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幽世劍嵐舞

#カクリヨファンタズム #戦後 #ハビタント・フォーミュラ #エクスマトリックス・オーバーロード #禁軍猟書家

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#禁軍猟書家


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「ドーモ、猟兵=サン。デンゾウ・ゴガミです」
 禿頭のグリモア猟兵は奥ゆかしくオジギすると、好々爺めいた笑みをくしゃりと浮かべた。
「先月はでけェ|戦争《イクサ》だったな、お疲れさん」
 そして労りの言葉をかけ、油断なきフィクサーの貌に変わった。
「だが早速それ絡みの|仕事《ビズ》だぜ……あの「ハビタント・フォーミュラ」のことだ」
 戦争の真っ只中、猟兵の快進撃に恐れをなして逃げ出したハビタント・フォーミュラ。
 先頃、奴が使った|全能計算域限界突破《エクスマトリックス・オーバーロード》の入り口が見つかった。

「ありゃア罠だ。奴さんは、コッチが追跡するのを見越して、網を張ってやがンのさ」
 デンゾウは、ボリボリと顎の下を掻いた。
「|猟書家《ビブリオマニア》ってのがいンだろう? 罠の正体は、その中でもいっとうのワザマエを持つ「禁軍猟書家……ようは秘中の秘ってヤツだ。どれもこれも、猟書家らしく手強い|能力《カラテ》してやがる」
 超次元の渦に飛び込めば、間違いなくその禁軍猟書家の領域に踏み込むことになると彼は語る。
「おれが視たのァ、カクリヨファンタズムめいた「偽物の世界」だ。鬱蒼と|竹《バンブー》が茂る暗いトコさ。
 そこには「骸弁慶」ってェ禁軍猟書家がいンだが、こいつはどうも無数の「武器」を操るらしい」

 そして敵は、それだけではない。
「ある|付喪神の妖怪《ヘンゲヨーカイ》が、|火々羅《かから》ってえらい強ェ骸魂に呑まれちまッてな。
 奴さんはもともと、自分で鍛えた武器を操るンだが、それに加えて呑み込んだ妖怪も武器として繰り出してくる」
 そう言ってデンゾウが取り出したのは、鉄の指輪に短い棒状の金属を取り付けたような奇妙な武器だ。
「|峨嵋刺《ガビシ》、あるいはエメイシって暗器だ。おれの指だと太くて入らねェんで、小指でやらしてもらうが……」
 デンゾウは苦労して小指に輪をはめ込み、軽く手首を振った。すると、輪と棒のジョイント部分は回転を起こす形状になっており、スナップの勢いで棒部分がクルクルとバトンめいて回転する。
「本来は中指を使うそうだがね……グフフ、コイツで受けることも、突くことも自在よ。意外と頑丈だから薙ぐも出来ンのさ」
 懐から取り出したリンゴを宙に放ると同時、利き手が霞む。リンゴはぱくりと四分割され掌の中に落ちた。
 デンゾウはむしゃむしゃとリンゴを呑むように喰らい、ニッと笑う。
 使い手でもない彼の|技量《カラテ》でこのレベルだ。妖怪の手から繰り出される技は油断なるまい。
「火々羅を倒しゃ、妖怪は解放される。骸弁慶も仕留めりゃカクリヨまで連れて帰れるはずさ……。
 相手はけっこうなタツジンだぜ。ゆめゆめ油断なさんな、猟兵=サン……グフフ、いらんアドバイスかね」
 昏い笑みを浮かべ、デンゾウは峨嵋刺あるいはエメイシをしまい込んだ。
「まずは「超次元の渦」の前までご案内だ。そこからはあンたがた次第よ……オタッシャデー」
 グリモアを取り出し、オジギする。そうして猟兵たちは、超次元の渦の傍まで転移することとなる……。


唐揚げ
 ドーモ、ネガティブスティフネスハニカム蛸です。禁軍猟書家シナリオ第三弾になります。
 今回はカラテ重点アクション倍点な、活劇系の純戦シナリオになります。
 骸弁慶もなんらかの「武器」を用いるようですが、その正体はまだわかりません。

 もちろん、武器攻撃に加えて通常のユーベルコードも使用してくるので、注意が必要です。
 カッコイイアクションを描けるように頑張ります。完結優先で執筆したいです(願望)
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第1章 ボス戦 『火々羅』

POW   :    火産霊
【身に宿す焔から生み出された刀の一斉発射】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    焼入レ
自身の【より強靭な武器を生み出す道求心】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ   :    屍魂縛
対象への質問と共に、【陽炎】から【戦に敗れた剣士の屍】を召喚する。満足な答えを得るまで、戦に敗れた剣士の屍は対象を【無念の斬撃】で攻撃する。

イラスト:なみはる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はエドワード・ルビージャックです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●偽物の世界
 鬱蒼と茂る竹林の中に、開けた空間があった。
 そこには無数の武器が突き刺さっている。柄のない刀、槍の矛のみ、抜身の大鎌……。
「……駄目だ。駄目だ、駄目だ駄目だ。どれもこれも足りぬ……!」
 暗闇にごうと炎が渦巻いた。炎は女の身体から迸っていて、またひとつ武器を地面に突き刺す。
「猟兵……お前たちと戦えば、私は理想の武器を鍛えることが出来るか……?」
 ゆらりと、修羅の貌をした女が振り向く。中指には一対のエメイシがすでに嵌め込まれており、体表を蛇めいてのたうつ炎が乗り移ると、赤熱したエメイシが回転した。まるでそれは闇に浮かぶ赤い光のようだ。
 尋常の使い手ではない。火剣に気を取られれば、暗器の一撃が急所を狙う……!
戒道・蔵乃祐
鍛冶師のオブリビオン…
いや。UDCアースの迷い子か
禁軍猟書家の「偽物の世界」に囚われたのか…

優れた刀剣、武具は使い手に求められてこそ初めて真価を発揮するものでしょう

知行合一にして剣禅一致
邪念から如何に優れた兇器が生み出されようと、その身を焦がすが如き妄執を祓うこと叶わず
手段が目的になってしまっている
有害無益なたたらの火は、消さなければなりません

◆大戦輪轢殺暴風圏
地面に突き刺さった武装を次々と切り換えてくる変則戦法を見切り+フェイントで躱して往なす
至近距離から暗器の急所撃ちは戦輪のジャストガード+武器受けで刃を交わしつつ防ぐ

巨大化させた戦輪を怪力で投擲する重量攻撃
武装も火々羅も纏めて凪ぎ払います



●輪と針
 火々羅が求むるは、至高の一。
 誰にも真似できない、己の技巧でのみ到達可能な究極の武器の完成である。
 骸魂に成り果てるほどの執念は、もはや妄執と呼ぶのが相応しい。

 つまりは優れた鍛治市であり、あらゆる武具刀剣の極意にも通じている。
 道具を能く知るとは、使い手としても一流であることを意味するのだ。
「優れた刀剣、武具は使い手に求められてこそ真価を発揮するものでしょう」
 じりじりと、一定の間合いを保ち、戒道・蔵乃祐と火々羅が円を描く。
 その間、火々羅はヒュンヒュンと紅蓮の炎を纏ったエメイシを回転させ威圧した。
「お前の目的は、手段とそっくりそのまま入れ替わってしまっている」
「……ならばどうしたという。私の武器が、貴様に劣るとでも?」
 炉の炎の如く、身より噴き出す熱が高まった。怒りだ。
「少なくとも、邪念から生み出される兇器は、所詮兇器に過ぎない」
「――ほざけッ!」
 火々羅の姿が霞む。蔵乃祐は筋肉を緊張させた!

 噴出した炎はフェイント。陽炎は熱で視覚と触覚を誤認させる罠だ。
 蔵乃祐は意識を集中させて、音を聞く。風鳴りは雄弁に敵の位置を伝えた。
「しッ!」
 鋭い呼気。繰り出されたのはエメイシではなく、刀の斬撃だ。
 何処から生じた? 地面に刺さった刀を使っているわけではない。
(「今この瞬間に、体内で造り上げたのか」)
 蔵乃祐は、腕から飛び出す刀の斬撃を、掌で払うようにしていなした。
 髪が一房ほどはらりと零れ落ちる。両者は、散った髪が風に舞い地面に落ちるより早く次の一撃を繰り出しあった。
「知行合一、剣禅一致!」
「かああっ!!」
 かたや邪念の殺意、かたやそれらを削ぎ落とした明鏡の拳。
 火々羅の猛攻は、餓えた狼の群れの如き執拗な連撃。
 対して蔵乃祐は、老境の穏やかな草食獣めいて、しなやかに掌打を撃った。

 両者は竹林を駆けながら撃ち合い、離れ、闇から飛び出してまたぶつかる。
 そして、足を止めての打撃戦。一打ごとに闇を照らす火打ち石めいて火花が散り、チカチカとストロボのようにふたりを照らした。
「貰った――!」
 狙いすましたエメイシの刺突。狙いは頸動脈か!
「甘い……!」
 蔵乃祐が一手上回った。隠し持っていた戦輪の内側に針を受け入れ、手首のスナップで戦輪を回転させることで、首筋ギリギリの刺突を逸らしたのである。
「なッ!」
 火々羅は虚を突かれた。逆側の掌が腹部に叩き込まれる!
「……!!」
 肺の空気を吐き出しながら、火々羅はくの字に折れ曲がって吹き飛ばされた。
 ごろごろと地面を転がり立ち上がったところへ、大音声。
「荒れ狂い、砕き、挽き千切れッ!」
 ぶおん、と風切り音が聞こえたかと思うと、竹林と突き刺さった武器のことごとくを両断しへし折りながら、巨大化した戦輪が飛来する!
「ぐ……うおおおッ!」
 火々羅は新たに生じさせた大剣でこれを受け止めようとするが、当然刃は破砕。
 斬り裂かれた傷口から、溶鉄の如き血が溢れ出す。噴き出した文字通りの熱血は、折れ砕けた武器の残骸をじゅうじゅうと融かし、煙を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

苔縄・知朱
試合と違ってルール無用なら、凶器でも何でも使い得ね。
とはいえ、体から火まで噴いてるのは贅沢すぎない?
その分こっちも好きにやらせてもらうわ。
水中でなら、炎の力と峨嵋刺の回転動作は上手く使えないでしょ。
戦場に「暗黒深海リング」を召喚、|決闘《デスマッチ》よ!

まずは敵の気配を頼りに、打撃技でヒット&アウェイを繰り返し体力を削る。
息継ぎはロープワークに合わせて行うことで、隙を作らない。
刃物での攻撃は優先して躱したいけど、多少食らっても気合で耐えるわ。
敵の息継ぎのタイミングを計れたら、関節技で動きを封じてキメる!

道具はどこまでいっても道具。
鍛え抜かれた肉体こそが最強の武器だってコトを教えてあげる!



●恐怖! |超暗黒深海無視界決闘《ダークネスディープオーシャンブラインドデスマッチ》の巻!
 空からコーナーポストが落下し、杭のように深く地面を穿つ。すると、それぞれの間にロープが張られ、地面の下からリングがせり上がった!
「こ……これは、一体!?」
 さしもの火々羅も、突然召喚されたリングには面食らった。

「ここは|暗黒深海《ダークネスディープオーシャン》リング……このアタシ、ウィドウスパイダー・チカの|領域《テリトリー》よ!」
 ひらりとリング上に降り立った苔縄・知朱は、マントをばさりと投げ捨てた。
 すると、ふたりの足元から、ごぼごぼと水が立ち上がったではないか。
 不可思議なことに、見えない壁が存在するかのごとく、水はロープの外には一滴も零れ落ちずに立方体を形成していく!
「リング、だと……!?」
「この水中では、ご自慢の炎の力も使えないでしょ?」
 ウィドウスパイダーはニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
 なんたる狡猾。リングに上がることは、いわば蜘蛛の巣に絡め取られるも同じ!
「逃げられるとは思わないことね。さあ、|決闘《デスマッチ》よ!」
「おのれ……ならばこのふざけたリングごと、貴様を八つ裂きにしてくれる!」
 どこからともなく、カァン! とゴングの音が鳴り響いた!

 ゴングと同時に、暗黒の水はふたりの背丈を上回り、両者とも水中に没する。
 光を通さぬ特殊な水の中では、五感は頼りにならない。
(「まずは浮かび上がって呼吸を――と、言いたいところだが」)
 火々羅は冷静だ。この状況ですぐさま上昇するなど、敵の思う壺だと看破している。
 ごぼり、と右方向で水の淀む音。火々羅はそれを頼りに身をかがめた!
(「! こいつ、暗黒深海リングに適応したっていうの!?」)
 先ほどの音の正体は、火々羅から見て右方向のロープを使い、ウィドウスパイダーが鋭い飛び蹴りを繰り出した予兆である。
 暗黒深海リングにおいて、頼りになるのは視覚でも聴覚でもない。
 流体である水の動きを肌で感じ取ること。このリングでは、フェイントは何の意味もなさないのだ!

(「……けどッ!」)
 しかしウィドウスパイダーとて、超一流のヒールレスラーである。
 向かい側のロープを使い三角跳びすることで、エメイシの刺突を避けた!
「ここからが暗黒深海リングの本領よ!」
 ざばぁ! と立方体の壁面から顔を出したウィドウスパイダーが叫ぶ。
 このリングのもう一つの特徴――それは、息継ぎの必要性である。
 巧みなロープワークは、こうして回避あるいは攻撃の予備動作と、水面から顔を出しての息継ぎの両方を同時に行う、いわばデスマッチ用立体機動を可能とするのだ。

 ざぷん! ウィドウスパイダーが再び潜った直後、彼女が息継ぎをしていた場所にエメイシが飛び出す!
「チッ! 避けたか……!」
 火々羅は水中に潜り、水の動きからウィドウスパイダーの位置を探ろうとする。
(「もはやこの舞台の癖は知れた。さあ、己から位置を晒すがいい……!」)
 火々羅はニヤリと笑う。奴は斬撃を封じたつもりだろうが、それは愚かというもの。
 エメイシの本髄は刺突にこそある。水中ではむしろこちらのほうが有利だ……と。

 だが、数十秒が経過したところで、火々羅は気づいた。
(「まったく動きがない……だと? バカな!」)
 よもや、呼吸を止め身じろぎ一つせず、暗黒の中で機会を待っていると?
 先ほどまでのロープワークは、この不気味な沈黙を際立たせるための罠だったというのか!
(「どこだ、どこにいる……!」)
 火々羅は油断なく身構える。だがその動作自体が水に流れを起こしてしまうのだ。
 そして、暗黒。光通さぬ暗闇の中、音さえも奪われた状態は、極めて強いストレス負荷をかける。
 1秒が1分に感じられ、火々羅は強烈な息苦しさに襲われた。息継ぎをしなければ……!

「っぷはぁ! おのれ、どこに……」
「――ここよ、おバカさん」
「!?」
 囁き声は背後から。咄嗟に逃れようとする火々羅だが、その首にひゅるりと頭足類の触手めいて、ウィドウスパイダーの両足が絡みついた!
「さ、最初からこれが狙い……がぼっ!」
 そして引きずり込む! 叱り。ウィドウスパイダーは火々羅の息継ぎのタイミングを読み、火々羅が痺れを切らすのを待っていたのだ。
(「アタシはこのリングでの|決闘《デスマッチ》に慣れてる。特殊な訓練を積んだアタシなら、このぐらいの潜水は余裕なのよ!」)
 驚異的な肺活量だけではない。無音の暗黒に耐える強靭な精神力もまた、血の滲むような鍛錬の果てに積み重ねた結晶。
 ウィドウスパイダーのホールドは、一度極まれば決して逃れられない。たくましい太腿が、万力じみて火々羅の頸椎を締め付ける!
(「こ、このリングに上がった時点で……術中だったというの、か……!」)
 恐るべし、超人プロレス! これこそ、ウィドウスパイダー・チカの暗黒深海殺法なのだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミリア・ペイン
武芸に精通のない私では不服かもしれないけど…私とお前の宿す怨嗟の炎、何方が上か
…一つ、試してみない?

《WIZ》【黒き怨恨の炎】
武人に接近戦は愚の骨頂ね
適度に距離を開け戦いましょ
【高速詠唱】からの【2回攻撃】で炎を切らさぬ様、自身の周囲に常に展開
炎は【結界術】で盾代わりにも
暗器に依る不意打ち等は【第六感】を頼りに

屍霊には全力を以ってお相手を
剣士には情けも哀れみも侮辱なのよね?なら、お互い死力を尽くして殺し合いましょ【除霊】

退けたら炎結界を前方に展開し一気に火女に突進

まさか突っ込んでくるだなんて思わなかったでしょ?

纏めて強化した炎を両腕に叩き込み、ご自慢のエメイシごと粉砕してやるわ【部位破壊】



●炎と焔
 ミリア・ペインは広く間合いを保ち、決して火々羅に近づこうとしない。
 それは、火々羅から近づこうとすれば必ず何かの攻撃が来るということを意味する。
 ゆえに火々羅もまた、安易には近づかない。間合いの読み合いはこうして生じる。
「武芸に精通のない私では、不服かしら」
 ミリアは無表情に言う。
「くだらん。私は戦闘者ではなく、至高の武器を鍛える者……。
 武技に優れた者であれば、より優れた武器を創り出せるだろうが……だからといって、貴様がただの素人というわけではあるまい」
火々羅はエメイシをくるくると回転させ、紅蓮の光を円形の軌跡で描きながら答えた。

「そう。お前が武人を求めるのは、武を志す者としての信念ゆえではないのね」
 ミリアの声には少なからぬ侮蔑があった。
「何もかも、己の鍛える武具の糧でしかない……なら、私が負ける道理はないわ」
 火々羅の視線が鋭く細まる。常人なら泡を吹いて気絶しそうな殺気を、ミリアは平然と受け止めた。
「それとも試してみる? 私とお前の宿す怨嗟の炎、どちらが上か」
「……いいだろう」
 火々羅は憤然とした面持ちで頷く。ぼうぼうと炉のような炎が溢れた。

「ただし――戦うのは私だけではないぞ」
 噴き出す炎の熱が、陽炎を生む。揺らめく熱の中に、おぼろな影ひとつ。
「貴様は言ったな、私に敗北する理由はないと。それが増上慢でないと言い切れるか!?」
 火々羅が仕掛けた! 同時に、陽炎から無残なる剣士の屍が出現する。
「ええ、もちろんよ。なんて答えでお前が満足するわけはないわね」
 左から剣士の斬撃。右からは火々羅のエメイシの刺突が同時に襲いかかる。
 ミリアは周囲に展開させていた悪霊の魂の炎を盾にし、横薙ぎの斬撃を減衰した。
 喉元狙いの刺突を躱し、バックステップ。両断された悪霊の炎を突き破り、さらなる追撃が喰らいつく!

 火々羅と剣士は左右を入れ替わり、今度は剣士が刺突を繰り出した。体捌きで躱したミリアの髪が、鋭い剣で断たれはらりと落ちる。
「どうした、後ろに下がるだけが貴様の戦い方か!?」
 エメイシは奇怪な軌道を描いてミリアを襲う。距離を取ろうと大きく飛び退れば、紅蓮の円を描いてエメイシが飛来してきた。飛び道具としても使えるようだ。
「言ったでしょう、私は武芸に精通してないって」
 ミリアは悪霊の炎を飛礫のようにぶつけ、エメイシを弾き飛ばす。間髪入れずに剣士が間合いを詰め、漢字の三を描くように首・胴・大腿を狙った連続斬撃を放った。
「ならば貴様はやはり私には勝てないな。そのまま逃げ惑い、死ね!」
 剣士の斬撃は数を重ねるごとに速度を増す。徐々にミリアの体に手傷が増えた。
 弾かれたエメイシをキャッチした火々羅は、今度は両方のエメイシを投擲した。剣士が正面から連続斬撃で攻め立て、左右からエメイシが弧を描いて飛来する、三方向同時攻撃だ!

「剣士には情けも哀れみも侮辱なのよね? なら――」
 ミリアは下がらない。代わりに、残っている悪霊の炎を前方に集め、盾のように展開し、逆に自ら接近した!
「なっ!?」
 斬撃を繰り出そうとしていた剣士は、鏃型の炎に貫かれ四散する。
「まさか突っ込んでくるだなんて思わなかったでしょ?」
 火々羅は謀られたと悟った。ミリアの後方、エメイシは誰もいない場所で交差する。それを火々羅が見ることはない……燃え盛る黒い炎が、火々羅を飲み込み燃え上がった!
「ぐあああ!?」
 炎を纏った拳を喰らい、火だるまになった火々羅は蹈鞴を踏む。
「この答えで満足できたかしら?」
 ミリアはやはり無表情に、感慨もなく呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィーナ・エスト
至高を目指すその志、敵ながら尊敬します
私としても理想の武器というのを是非とも見てみたいので、良ければお手伝いさせてください

思うに、全身全霊を賭した命がけの戦いの中でこそ、理想の武器は誕生しうると思うのです
根拠のない思いつきではありますが、一度試してみませんか?
出し惜しみなしの全力全開でいくので、よろしくお願いします!

飛来する刀をフォースブレードと念動力で弾き、斬撃波で反撃しつつ接近
接近後、暗器を使った攻撃は第六感を駆使して回避を狙いますが、ある程度の負傷は免れないでしょう
ですが急所だけはオーラ防御も駆使して絶対に守りつつ、《バラク》による超威力・超速度のカウンターを狙います!



●命を懸けてこそ見えるもの
 火々羅は妄執の果てに骸魂と化し、かつての同族を取り込むことになんの良心の呵責も覚えなくなってしまった、哀れな妖怪だ。
 至高の武器を生み出すためならば、同族も人間も、そうでないものもすべて躊躇なく犠牲にする。骸魂は未練ゆえにそうなる……火々羅も例外ではない。
 憐れむ者もいれば、侮蔑する者もいよう。

 サフィーナ・エストはどちらでもなかった。
「至高を目指すその志、敵ながら尊敬します。私もあなたの作る理想の武器というのを是非とも見てみたいです」
「……何?」
 火々羅は鼻白んだ。よもや猟兵に肯定されるとは思わなかったからだ。
「何か不思議でしたか? 猟兵であれオブリビオンであれ、信念を貫く者は敬意に値しますよ」
 不思議そうに首を傾げたサフィーナは、今度は照れ臭そうに微笑む。
「何より……立場は違うとはいえ、私も似たようなものですからね」
 サフィーナの戦いは、すべて鍛錬のため。強敵との戦いは明日の自分の糧なのだ。
 より強い武器を生み出すために戦う火々羅と、たしかに似通っている。

「だから、私にあなたのお手伝いをさせてください」
「……ならば、貴様の命を以て試し斬りをさせろ、と言ったら?」
 火々羅は酷薄な笑みを浮かべた。
「それよりもいい方法を提案しますよ」
「ほう?」
「全身全霊を賭した、命懸けの戦い。その中でこそ、理想の武器は誕生しうる。
 根拠のない思いつきではありますが、私はそう考えています――どうですか?」
 言いつつ、サフィーナは身構えた。
「フン。結果的に戦うのは変わらずとも、心根の問題とでも言いたいわけか」
 火々羅は面白くなさそうに鼻を鳴らす。彼女もまた身構えた。

 憎悪や怨恨ではない。両者、形は違えどともに至天を目指す求道者である。
 ぶつかり合う殺気は研ぎ澄まされて鋭く、同時に鏡のように澄んでもいた。
 自然と、サフィーナの口元に笑みが浮かぶ。火々羅は目を細めた。
「出し惜しみなしの全力全開でいきます。よろしく……お願いしますッ!」
 サフィーナが地を蹴った。瞬間、火々羅の全身から爆炎じみて焔が噴き出した。

(「刀の一斉発射。飛び道具から来るのですね」)
 サフィーナの動体視力は、焔の中から飛び出す刀を捉えている。
 恐るべき速度ゆえ、受け止めるのは至難だ。サフィーナは念動力で軌道を逸し、勢いを殺しきれないものはフォースセイバーで弾き飛ばした。
「ふっ!」
 返す刀で空中を薙ぐ。斬撃は波となって火々羅に襲いかかった。
 火々羅はエメイシを回転させながら這うほどに伏せ、サフィーナを迎え撃つ。
「私の武器を恐れず立ち向かってくるとはな。ほざくだけはあるか」
「命懸けで戦うと、言いましたから!」
 サフィーナは斬撃を――繰り出そうとして諦めた。火々羅の立ち上がりのほうが疾い。這うほどの低姿勢は、そのまま下からのアッパーめいた打撃に繋がる予備動作だ。
 振り上げかけたフォースセイバーで、顎を狙ったエメイシを十字の形で防ぐ。勢いは殺しきれず、サフィーナの体が軽く宙に浮いた。

「……くッ!」
「貰った」
 無防備な空中のサフィーナめがけ再びの刀射撃。尋常の立ち合いであれば矢衾ならぬ刀衾になるところ、サフィーナは念動力で自らの身体を強引に動かし、刀を弾く。
(「まだ終わらない……来る!」)
 刀の弾幕はフェイントだ。本命は跳躍してのエメイシの刺突である。これもフォースセイバーで丁寧にいなすが、サフィーナは安心してはいなかった。
 弾かれたエメイシは、くるくると回転しながら再び襲いかかる。中指の輪が支点となり、防がれても即座に連撃に打って出ることが出来るのだ。なかなかに厄介!
「どうした。貴様の力はその程度か!」
 紅蓮の軌跡が8の字を描く。サフィーナはその交差する点に縫い留められたかのように、めくるめく連続打撃をひたすらに防御し続けていた。
 避けようとすれば大振りな動きにならざるをえない。今度こそ刀の弾幕が全身を貫いてしまうだろう。さりとて防御を続けていては、いずれ押し切られる。

「……やはり戦いは……こうでなくては……!」
 苦境にあってサフィーナは微笑んでいた。火々羅は油断せず危険視する。こういう手合ほど厄介なのだ。そして、厄介だからこそ至高の武器のいい糧となる。
「見せてみろ、貴様の命の価値とやらを……!」
 火々羅は脇腹に蹴りを叩き込み、強引にサフィーナの防御を崩した。脳天と胸部をめがけ、同時に繰り出されるエメイシの刺突。防御するにはフォースセイバーを縦にせざるを得ず、そうすれば側面が空き、刀の一斉射撃を防げない。回避するならそのまま横薙ぎの殴打に繋げ連続打撃で仕留める。必殺のコンビネーションだ。

 しかし、サフィーナが採ったのはどちらでもなかった。
「何!?」
 火々羅は驚愕した。サフィーナは正中線から狙いをずらすと、逆に自ら突っ込んだのである。負傷を厭わずインファイトに持ち込むとは!
「あなたを相手にして、無傷で勝てるとは思っていませんよ」
 バチバチと、フォースブレードが雷を纏う。火々羅は飛び退ろうとした――ダメだ、近すぎる!
「この一撃が、私の命懸けです!」
「がはッ!」
 ばちん、と稲光が地を劈いた。光に遅れて火々羅は吹き飛び地を転がる。激甚たる威力を浴びたその身は、ぶすぶすと煙を放っていた……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルザック・グランベルク
奇なる得物を操る達人、相手にとって不足はない。
如何に研ぎ澄まされた武であれど、我が絶対的な暴の前では無に帰すと思い知らせてくれる。

彼奴の得物については余り知識は無いが、攻撃の間合では我が優っていると言えよう。であれば、彼奴を懐に入れずに我の距離で挑むのみ。
【殺気】や【威圧】のプレッシャーで牽制しつつ我が大槌を振るい、自らの距離を保ち立ち回る。
大槌の距離より離れたならば我が咆哮の【衝撃波】にて攻撃を行う。
相手が必殺の間合に入ったのであれば、我が鎧の樹槍での迎撃を行い、致命傷にならぬ様、攻撃を逸らしつつ距離を離す。多少の傷は【継戦能力】で耐えよう。
相手のUCに対しては我もUCを合わせる。迫り来る刀を我が暴風で消し飛ばす。
以上を繰り返し、相手を消耗させ自らの力が及ばぬと【恐怖を与える】
心身共に疲弊し隙を見せた一瞬に我が渾身の一撃を浴びせ、叩き潰すだけだ。



●鏖殺、蹂躙、大破壊
 5メートルを超える巨躯を前にしては、さしもの火々羅とて気圧されるのは必然だ。
「なんという巨体……! ……いや、ならばこそ験しがいもあろうものか」
 |巨人殺し《ジャイアント・キリング》は英雄の華。そして至高の武器とは英雄に振るわれるもの。火々羅にとってはまさにうってつけの相手だった。

 対する巨躯――すなわちバルザック・グランベルクは、兜の下、定かならぬ眼でしかとその凝視を受け止める。
「我が体躯を見て臆するどころか不敵に笑むか。相手にとって不足なし」
 火々羅の武が研ぎ澄まされた刃であるなら、バルザックの力は絶対不変、いかなるものをも一方的に下し蹂躙する暴である。
 すべては無に帰す。事実、そうしてきた。ならば此度もそうするまで。
 荒ぶる嵐と燃え盛る炎とが、じりじりと熱を孕んでにらみ合う。

 力比べでは勝てない――火々羅は冷静かつ客観的に事実を受け入れた。
 間合いと膂力は敵が上。ならば技量と、武具の扱いで上回るしかあるまい。
「然り。貴様はまず、我が間合いの内に入らねば勝負にならぬ」
 巨大にして強固、凶暴なる『惑星殺しの凶槌』を担ぎ、バルザックは言った。
「ならば我は、ただ己の間合いを保てばよい。さあ、如何にする、骸魂よ」
「……その得物、なかなかの逸品だ。だが重大な欠陥がある」
 火々羅はエメイシをくるくると回転させながら敵を睨む。
「ほう」
「破壊力は一瞥するだけでも申し分なし。しかし、担い手をあまりにも選びすぎると見える。そのような武具は武具とは呼べんな」
 バルザックはぐるぐると唸った。おそらくは笑い声だ。
「ならばどうする」
「……私が鍛えた武具が上であると、示すまでッ!」
 火々羅が仕掛けた。地が爆ぜるほどの脚力で一気に踏み込む!

 バルザックは、心弱き者なら即座に心臓が破裂しかねないほどの殺気を放ち、同時に凶槌を愚直に振り下ろした。
 対する火々羅は前に走ることで直撃を避ける。そして全身から炉の如き炎とともに、鍛え上げた無数の刀を射出した。
「もらった!」
「――甘い」
 だが見よ。凶槌の攻撃は空振りしたとは言い難い。衝撃が偽物の世界そのものを砕こうかというほどに地を揺るがし、火々羅の体勢をわずかに崩していたからだ。
 そして射出された刀はといえば、城砦の如き強壮なる鎧から生えた樹槍でもって、ことごとくが弾かれ受け止められていた!
「何!?」
 火々羅は驚愕した。間合いに踏み込まれた時の備えまであるというのか!

 ならば、エメイシにて急所を突き必殺とするほかなし。
 ねじくれた樹槍を足場に、火々羅は上へ上へと駆け上がる。二度目の攻撃が来るよりも先に、頸椎なり心臓なりを穿けばこちらの勝ちだ!
「いかにも、我とて研ぎ澄まされた一撃を命に届かせれば斃れような――だが、貴様にそれは出来ぬ」
 ごう、と嵐が吹いた。それがバルザックの雄叫びであると気付いたのは、衝撃波じみた音の波で吹き飛ばされた瞬間だ。
 空中に投げ出された火々羅に、凶槌が横薙ぎに振るわれる。身をよじった火々羅は巧みな体捌きで衝撃を受け流し、コマめいて空中回転した!
「ならば喰らえ! 我が鍛錬と研鑽の結晶を!」
 再び炎が爆ぜる。無数の刀、バルザックはそれを……ズン!! というすさまじい踏みつけで、すべて粉砕し霧散させた!
「なんともいじましいことだ」
「……!!」
 火々羅はふらりと着地する。息をつく間もなく再度の槌撃。飛び退り躱したところへ、石柱じみた蹴り足が前のめりに繰り出された。
「がはっ!!」
 勝てぬ。あまりにも規格が違いすぎる。どれだけ優れた刀剣武具とて、嵐には勝てぬのだ。ゆえにこそ嵐は天災と云う。

「理解したか」
 人型の嵐が、ここに在った。
「我が力は絶対。なべて無に帰すまでよ。我こそは嵐なれば」
 畏怖。ありえざる感情が火々羅を支配する。バルザックの定かならぬ眼が、弧を描いたのを火々羅はたしかに理解した――凶暴な笑みだった。
「潰えよ骸よ。貴様が辿り着くは高き天の頂に非ず」
 絶対的暴力を乗せた一撃が、神の怒槌じみて振り下ろされる!
「絶望と悲嘆に塗れた、地の底よ」
 遅れて衝撃が波となり、世界を揺らした。骸魂は跡形もなく砕け散り、無傷の妖怪が竹林に投げ出される。バルザックはそちらを一瞥した。
「さて。これで終わりではあるまい、禁軍とやら」
 闇の奥へと巨人は進軍する。彼が求めるのは、己の暴で叩き潰すに値する好敵手のみだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『骸弁慶』

POW   :    侵略蔵書「妖刀伝説」
【妖刀から放たれる呪われた斬撃 】が命中した対象を切断する。
SPD   :    弁慶蟹の怪
【自身】が纏う【英傑の骸 】を脱ぎ、【本性である超巨大な弁慶蟹の姿】に変身する。武器「【因果切断の蟹鋏】」、「【骸喰らいの甲殻】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ   :    妖刀乱舞
レベル×5本の【切断】属性、【呪詛】属性、【貫通 】属性の【宙を自在に舞いながら敵を狙い続ける妖刀】を放つ。

イラスト:nii-otto

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はベリル・モルガナイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 橋である。
 武蔵坊弁慶の逸話に倣ったか、巨大な橋のど真ん中に、それはいた。

 骸弁慶。その背にはおよそ100を超える武器。
 先の骸魂と異なり、この猟書家はそれらの武器すべてを利用しとめどなく変幻自在の攻撃を行う。
 ゆえに見切ることは至難。受け流すのは絶苦と言わざるを得ず。

 猟兵たちを待ち構える骸弁慶の周囲に、きらりと光の筋が瞬いた。
 いや、光などではない――それはおそらく武器の軌跡だ。気づけば骸弁慶の手には一振りの鉄鞭。
 かと思えば直後、再び光の筋が煌めく。手品めいて武器は変わっていた。奇妙にしなる多刀の名は「ウルミ」という、インドの古代武術カラリパヤットに伝わる軟鉄剣である。
 代わる代わる煌めく光の軌跡は柔らかく、しかし鋭い。リーチも読み難い。あるいは蛇腹剣、あるいは多節棍……。
 それは威圧的だが、こちらへ挑んでこいという挑発的なアピールでもあった。骸弁慶もまた戦いを望んでいる。
 一度橋に足を踏み入れたならば、もはや立ち合うほかに道はない……!
苔縄・知朱
弁慶ってことはアタシにぴったりの相手ね。
記憶が正しければ、牛若丸はルチャドールだったはずだもの。
さあ、五条大橋の再現といこうじゃない!

まずはウルミの間合いに入らないように距離を取り、凶器のチェーンを振るって互いの得物を絡ませる。
用を成さなくすれば充分だから、下手に引き合いなんかして斬られないよう、すぐに手放すわ。
厄介な武器を封じたら、レスラーの本領発揮よ。
身軽さとジャンプ力を活かして|欄干《リングロープ》を飛び移り、敵の刃を躱して翻弄する。
敵が隙を見せたら、透かさず|擬宝珠《コーナートップ》からのミサイルキック!
体勢が崩れたところを、スパイダー式ファイヤー・スープレックスで場外に投げ飛ばすわ!



●壮絶! ビッグブリッジ・デスマッチ! の巻
 武蔵坊弁慶。かの源義経の四天王にして、壮絶な立ち往生で知られる豪傑だ。
 その名を冠した禁軍猟書家は、刀型の侵略蔵書を有していたが……奴の武器はそれだけではない。変幻自在の鞭状武器の数々をサブウェポンとして操るのである。
「ふうん、史実通りってわけね。なら、アタシにぴったりの相手だわ」
 苔縄・知朱……いや、ウィドウスパイダー・チカは不敵に微笑んだ。
「アタシの記憶が正しければ、牛若丸はルチャドールだったはずだものね!」
 歴史の真実は常に残酷だ。人々が畏れ忘れ去った恐怖が、そこにある。
 かの八艘飛びが、壇ノ浦スタジアムで源義経が見せた神業的ロープワークであることは、レスラーにとっては常識。何故か? 彼らは身体だけでなく精神もタフだからだ。
 歴史の真実をありのままに受け止め、なお不敵に笑う。ウィドウスパイダーは伊達ではなかった。
「さあ、五条大橋の再現と――いこうじゃない!」
 ウィドウスパイダーはやおらマントを脱ぐと、それを骸弁慶へと投げつけた!

 開幕からの視界妨害! ここがまともなリングであれば即反則だ。だが真のデスマッチにはレフェリーなどいない! 鳴り響くのはゴングの音、それだけが真実!
「小賢シイ……」
 骸弁慶は寂々とした声で言い、非道邪悪武器ウルミを振るった。
 鋼鉄をも防ぐ超重マントが、紙屑のように斬り裂かれる。しかし、ウィドウスパイダーはそこにはいない。
「こっちよ!」
 骸弁慶は反射的に声の方向へ武器を振るった――すなわち、蛇腹剣である。
 一瞬の武器変更からの、予測しがたい変幻リーチ攻撃は脅威的だ。

 ゆえにウィドウスパイダーは、まずそれを封じにかかった。
「まんまと攻撃したわね」
 じゃらり、と凶器チェーンが蛇腹剣に絡まる。その様は、まるで楽園に遊ぶアダムとイヴを誑かした、禁断の蛇のようだった。
 ……いや、これ以上は記すべきではなかろう。レスラーならぬものに、歴史の真実はあまりにも危険すぎる。世の中には知らないほうがいいこともあるのだ。
「ヌウ!」
 骸弁慶はぐいとチェーンを引っ張る。ウィドウスパイダーは張り詰めた鎖越しに敵の膂力を感じ取り、躊躇なくそれを手放した。
 レスラーとしての本能が、チェーン・デスマッチの誘惑に乗りかかった。しかし、そんな酔狂に溺れれば、次は自分がマントのようにバラバラになると、彼女は卓越した精神で感じ取っていたのだ。

 もはや蛇腹剣は使えない。骸弁慶が次の武器を吟味しているコンマ秒の間に、ウィドウスパイダーは跳んでいた。空中を鉄鞭が薙ぐ、だが当たらない! 何故か? レスラーの空中技は止められないものだからだ! 一度|地面《リング》を跳んだレスラーは、神にさえ捕まえられない! フォールを極めるか、あるいは反撃されるか!
「ここからがウィドウスパイダーの本領発揮よ!」
 ウィドウスパイダーは欄干に着地。そこへすさまじい速度の刀斬撃が横薙ぎに来る。
 さらに跳躍。向かい側の欄干に着地し、半円を描く斬撃が届くより先に斜め向かいに。さらに対面、再び斜め向かい! ジグザグ稲妻軌道ジャンプ! これは、もしや!?
「ナニ!?」
 捉えられない! ウィドウスパイダーのロープワークが! 疾すぎる!
 まさにそれは、史実に謳われた牛若丸と武蔵坊弁慶の一騎打ちの如し!

「隙だらけよ、貰ったわ!」
 側面の擬宝珠を蹴ったウィドウスパイダーは、鋭角的ミサイルキックを骸弁慶に叩き込んだ!
「グワーッ!?」
 速度×質量=破壊力! 骸弁慶の巨体が揺らぐ! ムーンサルトを描いたウィドウスパイダーは骸弁慶の背後に着地し、腰を素早くホールドした!
 もしもここに相撲の有識者、あるいはモンゴル文化の専門家がいれば、恐るべき歴史の真実を相似性から見出し発狂していたかもしれない。
 相撲に反り投げという技あり。特にその中の居反りと呼ばれる投げ技は、リバース・スープレックスとの近似性を指摘されることが多い。
 八艘飛びめいた|欄干跳躍《ロープワーク》からの華麗なバックドロップ! 源義経とチンギス・ハンの同一人物説! モンゴル文化における相撲の重要性!!
 これ以上は記すことは出来ない! あなたの精神を守るためだ! だがすべてはつながっているのだ! いわばこれはひとつの歴史再現風景だった! 神話なのだ!
「だぁっしゃァ!!」
 投げた!! 芸術的バックドロップだ!
「グワーーーーッ!!」
 あまりの速度に、投げ出された骸弁慶は空気との摩擦熱で燃え上がる! ファイアー・スープレックス炸裂!! もはやこれは、事件だ……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

戒道・蔵乃祐
…面白い趣向ですね。

此処はあなたの狩猟場ということかな?
蒐集品の数々、此処で使い切らずして猟兵を斃すこと叶わずと知りなさい
お互いに出し惜しみは無しでいきましょう

禁軍猟書家。相手にとって不足無し!いざ!
いざ!!

『m'aider』!
太刀、或いはバスタードソードを呼び出します
そして

◆天壌無窮即是天下布武
現れよ第六天魔王『織田信長』信玄装!
【風林火山】攻撃力重視で『渦巻く炎の刀』を力任せに叩き付ける怪力+重量攻撃

侵略蔵書と妖刀類の五月雨斬りは大連珠のジャストガード+武器受けで見切り、弾いてかばう+フェイント
連携して戦輪を早業+クイックドロウの乱れ撃ちで連続投擲
切り込みを援護します

これぞ風林火陰山雷!!



●剣と剣
 ここは禁軍猟書家のフィールド。猟兵は罠にかかった哀れな獲物。
 事前にわかっていて飛び込んだとしても、その事実に変わりはない。

 ……とでも言いたげに、骸弁慶は威圧的なオーラを放ち戒道・蔵乃祐を睨む。
 ヒュンヒュンとリーチ自在の武器がいくつも入れ代わり立ち代わりに演舞めいて振るわれ、牽制を兼ねて彼の足元を抉った。いつでも殺せる、ということか。
「面白い趣向ですね」
 対する蔵乃祐は不敵に微笑んだ。
「その蒐集品の数々、此処で使い切らずして猟兵を斃すこと叶わずと知りなさい。
 禁軍猟書家、相手にとって不足なし。お互いに出し惜しみはなしで行きましょう」
「……ヨカロウ。来イ」
 くぐもった声が、殺意を滴らせた。じり、と両者がともに間合いを詰める。
「いざ――」
 蔵乃祐は片手を突き出し、叫ぶ。
「いざ! 『m'aider』!」
 骸弁慶の周囲の空間が凝り、古めかしい太刀が彼の手の中に飛び込む。それが戦いの火蓋を切るきっかけとなった。

 蔵乃祐が妙に手に馴染む柄を握りしめた瞬間、骸弁慶は多節棍を振るっていた。
 通常の棍であれば、間合いは読める。だが特殊な接続をされた多節棍は、鞭のようにしなりながらカコンとバラけ、さながら散弾のように展開することで線ではなく面の攻撃を行った。蔵乃祐はそれを読み、刀を縦にすることで棍を弾く。避けようとしていたら、分割された棍のどれかが命中してダメージを請けていただろう。
「現われよ、第六天・天魔波旬! 他化自在天の化身よ!」
 棍と刀のぶつかり合いで生まれた火花が、めくるめく猛火に成長した。

 刀身をとぐろ巻く蛇のように包んだ炎でリーチが数倍にも伸びる。蔵乃祐はそれを力任せに叩きつける。
 変幻自在の武器は受けに回ると脆い。骸弁慶は信頼できる愛武器……つまり侵略蔵書で斬撃を受け止めざるを得ない。
 踏みしめた両足に、橋の木材が軋んだ。ばきり、と木片が舞い上がるなか、両者はさらに一歩踏み込む!
「まだまだァ!!」
 刀と刀が鏡合わせのように切り結んだ。弾かれた瞬間、利き手と逆の手で振るわれるウルミ。対して蔵乃祐は大連珠の球体面で多刀をいなす。∞の字を描くように数珠が下から上へと滑り振り下ろされる。鉄鞭が弾く。火花、火花火花火花!
「付ケ焼キ刃デ、我ヲ凌ゲルト思ウタカ!」
 ひときわ強い踏み込み。侵略蔵書の首薙ぎが来るか! 蔵乃祐は――。

「思っていませんとも」
 懐から、戦輪を抜き放つと同時に投げていた。いわばチャクラムのクイックドロウ。
 ここに来ての、インファイトでの投擲。見事に虚を突かれた骸弁慶は、斬撃途中でチャクラムを受けざるを得ない!
「ヌウッ!?」
「これぞ風林火陰山雷!!」
 ブーメランめいて戻ったチャクラムをつかみ取り、Wの字を描くように斬る! 互いに最後に頼れるのは、愛用の武器。それは蔵乃祐とて同じことなのだ!
 血がぶしゃりと噴き出し、軋む橋桁に鮮烈な赤を描いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バルザック・グランベルク
我の知り得る武蔵坊とは恰好が随分と違うようだが…これから起こる闘争に於いては些事であるか。
貴様の千本目を迎えるに相応しい武器は此処にある。欲しくば嵐を破ってみせることだ。

彼奴の撓る長剣を始めとした数多の武器、手数では圧倒的に不利であろうな。
我にはあの源氏の様に欄干を飛び回る身のこなしは不可能だ。故に、正面からの耐久戦をさせて貰う。
【力溜め】を行使しながら牽制を仕掛け、彼奴の攻撃を捌きながら戦闘を行う。
致命傷になる物は極力防ぎ、軽傷や鎧そのもので防げる物は率先して受け【継戦能力】で戦闘を行う。
敢えて傷を負いながら戦う事で攻撃が効いていないと思い込ませ、一撃で屠る力を持つ彼奴のUCを引き出させる。これに我のUCを合わせるのが本命だ。
我が体躯では回避する事は敵わん。であれば、それを受け止め反撃で潰すのみ。【力溜め】で溜めた暴威の一撃を喰らわせ打ち砕く。

かの武蔵坊は立ったまま死んだと聴くが、貴様は我が一撃で立っていられるか。



●嵐と骸
 骸弁慶の手数は無数。今回はどうやら、リーチの読みづらい変形武器を用いる趣向らしい。となれば間合いの予測もまた困難である。
 もっとも簡単な対処方法は、機動力で撹乱することだろう。幸い、橋というフィールドは移動が不便で、骸弁慶も機敏に跳び回るつもりはないらしい。
 かの源義経……牛若丸よろしく欄干を跳び回る。それがおそらく一番シンプルでわかりやすい対策だ。

 だが、バルザック・グランベルクのスピードは、軽やかな業によるものではない。
 圧倒的な脚力から繰り出される、重量をも物ともしない剛のスピードであり、同じ敏捷でも異なるのだ。ゆえに、機動力で撹乱するという手は棄却した。
「貴様の千本目を迎えるに相応しい武器は此処にある」
 ずしゃり、と巨体が橋に足を踏み入れた。途端に両者の濃密な殺意がぶつかり、混じり合い、それに合わせて空気が泥のように濁る。
「欲しくば|嵐《我》を破ってみせることだ」
 さらに一歩。巨人の歩みにしてはひどく短く、そして緩やかである。
 つまりすでに、両者は必殺の間合いに入っている。踏み込みというよりすり足に近い一歩で制空圏がさらに狭まり、見えない気圧で橋がミシミシと音を立てた。

 ……いや、違う。みしりと音を立てているのは、橋桁だけではない。
 バルザックだ。その全身を半分程度にしか見えないほどに大きく深く身を屈め、馬鹿げた密度の筋肉をさらに緊張させている。さながら、解き放たれる寸前のゴムあるいは撥条のようだ。
 骸弁慶は、先ほどまでのデモンストレーションめいた挑発を一切せず、無手で睨む。2秒か3秒か、はたまた1分か――何の前触れもなく、奴は動いた。

 最後に繰り出されたのは、鉄鞭である。一般によく知られる事実上の殴打武器とはまったく異なる、軟鉄めいた奇妙にしなる長柄武器だ。
 狙いは頭部。バルザックは不気味な緊張を継続したまま、片腕を無造作に掲げて鎧で受けた。めきめきと呪われた樹木が伸びて鉄鞭を絡め取ろうとするが、骸弁慶の巧みな手首の動きで鉄がしなり、樹木をばきんと断ち切る。
 奴の手が霞んだ。次いで魔法じみて繰り出されたのはウルミの剣戟だ。それもスピードは倍近く疾い。樹木の自動反撃でさえ捉えきれぬほどのヒット・アンド・アウェイは、バルザックに防御の構えさえ許さない。鎧が傷つき、皮が裂け、肉が穿たれる。風がひょうと鶫めいて鳴くたび、嵐の残滓が赤い飛沫となって橋を汚した。

 しかし、それだけだ。傷は無数に増えていくが、命にまでは届いていない。武器を絶え間なく振るう骸弁慶が一番痛感していた。
 手応えが違うのだ。たとえるなら巨大な岩を素手で叩くようなもの……いや、この場合はもっと巨大な、それこそグランドキャニオンのような地形そのものをノミでむなしく削るのに似ている。
 通じぬと? あり得ぬ。この巨体に任せ押し切るつもりか。ならばその増上慢を思い知らせてやればよい。
 必要なのは手数ではない。全力を振り絞った致命の一撃。千で届かぬならば、研ぎ澄まされた一にて殺す。矛盾しているが、達人同士の戦いならば成立する。骸弁慶にはそれを可能とするだけの技量がある。

 拡散した殺意が一点に集中する。バルザックは己の頚がばくりと裂ける光景を幻視した――狙いを瞬間的に判断できるほどの殺気だ。身軽な者ならばそれを感じてから避けることも出来るやもしれぬが、彼には出来ない。そこまで見越した上での凄烈な一撃。

「それを」
 そこまでが、巨人の狙いだった。
「――待って、いたぞ」
 風鳴りの音さえあとに引くほどの剣だった。己の命を預けるに足る愛刀での頚刈り、止められていた。鎧でも盾でもない、バルザックは頚の筋肉を異常緊張させ、その張りだけで刃を防いでいた!
「莫迦ナ」
「来る場所がわかっているならば、如何様にもなる。それが|嵐《我》だ」
 ぞくり。兜の奥から己を見据える巨人の眼光に、骸弁慶は畏怖を抱いた。
 身体が反射的に飛び退ろうとする。悪手だ。この一撃は踏みしめて受けるべきだ。だが、暴威を前に手段を選んでなんになろう? 嵐に剣を突き立てたとて、止まることなどない。
「かの武蔵坊は立ったまま死んだと聴く。貴様はどうであろうな」
 風が吹いた。欄干が肉食の獣に噛みちぎられたかのように消し飛んだ。遅れて旋風が巻き起こり、残骸を天高く舞い上げ、そして唸るような竜巻が地を貫いた。

 偽物の世界が揺れる。それほどの一撃。地響きが遅れていまさらに鳴り、天は震え上がった。
 土煙がもうもうと立ち込める。巨人は不動――相手が誰であろうと、彼が退くことはない。横にも後ろにも。進むのは常に前であり、立つのもまた嵐なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィーナ・エスト
橋の上の死闘…しかも相手は先程の敵よりもまた一段と研ぎ澄まされた武技の使い手
これは、物凄く燃えてきました!
その挑戦、受けて立ちましょう!全身全霊全力全開でいきます!

狙うのは勿論真っ向勝負です
フォースブレードを構え、骸弁慶めがけて橋の上を一直線に駆け抜けます!
接近後のプランは今のところありません!
私の使える超能力、念動力や読心術や第六感を駆使してぶつかる!それだけです!

戦いの中で斬撃が幾度も私の体を切り裂き、呪詛が体を蝕んでいきます
近づく死に反して心は熱く燃え上がっていき、テンションが最高潮へと達すると同時に《アーテ》発動です!
全身を炎へと変化させ、爆炎の拳を正面から叩き込みます!



●幽世剣嵐舞
 欄干は削り砕け、橋にはヒビが走り、不定期な地鳴りが世界そのものを揺るがしていた。
 一体、ここでどれほどの破壊が起きたのか。「偽物の世界」をも砕きかねない破滅の嵐が通り過ぎたことは、サフィーナ・エストの目にも明らかだ。
 世界が終わろうとしている――つまり、死闘の終りが近づいているということ。

 それでも、骸弁慶はまだ立っていた。もはや意地、執念であろう。
 奴の名乗る武蔵坊弁慶の逸話よろしく、まだ猟兵を阻もうとしている。
「感謝します」
 サフィーナは胸に手を当て、しみじみと想いを込めた。
「あなたがまだ立ってくれているから、私はこの全力をぶつけることが出来るんですから。
 その研ぎ澄まされた武技と、巌の如き信念に、ひとりの戦士として敬意を払います」
「…………」
「挑戦を受けて……いいえ、挑むのは私の方ですね」
 禁軍猟書家は道程に過ぎない。目指すべきモノはこの先に待っている。
 ゆえに、奴は立ちはだかる。サフィーナは全身全霊で挑む――爽やかに微笑んで。

 破壊の残滓が空に渦巻き、黒雲のように地を見下ろしていた。
 偽物の世界の割れた破片が、吸い寄せられるように空にゆっくり浮かんでいく。
 身構えた両者は微動だにせず、互いを見据えていた。その時間はどれほどのものかわからないが、両者にとってはまるで無限のように思えた。

 最初に仕掛けたのは、サフィーナだ。
「ふっ!」
 フォースブレードを平に構え、地を蹴る。ひび割れた橋を踏みしめ一直線だ。
 プランは……ない。とにかく真正面から全力全開で挑む。それだけだった。
「死ネ」
 骸弁慶は全存在を振り絞った。真上から鉄鞭を振り下ろし、弾かれれば真横から蛇腹剣が襲いかかる。避けた先にウルミが手ぐすねを引いて待ち、防御した瞬間に妖刀が逆袈裟の剣閃を刻んだ。
(「疾い。読んでも動くより先に攻撃が来る……!」)
 サフィーナは狼の群れを幻視した。優れた|群長《アルファ》に率いられ、本能の|集団戦術《パック・タクティクス》で獲物を責め立てる狼の群れだ。
 獲物を逃さぬよう包囲し、一匹が噛みつけば別の方向から爪が襲いかかる。獲物が角を振り回して威嚇しようとしても、死角からまた別の狼が噛みつき、あるいは爪を振り下ろす。そうしてじわじわと獲物を弱らせ、肉を喰む。無慈悲な自然の群れを思わせた。
 一撃は別の一撃の布石であり、先の先の先を読んでもまだ足りない。

 刃の光が、暗く澱んだ偽物の世界に煌めくたび、サフィーナの黒い身体に傷が生まれた。傷口から膿のように呪詛が入り込み、臓腑を蝕む。手足が鉛めいて重たくなり、血反吐を零す。刃を握る手が緩まる。視界は霞んで、だんだん音も肌の感覚も曖昧になってきた。
(「傷口が熱い。もう、どこが斬られてどこが無事なのかもわからない……」)
 意識が朦朧とする。足がふらつき、守りが緩み、さらなる一撃を叩き込まれる。
 痛みさえも鈍り始めていた。終わりが近い。心臓は悲鳴を上げて拍動していた。

 だが、サフィーナの魂は燃え上がっていた。
「……は、ぁあああああっ!!」
 血反吐を吐きながら裂帛の気合を上げ、めくるめく連続攻撃に意地で喰らいつく。
 もう敵の攻撃は見えていない。感じ取ってもいない。ただ、ここに来ると漠然と感じた場所に刃を置く。不思議とそれが敵の攻撃を弾くのだ。
 互いに超一流だからこそ、導き出される攻防の最適な場所は重なる。フェイントや先読みで狙いを変えても、「狙いを変える」という行為すらもその裡に入る。一方的だったはずの攻撃は、サフィーナが攻めているようにも見えた。つまり、拮抗していた。
「何故ダ」
 骸弁慶は正体不明の畏怖に震えた。何故まだ立っている。何故まだ戦おうとする。

 そして何故、攻めていたはずの自分が圧されている!
「燃え上がれ、私!」
 ぼう! と、傷口から溢れ出した血がタールのように燃え上がった。
「これが私の! 全身全霊……全力全開です!」
 爆炎に包まれ……いや、爆炎と化したサフィーナは、拳を握りしめた。
「この一撃、受け取ってください! これで――終わりよ!!」
 命を乗せた拳! 骸弁慶は妖刀を縦に構えて受け止めようとする。だが爆炎はたやすく刀身を融かし、砕き、微塵になった破片を蒸発させた!
「莫迦ナ!」
 そう叫ぶのはこの日二度目であり、そしてこれが最期になった。

 熱量が津波のように突き抜け、天地を焦がした。「偽物の世界」が限界を迎え、陽炎に揺らめくようにして薄らぎ崩れていく。
 サフィーナは崩れ落ちかかる両足に信念を込め、膝を突くのをこらえた。
「……私の、勝ちね」
 莞爾とした微笑みのまま、崩れ行く世界の奔流に呑まれ、彼女はカクリヨファンタズムの竹林へと投げ出された。
 寂々とした風が、戦いの熱を洗い流す。見上げる月夜は、ただ静かに彼女を見下ろしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年02月16日


挿絵イラスト