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ゴブリンは繁栄しました

#けものマキナ #ゴブリン集落

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#けものマキナ
#ゴブリン集落


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「ゴブリンだ」
 (自称)レイリス・ミィ・リヴァーレ・輝・スカーレット(厨二系姉キャラSTG狂・f03431)がいつもの如くゆったりと椅子に座って手を組んでいる。
「いや、ゴブリン退治ではない。逆に、退治されそうなゴブリンを守ってもらいたい。邪悪なゴブリンではないからな。そう、今回もけものマキナ案件だ」
 俯瞰視点での集落の映像が表示される。障害物の少ない平原に建つ掘っ建て小屋が沢山と言う感じだ。遊牧民のように見えなくも無いが、遊牧民はもっとまともなテントを建てるだろう。
「ゴブリンの集落が人間によって壊滅する。今回の人間は少数精鋭、と言うか五人パーティだな。それぞれに違った特性を持っているが、それは後で話そう」
 数名のゴブリンの立体映像が表示される。
「この世界のゴブリンは最弱のモンスターとして知られている。子供並みの体躯で、知能も能力も子供程度。小柄な体格を利点として生かすならフェアリーやケットシーの方が上だしな。単体の生物としてはまあ最弱だろう」
 詳細なデータが表示されていくが、確かにあらゆるパラメータが低い……ある一点を除いて。
「それはあくまで個体として見た話だ。ゴブリンは四肢を持つ人型のモンスターとしては極めて高い繁殖力を持っている。これはオスとメス……いや、男性と女性と言うべきか? まあ両方凄い」
 単純に繁殖力の高さで言えば上の種族は居るが、それは知恵を持たない種族になってしまう。知恵を持つ種族としては最高なのだ。
「ゴブリンもこの世界の妊娠期間が10年かかると言う法則を覆せる訳じゃないが、一回の行為でほぼ確実に妊娠する上に一度の出産数が多い。これもオスもメスも……なんか、そういった方がしっくりき過ぎてな。数に頼った力押ししか出来ないが、どんな種族よりも数だけは出せるしそれなりの連携もする」
 とにかく数が多いのはそういう理由だ。
「しかも、けものマキナと言う世界で子供は希少でな……何せ、寿命は千年もあるのに子供で居られる期間は精々二十年。住民からすれば一瞬の事だろう。だが、ゴブリンは一生子供のままだ。人間の子供の八歳から十三歳程度で成長が止まり、それ以上育たない……言いたい事は、分かるな?」
 つまり、そういう趣向の人には大ウケする訳である。完全合法ロリショタ種族なのである。
「今は繁殖期を終えた後の冬でな。本来なら集落でのんびりしている時期なんだが……ここに人間の襲撃が来る。ゴブリンは弱い、沢山の命が失われる」
 命の数は多い。そこで生きている数よりも更に。
「とは言え、無抵抗と言うほどでもない。ゴブリン自体は弱いんだが、ゴブリンの集落には用心棒のように他種族が滞在しているからな。今はミノタウロス、アラクネ、ケンタウルス、オーガ、オークなどの体格の良い種族が滞在しているようだ。何せ守る範囲も広い事だし彼らの協力を仰いでもいいだろう……なんで居るかって? 大体分かるだろう」
 まあ、そういう趣味の人達なんだろう。
「一先ずは情報収集と交流だ。マナキタ近郊なら人間も警戒されなくなってきたが、この辺はそうも行かない。人間は警戒対象である事を忘れるな。あとはまあ、上手い事丸め込め。相手は子供だからな」
 椅子に深く座って偉そうに手を組むレイリス。
「私は見えた事件を解説するだけ……案ずるな、戦うべき相手の情報は後で改めて送る」
 そして、けものマキナへと繋がる転送用のゲートを開く。
「では、往くがよい」


Chirs
 ドーモ、Chirs(クリス)です。ゴブリンが出たのでゴブリンた退治する話を阻止するお話になります。
 今回は第一章の日常と言う感じです。続き物になる予定です。子供たちとの交流を楽しみましょう。
 今回もいつも通りアドリブも連携もマシマシになります。ある程度の人数が集まってから書き始めます。皆さんに長閑な村の日常風景を提供出来れば良いなと思う所存でございます。
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

イラスト:仁吉

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木霊・ウタ
心情
世界を未来へ進めるのは
今を生きる命だ
ゴブリンたちを守り抜くぜ

行動
また狐耳のカチューシャを装着して集落へ

流しのうた歌いだ
ショーを開くから来てくれよ

ショーの宣伝をして回りながら
集落に伝わる歌とか聞いてみたり
楽器の準備とかしながら
集落の様子とか
体格の良い種族の様子とか
それとなく見ておく

なぜ襲われる?
集落に何か狙われそうなものが?
繁殖力が
人格上書き用に都合がいいってカンジ?
わかんないけど
まずはゴブリンを守ってからだ

適当に準備を終えたら
広場でギターをかき鳴らして呼び込み

飴とかチョコとか煎餅とかラムネとかを配る
さすがに全部タダだと
あからさまに怪しがられかもしんないから
(体格の良い種族から
木戸銭っぽくお金?をもらっとくかな

美味しい菓子でテンションが上がった所で
いよいよセッション開始だ

マナキタで流行りの歌
この集落に伝わる民謡や童謡
UDCアースの歌謡曲等々賑やかに

ゴブリン音頭に合わせてゴブリンダンスとかも見てみたいぜ
体格良い種族もぜひ一緒に踊ってくれよ
皆の笑顔が弾ける時間にしたいぜ


ナヴァリア・エキドナ
アドリブ連携歓迎

ほう、ゴブリンか。もう繁殖の時期とは忙しないのぅ。
小さい奴が多いからか、酒を飲ませようとすると他のケモノたちに𠮟られたものじゃ。ちゃんと20年生きた奴を誘っておるのにのぅ。
昔話はさておき、せっかく生まれた尊い命を摘み取らせる訳にはいかぬのぅ……?
ゆくぞ皆の衆! 迎撃じゃあ!

……と思ったら、まだ敵は来ておらなんだか。やれやれ、急いてもうたわい。
それなら来るまで一献……酒を飲むとしよう。
ぷはぁ、美味い! やはり酒は命の源じゃわい!
へ? ああ、うんうん大丈夫ちゃんと警戒して、敵がどこから来るか調査すればいいんじゃろ?
ほれ、お主らも飲め飲め。なーに、遠慮するでない。他所でいくらでも手に入るからのぅ。
何をするにしても飲みにケーションはよいものじゃぞー?
(※アルハラは用法用量を守って正しく行ってください)

ふっひっひ。こうして酒が回るとな。
敵がどう動くか見通せるようになるのじゃよ。
どーれ、どのあたりからやってくるか……どのあたりに潜んでいるか……。
ほうれ……手に取るようにひっく。



●ゴブリンは繁栄しています
「世界を未来へ進めるのは今を生きる命だ。ゴブリンたちを守り抜くぜ」
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は狐耳のカチューシャを付けて、集落に入った。
 集落の中は一際盛り上がった祭りの後と言う感じでのんびりしたムードが流れている。秋が終わってこれから冬へと入る集落は冬籠りの為に保存の効く食料を作ったり、防寒の備え等をしているようだ。
 けものマキナの世界ではどの地域にも四季があり、世界中のどこかが夏ならどこかしらは冬になっている。幸いにも、この辺りはさほど寒くなる事は無いようだ。夏はかなり暑いが、冬場は一枚着る物を増やす程度で済むのだろう。そうでも無ければこんな掘っ建て小屋で寒さを凌ぐのは無理がある。
「よう兄ちゃん。出遅れたか?」
 歩哨とでも言った所か。ゴブリンのような|緑肌《グリーンスキン》だが体格が良く、大きな棍棒を肩に担いだモンスターに声をかけられた。ゴブリンでは無さそうだし、オークだろうか。
「出遅れたってつもりはないけどな。俺は流しの歌うたいだ」
「なんだ、出遅れてんじゃねぇか。盛り上げるなら秋に来るべきだろ?」
「それもそうかもな。俺は気の向くままに色んな集落を巡ってるからここにも立ち寄っただけだし」
「じゃあ、秋は違う所で仕事してたって事か」
「そう言う事だぜ」
 そういう訳ではないが、ここは話を合わせておく。警戒されて得する事は無い。
「んー、まあ見ての通り秋の祭りは終わった後だ。稼ぎは悪いかもな」
「構わないさ。歌ってのはいつ聴いてもいい物だろう?」
「違いない」
 誰何ではあったのだろう。半歩身を引いて道を譲るオーク。最低限の警備はあるという事か。

「今日の夕方にショーを開くぜ! 皆聴きに来てくれよ!」
「わーい!」
「秋も終わったってのに贅沢だなぁ」
「楽しいのはいつでも大歓迎さ!」
 集落の真ん中、煌々と燃え上がるキャンプファイヤーでウタは宣伝する。
(それにしても)
 ぐるりと、集落の多くを占めるゴブリンを見渡す。本当に子供しかいない。|緑肌《グリーンスキン》で、尖った耳と鼻を持ち、目は金色。粗雑な衣服に粗雑な武器。これから冬だってのに大半が腰巻程度しか身に着けていない。
(なんて言うか、少し目のやり場に困るな)
 少女も少年と同じような腰巻しか身に着けていなかったらそりゃ困ると言う物だろう。殆どが女性らしい膨らみも殆ど無いが、そうでもないのも居る。ある程度大きくなると上も身に着けるようにはなるようだが、普通隠す所が隠れていない。
 とは言え、ゴブリンたちはそれを全く気にしていない。これが当然の自然体だ。なら、そこに疚しさを感じる方が間違いなのだろう。異文化交流とは得てしてそういう物である。
 そんな少女たちのおなかは差は大きいがやや大きめだ。少し太っている程度に見える者から明らかに妊娠している事が分かる者まで様々である。
(妊婦なんだからおなか冷やしちゃマズいんじゃないか?)
 それも常識的な考えではあるが、当人たちがまるで気にしていないので変に気を遣う方が間違いなんだろうか。しかし、今この集落ではあちこちでやっぱり粗雑なワンピースのらしき物を作っているので冬場もこのままという訳ではないようだ。冬じゃなきゃこのままらしいが。
「一緒に歌う?」
「わたしも楽器やるー!」
 そう言いながら楽器の準備をするゴブリンもちらほら。骨と木と石を材料にした原始的な打楽器だ。
(ゴブリンって言うか、殆ど原始人みたいだな)
 とは言え、言葉は通じる。
「得意なダンスとかあるのか?」
「あるよー!」
 少女の(ように見える)ゴブリンが軽く、と言う感じで側転し頭を地面に付ける。そのまま両足を振り回し見事なウィンドミル旋回からの見事なブレイキンを披露する。
「ぼくだってできらーい!」
 対抗して少年が即席ダンスバトルを挑む。これまた見事なストリートダンスだ。
 僕も私もと次々とダンスの輪が広がっていく。即興で楽器を叩き始める。
 確かに、個々人として見ればその技量は意外と高い。原始人みたいだなどと言う印象とはかけ離れた洗練されたダンスではある……が、致命的なまでにまとまりが無い。それぞれが好き勝手にやっている。リズムもバラバラで統一感が無い。
「面白いでしょ?」
 不意に、アラクネの女性がウタに声をかけた。
「この子たちはいっつも一生懸命で、だけど永遠に未熟なままなのよね」
 決して大人にならない種族。子供が子供のままの種族。子供のまま生きて、子供のまま家族を持つ。それを哀れと思うだろうか。彼らは遺伝子でそう設計された生物兵器だ。だが、一万年の時をこのまま乗り越えた強かな種族だ。
「ああ、面白いな!」
 なら、それを憐れむのもまた違うのだろう。

●おのれ人間!
「ほう、ゴブリンか。もう繁殖の時期とは忙しないのぅ」
 ナヴァリア・エキドナ(ナヴァリア婆さん・f37962)がやってきたのはそんなタイミングだった。
「小さい奴が多いからか、酒を飲ませようとすると他のケモノたちに𠮟られたものじゃ」
「そりゃ、幼体相手にアルコールはねぇ」
 成人する年齢は種族ごとにバラバラと言うか、地域ごとにバラバラだ。何かの出来事を以て成人とする場所も少なくない。
「ちゃんと20年は生きた奴を誘っておるのにのぅ」
「マジで? 見分け付かないんだけど」
 ずっと子供のままのゴブリンとは言えど、産まれた時から姿が変わらない訳ではない。それでも他種族より比較的早く成体にはなる。その上で20年生きている者を選り分けるとなると中々の慧眼かもしれない。年の功って奴だろうか。
「もしや、叱られるのは他の奴が見分けが付いてないからなのでは?」
「たぶんそうだよ」
「なんと、これはしたり! わしは間違ってはおらなんだ」
「まあ、この集落じゃ止める人いないと思うよー」
 能力も体格も子供のまま成長しないゴブリンにとって、飲酒は常に危険と言えば危険だ。だが忘れてはならない。ゴブリンもまた生物兵器であり、UDCアースの一般的な人間の基準など当てにならないのだが。
「昔話はさておき、せっかく生まれた尊い命を摘み取らせる訳にはいかぬのぅ……?」
 ナヴァリアはすっと、目を細めて遠くを睨みつける。
「ゆくぞ皆の衆! 迎撃じゃあ!」
「……何を?」
「ナヴァリアばあさん、それまだ言っちゃダメな奴だぜ」
 ウタが呆れながら突っ込んだ。予知が変わりかねない言動はしてはならないのは猟兵の常識だ。まあ、けものマキナから出ていないナヴァリアは厳密には猟兵ではないが。
「……と思ったら、まだ敵は来ておらなんだか。やれやれ、急いてもうたわい」
 見りゃ分かるだろう、と思ったがなんか言っても仕方が無さそうなので言わなかった。
「それなら来るまで一献……酒を飲むとしよう」
 ナヴァリアは唐突に取り出した老酒の一升瓶を一気に呷る!
「ぷはぁ、美味い! やはり酒は命の源じゃわい!」
「おー、なんだいける口だな」
「いいのかなぁ、昼間からこんなに呑んじゃって」
「って言うかアンタは何しに来たんだ?」
「わしの勘がな、囁くのよ……ここに人間が来るぞぉ!」
 ナヴァリアは預言者めいて叫んだ!
「おのれ人間!」
「……人間?」
「人間来るのか?」
「さあ……でも、人間っていつ来るか分からないんだろ?」
「だよねぇ、確かに備えとかないとだけど」
 用心棒も兼ねた他種族のケモノ達も集まり始めた。
(まあ、実はここに一人いるけどな)
 ひっそりウタはそんな事を考えたが、もちろん言ったりはしない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●宴
 マナキタ近郊にはある程度正しい人間の情報は出回り始めている。しかし、世界は広くインターネットも無い。人間の実態はまだまだけものマキナの世界では知られていない。
「おーい、ナヴァリアばあさん。ちょっと飲み過ぎじゃないか?」
「へ? ああ、うんうん大丈夫ちゃんと警戒して、敵がどこから来るか調査すればいいんじゃろ?」
「それって今の段階で分かる事なのか……?」
「ほれ、お主らも飲め飲め。なーに、遠慮するでない。他所でいくらでも手に入るからのぅ。何をするにしても飲みにケーションはよいものじゃぞー?」
「俺は飲めないからな、まだ」
 自分は未成年だから飲めない。ウタはそう思ったが、ふと気が付けば自分が未成年なのはもう半年も残っていない事に気付いた。殆ど成人してると言ってもいい。
「そうだな、今度の誕生日になったら貰うぜ」
「言うたな小僧。覚えておくぞ」
「あららららー、そんな約束してよかったのかなぁ~? これ、かなーり強いよ?」
 周囲には出来上がってる用心棒たち。
「おー、まわるまわるー」
「あははははー!」
 そして出来上がったゴブリン。子供と妊婦でダブルアウトな気がするが。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、アルコールは毒じゃないから」
「アルコールなんざ、いざとなったら体内分解すればいいだけだしな。アレ、一瞬で素面になってなんか勿体ない気がするからやりたくないけど」
 どうやらこの世界、酔ってる位なら瞬時に立ち直れるのが当たり前らしい。と、なると子供への悪影響もやはりないのだろう。ゴブリン侮りがたし。
「なーなー、兄ちゃん。さっきの奴もっとくれよ!」
「甘いの一杯ほしい!」
「ばりばりしたのも欲しいぞ!」
「あー、まだあったかな? ああ、あったあった。ほらよ」
「「「わーい!」」」
 一方でウタは美味しいお菓子をゴブリンでも飲酒が許されない子供達に配る。
「つまみつまみー」
「甘いのいいつまみになるー!」
「ごめん、さっきので終わりだ。また持ってくるから」
 ゴブリンは数が多い。一斉に集られると無限にお菓子が出てくる何かもで持ってなければあっという間に干上がる。それを見越して多めに持ち込んだつもりだったウタはそれなりに善戦したが。
「甘いのもうないの?」
「ああ、ごめんな」
 たっぷりと甘い物を食べた少女に袖を掴んでせがまれるが、無い袖は振れない。まあ、その少女は随分と一杯食べたし、他の子からも融通されたようだ。
「そっかー」
 なので、無いと分かると駄々をこねたりはしない。まあ、それは他のゴブリンもそうだが。せがみはしても、わがままを言ったり暴れたりはしない。大半は本当に子供な訳ではないのだ。
「私、これから命の儀だからたくさん食べないといけなかったの。ありがと!」
「ああ、また持ってきてやるよ」
 命の儀、と言う単語は引っかかったが、この時は大して気にも留めずに聞き流していた。
 ウタはその事はこの後後悔する事になる。

「じゃ、木戸銭はたっぷりに頼むぜ」
「「おおー!」」
 Cat硬貨をじゃりじゃり鳴らしながら観衆がざわめく。

「心地よい風吹いたら 外でご飯食べよう
  金木犀香る こんな季節には」
 ワイルドウィンドを緩やかに弾きながら歌うのはマナキタの里の流行歌『採取者達の月夜』だ。
「アケビ色の空から 三つ子の月がちらり
  ゆっくり息を吸い込んだら 宴の幕開け開始」
 三つ子の月が見守る月夜に歌が響く。
「スモークチーズ 出来立てのキッシュ 朴葉で包んだヒメマス
  ほら世界が喜んでる 私達と踊りたがってる」
 ゴブリン達はこの歌を知らないようだが、気に入って貰えたようだ。旋律に合わせて軽く体を揺らしている。
「こんな夜に合うお酒なんだろ? オールドファッションに唐辛子なんてどうかな?」
 酒の歌詞にじゅるりぃとナヴァリアが反応する。
「小さなこの手で月も掴めちゃう なんて思っちゃう気分」

「「「るるるーるーるーるーるるーるるるーるーるー」」」
「るーるーるー」
「「「るるるーるーるーるるーるー」」」「るーるー」
 今度はゴブリン達の歌う集落に伝わる歌だ。
「今世界が動き出した あらゆる音楽と共に
  ふと気が付けばいつまでも そう 繰り返すように」
 木と骨と石で作った打楽器を器用に打ち鳴らす。
「降り出した雨の音は「「おとはー」」ずっと遠くまで響いた「「ひびいたー」」
  終わる事無い路の果てまで そう「「届いているはず」」」
 何度も練習しているのだろう。昼間に見たばらばらのダンスとは明らかに違う。
「「どこまでも歩いてく「「てくー」」君と手を繋ぎながら
   いつか辿り着いた「「その時は」」共に笑えるように」」
 ダンスの難易度自体は低い。と、言うか無理な動きをしなければ合わせて踊る位は出来るのだろう。コーラスも見事に|響いて《ハモって》いる。
「「また今日も眠れぬ夜に 雨だれの音を数えた
   きっと同じ夜空を見上げ 心繋ぐように」」
「「「るるるーるーるーるーるるーるるるーるーるー」」」
「るーるーるー」
「「「るるるーるーるーるるーるー」」」「るーるー」

●命の儀
「皆の者!」
 宴もたけなわ、と言う所で他とは雰囲気の違うゴブリンが声を張り上げた。
「今宵、命の儀を執り行う」
 頭の天辺から足先までをヴェールで覆った少女が宣言した。声と体躯でゴブリンだとは分かるが、衣装で詳しくは分からない。
「命の儀?」
「なんだ、知らないのか? じゃあ見て行けよ。凄いぞ」

(なんだ、これ)
 大きな一枚岩の上に、両手足を大の字で拘束された少女が一人……さっき、お菓子をせがまれた子だ。そのおなかは大きく膨らんでいる。当然、食べ過ぎではない。
 くぐもった荒い息。目隠しに口枷まで嵌められ、他は一糸纏わぬ緑の裸体を晒している。
 そこに、ヴェールで覆った少女が歩み寄る。その手には、短剣。
(止めないとッ!)
 ウタはこれからここで凄惨な、酷く原始的で野蛮な儀式が行われると理解した。命を冒涜する儀式。ウタがそれを見過ごせる筈がない。例え、周囲の他の誰もがそれを止めようとしていなくても。
 だから、ナヴァリアに止められた。半ば不意打ちに、蛇の下肢を足に巻き付けられる。唇に人差し指を当てる……騒ぐな、と言うサインである事は明らかだ。
 ナヴァリアは猟兵の資格を持つ者だ。であれば、邪教の生贄など容認する筈は無い……おそらく、その筈だ。ウタは迷った。それでも振り払い、中断させるべきかを。
「―――ッ!!」
 くぐもった悲鳴。短剣が、膨らんだ胎に突き立てられた。深々と、根元まで。ヴェールを纏った司祭は刺したままの短剣を左右に捻る。
「―――――ッッ!!」
 目隠しで覆われた少女の目は見開いて涙を流しているだろう。そんな悲鳴だ。
 司祭は、厳かにその短剣を引き抜いた。

――凄惨な血飛沫が上がり、少女と胎内の命は贄と捧げられる。

 そうは、ならなかった。
 短剣を突き立てられたおなかは血の一滴も零れる事は無い。だが、変化はある。股から大量の液体が噴き出る……破水したのだ。
「―――ッ!!」
 少女は、拘束された両手足をがくがく痙攣させながら堪えている。時を置かずして、五人のゴブリンと一人の|馬人《セントール》の子を産み落とした。

「おおお、俺の……俺の子供ーっ!」
 儀式が終わり、真っ先に駆け寄った|馬人《セントール》の男が子供を抱き、何度も司祭と少女に礼を言っている。他の子供達も実に手際よく子供を湯に漬からせていた。
「命の儀で産まれる子は未熟である。七日ほどで育つがその間は注意するように」
 司祭は厳かに言った。
「……驚いたぜ」
「ああ、驚きじゃのう……あの子、十に満たぬ」
「はあ!?」
 ウタは最初、その時で母親に! と言う意味で驚いたが……そう言えば、あの少女には酒を奨めてはいなかった……が、暫くしてナヴァリアが驚いた方の理由に気付き二度驚いた。
 幼くして母親に、と言うのはゴブリンにはよくある話なのだろう。出産と言う大事業を終えた少女は大きく息を乱していたが命に別状は無さそうだ。
「確か、この世界って子供が生まれるのに十年かかるんじゃなかったか?」
「その通り。レイリスもゴブリンでもそれは覆せぬと言っておったが違ったようじゃのう」
 どれだけ幼いと言っても、最低でも十年はかかる筈なのだ。それに、生まれた子供はこの世界に存在しない筈の赤子だ。この世界では6歳程度に育って産まれる筈だったが。
「アレが|魂鍵《ソウルキー》か。わしも実物は初めて見たぞ」
「|魂鍵《ソウルキー》?」
「残滓の一つじゃが、中でも特別な残滓で正しい種族が正しい手順を用いねば効果を発揮せぬと言う。アレはゴブリンの|魂鍵《ソウルキー》なんじゃろう」

 |魂鍵《ソウルキー》。
 けものマキナの世界に存在する全ての種族。バイオモンスターや賢い動物と言った大きな括りではなく、ゴブリン、|馬人《セントール》、アラクネ、スライム、ミノタウロス等と言う小さな括りで分かれて存在するその種族にとって特別な残滓。種族の数だけ存在はするが、同じ物は二つとなく、正しい種族が正しい手順で用いなければただのやたら頑丈な短剣でしかない。
 その実態は種族としてプログラムされている設定を一部書き換えて特殊な生態を発動させる鍵である。
 生殖に特化したゴブリンであれば出産と言う形で発動するようだ。ただ、あくまでも正規の仕様ではない為若干の不都合は生じる。それが本来6歳で産まれる所が0歳で産まれると言う不具合だ。
 最も、ウタにとっては6歳で産まれると言う方が馴染みのない現象なのだが。しかも、0歳で産まれても七日で6歳まで成長するらしい。

「あの娘は初産で大きな子を孕んだが故、命の儀を施した」
 司祭に命の儀についてもうちょっと詳しく聞いてみた所そんな答えが返ってきた。
(っていうか、明らかに母親の体積より大量に産んでる方も謎ではあるよな)
 どう見ても五人+馬一頭以上の入ってた大きさではなかった。人間の臨月位か。それでも大概だが。
「命の儀は未熟な子が産まれるというリスクは伴うが、母の負担は大きく減る。生まれた子も母の乳を与え七日育てれば他の子に追い付く」
「凄いな……」
 生体兵器としてのゴブリン。その実力の一端を見せ付けられた形だ。
「故に、この七日は油断がならぬ。他に数名、命の儀をすべき者も居る」
 司祭は厳かに言った。
「なるほど、な……」
 そして、ウタは人間の狙いを理解した。
エドワルダ・ウッドストック
けものマキナ。
わたくしたちの世界とは、似て異なる世界のようですのね。
階梯にとらわれない多様な方々がおられますし、マキナ……機械系種族の方々と共存されているなんて。……とても尊いと思いますわ。

それだけに、争いを持ち込む者たちは許せませんわね。
いいでしょう。
鉄火場で培った経験がどこまで活かせるかわかりませんが、わたくしも協力いたしますわ。
まずは、文化風習などをお尋ねして摩擦が起きないよう配慮いたしませんと。
食生活や禁忌など、知らなければならないことはありますの
お酒は嗜んでおられるようですが、お肉はどうなんですの?

この世界と獣人戦線との懸け橋になれれば……と思うのは、少々自惚れが過ぎますかしら?



●獣人戦線からの使者
「けものマキナ」
 転送ゲートを抜け、エドワルダ・ウッドストック(金雀枝の黒太子・f39970)はサバンナ草原に類似した大地に降り立った。
「わたくしたちの世界とは、似て異なる世界のようですのね。階梯にとらわれない多様な方々がおられますし、マキナ……機械系種族の方々と共存されているなんて」
 エドワルダは戦禍階梯とも呼ばれる第五階梯のシカだ。激しい戦場が身近にある地で産まれている。戦車や戦闘機、戦艦の他にもパンツァーキャバリアのような高度な戦闘機械も存在する。
「……とても尊いと思いますわ」
 だが、意思を持つ機械と言う物は獣人戦線には存在しない。

 獣人戦線。獣人達が住む、世界大戦が100年以上続いている世界。
 人間が存在しない世界と言うのは幾つかあるが、いずれも何らかの形で人間との関わりはある……いや、よく考えたらでビルキングワールドは影も形も無かったか。だが、獣人戦線は類人猿の獣人すら存在せず、人間が意図的に排除されているような印象がある。実際、キマイラヒューチャーではそうだった。
 その割には第五階梯のエドワルダの様に大体人間とよく似た姿の獣人が存在している事は興味深い。しかも、戦闘が激しい地域に近ければ近い程そうなりやすいと言う。
 そもそも人間とは何だろうか。当たり前に受け入れているが、様々な世界で普遍的に存在している種族で、エルフやドワーフの様に外見的には近い種族も多い。二足で立ち、器用な手で道具を使いこなせる事が進化の過程で選択された事は分かるが、ここまで色んな世界に人間が存在する事は不思議な事だ。
 けものマキナも見た目が人間っぽい種族はある程度居る。例えば、ゴブリンは肌の色が違えば人間の子供と大差はない。モンスター種のケモノは大体上半身が人間という事が多い。だが、これらは人間をベースに遺伝子改造を重ねた結果だ。自然にそうなったのではない。

 エドワルダは集落にゆっくりと歩いて近付いていく。遠目に見ても長閑な集落だ。おおよそ争いごととは無縁のように思える。
「それだけに、争いを持ち込む者たちは許せませんわね」
 エドワルダの言う争いとけものマキナのイクサは似ているようで根本が異なる。けものマキナのイクサは命を奪う事を極力避けながらも殺傷力のある武器を平然と持ち込む。住民の身体能力が髙いからこそ出来る事だ。それでも、遊びの延長線上でもあり、繁殖期の前でもあるので一種の求愛行為でもある。
 エドワルダの知る争いはそうでは無い。武器を持ち、敵を殺す。感情も、名誉も、尊厳も、財産も、生命も。全てを当然に踏み躙る。人間がやろうとしているのはこっちだ。
「いいでしょう。鉄火場で培った経験がどこまで活かせるかわかりませんが、わたくしも協力いたしますわ」
 エドワルダは決意した。邪知暴虐なる者に踏み躙られてはならぬと。平和を知らぬエドワルダだからこその決意だった。

「よう、姉ちゃん。出遅れたか?」
 暇そうに歩哨をしているオークに話しかけられた。エドワルダは随分とたるんだ歩哨だと思った。平然と棒立ちで手空きである事を隠そうともしない。襲う側なら、狙撃で簡単に仕留められる。
「いえ、通りすがりです」
「そうか。昨日の兄ちゃんと言い通りすがりが多いな」
 否、違う。エドワルダは先の考えを改めた。この男は自分を簡単に排除できるかのように振舞っているだけだ。粗末な腰巻のような物には鳴子のような物が付いている。もし不用意にこの男を排除すれば脅威が存在する事を間違いなく周囲に知らせるだろう。この男は真っ先に死ぬ。だが、無駄に死ぬ事は無い。
 厳戒態勢と呼ぶ程ではない。気を抜いているようには見えるが、歩哨としての仕事は決して怠っていない。
「しかし、なんだな。この時期は暇で眠くなってくるぜ」
 オークは大きく欠伸をした……やっぱり、考え過ぎかもしれない。
「この辺りは初めて来たので、何か失礼があるといけません。少々確認をさせて頂いても?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「お酒は嗜んでおられるようですが、お肉はどうなんですの?」
 二日酔いなんてなりもしないのか、昼間から居る|酔っ払い《ナヴァリア》を横目に尋ねた。
 獣人戦線では肉食獣人と草食獣人が共存するため、肉食が禁止されている。草食動物であるシカのエドワルダも例外ではないだろう。
「肉? 普通に食べるぜ」
 けものマキナでは特にその辺の配慮は無いんだが。
「ですが、草食の方も居るのでしょう? それに、牛の方が牛肉を食べると言うのはあまり気分のいい物では無いのでは?」
「いやいや、ミノタウロスだって普通に牛肉のステーキ食べるし、パーピーだって鶏肉食べるぜ? アンタ、どっから来たんだよ」
「成程、ありがとうございます。ええ、少しばかり遠方から来た者でして」
「って言うか見た目が似てるだけで別に知恵ある種族じゃねーし。家畜は家畜、獲物は獲物だ」
「では、何か禁忌に触れるような事は?」
「いや、別に? この辺りじゃ皆好きにやってるよ」
 好きにやっている。つまり、無法地帯である。法律と言う概念すら存在するかも怪しい。それなのに治安が悪いようには見えないのは根本の部分で本気の争いを嫌っているからなのだろう。

 犯罪とは得てして強い欲から始まる物だ。相手が憎い、アレが欲しい、妬ましい。或いは強く見せる為に、ちょっとした自慢を作るつもりで。
 食欲、財欲、色欲、名誉欲、睡眠欲。このどれにも当てはまらない行動など存在しない。だが、どの欲も望めば適度に満たされるのならばわざわざ諍いを起こす事も無いのだろう。キマイラヒューチャーのように承認欲求モンスター化する可能性もある事はあるが、千年もある寿命の中で一時の欲求を満たす為に短絡に奔るという事は中々起きない。
 ましてや、結婚と言う概念すらない。男も女も集落の共有財産だ。そもそも発情期以外では交尾したいとも思わないようだし、発情期になったら誰彼構わず番っても誰にも咎められない。
 もしかしたら犯罪と言う概念すらないかもしれない。

「これが、違う世界という事ですか」
 文明が未熟であればそう言う事もあるだろう。結果だけを見れば未開文明の野蛮人。だが、一度高度に発達した文明が後に落ち着いた形がコレなのは奇妙だがどこか納得できる物でもあった。
「この世界と獣人戦線との懸け橋になれれば……と思うのは、少々自惚れが過ぎますかしら?」
 そうなるかどうかは今後次第だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルカ・ダーメット
「けものマキナ、ですか……」
『神竜の巫女』として見聞を広げるため、という名目で『終焉の竜』を封じる力を持つ者を探しに来たが。
人間の姿だと警戒されるらしいし『始まりの竜』を模した翼を持つ『巫女衣装』……
といっても巫女服というよりドレスといったところだが。
ともかくそれを着ることで友好的に接しよう。
しかし具体的に何をするか……
何でも食べるらしいし、料理でも振る舞うことでゴブリンの食習慣を見極めようか。



●秋の食糧事情
「けものマキナ、ですか……」
 『神竜の巫女』として見聞を広げるため、という名目で『終焉の竜』を封じる力を持つ者を探しに来たらしいハルカ・ダーメット(神竜の巫女・f39858)。
 人間そのままの姿では警戒されるけものマキナなので『始まりの竜』を模した翼を持つ『巫女衣装』を身に纏っている。それ、なんか儀式用の大事な衣装か何かでは無いので? 実際、その見た目は巫女服と言うよりドレスである。
 まあ、一口に巫女と言っても色々居る者。UDCアースの神道の巫女装束を思い浮かべる者も居るだろうが、神に仕え、神の力を行使する者は大体巫女である。一神教の場合は修道女なので、一神教の宗教に巫女は居ない。たぶん。
 もはや恒例のオーク歩哨にやっぱり呼び止められる。
「なんか随分ひらひらした服着てるなぁ」
 けものマキナに置いて巫女服はただのひらひらした服であるらしい。
「あたしは神竜の巫女、ハルカ・ダーメット。ここには見聞を広めに参りましたわ」
「|巫女《シャーマン》? アンタ、|魂鍵《ソウルキー》を持ってるのか?」
「……ええ、今は持っていませんが」
 この集落に置いての話か、けものマキナ全体がそうなのかは現状では不明だが、|巫女《シャーマン》とは|魂鍵《ソウルキー》を持つ者に与えられる称号の様である。あるいは、|魂鍵《ソウルキー》その物が信仰の対象なのかもしれない。もちろん、ハルカが|魂鍵《ソウルキー》を持っているはずも無いが、ややこしいので持っていると言う事にしておいた。
「タダでお世話になるのも悪いですし、お料理でも振舞いましょうか?」
「おお、そりゃいいな」

「それで、貴方は何をいらっしゃるのかしら?」
「何って、見たら分からないか?」
 料理をする、筈だったのだが。ある程度の気密性を持たせた部屋で延々と火の管理をしているウタと出会った。
「燻してるんだよ。燻製を作るんだ」
 ゴブリン集落に冷蔵庫は無い。収穫が終わったこの時期、冬に備えて保存食を作る必要がある。元々はゴブリンがやろうとしていたのだが、どうにも危なっかしいのでウタが代わりに引き受ける事にした。
「追加の野菜を持ってきました」
「ああ、その辺に吊るしておいてくれ」
 エドワルダが野菜を持ってきて見様見真似で吊るしていく。味は|糧食《レーション》で再現する事は出来ても本物の食料を扱った経験は少ない。
「ええと、そこはもう少し」
 見兼ねたハルカもそれを手伝う。
「ありがとうございます。どうにも慣れない物で」
「もしかして、食料はここで全部まとめて燻製に……?」
「あー、そうだぜ。とりあえず燻製にしとけば日持ちはするっていうからさ」
 暴論である。確かに、水分が抜けて日持ちはするだろうが何でもかんでも燻製にすればいいって物じゃない。だが、冬でも氷点下までは行かない温暖な気候で冷蔵が出来ないとなると仕方は無いか。発酵なんて夢のまた夢である。
(食材のカットが荒い。これでは上手く熱が通るかどうか)
 炎使いのウタならば上手い具合に熱を通す位は朝飯前ではある。実際、今吊るされている分はある程度は上手くいっているようだ。だが、根本的に食材のカットが雑では均一に熱を通すのは本来無理がある。

「そういう訳なので、食材のカットはあたしが受け持ちますわ」
「おー、そりゃ助かるねぇ。どうにもようわからんで……ひっひっひっ」
 どうしてこの人、昼間から酔っぱらってるんだろう。わしに任せよ! と、引き受けたはいいがどうにも手元が危ういナヴァリア。酔ってなければそうでも無いのかもしれない。
「はー、力仕事は肩がこっていかんのう」
「じゃー、肩もみしてあげるね!」
「おー、そりゃいい」
 ゴブリンに肩もみされて悦に入るナヴァリア。余程気持ちがいいのか蛇の下肢も伸ばしてリラックスしている。その蛇の下肢にもマッサージをしていく。効果があるのかは疑問だが、蛇の体は筋肉なので無い事は無いのだろう。気持ちよさそうにしているので悪くは無さそうだ。
 単に料理をするならともかく、やっている事は大量の食材の加工だ。集落の人口はそれなりに多く、収穫できない冬を乗り越える為に大量の食品を加工する必要がある。疲れるのも無理は無い。
(それにしても、これは何の肉だろう?)
 野菜はまだ分かる。少しばかり見たことが無い野菜もあるが、野菜は野菜だ。だが、肉は既に部位毎の解体と血抜きは済んだ状態で置かれている。大きいのも小さいのもあれば、赤いのも白いのも緑のも青いのある。緑や青の肉。どうにも視覚的には食べ難い。
(流石に、毒があるような物は入っていないとは思いたいけど)
 何だか分からない肉でも火を通せば大体行ける。毒や寄生虫がいなければ、たぶん。少なくともこれは知恵ある種族の肉ではない筈だ。
 肉も野菜もあるが、やや肉の方が多くどちらかと言うと肉が好きなようだ。粗雑な食文化の様ではあるが、一方で解体技術は中々腕が良いらしくホルモン類まできっちりと仕分けられている。後で分かったが、抜いた血と物にならない臓物類を混ぜ合わせてブラッドソーセージの類も作っているようだ。命を無駄にしない習慣が根付いている。
 その割にはその後の加工段階が雑なのは妙にちぐはぐではある。味よりも量の確保を優先に発展した結果かもしれない。

 と、言う訳で。その後の夕食時に燻製加工前の食材を使ったハルカの料理は大好評だった。基本的に食べられればいい、と言う程度だったが、美味い物は美味い。美味いは正義。

●再び
「あの、一体これから何が始まるんですか?」
「何やら儀式をすると伺いましたが」
「あー……まあ、最初はびっくりすると思うけど大丈夫だ。落ち着いて見ててくれ」
「ふぇっふぇっふぇっ、お嬢さん方には少々刺激が強いかもしれぬがのう?」

 昨夜に引き続き、命の儀が執り行われた。
「えっ、ちょ……うわ……」
「これは……その、うわぁ」
(まあ、そうなるよなぁ……)
 二度目なので見慣れてはいない物の、狼狽える事じゃない事は知っているウタ。初見の二人が万一でも止めに入らないように見守りながら、儀式中ではない別な巫女のゴブリンに聞いてみた。
「所でさ、なんであんな格好なんだ?」
 あまりに邪教的で、隠微な姿である。
「目隠しとか、必要か?」
「腹に短剣刺される所見るの、怖い」
「じゃあ口枷は?」
「産みの痛みは本来より軽減出来てはいても激しい。舌を嚙まないようにだ」
「手足は縛らなくてもいいんじゃないか?」
「儀式中下手に動くと仔が流れたり、逆に母の胎を突き破る可能性ある。動かないように固定する」
「服は着ててもいいんじゃ」
「|魂鍵《ソウルキー》で体内のナノマシンを|超過駆動《オーバードライブ》させている。体温が凄く上がるから暑い」
「そうなのか……」
 隠微で、邪教的に見えたあの儀式にはきっちりとした理由があった。理に適っているなら仕方がない。
「それに、これが一番だが」
「一番だが?」
「客にウケる。大儲け」
「えぇー……」
 訂正、やっぱり隠微で邪教的だった。

「……大変、貴重な経験をさせていただきました」
「……ええ、ありがとうございました……」
 命の儀が終わり、エドワルダとハルカも一部始終を見届けてそういう物かと理解した様子。
「命の儀は未熟な子が産まれるというリスクは伴うが、母の負担は大きく減る。生まれた子も母の乳を与え七日育てれば他の子に追い付く」
 ウタに向けられた言葉と同じ事を言った。よく聞かれるのだろう。
「故に、この七日は油断がならぬ。まだ、命の儀をすべき者も居る」
「いえ、それは違うと思います」
 エドワルダは全てを理解した上で己の見解を言った。戦場で育った自身の見解を。
「襲うなら、今この儀式をしている最中だったのでは」
「ッ!?」
 ウタは反射的に|影の追跡者《シャドウチェイサー》を走らせ周囲を索敵した。異常は無し。
「確かに、その通りだ。気付かなかったぜ」
 とりあえずの安全は確保できたが今までが危険だった事を知らされて冷汗が流れる。
「……宴の雰囲気をぶち壊しに来るとは、無粋の極みなり! おのれ人間!」
 ナヴァリアも人間への憎しみを露わにする。
「命の儀の最中か、確かに。儀式は中断できぬ」
 儀式とは言うが、さっき詳しく聞いた限り手術をしているような物だ。当然母体は動かせないし、執り行う巫女にも儀式に集中してもらう必要がある。
「だが、人間が来ると分かっている訳でも無い」
「いや、人間は来るんだ。近い内に」
「何、それは確かか?」
 ウタは猟兵としての勘で既に予知は覆らない段階に至っていると判断した。ならば、人間が来ると言う情報は共有した方がいい。
「俺達は、本当は人間からこの村を守りに来たんだ」
「ふっひっひ。こうして酒が回るとな」
 ナヴァリアは酒を呷った。
「敵がどう動くか見通せるようになるのじゃよ」

 ちなみに、酔拳と言う拳法はその動きが酔っているように見えるだけで実際に酔っている訳では無い。酔えば酔うほど強くなる、と言うのはただの|映画《フィクション》のキャッチコピーに過ぎない。
「どーれ、どのあたりからやってくるか……どのあたりに潜んでいるか……」
 ならばこれも酔っ払いの戯言か? 否である。空想の産物も現実として行使出来るのがユーベルコード。猟兵の資格を持つナヴァリアは以前から使えたデモンズコードをユーベルコードとして行使できる。感覚的には同一なので本人に自覚は無いかもしれないが。
「ほうれ……手に取るようにひっく」
 ナヴァリアにははっきりと見えている。正しくは感じ取れている。蛇のピット器官は夜の闇では閉ざされない。その一挙手一投足がはっきりと。
 【|酔いどれババアの知恵袋《ドランクウィズダム》】昼間から平然と酒を飲み続けていたナヴァリアには全てが分かっている。
「明日来るぞ、人間め。数は五人か。まずは射手が見張りを狙い撃ち、その混乱に乗じて男が飛び込み燃える水で火を付けて回るぞ! おのれ人間めぇ~!」
 が、言っているのは酔っ払いと言う事実は変わってはいない。
「来る、来るぞ、珍妙な術で足を絡め捕り、武僧が殴りこんで来よるわ。おのれ人間! 背後に小娘が一人! 見えぬ壁を使いよるぞぉ~!」

 これが酔っ払いの戯言だったかは、翌日にはっきりする事になる。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月16日


挿絵イラスト