銀河帝国攻略戦㉖~黄金ピタゴリアン
帝国旗艦インペリウム内、科学技術センター。その中に生えた『樹』の中に、その老人は囚われていた。
まるで果実を思わせる有機的フォルムの装置。上から見れば五芒星型に見えるその機械こそ、今の老人の唯一の『仕事場』だ。眠ったような表情のままだが、頭蓋を覆う奇妙なデバイスだけが、電子的な光を明滅させる……そう、老人は今も“生きて”いるのだ。自らが囚われの身であることにも気づかずに。
老人は、ピタゴラス博士と言った。彼の幾何学の才は銀河帝国にとって有用であり、中央コンピューターの生体部品として利用されつづけてきたのだ……自身の脳髄に流し込まれるデータの中から、密かに幾つもの新たな定理を閃きながら。
「……そこで皆々様には、このピタゴラス博士を救うて貰いとう思うておる」
と、ヤクモ・カンナビ(スペースノイドのサイキッカー・f00100)は猟兵たちに依頼するものの、あの悪辣なる帝国の、しかも邪悪なドクター・オロチが、博士をそう簡単に解放させてくれるわけがなかった。
「博士を繋ぐコンピューターユニットは、博士を殺してしまうことなく分解することはできぬようになっておる。唯一の方法は、ユニットが提示する『謎』に対して、『正しい解答』を返してやることだけじゃ」
だが……たった1つであるのだとしても、そこに方法がある以上は『できる』ということだ。ヤクモは猟兵たちを信じている……ピタゴラス博士を解放し、その天才的頭脳が盗んで蓄えてきた銀河帝国の叡智が、人々のために使われる未来を!
「『謎』の内容は予知できた故、判っておる」
ヤクモによればその『謎』は、ピタゴラス博士にちなんだ幾何学の問題であるらしかい。
「此処でわらら自身が『答えはこうじゃ!』と言えれば格好がついたのやも知れぬが、試しに解いてはみたものの自信が持てんでの。責任を持てぬゆえ皆々様に回答をお任せせねばならぬ事を、何卒許して下され」
申し訳なさそうにしながらヤクモが差し出したタブレットには、こんな問題が記されていた。
『各辺の長さが10の正五角形P0を考える。
P0の各頂点を結んだ対角線を5本引くと、内部に☆型図形S0と小さな正五角形P1ができる。
同様に、P1に対しても同様に対角線を引いて☆型図形S1と正五角形P2を作り、P2に対しても……、と続ける。
では、☆型図形S0の山と谷の間の辺の長さをa0、S1の山と谷の間の辺の長さをa1……、とした時、a0+a1+a2+…の長さはなーんだ!
間違えたらピタゴラス博士の脳味噌が爆発しちゃうから気をつけてね~、ムシュシュシュ!』
……まあでもこういう問題って綺麗な数字になるって相場が決まってるから、案外、わざわざマトモに計算してやらなくても正解できたりしてね!
あっと。
あっと。でございます。
本シナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで完結し、『銀河帝国攻略戦』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
なお、本シナリオの対応戦場は㉖となります。
本シナリオの成功失敗は、通常のシナリオとは異なり『プレイングに正解が書かれているかどうか』だけで判定します。能力値は、皆様のキャラクターのアプローチの味付け等にご利用ください。
今回の問題の解法としては、だいたい3つくらいのアプローチを想定しています。
(1) 真面目に計算ルート→高校数学程度の知識
(2) 作図がんばるルート→発想+直感
(3) 問題の裏を読むルート→小学生のノリ
もちろん、プレイヤーの皆様の解法がキャラクターの解法と一致する必要はありません。プレイヤーは真面目に計算したけどキャラクターは直感で解いた、でも構いませんし、プレイヤー的にはぜんぜんわからなくて直感で答えを出したけれどキャラクターは真面目に計算したことにしたってOKです!
第1章 冒険
『中央コンピューターの謎かけ』
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POW : 総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、救出します。
SPD : 素早く謎の答えを導き出した後、救出した人のケアを行います。
WIZ : 明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、救出します。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
メンカル・プルモーサ
……ん、これ……黄金比……?
だとすると………(マルチヴァクにデータ打ち込んで計算させる)
……うん、一辺の長さと同じぐらいに収束するから…答えは「10」かな…
……あとはこのご老人を起こすだけだけど……アルダワの実家にいたころの経験からすると…研究の邪魔されたって怒りそう……うーん。
……起こして事情説明して……新しい研究室にご招待…かな?
その前に、衰弱してるかもだから応急処置はしておかないと……
脱出路は【不思議な追跡者】に任せて…箒に乗せて脱出……
……でも。こういう研究者は大事にしないとだね……
文月・統哉
生きてるんだよな。
助けたいよ、だから……
■解答
ふむふむ、とりあえず作図してみよう。
正五角形の対角線で星を描いて、その中の正五角形の対角線で星を描いて……ん、待てよ?閃いた!
a0とP1の1辺を足したものは、P0の辺1と二等辺三角形を作るから、
a1とP2の1辺を足したものもまた、P1の1辺と二等辺三角形を作る訳で、
a0+a1+a2+…→10
答えは『10に限りなく近付く』、でいいのかな?
星の閃きに導かれて、なんてね♪
■救出
謎が解けたら、早速ピタゴラス博士を助けなきゃ!
落下が心配な場合は、レプリカクラフトで作ったエアクッションを敷いて備えるよ。
声をかけて無事を確認、安全な所へ
※合わせやアドリブ歓迎です
高柳・零
POW
答えは「10」ですね。
一見数学ぽく…数学なんでしょうが、要は数値が限定されてない=どこかで限界が来るという事です。
そして、解答の出し方ですが…昔見た事があります!
理屈は忘れました。以上!
救出した博士は医術で介抱します。
「ゆっくり横になってください。支えますので」
「お腹が空いてませんか。重湯がありますので飲みますか?」
解答方法を知られたらぶん殴られそうですね。
「生きて……るんだよな?」
機械の『果実』に『埋め込まれた』顔を、文月・統哉(着ぐるみ探偵見習い・f08510)にはじっと見つめることしかできなかった。
助けたい……いや、助けねばならない。老人がどのような気持ちで囚われているのかは彼には想像するほかできないが、ひとりの人間にこのような仕打ちをして良いわけがない。
……だが、それは本当に老人が望むことなのだろうか?
「……案外、研究の邪魔されたって怒りそう……」
メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)の脳裏には、実家のあるアルダワにいた頃によく見かけた、偏屈研究者どもの姿が浮かんでいた。奴らは自分の生活も他人の迷惑も顧みず研究に明け暮れ、その環境に他人が干渉すると、烈火の如く怒りだす。実に厄介な連中だ。
それを聞いて高柳・零(テレビウムのパラディン・f03921)が頭を掻いた。
「しまった。だとすれば、もうちょっと真面目に考えてやらなければぶん殴られそうですね」
……え? 一体どんな解き方をしたのかって?
そりゃあ決まってる……必殺、『昔見た事があります!』だ!
「そう……これは一見数学っぽく見えて……いや実際数学ではあるんでしょうが、要は数値が限定されてない、イコールどこかで限界が来るということです」
たぶん「この無限級数は収束する」的なことを言いたかったに違いないが、TRPGと正義を愛する12歳の少年にそんな専門用語を求めるのは酷というものであろう。
だがこの際、正確な用語も、正確な理論も必要ではないのだ。必要なのはピタゴラス博士を助けようという想い……そして正しい答えだけなのだから!
「そう……答えは『10』ですね」
……流石にそんなあやふや解答が間違いだったら目も当てられなかったので、慌てて統哉も作図タイムを開始した。
「ふむふむ……正五角形の対角線で星を描いて、その中の正五角形の対角線で星を描いて……ん、待てよ?」
その時統哉の頭脳に電流が走り、手が止まる。それからしばらく顎に拳を当てた後……五角形の辺と、他の対角線で3分割された対角線の2つめの部分までに線を引く!
「この部分が二等辺三角形ということは、a0とP1の辺の長さを足したものがP0の辺の長さと等しくて、そのP1の辺の長さはa1+P2の辺の長さ……ということは」
次々に『Pkの辺の長さ』を『ak+P(k+1)の辺の長さ』に置き換えていけば……?
「a0+a1+a2+…=10……こうだ!」
「……多分その計算でいいはず……」
腕に取りつけた『マルチヴァク』に数式を打ち込んでいたメンカルも、どうやら検算が終わったようだった。
キーワードは、φ=(1+√5)/2、すなわち『黄金比』。P0の辺の長さが10ならば、a0=10/φ, P1の辺の長さ=10/φ^2, a1=10/φ^3, …だ。あとは初項10/φ・公比1/φ^2の級数として計算して和を求めれば……。
「……うん、やっぱり一辺の長さと同じぐらいに収束するから……答えは『10』で間違いないはず……」
「星の閃きに導かれて、なんてね♪」
統哉が数字を打ち込んで解放ボタンを押すと、装置はごとごとと音を立て、冷たい蒸気とともに老人を吐き出した。
「おおっと」
即席で模造したエアクッションが、老人の体を受け止める……その中で彼は瞼を開けて、呆けたように声を上げた。
「おお……ようやく見つけた新しい公理系が、記憶の狭間に零れ落ちてしまう……」
うわめんどくさ。メンカルのマルチヴァクを仮のノート代わりに使ったところで、ようやくピタゴラス博士は落ち着きを取り戻したようだった。こうなれば天才数学者とて、零にとっては正義のために救うべき、ひとりのか弱き老人だ。
「お腹が空いてませんか。重湯がありますので飲みますか? ああ……無理に立ち上がらないでください。ゆっくり横になってください……支えますので」
甲斐甲斐しく世話を焼いてみせる零。幸い、老人には彼の『解法』は伝わっていなかったようで、その点でお叱りを受けたりはしていない……奇妙な隠遁生活を妨げられた失意こそ浮かべていたくらいで。
「……つまり今まで……ピタゴラス博士は……」
まだ気力も体力も戻っていないのか、老人はメンカルの説明に対して、素直に頷くばかりだった。だがその瞳の奥底をよく見れば、いまだ淀まぬ研究への貪欲さが灯る。
こういった研究者こそ、銀河帝国打倒後の世界のために必要であろう。
老人への研究室手配について思索を巡らせながら、メンカルたちは老人とともに、一時、科学技術センターを後にするのだ。
大成功
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