#サクラミラージュ
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「私はもう、長くはないだろうけれど。せめて最期まで、誰かの助けになりたかったんだ」
そう語った主――|森《もり》・|浅沙《あさざ》は、不治の病に冒された、少女探偵だった。
何でも父は高名な探偵だったとかで、なおかつ清貧だったのだとか。最期まで弱者を率先して助け、過労に倒れようともその死に顔は安らかだったと言う。
一方で、天涯孤独となった浅沙――母は彼女の命と引き換えに世を儚んだと聞いた――も、そんな父の今際に怒りも呆れも抱かず、寧ろかく在りたいとの思いを強めたらしかった。幸いにして、せめて娘には知識をと、父はなけなしの財産を彼女の学費と書物に当てたそうだ。
お陰で浅沙は賢い娘に育ち、尋常小学校を卒業後、高等女学校への進学が叶わなかったにも拘らず、父に勝るとも劣らぬ優秀な探偵へと成長を遂げた。
但し、その実態はほぼ安楽椅子探偵だった。その理由こそが病に他ならない。それでも安楽椅子探偵としては驚異の事件解決率を誇っていたが、それだけでは差し伸べられぬ手もある。涼し気な顔のその裏で、歯痒い思いを何度噛み砕いたか解らないと打ち明けられた。
ゆえに、彼女は自らの手足を求めた。彼女は美貌の娘でもあったが、病を期に色素が抜けて、ほぼ白に近い金の髪を得て以来、周囲からは気味が悪いと遠巻きにされるようにもなっていた。
親しい人間のいない彼女が求めたのが、|悪魔《ダイモン》だったというわけだ。彼女は生来の向学心の強さも相俟って、遂に僕と云う影朧を悪魔として召喚するに至る。
生憎、僕は彼女のように高潔な志なんてものは持ち合わせていなかったけれど、彼女と交わした『ある契約』は僕にとっては余りにも甘美で、果たされるその日まで、彼女の望む僕であろうと決めた。
求められるままに動き人々を救えば、常に怜悧な彼女は花綻ぶように微笑んだ。その表情を見る度に、来たる日への期待が高まるのを感じていた。
彼女は深く踏み込んでみれば純な少女でもあり、花にするように愛でればそういったことには不慣れであるらしく、ぎこちなくはにかむような少女だった。
自分で自分が解らなくなった。
僕が愛でているのは花なのか、それとも。
そして、それを存外悪くないと感じていることも。
――その、矢先。
彼女は、死んだ。
「――嗚呼、こんなことなら。君の花を、あの時盗んでしまえばよかった」
君の心からは、それは可憐で清らかな、浅沙の花が咲いただろうに。
だが、今は。それよりも。
「……赦さない。赦してなるものか――」
僕の|浅沙《はな》を奪った、あの|開業医《おとこ》を。
●
「花を愛でるは恋ひ慕うゆえか、それとも別の想いでか――ま、論ずるだけ野暮ッてモンか」
花盗人という影朧を知ってるか、と明・金時(アカシヤ・f36638)は皆に問う。
「行っておくが、桜の枝を手折って――なんて可愛らしいモンじゃねェぞ」
こいつは人の『心』を花として、盗むのだと。
比喩ではなく、魔術的な力で人の意思や感情を花へと変えて、それを蒐集して行くのだと。
「と言っても、今回の奴は色々あって、盗人からは足を洗ってる。桜の精の癒しも得た。……得ていた」
転生の輪に乗りかけたところ、ふと悪魔を喚ぶ一人の少女の心に惹かれた。悪癖である。
ただそれでも、その時は再び盗みを働こうとは考えていなかった。全く惜しくなかったと言えば、嘘になるかも知れないが。
「最初は契約だったそうだぜ。召喚士はもう長くなかった。もし自分が倒れ、契約の終わる時が来たなら、自分の心を持って行って構わないと」
元盗人の悪魔は頷いた。冥土ならぬ転生の土産には、丁度いいと思ったからだ。
恐らく最大の誤算は、執着してしまったこと。|心《はな》のみならず、|少女《ひと》そのものに。
だが不思議と、そんな自分も受け入れていった、その矢先だった。
少女が、通院先の医院で死んだのは。
月に一度の通院で、突然の発作だったそうだ。悪魔はとある人物の足取りを追っていて、死に目に立ち会えなかった。
「……開業医もな、手は尽くしたんだよ。ただ何分突然で、元より不治の病だった。治療の甲斐なく、ッてワケだ」
だが、悪魔にとっては充分だった。
憤怒と後悔と――絶望に呑まれるには。
「だが今なら。間に合う」
少女の死は避けられない。起こってしまった出来事だからだ。
しかし、猟兵たちが今すぐに向かえば。そして群がる低級影朧を、必要最小限の討伐で突破出来れば。
まさに悪魔が開業医へと、復讐の刃を向けたその瞬間に、割って入ることが出来るという。
彼は今まで集めた花すら犠牲に復讐を成し遂げるつもりだ。だが。
「一度は足を洗って転生の輪に乗ることを決めた身だ。引き戻してやってくれ」
今の彼ならきっと、まだ戻ることが出来るから。
そう彼を、猟兵たちを信じて輝かせた金時の|フヰルム《グリモア》が、悲劇の舞台へと導く――。
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあと申します。
サクラミラージュが何やら不穏なので、大事になる前にとひとつの事件を。
流れと詳細は以下の通りになります。
第1章:集団戦『燐火蝶』
第2章:ボス戦『花盗人』
第3章:日常『???』
第1章では、花盗人のいる診察室への道を塞ぐ燐火蝶との戦いになります。
現場は火に包まれていますが、付近の燐火蝶を倒せばその分火は消えます。
診察室へ続く医院の廊下にいる個体だけを蹴散らして、現場を目指しましょう。
第2章は、憤怒に狂い絶望に堕ちた花盗人へ、今一度救済を与えるための戦いとなります。
その力は悪魔としての時分より大幅に強化されてしまっていますが、主への想いを取り戻すにつれ弱体化するようです。
そのためのヒントは、どこからともなく断片的に流れてくるかも知れません。
見事花盗人を正気に戻すことが出来た暁には、彼は第3章で転生を願うでしょう。
その時、何が起こるかはまだ解りません。
どうか彼も皆様も、悔いのないように。
第1章開始前に、断章を執筆予定です。
戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『燐火蝶』
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POW : 灼熱飛舞
【ヒラヒラ舞い飛びながら炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 翅翼火光
【炎の翅から放たれた光】が命中した対象を燃やす。放たれた【蒼白い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 蝶蝶怪火
レベル×1個の【蝶の姿をした焦熱】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
イラスト:芽蕗ハジメ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「さぁ、たんとおあがり」
「……料理の練習をしているのは知っていたけれど。凄いな、ちょっとしたレストランで出てきそうだ」
「健全な精神と肉体の持ち主からこそ、心に綺麗な花が咲くんだよ」
「心の花……と言うけれど。世に咲いている花では駄目なのかい?」
「駄目ってことはないさ。勿論、花は美しいよ。その大前提があるからこそ、僕は心の花を愛でるんだ」
「つまり……?」
「ええと、なんて言えばいいのかな。花にも色々あるだろう? 桜に向日葵、菊に梅……浅沙。そういった種類のようなものだよ。君は石蕗の花が好きだと言っていたね。それと同じようなものだよ」
「成程」
「……ところで、以前から思っていたけれど。君は僕の『前職』について、あからさまな嫌悪を示さないね」
「あれは職と言えるのか……? そりゃあ、流石に盗むのはいただけないと思うけれどね。ただ、好きだとか、綺麗だとか思う気持ちを、他人が止めることなんて出来ないからね。実行に移す計画があるなら私は止めるしかないが……花を美しいと心の内で思うだけなら、自由だろう」
「………………」
「盗人なんて以ての外だ、今すぐ契約を切る……と言うとでも? だとしたら、最初からそうしているさ。自分の意志で契約しているのだからね」
「……っふふ、あはは! そうか、そうか」
「私は何か、おかしなことを言ったかな?」
「いいや。君の心からはどんな花が咲くのだろうと、夢想に耽って楽しくなってしまっただけだよ」
●
――、――今のは。
ちかちかと、眼前で蒼がぱちぱちと、星のように瞬く。
現場の医院を取り囲むように群がる燐火蝶は、強い想いに惹かれて集う習性があると言う。そしてその感情に呼応し、火の勢いを増してゆく。
ならば、この炎は。憎き相手を怨み猛る憤怒の炎か。或いは――、
ともあれ。
この先へ、進まねばならぬ。
ジゼル・サンドル
矢絣の着物に赤い袴姿。
サクラミラージュでは歌姫探偵を名乗る身、かの少女探偵に実力は遠く及ばないだろうが…誰も傷つけることなく歌で事件を解決する、それが歌姫探偵の矜持だ。
…っ!今のは…|悪魔《ダイモン》の、記憶…? これは…憎しみというよりも、深い悲しみと怒りの炎…なんだかそんな気がする…
それにしてもなんて熱い炎だ、このまま進んだら喉が焼けてしまいそうだ。
ここは【結界術】で自分の周りに結界を張って炎から身を守りながら進むことにしようか。
この歌ならあらゆる物資を透過するから結界越しでも燐火蝶に届くはずだ。
指定UC発動、さらに歌声を【音響弾】に変え歌いながら進む。
…君達も、無事に転生できるといいな。
●
矢絣の着物に赤い袴。
それがこの|世界《サクラミラージュ》にて歌姫探偵を称する少女――ジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)の出で立ちだ。
(「かの少女探偵に実力は遠く及ばないだろうが……」)
まだ、その名で活動を初めて日が浅いこともあり、そうは思うも。
「誰も傷つけることなく歌で事件を解決する、それが歌姫探偵の矜持だ」
それを貫く意思は、名のある探偵にも引けを取らぬと信じて。
己を奮い立たせて、進もう。意を決して、燃え盛る炎へと目を向けた、その瞬間だった。
「……っ!」
ジゼルの脳裏へと、焼きつけるかのように。
見知らぬ光景が、流れ込んでくる――!
(「今のは……|悪魔《ダイモン》の、記憶……?」)
青年と少女。きっと在りし日の、彼らの情景。
で、あれば。
(「これは……憎しみというよりも、深い悲しみと怒りの炎……」)
感覚的ではあるが、ジゼルにはそう思えてならなかった。
悲しみの淵に沈んだ悪魔。そして底へと落ちてゆくほど、怒りもまた同じ分だけ湧き上がる。
言うなれば、この炎は――、
(「……それにしてもなんて熱い炎だ、このまま進んだら喉が焼けてしまいそうだ」)
一度、ジゼルは思考を中断する。
兎にも角にも、まずは悪魔の元まで辿り着かなければ話にならない。
火の中を越えていくために、ジゼルはまず火を阻む結界を展開。己の身を守り、開け放たれた扉を潜り医院の中へ。
待合を抜ければ、廊下は一本道のようだ。迷うことはない。だがひらひら、舞う燐火蝶は蒼白く光る灯火を撒き散らし、戯れる。
「浄化させてもらおう。この歌を以て――」
ジゼルは朗々と歌い上げる。魂を浄化する|聖譚曲《オラトリオ》を。
あらゆる物質を透過するこの歌を、音響弾へと変えて向かう先に漂う蝶らを決壊越しに撃ち抜けば、その名の通りの蒼い燐光へと変わり、燃え落ちるように消えてゆく。
ジゼルは急ぐ。今まさに惨劇が起きようとしている、その場所へ。
だがその途中、一度だけ来た道を顧みて。
「……君達も、無事に転生できるといいな」
消えゆく光へと、祈りをひとつ餞に。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
俺も身内に高名な探偵が居た
探偵のくせに犯人になりやがったクソ爺だ
尊敬も感謝もしちゃいないし
俺自身殊勝な志も特にない
事件があるから嫌々解決してるだけのクソ探偵
それが柊はとりだ
――、
燃えるような憤怒や慕情が焔になるなら
俺の凍てついた卑屈と諦観にも似た絶望が
氷になるのもまた必然だろうよ
はあ…火は苦手だ
其処どけよ、凍らすぞ
UCで氷属性の炎を展開し熱波を退けつつ
殺気で蝶達を威嚇する
どかなくても無理矢理通るだけだが
火事場で建物ぶち壊すのは明らかやべえし
こいつらの行く末も気にならなくはないが
とりあえず生きてる人間優先だ
先を急ぐ
なんで森浅沙が死んで
どうして俺の方生かすんだよ
あー何もかもクソ
結局俺は見過ごせない
●
(「俺も身内に高名な探偵が居た」)
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は回顧する。
(「探偵のくせに犯人になりやがったクソ爺だ」)
『名探偵』で在ることを追い求めてやまず、『真犯人』としてその生涯に幕を下ろした。それでも最期は探偵らしく、事件現場で。
そんな男だった。尊敬も感謝もしちゃいないし、殊勝な志も特にないと、はとりは自認している。
(「事件があるから嫌々解決してるだけのクソ探偵、それが柊はとりだ」)
それが、はとりにとっての|自己評価《柊はとり》。
ゆえに。顔を上げて、己の目を渇かす炎が脳裏に焼きつける光景を、受け止めて。
「――、」
吐き出す。熱と共に。言葉もなく。
頭は回転を始める。今はまだ未遂の殺人事件を、未然に終わらせるために。
そのための最適解を、はとりは既に考え、組み立てている。
(「燃えるような憤怒や慕情が焔になるなら、俺の凍てついた卑屈と諦観にも似た絶望が氷になるのも、また必然だろうよ」)
選び取る。
これが答えだ。
「はあ……火は苦手だ」
溜息ひとつ。それと同時。
「其処どけよ、凍らすぞ」
膨れ上がる殺気。
纏う炎は蒼く冷たく、医院を包む熱すら凍てつき時を止めるだけ。
燐火蝶らは気圧されたように、はとりの傍から離れた。彼の進む道だけが、焦げだけを残して開かれている。
(「無理矢理通ることになんなかっただけ僥倖か。火事場で建物ぶち壊すのは明らかやべえし」)
いざという時は、物理的に押し通ることもやむを得ない状況ではあったが。その必要がなくなったことは不幸中の幸いだろう。
(「こいつらの行く末も気にならなくはないが」)
低級とは言え、この蝶らもまた影朧。
多少なりとも傷を負い、その姿でいることは事実。
しかし、はとりはすぐに前へと、その眼差しを向けて。
(「とりあえず生きてる人間優先だ」)
先を急ぐ。足早に。
向かうべきその場所を、『殺人事件の現場』にしないために。
ここに確かに、黄泉帰った『白雪坂のホームズ』がいた。
だが、同時にひとりの探偵が死んだ。
(「なんで森浅沙が死んで、どうして俺の方生かすんだよ」)
世界は非情で理不尽だ。
ならば、はとりが生かされたのはきっと。
「あー何もかもクソ」
独り言つ。
それでも歩みは止まらない。
(「結局俺は見過ごせない」)
どこまで行っても、はとりが探偵だから、なのだろう。
大成功
🔵🔵🔵
リィンティア・アシャンティ
蒼い、星のような瞬きがぱちぱちと
とても綺麗ですね……熱いですけど
燐火蝶がこれだけたくさん集まっているのだから
それだけ想いが強いのではと思います
でも、こんなに綺麗に瞬いているのですもの
怨みや憤怒のような負の感情より、もっと違う感情に集まっているのではと思います
きちんと戻してあげたいです
このままでは悲しすぎますもの
一応、炎よけにフードなど被ってみますが
火はなるべく消したいですね
UCの大鳥の幻影で範囲内の燐火蝶を倒しながら診察室に向かいます
間に合うように
廊下だけ、廊下だけ……です
ところで
花盗人さんが足取りを追っていた人物ってどなただったのでしょう?
浅沙さんのための大切なご用だったのかもしれませんね
●
炎は燃える。
無情なほどに、世界を灼いていく。
蒼い、星のような瞬きがぱちぱちと弾けるさまに、リィンティア・アシャンティ(眠る光の歌声・f39564)は眩しげに目を細めた。
(「とても綺麗ですね……熱いですけど」)
ただ、綺麗なだけであれば、どんなにか。
これは光と、そして熱の牢獄だ。そして、それを形作る蝶の群れだ。
(「燐火蝶がこれだけたくさん集まっているのだから、それだけ想いが強いのではと思います。でも、こんなに綺麗に瞬いているのですもの」)
怨みや憤怒のような負の感情ばかりで、この煌めきが生まれたのだとは思いたくなかった。
(「もっと違う感情に集まっているのでは……と」)
そう、リィンティアは考えずにはいられない。
だからこそ。
(「きちんと戻してあげたいです。このままでは悲しすぎますもの」)
炎の中へ。
踏み込めば、蝶は燐光を炎へと変えて戯れている。
(「火は、なるべく消したいですね」)
念の為、炎よけにフードを被ってはいるものの、それだけでは防ぎきれないほどの大火。
だが、今は廊下で道阻む炎を越えられればそれでいい。
「いつか見た彼方へと……貴方たちにも」
歌う。
大鳥の幻影が、蝶を炎ごと吹き飛ばす。
それだけで、蝶らは壁に打ちつけられると炎に呑まれて消えていった。きらきらと、煌めきの残滓を残して。
(「どうか、間に合って」)
開けた道を駆け出す。
廊下は一本道だ。迷うことはない。
急ぐのだ。悪魔が再び、影朧として命の花を散らしてしまうその前に。
(「……ところで、花盗人さんが足取りを追っていた人物ってどなただったのでしょう?」)
恐らくは浅沙が調べていた何らかの事件の関係者なのだろうが、浅沙の付添よりも優先していることを考えると、たとえばもう少しで尻尾を掴めそうな犯人……などの線が濃厚だろうか。
いずれにしても。
(「浅沙さんのための大切なご用だったのかもしれませんね」)
その絆は、本物だったはず。
信じて、先へ。
大成功
🔵🔵🔵
桜井・乃愛(サポート)
桜の精のパーラーメイド×咎人殺しの女の子です。
普段の口調は「元気(私、~さん、だ、だね、だろう、だよね?)」、偉い人には「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
性格は明るく天真爛漫で、少し天然ボケな感じの少女。
一番好きな花は桜で、その他の植物も好き。
強敵にも怖気づく事は少なく、果敢に挑む。
人と話す事も好きなので、アドリブ歓迎。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●
(「本当なら、この蝶たちも……」)
小さくとも、個々では強力な力を持たずとも、影朧は影朧。
傷ついた影朧たちに転生を――そう、使命を胸に戦いに身を投じる桜井・乃愛(桜花剣舞・f23024)は、そう考えずにいられなかった。
だが、今は道を開くことが先決。もどかしい思いを呑み込んで、既に開かれた扉の奥、その先の炎を見据えて。
「……よしっ」
覚悟は決めた。
後は、示すのみ!
「桜と月の魔力よ、私の本当の姿を示し給え!」
花と光が乃愛を包む。
炎に負けず、光り輝き彩る――やがて、乃愛の姿は桜ま纏う羽衣の天女へと。
「ごめんね、先に行くよ!」
蝶らへと言葉をかけて、ふわり天へ。
そのまま、一陣の風の如く、真っ直ぐに伸びる廊下を突き抜け。
月の光は遮る蝶らへと、矢を射る如く突き刺さる。
(「熱い、……けど」)
蝶らの、癒されぬ傷に比べたら。
悪魔の、深い哀しみに比べたら。
この程度、どうということはない!
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『花盗人』
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POW : これは、どんな感情だったかな
自身の【今までに盗んできた花】を代償に、【元になった人の負の情念】を籠めた一撃を放つ。自分にとって今までに盗んできた花を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : 君の心はどんな花かな?
【独自に編み出した人の心を花にする魔術】を籠めた【手を相手に突き刺すように触れること】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【心を花として摘み盗る事で全ての意思や感情】のみを攻撃する。
WIZ : 嗚呼、勿体無い
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【今まで盗んできた花】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
イラスト:乙川
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「佐東・彦治」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「最初にも言ったけれど。正直なところ、もういつまでか解らない」
「そんなことを言うものではないよ、浅沙」
「ん? あなたは私の心が欲しいのではなかったのかな」
「いやいや、何もそう急ぐことはないじゃないか。君は僕に約束してくれた。なら、その時を待つだけの甲斐性はあるさ」
「……済まない、正直意外だった。てっきり、早く今際に伏した方が喜ぶものとばかり」
「まぁ、以前の僕ならそうだった……と言うより、わざわざ待たなかったのは否定しないね。ただ、繰り返すけれども君は、約束してくれた」
「怖気づいて反故にしようとしない保証は?」
「君がそんな子なら、最初から契約していないさ。これでも人を見る目はあるつもりなんだ」
「そうか。……なら」
「ああ」
「いつまでか……とは、考えないようにしよう」
「それがいい」
●
――あと少しで尻尾を出す筈。
僕も浅沙も、そう思っていた追跡の最中だった。彼女の訃報を聞いたのは。
最早、犯人の動向なんてどうでもよくなってしまった。と言うより、何も考えられなかったと言った方が正しいだろう。どうやって家に戻ったのかも覚えていない。
冷たくなった彼女は、枯れた花と言うよりは、花弁だけをむしり取られた花の残骸のようだった。
はたと彼女の頬に落ちた雫が、透明な花のようだと思った。
「嗚呼、こんなことなら。君の花を、あの時盗んでしまえばよかった」
それが涙だと気づくまでに時間を要して。嗚呼、自分にもまだ、こんな感情があったのか、なんて。
どこか他人事のようにぼんやりと思いながら、僕の足は無意識の内に歩き出していて。
辿り着いたのは、彼女の最後の場所。
ここに彼女がいるわけでもないと言うのに――そうは思っていながらも。
「……赦さない。赦してなるものか」
僕の歩みは止まらなかった。
医院の扉を開けて中に入れば、診療時間はとっくに終わり、患者は他にいなかった。
歩を進めるごとに背後からぱちぱちと弾ける音、ちりちりと熱の気配がしたけれど。
どうでも、いい。
奴がいるであろう部屋へはすぐに辿り着いた。
瞬間、蒼が僕らを包み込む。奴は驚愕の表情を浮かべたが、僕の心が晴れることはなかった。
「……き、君は……何だ? それにこの炎は……一体何だ!?」
「………………」
どうでも、いい。
心底、どうでもいい。
けれど。僕は理解してしまった。
この炎は、嗚呼、この炎はきっと、
「……僕の|浅沙《はな》に焦がれる想いそのものだ……!!」
もう、どうだっていいんだ。
彼女の|心《はな》はもう永劫、手に入らない。
僕の持つ全ての花を、奴の上に降らせる。溺死しそうなほどに。
奴はもう、身動きも取れない。だが、こんなもので終わらせはしない。
背後から、足音が聞こえる。
けれどそれすら、どうだっていい。
もうすぐ全て終わるのだから。
さぁ、炎よ。何もかもを燃やしてしまえ。
奴も、僕も、この花も全て――全てを!!
ジゼル・サンドル
待ってくれ!
開業医と花盗人の間に割り込み、指定UCで歌うは『しとやかな』『信頼』『平静』の花言葉を持つ浅沙の花の歌。
君が本当に赦せなかったのは、大切な人が息を引き取る時傍にいられなかった自分自身じゃないのか?
本当は君も分かっているはずだ、この人のせいじゃないってことを。彼女自身がもう自分は長くないと知っていたのだから。
でもどこに感情をぶつけていいか分からなくて、だから彼女が最後にいたこの場所に来た…
わたしはそんな気がしたんだ。
君がこの人を傷つけるなら止めるしかないが…
その炎のような慟哭、わたしは美しいと思った。身を焦がすほど大切に思える存在に出会えたのなら、それはけして無駄ではなかったんだ。
●
花に包まれた|開業医《おとこ》の身体が、今まさに燃え上がろうとしたその瞬間。
「待ってくれ!」
飛び込んできたのはジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)だった。
花盗人が視線だけで彼女を射抜く。同時、はらりはらりと花は零れ落ち、炎が人を呑み込むことはなくなった。
だが、花盗人がジゼルたち猟兵へと意識を向けることをやめてしまえば、元の木阿弥だ。そうなる前に、そうならないように、言葉を尽くさなくては。
咄嗟に、ジゼルは開業医と花盗人の間に滑り込むように割り込んだ。
「どうか、思い出して欲しいんだ――」
炎の中に在ってもジゼルは朗々と歌う。不思議と煙にむせることはなかった。だから躊躇わず、続く詩を紡ぐ。
浅沙――水辺に咲く、繊細な花。
常に平静で、しとやかで。そして何より、共に生きた悪魔を深く、信頼していた。その花言葉は、まさに浅沙その人に相応しい。
歌の終わりに目を見開いた花盗人へと、ジゼルは語りかける。その顔を真っ直ぐに見上げて。
「君が本当に赦せなかったのは、」
真っ向から、届くように。
「大切な人が息を引き取る時傍にいられなかった、自分自身じゃないのか?」
「………………」
花盗人は答えない。
だが、その沈黙こそが答えなのだと、ジゼルは確信に近く感じていた。
「本当は君も分かっているはずだ、この人のせいじゃないってことを」
もう長くはない――浅沙自身が告げていたことだ。
仕方のないことなのだと、頭では理解出来ている筈だと。
(「でもどこに感情をぶつけていいか分からなくて、だから彼女が最後にいたこの場所に来た……」)
そんな気がしたから。
だからこそ、止めなければならないと、強く思うのだ。感情のまま、全てをなかったことにしてしまうなんて、余りに哀しすぎるから。
「君がこの人を傷つけるなら止めるしかないが……その炎のような慟哭、わたしは美しいと思った」
「え」
悪魔がジゼルに向けかけていた手が、力を失うようにして下ろされる。
「身を焦がすほど大切に思える存在に出会えたのなら、それはけして無駄ではなかったんだ」
そして、無駄にしないで欲しいと。
切々と訴えれば、悪魔の瞳に僅かに理性の光が戻った、ようにジゼルには見えた。
大成功
🔵🔵🔵
リィンティア・アシャンティ
まずはお医者さんを助けないと、です!
ルノを先に医師のところへ向かわせて花盗人さんから守ります
怪我をしているようなら治癒もルノにお願い
そんなことをしてはいけませんよ
花盗人さんのためにもです
どうでもよくないです
優秀な探偵さんの助手さんが犯人になってしまってはいけないと思います
ええと探偵という職業になじみがないのですが……
人を助けるお仕事ですよね
ズバッとバシッとすごいのだと聞きました!(真剣)
浅沙さんは最期まで誰かを助けようとしていたはずで
あなたが1人で犯人追跡をしていたのもそのためだったはずです
事件未解決のままでは浅沙さん、気にしてしまうと思うのですが
どうか思い出してください
あなたの大切な微笑みを
●
次いで現場に入ったリィンティア・アシャンティ(眠る光の歌声・f39564)は、床に目を遣りはっとした。
開業医が、まだそこにいる。脱出するタイミングを図りかねているのだろう。
(「まずはお医者さんを助けないと、です!」)
今なら自分の手が空いている。出来る者がやらなければ。
「ルノ、お願い」
小さな煌めきが、リィンティアから離れて飛び出した。猟兵となる以前から、エンドブレイカーとして旅をしていた時に出会い、長く苦楽を共にしてきた|妖精《とも》。
彼女は開業医の元へと辿り着くと、その周辺を護るように飛び回りつつ、軽い火傷を見つけては癒やしてゆく。
(「お医者さんはこれで大丈夫。後は私も……」)
猟兵に覚醒してからまだ日も浅く、この世界に訪れるのも数度目だ。
だが、悲劇を悲劇のままにしない。その決意は猟兵となっても変わらない。リィンティアは猟兵であり、エンドブレイカーなのだから。
「花盗人さん、そんなことをしてはいけませんよ」
声をかければ悪魔はリィンティアを向き、開業医から振り払われた花を彼女に向けようとするが。
「あなたの……花盗人さんのためにもです」
「……僕のため、か」
少し、態度が軟化しているようだ。ここに来て、悪魔が初めて意味のある言葉を発する。
だが、すぐに目を伏せゆるりと頭を振った。
「僕のことなんて、もう」
「どうでもよくないです」
続く言葉を予見して、リィンティアはきっぱりと告げる。
「優秀な探偵さんの助手さんが犯人になってしまってはいけないと思います。……ええと、探偵という職業になじみがないのですが」
今まで余り、そういった職種の人間と接する機会がなかったもので。
だが、言葉を途切れさせてはいけないと、リィンティアは迷わず口を開く。
「人を助けるお仕事ですよね。ズバッとバシッとすごいのだと聞きました!」
「ズバッとバシッと」
思わずといった風情で復唱する悪魔。
上手く説明は出来ないが……それでもリィンティアは真剣だ。
「浅沙さんは最期まで誰かを助けようとしていたはずで
あなたが一人で犯人追跡をしていたのもそのためだったはずです」
人の助けになる探偵を志した浅沙が、事件未解決のままでは安らかに眠れないだろう。解決出来るのは、きっと今や相棒たる悪魔だけ。
「どうか思い出してください。あなたの大切な微笑みを」
「……浅沙」
猟兵たちの前で初めて、悪魔がその名前を呼んだ。
大成功
🔵🔵🔵
比野・佑月
「こういうの鏡って言うんだろうな」
俺にもいるんだ、大切で仕方ないのに今この瞬間も病に蝕まれている存在が。
最初はただの興味だったのにその温かさはいつのまにか俺の心を溶かして。
喪いたくない。彼女を俺から奪うモノ全てにこの牙を突き立てたい。
それこそ目の前の彼のようになる未来は想像に難くないどころか
そうなっていた確信がある
けれど…
「俺はさ、知っちゃったんだ」
俺がそんな風になることを悲しむ少女の優しさを。
彼女を傷つけたくないと思いやれるあたたかな心が俺にもあることを。
「彼女を想って咲かせた花を燃やしてやるなよ」
攻撃は野生の勘で回避or当たっても激痛耐性で耐え
眷属招来・廻で影への攻撃という避け辛い反撃を
●
「こういうの鏡って言うんだろうな」
燃え盛る現場を前にして、比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)の口からぽつりと零れ落ちたその言葉。
解ってしまうのだ。痛いほどに、狂おしいほどに、悪魔の抱える想いが、怒りが――痛みが。
「俺にもいるんだ、大切で仕方ないのに今この瞬間も病に蝕まれている存在が」
今度は、しっかりと悪魔を見て、はっきりとそう伝えて。
悪魔と、視線がかち合った。
その目の色から、その目の光から、読み取れる感情に、感覚に、覚えがある。
佑月には、覚えがありすぎる。
(「最初はただの興味だったのに」)
最初はただの契約という繋がりだった。
(「その温かさはいつのまにか俺の心を溶かして」)
けれどその心に触れて、己の心も解れていって。
(「喪いたくない」)
共に生きたい。
(「彼女を俺から奪うモノ全てにこの牙を突き立てたい」)
彼女を奪った全てのものを許せない。
ああほら、どうしたって自分と、目の前の悪魔は。
(「それこそ目の前の彼のようになる未来は想像に難くないどころか……」)
一歩間違えれば、自分もそうなっていただろう。
そう、断言出来る程には確信めいて、そう思う。
けれどそれでも、そうならずにいられるのは。
「俺はさ、知っちゃったんだ」
そうなれば、彼女は悲しむ。
花を纏う姿は美しくも、その命を養分にされ苦しむ金木犀の瞳の少女。
懸命に生きる少女は心優しく、いつだって佑月を慈しみ、その心を包んでくれる。
そんな彼女を傷つけたくないと思いやれるあたたかな心が、佑月にもあることを。
だから、必ず悪魔も引き戻す。
後戻りの出来ないところに、行ってはいけない。
悪魔にとってその手を引いてくれる存在はもういないけれど、忘れなければ自分で戻れる筈だ。
「彼女を想って咲かせた花を燃やしてやるなよ」
「君に何が、」
「解るよ」
悪魔は怒りの色を見せたが、佑月は臆さず迷いなく言い切った。
向かい合った悪魔の瞳が、揺らいだ。佑月に向けられた花の弾丸が、ぶれる。
「餌の時間だ。食後の運動もな」
「ッ、」
軽く身を翻し、通り過ぎ散りゆく花弁を少しだけ、視線で追い。
同時に、悪魔が片膝をついた。押さえている片脚から伸びるその影に、佑月のそれから出でた犬の魔物が喰らいついている。
「終わりにしないか」
「………………」
それでも、未だ悪魔は首を縦には振れなかった。
けれど、きっとあと少し。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
おいあんた
まともな探偵が一番嫌う事を知ってるよな
人が死ぬ事だよ
探偵が謎を解かなきゃならないのは
事件が起こるからだ
調査も推理もやりたくはない
最初から何も起きない方がいい
あんたの主もそういう奴に思えるが
有能な探偵の選んだ助手だろ
本当はもう理解出来てるんじゃないか
その医者には何の罪もない
美化すんな
あんたのやってる事は独り善がり
いや…この際はっきり言ってやる
名探偵森浅沙に対する冒涜だ
俺達に何が分かるって
はッ…だろうな
百万回言われたわ
じゃあ本人に聞いてみるか
事件現場は『ここ』なんだからな…!
UCを発動
森浅沙の亡霊を呼び後は流れに任せる
探偵生命を賭けてもいい
あんたの愛した花なら
俺より正しい解決を示せる筈だ
●
「おい」
最後の靴音。
共に現れたのは、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)。
「あんた、まともな探偵が一番嫌う事を知ってるよな」
探偵の手足として、動いていたのだから。
探偵の傍に、いたのだから。
「人が死ぬ事だよ」
「………………」
悪魔はただ、はとりを見る。
ひとつ、はとりは溜息を吐いた。
「探偵が謎を解かなきゃならないのは、事件が起こるからだ」
謎を解くことそのものに意味を見出す探偵もいるだろうが、少なくともはとりはそうではないし、そして、恐らくは。
「調査も推理もやりたくはない、最初から何も起きない方がいい。あんたの主もそういう奴に思えるが」
事件が起きるから、探偵をやっている。
何も好き好んで、事件に関わりたいわけではない。何事も起こらないのなら、それに越したことはないのだ。
誰かの助けにと願った浅沙も、事件が起きることなんて、きっと望んではいないから。
そして、その浅沙が選んだ彼は。
「有能な探偵の選んだ助手だろ」
「……僕は、」
「本当はもう理解出来てるんじゃないか」
開業医には、何の罪もないことを。
この行為が、己の感情の美化に過ぎないことを。
殺して、死んで。それが何の意味もない――いや、そればかりか。
「あんたのやってる事は独り善がり、いや……この際はっきり言ってやる」
優しく温かな言葉は、仲間たちがかけてくれている。
そして浅沙を想うがゆえに、彼は揺らいでいる。
だからこそ、背中を押すには思い切って。
「名探偵・森浅沙に対する冒涜だ」
「ッ!!」
ぶわり。
悪魔の周りで花が舞う。
その色が、澱んでくすんで――昏く、負の色に。
拒絶の色だ。だが、はとりは間違えたとは思わない。
「僕を、浅沙を、知った風に語るな……!!」
「はッ……だろうな。百万回言われたわ」
飽きるほどに聞いた言葉だ。
挫けるようなら、探偵なんて務まらない。
「じゃあ本人に聞いてみるか」
「は……」
「事件現場は『ここ』なんだからな……!」
炎の中に靄が浮かぶ。
それは徐々に形を変えて、人の姿へ。
「森浅沙は、『ここにいる』。探偵生命を賭けてもいい。あんたの愛した花なら、俺より正しい解決を示せる筈だ」
透けるような、ほぼ白に近い金の髪。
否、実際に透けている。
森浅沙、その人だ。
『――』
「あさ、ざ」
彼女が真っ先に発した言葉を、はとりは聞き取れなかったが、恐らく悪魔の――花盗人の、本当の名前だろう。
『……約束を守れなくて、済まなかった』
「君は、……いや」
悪魔は、何か納得したように頷いた。
「そういう子だったね、君は。確かに引き金は、君の死だ。実行したのは僕だけれど、君は……」
浅沙は、哀しげに微笑んでいる。
きっと、深く傷ついていた。
己の存在が、事件を引き起こしたことに。
「ごめんよ」
すると、浅沙は微笑みある一点を指差した。
そして、一度はとりを振り返り。
『……ありがとう。機会をくれて』
「浅沙? ……浅沙!」
そうして、消えた。
炎と共に。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『ほうき星に願いを』
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POW : 逢いたい人がいる。
SPD : 叶えたいことがある。
WIZ : 今は、わからない。
イラスト:tg
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「………………ぁ、」
今はもう、炎の影すらない部屋で、悪魔はふと声を上げた。
浅沙が最後、示したその場所。そこに、小さな彩を、猟兵たちも見たかも知れない。
悪魔は、それを拾い上げた。明るくも柔らかな黄色の、石蕗の花だった。
生前に、浅沙が好きだと言っていた花。
「そこは……」
助けられた開業医が、ぽつりと零す。
「森くんが、横になっていた場所だ」
浅沙が、最期の時を迎えた場所。
ならばこの花は、彼女の残留思念とでも言えるものだろうか。
もし、そうであるならば。悪魔は確かに、焦がれた花を手に入れたことになるのだろう。
●
外に出る。
黄金に近い橙の空は、今や夜の群青に追い立てられつつある。
その空に、きらり、光の線が走った。
きらり、きらり、幾重にも増えて、薄暮の空に流星群。
導かれるようにして、悪魔は通りへと軽やかに駆け出た。そして猟兵たちを振り返り、ふわりと微笑む。
「やっぱり僕は、星よりも花が好きだけれど……でも、うん、そうだね。旅立つにはいい景色だ」
転生の輪に戻る。
悪魔は、その決意を固めたようだ。
その手に、あの石蕗の花を包んで。
猟兵たちは、見守ってもいいし、最後に彼と言葉を交わしてもいいし、はたまた、星に願いをかけるのもいいだろう。
悪魔にとっても、猟兵たちにとっても――決意を新たに、明日へと進むために。
彩・碧霞
【月霞】
「終わったようですね」
彼がこの依頼に来る様仕向けたのは私
作為には気づけただろうけれど此処で悪びれる訳には行かない
今日ばかりは今一度、所謂神様面というものをしよう
「可能性とは訣別出来ましたか」
彼があの子へ向ける愛情を疑うつもりはない
けれど一等大事にすればこそはある
「私達は所詮人外、人の子の物差しは持ち得ない…凡そご存知だとは思いますが」
それがあの子を、私の最後の巫女として見込んだ彼女を傷つけ、失意の内に枯らすことになっては神として不甲斐ない
だから来させた
「…努々忘れないでくださいね」
鏡とも言える者の有様は強烈だった筈
もう何か試す必要はないでしょう
「私は貴方のことも気に入っておりますので」
比野・佑月
【月霞】
「や、店主さん」
俺がこの依頼を受け、鏡とも言える相手と対峙したのが
店主と呼ぶこの竜神の差し金だろうがなんでもいいから事も無げに挨拶を返す
「可能性ね、やっぱそう見えた?」
自分でも思ったほどだ、俺から見れば彼女の保護者とも言える竜神から見て
俺は不安要素でしかなかっただろう
ぽっと出の善性ですらない男なわけだし?なんて冗談めいたことまで頭に浮かぶ
「けどさ、俺はああはならないよ。彼女を悲しませやしない」
彼女が大切だ
彼女がくれたあたたかさ、優しさが俺のことを必ず引き留める
「それは光栄だ。じゃあ俺も名前くらいは憶えておこうかな」
呼ぶ機会がなかっただけなんだけど…ま、短くはない付き合いになりそうだしね
●
柔らかく笑う悪魔の表情は、まるで憑き物が落ちたかのようで。
比野・佑月(犬神のおまわりさん・f28218)はその様子に一息吐いて、星翔る空を仰いでいたが――やがて徐に、ゆるり背後を顧みて。
「終わったようですね」
そこにいたのは、声の主。緑と翠で彩られた竜神の姿があった。彩・碧霞(彩なす指と碧霞(あおかすみ)・f30815)の姿が。
訳知る風は、彼女こそが佑月をここに導いたから。依頼を受け、佑月が鏡とも思える悪魔と対峙するように、仕向けたのだから。
けれど、佑月にとっては何でもよかった。全て、平素店主と呼ぶ彼女の差し金だったとしても。
「や、店主さん」
事も無げに返した挨拶に、碧霞は一瞬だけ、その胸中を窺うような眼差しを向けた。けれど、すぐにそれもやめる。
(「作為には気づけただろうけれど」)
それでもここで悪びれる訳には行かないと。
今日ばかりは今一度、所謂神様面というものをしよう――そう、決めた時から。
「可能性とは訣別出来ましたか」
一言、問う。
「可能性ね、やっぱそう見えた?」
佑月は問い返すが、碧霞は答えない。
だが佑月自身、自覚はあった。己の狂気と凶暴性とを、今更見なかったことになんて、出来ないのだ。
そして、碧霞の懸念もそこにあるのだろうと、理解していた。
(「彼があの子へ向ける愛情を疑うつもりはない。けれど一等大事にすればこそ、は」)
愛するがゆえに、愛深きゆえに。
それを失う理由になり得る全てを排しかねないほどの、激情を以て世界に牙剥く時が来るのでは、と。
(「自分でも思ったほどだ、俺から見れば彼女の保護者とも言える竜神から見て俺は、不安要素でしかなかっただろう」)
ぽっと出の善性ですらない男なわけだし――なんて冗談めかした考えひとつ、浮かべて消して。改めて眼前の緑を見据え。
そう、佑月の愛する少女はかの神の巫女。
「私達は所詮人外、人の子の物差しは持ち得ない……凡そご存知だとは思いますが」
だから、碧霞は佑月をここへ、悪魔の元へ向かわせた。
鏡と向き合った時、佑月がその可能性を否定出来るのか、碧霞は見極めなければならなかったのだ。如何に誹りを受けたとしても、それだけは譲れなかった。
(「どうしたって埋めようのない歪。それがあの子を、私の最後の巫女として見込んだ彼女を傷つけ、失意の内に枯らすことになっては、神として不甲斐ない」)
そうなれば、許すことが出来ないだろう。
佑月を――ではない。他でもない、碧霞自身を。
「けどさ、」
顔を上げる。
佑月の表情は思いの外、穏やかだった。碧霞にとっても、佑月自身にとっても。
「俺はああはならないよ。彼女を悲しませやしない」
迷いはなかった。
そう言い切れるのも、やはり想いゆえなのだ。
狂ってしまいそうなほどの心で、それでも愛している。それを忘れなければ、きっと自分は大丈夫だ。
(「彼女が大切だ。彼女がくれたあたたかさ、優しさが俺のことを必ず引き留める」)
そう、思えるから。
碧霞は、暫く言葉を返さなかったが。
「……努々忘れないでくださいね」
確と聞き届けたと。その言葉を待っていたと。
これから先、どんな困難が佑月たちを待ち受けているかは解らない。だからこそ碧霞は、何があってもその言葉を、決意を、佑月に心に留めておいて欲しかった。
(「鏡とも言える者の有様は強烈だった筈。もう何か試す必要はないでしょう」)
鏡合わせの試練を、佑月は乗り越えた。
だから今は、信じて見守ろう。その行く末を。
「私は貴方のことも気に入っておりますので」
「それは光栄だ。じゃあ俺も名前くらいは憶えておこうかな」
呼ぶ機会がなかっただけなんだけど、なんて言葉は呑み込みつつも。
(「ま、短くはない付き合いになりそうだしね」)
佑月は再び、星天を仰ぐ。
悪魔だけでなく、佑月も――そして、碧霞も。
決意を新たに、一歩を踏み出す。その時が、来たのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リィンティア・アシャンティ
花盗人さんと呼んでいましたが、今は違うのだから
この呼び方はどうなのだろうと今になって思ってしまいました
お名前、大切なものならば聞かない方がいいような気もしますし……
やっぱり助手さん? それもちょっと……です??
浅沙さんは最期まで人を助けていかれたのですね
あなたのことをずっと想ってどうにかしようと諦めなかった結果、
残せた石蕗の花だったのかも
その花は本当にあなたのためだけの花なのかもしれませんね
石蕗は控えめな花ですが、黄色い花って目立ちますよね
きっと迷っている人を助ける、導の星のような探偵さんだったのだろうなと思いました!
そんな探偵さんと助手さんが転生の輪のその先で
また出会えますようにと願います
●
吹っ切れた様子の悪魔に、リィンティア・アシャンティ(眠る光の歌声・f39564)はほっと胸を撫で下ろすも。
(「そう言えば……花盗人さんと呼んでいましたが、今は違うのだから、この呼び方はどうなのでしょう?」)
過去には確かに正真正銘の影朧として帝都を騒がせていた事実はあるようだが、少なくとも今目の前にいる彼は足を洗ったと聞いていたし。
だとすれば影朧としての名とは言え、盗人と呼ぶのも気が引けるのだが。
(「お名前、大切なものならば聞かない方がいいような気もしますし……やっぱり助手さん? それもちょっと……です??」)
色々考えて、うんうんと悩んでいると。
不思議そうな表情をした悪魔と、目が合った。
リィンティアは慌てて何でもない風を装い、気にしないでくださいと笑って見せた。
悪魔は、首を傾げながらも追及をしなかった。
「浅沙さんは最期まで人を助けていかれたのですね」
「うん? どういう意味かな」
再びきょとんと目を丸くする悪魔は、どうやら救われた自覚がないようだ。
他者の心の機微には敏感で、それをこよなく愛する性質であるようだが、自分自身のことには案外疎いのかも知れない。
「あなたのことをずっと想ってどうにかしようと諦めなかった結果、残せた石蕗の花だったのかも」
「………………」
リィンティアの言葉に、悪魔は手の中の黄色に目を落とす。
遺された石蕗は、枯れることなく彼の掌に在り続けている。
「その花は本当にあなたのためだけの花なのかもしれませんね」
浅沙の心が咲かせたのは、悪魔が思った通りの彼女と同じ名前の花ではなかったけれど。
「石蕗は控えめな花ですが、黄色い花って目立ちますよね。きっと迷っている人を助ける、導の星のような探偵さんだったのだろうなと思いました!」
そう、頭上を流れる星たちのように。
煌めいて、人々に道を示し、救いたいと願える人物だったのだろう。
その浅沙が心を委ねていいと思った相手が、この悪魔なのだ。だからこそ、リィンティアは心から願う。
「そんな探偵さんと助手さんが転生の輪のその先で、また出会えますように」
「ありがとう。嬉しい餞を貰ってしまったな」
そう言って、悪魔は柔らかく笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ジゼル・サンドル
盗まれたのは君の心だったようだな。…言ってみたかっただけだ。
先ほどはおかしなことを言ってすまなかったな。でもわたしは本当に美しいと思ったんだ。自分はどうなってもいいと思う程に強く想える存在がいるというのはどれほど幸いなことだろうか。
わたしにだって大切な人はいる…お母さんが死んだ時はすごく悲しかったし、親友がいなくなったらなんて考えるのも嫌だ。
でも…わたしがお母さんや親友を想う気持ちと、君が浅沙先輩を想う気持ちはきっと、似ているようで異なるものだから。
いつか、わたしも焦がれる程愛せる誰かに出会いたいものだ。
…そういえば君、名前は?
君を覚えておきたいんだ。よかったら転生する前に教えてはくれないか?
●
これにて一件落着、といった風情でジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)は感慨深げに頷いて。
「どうやら、盗まれたのは君の心だったようだな」
「うん?」
「……言ってみたかっただけだ」
悪魔に首を傾げられ、こほんと咳払いひとつ。
それから、改めて悪魔へと向き直り。
「先ほどはおかしなことを言ってすまなかったな」
「おかしなこと……ああ、あれか」
「でもわたしは、本当に美しいと思ったんだ」
ジゼルの言葉に、悪魔は得心が行ったように声を上げた。
悪魔の心が生んだ炎を、ジゼルは美しいと思った。燃え盛るほどの激情は、余りにもジゼルの心に響いてしまった。
「自分はどうなってもいいと思う程に強く想える存在がいるというのは、どれほど幸いなことだろうか」
勿論、ジゼルにだって大切な人はいる。母が死んだ時は引き裂かれるように悲しかった。親友がいなくなったら……なんて、考えるのも嫌だと心から思う。
その気持ちに嘘はない。けれど、ジゼルは思うのだ。
「でも……わたしがお母さんや親友を想う気持ちと、君が浅沙先輩を想う気持ちはきっと、似ているようで異なるものだから」
今はまだ、それがどんな気持ちなのか、ジゼルには解らない。
美しいだけではなく、身を焦がすほどに辛く、苦しい側面だってきっとあるだろう。
解っていてもなお、憧憬はジゼルの胸へと灯ったのだ。
「いつか、わたしも焦がれる程愛せる誰かに出会いたいものだ」
どこか夢見るようなジゼルの言葉に、悪魔は今度は微笑ましげに、彼女のことを見つめつつ。
「また『僕』に会うことがあったら、気をつけた方がいい」
「え?」
「影朧のままの『僕』は、今度は君の心を奪おうとするかも知れないから」
「……それは褒めているのか?」
「勿論」
回りくどくて余り褒められている気はしないが、悪魔は本心から言っているようなので、深く追及しないことにした。
その時ふと、ジゼルは『歌姫探偵』にもまだ解けていない謎があるのを思い出す。
「……そういえば君、名前は?」
「名前? 僕の?」
「君を覚えておきたいんだ。よかったら転生する前に教えてはくれないか?」
その答えを求めれば、悪魔はふふと儚げに微笑んで、ジゼルの耳元に顔を寄せる。
鼓膜を震わせたその音を、ジゼルは胸に刻み込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
柊・はとり
『済まなかった』ね
最期の一言まで殊勝なこった
ああ…悪い
ついこういう物言いになる
直そうとは思ってんだよ、一応
俺にも昔は助手がいた
お世辞にも優秀とは言えなかったけどな
そして殺人事件で死んだ…俺の方が
でもあいつは復讐なんて考えなかった
自分の命と引き換えに俺が生き返る事を望んだんだ
会いたいかどうかっていうと
正直会わせる顔がないっつうか
向き合うのが怖いんだろうな
俺は未だに名探偵を名乗れない
探偵に死なれた助手も
助手に死なれた探偵も
お互い辛いな
俺は事件を未然に防ぐ為に
これからも死に続ける
生まれ変われたら二度と探偵なんかやりたくねえけど
あんたと森はどうなんだろうな
何となくだか
来世でも名コンビやってる気がするぜ
●
(「『済まなかった』ね」)
浅沙の言葉を思い出す。
最期に、悪魔へと――己の助手へと向けた言葉を。
「最期の一言まで殊勝なこった」
柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)が呟き落とせば、ぱちりと悪魔と目が合った
「ああ……悪い。ついこういう物言いになる」
直そうとは思ってんだよ、一応――と。
ばつが悪そうに視線を逸したはとりに、悪魔はふふと微笑んだ。彼の纏う空気に、焼けつくほどの妄執はもう、感じられない。
だから、言葉は自然とはとりの口から零れ出た。
「俺にも昔は助手がいた。お世辞にも優秀とは言えなかったけどな」
それでも。
誰より、はとりを慕っていた。
誰より、はとりのためを思って動いていた。
「そして殺人事件で死んだ」
「それは、」
「……俺の方が」
「………………!」
そう、はとりは既に死んでいる。
彼もまた、己の助手を残して。
「でもあいつは復讐なんて考えなかった」
はとりのことを想えばこそ、その考えに至らなかったのだろう。
彼女が選んだ答えは、今ここにいる、はとり自身。
「自分の命と引き換えに俺が生き返る事を望んだんだ」
「……そう、だったのか」
悪魔は、自分のことのように苦い顔をした。
「会いたいかどうかっていうと、正直会わせる顔がないっつうか……向き合うのが怖いんだろうな」
会いたくない、わけじゃない。
けれど、会いたい、とも言えず、思うことすら踏ん切りがつかない。
そのことが、ずっとどこかで引っかかっていて。
「俺は未だに名探偵を名乗れない」
誰が彼を、名探偵と称えようとも。
そのわだかまりが残された内は、きっと。
「探偵に死なれた助手も、助手に死なれた探偵も、……お互い辛いな」
「……そう、だね」
もう、悪魔は何が解るとは言わなかった。
色々なことが腑に落ちたのだろう。
「……俺は事件を未然に防ぐ為に、これからも死に続ける」
それが、はとりが探偵として生き続けるということ。
事件に呼ばれ、死を免れることは出来なくて、それでも、探偵として生きるのだ。
「生まれ変われたら二度と探偵なんかやりたくねえけど……あんたと森はどうなんだろうな」
「僕らかい?」
問い返されれば、頷く代わりに再び視線を向けて。
今度こそ、真っ直ぐに。
「何となくだが、来世でも名コンビやってる気がするぜ」
そう、告げれば。
レンズ越しのアイスブルーの中、悪魔は――浅沙の助手は、その最期に、嬉しそうに微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵