやかし》の類の仕業だという声もあります。影朧が関係しているかもしれない、と上層部は懸念しているようですね」
 途端に胡散臭く……といった表情の幸路の表情が引き締まる。
「それは真偽を調べる必要があるな」
「はい! ですので、今回は私達が調査に赴くという形になります!」
 帝都の街を歩いて回り、テロル組織の活動や影朧による猟奇事件の気配がないかパトロールするのも帝都桜學府の役目。
 それがたとえ空回りに終わったとしても、放っておくわけにはいかないと招待状を手に幸路が立ち上がった。
「ちなみに、今回は温泉街、サアカス、薫香の専門店です!」
「……やはり何処かの旅行会社と商店街の宣伝活動じゃないか?」
 謎多き招待状を手に、幸路と伊寿美はまずは温泉街へと向かうのであった。

●グリモアベースにて
「夜歩きの招待状に興味はないかい?」
 封蝋のされた白い封筒を手に、深山・鴇(黒花鳥・f22925)が集まった猟兵へと笑みを向けた。
「差出人不明の招待状なんだがね、これまでにも数度この招待状が出回っているんだ」
 とはいっても参加した者に危険が及んだこともなく、今では自分にも届かないだろうかと楽しみにする人がいるくらいだ。
「行先は毎回違って、共通している点といえば夜歩きである事かな。今回は花見もできる温泉街、そこから少し歩いた場所で開催されるサアカス、更に歩いた先にある夜しか開店しないと通には有名な薫香の専門店だそうだ」
 全部歩けばおおよそ五キロ程の道程だろう、と鴇が封筒をひらりとさせて言う。
「時期的に丁度いいんじゃないかい、花見。サクラミラージュであれば毎日が花見のようなものだけれど、この時期だからこそ見られる桜もあると思うよ」
 幻朧桜ではない普通の桜も、様々咲いている温泉街。夜遅くまでお土産物屋は開いているし、何より温泉に浸かりながら花見ができるのも魅力のひとつだ。
「温泉に入る場合は現地で色々借りられるから、手ぶらでも問題ないよ。混浴に入る場合は水着が必須だからそれだけは気を付けるといい」
 水着は持参となっているので、忘れると入れないからねと鴇が念を押した。勿論、温泉に浸からずに花見もできるし、屋台が並んでいるそうなので買い食いも捗るだろう。
「次にサアカスだが、温泉街から少し歩くと天幕の張られたサアカスがあるそうだ」
 鴇が招待状には丁寧に地図が付いているからね、と猟兵達に見せる。それは詳細に描かれた地図で、迷子になることはなさそうだった。
「百鬼夜行サアカス、というそうだ」
 如何にも怪しげなサアカスに思えるが、実態や如何にといったところだねと鴇が笑う。
「そして最後が夜しか開いていない薫香の専門店――お香や香水を扱う店だね」
 スタート地点となる場所……今回でいえば温泉街以外の詳細は行ってみないとわからない、というのも人々の興味をそそるのかもしれない。
「今回は帝都桜學府へも招待状が届いていてね、學徒兵も二名参加するそうだ」
 勿論、彼等とは関係なくこの夜歩きを楽しんできて構わない、と鴇は言う。
「だが、万が一何かあった時は彼らを手伝ってやってくれるかい?」
 招待状を楽しみにする人々がいる一方で、何か事件へと繋がるのではないかと不安に思う人々もいる。猟兵がいるとなれば、そんな人々の安心へも繋がるはず。
「それじゃ、あとはよろしく頼んだよ」
 そう言って、鴇は手のひらに煙のように形の定まらぬグリモアを呼び出してゲートを開き、招待状を手にした猟兵達を見送った。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回はサクラミラージュへ夜歩きのお誘いです。特に事件は起こらないシナリオですが、春の夜歩きを楽しんでいただければ幸いです。
 こちらはどれか一章のみの参加も歓迎しております、お好きな章に参加してくださいませ!
 また、NPCとして帝都桜學府の學徒兵、蘇原・幸路(男)と浦手・伊寿美(女)がおります。プレイングでお声がけがあれば二人が登場しますが、何もなければプレイングには登場せずパトロールをしております。

●プレイング受付期間について
 タグやMSページ記載のURL先にてご案内しております、参照いただけますと助かります。
 また、参加人数やスケジュールの都合、予期せぬ出来事によっては再送をお願いする場合がございます。なるべく無いように努めますが、再送となった場合はご協力をお願いできればと思います(この場合も、タグとMSページ記載のURL先にてお知らせ致します)
 オーバーロードについてはMSページに記載があります、ご利用をお考えの方がいらっしゃいましたらお手数ですが確認していただけると幸いです。

●できること

・一章:桜舞う温泉街でのひととき
 幻朧桜は勿論の事、普通の桜も多く咲き誇っている温泉街です。
 温泉に浸かりながら花見も良し、温泉街を歩いて散歩がてら花見を楽しむのも良し、屋台に舌鼓を打つのも良し、温泉宿から桜を眺めるのも良し、です。
 温泉街で出来そうな事は大抵通ります、温泉に入る方は水着が必須ですのでその点だけご了承くださいませ。
 POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

・二章:夜に花咲くカゲロウサアカス
 サアカス見物となります、詳細は断章をお待ちください。
 POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

・三章:香煙を薫らせて
 夜にしか店を開けないという、香りの専門店での買い物がメインとなります。詳細は断章をお待ちください。
 この章に限り、プレイングでのお声掛けがあれば当方のグリモア猟兵がご一緒します。
 POW/SPD/WIZは気にしなくて大丈夫です。

●同行者について
 同行者が三人以上の場合は【共通のグループ名か旅団名】+【人数】でお願いします。例:【桜咲く3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの失効日を統一してください、失効日が同じであれば送信時刻は問いません。朝8:31~翌朝8:29迄は失効日が同じになります(プレイング受付締切日はこの限りではありません、受付時間内に送信してください)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
155




第1章 日常 『桜舞う温泉街でのひととき』

POW   :    飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。

SPD   :    湯畑を見たり、屋形船に乗る。

WIZ   :    温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。
【荒野の標石】

ほう、随分と丁寧な招待状じゃないか。受けねば失礼というもの。
妖がどうだか知らないが、牙印と共に満喫するとしよう。

浴衣姿で夕闇時に温泉街の賑わいを楽しむなど良いものだ。
背の高い桜を眺めるのに牙印の肩を借りて乗せてもらおうか。

ピンナップ?お望みとあればお応えしよう。
橋の欄干にもたれかかってなど如何かな。夜風がきっと画に彩りを添えてくれるだろう。

おや、相変わらず食に飽きないものだ、しかし限りなき味の探求も一興、赴くとしよう。


黒田・牙印
【荒野の標石】

・桜の季節にサクラミラージュで花見デートか。催し物もあるみてぇだし、ネフラとガッツリ楽しみたいねぇ。
温泉に入りながら花見もできるらしいが、俺としては散策をしてみたいな。
温泉花見は宿でネフラと2人で、がいいぜ。

・屋台で少し軽食を買ったら、ちょっと行儀悪く食べ歩きしながら桜を楽しもう。
いい感じのスポットがあったらネフラにポーズを取ってもらってピンナップを撮るのもいいかもな。
猟兵活動はあれやこれやで忙しないことも多いからな、こういうのんびりとした時間は大切にしたいもんだ。
お、ネフラ。あっちから美味そうな匂いがするぜ。行ってみないか?

※アドリブ・絡み歓迎。



●桜夜風に彩を添えて
 翡翠のように煌く爪先で、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)がちょんっと白い招待状をつつく。
「ほう、随分と丁寧な招待状じゃないか」
 案内人から手渡された、今流行りの謎の招待状。封蝋はしっかりとしたもので、八重桜の|印璽《いんじ》――シーリングスタンプも立派なものだ。
「これは受けねば失礼というもの。だろう、牙印」
「花見デートの誘いか?」
「ふ、ふ、そうともいうな」
 黒田・牙印(黒ワニ・f31321)の言葉にネフラが笑って、それなら浴衣姿で来て正解というものだと薄紫の地に麻の葉模様も美しい浴衣の袖をひらりと振った。
「鬼が出るか蛇が出るか、はたまた妖か……どうだかは知らないが、共に満喫するとしよう」
「催し物もあるてぇだし、ガッツリ楽しみたいねぇ」
 ネフラの下駄がカラコロと鳴る横を歩き、牙印が大きく頷く。
「先ずはどうする? 色々できるみたいだぞ」
 温泉街を散策したり、温泉に浸かりながら桜を愛でたり、他にも出来る事は色々ありそうだとネフラが言う。
「そうだな、俺としては散策をしてみたいな」
「ほう、正しく夜歩き、というわけだな」
「温泉花見は宿でネフラと二人で、がいいぜ」
 こそりと囁かれた言葉に、ネフラが唇の端だけで笑う。
「じゃあ、それは次の機会にだな」
 じゃれ合うようにして、温泉街を歩く。
 日が暮れてきたからといって、店仕舞いをするような店は見当たらない。今からが稼ぎ時とばかりに、どの店も明るく賑やかだ。
「こういう場所の土産物屋、昔懐かしい玩具みたいなのがあるんだよな」
「たとえばこういう?」
 牙印が視線をやった土産物屋で、ネフラが気になった物を手に取る。それは小さな手持ち状の太鼓で、持ち手を回転させると、小気味の好い音が鳴った。
「ああ、そういう。あとはこれとかな」
 だるま落としにけん玉、独楽回しに万華鏡……なんともそれらしいお土産物を眺めて歩いていると、川に沿って咲き誇る桜が見えた。
「あっちに行ってみないか、ネフラ」
「いいな、桜が間近で見られるみたいだ」
 川沿いの桜はライトアップがされていて、なんとも幻想的な雰囲気で二人を誘うよう。
「これはまた背の高い桜だな」
「他の桜よりでかいな、幻朧桜か?」
「そうかもしれないな。なあ、牙印」
「何だ?」
「ちょっと肩を貸してくれないか?」
 肩? と首を傾げそうになったが、すぐにネフラの言わんとする事を察した牙印が彼女をそっと抱き上げて己の肩へと乗せた。
「ありがとう、少し近くで見たくなったんだ」
 手を伸ばせば桜の枝の先に届きそうな高さに、ネフラが楽しそうに微笑む。
「美しいな、昼間の桜もいいが夜桜はまた違った美しさがある」
「そうだな、どっちか選べって言われたら選び難いが」
 桜も美しいが、ネフラも美しい――なんて言葉にはせず、牙印は彼女が満足するまで肩に乗せたまま、同じように桜を見上げた。
「ネフラ、折角だ。写真を撮るのはどうだ」
「写真? お望みとあればお応えしよう」
 どうせなら映える場所で撮りたいもの、牙印の肩から降りて再び桜を愛でるように歩き出した二人があちらこちらへ視線を向け、あの場所もいい、こっちの場所もいいと絶景スポットを探す。
「牙印、あの橋の欄干はどうだ?」
「良いじゃないか、あそこにしよう」
 赤い欄干の、少し丸みのある橋はライトアップされた桜もよく見えて、ネフラが立つとどちらも美しく映えた。
「欄干にもたれかかってなど如何かな? この夜風がきっと画に彩りを添えてくれると思うんだが」
「よし、じゃあポーズを取ってくれ」
 ポーズ、と言われてネフラが少し考えてから斜め横を向き、欄干にそっともたれると牙印へ視線を向けて微笑む。夜風でふわりとネフラのポニーテールに結い上げた髪が揺れ、なんとも風情のある一枚が撮れた。
 他にも何枚か撮って、最終的に二人で撮ったりとのんびりとした時間を楽しんで。
「もういいのか?」
「ああ、充分撮ったからな……お、ネフラ」
「どうした?」
「あっちから美味そうな匂いがするぜ。行ってみないか?」
 あっち、と言われた方に屋台の灯りが見えた。
 屋台の|幟《のぼり》にはたこ焼きやお好み焼き、りんご飴にフライドポテト、唐揚げといった定番商品から、変わり種まで色々な屋台の文字が躍っている。
「おや、相変わらず食に飽きないものだ、しかし限りなき味の探求も一興、赴くとしよう」
 橋を渡りると屋台はすぐで、二人で食べたい物を買い求め少しばかり行儀悪く食べ歩きをしつつ――再び桜を楽しんだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
目的地だけ見ただけでしたら軽いツアーのようですね?

温泉、嫌いではないのですが少し苦手なんですよね。肌を晒して他の方と一緒になるというのがちょっと。
でも折角の温泉街なのだから足湯ぐらいは楽しみたいわ。足湯なら手軽に楽しめるよう道沿いにあるでしょうし。
先に屋台でお茶を買っておいて。温かいのがいいのかしら?それとも冷たい方?おすすめはどちらかしら?
ロングブーツは脱ぐのに少し手間だけどいったん足を湯につけてしまえばやっぱり気持ちいい。
ついつい湯面を眺めてしまいがちになるけどお花見にも来たのだから顔を上げなくては。
……我儘だけど背もたれが欲しいような。けどあったらきっと眠ってしまいそう。



●桜夜に足湯で一息
 白く綺麗な|招待状《インビテーション》を手に、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)が温泉街を歩く。
「目的地だけ見ただけでしたら軽いツアーのようですね?」
 既に中身は改めたところで、温泉街への案内、それからサアカスと夜だけの香りの専門店への招待状がそれぞれ一枚ずつ入っていた。
 確かにこの内容であれば、旅行会社のキャンペーンか何かと思ってもおかしくはない。毎回行く場所が違うというのも魅力的に映るところだと、藍が封筒をしまい込む。
「さて、まずは温泉……ですね」
 温泉……と呟き、藍が思案顔で桜を見上げる。
「温泉、嫌いではないのですが少し苦手なんですよね。肌を晒して他の方と一緒になるというのがちょっと」
 しかし折角の温泉街、いっそ貸し切りという手も考えたが、それなら泊まっていきたくなるというもの。悩みながら歩いていれば、『足湯はこちら』という看板が目にはいった。
「足湯……そうね、足湯ぐらいは楽しみたいわ」
 道沿いに幾つか見えて、名案だと藍が頷く。
「足湯といえど水分補給は必要よね……先に屋台で飲み物を買いましょう」
 足だけを温めるのに? と侮ることなかれ、温めのお湯であっても血行促進の効果があるもの。足湯の前後に水分補給をしておけば、足湯の効果はさらに高まるのだとか。
「果実茶があるのね、こちらにしましょう」
 ジャスミンティーにごろりと入った桃の果実が美味しそうで、藍はそれを買い求めようと屋台の前へ立つ。
「今から足湯に行こうと思うのだけど、暖かいのがいいのかしら? それとも冷たい方? おすすめはどちらかしら?」
「喉を潤したいなら冷たいのだけど、血行をよくするなら温かいのだねぇ」
 どちらにしようか迷ってしまったけれど、温かいのを買い求めて藍が足湯へと向かう。川に面した足湯は見上げれば桜が見えて、絶好の足湯ポイントだ。
「よいしょ……と」
 ロングブーツを脱ぐのに少し手間取ってしまったけれど、足を浸ければ心地良い温かさが伝わってきて、思わずほう、と息をつく。
「うん、やっぱり気持ちいい……」
 湯面に落ちて揺れる桜の花びらを眺めてしまいそうになるけれど、やはりお花見に来たのだから顔を上げなくてはと上を向く。
「……綺麗ね」
 どうせならここに背凭れがあればいいのに。それなら楽に見上げていられるのに……と思いながら、けれどあったら眠ってしまうかもと、藍がひらりと舞い落ちてきた花びらにくすりと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「…夜歩き」
顔が綻ぶ

「明るくさざめく夜こそ、帝都らしさだと思うのです。煌びやかな光の洪水と人や音楽の洪水に圧倒されて。彼の夜を、私は忘れません。ですから夜歩きのお誘いは、其れだけでワクワクします」
「…サアカス。見世物小屋に行った事はありますけれど、サアカスは初めてかもしれません」
水着準備し参加

屋台で一通り食べて満腹してから温泉へ
お腹ぽっこりが目立たぬようスクール水着タイプ着用
勿論温泉内には桶でお酒とおつまみ持ち込み
逆上せないよう半身浴にしてみたり足湯にしたりと全身で浸かり過ぎないようにして長くのんびり温泉での花見を楽しむ

「幻朧桜は一年中咲いていますけれど、他の桜との競演は此の時期だけですから」



●食べ歩きに温泉に
 ひらひらと桜の花びらが舞い散る温泉街、夕闇が辺りを包み込む前に電灯が点いて賑やかさも増しているよう。
「……夜歩き」
 ふわ、と御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の顔が綻ぶ。
「明るくさざめく夜こそ、帝都らしさだと思うのです」
 真っ暗闇で星空が美しく見える夜も綺麗だけれど、こんな風に煌びやかな夜は胸が躍るようで。
「光の洪水と人や音楽の洪水に圧倒されて――彼の夜を私は忘れません」
 ですから、と桜花はライトアップされた桜を見上げ、笑みを浮かべた。
「夜歩きのお誘いは、其れだけでワクワクします」
 いつもならもう帰っている時間に外を歩くのは、なんだか特別な気がするもの。それに、夜のサアカスなんて秘密が詰まっているようにも思える。
「……サアカス、見世物小屋に行った事はありますけれど、サアカスは初めてかもしれません」
 そちらも楽しみですと期待に胸を膨らませつつ、まずは屋台で腹ごしらえと桜花が目に付いた屋台を片っ端から制覇するべく歩き出した。
「やはり屋台といえばたこ焼きにお好み焼き、唐揚げに焼き鳥、フルーツ飴にクレープに……あ、焼きそばも忘れてはいけません」
 その細い身体のどこに入るのか、という程食べ歩いた後は温泉へ。
「ぽっこりしたお腹が目立たないように……ワンピースタイプの水着で……と」
 ウエスト位置は少し高めで、フレアスカートが広がる水着はお腹を隠すにはもってこい。
「ええと……お酒持ち込みができる温泉は……こちらですか?」
 従業員に問い掛ければ、そうですよ! ごゆっくりどうぞと笑顔で見送られる。桶にお酒とちょっとしたおつまみを入れて持ち込んで、いざ温泉花見!
 まずはかけ流しで湯をかけて、それから肩までとっぷりと浸かれば思わず――。
「ほわぁ……」
 なんて声が零れるほどに温泉は心地良くて、桜花の頬が緩んだ。
「ふふ、手酌で一杯」
 お猪口に注いで、きゅっと一口。
「美味しいです」
 おつまみを一口、お酒を一口。無限にループできそうだと思いつつ、逆上せてしまっては大変だと半身浴に切り替える。
「夜桜も綺麗で、お酒もおつまみも美味しくて……良い夜です」
 見上げた先には幻朧桜と普通の桜、どちらも美しくて甲乙は付け難い。
「ふふ、甲乙を付けるなんて野暮というものです。それに幻朧桜は一年中咲いていますけれど、他の桜との競演は此の時期だけですから」
 ええ、今このひと時の競演を楽しみましょうと、桜花が桜と乾杯するようにお猪口を持ち上げて微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結・縁貴
【腐れ縁】◎
温泉はお互い一手間かかるので、観光体験なんてどうですか
見目で何が入ってるか分からない食品…温泉饅頭だな
饅頭作り体験に行きましょうよ、かみさま!
隠し味の効いたやつ、作りましょう!

かみさまが気遣いの塊だなァ
作業は俺がしますね、行程自体は難しくもないな
俺、マナセの家では料理してるんですよ。下宿人なので
俺達の饅頭だけ別の蒸籠を借りましょうね…他の参加者のに混ざったら|要死了《やべー》し

嗚、毒の効果は俺が決めてもいいんです?
効果時間は5分程度。
「猫が見える(幻覚)」
「身体の一部が猫になる」
「笑いの感度3000倍(箸が転がっても大爆笑)」

はは、食べた時の皆の顔が楽しみですね!(晴れやかな笑顔)


朱酉・逢真
【腐れ縁】◎
心情)ひ、ひ…いたずらっ子だねェ、虎兄さん。いいとも、俺もそォいうのンは大好物さ。いつものメンツがどう反応してくれるか楽しみで仕方がないぜ。楽しみだなァ、え?
行動)サテ料理をする場に獣を入れるも無粋だろう。猟兵ならヘイキとしてもな。結界ギチギチに張って、自分の足で立って歩いて…兄さんが作るのを見ていよう。さすがに手で触れるような愚は冒せん。
手際が良いねェ兄さん、初めてたァ思えないぜ。楽しく眺めたら、蒸してるせいろにギフトを送ろう。見た目も味も、質量さえ変えず。そのまま毒を付与してやるさァ…。
サテどンながいいね、虎兄さん。ふむ…どれも捨てがたい。ランダムにしようか。



●後日温泉饅頭は|愉快なイツメン《いつもの犠牲者》が美味しく頂きます
 辺りはすっかり日が暮れようとして、一番星がキラリと輝いて見える。温泉街には明かりが灯り、桜はライトアップされて幻想的に揺れていた。
 そこを歩くのは白い招待状を手にした結・縁貴(翠縁・f33070)と、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)を乗せた軍馬サイズの子猫である。
「賑やかですね、さすがサクラミラージュの温泉街!」
「こっからが書き入れ時だろうからなァ」
 昼間は昼間で書き入れ時だろうが、夜ともなればまた違う客層が流れてくるもの。そして酒が入った客は財布の紐も緩くなるものだと、逢真は道行く人々を横目で見つつ、いつもの笑みを浮かべた。
「しかしですね、温泉はお互い一手間かかりますからね」
「入れンこたないが、そォさなァ」
 結界をギチギチにして、軛を最大限に強めてと、少しばかり手間だ。
「ですから、俺は考えたんです」
 その言葉に縁貴特有の悪戯の響きを感じて、逢真が視線を軽く向ける。
「温泉街で体験遊びなんていうのはどうです?」
「ほォん? どンなのだい」
「そうですね……」
 縁貴が観光案内を広げ、色々ありますよと大きな子猫の上から覗き込む逢真に示す。
「絡繰り細工体験に陶器の絵付け体験……」
「そちらも魅力的ですけどね、どうせならこっちはどうです?」
 縁貴が指さしたのは『温泉饅頭作り体験』で、食べ物とは縁のない逢真が面白そうに唇の端を持ち上げる。縁貴だって逢真が食べ物やら何やらを腐らせる、病毒のカタマリであることは知っているはず。それなのに温泉饅頭を作ろうと言うからには何かしら考えがあるのだ、それもとびきりの|悪戯《トンチキ》の――!
 にんまりと目を細め、逢真が縁貴の言葉の続きを促す。
「見目で何が入ってるかわからない食品だと思いませんか、温泉饅頭」
「そうだなァ、中身が何かなンて食ってみなきゃわからンよなァ」
「でしょう? 饅頭作り体験に行きましょうよ、かみさま! 隠し味の効いたやつ、作りましょう!」
「ひ、ひ……いたずらっ子だねェ、虎兄さん」
 虎兄さんと呼ばれた縁貴がこれ以上はないくらい綺麗に、にやりと笑った。
「いいとも、俺もそォいうのンは大好物さ」
 知ってる、知っているから話を持ち掛けたのだから! と思いつつ、縁貴がうんうんと頷く。
「勿論、温泉饅頭ですからね。お土産に持って帰れば一石二鳥というやつです」
「そうだなァ、いつものメンツがどう反応してくれるか楽しみで仕方がないぜ。楽しみだなァ、え?」
「俺もですよ、かみさま!」
 いつものメンツの中から、自分だけは省かれると信じている縁貴が満面の笑みを浮かべている。自分が持って帰るお土産だからと油断しているのだ、そうは問屋が卸さないのだが、今はそう信じているので逢真も深くは追及しなかった。
 温泉饅頭作り体験コーナーはそれなりに盛況で、逢真は料理をする場に獣を入れるのも無粋だろうと大きな子猫から降りた。それから、結界をギチギチにして縁貴の後ろを自分の足で立って歩く。ギリギリ五十メートル以内だ、いけると踏んだのだ。
「かみさまが気遣いの塊だなァ」
「ひ、ひ、そりゃァヒトに危害を加えるワケにゃいかンからな」
「作業は俺がしますね」
「あァ、頼んだぜェ。さすがに手で触れるような愚は冒せん」
 他の人から離れた作業台に立ち、縁貴が手順通りに温泉饅頭を作り始める。その斜め横くらいの位置から、なるべく直視せぬように縁貴の手際を逢真が見守った。
「へぇ、工程自体は難しくもないな」
 今回作るのは黒糖入りの皮で餡を包んだもの。まずは水と黒糖を鍋に入れて煮溶かし、粗熱を取ったら水で溶いた重曹と薄力粉を加え、打ち粉をした板の上で滑らかになるまで二つ折りにしては伸ばすという作業を繰り返すのだ。
「手際が良いねェ兄さん、初めてたァ思えないぜ」
 見る間に饅頭の生地を練り上げ、十四等分にして丸く伸ばす縁貴に逢真が素直に拍手を送る。
「俺、マナセの家では料理してるんですよ。下宿人なので」
「普段からしてるってことかい」
「まあ、そんなところですね。マナセは料理をあんまりしないので」
 自分だって必要なければしなかったし、最初の頃は作るよりも買う方が早いと思っていたが慣れれば出来ないことも無い。元より器用な質な縁貴のこと、料理を覚えるのも早かったのだ。
「さ、あとは蒸すだけですよ」
 餡を包んだ温泉饅頭が十四個、丁度イツメン七人が二つ食べられる数。ま、そこから俺とかみさまを引いて五人で食べて貰うんだけどね! と縁貴が笑みを浮かべる。
「俺達の饅頭だけ別の蒸籠を借りましょうね……他の参加者のに混ざったら|要死了《やべーし》」
 借りた蒸籠に饅頭を並べ、打ち粉が消える程度にたっぷりと霧吹きをすると鍋の上へと置いた。
「|来、开始吧《さあ、始めましょう》! かみさまの出番ですよ!」
「はいよォ。見た目も味も、質量さえ変えず。そのまま毒を付与してやるさァ……」
 蒸してる蒸籠にギフトだよォ、と逢真が楽し気に笑みを浮かべる。
「サテどンながいいね、虎兄さん」
「嗚、毒の効果は俺が決めてもいいんです?」
「虎兄さんの思い付きだからなァ」
 ふむ、と暫し悩んで縁貴が提案したのは三つ。
「幻覚で猫が見える、身体の一部が猫になる、笑いの感度が三千倍っていうのはどうです?」
「ふむ……どれも捨てがたい。ランダムにしようか」
 蒸籠に向けて、その三つをランダムに|ギフト《毒》を付与していく。
「サ、これで俺にもどれがどれだかわからンよ」
「はは、食べた時の皆の顔が楽しみですね!」
 晴れやかな笑顔を浮かべ、縁貴が温泉マークの焼き印を全部の饅頭へと押していく。最後に箱に詰め、礼を言って表へと出た。
「いやぁ、いい仕事しましたね、桜も心なしかいつもより綺麗に見える気がします」
「ひ、ひ、落とさンように気を付けてなァ」
 再び大きな子猫に乗った逢真が桜を見上げ、こちらもまた楽しそうに笑ったのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
【花結】
桜の温泉街
あなたと来たかったの
いつか叶えられなかった足湯をね
此度一緒に楽しみたくて

でもその前に街も満喫しなきゃ
程よく歩んだ足の方が
きっと一層心地よいでしょう?

あ!ねぇ、ライラック
温泉饅頭が湯に浸かる猫の形!
かわいい、と指差し
食べたい、と見つめ
買って帰ってダフネ殿にも見せたいわ
へへ、美味しい
あなたにも、あーん

足湯に着けば
素足晒し並んでとぷり
爪先から熱がじんわり心地いい
思わず、ほあぁと声も出て
吹き出す声にハッと頬染め乍ら
気持ちよさそに緩むお顔を、つん

あなたもぬくもった?
なんて確かめるフリ
自分の爪先を
彼の脚に添わせ突いて戯れて

あなたの熱さが
返る熱が嬉しくて
触れる先から伝染るよに
火照る頬で咲う


ライラック・エアルオウルズ
【花結】
棚引く湯煙に馥郁たる香
気になっていた温泉街を
共に歩めるのが嬉しいよ
機を逃していた足湯をと
願われることも頬が緩んで

ふふ、確かにそうだろうし
一度浸かれば根を張るかも
歩のかろやかなうちに巡ろう

おや、早速素敵を見つけたね
君のほうがかわいい、なんて
そんな心は密かな土産として
彼女――妬かないと良いけど
真白の飼猫を浮かべ、戯け
蒸したてのそれは花唇へと

念願の足湯にゆうるり
温もる爪先の心地良さに
ついと身の力も抜けてゆく
聞こえる声に吹き出しつ
突かれたなら緩む容向け

いとけなくも、つややかな
こそばゆさに視線が惑えど
――解っているくせに

君の手をとり、己の頬に添え
温い、越した、熱さを示して
ほらね、すっかり温もった



●|あなた《君》と触れ合う爪先
 夕闇が世界を包み始めた時間でも、花の温泉街は人の気配と灯りが尽きない。ライトアップされた桜は舞い落ちる花びらまでもを美しく照らしだし、棚引く湯煙に馥郁たる香りに囲まれた二人はどこか幻想的な世界に迷い込んだかのようだと視線を交わす。
「気になっていた温泉街を共に歩めるのが嬉しいよ」
「妾もあなたと来たかったの」
 足首に結んだ赤薔薇のレェスがひらりと揺れて、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が軽やかなステップを踏むように一歩前へ出た。
「いつか叶えられなかった足湯をね、此度一緒に楽しみたくて」
 藤色の瞳がライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)を見上げ、柔らかく蕩ける。
「機を逃していたからね」
 一度逃すと中々次の機会がないもので、今日はいい機会だと二人で訪れたのだ。
 二人で行きたいと言っていた足湯を忘れることなく願ってくれる彼女に、ライラックの頬が緩む。その頬に背伸びをしたティルが指先で触れ、また視線を交わして笑い合った。
「でも、足湯の前に街も満喫しなきゃ」
 こんなに美しいのだから、とティルがライラックの腕にそっと自分の腕を絡める。
「それに、程よく歩んだ足の方がきっと一層心地よいでしょう?」
 疲れた足をじんわりと温かい足湯に浸ける――そんなシーンを想像してティルが笑う。
「ふふ、確かにそうだろうし、一度浸かれば根を張るかも」
 足湯は炬燵のようなもの、と聞いたことがあるとライラックが頷く。
「歩のかろやかなうちに巡ろうか」
「ええ、行きましょう」
 ぴったりと寄り添って提灯に照らされた道を歩きだせば、様々な店や屋台が二人の目を惹いた。真っ赤なりんご飴にいちご飴、甘い匂いを漂わせる果実と生クリームたっぷりのクレープと、どれもこれも美味しそうだけれど。
「あ! ねぇ、ライラック」
 ライラックの腕を引っ張るティルが心惹かれたのは、丸くて可愛らしい温泉饅頭。しかも、普通の温泉饅頭ではなく――。
「温泉饅頭が湯に浸かる猫の形!」
 更に額には温泉マークの入った小さな手ぬぐいの乗せていて、なんとも愛らしい。
「おや、早速素敵を見つけたね」
「かわいい」
 そう言って、こっちの猫は柄が違うと指さしてティルが微笑み、ライラックを見上げた。
 食べたい、と雄弁に物語る彼女の瞳に思わず笑って、いいよと頷く。かわいいのも、食べたいのも君のほう、なんて――そんな心は密かな土産として胸に秘めて、ライラックはティルに引っ張られるままに猫饅頭を売る店へと向かった。
「やっぱりかわいい。買って帰ってダフネ殿にも見せたいわ」
 その言葉に、真白の飼猫が猫饅頭を見る姿を思い浮かべる。
「……彼女――妬かないと良いけど」
 なんて戯ければ、ティルもその様子を思い浮かべたのか花が咲く様に笑った。
 色々な猫がセットになった温泉饅頭を買い、それから食べ歩き用にとティルが白猫をふたつ。
「なんだか食べるのが勿体ないけれど」
 そう言いつつも、甘い誘惑には勝てずティルがあーんと齧りつく。
「へへ、美味しい」
 蒸したてのお饅頭はもっちりとして甘く、幸せな味がした。
「あなたにも、あーん」
 もう一つの白猫をライラックの唇へと向ければ、ライラックが少し屈んで口を開ける。そうっと押し込めばライラックの唇がそれを食んで口の中へ。暫し黙って味わうと、饅頭を飲み込んだライラックが美味しいねとティルに微笑んだ。
 温泉饅頭をしっかり堪能した後は念願の足湯、二人並んで素足を晒し、湯煙が昇る足湯へと浸けた。
 爪先からゆっくりと温もっていく心地いい感覚に、ティルの花のような唇から思わず声が零れる。
「ほあぁ……」
「ふ、ふふ」
 その声にライラックが小さく吹き出せば、ハッとしたティルが頬を赤らめて彼の気持ちよさそうに緩んだ頬をつんっとつつく。
「気持ちいいね」
 まだ小さく笑いながら、ライラックがティルへと顔を向けた。
「あなたもぬくもった?」
 そう言いながら、ティルが自分の爪先をライラックの脚に添わせ、頬をつついた様にちょんっとついて戯れる。
「――解っているくせに」
 いとけなくもつややかな彼女の小さな足の爪が己をつつくたび、こそばゆさに視線が惑うけれど、真っ直ぐに彼女を見つめて小さな手を取り、己の頬に添わせた。
 指先から感じる熱は温いを越して熱く、その熱が伝わってティルの頬も赤くなる。
「ほらね、すっかり温もった」
 囁かれる言葉は耳朶を擽るものだから、ティルも桜のように色付いた頬でライラックに|咲った《わらった》のであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
謎の招待状とはなんとも胡散臭い限りだが。
とはいえ、常に気を張り続けても仕方ないし。何かあったら対処はするが、そうなるまではのんびりさせてもらうとしようかな

という訳で、折角温泉街に来たんだ。何をするにしてもまずは温泉からだ
最近は暖かくなって過ごしやすいけれど、この時期の温泉だっていいものだしな
温泉好きとしては見逃せないと、必要なものは一通り用意して

何かと忙しい日々が続くけれど、今だけはそういう事を忘れてのんびりと、景色と風呂を楽しもう
それと他の観光客と雑談するのもいいな。もしかして、他にも招待状を貰った人とかもいるかもしれないし

警戒って訳じゃないが、話のネタとしては悪くないだろう



●招待状と温泉と
「謎の招待状とはなんとも胡散臭い限りだが」
 手にした招待状に安っぽさはなく、中に入った招待状を含めて厚みがあった。中に入っていたのはこの温泉街への招待状、それからサアカスに夜のみ開くという香りの専門店への招待状と地図だ。
「……とはいえ、常に気を張り続けても仕方ないし」
 うん、と夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)が頷く。
「何かあったら対処はするが、そうなるまではのんびりさせてもらうとしようかな」
 つまりは、温泉を楽しもうということで――心なしか軽い足取りで鏡介は温泉街へ訪れたのであった。
「ああ、いいな」
 温泉の香りだ、と鏡介が頬を緩ませる。
 さて、折角温泉街に来たのだから、何をするにしてもまずは温泉からだと鏡介は事前に目を付けていた温泉へと向かう。
「最近は暖かくなって過ごしやすいけれど、この時期の温泉だっていいものだしな」
 マイ温泉セットを手に、温泉好きとしては見逃せない名湯へ、いざ!
「ふー……」
 程良い温度の湯に浸かり、鏡介が息をつく。
「この温泉の効能は疲労回復に免疫力を高める効能があるのか」
 じんわりと身体に染み渡るような感覚、それに見上げれば美しい夜桜――心の癒しにもなるな、と自然と笑みが浮かぶ。程よく身体が温まると周囲を見回して、他の観光客へと声を掛けた。
「こんばんは、良い夜だな」
「こんばんは、ほんとだなぁ。温泉に花見、最高の組み合わせってもんだ」
 そこから少し会話を交わし、謎の招待状へと話を振ってみる。
「ああ、今流行ってんだろう? 俺は旅行会社の戦略だと思うんだがねぇ」
「いやいや、影朧の仕業だって話もあるぜ」
 鏡介と男の会話に、聞いていた他の客も話にのりだす。
「でも、何にも害がねぇんだろう?」
「そうらしいな。それに帝都桜學府の學徒兵や猟兵が調査に乗り出しているそうだ」
「へぇ、そいつは頼もしいね!」
 己が猟兵であることは伏せ、鏡介がそう言うと男達に安堵の笑みが浮かぶ。やはり正体不明の招待状というからには、一定数不安に思う者もいるのだろう。
 俺達や學徒兵の力が人々の不安と憂いを取り払うなら――これからも精進しなければいけないな、そう思いながら鏡介は湯面に舞い落ちた桜の花弁に柔らかな笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蓮見・双良
【空環】◎

ええ、温泉街巡りも面白そうですし…
なにより部屋なら杜環子さんを独り占めできますしね
いつもの仮面の笑顔じゃなく、心から微笑み

手を繋ぎ、彼女の行きたい方へ
楽しそうな様子は可愛くて釣られて笑みつつ
後日作れそうなら自作をと、彼女の選んだものを記憶に留め

ふふ、じゃあこの和牛の丼を
でも遠慮せず好きなだけ食べてくださいね
どんな体型でも杜環子さんは可愛いですよ?
はい、アイスは湯上りの2巡目に
また違った景色が見られそうで楽しみ

無難な濃灰の水着で
益々艶やかな姿は余り見つめるのも気が引けて
珍しくほんの少し照れつつ視線逸らすも
彼女に倣って春の彩りを視線で追い
ええ、きっと
また秋にも来られる機会がある事を願って


壽春・杜環子
【空環】◎

温泉街の湯煙というのは不思議と素敵なものね
ねぇねぇ双良くん、此処では色々楽しいものを揃えてお部屋で楽しみま―…もう!
うう、お部屋からの桜を一緒に楽しむの!
照れながらも頬膨らまして

温泉饅頭とー…わぁ、牛乳瓶グルメですって
手の温もりを握り返しながら
わたくし、温泉卵ぷりんがいいです!お部屋の冷蔵庫で冷やして!
わ、わ、持ち帰れる丼物の魚介もお肉も凄い…双良くんどちらに?わたくしは選ばなかった方で半分こしましょ?
半分!着物の合わせ目ズレちゃうでしょ…!
…!あいす屋さんはお風呂上がりにもう一度…!

初温泉は2023水着
んー…!
花の降る中で湯というのも豪勢だこと
ねぇ双良くん、紅葉の時期も素敵かしら?



●贅沢なひと時
 空がすっかり暗くなっても温泉街の賑わいは変わらない。提灯の灯りに建物から零れる明かり、そして夜桜をライトアップする明かりにと、歩くのに困ることはない。
「見て、双良くん!」
 湯煙が立ち昇るのを指さし、壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)が蓮見・双良(夏暁・f35515)を見上げる。
「温泉街の湯煙というのは不思議と素敵なものね」
 ライトアップされた桜と共に眺めれば、幻想的な世界にも見えて杜環子がほぅ、と息をついた。
 招待状を手にした杜環子は温泉をどう楽しもうかと思案して、そうだわ! と思い付いた考えにポンと手を打つ。
「ねぇねぇ双良くん、此処では色々楽しいものを揃えてお部屋で楽しみましょう!」
 屋台や温泉街の店を巡って買い物をし、温泉のお部屋でゆっくりする――なんて良い案なのかと杜環子が笑みを浮かべるた
「ええ、良い案ですね。温泉街巡りも面白そうですし……」
「そうでしょう、そうでしょう」
「なにより部屋なら杜環子さんを独り占めできますしね」
「そうでしょ――……もう!」
 独り占めという言葉に杜環子が熱くなる頬を押さえて、双良から視線を外すように桜に向ける。そんな彼女が可愛らしくも愛おしく、双良は自然と頬が緩んで笑みが零れるのを感じていた。
 いつもの仮面の笑顔ではなく、己の心からの笑みを引き出すのは彼女だけなのだと、そっと手を繋ぐ。
「うう、お部屋からの桜を一緒に楽しむの!」
 照れながらも頬を膨らませ、繋がれた手の温もりをきゅっと握り返す。
「ええ、楽しみましょうね」
 きっと桜よりも杜環子に視線がいってしまうだろうけれど、そこは見逃してもらるかな? と囁けば、一層赤く染まった杜環子の頬に双良が小さく笑った。
 手を繋ぎ、温泉街の土産物がずらりと並ぶ通りを歩く。
「やっぱり定番は温泉饅頭かしら?」
「温泉饅頭は定番ですね、あとはご当地グルメとか……やはり桜に関係した物が多いのかな」
 桜ソーダに桜アイスの文字を見つけて双良が言うと、桜アイス……! と杜環子が目を輝かせる。
「でもわたくし、温泉卵ぷりんも捨てがたいです! お部屋の冷蔵庫で冷やして!」
「アイスは溶けてしまいますしね」
 でもアイスも……と悩みつつ、杜環子が温泉卵ぷりんの旗が揺れるお店へと向かう。双良はそんな彼女に手を引かれるままに、笑みを浮かべながら付いていった。
「温泉饅頭に温泉卵ぷりん、それに……わぁ、牛乳瓶グルメですって」
 牛乳瓶に詰まっているのはウニやいくらにメカブ、他にもタコやイカなどの海鮮類。そのままご飯にかけて新鮮な海鮮丼を味わうという趣旨のお土産の様だ。
「見目も楽しいわ」
「こっちはスイーツですよ」
 小さめの牛乳瓶に詰められているのはプリンだけではない、スポンジと果実と生クリームを層にしたケーキやチョコレートムースにオレンジゼリー、その上にはチョコホイップを詰めた彩りも素敵なムースケーキなどなど、杜環子の目を惹くものばかり。
「……迷ってしまうわ!」
 全部食べたいけれど胃袋は有限だ、やはりここは初志貫徹とばかりに杜環子が温泉卵ぷりんを手に取った。
 後ろ髪を引かれるような表情を浮かべている杜環子に笑って、双良は後日作れそうなら自作しようと心に決めた。瓶に詰めていくだけなら、大して難しくはないはずだ。
 次に向かったのは持ち帰りもできる丼物屋、ここでもボリュームたっぷりな海鮮丼に牛丼にステーキ丼と杜環子が迷って双良を見上げた。
「わ、わ、持ち帰れる丼物の魚介もお肉も凄い……双良くんどちらに?わたくしは選ばなかった方で半分こしましょ?」
「ふふ、じゃあ僕はこの和牛の丼を」
「では、わたくしは海鮮丼にするわ! 半分こ、楽しみね」
「ええ。でも杜環子さんは遠慮せず好きなだけ食べてくださいね?」
 あれもこれも好きなだけ、美味しく食べる君は可愛らしい。
「半分! 着物の合わせ目ズレちゃうでしょ……!」
「どんな体型でも杜環子さんは可愛いですよ?」
「……!」
 双良の声には嘘がなく、それが分かるからこそ杜環子が頬をふわりと染める。きっとふっくらした体型になったって、変わらず可愛いと思ってくれるのだろう、それはそれとして杜環子の美意識が許さないのだが――。
「……あいす屋さんはお風呂上りにもう一度……!」
「はい、アイスは湯上りの二巡目に」
 きっとまた違う景色が見られるだろうと、双良が楽しそうに微笑んだ。
 さて、色々買い込んでやってきたのは露天風呂付きの客室がある旅館。部屋は広々としていて和と洋が程よく融合している。
「わ、素敵な部屋」
 早速二人で持ち帰りした丼を半分こして、その味に舌鼓を打つ。舌の上で解けていくような牛丼も、海の実りがたっぷり詰まった海鮮丼も、どちらも美味しくて自然と笑みが浮かんでくるほど。
 美味しく食べた後は水着に着替え、部屋付の露天風呂へと二人で浸かる。
「んー……! 花の降る中で湯というのも豪勢だこと」
 じんわりと温まる身体を伸ばし、紫と黒のコントラストも美しい水着を着た杜環子が双良に向かって、ね? と微笑む。
「そう、だね」
 無難な濃灰の水着を着た双良が僅かに視線を外し、そう頷く。温泉の効果か、空に浮かぶ月明かりのせいか、ひらりと舞い散る花びらのせいか――益々艶やかに見える杜環子の姿を見つめるのも気が引けて、直視ができないのだ。
 けれど、美しくも可愛らしい彼女が桜が美しいといえば、それに倣って春の彩りを視線で追う。時折君を見てしまうのは、やっぱり仕方のないことだった。
「ねぇ双良くん、紅葉の時期も素敵かしら?」
「ええ、きっと」
「紅葉の頃にも、訪れる機会があるといいわね」
 その可愛らしいおねだりに、双良は秋にも来られる機会がある事を願って、そっと湯の中で彼女の手を握りしめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎

屋台だって、あーさん!(ぐっ)
これは、もう、買い食いするしかないよね!(ぐぐっ)
ねー!

とゆーわけで!屋台一つにつき一個ずつ!買ってきました!
持ち込みおっけーなジャパニーズ・ホテルがあってよかったねえ!
あっ、スーさんスーさん!ここすごい!部屋に露天風呂ついてるー!これなら、あーさんも入れるね!
桶にラーさんもイン!コロちゃんは……あ、待ってる?そうだね、ごめんね。

お風呂でタオルくらげつくったりして、あがったらユカタ!
よーしっ、乾杯しよっか、あーさん!
夜の花見酒もおいしー!親友といっしょだともっとおいしー!
わかるー、シューガクリョコーだね!
いえーい!コロちゃんも楽しんでるー?!


スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎

温泉街に屋台があるのならば…
やはり私たちとしては制覇したいですよね!(ぐぐっ

色々と買って持ち込みOKの宿で食べましょう
ね、素敵な部屋ですし…それに人目を気にせず温泉に入れますね!
あ、そうか…じゃあコローロ、少し待ってて
(彼女には食事と温泉の代わりにお花の飾りを購入
(見て楽しむ!

ラトナにミニタオルを乗っけて遊んだりして、入浴後は浴衣に着替え
トーさん、乾杯しましょうか
ふふ…親友と宿で食事をするって、なんだか旅行に来た気分ですね
街での桜も、ここで見る桜も綺麗ですねぇ
お酒も美味しくて――あっラトナがつまみ食い…かわいい
(「楽しんでる!」とひかりはぴかぴか!

勿論後片付けは確りと!



●屋台制覇にプチ旅行
 温泉街の通りの真ん中を川が流れ、その川沿いにずらりと並ぶのはライトアップされた桜。そして反対側には土産物屋と屋台が桜に負けじと並んでいて、茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)が歓声を上げた。
「わー! すごいね、あーさん!」
「はい、すごいですねトーさん! サクラミラージュに住む私たちにとって、桜は見慣れた存在ではありますがライトアップされていて湯煙まで! さすが帝都の温泉街です!」
「うん、それもすごい! きれー! だけど! 屋台だよ、スーさん!」
「はっ! 屋台でしたか、屋台も凄いですね!」
 端から端まで、幾つあるのだろうか。お土産物屋も含めたら、それはもう実質食べ放題のパラダイスなのではないだろうか。
「これは、もう、買い食いするしかないよね!」
 ぐぐっとトヲルの拳が握られると、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)も控え目に拳を握る。
「温泉街に屋台があるのならば……やはり私たちとしては制覇したいですよね!」
「ねー! どれから食べよっか!」
「そうですね……色々と買って持ち込みOKの宿で食べる、というのはどうでしょう?」
「あーさん……天才!!」
 なんて素晴らしい案なのかとトヲルが目を煌かせると、両腕で大きな丸を作って賛成の意を示した。
「よーし、そうと決まれば買うぞー! 持ちきれない分はクロークにいれちゃおうぜ!」
「なるほど、実質買い放題……ってことですね? やはりトーさんも天才!」
 モノクロフレンズならぬ天才フレンズ! なんてきゃっきゃとはしゃぎながら二人で屋台を制覇していく。
「焼きそばにー、たこ焼きお好み焼き、唐揚げにもっちもちのフライドポテト!」
「焼き鳥、フランクフルト、焼きとうもろこし、じゃがバター!」
 屋台によっては味も違うはず! と品が被っても気にしない二人が一つの屋台につき一つ、という縛りで食べ物を買って行く。
「はっ、スーさん! 温泉饅頭とかどうする?」
「屋台は勿論ですが、温泉街の店の中も気になりますよね……」
 二人の真剣な視線が絡み、互いに頷き合うと――迷うことなく店の中へと足を踏み入れた。
「あーさん! プリンあるよ! プリン!」
「これは……ご当地プリンというやつですね」
 やはりサクラミラージュということもあって、桜プリンが人気の様だ。
「スーさん!」
「どうしました?」
「焼きおにぎりも……ある……っ!」
「買いましょう」
 即決即断、目に付いたあらゆる美味しそうなものを買って、持ち込み可能な宿屋へと飛び込んだ。
「とゆーわけで! 屋台一つにつき一個ずつ! 買ってきました! あとご当地プリンとか色々!」
 一つ一つクロークから出してテーブルに並べていけば、乗り切らないほどの量。それでも二人の胃袋へ消えていくのだから、不思議なものである。胃袋ブラックホールかな?
「持ち込みおっけーなジャパニーズ・ホテルがあってよかったねえ、あーさん!」
「ね、素敵な部屋ですし、何より窓からの景色が素晴らしいですよ」
 桜は勿論の事、月の昇った夜空も美しい。どれどれ、と窓の外へ向かえばバルコニーになった場所に露天風呂が見えた。
「あっ、スーさんスーさん! ここすごい! 部屋に露天風呂ついてるー! これなら、あーさんも入れるね!」
「本当ですか? わあ、露天風呂付きのお部屋でしたか。本当に素敵な部屋ですね……それに人目を気にせず温泉に入れますね!」
「ねー! よーし、さっそく風呂に入っちゃおうぜ!」
 いそいそと準備を始め、二人が水着に着替えるとトヲルがラトナを桶に入れる。
「桶にラーさんもイン! コロちゃんは……」
 どうする? とトヲルが首を傾げれば、コローロがぶんぶんと飛んで光り、拒否を示す。
「あ、待ってる? そうだね、ごめんね」
「あ、そうか……じゃあコローロ、少し待ってて」
 光たる彼女には食事も温泉も必要ないけれど、でも見て楽しむことはできるはずだからと、こっそり購入していた花の飾りをコローロの傍に置きスキアファールが微笑んだ。
 バルコニーの露天風呂は二人と一匹で入っても余裕があり、トヲルがはしゃぎながらタオルに空気を入れてぷかりと浮かばせる。
「じゃーん、タオルくらげ!」
「では……控え目ですが水鉄砲!」
 両手を握り合わせ、スキアファールが親指の付け根からぴゅーっとお湯を控え目に出すと、ラトナがお湯の軌跡を追うように前足を出す。
「あ、駄目ですよ。落ちちゃいますよ、ラトナ」
 はい、とミニタオルをラトナの頭に乗せて、スキアファールが笑う。
「これってー、あれだよね! たぜいにぶぜい!」
「ええと、風情がある……でしょうか?」
「多分それ! たのしいなー!」
 にこにこと機嫌がいいトヲルを見ていると、スキアファールの気分も上がる。そしてそんなスキアファールを見ているとトヲルのテンションがまた上がってと、楽しいの無限機関である。
 逆上せる前に上がろうと露天風呂から出ると、部屋に備え付けてある浴衣を羽織る。身長の高いスキアファールには少しだけ丈が足らなかったけれど、それも宿屋の醍醐味だ。
「よーしっ、乾杯しよっか、スーさん!」
「はい、乾杯しましょうか」
 グラスを合わせて音を鳴らし、先ずは一杯。それから買った物に手を付けていく。
「夜の花見酒もおいしー! 屋台のご飯もおいしー! 親友といっしょだともっとおいしー!」
「ふふ……親友と宿で食事をするって、なんだか旅行に来た気分ですね」
 その言葉に、トヲルがハッとしたように顔を輝かせる。
「わかるー! シューガクリョコーってやつだね!」
「修学旅行……はい、きっとそうですよトーさん!」
 にこにこと二人機嫌よく酒を飲み、美味しい屋台飯を摘み、時折外を見ては桜を眺める。
「街での桜も、ここで見る桜も綺麗ですねぇ。お酒も美味しくて――あっラトナがつまみ食い……かわいい……」
 スマホ、スマホはどこだとスキアファールがラトナの可愛さにめろめろになりつつ、焼き鳥をちょい、とつまみ食いするラトナを連写した。
「うんうん、焼き鳥もおいしーよね、ラーさん! コロちゃんも楽しんでるー?!」
 トヲルの言葉に、ラトナは尻尾を揺らしコローロは楽しんでるとばかりに花の飾りの周辺をキラキラ光って応えた。
 たくさん飲んで、食べて、笑って、贅沢なひと時を過ごして――後片付けまで確りとした二人はまた来ようねと笑い合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】◎

ゆぇパパ!桜だわ!
やっぱり春の桜はステキ
今年もお花見がパパと出来てうれしい

温泉とお花見がいっしょに出来るなんてゼイタク
もしかしてパパと温泉に入るのは初めて、かしら?
ちゃぁんとルーシー、水着ももってきたわ
ほら、と水着が入ったカバンを見せるも
…何だかパパ、もの凄く真剣なお顔して考えてる
そんなにパパも温泉お花見したかったのかな?
…わくわくそわそわ
パパの手をくいくい引いて
さ、行きましょう!
?うん、はなれないわ?

わああ、広い
花びらがお湯に浮かんでとってもキレイ!
パパ!こっちだと桜が良く見えるわ
ほら、今も風が幾枚もの花びらを運んでくる
パパのとなりで温かなお湯に身を浸せば、ほうと一息
いつまででも入っていられそうよ
温泉だいすきよ
だからだいすきなパパと入れて幸せなの

はぁい
肩まで使って100数えたら!
コーヒー牛乳?お風呂上りに、甘いコーヒー牛乳…!
とっても気になる
上がったら絶対飲もうね!
いーち、にー

そう言えば
他にも家族用の貸し切り風呂があるんだって
コーヒー牛乳の後、行ってみない?
ふふー、でしょう?


朧・ユェー
【月光】◎

見事な桜ですねぇ
えぇ、今年もルーシーちゃんとお花見出来て嬉しいです

お花見しながら温泉というのも良いですね
ですが…にっこりと笑った後
んー、ルーシーちゃんの温泉
娘との温泉は初めてでとても嬉しいのですが
他の方も一緒とは…
誰かに可愛い娘の肌を晒すなど
水着を見せる彼女をチラリと見た後
でも水着着用ですし、プールや海と一緒と思えば?
しかし…温泉…
ブツブツと独り言を言いつつ悩んでると
彼女の小さな手が温泉へと引いていく
嬉しそうにしてる娘の姿を見てくすりと笑って
はい、行きましょうねぇ
でも僕から離れないでくださいね?
可愛い天使の娘は護らないといけない

綺麗な温泉ですね
ふふっ、ルーシーちゃん温泉がお好きみたいですね
僕も大好きな娘と入れて幸せです

ずっと入ってるとのぼせてしまうのでもう少ししたら出ましょうか
そうそう
温泉の後、飲む甘いコーヒー牛乳はとても美味しいそうですよ?
では100数えましょうか
いーち、にー、さーん

家族風呂?
えぇ、そうですね
後でそちら一緒に入りましょうか
家族のお風呂とっても嬉しい響きですね



●月夜のお花見温泉
 ひらり、ひらりと桜色が降ってくるのを見上げ、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)が朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)に向かって振り返る。
「ゆぇパパ! 桜だわ!」
「はい、見事な桜ですねぇ」
 楽しそうにくるりとスカートを翻したルーシーに笑みを返し、ユェーも桜を見上げた。
「やっぱり春の桜はステキ! ルーシー、今年もお花見がパパと出来てうれしいわ」
「えぇ、今年もルーシーちゃんとお花見出来て嬉しいです」
 繋いだ手をゆらゆらと揺らしながら、温泉に向かって歩く。立ち昇って見える湯煙も、桜と共にライトアップされてどこか幻想的だ。
「温泉とお花見がいっしょに出来るなんてゼイタクね、素敵な招待状だわ」
「お花見しながら温泉というのも良いですね、風情があります」
「あっ! もしかして、パパと温泉に入るのは初めて、かしら?」
 また新しい初めてだわ、とルーシーが嬉しそうに微笑む。
「そうですねぇ、初めて……ですね」
 娘との初めてをまたひとつ、とユェーも笑みを浮かべたけれど、すぐに難しい顔になる。
「んー、ルーシーちゃんとの温泉、娘と温泉に入るのは初めてでとても嬉しいのですが他の方も一緒、とは……」
 思わずブツブツと呟いてしまうけれど、ルーシーは温泉! パパと温泉! と鞄の中の水着を確かめていた。
「見て、ゆぇパパ! ちゃぁんとルーシー、水着ももってきたわ」
 ほら、と鞄の中に入った水着を見せて、偉いでしょうとルーシーが笑みを浮かべる。
「忘れずに持ってきて偉いですねぇ」
 鞄から覗いた薄黄色の水着に、言葉とは裏腹にユェーの表情が更に厳しいものへと変わった。
「誰かに可愛い娘の肌を晒すなど……いやでも水着着用ですし、プールや海と一緒と思えば? 温水プールもある事ですし……」
 しかし……温泉……と、また思考のループに陥ったユェーを見上げ、ルーシーがこてんと首を傾げる。
 どうしたのかしら、何だかパパったらもの凄く真剣なお顔をして考え事をしているわ。もしかしたら、パパも温泉お花見をしたかったから、楽しみ過ぎて考えこんじゃっているのかしら?
 ――なんて、全くもって正反対な答えを導き出したルーシーは、そうとなったら早く温泉に行かなくちゃ! と、わくわくそわそわした顔でユェーの手をくいくい、と引いた。
「パパ! さ、行きましょう!」
「ん、はい、行きましょうねぇ」
 手を引かれ、ハッとしたようにユェーがルーシーを見れば、嬉しそうに自分の手を引く娘の顔が目に入って、思わずくすりと笑ってしまう。
「でも僕から離れないでくださいね?」
「? うん、はなれないわ?」
 だって迷子になったら困るでしょう? とルーシーがユェーを見上げ。
 仕方ない、こうなったら可愛い天使のような娘を不躾な視線から僕が護らなくては……! と、ユェーが決意も新たにルーシーへと微笑んだ。
 二人がやってきたのはサクラミラージュでも有数の温泉旅館、日帰りで温泉だけを楽しむこともできる人気の場所。
「ではルーシーちゃん、中で落ち合いましょうね」
「わかったわ! 混浴の方へ行けばいいのよね?」
 脱衣所で別れ、着替えを済ませるとしっかりとロッカーに鍵をかけて混浴の露天風呂の方へ向かうと、既にユェーが水着に着替えてルーシーを待っていた。
「足を滑らせないように気を付けてくださいね」
「はぁい!」
 エスコートするようにユェーがルーシーの手を取り、露天風呂へと向かう。
「わああ、広くって花びらがお湯に浮かんでとってもキレイ!」
「綺麗な温泉ですね。ルーシーちゃん、まずはかけ湯ですよ」
 外は少し肌寒さを感じたけれど、かけ湯をしてお湯に浸かればじんわりと身体が温まって、思わず幸せな溜息が出てしまう。
「気持ちいいですねぇ、ルーシーちゃん」
「ええ、とっても! あ、パパ! こっちだと桜が良く見えるわ」
 こっち、と露天風呂の奥へとルーシーが向かうとユェーも見守るように後ろを付いていく。
「ほら、今も風が幾枚もの花びらを運んできたわ」
「ふふ、ルーシーちゃんの頭に花びらが」
「あら、ゆぇパパにも」
 くすくすと笑い合いながら、二人夜桜を見上げて温泉を楽しむ。
「なんだか、いつまででも入っていられそう」
「ふふっ、ルーシーちゃんは温泉がお好きみたいですね」
「ルーシー、温泉だいすきよ。だからだいすきなパパと入れて幸せなの」
 心底幸せそうに微笑んだルーシーに、ユェーの笑みが深まって。
「僕も大好きな娘と入れて幸せです」
 優しい響きを持つ声に包まれて、ルーシーが湯に浮かんだ花びらを楽しそうにつついた。
 暫くそうやって花見と温泉を楽しんでいたけれど、ルーシーの頬が程よく色付いたのを見てユェーが提案する。
「ルーシーちゃん、ずっと入ってるとのぼせてしまうのでもう少ししたら出ましょうか」
「はぁい、肩まで使って100数えたら!」
 いつものお約束を口にしたルーシーにユェーが頷くと、とってもいい子な可愛い娘に囁く。
「温泉の後、飲む甘いコーヒー牛乳はとても美味しいそうですよ?」
「コーヒー牛乳? お風呂上りに、甘いコーヒー牛乳……!」
 魅惑の響きにルーシーが目を輝かせ、とっても気になるわと両手を握りしめる。
「上がったら絶対飲もうね!」
「はい、約束です。では、百数えましょうか」
「はぁい! いーち、にー」
 百を数え始めたルーシーに続き、ユェーも同じように数えだす。
「きゅうじゅうきゅー、ひゃーく!」
「ひゃーく」
 百まで数えたわ、とルーシーが笑って立ち上がるとユェーも同じように立ち上がり、露天風呂から水着のままで移動できる休憩処へと向かった。
「わ、見て、ゆぇパパ! いっぱいあるわ」
 昔ながらの冷蔵ケースに自販機、水分補給をする為に飲み物の種類は豊富だ。その中でも、牛乳瓶に入ったコーヒー牛乳にフルーツ牛乳、いちご牛乳は色も鮮やかでルーシーの目を惹いた。
「どれにしようか迷ってしまうわ……!」
「ふふ、ルーシーちゃんのお好きなものをどうぞ」
 うんうんと悩んで、どれも捨て難いけれどとルーシーが選んだのはコーヒー牛乳。
「コーヒー牛乳でいいのですか?」
「ええ、初志貫徹よ」
「では、僕も」
 同じのにしましょうと笑って、ユェーがコーヒー牛乳を二本取り出しお金を支払うと一本をルーシーへと渡す。
「冷たい……! ふふ、このフィルムを取って……パパ、この蓋はどうやって取るの?」
「ああ、これはねぇ」
 こうやって、と蓋開け用のピックを借りて蓋を開けて見せた。
「ルーシーちゃんもやってみますか?」
「やりたい!」
 机に置いた瓶の蓋にピックの先を刺し、ポンっと外せば甘い香りが漂って、ルーシーが瓶を両手に持ってユェーを見上げる。
「パパ、いただきます」
「はい、いただきます」
 こくり、と一口飲めば甘くて優しい味が口いっぱいに広がって、笑顔も広がって。
「美味しいわ!」
「美味しいですねぇ、冷たくて甘くて……気に入りましたか?」
「とっても!」
 こくこく、と飲んでは瓶を眺め、あっという間に一本を飲み切る。
「もうちょっと飲みたいけれど、この量が丁度いいのかしら」
「そうかもしれませんね」
 すっかり空になった瓶を返し、次はどうしようかと辺りを見回してルーシーが見つけたのは一枚の張り紙。
「ゆぇパパ、見て! 家族用の貸し切り風呂があるんだって」
「家族風呂?」
 どれ、と覗き込めば家族で入れる貸切湯、時間制と書いてあるのが見えた。
「行ってみない?」
「えぇ、行ってみましょうか」
 手を繋ぎ、家族風呂のある方へと二人歩き出す。
「家族でのお風呂……とっても嬉しい響きですね」
「ふふー、でしょう?」
 混浴の露天風呂も素敵だったけれど、きっとユェーと二人で入る家族風呂も素敵に違いない。期待に胸を膨らませ、ルーシーが早くと急かすようにユェーの手を引っ張るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
ふむ。桜を見ながら湯に浸かる…か。中々いいな。
露に誘われて強い圧で半ば強引に来てみたが…良い。
宿に往く道でも桜が迎えてくれたが温泉もこうなのか?
期待は膨らむばかりだ。露は普段と変化はないが気にならない。

「私は温泉へ行くが…君はどうする?」
宿にチェックインし二人部屋に荷物を置いてさっそく温泉へ行く。
露に一応行く場所を告げておこう。後々うるさいだろうからな。
「共に行くなら、早…いや。準備するまで待つ」
この子がのんびりしているのはいつものこと…か。

「…ん? ああ、そうだな…」
更衣室から湯殿への扉を開けた景色は思わず足を止めるものだった。
しっかりと髪や身体を洗い湯へ。露と共にゆっくりと温泉に入る。
湯気の立ち込める中浸かりながら観る桜はとても幻想的で美しい。
隣の露は私の腕にからみつき頬すりを繰り返しているが気にならん。
暫くして露が私の頬や髪を弄り始めて…流石にうっとおしくなる。
「…君の行動は日常運転だが…桜を愛でないのか?」
なに?寂しかったから弄り続けていた?…隣にいるのにか?


神坂・露
レーちゃん(f14377)
温泉に行こうってお仕事あったからレーちゃんを誘うわ。
『桜』と『温泉』の組み合わせはレーちゃんには好物みたいで。
桜の前を通る度に一度足を止めて数分見上げて…を繰り返してて。
そんな桜を見つめるレーちゃんのお顔がとっても可愛いわ♪可愛い。

「え? …あ、あたしも行くわ、行くわ♪」
お部屋に着くなり身支度したレーちゃんの早業にびっくりしたわ。
よっぽど温泉に行きたいのね♪本当にかわいいわ。レーちゃんって。
?いつもはあたし置いていくのに…待っててくれる?なんでかしら?
あー。あたしが誘って準備したから…かしら?うふふ♪レーちゃん♪

「…どーしたのレーちゃん? あたし通れないわ?」
レーちゃんと水着に着替えて扉を開けたレーちゃんの動きが止まった?
不思議そうにしたけど景色を見たら納得したわ。なるほど…素敵ね♪
身体と髪の毛を洗って温泉へ浸かるわ。…わぁ~♪お湯に桜の花が♪
浸かってからもレーちゃんの腕にぎゅぅーってくっついてのんびり。
レーちゃんはレーちゃんで無言だから頬とか髪弄ってみるわ。



●桜湯に揺れて
 金色の箔押しがされた真白の封筒に、桜の封蝋。なんとも洒落た招待状だな、とシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は手にした封筒を角度を変えながら眺め、次に顔をあげると封筒を持ってきた神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)を見遣った。
「ふむ。桜を見ながら湯に浸かる……か」
「そうなのよ、そうなのよ♪ 温泉に行こうってお仕事があったの」
 だからシビラを誘ったのだと、露がシビラの腕にぴったりとくっつきながら言う。
「……悪くないな」
 いつものように圧の強い露に誘われ、半ば強引ともいえる勢いに押されてやってきたのだが――シビラが桜を見上げ、ふむ、と頷く。これは悪くないどころか、良い、だ。
 そんな風に桜に惹かれ、足を止めては数分見上げてまた歩き、足を止めては見上げてを繰り返すシビラに、露は頬がゆるみっぱなしになりながら付き合っていた。
 可愛いわ、可愛いわ♪ 桜を見つめるレーちゃんってなんて可愛らしいのかしら、風になびく銀の髪に白い肌が桜に映えて、見ていて飽きないわ♪ と、にっこにこで桜よりもシビラを見ている。
「宿に往く道でも桜が迎えてくれているが、温泉もこうなのか?」
「お花見をしながら温泉に浸かれるらしいから、きっとそうよ♪」
「ふむ、それは期待して良さそうだ」
 普段と同じようにくっついてくる露も気にならないほど、シビラの胸は期待に膨らんでいた。
 何度も立ち止まっては桜を眺めていたので、目的地の宿に付いたのは月が姿を覗かせた頃。桜が良く似合う雰囲気の良い老舗旅館に、シビラの期待値も爆上がりである。
 そして、そんな期待を裏切らないのがサクラミラージュでも人気の高い老舗旅館、宿にチェックインして通された部屋は四季折々の景色を楽しめる部屋。今であれば幻朧桜以外の桜も咲き乱れ、夏は向日葵、秋は秋桜や紅葉、冬は山茶花や蝋梅、椿などが楽しめると部屋の案内が気に書いてある。
「これは……どの季節に来ても楽しめるのだな」
「素敵ねぇ、夏と秋と冬にも来ましょうよ、レーちゃん!」
 露の提案にしては悪くないな、と思いながらシビラが荷物から必要なものだけ取り出して立ち上がった。
「露、私は温泉へ行くが……君はどうする?」
 一応行く場所を告げておくか、とシビラが露に向かって言う。何も言わずに出て行ったら後々うるさいだろうからな、という考えからだ。
「え? ……あ、あたしも行くわ、行くわ♪」
 さっきまで庭を見て楽しんでいたかと思えば、もう身支度を整えたシビラの早業に露が驚いたような声を出しつつ、自分も行くと主張する。
 よっぽど温泉に行きたいのね♪ 本当にかわいいわ、レーちゃんって……と、しみじみ思いながら露がシビラを見て微笑む。
「共に行くなら、早……いや。準備するまで待つ」
 だから準備しろ、というシビラに露が思わず首を傾げた。
 いつもは構わず置いていくのに、待っててくれる? レーちゃんが? なんでかしら??? 頭に沢山のクエスチョンマークを浮かべつつ、もたもたと準備をして思い付いたのはあたしが誘って準備をしてここまで来たから? だった。
 それならなんとなく、理由にもなると露がシビラに向かってにこにこと笑いだす。
「笑ってないで早く……はぁ」
 この子がのんびりしているのはいつものこと……今日は花見に温泉、それに部屋から見える庭も美しい。待つには充分な理由だと、シビラは黙って露の準備が終わるのを待った。
「お待たせ、レーちゃん♪」
「ん、行くぞ」
 やはり向かうなら露天風呂大浴場、満開の桜を見上げて浸かる温泉だ。大正浪漫溢れる旅館の中を歩き、大浴場へと向かえば広い脱衣所へと到着する。
「外観からは想像できなかったが、中は随分と近代的だな」
「そうね~、リフォームってやつかしら?」
 脱衣所は鍵の付いたロッカーや湯上りに休憩できるような場所もあり、空調もしっかりと効いている。それでもデザイン的には大正浪漫を感じさせる部分もあるのだから、流石というべきだろう。
 さっそく水着に着替え、いざ温泉と湯殿へ通じる扉を開けて一歩進むと、シビラが思わず足を止めた。
「……どーしたのレーちゃん? あたし通れないわ?」
 急に動かなくなったシビラに声を掛け、彼女の視線の先を露が追う。
「わぁ……! 綺麗ね……!」
 これはシビラが足を止めても仕方ないと露が笑う、それほどに湯煙の向こうに見える満開の桜は美しかったのだ。
「レーちゃん、他の人が来ちゃうわ」
「……ん? ああ、そうだな……」
 邪魔になってはいけないと、シビラが前へと進む。まずは広い室内大浴場の洗い場で二人並んで髪と身体を洗い清め、水着に泡が付いていないかチェックして――いざ露天風呂!
 室内大浴場から外へ出て、湯煙立ち昇る露天風呂へと足を浸け、ゆっくりと身体を沈めていく。
「ふぅ……」
「はぁ……」
 互いにじんわりとした湯の気持ちよさに息を吐き、桜を見上げた。
「綺麗ねぇ、ね、レーちゃん♪」
「……そうだな」
 温泉に浸かりながら見上げる桜のなんと美しいことか、ライトアップされた桜は湯煙の中で幻想的な光景を作り出していて、シビラがその優美さに思わず頬を緩めてしまう。
「ふふ♪」
 レーちゃんったら可愛いわ、可愛いわ! 温泉で寛いでるところも、桜に癒されているところも! と、露がシビラの腕に自分の腕を絡め、ぎゅぅーっとぴったりくっつく。それから、陶磁のような滑らかな肌にすり、と頬ずりをしてご機嫌な笑みを浮かべた。
 いつもであれば、そんな露を鬱陶しいと払いのけるシビラだが、今ばかりはそれも気にならないほどに桜に目を奪われている。
「レーちゃん、見てみて! お湯に桜の花が浮いてるわ♪」
「ああ、そうだな」
 湯に浮かび、揺れる桜の花びらにも風情がある。しかし見上げた先にある満開の桜が一番風情が……と再びシビラの視線が桜へと向いた。
「……むぅ~」
 桜に見入るシビラの横顔はとても綺麗だし、可愛いけれど。
「えいっ♪」
 全くこちらを顧みないのは、少し……いや、大分つまらない。だから露はシビラの頬をつついたり、簡単に結い上げた髪を弄ったりと、子猫が構って欲しさにちょっかいを出すかの如くシビラを構い始めた。
「……露」
 流石に鬱陶しくなったのか、シビラが口を開く。
「なぁに? なぁに? レーちゃん♪」
「いや……君の行動は日常運転だが……桜を愛でないのか?」
 折角の機会だぞ、とシビラが言うと露がぷっくりと頬を膨らませる。
「だってだって、桜に見惚れるレーちゃんも可愛いけど、寂しくなっちゃったんだもの!」
「寂しいと弄り続けるのか? ……隣にいるのにか?」
 全くわからん、と言った表情でシビラが露を見遣る。
「そうよ~、ふふ、やっとレーちゃんがこっちを見たわ♪」
 膨らませた頬をパッと笑顔に変えて、露がにこにことシビラになつく。
「……さっぱりわからんが、そういうものか」
 露がそうだと言うのなら、そうなのだろうと納得したシビラは仕方ないとばかりに桜を愛でる合間に時折露の方をちらりと見てやる事にしたし、露は露で、それに満足そうな顔をしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御簾森・藍夜
【朱雨】◎
心音と揃いの水着(柄お任せ

商店街の銭湯は行ったことあるが、温泉なんて余り行ったこと無いから楽しみだ
あぁそうだ、湯に浸かる前に手順があったな
自宅とは違う良さを感じながら済ませ湯船へ
っあぁぁ~…やばい、これは沁みる…!
腕で心音を抱きながら温泉に溶かされつつ満喫

んんん俺は此処に住みたいレベルだ…良いなこれ、
ってそうだ、心音は温泉初めてか
なら風呂上りもじっくり楽しまないとな

湯中りも良くないので温泉街へ
ん?…そうか、
揃って大切にしてもらえて嬉しい
贈ったのは俺だが、実際付けてもらうと感動が違うというか…
俺も薬指にはいつもある
右はいつも通り手袋、左は心音と繋ぐので素手
左で心音の手を取り指輪に唇を寄せ
なんだ、|俺《本物》だけじゃ足りないか?

小さな手を握って、湯冷めしないよう心音には俺の羽織り
デカいがまぁ、いいだろう
ん、そうだな。それに街の賑わいも良い
温泉卵に饅頭か、ご当地感がいい
あと食べ歩き用に揚げ芋アイスと温泉卵スイーツも心音はどれがいい?
分け合うから両方なん贅沢は二人だから
目一杯楽しもうな


楊・暁
【朱雨】◎

藍夜と揃いの水着(柄お任せ

温泉だ…!(尻尾振り
銭湯?今度そっちも行ってみてぇ!

えっと…体洗ってかけ湯してからだよな
手順守って湯船へ
ふあぁ~…気持ちいいもんだな~…
藍夜に甘えるように寄り添い
尚温かくて幸せ

舞う花びらも綺麗
自然眺めながらってのはいいもんだなー…
初めての温泉がこんなすげぇ処で最高だ
上がった後?(きょとん

浴衣姿で恋人繋ぎ
…やっぱりこれがねぇとな
温泉では外してた左手薬指のペアリングとスプーンリングを眺め
お前から貰ったもん、雑に扱うわけねぇだろ?
誕生日とつい最近に貰ったばっかりなのに
もう今じゃ、ちょっとでも外してると淋しくなっちまう
…お前が離れちまったみてぇで
銀環へのキスには頬染め
…おっ、俺は欲張りなんだよ!
お前も…お前のもんも、全部欲しい

藍夜の香り残る羽織嬉しく
まだぽかぽかしてるし夜風が気持ちいいな
そうだ!俺、温泉卵食ってみてぇ
あと温泉饅頭も!
初耳のスイーツには耳と尻尾をぴんと立て
…全部…じゃ、駄目か?
なんでも藍夜と分け合って、あーんし合えば
もっともっと美味くて幸せになる



●花明かりの下
 招待状を手にした楊・暁(うたかたの花・f36185)が見上げるのは、宿泊は勿論のこと日帰りでの入浴も歓迎しているサクラミラージュでも屈指の老舗旅館。
「温泉だ……!」
 ぶんぶん、とワクワクする気持ちを代弁するかのように揺れる尻尾を隣で眺め、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)が連れてきて良かったなと笑みを零す。
「商店街の銭湯は行ったことあるが、温泉なんて余り行ったこと無いから楽しみだ」
「銭湯?」
「あぁ、昔ながらの銭湯で少々古臭いがそこがまたいいというか」
「今度そっちも行ってみてぇ!」
「そうだな、機会があればな」
 連れて行ってやりたい気持ち半分、暁――心音の肌を他の奴に見せたくない気持ち半分、といった複雑な心境のまま藍夜が曖昧な言葉を返しつつ、旅館の中へと足を踏み入れる。煮え切らない返事に暁が首を傾げつつ、それよりも目の前の温泉だと尻尾を揺らして付いていく。
「露天風呂はこっちだって、藍夜」
「あぁ、俺達は貸切の方だ」
「貸切?」
 きょとん、と首を傾げた暁に笑みを返し、こっちだと藍夜が先導する。着いたのは家族風呂と書かれた露天風呂で、制限時間はあるものの貸切にできるというこの旅館のサービスのひとつ。
「他の人がいないのか」
「その方がゆっくりできるだろう?」
 本心は他の奴に見せたくない、だが二人でゆっくりしたいのも本当のこと。
「まぁいいけど」
 藍夜と揃いにした桜と四辺の花をあしらった水着に着替え、暁が貸切露天風呂へと繋がる扉を開けたまま小さな歓声を上げた。
「すごい、桜と温泉だ……!」
 湯煙が立ち昇るその向こうには淡く輝くようにライトアップされた桜が見えて、暁の尻尾が再びぶんぶんと揺れる。
「藍夜も、ほら!」
「ん、どれ……へぇ、これは思ったより良いな」
 貸切というから小さめの露天風呂かと思っていたけれど、小さなプールくらいの大きさのある露天風呂で大人が五人ほど並んで入れるような広さがあった。
 何より、露天風呂から見える景色が素晴らしい。水着に着替えた藍夜が早くと急かす暁に笑って、露天風呂へと足を踏み入れた。
「えっと……体洗ってかけ湯してからだよな?」
「あぁそうだ、湯に浸かる前に手順があったな」
 貸切といえど、マナーは大事だと頷き、身体を洗い丁寧に泡を流していく。
「大きな風呂は自宅とは違う良さがあるな」
「解放感ってやつか?」
「そうだな、解放感……だな」
 しっかりと泡を流したのを互いに確認し、湯へと身体を沈めればじんわりと広がる温かさに思わず声が出る。
「っあぁぁ~……やばい、これは沁みる……!」
「ふあぁ~……気持ちいいもんだな~……」
 足を伸ばして伸びをして、ちらりと藍夜を窺がえばこちらを見つめる優しい黒い瞳。拳一つ分開けた距離をそうっとなくせば、藍夜の腕が暁を引き寄せた。
「やっぱり貸切にしてよかったな」
「……そうかも」
 すり、と甘えるように寄り添って藍夜を見上げる暁の頬がほんのり赤いのは温泉のせいか、それとも。
 どちらにしろ、腕の中の彼が可愛いのには変わりなく、藍夜は俺の婚約者がこんなにも可愛いと幸せを噛みしめつつ、緩む頬を片手で抑えながら桜を見上げた。
「温泉に浸かって桜を見るって贅沢だな~」
 舞う花びらも美しく、湯面に浮いた花びらもまた風流と暁が笑う。
「自然を眺めながらってのはいいもんだなー……初めての温泉がこんなすげぇ処で最高だ」
「んんん俺は此処に住みたいレベルだ…良いなこれ、ってそうだ、心音は温泉初めてか」
 こくりと頷いた暁に、藍夜がふむ……と考えて暁の顔を覗き込む。
「なら、風呂上りもじっくり楽しまないとな」
「上がった後?」
 上がった後に何があるのかと、きょとんとした顔の暁に藍夜が後のお楽しみだと笑った。
 湯中りするのも良くないと上がった後、浴衣を着て温泉街へと向かう二人の指には揃いの指輪。
「……やっぱりこれがねぇとな」
 温泉では外していた薬指のペアリングとスプーンリングの嵌まった左手を持ち上げ、暁がしみじみと眺める。
「ん? ……そうか、揃って大切にしてもらえて嬉しい」
「お前から貰ったもん、雑に扱うわけねぇだろ?」
 十二月の誕生日と、つい最近に貰ったばかりの指輪だ。
「贈ったのは俺だが、実際付けてもらうと感動が違うというか……」
 俺のもの、としみじみ感じるというか。
「何て言うんだろ、もう今じゃ、ちょっとでも外してると淋しくなっちまう」
 そんなに? と言うように、藍夜が笑う。
「……お前が離れちまったみてぇで」
 不意打ちの言葉に藍夜が目を瞬き、愛おしげな瞳を向けると彼と繋ぐためにいつもの手袋を嵌めていない左手で、暁の左手を取る。
「なんだ、心音は|俺《本物》だけじゃ足りないか?」
 暁の瞳を見つめたまま、左手の指輪に唇を寄せて口付けた。
 それはまるで自分にされているような感覚で、暁の頬が赤く染まる。
「……おっ、俺は欲張りなんだよ! お前も……お前のもんも、全部欲しい」
 このまま食べてしまいたくなるような告白に、藍夜が思わず暁を抱き締めた。
「わ、な、なんだよ」
「いや、ちょっと」
 そんな破壊力の高い事を外で言わないで欲しい、いや外でよかったというべきだろうか。
「俺も、俺のものも全部心音のものだ」
「……ん」
 ぎゅう、と抱き締めてから離し、|湯冷めしないように《俺のものだ》と自分の羽織りを羽織らせて、藍夜が暁の右手を左手で恋人繋ぎにする。
「少しデカいがまぁ、いいだろう」
「……ありがと」
 藍夜の香りが残る羽織をすん、と嗅いで暁の尻尾が揺れる。再び歩き出せば、賑わう温泉街の通りへと出た。
「温泉効果なのかな、まだぽかぽかしてるし夜風が気持ちいいな」
「ん、そうだな。それに街の賑わいも良い」
 普段から活気があるのだろう、それに加えて幻朧桜だけではなく普通の桜も満開とあって、観光客が後を絶たない。
「何か食べるか?」
「んー……そうだ! 俺、温泉卵食ってみてぇ。あと、温泉饅頭も!」
「温泉卵に饅頭か、ご当地感がいいな」
 温泉といえば温泉卵、そして温泉饅頭。この二つは外せないなと藍夜が頷き、更に他の選択肢を暁に提示する。
「あと、食べ歩き用に揚げ芋アイスと温泉卵スイーツもあるな。心音はどれがいい?」
「揚げ芋アイスと温泉卵スイーツ!?」
 初めて聞くスイーツの名に、暁の耳と尻尾がぴんっと立つ。それから、そわそわするように尻尾が揺れて繋いだ藍夜の手をくいっと引っ張った。
「……全部……じゃ、駄目か?」
「駄目じゃないな」
 見上げてくる可愛い婚約者のお願いを断れる男がいるのだろうか、いやいない。例に漏れず、藍夜も即答していた。
「やった、じゃあ半分こな」
「まずはどれから食べるんだ?」
「揚げ芋アイス、すげぇ気になる」
 可愛い君の言う通り、とばかりにまずは揚げ芋アイスを買い求め、暁へと渡す。
「へぇ、大学芋みたいなのとソフトクリームに芋蜜がかかってるのか」
 目をキラキラと輝かせながら、暁がまずは一口とピックの刺さった揚げ芋を手にしてソフトクリームを付けて頬張る。
「……美味い。藍夜もほら、あーん」
「ん」
 藍夜も一口と差し出されたスイーツを食べれば、口の中に広がるパリッとした芋の感触と蜜芋とソフトクリームの絶妙な味わい。
「美味いな」
 いきなり当たりを引いた気分になりつつ、二人で半分こしながら次のスイーツを求めて食べ歩く。
「温泉卵プリンに、温泉卵ソフト……どれも美味いな、心音」
「すっげー贅沢してる気分だな」
「二人だからな」
 全部、なんて贅沢は二人で分け合うからこそと、藍夜が笑う。
「そっか、藍夜と分け合って食ってるからこんなに美味くて幸せなんだな」
 そう言うと、暁が次はあれにしよう、と藍夜の手を引っ張った。
 美味しいも幸せも、何もかも全部二人で分け合って――これからもずっと、と繋いだ手が互いの気持ちを伝えあっているかのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『夜に花咲くカゲロウサアカス』

POW   :    関係者を問い詰める。

SPD   :    サアカスに潜入し情報を聞き出す。

WIZ   :    痕跡から秘密を暴く。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●百鬼夜行サアカス
 温泉街をしっかりと堪能した猟兵達、そして巡回していた蘇原・幸路と裏手・伊寿美が次へ向かう場所は百鬼夜行サアカスだ。
 招待状に入っていた地図を見れば、温泉街からおおよそ三十分ほどの距離にある広場にテントを張っているらしい。演目は道化師が行う道化芸、動物を使った曲芸、綱渡りや空中ブランコなどの空中曲芸などがあり、至って普通のサーカスの演目と変わりないように思える。
 ただ普通と違うのは『百鬼夜行』と名が付いているだけあって、鬼や妖怪の姿をした者達が演じるのだとか。
「作り物だろう?」
「だと思いますよ」
 幸路の言葉に伊寿美が頷いて笑い、和風のお化け屋敷サアカスみたいなものですかねと首を傾げた。
「お化け屋敷とサアカス……と考えれば違和感もないか」
 実際のお化け屋敷のように客が歩き回るわけではないが、仮装してサアカスの演目を行うというのであればわかりやすいと幸路が頷く。
「だが、影朧が紛れていないとも限らん、注意を怠るなよ」
「はい!」
 なんて会話をしながら桜夜道を歩いて行けば、お目当てのサアカスまではすぐ。
 百鬼夜行らしく赤と黒で彩られた大きなサーカステントが張られているのが見え、鈴や琵琶、琴や笛の音色が楽し気に響いているのが聞こえてくるだろう。テントの入り口に立つのは可愛らしい猫娘の姿をした団員と顔を狐面で隠した団員で、ようこそ! と陽気な声で人々を案内している。
「……本物に見えるな」
「特殊メイクってやつですかね?」
 そう言いながら、幸路と伊寿美がサーカステントの中へと消えていく。
 さあさあ、楽しくてちょっぴり恐ろしい、百鬼夜行サアカスの開幕だ――!

-----

 百鬼夜行サアカスの始まりです。
 和風のサーカスやお化け屋敷みたいなサーカスをイメージして頂ければと思います、演目は普通のサーカスの演目からちょっと不思議なマジックのような演目まで、見たいものをプレイングにどうぞ!
 サアカスの団員は普通の人間もいますし、ユーベルコヲド使いもいるかもしれません。それと、本物の妖怪や鬼も、もしかしたら――。
 基本はサーカス鑑賞ですが、本物の妖怪や鬼がいると見抜いてもいいですし(見抜かれても襲い掛かってくるような事はありません、バレちゃった! みたいな感じで笑うだけです)サーカス団員のいる控室へこっそりと遊びに行ってもいいでしょう。
 控室はもしかしたらお化け屋敷みたいになっているかもしれませんし、追いかけ回されていつの間にか外へ、なんてこともあるかもしれません。
 以上を踏まえ、公序良俗に反さない程度に自由に楽しんでもらえればと思います。
 また、なるべく無いように努めたいと思いますがGWに入る事もあり再送の可能性がありますこと、ご了承いただけますと幸いです(その際はタグやMSページ記載のURLよりお知らせいたします)
朱酉・逢真
【腐れ縁】◎ ちびのナリに変わっています
交流)これ、あまり遠くへお行きでないよ。ああ、見事な散り際だね。その生き様も、死に様までも。桜はヒトに愛される。花に清香有り、月に陰有りだ。しかし賑やかなのは、いまこそまさにじゃないか?
行動)ヒトが多く居る場所には、|黯《かげ》に引っ込んで、虎坊やの影にひっついて行くさ。虎坊の影の中にいる鴆に一声挨拶して、虎坊の肩にトンボを一匹止まらせてもらおう。これが俺の目、だから見えるよ。
おお、どれもこれも大したモンだ。虎坊は楽しんでるかい? おう、ならいいさ。愛い、愛い。俺かい? ああ、もちろん楽しンだとも。(お前さんが楽しげにしている様を、とは言わない)


結・縁貴
【腐れ縁】◎
※かみさまの毒によって5歳位の姿(本人の希望)
器に引きずられて言動は幼めです

かみさまー!さくら!きれいですね!
夜桜舞い散るの下で童子姿で走る

つきと、さくらで、
しゅんしょういっこく あたいせんきん、ですね!

サアカスは、まえのせき、いきましょう!
とおしてくださーい!
(背丈上)物理的に見えません!アピールをして最前席に陣取る

蜻蛉をよく見えるように掌に掲げて
かみさま、みえますか?

あ。あー?あれ、ほんものだぁ
おれ、おにび、みたかったんです
さくらに、あいますね!
わぁ、すごいすごい!
妖怪に動じた様もなく手を叩いて喜ぶ

はい、たのしいです!
かみさま、かみさま、たのしめましたか?
…そっかぁ、よかった



●サアカスは童心に帰って
 温泉街でお土産を手にした結・縁貴(翠縁・f33070)と朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は百鬼夜行サアカスに向かって歩いていた。……逢真は大きな黒い子猫に乗っていたけれど。
「かみさま、俺は思うんですが」
「なんだね」
「俺は芸事を見てるとつい品評したくなるので、どうせなら童子になって鑑賞すれば純粋な気持ちで見られるんじゃないかと」
「ふむ、そンなら丁度いい毒がある」
 このかみさま、大抵の毒は持っているので、荒唐無稽とも思えるお願いだって叶えられるものなら叶えてくれるのだ。勿論、叶えられるものしか叶えられないのだけれど。
「幾つくらいの年齢がいいンだい」
「五歳くらいですかね、そのくらいが一番無邪気でしょう?」
「そンならこいつだな、ちょいと手をだしてくれ」
 逢真が煙管を振ると、差し出された縁貴の手のひらに青い毒薬の入った小瓶が一つ。早速、と飲んでみれば――。
「ソーダあじだ!」
 ソーダ味、と言う縁貴の声は幼子の舌ったらずのそれに、姿は百センチくらい可愛らしい童子へと変化していた。
「わ、ほんとうにこどものすがたです!」
「だろう? 幼く小さい小虎よ」
 そう答えた逢真の姿も小さな少年の姿になっていて、縁貴は目を瞬く。
「かみさまも、こどものすがたです?」
「ああ、合わせてなァ」
 口調までは変えやしないが姿くらい合わせてよかろ、と大きな子猫の上で逢真が唇の端を持ち上げた。
 その言葉にむずむずと――たぶんこれは、うれしいってことだ、と縁貴は思いながら桜舞う道をてってこ走る。
「かみさまー! さくら! きれいですね!」
「これ、あまり遠くへお行きでないよ。迷子になるよ」
 走るの楽しい! って顔をして桜吹雪にはしゃぐ縁貴を追い掛けながら、逢真も桜を、その先の夜を見上げた。
「ああ、見事な散り際だね。その生き様も、死に様までも。桜はヒトに愛される」
 蕾が出れば人は春を感じるし、花が開けばその美しさに春を喜び、散りゆく姿に春の風情を尊ぶ。
「つきと、さくらで、しゅんしょういっこく あたいせんきん、ですね!」
「花に清香有り、月に陰有りだ」
 春夜、七言絶句を二人で諳んじ、しかしと逢真が道の先に見えたサアカスの天幕を指さして。
「賑やかなのは、いまこそまさにじゃないか?」
「サアカスだぁ!」
 赤と白の天幕に、黄色にピンクのライトアップ……なんてめでたさはなく、赤と黒の天幕に青に紫の薄明かりという出で立ちのサアカスの天幕。けれど不思議と禍々しさよりも、わくわくとした気持ちの方が勝つようなサアカスだ。
「ヒトが多くなってきたなァ。虎坊よ、チョイと影をかしとくれ」
「はい! どうぞかみさま!」
 大きな子猫から降りると、逢真が猫を|黯《かげ》へと戻し、ついでのように自分も引っ込んだ。それから、縁貴の影にちょろりと潜めば、影の中に小さな波紋が広がった。
『よゥ、元気かいお前』
縁貴の影に潜む鴆に挨拶をして、ちょいと邪魔するよと笑う。
「かみさま、サアカスは、まえのせき、いきましょう!」
『いいとも、虎坊の好きな所に行きな』
「はい! すみませーん、とおしてくださーい!」
 両手を上げて、ぶんぶんとアピールをすれば縁貴が通れるくらいの道が開いたので、さっと通り抜けて最前席を陣取った。
「虎坊、トンボは平気かい」
「へいきです!」
「なら」
 ふ、と縁貴の影から蜻蛉が一匹飛び出して小さい彼の肩へと止まる。
「これは?」
『これが俺の目になるのさ』
「かみさまのめに……わ、くらくなりましたよ!」
『始まるようだね』
 太鼓の音が重なって、ふっと止んだ瞬間にライトに照らされ浮かび上がったのは影。それから、影の中から出てくるようにセリが上がって狐の面を被った少年が宙返りをしながら飛び出した。
「かみさま、かみさまみましたか!?」
 よく見えるようにと、蜻蛉を掌に掲げた縁貴がやや興奮気味に逢真へと話し掛ける。
『ああ、よく見えるとも』
 次々と舞台袖より飛び出してくる狐面に猫面、兎面のサアカス団員が曲芸を繰り広げるのを縁貴が手を叩いて喜んで、ナイフ投げには息を呑み、始まろうとする空中ブランコに目を輝かせた。
 パッと照明が落ち、ぽぽぽっと青白い鬼火が灯る。
「あ。あー?」
「気付いたかい?」
「はい、あれ、ほんものだぁ。おれ、おにび、みたかったんです」
 鬼火が照明の代わりをして舞う中、空中ブランコの乗り手が桜の花びらを舞い散らせた。
「さくらにおにび、あいますね!」
 花びらが舞い、鬼火が躍り、空中ブランコの乗り手がブランコからブランコへと飛び移る。すごい、すごいと声を上げてはパチパチと手を叩く縁貴に、鬼火が近付いて炎の中心の目がぱちりとウィンクをひとつ。
「わぁ、だいさーびすです!」
 空中ブランコに続くのは、吊り下げた布を使った空中演技。布一枚を体に巻き付けるようにして舞うのは|絡新婦《じょろうぐも》の姿をした女性で、まるで本物の絡新婦のように上下に移動していく。
『おお、どれもこれも大したモンだ。虎坊は楽しんでるかい?』
「はい、たのしいです!」
『おう、ならいいさ』
 愛い、愛い、と逢真が影から満足そうに笑う。
「かみさま、かみさまはたのしめましたか?」
『俺かい? ああ、もちろん楽しンだとも』
「……そっかぁ、よかった」
 ほっとしたように笑った縁貴に、お前さんが楽し気にしている様を充分に楽しんだとも――とは言葉にせず、ただ縁貴が笑うように、逢真も笑ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
SPD

サアカス……弟が生まれる前、私がまだ本当に小さかった頃両親に連れて行ってもらったきりね。
弟が生まれてからはお世話で母も忙しそうでしたし、私もまた周囲の視線に気が付くようになってましたから。
だから結構楽しみだったりします。

やっぱりブランコが一番楽しい。どきどきはらはらする。
猫さんのような方が軽やかに跳ぶのはとても「らしい」し、一方でわんちゃんのような方が跳ぶとなると大丈夫かしら?ってなっちゃう。
確かにジャンプ力はあるけど軽やかか?と問われれば……ちょっと疑問よね、わんちゃん。
どちらにせよ左右に行き交うブランコと人々はあの日の思い出と同じときめきをもたらしてくれるわ。



●揺れるブランコとあの日の想い出
 ひらひら落ちる桜の花びらと、黒と赤の天幕。どこか不吉な、けれど不思議と忌避感は感じないような不思議なサアカスを前にして、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は幼い頃の記憶を思い出していた。
「サアカス……弟が生まれる前、私がまだ本当に小さかった頃両親に連れて行ってもらったきりね」
 弟が生まれてからは、母は赤子の世話で忙しそうだったし、何よりも自分が――周囲の視線に気が付く様になっていたから。サクラミラージュで生まれ育ったけれど、何故か種族は違っていた。
 奇異の目で見られる……とまではいかずとも、星々が連なる銀河のような髪は少なからず人目を惹く。猟兵となってからはそれもなくなったけれど、そうなるまでは。
「だから、結構楽しみだったりします」
 あの日見たサアカスとは違うけれど、きっと演目は大差ないはずだと期待して、藍は天幕の中へと入った。
 始まったサアカスはどこか恐ろし気で、それでいて楽しく――サアカスの団員が集まったお客さんを楽しませようとする気持ちが伝わってくるような、そんな出し物の数々に引き込まれていく。
 ナイフ投げでは美しい女性の首に当たる! と思った瞬間、女性の首がにょろりと伸びてナイフを避け、ろくろ首だと客席から声が上がる。
「本物……でしょうか」
 本物にしか見えないのだけれど、しゅるんと元に戻ったろくろ首の女性がこちらに向かって投げキッスを一つ飛ばせば、客席からは歓声と拍手が沸いた。
 次々と心躍る演目が行われ、クライマックスという場面で現れたのは可愛らしい猫娘と犬娘に狐娘たち。華麗な宙返りを見せた後は空中ブランコへと登って行き、軽やかにブランコの上でポーズを決めたり飛び移ったりと観客を沸かせている。
「ふふ、やっぱりブランコが一番楽しい」
 どきどきはらはらもするけれど、その美しさにも胸がときめく。
「猫さんのような方が軽やかに跳ぶのはとても『らしい』ですし、わんちゃんのような方が飛ぶとなると心配になってしまいますし……」
 猫娘の華麗な演技を真似したい! と犬娘が張り切るけれど、危なっかしい演技をするものだから観客からは声援が送られている。狐娘にレクチャーを受け、犬娘が大技を決めると、藍も力いっぱい拍手を送った。
「狐娘さんも軽やかで、とっても華やか……あの日の想い出が蘇るようね」
 左右に行き交うブランコと人々は新たに出来た楽しい思い出と共に、サアカスの記憶は藍の胸をときめかせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎

ホテルであーさんとお話したよ!
スーさんはアリスラビリンスでオウガに歌を強要されてたんだって
でも、それって、オウガでも聞きたくなるくらいの歌だったってことだよね!
今日のサーカスは、誰もむりやりじゃないから!いっぱい楽しもうね、あーさん!

モンスターがたくさんだねえ!本物のヒャッキヤコー、は、見たことないんだけど
でも、楽しそーだね!植物をあんだ人形?みたいな人もいるー(※草履大将)

わー、すごいすごい!スーさんの隣ではしゃいでるおれだよ!
あっライオン……頭三つない?あっすごーい、火の輪くぐり!
ピエロがジャグリングしてるよ、あーさん!首も回ってるよ!
スーさん、楽しいね!


スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎

宿でトーさんと色々お話しました
私はかつて御伽の国でサアカスの参加側となり
大勢の誰かの前で歌を強要されていた朧げな記憶があって
見る側になるのは初めてで…少し不安だけど楽しみなのだと
はい、いっぱい楽しみましょうトーさん!

様々な恰好の方が居て賑やか、まるでカクリヨだ
木を隠すなら森の中…本物が居ても不思議じゃないですね
えっ草履の付喪神も?

華やかな芸に子供のように楽しむ私です
わ、華麗な空中ブランコの芸…!
玉乗りはバランス力抜群、尻尾邪魔じゃないんでしょうか
雑技の皿回しの器用さも素晴らしい――皿以外の物も回してません?
時折恐怖演出が混じっている…さすが百鬼夜行
でも楽しいですねトーさん



●楽しい思い出で塗り替えて
 月明かりの下、はらはらと舞う桜の花びらを眺めながら茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)とスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はサアカスに向かって歩いていた。
「ねー、あーさん」
「はい、なんでしょう」
 いつものトヲルの笑顔に、少しだけ、ほんの少しだけ自分を心配するような色を見つけてスキアファールが首を傾げながら返事をする。
「あのさー、ホテルで話してくれたじゃん?」
「話……はい、私がかつて御伽の国でサアカスの参加側だったという話ですか?」
「そう! それ!」
 温泉に浸かり、美味しい屋台飯を食べ、桜を見上げながら、スキアファールがぽつりぽつりと話してくれたこと。大勢の誰かの前で、オウガに強要されて歌を歌っていた……そんな朧げな記憶があるのだと、何気なくトヲルに教えてくれたのだ。
「スーさんは、サーカス行くのへーき? 嫌な気持ちになったりしない?」
「そうですねぇ……正直に言えば少しの不安はあります」
「! じゃ、じゃあじゃあ、無理しねぇでいいからね!」
「ふふ、はい。でも無理はしてないですよ、見る側になるのは初めてで……不安よりも楽しみという気持ちが勝っているんです」
「ほんとに?」
「はい、本当です」
 それならいいか、とトヲルが胸を撫でおろす。嫌な記憶が蘇るくらいなら、サーカスは飛ばしてしまってもいいと思っていたから。
「でも、あれだね、オウガでも聞きたくなるくらいの歌だったってことだよね! あーさんの歌!」
「……そうなります、かね?」
「そーだよ! あ、それに今日のサーカスは、誰もむりやりじゃないから! いっぱい楽しもうね、スーさん!」
「はい、いっぱい楽しみましょうトーさん!」
 赤と黒の天幕が見え、僅かにスキアファールの足が重くなる。けれど、そんな不安を吹き飛ばすようなに人々の楽しそうな声が二人の耳へと聞こえてきた。
「楽しそうですねぇ」
「まだ始まってなさそーだけど、何かしてんのかなー! 行ってみよー、あーさん!」
 トヲルがスキアファールの手を引けば、重くなった足は不思議と軽くなって――あっという間に二人並んでサアカスの席に腰を下ろしていた。
「トーさんはすごいですねぇ」
「え? なにがー?」
 しみじみとスキアファールが言えば、トヲルが首を傾げてスキアファールを見遣る。
「いえ、なんでも。あ、見てください様々な格好の方が居て賑やかですよ、まるでカクリヨみたいだ」
「ほんとだー! モンスターがたくさんだねえ!」
 サアカス開始前の注意事項を口上で述べるのは豆腐小僧と算盤坊主、周囲を跳ねまわるのは唐傘お化けに化け猫だ。
「木を隠すなら森の中……本物が居ても不思議じゃないですね」
 寧ろ、全員本物に見えるくらいだ。
「本物のヒャッキヤコー、は、見たことないんだけど」
 でも、楽しそーだね! とトヲルが目を煌かせる。
「植物をあんだ人形? みたいな人もいるー」
 藁でできた身体に草履の顔、なんだか後ろ足の長い木の馬に乗った草履大将がやぁやぁと賑やかに駆け巡る。
「えっ草履の付喪神も?」
「しじみのつくだに?」
「美味しいですよね、佃煮のおにぎり。じゃない、あれですよ付喪神です。道具は百年という年月を経ると精霊を宿して付喪神になるとか」
「百年ものなんだねー!」
「食べちゃダメですよ、トーさん」
 美味しくはなさそうな顔をちらりと二人へ向けた草履大将が、食べちゃダメと言うように大きく頷いた。
 さて、前座の説明と余興も終わり、始まったのは本格的なサアカス。ナイフ投げに玉乗りに、観客が大きく沸いている。
「わ、凄いバランスですね、尻尾邪魔じゃないんでしょうか?」
「狐の尻尾とー、狸の尻尾! かわいいねー!」
 競い合うように玉乗りが奥へと引っ込むと、今度は唐傘お化けの傘回しに皿回し。花魁風の美女がひょいっと煙管で回した皿を唐傘に投げると、唐傘が上手に受け止めて回していく。
「雑技の皿回しの器用さも素晴らしい――皿以外の物も回してません?」
 そう、何かこう、猫のような犬のような毛玉のような……。
「すねこすりでしょうか……?」
 もう少しよく見ようとするとまるで隠すように演技が終わり、次に現れたのは大きな火の輪。
「あっライオン……頭三つない?」
「ケルベロス、というやつでしょうか」
「あっすごーい、火の輪くぐり! あたまひっかかんないのかな、ひっかかんないね! 器用!」
 すごいすごい! とトヲルがはしゃぎ、スキアファールもあれもすごいですよと指をさす。
「ピエロがジャグリング……ピエロ? あれピエロかな、スーさん!」
「ピエ……ロ……ですかね?」
 和風のピエロと言われればそうかもしれない、歌舞伎めいた衣装にひょっとこのお面を付けた男がお手玉やしゃもじを器用に放り投げている。
「あーさん! 首も回ってるよ!」
「首、え? 首?」
 途中から生首めいた何かも回っていて、スキアファールが目を瞬く。
「なるほど、時折恐怖演出が混じって……さすが百鬼夜行」
「あれ、どんなにじーってみても首のだんめんがみえねーの! すごい!」
 しかも回されてる生首は笑顔だったりウィンクをしていたりと、なんとも楽しげなのだ。
「でも、楽しいですね、トーさん!」
「うん! スーさん、楽しいね!」
 奇妙奇天烈、斬新過激。サアカスの花形たる空中ブランコも大いに楽しんで、手が痛くなるほどの拍手を送って――摩訶不思議な百鬼夜行サアカスは、二人にとって楽しい思い出のひとつになったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花


「…サアカス」
うきうきしながら三段お重におやつ詰め込み風呂敷で包み
水筒にお茶入れ参加

膝の上にお行儀良く風呂敷抱え空中曲芸に集中
大きく口開け瞬きも最低限で凝視
空中ブランコや綱渡りが成功する度にオオーッと他の観客と一緒にどよめき拍手喝采

曲芸の合間に風呂敷の結び目解き大慌てでおやつモグモグ
地上曲芸に変わったら凝視しつつもモグモグゴクゴク加速
動物曲芸に変わる前に一気に食べきる

「か、可愛いっ」
動物曲芸に変わったら成功する度にスタンディングオペレーション状態
目はキラキラ
拍手しながら立って座ってを繰り返す

「楽しいです…凄い」
思考力と語彙死滅状態で心の底からサーカス堪能
全員退席を促される迄余韻を噛み締める



●サアカスと三段お重
 風呂敷に包んだ三段お重を手に、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が百鬼夜行サアカスの天幕を見上げる。
「……サアカス」
 温泉街で買い求めたおやつを三段お重に詰め込む時から、桜花の心は期待に満ちてうきうきとしていたけれど、いざ目の前にするとその気持ちははち切れそうなほど。お茶を入れた水筒を肩に掛け、三段お重を両手で抱えていざサアカス!
「いい場所に座れました」
 円形の舞台はどこに座っても演技を見るには持ってこいだけれど、やはり中央中段が見易いと桜花が微笑む。風呂敷包みは膝の上に置き、サアカスが始まるのを今か今かと待った。
 暗くなった舞台にスポットライトが当たり、影が浮かび上がる。そこから飛び出してくるのは狐面や猫面、兎面の少年少女達。体操選手のようにあっちこっち跳ね回り、宙返りや玉乗り等の曲芸を披露していく。
「わあ……っ、凄い凄い」
 軽やかに踊り飛び跳ねる彼らが引くと、今度はスポットライトが宙を照らし出す。ピンと張られた綱の上を器用に渡っていくのは猫娘、本物の猫のように躊躇いなく渡っていく姿に桜花が力いっぱい拍手して、息をするのも忘れたかのように宙を見上げる。
 綱渡りが終われば空中ブランコが始まり、華やかな和風の衣装を着た猫娘や狐娘が軽やかに飛んで揺られて、演技が成功するたびに桜花も他の観客と同じようにどよめき、鳴り止まぬ拍手を送り続けた。
「沢山拍手をしたら、お腹が空いちゃいました」
 演目と演目の間にいそいそと風呂敷包みを解いて、行儀よくおやつに齧りつく。甘くて美味しいドーナッツを食べ、ナイフ投げに口元を覆い、温泉饅頭を食べてはお茶を飲み――その視線は舞台から離れることはないけれど、手はおやつをひょいぱくと口許へ運び続けた。
 三段お重にぎっしり詰めたおやつが無くなる頃に動物達の曲芸が始まって、桜花が手際よくお重を片付けて風呂敷に包み直し足元へと置く。
「か、可愛いっ」
 ライオンの火の輪潜りに猫たちのダンス――猫たちのダンスはまるで猫又のようにも見えたけれど、桜花はその可愛さに夢中で気が付かない。立ち上がって惜しみない拍手を送りたいけれど、他の観客の迷惑になるからとぐっと堪え、最後の象の曲芸が終わった瞬間に真っ先に立ち上がり、万雷の拍手を鳴り響かせた。
「楽しいです……凄い……楽しい……」
 思考力と語彙力を失くした状態になるほどに百鬼夜行サアカスを楽しんだ桜花は、暫しその余韻を楽しんでから係員に促されるままにサアカスを後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
そういえば(事件に関係のない)普通のサアカスを見た覚えがないな……いや、今回のコレも普通とは言い難いような気はするが
とにかく、ただの観客としてのんびり観るのは初めてだから。楽しませてもらうとしようかな

という訳で、最初から最後まで一通りを見ていく
マジックショーを集中して観察していたらタネをうっかり見抜いたり
もしくは「友人の魔術師ならこういう事もできるだろうな」なんて余計なことを考えてしまったり
……これはもう、一種の職業病って奴だな。いや、もしかしたらあのショーもそういう力を使っている可能性はあるか

ともあれ、総合的にみて中々充実していたと言っていいな
いずれまた見に来てもいいだろうな



●少し不思議なサアカスを
 温泉街からサアカスへ歩く道すがら、桜を眺めつつ夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)がふと気付く。
「そういえば、普通のサアカスを見た覚えがないな……」
 事件に関係のない、とするならばこれが初めてになるのではないだろうか。
「いや、今回のコレも普通とは言い難い気はするが」
 百鬼夜行サアカス、鬼が出るか蛇が出るか……と見上げたサアカスの天幕は黒と赤で、どこか不吉なようにも思える。けれど、聞こえてくる声はどれも楽し気で、嫌な気配も感じない。
「うん、ただの観客としてのんびり観るのは初めてだからな」
 楽しませてもらうとしようか――そう思いながら、どこかわくわく、そわそわとする気持ちを胸に鏡介はサアカスに足を踏み入れた。
 丁度空いていた席へと座り、サアカスの始まりを待つ。百鬼夜行と言うだけあって音楽は太鼓に笛の音、琴などの和楽器でどこか心地よく、何を見せてくれるのかと観客達の期待が最高潮に達した所でサアカスが幕を開けた。
 狐や猫のお面を被った少年少女の曲芸に、軽やかなナイフ投げ。華やかな空中ブランコに動物達の見事な曲芸と、演目は普通のサアカスと変わらないが、その技術の高さに加え妖怪にちなんだ格好をした者や妖怪にしか見えない者達が演じるとあって、人々の歓声と拍手が鳴りやまないほど。
「どれも素晴らしい出来栄えだな……っと、次はマジックショーか」
 現れたのは天狗の恰好をしたマジシャンと、兎娘の恰好をした助手。まずは小手調べとばかりに、助手が小判の消失マジックを披露する……のだが、猟兵である鏡介の観察眼はタネをうっかり見抜いてしまって、口元を押さえつつ笑みを浮かべた。
 消失マジックが終わると兎娘がぴょんっと箱の中へと入る。蓋を確りと閉じ、天狗が羽団扇をえいっと振れば、蓋が開いて中には誰もいないのが見えた。
「神通力というわけか」
 もう一度蓋を閉じ、同じように天狗がえいっと羽団扇を振れば、開いた箱から兎娘が顔を出して手を振った。
「友人の魔術師ならこういう事もできるだろうな……」
 なんて、思わず余計なことを考えてしまって、これはもう一種の職業病みたいなものだなと鏡介が目を細める。
「いや、もしかしたらあのショーもそういう力を使っている可能性はあるか」
 その後も、不思議な力を使っているとしか思えないようなショーや演技を楽しんで、鏡介は思っていたよりも充実したサアカスの内容に満足気に天幕を後にする。
「サアカスか……いずれまた、見に来てもいいだろうな」
 今度はそう、一人ではなく誰かと一緒に来てもいいかもしれないと、鏡介はサアカスの天幕に振り向いて――穏やかな笑みを浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネフラ・ノーヴァ
【荒野の標石】
あやしげなサーカス、気を付けてはいるのだろうがそれとなく人ならざるものがいるとわかる。
まあ害が無いのであればその技を楽しむとしよう。
ふむ、あの獣耳の美少年などしなやかな良い動きをしているじゃないか。
見目麗しいものを眺めるのは心の栄養となる。
動物の着ぐるみらしきサーカス団員を見ながら、牙印もああいう役でサーカスに出れるのではないかとからかってみる。私もというなら以前着たようなバニースーツで付き合おうか?フフ。


黒田・牙印
【荒野の標石】

・花見の催し物はサーカスか。「普通の」とは少し違うみてぇだが、とりあえずゴタゴタする気配はなさそうだ。
探りを入れたりするのは他のメンツに任せて、おれは純粋にサアカスを楽しむとしようか。
ま、これでも場数はくぐってるから「何となく」でも「普通」じゃないのは区別がつくかもしれんけどな。

・お、ネフラも楽しんで……って、視線はあの美少年団員か。全く、しょうがねぇな(楽しそうに笑う)
それにしても、あの動きでユーベルコードを使ってないとか、にわかには信じられないよな。
空中ブランコにイスやはしごを使ったアクロバティック。
何でも無い動きも洗練されている。
いや、いいもん見たわ。

※アドリブ・絡み歓迎。



●桜吹雪とサアカス
 桜に夜景、屋台巡りを堪能した後は、案内状に従ってゆるりと桜並木を楽しむようにネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)と黒田・牙印(黒ワニ・f31321)が並んで歩く。
「花見の催し物はサーカスか」
「どうやらあやしげなサーカスのようじゃないか」
 百鬼夜行の名の付いたサーカスの主役はどうやら妖怪達――勿論、普通の人間が妖怪の恰好をしているのだろうけれど。
「中には本物も混じっているとかいないとか、『普通の』とは少し違うみてぇだが……っと、あのテントみたいだな」
 黒と赤の天幕にどこか妖しげな照明が当たって、如何にもな雰囲気漂うサアカス。けれど嫌な気配や不穏な様子は感じられず、楽し気な声が響いている。
「百聞は一見に如かず、何かあれば対応すればいいだろう。取り敢えずは私達も楽しむとしようか」
 ネフラの言葉に牙印が頷き、天幕の中へと進む。中は円形の舞台になっていて、好きな席に座っていいらしい。
「牙印、あそこにしよう」
 こっちだと絡めた腕を引き、ネフラが決めたのは舞台中央より斜め横に当たる場所。並んで座ると、改めて客席で飲み物やお菓子を売り歩くサアカス団員を眺めてネフラがふっと笑みを浮かべた。
「牙印、あっちの子」
「ん?」
 彼女の視線の先を見遣れば、ポップコーンを売り歩く狐面の少女の尻尾がぴょこぴょこと揺れているのが見えた。
「あの子、人ならざるものだな」
「そうみたいだな、だがまぁ……ゴタゴタする気配はなさそうだ」
「ああ、害を及ぼそうとしている様子はないな。あのポップコーンも普通のお菓子だろう」
 どれ、とネフラが手を上げて、ポップコーンを売る狐面の少女を呼び止める。
「ひとつくれないか」
『ありがとう、お姉さん!』
「フフ、どういたしまして」
 一番大きな物を買い、ネフラが摘まんだポップコーンを牙印の口へと放り込む。
「普通のポップコーンだろう?」
「まぁ……味も食感も普通だが……毒見させたか?」
「フ、まさか」
 そんな、と笑ってネフラもポップコーンを摘まむ。
「別に構わんが……っと、始まるようだぞ」
 ポップコーンは美味いし、どうやらサーカスは害を成すものでもなさそうとくれば、純粋に楽しもうと意識を切り替えた牙印が視線を舞台に向けた。
 和楽器が奏でる音楽に合わせ、狐面や猫面、兎面などの少年少女が軽やかに飛び回り、ナイフ投げや玉乗りなどの曲芸を披露していく。
「ふむ、あの獣耳の美少年などしなやかな良い動きをしているじゃないか」
 ネフラが熱心に視線を送るのは狐耳を揺らす見目も声も麗しい美少年、女物の着物を女形のように纏い、軽やかに動き回っている。
「お、ネフラも楽しんで……って、視線はあの美少年団員か。全く、しょうがねぇな」
 しょうがねぇ、というけれど、牙印は楽しそうに笑ってネフラの視線の先を追う。
「いい動きをするな、あの少年」
「だろう? 見目麗しいものを眺めるのは心の栄養となるが、それが動きも可憐となれば追い掛けてしまうのは仕方ないというものだ」
「わかったわかった……それにしてもいい動きをするな」
 あれでユーベルコードを使っていないとは、と牙印が感心したように頷く。
「剣舞も見事なものだ、猟兵に目覚めればさぞかしいい働きをするだろうな」
 ついそんな話をしつつ、存分に演目を楽しんでいると少年少女達が舞台から捌けていく。
「次は……空中ブランコか」
 サーカスの花形ともいえる空中ブランコにでは、可愛らしい狐娘と猫娘が美しくもアクロバティックな動きを見せた。続いて椅子やはしごを使った曲芸には茶釜を背負った狸が楽しそうに演じて見せて、観客の笑顔を引き出す。
「フフ、可愛らしいのにバランス感覚は一流だな」
「何でもない動きも洗練されてるな。いや、いいもん見たわ」
 きっと毎日技芸の腕を磨いているのだろう、失敗したと思わせる動きですら計算ずくだと二人で囁き合って笑った。
 アクロバティックな演目が終わると、次は動物達の曲芸。動物達に混じって、デフォルメされた熊の着ぐるみを着た団員が現れる。そのコミカルな動きに観客達が笑い、楽し気な歓声が響いた。
「牙印もああいう役でサーカスに出れるのではないか?」
「自前で?」
「フ、そう、自前で」
「そいつは吝かじゃないが、俺だけじゃな」
 そう言って、牙印がちらりと視線をネフラに寄せる。
「おや、私も?」
「勿論」
「では、以前着たようなバニースーツで付き合おうか?」
 露出が少なめの、それでも体のラインがくっきりと出た黒いバニースーツで、と囁けば、牙印がそれならやってもいいぜと囁き返す。
「お、そろそろフィナーレみたいだぜ」
 舞台にはサーカスの団員が勢揃いし、客席に向かってお辞儀をしたり大きく手を振っている。座長が大きく手を鳴らせば、天幕の中に舞い散るのは桜の花びら。
 ひらひらと舞い、サーカスの終わりを彩るかのようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

楊・暁
【朱雨】◎

藍夜藍夜!すげぇ、サーカスだ!俺、初めて見る!!
手繋ぎ
ふふ、楽しみだな!

きょろきょろ興味津々
目新しい事物に耳と尻尾揺らし
実年齢大人だし大仰には騒がねぇけど、瞳きらきら内心大興奮

並んで座り
あっ、暗くなった…!始まりそうだな…!

あれジャグリングだろ!?すげぇ…
あんな細い綱、渡んのか…!?
ナイフ投げは思わずびくっと藍夜の腕に抱きつき
らんやらんや空中ブランコだ!(腕くいくい
めちゃくちゃ尻尾ぱたぱた

藍夜のぬくもり
一緒に見てるって感じがしてすげぇ嬉しい

わっ…!あれ本物のライオンか!?(ガン見
すげぇ火の輪潜った!
頭良いんだなー…
ああ
きっと頑張り屋だ

藍夜とずっとこうしていられるように
俺も頑張らねぇと


御簾森・藍夜
【朱雨】◎

そうだな。ほら、ならちゃんと手、繋がないと
心音が迷子になったら俺もっと迷子になるぞ

興味津々な心音が可愛いけれど笑うと怒られそうなのでとりあえず気は引き締める
あああああだめだ耳と尻尾は反則だろかわいいなどうしよう

だめだ、サーカス見ようサーカス
心音見てどうすんだ俺は
座ってしまえば手を離してもいいのに、握ったままの心音に甘えてそのまま
そうだな、そろそろ―…

上がる歓声
隣を盗み見れば楽しそうな心音
そうだな、訓練の賜物-…と、いうのは情緒が無いか
サーカスって実際見ると感動があるな…
心音のリアクション全てが可愛い
少し屈むか心音に寄り掛かり近い視点で見る
うん、お利口な子だ

良い子だな、あのライオン



●君とサアカス
 たっぷりと温泉スイーツを楽しんだ後は百鬼夜行サアカスへ向かう為、招待状の地図を片手にライトアップされた桜並木を歩く。
「サーカス、この先か?」
「地図によるともうすぐ……ああ、あれだな」
 楊・暁(うたかたの花・f36185)の可愛らしい問い掛けに、ほら、と御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)が指さした先に、黒と赤の大きな天幕が妖しげな雰囲気を纏いながら立っていた。
「すげぇ、サーカスだ……!」
「そうだな、百鬼夜行サアカスって言うだけあって雰囲気があるな」
 ぴょこぴょこっと視線の端で暁の狐耳が動いて、藍夜は思わず凝視してしまう。
「藍夜藍夜! 俺、サーカス初めて見る!!」
「なら、もっとちゃんと手、繋がないと」
 ゆるりと離れそうになった指先に己の指を絡め、しっかりと恋人繋ぎにして藍夜が暁を繋ぎ止める。
「そっか、そうだな」
「心音が迷子になったら、俺も迷子になるぞ」
「……大人なのにか?」
「心配だろう? だからしっかり繋いでいてくれ」
 まぁ、それなら……とごにょりと言いつつ、暁が藍夜の手をしっかりと握り返した。
「藍夜が迷子になったら大変だからな」
 何より、俺の実年齢は藍夜より上だからと胸を張る暁に、藍夜が|蕩けるような《俺の恋人は可愛いなと》笑みを浮かべた。
 サアカスの天幕の中に入れば円形の舞台に段々になった観客席、そして観客席に飲み物と軽食を売り歩く猫娘に狐娘達が見えた。彼女達はちょっとした手品にも見える芸を披露しつつ、巧みな呼び掛けであちらこちらから声を掛けられている。
「すごいな、楽しみだな!」
 すごいすごい、と暁があちこちを眺め、初めて見るものへ耳と尻尾をぱたぱたと揺らしては藍夜に笑みを向ける。
「かわいい」
「え? 何か言ったか?」
「いやなんでも、ああ、あそこに座ろうか」
 興味津々な心音が可愛い、でも言葉にすれば怒られそうだなと思ったそばから声に出てしまったのを何食わぬ顔で隠し通し、良さそうな席へと並んで座った。
 危なかった、危なかったというかアウトなのだが、藍夜の心の中は嵐が吹き荒れる如くである。
 ――ああああああ心音がかわいいああああだめだ耳と尻尾は反則だろかわいいないや耳と尻尾がなくたって俺の心音はかわいいんだがどうしようかわいい今すぐ家へ連れ帰りたい――なんて事を延々思っているのだけれど、瞳をきらきらさせてサーカスの演目を楽しみにしている彼に今すぐ家へ帰ろう! なんて言えるわけもない。
「あっ、暗くなった……! 始まりそうだな、藍夜」
「かわいい」
「え?」
「いや、ほらあの舞台の作りが可愛らしいな、と」
 無理がある、とは思ったがその次の瞬間には和楽器の音が鳴り響き、暁の視線も心もそちらに釘付けになったので事なきを得た。
 だめだ、サーカスを見よう、サーカスだ……! と思うものの、暗くなった舞台に照明が当たり、セリから狐面や猫面を被った少年少女達が跳び上がりながら登場した途端に握ったままの手がきゅっと強く握られて、藍夜は心臓をぎゅっと握られたような気持ちになって、んんんんかわいいと小さく呻いた。
 そんな恋人が可愛すぎる問題という葛藤と共にサーカスを見ている藍夜とは正反対に、暁は純粋にサーカスを楽しんでいるようで、どの演目にも楽し気な声で藍夜へと話し掛けている。
「あれジャグリングだろ!?」
「和風のジャグリング、というのかな」
「皿回しから傘の上、そこからまた皿回しへ飛ばして……すげぇ……!」
 実年齢は大人だから大仰には騒がない……という気持ちはどこへやら、暁の狐耳と狐尻尾は彼の心に正直だ。ぴこぴこ、ぴょこぴょこ、楽しそうに揺れている。
「ナイフ……本物だよな」
 ナイフ投げにはその緊張感から、思わずびくっとして藍夜の腕に抱き着いて。
「あ、綱渡り……あんな細い綱、渡んのか……!?」
 ひょいひょい、と器用に綱の上を歩いていく猫娘に目を瞬かせ、空中ブランコが始まれば藍夜の腕をくいくいと引っ張って。
「らんやらんや空中ブランコだ!」
「かわ、うん、空中ブランコだな」
 めちゃくちゃ尻尾ぱたぱたしてる、空中ブランコなど目ではない程にかわいいと、藍夜が柔らかく目を細めて心音にそっと寄り添った。
 藍夜から感じるぬくもりに、一緒にサーカスを見ているという感じがして暁がはにかむように微笑む。自分からもそっと寄り添えば、アクロバティックな演技が終わり今度は動物達の曲芸が始まった。
「わっ……! あれ本物のライオンか!?」
「本物、だな」
 調教師であろう狐面を被った男の指示に従い、助走を付けて走ると躊躇う事なく炎の輪を潜る。
「すげぇ、火の輪潜った! 頭良いんだなー……」
 そうだな、訓練の賜物-……と、言い掛けて情緒がないかと口を閉じ、少し屈んで彼と同じ視点で見ながら改めて感想を口にする。
「うん、お利口な子だ。良い子だな、あのライオン」
「ああ、きっと頑張り屋だ」
 調教師に褒められ再び火の輪を潜るライオンを眺めて、藍夜とずっとこうしていられるように俺も頑張らねぇと、と暁がぎゅっと繋いだ手に力を込める。そして、同じだけの力で握り返してくる藍夜に対して溢れて零れるような気持ちのままに笑みを咲かせた。
 その笑みに、藍夜の心中がどうなったかといえば――察するに余りある、とだけ記しておくとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
温泉でさっぱりし宿の食事も済ませた後に散歩に誘われる。
宿から少し歩くのか。腹ごなしには丁度いいかもしれない。

そういえばこういうエンターティナ―を観賞するのは初めてだ。
どれも興味深いが…さて。どれにしようか。露にでも聞くか?
通常のサアカスというのも惹かれるがマジックというのにしよう。
どうやら露も同じ考えだったようだから丁度いい。

全てのものが思わず唸るような催しで堪能する。大したものだ。
色々なテクニックを駆使しているようだが看破はできなかった。
技術に魔力の類は感じられなかったから努力によるものだろう。
この技術は今後の戦闘にも活用できるかもしれない…か?
ふむ。宿に帰ったら少しスマホで調べてみよう。

露に袖を引かれ返答。
「…ん。異なる気配だから恐らく、な」
私は気配の違いが解る時がある程度なのだが露は違うらしい。
精霊達との親和性が高い所為かこの子の勘の良さには驚く。
まあこういう鋭い部分が発揮されるのは本当に時々なのだが。
…。
一通り巡回したが影朧やそれに属する事件や事故はなさそうだ。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
「あのねあのね。サア…カス?に行かない?」
レーちゃんを誘ったら素直に行くって言ってくれたわ。
今回はとっても素直さんだからびっくりよ。あたし。

「わぁ…。すっごく派手な場所ねー…」
辿り着いた場所はとっても賑やかそうなところで楽しみ♪
演目も沢山あるみたいで…どれにしようか迷うわ。うーん。
…マジック?あたし達が使う魔法みたいなものなのかしら?
レーちゃんも興味あるみたいだしこれに決めたわ。わーい♪
実演はとってもとっても不思議なもので面白かったわ。
じっくり見てても細工がわからなくてとっても不思議ね。
レーちゃんに聞いてもわからなかったみたい。

「…?」
出演者さんの何人かが明らかに感じが違う人がいて。
レーちゃんの袖を軽くひっぱってから小声で聞くわね。
やっぱり本物だったみたいでレーちゃんに驚かれたわ。
レーちゃんは言われてから気づいたみたいで…えへん!
褒めてくれると思ってたら『時々凄い』って…むぅ。
でもでも撫でてくれたからいいわ~♪わーい。大好き♪
レーちゃんが楽しんでくれてよかった。



●魔法のような夜を過ごして
 たっぷりと花見と温泉を楽しみ、美味しい食事もいただいて一息ついた頃に神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は招待状から二ヶ所目の案内が書かれた紙を取り出して、少しだけもじもじしつつシビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)へと話し掛けた。
「あのねあのね。レーちゃん、サア……カス? に行かない?」
 手にした上質な白い紙には『百鬼夜行サアカス』への案内と、そこへ向かう為の地図が記されている。二人のいる温泉街から少し歩いた先に、移動サアカスがいるのだとか。
 どれ、とその案内状を受け取りシビラが目を走らせる。
「宿から少し歩くのか」
「そ、そうなの! 散歩がてらいいかしら~って」
 悪くない、とシビラは思う。サアカスまでの道にも桜は咲いているようだし、何より。
「腹ごなしには丁度いいかもしれないな」
「! じゃ、じゃあじゃあ」
「ああ、構わない」
 こくりと頷いたシビラに思わず露が目を瞬かせ、じぃっと見つめる。
「……何だ? 行かないのか?」
「い、行くわ! 勿論行くわ!」
 いつもであれば露だけで行ってくればいいと言うところを、レーちゃんも一緒! と露が引っ張っていくのがお約束のようになっていたから、今回は温泉といいサアカスといい素直に行くと言うので少し吃驚してしまったのだ。
「うふふ♪ 楽しみね、楽しみね、レーちゃん!」
 気が変わらぬうちにと旅館を出て、露がシビラの腕にくっついて嬉しそうに桜並木を歩く。
「わかった、わかったからくっつくな」
 うっとうしい、という言葉を聞いて、露はこっそりといつものレーちゃんも大好きだわ♪ なんて思いながら無邪気な笑みを浮かべてサアカスへと向かった。
「わぁ……。すっごく派手な場所ねー……」
 黒と赤の天幕はどこか不気味にも見えたけれど、それよりも人々の賑やかな声が勝っていて恐怖を感じるよりもわくわくとした気持ちが勝つような、そんな不思議な感覚だ。
「楽しみね、レーちゃん♪」
 サアカスの他にも演目は沢山あるようで、天幕の外でも様々な催し物が行われているのが見える。あちらこちらに視線を向けて、シビラがそういえばこういうエンターティナーを鑑賞するのは初めてだな、と考える。
「さて……どれにしようか。通常のサアカスというのも惹かれるが……マジックというのも気になるな。露にでも聞くか?」
「え? なぁに、レーちゃん! あたしのこと呼んだ? 呼んだ?」
「いや、呼んではないが……まぁいい、露は何が見たいんだ?」
 どれ、と言われてサアカスの天幕を見上げていた露が視線をきょろきょろと動かして。
「沢山あるのね? どれにしようか迷うわ……うーん」
 うーん、と唸りつつも気になったものに視線を止めて、露がシビラの腕を引く。
「……マジック? っていうのがあるみたい」
「ああ、あるな」
 自分の独り言を聞いていたのか? というくらいドンピシャで同じものが気になるという露に視線を向ける。
「んん、あたし達が使う魔法みたいなものなのかしら?」
 こてん、と首を傾げた露を見て、シビラがマジックと書かれた|幟《のぼり》を見遣る。
「どうだろうな、まぁ丁度いい」
「え? 丁度いいの?」
「ああ」
 何が丁度いいのかまでは説明せず――だって言ったら露があたし達ったら気が合うわね♪ 相思相愛ね♪ とか言い出すだろうから――シビラは露を腕に引っ付けたまま、マジックを行うという方へと足を向けた。
「マジックにするのね! うふふ、うふふ、嬉しいわ! レーちゃんも興味あるなんて、あたしとっても嬉しいわ。わーい♪」
 説明せずともこれなのだ、やれやれと小さく息を零してシビラは最前列でマジックが始まるのを待った。
 ようこそ! お客様! と、マジシャンの前口上から始まったマジックは、まずはトランプカードを自在に操るところから。まるで見えない糸を通してあるかのように、綺麗に手から手へと滝が流れるようにカードが落ちていく。
「すごいわ、すごいわ! ね、レーちゃん!」
「そうだな」
 手先が器用というレベルではない、とシビラも思う。しかし魔法のような力でもなく、これはきっと彼の研鑽の証左なのだろうとも。
「あ、次はトランプの絵札をこっちに見せてくれてるわ」
 手の中で綺麗に扇形にしたトランプをこちらに見せ、それぞれの数字と絵がしっかりと見えた。次に、一度扇状にしたトランプで自分を仰ぐようにして、もう一度こちらへと絵札を見せる。
「! 全部ハートのエースになったわ!」
 驚いている間に再び同じ動きをすれば、トランプは再び数字が並んでいて露は目をキラキラさせて手を叩く。
「今度は何かしら、ね、レーちゃん」
「ああ」
 食い入るように見てはいるが、どのような仕掛けでそうなっているのかはわからない。次はどんなマジックを見せてくれるのかと、シビラはいつの間にか露と同じようにマジシャンの手元に釘付けだ。
 観客達に一礼するようにシルクハットを脱いだマジシャンが、手に持っていたカードをシルクハットの中へと流し込むように入れていく。一度こちらにシルクハットの中を見せ、カードが入っている事を確認させると、持っていた杖でコンコンコン、と三回シルクハットの|プリム《ツバ》を叩いた。するとその次の瞬間に――。
「わあ、わあわあ! カラスだわ、レーちゃん!」
 シルクハットから飛び出したのは鳩ならぬカラスで、まるで使い魔かのようにマジシャンの肩へと止まった。
「すごいわね、すごいわね、お利巧さんなのね!」
「そうだな」
 予めあのシルクハットの中に居たのだろうか、多分そうだろうとは思えどカラスはトランプを引っ掛けることなく飛び出せるものなのだろうか? どう考えても高度なテクニックを駆使しているのはわかれど、どのように行っているのかは看破できないと、シビラが感嘆の溜息を零した。
「すごかったわねぇ、レーちゃん! やっぱり魔法? なのかしら」
 マジックショーが終わったところで、他の所も見てみようと軽く歩きながら露が言う。
「マジシャンからは魔力の類は感じられなかったから、努力によるものだろう」
「そうなのね……魔法を使って無くても魔法なの、とってもすごいわ~」
「魔法じゃないのに魔法みたい、か。この技術は今後の戦闘にも活用できるかもしれない……か?」
 敵を翻弄するのもいいだろうし、何もないと思わせて武器が飛び出すというのも面白い。
「ふむ。宿に帰ったら少しスマホで調べてみよう」
 中々に有益な時間だったと、シビラが満足そうに頷いた時だった。
 他の演目も見てみたいと言っていた露が、サアカスの団員が歩いていくのを見て足を止めてシビラの袖を軽く引っ張ったのだ。
「どうした、露」
「……レーちゃん、あそこにいるサアカスの団員さん」
 言われてちらりと見れば、なんとなく気配の違う者が混じっているのが見てとれた。
「……ん。異なる気配だから恐らく、な」
「やっぱりそうなのね、でも悪い人達じゃなさそうだわ」
 どちらかといえば、良き隣人のような、と露が言うとシビラが驚いたような声で、ほう? と囁く。
 シビラからすれば、気配の違いが解る時もある……程度なのだが、露はそれ以上の感覚で知覚する。やはり精霊達と親和性が高いからかと、いい勘をしているとシビラが内緒話をするような声で言う。
「……ふふ、ふふふ、えへん!」
 シビラよりも早く気付き、尚且つシビラ自身も露に言われて気が付いたとなれば、これはもうとっても、すごく、めちゃくちゃに褒めてくれるに違いないわ! と露が期待に満ちた瞳でシビラを見遣る。
 まあ、露のそういう鋭い部分が発揮されるのは本当に時々なのだが……と思っていたシビラは褒めて! とねだる子犬のような視線を送ってくる露に半目になりつつ、唇を開いた。
「……まぁ、時々凄い」
「えぇ~~、もっと褒めていいのよ、レーちゃん!」
「……行くぞ」
「レーちゃんったら!」
 むぅっと頬を膨らませた露に、仕方なさそうにシビラが頭を撫でる。
「レーちゃん! わーい、大好き♪」
 ぱぁっと笑顔になった露を腕に引っ付け、シビラがあちらこちらと見て回る。
「影朧やそれに属する事件や事故はなさそうだな」
「そうね、あたしもそう思うわ。ね、レーちゃん! まだ時間があるみたいだからサアカスも見ていきましょ♪」
「……わかった」
 レーちゃんが素直だわ♪ きっと楽しんでくれてるのね、と露はご機嫌な笑みでシビラの腕を引っ張るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】

サーカスですって!ゆぇパパ
パパはサーカスって行った事ある?
ルーシーはないの
ブルーベルの領地に来ていた事もあったのだけど
お許しは出なくて
だからパパとなら見れるかなって
一緒に来て下さる?
うん!
手つないでサーカスへ!

でも団員さん、こんな妖怪さんみたいなお姿じゃなかった気がするわ
そっか、確かに和風だわ
ちょっと怖い姿のひとはパパの後ろに隠れてしまうけれど
ワクワクするのも止められなくて
パパ!あそこ、二人分席開いてる!

開幕を告げる声
わあ、大きなクマさん
ルーシーだったらあんな球の上、乗れないわ
空中ブランコでは息をのみながら応援をして
籠の中のバイクでは一緒に目を回す
ええ、本当に
ずうっとハラハラドキドキよ!

次は不思議な衣装のひとが……あっ失敗しちゃった
あれがピエロさん
失敗してもだいじょうぶなのね、よかった

とっても楽しかった!
終わっちゃうのが惜しい位ね
と団員さんに視線を向けると
…あれ??
今、ナイフ投げの団員さんの首が、伸びっ
ひゃああ

びびビックリした!
他のサーカス、…うう、でも
…ほんとう?なら行きたいな


朧・ユェー
【月光】

サーカス?それは珍しいですね
えぇ、昔に何度か
おや、ルーシーちゃんは見た事なかったのですね
じゃ僕と一緒に観ましょうか?
手を繋ぎサーカスの方へ

確かに、妖怪やお化けの様な姿の和風なサーカスですね
普段は洋風な雰囲気ですよ
あそこに座りましょうか

さぁ、始まりますよ
先ずは動物さんが出てきました
大きなクマが球に乗ってます、お上手ですね
空中ブランコにグルグルと籠の中を回るバイク
キラキラと観ている彼女にくすりと

派手な化粧と衣装の人が何やら芸をするが失敗してワタワタとしている
ふふっ、アレはピエロと言ってお客さんを笑わせたりして楽しましてくれる人ですよ

どうやら本物の鬼や妖怪がいる様だ
お化け屋敷も兼ねてるのでしょうか?
散々彼女に僕じゃない僕がお化け屋敷で揶揄ってますからねぇ
きっと怖がってしまう前に
サービスかのように彼女を驚かせ
本物!?と気づいた彼女をひょいと抱き上げて外へ

ルーシーちゃんどうでしたか?
今度はもう一つのサーカスに行きましょうか?
大丈夫ですよ、そちらは驚かしたりしませんからと背中をぽんぽんとして



●何度でも楽しみを共に
 混浴の露天風呂に家族だけの貸し切り風呂と、温泉を心ゆくまで楽しんだルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)と朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)は二人で案内状を覗き込んでいた。
「サーカスですって! ゆぇパパ」
「サーカス? それは珍しいですね」
 招待状の中に入っていた三つのうち二つ目、それがサアカスへの案内状。場所は温泉街から徒歩で向かえる距離で、お風呂上がりの散策にもぴったりだ。
「パパはサーカスって行った事ある?」
「えぇ、昔に何度か」
 ルーシーと片手を繋ぎ、ユェーが改めて地図を確認しながら返事をする。その様子を見上げつつ、ルーシーがゆぇパパは行った事があるのね! と楽しそうに手を揺らした。
「あのね、ルーシーはないの」
「おや、ルーシーちゃんは見た事なかったのですね」
 舞い散る桜の花びらを目で追いつつ、ルーシーがこくりと頷く。
「ブルーベルの領地に来ていた事もあったのだけど、お許しは出なくて」
 一度、行ってみたいと頼んだことがある。その時の返事は『ブルーベル家の後継者たるもの、そのような下賤なところへいってはならない』だったから、ルーシーはそれから口にする事すらしなくなった。
 下賤だなんて思ったことは一度もなかった、遠くに見えたサーカスの開幕を知らせるバルーンも花火も、絵本で読んだサーカスのお話のように、とても楽しそうだったから。
「ずっと、行ってみたいと思っていたの! だから、パパとなら観れるかなって」
 地面に落ちた桜の花びらから顔を上げ、ルーシーがユェーを見上げる。
「一緒に来て下さる?」
 そんな可愛らしいルーシーからのお願いをユェーが断るはずもなく、快諾するように頷いて。
「ふふ、じゃ僕と一緒に観ましょうか?」
「うん!」
 嬉しそうに笑ったルーシーの手を引いて、こっちですよと歩き出した。
 他愛もない話をしながら歩いていればサーカスの天幕がある場所まではすぐで、ルーシーはわくわくとした気持ちで天幕を見上げ――ユェーの顔を見た。
「ゆぇパパ、サーカスのテントってこんなお色だったかしら」
 ルーシーの記憶にあるサーカスの天幕は白と赤で、なんだかおめでたい色だったはず。けれど、目の前にある天幕は黒と赤でどこか妖しげだ。
「そうですねぇ、案内状にもありましたけれどここは和風のサーカスみたいですよ」
「和風……確かにルーシーが絵本で見た団員さんはこんな妖怪さんみたいなお姿じゃなかった気がするわ」
「百鬼夜行というくらいですから、妖怪やお化けの様な姿をした団員さん達がいらっしゃるんですねぇ」
「そっか、確かに和風だわ」
 思っていたサーカスとはちょっと違って吃驚してしまったけれど、よく見れば猫の耳や尻尾を付けた女の子も、狐面や尻尾を付けた女の子も、動きやすくアレンジした着物の衣装が可愛らしい。ちょっと怖い姿のひとには思わずユェーの後ろに隠れてしまうけれど、ルーシーはこのサーカスを怖いと思うよりも、あの日サーカスのバルーンや花火を遠くから見つめた時の気持ちのように、わくわくとした気持ちが勝っていた。
「エキゾチック? っていうのかしら」
「そうですね、普通のサーカスだと洋風な雰囲気ですよ」
「そうなのね! あっ、パパ! あそこ、二人分席が空いてるわ!」
「では、あそこに座りましょうか」
 二人並んで円形の舞台に視線を向ければ、聞こえてくる和楽器の音が楽し気なものから少しおどろおどろしいものへと変わる。ぎゅっとルーシーが握ったままの手に力を入れると、大丈夫ですよというようにユェーも握り返した。
 太鼓の音が響き、舞台がパッと暗くなったかと思えば照明が当たる。そして、照明が当たってもなお暗い影のようなところから、猫の半面や狐面をした少年少女達が飛び出し、ポーズを決めた。
「ユェぱぱ、人が影から飛び出してきたわ!」
「舞台の下にそういう装置があるんですよ、ルーシーちゃん」
 もしかしたら、本当に影から飛び出してきたのかも? なんて思わせるような動きだったけれど、それも芸の内。暗かったテント内が明るくなると、少年少女達が軽やかな曲芸を披露すると共に可愛らしい動物も出てきてルーシーが手を叩く。
「わあ、大きなクマさん!」
「可愛いですねぇ。おや、玉乗りをするようですよ」
 首元に和風のリボンを飾ったクマが調教師が出した大玉の上に、合図と共に飛び乗って上手にバランスを取っている。
「お上手ですね」
「クマさんってすごいのね! ルーシーだったらあんな玉の上、乗れないわ」
「ルーシーちゃんだって練習すればできますよ」
「できるかしら?」
 できるなら、少しだけやってみたい気も……なんて言っている間に曲芸を披露していた少年少女にクマ達が袖へと引っ込んでいくと、今度は空中ブランコの番だ。
 こちらは口許だけが見える猫と狐の半面を付けた女性二人が主役のようで、観客達に手を振ると軽やかに空中ブランコから空中ブランコへと飛び移っていく。
「……! すごいわ、命綱もないのに高い所から高い所へ……!」
「凄いですね、笑顔を絶やさないのも素敵です」
 息を呑むように見守るルーシーもなんと可愛らしいことか、と思いつつユェーが拍手を送っていると、次は大きな鉄製籠の中をぐるぐるとバイクで回るという演目。乗っているのは和柄のライダースーツを着た青年のようで、大きな音でエンジンをふかすと巧みにバイクを操って、遠心力を利用した芸を見せてくれた。
「わ、わわ、目が回っちゃう……!」
「ずっと目で追い掛けてましたからね、ルーシーちゃん」
 よしよし、と背を撫でてやりつつも、キラキラの笑顔で見ている彼女にくすりと笑う。
「ほら、ルーシーちゃん次の演目が始まりますよ」
 陽気な太鼓と笛の音を連れて、白塗りに紅い隈取、それでいてどこか親近感のある化粧を施した歌舞伎役者のような団員が出てくると、ジャグリングをするように顔くらいあるボールをひょいひょいと投げ始める。
「ジャグリング? 不思議な衣装のひとだわ」
「あれは多分和風のピエロなのでしょうね」
 ひょい、と投げたボールが顔に当たり、和風ピエロがすってんころりんと転がっていく。
「あっ、失敗しちゃった。でも何だか楽しそうだわ」
「あれはわざと失敗してお客さんを笑わせたりして、楽しませてくれる人ですよ」
「ピエロさん、失敗してもだいじょうぶなのね、よかった」
 ユェーの言葉通り、失敗した風に見せ掛けて舞台を器用にでんぐり返しで転がりながら元の場所に戻ると、今度は失敗せずにジャグリングをやってのけた。
 その後も続くサーカスの演目に、ルーシーはすっかり満足して惜しみない大きな拍手を送り、退場を促す声にほぅっと溜息をついた。
「とっても楽しかった! ゆぇパパは?」
「僕もとっても楽しかったですよ」
「終わっちゃうのが惜しいくらいね」
 舞台の上では観客達を見送る様に団員が並んで手を振っていて、ルーシーは人波から覗く様にそちらを向く。
「……あれ??」
「どうかしましたか? ルーシーちゃん」
「えっと、あの、今」
 ルーシーの視線の先を追えば、ナイフ投げをしていた団員の首がにょろりと伸びて。バイクの曲芸を披露してくれた青年がヘルメットを取ると、首がなくて。
 どうやら本当に本物の鬼や妖怪がいるようだと、ユェーが油断なく視線を走らせる。けれど、彼等にはどうやらこちらを害するような気はないようで、サービスの一つとして見せてくれているようだった。
「ナイフ投げの団員さんの首が、伸びっ、バイクのお兄さんの首が、なっ」
 ルーシーが声なき悲鳴を上げる前に、本物!? と気付いた彼女をひょいっと抱き上げ、ユェ―は外へ向かったのだった。
「あのっ、ユェぱぱ、いま」
「大丈夫ですよ、サービスです、サービス」
「さ、サービスなのね、百鬼夜行サアカス、だものね」
 本物だったのだけれど、ユェーは誤魔化す様にそう言った。何故って、以前に自分ではない自分がお化け屋敷で散々ルーシーを揶揄っているからだ。
「ルーシーちゃん、初めてのサーカスはどうでしたか?」
「びび、ビックリした! でも、楽しかったわ」
「ふふ、今度はもう一つのサーカスに行きましょうか?」
「他のサーカス? ……うう、でも」
「普通のサーカスですよ、そちらは驚かしたりしませんから」
 お化けたちがいない普通のね、と思いながらユェーが抱き上げたままのルーシーの背を宥めるようにぽんぽんと撫でる。
「……ほんとう? なら行きたいな」
「はい、では約束です、ルーシーちゃん」
「やくそく!」
 小指を絡めて、あなたとわたしの。
 何度だって楽しいを一緒に体験しましょう、とユェーがルーシーに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】
サーカスを手伝ったことはあれど
和風には馴染みがないものだから
どんなかは、僕も気になる――が

お化け屋敷のようだってさ
ね、ティルは大丈夫?
問えば、震える身と返答が
いじらしくも、ほほえましくて
勿論、君のことは僕が守るとも

怖いが遠ざかるようにと
帽子摘まみ『おまじない』
僕の唯一熟れた手品で
ぽん、と彼岸花を咲かせ
『幽霊花』を飾れば、大丈夫
僕たちもお化けの仲間入りさ
足す彩に特別も増す心地で
指す舞台に眸を輝かせよう

揺らめく火の玉ジャグリング
くるり巡る、なな色が綺麗だね
ああやって僕も出来ればいいな
――ああ、それって、良い案だ
纏めて束ねて、君に贈れるまで
こっそり練習すると片目瞑り

獣のそれより大仰で派手がゆえ
獅子舞の輪潜りは息呑むもので
大丈夫だとは、思う、けど
潜る瞬間には手を握りしめ
待って幽霊より怖――おわっ
見た、見たよ、凄いねえ……!
見事なさまに跳ねる君とわらう

感嘆も驚嘆も素直に零し
嘘も本当も忘れるくらい
特別な一夜を余すことなく
同じ色の眸に焼き付けて

うん、僕も、楽しいし――
そんな君を見られて良かった


ティル・レーヴェ
【花結】
サーカスはあなたに縁ある場所だから
一緒に来たいと思っていたの
和風サアカスってどんなかしら

彼と一緒にわくわくしつつ
お化け屋敷のようとも聞けばちょっぴり身震い
だ、だいじょうぶっ!
妾だって物の怪には少し慣れたもの
でも、怖くなったら守ってね?

そう身を寄せれば
彼から素敵な『おまじない』
わぁ!ライラック、すごい!
彼の手品に
瞳輝かせば怖さなんて掻き消えて
帽子から現れた
『仲間入り』の花を飾って貰えば
特別な一夜の世界へと

一つ、二つと
色づく鬼火が数を増し
虹色の火の玉がくるくるり
わぁ、綺麗!
あなたも挑戦するの?
それなら花束でとかどうかしら
思い出の花を虹のよに、なんて
似合いそう、と想像しては咲って

わ、あそこを潜るの?
大丈夫かしら?
目の前のスリルに
握られる手を握り返し
一緒にどきどき見守りながら
わぁ!凄いっ!
みた?みた?カッコよかった!
手を握るまま興奮気味にぴょんと跳ね

不思議で楽しい演目も
隣の彼の無邪気な様も
全部全部が特別鮮やか
一緒になって燥ぐのも
世界がきらきら煌めくよう

ね、あなた
とうてもとても、楽しいわ!



●煌めくようなひと時を
 桜と足湯をゆったりと楽しみながら、次は何処へ向かうのだったかとティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)が封筒の中の案内状を引っ張り出す。
「ライラック、次はサーカスよ」
 百鬼夜行サアカスの文字をなぞり、ティルがライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)へと笑う。
「サーカス……百鬼夜行と言うからには和風のようだね」
 どれ、と案内状を覗き込んだライラックに手にしていたそれを渡し、ティルが足でお湯をぱちゃりと揺らす。
「サーカスはあなたに縁ある場所だから、一緒に行きたいと思っていたの」
 だから丁度いいわ、と足を湯から上げる。
「でも、和風サアカスってどんなかしら?」
「うん、サーカスを手伝ったことはあれど和風というのには僕も馴染みがないからね」
 どんなものか気になると、ライラックが招待状に記された文字を目で追い、ひとつの単語に目を止めた。
「和風……ティル」
「なにかしら?」
「どうやら百鬼夜行サアカスというのはお化け屋敷のようだってさ」
 すっかり温まった足をタオルで拭いていたティルの手が、お化け屋敷と聞いた瞬間にピタリと止まる。
「お化け、屋敷?」
「サーカスの団員がお化けや妖怪の恰好をしているらしいよ。ね、ティルは大丈夫?」
 お化けが得意ではない彼女に、ライラックが心配するように問い掛けた。
「だ、だいじょうぶっ! 妾だって物の怪には少し慣れたもの」
 その声は、ほんの少しだけ裏返っていたけれど。
「でも、怖くなったら守ってね?」
 いじらしくも微笑ましいその言葉に、ライラックの目がとろりと優しく笑う。
「勿論、君のことは僕が守るとも」
 その言葉に安心したティルがタオルを彼に渡しながら、それならきっと大丈夫と笑みを返した。
 サーカスの天幕がある場所へと二人並んで歩き、見つけたのは赤と黒の天幕。本来であれば赤と白や青に黄色などの明るい色にするところを、少しばかり不安になる色を選んでいるのは流石というところだろうか。
「……雰囲気があるね」
「そ、そうね」
 ぎゅ、とライラックの袖を掴んで見上げてくるティルを安心させるように笑って、ライラックが帽子を摘まむ。
「ティル、見ていて」
 こてんと首を傾げたティルだけに見せるように、ライラックが帽子の縁を撫でて指先を中へと入れれば、ぽんっと咲いたのは彼岸花。
「わぁ! ライラック、すごい!」
「どうぞ、君の怖いが遠ざかる『おまじない』だよ」
 そう言って、彼岸花を彼女の胸へと飾る。
「さ、これで大丈夫。僕たちもお化けの仲間入りさ」
「お化けの仲間入り?」
 ライラックの鮮やかな手並みによる手品に、とっくに怖さなんて掻き消えていたけれど。彼の言う言葉が気になってティルが問う。
「そう、僕らがお化けの仲間になった証拠」
「なんだかわくわくしてきたわ!」
 お化けは怖いけど、仲間になったなら友好的かもと笑う彼女に頷いて、ライラックも自分の胸に彼岸花を飾った。
 足した揃いに特別な一夜が彩を増して、改めて繋いだ手を揺らして二人は百鬼夜行サアカスの天幕へと足を踏み入れた。
 円形の舞台に段々になった観客席には既に人が座り始めており、ライラックは丁度いい席はないかと視線を走らせる。最前列よりは少しだけ後ろ、かといって見え難くはない席……と探していたら丁度いい席を見つけてティルの手を引いた。
 座ってしまえば他の観客から聞こえる楽し気な声に押され、怖いと思うよりもどんな曲芸が見られるのかという気持ちが高まっていく。聞こえてくる和楽器の音が楽し気なものから、少し怪しげなものへ。それから、舞台が暗くなったかと思えば照明が中央へあたる。
 太鼓の音が一つ、ドォンと鳴ったと同時に照明が当たってもなお暗い影のようになった場所から、猫の半面や狐面をした少年少女達が飛び出し、新体操のような宙返りや側転をしてピタッと決めポーズを見せた。
「始まったわ!」
 人々の拍手と歓声に続き、ティルとライラックもぱちぱちと手を叩く。可愛らしかったり、ちょっと怖かったり、そんなサアカス団員たちの懸命な曲芸やどこか愛嬌のある動きにすっかりティルの気持ちは夢中だ。
 次に始まったのは歌舞伎役者のような恰好をした団員のジャグリングで、一つだった鬼火が二つ三つと増えて、七色になった鬼火を巧みに操る。
「わぁ、綺麗!」
「なな色が綺麗だね」
 まるで虹の様だと、くるりくるりと巡る――もしかして浮いているのかしら? なんて思う動きをするジャグリングにティルがはしゃぐ。
「ああやって僕も出来ればいいな」
「あたなも挑戦するの?」
 ティルの頭に浮かぶのは、炎を操るライラックの姿。でも万が一にも火で怪我をするのは少し嫌だわと、ふっと胸の彼岸花へと視線を向けた。
「そうだわ、それなら花束でとかどうかしら? 思い出の花を虹のように」
 彼女からの提案にライラックが目を瞬き、花を咲かせるように笑う。
「――ああ、それって良い案だ」
 いつか纏めて束ねて、君に贈れるまで。
「こっそり練習するよ」
 そう言って、ライラックが片目をぱちりと瞑った。
「きっと似合うわ。ええ、約束よ」
 遠くない未来に思いを馳せて、ティルが|咲《わら》った。
 ジャグリングが終われば、空中ブランコや綱渡りなどのハラハラするような曲芸。可愛らしくも煌びやかな和の衣装を纏った彼女達の織り成す、美しい曲芸に夢中になって見入っては二人の笑顔が弾ける。
「次は動物の曲芸かな?」
 次々に躍り出る動物に調教師、そして大きな火の輪に観客達が息を呑む。そして最後に出てきたのは、なんと獅子舞。
「わ、あそこを潜るの? 大丈夫かしら?」
 ティルの心配をよそに、動物達はひょいひょいと火の輪を潜って歓声と共に裏へと捌けていく。最後に残った獅子舞が、まるで本物の獅子のような動きを見せながら火の輪に向き合う。
「獅子舞も潜るの? 一番大きい気がするわ」
 大丈夫かしらと再び心配すると、ライラックも彼女の手を握りながら言葉を零す。
「大丈夫だとは、思う、けど」
 大丈夫じゃなければ演目にはしないのだから。しかし、そんな正論は目の前で行われようとしている曲芸の前では吹っ飛んでしまうもの。
 助走をつけて走り出した獅子舞に観客達も固唾を飲んで、ライラックとティルは繋いだ手をぎゅっと握り合って。
「待って、これって幽霊より怖――おわっ」
「わぁ! 凄い!」
 獅子舞が見事に火の輪を潜り抜け、得意気に見得を切る。
「みた? みた? カッコよかった!」
「見た、見たよ、凄いねえ……!」
 凄いわと何度も口にして、手を握ったまま興奮のあまりティルが席を立って軽くぴょんと跳ねる。すぐにハッとして椅子に座り直した彼女に、ライラックが楽し気に笑った。
 その後も続く楽しくもどこか不気味な、それでいて心惹かれる百鬼夜行サアカスの興行は万雷の拍手と歓声の中で幕を下ろし、観客達は何処か夢見心地で天幕を後にする。
 勿論、ティルとライラックもその観客の波の中で、未だ冷めやらぬ興奮と共に歩いていた。
「とっても素敵だったわね!」
「ああ、来てよかったね」
 誰もかれもが笑顔で、感嘆も驚嘆も素直に零す、なんと特別な一夜であっただろうか。ライラックがちらりとティルに視線を向ければ彼女の瞳が煌いて、この夜が特別に鮮やかでどれほどに楽しかったかを雄弁に語っている。
「ね、あなた」
「なんだい、君」
 噓も本当も忘れてしまうくらい、楽しい時間だったとライラックも同じ色の眸を覗き込む。
「とうてもとても、楽しいわ!」
「うん、僕も、楽しいし――」
 何より、そんな君を見られて良かったと、繋いだ手を離さぬように囁いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『香煙を薫らせて』

POW   :    元気の出る香りを楽しむ

SPD   :    リラックスする香りを楽しむ

WIZ   :    ロマンチックな香りを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●薫香専門店『月下美人』
 百鬼夜行サアカスの賑わいを後にして、次に向かうのは夜にしか開いていないという店だ。
「薫香専門店?」
「はい! お香や香木、香水なんかを扱っているお店だそうです!」
 案内状を手にした裏手・伊寿美が、興味津々と言った様子の声を上げる。対する蘇原・幸路はといえば、大して興味もない様子でふぅん、と相槌を打った。
「もう、張り合いがないですね! 夜にしか店を開けないので、月下美人という店名だという話もあるんですよ」
「夜しか……開けられない理由でもあるのか?」
「そこまではわからないですね」
 ふむ、と幸路が思案顔で薫香専門店へ向かって歩く。
「夜しか現れぬ影朧がやっているかもしれんな、しっかり調査するとしよう」
 万が一にも店主が影朧であれば扱う品も危険なものかもしれない……などと幸路が言うのを話半分で聞き流しながら、伊寿美はどんな品物があるのかと期待に胸を膨らませた。
 暫し歩けば目的の店へと到着する。大正浪漫溢れる店には月下美人と書かれた看板が掲げられていて、外から眺められる陳列窓には様々な香炉やお洒落な線香立てが飾られていた。
 扉を開ければチリン、と小さな鐘の音が軽やかに響き、色の白いほっそりとした女店主が顔を出す。
「いらっしゃい、ようこそ。招待状はお持ちかな? はい、ゆっくりみていってくださいませな」
 広い店内にはきっと気に入る香りがあるはず、もしも無ければ調香を楽しむのもいいかもしれない。
 どうぞ素敵な香りを楽しんで――。

-----

 薫香専門店『月下美人』でのひと時をお楽しみいただきます。
 店内は広く、お線香から香木、香水などがございます。また、香水瓶や線香立て、香炉などもあるのでゆっくりと心惹かれるものを探していただくのもいいでしょう。
 店主は三十代半ばの女性で、何かあれば相談に乗ってくれます。が、プレイングに記載なければ出て来ませんのでご自由に店内をお楽しみくださいませ。
 また、こちらもプレイングに記載あれば当方のグリモア猟兵がお邪魔いたします。
 それでは、以上を踏まえ公序良俗に反さない程度に自由に楽しんでくださいませ!
夜鳥・藍
SPD

サアカス楽しかった……。まだふわふわするような夢見心地だわ。

香水は以前いただいたものがあるからお線香か香木がいいかしら?
この香りはサンダルウッド、白檀ね。あ(ふと思いついて店主の方に)もし、白檀の扇は扱ってらっしゃるかしら?
細工は新しい物よりは伝統的なものを。だってその方がおばあさまが持っていたものに近いですもの。
小さい頃ね、お部屋で見せて貰ってそれからずっと憧れてたの。扇子ってだけで大人の女性って感じがして。
いつからか買って貰う事も出来なくなって、ねだる事も忘れてしまっていたのだけどこの機会に購入しましょう。

今日はいつも以上に子供の頃のことを思い出す一日だったわ。



●白檀香
 サアカスの興奮冷めやらぬまま、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)はふわふわとした足取りで薫香専門店『月下美人』への道を歩いていた。
「サアカス、楽しかった……」
 出来るならばずっと見ていたいと思ってしまう程――けれど、どんな楽しみにだって終わりがあるからこそ次があるのだと、月下美人の看板を見上げた。
 店内に入れば様々な香りが乱雑に感じられるのかと思っていたけれど、香が混じらぬようになっているのかそんなこともない。
「色々あるのね……何がいいかしら」
 香水は以前にいただいた物――早春の香りがする小瓶があるから、それ以外でと店内を歩く。
「お線香か香木がいいかしら……あら」
 不意に藍の鼻腔を擽ったのはサンダルウッドの香り、思わず立ち止まって香りを確かめる。
「うん、やっぱりサンダルウッド、白檀ね」
 白檀、ともう一度呟いてから藍が何かを思いついたような顔をして、店主の方へと足を向けた。
「すみません」
「はい、なんでしょう」
「もし、白檀の扇は扱ってらっしゃるかしら?」
 白檀の扇と聞いて、店主の笑みが深くなる。
「ええ、扱っておりますよ。どのようなものがお好みかな?」
「細工は新しい物よりは伝統的なものを。それと……できるだけ香りのいいもの、かしら」
 藍の言葉に頷いて一度奥へと引っ込むと、幾つか扇の入った箱を持ってきた店主が藍の前へと並べてくれた。
「素敵ね、昔におばあさまが持っていたものに近いわ」
 思い出すのは小さい頃にお部屋で見せて貰った白檀の扇、それからずっと憧れていたもの。
「ふふ、扇子ってだけでも大人の女性って感じがするのに、それが木製でいい匂いがするものだから」
 いつからか買ってもらう事も出来なくなって、ねだる事も忘れてしまっていたのだけれど。
「いい機会だわ、ひとついただきます」
 どれにしようか、と幾つかの扇子の中から直感に従って手にした扇を見つめ、その香りを確かめる。上質で深く柔らかい白檀の香りを感じ取り、藍はこれにしようと店主を見遣った。
 白檀の扇子の値段はピンキリだけれど、藍が手にしたものはそれなりに値段の張るもの。
「いいのを選ばれましたねぇ」
「どれも素敵だけれど、これだと思ったんです」
「なら、きっと今夜これを手にする運命だったのかもしれませんね」
 そうかもしれない、と藍が手にした扇子に視線を向けて、温泉に、サアカスに、白檀の扇子。今日はいつも以上に子どもの頃を思い出す一日だったと、柔らかく微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒田・牙印
【荒野の標石】

・賑やかな日中とはうってかわってゆったりとした夜の時間、か。
こういったアロマ? 香水? みたいなのはとんと疎いのだが……俺、ワニ臭くねぇかな。
多少は気を使うべきなんだろうがマジでよく分からん。
ネフラの好みも考慮しながら、店主に相談してみるか。

と、まあ。
幾つか候補を挙げてもらったが、ネフラはどれが一番好みだ?
それこそ全部買って日替わりで楽しむのもアリだが、な(お財布の中身を思い出しながら)

買う物を買ったら他の香木なども見ながらネフラとのゆるい一時を。
そういやネフラは香水とかどうするのかな。
ん、俺はこの香りとネフラの組み合わせが一番、かな(とある香水を示して)

※アドリブ・絡み歓迎。


ネフラ・ノーヴァ
【荒野の標石】
夜に香る花、何ともロマンチックじゃないか。昼間ではそれが薄れてしまうもの。
うん?ワニの匂いか、それは美味しそうな。(香ばしく焼けたワニ肉を想像し)

全部買うというのは無粋かな。それに何でも安いものではないよ。
音に聞く竜涎香など如何程のものやら。
店主の勧めも試しつつ、ローズとジャスミンを用いた甘い香りが私好みだね。
早速香りをうなじ辺りにつけて振舞って見せる。
今宵はこの香りで愉しむとしようか?フフ。



●夜香
 まだ人々の声も冷めやらぬサアカスから向かうのは、『月下美人』という名の薫香専門店。
「月下美人? 花の名前なのか」
「ああ、夜に咲く花として有名な花だな。満月の夜にしか咲かないという俗説もあるが、これは間違いだ」
 黒田・牙印(黒ワニ・f31321)の問い掛けに、ネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)が空に浮いた月を見上げて答える。
「美しい花だよ、月下美人。香りもいいと聞くが……夜に香る花、何ともロマンチックじゃないか」
 きっと昼間ではその神秘性も薄れてしまうもの、夜だからこそ美しいのだろうとネフラが笑った。
「今みたいにか?」
「そうだな」
「なるほどな、賑やかな日中とはうってかわってゆったりとした夜の時間、ということか」
「相似するところはありそうだろう?」
 確かに、と素直に頷いた牙印にネフラがまた笑い、そして足を止めた。
「ここのようだ、牙印」
 見上げれば確かに『月下美人』と銘打った看板が揺れている。それなりに広い建物の中へと足を踏み入れれば、同じように招待状を手にした客が数名見えた。
「へぇ、中は匂いがキツイかと思ったが、そんな事ないんだな」
「混じらぬように配慮しているんだろう」
 くん、と鼻先を揺らした牙印を見上げ、ネフラが頷く。
「こういったアロマ? 香水? みたいなのはとんと疎いのだが……」
 むぅ、と眉間に皺が寄った牙印にネフラが、うん? と問う。
「いや……俺、ワニ臭くねぇかな」
「ワニの匂いか……それは美味そうな」
「いや、ワニの串焼きじゃねぇから」
「ワニ肉は臭みもなくジューシーだというからな」
 香ばしく焼けたワニ肉を想像しているネフラに、そうじゃねぇんだと牙印が首を横に振る。
「違うのか?」
「違う、ほら……生臭いっていうか」
「ああ」
 合点がいったとネフラが牙印にそっと鼻先を近付け、くん、と息を吸う。
「温泉にも入ったばかりだ、いい匂いしかしないな」
「ならいいんだが……多少は気を使うべきなんだろうがマジでよく分からん」
「フフ、気を使おうと思うだけで充分だよ」
 ネフラの答えにそういうものか、と思いつつも彼女の好みにも考慮して何か選ぶべきではと牙印は思う。
「店主に相談してみるか」
「いいんじゃないか? 興味を持ったなら試すのも一興だ」
 なんて話をしながら、二人は店主に声を掛けた。
「おすすめの香り……そうだねぇ、それなら――」
 そう言って店主が出してきたのはフローラル系にシトラス系、フルーツ系などの甘やかなものから、エキゾチックな香りのするものまでと多種多様。
「こっちはローズにジャスミン、これはスズランだね。これはスパイシー系の香りだがマンダリンとジャスミンが香るよ」
 実際に試香紙――香りを確かめる為に使われる短冊状の細い紙で香りを確かめさせてもらいつつ、好みを探っていく。
「色々あるんだな、確かにこうでもして貰わんと選びきれんな」
「この店だけでも相当数あるからね」
「……いっそ全部買って日替わりで楽しむのもアリだが、な」
 どれもいい香りだと感じるものばかりで、牙印にはどれがいいかは選びきれない。しかし、財布の中身を考えるとそれも現実的ではないか、と牙印が唸る。
「全部買うというのは無粋かな。それになんでも安いものではないよ」
「そうだなぁ」
「音に聞く竜涎香など如何程のものやら」
「竜涎香?」
 ネフラの発した聞いた事のない単語に牙印が首を傾げると、店主が笑って答えてくれる。
「アンバーグリスとも呼ばれるものでね、マッコウクジラの腸内に発生する結石なのさ。熟成すると甘い土のような香りを放つものでね」
「クジラから取れるのか」
 それは希少なものだろうな、と牙印が納得しつつ、ネフラへと向いた。
「幾つか候補を挙げてもらったが、ネフラはどれが好みだ?」
「私の好み? そうだな、ローズとジャスミンを用いた甘い香りが好みだね」
 これ、と指さしたものを手に取って、付けてみても? と店主に視線を向け、了承を得るとうなじ辺りに付けて香りを確認する。
「うん、いいじゃないか」
 気に入った、とネフラが笑い小さな藤籠に商品を入れた。
「ネフラはそれにするのか?」
「好みにあったからね。牙印はどうするんだ?」
「まだ迷ってるんだが……ネフラの選んだものと合う香水ってのはあるか?」
 それなら、と店主が牙印に示したのはベルガモットとフランキンセンスの香水。二人で香りを確認し、いいじゃないかと視線を合わせた。
 実際に付けてみても甘すぎずきつすぎず、これはいいと牙印が決めると揃って会計を済ませ、気になっていた香木を眺める。
「香木か、値段によって香りも千差万別らしいが」
「値段……なるほど」
 なるほど、と頷いた牙印の視線の先には桁数の多い値札。
「香りの世界は奥が深いな」
「フフ、手軽に楽しめるものも多いみたいだけれどね」
 店を出る頃にはネフラと牙印の付けた香りが程よく馴染み、互いにいい香りがすると笑みが浮かぶ。
「キミも私も気に入った香りがあってよかった」
「そうだな……でも一番はネフラとネフラの選んだ香水の組み合わせだな」
「奇遇だな、私も牙印と牙印の選んだ香水の組み合わせが一番だ」
 腕を組み、ネフラが牙印を見上げる。
「今宵はこの香りで愉しむとしようか? フフ」
「それは……願ったり叶ったりってやつだな」
 エスコートをするように、ネフラの歩幅に合わせて歩く牙印が笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
最後の目的地は薫りの店か。怪しい招待から始まった夜歩きだが、ここにはどうやら怪しいものはなさそうだ
……いや、この界隈の知識はないから詳しく調べたら何か変なものがあるのかもしれないが

とはいえ。今回はそれらを調べるのが目的じゃないし。のんびり買い物でもするとしよう
こういう専門店に来るのは初めてだから、割と目移りするもんだ

せっかくだから何か買い物でもと思ったが、俺は香水を普段遣いする事はないし……これを機に付けてみるか?いや、母さんや妹への贈り物にするのもいいかな

何にするか悩ましいが、落ち着いた香りがいいかな
軽く店主にも相談させてもらおう

……うん、良い買い物ができたかな。喜んでくれるといいんだが



●香るひと時
「最後の目的地は薫りの店か」
 招待状に記された最後のひとつ、薫香専門店『月下美人』を前にして、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はそう呟いた。
 怪しい招待から始まった夜歩きだけれど、温泉街は特におかしな出来事もなく温泉を楽しんだし、百鬼夜行サアカスだってほんの少し怪しくはあったけれど人に害成すようなことはなかった。
「どうやらここも怪しいものはなさそうだが……いや、この界隈の知識はないから詳しく調べたら何か変なものがあるのかもしれないが」
 ショーウィンドウの向こう側を見遣れば、柔らかな雰囲気の照明が灯り、招待状を持った人々が楽し気にしているのが見えた。
「とはいえ。今回はそれらを調べるのが目的じゃないし。のんびり買い物でもするとしよう」
 店に入れば店内は程よく広く、香水にお香、香木と普段あまり目にかからぬものが並んでいる。
「そういえば、こういう専門店に来るのは初めてだな」
 だからというわけではないが、あちらこちらに視線が向くのは仕方のないことだと鏡介が気ままに店内を歩く。
「せっかくだから何か買い物でもするか」
 さて、そうなると何を買おうかと迷いが生じる。何せ、鏡介は香水を普段使いするようなタイプではないし、今まで香水とはあまり縁のない生き方をしてきたのだ。
「うーん、これを機に付けてみるか? いや、母さんや妹への贈り物にするのもいいかな」
 いっそ自分の分と、母と妹の分も買うのもいいかもしれない。
「そうなると、どんな香りにするかだな……」
 何にするか悩ましい、こうなれば餅は餅屋、香水は香水屋だな、と鏡介は店主に相談する事にした。
「すまない、少し相談に乗ってほしいのだが」
「はい、なんなりとお申し付けくださいな」
 たくさんあり過ぎてわからない、香水に詳しくなくてわからない……という人はよくいるが、好きだと思った香りでいいのだと店主は笑う。
「どんな香りがお好みかな?」
「そうだな……落ち着いた香り、だろうか」
 落ち着いた、と聞いて店主が幾つかの香水を鏡介の前へと置き、香を試す為の試香紙に一滴落として渡してくれた。
「こちらは落ち着いた甘さ、こちらは爽やかさの中にもスパイシーさが残るもの、こっちは――」
 幾つか試した中で、良いなと思ったものを鏡介が指さす。
「こちらの上品な甘さのものと、瑞々しい甘さのもの、それからこちらの少しキリッとした香り……かな」
 上品なものは母に、瑞々しい甘さのものは妹へ、そして最後のは自分へ。
 瓶もそれぞれの香りに合ったもので、見ているだけでも心が華やぐようだ。
「いただくよ」
「毎度あり」
 ひとつひとつ、丁寧に包んでもらって店を出る。
「……うん、良い買い物ができたかな。喜んでくれるといいんだが」
 手にした店の紙袋からも、どこかいい香りがして、夜歩きも悪くないものだと鏡介が微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
心情)サテ虎兄さんとお別れ。香りかァ。俺が唯一、楽しめるモンでもあるな。マアいのちの関わらないコトに好きも嫌いも感じやしねェが。何買うかねェ。人工的に作れない香りってあるンかね? 花のにおいを好ましく思い、身にまとうことを考えた。分解して組み立てるのはヒトの好奇の定番だなァ。マせっかくだ、何ンか買ってくかねェ。
行動)店主どの。クロウメロウバイって種の、アフロディーテって花があるンだが。アレのにお、香りって作れるかね? ひとつ貰うよ。言い値で払おう。あとはライラックやイランイランかな…魔女の子が多くッてね。



●夜のひとしずく
 幼子の姿でサアカスを楽しんだあと、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は青年の姿に戻ってひとり大きな黒い仔猫の背に乗っていた。
「サテ、虎兄さんとお別れしたが、香りかァ」
 そのまま帰ってもよかったが、今は夜。|宿《からだ》の調子も悪くは無いし、香りといえば唯一楽しめるものでもある。
「マアいのちの関わらないコトに好きも嫌いも感じやしねェが」
 ――鏡に暗がりを映しても暗がりしか映らぬように、いのちがいてこそ、なのだ。
「マこれも依頼だ」
 見に行くだけ行ってみようかと、|ちびすけ《軍馬サイズの子猫》の背に揺られて到着したのは薫香専門店『月下美人』である。ちびすけの背から降り、結界を重ねて締め付けて扉を開ける。
「いらっしゃい」
 店主が迎える声にどうもと笑って足を踏み入れ、不審に思われぬ程度に影の手を操ってあれやこれやと匂いを嗅いでみる。
「何買うかねェ」
 嗅いだものの中でも花のにおいを好ましく感じ、無味無臭の己が|宿《身》にまとうことを考えながら逢真はぽつりと呟く。
「ふむ、人工的に作れない香りってあるンかね?」
 この場にあるのはおおよそが人の手から作られたもの、香水とは天然香料を人が抽出し人工的に作り出した香りだ。
「分解して組み立てるのはヒトの好奇の定番だなァ」
 逢真の|宿《身》は触れれば腐り、何も残らぬがゆえに香水などを振ったとしても匂いはしない。であれば、気に入った香りを再現すればそれらしくはなる、再現するならばそれはもう人工物のようなものかねェと逢真が笑う。
「マせっかくだ、何ンか買ってくかねェ」
 嗅ぐだけ嗅いで自分で再現もできるだろうが、それとはまた別に。
「店主どの」
 そう呼び掛けて、逢真が少し考えるような顔をしてから唇を開く。
「クロバナロウバイって種の、アフロディーテって花があるンだが。アレのにお、香りってな作れるかね?」
「ええ、ええ、ございますよ」
 へェ、と逢真が片眉を軽く上げる。なければ作って貰い、あとで煙草屋にでも届けてもらおうかと思ったけれど、あると言われて少なからず感心したのだ。
「これは花を水蒸気蒸留したものでね。精油……アロマオイルって言えば馴染みがあるかな? 香水ではないのだけれどね」
「いや、それで構わない」
 香水にしたければ、勝手に香水に仕立てるだろう。果実や種子、葉や枝に毒性があるくせに花にはないのが不思議なところだ。
「あとはライラックやイランイランかな……魔女の子が多くッてね。一番いいものくれるかい、言い値で払おう」
 恋の妙薬とも呼ばれるそれらは、魔女であれば使い道も多々あるだろうという判断だ。
 店主が手早く用意したものを見せ、間違いないかとだけ確認する。
「ああ、それでいい」
 値段も逢真にとっては高くても関係ない、彼岸の財は彼岸では意味をなさぬのだから。
 ひょい、と影の手で受け取って礼を言うと店を出る。
「ひ、ひ……思わぬところでいい土産ができたなァ」
 帰りはさて、影の中だと暗闇の中にとぷんと沈んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「練り香水は、どんな物があるでしょうか」
練香や香木だと聞香炉や香炉灰、香炭が必要らしいと聞いていたので怖じ気付いた

「初心者なので、手軽に試して楽しむなら練り香水かなと思ったのです。あれなら付け過ぎも無さそうです」

「うっすらと花の香りとか果物の香りとか良いかな、と思うのですけれど。此のお店で人気のものから教えていただけませんか」
「他の方と同じ物を買っても、付ければ別になると思いますから。其れに万人に好まれる香りの方が安心して付けられる気がするのです」
そう言いつつ気になるので白檀や月下美人、芍薬も試す

「ラベンダーやオレンジ、芍薬が好きかもしれません…どうしましょう」
選びきれず目で店主に助けを求めた



●華やぐ香り
 薫香専門店、というだけあってその店内は香りに関係するものが多くあった。
 香水、精油、お香、香木――それらを使用する為の道具なども豊富にあり、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は色々見た結果、練り香水にすることに決めた。
「練り香水は、どんな物があるでしょうか」
 練香や香木といったものは、楽しむ為に専用の道具が必要となる。それは香炉であったり、香炉灰であったり、香炭であったり――どうにも使う道具が多いのと、うっかり割ってしまったらと思うと桜花には手を出し難かったのだ。
「初心者なので、手軽に試して楽しむなら練り香水かなと思ったのです。あれなら付け過ぎも無さそうです」
 練り香水は香水に使われる香料を蜜蝋などに練り込んだ固形の香水、付け過ぎるということもなく香りもふんわりと香るくらいなので初心者にもピッタリな品……桜花の考えは正しいといえるだろう。
 しかし、どんな物が人気なのか、自分の好みに合うものはどんな香りなのかまではわからない。だから桜花は素直に店主を頼ることにした。
「少し相談に乗っていただけますか?」
「はいはい、なんなりと」
 香りについては初心者な事、練り香水がいい事などを伝えると、どのような香りが好きかと問われる。
「うっすらと花の香りとか果物の香りとか良いかな、と思うのですけれど。此のお店で人気のものから教えていただけませんか」
「それなら、こちらかな」
 この店で一番人気の花の香りと言われると、やはり店名と同じ月下美人だろうか。それから、薔薇の香りに桜、ジャスミンに鈴蘭など。
「こちらは私からのお勧めですよ」
 白檀や芍薬といったものも出して、店主が桜花に見せた。
「どれも素敵な香りです……! 香水は他の方と同じ物を買っても、付ければまた少し違った香りになると思いますから。万人に好まれる香りの方が安心して付けられる気がしてましたけれど……」
 いざ、人気の香りから店主お勧めの香りまで、色々と嗅いでみれば気になる香りは人気があるものからそうではないものまでと、沢山ありすぎて桜花が目を瞬く。
 全部、と言ってしまってもよかったけれど、沢山あっても使い切れる気がしない。心を鬼にして特に好みの物を、と絞っていく。そうして残ったのは三つだった。
「ラベンダーやオレンジ、芍薬が好きかもしれません……どうしましょう」
 どうしても選びきれず、店主にどうしたらいいものかと目で訴える。
「なら、トップからラストまで三種類香るものは如何かな?」
 最初に香るのはラベンダー、そしてオレンジフラワーや芍薬へと変わっていくような。
「……! それにします!」
 様々な香りを組み合わせるのも香水の醍醐味、練り香水もそこに変わりはない。
 気に入った香りが詰まった可愛らしい練り香水の容器を手に、桜花は満足気に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイドランジア・ムーンライズ

縁にいやん(f33070)と

や、こっちこそサンキュな。遊びの誘いは歓迎だぜー
薫香専門店…供養。まー、そうな。それ位は…

んじゃ店長さん。
めっちゃ綺麗で大人でカッコ良い感じの美人に似合いそうなお香シクヨロ!
(無茶ぶり)

あー、焚くとこ迄位か…?

え、にいやんの選べって?
俺ガキの頃教わった程度で詳しくねーしプロに任せた方が…
いや良いなら良いけど

じゃーにいやんのイメージだとー
(店主に)
トップノートは爽やか柑橘系で強めの。ミドルはムスク系のいっそ女性用位甘いのでラストは華やかに沈丁花。
辺りで候補出して。調香やってねーなら近い印象のヤツ。

へ?そーか?
題?
付ける程大層なもんじゃねーが……まあ、『翡翠の空』かな


結・縁貴
◎ハイド小姐と(f05950)

お誘いに乗ってくれて謝謝!
好い店の話を聞いたんだよ、小姐に合いそうなね
夜を死と近しいものとして見るのは何処の世界も同じ
死者に香を焚くことも意味があるし
冥福を祈るには好いものが買えそうじゃない?

…飲み屋にいる親父か?
ねェ、店に入るまでの下りは如何した?
小姐のそう言う処、嫌いじゃないけどさァ!

香にも色々あるもんだね
嗜みはあるけれど、俺の居た場所では香水まで発展してなくてね
検討もつかないなァ…
ねェ小姐、選んでくれない?俺に合いそうなやつ!
好いよ、素人知識でも選んでくれれば、
…前振りの割には指定が具体的で詳しいな?
へェ、俺はこういう印象なの
さてこの香水、題を付けるなら?



●翡翠に紫陽花
 百鬼夜行サアカスを小さな姿で楽しんで、元に戻れば押し寄せるのはちょっとした恥ずかしさ。一緒に楽しんだかみさまとはそこで一旦別れ、羞恥に火照った頬を冷ましがてら結・縁貴(翠縁・f33070)は招待状に示された次の場所へと向かう。
 その向かった先の近くに、サアカスの後はどうせ小っ恥ずかしい気持ちから|同行者《かみさま》とはまともに顔も合わせられまいと予測していた縁貴は、違う連れを呼び出していた。
 金色の豪奢な髪に赤いドレス、頭には紫陽花の花――楚々と立つ姿はどこかの貴族令嬢のようにも見える、美しい彼女。しかし縁貴は知っている、それが喋れば台無しになることを。いや、一層魅力が増すというのかもしれないが。
「お誘いに乗ってくれて謝謝!」
 縁貴が声を掛ければ、スマホに視線を落としていた彼女――ハイドランジア・ムーンライズ(翼なんていらない・f05950)が顔を上げる。
「や、こっちこそサンキュな。遊びの誘いは歓迎だぜー」
 飛び出した言葉は容姿に似合わずフランク極まりなかったが、不思議と彼女には似合っていた。
「なに見てたの、ハイド小姐」
「あ? これか、明日の競馬の予想」
「歪みないね……」
 いわゆるあれだ、ギャンブル狂。賭場に向かえば口調もチンピラも斯くやというアレな事になるのだが、まぁそれはそれ。今日はギャンブルではないので、そんな事にもならない筈、多分。
「で、なんだっけ? どこ行くって?」
「うん、好い店の話を聞いたんだよ、小姐に合いそうなね」
「俺に? 帝都の賭博場か何か?」
「そうだね、それも似合いそうだけどね」
 残念ながらそうじゃないと首を横に振り、こっちだよと縁貴が案内する。違うのか……と若干がっかりしたハイドランジアが気を取り直して縁貴についていけば、到着したのは小綺麗な店。
「薫香専門店……?」
「そ、夜を死と近しいものとして見るのは何処の世界も同じでしょう? 死者に香を焚くことも意味があるし、冥福を祈るには好いものが買えそうじゃない?」
「供養……まー、そうな。それ位は……」
 してもいい、かもしれない。いや、するべきなのだろう。一度目を閉じ、首をコキリと鳴らし、んじゃまぁ入るか、とハイドランジアが言えば、縁貴が恭しく薫香専門店『月下美人』への扉を開いた。
「いい店じゃん」
 パッと見まわして、ハイドランジアはここが価値ある物しか置いていない店だと察する。それは縁貴も同じようで、ふぅんと近くにあったお香に視線を向けた。
「一般向けの手軽な値段のやつもそれなりの品だね、ここ」
「いい目利きしてんなぁ、にいやん」
「それは小姐もだろ?」
 互いに色気のない視線を絡み合わせ、|にこっ《ニカッ》と笑うと違いないと頷きあった。
「さて、選ぶとすっか」
 おもむろにハイドランジアが店長に視線を向け、手を上げる。
「店長さん」
 その声掛けに頷き、店主がハイドランジアの方へと出向く。
「はいはい、何かお手伝いしましょうか」
「んじゃ、めっちゃ綺麗で大人でカッコ良い感じの美人に似合いそうなお香シクヨロ!」
「……飲み屋にいる親父か???」
 場末の飲み屋でカウンターにいる綺麗なママに『とりあえず生で、あとそれに合いそうな今日のオススメのおつまみシクヨロ!』みたいなトーンじゃん、と縁貴が耐えきれず突っ込んだ。
「ねェ、店に入るまでの下りは如何した? 小姐のそう言う処、嫌いじゃないけどさァ!」
「っせーなー、餅は餅屋っていうだろ? 店長さんを前にしちゃ、俺は素人同然ってやつなんだよ」
 やいのやいの、とハイドランジアと縁貴がやり合うのを眺め、店主がふふ、と笑う。
「仲がおよろしいのだね、綺麗で大人でかっこいい感じの美人に……似合うかはわかりませんが、此方はどうだろうかね」
 そう言って店主が出してきたのは伽羅の線香で、それも三種類。つまりは、お求めになりやすいものから少しばかり値の張るものまで、ということだ。
「どうぞ、|聞いて《嗅いで》みてくださいませな」
 なんなら火を点けてもいいと言うのを遠慮して、二人でそれぞれ香りを確かめる。
「……せーのでどれがいいか指す?」
「いいぜ」
「「せーの」」
 同時に指した先は同じ線香で、そうだよなぁという顔をする。他の二つもいい香りだが、これは段違いに香りが深いのだ。そっと箱の内側に記された値段を二人で覗き見る。
「げ」
 たっっっけぇ!!! と言うのをハイドランジアはなんとか飲み込んだ、縁貴に至ってはそうだよなぁ、という顔である。
「あー……でもなぁ、やっぱこれだよな」
「だね、さすが小姐、お目が高い」
「いやあれだ、これくらい明日の予想が当たれば」
 余裕よ、余裕、というハイドランジアに、縁貴は慈愛に満ちたような、愚か者を見るような――そんな笑みを向けるばかりであった。
 さて、ハイドランジアの買い物が終わると何気なしに二人店内を見て回る。
「香にも色々あるもんだね」
「香水に練り香水、香木に線香に……練香もあんのか。専門店っていうだけあるな」
「俺もね、嗜みはあるけれど」
 香水の前で立ち止まった縁貴がハイドランジアに笑う。
「俺のいた場所では香水まで発展してなくてね」
「あー、焚くとこ迄位か……?」
「ご明察、だから香水ってのは見当もつかないなァ……」
 ううん、と悩ましい顔をした縁貴が、そうだ! とハイドランジアを見遣る。
「ねェ小姐、選んでくれない? 俺に合いそうなやつ!」
「え、にいやんの選べって?」
 突然の申し出にハイドランジアが頭を掻いて、でもなぁと思案顔だ。
「俺はガキの頃に教わった程度で詳しくねーし、プロに任せた方が……」
「好いよ、素人知識でも選んでくれれば。俺は小姐に選んで欲しいな」
 ダメ? と小首を傾げた縁貴に、あざといな、さすがにいやんあざとい、と言いながらハイドランジアが仕方ないと縁貴をじっと見てから再び店主に向かって手を上げた。
「今から言うのちょっと聞いてもらっていい?」
「はい、お聞きいたしましょ」
「じゃー、にいやんのイメージだとー……トップノートは爽やか柑橘系で強めの。ミドルはムスク系のいっそ女性用位甘いのでラストは華やかに沈丁花。辺りで候補出して、調香やってねーなら近い印象のヤツ」
「それなら調香いたしましょ、その方がイメージにより近くなりますよ。そちらのお方をイメージされて、ですものね」
「そ、んじゃ頼むわ」
 すらすらと出てきた言葉に縁貴が目を瞬いて、思わずパチパチと手を叩く。
「……前振りの割には指定が具体的で詳しいな?」
「へ? そーか?」
 きょとんとしたハイドランジアに、縁貴が能ある鷹は、だねェと笑った。
 さて、少し待つと調香が済み、出来上がったものを店主が試香紙に含ませて渡してくれる。
「へェ、俺はこういう印象なの」
 爽やかながらに少し癖のある香りから、誘うような香りに、それからどこまでも華やかな甘い香り。
「合うだろ? さすが専門店、俺の考えたイメージ通りだぜ」
 自慢気に笑うハイドランジアに、縁貴も笑って。
「じゃあ、ハイド小姐」
「ん?」
「この香水、題を付けるなら?」
「題? 付ける程大層なもんじゃねーが……」
 それでも、付けるとするならば。
「まあ、『翡翠の空』かな」
 その題に縁貴が満足そうに笑い、合う香水瓶まで買い求めて手元に置いたのは当然の事だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

茜崎・トヲル
【モノクロフレンズ】◎

ねー!めっちゃ!いいかおり~!
おれも、おれもー!あーさんたちに、プレゼントしたい!
日頃のお礼に!ね!
(※一方でこっちは秘めないのだ!)

うーんうーん、スーさんたちは何がいいだろ~?
ラーさんも~、いっしょに嗅げるのが、いいよねえ……コロちゃんも楽しめるといいなあ……
……はっ!思い……ついた!
店員さーん!

あーさ~ん!見てみて~!
じゃーん!桃の香りのアロマキャンドルだぜ!
色合いもかわいーし、これならさ、コロちゃんも目で楽しめるよねえ

えっ、スーさんからおれに?
え~~ありがとうすげーうれしい!部屋でシュッてしよ~!


スキアファール・イリャルギ
【モノクロフレンズ】◎

おぉ…良い香りがしますねぇ
折角ですしトーさんに何かお贈りしたいです
(日頃のお礼に、という言葉は秘めるのです
(「お礼なんていいのに!」って言うでしょうから

でも…悩みますね
以前アルダワでトーさんをイメージした練り香水を作りましたし…
(暫し悩む中、ひかりとねこさんが助言!
なるほど…ヨシ

…桃の香り!
わぁ、見た目もかわいらしい
これはリラックスできますね、ありがとうトーさん
(ひかりもねこさんも嬉しそうだ!

私は桜色のお香を選びました
香りは記憶を呼び起こすことがあると言います
私たちは幻朧桜の香りを嗅ぎ慣れていますが
楽しいことをした日の桜の香りは、特別な香りになるのでは…と思いまして



●楽しい思い出を香りに灯して
 サアカスでの楽しい思い出を抱えたまま、スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)と茜崎・トヲル(Life_goes_on・f18631)、それからラトナとコローロが夜道を歩く。楽しかったね、すごかったね、と感想を言い合いながら到着したのは薫香専門店『月下美人』と看板を掲げたお洒落なお店。
「帝都ってー、シャレオツなお店が多いけど、ここもかっこいーね! あーさん!」
「本当ですねぇ、とても洒落た店かと」
 大正浪漫を意識した外観に、大きな扉。中もそれなりに広そうで、さっそくと中へと入る。
「おぉ……どことなく良い香りがしますねぇ」
「ねー! もっとこう、色んなかおりがまじってっかと思ったけど、そんなことないね! めっちゃ! いいかおり~!」
 乱雑に交じり合った香りかと思いきや、仄かに香るそれは心が落ち着くような花の香りだ。
「コホン、トーさん」
「なーにー? スーさん!」
 軽く咳払いをし、改めてトヲルの名を呼んだスキアファールに、目をキラキラさせながらトヲルが振り向く。
「折角ですし、トーさんに何かお贈りしたいのです」
 日頃のお礼に、とは言わずにスキアファールがそう言った。
 もしも口にしたら、きっと彼は『お礼なんていいのに! おれが好きでしてるんだしー、いっしょにいると楽しいしー!』と言うでしょうから、とスキアファールが口許に笑みを浮かべる。
 一瞬きょとんとして、おれに? 何か? と言われた言葉に目を瞬いたトヲルが合点を得たようにパァっと笑う。
「おれも、おれもー! あーさんたちに、プレゼントしたい!」
「おや、トーさんもですか?」
「うん! 日頃のお礼に! ね!」
 一方こちらはとっても素直で思ったことは基本的に口にする|彼《幼女》なので、秘めずにそのまま口にした。
 なんて良い案なんだろー! と、にこにこしているトヲルに『お礼なんていいですよ』なんて口にはせずに、スキアファールはありがとうございます、楽しみですと嘘偽りなく笑うのだった。
 互いの物を互いの為に選ぶのであれば、ここは別々に行動だとトヲルがあっちを見てくると離れていくのを見送り、スキアファールもトヲルの為の香りを選ぼうと店内を歩き出す。
「でも……悩みますね」
 ううん、と眉間に皺を寄せ、スキアファールが何を送ろうかと悩む。
「以前アルダワでトーさんをイメージした練り香水を作りましたし……」
 時折付けてくれている、グレープフルーツと太陽のような香りの練り香水。
「あれ以上にトーさんに似合う香り……」
 あるだろうか、そんな香りと思いつつ、あれこれと嗅いでみるけれどピンとこない。
「このままだと朝になりそうですね……」
 なんて、スキアファールが悩んでいるとスキアファールの肩に乗っていたラトナが、その肉球をむにっと頬に押し当てた。
「ど、どうしました、ラトナ」
 こんなところで突然のご褒美……!? と、にやけそうになる頬を押さえているとコローロが助言するかのようにピカピカ、キラキラと光ってスキアファールの近くにある物の周囲を飛んだ。
「ラトナ……コローロ……私に助言を……!」
 勧められたそれを手にし、香りを確認する。
「なるほど……ヨシ」
 これにしよう、とスキアファールが頷いた。
 一方、スキアファールから離れてどれがいいかと探していたトヲルもまた、彼と同じように悩んでいた。
「うーんうーん、スーさんたちは何がいいだろ~? 香水? お香? アロマオイル?」
 どれも何だかしっくりこないし、どうせなら。
「ラーさんも~、いっしょに嗅げるのが、いいよねえ……それから、コロちゃんも楽しめるといいなあ……」
 だって、スキアファールにとってラトナもコローロも大事な家族だ、それならばトヲルにとっても大事な友達だ。
「香りもよくて~、見た目も楽しくて~……はっ! 思い……ついた!」
 まるで前世を思い出したラノベの主人公かのように、トヲルがじっと自分の手を見て呟く。
「そうと決まればー、店員さーん!」
 はい! と手を挙げて呼べば、店主がはいはいとトヲルの方へやってくる。
「あのねー、こういう……そんでこんな……ある?」
 こしょこしょと、内緒話をするような声でトヲルが言うと、ございますよと店主が笑った。
 互いに望む物を手に入れて、相手を探せば目が合って。
「あーさ~ん!」
「トーさん!」
 たたたっと駆け寄れば、トヲルが満面の笑みでスキアファールに自分が見つけた素敵を差し出した。
「見てみて~! じゃーん! 桃の香りのアロマキャンドルだぜ!」
「……桃の香り! わぁ、見た目もかわいらしい」
 綺麗なセロファンにラッピングされたアロマキャンドルは見た目もまるで桃のゼリーのように可愛らしく、桃の花や花弁が外側に綺麗に配置されたもの。
「でしょー!? 色合いもかわいーし、これならさ、コロちゃんも目で楽しめるよねえ」
「はい! さすがトーさんです、これならきっとラトナもコローロも気に入りますし、リラックスできますね!」
「スーさんは?」
「私? 当然気に入りました!」
「やったー!」
 スキアファールが気に入ったと微笑むと、トヲルも嬉しそうに笑う。
「では、私からはこれを」
「えっ? あーさんからおれに?」
「おっと、私とラトナとコローロからですね」
 そう笑いながらスキアファールが渡したのは桜色のお香。勿論、香りも桜をイメージしたもの。それから、お香を立てる為の桜の花をイメージした香炉だ。
「香りは記憶を呼び起こすことがあると言います」
「えっと、なんだっけ。きゅうりとー、カイワレが密接に関係してるとかなんとかー?」
「嗅覚と海馬ですね、トーさん」
「そう、それ!」
 それ、と手を打ったトヲルに笑い、スキアファールが続ける。
「私たちは幻朧桜の香りを嗅ぎ慣れていますが、楽しいことをした日の桜の香りは特別な香りになるのでは……と思いまして」
「……さっすがスーさん! え~~ありがとう、すげーうれしい!」
 帰ったら、部屋で焚こうとトヲルがウキウキとして言う。
「それならきっと、ナンナさんも喜びますね」
「うん! ナナさんもきっと気に入るよね!」
 帰るまでがお出掛けだけど、帰るのも楽しみになってしまったとスキアファールとトヲルが楽しそうに笑い合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
香の専門店か。店名も洒落ていて店構えもセンスがいい。
店の扉を開けると澄んだ鈴音と共に香が迎えてくれる。
店内の雰囲気は古書店のようで私にはとても心地がいい。
私の身体を包むような香の匂いも控えめでいい感じだ。
露は相変わらずだが通路は広く並んでも僅かに余裕がある。
「少し騒がしくなってしまいすまないが…よろしく頼む」
店主に二人分の招待状を見せてから店内を巡ろうと思う。

一つ一つゆっくりと時間をかけて上から下まで見ていこう。
時々横の露が煩いが…まあ。興奮するのは少し解る気がする。
…ん。この香木の匂いは読書の時にいいかもしれないな…。
紅茶の匂いもいいが偶に香を燻らせての読書もいいかもしれない。
それに寝室で香の香りの中で睡眠をとるのも中々にいいかもな。

香炉と幾つかの香木の購入を考えたが初心者だからわからない。
店主に香木の選択や使用の方法を聞いて購入の参考にしようか。
「…ふむ。なるほど。ならば、これとこれと…これもかな」
袋に包んで貰い私は満足だ。帰宅後に早速使用することにしよう。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
サアカスは賑やかだったけど今度は静かなところね。
お店の雰囲気はなんだかレーちゃんに似てる気がするわ。
静かにひっそり佇むところとか夜だけの営業だからかしら?
「綺麗なお店の名前ね。…名前もレーちゃんみたい♪」
とにかくお店の中に入って店主さんに挨拶するわよ♪
とっても素敵な店内…ってあたしそんなに煩くしないもん!

レーちゃんが丁寧に見てる横であたしも真似して見てみるわよ。
…へー。炉の形がそれぞれ違うみたいね。可愛い形のが多いわ♪
…へー…。香木って凄く種類があってとっても面白いわね~。
…へー……。お線香の形の香は淡い色でとっても可愛いわ~♪
「あ! 『白梅香』って戦巫女のお友達の技名と同じだわ~」
…素敵よね。あたしもお香にちなんだUC考えてみようかしら…。

レーちゃんは隣で読書がどーの。寝る時がどーの言って考えてて。
確かにこんな素敵な匂いの中で寝られるなんてとっても素敵よね。
レーちゃんとお香の匂いに包まれて…なんだかいい夢見れそう♪
…!お風呂の時にもこんな香だったら素敵よね!



●香る楽しみ
 百鬼夜行サアカスの賑やかさを楽しんで、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)が次にやって来たのは薫香専門店と呼ばれるお店。
 招待状を手にした露が白い便箋に記された店の名前、『月下美人』という文字と看板の文字を見比べて、ここだわ! と声を上げた。
「サアカスはとっても賑やかだったけど、今度は静かなところね~」
「香の専門店か」
 サクラミラージュらしい、大正浪漫溢れる和と洋の調和が成り立った建築物はシビラの興味を引いたようで、ほぅ……とシビラが建物を見上げる。
「店名も洒落ていて店構えもセンスがいい」
 満足そうな顔をするシビラをちらりと眺め、露はなんだかこのお店、レーちゃんに似ている気がするわと思う。
「どこが……ううん、雰囲気かしら……静かにひっそりと佇むところとか、夜だけの営業だからかしら?」
 思わず声に出ていたその言葉を聞いて、シビラが軽く首を傾げて露を見遣る。
「何の話だ?」
「え、ううん、素敵なお店ねって思って! 月下美人って名前も素敵だわ」
「ああ、夜に咲く花だな」
「……名前もレーちゃんみたい♪」
「私みたい?」
 字数も響きも全く違うが、とシビラが怪訝そうな顔をすると、露がそうじゃないわ! と彼女の腕にくっついた。
「月の下の美人ってことよ♪」
 うふふ、と笑いながら露が入りましょう! と、またわけのわからない事を……という顔をしたシビラを引っ張って店の扉を開けた。
 開けた瞬間に二人を迎え入れたのは扉に掛かった鈴が揺れる音と、控えめな花を思わせる僅かな香り。
「こんなにたくさんの香りがあるのに、お店の中の香りは混じってないのね。すごいわね、すごいわね♪」
「ふむ……もっと雑多な香りがするのかと思ったが、そんなことはないのだな」
 商品の配置か、空調か、はたまたそういう力を働かせているのか――それとも、その全てか。そこまではわからなかったけれど、シビラには心地いいと感じる香りだ。
 店内の雰囲気は古書店のように静かで、歴史あるようなものから最新のものまでと、置いてある品物も二人の目を楽しませる。
「露、邪魔になるからくっつくな」
「え~いいじゃない。お店の中も広いし、ぶつかりそうになったら離れるわ♪」
 二重の意味で邪魔と言ったのだけれど、伝わるわけもなかったな……とシビラが諦めたように店主の方を向き、招待状を見せた。
「いらっしゃい、ゆっくり見ていっておくれね」
「はい!」
 元気よく返事をした露に店主が笑うと、シビラがすまなさそうに頷く。
「少し騒がしくなってしまいすまないが……よろしく頼む」
「とっても素敵な店内で……って、あたしそんなに煩くしないもん!」
 心外だわ、と頬を膨らませた露の横で、やっぱり煩いじゃないかとシビラが小さく息を零してから、気を取り直して店内を巡り出した。
 一つ一つ、店内をじっくりと見て回ろうと決めたシビラの動きはゆったりとしたもので、露はそんな彼女を急かすことなく同じように品物を見てみようと真似するように動く。
「……へー。香炉の形がそれぞれ違うみたいね。可愛い形のが多いわ♪」
 それでも、黙っているのは無理だったようで気になる物があるとシビラの腕を引いて、見て見てと笑う。
「用途に寄って違うのだろう」
 線香を立てる為の|香立《こうたて》や、円錐状のお香を置く香立、そのどちらにも対応するような香炉。更にはデザインにも幅があり、素材も陶器やガラスに金属製のものなどと様々だ。
 部屋の雰囲気に合わせて購入できるのも魅力なのだろう、露が興奮するのも少しは解る気がする……とシビラが自分の腕を引っ張る彼女に諦めたような表情を浮かべ、露に引かれるまま歩く。
 次に向かったのは香木のあるコーナーで、香木がランクによって段違いに置かれていた。
「……へー……。香木って凄く種類があると思ってたけど、三種類しかないのね? 三種類しかないのに、こんなに色々あってとっても面白いわね~」
 香料として使用される香木は伽羅、沈香、白檀と呼ばれる三種類の木材で、比較的手に入れやすい値段のものから目の飛び出るような高額なものまでと千差万別。勿論、値段に応じて香りの深みや重さが全く違うというのだから侮れない。
「……ん。この香木の匂いは読書の時にいいかもしれないな……」
「えっと……伽羅? わ、いい香り♪」
 三種の中でも一番希少と言われるランクの高いもの、値段もそれなりだけれど一度気に入ってしまえば他の物は比べようもない。
「買うの? 買うの?」
「とりあえず、候補に置いておこう」
 香木もいいが、手軽に扱えそうなお香も気になるとシビラがお香の並ぶ棚へと足を向けた。
 お香には線香と円錐状のものがあり、香りの種類も様々だ。
「……へー…………。お線香の形の香は淡い色でとっても可愛いわ~♪」
 香りの名にちなんだ色をしたものも多く、パステルカラーの物から原色までと目にも鮮やかで露があちこちに視線を向ける。
「あ! 『白梅香』って戦巫女のお友達の技名と同じだわ~」
 どんな香りなのかしら、とお香に鼻先を近付けてみれば、優しい甘さとどことなく梅の香りがして、まるでお友達みたいだわと露が微笑む。
「……素敵よね。あたしもお香にちなんだUC考えてみようかしら……」
 露が気に入る香りで、名も素敵なお香……と視線を彷徨わせる横で、シビラは先程の香木と同じ名を持つお香に興味を持ったようであれこれと眺めていた。
「……ふむ、香木を原料の中心にして他の原料と混ぜて作ったものがお香というわけか。奥が深いな……」
 これだけ種類があれば気に入る香りも幾つかあるだろうと、幾つか香りを|聞いて《嗅いで》は表情を和ませる。
「紅茶の匂いもいいが偶に香を燻らせての読書もいいかもしれない。それに寝室で香の香りの中で睡眠をとるのも中々にいいかもな」
 好きな香りに包まれての読書は捗りそうだし、相性のいい香であれば質のいい睡眠を取れるだろうとシビラが安眠向けの香を手に取った。
「レーちゃんは本当に読書が好きねぇ……あ、でもでも、寝る時はいい案だわ♪」
 確かに、こんなに素敵な香りに包まれて眠れば、どんなに素敵だろうか。良い夢が見られる気がすると露が言ってから、ハッと何か気が付いたような表情でシビラを見た。
「レーちゃん!」
「なんだ、露。声が大きい」
「あ、ごめんなさい! あのねあのね、寝る時も素敵だけど、お風呂の時にもこんな香りだったら素敵よね?」
「風呂の時か……それもありだな」
「そうよね♪ そうよね♪」
 シビラが肯定してくれたのが嬉しくて、露がにこにことお香を選び出す。
「……やれやれ」
 そちらは露に任せた、とシビラは香炉と幾つかの香木を購入しようと決め、店主に声をかけた。
「すまない、いいだろうか」
「はいはい、何でございましょう」
 初心者ゆえに、香木と香炉の使い方がよくわからないことや、どう選ぶのがいいかなど質問すれば店主がシビラの悩みを解決するように一つ一つ丁寧に答えてくれる。
「……ふむ、なるほど。ならば、これとこれと……これもかな」
「ふふ、お目が高くていらっしゃる」
 香木を聞き比べ、やはり最初に良いと思ったものに決めたシビラに店主が微笑む。
「これくらいになりますが……」
 そう言って、店主が算盤をちょいと弾いて、紙にそっと値段を記す。
「構わない、包んでくれるか」
「はい、ありがとうございます」
 少しばかり値は張るが、これくらいならばとシビラが満足そうに包んでもらった品を手にして露を見遣る。
「露、決まったか?」
「えっと、うん、決まったわ~♪」
 露が選んだのは桜のお香と金木犀のお香などの甘やかな香りのものと、ラベンダーの爽やかで落ち着いたもの。香炉と一緒に手にするとシビラに続いてお会計を済ませ、同じように満足そうな笑みを浮かべた。
「楽しみね、レーちゃん!」
「そうだな、帰宅後に早速使用することにしよう」
 選んだ香りはどれもきっと、互いの好みに合うものばかりのはず。店主に礼を言うと、心なしか軽い足取りで二人は岐路に就くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【花結】
招待状を店主に明かし
とりどりの香を吸い込めば
夢見心地にもなるもので
素敵だ、と重ねる言葉も夢うつつ

薫香も道具も沢山あるんだね
好奇で見回し、眺めるうちに
思いついたように、ふと君へ
練り香水のやわい香であれば
君の鈴蘭の香も隠れないかな
なんて、悪戯に耳裏撫ぜて
跳ねる身に笑って、離して
矢張り部屋に漂うくらいがいいか
抱いたときに香る花が好きだから
――ふふふ、君が隠れてしまった

いとしさに頬緩むまま、歩めば
香炉の美しい意匠に感嘆漏らし
ああ、初めて見た――綺麗だね
ひとつ、を選ぶのは至難だが
とびきり素敵なのを見つけよう
ふたりの寝室に招きたいからね
白が昇れば更に幻想的だろうな

そうして、ひとつを選べても
肝心の香は更に悩ましくあって
ティル、気になるものはある?
花香に香木、何れも好ましくも
君指すふたつにこそ喜色が滲む
でも、物足りなくあるかな
鈴蘭の香も忘れず迎えておくれ

おや、心地だけと限らず
僕は君を包み抱くけれど
恒なら裡に抱えて香る白花に
包まれゆくのは心地良いだろう
きっと良い夢路をゆけるね
一緒ならば、いっそうに


ティル・レーヴェ
【花結】
招待状を手に店内に入れば
身を包む薫り達
ひとつひとつも混ざりゆくも素敵ね
夢見るような彼の姿にも目を細め

ほんとう!
香りも見目もとりどりで
並び歩く店内を
惹かれる儘に眺めていれば
――!
耳裏に齎される擽ったさに
身も羽先もぴくりと跳ねて
も、もぅ
甘やかな悪戯にじぃと視線を向けつつも
悪戯な指先も続く言葉も――すきだから
朱混じる頬と耳隠すよにその腕にぎう

そうして身を寄せながら
彼の声に視線向ければ数多の香炉
あなたは香炉、初めて?
どの意匠も拘り詰まって素敵がたくさんね
ふたりの閨に合うのは何れかしら
ええ、燻る様も楽しみね

妾が気になるもの?
そうね、花香に香木どれも好きだけれど
惹かれるのはやっぱり
沈丁花に……ライラック
告げた詞で染まるあなたの喜色に笑みながら
物足りないと聞けば瞬くも続く言葉に綻んで
ええ、そうね
忘れず添わせてくれて、うれしい

ね、優しく香って落ち着く煙
ふわり淡き白に満たされる閨は
愛しく香る雲のよなあなたに
包み抱かれる心地にもなるかしら
なんて
ええ、素敵な素敵な夢路の先も
そこから醒めても
ずっと一緒よ



●交わる香り
 サアカスの喧騒をあとにして、二人が向かうのは招待状に記された最後の場所。
「薫香専門店?」
「様々な香りを扱っているようだね」
 招待状の文字を読み上げたティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)に、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)が頷いて答える。
「夜にしかお店を開いていないなんて、店名の通りなのね」
 月下美人、それは夜にしか咲かないとされる花の名前だ。
 夜闇に白く浮かぶように咲く美しい花を思い浮かべながら桜舞う夜道を歩けば、目的の場所まではすぐだった。
「月下美人……ここね!」
 大正浪漫溢れる建物に掲げられた、月下美人という看板を見上げてティルが微笑む。
「思ったよりも広そうだね、入ってみようか」
 扉を開ければドアベルがチリンと鳴って、店主と思しき女性が招待状を手にしたライラックとティルに視線を向け、いらっしゃいと声をかけた。
「どうぞ、ごゆっくり」
 その声に誘われ二人が店内へと入れば、目にも鮮やかな香に様々な形をした香水瓶が目に入る。それと同時に、どこか懐かしいような初めて知るような、僅かに香る花の香り。
「ふふ、いい薫り」
 もっと雑多な香りがするのかと思えば意外とそうでもなく、不思議ねとティルが目を瞬く。
「空調か、管理が行き届いているのかな」
 はたまた不思議な力かもしれないよ、とライラックが言うとティルも頷いて、そっちの方が素敵ねと二人視線を重ねて笑った。
「薫香も道具も沢山あるんだね」
「ほんとう! 香りも見目もとりどりだわ」
 気になった香に触れ、軽く|聞いて《嗅いで》は目を閉じて。
「まるで花畑にいるような心地だね」
 個々の香りもいいけれど、少しずつ混じるようなこの感覚もいい。まるで夢見心地のような……と香に感じ入るライラックの姿は夢見るよう。そんな彼の姿に優しく目を細め、ティルが精細な香りを聞きわけるように息を吸い込んだ。
「ひとつひとつも、混ざりゆくも素敵ね」
「ああ、素敵だ」
 閉じた目をゆっくりと開いて、ライラックが今目覚めたかのようにティルに微笑む。
「他の素敵も見に行こうか」
「ええ!」
 店の奥の方には香水や練り香水、それと様々な香水瓶が並んでいて、好きな香りを好きな容器に閉じ込めることができるのだと案内が書かれている。
「香水瓶だけでも色々あるのね、とっても素敵」
 繊細な硝子細工から、シンプルなもの。それからアトマイザーと呼ばれる携帯用の香水ボトルなどもあり、気になった香りを少量購入する事も出来るようだ。
「アンティーク風のものから、現代的なものまで……品揃えもいいね」
 手軽に楽しみたい人や本格的に楽しみたい人にも対応している、店主の細やかな心遣いが見えるようだとライラックが感心したように言い、ふと思いついた様に練り香水を手に取った。
「ねえ、ティル」
「なにかしら?」
 熱心に香水瓶を眺めていたティルがライラックが呼ぶ声に振り向けば、思ったよりも彼が近くて動きを止める。
「練り香水のやわい香であれば、君の鈴蘭の香も隠れないかな」
 手にした練り香水を見せながら、ライラックの指先がティルの耳裏を柔く撫でた。
「――っ!」
 その悪戯な指先に、ティルの身も羽先までもがぴくりと跳ねる。
 じわりと体温が上がるような指先の感覚に、ティルがライラックへ視線を向ける。
「も、もぅ」
 うう、と唸るような声が出たけれど、ライラックから向けられる視線も情も、悪戯な指先も続く言葉も――全てがすきだから、ティルはただ彼を見上げた。
「ふふ、なんてね」
 跳ねたティルの身と甘やかに揺れる視線に笑みを浮かべて、指先を離す。
「矢張り身に付けるよりも、部屋に漂うくらいがいいかな」
「ど、どうして?」
「君を抱いたときに香る花が好きだから」
 微笑むライラックの瞳には隠す事のないティルへの愛情が浮かんでいて、ティルはまたひとつ体温が上がった気がして染まる頬と耳を隠す様に、彼の腕にぎゅうとしがみついた。
「――ふふふ、君が隠れてしまった」
 ティルの髪に揺れる鈴蘭もどこか恥ずかし気に揺れているようで、宥めるようにライラックが彼女の艶やかな髪を撫でる。その優しい手につられてティルが顔を上げればライラックの優しい瞳が見えて、それだけでティルは全てを許してしまったように笑みを返した。
 自分に身を寄せたまま歩くティルは可愛らしく、こみ上げるいとしさに頬を緩めながらライラックもゆっくりと店内を歩く。ふと向けた視線の先には細やかな意匠の香炉があって、思わず足を止める。
「香炉……」
 感嘆をのせたその声に、ティルが視線を向ければ数多の香炉が棚を埋め尽くす様に飾られていて、ティルがライラックを見上げた。
「あなたは香炉、初めて?」
「ああ、初めて見た――綺麗だね」
 和風のものから中華風のテイストを持つもの、洋風のデザインを取り入れたものにエキゾチックなものまでと、思わず目移りしてしまうとライラックが笑う。
「どの意匠も拘りが詰まって、素敵がたくさんね」
「この中からひとつ、を選ぶのは至難だね」
 これがいいだろうか、と手を伸ばした隣の香炉も、その隣の香炉も、どれも素敵なものばかり。贅沢な悩みだけれど、ひとつに決めないとねとライラックがティルに視線を向けた。
「とびきり素敵なのを見つけよう」
「どこへ飾るの?」
 飾る場所に似合うものがいいのではないかしら、とティルが助言を呈すると、ライラックが柔らかく目を細める。
「僕と君の、ふたりの寝室に招こうと思っているんだけれど、どうかな?」
「……素敵!」
 ふたりの為と聞いて、ティルが香炉を吟味するようにひとつひとつ眺めていく。
「ふたりの閨に合うのは何れかしら」
 和も、中も、洋も、どれもいいように思えてティルが悩まし気な溜息をついた。
「白が昇れば更に幻想的だろうな」
「ええ、燻る様も楽しみね」
 花と灯りに満ちた煉瓦のおうち、その寝室に飾る大切な香炉。時間をかけてやっと互いの好みにも合い、寝室にも合うであろう香炉を選べば、次はどの香を選ぶかという難題が二人を待ち受けていた。
「ティル、気になるものはある?」
「妾が気になるもの?」
 ここまで共に見て、|聞いて《嗅いで》きた全てをティルが思い浮かべる。
「そうね、花香に香木どれも好きだけれど」
「そうだね、何れも好ましかった」
 頷くライラックを見つめ、少しだけ考えるとティルが最初に良いと思った香りを口にする。
「惹かれるのはやっぱり沈丁花に……ライラック」
 あなたの名前と同じ花の香り、と声にはせずに瞳だけで笑う。自分が口にしたふたつの香りに、ライラックの顔に喜色が滲めばティルの笑みも咲いて。
「でも、物足りなくあるかな」
「物足りない?」
「ああ、鈴蘭の香も忘れず迎えておくれ」
 ぱちり、と瞳を瞬いた彼女にぱちんとウィンクと願いをひとつ。
「……ええ、そうね。忘れず添わせなくてはね」
 あなたと妾の香だもの、と嬉しさを隠さずにティルが頷いた。
 そうして探しぬいた香のひとつを試させてもらうと、白く細く香る煙がゆうらりと立ち昇る。
「いい香りだね」
「ね、優しく香って落ち着く煙だわ」
 この香で満たされた閨なら、もしかしたら愛しく香る雲のようなあなたに包み抱かれる心地にもなるのかしら? なんて疑問をティルが口にすると、ライラックがくすりと笑う。
「おや、心地だけと限らず僕ならば君を包み抱くけれど」
「ふふ、たとえだわ」
 ぎゅう、とティルがライラックに抱き着いて、二人で笑う。
「そうだね、恒なら裡に抱えて香る白花に包まれゆくのは心地良いだろう」
 裡から香る白花が一番いい香りなのは譲れないけれど、とライラックがティルの瞳を覗き込む。
「きっと良い夢路をゆけるね。一緒ならば、いっそうに」
「ええ、素敵な夢時の先も、そこから醒めても、ずっと一緒よ」
「ずっと?」
「ずっと!」
 くすくすと笑い合い、花と灯りに満ちた二人の家へ帰ろうと、互いの身を寄り添わせて星の瞬く夜へと足を踏み出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
【月光】◎

月下美人!
キレイなお花よね
あのお花を冠する香水屋さん、楽しみ!
ゆぇパパと手を繋いで

わっ、色んな良い香り!
お線香、これから香りがするなんてフシギだし
香炉は器の形もかわいい
方法は違えど皆良い香りを楽しみたいのね

うん、香水作りたい!
世界で唯一の香りね
これ良い香り、あっでも彼方も
うう、もう何が何だか分からなくなってるかも
そうね、お花の香りってあるかな
パパの好きな香りも教えて?
キキョウ!ステキなお花ね
ルーシーはね
勿忘草と、もちろんヒマワリ!

数多ある香りの中から
試しては選ぶ
宝探しみたいで楽しい

完成したのは
最初は桔梗をイメージ
落ち着いた、上品であたたかく仄かに甘い香りが昇り
最後は夜も月明かりをあびて咲くヒマワリのような、
穏やかで凛とした香りに

白金飾りの硝子瓶につめて
これで完成

パパ、出来たわ!
!ルーシーが?いいの?ありがとう!
早速つけてみていい?
爽やかであまい
蒼天のヒマワリ畑が見えるよう
良い香り……ルーシー、これ大好き
毎日つけたくなっちゃう

こちらもどうぞ!
パパだけの香りよ
えへへー、うれしいわ!


朧・ユェー
【月光】

月下美人?
薫香専門のお店?
沢山の香があるみたいですよ
彼女と手を繋ぎ、店の中へ

入ったすぐに色んな香りが漂う
嫌な感じは無く、癒される雰囲気

匂いにも色々あるようです
瓶の香水にこの棒みたいなのがお線香、こちらの入れ物に入るのが香炉みたいです
地域や場所によって匂いがするものは違ったりするのですよ


なるほど、自分好みに調合出来るのですか
香水を作ってみますか?
こうやって匂いを嗅いで好きな匂いを合わせていくのですよ
あぁ、嗅ぎすぎると途中で訳がわからなくなると思いますので
欲しい匂いがありましたら近いのを見つけますからね
好きな花ですか?桔梗でしょうか?
ルーシーちゃんは?
どちらも素敵な花ですね

爽やかな匂いや甘い匂い
小さな黄色の瓶に詰めて

爽やかな太陽の向日葵の匂いと後から来る甘酸っぱい匂い
ルーシーちゃんとの想い出と似合いそうな匂い

ルーシーちゃんコレをどうぞ
お好きな時に
それは良かったです

僕に?
ふふっ、涼やかな甘い香に爽やかさ
夜空に向日葵が咲きている様
一緒は嬉しいですね
とても好きな匂いです
いつも使いますね



●太陽と月が巡るように
 月下美人といえば、夜に咲く美しい花として有名な名前。
 そんな素敵な名前を招待状の中に見つけ、ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)を見上げて、見て! と便箋を差し出した。
「月下美人?」
「ええ、月下美人よ! キレイなお花よね。ええと、薫香……専門店? のお名前なんですって」
「薫香専門のお店……? ああ、香水などの香を扱うお店ですね」
 便箋を手にし、ユェーがふむふむと頷く。
「沢山の香があるみたいですよ。香水だけじゃないようですが」
「あのお花を冠する香水屋さん、楽しみ!」
 ユェーと繋いだ手を引いて、楽しそうにルーシーが笑う。
「そうですねぇ、どんなお店なのか楽しみです」
 賑やかなサアカスから一転、今夜の締め括りにゆったりとした時間を過ごすのも楽しそうだと二人で桜の舞う夜道を歩けば、街灯の先に並ぶ店の中、ひとつだけ灯りのついたお店が見えた。
「あそこかしら?」
「そうみたいですね、ほら」
 店に掲げられた看板には『月下美人』の文字、ショーウィンドウには香炉が飾られている。
「素敵なお店ね」
「サクラミラージュらしいお店の作りですね」
 大正浪漫溢れる店構え、窓から見える店内もアールデコ調で嫌味のないすっきりとした雰囲気だ。
「外から見ても素敵なら、きっと中も素敵ですよ。入りましょうか、ルーシーちゃん」
「ええ、いきましょう!」
 繋いだ手を楽し気に揺らし、ルーシーが足を踏み出すとユェーがその歩みを妨げないように扉を開ける。ちりん、とドアベルが鳴り、店主が顔を上げて二人へいらっしゃいと声を掛けた。
「お邪魔します!」
「こんばんは、中を見せて貰っても?」
 招待状を見せながら言うと、店主が鷹揚に頷いて自由に見て行ってくださいなと微笑んだ。
 中へと入れば、仄かに鼻腔を擽る花の香。もっと雑多に香りが交じり合っているのかと思っていたユェーは軽く目を瞬かせる。
「いい香りですね、ルーシーちゃん」
「ええ、とっても! 色んな良い香りが混じってるのかしら、でもひとつのような気もするわ」
「言われてみれば……不思議ですねぇ」
 たったひとつの香がしているような、それでいて複数の香のような。嫌な感じはせず、癒されるような香りだとユェーが柔らかく笑んでルーシーに何が見たいかと問い掛けた。
「色々見てみたいわ」
「勿論いいですよ」
 可愛い娘の願いを叶えようと、まずは近くにあった線香から。
「この細い棒みたいなのがお線香ですよ」
「これがお線香……! 触ったら折ってしまいそうだわ」
「ええ、折れやすい物ですが優しく扱えば大丈夫ですよ」
「色んなお色があるのね、これから香りがするなんてフシギ!」
 線香自体からも香りがしている、とルーシーが興味深げに鼻先を軽く近付ける。
「この線香立てに立てて、火を点けて楽しむんですよ」
「まぁ、火を?」
「煙が広がって、部屋に良い香りが満ちるのだったかと」
「良い匂いのする煙……!」
 線香から立ち昇る白い煙を想像して、ルーシーが瞳を煌かせて頷く。
「ゆぇパパ、これは? お線香と似ているけど、形が違うわ」
「これはお線香と形が違うだけで、同じものですね」
 円錐型のお香を指さしたルーシーにそう答え、ユェーが近くにあった香炉を示す。
「こちらの入れ物……香炉に入れて楽しんだりするようですよ」
「香炉! 器の形が色々あるのね、かわいいのも綺麗なのもあるわ」
 メリーゴーランドの形をしたもの、花の形をしたもの、緻密な細工がされた中華風のもの――言い出せばキリがないほど様々な形の香炉があって、ルーシーの声が弾む。
「地域や場所によって、匂いがするものは形や楽しみ方が違ったりするのですよ」
「方法は違えど皆良い香りを楽しみたいのね」
「ふふ、ルーシーちゃんは理解が早いですねぇ」
 その通りですよ、とユェーが微笑みながらルーシーの手を引いて香水の置いてある方へと向かう。
「こちらはルーシーちゃんにも馴染みがあると思いますよ」
「香水!」
 こちらも香炉に負けず劣らず、様々な香りを閉じ込めたものが所狭しと並んでいる。香水瓶も多く種類があり、一点物も多く見受けられた。
「こちらでは……なるほど、自分好みに調合出来るのですか」
「好きな香りが作れるの?」
「ええ、香水を作ってみますか?」
「うん、香水作りたい!」
 オリジナルの香水ができると聞いて、ルーシーが俄然張り切った声を上げてユェーを見上げる。
「では、一緒に作っていきましょうか」
「世界で唯一の香りね、頑張るわ」
 店主に声を掛け、簡単に説明してもらうと二人でどんな香りにしようかとあれこれと香水の香りを|聞いて《嗅いで》いく。
「こうやって匂いを|聞いて《嗅いで》好きな匂いを合わせていくのですよ」
 店主の説明とユェーの知識に頼りながら、ルーシーが好みの香りを探そうとあれこれと|聞いて《嗅いで》は香りを選別する。
「これ良い香り、あっでも彼方も」
「あぁ、ルーシーちゃん」
 名を呼ばれ、顔を上げたルーシーが小首を傾げてユェーを見て、どうしたのと問う。
「|聞き《嗅ぎ》すぎると途中で訳が分からなくなると思いますので、欲しい匂いがありましたら近いのを僕が見つけますからね」
「うう、もう何が何だか分からなくなってるかも……!」
 どれも良い香りなの、と言うルーシーにユェーが笑い、お手伝いしますと頷いた。
「そうね、お花の香りってあるかな?」
「お花ですか? 色々あると思いますよ」
 色々……と視線を巡らせ、ルーシーが唇を開く。
「あのね、パパの好きな香りを教えて?」
「僕の好きな花ですか? そうですね……桔梗でしょうか?」
「キキョウ! 素敵なお花ね」
 青紫の星型をした可愛らしい花だとルーシーが笑うと、ユェーがルーシーちゃんは? と聞き返す。
「ルーシーはね、勿忘草と、もちろんヒマワリ!」
「ふふ、どちらも素敵な花ですね」
「ええ、大好きよ!」
 作りたい香りのイメージが鮮明になったと、ルーシーが再び張り切って数多ある香りの中から近しい匂いを探し、試しては選んでいく。そんな彼女をサポートするようにユェーがこれはどうですか? と渡し、その合間に自分が求める香りを探し出す。
「なんだか宝探しみたいで楽しいわ!」
「宝探し、確かにそうかもしれませんね」
 全てが素敵な香りだけれど、自分の作りたいものに合わせて選ぶのは宝探しのようだとユェーが笑いながら、爽やかな匂いに甘い匂いと選び抜いた香りを小さな黄色の瓶へと詰め込んでいく。
「素敵な宝物になりますように」
 小さく願うようにルーシーが言葉と共に白金飾りの硝子瓶へと詰めるのは、桔梗をイメージした香り。それから、夜も月明かりを浴びて咲くヒマワリのような――。
「パパ、出来たわ!」
「ルーシーちゃんもですか? 僕も出来ましたよ」
 二人同時に見つけた宝物ね、と喜ぶルーシーへ、ユェーが出来上がったばかりの小瓶を差し出した。
「ルーシーちゃん、コレをどうぞ」
「! ルーシーが? いいの?」
「ええ、ルーシーちゃんの為の香りです」
「ありがとう!」
 パァッと顔を輝かせ、ルーシーが渡された小瓶を手にしてユェーを見上げる。
「早速つけてみていい?」
「ええ、勿論」
 小瓶の蓋を開け、零さぬように手首へとつける。途端、香るのは爽やかで甘いルーシー好みの香り。
「蒼天のヒマワリ畑が見えるよう……良い香り……ルーシー、これ大好き! 毎日つけたくなっちゃう」
「それは良かったです、ルーシーちゃんのお好きな時につけてくださいねぇ」
「うん! ゆぇパパ、こちらをどうぞ!」
「僕に?」
 ルーシーから差し出された小瓶を受け取って、ユェーが蕩けるような優しい瞳を向ける。
「ええ、パパだけの香りよ」
「ありがとうねぇ、ルーシーちゃん。僕も早速つけてみますね」
 ルーシーと同じように手首へとつければ、落ち着きのある上品であたたかく仄かに甘い香りが立ち昇る。
「ふふっ、涼やかで甘い香りに爽やかさもあって……夜空に向日葵が咲いている様な……とても好きな匂いです」
「えへへー、パパにそう言ってもらえてうれしいわ!」
「ええ、僕も毎日使いますね」
「一緒ね!」
「ええ、一緒です」
 互いから香る、互いの為の特別な香りに、ユェーとルーシーはこの上なく幸せな気持ちで微笑み合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御簾森・藍夜
【朱雨】◎
…元々心音はどこか甘い匂いがする、菓子ではない花の香り
どこで付けてきたと聞いても自覚がないから本人自体の香りなんだろう
どこか安心するあの香りを邪魔しない…でも、心音が俺のだって分か―…いや、示す様なものが理想だ

近付いたら心音の花と混ざり合って俺に近い森の香りっぽいって心音がよく言う香り…
このマジョラム、とベチバーが馨るように
離れたら俺が分かるように、でも甘すぎない柑橘かレモンは合うだろうか?店主に少し相談を
それを香袋に。無佐々木の小袋に青い紐が良いんだ

完成したら小洒落ずそのまま手渡し

俺も最終チェックは勿論したが、心音にだけしか見せないくせにどうしても一番に、と思ってしまう

マジョラムの花言葉は“常に幸福”俺みたいなもんかもしれん

あー…その心音、俺の煙草に近いこれはマジョラムという花だ
花弁は五枚の白い小さな花
四片の花のお前に俺が加わって花弁が五枚…って、だめか?

心音か渡された香袋は俺と対の様な、でも揃いで
香りもまるで心音が隣にいるような、それこそ胸の内にいるような
ありがとう、心音


楊・暁
【朱雨】◎

狐の嗅覚だから強い匂いは苦手だけど、不思議とここは大丈夫
見るもの全部珍しくてきょろきょろ
香り物は馴染みがねぇから新鮮だし
色んな香りがあって愉しい

互いに選んで贈り物するんだけど、どんなのが良いのかさっぱり分からねぇ点
どれも良い匂いだし…

…そういや藍夜、よく俺から花の香りがする、って言ってたな
改めて自分の匂い…香りを嗅いで、似た香りを探してみる
これが花の香り…?そういうもんか…
似たの…これか。…ピンクローズ?薔薇…!?
でも、甘くて柔らかい香りはこれに似てる

…あ。でもこれって藍夜がいつもつけてるあの香水…ムスク、だったか?
それに合うのかな…
店主に聞いて、合うと言われれば安堵して
じゃあ、これを…その香り袋に
リボン?んー…赤(俺の色)で

藍夜はどんなのにしたんだ?
えへへ、俺は秘密
贈られた香りはすごく好きな匂いでつい笑み零し
ありがとう…大切にする

俺からは、これ…
気に入って貰えたらすげぇ嬉しい、けど…

…マジョラムの意味…!?
俺、花言葉なんて気にしてなかったぞ…!?
俺の花、変なのじゃねぇよな…?



●香り重ねて
 サアカスの興奮も冷めやらぬままに、楊・暁(うたかたの花・f36185)が御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)と繋いだ手を楽し気に揺らし、桜舞う夜道を歩く。
「次はどこだっけ、藍夜」
「ん、薫香専門店だな」
 薫香、と聞いて思い浮かぶのは練り香、それからお線香や円錐状になった香。馴染みはないけれど、知識として知っているそれらだ。
「……大丈夫かな」
 狐の嗅覚ゆえに、強い匂いは苦手なのだと暁が藍夜を見上げる。
「駄目そうだったら早めに引き上げよう」
「そうだな、それならいいかも」
 藍夜も暁が顔を顰めるようなら早々に出てしまえばいいと考えていたので、彼の返事に一も二もなく頷く。
「ここだな」
 大正浪漫そのもの、といった風な建物に『月下美人』と銘の入った看板が掲げられ、ショーウィンドウには綺麗な香炉が並んでいた。
 エスコートするように藍夜が扉を開くと、ドアベルが涼やかな音を響かせて店主が顔を上げる。
「いらっしゃい、ようこそ」
 その声に導かれるように、暁が軽く会釈をしながら中へ入ると藍夜が続いて入り扉を閉めた。
「大丈夫そうか?」
 暁にだけ聞こえるような囁き声で藍夜が問うと、すん、と鼻を鳴らした暁が笑みを浮かべて頷く。
「うん、不思議とここは大丈夫だ」
「もっと雑多に香りが混じっているかと思ったが……」
 暁の様子に安心しつつ、藍夜も店内の空気を確かめるように息を吸い込む。香るのはほんのりとした、柔らかく甘やかな花のような香り――まるで、月下美人のような。
「空調がしっかりしているのか……」
 それとも、不思議な力が働いているのか。
 なんて考えた所で藍夜は己の袖を引っ張る指に視線を向けた。
「藍夜、藍夜、色々あるな」
「そうだな、お香に香水に……香木もあるようだ」
「全部見よう」
 見るもの全てが珍しいという風に暁が目を輝かすと、早速とばかりに近くにあるお香を覗き込む。
「随分とカラフルなんだな」
 並べればグラデーションでも作れそうな豊富な色、それから香り。落ち着くような香りから甘やかなもの、お菓子のような香りまでと随分と幅広い。
「選びきれないくらいあるな……でも、色んな香りがあって愉しい」
 中には好みではない香りもあったけれど、それも含めて愉しいのだと暁が藍夜へと微笑んだ。
「それなら良かった。なぁ、心音」
「なんだ?」
「香袋を作ってみないか?」
「香袋……」
 これ、と藍夜が示したのは店内で作れる香袋のコーナーで、色とりどりの香袋と結び紐、そして調合用の乳鉢と何種類もの刻まれた香原料やハーブに香料等が置かれていた。
「よければ、互いに選んで贈りたいんだが」
 駄目か? と僅かに伏し目がちになった藍夜に暁が断るはずもなく、やる! と頷く。ぱ、と表情を明るくした藍夜が嬉しそうに頷くと、店主を呼んで手順を説明してもらい、早速とばかりに香袋作りに取り掛かった。
 互いに選んで、という藍夜の提案のままに暁はさてどんなのが良いだろうかと頭を悩ませる。
「どれも良い匂いだし……」
 藍夜に似合う香り? でも、藍夜はいつも気に入った香水を付けているから、似合うとなればそれだろうし。ううん、と悩む暁の後ろで、藍夜もまた彼に似合う香りを考えていた。
 元々、藍夜にとって彼――|暁《心音》はどこか甘い匂いがする。それはお菓子などではなく、花の香りのような。どこで付けて来たのかと聞いても、花屋に行ったわけでも花が咲いているところへ行ったわけでもないと彼は言うのだ。
 つまり、自覚がない……本人自体の香りなのだろうと藍夜は思う。これだけの香りに囲まれていても、不思議と背後にいる暁からふわりと香る、藍夜にとってどこか安心する香り。
「この香りを邪魔しない……でも、心音が俺のだって分か――……いや、示す様なものが理想だ」
 なんて、彼が誰のものか少しでも近寄ればわかるようなものをと、理想の香りを探る為に藍夜はハーブや香料へと手を伸ばした。
 幾つかの匂いを確かめ、後ろにいる彼の匂いを確かめ、思い浮かんだのは森の香り。藍夜が暁に近付くと、彼の花と混ざり合い藍夜に近い森のような香りがすると暁が笑うのだ。
「あの顔も可愛い……じゃない、確か……そうだ、マジョラムとベチパー」
 この二つの香りが一番近いと、藍夜は思う。
「離れたら俺が分かるように……」
 更に、その上で|暁《心音》にもよく似合う香りにするには――。
「それなら、甘すぎない柑橘かレモンは合うだろうか?」
 むぅ、と唸るように藍夜が店主に相談する為に場を離れた。
 一方、背中合わせで香りを探していた暁は、常であれば藍夜の呟きくらい耳に拾っているのだが、どんな香りがいいかと没頭していた為に藍夜の|呟き《独占欲》は耳に入っていなかった。
「あー、段々分かんなくなってきたぞ……!」
 色々な香りを|聞き《嗅ぎ》過ぎて、よく分からなくなるのはあるあるだ。
 藍夜は……と振り向けば店主に何やら相談しているのが見えて、なんとなくその様子を眺めてみる事にした。
「……隙がねぇな」
 立ち居振る舞いもそうだが、相手との適切な距離というのだろうか。近過ぎず遠過ぎず、明確な線を引くような。
「あれが俺相手だと、べったりなんだよな」
 ふ、と笑ってから、そういえばと思い出す。
「……藍夜、よく俺から花の香りがする、って言ってたな」
 くん、と鼻先を肘の辺りに付けて香りを嗅ぐ。
「これが花の香り……? そういうもんか……?」
 嫌な匂いではないと思うけれど、自分ではよくわからない。それでも、なるべく似たような香りをと様々な花の香りを|聞き《嗅ぎ》わけ、似たものを選び出す。
「似たの……これか」
 一番似ているような気がしたものはピンクローズで、暁は少々面食らう。
「薔薇……!? でも、甘くて柔らかい香りはこれに似てる」
 自分の鼻は確かだ、これと感じたならばこれなのだろう。
「……あ。でもこれって藍夜がいつも付けてるあの香水に合うのかな……」
 確か、ムスクと言っていたはずだけれど。
「俺も聞いてみるか」
 丁度藍夜が戻ってきたところを入れ替わるように暁が店主の元へ向かい、聞いてみる事にした。
 暁が自分と同じように店主の所へ向かうのを見送って、藍夜は作業台の上にある選んだ香料を調合していく。
「……うん、いいな」
 ほんの少し効かせたレモンの香りはきっと心音も気に入るはずだと、完成したものを香袋へと詰める。
「紫の小袋に青い紐、うん」
 これが良いのだと頷いて、藍夜が頬を綻ばせた。
 藍夜が香袋を完成させる少し前に暁も作業台へと戻り、合うと言われたその香りを香袋へ詰める為に手を動かしていた。
「これでいいのかな……リボンは、んー」
 赤だな、と迷わずに選ぶ。だって赤は自分の色だから、藍夜が持つというのならその色を入れたくなるのは当然というもの。手早く結ぼうとして、結び方にも色々あるのだと見本を見て気付く。
「……なら、これかな」
 結び方を一つ選び、悪戦苦闘しつつもなんとか結び終えれば藍夜も出来上がったようで、名を呼ばれる。
「心音」
「ん、出来たか?」
 こくりと頷いた藍夜に暁も頷いて、そっと香袋を背で隠した。
「藍夜はどんなのにしたんだ?」
「これだ、受け取ってくれるか」
 完成したばかりのそれを、躊躇いなく藍夜が彼へと見せる。
「本当はもっと洒落た風に渡そうかとも思ったんだけどな」
 最終チェックは念入りにしたし、おかしなことはないはず。|暁《心音》にしか見せないのだから、綺麗に包んでも良かったのだけれど、どうしても早く、一番にと逸る気持ちのままに彼の手の中へと香袋を渡した。
 渡されたものを鼻先へと寄せ、くん、と|聞く《嗅ぐ》。それはすごく好きな匂いで、思わず笑みが零れた。
「ありがとう……大切にする」
「よかった……」
 安堵したように息をつき、藍夜が笑う。
「俺からは、これ……」
 背に隠したそれを藍夜の前へと突きだし、彼が受け取ると不安げに瞳が揺れる。
「気に入って貰えたらすげぇ嬉しい、けど……」
 どうかな、と問う前に藍夜が香袋を|聞く《嗅ぐ》と、ほう、と甘やかな息を落とした。
「隣に心音がいるみたいだ」
 渡された香袋は藍夜が作ったものと対のような、それでいて揃いのもの。
「心音も結び目をこれにしたんだな」
「うん、それが一番合うと思ったから」
 二人が手にした香袋の結び目は、梅結びと呼ばれる梅の花をモチーフにした結び方。
「同じこと考えてたなら、嬉しい」
「……俺もだよ」
 ここが店内じゃなければ、はにかむ彼を抱き締めるところなのだけれど――そうもいかず藍夜は小さく咳払いをして暁の持つ香袋を指さす。
「あー……その、心音」
 名を呼ばれ、暁が藍夜を見上げる。
「俺の煙草に近いこれはマジョラムという花でな」
「うん」
「花言葉は『常に幸福』って言って……俺みたいなもんかもしれん」
 お前が隣にいれば、常に幸せだから。
「……マジョラムの意味……!? 俺、花言葉なんて気にしてなかったぞ……!?」
「いや、大事なのはそこじゃないんだが」
「俺の花、変なのじゃねぇよな……?」
 ピンクローズの花言葉と言われて思い付くものの中におかしなものはないと、藍夜が言うと暁がほっと胸を撫でおろした。
「それで、だ」
「あ、うん」
「マジョラムの花の花弁は五枚の白い小さな花で」
 そっと香袋を持ったままの手で、藍夜が彼の左手を包み込むように握る。
「四片の花のお前に俺が加わって花弁が五枚……って、だめか?」
「藍夜……」
 それはずっと共にいるということだ、彼女達がそうしてくれたように。
「だめじゃ、ない」
 暁が己の左手を包みこむ手に香袋を持った右手を重ねれば、ふわりと香りも重なって。心も、何もかもを重ねるように二人甘やかに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年06月07日


挿絵イラスト