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銀河帝国攻略戦㉗~それは、孤高なる絶対

#スペースシップワールド #戦争 #銀河帝国攻略戦 #オブリビオン・フォーミュラ #銀河皇帝

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●銀河皇帝
「銀河帝国は、我一人から始まった」
 そこには、たった一人の男が立っていた。流れるような金の髪、雄々しく鋭い眼光を、この大戦に参加した誰が見誤るだろうか。増援に来たはずの彼の配下はすべて倒れ伏せていた。彼らの意思など関係なく、皇帝にエネルギーを献上させられたのだ。

「オブリビオン・フォーミュラとなり、この世界に蘇った時も我は一人であった」
 昔を思い返すように、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは瞼を閉じる。
「銀河帝国が巨大になるにつれ、多くの配下が付き従うようになったが銀河帝国の本質は変わっていない」
 彼が何を言い出すのか、思い至ったのかは想像に難くない。

「我一人がいれば、それが銀河帝国なのだ」
 その言葉を裏付ける圧倒的な力を四肢に漲らせ、彼は戦いに臨まんとしていた。

●グリモアベースにて
「遂に、この時がきた」
 グリモア猟兵、天通・ジン(AtoZ・f09859)は、決意の籠った瞳で、君たち猟兵を見る。連戦で僅かな疲労の残る顔ではあれど、恐れはない。期待に満ちている。
「君達には、スペースシップワールドのオブリビオン・フォーミュラ『銀河皇帝』に決戦を挑む作戦に参加してもらう。銀河皇帝は、『増援に現れた配下達を吸収し、自らの力に変えて体勢を整えた今、猟兵達を迎え撃とうとしている』んだ」
 そう、今や、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーに挑む時が来たのだ。

「君たちには、インペリウム内へ突入してもらう」
 その言葉を聞いて、沸き立つ者、恐怖を飲み込む者、反応は様々だろう。

「ただし、解放軍艦艇のワープ突入は行えない。おそらく、皇帝が封じているものと思われる。外からの砲撃もできない。仮にスペースシップワールドの戦艦が全力砲撃を行ったとしても、インペリウムを外から破壊するのは1週間以上かかるし、それでは機会を逃しかねない。勿論、スペースシップワールドの艦隊も、インペリウムへの攻撃が可能なように最善を尽くしているんだけど……理解して欲しい。あくまで、『転移によってインペリウム内に侵入可能な君たちにしか銀河皇帝は倒せない』んだ」
 ぎゅっと、ジンは拳を握る。それは、グリモア猟兵という立場でしか参加できない歯がゆさか。しかし、確かな信頼の目で、猟兵たちを見る。

「彼にとって、もはや配下など信用できないし、銀河帝国最強が銀河皇帝なのは間違いないからね。この戦略は間違いではないだろう。帝国旗艦『インペリウム』内の全てを掌握している為、銀河皇帝は、侵入した猟兵達に対して、転移による奇襲攻撃を行う事が可能だ。……はっきり言って、チートだよ、チート」
 そうじゃないか?と笑う。笑うことしか、できなかった。

「銀河皇帝と対話しようとするのは、ほとんど意味を持たないだろう。なぜって、彼に猟兵の質問に正しく答えを返す理由が無い。『賢者の影』等のユーベルコードを使用しても、銀河皇帝クラスならば『嘘をついたのでダメージを受けたが、そのダメージを相手に気づかせないようにする』事が簡単に行えるからね」
 ある猟兵の質問に、ジンは首を振る。

「はっきり言って、カタストロフ開始までにインペリウムの撃破が可能かは不明瞭な状況だ。でも、君たちには、『ユーベルコード』がある。その力を、スペースシップワールドの皆に貸して欲しい。これは、グリモア猟兵としてだけではなく、スペースシップワールド世界の住民としての頼みでもある。銀河皇帝の撃破は、『猟兵』達の活躍にかかっている。どうか、よろしく頼む」
 ジンは頭を下げる。彼の疲労した顔を見れば、彼自身がスペースシップワールドの世界を守るために、戦っていることが伝わるかもしれない。そして、銀河皇帝の専制をこのまま放置すれば、大勢の人が死ぬことに疑いはあるまい。集まった猟兵たちに、選択肢があるだろうか。

「間違いなく難戦となる。それでも、俺は君たちを信じているよ」
 天通・ジンはそう締めくくった。


隰桑
 はじめまして、あるいはいつもお世話になっております。
 隰桑(しゅうそう)です。
 宇宙戦争、とうとう決着が見えてきましたね。
 SF大好きな隰桑による、戦争シナリオの第4弾です。
 皆さんの、創意工夫あるプレイングをお待ちしております。

 今回は【判定厳しめ】、【速度重視】、【アドリブ連携少な目】でいくつもりです。シナリオの性質上、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 質問を混ぜたプレイングは、その箇所だけ採用しないことも十分にありますので、お気を付けください。

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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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 銀河皇帝は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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第1章 ボス戦 『『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザー』

POW   :    マインド・クリエイション
【銀河皇帝を不老としている生命維持機能】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【白騎士と同性能の人型兵器『マインド』】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    フォース・インベイジョン
【銀河最強のサイキックエナジー】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【意志とユーベルコードを奪う洗脳念波】で攻撃する。
WIZ   :    ワープドライブ・ペネトレーション
【外宇宙から、知られざる『黒き槍の船』】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑14
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャルロット・クリスティア
初撃ですが、向こうから来るのであれば、あらかじめ戦闘痕の残るポイントで構えましょう。
可能ならば絶望の福音も用い、瓦礫等の『地形を利用』し物陰に飛び込みます。
視界に捉えさせなければ問題はない筈。
仮に催眠を喰らおうとも、左腕にでも刺剣を突き刺して、その痛みで無理やりにでも意識を保ちます。
狙撃には期待できません。このまま剣で挑みます。
毒ガス玉を『投擲』して気を逸らし一瞬だけでも『時間を稼ぎ』肉薄して刺剣で一撃。
反撃もあるでしょうし、自分も毒に侵されるのは『覚悟』の上。
どうせ自分の調合した毒です。あとで解毒すればいい。

いくら強大であろうと、私はもう逃げない。
一矢報いさせてもらう、孤独なる皇帝よ……!



●突き立てられた、ありふれた剣
(「――あれが、皇帝!」)
 シャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)は、グリモアの輝きが明けて、無機質な帝国旗艦『インペリウム』の艦内に自分の身体が浮き上がると同時に、あるいは比較的大きな瓦礫のひとつに隠れながら、その金色の姿を見た。視線はこちらに向いていないはずだった。

「なるほど、身を隠せば我の視界に入ったことにはならない……か。考えたな、女よ」
 しかし、皇帝は見通しているのだと言わんばかりに笑う。その声には、絶対的な傲慢の色がのっていた。それを聞いただけで、嫌悪だけが込み上げる。こんな奴が甦ってやることなんて、決まっている。そしてそれを、許すことなどできない。だが、迂闊に身をさらせば、敵の攻撃の標的になるだけであった。
「なんだ。出てこないのか。今出てきて、我に忠誠を誓うというのなら、特別に見逃してやっても良いぞ」
(「――誰がそんなことするものですか!」)
 言葉に出すまでもなかった。答えは決まっていた。
 しかし、返答代わりの投擲を、毒ガス玉を投げようとした手が止まった。

「どうした? 何もしないのか?」
 嘲笑うような、声。出来の良い見世物を見物する観客のような、自らの絶対的優位を信じて疑わない声。
「――そうであろうな。そうであろうよ。さあ、出てきて汝の姿をよく見せよ」
 どうしたことか、オブリビオンの憎悪に燃えるシャルロットという猟兵が、銀河皇帝の命に従順に従って、素直に瓦礫の裏から立ち上がる。意中の男の前であるかのように、恥じらいの表情すら浮かべて、おずおずと。
「……ん? くくく、なかなかどうして婉美な見た目をしているではないか」
 それは、銀河皇帝のユーベルコード【フォース・インベイジョン】に相違ない。どうしたことか、彼女は対策をしていたはず。
「我が、この【『インペリウム』内の全てを掌握している】ことを、よもや知らぬわけでもあるまいに。哀れな女よ。だが、良い。すべては終わったことだ。我のために、『オブリビオン・フォーミュラ』のために、銀河帝国再興のために、その身すべてを役立てるが良い。すべてを、な」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーの顔が歪む。そうなのだ。この旗艦内に、設計上死角というものは存在しない。艦内カメラのひとつひとつが、彼の目である。帝国旗艦『インペリウム』の文字通りすべてを掌握し、管理可能なその能力は、まさしく驚嘆に値する。それゆえに、シャルロットという猟兵の想像を凌駕した――ように見えた。
 『銀河皇帝』がまるで市場に並べられた商品を値踏みするように、シャルの顎に触れた瞬間、それは起きた。

「――――女!」
 銀河皇帝の、驚愕の声があたりに響く。それは、先ほど猟兵の少女が握っていた毒ガス弾。皇帝の下命で腰に戻されていたものが、ぽてりと地面に落ちて、急速にその本来の役割を果たしだす。白い息を噴き出して、二人を包む。

「けほっ! けほっ! くっ、これでは何も見え――――がッ!」
 銀河皇帝の目が、痛みで見開かれる。
 彼の視線の先は、自らの腹。そこに突き立ったのは、どこにでもありそうな、ありふれた刺剣。その銀色の伸びた元に、皇帝と同じようにせき込む少女がいた。彼女の左腕は、大きく切り裂かれ、ぽたぽたと血が滴っている。
「一矢、報い……させて、もらった! 孤独なる、皇帝よ……!」
「我に対して、なんたる無礼! 痴れ者めっ!」
 皇帝の腕が、小柄な少女を突き飛ばす。毒ガスを浴び、正気を取り戻すために自らの腕に剣を突き立てすらした少女には、抗する力は残っていない。しかし、成し遂げた一筋の光は、皇帝の腹につき立ったまま。10秒先を見通すユーベルコード【絶望の福音】によって仕掛けられた、10秒先の皇帝への罠だった。

「いくら強大であろうと、私は……もう、逃げない!」
 ふらふらと体が揺れていても、猟兵の少女は屈しない。
 その青い瞳は、確かな闘志で満ちていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
I copy.
銀河帝国皇帝の撃破ミッションを開始する。

(ザザッ)
SPDを選択。
ステルス迷彩を活性化し潜入(目立たない+迷彩)。
敵の攻撃は視認性に基くと伺ってるが――看破される事は前提としておこう。

『Craft: Bomb』使用。
"閃光弾"を生成。
"1秒間の本機の行動停止"で起爆する様改造を施し、本機に取付。(武器改造)

敵の攻撃が本機に当たれば行動不能を余儀なくされると推察。その裏を突く。
UCを封じるとは言え生成された物は封じれまい。
閃光により敵の目が眩み攻撃が途切れた段階で別途爆弾を生成、敵へ投擲、爆破。(投擲+範囲攻撃)
速やかに離脱する。

作戦は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)



●The beast has a name, Juggernaut.
 その猛獣は、灰色の瓦礫の中で伏せていた。
 その猛獣は、静かにじっと機を窺っていた。
 その猛獣は駆動音をひた隠し、獲物を見つめる赤い瞳は鈍く光る。
 その猛獣の名を敢えて言うならば。
 ――ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)と呼ぶほかない。

「生成完了――――これより銀河帝国皇帝の撃破ミッションを開始する」
 目の前で煙が吹きあがる。少女が現れ、皇帝が下がる。オブリビオン・フォーミュラの胸には、突き立てられた刺剣が光る。ノイズ混じりの声がした。赤い瞳が強く光る。その獣は、一躍と表する他ない跳躍で、銀河を統べんと企む天上の男へと襲い掛かる。異様なまでに不均衡さを孕む右手が固く握られて、自らの暴威を確かめる。迫る鋼鉄の拳の質量は、いかに強力なオブリビオンだろうと、躱しきることは叶うまい。
 ――だが。
「無礼者、我の邪魔をするな!」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは動じない。あと7秒そのまま動かなければ、その身体を刺剣ごと砕く一撃が到来するとしても。いや、違う。彼は知っていた。到来しないということを。
              、、、、、
「我はその女に、用がある――座っておれ」
 爛々と輝く、悪意に満ちた翠の瞳。皇帝の命は、絶対。
 ユーベルコード【フォース・インベイジョン】は、その効力を失わない。

「――本機、は――」
 抵抗の声は、ノイズの中に掻き消える。皇帝は、叛逆を許さない。
「詔勅を下そう。貴様の無礼を雪ぐため、名誉ある死を許す。――自死せよ、獣」
「I copy. ……本機は命令を実行する」
 赤い瞳が、鈍く光る。
 巨大な右手が大きく掲げられて、一直線に振り落とされる。
 鋼鉄の体躯の真ん中に、歪にくぼんだ穴が開く。
「命令を実行した。――オーヴァ」

 瞳の光が、消える。
 獅子のような髪を揺らし、『銀河皇帝』はその獣への関心を捨てた。

「――――3、2、1、起爆」
 無機質な自動音声が、流れる。
「――な!?」
 リスアット・スターゲイザーは、決して全知全能の神ではない。すなわち、見えるものしか知りえない。そして、彼は自らの能力に絶対的な自信を持っていた。それこそが陥穽であった。眩いまでの閃光、それは、ユーベルコード【Craft: Bomb】で作られた兵器。人に半分満たない化物の産んだ光芒が、『銀河皇帝』を僭称する才に溢れる男の視界を奪う。体験したことのない衝撃にたまらず両目を抑え、後ずさる男。それは、彼の支配の揺らぎと同義である。

「――再起動、完了」
 赤い瞳に炎が灯る。足が動く、尾が動く。鋼鉄の腹から、ぱらぱらと何かが崩れていく。それに構わず両の足で立ち上がった猟兵は、左腕に備えていたグレネード・ランチャーから、爆弾を発射する。

「目的を達成。これ以上の戦闘は困難と判断する。――離脱を開始する」
 戦果は確認しない。そんな贅沢を、彼は自分に許さなかった。自害の命令を遂行して、猟兵でなければ、生きているのが不思議なぐらいの損壊を受けていた。そして、その姿を誰かに見せようとは思わなかった。

 ゆえに、鋼鉄の豹は跳ねる。
 後を戦友たちに任せて。
 しかし、確かな爪痕を、巨悪の体に施して。 

成功 🔵​🔵​🔴​

麻生・大地
【SPD】
 おそらく相当イレギュラーな能力の使い方になるので、確実に賭けになりますが、【サイコメトリー】で【自身の思念を複数引き出し、自身に複数重ね着】するという方法を取ります。
 相手は艦内を掌握しているのなら、視界を遮った程度では逃れることは難しいでしょう。自身の【念動力】もありったけ動員して、思念のバリアを形成し、洗脳念波を防ぎつつ反撃に転じられる範囲にまで肉薄します。
 洗脳念波を、重ね着した思念が【盾として受け続け】【時間稼ぎ】し、皇帝に対して【だまし討ち】できるかが勝負の分かれ目ですね。
 見事懐に飛び込めたら、パイルバンカーで飛び切りの一撃をお見舞いしましょう。



●鉄の心に宿る思い
「……さて、上手くいくでしょうか」
 その表情は、バイザーの奥で細く閉じられた目に隠されている。もし今彼の仮面を剥がして、戦場でもなお柔和な表情だけを切り取って見れば、どこかひなびた街の片隅の古本屋のアルバイトの青年をしているだけで、きっと幸せでいられるのではないかとすら思わされる。しかし、彼は戦い慣れした熟練の猟兵で、ここは帝国艦隊旗艦『インペリウム』。青年の目の前に立つのは暴虐なる支配者、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーであり、世界の命運をかけて戦う決戦の場である。そして、彼にはそこに立つに見合う過去があり、力があった。彼もまた、猟兵なのだ。

「――いえ、やるしかありませんね」
 難敵を前に自分がやれることをひとつひとつ整理して、戦いへのシミュレートを済ませ、麻生・大地(スチームハート・f05083)は、覚悟の拳をにぎりしめる。ギチギチとその身体を構築する人工筋肉の線維が爆ぜる。黒色のパワード・スーツに身を包み、青いバイザーが機械的に光る。
 そこに、銀河皇帝出現の報が無線を通じて伝わる。ここから近い。
 狭い艦内だ。バイクは使えない。走ればまだ、間に合うはず。

「――オーケー、急行します」
 黒きサイボーグは駆けだした。

●その思いは、幾重にも
「――次は、僕が相手です」
 銀河皇帝の身体が、爆発に呑まれた瞬間、駆け付けた黒鎧の猟兵は、一気呵成に飛び掛かる。硬化させたアーマーで、銀河皇帝へと殴り掛かる。鋼鉄の豹の下がり行く様が、視界の端に映ったが、彼にそれを気にする余裕はなかった。あれだけ巨大な爆発だ。ダメージを受けていないはずがない。ならば、畳みかける好機に違いないと、誰が思わないだろうか。
「――またしても、無礼者が増えたというのか」
 しかし、相手は規格外のオブリビオンである。煙の中から現れた巨大な手が、大地の拳を掴んで離さない。その膂力は、ただ一人の人間のものとは思えないほどの活力に満ちていた。
(「これが、オブリビオン・フォーミュラ……僕一人では、勝てそうにありませんね」)
 戦場傭兵は答えない。
「口も聞けない人形め。いや、人形にすら満たない半端物か」
 嘲弄するような口調。何もかもを知った気分で、高見から投げ落とされた言葉。
 
「我が命ずる。此度こそ、死ね!」
 いかに傲慢な存在といえど、威厳と力は本物だ。ましてその命令ともあれば、心がならずとも従いそうになるほどの圧を孕む。生身の人間なら、冷や汗が垂れるシチュエーション。その鷲のような眼光を、バイザー越しに確かに見た。もちろん言うまでもなく、それに留まらない。ユーベルコード【フォース・インベイジョン】の浸食が広がる。それを至近で受けた大地の腕の力が抜け、――いや、抜けない。
「――む?」
 再び、見る。【フォース・インベイジョン】の最たる恐ろしさは、その発動条件の規格外の簡易さにあるだろう。それに比べれば、意のままに操る力も霞む。発動条件の難解さゆえに、対策をとられて負ける悪者の姿の例は古今枚挙に暇がない。
 それは確かに発動している。フォース・パワーに長けた猟兵なら、その波動を目にすることができるかもしれない。大地は残念ながら、それを知覚できるほどのフォース能力は持ちえていないが、敵の力に抗する術を持っていた。

「――我の命、たしかに伝えたはずだが?」
 
「――ええ、確かに聞いた僕がいるのでしょう」

 穏やかな声が答える。仮面の内から、湧き出るように。
 バイザーが煌々と光る。大地の拳は今、銀河皇帝の手で封じられている。
 裏を返せば、近接攻撃を当てる大チャンスということ。
 右の足を大きく蹴り上げる。だが、僅かに間合いが届かない。

「破れかぶれの一撃などと――――」

「――――いいえ、当たります」

 脚部に潜ませた匕首は、槍の形をもって射出される。
 鈍い音を立てて、槍が銀河皇帝の腹に刺さる。
 脚部内蔵のパイルバンカーの、不意をついた一撃。
「――ぐッ!」
 銀河皇帝の目が見開く。それは、確かに当たったのだという確信を大地に与えた。
 ――だが。
「褒めてやる。ここまで我に攻撃を与えたことをな」
 だが、眼前の『銀河皇帝』の様子はなんだ。
 確かに刺さって、効いているはず。むしろ、効いていないはずがないのだ。
 しかし、男は傲然たる立ち居振る舞いを崩さない。
「いくら腐っても、皇帝ということですか」
 つまるところ、それを為す彼の力の強大さ。策を練り、ユーベルコードをひとつ打ち破ろうとも、それを打破した後の一撃が、僅かに足りない。そして策はか細い綱渡り。皇帝の一撃を凌ぎ、猟兵の番を終えたなら、次の手番が戻ってくる。
「――減らず口を叩く余裕があるとはな」
 ぐしゃり、と猟兵の腹がえぐれる。黒い鎧がまるで紙を裂くように破れ、"なかみ" が露わになる。ぼとりぼとりと液が漏れ落ちる。それはまさしく、ユーベルコード【サイコメトリー】の代償だった。
「なるほど。やはり、そのからくり――思念を用いていたか」
 肉体の方はがら空きよ、と銀河皇帝は笑う。彼の言葉は正解だ。麻生・大地はユーベルコード【サイコメトリー】で思念のバリアを形成し、漸次、思念の侵略を受けたバリアをパージすることで、洗脳から免れていた。【残留思念】を用いて盾とするその技は、まさしく銀河皇帝の奇跡を無効にする力を持っていた。強い技には欠点が伴う。このユーベルコードを使うためには思念を用いる必要があったということ。オブリビオン・フォーミュラほどの強敵を凌ぐには、キャパシティの多くをそれに割く必要があったということ。念動力機関の多くを、その補助にまわしていた。彼は、実質その動力機関のほとんどを温存した状態で戦っていたのだ。避けられようはずがない。耐えきれず、膝を付く。

「だが所詮、曲芸に過ぎぬ。我の前では、無意味よ」
(「――あの口調、演技と見ました。『銀河皇帝』にはきっと届いています」)
 嘲笑う皇帝を前に、薄れゆく意識の中で大地は確信していた。少し関係ない内容だったが、グリモア猟兵のジンも言っていたではないか。『ダメージを気づかせないようにすることができる』――と。

 ならばきっと、大地の戦いには意味がある。
 その身体に宿った幾重もの思念が、そう確信していた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

黒川・闇慈
「さて、銀河皇帝陛下におかれましてはご機嫌いかがでしょうか。クックック」

【行動】
wizで対抗です。まずは攻撃への防御を講じましょうか。
高速詠唱、属性攻撃の技能で炎獄砲軍を使用します。炎は私を隙間なく全方位で囲むように配置し、どこから黒き槍の船が突っ込んできても爆破・迎撃できるようにしましょう。槍が炎に接触、爆発したら近い位置の炎を爆発した部分へ移動させ、槍を爆破します。
槍は皇帝と五感を共有しているそうですから、爆破すれば音響・閃光で皇帝の五感を混乱させられるでしょう。その隙に残りの炎を皇帝に向けて発射します。

「陛下への捧げ物は私の炎です、お気にめしましたか?クックック」

【アドリブ・連携歓迎】



●皇帝陛下への捧げもの
「そこの者、隠れても無駄だ。姿を見せよ」
 麻生・大地にトドメを刺そうとしたリスアット・スターゲイザーの手が止まる。
 新たな猟兵の到来を察知できない『銀河皇帝』ではない。

「『黒き槍の船』よ――至れ」
 暗がりへ向けて、何もないはずの空間から、熱線が放たれる。
「――インフェルノ・アーティラリ」
 応答するのは、声。
 そして、爆炎。

「銀河皇帝陛下におかれましては、ご機嫌いかがでしょうか」
 その中から、クックックと陰険に笑って、黒い男が姿を現す。ねっとりと伸びた長髪は、闇のように光を吸い込んでいる。切れ長の黒い瞳は、世界を愉悦のフィルターを通して覗くように、曲がって開かれる。
 彼の名は、黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)。彼を見て、死霊を扱うウィザードが思い至らない人間がいるとしたら、ごく少数だろう。それほどらしい外見で、らしい笑いを皇帝へ向ける。
「その笑い、すぐにやめよ。無礼千万。我は不快だ」
「いえね、性分でして。やめられないんですよ」
「ならば、笑えなくしてやろう」
 皇帝の命で、再び見えざる射点から熱線が飛び、猟兵を守るように爆炎が浮かぶ。

「――ほう? 爆発、魔術の類か。邪悪な力を感じる上、汝の外見からは内面のいじけを感じる。我は詳しくないが、黒魔術、とでもいえばいいのだろうな」
 興味深いと皇帝は笑う。楽しむような声。
 それは、負けるはずがないと信じるがゆえの余裕。

「初撃を凌いだことは、褒めてやろう。しかし、全く無意味よ」
 ゆっくりと、『黒き槍の船』が回頭する。艦首から銃弾が放たれる。
「クックック――言葉を返しましょう。その銃弾は、無意味です」
 【高速詠唱】された小爆発が、銃弾を弾き、猟兵に届かせない。
「――ならば、潰すのみよ」
 『黒き槍の船』が悠然と進む。それは次第に加速して、闇慈へと迫る。宇宙船の、槍を思わす禍々しい形状は、設計者の殺意と悪意で満ちている。轟音を伴い、高速で迫るそれは、余人の足をすくませるに足る威容を持つ。刹那、それが近づかんとして――――爆発が起こる。

 ひとつではない、ふたつ。
「――クックック、計画通り」
 ウィザードが笑う。

「――ぬぅっ!」
 皇帝が、苦悶の声を漏らす。耐えるように、身体を掻きむしる。それはまるで、ユーベルコードの爆発に身をさらされたように。実はその通りなのである。黒川・闇慈は、ユーベルコードによって召喚される物の多くが、五感共有を利点と欠点、双方として備えることに気づいていた。皇帝の呼ぶものも例外ではないと。呼びだされたものを狙う攻撃は、全く有効である。そしてユーベルコード【炎獄砲軍】の炎によって築かれたのが、爆炎の防衛陣地であった。
 その最も有効な点は、ひとつ発動しただけで、即座に消えないことにあるだろう。そして、『黒き槍の船』が一本しか呼び出されないとは、誰も予知していない。もし彼が一本の迎撃だけを狙っていたら、結果は大きく違っていた。
「陛下への捧げ物は私の炎です、お気にめしましたか? クックック」

「――我が呼ぶ船に気づいていたというのか」
 皇帝の瞳が、微かな怒気を孕んで向けられる。
「いやぁ、全然。どこから来てもいいように、全方位に仕掛けていただけですよ」
 にやにやと笑う。嘲笑う。
「――なるほど。では褒美に、汝を試してみるか」
 皇帝が、笑う。
 返事代わりに闇慈の砲火が、『銀河皇帝』へと向けられる。
 一切視線を向けることなく、皇帝が走る。
 それは、人間に出せる速度ではない。いうなれば、連続した跳躍。
「我が、いつ接近しないと思っていた?」
「――生身で砲炎を躱すなんて、勘弁してもらいたいですね」
 皇帝が大きく拳を振りかぶる。ブラックシェードが翻り、18式怨念火砲が火を噴いて皇帝を阻まんとする。銀河皇帝は、その銃砲を拳で弾く。一瞬遅れて、外れたユーベルコード【炎獄砲軍】が旗艦『インペリウム』の艦内通路の床に当たって爆音を立てる。皇帝の拳が撃ち当てられんとした刹那、闇慈は火砲の十字架で、その拳を受け止めて――
「――は?」
 背中を、貫かれた。それは、またしても黒き槍。
 
「やはり、盲点だったようだな。我の船は物理法則を無視して呼び出されるもの」
 皇帝の口が、嘲笑にかわる。
                、、、、、
「そして貴様の防御は、爆炎による広範囲攻撃。足元には、仕掛けられるまい」
 ユーベルコードの炎は個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せるものである。しかし、爆発した瞬間消しては、その炎は効果を発揮できない。必然、使えない空間が存在する。自分も巻き添えにしないよう、対策が必要だった。その弱点を戦闘中に補正するには、砲兵という兵科に喩えられるだけあって柔軟な運用に向かない。しかし、視認した攻撃の対策を考え、即座に実行に移す強敵でなければ十分に有効な作戦だっただろう。そのためには、自分の身を囮にすることすら厭わないほどの強敵でなければ。オブリビオン・フォーミュラは、自らがなんたるかを示す。

「――銀河最強の僭主、見事……と言っておきましょう」
 悔しさを隠しきれぬ強がりを口にする。どさりと音を立てて、黒き猟兵が倒れ伏す。
「ふん、まずまず楽しめたぞ。猟兵」
 自分の指先の感覚を確かめるように、『銀河皇帝』は手を握り、離す。
 指が僅かに痙攣していた。それを認めぬとばかりに、強く握りしめる。

「――我こそが最強であることに、揺らぎはないのだ」
 どこか、言い聞かせるような響きだった

苦戦 🔵​🔴​🔴​

パーム・アンテルシオ
ユーベルコード…一人静火。
目には目を。相手が何かを喚び出して戦うのなら…私も、それで勝負するよ。

きっと…いや、間違いなく。こっちの黒狐が、相手の元に到達する前に…皇帝の攻撃が来る。
だから…尻尾の気を全開にして、全身に纏わせて。防御する。
こっちの牙が相手に届くまで。
逃げ惑うフリをしながら。遮蔽物でもなんでも、使える物は利用して。ボロボロになってでも。
耐えるのが、私の役目。

壱魂、弐魂。みんな…
参魂、肆魂。私の事は、嫌いだと思うけど。
伍魂、陸魂。これは、私の為の戦いじゃない。
漆魂、捌魂、玖魂。みんなが大好きだった…人を守る為の戦い。
零魂。私も、全力を尽くすから。
だから…今だけでいいから。力を貸して!



●笑う黒い声
「……猟兵どもの相手も、ひとまず決着がついたか」
 猟兵たちの戦場となっていた、帝国旗艦『インペリウム』の豪奢な通路で、気絶した猟兵たちを一瞥し、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは踵を返す。自分が勝者たるのは当然であり、そうであることを微塵にも疑わない男が踵を返す。
「……いいえ、まだだよ。私たちは、終わっていない」
 凛とした声が艦内に響く。黒い炎に包まれながら、桃色の狐の少女が、銀河の圧政者に相対す。戦いに向いているとは思えないほど、柔らかく、可憐な見た目。実際、彼女は直接戦闘は決して得手ではない。しかし、戦うべき時に逃げ出すような臆病さを持ち合わせてはいなかった。パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)の桜色の髪が揺れる。

「影の下、火の下、這いずる影を慈しもう」
 両の瞳を閉じて、歌うように唱える。炎が揺らいだ。

「……子供の火遊びなら、他所でやればいいものを」
 皇帝を名乗る男は不快そうに眉を顰める。しかし、それだけである。
 彼が散々放っていた思念の波を飛ばしはしない。
(「あんまり連続では、使えない……? ううん、憶測ね。油断はだめ」)
 心の中で、首を振る。強大な力を持つオブリビオンの男は動かない。
「火遊びなんかじゃないって、教えてあげる!」
 少女の周りを、狐火を思わせる黒い炎が漂う。ひとつやふたつではない、幾十をも数える焔の群れが、大事なパームを守るように浮かぶ。それらがすべて、『銀河皇帝』へと飛び掛かる。そのうちのいくつかが、【爆ぜて】、皇帝の身体を爆炎が包む。
(「――やった!?」)
 
「――なるほど、見逃してやろうと思ったが、やめた」
 煙の中から、銀河皇帝の吊り上がった翠の瞳が現れる。
 その身体は、いささかも傷ついているようには見えない。
「――――言っておくが、我の攻撃はもうすでに始まっている」
 パームは、直感的に振り向く。後ろを振り向いたのは、ただの直感。されど、狐の直感はあたるものだと俗に言う。一般論が事実かどうかはともかく、この場のパームの直感は正しい。そこには、黒い船が浮かんでいた。それはまるで槍のような姿をしていた。直前まで、その姿を視認できた者はいなかっただろう。空間に溶けるように存在するそれは、『黒き槍の船』。『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーが頼りにする、秘密兵器のひとつ。
 その槍の先端には、熱線砲。
 狐の少女が気づいたときには、すでに充填が終わっていた。
「――――!」
 ぎゅっと目を瞑る。赤い熱線が、少女の身体を貫かんと放たれた。
「猟兵というのは、全く対処能力というものがないらしい」
 つまらなさそうに、皇帝が呟く。現実には『銀河皇帝』の圧倒的な力が猟兵より先んじた攻撃を可能としているためにそう見えるだけなのだが、傲慢さはその瞳を曇らせる。そして、展開は皇帝の思う通りには進展しない。

「――壱魂、弐魂。みんな……」
 狐の尾が、扇のように広がる。桃色をした呪術陣が、小さな少女を守るように広がる。
 ひとつの尾が、ふたつの尾が、その輝きを失う。

「――参魂、肆魂。私の事は、嫌いだと思うけど」
 熱線が、呪術陣の一部がほつれ、破れる。その箇所だけを、熱線が貫いて、まっすぐ飛んだそれが壁にあたってセラミックスの白を焦がす。

「伍魂、陸魂。これは、私の為の戦いじゃない――」
 呪術陣が崩れていく。
 雲間を裂く光の柱のように、赤い熱線が少女を霞めるように線を描く。

「漆魂、捌魂、玖魂。みんなが大好きだった……人を守る為の戦い」
 祈るように呟いて、妖狐の少女は、呪術陣を放棄して、近くの瓦礫へと身を隠す。
 その直後、呪術陣が粉々となる。
 『黒き槍の船』が、その艦首をゆらりと動かす。
 追尾するように、艦内であることなど構わず、ミサイルが放たれる。

「零魂。私も、全力を尽くすから」
 桃色のリボンが揺れる。爆炎から身を守るように自分の身体を抱きしめる。
「だから……今だけでいいから。力を貸して!」
 直後、爆発がパームを覆う。

「――他愛ない」
 『銀河皇帝』がそうつぶやいた刹那、【それ】は飛び掛かった。
 彼は思いいたるべきだった。自分ができることが、相手もできる可能性を。
 ユーベルコード【一人静火】によって生み出された黒い狐が、その体幹を鋭い爪の一撃で裂く。柔らかな絹糸と宇宙生命体の毛皮で編まれた豪奢を極めた皇帝の衣服が開ける。その胸の正中には、奇妙な装置がついていた。
「――小細工を!」
 青いオーラを纏った右の拳が、反撃の一撃を狐に食らわせる。
 狐がぐらつきながら、脚を震わせながら着地する。

「……ちゃんと牙が、届いた」
 その様子を確認した満身創痍のパームが、音を立てて倒れる。
 黒き炎の狐の姿が、掻き消える。

「だからどうした。……届いたところで、勝てねば何の意味もない」
 感情の見えない平坦な声で『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは踵を返す。
 通路を進み、一つの部屋に入り行く。
 彼は知っていた。そこが決戦の場になることを。猟兵たちがやってくることを。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

聖護院・カプラ
銀河皇帝、猟兵がその不埒な悪行を改めさせてみせましょう。

自由と平和を愛する人々が宇宙生を謳歌してこその”国”。
皇帝1人が居れば帝国などという世迷い事を仏陀の元でもう1度言えますか?

『マインド・クリエイション』は未来を読む白騎士と同スペックの兵器を生み出す強力な行い。

ですが私の『警策』は因果を断つ徳行為。
攻撃を受け止める際に”因”(事の原因)である銀河皇帝と
”果”(それによって齎される結果)であるマインドの関係を断ちます。
未来予知をしようとも、そこから計算できた結果もまた断ちます。

更に返す手刀で銀河皇帝に『警策』をもう一度放ち――
オブリビオン故に復活する皇帝という因果も絶たせていただきましょう。



●マインド・クリエイション
「――次なる相手は、汝らか」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは、帝国旗艦『インペリウム』の執務室の椅子に座って、猟兵たちを出迎える。戦闘から時間は経っていない。彼が腰掛けた理由は想像に難くない。しかし、その態度は悠然としたものであり、疲労も、負傷も感じさせない。
 その眼前には、覚悟を決めた猟兵たちが幾人も立つ。先に、『銀河皇帝』は、その転移能力で彼らに奇襲を行うことが可能であるとグリモア猟兵は予知した。しかし反面、必ず奇襲をするとは言っていない。奇襲に対する備えがなされていることがわかっていて、自己の方針を墨守するような人間は、賢明とはいえるまい。『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは、それを知るだけの情報把握能力があった。そして、自らの判断で動く脳を持っていた。奇襲の本質とは、つまるところ自分に有利な環境で戦えるということにあるのだ。

「――銀河皇帝、猟兵がその不埒な悪行を改めさせてみせましょう」
 緑色の瞳が、怪しく光る。その圧倒的な存在感を、他になんと表現したらいいのだろうか。ウォーマシンが台座・ユニットが赤く光り、ふわりと浮かぶ。聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)の細い骨格が、その先の指が、御仏の教えを体現するように印を組む。
「自由と平和を愛する人々が宇宙生を謳歌してこその”国”。皇帝1人が居れば帝国などという世迷い事を仏陀の元でもう1度言えますか?」
 彼は、その自由と平和を愛する人々を救うための存在となったもの。それだけに、『大宇宙修験宗』の象徴たる機械は、問いかける。宗教の本質が哲学であるとの立場に立つならば、それは全く本意に基づく行動であるといえよう。

「仏陀、誰だそれは。お前の名前か?」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは、文字通り興味のない、色の宿らない瞳で、その声の主を見る。
「――それからな。これから滅びるお前の価値観を、我に押し付けるな」
「『転移』――さすがに、速いですね」
 執務室の椅子に彼は座っていた。だが今、彼はカプラの眼前にいる。だが、近づいてきてくれたなら、攻撃の余地はある。
「警覚――」
 カプラの手刀が、静かな、それでいて不思議な圧を放つ。ユーベルコード【警策】の、戒めの手刀が銀河皇帝に放たれようとして、止まる。
「――『マインド・クリエイション』」
 呼び出された『マインド』が、カプラの背後から、ビームサーベルを胴体へ突き立てる。フォース・パワーで駆動するサーベルの剣身が、赤い光を放つ。
「奇怪な能力、我の好意で使わせてもらえると思ったか」
 手刀に触れない手首を、銀河皇帝の剛腕が掴んだ。観察するように眺めて、金属が折れ曲がる音が鳴る。機械といえど、手を動かすには連絡回路が必要で、生身の身体でいう神経がその腕力で切断されてはこの場で動くことは叶わない。手刀が封じられる。カプラの目から、光が失われる。絶命はしていない。いかに強大な銀河皇帝といえど、簡単に猟兵の命を奪えるわけではない。ただし、重篤な状態であることは疑いない。
「――む?」
 しかし、わずかに皇帝の目が違和感で曇る。だが、その原因を特定することはできなかった。彼はこの戦いのしばらく後で、聖護院・カプラという猟兵が何をしようとしていたのか思い知らされることになる。嫌というほどに。彼にとっての悪夢は、まだ始まっていない。

 だがこの場では、銀河皇帝はまた一人の猟兵を倒した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アンノット・リアルハート
先に動かれるなら、むしろこっちにとっては好都合!

【シュヴェールト・ガードナー】を使った【武器受け】で相手の攻撃を防御して一撃で倒れない程度までダメージを抑えます

傷を受けたところで【遥かなる夢よ、我らの前から消えたもうなかれ】を発動
大剣全員で【継承のリボン】と同じ伸縮自在のワイヤーを部屋中に張り巡らせて逃げ場を奪いながら、【念動力】で押さえつけ動きを遅くしたマインドをがんじがらめにして【武器落とし】
ワイヤーで逃げ道を失い、丸腰になった皇帝を【メタルハート・ベーゼン】に【騎乗】した体当たりで一撃与えます

国ってのはね、守るべき民が居てこそなの
それがわからないなら、もっかい一からやり直しなさい!


クラウシス・ゴドリベント
王とは相応しい才覚、信じられる臣下、守るべき民を得て初めて王たりえるものだ。
貴方一人が王を自称したところで、所詮力だけの猛獣が吠えているに過ぎない。覚悟すると良い、これより僕達は獣を狩る者、猟兵となる

不意の攻撃に備え常に【ダッシュ】で移動しながら【オーラ防御】を使用。
念動力で瓦礫を使い視認する集中力を削ぐため皇帝へ投擲を継続。
皇帝が装備を変化させた場合に心光体を使用し殺傷力の高い攻撃を防御。
黒き槍の船へは【第六感】【見切り】で周囲を警戒し、自身へ攻撃を仕掛けるようであれば心光体で防御しつつ反撃する
洗脳されないために心光体は初撃のみを防御、カウンターしその隙に【盾受け】【武器受け】で守りを固める



●王たれと作られた王女、王たるを捨てた男
「――次は、誰にするか」
 銀河皇帝は、ティー・タイムの茶請け菓子を選ぶような気軽な声で、お前だなと一人の猟兵に目を向ける。その少女は唾を飲み込む。弾かれたように、『マインド』が跳び、切りかかる。その一撃を、剣が防ぐ。ただし、その姿は見えない。
「――ほう。さしずめ、不可視の剣と言ったところか。面白いではないか」
「そりゃどうも。私はあなたのこと、面白くもなんとも思わないけどね」
 アンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)の紫の瞳が、睨むように歪む。【シュヴェールト・ガードナー】が、『マインド』の光剣を受け止める。――だが、受け止め切るにはいささか以上に威力不足であった。そして、敵は『マインド』だけではない。
「ふむ? ――その程度の腕で我の前に出てくるとは、軽挙妄動もいいところ。せっかく見た目良く生まれてきたものを、あたら捨てるとは資源の無駄であろう。非合理よ。我の『銀河帝国』ならば、本来ありえぬことだ」
 まさしく必殺を思わせる、鋭く伸びた指が、銀髪の少女の心臓を貫かんと迫る。

「――王とは相応しい才覚、信じられる臣下、守るべき民を得て初めて王たりえるものだ」
 それを受け止めるのは、巨大な盾。金の髪が揺れる。クラウシス・ゴドリベント(流浪のプリンスナイト・f03839)の鉄壁が、皇帝の一撃を阻む。続くように、『マインド』の第一腕と第二腕のビーム・サーベルが、くるくると回転しながら背後から斬り付ける。【シュヴェールト・ガードナー】が舞い、それを防ぐ。物言わぬ『マインド』の第三腕が腰のあたりの高さからブラスターのトリガーを引くと、ひらりと身を翻したクラウシスが、その重さを思わせぬ軽快な動きで盾を回転、ブラスターのビーム・ラインが盾の前で蒸発する。
「貴方一人が王を自称したところで、所詮力だけの猛獣が吠えているに過ぎない」
 決意の色を浮かべた緑の瞳が、しっかと『銀河皇帝』を見る。
「すぐに果てる人間の妄言など、聞くに及ばぬ」
 呆れたような目を、『銀河皇帝』が浮かべる。
「だいいち、お主らの率いる民はどこにいる。どこにもおらぬ民のため、いくら傷つくことのなんと浅ましい」
「そんなこと、あなたには関係ない! あなたには、わからない!」
 傲然たる銀河皇帝の腕を、槍が霞める。
 オーラを纏った拳が反撃と迫り、少女はそれを躱す。
「覚悟すると良い、これより僕達は獣を狩る者、猟兵となる」
 クラウシスの執る【フォーティチュード】の輝きが増して、銀河皇帝の腕を落とさんと迫れば、妨害するようにマインドの剣が動き、身体を逸らして大盾が受け止める。追うように、火花が爆ぜる。
 不可視の剣が、光の剣が、拳が、ブラスターが、槍が、入り乱れるように舞う。
 決着は容易につきそうになく、しかしあっという間に訪れる。

●無我の暗君
「しかし、汝らの高説、聞き飽きたわ」
 打ち合うこと数分、銀河皇帝がそうつぶやいた。そしてそれは、決着をつけようとしていることを示唆する。『マインド』の瞳が、怪しく光る。
「このままでは防げない――ならば、僕はヒトを超越する!」
 素早く斬り付ける一撃、二撃、続けざまに放たれるブラスター。未来位置を予測するかのように放たれる、『マインド』の回避不能の一撃がクラウシスを襲う。それは、容易く青年の身体を貫くように思えて、そうはならない。
「また奇怪な技を使いおる」
 マインドの剣のひとつが弾かれる。予備のビーム・サーベルを彼は抜く。
「――僕は、あらゆる悪意に報復を与えるのみ」
「攻撃を吸収し、反撃――見えぬ一撃、衝撃波といったところか――をする形態」
 その多彩さは脅威よなと銀河皇帝は笑う。それは、傲然たる態度だけとは言えない。その程度か、と憐れむような響きを孕んでいた。

「それがどうやら自慢のようだが。ならば、お前に攻撃せぬのみよ」
「――え?」
 その動きは、芸術的であった。『マインド』が跳躍し、二人の猟兵の間に立つ。
 連携などさせぬと割り込んで、『マインド』の剣がアンノットを貫いた。
 ドサリと音を立てて、彼女の身体が倒れ伏す。
 純然たる殺戮兵器である『マインド』は、倒れた少女に目もくれず、輝く騎士に剣を向ける。一双のインペリアル・フォース・セイバーが赤く光る。

「汝の能力、どうやら相応に強力で、我とて正面から突破するのには骨が折れよう。だが、それなら相手をしないだけのことよ。我と戦いたくば、その珍妙な術を解いてから来るが良い」
 クラウシスのユーベルコード【心光体:無我の暗君】は、その強力な効果の代償があった。能力発動中、【自身は全く動けない】こと。一度見ただけで、その欠点を把握するのは、さすがにオブリビオン・フォーミュラといったところか。

「――くっ、アンノットさん!」
 だが、救いにはいけない。ユーベルコードの代償は、都合よく無視できるものでなく、動きだすには時間がかかる。『マインド』が身を翻して、クラウシスに斬りかかってきては、自分の戦いに集中するしかない。なにより、皇帝だけでなく、白騎士に比肩する『マインド』を相手どるのに余裕などあるはずがなかった。
 大盾が剣を、拳を、熱線を防ぐ。このまま戦っても、勝ち目は薄い。
「……いかなる状況だろうと、終わりません。僕は、諦めない」

●遥かなる夢
「……ええ、そうよ。夢は終わらない。誰かが見続けている限り!」
 倒れたはずの少女の身体から温かな光が沸き立つ。誰かの、たくさんの民の夢を守る光。彼女が呼びだすのは、リアルハート王国の藩屏たち。かつて兵士だったもの。今は眠るもの。ユーベルコード【遥かなる夢よ、我らの前から消えたもうなかれ】で呼び出された大剣たちが、浮かび、『銀河皇帝』と『マインド』へ斬りかかる。
「さすがに、数が多い――『マインド』よ、出し惜しみはいらん!」
 翠の瞳を怒らせて、『マインド』に下知をくだす。その駆動音が増す。未来予知の演算が稼働し、21体の兵士たちの連撃を流れるように華麗に捌く。すべてが上手くいくはずがない。妨害するように射出されたワイヤーは、妨害効果を持つ前に、容易に千切られる。だが、そもそも21体の兵士たち、何体か砕かれたとしても、その数それ自体が脅威であり、十分に意味があった。
(「皇帝に―――だめ、この位置からだったら、どうやっても当てられないわ」)
 戦況を確認する。幾体もの兵士たちが、皇帝とそれに忠実な機械と戦っている様が見える。自分にできること、攻撃手段を整理して、心の内で首を振る。『銀河皇帝』に一撃を加えるためには、先に『マインド』をなんとかしなくてはならない。
 ふらふらとしながらも、アンノットは立ち上がろうとして、よろめき――支えられる。
「王女殿下に傷を負わせた騎士の恥、少しでも雪がせてください」
 二人が揃って、ふわりと笑う。
「なら、もう少し手伝ってくださる?」
 自分を王女と呼んでくれるなら、少しだけ貫禄つけた口調にもなろう。
「あの機械兵を、討ちます」
 アンノットが、銀の魔箒を取り出して、ふらふらとしたまま乗ろうとする。うまく乗れない。べたりと張り付くように、箒にしがみつく。『銀河皇帝』のユーベルコードを受けるということは、それだけダメージも大きいということ。もう少し威厳ある乗り方ができればよかったんだけどと心の内で笑う。
「承知しました、お任せを」
 少女の身体が抱きかかえられる。背と足を抱える、お姫様抱っこ。
「あ――」
 お姫様と扱われ、少しだけ照れたように頬を染める、王女アンノットを抱きかかえ、箒に跨る王子であり騎士のクラウシス。片手を離し光の剣に手をかける。実際の箒の操作はすべてアンノットが行う。目指すは、今アンノットの兵士たちにかかりきりの『マインド』。時間はかけられない。兵士たちが、次々と倒れていく

「この程度の力、時間の問題ではないか」
 また一体の剣を倒し、皇帝が呆れたような目で呟く。
 強大な『銀河皇帝』に、アンノットの兵士は及ばない。
 時間はかけられない。

「こほん。――それじゃ、行くわよ!」
 箒、フルスロットル。
 アンノットとクラウシスを乗せて、『マインド』へ飛び掛かる。兵士たちをかきわけて、マインドの身体の隙間を箒が貫く。これで、近接攻撃は回避できまい。クラウシスの光の剣が煌めいて、『マインド』の剣を握る一本の腕が落ちた。

 この戦いの中で、何体ものリアルハートの兵が皇帝に歯がたたず倒された。
 では、それに意味がないのか。巨大な個だけが戦いつづければいいのか。
 きっと、そうではないと証明するために、王女と王子は戦うのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノノ・スメラギ
銀河皇帝! キミが過去の亡霊であるように!ボクもまた、過去から放たれた怨嗟の刃だ!
この刃を受けて!立ち去れ!亡霊!

白騎士の同型か。未来と言ってもあくまで予測演算だ。
予測と射撃の間に付け入る隙がある!

白騎士との戦闘記録を情報収集、戦闘知識で解析

防具改造でシールドデバイスに耐レーザーコート

解析結果と野生の勘で未来予測と実際の射撃の間のラグにシールドを差し込んで盾受けし、全火器で反撃しながら突撃する!

敵の攻撃はボクの身を削るだろうけど、第七星系全ての死者の恨みを背負って立つ覚悟を持って、瀕死になってもギリギリまで皇帝に肉薄し、UCで銃斧の機神を呼び出して捨て身の一撃を喰らわせてやる!


煌燥・燿
ノノ・スメラギ(f07170)の後を追ってサポートに入る。

俺はノノの故郷の星が皇帝によって破壊された事をノノから聞いた。
だから大切な仲間の復讐を手伝う。

同じPOWで判定。ノノが受け持つ白騎士を引き剥がそう。

不死鳥降臨・再誕を使用。

未来を計算できても現在を観察せずに攻撃できるか? 避けられるかよ?

世界知識、戦闘知識で解析白騎士の武装の仕様を把握。

罠使い、7地形の利用で戦場の明度を利用。
カメラのフラッシュバルブによる閃光の目潰し、残像、催眠術で自分の姿を朧気に見せ。
第六感と武器受けで何とか攻撃を凌ぎ高温高熱の炎属性で反撃する。

ノノの覚悟を決めた一撃が皇帝へ届くよう。こちらも覚悟を決めて行動する。


ミハエラ・ジェシンスカ
陛下の御前に跪き臣下の礼を取る
当機は元帝国軍ウォーマシン、ミハエラ・ジェシンスカと申します
このような形で拝顔の栄に浴す事、恐懼の至りに御座います

この期に及んで[だまし討ち]の為の佞言、そう思召されるのも道理至極と存じます
ですが当機は我が心に刻まれたロイヤルティーコード……帝国への、陛下への忠誠を忘れた事は御座いません
故にこそ当機はここにおります

[念動力]で自身を射出しつつ踏み込む
[武器受け][カウンター]を駆使
4本の腕のうちどれか1本でも残っていればいい
[捨て身の一撃]届かせる

「悪であれ」と造られた我が忠義の形
帝国に反旗を翻し、御身に刃を向ける
これ以上の大悪逆がありましょうか!
弑逆、仕る――!



●跪拝し、示す忠義のかたち
 その少女は、機体は、跪く。
「――なんのつもりか、猟兵」
「当機は元帝国軍ウォーマシン、ミハエラ・ジェシンスカと申します。このような形で拝顔の栄に浴す事、恐懼の至りに御座います」
 探るような顔が浮かぶ。即座に攻撃が飛んでこないのは、おそらくいくつかの理由があろうが、『銀河皇帝』の体力が無尽蔵にあるわけでないことは、大きなひとつであると言えよう。
「それはたいそう殊勝な態度であるが、――それで?」
 焦れるような声。銀河皇帝ほどの男であれば、その言葉が真実かどうかをある程度推察できる。機械的な挙作であろうと、嘘であればどこかにほころびが出ようというもの。その点、ミハエラ・ジェシンスカ(邪道の剣・f13828)は完璧だった。なにせ、言葉通りの忠誠を果たさんとしているのだから。
「この期に及んでだまし討ちの為の佞言、そう思召されるのも道理至極と存じます
ですが、当機は我が心に刻まれたロイヤルティーコード……帝国への、陛下への忠誠を忘れた事は御座いません」
 故にこそ当機はここにおりますと呟く。
「――御託は良い。今我は忙しい。用件を言え」
 有無を言わせぬ声。これ以上の会話は、無理だろう。
 ならば、その義務を果たすのみ。
 体の中の回路に血が通う。
「弑逆、仕る――!」
 跳ねる。
 白い影――『マインド』が間に割り込む。
 ウォーマシンの少女の剣が赤い光を放ち、それを受け止めた『マインド』のフォース・セイバーが同じ色を放つ。ミハエラの胴から、隠し腕が生え、その手からセイバーが伸びる。伸びた光剣はくるりと軌跡を描き、またそれを『マインド』――皇帝の忠良なる身代わりの執る光剣が受け止める。未来を読み取るように、鮮やかに。

「――その動作、忠誠は本物であると思ったが」
 多重人格の類か、と『銀河皇帝』はまず考えた。
「――いえ、本物ですとも。ただし、我が忠義の形がもとより"こう" であったから」
 噛みしめるように、呟く。この問答の間にも、剣が振るわれる。払うような一撃を、ミハエラは屈んで躱し、赤い髪が踊る。身を低くして、フォールンセイバーが『マインド』の足を斬り付ければ、それを阻むように『マインド』が剣を地面に突き立てて墜ちた剣の行く手を阻む。剣が弾かれて、体勢を崩すも立て直し、一躍距離を取り、また進む。一進一退の攻防を続ける。

「これぞ、『悪であれ』と造られた我が忠義の形」
「帝国に反旗を翻し、御身に刃を向ける――」

        ちゅうぎ
「――これ以上の大悪逆がありましょうか!」
 隠し腕のひとつひとつが光の剣を握り、『マインド』の四肢を狙う。『マインド』の右腕にもったフォース・サーベルがくるりと回転し、ミハエラの第三の腕と右腕を落とす。左腕のセイバーがミハエラの左腕と撃ち合い、鍔ぜり合う。『マインド』の右手に持ったフォース・セイバーが赤い光をミハエラに迫らせ、それをフォース・シールドが防ぎ、彼女が蹴りを繰り出せば、僅かに『マインド』が体勢を崩す。

「――役立たずめ」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは、阻んだフォース・シールドを砕き、猟兵の腹を貫いたまま、ぼとりと落ちる右手のフォース・セイバーをつまらなさそうに睥睨する。ミハエラの機能はすでに停止している。『マインド』の腕は残り二本。それはもはや、彼に戦況を大きく変える能力が残っていないことを示す。その意味で、銀河皇帝の呟きは詮無きものであろうか。
 猟兵たちの戦いが、また一歩先へ進んだ。


●過去より来たりし銃斧の騎士
「本当にいいのかい、ヨウくん」
 赤い瞳が、尋ねる。
「俺はノノの故郷の星が皇帝によって破壊された事をノノから聞いた。だから大切な仲間の復讐を手伝う」
 そう決めたんだと緑色の瞳が優し気に答える。
「君がそう言ってくれるなら、――あの日握手してくれた君を信じる!」
 大げさに笑って、ノノが飛び立つ。鎧装騎兵の脚部スラスターが炎を噴き、床を舐めるように動き、遮蔽を利用して大きく飛び上がる。
「――何をしているか、『マインド』!」
 皇帝の叱咤に呼応して、『マインド』が残った腕に光線銃を握り、放つ。一発、二発、三発。続けざまに撃つ。それは、『マインド』だけでない、『白騎士』が見せてきた、未来位置を完全に予測した精密なる射撃。一発目が、スラスターを守るVMシールドデバイスに当たり、レーザーコートがその輝きを拡散し、和らげる。二発目が、VMAXランチャーのビーム・アックスにすんでのところで阻まれる。三発目、それは必中――ではない。ノノの三つ編みが大きく揺れて、熱線が躱される。急上昇して、ウサミミが慣性にひかれてお辞儀しつつ、ノノは体勢を立て直し、『銀河皇帝』へと迫る。ランチャーから魔力弾を『銀河皇帝』へと放ち、その動きを牽制しつつ。
「やっぱり。いける! 未来と言ってもあくまで予測演算だ。予測と射撃の間に付け入る隙がある!」
 己の推測の正しさを確信し、ノノは笑う。ただし、彼女が成功したのはふたつの要因がある。ひとつは、他の猟兵たちが『マインド』の戦闘能力を大きく削っていたからだろう。そしてもうひとつは、『白騎士』との戦闘経験。疲弊と損傷はその動きを単調にし、ノノには動きを予測する経験が十分にあった。もしそれらがなかったら、ぞっとしない。
「――つくづく役立たずとなるか!」
 それを見て、『銀河皇帝』が目を怒らせる。幾らか成功していようと、力を分け与えたマインド』が完璧でないなど許されない。『マインド』の熱線銃の機構が展開されて、、狙撃形態へと移り替わる。だが、止まる。何かを予知したように。そしてそれはやってくる。

「させない――灰からもう一篇やり直せ!」
 炎の剣を持った青年が飛び掛かる。ユーベルコード【不死鳥降臨・再誕】の一撃が、『マインド』を襲う。しかし、防がれる。赤いビームサーベルが、軽々と受け止める。青年は敵わぬ剣を片手で把持して、開いた片手でカメラを持ち、人差し指を滑らせて、スイッチを入れる。シャッターを押す。かちりと。そして、不敵に笑う。
「未来を計算できても現在を観察せずに攻撃できるか? 避けられるかよ?」

 ――パシャリ。

 閃光が走る。『マインド』の動きが止まった。
 フラッシュバルブによる破壊的なまでの閃光の一撃がその目をつぶした構図。これで、しばらくは動けないはず―――耀がそう考えていたとしたら、『マインド』の力を少々甘く見積もりすぎているといえよう。10秒後の未来が読める機械が、少なくとも眼前の状況を読めないはずがない。現在を観察せずとも、予知済みの未来なのだ。
「――がっ」
 衝撃によって外れ、飛び上がった耀の赤い眼鏡が、無重力の船の中を泳ぐ。
 彼の腹は、赤いフォース・セイバーによって貫かれていた。
 それは、心優しき猟兵と戦いに特化した護衛機械の力量差の現れであった。
 ただしそれは戦術面での話。戦略面で、耀は勝利していた。
 すなわち、過去から放たれた怨嗟の刃が、暴虐なる皇帝に届いたということ。
 陽動として、友への障害を確かに引きはがしていた。

「――我に剣を抜かせるとはな」
 ビーム・アクスと、皇帝のぬいた鋼の剣が打ち合い、火花をあげる。
 後ろは振り返らない。そんな余裕はなかった。斧を大ぶりに振るうも、皇帝の剣が受け止める。斧の重みを感じている風には、見えない。
「銀河皇帝!  キミが過去の亡霊であるように! ボクもまた、過去から放たれた怨嗟の刃だ! この刃を受けて――――立ち去れ! 亡霊!」
 斧を真上から真下へ。その質量を活かした一撃を、銀河皇帝は軽く横に動いて躱す。その動きは、優雅さすら感じさせるもの。そして、返す刀と言わんばかりに、剣が走る。露出の多いスーツで覆われた腹へ剣が突き立つ。
「――カハッ」
 少女が、吐血する。何の感慨も見えない冷めた目で、皇帝が剣を引き抜くと、傷口から血が吹きこぼれる。
「だがまだ、終わりじゃない! ――来てくれ!」
 赤い瞳が、燃えるように輝く。よろめくようにノノが降り立つと同時に、銃斧の機神が宇宙船に降り立って、先ほどと同じように斧を振るう。ただし今度は、速く、重い。その一撃が背負うのは、第七星系全ての死者の恨みである。母星を破壊され、ありし場所の虚無を見た少女の思い。
「――この一撃! とどけっ!」
 その捨て身の一撃を、『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーは剣で受け止める。だが、止まらない。ぴしぴしと鋼の剣にひびがはいる。
「――破れかぶれの一撃などで!」
 その言葉にはくやしさの色が乗る。剣を保持していた左腕で斧の一撃を防ぐ。まともに受けるよりは幾分かマシだと、『銀河皇帝』は判断した。そう判断させられてしまった。赤黒く腫脹し、機能不全となった左腕を抱えながら、体力切れで動かなくなったノノと機神を一瞥する。

 だが、怒りや苦しみにひたる贅沢は、皇帝に許されない。
 次の猟兵たちが迫っていた。
 それが、彼の選んだ孤独なる道に求められるものだ。

苦戦 🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

日和見・カナタ
解放軍と猟兵の皆さんの力でここまで追い詰めることができました。
銀河皇帝…あなたを倒し、この宇宙を解放します!

【フォース・インベイジョン】は念波、つまりは波動です。
突如として現れるものではなく、空間を伝うもの。
そこに突破する余地があるはずです!

【ミニマム・アナライザー】を散布し念波の観測に専念させます!
データは【サイバーアイ】に同期させ予想攻撃範囲を可視化、回避を試みます!

回避後は皇帝に接近、【ヒートインパクト】を打ちこむ私自身を囮にして、背後に追従させた【ガジェットドローン】2機でゼロ距離射撃を行いますよ!
念波に当たっても既に命令を下したドローンは止まりません…私の弾丸、味わってもらいます!


シャルロット・クリスティア
何とか、追いつきましたか……。
えぇ、正直立っているのも辛いですよ。解毒したとはいえ、ダメージはそのまま残っていますから。
ですが、好都合です。痛みでそう簡単に意識を手放すこともできませんから。
仮に洗脳されて自害でも命じられようとも、中にポイントインナー着てますから。自分の銃弾で抜けないことは知っています。
そして、ユーベルコードを奪われたところで、大した問題はありません。
術式弾は、弾頭のルーンと、炸薬に触媒を『混ぜ込んだ』弾。
封じられたところで、『通常弾になるだけ』なんですよ…!

後は、必要なら早業で再装填して、奴より早く撃つだけです。
体力的にも、一撃が限度。ですが、その一撃あれば十分……!


レナ・ヴァレンタイン
※共闘アドリブ歓迎

――そういえば、皇帝は未来を読めるわけでも頭の中を覗いてくるわけでもなかったな

宇宙バイクで突撃
皇帝が『マインド』を展開してきた瞬間、オーラ防御を展開して応戦しつつ全力で距離を取る
マインドを少しでも皇帝から引きはがす
力の差に逃げ惑う雑魚の演技でもさせてもらおう
油断と慢心があればあるだけいい

マインドはあの白騎士と同等
10秒先の未来を読まれ、おそらく私自身は長く持つまい
だが、私を「瀕死」にしなければ発生しない未来は読めまい?


ユーベルコード発動位置は死角、皇帝の足下
マインドが私を捨て置いて対処するなら私自身が皇帝を狙い撃つ

『勝ち』も『終わり』も一緒に持っていけ
死を運べ、ワイアット


三寸釘・スズロク
アリン(f06291)と同行

俺もこの世界には世話になってるし
何より、恩のあるあの娘の故郷を守りたいんだよな。

いいぜ、俺がまず前に出て囮になる
ヤツのサイキックで俺が意志を奪われちまったら、アリンちゃん、
エレクトロワイヤーのスイッチを入れてくれ。リモコン渡しとくな。
そしたらバーゲストが組み上がって……あいつが目を覚ます筈だ。
それまで「見えていない」存在だったあいつなら、まだ意志を奪われてねえ…
って可能性に賭けるわけだ。

…その後も正直賭けではあるんだケド…
大丈夫、あいつも、UDCの施設から外に出してくれたキミへの恩は忘れてないハズ
バーゲストに白騎士の攻撃を庇わせて、アリンちゃんが一撃入れる隙を作る!


アリン・フェアフィールド
スズロク(f03285)と同行

世界を渡るようになって、より強く望むようになった
わたし、太陽の昇る星で暮らしたいんだ
できれば、この世界のどこかの星で

わたし一人じゃ皇帝とまともに戦う手段なんてない…けど
ごめんね、スズロクくん。ありがとう。

スズロクくんが攻撃されたらすぐスイッチを入れる
もう一人のスズロクくんは自分で戦いたがりそうだけど…UC奪われちゃってると思うし
大丈夫、信じるよ

『プロミネンス』を強く噴かして、バーゲストの肩を借りてジャンプする!
白騎士マインドを飛び越えて、
スクラップ・ジャイアント・ハンド…ビッグ・パンチモード!
貴方の帝国はもう、過去のもの。
今度こそ、この星の海を解放して貰うから!



●機をうかがう
(「――こっちには、来ないか!」)
 宇宙バイクを駆る姿は、金の髪の少女のもの。ただしその運転はひどく荒々しく、男性的だった。レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は、その作戦が成立しないことに焦りを感じていた。『マインド』の残された腕が、ビーム・サーベルを振るう。その剣閃が彼女のバイクを切りつけて、煙が浮かぶ。宇宙空間を漂う煙はその場に留まり視界を悪くするも、『マインド』にとっては些細な事らしく、挑発を繰り返すレナが、寄ってきたときに踏み込んで正確な斬撃を繰り出す。それを受け止めた、レナのオーラが歪む。すでに何発も当てられて、満身創痍であってもおかしくない『マインド』であったが、その技に怯みはない。ただしそれ以上ではない。追撃をしない。『マインド』は『銀河皇帝』から離れずに護衛している。レナ・ヴァレンタインという猟兵は、必ずしも空中戦を得意とする猟兵ではない。その点で、決定打を得られず、戦局は膠着していた。
 『マインド』が消極的となった原因はいくつか考えられるが、その最たる一つが、『銀河皇帝』と『マインド』に余裕がなくなっていたことにあるだろう。銀河皇帝は余裕を見せるも、連戦での消耗は激しく、それを隠しきることができない。目は口程に物を言うというが、彼の場合は行動がそれを示していた。余裕がなければ動かず、戦線を下げて防衛する。戦術の基本動作である。
「未来を読まれても、対応せざるを得ない技なら――」
(「あと少し隙があれば、出せる―――」)
 猟兵は、その隙を待っていた。


「他人の意思を奪ったり、召喚したり、自分で戦ったり、……やることが派手だね」
 三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)が茶化すように言う。
「……ごめんね、スズロクくん。ありがとう」
 太陽のように明るく、でも申し訳なさで少し曇った声で、アリン・フェアフィールド(Glow Girl・f06291)が応える。斜に構えた風に見えても、スズロクという男がこれから何をしようとしているのか知っているから、それを咎めようとは思わなかった。

「それじゃ、リモコンはこれ。――よろしくな」
 細かい説明はもう済ませていた。それだけで十分だった。
 ぱちりとウィンクをして、スズロクが駆けだす。ぱたぱたと癖のある髪が揺れる。
 執務室に転がったローテーブルを遮蔽にして、拳銃を放つ。銀の銃身から放たれた、9×19mmの弾丸が、『マインド』の光剣に灼かれて溶ける。
(「わかってはいたけど、……化物かよ」)
 だが、彼はここで止まるわけにはいかなかった。
 恩人の故郷を守るため、良い恰好をしたかったのだった。

(「なるほど、あの連中――」)
 それを観察していたレナという猟兵は、手助けをして、ついでに利用することを思いついた。手助けが先だった。宇宙バイクで走り寄り、アンカーワイヤーを射出する。ぐるりと腕に巻き付いて、スズロクの長身を狙う『マインド』の斬撃が瞬間、ぴたりと止まる。それを機敏に察知して、スズロクが滑る。皇帝の許へ!

「痴れ者――!」
 ここに来て、『銀河皇帝』は未だ無意識のままであった焦りという感情を自覚した。自身の劣勢を理解していた。彼自身と比べ、一人一人は大した力を持たずとも、彼らが織りなす奇跡が、『マインド』の壁を突破しようとしている。このままでは、負ける。

「――我を守れ、猟兵!」
 その怒った翠の目から、フォース・エナジーの波動が広がる。【フォース・インベイジョン】の侵略が、長身の猟兵を襲う。
「アリンちゃん、たのっ――――――――――承知しました。」
 スズロクの瞳が、暗く淀む。
(「――スズロクくん」)
 だが、アリンに感傷にひたる余裕はなかった。決意を秘めた、青い瞳が揺れる。
 ぱちりと音を立てて、何かが動く。駆動音がする。その歪で巨大な両腕の先には、殺意の籠った鉤爪が生えて、かしゃりかしゃりと動きだす。その身は、宙に浮いていた。無重力空間に漂う煙を払って、機械人形『バーゲスト』が動き出す。
「――ちっ、『マインド』!」
 『マインド』の腕がバーゲストの放つ鉤爪を止める。
 そしてそれは、猟兵たちにとっての好機だった。
(「――大丈夫、信じるよ」)
 彼女は跳躍した。その腕は、機械で覆われて、異形と化していた。
「スクラップ・ジャイアント・ハンド……ビッグ・パンチモード!」
 その腕は、スクラップで覆われた誰かを守る拳である。
 銀河皇帝の右腕がオーラを纏い、拳と拳が打ち合わさる。
「貴方の帝国はもう、過去のもの。今度こそ、この星の海を解放して貰うから!」
「その程度の腕力で、我を倒そうなど百年早いわ!」
 銀河皇帝は瞳を怒らせ、フォース・オーラの波動を強める。彼の拳を打ち破るには、アリンという猟兵の腕力は未だ足りない。
「――猟兵!」
 彼が命じる、三寸釘・スズロクへ。銀銃が窓の外の戦艦の爆発の光を受けて、きらきらと輝く。かちゃりと銃がアリンに向けられる。彼女にそれを躱す術は残されていなかった。
(「――大丈夫、信じるよ」)
 迷いのない乾いた銃声が、一発、二発。
 それは、まっすぐに。
 銀河皇帝が咄嗟に自らを庇うように構えた左腕へと撃ち込まれた。
「俺の出番というには、ずいぶんと終わってるじゃねーか」
「――うん、信じてた」
「――勝手に計算に入れられんのは、ほんとムカつくけどよ」
 それは、先ほどの飄々としたスズロクとは異なる『スズロク』。彼の持つ、人格の一つ。殺意と悪意と敵意に満ちた、暴虐の相。
「――暴れられんのは、歓迎だ」
 にやりと笑う。

「君たち、美味しいところは独占するものじゃないよ」
 それは、楽し気ながら尊大な声。手助けしてやったんだから、こちらも一枚噛ませろと笑う。そうだろう、“復讐は蜜より甘い”というのだから。甘美な味を楽しまないでいられるか。ただし、その身は血で塗れていた。彼らが接近する間、白騎士を引き受けることで負った傷。しかし、それは計算通りで。
「『勝ち』も『終わり』も一緒に持っていけ――」
 皇帝の足元の空間が歪む。
「――おのれ――――」
「――死を運べ、ワイアット!」
 黒いフェドーラ・ハットがもうひとつ。それは、かつてレナが白騎士に感情を思いこさせた一撃の再現その銀河皇帝へと重火器を構える。至近距離、狙いを付ける必要などなかった。皇帝の剛腕が防ぐなか、掻い潜った銃弾が肉をえぐる。ばらりばらりと何かが舞う。

「――今なら、私も!」
 レガリアス・ブーツが紅炎を噴く。ぐしゃり、ぐしゃりと音が鳴る。彼を支える何かが崩れていくのを見て、見逃す慈悲を持ち合わせてはいなかった。そして、それが胸の真ん中を貫いて――――

 ――いや、違う。

 崩れ伏したのは、『マインド』だった。
「汝の役割は、我を不老に保つこと――不満はあるまい」
 苦々しい表情で、皇帝が吐き捨てる。それは、同情や哀れみから発した言葉ではなかった。あくまで自分の窮状への不満。それを聞いても、忠実なる『マインド』は文句ひとつも言わなかった。白き人型兵器『マインド』が、前のめりで倒れる。

●ミニマム・アナライザー
「――さて、どんな絡繰りか知らんが、もう一度言おう。我に従え」
 『銀河皇帝』の目が光る。
 だが、その行動は意味をなさなかった。
(「データ・リンク――みんな、これを使って!」)
 『銀河皇帝』の敗因のひとつは、手の内を晒しすぎたことにあるかもしれない。少なくとも、この場ではそうだった。部屋中に展開された目が、計測を行っていた。
(「――へえ、これは便利だ」)
 レナが感心したような声を出す。彼女は、誘導に従って近くの遮蔽に上手に隠れ、その視線を遮っていた。操られた様子は、ない。それは、スズロクも、アリンも同じ。

「――馬鹿な」
 呆然とした声を、皇帝があげる。

「【フォース・インベイジョン】は念波、つまりは波動なんです。突如として現れるものではなく、空間を伝うもの。そこに突破する余地があります」
 波の動きは、それが仮に光の速さだとしても、届く範囲が限定されうる。届く範囲と届き方がわかれば、対策は容易だ。回避できなくとも、作れさえすれば、ガジェットで干渉妨害することだって可能だ。つまり今まさに、皇帝は一人となった。

「発勁用意!」
 四肢に設えられた両腕機関が蒸気を噴いて、ガジェット・レッグが駆ける。
「――この、我が! 我がやられるなどと!」
 ガジェットアームの鋼の一撃が、皇帝の胸を打つ。続けざまに、随伴する小型ドローンが、羽音を立てて舞い、皇帝へと銃弾を叩きつける。撃たれた銀河皇帝は、その勢いのまま足だけで、くるりと横薙ぎに回転する。右足に力を込めて跳躍し、左の横蹴りでガジェットドローンを破壊する。破壊されたドローンの残骸を、迫る『バーゲスト』に蹴り捨てれば、『バーゲスト』の爪が残骸を切り裂く。
「吼えろ、バーゲスト!」
 踊りかかった『バーゲスト』の両腕から鈍い色をした、グレネード弾が放たれる。もはや動かない両腕であっても、フォースの力は健在である。斥力場を遮蔽として、その爆発から身を守る。しかも、それで終わらない。殺しきれない爆発の勢いを利用して、『ワイアット』の射線から身を隠しつつ、アリンの前へと降り立って。
「まずは、――……一人」
 もはや指先の感覚のしないはずの左腕を、肘と肩だけで動かしてアリンへと不意打の突撃とする。それは、まっすぐに彼女の腹を貫くかと思われた。
「ったくよぉ、こういうのはテメェ自身でやれってんだ」
 その不平は、誰に向けてかなどと言うまでもない。『スズロク』からスズロクへ。
 恩ある少女のかわりに攻撃を受けた『スズロク』の口から零れた言葉。
「――あとは、できるな?」
「当然! ――レナさん、カナタさん!」
 アリンの声で、三者が動く。
 蒸気の腕が、スクラップの手が、報復の砲が、銀河皇帝の身体を撃つ。
「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ――――――」
 銀河皇帝の身体が、嵐の中、暴風に揉まれる布のように、くらくらと動く。
 その嵐が止むと、彼の身体は音を立てて、倒れた。

●クー・ド・グラ
「これで、終わったのかな」
 気を失ったスズロクの身体が痛まぬように床に落ちつけて、アリンが呟く。
「ああ、これで皇帝も動かないはず――」
 レナが、男性的な断定口調で答える。
「――ちょっと待って、皇帝が、いない!」
 カナタの目が驚きで見開かれる。
 『銀河皇帝』は転移能力を持っていて、どうやって使ったのかは判然としないが、猟兵たちの前から姿を消していた。しかし遠くにはいけないはず。どこに。

「――汝らに、ただで勝ちなどくれてやるものか」
 『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザーの声が、執務室の最奥から聞こえる。
 豪奢な椅子に腰かけて、それを血で汚しながら、机の上の鷲の形をした飾り置物に手をかける。この期に及んで触れるそれが、ただの置物であるはずがなかった。
「次の我が、きっとうまくやる。今しくじっても、いつか、また――」
 距離はわずか。だが、一瞬で詰められる能力を猟兵たちは持っていない。
 それでも彼らは諦めない。一縷の可能性を信じて戦う。
 ここまで追い詰めて、やられるのか――

「――いいえ、次なんて、ありません」
 冷めた声は、狙撃兵のもの。満身創痍の声が、執務室の入り口から聞こえる。
 その銃はしっかと皇帝の頭へと向けられていた。
「一撃あれば、十分――」
 シャルロット・クリスティアの魔法弾が炸薬の音を軽快に立てる。
 正確無比な一撃が、確かに彼の頭を打ち抜いた。

「――我は、蘇え――骸の、海から――」
 だらりと赤と灰の色をした何かが零れる。ぴくぴくと痙攣するその手から、カナタが起爆装置を奪い取る。後にわかることだが、これは旗艦『インペリウム』の動力炉を暴走させるものであったという。だが、もはや動かない。

「終わりです、終わりなんですよ」
 誰かがそう言った。『銀河皇帝』が幾たびも蘇る因果は、すでに絶たれている。
 彼の野望は、今ここに、潰えたのだ。

 どこかから歓声が聞こえた。
 それは、作戦に参加したすべての猟兵に向けられていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月24日


挿絵イラスト