柊・はとり
いつもお世話になっております。
今回は以前参加した黒塚MSのシナリオでちらっと話に出てきた、はとりの兄&姉のサイドストーリー的なものをお願いしたく、リクエストさせていただきました。
●該当シナリオ:清流に命煌めく
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=43764
●ノベル内容
人類の拠点化されたはとりの実家と、その周辺の地区で、奪還者であるはとりの兄と姉が生活を送るシーン
レイダー等との戦闘風景でも、日常・冒険フラグメントのような内容でもOKです
●はとりの実家
長野県(冬になると吹雪の山荘で連続殺人が起きそうな地域)
安曇野や白馬あたりのイメージですが、とりあえず架空の市区町村としてOK
『柊藤梧郎記念館』というはとりの曽祖父が自ら建てた記念館があり、昔は観光名所でした
この記念館には実は色々な殺人トリック装置や、いざという時使える武器が隠されており、今は強固な砦として防衛に一役買っています
●はとりの兄
【名前】柊みかげ
【年齢】30歳前後(見た目やや若め)
【ジョブ】サバイバルガンナー(猟兵ではない)
▽容姿
・はとりをそのまま成長させたイメージ
・弟より美形だが性格悪そう
・眼鏡はかけていない(コンタクト)
▽設定
主に犯罪者の弁護を請負っていた元敏腕弁護士
利益にならない仕事はしない主義で、勝つためなら手段を選ばない非情な冷血漢
高飛車でナルシスト、人を見下しがち
価値観の違いから弟とは不仲だったが、昔はよく一緒に遊んでいた
弟が生きている事は知らず、あいつは詰めが甘いから殺されたのだと言って憚らない
●はとりの姉
【名前】柊まよい
【年齢】20代後半
【ジョブ】闇医者(猟兵ではない)
▽容姿
・クールな眼鏡美女
・顔ははとりに似ている
・身長は160㎝台後半、スタイルがいい
▽設定
元美容外科医
兄と同じく優秀だが兄よりはかなり良識派、独学で医療を学び地域住民の生活を支える
三兄弟の中では一番社交性があるが、弟を可愛がりすぎて鬱陶しがられていた
弟が生きている事は知らず、今も実家の側にある柊家の墓(※はとりの骨は入っていません)をまめに訪れている
兄のみかげとは低レベルな喧嘩をしがち
●ほか
・兄姉の共通設定として、はとりとは目の色が違います(普通の青)
・字数都合による一部返金OK
発注文は公開にしますので、発注文を見たらわかる事は無理に描写しなくても大丈夫です。
シチュエーション、兄姉の口調・エピソード・容姿、実家周辺の詳しい様子なども(無理のない範囲で)ご自由に設定してください。
長々と失礼致しました、もしお時間がありましたらご検討よろしくお願いいたします!
凍えた風が、女の髪を浚って乱す。粉のように舞い上がった雪が、辺りを陰らせた。
いつもこの地には陰鬱な風が吹く……。
ひゅうひゅうと泣き喚く風がゆっくり渦巻いて、暗い曇天に帰って行く。
だが、黒御影の墓標に手を合わせる女は、手を合わせた姿勢の儘、微塵も揺らがなかった。目を閉じたその姿は、あらゆる干渉を拒絶するかのように。
とても頑なな祈りの所作だ。
何をそんなに報告することがあるのだろう――女と、死者との語らいは、小一時間にも及ぶ。
艶やかな髪を風に踊らせ、瞳を閉じて俯く横顔は玲瓏の美。
すらりと伸びた四肢は厚手のコートに隠されていても、よくわかる。姿勢が良いため、飾り気のない装いでも、凜として美しい。
品の良い印象を与える細い銀フレームの眼鏡の奥、ゆっくりと開いた瞳は、澄んだ青だ。
――彼女の名は、柊まよい。
墓標に刻まれた『柊家』の文字を静かに見つめ、ふと目元を綻ばせた。
「そうだ。あの事件も報告しなきゃ」
零れた声も、冬の朝のように凜と張り詰めているが、呼びかける様は愛情に満ちていた――呼びかけられた当人が聞いたら、きっと酷く貌を顰めるだろうけれど。
「はとりくんなら記憶してるだろうね、共鳴館事件――」
※
アポカリプスヘル、日本は、長野――敢えてX地区としよう。
アポカリプス・ランページを乗り越えた人類は、各地に存在する人類砦を徐々に拡大、集落と呼べるほどに安定した拠点を築き始めていた。
X地区もまた、曾ての風景を取り戻しつつある場所であった。
周囲を鬱蒼とした森で囲まれた山里は、オブリビオン・ストームが吹く前は、夏は風光明媚な景色と、涼しい気候。冬は情緒ある雪景色を売りに、少し脚を伸ばせば温泉もあることを活かした観光地であった。
なにより、この地で生まれた名探偵……柊藤梧郎が自ら建てた『柊藤梧郎記念館』という名所があった。それがなければ『よくある別荘地』止まりであっただろう。
そして、現在――行く先々で、酸鼻な事件に出会ってきた柊藤梧郎の記念館は、人類砦として生存者を助け、今は周囲の復興を助ける重要拠点となっていた。
――さしもの名探偵も、そんな未来までは予想できなかっただろう。
さて、展示物の詳細な説明は省略するが、展示ゾーンはすっかり防衛用の改造が施されている。展示品は、貴重品というより、事件のトリック装置やら凶器やらがメインであったため、奪還者達のために解放しても特に困らなかった。
拠点の提供だけでなく――まよいもまた、昏迷の時代に自力で医術を習得し、闇医者として、地区を支えていた。
「まよいさん、大変です!」
外の往診から戻ったまよいを迎えたのは、拠点に詰めている奪還者だ。
「“共鳴館”の間が、レイダーに乗っ取られました!」
跳び込んだ記念館の中は、戦場と化した痕跡で荒れていた。硝煙と、血の匂い。焦げ付いたバリケードも、抗争が激しかった頃に見慣れた光景だ。
まよいは一気に駆け抜けると、廊下の突き当たり、数人の武装した奪還者達の中心で、不機嫌そうな男が虚空を睨んでいた。
「みかげくん!」
名を呼ばれた男は、今度はまよいを睨んだ――否、素直に、目つきが少々悪いだけだ。
だが、美しい。文句の付けようもない、美男子だ。
顎のラインから鼻の稜線まで、すらりと理想的な曲線を描き――甘いだけではない、知性を漂わせる犀利な美。
冷たい印象を与える青い瞳が、より一層、その印象に拍車を掛け、じろりと人を睨むと、迫力がある。
柊みかげ――まよいの実兄である。彼女が今更、慣れた兄の目つきに、たじろぐはずもない。彼も奪還者として、今は無骨なバトルジャケットを纏い、機関銃を携えている。
彼は妹の姿を認めると、唇の前に人差し指を立てて、黙れとジェスチャーをした。“共鳴館”という部屋の意味をよく知るまよいは、ただ頷き返す。
みかげは振り返り、伝声管に向かって、告げる。
「それで……いつまで其処に立てこもるつもりだ」
『世界は滅びるべきなんだ……』
見た目を裏切らぬ冷ややかな声に、応える陰鬱な声。
『こんな不自然で不完全で不愉快な世界は、浄化の嵐で完全に滅びるべきだ。知っているぞ、この部屋には、世界を滅ぼす細菌兵器があることを――!』
暴走しだした主張を続ける伝声管に蓋をして、みかげは眉間に皺を寄せた。
「こんな調子だ。オレは莫迦と話する気は無いが、意見はあるか」
「どう片付ける気?」
妹の問い掛けに、彼は肩を竦める。
「“仕掛け通り”、だ」
「……あら、意外」
揶揄うような調子で、まよいは兄を見る。
「はとりくんみたい」
「その不快な冗談、二度と口にするな」
共鳴館事件とは、館全体に伝声管が巡らされた軍事実験施設で起こった密室殺人事件だ。
被害者は部屋の真ん中で事切れていたが、確りと部屋は施錠されていた。伝声管こそ様々なところに通っているが、人が通れる場所はない。だが、その死因は後頭部の撲殺で、諸々の状況から、自殺では有り得ない。
果たして、その殺害方法とは――。
『おい、クソレイダー』
伝声管から、みかげが声をかける。
『お前の見立ては正しい。ああ、そうだ。その部屋に、世界を終わらせるクソ細菌が隠されている』
淡淡とした声が、レイダーがこの記念館に求めた凶器の情報を告げると、レイダーは目を輝かせ、伝声管に取りつく。
「はやく、はやく教えろ!」
こういう瞬間、みかげは思う。なんで、莫迦は疑う事をしらないのだろう――と。
『まあ、待て。言うまでも無いが、とても危険な品だ。お前はその場で暴発させる気満々だろうが、そうできないよう、厳重に仕舞われている』
よく聴け、ちゃんと記憶するんだぞ、みかげはそう言って、呪文のような仕掛けの数々を唱え出す。
聞き逃すまいと伝声管に齧り付いたレイダーは――刹那、凄まじい衝撃が頭部に走って、どうと倒れ込む。表現し尽くせぬ、凄まじい頭痛。
辺りを見渡そうにも、もう起き上がれぬ。頭が、頭が、燃える様に痛む!
「ったく、手間取らせやがって――」
頭上から、苛立った肉声が聞こえてきた。
もう身体を動かすことも叶わぬレイダーは、天井裏で機関銃を構え直した美丈夫の姿を見ることもないまま。
眼前の砲弾が銃撃によって炸裂するのを眺めるしかなかった――。
密室の解は、トリックなどと呼ぶのも陳腐な力業だった。
伝声管に引きつけている間に、背後に繋がる別の伝声管に大砲の弾を落とし、被害者の頭を破壊する――というものだった。
トリックは簡単だが、では殺害を実行するには、単独犯では無理だとか軍事施設に関わる秘密だとか、一応、名探偵の知恵を必要とした案件だった。
言うまでも無いが、この共鳴館の間は、元の施設とは異なる作りになっている。砲弾は垂直に落ちるし、天井裏に潜む事も可能だ。細菌兵器の有無は、想像にお任せする。
今回の場合は、まよいが無線を伝声管に当て、砲丸は、みかげが落とした。
天井裏から直接銃撃すれば良いのでは、まよいは問うたが、「あんな莫迦のために銃弾を無駄にしたくない」とみかげは答えた。
レイダー一匹とて、油断ならぬ。奪還者達の攻撃を潜り抜け、細菌兵器を求めてここまで潜り込んだ相手なのだ。
「オレは確実な勝利のための手順を選ぶ」
生き残るための必然だと、埃にまみれたみかげは、破壊された部屋を一瞥し――「オレはヒーローじゃないからな」と、冷たい横顔で呟いた。
※
「――“出典に準える”なんて、みかげくんらしくもないでしょう? ちゃんと事件のことを覚えていた事にも驚いたけど」
墓前に語り終えて、まよいは再び目を伏せた。
偶然が重なったとはいえ、どうしても合理的とは思えぬ手順だ。兄らしくもない――けれど、弟に向けて語りかけるのに、面白いエピソードであると思えた。
暫く、兄を揶揄う材料にもできるかもしれぬ。
――ああ、だけど。
まよいは、どうしても忘れ得ぬ面影を瞼に宿し、吐息を零した。
「……はとりくんだったら、どう解決したかしら」
自分の言葉に寂しげに笑った彼女は、ゆるく頭を振る。髪から落ちた雪が振り落とされて、何処かに染みていく。
事件の記録は残る。でも何も残してゆかなかった人は?
不意に胸を締めつけられるような憂愁に捕らわれ、まよいは、美貌を強ばらせた。
「覚えてる。私が、忘れない――」
誓うように囁くと。遺骨のない墓を名残惜しげにじっくり見つめてから、まよいは「またね」と踵を返す。
平穏に過ごせる日々も増えたが、未だ、決して油断はならない日常に戻るべく。
雪を踏みしめる女は、戦う者の貌をして、去っていった――。
成功
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